説明

紡績機

【課題】装置の据付以降でも圧力検出手段のキャリブレーションが可能であり、圧力異常の正確な検出が可能な紡績機を提供する。
【解決手段】紡績機としての精紡機は、第1ブロック91と、第2ブロック92と、空気圧シリンダ80と、旋回流発生室25と、圧力センサ63と、ユニットコントローラ32と、を備える。第1ブロック91は、繊維束に旋回空気流を作用させる空気紡績ノズル19を有する。第1ブロック91の下流側に設けられる第2ブロック92は、繊維束が走行する中空ガイド軸体20を有する。空気圧シリンダ80は、2つのブロック91,92を離間及び接触させる。圧力センサ63は、繊維束に撚りを与えるために2つのブロック91,92の間に形成される旋回流発生室25の圧力を検出する。ユニットコントローラ32は、空気圧シリンダ80により旋回流発生室25が開放された時に、圧力センサ63のキャリブレーションを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡績機の構成に関し、特に、空気紡績を行う紡績部の圧力異常を検知する構成に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、空気紡績ノズルによって生成された旋回空気流によって繊維に撚りを与える紡績装置(紡績機)において、紡績のための中空室に連通する空気排出用空間の圧力を圧力センサ(圧力検出手段)によって検知する構成を開示する。特許文献1は、この構成により、紡績糸に欠陥を生じさせ易い状態を容易に検知できるとする。
【特許文献1】特開2006−132035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の紡績装置に用いられる圧力センサには製品ごとの個体差があり、正確な検出のためには、検出値のキャリブレーション作業が必要になる。しかし、圧力センサのキャリブレーションを紡績装置の据付時にのみ手動で行うこととすると、据付後に圧力センサの異常や圧力検出特性の経年変化が発生してもそれを検出することができず、弱糸(異常)を生じさせ易い状態を正確に検出できない場合があった。また、繊維に撚りを与えるための中空室周辺の圧力は旋回空気流の影響による変動が生じ易く、センサが正常であったとしても正確な弱糸検出ができない場合があった。
【0004】
本発明は上記の事情に鑑みてされたものであって、その主要な目的は、装置の据付以降でも適宜圧力検出手段のキャリブレーションが可能であり、正確な異常検出が可能な紡績機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の観点によれば、以下の構成の紡績機が提供される。即ち、この紡績機は、第1ブロックと、第2ブロックと、開閉駆動部と、中空室と、圧力検出部と、制御部とを備える。前記第1ブロックは、繊維束に旋回空気流を作用させる空気紡績ノズルを有する。前記第2ブロックは、前記繊維束の走行方向において前記第1ブロックに対して下流側に設けられる。また、前記第2ブロックは、前記繊維束が走行するように構成された中空ガイド軸体を有する。前記開閉駆動部は、前記第1ブロックと前記第2ブロックとを離間及び接触させる。前記中空室は、前記空気紡績ノズルにより生成された旋回空気流によって繊維束に撚りを与えるために、前記第1ブロックと前記第2ブロックとの間に形成される。前記圧力検出部は、前記中空室の圧力を検出する。前記制御部は、前記開閉駆動部により前記第1ブロックと前記第2ブロックとが離間させられ前記中空室が開放された時に、前記圧力検出部のキャリブレーションを行う。
【0006】
これにより、圧力検出部のキャリブレーションを装置の設置後も随時行うことができ、装置の信頼性が向上する。また、キャリブレーションは中空室の開放時に(大気圧を用いて)行われるので、装置の他の部分の影響を受けずに、圧力検出部のキャリブレーションを正確に行うことができる。
【0007】
前記の紡績機においては、前記キャリブレーションは、前記中空室の開放時に、前記圧力検出部が圧力を所定の回数検出し、所定の回数分の検出値の平均値を求め、この平均値に基づきオフセット値を求めることにより行うことが好ましい。
【0008】
これにより、平均値に基づいて正確なキャリブレーションを行うことができるので、圧力検出部の検出値の精度が一層向上する。また、記憶されたオフセット値を圧力検出部の検出値に加算又は減算することでキャリブレーション結果を反映させることができるので、圧力検出値の計算のための負荷を少なくすることができる。
【0009】
前記の紡績機においては、前記制御部は、前記圧力検出部の検出値を監視することにより、前記圧力検出部の異常の有無を判断することが好ましい。
【0010】
これにより、圧力検出部の検出値が正常時の値から外れていた場合に、圧力検出部の異常として自動的に検出することができる。そのため、圧力検出部の修理及び交換を適切なタイミングで行うことができる。
【0011】
前記の紡績機においては、前記制御部は、紡績時における前記圧力検出部の検出値の平均値を求め、当該平均値を制御に用いることが好ましい。
【0012】
このように圧力検出部の検出値の平均値を制御に用いることにより、ノイズの影響を除去し、紡績機の適切な制御を行うことができる。
【0013】
前記の紡績機においては、前記制御部は、前記紡績時における前記圧力検出部の検出値の平均値を監視し、当該平均値が所定の閾値を超えていた場合に異常と判定することが好ましい。
【0014】
これにより、前記紡績機の紡績時における圧力異常を、圧力検出部の検出値の平均値を監視することで、ノイズの影響を受けずに確実に検知することができる。従って、装置の信頼性が更に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に示す紡績機としての精紡機1は、並設された多数の紡績ユニット2を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、ブロアボックス4と、原動機ボックス5とを備えている。前記糸継台車3は、紡績ユニット2が並べられる方向に走行可能な構成となっている。
【0017】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置7と、紡績部9と、糸送り装置11と、巻取装置12と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1の筺体6の上部に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績部9で紡績するように構成している。紡績部9から排出された紡績糸10は糸送り装置11で送られた後、巻取装置12によって巻き取られ、パッケージ45を形成する。
【0018】
ドラフト装置7は、スライバ13を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ14、サードローラ15、エプロンベルト16を装架したミドルローラ17及びフロントローラ18の4つのローラを備えている。
【0019】
筺体6の適宜位置には電動モータからなるドラフトモータ31が設置されており、前記バックローラ14とサードローラ15は、このドラフトモータ31にベルトを介して連結される。このドラフトモータ31の駆動及び停止は、それぞれの紡績ユニット2に設けられたユニットコントローラ(制御部)32によって制御される。なお、本実施形態の精紡機1では、ミドルローラ17やフロントローラ18を駆動するための電動モータも筺体6に設けられているが、ここでは図示を省略する。
【0020】
また糸送り装置11は、精紡機1の筺体6に支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接触するように配置されるニップローラ40と、を備える。この構成で、紡績部9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を図示しない電動モータで回転駆動することにより、紡績糸10を巻取装置12側へ送るようになっている。
【0021】
なお、前記筺体6の正面には報知ランプ(報知手段)71が設置され、紡績部9の異常の有無をオペレータに知らせることができるようになっている。報知ランプ71は前記ユニットコントローラ32に接続されている。
【0022】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、を備えている。糸継台車3は図1に示すように、精紡機1本体の筺体6に設けられたレール41上を走行するように設けられている。ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、糸継台車3は当該紡績ユニット2まで走行し、停止する。サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動しながら、紡績部9から排出される糸端を吸い込みつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動しながら、前記巻取装置12に回転自在に支持されたパッケージ45から糸端を吸引しつつ捕捉してスプライサ43へ案内する。スプライサ43は、案内された糸端同士の糸継ぎを行う。
【0023】
本実施形態の紡績部9は、図2及び図3に示すように、2つに分割されたブロック、即ち第1ブロック91及び第2ブロック92により構成される。繊維束8の走行方向において、第2ブロック92は第1ブロック91よりも下流側に設けられている。図3に示すように、第1ブロック91には空気紡績ノズル19が備えられ、第2ブロック92には中空ガイド軸体20が備えられている。空気紡績ノズル19は、フロントローラ18から送られてくる前記繊維束8を挿通させながらその繊維束8に旋回流を作用させるように構成されている。前記中空ガイド軸体20は、その先端部を、前記空気紡績ノズル19に軸線を一致させながら挿入するように配置されている。
【0024】
空気紡績ノズル19は、ニードルホルダ23と、ノズルブロック34と、を備える。前記第1ブロック91はノズル部ケーシング53を備え、このノズル部ケーシング53によって前記ノズルブロック34を支持している。前記ニードルホルダ23には案内孔21が形成され、この案内孔21に、上流側のドラフト装置7でドラフトされた繊維束8を導入するよう構成されている。また、ニードルホルダ23は、案内孔21から排出された繊維束8の流路上に配置されたニードル22を保持している。
【0025】
ニードルホルダ23より下流側の位置において、前記ノズルブロック34にテーパ孔54が形成されている。そして、このテーパ孔54に、前記中空ガイド軸体20の先端部24が、軸線を一致させつつ挿入されている。この先端部24はテーパ状に形成され、そのテーパ角は、テーパ孔54のテーパ角とほぼ等しくなっている。中空ガイド軸体20の先端面とニードルホルダ23との間には円形の紡績室26が形成され、この紡績室26に前記ニードル22の先端が突出されている。このニードル22の先端は、中空ガイド軸体20の先端面と対向するように配置されている。
【0026】
中空ガイド軸体20の先端部24は、前記テーパ孔54との間に所定の隙間を形成するよう配置される。これにより旋回流発生室(中空室)25が形成され、この旋回流発生室25は紡績室26に連通している。また、ノズル部ケーシング53には空気排出用空間55が形成され、この空気排出用空間55は旋回流発生室25と互いに連通している。この空気排出用空間55には図略の負圧源(吸引手段)が配管60を通じて接続されている。この負圧源としては、例えば、前記ブロアボックス4に配置されている図略のブロアを採用することができる。
【0027】
ノズルブロック34には、出口端が紡績室26に開口される複数の旋回流発生ノズル27が形成される。これら旋回流発生ノズル27はノズルブロック34に穿設された細長い孔からなり、この孔は紡績室26の接線方向に形成されるとともに、その長手方向は糸送り下流側に若干傾斜して設けられている。旋回流発生ノズル27は図示しない圧空源から供給された圧縮空気を紡績室26に噴射し、例えば平面視反時計回りの旋回流(図5参照)を紡績室26に発生させる。この旋回流は、前記旋回流発生室25に沿って螺旋状に下流側に流れた後、ノズル部ケーシング53に形成された空気排出用空間55から排出される。
【0028】
中空ガイド軸体20は筒体56を備えており、この筒体56の一端にテーパ状の前記先端部24が形成されている。この中空ガイド軸体20の軸心部に糸通路29が形成され、この糸通路29内を糸が通過した後、下流側の図示しない出口孔を介して紡績糸10が排出されるようになっている。
【0029】
筒体56には、その先端部24より下流側に拡径状の太径部58が形成され、この太径部58は前記空気排出用空間55に露出される。前記第2ブロック92は軸体保持部材59を備えており、この軸体保持部材59に前記太径部58が挿入された状態で固定される。
【0030】
前記軸体保持部材59は空気圧シリンダ(開閉駆動部)80に連結されており、この空気圧シリンダ80を駆動することによって、図3の矢印に示すように、第2ブロック92を第1ブロック91から遠ざかる向きに移動させることができる。これは、紡績室26や旋回流発生室25に繊維が詰まったり空気排出用空間55に繊維が蓄積したりして、前記の負圧源によって吸引除去できなくなった場合に、軸体保持部材59をノズル部ケーシング53から離間させて(即ち、第2ブロック92を第1ブロック91から離間させて)、空気排出用空間55、旋回流発生室25、及び紡績室26を開放することで容易に除去できるようにするためである。前記空気圧シリンダ80はユニットコントローラ32によって制御されており、適宜の駆動信号によって作動させることができる。
【0031】
ノズル部ケーシング53には貫通状の圧力検出孔61が形成されている。この圧力検出孔61はチューブ62を介して圧力センサ(圧力検出部)63に接続される。この圧力センサ63はユニットコントローラ32に圧力の検出値を送信するように構成されている。
【0032】
また、本実施形態の精紡機1は適宜の圧空源64を備えており、この圧空源64は、圧空チューブ65を介してクリーニングライン66に接続されている。このクリーニングライン66は、空気紡績ノズル19の例えば案内孔21の周辺に圧縮空気を噴射してクリーニングするためのラインである。前記圧空チューブ65には電磁弁67が設置されており、その開閉制御はユニットコントローラ32からの作動信号によって行われる。クリーニングライン66と前記チューブ62とは、継手68及び中継管69を通じて連結されている。中継管69の中途部にはオリフィス70が設置されている。
【0033】
次に、本実施形態の圧力センサ63のキャリブレーションについて説明する。まず、オペレータはユニットコントローラ32に対してキャリブレーションを行う旨を指示する。
【0034】
すると、ユニットコントローラ32は空気圧シリンダ80を作動させ、第2ブロック92を第1ブロック91から退避させることにより、図4に示すように、空気排出用空間55、旋回流発生室25及び紡績室26を開放する。これにより圧力検出孔61が大気圧に開放される。
【0035】
次にユニットコントローラ32は圧力センサ63によって、大気圧時の圧力値を検出し、オフセット値として記憶する。この値としては1回の検出値でも良いが、本実施形態ではより信頼性の高い値を用いるために、旋回流発生室25の開放動作が行われた際に、圧力センサ63が圧力値の検出を所定の回数行い、この検出された圧力値の平均値を計算し、得られた平均値をオフセット値として記憶している。なお、検出回数を増やすことにより、より正確なオフセット値を得ることができ、キャリブレーションの精度も向上させることができる。
【0036】
そして、取得された前記オフセット値が通常期待される大気圧時の検出値とかけ離れている場合には、ユニットコントローラ32は圧力センサ63の異常(故障)と判断し、報知ランプ(報知手段)71によってオペレータに通知する。このように開放時の圧力検出値をキャリブレーションに用いることにより、他の部分の状態(例えば負圧源の故障など)の影響を受けず、確実に圧力センサ63の異常を検知できる。
【0037】
また、圧力センサ63は、最小検出可能値と最大検出可能値を有する。しかし、旋回流発生室25の開放時及び閉鎖時の何れにおいても、圧力センサ63の検出値が最小検出可能値或いは最大検出可能値となることは無い。圧力センサ63の検出値が最小検出可能値か最大検出可能値となるのは、圧力サンサ63自身が故障している場合である。したがって、圧力センサ63の検出値が最小検出可能値か最大検出可能値になっていないかを監視することによっても、ユニットコントローラ32は圧力センサ63の異常の有無を判断可能である。
【0038】
以上により圧力センサ63のキャリブレーション作業及び動作確認作業が完了し、その後、ユニットコントローラ32は空気圧シリンダ80を作動させる。これにより、軸体保持部材59はノズル部ケーシング53側へ進出し、図3に示すように、前記紡績室26、旋回流発生室25、及び空気排出用空間55が再び閉鎖される。なお、上記の圧力センサ63のキャリブレーション作業及び動作確認作業は、オペレータの指示によって行う場合に限定されず、例えば所定時間毎に自動的に行ったり、パッケージ45の玉揚作業が行われる毎に行ったり、図略のヤーンクリアラが糸欠陥を検出したことによる糸切断時に行ったりすることもできる。
【0039】
次に、本実施形態の精紡機1の紡績時の動作について説明する。先ず紡績の開始時に、ユニットコントローラ32は電磁弁67を所定時間だけ開いてクリーニングライン66に圧縮空気を供給し、空気紡績ノズル19の案内孔21周辺をクリーニングする。
【0040】
なおこのとき、圧空源64からの圧縮空気は中継管69を通じて圧力検出孔61へ供給され、圧力検出孔61から空気排出用空間55へ噴出される。この結果、圧力検出孔61に繊維(詳細は後述)が詰まっていた場合でも、それを圧力検出孔61から吹き飛ばすことができ、圧力センサ63が圧力検出孔61の開口部分の圧力を正確に測定できるようになっている。なお、圧力検出孔61内の圧力が大きく上昇して圧力センサ63の許容測定範囲を外れることのないように、上記圧縮空気の供給量はオリフィス70によって調整される。
【0041】
その後に紡績部9による紡績を開始するのであるが、紡績時において繊維束8ないし紡績糸10は、フロントローラ18から案内孔21、紡績室26及び糸通路29を通じて糸送り装置11に至る連続状態にあり、糸送り装置11により下流側への送り力が付与されることによって、糸に張力が付与される。
【0042】
ドラフト装置7のフロントローラ18から排出された繊維束8は、図5に示すように案内孔21から紡績室26に入って、旋回流発生ノズル27による旋回流の作用を受ける。これにより、繊維束8のうちの芯繊維となる長繊維に対して残りの短繊維の一端が分離されて開繊され、短繊維は旋回流発生室25内で振り回され、加撚される。なお、この撚りはフロントローラ18側へ伝播しようとするが、その伝播はニードル22によって阻止されるので、フロントローラ18から送り出される繊維束8が上記の撚りによって撚り込まれることがない。このように、ニードル22は撚り伝播防止手段をなしている。上記のように加撚された繊維は、大部分が巻付き繊維となる実撚り状の糸に順次生成され、糸通路29を通過し、図示しない出口孔から排出される。そして紡績糸10は、図1に示す糸送り装置11を経て巻取装置12に巻き取られる。
【0043】
なお、上記の短繊維の開繊及び加撚時に切れるなどして紡績糸10に撚り込まれなかった繊維は、旋回流発生ノズル27で生起された旋回流によって旋回流発生室25から空気排出用空間55へ送られ、負圧源の吸引によって、配管60を経由して排出される。
【0044】
一方、上記のように配管60を経由して排出されるべき繊維が、太径部58の周囲にループを形成し、図5の符号90のように空気排出用空間55に蓄積される場合がある。この原因としては例えば、空気排出用空間55の内部で何らかの部材に繊維が引っ掛かることで負圧源からの吸引流によっても排出されず、紡績が行われるにつれてその繊維に他の繊維が絡み合って徐々に成長することで太径部58の外周長を上回り、太径部58の外側を周回するようなループ状の繊維90にまで成長することが考えられる。あるいは、本実施形態ではメンテナンス作業の便宜及び圧力センサ63のキャリブレーションのために軸体保持部材59をノズル部ケーシング53から離反可能に構成しているが、メンテナンスあるいはキャリブレーション終了後に軸体保持部材59をノズル部ケーシング53へ近接させた図示のような所定位置に取り付ける際に、その接合部分に繊維を挟み込んでしまい、これが排出されずに他の繊維と絡み合って成長してループ状の繊維90になること等が考えられる。
【0045】
このように空気排出用空間55において繊維90がある程度成長して風綿状になると、旋回流発生室25から空気排出用空間55への空気の流出を阻害するので、旋回流発生室25の正常な旋回流が阻害され、弱糸の原因になってしまう。また、紡績時に開繊された短繊維が旋回流発生室25内で振り回される際に、太径部58の周囲に蓄積された繊維に接触してしまって撚り込みが阻害され、この意味でも弱糸の原因になってしまう。
【0046】
本実施形態では以上の点に鑑み、上記の紡績時においては、圧力センサ63によって前記圧力検出孔61の開口部分の圧力(旋回流発生室25に連通している空気排出用空間55の圧力)を監視させるようにしている。旋回流発生室25及び空気排出用空間55の圧力は、前記負圧源からの吸引流によって通常は適度の負圧に保たれているが、中空ガイド軸体20の周囲に繊維90が蓄積されてくると、その蓄積された繊維90によって吸引流が阻害されるために、圧力は徐々に上昇して大気圧に近づくことになる。
【0047】
ユニットコントローラ32は圧力センサ63の検出値の変化を監視しており、検出値が予め設定された閾値を超えると、弱糸が生じ易い状況であると判断して紡績作業を自動的に停止するように構成している。これにより、空気排出用空間55に繊維90が蓄積して弱糸の欠陥の原因となり易い状態を確実に検知して紡績作業を自動停止できるので、弱糸によるパッケージの品質低下を防止できる。また、弱糸の欠陥が頻発する前に確実に紡績作業を停止させることができるから、精紡機1の稼動効率を向上させることができる。
【0048】
また本実施形態では、前記圧力異常の検出は、キャリブレーション後の圧力検出値に基づいて行うとともに、圧力検出値の平均値を監視することにより行う。具体的には、所定の時間間隔ごとに圧力検出値を連続的に取得した上で、その圧力検出値の所定回数分の移動平均を計算する。そして、前述のキャリブレーション処理で得たオフセット値を前記移動平均値に加算又は減算することにより、ゼロ点補正を行う。そしてユニットコントローラ32は、以上の計算に基づいて得られた値を使用して、圧力の異常の有無を判断する。
【0049】
このように移動平均を使用するのは、圧力センサ63の測定値は旋回空気流等のノイズの影響を受け易いため、このノイズを平均化により排除し、信頼性のある値に基づいて異常の検知を行うためである。また、前述したキャリブレーション作業で得られたオフセット値を加算又は減算することにより、簡単な計算で、圧力センサ63の個体差の影響を排除した圧力検出値を得ることができる。
【0050】
なお、前記負圧源は、空気排出用空間55の一側から配管60を介して空気を吸引するように構成されている。そして、前記圧力センサ63は、前記空気排出用空間55のうち、負圧源によって空気が吸引される側と、紡績糸10の糸道(中空ガイド軸体20)を挟んで反対側の部分の圧力を検出するように構成されている。
【0051】
これにより、圧力センサ63による圧力検出箇所が吸引側からみて空気排出用空間55の奥まった部分に位置しているため、空気排出用空間55に繊維90が蓄積すると、それを圧力センサ63で検出圧力の上昇という形で確実に検出できる。従って、圧力センサ63による誤検出を回避できる。
【0052】
紡績作業中に上記の圧力異常を検出したユニットコントローラ32は、直ちにドラフトモータ31を停止させて紡績部9への繊維束8の供給を停止し、更に空気紡績ノズル19への圧空の供給を停止して、紡績作業を停止させる。そして報知ランプ71を点灯させて、空気排出用空間55内に繊維が蓄積したことをオペレータに報知する。
【0053】
これにより、空気排出用空間55に繊維90が蓄積したことをオペレータに素早く知らせることができ、空気排出用空間55内の繊維90の除去を促して、紡績ユニット2を紡績作業が可能な状態へ早期に復旧させることができる。
【0054】
以上に示すように、本実施形態の精紡機1(紡績ユニット2)は、第1ブロック91と、第2ブロック92と、空気圧シリンダ80と、旋回流発生室25と、圧力センサ63と、ユニットコントローラ32と、を備えている。前記第1ブロック91は、繊維束8に旋回空気流を作用させる空気紡績ノズル19を有する。前記第2ブロック92は、前記繊維束8の走行方向において前記第1ブロック91に対して下流側に設けられている。また、前記第2ブロック92は、前記繊維束8が走行するように構成された中空ガイド軸体20を有する。前記空気圧シリンダ80は、前記第1ブロック91と前記第2ブロック92とを離間及び接触させる。前記旋回流発生室25は、前記空気紡績ノズル19により生成された旋回空気流によって繊維束8に撚りを与えるために、前記第1ブロック91と前記第2ブロック92との間に形成される。前記圧力センサ63は、前記旋回流発生室25の圧力を検出する。そして、前記ユニットコントローラ32は、前記空気圧シリンダ80により前記第1ブロック91と前記第2ブロック92とが離間させられ前記旋回流発生室25が開放された時に、前記圧力センサ63のキャリブレーションを行うように構成されている。
【0055】
これにより、従来は装置の据付後に行うことが難しかった圧力センサ63のキャリブレーションを、操業時において適宜のタイミングで行うことができるようになり、装置の信頼性が向上する。また、キャリブレーションは圧力検出対象としての旋回流発生室25が大気圧に開放された状態(図4の状態)で行われるため、他の部分の状態(例えば負圧源の故障及び吸引力の変動など)の影響を受けず、圧力センサ63のキャリブレーションを正確に行うことができる。
【0056】
また、本実施形態の精紡機1においては、前記キャリブレーションは、旋回流発生室25の開放時に、圧力センサが63が圧力を所定の回数検出し、所定の回数分の検出値の平均値を求め、この平均値をに基づきオフセット値を求めることにより行っている。
【0057】
これにより、平均値に基づいて正確なキャリブレーションを行うことができるので、圧力センサ63の検出値の精度が一層向上する。また、記憶されたオフセット値を圧力センサ63の検出値に加算又は減算することでキャリブレーション結果を反映させることができるので、圧力検出値の計算のための負荷を少なくすることができる。
【0058】
また、本実施形態の精紡機1においては、ユニットコントローラ32は、圧力センサ63の検出値を監視することにより、圧力センサ63の異常の有無を判断している。
【0059】
これにより、圧力センサ63の検出値が正常時の値から外れていた場合に、圧力センサ63の故障等の異常として自動的に検出できる。そのため、圧力センサ63の修理及び交換等を的確なタイミングで行うことができる。
【0060】
また、本実施形態の精紡機1においては、ユニットコントローラ32は、紡績時における旋回流発生室25の圧力値の平均値(移動平均)を求めている。
【0061】
これにより、平均値を用いることによって旋回空気流等によるノイズの影響を排除し、信頼性のある圧力値のデータを用いて精紡機1の各部の制御を行うことができる。
【0062】
また、本実施形態の精紡機1においては、ユニットコントローラ32は、前記紡績時における圧力センサ63の検出値の平均値(移動平均)を監視し、当該平均値が所定の閾値を超えていた場合に異常と判定している。
【0063】
これにより、前記精紡機1の紡績時における圧力異常を、圧力センサ63の検出値の平均値を監視することで、ノイズの影響を受けずに確実に検知することができる。従って、装置の信頼性を更に向上させることができる。
【0064】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は更に以下のように変更して実施することができる。
【0065】
圧力検出孔61の位置は、旋回流発生室25又は空気排出用空間55の壁面に開口するものであれば任意であり、例えば軸体保持部材59に設けることができる。
【0066】
前記オフセット値は、ユニットコントローラ32に記憶させることに代えて、圧力センサ63に備えられた適宜のデータ処理部に記憶させる構成に変更することができる。
【0067】
上記実施形態では圧力センサ63は圧力を測定し、ユニットコントローラ32は当該測定圧力が所定の閾値(ユニットコントローラ32に対し設定する)を上回ったことにより異常を検知するように構成している。しかしながら、これに代えて、圧力センサ63に適宜のデータ処理部(制御部)を備えさせて、圧力センサ63側で異常を判断し、ユニットコントローラ32に異常検知通知を送信するような構成に変更することができる。
【0068】
また、データ処理部は、原動機ボックス5に設けても良い。
【0069】
また、空気排出用空間55に繊維が蓄積したと判定する条件(言い換えれば、空気排出用空間55の圧力上昇の判定条件)としては、圧力センサ63による検出値が上記の閾値を一瞬でも上回ったことを判定条件としても良いし、閾値を上回っている時間が所定時間を超えたことを判定条件としても良いし、様々な方法が考えられる。
【0070】
報知ランプ71の配設位置や消灯及び点灯の態様は任意であり、通常時は点灯させておき、空気排出用空間55に繊維が蓄積したと判定した時点で消灯させる制御であっても良い。また、報知ランプ71のほかにも報知手段としてブザー等色々な態様が考えられ、要はオペレータの視覚や聴覚等の五感に訴えて繊維蓄積状態を知らせることができるものであれば良い。
【0071】
圧力センサ63や圧力検出孔61は、中空ガイド軸体20を用いた紡績部9に限定されず、他の構成の紡績部に対しても適用することができる。
【0072】
第1ブロック91及び第2ブロック92を離間及び接触させるための構成は、空気圧シリンダ80に代えて、例えばカムと電動モータの組合せ、又はソレノイドによって行うように変更することができる。
【0073】
前記圧力測定値の平均値の計算式は、適宜のものを用いることができる。例えば、単純移動平均、加重移動平均、指数加重移動平均などを用いて計算することができる。
【0074】
空気圧シリンダ80は、第2ブロック92を第1ブロック91に対して離間及び接触させるように設けられているが、空気圧シリンダ80を第1ブロック91側に設け、第1ブロック91を第2ブロック92に対して離間及び接触させるように構成しても良い。
【0075】
また、機械的なダンパ等を、継手68と圧力センサ63との間、或いは圧力検出孔61と継手68との間のチューブ62に取り付けることにより、ノイズを除去しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の正面図。
【図2】同じく縦断側面図。
【図3】紡績部の縦断正面図。
【図4】紡績部の開放時の縦断正面図
【図5】紡績時における紡績部の様子を示す図。
【符号の説明】
【0077】
1 精紡機(紡績機)
9 紡績部
19 空気紡績ノズル
25 旋回流発生室(中空室)
32 ユニットコントローラ(制御部)
55 空気排出用空間
61 圧力検出孔
63 圧力センサ(圧力検出部)
71 報知ランプ(報知部)
80 空気圧シリンダ(開閉駆動部)
90 蓄積された繊維
91 第1ブロック
92 第2ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束に旋回空気流を作用させる空気紡績ノズルを有する第1ブロックと、
前記繊維束の走行方向において前記第1ブロックに対して下流側に設けられ、前記繊維束が走行するように構成された中空ガイド軸体を有する第2ブロックと、
前記第1ブロックと前記第2ブロックとを離間及び接触させる開閉駆動部と、
前記第1ブロックと前記第2ブロックとの間に形成され、前記空気紡績ノズルにより生成された旋回空気流によって繊維束に撚りを与えるための中空室と、
前記中空室の圧力を検出する圧力検出部と、
制御部と、
を備えた紡績機において、
前記制御部は、前記開閉駆動部により前記第1ブロックと前記第2ブロックとが離間させられ前記中空室が開放された時に、前記圧力検出部のキャリブレーションを行うことを特徴とする紡績機。
【請求項2】
請求項1に記載の紡績機であって、
前記キャリブレーションは、前記中空室の開放時に、前記圧力検出部が圧力を所定の回数検出し、所定の回数分の検出値の平均値を求め、この平均値に基づきオフセット値を求めることにより行うことを特徴とする紡績機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡績機であって、
前記制御部は、前記圧力検出部の検出値を監視することにより、前記圧力検出部の異常の有無を判断することを特徴とする紡績機。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の紡績機であって、
前記制御部は、紡績時における前記圧力検出部の検出値の平均値を求め、当該平均値を制御に用いることを特徴とする紡績機。
【請求項5】
請求項4に記載の紡績機であって、
前記制御部は、前記紡績時における前記圧力検出部の検出値の平均値を監視し、当該平均値が所定の閾値を超えていた場合に異常と判定することを特徴とする紡績機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−155749(P2009−155749A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334130(P2007−334130)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】