説明

紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置および紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置の廃液インクの処理方法

【課題】紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置において、安価でかつ廃液インクタンクの構造が複雑化しないインクジェット記録装置および安全で容易な廃液インクの処理方法を提供する。
【解決手段】記録媒体に紫外線硬化型インクを吐出することにより記録を行うヘッドと、廃液インクをためる廃液インクタンクを有するインクジェット記録装置において、硬化促進剤を前記廃液インクタンクへ注入する注入手段と、前記廃液インクタンクを加熱するための加熱手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置の廃液インク処理に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様な記録媒体への画像付与が可能である紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置の研究開発が進んでいる。
従来の水系インクを用いたインクジェット記録装置におけるパージやインク交換によって排出されたインクの処理法としては、インクジェット記録装置に廃液インクタンクを設け、廃液インクをタンク内に一時的にためておき、廃液インクが一定量以上たまった後には記録装置外部へまとめて廃棄するということが一般的であった。
しかし、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置においては、従来のような廃液インクの処理方法を流用すると、紫外線硬化型インクは、液体状態では皮膚刺激性や臭気がある為、廃液インクを廃棄する際には防護装備や臭気対策が必要となるといった問題が発生する。
【0003】
この問題を解決する方法として、特許文献1には、廃液インクに紫外線を照射して、廃液インクを硬化させて固体状態にした後、廃棄する方法が提案されている。
しかし、紫外線照射装置を用いて廃液インクを硬化させるには、インクジェット記録装置の廃液インクタンク部分に紫外線照射装置を取り付ける必要があり、インクジェット記録装置が複雑化してしまう。また、この方法では、多量の廃液インクを一度に硬化させることは難しく、少量毎に硬化させることになり、手間やコストのかかるものとなってしまう。
【0004】
【特許文献1】特開2003−211705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記問題を解決するもので、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置において、安価でかつ廃液インクタンクの構造が複雑化しないインクジェット記録装置および安全で容易な廃液インクの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため次のような手段を実施するものである。
【0007】
すなわち、(1)本発明は、記録媒体に紫外線硬化型インクを吐出することにより記録を行うヘッドと、廃液インクをためる廃液インクタンクを有するインクジェット記録装置において、硬化促進剤を前記廃液インクタンクへ注入する注入手段と、前記廃液インクタンクを加熱するための加熱手段を有することを特徴とする紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置に関する。
【0008】
(2)前記廃液インクタンク内にフィルムが装着されていることが好ましい。
【0009】
(3)前記廃液インクタンク内に撥液剤が塗布されていることが好ましい。
【0010】
また、(4)紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置の廃液インクを処理する方法において、廃液インクがためられた廃液インクタンクに硬化促進剤を注入する工程と廃液インクタンクを加熱する工程を有することを特徴とする廃液インクの処理方法に関する。
【0011】
(5)前記硬化促進剤が有機過酸化物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置において、安価でかつ廃液インクタンクの構造が複雑化しないインクジェット記録装置および安全で容易な廃液インクの処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0014】
本実施の形態で例示されるインクジェット記録装置は、記録媒体に紫外線硬化型インクを吐出して記録をおこない、その後、紫外線照射手段によって紫外線を照射してインクの硬化、定着をおこなうものである。
【0015】
図1は、本発明の一例を示す紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置の構成を示す概略図である。
1は記録ヘッド、2はキャリッジ、3はキャリッジ搬送レール、4は記録媒体の搬送装置、5は記録ヘッドのメンテナンス部であり、このメンテナンス部5は、インクを排出する際に使用される吸引キャップ6、吸引ポンプ7および廃液インクを処理する廃液インク処理ユニット8を備えている。
記録ヘッド1には、インクタンクから供給管を通じて紫外線硬化型インクが供給され、記録ヘッド1は、キャリッジ2に搭載され、キャリッジ搬送レール3上をレールに沿って移動する。記録媒体は、搬送装置4により記録ヘッド1の移動する方向と直交する方向に搬送される。
【0016】
図2は、廃液インク処理ユニット8の構成を示す概略図である。
9は廃液インクの導入管、10は廃液インクタンク、12は廃液インクの検知手段、13は廃液インク11を加熱するための加熱手段であり、15は硬化促進剤の注入管、16は吸引管である。さらに廃液インクタンク10の周囲には、加熱効率を上げるために断熱材14が備わっている。
【0017】
図3は、廃液インクの処理の流れを示すフローチャートである。
まず、インクジェット記録中のパージやインク交換の際に、吸引キャップ6が記録ヘッド1のノズル面を覆うように装着され、吸引ポンプ7を作動し、吸引管16を通じて吸引キャップ6、導入管9、および廃液インクタンク10内が負圧にされる。そうするとインクは導入管9を通って、廃液インクタンク10まで導かれ、一時的に貯留される。
そして、廃液インクタンク10内に一定量以上のインクが溜まると、廃液インクタンク10内に設けられた廃液インク検知手段12により検知される。
検知手段12により検知されると、検知手段12が廃液インク11の液面に接しないように廃液インクタンク10の上部にもちあげられるか、もしくは廃液インクタンク10外部へ取り出された後、注入管15より硬化促進剤が注入される。
そして、廃液インク11が加熱手段13により加熱され、インクが硬化される。インクの硬化が完了すると、硬化したインクを廃液インクタンク10から取りだして廃棄することとなる。
【0018】
導入管9の材質については、管内部を流れる紫外線硬化型インクに対して耐性があればとくに限定されず、例えば、ステンレス、アルミ等の金属、プラスチック樹脂等が挙げられる。
また、使用する紫外線硬化型インクの粘度が高い場合には、導入菅9内のインクの流動性を上げるため、加熱手段を用いて導入菅9を加熱してもよい。
【0019】
廃液インクタンク10の材質については、紫外線硬化型インクに対し耐性があり、かつ耐熱性のある材質であればよく、例えば、ステンレス、アルミ等の金属、プラスチック樹脂等が挙げられる。なかでも熱伝導がよい金属が好ましく、さらには、加工性、コスト等の面からステンレスが好ましい。
【0020】
また、廃液インクタンク10の内面の形状については、フラットな形状でも良いが、例えば、廃液インクタンク10の底面から垂直に板を並べたようなタンク内部に凹凸が付与されている形状が好ましい。タンク内部に凹凸を付与することにより、廃液インクタンク10とタンク内の廃液インク11との接触面積が多くなり、廃液インク11をさらに効率よく加熱できる。
【0021】
さらに、廃液インクタンク10から硬化した廃液インクを容易に取り出せるように、廃液インクタンク10の内面をあらかじめ耐熱性のあるフィルムで覆っておくことが好ましい。このフィルムの材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサルファイド等のプラスチック樹脂が好ましい。フィルムとしてこれらのプラスチック樹脂を使用すれば、硬化したインクと共に廃プラスチックとして処分することが出来、廃棄の際の作業性がよい。
【0022】
また、廃液インクタンク10から硬化した廃液インクを容易に取りだす為のさらに別な方法として、廃液インクタンク10内面に、シリコーン系やフッ素系の撥液剤を塗布する方法やPTFE分散めっき等の撥液膜を形成する方法等が挙げられる。またその場合には、紫外線硬化型インクに耐久性がある薬剤や材料を用いるようにする必要がある。
【0023】
また、加熱手段13については、抵抗体等を用いて電気エネルギーで加熱する方法等が挙げられるが、特に限定されない。その抵抗体の形状についても、線状、面状等任意の形状のものが使用できる。
加熱手段13の設置位置については、タンク外部に設置しても良いし、またはタンク内に設置しても良い。また、タンクの底面のみであっても良いし、タンク底面と側面であっても良いし、タンク全面に設置しても良いし、任意に設定すれば良い。
また、廃液インクタンク10の加熱温度としては、温度が低すぎると硬化が始まらず、逆に温度が高すぎると硬化物が溶融してしまうおそれがあるため、加熱は廃液インク温度が70〜200℃の範囲でおこなうのがよい。
【0024】
また、加熱の際のエネルギーロスを少なくする為に、廃液インクタンク10の周囲を断熱材14で覆うことが好ましい。断熱材14の材質については、発泡ウレタン樹脂、発泡スチロール、ガラスウール等が挙げられる。ただし、ガラスウールを使用する場合には、ガラスウールが箱体内に飛散するのを防止する為に、その周りを発泡ウレタン樹脂や発泡スチロールで覆うとよい。
【0025】
本発明においては、廃液インク11を加熱、硬化させる際に、さらに効率よく硬化させる為に、硬化促進剤を注入する。硬化促進剤の注入は、例えば、電磁弁等を用いて制御すればよい。
硬化促進剤の注入時期については、廃液インクタンク10内の廃液インク11をより効率よく硬化させる為、廃液インクタンクの10の加熱前が好ましい。加熱後に硬化促進剤を注入すると、タンクの内壁に接するインクのみが硬化してしまい、タンクの中央部分にあるインクは未硬化状態になるおそれがある。
また、硬化促進剤の注入後、インクの硬化効率をさらに良くする為に、攪拌作業を行うとよい。攪拌手段としては、モーターで駆動させる攪拌棒、攪拌羽を用いる方法や、廃液インクタンク内にエア導入管を設置しエアを用いて廃液インクを攪拌する方法等が挙げられる。
【0026】
硬化促進剤としては、好ましくは、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル、パーカーボネイト等の有機過酸化物が挙げられ、なかでも、1時間半減期温度が70〜200℃のもので、更に常温で保存可能なものがさらに好ましい。1時間半減期温度とは、1時間で酸化物の濃度が初期の半分に減ずる温度であり、1時間半減期温度が70℃以下であると、使用期限や保管の際の劣化に注意が必要であり、200℃以上では、硬化促進剤を注入しなくても紫外線硬化型インク自身が硬化する。
硬化促進剤の注入量(固形分重量)としては、廃液インクタンク10内の硬化させるべき廃液インク11の重量の1〜5%が、効率的な硬化ができるので好ましい。
【0027】
また、廃液インク量の検知手段12については、複数の電極をインクのタンク内に設けてインクの導電性を利用して液面を検出する手段や、液面に浮かべたフロートの位置を検知する手段、発光素子と受光素子を用いて検知する手段などが挙げられ、特に限定されない。
【0028】
また、臭気が強い紫外線硬化型インクを使用する場合には、廃液インク11が廃液インクタンク10内に少量たまった時点で、上述したような方法にて廃液インクを硬化させ、硬化した廃液インクがタンク内にある状態で、更に廃液インクをタンク内にためて硬化させるという工程を繰り返しおこなえばよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一例を示す紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の廃液インク処理ユニットの構成を示す概略図である。
【図3】本発明の廃液インクの処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 記録ヘッド
2 キャリッジ
3 キャリッジ搬送レール
4 記録媒体の搬送装置
5 記録ヘッドのメンテナンス部
6 吸引キャップ
7 吸引ポンプ
8 廃液インク処理ユニット
9 導入管
10 廃液インクタンク
12 検知手段
13 加熱手段
14 断熱材
15 注入管
16 吸引管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に紫外線硬化型インクを吐出することにより記録を行うヘッドと、廃液インクをためる廃液インクタンクを有するインクジェット記録装置において、硬化促進剤を前記廃液インクタンクへ注入する注入手段と、前記廃液インクタンクを加熱するための加熱手段を有することを特徴とする紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置。
【請求項2】
廃液インクタンク内にフィルムが装着されていることを特徴とする請求項1記載の紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置。
【請求項3】
廃液インクタンク内に撥液剤が塗布されていることを特徴とする請求項1記載の紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置。
【請求項4】
紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置の廃液インクを処理する方法において、廃液インクがためられた廃液インクタンクに硬化促進剤を注入する工程と廃液インクタンクを加熱する工程を有することを特徴とする廃液インクの処理方法。
【請求項5】
硬化促進剤が有機過酸化物であることを特徴とする請求項4記載の廃液インクの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−21343(P2006−21343A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199308(P2004−199308)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】