説明

紫外線遮蔽材料

【課題】 紫外線遮蔽能力の高い材料を提供する。紫外線遮蔽能力の高い塗料、プラスチック組成物を提供する。
【解決手段】 形状に異方性を持ち、長軸方向が(001)方向に配向している異方性のルチル型酸化チタン粒子を含有してなる紫外線遮蔽材料を提供する。好ましくは、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の短軸の長さを5〜100nm、長軸の長さを60〜300nmに設計する。前記異方性の形状に設計することで、短波長および近可視光領域の紫外線遮蔽能が高い材料が提供可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外線遮蔽材料に関わるものであり、特に紫外線防止塗料、紫外線劣化に強いプラスチックなどの分野において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光に含まれる紫外線はプラスチックの劣化などのダメージを誘起する。近年では紫外線を遮蔽するための材料は、プラスチック材料の劣化を防止するためのコーティング事業等、様々な産業分野からの期待が高まっている。紫外線を遮蔽するための材料として、例えば、酸化チタン等の屈折率の高い無機酸化物系材料が、その熱的化学的安定性、無毒、無色(白色)のため、様々な分野で用いられてきた。
【0003】
酸化チタンを紫外線遮蔽材料として用いる場合、その遮蔽能力は酸化チタン粒子の形状に大きく依存することが知られている(非特許文献1)。非特許文献1に記載された理論計算によれば、酸化チタンを球状粒子と仮定した場合、特に太陽光に含まれる紫外線の遮蔽効果は、1.バンド間遷移による紫外線の吸収、2.ミー(Mie)モードによる散乱の双方の効果が支配的であることが報告されている。波長300nmと400nmの紫外線の遮蔽効果を比較した場合、波長の短い300nmにおいては、バンド間遷移による吸収が支配的なため、充填率が高く、紫外線を効率的に吸収できる微粒子、すなわち、20nm〜100nmの粒径での遮蔽効果が高い。一方、波長が400nmでは、ミー散乱による影響が支配的になるため、100〜250nmの粒径の微粒子が好適である。つまり、短波長領域での遮蔽と、近可視光領域での遮蔽に対する最適粒子径の設計は異なってくる。紫外線遮蔽機能を有する酸化チタン材料として、例えば、紡錘状の形状の二酸化チタンが提案されている(特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】P. Stamatakis et al., J. Coat. Tech. 62,95(1990)
【特許文献1】特開平9−175821
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紫外線遮蔽効果の高い材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
形状に異方性を有し、長軸方向が(001)方向に配向している異方性のルチル型酸化チタン粒子を含有してなる紫外線遮蔽材料を提供する。また、前記紫外線遮蔽材料を含有する紫外線防止塗料およびプラスチック組成物を提供する。さらに、形状に異方性を有し、長軸方向が(001)方向に配向している異方性のルチル型酸化チタン粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の紫外線遮蔽材料は紫外線吸収能および散乱能に優れるため、高い紫外線遮蔽能をもつ材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の紫外線遮蔽材料は、長軸と短軸を有する異方性の形状を持ち、長軸方向が(001)方向に配向しているルチル型酸化チタン粒子を含んでいることを特徴とする。ルチル型酸化チタンのバンドギャップは3.0eVで、アナターゼ型酸化チタンのバンドギャップ(3.2eV)よりも小さい値を持ち、400nm付近の近可視光領域の紫外線を吸収することができる。また、バンドギャップが狭い場合、電子とホールの還元力、酸化力が弱まるので、粒子の周囲にある有機物を分解するといった不具合を抑制することができる。更に、近可視光領域の紫外線散乱能の指標となる屈折率はルチル型酸化チタンの方が高い。また、前記非特許文献1によれば、紫外線のうち、波長の短い領域と近可視光の領域での遮蔽効果に対し、最適粒子径が異なることが報告されているが、本発明の材料は異方性形状、つまり、短軸と長軸が存在するため、波長の短い領域と近可視光の領域での優れた遮蔽効果を併せ持つことができる。また、結晶方向が配向しているため、粒界や不純物が少なく、高い紫外線吸収能、屈折率を実現する。また、異方性形状の粒子を部材に塗り広げた場合、長軸が部材に対して寝た構造になり、球状の粒子と比較して皮膚への接触面積が大きく付着力が強い。すなわち、異方性の粒子が部材に対して配向し、付着力が強くなるため、耐久性の良好な皮膜を提供することが出来る。粒子の配向性の指標として、XRD(In−plane法とOut−of−plane法)を用いて評価することができる。
【0009】
本発明の好ましい態様において、前記異方性のルチル型酸化チタンの短軸の長さが5〜100nm、長軸の長さが60〜300nmの範囲である。当然、長軸の長さは短軸の長さよりも長い。短軸の長さを5〜100nmにすることで、塗膜や被膜にした際の粒子の充填率が上がり、短波長領域の紫外線を効率的に吸収することができるため、この領域の紫外線の高い遮蔽性を発現する。一方、長軸の長さを60〜300nmにすることで、近可視光領域の紫外線を効率的に散乱するため、この領域の波長の紫外線でも遮蔽性が高い。
また、短軸、長軸を請求項2に記載の長さに設計すると、水や溶媒、油脂への分散性も非常に高い。
【0010】
本発明に係る酸化チタン粒子は請求項1ないし2に記載した異方性形状であれば、特異な紫外線遮蔽効果を発現するが、異方性形状の態様として、例えば、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子は、柱状の1次粒子が長軸方向に配向して複数会合しており、前記柱状の1次粒子の長軸が(001)方向に配向していることを特徴とする。この態様においては、通常の多結晶の粒子と比較して不純物や欠陥の存在する粒界が少なくなるため、屈折率の低下、つまり、紫外線吸収能の低下を抑制することができる。前記柱状の1次粒子は円柱状でも角柱状でも構わない。
【0011】
本発明の好ましい態様において、前記異方性のルチル型酸化チタンの粒子の内部には粒界が存在しない。粒界には不純物や欠陥が存在するため、屈折率の低下、つまり、紫外線吸収能の低下を誘起してしまう。単結晶状の粒子であることで、顕著な紫外線遮蔽効果を発現する。
【0012】
前記ルチル型酸化チタン粒子の別の態様として、例えば、角柱、ないし、円柱状であっても構わない。長軸に平行な面が(100)面や(110)面のみで構成されれば四角柱の構造になると予想され、(100)面と(110)面の双方で構成される場合、八角柱の構造になると予想される。また、円柱状の場合、(001)面に垂直な複数の面が露出することになる。
【0013】
本発明の別の好ましい態様において、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が板状であって、板状の厚み方向が(110)方向に配向している、つまり、板状粒子の表面のうちもっとも面積の大きい面が(110)面である。(110)面はルチル型酸化チタンの結晶面のうち表面の自由エネルギーが最も低い面である。つまり、熱的化学的に極めて安定な面である。更に好ましい態様において、前記板状の異方性のルチル型酸化チタン粒子の短軸のうち、厚さをD1、幅をLsとし、長軸の長さをLl(Ll≧Ls)としたとき、アスペクト比(D/Ls)が1以下であり、Lsが10〜50nmであり、Llが60〜300nmである。この大きさに設計することで、前記態様と同様に高い紫外線遮蔽機能を発現する上、板状のため、基材へ付着力が高い。
【0014】
本発明の態様を整理するため、図1に本発明に係る粒子の形状を模式的に示す。
【0015】
本発明の紫外線遮蔽材料の表面活性を抑えたり、水や溶媒、油脂への分散性を高めるために、前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の表面に、更に、アルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、亜鉛からなる群より選択される少なくとも一種の水酸化物、ないし、酸化物が被覆されていても良い。更に、リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソトリデシル、ステアリン酸、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン等の有機物で表面処理しても構わない。表面修飾物は物理的に接触していても化学的に結合していても構わない。また、別の表面活性を抑制させる方法として、鉄などの遷移金属をドーピングしても構わない。
【0016】
本発明の紫外線遮蔽材料の分散性を高めるため、例えば、カルボン酸、アミン、ポリオール、シロキサン、シランカップリング剤等の有機物の少なくとも一種が修飾されていても構わない。
【0017】
以下に本発明に係る紫外線遮蔽材料の製造方法を述べるが、ここに記載したものに限定されたものではない。
本発明の紫外線遮蔽材料に係る前記異方性のルチル型酸化チタン粒子を製造する方法として、例えば、チタン元素を含む化合物からなる中空ファイバ状の前駆体にプロトン処理することで製造可能である。前記チタン元素を含む化合物からなる中空ファイバ状の前駆体は、酸化チタン、チタン水酸化物、チタン酸塩、非晶質のいずれか一種を含んでいる。前記中空ファイバ状の前駆体が酸化チタンの場合、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型、TiO(B)が好適に使用できる。また、前記酸化チタンとして、TiやTiなどの還元体やマグネリ相を含んでいても構わない。前記中空ファイバ状の前駆体がチタン酸塩の場合、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、七チタン酸、八チタン酸、レピドクロサイト型チタン酸等のプロトンを含む多価チタン酸や、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸セシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の多価チタン酸塩であっても構わない。特に好ましい態様においては、前記中空ファイバ状の前駆体は巻物状の層状のトリチタン酸で構成されている。巻物状の層状のトリチタン酸は、電荷の中性を保つため、層間にプロトンが挿入されており、溶媒中での安定性は極めて高い。前記中空ファイバ状の前駆体の作製方法としては、例えば、酸化チタン粒子を水酸化ナトリウム水溶液中において、水熱処理する方法が好ましく用いられる。
【0018】
前記製造方法において、前記中空ファイバ状の前駆体にプロトン処理する方法として、中空ファイバ状の前駆体を酸水溶液と接触させる方法が好適に用いられる。ここで用いる酸の種類としては、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、フッ酸、臭素酸、沃素酸、亜硝酸、酢酸、蓚酸などが挙げられる。プロトンの付加を効率的に促進させるため、静置・攪拌・振とうさせてもよく、より好ましくは静置させる方法がある。前記酸水溶液と接触させる時の温度条件としては、0℃以上100℃未満が好ましい。前記酸水溶液の酸濃度としては、0.1M以上10M以下が好ましい。ここで、0.1M未満の濃度条件では、反応に必要なプロトン量が不十分になる恐れがあり、10Mより大きい濃度条件では、中空ファイバ状の前駆体が溶解してしまう可能性がある。こうしてプロトン処理をおこなうことで、異方性を持った板状のルチル型酸化チタン微粒子を製造することができる。
【0019】
本発明の紫外線遮蔽材料を製造する方法の更に好ましい態様において、前記プロトン処理の後に、更に水熱処理をおこなう。このときの水熱処理条件によって、粒子の形状を任意に制御することができる。例えば、塩基性水溶液中で水熱処理をおこなうと、請求項5ないし6に記載の角柱状、ないし、円柱状の異方性ルチル型酸化チタン粒子を得ることができる。一方、酸性水溶液中で水熱処理をおこなうと、請求項3に記載の柱状の1次粒子が長軸方向に配向して複数会合した形状の異方性のルチル型酸化チタン粒子を合成することができる。塩基性水溶液として、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、四級アンモニウム水酸化物等の有機アミン水溶液等が好適に使用することができる。酸性の水溶液としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、フッ酸、臭素酸、沃素酸、亜硝酸、酢酸、蓚酸、リンゴ酸等好適に用いられる。本発明の紫外線遮蔽材料の結晶性を高めたり、欠陥量を低減させるため、水熱処理した後に大気中で熱処理をしても構わない。
【0020】
本発明の紫外線遮蔽材料は、紫外線防止塗料、紫外線防止プラスチック組成物等、様々な用途に有用なものである。
【0021】
本発明の紫外線遮蔽材料を紫外線防止塗料として使用する場合、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル−スチレン共重合体、フェノール樹脂、アミノ樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂材料や、コロイダルシリカ、アルキルシリケート、アルカリシリケート、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機系塗膜材料に配合され、水ないし溶媒に分散して使用できる。なお、紫外線を遮蔽するための塗膜の膜厚としては1〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の紫外線遮蔽材料を紫外線防止プラスチック組成物として使用する場合、例えば、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ナイロン、EVA樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂に配合される。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらの実施例になんら制限されるものではない。
1.前駆体となる中空ファイバの作製
酸化チタン粉末0.64gを10M水酸化ナトリウム水溶液80mlに投入し、ガラス棒にて1分間攪拌することにより、白色懸濁液を得た。酸化チタン粉末はF−6(昭和電工)を大気中で500℃、4時間で仮焼した粉末、および、P−25(Degussa社)を用いた。この白色懸濁液を100mlフッ素樹脂製容器に入れ、さらにステンレス製容器にこのフッ素樹脂製の容器を入れた。乾燥器の中にこのステンレス容器を入れて、120℃で20時間保持した。反応終了後、室温までステンレス容器を自然放冷させ、白色沈殿物を含む溶液を回収した。洗浄工程として、この白色沈殿物を含む溶液から、上澄み液をまずスポイトにて除去した。残った白色沈殿物に0.1M塩酸水溶液100mlを少量ずつ添加した。塩酸水溶液を全量添加後、室温(20℃)で3時間静置した。静置後、上澄み液を除去した。この洗浄工程を合計3回行い、上澄み液がpH7以下であることを確認した。これらの中和操作の後、残った白色沈殿物を蒸留水で2回洗浄することにより、白色粉末を得た。出発原料をF−6のとした場合の白色粉末を#1試料、出発原料をP−25とした場合の白色粉末を#2試料とした。これらの白色粉末を走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、中空ファイバの集合体であり、各ファイバの中心部は直径3.5nmの中空構造になっていることを確認した。また、XRD(マック・サイエンス製、MXP−18)で結晶構造を解析したところ、いずれもチタン酸構造であることがわかった。更に、比表面積/細孔分布測定装置(アサップ2000、マイクロメリティックス社製)を用いて解析したところ、細孔径分布については中空ファイバの内径3.5nmに相当する急峻なピークが観察され、比表面積は#1試料が322m/g、#2試料が78m/gであった。
【0024】
2.板状ルチル型酸化チタン粒子の作製
#1、および、#2試料を2M硝酸水溶液64ml中に添加、室温で1週間暗所で静置した。静置後、得られた半透明溶液を遠心分離機(佐久間製作所(株)製 M200−IVD)により5000rpmで30分遠心分離し、固形分を乾燥した。ここで、#1試料を出発原料とした場合を#3試料、#2試料を出発原料とした場合を#4試料とする。#3試料を透過型電子顕微鏡(日立製作所(株)製H−9000UHR 3型)で観察したところ、図2に示すように、異方性形状を有していることがわかった。単一粒子の電子線回折像により、この粒子はルチル型酸化チタンのスポットと一致し、厚み方向が(110)方向に配向している結晶構造を有することが明らかとなった。
また前記遠心分離で回収した#3試料を水に分散させ、ホウ珪酸ガラス基板にスピンコートして乾燥したものの表面を原子間力顕微鏡(Digital Instruments Inc.製 Nanoscope 3a)にて観察した。結果を図3に示したが、厚みが約20nm、幅が50nm、長さが200nmの板状構造であることがわかった。
さらに、これらの粒子の基板への配向性を評価するため、前記水に分散した#3、#4試料をそれぞれスピンコーティングでシリコンウエハ(100)面に成膜した。得られた薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(日立製作所(株)製、S−4100)で観察し、#3試料の結果を図4、#4試料の結果を図5に示す。また、薄膜の結晶性や配向性を調べるため、試料水平型多目的X線回折装置((株)リガク製、TTR3型)を用いて、Out−of−plane、In−plane測定をおこなった。X線源はCu−Kα線を用い、多層膜ミラーによる平行ビームを入射した。Out−of−plane測定の結果を図6に、In−plane測定の結果を図7に示す。Out−of−plane測定は基板表面と平行な結晶格子面を検出し、In−plane測定はサンプル表面と垂直な結晶格子面を検出できる。この結果、Out−of−plane測定では(110)面に帰属する回折が強く検出された一方、In−plane測定では(110)面と垂直な(002)面が強く検出された。これらの結果から、基材にコーティングした板状のルチル型酸化チタン粒子は、基材に対して(110)面が平行に、(002)面が垂直に強く配向していることがわかった。すなわち、ルチル型酸化チタンの(110)方向が基板に対して垂直に配向していた。なお、In−plane測定にて(110)面が観測されたが、ルチル型酸化チタンは正方晶のため、この回折は基板と平行な(110)面に等価な(−110)面ないし(1−10)面からの回折である。
【0025】
3.柱状ルチル型酸化チタン微粒子の合成
前記2.で得られた#3試料を更に0.2Mのテトラブチルアンモニウム水酸化物水溶液中で水熱処理した。板状ルチル型酸化チタンの重量は1g、テトラブチルアンモニウムの量は80mlとし、1.と同様の水熱反応容器を用い、200℃×20時間の水熱処理をおこなった。得られたサンプルを1.と同様に、遠心分離、中和、洗浄工程をおこない、白色粉末を得た。
得られた粉末の走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、長軸が50〜200nm、短軸が20〜30nmの柱状構造であった(図8)。更に、得られた粉末をエポキシ樹脂に埋包し、のダイヤモンドナイフ35度(Diatome社)を使用し、ウルトラミクロトーム(ライカ製、LEICA EM UC6)で薄片化し、走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、四角柱状の断片が確認された(図9)。また透過像を観察する限り、粒界が存在しないことも明らかになった。またこの粉末の結晶構造を粉末X線回折(マックサイエンス、MXP18II)で測定したところ、ルチル型酸化チタンであることが明らかになった。
【0026】
4.複数の柱状の1次粒子からなる異方性ルチル型酸化チタン微粒子の合成
前記2.で得られた#4試料を更に0.2Mの硝酸水溶液中で水熱処理した。板状ルチル型酸化チタンの重量は1g、硝酸の量は80mlとし、1.と同様の水熱反応容器を用い、200℃×20時間の水熱処理をおこなった。得られたサンプルを1.と同様に、遠心分離、中和、洗浄工程をおこない、白色粉末を得た。
得られた粉末の走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察した。2次電子像、透過電子像を図10に示したが、長軸が200〜300nm、短軸が40〜90nmで、長軸方向に複数の柱状の1次粒子が束なった形状を有することがわかった。更に、得られた粉末をエポキシ樹脂に埋包し、のダイヤモンドナイフ35度(Diatome社)を使用し、ウルトラミクロトーム(ライカ製、LEICA EM UC6)で薄片化し、走査型透過電子顕微鏡(日立製作所(株)、STEM S−5200)で観察したところ、複数の四角柱状の粒子の断片が確認された(図11)。またこの粉末の結晶構造を粉末X線回折(マックサイエンス、MXP18II)で測定したところ、ルチル型酸化チタンであることが明らかになった。
【0027】
5.紫外線遮蔽効果の測定
2.で作製した#3試料0.15gとスクワラン(和光純薬工業)0.79gと界面活性剤(花王、レオドールSP−010V)0.06gを混合、20時間スターラーで攪拌した。更に、脱泡混練機(日本精機、NBK−1)を用い、1500rpmで15分間攪拌した。得られた乳液状のサンプルを石英ガラス上に膜厚25μmになるようにコーティングした。コーティング方法は、25μmの厚みをもつ薬包紙に1cm角の穴をあけ、この薬包紙を石英ガラスに接触させた後に、前記穴に乳液状のサンプルを滴下、スキージを用いて厚み25μmのコーティングをおこなった。得られた被膜の透過率を分光光度計(島津製作所、UV−3150)を用い測定した。比較例として、アナターゼ型酸化チタン(石原産業、ST−01)、ルチル型酸化チタン(石原産業、CR58とTTO−55)を用い、前記と同様に乳液化後、石英ガラスにコーティングして紫外線の透過率を測定した。
透過率の結果を図12に示す。この結果、本発明の板状のルチル型酸化チタンは高い紫外線遮蔽能を示すことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
紫外線の遮蔽能力の高い材料を提供することができる。本発明によれば、紫外線防止塗料、紫外線劣化に強いプラスチックなどの分野に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の態様を模式的に示す図。
【図2】本発明に係る紫外線遮蔽材料(板状ルチル型酸化チタン:#3試料)の電子顕微鏡写真
【図3】本発明に係る紫外線遮蔽材料(板状ルチル型酸化チタン:#3試料)のAFM像
【図4】本発明に係る紫外線遮蔽材料(板状ルチル型酸化チタン:#3試料)を薄膜化したサンプルのSEM像
【図5】本発明に係る紫外線遮蔽材料(板状ルチル型酸化チタン:#4試料)を薄膜化したサンプルのSEM像
【図6】本発明に係る紫外線遮蔽材料(板状ルチル型酸化チタン)を薄膜化したサンプルのXRD(Out−of−plane)
【図7】本発明に係る紫外線遮蔽材料(板状ルチル型酸化チタン)を薄膜化したサンプルのXRD(In−plane)
【図8】本発明に係る紫外線遮蔽材料(柱状のルチル型酸化チタン)の電子顕微鏡写真
【図9】本発明に係る紫外線遮蔽材料(柱状のルチル型酸化チタン)の電子顕微鏡写真
【図10】本発明に係る紫外線遮蔽材料(複数の柱状の1次粒子からなるルチル型酸化チタン)の電子顕微鏡写真
【図11】本発明に係る紫外線遮蔽材料(複数の柱状の1次粒子からなるルチル型酸化チタン)の電子顕微鏡写真
【図12】本発明に係る紫外線遮蔽材料の紫外線透過率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状に異方性を持ち、長軸方向が(001)方向に配向している異方性のルチル型酸化チタン粒子を含有してなる紫外線遮蔽材料。
【請求項2】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の短軸の長さが5〜100nm、長軸の長さが60〜300nmであって、かつ、長軸が短軸よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の紫外線遮蔽材料。
【請求項3】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子は、柱状の1次粒子が長軸方向に配向して複数会合しており、前記柱状の1次粒子の長軸が(001)方向に配向していることを特徴とする請求項1ないし2に記載の紫外線遮蔽材料。
【請求項4】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の内部に粒界が存在しないことを特徴とする請求項1ないし2に記載の紫外線遮蔽材料
【請求項5】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が角柱状であることを特徴とする請求項1〜4に記載の紫外線遮蔽材料。
【請求項6】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が円柱状であることを特徴とする請求項1〜4に記載の紫外線遮蔽材料。
【請求項7】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子が板状であって、板状の厚み方向が(110)方向に配向していることを特徴とする請求項1〜4に記載の紫外線遮蔽材料。
【請求項8】
請求項7に記載の紫外線遮蔽材料であって、前記板状の異方性のルチル型酸化チタン粒子の短軸のうち、厚さをD1、幅をLsとし、長軸の長さをLl(Ll≧Ls)としたとき、アスペクト比(D/Ls)が1以下であり、Lsが10〜50nmであり、Llが60〜300nmであることを特徴とする請求項7に記載の紫外線遮蔽材料。
【請求項9】
前記異方性のルチル型酸化チタン粒子の表面に、更に、アルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、亜鉛からなる群より選択される少なくとも一種の含水酸化物、ないし、酸化物が被覆されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽材料
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽材料を含有することを特徴とする紫外線防止塗料。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の紫外線遮蔽材料を含有することを特徴とするプラスチック組成物。
【請求項12】
形状に異方性を持ち、長軸方向が(001)方向に配向している紫外線遮蔽材料に係る異方性のルチル型酸化チタン粒子を製造する方法であって、チタン元素を含む化合物からなる中空ファイバにプロトン処理する工程を含むことを特徴とする紫外線遮蔽材料の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の紫外線遮蔽材料に係る前記異方性のルチル型酸化チタン粒子を製造する方法であって、前記プロトン処理した後、更に水熱処理することを特徴とする製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−307125(P2006−307125A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164509(P2005−164509)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】