説明

細胞保持方法、細胞試験方法及び細胞処理装置

【課題】バイオアッセイに必要な数の細胞を迅速に且つばらつきが少なく、個別に配列させて保持する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明が提供するのは、貫通した空孔が複数配置されているシートを用意するシート用意工程と、用意された細胞を担持させた粒子の懸濁液体を前記シートに接触させる接触工程とを含む細胞保持方法であって、前記空孔が液体とともに前記粒子の1つのみをその孔内に保持する大きさであることを特徴とする細胞保持方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を配置して効率よく試験、分取など操作するために有用な細胞の保持方法、細胞の試験方法及び細胞の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品開発分野や病気の診断分野においては、大量でかつ迅速にバイオアッセイを行い、化学物質や生物活性物質等が細胞に与える影響をハイスループットに確実に評価していくシステムが求められている。
バイオアッセイシステムで大量・迅速な処理を行うためには、検出手法に適した数の細胞集団を決められた位置に配列させ、細胞集団に対して所定の物質の投与、液体交換、計測や分別など所定の操作を、効率よく行わなければならない。
従来、バイオアッセイおいて細胞集団を取り扱うために、また、バイオアッセイをハイスループットに行うために、384個又は1536個の高密度マイクロウェルプレートが開発され市販されている。
【0003】
ところで細胞はその性状により、浮遊性細胞、付着性細胞、スフェロイド(凝集塊細胞)に分類することが出来る。付着性細胞を対象とするバイオアッセイを、マイクロウェルプレートを用いて行う場合、付着性細胞は一旦トリプシンなどによる処理で浮遊性とされた後、適当な数の細胞を含む懸濁液を各ウェルに分注する。その後所定の環境条件下に静置することにより、バイオアッセイの検出条件に適した細胞数に達するまで培養される。
【0004】
しかしながら、高密度マイクロウェルプレートを用いて付着性細胞のバイオアッセイを行うためには、トリプシン処理により浮遊性とした細胞懸濁液を、各ウェルにばらつきが少なくなるように分注することが課題となる。1536個のウェルからなるプレートを用いる場合、各ウェルの容量は2〜10マイクロリットルと少量である。一方、トリプシン処理により浮遊性とした付着性細胞は、培養によりコンフルエントにならない程度に培養して増殖させる必要があるため、最初から高密度の細胞懸濁液を分注することは出来ない。すなわち、高密度マイクロウェルプレートを用いる場合、各ウェルに少数の付着性細胞の懸濁液をばらつきが少なくなるように分注しなければならないという課題がある。
【0005】
また血球などの浮遊性細胞や、スフェロイドを対象とするバイオアッセイを、マイクロウェルプレートを用いて行う場合、ウェル中の液体を交換するためには、一旦遠心分離操作により細胞集団を沈降させた後、上清の液体を交換する操作を行う必要がある。このため、マイクロウェルプレートを用いたバイオアッセイのスループットを下げる要因になっている。
こうしたマイクロプレートを用いたバイオアッセイのスループットを向上させる方法として、ウェルプレートの替わりに、フィルターを用いるものや、マイクロ流体流路を用いるものが知られている。特許文献1には、細胞のサイズよりも小さいフィルター孔を用いた細胞の保持方法が例示され、細胞は孔の内部ではなく、フィルター孔の表面に保持される。特許文献2には、テーパー付けした貫通孔アレイに細胞を保持する例が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のフィルターを用いる細胞の保持方法では、フィルター上の細胞は孔内に収納されておらず、孔間の細胞のコンタミネーションが課題となる。また細胞と貫通孔が同程度のサイズであるため、各貫通孔上に保持される細胞数が少ないという課題がある。
また、特許文献2に記載のテーパー付けした貫通孔アレイに細胞を保持する方法では、細胞と貫通孔とが同程度のサイズであるため、各貫通孔に保持される細胞数が後のアッセイに要する細胞数よりも少ないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−538509号公報
【特許文献2】特表2004−510996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、バイオアッセイに必要な数の細胞を迅速に且つばらつきが少なく、個別に配列させて保持する方法の提供が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の細胞保持方法は、貫通した空孔が複数配置されているシートを用意するシート用意工程と、細胞を担持させた粒子の懸濁液体を前記シートに接触させる接触工程とを含む細胞保持方法であって、前記空孔が液体とともに前記粒子の1つのみをその孔内に保持する大きさであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の細胞処理装置は、貫通した空孔が複数配置されているシートを保持するための保持手段と、以下の手段(A)から手段(G)の少なくとも1つの手段とを有することを特徴とする。
(A)前記シートの空孔に細胞を担持させた粒子を配置させるための配置手段、
(B)前記シートの周囲環境を所定の環境に制御するための制御手段、
(C)前記シートの空孔に液滴を付与するための付与手段、
(D)前記シートの空孔に保持された前記粒子の状態を観察するための観察手段、
(E)前記シートの空孔に保持された前記粒子を前記シートから移送するための移送手段、
(F)前記シートの空孔の位置を認識する認識手段、
(G)前記シートの空孔内の液体交換を行うための液体交換手段。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、バイオアッセイに必要な数の細胞を迅速に且つばらつきが少なく、個別に配列させて保持し、効率よく培養、試験することができる。また、本発明の装置では、細胞を個別に配置し、効率よく分析、分取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】貫通した空孔が複数配置されている本発明のシート(粒子保持用シート)を例示する図である。
【図2】各空孔が複数配置されている本発明のシートに粒子が保持されている様子を模式的に表した断面図と平面図である。
【図3】本発明において、粒子を保持した空孔に生理活性物質の溶液を均一になるようにインクジェット部から液滴を吐出した様子を模式的に示した平面図である。
【図4】液体交換部位を設けた本発明の粒子保持用シートの部分拡大図である。
【図5】液体交換部位を設けた本発明の粒子保持用シートの平面寸法図である。
【図6】実施例で使用した粒子保持用シートの平面図である。
【図7】実施例1で撮影した粒子保持用シートの画像である。
【図8】実施例1で撮影した粒子上の細胞の画像である。
【図9】実施例で使用した処理装置のシステム構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。なお、個々に開示する実施形態は、本発明である細胞保持方法、細胞試験方法及び細胞処理装置の例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
(第一実施形態)
本発明の細胞保持方法は、貫通した空孔2が複数配置されているシートを用意するシート用意工程と、用意された、細胞を担持させた粒子3の懸濁液体を前記シートに接触させる接触工程とを含み、空孔2が1つの粒子3のみを保持することを特徴とする。
【0015】
本発明で取り扱う細胞とは、付着依存性細胞、浮遊性細胞、スフェロイド(凝集塊細胞)等をいう。また、その具体的な例として、ヒト子宮頸癌細胞系の細胞、神経細胞、肝細胞、繊維芽細胞、筋芽細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、幹細胞、中胚葉系幹細胞、胚性幹細胞、グリア細胞、胎性幹細胞、造血幹細胞、肥満細胞、脂肪細胞、神経幹細胞、血球細胞が挙げられる。また、本発明は、主にバイオアッセイに用いる細胞に対して保持、試験及び処理を目的とするため、シート毎に一種類の細胞を粒子3に担持させることが好ましい。これにより、バイオアッセイに必要な数の単一種類の細胞を迅速に且つばらつきが少なく、個別に配列させて保持し、効率よく培養、試験することができる。
ただし、本発明は、1つシートに2種類以上の細胞を担持させることを制限するものではない。また、異なる種類の細胞を1つのシートに担持させる場合には、シートの保持領域を区分し、区分された各領域に、それぞれ異なる種類の細胞を担持する粒子を配置するとよい。また、領域ごとに区分せずにランダムに粒子を配置する場合は、各粒子に標識(着色等)処理を施し、該標識によって担持される細胞を判別してもよい。また、同一粒子に2種以上の細胞を担持させてもよい。
【0016】
本発明で取り扱う粒子3は、前記細胞を担持しうるものであれば制限されない。粒子3の材質としては、例えば有機高分子物質、無機物質等が挙げられる。有機高分子物質としては、例えばアクリル酸重合体、スチレン重合体、メタクリル酸重合体、アルギン酸ハイドロゲル、コラーゲン由来ペプチドハイドロゲル、アガロースゲル等が挙げられる。無機物質としては、シリカ、アルミナ、ハイドロキシアパタイト、磁性酸化鉄等が挙げられる。
また、粒子3の素材は、顕微鏡観察には光の透過性に優れた素材、さらに蛍光顕微鏡観察などを行う場合は自家蛍光のない素材が好ましい。
【0017】
本発明では、前記細胞を担持させた粒子3を用いることにより、迅速な細胞の配置が可能になる。前記細胞を担持させる粒子3は、以下の方法で調製されることができる。粒子3の存在下に付着性の細胞を培養する方法、浮遊性細胞の培養液中に前記浮遊性細胞に吸着性を有する粒子3を添加する方法、浮遊性細胞やスフェロイドの培養液中に重合性物質のモノマーを添加し粒子を粒子状に重合させることで包括固定化する方法等である。
【0018】
本発明で用いられる、貫通した空孔2が複数配置されているシート(以下「粒子保持用シート」ともいう)の一例を図1に示す。前記シートは、ベース(基体)1に、粒子3と液体4と(図2を参照)が保持可能に設計されている、複数の貫通した空孔(開口部)2を有する。また、空孔2の大きさは、1つの粒子3のみを保持可能であり、2つの粒子3は保持できない大きさである。液体4は前記シートの空孔2の内壁に対して液体の相互作用力(付着力)によって保持され、さらに粒子3は液体4に包み込まれる状態で液体の表面張力により保持されると推測される。

その1例として、空孔2の開口部が円形である場合にほぼ球体である粒子3が空孔2内に液体4と共に保持される様子を模式化した断面図と平面図を図2に示す。
【0019】
ベース1の材質は、空孔2を形成できる材料であれば如何なるものでも使用できる。例えば、鉄、銅、アルミニウムなどの金属類、またはそれらを含む合金類、またガラスやアルミナ、シリコン、などのセラミックス類、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアセタール、シリコンゴム、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ナイロンなどのプラスチック樹脂、またはそれらの複合材料が使用できる。但し、ベース1の材質は、基本的に水に溶解したり、その成分が溶出したりしないものが好ましい。また、シートの空孔2の内壁は液体4が保持しやすいように、親水化処理を施したり粗面化したりしても良い。前記シート部材表面の素材の色は特にこだわらないが、顕微鏡観察には光の反射を抑える素材、さらに蛍光顕微鏡観察などを行う場合は自家蛍光のない素材が好ましい。
【0020】
本発明においては、空孔2は、粒子3のサイズに対して適当な開口面積、かつ適当な厚みを有しなければならない。つまり、液体4と共に1つの粒子3のみを空孔2に効率よく安定に保持させるには、空孔2の大きさ(開口面積と厚み)が大きく影響する。
また、空孔2の形状は、図1で例示された円形以外、四角形等の多角形、楕円形、星型等いずれかの形状でも良い。
【0021】
各空孔2の開口面積は、それぞれの保持対象となる粒子3の最大断面積の1.05倍から2.63倍の範囲内であることが好ましい。また、粒子3を1つずつ空孔2に保持する確率をより高め安定的に保持させるには、より好ましくは1つの空孔2の開口面積は、粒子3の最大断面積の1.2〜2.25倍の範囲内である。粒子3の最大断面積は、球及び略球体であれば、球の重心を通る切断面が該当する。また、前記シートは、粒子3を保持する際は通常、水平に保たれることが好ましい。
【0022】
また、2つ以上の物体が保持できない大きさとは、少なくとも空孔2に対して2つの物体の最大断面を幾何学的に配置できない大きさを示す。空孔2の開口面積が物体の最大断面積の1.05倍未満であれば空孔2に物体が配置されにくく、また2.63倍を超えると複数個配置する場合が多くなる。また、同一のべース1に異なる複数面積の空孔2が設けられていてもよい。
【0023】
ベース1の厚みは特に均一である必要はない。しかしながら、空孔2の近傍の厚みは、粒子3を一つだけ配列させる目的では、それぞれ対象となる粒子の最大径の0.2倍から1.9倍の厚みであることが好ましい。粒子3の最大径は、球及び略球体であれば、最大の断面積の直径を指す。粒子3の最大径(球体の場合は直径)の0.2倍未満であれば個体に対して液体の保持量が少ないために安定に粒子を保持できない。その結果、配列の際に脱落する割合が増える。また、粒子3の最大径(球体の場合は直径)の1.9倍を超えると複数の粒子3が保持される割合が増えてしまう。
【0024】
また、前記シートは、ベース1に複数の貫通した空孔2を有する。その配置は、ベース1のいかなる領域でもよいが、規則的に配列される方が後述する物体に対する試験や物体に対する処理の自動化にとって好ましい。また、1つのベース1に設けられる空孔2の個数や配置密度について何ら制限はない。操作上の観点からは、空孔2の直径がおよそ1mm程度であれば、配置密度が10個/cm〜100個/cmの範囲にあることが好ましい。すなわち10個/cm未満であれば、空孔以外の面積が広く、その領域に水滴が孤立しやすくなる。従って該水滴と共に空孔2以外の領域に物体が配置され、配列の効率が低下する。また、100個/cmを超えると、空孔2の間の距離が十分取れないために、その後の取り扱いで粒子3を保持する液体4が隣の空孔2で粒子3保持する液体と交じり合う等コンタミネーションしやすくなる不具合が起こりやすい。すなわち、前記シートの面積と空孔2の面積の比(開口率)は、7.9%〜78.5%の範囲に入ることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、必ずしもすべての空孔2内に粒子3を保持していなくても良い。但し、粒子3を保持させる空孔2の割合が極端に低下すると、後で細胞を試験する際に、効率が低下する。
【0026】
(粒子を保持させる方法)
貫通した空孔2が複数配置されているシートを用いれば、前記細胞を担持した粒子3を簡便に配置することができる。具体的には前記細胞を担持した粒子3を分散した液体(懸濁液体)を前記シート上に接触させることで、液体と共に簡単に空孔2に前記細胞を担持した粒子3を1つずつ配置することができる。 本発明の大きな特徴は、貫通した空孔2において1つの粒子3と共に液体4を保持することである。貫通した空孔2内にその空孔の一部の断面が粒子サイズより小さくなるように突起部分を形成したり、底板を組み合わせて形状で粒子を支えたりする公知の従来技術とは明確に差別される。
【0027】
前記シートに粒子3を含有する液体4(以下「含有液体」ともいう)を接触させる方法として、前記シートに含有液体4を上方から注ぐ方法や含有液体4の中に前記シートを浸漬する方法から選択することができる。含有液体4を上方から注ぐ方法の一つとして、公知のスリット型塗布機を利用すれば、スリットダイから含有液体4を前記シート全面に均一に載せることができる。また接触後の過剰の液体4を排除するには、前記シートを傾けたり、その背面をブレードでふき取ったり、エアーを吹きつけたりすることで簡単に出来る。但し、エアーを吹き付ける場合は、空孔2に保持された粒子3を吹き飛ばさないように、風圧や吹き付け角度を制御する必要がある。また、余剰の液体4が複数の空孔2の液体4を繋げるように存在すると空孔2の間でコンタミネーションを起こしやすくなる。また空孔2以外に粒子3が保持されやすくなる。そのため空孔2以外の部位には、できるだけ液滴を残さないようにすることが好ましい。液体4としては、多数の粒子3が中に懸濁している細胞培養液等が挙げられる。
【0028】
前記シートの少なくとも一方の表面が疎水性表面であることが好ましい。そうであれば、空孔2以外の領域で水性の液体4がはじかれるために容易に過剰の液体を取り除くことが出来る。その場合おおむね疎水性表面の液体4に対する接触角は90度以上であればよい。
前記シートにおいて、液体4の表面張力で粒子3を保持するためには、おおむね25mN/m以上の表面張力を有することが好ましい。25mN/m未満であれば、粒子3が液体4と共に空孔2内に保持されにくくなり、わずかな振動で落下することも多くなる。粒子3と共に前記シートに保持させる液体4は、前記細胞を担持した粒子3と親和性が高くかつ空孔2の内壁に付着しやすい水性の液体4が好ましい。
【0029】
水性の液体4としては、水、あるいは、アルコール、グリコール系溶媒もしくはグリセリンなどの水溶性の液体、ならびにこれらの水溶性の液体を含む水溶液などが挙げられるが、前記水溶液の場合は、特に水が50%以上含まれていることが好ましい。さらに、前記シートから粒子3を保持する液体4の蒸発を防ぐ目的あるいは、粒子3の保持を安定化する目的のために、保湿剤、表面張力調整剤、増粘剤の少なくともいずれか1つを添加することができる。
【0030】
保湿剤の例としては、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール及びソルビットなどの多価アルコール類、ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸などのムコ多糖葵質、可溶性コラーゲン、ユラスチン及びケラチンなどの蛋白質加水分解物などを単独または複数混合して用いることができる。
表面張力調整剤の例としては、水溶性のアニオン性、カチオン性、両性もしくはノニオン性の界面活性剤を一種類または複数種を添加することが出来る。但し液体の表面張力が25mN/m以上の添加量が好ましい。
【0031】
また、増粘剤の例としては、例えば酸化変性澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉及びエステル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン及び大豆蛋白等の天然又は半合成高分子類、あるいは完全又は部分ケン化のポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール及びシリル変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、などの水溶性高分子化合物が挙げられ、これらの中から少なくとも1種の水溶性高分子化合物を適宜選択して使用することができる。
【0032】
本発明において、使用される液体の好ましい粘度は、0.1Pa・s(パスカル秒)以上であり、必要に応じて上記の増粘剤を添加すれば良い。また、細胞に適した塩濃度やpHに制御することも必要であれば、塩化ナトリウムのような塩類や各種pH調整剤を、また、防腐剤や抗菌剤を適宜に添加することもできる。
【0033】
(第二実施形態)
本発明の細胞試験方法は、前記細胞保持方法で細胞を保持する保持工程と、前記細胞に対する試験を行うために物質を投与する投与工程とを含むことを特徴とする。前記細胞試験方法は、貫通した空孔2が複数配置されているシートを使用するため従来の底のあるウェルと比較して、次のような利点があげられる。これは、i)粒子3を配列することが容易である、ii)粒子3を取り出すことが容易である、iii)粒子3が底板に接触することはないので、細胞試験時に底板からの刺激等の影響を受けない、iv)空孔2内の液体4が外気と接触する面積が大きくガス交換が行われやすい、v)観察工程において、底板がないため底板による反射光や自家蛍光などのノイズ要因がない等である。
【0034】
(物質の投与)
前記細胞に対する試験を行うために、前記シートの空孔2に液体4と共に保持された粒子上の細胞に物質を投与する投与工程について詳細に説明する。
本実施形態で細胞に投与する物質としては、なんら限定されるものではないが、有機、無機の化学物質、金属及びその化合物、生体の構成物質、生体由来の生理活性物質やDNA、菌、ウイルスなど、またそれら化学物質との複合体や複数の化学物質の混合物などを包含する。前記物質の投与は、前記シートの空孔2に1種類の生理活性物質もしくは複数種類の生理活性物質を含む液滴を付与することが好ましい。
【0035】
本実施形態においては、前記細胞に投与した前記物質が作用するか否かを、作用する場合には投与量変化に対する作用や経時的な作用の変化を調べることができる。投与される前記物質を、水や有機溶剤などの溶媒中に溶解もしくは分散状態にして液体として投与する方法が好ましい。こうした液体を液滴化して吐出することで前記シートの空孔2に保持された前記細胞に直接投与することができる。前記液体を液滴化する装置としてマイクロピペット、マイクロディスペンサーやエネルギー発生素子を用いてノズルから液滴を吐出する装置、すなわちインクジェット法を用いた吐出装置が挙げられる。微少な液滴が吐出できる点でインクジェット法を用いた吐出装置を好適に用いることができる。さらにインクジェット法の中でも、サーマルインクジェット法とピエゾインクジェット法が好適に用いることができる。
【0036】
本実施形態においては、液体1滴あたりの体積が100pl(ピコリットル)以下の液滴で投与されることが好ましい。すなわち前記シートの空孔2に液体4と共に保持されている粒子3に対し、液滴が100plより大きいと当該液滴の吐出圧力で粒子3が脱落するおそれがある。また、粒子3に対して局在的な投与を避けるために空孔2のエリア全面に分散して微小液滴を滴下することが好ましい。その場合、1つの空孔2に対して分散して100滴以上で投与するのが好ましい。そうすることで、エリア内の前記細胞に対し物質を再現よく作用させることが出来る。好ましい投与の液滴位置を模式的に図3に示す。図3は、前記シートの模式平面図で図中に液滴の着弾位置5を表す。
【0037】
本発明の細胞試験方法によって投与される前記物質と前記細胞との相関を試験することができる。具体的には、(1)細胞の形態変化の評価、(2)細胞内に取り込まれた物質の定量、(3)細胞内で合成された物質の定量、(4)細胞を染色して形態評価や物質の定量、(5)レポーター遺伝子によるシグナルの検出、(6)放射線量測定による物質の定量、(7)蛍光量測定による物質の定量、(8)発光量測定による物質の定量、(9)吸光度測定による物質の定量等がある。
【0038】
(液体交換)
本実施形態においては、細胞に投与した物質の作用期間を制御する目的や細胞から分泌する物質を除去する目的で、細胞を担持した粒子3を保持した空孔2内の液体を交換することができる。その場合、空孔に保持された粒子3が、空孔2から脱落しないように円滑に液体交換を行うことが必要である。円滑に液体交換を行うためには、前記シートの粒子3を保持する空孔2に連通した液体交換部位を設けることが好ましい。
【0039】
液体交換部位を設けたシートの一例を図4に示す。図4においては、1つの粒子3を保持可能な貫通した空孔6に連通した液体交換部位7が設けられている。また、液体交換をより効率的に行うために空孔に対して連通した複数の液体交換部位7、8を設けても良い。液体交換部位7は、粒子3を保持する空孔6より面積の小さい空孔が好ましい。すなわち、粒子3を保持する空孔6と同等もしくそれ以上の大きな面積であれば、液体交換部位に粒子が保持されて目的の液体交換が難しくなる。また、液体交換部位は貫通した空孔でなく、底のある窪み(ウェル)で構成されることが好ましい。
【0040】
いずれにしても粒子3を保持可能な貫通した空孔2と液体交換部位は自由に液体が流れる必要がある。より円滑に液体交換する方法として、具体的な1例を挙げると、液体交換部位7に交換する目的の液体を滴下すると同時に液体交換部位8から液体を吸引すると液量に大きな変動を生じさせないで液体交換が円滑に行える。また液体交換部位8にチューブもしくは細線を接続して余剰の液体を下方に自然に排出することも可能である。
【0041】
本実施形態において前記シートの空孔2内で、粒子3に担持された細胞を培養することが出来る。よって、本実施形態では、貫通孔を有するシート9(図9を参照)に細胞を担持した粒子3を保持した後に、貫通孔を有するシート9の空孔2内で細胞を培養させる細胞培養工程を有する複数細胞を用いた培養方法を含むことができる。また、細胞培養工程においては細胞増殖のために細胞の各々に対して物質(例えば、細胞の生存を維持するための栄養物質など)を投与することが好ましい。
【0042】
また、細胞の培養時には、細胞を保持した空孔2を有するシートの近傍を所定の環境に制御することが重要である。すなわち、温度をそれぞれの細胞の増殖に適した温度にすることが好ましい。また、細胞の増殖には、前記シートの空孔2内の液体4の蒸発は、出来るだけ抑えることが重要である。従って空孔周辺の相対湿度は60%以上に、より好ましくは80%以上に保持する。また、細胞を維持増殖させる目的で、前記シートの空孔内に水などの生体維持材料を上記の投与手段で投与することもできる。また増殖途中過程において、蒸気・スプレー・ミスト・マイクロピペッティング・インクジェット吐出装置などの方法により、さらに化学物質・細胞増殖維持材料などを追加投与することができる。
【0043】
(第三実施形態)
本発明の第三実施形態は、細胞処理装置で、少なくとも、貫通した空孔が複数配置されているシートを保持するための保持手段を有するうえ、(A)前記シートの空孔に細胞を担持させた粒子を配置させるための配置手段と、(B)前記シートの周囲環境を所定の環境に制御するための制御手段と、(C)前記シートの空孔に液滴を付与するための付与手段と、(D)前記シートの空孔に保持された前記粒子の状態を観察するための観察手段と、(E)前記シートの空孔に保持された前記粒子を前記シートから移送するための移送手段と、(F)前記シートの空孔の位置を認識する認識手段と、及び(G)前記シートの空孔内の液体交換を行うための液体交換手段と、から少なくとも1つの手段を有する。
【0044】
本実施形態の細胞処理装置の概略は、図9に示されている。本実施形態の配置手段は、可動性ホルダー10によって構成される。細胞保持粒子3を保持した貫通孔アレイシート9は可動性ホルダー10に固定される。可動性ホルダー10は、貫通孔アレイシート9をX−Yの2軸方向に可動させることが出来る。ここで、Y方向は、図9のX方向11に対して垂直な方向(紙面に垂直な方向)を示す。
【0045】
本実施形態の付与手段は、化学物質を細胞に作用させる手段として、8plの液滴を吐出する一軸方向(X軸)に可動性のインクジェット装置14によって構成される。
本実施形態の観察手段は、照明部22及びモニター15等で構成され、細胞の状態及び変化を画像として捉える手段である。
具体的には、細胞の形状については、前記シートに保持されている細胞に対して、照明部22から可視光(白色光:波長300〜900nm)を貫通孔アレイシート9に保持した粒子3に照射しながら貫通孔アレイシート9の下方に具備したCCDカメラ(撮像部)23などで明視野画像を撮影する。CCDカメラ(撮像部)23は、貫通孔アレイシート9の上方、すなわち照明部22と同じ側に設けることもできる。また、CCDカメラと細胞との間にレンズ系を備えて細胞を拡大してより細部を観察することもできる。
【0046】
また、本実施形態では細胞から蛍光を観察する手段も含むことができる。前記シートに保持されている細胞に対して励起光光源から分光した波長480〜490nm励起光を照射してCCDカメラ等で蛍光画像を撮影することもできる。撮影した画像は、モニター15で確認して制御部16に保存する。蛍光の撮像手段は、カメラやCCD以外にスキャナーなども使用することができる。このように細胞に励起光を照射することにより細胞の内部において発光させた状態で、細胞を撮像すれば発光部位を容易に検出することができる。また、可視光を照射して得られた明視野画像と、励起光を照射して得られた蛍光画像を画像処理手段で合わせることで、より詳細に細胞を観察することもできる。
【0047】
本実施形態の移送手段は、貫通孔アレイシート9の特定の空孔2内から他の容器に粒子3を容易に移送する手段である。具体的な例としては、棒状のピンで直接押す方法や空気圧を利用してエアーを吹き付ける方法などを用いることが出来る。また、エアーの代わりに水圧を利用しても良い。粒子3に担持されている細胞に与えるダメージを少なくするには空気圧を利用する方法が好ましい。さらに貫通孔アレイシート9の下方に容器を配置することで特定の粒子を簡便に高速に特定の容器(例えば、収集容器21)に移送することが可能になる。
【0048】
本実施形態の認識手段はセンサー部17により構成される。具体的に、制御部16は、貫通孔アレイシート9の空孔2の位置を認識するセンサー部17(認識手段(F))から位置情報を受け取り、可動性ホルダー10を介して貫通孔アレイシートの空孔位置を制御する。
本実施形態の液体交換手段として、Z軸方向28に可動させることのできる液体交換装置29を備えている。液体交換装置29にはガラス製のキャピラリー24(外径0.68mm、内径0.20mm)が2本取り付けてあり、送液ポンプ25を介して、一方は供給液容器26に、他方は廃液容器27に接続されている。液体交換を行う場合には、液体交換装置をZ軸方向に移動させて、キャピラリーの先端を貫通孔アレイシート9の液体交換部位に、接触させる。次に送液ポンプ25を駆動して、供給液容器内の液体を供給すると同時に排出させて除く。交換する液体は、電磁バルブ30を切り替えることにより種類を選択することができる。また。複数の貫通孔の液体交換を同時に行うために、液体交換装置に複数のキャピラリーを配置することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
(実施例1)
(保持、観察)
厚さ0.9mmの100mm角のステンレスシートを加工して貫通した空孔2が複数配置されているシート1(貫通した空孔アレイシート)を以下の仕様で作成した。空孔2の形状は、図6に示すように円形の空孔2が等間隔になるように、空孔2の直径(R=1.2mm)と、空孔2間の距離(L=2.25mm)とで2236個の空孔2を最密になるように調整した。対象となる細胞は、ヒト子宮頸癌細胞系HeLa細胞(human cervix adenocarcinoma epithelial adherent ATCC CCL-2)を培養した細胞を用いた。粒子は、ガラスビーズ(ユニチカ社製SPL‐1000、平均粒径1030±30μm、標準偏差25以下、ソーダ石灰ガラス、真比重:2.5、屈折率:1.5)を用いた。
【0051】
直径10cmのシャーレにガラスビーズを敷き詰め、10%ウシ胎児血清含有DMEM培地を12mL加えた。このシャーレにHeLa細胞を播種し、37℃、5%二酸化炭素の条件下に培養しすることによって、ガラスビーズ上にHeLa細胞を付着させた。
Calcein AM水溶液を添加することで生細胞を蛍光染色した。
HeLa細胞が表面に付着されたガラスビーズの懸濁液100ml(20個/ml)を前記シートに上部から静かに注ぎ、接触させた後、前記シートから余剰の液体を除去することで、前記空孔中に存在する液体とともに前記シートの空孔の各々に前記ガラスビーズを保持させた。前記シート上の余剰の液体はシートを傾けて落とし、開口部以外の場所に水滴が残らないようにした。
上記の方法で得られたガラスビーズを配置した前記シートの各開口部(空孔)を実体顕微鏡(ライカ社製、S8AP0)で観察して各空孔内のガラスビーズの保持状態を観察した。図7に示す様に、ガラスビーズが配置されていることを明瞭に観察することができた。また、共焦点顕微鏡(Zeiss社製 Pascal Exciter)を用いてガラスビーズ上のHeLa細胞を観察した。図8に示す様にガラスビーズ上の細胞の形態を明瞭に観察することができた。
【0052】
(実施例2)
(処理・試験 診断装置)
ポリスチレン系粒子径標準粒子(モリテックス社製、4400A、保証平均粒子径1004±20μm、粒子密度1.05g/cm)を1級アミノシランカップリング剤により処理し、アミノ基を導入した。洗浄後、45℃の乾燥器中で乾燥させた。コラーゲン濃度を0.015%に調製したコラーゲン酸性溶液を分注し、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合アルカリ溶液を加えて中和し、一時間放置した。純水により洗浄し、純水を吸引除去し、37℃の乾燥器中で乾燥することにより、コラーゲンコートポリスチレン粒子を調製した。
【0053】
下記3種類のヒト乳癌細胞系を個別に培養(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地中、37℃、5%二酸化炭素)した。それは、SK‐BR‐3(human breast adenocarcinoma epithelial adherent、ATCC HTB-30)と、MDA‐MB‐453(human breast
adenocarcinoma epithelial adherent、ATCC HTB-131) と、BT‐20(1+/0, human breast adenocarcinoma、ATCC
HTB-19)であった。
【0054】
各3種類の細胞の10%ウシ胎児血清含有DMEM懸濁液を、トリプシン−EDTA処理により回収した。各懸濁液をそれぞれ異なる容器で前記コラーゲンコートポリスチレン粒子と混合し、攪拌しながら培養(32rpm、37℃、5%二酸化炭素)した。
図5に示す寸法の液体交換部位を設けたシート(貫通孔アレイシート)を使用し、前記コラーゲンポリスチレン粒子を含む懸濁液を前記シート上へ静かに注ぎ、接触させた後、前記シートから余剰の液体を除去することで、前記空孔中に存在する液体と共に前記シートの各空孔に前記コラーゲンポリスチレン粒子を保持させた。前記シート上の余剰の液体はシートを傾けて落とし、開口部以外の場所に水滴が残らないようにした。この操作を各3種類の細胞に対してそれぞれ別のシートを用いて行った。
【0055】
次に下記試薬を調製し、インクジェット装置のインクタンクに充填した。
(1)1次抗体溶液:ウサギ抗HER2/ErbB2モノクローナル抗体(Cell Signaling Technology社製)を、抗体希釈バッファー(1xTBS、0.1%Tween−20、5%BSA)に、1:1000で希釈して調製した。
(2)ブロッキングバッファー(1xTBS、0.1%Tween−20、5%w/v脱脂粉乳)
(3)2次抗体:HRP標識抗ウサギIgG抗体(Cell Signaling Technology社製)を、抗体希釈バッファー(1xTBS、0.1%Tween−20、5%BSA)に、1:1000で希釈して調製した。
(4)HRPの化学発光基質(ECLシステム、GEヘルスケア社製)
(5)Calcein AM水溶液:1μg/mL水溶液
また洗浄バッファー(1xTBS、0.1%Tween−20)と培養メディウム(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)とを供給液容器26に充填した。
【0056】
(生細胞数パラメータの計測)
Calcein AM水溶液を各細胞系のシリーズに滴下した。培養メディウムに液体交換後、494nmの波長の光を照射し、517nmの蛍光量をCCDカメラにて検出した。
【0057】
(HER2発現量パラメータの計測)
ブロッキングバッファーへの置換、洗浄、1次抗体溶液滴下、洗浄、2次抗体溶液滴下、洗浄、HRPの化学発光基質の滴下操作を順次行い、発光量をCCDカメラにて検出した。前記生細胞数パラメータで規格化したHER2発現量パラメータの値はBT−20<MDA−MB−453<SK−BR−3となり、細胞で発現しているタンパク質(HER2発現量)を評価定量する試験を行うことができた。上記試薬を滴下せずに、培養メディウムのみで保持した粒子に対して、圧縮空気供給装置18から電磁バルブ19を経由してガス噴射ノズル20(移送手段(E))から空気を噴射して、下部に設置された個々の収集容器21に粒子を落下させた。容器には、培養メディウムが入っていて、回収した細胞をさらに増殖させることができた。
【0058】
(実施例3)
(各空孔2に保持された細胞数のばらつき)
実施例2と同様にして、コラーゲンコートポリスチレン粒子に3種類のヒト乳癌細胞(BT−20、MDA−MB−453、及びSK−BR−3)を個別に担持させ培養した。図6に示す2236個の空孔2が最密に形成されたシート(貫通孔アレイシート)に、コラーゲンコートポリスチレン粒子の懸濁液100ml(20個/ml)を上部から静かに注ぎ、接触させた後、余剰の液体を除去することで、貫通孔アレイシートの空孔の各々に細胞担持ビーズを保持させた。
【0059】
実施例2に例示した処理装置でCalcein AM水溶液を細胞に添加した。生細胞数パラメータ(517nmの蛍光量)を各貫通孔について計測し、各貫通孔内に保持された細胞数のばらつきσを次のようにして計算した。
すなわち各貫通孔の蛍光量計測値をfとすると、下記数1で算出した平均蛍光量(ただしnは計測した貫通孔の数であり、n=2236である)を用いて、下記数2で計算した。
【数1】

【数2】

【0060】
(比較例1)
一方比較例として、次の操作によりマルチウェルプレートに細胞を保持した系を調整した。前記トリプシン−EDTA処理により回収した各細胞系の、10%ウシ胎児血清含有DMEM懸濁液を、粒子に細胞を固定することなく1536ウェルプレート(NUNC社製)に各ウェルあたり約2500個の細胞が入るように分注した。各ウェルの液量は10μLであり、250個/μLの細胞懸濁液を10μLずつ分注した。37℃、5%二酸化炭素の条件下培養した後、生細胞数パラメータ(517nmの蛍光量)を各ウェルについて計測し、各ウェル内に保持された細胞数のばらつきσを次のようにして計算した。
すなわち各ウェルの蛍光量計測値をf’とすると、下記数3で算出した平均蛍光量(ただしn=1536である)を用いて、下記数4で計算した。
【数3】

【数4】

【0061】
異なる細胞保持系で計測・計算されたσ及びσを比較すると、BT-20、MDA-MB-453、及びSK-BR-3の全ての細胞株について、σ>σであることがわかった。これはマルチウェルプレートへの細胞保持系では播種の際のばらつきが各ウェルで固定されるのに対して、コラーゲンコートポリスチレン粒子との混合培養系では攪拌工程の際に、各粒子に担持される細胞数のばらつきが減少されるためと推察される。
またマルチウェルプレートを用いる系では各ウェルへの分注作業に時間を要し、この間に細胞の懸濁状態が変化してしまうため、ばらつきが大きくなってしまうものと推察される。すなわち本発明の細胞保持方法によれば、2200個以上のアドレス可能な貫通孔に迅速にばらつき少なく細胞を保持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の方法は、薬剤候補化合物の薬理活性試験、化学物質の毒性試験、バイオプシーにより採取された初代腫瘍細胞に対する抗がん剤選択試験などに用いられることができる。
【符号の説明】
【0063】
1: ベース(基体)
2: 貫通した空孔
3: 粒子
4: 液体
5: 化学物質の着弾位置
6: 粒子保持部位
7、8: 液体交換部位
9: 貫通孔アレイシート
10: 可動性ホルダー
11: X軸方向
12: チャンバー
13: 温湿度制御装置
14: インクジェット装置
15: モニター
16: 制御部
17: センサー部
18: 圧縮空気供給装置
19: 電磁バルブ
20: ガス噴射ノズル
21: 収集容器
22: 照明部
23: CCDカメラ
24: キャピラリー
25: 送液ポンプ
26: 供給液容器
27: 廃液容器
28: Z軸方向
29: 液体交換装置
30: 電磁バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通した空孔が複数配置されているシートを用意するシート用意工程と、
用意された細胞を担持させた粒子の懸濁液体を前記シートに接触させる接触工程とを含む細胞保持方法であり、前記空孔が液体とともに前記粒子の1つのみをその孔内に保持する大きさであることを特徴とする細胞保持方法。
【請求項2】
前記空孔が、対象となる1個の試料を保持可能であり、且つ2個以上の前記試料は保持できない大きさであることを特徴とする請求項1細胞保持方法。
【請求項3】
前記空孔の開口面積が前記粒子の最大断面積の1.05倍から2.63倍の範囲内であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞保持方法。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞保持方法で細胞を保持する保持工程と、
前記細胞に対する試験を行うために前記細胞に物質を投与する投与工程とを含む細胞試験方法。
【請求項5】
貫通した空孔が複数配置されているシートを保持するための保持手段と、
以下の手段(A)から手段(G)の少なくとも1つの手段とを有する細胞処理装置。
(A)前記シートの空孔に細胞を担持させた粒子を配置させるための配置手段、
(B)前記シートの周囲環境を所定の環境に制御ための制御手段、
(C)前記シートの空孔に液滴を付与するための付与手段、
(D)前記シートの空孔に保持された前記粒子の状態を観察するための観察手段、
(E)前記シートの空孔に保持された前記粒子を前記シートから移送するための移送手段、
(F)前記シートの空孔の位置を認識する認識手段、
(G)前記シートの空孔内の液体交換を行うための液体交換手段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−273655(P2010−273655A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131625(P2009−131625)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】