説明

細胞内寄生性微生物に対し新規抑制効果を有するアポトーシス誘導剤

【課題】
本発明は、細胞内寄生性微生物に対して新規な抑制効果を有する薬剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、細胞内寄生性微生物、特にクラミジア属細菌の増殖と再感染に対して抑制効果を持つことを特徴とし、スタウロスポリンを有効成分とする薬剤組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内寄生性微生物の感染症治療に効果のある薬剤組成物に関し、詳しくは、抗クラミジア属細菌の効果を持つことを特徴とし、タンパク質リン酸化酵素Cの阻害剤であるスタウロスポリンを有効成分とする、薬剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クラミジア属細菌(Chlamydiaceae)は、人など真核生物の細胞内でのみ増殖が可能な偏性細胞内寄生性細菌であり、その一種であるクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis、性病クラミジア)が日本において性感染症の第一原因菌となるなど、広く一般に知られるようになってきた。またクラミジア・ニューモニアエ(Chlamydophila pneumoniae、肺炎クラミジア)は、風邪の原因菌であると同時に動脈硬化や虚血性心疾患への関連性が指摘されており、成人の60%以上が感染歴を持つ。クラミジア・シタシ(Chlamydia psittasi)はオウム病の原因菌として肺炎などを起こす事が知られ、更にはクラミジア・フェリス(Chlamydophila felis、猫クラミジア)は猫に感染する一方、人にも感染し結膜炎を引き起こすなど、人畜感染症の例も報告されている。これらの例が示す通り、クラミジア感染症は国民の社会生活に多大な障害、経済的損失を生み出す国民的細菌感染症であり、原因菌であるクラミジアの予防や根本的治療法の確立が急務となっている。
【0003】
クラミジア感染症における特徴的な問題点として、一般的に症状が軽く、重篤な症状にはなりにくいことと、現在用いられている抗生剤で症状が抑制され、完治したかの様に誤解されてしまうことが挙げられる。クラミジア感染症は表面的な症状の軽さに隠れて進行し、長期間の潜伏・持続感染により骨盤内感染症や不妊(性病クラミジア)、肺ガンや動脈硬化(肺炎クラミジア)につながると考えられている。
【0004】
クラミジア感染は、ヒトの持つ感染防御因子であるIFN−γや種々の抗生剤によって、持続感染に陥ることが知られている。この事実はすなわち、クラミジア感染症への対策としては、症状が悪化したときだけの表面的な治療のみでは不十分である事を示している。
【0005】
近年、クラミジアが宿主細胞のアポトーシスを調節しているという報告が、幾つかなされている。クラミジアが増殖している時期においては、薬剤などで誘導される宿主細胞のアポトーシスが抑制されているが、性病クラミジア感染時においては、再感染のため細胞からクラミジアが放出されるときに、宿主細胞のアポトーシスが亢進している。
【0006】
この事実は、クラミジア持続感染の克服、根本的治療には、クラミジアの増殖サイクルの阻害に基づく持続感染の抑制が有効であることを示している。すなわち、クラミジアによって行われる宿主細胞のアポトーシス調節を阻害することで、クラミジアの感染、再生産、再感染のサイクルを阻害できる可能性がある。しかしながらこれまでのところ、クラミジア属細菌に対して直接効果を示す薬剤は知られているが、クラミジア増殖サイクルの阻害による抗クラミジア薬剤は知られていない。
【特許文献1】特願2003−274774 抗クラミジア組成物
【特許文献2】特願2001−231849 抗クラミジア剤
【特許文献3】特願2000−197359 クラミジア感染症処置剤
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み、クラミジア属細菌の増殖サイクルの阻害による抗クラミジア剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、クラミジア属細菌の増殖サイクルを阻害するという観点から種々の物質の抗クラミジア効果を試験し、その中から、微生物由来の抗原物質であり、シグナル伝達系に関与するプロテインキナーゼの阻害剤として知られるスタウロスポリンが、クラミジアの感染と増殖を阻害する事実を見出した。クラミジアに対するスタウロスポリンの効果は、これまでにおいて報告は無く、新規の薬理作用であると考えられた。
【0009】
スタウロスポリン(staurosporine)は、1977年にOmuraらによってStreptomyces staurosporeusから分離された物質で、抗真菌効果や抗高血圧症効果などを持つことがこれまでに知られている(図4)。スタウロスポリンの生物活性は、細胞のシグナル伝達に関与するタンパク質キナーゼC(PKC)の阻害であり、その実態はタンパク質リン酸化酵素のATP結合領域にスタウロスポリンが強力に結合することによってATPの結合ひいては酵素の活性を阻害する。がん細胞が無秩序で爆発的な細胞増殖を示すことから、スタウロスポリンの持つ細胞内シグナル伝達阻害活性は当初抗がん剤としての効果が期待された。スタウロスポリン自体は強力なリン酸化酵素阻害効果、すなわち正常細胞への阻害効果を持つことから、このままでは薬剤として用いることは難しいが、がん細胞への効果に関してはスタウロスポリンや類似化合物の幾つかが抗がん作用を示し、現在このうちの幾つかが抗がん剤として臨床試験にある。
【0010】
抗がん剤に耐性化した乳がん細胞は、細胞死を抑制するbcl−2、NF−kB、PKC、cyclinD1及びEGFRの過剰発現を特徴とする。このうちEGFRを過剰発現する乳がん細胞において、抗乳がん抗有糸分裂薬vinorelbine(リン酸化の阻害によりがん遺伝子であるbcl−2の活性を抑制し、caspase−3/CPP32経路の活性化を促して細胞死を誘導すると考えられている)と、PKCの抑制剤であるスタウロスポリンとの組み合わせによって、G2/M期における細胞周期停止と細胞死に見られるDNAのフラグメンテーションの促進が見られることが明らかになった。これはICEとPKCの阻害に基づき、NF−kBとcyclinD1の発現が抑制されたことによると考えられる。
【0011】
カリフォルニア大学においてフェイズI臨床試験が行われているスタウロスポリン派生化合物であるUCN01は、非小細胞肺がんの増殖阻害を示すが、小細胞肺がんには効果が無いことが示されている。しかしシスプラチン投与後、UCN01とUNCL1の混合投与により、シスプラチン単独で期待される効果の10倍の効果が得られるころが明らかになった。
【0012】
この様にスタウロスポリンは、抗がん剤等として検討が進みつつあるが、クラミジアに対する効果についてはこれまでに報告が無く、本発明の過程で明らかとなった効果は新規の薬理作用であると考えられた。
【特許文献4】特願2001−75357 アポトーシス誘導剤
【特許文献5】特願平8−522483 タンパク質キナーゼ阻害剤を含有する癌細胞における多剤耐性を予防するための化合物
【非特許文献1】Omura S.et al. (1977),J.Antibiotics 30:275.
【非特許文献2】Omura S. et al.J.Antibiotics 48.
【非特許文献3】Traxler P.M. (1997),Exp.Opin.Ther.Patents,7:571.
【非特許文献4】Strawn L.M.&Shawver L.K. (1998),Exp.Opin.Invest.Drugs 7:553.
【非特許文献5】Michailakis E.et al.(2003),Proc.Am.Soc.Clin.Oncol. 22:89.
【非特許文献6】Gumerlock P.(1999) Lung Cancer Conference.
【0013】
すなわち本発明の第1の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を提供する。
【0014】
本発明の第2の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、タンパク質リン酸化酵素の阻害剤であることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0015】
本発明の第3の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、タンパク質リン酸化酵素Cの阻害剤であることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0016】
本発明の第4の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、スタウロスポリン、その塩またはエステル或いはこれらの薬理学上許容可能な誘導体のうち少なくとも1つから選ばれることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0017】
本発明の第5の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、スタウロスポリンであることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0018】
本発明の第6の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、細胞内寄生性病原性細菌であることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0019】
本発明の第7の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア属細菌であることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0020】
本発明の第8の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア属細菌であって、クラミジア・トラコマティス、クラミジア・ニューモニアエ、クラミジア・シタシ、クラミジア・フェリス、クラミジア・キャヴィアエのうち少なくとも1種類から選ばれることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0021】
本発明の第9の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア属細菌であって、クラミジア・トラコマティス、クラミジア・ニューモニアエ、クラミジア・シタシ、クラミジア・フェリス、クラミジア・キャヴィアエのうち少なくとも1種類から選ばれることを特徴とする、第2の態様から第5の態様のいずれか1つに記載の、薬剤組成物を提供する。
【0022】
本発明の第10の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア・ニューモニアエであることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。
【0023】
本発明の第11の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア・ニューモニアエであることを特徴とする、第2の態様から第5の態様のいずれか1つに記載の、薬剤組成物を提供する。
【0024】
本発明の第12の態様は、スタウロスポリン、その塩またはエステル或いはこれらの薬理学上許容可能な誘導体をクラミジア感染細胞に対して作用させることを特徴とする、クラミジア属細菌の感染または増殖に効果のある新規薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、「感染宿主細胞にアポトーシス誘導剤を作用させることによって寄生性微生物を抑制する」という新たな知見に基づいた薬剤の開発が可能となる。また本発明の利用により、細胞内寄生性微生物、好ましくはクラミジア属細菌に効果のある新規薬剤のスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本発明の第1の態様は、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を提供する。本発明でいう細胞内寄生性微生物とは、細胞内寄生する病原性微生物、詳しくは細胞内寄生性かつ病原性の細菌と真菌とウィルスを総称していう。前記細胞内寄生性微生物が感染した宿主細胞に対し、アポトーシスを誘導する物質を作用させることで、細胞内寄生性微生物の増殖や再感染を抑制するというのが本発明の主旨である。
【0027】
本発明の第2から第5の態様においては、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物を提供する。先に述べた通り、本発明はアポトーシス誘導剤を有効成分とし、細胞内寄生性微生物に対して抑制効果のある薬剤組成物を提供するものである。本発明におけるアポトーシス誘導剤とは、好ましくはタンパク質リン酸化酵素の阻害剤であって、より好ましくはタンパク質リン酸化酵素Cの阻害剤であり、具体的な例としてはスタウロスポリン、その塩またはエステル或いはこれらの薬理学上許容可能な誘導体のうち少なくとも1つが開示される。実施例で述べるのはスタウロスポリンの効果であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば化学的に修飾されたスタウロスポリンであって、スタウロスポリンが及ぼす正常細胞への影響を軽減しつつ感染細胞にアポトーシスを誘導する物質も、本発明に含まれるべきものである。スタウロスポリンの濃度などは、対象となる微生物や症状等によって適宜調製すれば良く、本発明をなんら限定するものではないが、例えばクラミジア属細菌に対しては有効濃度が0.4μMから0.8μMの範囲内である様な薬剤組成物が提示される。
【0028】
本発明の第6から第9の態様においては、抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、細胞内寄生性病原性細菌であることを特徴とする、薬剤組成物を提供する。本発明における細胞内寄生性微生物とは、好ましくは細胞内寄生性病原性細菌であって、より好ましくはクラミジア属細菌である。現在知られているクラミジア属細菌はクラミジア・トラコマティス、クラミジア・ニューモニアエ、クラミジア・シタシ、クラミジア・フェリス、クラミジア・キャヴィアエの5種類であり、感染する細胞種や症状に差はあるものの、宿主細胞内に封入体を形成するなど共通点も多く、本発明におけるアポトーシス誘導剤が宿主細胞に作用してクラミジア抑制効果を示すことから、クラミジア種の違いは何ら本発明を限定するものではない。その中でも、クラミジア・ニューモニアエは日本における感染者数がクラミジア属細菌の中で最も多く、本発明の対象としては本種が最も好ましい。
【0029】
本発明の第10及び第11の態様においては、本発明の第2から第5の態様において、対象となる抗細胞内寄生性微生物がクラミジア属細菌、詳しくはクラミジア・トラコマティス、クラミジア・ニューモニアエ、クラミジア・シタシ、クラミジア・フェリス、クラミジア・キャヴィアエのうち少なくとも1種類であって、好ましくはクラミジア・ニューモニアエである薬剤組成物が提供される。本発明の効果は、宿主細胞にアポトーシスを誘導することで細胞内に感染した寄生性微生物を抑制するものであるが、対象生物としてはクラミジア属細菌が好ましく、アポトーシス誘導物質としてはスタウロスポリンまたは化学的に修飾されたスタウロスポリンが好ましい。
【実施例1】
【0030】
本実施例及び図面の簡単な説明において用いられる略称の意味は、次の通りである。IFN−γ;interferon−γ,IFU;inclusion formation unit,FCS;fetal calf serum,MOI,magnification of infection,EB;elementary body,RB;reticulate body,IDO;indoleamine 2,3−dioxigenase,cAMP;adenosine 3’5’−cyclic monophosphate.
【0031】
ヒト咽頭がん由来HEp−2細胞(ATCC CCL−23)をクラミジア感染実験の宿主細胞として、HEp−2培養液(Dulbecco‘s modified Eagle medium,10% heat−inactivated FCS,50μg/ml gentamicin)中において37℃、二酸化炭素濃度5%の条件下で培養した。クラミジア菌株としては、C. pneumoniae J138株(肺炎クラミジア)を用いた。クラミジア感染実験の手順は以下の通りである。2×10(in 0.1ml)HEp−2細胞を96穴プレートに分注し24時間培養する。ここに0.2MOIとなるようにクラミジアEBを加え、22℃,700×g,60分遠心して30分おく。これらの細胞をpost−infection medium(Dulbecco‘s modified Eagle medium,10% heat−inactivated FCS,50μg/ml gentamicin,1μg/ml cycloheximide)に移し、48時間培養する(36℃,5%CO)。クラミジア感染率の測定は以下の方法で行った。感染宿主細胞をメタノールで30分固定し、FITC標識したクラミジア属細菌特異的な抗体を1時間反応させ(37℃)、続いて宿主細胞核をDAPI(0.1μg/ml)で10分染色した。蛍光顕微鏡を用い宿主細胞とクラミジア封入体(直径1.0μm以上)をカウントした。感染率は3回の独立した実験の平均値から算出した。
【実施例2】
【0032】
アポトーシス誘導剤であるスタウロスポリンによるクラミジア封入体の崩壊−HEp−2細胞を用いた試験管内での肺炎クラミジア日本株J138感染・増殖実験において、感染後44時間の時点で0.5μMのスタウロスポリンを添加し、4時間処理を行った後に感染細胞を観察した。スタウロスポリン処理の有無によるクラミジア封入体の様子を比較すると、スタウロスポリン処理を行った細胞ではクラミジア封入体の崩壊が確認された(図1)。対照の細胞においては感染後72時間程度で封入体の崩壊が起こり、感染能力を持ったクラミジアが細胞外に飛散して次の細胞に再感染することから、スタウロスポリン処理によって通常の感染−増殖−再感染過程の一部が阻害されたことが示唆された。
【実施例3】
【0033】
スタウロスポリン濃度に依存したクラミジア封入体の崩壊−前記感染実験におけるスタウロスポリンの効果について、その濃度依存性を検討した。その結果、スタウロスポリンは濃度依存的にクラミジア封入体崩壊を引き起こすことが明らかとなり、0.8μM処理においては約8割の封入体が崩壊を起こしていた(図2)。
【実施例4】
【0034】
スタウロスポリン封入体崩壊による感染性クラミジア生産阻止−0.1MOI(計算上10%の宿主細胞に感染が成立するように調製した系)の感染条件下で、感染後44時間時におけるその後28時間のスタウロスポリン処理細胞と対照細胞をそれぞれ比較し、培地中に放出される感染性クラミジアの量を測定した。感染実験に使用したクラミジア量を基準とし、感染後48時間と72時間時におけるクラミジア量が基準の何倍かを対照とスタウロスポリン処理細胞で比較した。その結果、感染後48時間においては、対照ではクラミジア量が3倍程度であったのに対し、スタウロスポリン処理した細胞では30程度のクラミジアが放出されていた。しかしながら72時間後においてはこの関係は逆転し、対照ではクラミジア量が300倍程度にまで増加しているのに対して、スタウロスポリン処理細胞では10倍程度にまで低下していた(図3)。この結果は、スタウロスポリン処理を行うことによって、処理後4時間で封入体が崩壊しクラミジアが放出されるために見かけ上クラミジア量が増加するが、これらは再感染能力が低いために次の感染と増殖がうまくいかず、結果として72時間後にはクラミジア量が48時間時よりも減少することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、細胞内寄生性微生物の感染した細胞にアポトーシス誘導剤を作用させることによって、これら微生物の増殖と再感染を抑制するという新たな知見に基づき、新規な抗微生物剤として利用可能な薬剤組成物を提供する。本発明を利用することで、細胞内寄生性微生物、特にクラミジア属細菌に対して抑制効果のある新規な薬剤が開発可能となる。また本発明を応用することによって、アポトーシス誘導剤を抗微生物剤としてスクリーニングすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ヒト咽頭がん由来HEp−2細胞に肺炎クラミジア日本株J138を感染させた系において、感染後44時間時にスタウロスポリン(0.5μM)処理を行い、4時間経過後に対照と処理細胞とを比較した。非処理の対照においては封入体が観察されるのに対して、スタウロスポリン処理細胞では封入体が崩壊しているのが観察される(0.5右側)。
【図2】スタウロスポリン処理によるクラミジア封入体の崩壊の濃度依存性を示す。縦軸は全クラミジア封入体に対する崩壊した封入体の割合(%)、横軸はスタウロスポリン濃度を示す。スタウロスポリンは濃度依存的にクラミジア封入体崩壊を誘導し、0.8μMでは8割近くの封入体が崩壊するのが観察された。
【図3】スタウロスポリン処理の感染性クラミジア生産への影響を示す。縦軸は感染に使用したクラミジア量を基準とした相対値(倍)、横軸は時間経過を示す。感染後48時間においては、スタウロスポリン処理の方がクラミジア量が多いが、72時間後では逆転し、対照では300倍程度にまで増加しているのに対してスタウロスポリン処理細胞では減少している。
【図4】スタウロスポリンの化学構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤。
【請求項2】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、タンパク質リン酸化酵素の阻害剤であることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項3】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、タンパク質リン酸化酵素Cの阻害剤であることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項4】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、スタウロスポリン、その塩またはエステル或いはこれらの薬理学上許容可能な誘導体のうち少なくとも1つから選ばれることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項5】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記アポトーシス誘導剤が、スタウロスポリンであることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項6】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、細胞内寄生性病原性細菌であることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項7】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア属細菌であることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項8】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア属細菌であって、クラミジア・トラコマティス、クラミジア・ニューモニアエ、クラミジア・シタシ、クラミジア・フェリス、クラミジア・キャヴィアエのうち少なくとも1種類から選ばれることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項9】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア属細菌であって、クラミジア・トラコマティス、クラミジア・ニューモニアエ、クラミジア・シタシ、クラミジア・フェリス、クラミジア・キャヴィアエのうち少なくとも1種類から選ばれることを特徴とする、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の、薬剤組成物。
【請求項10】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア・ニューモニアエであることを特徴とする、薬剤組成物。
【請求項11】
抗細胞内寄生性微生物薬剤として新規活性を有するアポトーシス誘導剤を有効成分とする、薬剤組成物であって、前記微生物が、クラミジア・ニューモニアエであることを特徴とする、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の、薬剤組成物。
【請求項12】
スタウロスポリン、その塩またはエステル或いはこれらの薬理学上許容可能な誘導体をクラミジア感染細胞に対して作用させることを特徴とする、クラミジア属細菌の感染または増殖に効果のある新規薬剤のスクリーニング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−298858(P2006−298858A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125020(P2005−125020)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】