説明

細胞増殖剤及び細胞の増殖方法

【課題】細胞の本来の性質を維持しつつ、細胞増殖の時期、期間、増殖の程度等を容易にコントロールできる細胞の効率的な増殖方法及びそのための細胞増殖剤を提供する
【解決手段】細胞周期関連タンパク質とポリアミンとの複合体を含む細胞増殖剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を増殖させるための細胞増殖剤及び動物細胞の細胞増殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を効率よく増殖する技術は、再生医療や生理活性物質の生産等の分野において重要な技術であり、種々の研究が行われている。
【0003】
細胞の分裂・増殖は一定の細胞周期に従って厳密に制御されており、通常は組織の損傷などで細胞の再生が必要な場合を除いて細胞分裂しない。
【0004】
細胞周期はG1、S、G2、Mの順で繰り返される四つの期からなり、この細胞周期の進行過程において様々なタンパク質が関与している。例えば、pRBは通常E2Fに結合してE2FによるサイクリンEの発現を制御しているが、リン酸化されるとE2Fから解離して、その結果E2FによってサイクリンEの発現が亢進される。サイクリンEはCDK2と複合体を形成し、細胞周期はG1期からS期に移行する。サイクリンE/CDK2複合体はp27が結合することによりその機能が阻害される。その一方で、p27はサイクリンE/CDK2複合体によりリン酸化されて分解される。S期に移行すると、サイクリンEは分解され、CDK2はサイクリンAと複合体を形成する。このように細胞周期には様々なタンパク質が関与しており、細胞周期の進行過程が制御されている。
【0005】
細胞周期に関与するタンパク質(細胞周期関連タンパク質)を用いて細胞周期をコントロールして細胞増殖を促進する試みがなされている。
【0006】
細胞の増殖を促進する方法としては:
(1)増殖因子を用いて細胞の増殖を刺激する方法
(2)細胞周期関連タンパク質をコードする遺伝子を組み込み、細胞内部に細胞周期関連タンパク質を発現させて細胞の増殖を刺激する方法
(3)細胞周期関連タンパク質を細胞内に導入して細胞の増殖を刺激する方法
が挙げられる。
【0007】
(1)の方法は増殖作用の選択性が低いという問題がある。また、(2)の方法では細胞内での細胞周期関連タンパク質の産生量を調節することが困難であり、さらには遺伝子が組み込まれるためそれ以降の世代にも半永久的に受け継がれるという問題がある。
【0008】
(3)の方法は細胞に導入する細胞周期関連タンパク質の量を容易に制御できるという利点がある。近年では、細胞周期関連タンパク質をTATペプチドに結合させた複合体を用いて該タンパク質を細胞内に導入する方法が報告されている(例えば、J. Biol. Chem., 276, 23572-23580(2001)、J. Biol. Chem., 276, 22742-22747(2001)、Mol. Cell. Biol., 21, 4773-4784(2001)、Mol. Cancer Ther., 1, 1043-1049(2002)、Int. Immunol., 14, 905-916(2002))。
【0009】
しかしながら、TATペプチドを用いる方法では、細胞内への導入効率が低かったり、TATと細胞周期関連タンパク質との結合が切れにくく、そのため細胞周期関連タンパク質の本来の機能が十分に発揮されずに増殖効率が低い等の問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開2004−049214号公報
【非特許文献1】二見等、第27回日本分子生物学会年会プログラム(2004),p.895
【非特許文献2】J. Biol. Chem., 276, 23572-23580(2001)
【非特許文献3】J. Biol. Chem., 276, 22742-22747(2001)
【非特許文献4】Mol. Cell. Biol., 21, 4773-4784(2001)
【非特許文献5】Mol. Cancer Ther., 1, 1043-1049(2002)
【非特許文献6】Int. Immunol., 14, 905-916(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、細胞の本来の性質を維持しつつ、細胞増殖の時期、期間、増殖の程度等を容易にコントロールできる細胞の効率的な増殖方法及びそのための細胞増殖剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明者らは鋭意検討した結果、カチオン化重合体と細胞周期関連タンパク質との複合体を用いると、細胞周期関連タンパク質が細胞内に効率的に導入され、また細胞増殖をきわめて容易にコントロールできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)細胞周期関連タンパク質とポリアミンとの複合体を含む細胞増殖剤。
(2)前記ポリアミンがポリエチレンイミンである前記(1)記載の細胞増殖剤。
(3)前記細胞周期関連タンパク質がSVLT由来タンパク質である前記(1)又は(2)記載の細胞増殖剤。
(4)細胞周期関連タンパク質がジスルフィド結合を介してビオチン化されており、且つ前記ポリアミンがアビジン化されている前記(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞増殖剤。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞増殖剤を細胞に接触させて培養することを含む細胞の増殖方法。
(6)培養が、血清濃度が20vol%以下の培地で行われることを特徴とする前記(5)記載の方法。
(7)ジスルフィド結合を介してビオチン化されたSVLT由来タンパク質とアビジン化されたポリエチレンイミンとの複合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、細胞を正常な状態に維持したまま細胞内に細胞周期関連タンパク質を導入して細胞の増殖を制御できる。さらに、本発明の方法は、導入するタンパク質の量及び期間等をコントロールすることにより、細胞増殖の程度及び期間を容易に制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書でいう「細胞周期関連タンパク質」とは、G1、S、G2、Mの順で繰り返される細胞周期の進行機構に関与し、細胞周期の進行を促進する全てのタンパク質をいう。そのようなタンパク質としては、これらに限定されるものではないが、例えば、SV 40 large T抗原(SVLT)、E2F、サイクリンC−CDK3、サイクリンD−CDK4/6、サイクリンE−CDK2、Skp2、Cks1、KPC1、KPC2、c−Myc、LMP−1等又はその一部分が挙げられる。これらの細胞周期関連タンパク質が細胞周期にどのように関与しているかを以下に具体例を挙げて示す。
【0016】
サイクリンDはG1期において増殖を亢進するシグナルにより遺伝子発現が誘導され、CDK4又は6と結合し、これらキナーゼを活性化し、pRbをリン酸化する。また、CKI(CDKインヒビター)のうち、Cip/Kipタンパク群をサイクリンD−CDK4/6複合体に集中させ、サイクリンE−CDK2が活性化される。
【0017】
p27のmRNA量は細胞周期を通じてほぼ一定であるのに対し、タンパク質の発現量は大きく変動する。この変動は主に細胞周期依存的な分解機構により制御されている。p27はサイクリンE−CDK2によってC末端付近のT187がリン酸化される。S−G2期においては、Cks1がSkp2に結合することにより、T187リン酸化型p27とSkp2との結合能力が高まり、その結果p27がユビキチン化され、プロテアソームにより分解される。一方、G0−G1期においては、KPC1−KPC2複合体がユビキチン化して分解する。
【0018】
p16はCDKインヒビターの1つであり、サイクリンDキナーゼであるCDK4及びCDK6とのみ結合する。p16遺伝子は悪性黒色腫やすい臓がん、食道がん、グリオーマ等の多くのヒト原発腫瘍で変異が見つかっており、ヒトのがんの約40−50%で失活していることが知られている。MAPKにより活性化される転写因子であるEts1及びEts2がp16遺伝子の発現誘導に関与している。
【0019】
c−Mycはヒトの多くのがんに関連し、その変異や増幅が報告されているがん遺伝子産物である。
【0020】
LMP1は悪性リンパ腫、鼻咽頭がんや胃がん等を引き起こすことが知られているEBV(Epstein−Barr virus)のがんタンパク質であり、核外輸送受容体であるCRM1依存的にEts2の核外移行が起こって失活し、p16遺伝子の発現を低下させる。
【0021】
細胞周期関連タンパク質は、糖鎖、脂質、及び/又はリン酸基が結合した複合タンパク質をも含む意味であり、そのタンパク質の構造は天然状態であっても変性状態であってもよい。
【0022】
本発明では上記細胞周期関連タンパク質をポリアミンとの複合体として用いる。ポリアミンとは複数(2個以上)のアミノ基を有する化合物であり、例えば、ポリアルキレンポリアミン、アルキレンジアミン、アルキレントリアミン等が挙げられる。
【0023】
ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、下記一般式(I):
【0024】
【化1】

(式中、R1、R2、及びR3はアルキレン基を表し、X及びYはそれぞれ0以上の整数であり、X+Y≧1である。)
で表されるポリアルキレンイミンが挙げられ、直鎖状及び枝分かれ状のどちらであってもよい。
【0025】
前記ポリアルキレンイミンは、式(I)中のR1、R2、及びR3が互いに同一でも異なっていてもよい炭素原子数2〜4のアルキレン基であるポリアルキレンイミンが好ましく、さらには式(I)中のR1、R2、及びR3が炭素原子数2のエチレン基であるポリエチレンイミンがより好ましい。
【0026】
本発明で好ましく用いられるポリエチレンイミン(以下、「PEI」ともいう)は下記式で表される。
【0027】
【化2】

(式中、X及びYはそれぞれ1以上の整数である。)
【0028】
PEIは大きな正の電荷密度を有する水溶性ポリマーである。PEIはかまぼこの沈殿剤等の食品添加物としても利用されており生体に対する安全性が高いことが確認されている。
【0029】
本発明では、直鎖状のPEIでも分岐鎖を多数有する枝分かれ構造のPEIでも用いることができるが、下記式:
【0030】
【化3】

で例示されるような枝分かれ構造を有するPEIが、より高い正電荷密度を有するので好ましい。また、分子量は細胞導入効率、取扱い性等を考慮すると、数平均分子量が100〜100,000の範囲のPEIが好ましく、100〜10,000のPEIがより好ましく、200〜3,000の低分子量のPEIが特に好ましい。
【0031】
また、アルキレンジアミンとしては、例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
本発明の複合体の製造方法について述べる。
本発明の複合体は細胞周期関連タンパク質とポリアミンとが結合したものである。ここでいう「結合」の形態は特に限定されるものではなく、共有結合、水素結合による結合の他、静電的相互作用や疎水的相互作用のような弱い相互作用によるものであってもよい。細胞周期関連タンパク質とポリアミンとはそれらの間に何も介さずに直接的に結合していてもよいし、又は公知の2価性架橋試薬等を用いて、間にスペーサー等を介して結合していてもよい。
【0033】
あるいは、細胞周期関連タンパク質及びポリアミンをそれぞれビオチン化及びアビジン化し、ビオチンとアビジンとの特異的な相互作用を介して細胞周期関連タンパク質とポリアミンとを複合体化してもよい。この方法は汎用性が高く、任意の細胞周期関連タンパク質に応用できるため好ましい。
【0034】
細胞周期関連タンパク質は細胞内に導入された際にその本来の機能を十分に発揮できるように、細胞周期関連タンパク質は細胞内で複合体から切り離されるように設計されていることが好ましい。例えば、細胞周期関連タンパク質をジスルフィド結合により複合体に結合しておくと、ジスルフィド結合は細胞内の還元的条件により切断されて細胞周期関連タンパク質が遊離し、細胞周期関連タンパク質が有する本来の機能を十分に発揮することができる。
【0035】
細胞周期関連タンパク質とポリアミン又はビオチンとの間にジスルフィド結合を形成させるには、例えば、SPDP(N-スクシニミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)等の試薬を用いて、細胞周期関連タンパク質中のシステイン残基のチオール基とポリアミン又はビオチンのアミノ基との間にジスルフィド結合を形成させるとよい。SPDPとPEIを用いた場合の例を下記に模式的に示す。
【0036】
【化4】

【0037】
その他に、細胞周期関連タンパク質とポリアミンとを化学結合により結合する方法としては、例えば、EDCを用いる方法、2-イミノチオラン等を用いてタンパク質分子中のリジン残基又はN末端のアミノ基とPEIのアミノ基とを結合させる方法、GMBS(N-(4-マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミド)等を用いて、タンパク質分子中のシステイン残基のチオール基とポリアミンのアミノ基との間にチオエーテル結合を含む共有結合を形成させる方法等が挙げられる。
【0038】
ここで挙げた結合方法以外にも、エーテル結合、エステル結合、イミド結合、炭素−炭素結合等による結合が挙げられ、文献(例えば、株式会社 東京化学同人「タンパク質IV 構造機能相関」社団法人 日本生化学会 編、第1版1991年3月20日 発行)等を参照することにより、様々な結合方法を採用することができる。
【0039】
また、本発明で用いられる複合体を、必要に応じて標識してもよい。標識方法としては公知の方法であれば特に限定されないが、蛍光標識、オートラジオグラフィ、高電子密度物質、色素不溶化酵素であることが好ましい。特に好ましい形態は、蛍光標識化合物を共有結合により複合体を標識することである。蛍光標識に用いる蛍光物質としては、特に限定されないが、例えばピレン、アントラニロイル基、ダンシル基、フルオレセイン、ローダミン、ニトロベンゾキサジアゾール基等の蛍光団を有する化合物が挙げられる。上記の蛍光団を有する化合物は公知であり(例えば、平塚寿章、「タンパク質 核酸 酵素」、Vol.42,No.7(1997)等参照)、常法によりタンパク質分子又はペプチド等に導入することができる。
【0040】
本発明で増殖の対象とすることができる細胞は特に限られるものではなく植物及び動物のいずれのものでも用いることができる。人の細胞にも適用することが可能であり、例えば、損傷を受けた皮膚、肝臓等の各種の臓器、器官、組織の細胞に本発明の方法を適用して細胞を増殖させることにより臓器、器官、組織等を再生させる等の再生医療分野への応用が好ましい。本発明の方法が適用できる細胞の具体例としては、例えば、肝細胞(肝実質細胞)、造血幹細胞、皮膚細胞(ケラチノサイト)、神経細胞、心筋細胞、軟骨細胞及び角膜細胞等の細胞を挙げることができる。
【0041】
次に、本発明の複合体を用いて細胞内に細胞周期関連タンパク質を導入して、細胞を増殖させる方法について説明するが、本発明の方法はこれに限定されるものではない。
【0042】
細胞周期関連タンパク質を導入しようとする細胞を含む培地中に、本発明の複合体を添加する。本発明方法の培養には通常培養に用いられる容器又は装置が用いられる。例えば、マルチウエルプレート、培養フラスコ、スピナーフラスコ、ジャーファーメンター、ファーメンターなどを用いることができる。
【0043】
増殖用培地としては特に限定されるものではなく、公知の培地(例えば、DMEM、MEM、BME、DME、IMDM、L-15培地等)を使用することができる。増殖用培地には、慣用の他の培地成分を添加配合してもよい。例えば、アミノ酸類、ビタミン類、血清、微量元素等の1又は2種以上を適宜追加配合してもよい。培養は無血清培地中又は低血清培地中(例えば、培地と血清との総容量について血清濃度の上限が20vol%以下、好ましくは10vol%以下、さらに好ましくは5vol%以下、最も好ましくは1vol%以下)で行うことが好ましい。この範囲で培養を行うことにより細胞増殖効果を向上させることができる。
【0044】
培養は用いられる細胞の培養に適した条件が採用される。一般的には、培養温度約37℃前後で、pH約6.5〜7.5で、数日〜3か月程度培養される。
【0045】
細胞の増殖の程度は、添加する複合体の量、濃度、添加時間等を変化させることにより容易に制御できる。なお、本発明の複合体は、該複合体が有する正電荷と細胞表面の負電荷との静電相互作用に起因する機構により細胞内へ取り込まれるものと推測され、このため、培地中で細胞に複合体を取り込ませる場合には、ヘパリン、核酸等のアニオン性ポリマーが共存しない条件下で行うことが好ましい。また、培養による細胞増殖だけでなく、本発明の複合体を含む溶液を、患部への注射、皮膚への塗布等の局所投与により直接生体に接種して、生体内の細胞に直接複合体を取り込ませることもできる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施形態について具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
実施例1:SVLT-NLSとPEIとの複合体による細胞増殖
本実施例では、細胞周期関連タンパク質としてジスルフィド結合を介してビオチン化したSVLTのN末端領域(1-132残基:「SVLT-NLS」と呼ぶ)を用いた。SVLT(SV40 large T 抗原)は、パポーバウイルス科ポリオーマウイルス属に属するDNAウイルスの一群simian virus 40(SV40)が感染初期に合成する2種類のT抗原のうちの1つであり、ウイルスのゲノムDNAの複製に必須な腫瘍性タンパク質である。SV40による悪性の形質転換には、SVLTによるがん抑制タンパク質であるp53やpRBファミリー(pRB、p107、p130等)との相互作用が関与しているといわれている。pRBはSVLTが存在するとE2Fに結合することができなくなり、それにより細胞周期がS期に移行する。
【0048】
一方、ポリアミンとして分子量600のPEI(PEI600)を採用し、これにアビジンを結合させたものを用いた。
【0049】
増殖させる細胞としてbalb/c 3T3 A31Hマウス胎仔繊維芽細胞を用いた。細胞はコンフルエントにして接触阻害がかかった状態で用いた(細胞周期がG1期で停止し、増殖も停止している)。
【0050】
培養は以下のようにして行った。
balb/c 3T3細胞(マウス胎仔繊維芽細胞)を10%FBS(牛胎仔血清)含有DMEM培地を用いて4×104cells/500μl/ウェルの密度となるように調整し、12ウェルプレートに播いた。5%CO2存在下、37℃で48時間培養してコンフルエントにした。この状態において細胞は接触阻害により増殖を停止した状態となる。500μlの新しい10%FBS含有DMEM培地で培地交換し、別途調製したPEI化アビジン(200nM)及びビオチン化SVLT-NLS(100nM)の混合物を培養液中に添加した。5%CO2存在下、37℃で72時間培養後、BrdUを10μMの濃度となるように培養液中に添加した。
【0051】
上記のようにしてSVLT-NLSを細胞内に導入して細胞を観察した、その結果、p27の分解及びサイクリンAの蓄積が確認された。また、BrdU(ブロモデオキシウリジン)及びDAPIによる細胞増殖アッセイにより、コンフルエントな状態にも拘らず細胞が大幅に増殖(増殖率33%)していることが確認された。なお、増殖率(%)=(BrdU取り込み細胞数)/(DAPI染色核数)である。SVLT-NLS発現プラスミドDNAを用いる遺伝子導入法(増殖率12%)と比較すると本発明の細胞増殖剤が細胞の効率的な増殖に極めて有用であることが確認された(図1)。
【0052】
実施例2:SVLT-NLSとPEIとの複合体による細胞増殖
balb/c 3T3細胞(マウス胎仔繊維芽細胞)を10%FBS(牛胎仔血清)含有DMEM培地を用いて4×104cells/500μl/ウェルの密度となるように調整し、12ウェルプレートに播いた。5%CO2存在下、37℃で48時間培養してコンフルエントにした。この状態において細胞は接触阻害により増殖を停止した状態となる。次に培養上清を500μlの新しいDMEM培地(FBSを含まない)で培地交換し、別途調製したPEI化アビジン(200nM)及びビオチン化SVLT-NLS(100nM)の混合物を培養液中に添加した。5%CO2存在下、37℃で72時間培養後、BrdUを10μMの濃度となるように培養液中に添加した。BrdUによる細胞増殖アッセイにより、コンフルエントな状態にも拘らず細胞が大幅に増殖(増殖率33%)していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の細胞増殖剤及び細胞増殖方法は医療分野において非常に有用な技術であり、例えば、細胞としてヒトの皮膚や臓器の細胞を用いた場合、本発明の方法により細胞を増殖させて人工皮膚や人工臓器として利用することも可能であり、再生医療分野への応用が期待される。また、有用な生理活性物質を生産する細胞を用いて本発明の方法により増殖させ、生産活性物質を効率良く生産することができ、本発明の方法は製薬、食品分野にも広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】細胞の増殖の程度をBrdU及びDAPIを用いて観察した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞周期関連タンパク質とポリアミンとの複合体を含む細胞増殖剤。
【請求項2】
前記ポリアミンがポリエチレンイミンである請求項1記載の細胞増殖剤。
【請求項3】
前記細胞周期関連タンパク質がSVLT由来タンパク質である請求項1又は2記載の細胞増殖剤。
【請求項4】
細胞周期関連タンパク質がジスルフィド結合を介してビオチン化されており、且つ前記ポリアミンがアビジン化されている請求項1〜3のいずれか1項記載の細胞増殖剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の細胞増殖剤を細胞に接触させて培養することを含む細胞の増殖方法。
【請求項6】
培養が、血清濃度が20vol%以下の培地で行われることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
ジスルフィド結合を介してビオチン化されたSVLT由来タンパク質とアビジン化されたポリエチレンイミンとの複合体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−159429(P2007−159429A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356631(P2005−356631)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「細胞内ネットワークのダイナミズム解析技術開発/複数種生体分子の細胞内識別技術の開発、細胞内の複数種生体分子同時解析技術の開発、総合調査研究」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】