説明

細胞増殖抑制剤

【課題】細胞増殖抑制作用をもつ遺伝子を見出し、新たながんの治療の手段を提供する。
【解決手段】Mx1遺伝子のオープンリーディンクフレームを形成するポリペプチドを含む細胞増殖抑制剤、およびがん治療のための遺伝子治療用組成物。Mx1遺伝子の発現に影響する物質を選択することにより、細胞増殖抑制またはがん治療剤をスクリーニングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の遺伝子を含む細胞増殖抑制剤、およびがん治療のための遺伝子治療用組成物、細胞増殖抑制に関与するタンパク質、並びに細胞増殖抑制剤またはがん治療剤をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの発生や進行には種々の遺伝子が関与しており、がん遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の不活性化の蓄積により細胞の腫瘍化、がん化へつながると考えられている。がん抑制遺伝子としてはこれまで、p53、RB、NF1、NF2、APC、WT1、MEN1、BRCA1などが見出されている。このようながん抑制遺伝子は、がんの診断、治療などに有用であり、具体的にはp53によるがんの遺伝子治療も試みられている。従って、新たながん抑制遺伝子の発見ががんの診断や治療への有効な手段を提供する可能性がある。がん抑制遺伝子の遺伝子産物には、細胞周期、シグナル伝達、転写、細胞接着、突然変異修復などにかかわるタンパク質が知られており、これらの遺伝子の不活性化や異常により細胞増殖を抑制できなくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、細胞増殖の抑制に関与する遺伝子を新たに見出し、これを利用して新規ながんの診断や治療の手段の開発を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の細胞増殖抑制作用を調べる過程において、細胞増殖抑制に関連する遺伝子を見出し、これが、従来インフルエンザ耐性を付与する遺伝子として知られていたMx1遺伝子であることを確認した。この遺伝子が細胞増殖抑制の機能を有することは全く予想されておらず、本発明者により初めて明らかにされた知見である。本発明によれば、この遺伝子の細胞増殖抑制機能を利用して細胞増殖抑制剤およびがん治療のための遺伝子治療用組成物を提供することができる。また、被検物質をMx1遺伝子を発現する細胞に接触させ、Mx1遺伝子の発現に影響する物質を選択することにより、細胞増殖抑制剤またはがん治療剤をスクリーニングして、細胞増殖抑制剤やがん治療剤の開発を行うことができる。
【0005】
さらに、本発明者は、マウスのMx1遺伝子において特定の部分に欠損があり、インフルエンザ耐性の機能を消失した遺伝子においても、細胞増殖調節に対する機能が失われていないことも見出した。従って、この欠損部分を有するMx1遺伝子がコードするタンパク質の検討によって細胞増殖調節の機構を解明する手段を提供することができる。
【0006】
即ち、本発明は、(1) Mx1遺伝子のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチドを含む細胞増殖抑制剤、(2) Mx1遺伝子のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチドを含む、がん治療のための遺伝子治療用組成物、(3) Mx1遺伝子のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチドを、細胞増殖抑制剤の製造に使用する方法、(4) 被検物質をMx1遺伝子を発現する細胞に接触させ、Mx1遺伝子の発現に影響する物質を選択することにより、細胞増殖抑制剤またはがん治療剤をスクリーニングする方法、(5) 配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、細胞増殖の抑制に関与する遺伝子を新たに提供することができる。この遺伝子の細胞増殖調節の機構を利用して、新規ながんの診断や治療の手段の開発が可能になる。また、この遺伝子の発現に影響する物質を選択することにより、細胞増殖抑制剤やがん治療薬の開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(A)Mx1遺伝子の細胞増殖抑制作用
Mx1遺伝子の細胞増殖抑制作用は以下のようにして確認された。
(1) 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の細胞増殖抑制作用
まず、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の細胞増殖抑制作用について、下垂体性腺刺激ホルモン産生細胞(ゴナドトロフ)の株化細胞であるLβT2細胞を用いて検討した。LβT2細胞は、がん抑制遺伝子であるp53を抑制するSV40のT抗原を過剰発現するようにしたトランスジェニックマウスの下垂体から樹立された細胞であり、がん化した細胞である。
【0009】
性腺刺激ホルモン放出ホルモンは、視床下部から分泌されるアミノ酸10個からなるペプチドホルモンであり、生殖を調節する神経ホルモンとして知られる。このホルモンの細胞増殖に対する抑制作用は、前立腺腫瘍、卵巣がん、子宮内膜症などの細胞で示されており、前立腺腫瘍の治療において実際に使用されている。但し、その機構としては、GnRHの過剰量が性腺刺激ホルモン、ひいては男性ホルモンの分泌を抑制することにより前立腺腫瘍の進行を止めていると解されている。
【0010】
これに対し、本発明者はGnRH作動薬(GnRHa)が用量依存的にLβT2細胞数を減少させることを確かめ、GnRHが直接細胞増殖を抑制していることを見出した。さらにGnRHの標準的拮抗阻害薬(セトロレリックスおよびアンタイド)もLβT2細胞数を減少させることが判明し、GnRHaと拮抗薬が同じ細胞内の機序を動かすことによって細胞増殖を抑制していることを示した。(2) GnRHaの投与およびGnRH拮抗薬(セトロレリックス)の投与により共通して変動する遺伝子
DNAマイクロアレイ解析により、GnRHaの投与により変動する遺伝子と、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)の投与により変動する遺伝子を網羅的に調べ、共通して変動した27個の遺伝子を見出した。この中に増殖関連遺伝子があると考えられ、特に変動幅の大きい2つの遺伝子に注目した。これらはアデニルシクラーゼ2およびチトクロームp450 2c37というリポキシゲナーゼ活性をもつ酵素の遺伝子である。これらの酵素の産物、cAMPと12HETEの細胞増殖に対する影響を調べると、cAMPについてはGnRHaの細胞増殖抑制作用に完全に拮抗した。さらにcAMPは、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)の細胞増殖抑制作用にも完全に拮抗した。従って、GnRHaも拮抗薬も共にcAMP産生を抑えることにより細胞増殖を抑制することが明らかとなった。
【0011】
cAMPはリン酸化酵素であるプロテインキナーゼA(PKA)を活性化することが知られているので、細胞増殖が抑制されるときにはPKA活性の抑制が起こっている可能性がある。そこで、PKA活性の抑制剤であるH89を用いて細胞増殖に対する効果を調べた。その結果、アデニルシクラーゼ2の抑制に引き続いてPKA活性が抑制されることがシグナルとなって細胞増殖を抑制していることが判明した。
(3) GnRHa、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)、PKA活性抑制剤(H89)で共通して変動する遺伝子
DNAマイクロアレイ解析により、GnRHa、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)、PKA活性抑制剤(H89)で共通して変動する遺伝子を調べた結果、4つの遺伝子(遺伝子A〜D)が見出された。
【0012】
リアルタイムPCR法により、GnRHa投与後の4つの遺伝子の経時的変化を調べると、いずれの遺伝子もGnRHa投与後かなり早期に一過性に発現が増加していることが明らかになった。
(4) GnRHaの細胞増殖抑制作用に対する各遺伝子ノックダウンの影響
各遺伝子の働きをRNA干渉法により抑制した。具体的には、各遺伝子の働きを抑制するsiRNA分子を細胞内に導入後、GnRHaを投与した。その結果、遺伝子Aを抑制した場合にのみ細胞増殖抑制効果が観察されなくなった。これは、遺伝子Aが細胞増殖抑制に関与していることを示す。
【0013】
遺伝子Aは、後述するように、インフルエンザウイルス抵抗性遺伝子として知られているMx1と称される遺伝子である。
さらに、H89によってPKAを抑制すると、Mx1遺伝子の発現が促進されることを確認した。また、GnRHaによるMx1発現の増加に他の遺伝子産物が必要かどうかを調べた。その結果、Mx1はGnRHによって他のタンパク質合成なしに誘導される遺伝子(イミディエート・アーリー)であることが判明した。また、GnRHa投与5分後のMx1遺伝子の発現率を調べ、Mx1遺伝子が早期に変動することを確認した。
(5) 遺伝子A
遺伝子Aは、インフルエンザ耐性を付与するとして知られているMx1と称される遺伝子である。また、インターフェロンにより誘導されることが知られている。この遺伝子が細胞増殖抑制作用を有することは本発明において初めて明らかになった。従って、この遺伝子を細胞増殖抑制剤やがん治療剤として利用することが可能になった。
【0014】
ヒトMx1のcDNAの塩基配列は配列番号1に示される(GenBank、NM_002462)。
また、本発明で用いるマウスMx1のcDNAの塩基配列は配列番号2(GenBank、M21039)に示す通りである。一般の実験動物として使用されているマウスのほとんどは、Mx1遺伝子に欠損があり、本発明において使用したマウス由来細胞でもMx1遺伝子に欠損があり、NM_010846として登録されているマウスMx1遺伝子の塩基配列のうち1121〜1544位が欠損したものである。このような欠損遺伝子をもった実験動物のマウスではインフルエンザを感染させると死亡する、即ち欠損Mx1遺伝子はインフルエンザ耐性を失なっている。しかし、インフルエンザ耐性に対しては機能を失っているこの欠損Mx1遺伝子も、細胞増殖調節に対する機能は失っていないことが本発明において明らかになった。
【0015】
このように、Mx1遺伝子はインフルエンザ耐性以外の機能、即ち細胞増殖抑制の機能を有し、それはインフルエンザ耐性を失ったマウスの欠損Mx1遺伝子でも保持されている。
【0016】
マウスの欠損Mx1遺伝子により発現されるタンパク質は、市販のヒトMx1蛋白質のN末端側配列に特異的なポリクローナル抗体を用いて、ウエスタンブロット法により確認された。
(B)細胞増殖抑制剤、がん治療のための遺伝子治療用組成物
Mx1遺伝子のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチド、例えば配列番号1で示される塩基配列のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチドは、その細胞増殖抑制機能により細胞増殖抑制剤またはがん治療のための遺伝子治療用組成物として使用できる。例えば、このポリヌクレオチドを適宜発現ベクターに組み込み、遺伝子治療用組成物を調製し、このポリヌクレオチドがコードするMx1タンパク質を標的細胞内で発現させるように、対象患者に投与する。投与方法としては、患者から取り出した細胞に目的の遺伝子を導入し、それを患者の体内に戻すex vivo 遺伝子治療や、患者に遺伝子を直接投与するin vivo 遺伝子治療が使用できる。ベクターとしてはアデノウイルスベクターが好ましく使用できる。
(C)スクリーニング方法
被検物質をMx1遺伝子を発現する細胞に接触させ、Mx1遺伝子の発現率を調べることによりMx1遺伝子の発現に影響する物質を選択することができ、これを細胞増殖抑制剤やがん治療剤のスクリーニングに利用できる。
【0017】
以下の実施例において本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0018】
細胞増殖抑制作用をもつ遺伝子の同定
(1) 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の細胞増殖抑制作用の検討
継代維持しているLβT2細胞を用いて、GnRH作動薬(GnRHa)の影響を調べた。GnRH作動薬を用量を変えて(0〜10-7M)細胞培養液に加え、24時間培養した。24時間GnRHaを投与し続けた場合を図1aに、最初の30分投与し、その後23時間30分培養を続けた場合を図1bに示す。細胞数は、実験終了後に細胞を酵素で分離し、顕微鏡下で細胞を数えることにより計測した。GnRHaは用量依存的に24時間後の細胞数を減少させた(24時間で観察されるべき増殖を抑制した)。
(2) GnRH拮抗阻害薬の細胞増殖抑制作用
上記(1) で観察されたGnRHaの効果がGnRH受容体を介していることを確認するために、標準的に用いられるGnRH拮抗阻害薬であるセトロレリックスおよびアンタイドを用いて、LβT2細胞での細胞増殖抑制効果を調べた。意外にもGnRHaとの併用の場合、GnRHaに拮抗しないばかりか、拮抗薬単独でも細胞数の減少が見られた。結果を図2に示す。図2aは96時間試薬を入れ続けた場合、図2bは最初の30分のみ作用させて96時間後の細胞数を計測した場合である。
【0019】
この結果より、細胞増殖に関しては拮抗阻害薬が作動薬として働くことが明らかである。
さらに、拮抗阻害薬の効果を経時的に観察した結果を図3に示す。LβT2細胞培養液に試薬を96時間添加し続けた場合の細胞数の経時的変化を図3aに、最初の30分のみ試薬を作用させた場合の経時的変化を図3bに示す。拮抗薬(セトロレリックス)はGnRHaと同様に細胞増殖を抑制することが判明した。上記の実験と同様、最初の30分で効果が決まることが再確認され、また、一度増えた細胞が減るのではなく、増殖が抑えられていることも分かる。
【0020】
以上の結果は、GnRHaと拮抗薬が、同じ細胞内の機序を動かすことにより細胞増殖を抑制していることを示す。
(3) GnRHaおよび拮抗薬(セトロレリックス)の投与により共通して変動する遺伝子の検討
DNAマイクロアレイ法解析により、GnRHa投与によって変動する遺伝子と、拮抗薬(セトロレリックス)の投与によって変動する遺伝子を調べ、共通して変動した27個の遺伝子を見出した(図4)。その中で特に変動幅の大きい遺伝子は、アデニルシクラーゼ2およびチトクロームp450 2c37というリポキシゲナーゼ活性をもつ酵素の遺伝子である。これらの酵素の産物、cAMPと12HETEについてLβT2細胞を用いて増殖に対する影響を調べた結果、12HETEではGnRHaの細胞増殖抑制作用に拮抗しなかった。cAMPについてはGnRHaの細胞増殖抑制作用に完全に拮抗した(図5)。図5aは、試薬を96時間添加し続けた場合の細胞数の経時的変化を、図5bは、最初の30分のみ試薬を作用させた場合の経時的変化を示す。cAMPはジブチリルcAMP(dbcAMP)として投与した。結果より、dbcAMPはGnRHaの細胞増殖抑制作用に完全に拮抗することが分かる。
【0021】
また、cAMPは、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)の細胞増殖抑制作用にも完全に拮抗した(図6)。従って、GnRHaも拮抗薬も共にcAMP産生を抑えることにより細胞増殖を抑制することが明らかとなった。
【0022】
cAMPはリン酸化酵素であるプロテインキナーゼA(PKA)を活性化することが知られているので、細胞増殖が抑制されるときにはPKA活性の抑制が起こっている可能性がある。そこで、PKA活性の抑制剤であるH89を用いて細胞増殖に対する効果を確認した。図7にPKA抑制薬のH89の細胞増殖抑制効果を示す。用量反応的に細胞数を減少させた。即ち、アデニルシクラーゼ2の抑制に引き続いてPKA活性が抑制されることがシグナルとなって細胞増殖を抑制していることが判明した。
(3) GnRHa、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)、PKA活性抑制剤(H89)で共通して変動する遺伝子の検討
DNAマイクロアレイ解析により、GnRHa、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)、PKA活性抑制剤(H89)で共通して変動する遺伝子を調べた。投与3時間後にRNAを回収してDNAマイクロアレイにより変動する遺伝子を調べるという方法によった。H89の投与による遺伝子発現を調べ、GnRHa、GnRH拮抗薬(セトロレリックス)で変動した遺伝子と比較した結果、4つの遺伝子(遺伝子A〜D)が見出された。
【0023】
DNAマイクロアレイでは3時間目のサンプルのみであったので、リアルタイムPCR法により、GnRHa投与後の遺伝子A〜Dの経時的変化を調べた。その結果、いずれの遺伝子もGnRHa投与後かなり早期に一過性に発現が増加していることが明らかになった(図8)。
(4) GnRHaの細胞増殖抑制作用に対する各遺伝子ノックダウンの影響
各遺伝子の働きをRNA干渉法により抑制した。具体的には、各遺伝子の働きを抑制するsiRNA分子をLβT2細胞内に導入後、GnRHaを投与した。その結果、遺伝子Aを抑制した場合にのみ細胞増殖抑制効果が観察されなくなった(図9)。これは、遺伝子Aが細胞増殖抑制に関与していることを示す。
【0024】
遺伝子Aは、インフルエンザウイルス抵抗性遺伝子として知られているMx1遺伝子である。本発明で用いたマウスMx1の塩基配列は配列番号2(NCBIデータベース、M21039)に示す通りであるが、一般の実験動物として使用されているマウスのほとんどは、Mx1遺伝子の1121〜1544位に欠損があり、本発明において使用したマウス由来細胞でもMx1遺伝子に同様の欠損があることを確認した。このような欠損遺伝子をもった実験動物のマウスではインフルエンザを感染させると死亡する、即ち欠損Mx1遺伝子はインフルエンザ耐性に対する機能を失なっている。しかし、このインフルエンザ耐性に対しては機能を失っているMx1遺伝子も、細胞増殖調節に対する機能は失っていないことが明らかである。
【0025】
さらに、PKA抑制剤(H89)によってPKAを抑制すると、Mx1遺伝子の発現が促進されることを確認した(図10)。これは、Mx1遺伝子に特異的なリアルタイムPCR法を確立してmRNAの発現率を定量することにより行った。即ち、H89を加えた細胞のRNAを回収して、Mx1遺伝子の転写活性をリアルタイムPCR法で測定することにより確認した。
【0026】
また、GnRHaによるMx1発現の増加に他の遺伝子産物が必要かどうかを調べるために、培養細胞にシクロヘキシミド(蛋白質合成阻害薬)を作用させながらGnRHaを添加した。他の遺伝子はGnRHaに反応しなくなったが、Mx1遺伝子のみはGnRHaによって転写活性が増加した。従って、Mx1はGnRHによって他のタンパク質合成なしに誘導される遺伝子(イミディエート・アーリー)であることが判明した(図11)。
【0027】
GnRHaのLβT2細胞増殖抑制に対する百日咳毒素(PTX)併用投与の影響を調べることにより、GnRHがGnRH受容体からGαiを介することを確認した。
また、GnRHa投与5分後のMx1遺伝子の発現率を調べ、Mx1遺伝子が早期に変動することを確認した。
【0028】
以上の結果から、図12に示すようにGnRHはGnRH受容体に結合し、Gαiを介してアデニルレートシクラーゼが抑制され、次いでPKAが抑制されると、Mx1合成が促進され、これによって細胞増殖が抑制されると考えられる。このように、Mx1遺伝子はインフルエンザ耐性以外に、細胞増殖抑制の機能を有し、それはインフルエンザ耐性を失ったマウスの欠損Mx1遺伝子でも保持されている。
【0029】
マウスの欠損Mx1遺伝子により発現されるタンパク質は、ヒトMx1蛋白質のN末端側配列に特異的なポリクローナル抗体(サンタクルーズ社、Sc−34128)を用いて、ウエスタンブロット法により確認した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】LβT2細胞数に与えるGnRH作動薬(GnRHa)の影響を示す図である。
【図2】GnRHaと拮抗薬併用投与の効果を示す図である。
【図3】GnRHa、GnRH拮抗薬の細胞増殖抑制作用を示す図である。
【図4】DNAマイクロアレイ解析の結果の概要を示す図である。
【図5】GnRHaの作用に対するdbcAMPの拮抗作用を示す図である。
【図6】セトロリックスの作用に対するdbcAMPの拮抗作用を示す図である。
【図7】PKA抑制薬(H89)の増殖抑制作用を示す図である。
【図8】GnRHa投与後の遺伝子A〜Dの経時的変化を示す図である。
【図9】GnRHaの細胞増殖抑制作用に対する各遺伝子ノックダウンの影響を示す図である。
【図10】PKAの抑制が遺伝子Aの発現を促進することを示す図である。
【図11】GnRHaの遺伝子A〜Dの発現促進効果へのシクロヘキシミドの影響を示す図である。
【図12】GnRHによるシグナル伝達を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mx1遺伝子のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチドを含む細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
Mx1遺伝子のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチドを含む、がん治療のための遺伝子治療用組成物。
【請求項3】
Mx1遺伝子のオープンリーディングフレームを形成するポリヌクレオチドを、細胞増殖抑制剤の製造に使用する方法。
【請求項4】
被検物質をMx1遺伝子を発現する細胞に接触させ、Mx1遺伝子の発現に影響する物質を選択することにより、細胞増殖抑制剤またはがん治療剤をスクリーニングする方法。
【請求項5】
配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−91265(P2009−91265A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261008(P2007−261008)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】