説明

細胞構成物質分取チップならびに細胞構成物質解析システム及びこれらを用いる細胞構成物質解析法

【課題】細胞間や細胞内で局在化しているmRNAやタンパク質を、局在空間情報を失わずに定量測定を行うことのできる方法とチップデバイスとシステムを提供すること。
【解決手段】細胞を2次元投影した形で基板あるいは電極上に、細胞の内容物を捕捉する。このために、電気泳動的な力を利用する、あるいは、細胞の水分を瞬時に蒸発させて固定する。2次元平面に固定されたmRNAを、これにハイブリダイズする標識物付きの標識プローブで同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞ないし細胞集合体である組織で発現している遺伝子産物であるmRNAないしタンパク質を、mRNAないしタンパク質の細胞や細胞集合体である組織での空間局在の情報とともに定量的に計測するための細胞構成物質解析チップ、細胞構成物質解析システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲノム計画の進展とともにDNAレベルで生体を理解し、病気の診断や生命現象の理解をしようとする動きが活発化してきた。生命現象の理解や遺伝子の働きを調べるには遺伝子の発現状況を調べることが有効である。この有力な方法として、固体表面上に数多くのDNAプローブを種類毎に区分けして固定したDNAプローブアレー、あるいはDNAプローブチップ(実際には固定されているのはオリゴヌクレオチドの誘導体であるのでオリゴチップと呼ぶこともある)が用いられている。DNAプローブのかわりに抗体や抗原を基板上にアレイ状に固定したプロテインチップの概念も実用化されている。たとえば、基板上にアレルギーを起こす数十から数百の抗原(アレルゲン)を固定したデバイスに検体血清を反応させ、各抗原と抗原抗体反応を起こす血清中に存在するIgMを特異的に捕捉し、IgMに結合する酵素標識2次抗体を反応させ、酵素活性を化学発光と組み合わせることで測定して、アレルゲンを検出するアレルゲン検査用のシステムが医療検査用に実用化されている。
【0003】
DNAチップを作るには光化学反応と半導体工業でよく用いられるリソグラフィーを用いて区画された多数のセルに設計された配列のオリゴマーを一塩基ずつ合成して行く方法(非特許文献1:Science 251, 767-773(1991))、あるいはDNAプローブやタンパク質プローブを各区画に一つ一つ植え込んでいく方法(非特許文献2:Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 4613-4918 (1996))などがある。
【0004】
これらチップは、いずれもスライドガラスなどの平面上に区画を区切り、多数のプローブを、アレイ状に整列させた構造をしている。どのプローブがどの位置にあるかは、プローブが固定されている物理的な位置のみでインデクシングされるのが一般的である。
【0005】
検出には、DNAチップの類では標識物に蛍光色素を用いるケースが圧倒的に多い。プロテインチップでは上記したとおり、酵素標識物を用いて化学発光ないし生物発光の系で検出するケースが多いが、蛍光標識検出や、電気化学発光検出を行うケースと多様な方法が実用化されている。
【0006】
電気化学発光法では、電極表面に抗原捕捉用の抗体が存在する。サンドイッチ用抗体の標識物にはルテニウム錯体を用いる(非特許文献3:Clin. Chem., 37, 1534-1539 (1991))。電極表面ではルテニウムが酸化され、TPAのレドックス反応とカップルさせて還元するときに励起状態となったルテニウムの電子が基底状態に落ちる時に光を発する。
【0007】
【非特許文献1】Science 251, 767-773(1991)
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 4613-4918(1996)
【非特許文献3】Clin. Chem., 37, 1534-1539 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、DNAプローブチップあるいはプロテインチップを用いる遺伝子転写産物であるmRNAや翻訳産物であるタンパク質の識別や検出法に関してはよく検討されており、何らかの方法で溶液状の試料が準備できていれば測定ができる。上記従来技術で説明した検体血清からのアレルゲン検査では、血清試料を用いる。mRNA検査では予め十分多量な細胞検体からRNA成分を抽出し、リバーストランスクリプターゼによる逆転写反応でcDNAを合成し、PCR増幅やcRNA合成により増幅を行う。また相補鎖合成時に標識dNTPを取り込ませて多量の標識DNA鎖を得る。最近ではアミノアリルdNTPを取り込ませて、その後にアミノ基に蛍光色素を反応させて蛍光標識DNA鎖を得る方法が主流となっている。このようにして得られた蛍光標識DNA鎖を、いわゆる、DNAチップとハイブリダイズさせて各種発現遺伝子の解析を行う。このように、予め溶液試料が得られる場合のみ解析が可能となる。
【0009】
検体の内、かなりの部分を占める細胞を扱う場合、測定対象となる細胞構成物資を溶液状態にする操作そのものが問題となるケースがある。多細胞生物においては、細胞は隣接する細胞群との相互インタラクションにより全体の調和を成立させているので、細胞群をすりつぶして均一な状態としてしまうと各細胞の持つ局在的な情報が失われる。さらに、個々の細胞内においても発現遺伝子であるmRNAは局在化しているし、最終産物であるタンパク質も細胞内でその機能に従い局在している。これら局在mRNAやタンパク質は、細胞の活動状態すなわち隣接する細胞群とのコミュニケーションにより変化するし、おかれている環境に対しても変動する。すなわち、生体機能をより正確に記述し、医療向けの検査や創薬に役立つ情報を得ようとすると、細胞間や細胞内で局在化しているmRNAやタンパク質を、局在空間情報を保持した状態で定量検出する必要がある。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、上記問題点を克服し、細胞間や細胞内で局在化しているmRNAやタンパク質を、局在空間情報を失わずに定量測定を行うことのできる細胞構成物質解析チップ、細胞構成物質解析システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、まず、mRNAあるいは発現タンパク質の分解を極力少なくし、濃度希釈が不要な方法を実現するために、細胞を2次元投影した形で基板あるいは電極上に、細胞の内容物を捕捉することとする。このためには、電気泳動的な力を利用することができる。すなわち、極薄い間隔からなる2枚の電極で細胞を挟み、電界をかけることで細胞を破壊すると同時に細胞の内容物を電極表面に引き寄せる。あるいは、細胞の破壊にUV光を用いることも効果的である。350nm程度のUV光は溶媒である水では吸収されず、細胞で吸収される。このため、溶媒を沸騰させること無く細胞を可溶化することができる。このときも生体物質の内容物を2次元投影した形で捕捉するには電気泳動力を用いる。
【0012】
いずれの細胞破壊の方法でも生体物質の内容物を2次元投影した形で捕捉するには、電気力線が電極平面に対してほぼ垂直方向に形成されることが重要である。すなわち、電極面積としては細胞のサイズに比べて十分広いことが必要となる。この条件に加え、電極間の距離が対流の起きにくい数十μm程度であれば、細胞内物質は電極平面に対してほぼ垂直方向に移動する。生体物質の内容物を捕捉する基板、あるいは、電極表面にはmRNAの捕捉用にポリTのようなmRNAに結合する物質を固定しておく。タンパク質の場合は、たとえばアミノ基の様なカチオンやカルボキシル基のようなアニオンを表面に緻密に導入したもので静電的にタンパク質を固定する。あるいは電極表面を疎水性残基で覆い、タンパク質の疎水部分同士が水分子の排除エネルギーを利用して結合する力を利用してタンパク質を一網打尽に基板表面に固定することができる。
【0013】
測定したいものが予測される場合は、それらに対応するDNAプローブを予め基板上に固定して用いることで、より精度のよい測定が可能となる。たとえば、配列番号1の配列をプローブとして固定したものを用いると、Homo sapiens paraoxonase 1 (PON1)由来のmRNAの細胞内分布を測定することができる。さらに複数のDNAプローブを基板上に固定することで、複数の測定項目のmRNA配列を基板上に捕捉することができる。
CGAAGCACCT CTGATGCAGG AGGATTCTCT GAGTCATAGA AGAAGATTTT:(配列番号1)
本発明は細胞が集合した組織様の検体にも適用することができる。ただし、組織様の検体は細胞が一層のものが望ましい。仮に細胞10個が1列に連なったものを仮想的な組織様の検体としよう。検体を2枚の電極間にはさみUV照射しながら電界をかけると、個々の細胞に対応して個々の細胞由来の生体物質が2次元情報を保持したまま電極表面に固定される。
【0014】
生体物質の内容物を基板上に捕捉して固定する第2の方法として、電極によらず、細胞の水分を瞬時に蒸発させて固定する方法も有効である。この場合、基板上に細胞を配置した状態で高温にさらして水分を蒸発させることで、mRNAやタンパク質を細胞の配置を崩さずに固定することができる。もちろん、細胞内のmRNAやタンパク質も細胞内の2次元情報を保ったままで固定することができる。あるいは、液体窒素で瞬間的に凍結した後に、乾燥させてもよい。あるいは、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドのような試薬を用いて細胞を固定してもよい。ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドを用いる固定の場合で特にmRNAの解析には、ホルムアルデヒドによる細胞固定後に、トリプシンなどのタンパク質分解酵素を作用させて、細胞膜表面や構造タンパク質を破壊して、後述するナノ粒子標識プローブを固定されたmRNAにハイブリダイズできるようにして、反応したナノ粒子を2次元表面的に解析することで達成できる。いずれの方法でもその後のmRNAやタンパク質の検出が可能である。
【0015】
第2の固定法では、mRNAとタンパク質が同時に基板上に固定される。細胞破壊と固定が短時間で行われるので、mRNAを検出するときに問題となるRNaseによるmRNA分解はあまり気にしなくてもよい。固定後はRNaseインヒビターで基板を洗浄し、RNase活性をなくす操作を行えばより正確なmRNA検出が可能となる。一般のタンパク質は変性した状態で固定されるケースが多いので、プロテアーゼによる分解は気にする必要は無い。
【0016】
第2の固定方法ではmRNAとタンパク質に加え、ゲノムも同時に基板上に固定されるので、これらに対応するナノ粒子付きプローブを反応させることで同一基板上で同一細胞のmRNAとタンパク質発現の空間的情報付きの定量データを得ることができる。核に存在するゲノムの特定遺伝子もmRNAと区別して同時検出することができる。
【0017】
本発明では、いずれの方法で固定するにしても、基板あるいは電極上に、細胞内の物質を位置情報を保ったまま2次元平面に固定することになる。このとき1細胞中の細胞内物質を2次元固定する場合では、DNAチップやプロテインチップのように各区画エレメントに異なるプローブを固定してエレメントの位置で対象となる生体物質を識別することはできない。そこで、2次元平面に固定された細胞内の物質に選択的に結合する標識プローブを利用し、これに適当な識別子を設けて固定された細胞内の物質を識別する。
【0018】
細胞内物質を2次元固定する場合では、個々の細胞間での差異が測定できる程度の位置情報を得る目的であれば、個別の細胞を細胞のインタラクションを保ったままで各細胞を個別区画に保持し、この個別区画ごとに従来のDNAマイクロアレイやプロテインチップのように複数のプローブをスポット上に配することで、各生体物質の細胞レベルの2次元位置情報と量を測定することができる。このケースでも前記した細胞内物質を2次元投影して測定するケースと同様に、細胞の配置を保持した状態で各細胞固定区画に配した複数プローブに親和的に固定された細胞内物質に選択的に結合する標識プローブを利用し、これに適当な識別子を設けて固定された細胞内の物質を識別する。
【0019】
適当な識別子とは、たとえば蛍光分子であり、これを1分子検出する。更に容易には、蛍光ナノ粒子を識別子用いて基板上の蛍光点を計数する。測定対象の区別は、対応するプローブを標識する蛍光体の種類や強度の違いを区別することで達成できる。あるいは、ナノ粒子を用いる。ナノ粒子には測定対象に対して異なる粒径や異なる元素組成のナノ粒子を用いる。これにより、細胞の2次元投影面に対して、反応したプローブに付加されたナノ粒子の種類と数を計数することで測定対象を区別しながら細胞内分布を定量的に計測できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、細胞内発現しているmRNAやタンパク質および、これらの情報を担うゲノムを、細胞内および細胞間の位置情報と量を分子レベルで検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
動物細胞の平均的な大きさはおおよそ10〜30μmである。この中に2万数1000種の遺伝子が存在し、少ないもので数十分子のmRNAが数百種以上発現している。中には10万分子数に及ぶものもあるがわずか数種に過ぎない。多量に発現している遺伝子の多くは、ハウスキーピング遺伝子が多く、細胞内でほぼ一定数、常に発現している。よって本発明で対象とするのはあまり数が多くなく、細胞の置かれている状態で発現mRNA分子数が変動する遺伝子である。
【0022】
仮に100分子が発現しているとすると、従来のDNAチップのような方法では増幅なしに検出することは不可能である。細胞を磨り潰し、mRNAを抽出する段階で分解したり濃度が薄まったりしてしまい、ハイブリダイゼーションが速度論的に無限に近い時間必要になるからである。
【0023】
本発明では、細胞を2次元投影した形で基板あるいは電極上に、直接、細胞の内容物を捕捉することとする。以下、具体的な実施例について図面を参照しながら説明する。
【0024】
(実施例1)
図1(A)は実施例1の細胞構成物質分取チップを示す平面図、(B)は図1(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。(C)は(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図の他の例である。1は石英基板であり、この上面に厚さ5μmのアガロースゲル膜4が形成されており、所定の間隔で細胞保持のための区画5が作成される。区画5の大きさは、例えば、30μm四方とされるが、これは、上記動物細胞の平均的な大きさを10〜30μmφとするとき、この9倍ないし等倍にあたる。図1では細胞7を区画5のいくつかに配した状態を示す。各区画5間は、必要なら、溝6で連結され、区画5に保持された細胞7間の相互インタラクションが可能とされる。また、基板1の上面の各区画5に対応する位置には、インジウムスズ酸化物(ITO)からなる透明電極2が形成されている。透明電極2は、透過光が30〜70%程度になるように金あるいは白金あるいはクロムを蒸着して作成したものでもよい。電極2の大きさは区画5の大きさとほぼ等しいものとされる。前記アガロースゲル膜4の上面にはガラス基板1’が設けられる。基板1と基板1’はスペーサー8で一定間隔が保たれる構造となっている。スペーサー8は基板1’に予め取り付けられており、ガラス基板1に押し付ける形で装着する。この際、スペーサーと接触する基板1の部分のアガロースゲルは予め除去しておくほうが良いが,(C)のようにアガロースゲル4の厚みが薄い場合はゲルの上からスペーサーを押し付けるだけでよい。ガラス基板1’の、前記区画5の位置には、電極2に対応する対向電極2’を設ける。石英基板1、ガラス基板1’には、それぞれ、電極2、対向電極2’に接続されている引き出し電極3が設けられる。なお、石英基板1のアガロースゲル膜4は、集束光を当てて加熱して容易に加工することができるから、区画5の形成、区画5間の溝の形成は容易である。区画5に入れる細胞を培養中に各区画5を連結する溝を集束光で形成することにより複数の種類の異なる細胞を任意の段階で相互インタラクションするものにできる。
【0025】
前記対向する電極付の基板1,1’の間隔を0.1mmとすると、両電極付基板ではさまれる区画5の領域は、ほぼ0.03×0.03×0.1mmの空間になり、区画5に緩衝液または培養液を入れ、細胞7を1個ずつ挿入すると、この電極に挟まれる空間に細胞1個が存在することになる。図1の第1の例として、浮遊細胞用の細胞構成物質分取チップの例を示す。ここでは浮遊状態にあるニューロン細胞、すなわちニューロン幹細胞を培養液に懸濁した懸濁液からニューロン幹細胞を1個ずつ取り出して、区画5に挿入し2枚の基板1,1’でサンドイッチしている。ニューロン幹細胞は着床しないように区画5の底辺にも0.5μm以下の厚みで濃度が0.05%以下のアガロース膜9を細胞吸着防止用として塗布しておく。このような薄いアガロース膜はmRNAなどを自由に透過することができる。必要に応じて区画5は溝6’でつながれる。図1(B)記載の断面図の様に、アガロースゲル膜4を基板1と1’の間を分離するように形成し、区画5を独立した空間とすることで浮遊細胞を空間5に保持する構造としている。2枚の基板1,1’は350nmのレーザーを透過することができる構造とする。電極における350nmの光吸収が大きい場合には、電極を格子状にしたり、金属薄膜の厚みを5nm以下としたりすることで部分的に光を透過させることで解決する。
【0026】
図1の第2の例としては、10細胞/mlの濃度のヒトCOS細胞7をPBSに懸濁した懸濁液から細胞を1個ずつ取り出して、区画5の2箇所に挿入し2枚の基板1,1’でサンドイッチしている。COS細胞7はアガロースゲル膜4の無いところに着床するので、(C)にその断面図を示すように区画5の基板1上に接着することになる。このために、(C)に示すようにアガロースゲル膜4’の厚みが薄くて、完全に区画が他とは区切られない状態でも、各細胞が隣接する区画に移動したり、細胞間の相互インタラクションが溝以外で起きたりすることは無い。必要に応じて区画5は溝6’でつながれる。もちろん図1(B)記載の断面図の様に、アガロースゲル膜4を基板1と1’の間を分離するように形成し、区画5を独立した空間とすることで細胞を空間5に保持する構造としてもよい。この場合、区画間は溝に代えてトンネル6とする。
【0027】
2枚の基板1,1’は350nmのレーザーを透過することができる構造とする。電極における350nmの光吸収が大きい場合には、電極を格子状にしたり、金属薄膜の厚みを5nm以下としたりすることで部分的に光を透過させることで解決する。
【0028】
なお、図1では、スペーサー8は区画5の設けられる領域の全周を取り囲む形で示したが、図1(B)の例では、基板1’が、アガロースゲル膜4を強く圧迫することが無いようにし、図1(C)の例では、基板1と1’との距離を確保するのに十分な程度に断続的に配置するものとして良い。この場合、基板1と1’との距離は小さいので、図1(C)の例でも、培養液が流失してしまうことはない。
【0029】
図2(A)は浮遊細胞用の2枚の基板1,1’でサンドイッチされた区画5に細胞が配された状態の断面を示す図である。ここでは、非着床性の細胞を用いるケースについて説明する。細胞22は基板1と1’とアガロースゲル膜4で区切られた空間に閉じ込められている。この例では、アガロースゲル膜4の厚みは0.1mmで、基板1と1’の間隔も0.1mmである。溝6は各区画5を連結し、細胞間のインタラクションを取るためのもので、培養中に任意に作成する。溝6は細胞が通り抜けられない断面積を有している。2枚の対向する基板の内側には基板1上に電極2、電極2の表面にプローブ20が固定されている。プローブ20は実質的にアガロースゲル膜9に埋もれた状態で固定されているが、アガロース濃度が薄いので、mRNAやcDNAなどは自由にプローブにアクセスできる。ここではプローブ20はポリTからなるものを使用する。基板1’の表面には電極2’が存在する。区画5はアガロース構造体4で仕切られているが、必要により、トンネル6で連絡される。区画5には緩衝液または培養液が入れられるとともに、細胞22が挿入される。ガラス基板1’の上面から、355nmのパルスレーザ21を細胞22の存在する区画5に照射すると、細胞22が破壊される。なお、電極2,2’は、電界を印加するためのものであるから、基板の裏側にあっても良い。
【0030】
図2(B)は区画5内の細胞をパルスレーザ21によって破壊すると同時に電極2,2’の間に電源60により、電界(1.2V)をかけ、mRNAやDNAなどの核酸23をプラスの電極2の方向に引き寄せる過程の様子を模視的に示す図である。タンパク質25などの細胞の内容物の多くはマイナス極2’に移動するか、移動しないで元の位置に留まっている。電界をかけると電極間にpHの勾配ができる。pKが低い核酸類は陽極に移動できるが、pKのあまり低くない他の成分は電荷が中和されるので陽極に達することができない。
【0031】
図2(C)は、図2(B)の状態から時間が経過した状態を模視的に示す図である。時間が経過するのに応じて、mRNAやDNAなどの核酸23は基板上のポリTプローブ20にハイブリダイズする。
【0032】
図3は着床細胞であるヒトCOS細胞の例である。図3(A)は2枚の基板1,1’でサンドイッチされた区画5に細胞が着床した状態で配された断面を示す図である。細胞22’は基板1と1’とアガロースゲル膜の壁4−1,4−2で区切られた空間に閉じ込められている。細胞は区画の底面に着床しているので、上部が開いていても隣の区画に入り込むことは無い。実質的にアガロースゲル膜が塗布されている部分に細胞が着床できないので、隣接する区画に移動できないからである。このような細胞の移動を防ぐためのアガロースの厚みは実質0.5μmあれば十分である。この例では、アガロースゲル膜の厚みは3μmで、基板1と1’の間隔は0.1mmである。溝6−1は各区画5を連結し、細胞間のインタラクションを取るためのもので、培養中に任意に作成する。溝6−1は細胞が通り抜けられない幅を有している。2枚の対向する基板の内側には基板1上に電極2、電極2の表面にプローブ20が固定されている。ここではプローブ20はポリTからなるものを使用する。基板1’の表面には電極2’が存在する。区画5はアガロース構造体4−1,4−2で仕切られているが、必要により、トンネル6−1で連絡される。区画5には緩衝液または培養液が入れられるとともに、細胞22が挿入される。ガラス基板1’の上面から、355nmのパルスレーザ21を細胞22の存在する区画5に照射すると、細胞22が破壊される。なお、電極2,2’は、電界を印加するためのものであるから、基板の裏側にあっても良い。
【0033】
図3(B)は図2の例と同様に区画5内の細胞をパルスレーザ21によって破壊すると同時に電極2,2’の間に電源60により、電界(1.2V)をかけた様子を模視的に示す図である。mRNAなどの核酸成分23は細胞の着床していた基板底面近傍にとどまっているが、タンパク質25などの細胞の内容物の多くはマイナス極2’に移動する。電界をかけると電極間にpHの勾配ができる。pKが低い核酸類はさらに陽極に移動し、基板上のプローブ(ポリT)とハイブリダイズできるが、pKのあまり低くない他の成分は電荷が中和されるので陽極に達することができない。
【0034】
図3(C)は、図3(B)の状態から時間が経過した状態を模視的に示す図である。時間が経過するのに応じて、mRNAやDNAなどの核酸23は基板上のポリTプローブ20にハイブリダイズする。
【0035】
プローブ固定法について説明する。ポリTプローブ20を固定した電極あるいは通常の電極上に貼り付けて使用する基板は2種類のモノマーを重合させて調製するポリマー層を有するものを作成する。これは、前記ポリマー層が重合用の第1の官能基を2箇所に有する第1のモノマーと重合用の第2の官能基を2箇所に有する第2のモノマーを交互に配するように重合した構造で、前記第1のモノマーおよび前記第2のモノマーの片方に生体物質捕捉用残基を持つ構造をしている。具体的には、基板に第1のモノマーとしてアルキルジイソシアナートと第2のモノマーとしてジアミノフェニル酢酸を等モル比で反応させ重合させる。このケースでは、第1の官能基はイソシアナート基、第2の官能基はアミノ基ということになる。アルキルジイソシアナートとしてはたとえばヘキサメチレンジイソシアナートを用いることができる。また、生体物質捕捉用残基は第2のモノマーであるジアミノフェニル酢酸のカルボキシル基ということになる。重合生成薄膜はポリ尿素ということになる。重合上条件に関しては、上記2種類のモノマーの混合溶液をスピンコーターで塗布した後、所定の温度(150℃〜200℃)でベークすることによりポリマーの薄膜を基板上に形成することができる。あるいは、既存の真空蒸着法(Jpn. J. Appl. Phys. 33, L1721-L1724 (1994) )を用いることができる。このようにして基板上に形成したポリ尿素薄膜はアルキルジイソシアナートとジアミノフェニル酢酸モノマーが交互に反応して形成する構造のため、側鎖のカルボン酸基が比較的そろった間隔で存在することになる。アルキル基の長さを調製することで導入するカルボキシル基の間隔を調製できる。また、これにより、従来は表面に官能基を導入することが困難であった金や白金などの電極上にも官能基を持つ薄膜を形成することができる。基板上に導入したカルボキシル基をカルボジイミド系の活性化剤を用いて生体物質捕捉用残基としてアミノ基を有するプローブを直接固定してもよい。あるいは、この側鎖カルボキシル基にジシクロヘキシルカルボジイミド系の活性化剤存在下でエチレンジアミンを反応させると、高収率で側鎖カルボキシル基に一級アミン残基を導入することができる。すなわち基板表面には一級アミンがほぼ一定間隔で並んだ状態となる。次にNucleic Acids Research,27,1970-1977(1999)およびCHEMBIOCHEM2, 686- 694(2001)記載の1,4−フェニレンヂイソチオシアナートで一級アミンを修飾し、表面にイソチオシアナート基を導入する。最後に5’末端にアミノ基を有するポリT(T25)を反応させる。この反応条件は上記文献に詳しい。上記方法でポリTが約9nm間隔で固定された電極2(基板)が得られる。
【0036】
あるいは、2種類のモノマーを第1の官能基としてアルキル基に保護されたSH基を有する残基を側鎖に持つアルキルジイソシアナートと第2の官能基としてカルボキシル基を持つジアミノフェニル酢酸を重合させれば、異なる官能基を交互に持つポリマー薄膜を持つ基板を作成できる。ここで、保護されたSH基とは、たとえば、ペプチド合成のときに使用されるSH機の保護基を導入したものを利用することができる。あるいは、ピリジルジチオ基の形で保護することができる。以下のケースでは、ピリジルジチオ基の形でSH基を保護したモノマーを用いて作成した基板について説明する。基板上にポリマーを形成後に、まず、カルボキシル基に上記方法と同様にジシクロヘキシルカルボジイミド系の活性化剤存在下でエチレンジアミンを反応させ、引き続き1,4−フェニレンヂイソチオシアナートを反応させ、5’末端にアミノ基を有する特定配列の第1のオリゴマーを反応させて、オリゴマーを固定する。次にジチオスレイトールを用いてSS結合を還元し、SH基を基板上のアルキル基部分に露出させる。マレイイミド基を有する第2のオリゴヌクレオチドをpH6程度の水溶液中で反応させることで、マレイイミドの2重結合部分が基板上のSH基と反応し、チオエーテル結合で第2のオリゴヌクレオチドを固定することができる。この例では、同一基板上に複数のプローブDNAをほぼ一定間隔で導入した基板を得ることができるメリットがある。すなわち、同一面で、2種類の相補配列を持つmRNAを捕捉することができる。2種類のmRNAの区別には異なる粒子径の金ナノ粒子を用いればよい。
【0037】
実施例1では、カルボキシル基をもつポリ尿素を基板上に形成して用いたが、このほかにも、側鎖にプローブとなるポリヌクレオチドやペプチドなどを固定できるような反応基を導入できる残基を周期的に持つポリマーであれば利用することができる。たとえば、2種のモノマーの組み合わせがR−C=O−O−O=C−R−R−C=O−O−O=C−Rの構造を有する酸無水物(R〜Rは任意の残基)とNH−R−NHの構造を有するジアミンモノマー(Rは任意の残基)で、Rにカルボキシル基を有するジアミノフェニル酢酸モノマーを用いることができる。酸無水物としては、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンビスフタル酸無水物のような構造のものを用いることができる。
【0038】
このようなポリマーは、すなわちポリイミドである。ポリイミドは一般的にこのようなビス無水フタル酸とビスアミノ化合物を用いる。あるいは、たとえば長カルボキシル基を有するジアミノフェニル酢酸あるいは1,10−ジアミノデカンのような脂肪族ジアミンの脂肪族位置にカルボン酸残基を有するモノマーとジ酸クロリドモノマーであるテレフタロイルジクロリドを蒸着重合により基板上に膜形成を行うポリアミドを利用することができる。プローブ固定用には長鎖脂肪族ジアミンに各種反応性残基を導入しておけばよい。蒸着重合としては既存の方法、たとえば、Jpn. J. Appl. Phys. 33, L1721-L1724(1994), Thin Solid Films, 215, 94-97 (1992)記載の方法に準じて、使用するモノマーの気化条件を考慮して行えばよい。
【0039】
図4は、図3(C)に示したように、電極2の表面上のポリTプローブ20に捕捉したmRNA群の識別方法を説明する図である。図3(C)は着床性の細胞を用いる細胞構成物質分取チップの例であるが、先にも述べたように、プローブ20がアガロース濃度が薄いアガロースゲル膜9に埋もれた状態で固定されている場合は、mRNAやcDNAなどは自由にプローブ20にアクセスできるので、浮遊性の細胞用の図2(C)記載の構造の場合でも以下の手順ならびに説明は共通である。
【0040】
まず、上部ガラス基板1’をはずし、石英基板1の上面のアガロースゲル膜4に形成した区画5の中を洗浄し、電極2上のポリTプローブ20にハイブリダイズしなかった物を除去する。次に、ポリTプローブ20にハイブリダイズしたmRNA23は、種々の異なったものがあるので、これを識別するための標識プローブの混合溶液を添加する。3時間45℃でインキュベーションした後、10mMのNaClを含むクエン酸緩衝液pH7で洗浄する。この状態で電極2の上には、ポリTプローブ20にハイブリダイズしたmRNA群と各mRNAにハイブリダイズした標識プローブ31,32,33が3体結合した状態になっている。標識プローブ31,32,33には、容易に識別できる標識物31’、32’、33’をつけておく。したがって、標識物31’、32’、33’をカウントすることで、電極2上のポリTプローブ20に固定されたmRNAの種類と量を測定する。
【0041】
すなわち、先にも述べたように、基板あるいは電極上に、細胞内の物質を、位置情報を保ったまま2次元平面に固定することになるから、DNAチップやプロテインチップのように各区画エレメントに異なるプローブを固定してエレメントの位置で対象となる生体物質を識別することはできない。したがって、2次元平面に固定されたmRNAを、これにハイブリダイズする標識物付きの標識プローブで同定することが必要である。
【0042】
図5は、本発明によって、電極2上のプローブ22に固定されたmRNAの標識物31’、32’、33’が細胞22の輪郭41との関係において、2次元平面で認識できることを模式的に示す図である。61−63は電極2(または基板10)に付けられたマーカーである。図5の状態のデータは、以下の手順で得られる。
(1)石英基板1の上面のアガロースゲル膜4に形成した区画5に細胞を配して必要な培養を行う。
(2)培養後、細胞22を電極2の背面から顕微鏡を通してCCDカメラで撮影する。
(3)355nmのパルスレーザ21を細胞22の存在する区画5に照射する。
(4)パルスレーザ21の照射後に、電源60により電極2,2’間に電界を加える。
(5)図4で説明した洗浄、標識プローブの固着の手順を踏んだ後、再度、電極2の背面から顕微鏡を通してCCDカメラで撮影する。
【0043】
すなわち、最初の撮影で細胞22の輪郭41とマーカー61−63を持ったデータが得られるので、これを、画像データとしてコンピュータに保存する。次いで、2度目の撮影でプローブ22に固定されたmRNAの標識物31’、32’、33’とマーカー61−63を持ったデータが得られるので、これを、画像データとしてコンピュータに保存する。コンピュータで二つのデータをマーカーが一致するようにして重ねる画像処理をすれば、細胞22の輪郭41とmRNA(標識物31’,32’,33’)の相対的な位置も分かるデータが画像として得られることになる。
【0044】
上記方法により1個の細胞からのmRNAを2次元投影する形で基板上に固定し、上皮がん(大腸由来)の細胞で発現するEpCAMのmRNAの最終エクソンと最終エクソンの手前のエクソンにまたがる部分の配列とEpCAM遺伝子ゲノムのイントロン部分に対する配列、同様にCD44のmRNAの最終エクソンの手前のエクソンにまたがる部分の配列及びCD44ゲノムのイントロン部分の配列より標識プローブを設計し、これらの一細胞内での分布と定量的計測を試みる。EpCAMのmRNAとEpCAM遺伝子ゲノムのイントロン部分のプローブにはそれぞれ10nmと50nmの金ナノ粒子、CD44のmRNA及びCD44ゲノムのイントロン部分のプローブには20nmと70nmの金ナノ粒子がインデクシング用のマーカー(標識物)として結合している。各粒子の粒度分布はCV=2%以内のものを使用する。
【0045】
電極2上にmRNA捕捉用のポリTプローブを固定し、区画5の細胞22に355nmのパルスレーザ21を照射して細胞22を破壊し、電界を用いてmRNAをポリTプローブに捕捉する上記の方法でmRNA全体を電極2上に固定する。このとき、細胞内のmRNAは基板に対して投影される形で固定されるので細胞内位置情報を保つことができる。細胞22は、上記上皮細胞を区画5に配し、5%二酸化炭素、11%酸素雰囲気中で1日間区画5に供給した培地中で培養することで電極2上に着床する。固定されている細胞の位置は予め顕微鏡で確認し、電極2の背面から顕微鏡を通してCCDカメラで撮像してデータ化しておく。この状態では、細胞は、電極2に対して着床した面と培地に接する面の物理的な面に接することになる。よって、mRNAなどを2次元的に投影する本発明で得られるデータは、細胞が基板上に固定された細胞の着床面に対しての2次元投影ということになる。すなわち、細胞が基板と結合している面と溶液に接している面では、細胞内の機能が異なる。常に着床面を基準面として細胞内の物質分布を測定することができるので、3次元ではなく2次元投影でも有用な情報が得られる。
【0046】
電極2上のプローブ20にmRNAやゲノムDNAなどのポリヌクレオチド23を捕捉した区画5に金ナノ粒子をインデクシングマーカ31’、32’、33’としたEpCAMとCD44のmRNAおよびゲノム配列に対する標識プローブ31、32、33の懸濁液を添加し、mRNAやゲノムDNAなどのポリヌクレオチドにハイブリダイゼーションさせる。ハイブリダイゼーション条件は金ナノ粒子が凝集しないでハイブリダイゼーションが効率よく行われる条件として、100mMのNaClを含む10mMクエン酸緩衝液pH7.4で行う。その結果、図6の模式図に見られるような結果が得られる。図6では細胞に対する各インデクシングマーカ(金ナノ粒子)の位置関係がわかるようにデフォルメして記載している。
【0047】
アガロースゲル膜4で基板1上に形成した細胞を保持する区画5に着床した大腸がん由来のがん細胞を予め顕微鏡観察し、CCDカメラでデータ化したときの細胞の境界を41、核の境界を42で表す。細胞は355nmのパルスレーザ21で破砕し、電極2,2’間にかける電圧による電界でポリヌクレオチド成分を電極2上に固定している。一方、ここでは、電極2上を走査型電子顕微鏡で観察し、データ化すると、4種類のサイズの金ナノ粒子43〜46の分布が観察される。サイズの違いから判断して、43はEpCAM遺伝子のイントロンに対応する配列を有するポリヌクレオチド、44はCD44遺伝子に対応する配列を有するポリヌクレオチドを検出していると思われる。これらはおもに核内に検出される。核内に検出されるイントロン配列は、ゲノム上の配列とゲノムから転写された未成熟mRNAに由来すると考えることができる。少量のイントロン配列を認識する粒子43’と44’が細胞室に検出されるが、これらは未成熟mRNAから切り取られたイントロンが分解される前に検出されたものと考えることができる。金ナノ粒子45と46は核には存在せず、細胞室に存在するので、それぞれEpCAMとCD44の成熟mRNAと考えることができる。成熟mRNAではイントロンが抜け落ちるからである。
【0048】
本発明ではこのように各粒子はゲノム上の遺伝子配列や未成熟mRNAや成熟mRNAを分子別に検出できる。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、細胞の破砕をレーザーによらず、細胞構成物質も電解による移動ではなく、細胞を瞬時に基板上に焼き付ける方法を利用する。図7(A)は実施例2の細胞構成物質分取チップを示す平面図、(B)は図7(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。10は基板である。実施例2では、基板10は石英に代えて、mRNAと発現タンパク質を同時に吸着固定できるように、2種類のモノマーを交互に重合させて、プラスチャージを持つアミノ基や疎水基を交互に有する基板とする。第1のモノマーとしてはたとえば疎水性残基としてベンゼン環を持つメチレンジフェニル4,4’ヂイソシアナートと第2のモノマーとしては実施例1で示したジアミノフェニル酢酸を等モル比で反応させ重合させる。あるいは、前記したジアミノフェニル酢酸モノマーと4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンビスフタル酸無水物を重合させて親水基と疎水基を交互に導入したものを利用してもよい。
【0050】
この状態では基板表面には疎水性残基は存在するがプラスにチャージする残基は無いので、ジアミノフェニル酢酸のカルボキシル基をアミノ基に変換する。すなわち、カルボキシル基にジシクロヘキシルカルボジイミド系の活性化剤存在下でエチレンジアミンを反応させ、カルボキシル基を一級アミン残基(アミノ基)に変換する。これにより、疎水性残基とアミノ基を交互に有するポリマー薄膜からなる表面を有する基板を得ることができる。ここではアミノ基と疎水性残基を交互に有するポリマー薄膜を有する基板を用いたが、ポリアミドであるナイロンを基板上に重合させた薄膜やポリスチレン薄膜を有する基板を用いてもよい。
【0051】
このようにして調整した基板10上に、実施例1と同様に、厚さ100μmのアガロースゲル膜4が形成されており、所定の間隔で細胞保持のための区画5が作成される。区画5の大きさは、例えば、30μm四方とされる。各区画5間は、必要なら、トンネル6で連結され、区画5に保持された細胞間の相互インタラクションが可能とされる。実施例2では電極2と上面ガラス1’は持たない。
【0052】
実施例1と同様に、区画5に緩衝液または培養液を入れ、細胞を配した後、必要なら、所定の条件で細胞を培養する。細胞が着床した基板10を軽く水切りした後、160℃の乾燥ヘリウム雰囲気に曝す。これにより瞬間的に細胞を乾燥させて基板10の表面に固着する。あるいは、細胞が着床した基板10を液体窒素で瞬間的に凍結した後に、乾燥させてもよい。あるいは、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドのような試薬を用いて細胞を固定してもよい。これにより、細胞内のmRNAやタンパク質も細胞内の2次元情報を保ったままで固定することができる。次に、70%アルコールに浸し、低分子化合物を除去する。
【0053】
ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドを使用した場合はポリヌクレオチドのアミン残基やタンパク質のアミノ基が修飾されているので、必要に応じて100℃の水蒸気にさらし、これらを修復する。
【0054】
標識プローブを細胞骨格内のmRNAにハイブリダイズさせるために、細胞膜を処理して標識プローブが反応できるようにする。ここでは一般的に用いられている酵素による処理を用いる。たとえば、ペプシンを含む溶液を添加し、細胞膜表面に穴を開け、PBS(pH7.4)で洗浄し、プローブ標識物がmRNAに反応できるようにする。
【0055】
EpCAMのmRNA配列に対するプローブに10nmの金粒子を結合したインデクシングプローブと、タンパク質のEpCAMに結合するRNAアプタマーに20nmの金粒子を結合したインデクシングプローブを用いてEpCAMのmRNAとタンパク質の同時検出を行う。
【0056】
EpCAMに親和性のあるRNAアプタマー合成は進化工学的な方法を用いて作成する。方法を説明する。EpCAMに結合するRNAアプタマーの調製は、配列番号2に示すように、40塩基からなるランダムな配列の1本鎖DNAの5’末端にT7プロモーター配列を含む26塩基長の配列を導入し、3’末端に24塩基からなるPCR用のプライミングサイトを導入した全長89塩基長の配列を合成する。配列は5’側から
TAATACGACTCACTATAGGGAGACAAN(40)TTCGACAGGAGGCTCACAACAGG:(配列番号2)
である。T7プロモーター配列を用いてRNAポリメラーゼでRNAに転写する。RNAへの転写には500μlスケールで100pmolのDNAに100uのT7ポリメラーゼを作用させる。基質は各々3mMの2’−F−CTP,2’−F−UTP,各々1mMのATPとGTPで25℃で10時間行う。RNA転写後DNaseIでDNAを分解し電気泳動で転写RNA産物を回収する。回収した転写RNA産物を熱変性後、2mMのMgClを含むPBS(pH7.4)中でEpCAM固定セファロースCL4Bカラムに通す。結合した転写RNA成分を7M尿素を含む溶液で溶出させる。得られる転写RNA成分を逆転写し両端の既知配列部分に相補な配列のプライマーペアーでPCR増幅する。得られるPCR産物を再度T7プロモーターで転写し同様にEpCAM固定セファロースCL4Bカラムで捕捉し、結合した転写RNA成分を回収する。転写−捕捉−回収−PCR増幅の工程を15回繰り返し、EpCAMに特異的に反応するRNAアプタマーを得る。
【0057】
得られるアプタマーにNucleic Acids Research 26,3915-3924 (1998)記載の論文Staining of cell surface human CD4 with 3'-F-pyrimidine-containing RNA aptamers for flow cytometry記載の方法のインビトロトランスクリプションでアプタマーの5’末端にはチオリン酸基を挿入する。このチオリン酸基にヨードアセチル基を導入したビオチンを反応させ、5’ビオチン化RNAアプタマーを得る。ストレプトアビジンコンジュゲート金ナノビーズを反応させ、識別物質が金ナノ粒子で、EpCAMに特異的に反応するRNAアプタマーを得る。
【0058】
EpCAMのmRNA配列に対するプローブに10nmの金粒子を結合したインデクシングプローブと、タンパク質のEpCAMに結合するRNAアプタマーに20nmの金粒子を結合したインデクシングプローブを等モル比で混合し、さらにRNaseインヒビターを添加した溶液を、細胞を固定した基板に添加する。2時間45℃でインキュベーションする。反応終了後、冷水で洗浄し、走査型電子顕微鏡あるいは原子間力顕微鏡で観察する。得られる結果を図8に示す。実施例1で得られた結果を示す図6と同様に、細胞膜51と核膜52の位置を細胞固定の前に確認する。粒径から考えてEpCAMのmRNAに結合している金ナノ粒子を55、EpCAMのタンパク質に結合していると考えられる金ナノ粒子を56に示す。このケースでは細胞室にmRNAが存在することがわかる。また、EpCAMタンパク質は全体に検出されるが、51の境界上に多く集結していることから、このようなケースでは細胞表面に局在していると考えることができる。
【0059】
なお、実施例2ではmRNAとタンパク質に加え、ゲノムも同時に基板上に固定されるので、これらに対応するナノ粒子付きプローブを反応させることで、同一基板上で同一細胞のmRNAとタンパク質発現の空間的情報付きの定量データを得ることができる。核に存在するゲノムの特定遺伝子もmRNAと区別して同時検出することができる。これを実現するには、mRNAとタンパク質とゲノムに対して異なるインデクシングのナノ粒子を用いればよい。たとえば、mRNAには金ナノ粒子をベースとして種々元素をドープした粒子径の異なるナノ粒子、タンパク質には銀をベースにした同様な粒子、ゲノムに対してはプラチナをベースとした同様な粒子を用いることができる。あるいは、ゲノムに関しては蛍光ナノ粒子や蛍光付き分岐プローブDNAを用いてもよい。同時に計測するのではなく、mRNAとタンパク質とゲノムに対するナノ粒子付きプローブを順次反応させて、時間で区切って検出することも有効である。
【0060】
(実施例3)
実施例3は細胞が集合した組織様の検体、例えば、組織切片を細胞内の物質の位置情報を保ったまま2次元平面に固定する場合である。図9(A)は実施例3の細胞構成物質分取チップを示す平面図、(B)は図9(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。基板10は予め凍結しておき、その上に組織を乗せて細胞1層分を凍結固定するとともに、剥がして調製する。あるいは、凍結細胞組織を、ミクロトームを用いて2μmの厚さで切片として基板10の区画5に配置してもよい。実施例3では、細胞が集合した組織様の検体を対象としているので、実施例1,2のように、細胞単位の区画5を設けるのに代えて、組織様の検体が収納できる区画5とした。その他の点では、実施例1,2のいずれの態様でも良いが、図9では実施例2と同じものとした。すなわち、EpCAMのmRNA配列に対するプローブに10nmの金粒子を結合したインデクシングプローブと、タンパク質のEpCAMに結合するRNAアプタマーに20nmの金粒子を結合したインデクシングプローブを用いてEpCAMのmRNAとタンパク質の同時検出を行う。EpCAMのmRNA検出を試みると、組織断片80の特定細胞層81にEpCAM由来のmRNAに結合したと考えられる10nmの金粒子と、EpCAMタンパク質に結合したと考えられる20nmの金粒子が検出される。他の部位82からは検出されないか検出される金ナノ粒子の数が細胞81の位置に比べ1/100以下である結果を得る。
【0061】
本発明では、細胞を2次元面に投影したものとして観察することになるから、細胞が複数連なっていても、一層のものであることが望ましい。仮に、2層以上あれば、それぞれの層の細胞構成物質が重なってしまうから、期待している情報が得られない。
(実施例4)
実施例4は、実施例1と同様、複数の細胞のインタラクションを保ちながら個別区画に保持することのできる図10に示した細胞構成物質分取チップを用いる。ここでは図1と異なる点を中心に説明する。区画5の領域(ほぼ0.05mm×0.05mm)には異なるプローブ5−1がスポットされている。ここではプローブを約5μmのスポットとなるように10μmで計16点作成した系で説明する。インクジェットを用いることでスポット径を1μm程度まで小さくすることが可能となるので、スポットを2μmピッチで作成することで500項目程度までの同時測定が可能なチップを作成することができる。しかもこのチップは複数の細胞を個別に測定できる。まず、細胞7を各区画5に配し、一定時間培養することで細胞間のネットワークを作成し、チップ上に細胞を配した人工組織を形成させる。各細胞区画を仕切る部材4はアガロースゲルでできており、細胞を配した後で、区画間をレーザー過熱してこの部分のアガロースゲルを除去し、トンネル6を形成することで、任意の細胞間を任意の順序で相互作用させて作成する。もちろん細胞保持区画をSU8のような光硬化性の樹脂で作成しておくことも可能である。この場合は、流路6も予め作製しておく。
【0062】
後述する工程で、生体内物質が拡散してしまうのを極力防ぐために、図11に示すようにSU8の部分区画5−2を予め作成したチップで、各区画間はアガロースゲル薄膜4が存在するような構造とすることが最も適している。SU8の部分区画5−2はスリット5−3が四方に開いており、区画5−2間のアガロースを除去した溝6を作成すると各区画に配した細胞7がスリット5−3と溝6を利用してお互いにジャンクション7−1を作成することができる。
【0063】
次にUV光を利用して細胞を破壊する。この状態で特に生体物質の固定操作を行わなければ実質的にSU8で仕切られた部分区画5−2内に生体内物質が広がる。SU8の仕切りがあるので区画外に生体物質が漏れ出ることを最小にすることができる。一定時間インキュベートするか、電極2に実施例1で示したような所定の電圧を印加し、生体物質を区画5の中に配したプローブ5−1に親和的に結合させる。すなわち、16項目のプローブに対応する物質が基板上のポット位置に捕捉される。捕捉された生体物質はナノ粒子標識プローブで更に分類標識し、操作型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡で粒子をカウントする。
【0064】
たとえば、各スポットに3種類の捕捉用プローブをミクスチャーとして固定し、各々捕捉用プローブに対応する検出用のDNAプローブに10種類の異なる粒子径と異なる材質組み合わせのナノ粒子を標識したものを用いる。すなわち検出用DNAプローブの種類は16×10種類で、16種ごとに異なる10種類の粒子径のナノ粒子で標識したグループの混合液になっている。粒子径として10、20、30、40、50nmの各種を利用する。材質としては金、銀を利用すると、合計10種類の標識物となる。
【0065】
たとえば、区画5に配した細胞を前記実施例に従いUV光で破壊し、mRNAを2時間ハイブリダイズさせた後、ナノ粒子標識DNAプローブ混合液を添加し、基板表面に細くされているmRNA群に対して2時間ハイブリサイズさせる。洗浄乾燥後、各区画5の表面に結合しているナノ粒子を走査型電子顕微鏡で網羅的にスキャンすると、各スポット上の10種類のナノ粒子の数を計数することができる。その結果、各細胞あたり160項目のmRNAの定量解析が可能となる。
【0066】
スポットに固定する物質として、細胞内で合成されるタンパク質や糖タンパク質に対するアプタマーを利用する系を説明する。個々の測定項目のタンパク質や糖たんぱく質に対応するアプタマーは本実施例ではDNAアプラマーを用いる。DNAアプタマーの調製法は、公知例に従いSELEX法で調整する(J. Clin. Invest. 98, 2688-2692(1996), Nucleic Acids Res. 24, 702-706(1996))。各アプタマーをSU8構造体5−2で仕切られた全ての区画5にスポットする。各アプタマーには5’末端にアミノ基が導入されているのでこれを実施例1記載の方法を用いて基板上に固定する。基板上にはたとえば、上記J. Clin. Invest. 98, 2688-2692(1996)記載のCD62Lに対するアプタマーやNucleic Acids Res. 24, 702-706(1996)記載のトロンビンに対するアプタマーが固定されることになる。このようにして調整したアプタマースポットアレイ(図11の5−1)を複数の区画5に全て持つ複数細胞対応のチップ1の各区画5に細胞7を挿入し、お互いにギャップジャンクション5−4を形成させ、細胞ネットワークを形成する。UVレーザーで細胞を破壊し30分間インキュベートすると、区画5の各スポットにアプタマーに対応するタンパク質や糖タンパク質が捕捉される。次に、未反応の生体物質を0.05%のTween20と10mg/mlのBSAを含むPBS(pH7.4)で洗浄する。同じ溶液に懸濁した各種粒子径のナノ粒子標識抗体の混合液を基板1表面に添加し、15分間反応させる。各抗体は種類ごとに異なる粒子径の金ナノ粒子で個別標識されている。ここで、CD62Lに対応する抗体に結合している粒子は20nmの金ナノ粒子である。反応後、この粒子径の金ナノ粒子の存在を測定すると、CD62Lに対するアプタマーをスポットした位置に粒子は20nmの金ナノ粒子が計測される。他のスポット位置ではバックグランドレベルの数しか計測されない結果を得る。
[配列表]
SEQUENCE LISTING
<110> Onchip Cellomics Consortium
<120> A preparation chip and a preparation system for materials composed in a cell and analysys methods for materials composed in a cell
<130> NT05P0453
<160> 2
<210> 1
<211> 50
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 1
cgaagcacct ctgatgcagg aggattctct gagtcataga agaagatttt 50
<210> 2
<211> 79
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> n indicates random sequence of a c g and t
<400> 2
taatacgact cactataggg agacaa nnnn nnnnnnnnnn nnnnnnnnnn nnnnnnnnnn nnnnnnttcg acaggaggct cacaacagg 79
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1の細胞構成物質分取チップを示す平面図、(B)は図1(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。
【図2】主に浮遊細胞用の細胞構成物質分取チップに関し、(A)は2枚の基板1,1’でサンドイッチされた区画5に細胞が配された状態の断面を示す図、(B)は区画5内の細胞をパルスレーザ21によって破壊すると同時に電極2,2’の間に電源60により、電界(1.2V)をかけ、mRNAやDNAなどの核酸23をプラスの電極2の方向に引き寄せる過程の様子を模視的に示す図、(C)は、図2(B)の状態から時間が経過した状態を模視的に示す図である。
【図3】着床性細胞用の細胞構成物質分取チップに関し、(A)は2枚の基板1,1’でサンドイッチされた区画5に細胞が配された状態の断面を示す図、(B)は区画5内の細胞をパルスレーザ21によって破壊すると同時に電極2,2’の間に電源60により、電界(1.2V)をかけ、mRNAやDNAなどの核酸23をプラスの電極2の方向に引き寄せ、タンパク質などを基板底面から引き離す過程の様子を模視的に示す図、(C)は、図2(B)の状態から時間が経過し、核酸23がプローブ20にハイブリダイズした状態を模視的に示す図である。
【図4】電極2の表面上のポリTプローブ20に捕捉したmRNA群の識別方法を説明する図である。
【図5】電極2上のプローブ22に固定されたmRNAの標識物31’、32’、33’が細胞22の輪郭41との関係において、2次元平面で認識できることを模式的に示す図である。
【図6】電極2上に固定されたmRNAの標識物を模式的に示す他の例の図である。
【図7】(A)は実施例2の細胞構成物質分取チップを示す平面図、(B)は図6(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。
【図8】基板上に固定されたmRNAの標識物を模式的に示す他の例の図である。
【図9】(A)は実施例3の細胞構成物質分取チップを示す平面図、(B)は図8(A)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。
【図10】実施例3の細胞構成物質分取チップを示す平面図である。
【図11】実施例3の細胞構成物質分取チップの変形例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0068】
1…石英基板、1’…ガラス基板、2…透明電極、2’…対向電極、3…引き出し電極、4,4−1,4−2…アガロースゲル膜、5…区画、6,6’…溝、7…細胞、8…スペーサー、9…細胞吸着防止用アガロース膜、10…基板、20…プローブ、21…パルスレーザ、22,22’…細胞、23…核酸、25…タンパク質、60…電源、31,32,33…標識プローブ、31’,32’,33’…標識物、41…細胞の境界、42…核の境界、43,44,45,46…金ナノ粒子、43’,44’…少量のイントロン配列を認識する粒子、51…細胞膜、52…核膜、55,56…金ナノ粒子、61,62,63…マーカー、80…組織断片、81…特定細胞層、82…組織断片のその他の部位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の生体物質を捕捉するためのプローブが基板表面に固定された基板構造、前記基板構造の生体物質を捕捉するためのプローブが設けられた面に細胞を含む緩衝液を保持する空間構造、前記空間構造に保持された緩衝液中の細胞を破壊する機構、該破壊された細胞に含まれる所定の生体物質を前記基板表面に2次元投影する機構、前記基板表面のプローブに捕捉された生体物質を区別して検出する機構からなることを特徴とする細胞構成物質解析システム。
【請求項2】
所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記領域間を必要に応じて連通する手段と、前記基板の領域表面に設けられた前記基板の領域に収容された細胞の構成物質を捕捉することのできるプローブと、前記基板の領域の上下から電界を印加するための電極と、を備えることを特徴とする細胞構成物質解析のための細胞構成物質分取チップ。
【請求項3】
前記区分された領域の表面が2種類のモノマーを重合させて調製するポリマー層とされ、該ポリマー層が重合用の第1の官能基を2箇所に有する第1のモノマーと重合用の第2の官能基を2箇所に有する第2のモノマーを交互に配するように重合した構造で、前記第1のモノマーおよび前記第2のモノマーの片方には生体物質捕捉用残基を持つ構造である請求項2記載の細胞構成物質分取チップ。
【請求項4】
前記区分された領域の表面が2種類のモノマーを重合させて調製するポリマー層とされ、該ポリマー層が重合用の第1の官能基を2箇所に有する第1のモノマーと重合用の第2の官能基を2箇所に有する第2のモノマーを交互に配するように重合した構造で、前記第1のモノマーおよび前記第2のモノマーのそれぞれには異なる生体物質捕捉用残基を持つ構造である請求項2記載の細胞構成物質分取チップ。
【請求項5】
前記ポリマー層が前記基板表面に設けられた電気伝導性の部材表面に形成された請求項3または請求項4記載の細胞構成物質分取チップ。
【請求項6】
前記破壊された細胞に含まれる所定の生体物質を前記基板表面に2次元投影する機構が前記細胞を含む緩衝液を保持する空間構造を挟んで電界を印加する電極と電源である請求項1記載の生体物質解析システム。
【請求項7】
前記細胞を破壊する機構が細胞に320nmから400nmの波長範囲の紫外光を照射できる構造である請求項1記載の生体物質解析システム。
【請求項8】
前記基板表面のプローブに捕捉された生体物質を区別して検出する機構が、前記生体物質にハイブリダイズする標識プローブを標識するナノ粒子とこれを識別する計測手段であり、前記ナノ粒子は、サイズと材料で特定されるものである請求項1記載の生体物質解析システム。
【請求項9】
前記生体物質を捕捉するためのプローブを固定する基板表面が、2種類のモノマーを重合させて調製するポリマー層とされ、該ポリマー層が重合用の第1の官能基を2箇所に有する第1のモノマーと重合用の第2の官能基を2箇所に有する第2のモノマーを交互に配するように重合した構造で、前記第1のモノマーおよび前記第2のモノマーの片方には生体物質捕捉用残基を持つ構造である請求項1記載の生体物質解析システム。
【請求項10】
所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記領域間を必要に応じて連通する手段と、前記基板の領域表面に設けられた前記基板の領域に収容された細胞の構成物質を捕捉することのできるプローブと、前記基板の領域の上下から電界を印加するための電極とを備える細胞構成物質解析のための細胞構成物質分取チップを使用して、
前記区画の領域に細胞を含む緩衝液を保持する工程、
前記区画の領域に保持された細胞を破壊する工程、
該破壊された細胞に含まれる所定の生体物質を前記基板の領域に2次元投影し、前記プローブに所定の生体物質を捕捉する工程、
該捕捉された所定の生体物質に、所定のナノ粒子で標識されたプローブを反応させる工程、
該反応したプローブのナノ粒子の粒子径および元素組成を解析し所定の生体物質の種類と位置を生体物質の分子毎で同定する工程、
からなることを特徴とする細胞構成物質解析法。
【請求項11】
個々の細胞を保持するための所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記区分された領域にスポット状に配列された構造の前記細胞の構成物質を捕捉することのできる複数種のプローブと、前記基板の前記区分された領域間を必要に応じて連通する機構と、を有する細胞構成物質分取チップ。
【請求項12】
個々の細胞を保持するための所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記区分された領域にスポット状に配列された構造の前記細胞の構成物質を捕捉することのできる複数種のプローブと、該基板の前記領域間を必要に応じて連通する機構とを有する細胞構成物質分取チップと、前記基板の領域の上下から電界を印加するための電極とを備える細胞構成物質解析のための細胞構成物質分取チップを使用して、
前記区画の領域に細胞を含む緩衝液を保持する工程、
前記区画の領域に保持された細胞を破壊する工程、
該破壊された細胞に含まれる所定の生体物質を前記基板の領域に存在する前記複数種のプローブ所定の生体物質を捕捉する工程、
該捕捉された所定の生体物質に、所定のナノ粒子で標識されたプローブを反応させる工程、
該反応したプローブのナノ粒子の粒子径および元素組成を解析し所定の生体物質の種類と位置を生体物質の分子毎で同定する工程、
からなることを特徴とする細胞構成物質解析法。
【請求項13】
所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記領域間を必要に応じて連通する手段とを備える細胞構成物質解析のための細胞構成物質分取チップを使用して、
前記区画の領域に細胞を含む緩衝液を保持する工程、
前記区画の領域に保持された細胞を所定の条件の乾燥雰囲気に曝して細胞を乾燥させるか、あるいは、細胞が着床した前記区画の領域を凍結させた後に乾燥させる工程、
所定の溶液を添加し、細胞膜を物質透過性にする工程、
前記区画の領域に固定された細胞構成物質以外を洗浄する工程、
前記区画の領域に固定された細胞構成物質に、所定のナノ粒子で標識されたプローブを反応させる工程、
該反応したプローブのナノ粒子の粒子径および元素組成を解析し所定の生体物質の種類と位置を生体物質の分子毎で同定する工程、
からなることを特徴とする細胞構成物質解析法。
【請求項14】
所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記領域間を必要に応じて連通する手段とを備える細胞構成物質解析のための細胞構成物質分取チップを使用して、
前記区画の領域に細胞を含む緩衝液を保持する工程、
前記区画の領域に保持された細胞をアルデヒド類を含む溶液に曝して細胞構成物質を固定する工程、
所定の溶液を添加し、細胞膜を物質透過性にする工程、
前記区画の領域に固定された細胞構成物質を洗浄する工程、
前記区画の領域に固定された細胞構成物質に、所定のナノ粒子で標識されたプローブを反応させる工程、
該反応したプローブのナノ粒子の粒子径および元素組成を解析し所定の生体物質の種類と位置を生体物質の分子毎で同定する工程、
からなることを特徴とする細胞構成物質解析法。
【請求項15】
所定のマーカーが付されるとともに所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記領域間を必要に応じて連通する手段と、前記基板の領域表面に設けられた前記基板の領域に収容された細胞の構成物質を捕捉することのできるプローブと、前記基板の領域の上下から電界を印加するための電極とを備える細胞構成物質解析のための細胞構成物質分取チップを使用して、
前記区画の領域に細胞を含む緩衝液を保持する工程、
前記区画の領域に保持された細胞と前記マーカーが一つの画面中に入る第1の画像を得る工程、
前記区画の領域に保持された細胞を破壊する工程、
該破壊された細胞に含まれる所定の生体物質を前記基板の領域に2次元投影し、前記プローブに所定の生体物質を捕捉する工程、
該捕捉された所定の生体物質に、所定のナノ粒子で標識されたプローブを反応させる工程、
前記プローブを標識するナノ粒子と前記マーカーが一つの画面中に入る第2の画像を得る工程、
該反応したプローブのナノ粒子の粒子径および元素組成を解析し所定の生体物質の種類と位置を生体物質の分子毎で同定する工程、
前記第1の画像と前記第2の画像とをマーカーを一致させて合成する工程、
からなることを特徴とする細胞構成物質解析法。
【請求項16】
所定のマーカーが付されるとともに所定の区画に区分された領域を有する基板と、該基板の前記領域間を必要に応じて連通する手段とを備える細胞構成物質解析のための細胞構成物質分取チップを使用して、
前記区画の領域に細胞を含む緩衝液を保持する工程、
前記区画の領域に保持された細胞と前記マーカーが一つの画面中に入る第1の画像を得る工程、
前記区画の領域に保持された細胞を所定の条件の乾燥雰囲気に曝して細胞を乾燥させるか、あるいは、細胞が着床した前記区画の領域を凍結させた後に乾燥させる工程、
ペプシンを含む溶液を添加し、細胞膜を物質透過性にする工程、
前記区画の領域に固定された細胞構成物質を洗浄する工程、
前記区画の領域に固定された細胞構成物質に、所定のナノ粒子で標識されたプローブを反応させる工程、
前記プローブを標識するナノ粒子と前記マーカーが一つの画面中に入る第2の画像を得る工程、
該反応したプローブのナノ粒子の粒子径および元素組成を解析し所定の生体物質の種類と位置を生体物質の分子毎で同定する工程、
前記第1の画像と前記第2の画像とをマーカーを一致させて合成する工程、
からなることを特徴とする細胞構成物質解析法。
【請求項17】
所定の生体物質を捕捉するためのプローブが基板表面に固定された基板構造、前記プローブを固定した基板表面には細胞吸着防止用のアガロース薄膜が塗布された構造、表面が前記基板構造の生体物質を捕捉するためのプローブが設けられた面に細胞を含む緩衝液を保持する空間構造、前記空間構造に保持された緩衝液中の細胞を破壊する機構、該破壊された細胞に含まれる所定の生体物質を前記基板表面に2次元投影する機構、前記基板表面のプローブに捕捉された生体物質を区別して検出する機構からなることを特徴とする細胞構成物質解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−14297(P2007−14297A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201330(P2005−201330)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(504296024)有限責任中間法人 オンチップ・セロミクス・コンソーシアム (39)
【Fターム(参考)】