説明

細菌の増殖を制御する化合物及びその応用

【課題】脱窒に直接影響を及ぼす因子を見出し、それを利用した排水処理装置及び排水処理方法を提供すること。
【解決手段】三価の鉄イオンは脱窒菌の増殖を促進する、脱窒に直接影響を及ぼす因子である。本発明の排水処理装置100は、導入された排水中の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを脱窒菌により亜酸化窒素及び/又は窒素に還元処理する脱窒槽10と、前記脱窒槽内に三価の鉄イオンからなる脱窒菌の増殖促進剤を供給する増殖促進剤供給手段20と
を備えることを特徴とする。三価の鉄イオンにより活性化された脱窒菌は効率よく硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを亜酸化窒素及び/又は窒素に還元する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の増殖を制御する化合物及びその応用に関する。より詳細には、本発明は、脱窒菌の増殖促進剤並びにそれを利用した排水処理装置及び排水処理方法に関する。さらに、本発明は抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の細菌は、硝酸イオン(NO)や亜硝酸イオン(NO)を還元して窒素(N)や亜酸化窒素(NO)を放出し、ATPを合成する硝酸呼吸を行う。このような細菌を脱窒菌といい、このような過程を脱窒という。より具体的には、NO→NO→NO→NO→Nの経路で硝酸イオンは窒素まで還元され、各段階においてそれぞれ硝酸還元酵素(NAR)、亜硝酸還元酵素(NIR)、一酸化窒素還元酵素(NOR)及び亜酸化窒素還元酵素(NOS)が関与している。代表的な脱窒菌として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が挙げられる。
【0003】
脱窒菌の脱窒は環境工学分野において重要な意義を有しており、脱窒菌を利用した脱窒方法が開発され排水処理に応用されている(特許文献1等)。脱窒の処理効率の向上を目的として様々な工夫がなされており、脱窒槽に水素ガスを吹き込む方法(特許文献1等)や脱窒槽のpHを制御する方法(特許文献2等)が検討されている。
【0004】
一方、緑膿菌は病原性が低いため健常者に感染することは少ないが、加齢、疾患、薬物投与等により免疫力が低下した人に感染して日和見感染の原因菌となることが多い。緑膿菌は抗菌剤に対して強い抵抗性を有しているため多剤耐性緑膿菌が出現し、緑膿菌感染症の治療は困難となる。そこで、緑膿菌等の日和見病原体に対する様々な抗菌剤が開発されている(特許文献3等)。
【0005】
【特許文献1】特開平05−317881号公報
【特許文献2】特開2000−288583号公報
【特許文献3】特開2006−273796号公報
【特許文献4】特開2003−1292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存の脱窒の処理効率を向上させる方法は、脱窒菌の生育環境を単に最適化するものに過ぎず、脱窒菌の脱窒に直接影響を及ぼすものではなかった。脱窒に直接影響を及ぼすことができれば、脱窒の効率を劇的に向上させることができると考えられる。したがって、本発明は、脱窒に直接影響を及ぼす因子を見出すことを目的とし、それを利用した排水処理装置及び排水処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、抗菌剤を使用する限り必ずそれに対する耐性菌は出現するため、根本的な解決には至らない。しかし、脱窒(すなわち硝酸呼吸)に直接影響を及ぼすことができる抗菌剤であれば耐性菌は生じ難いと考えられる。したがって、本発明は、脱窒に直接影響を及ぼす因子を見出すことを目的とし、それを利用した抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロン(Pseudomonas−Quinolone−Signal:PQSとも言う)が脱窒を抑制することを明らかにした。また、2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロンの脱窒抑制作用はキレート活性によるものであることを明らかにし、他のキレート剤も脱窒を抑制することを明らかにした。さらに、三価の鉄イオンの添加が脱窒を促進することも明らかにした。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の脱窒菌の増殖促進剤は、三価の鉄イオンからなることを特徴とする。本発明の脱窒菌の増殖促進剤は、脱窒菌の脱窒活性を向上させ、脱窒菌を増殖させることが可能である。したがって、脱窒の処理効率を向上させることができ、排水処理方法及び排水処理装置に利用することが可能である。なお、特許文献4には、二価の鉄イオンを増殖促進剤として利用する脱窒方法が開示されている。しかしながら、三価の鉄イオンに関して何も言及されておらず、また二価の鉄イオンを単独で使用した場合の増殖促進効果は微々たるものでしかない(特許文献4の実施例12)。
【0010】
本発明の第1の排水処理装置は、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を脱窒する排水処理装置において、導入された排水中の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを脱窒菌により亜酸化窒素及び/又は窒素に還元処理する脱窒槽と、前記脱窒槽内に三価の鉄イオンからなる脱窒菌の増殖促進剤を供給する増殖促進剤供給手段とを備えることを特徴とする。また、本発明の第1の排水処理方法は、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を、脱窒槽内において脱窒菌により前記硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを亜酸化窒素及び/又は窒素に還元することで処理する排水処理方法において、三価の鉄イオンからなる脱窒菌の増殖促進剤の存在下で前記脱窒菌を前記脱窒槽内で増殖させることを特徴とする。本発明の排水処理装置及び排水処理方法は、本発明の脱窒菌の増殖促進剤を利用したものであり、効率よく脱窒を行うことが可能である。
【0011】
本発明の第2の排水処理装置は、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を脱窒する排水処理装置において、導入された排水中の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを脱窒菌により亜酸化窒素及び/又は窒素に還元処理する脱窒槽と、前記脱窒槽内に三価の鉄イオンのキレート剤を供給する三価の鉄イオンのキレート剤供給手段とを備えることを特徴とする。また、本発明の第2の排水処理方法は、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を、脱窒槽内において脱窒菌により前記硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを亜酸化窒素及び/又は窒素に還元することで処理する排水処理方法において、三価の鉄イオンのキレート剤の存在下で前記脱窒菌を前記脱窒槽内で増殖させることを特徴とする。三価の鉄イオンのキレート剤(特に、2,2’−ビピリジル)は、脱窒菌の脱窒におけるN産生量を減少させずに、NO産生量を減少させる効果を有する。NOはCOの約300倍の温室効果を有しており、京都議定書において排出規制の対象となっている。地球温暖化防止の観点から、排水処理におけるNOの排出量を減少させることは非常に重要な意義がある。
【0012】
また、本発明の抗菌剤は、三価の鉄イオンのキレート剤からなることを特徴とする。本発明の抗菌剤は、脱窒菌の脱窒を抑制し、脱窒菌の増殖を阻害することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の脱窒菌の増殖促進剤は、脱窒菌の脱窒活性を向上させ、脱窒菌を増殖させることが可能であり、排水処理装置及び排水処理方法に利用することが可能である。本発明の第1の排水処理装置及び排水処理方法は、本発明の脱窒菌の増殖促進剤を利用することで、効率よく脱窒を行うことが可能である。本発明の第2の排水処理装置及び排水処理方法は、排水処理に伴い排出されるNOの量を低減することが可能である。
【0014】
また、本発明の抗菌剤は、脱窒菌の脱窒を抑制し、脱窒菌の増殖を阻害することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の脱窒菌の増殖促進剤は、三価の鉄イオンからなることを特徴とする。三価の鉄イオンは脱窒菌の脱窒促進剤として機能する。本発明の脱窒菌の増殖促進剤の存在下で脱窒菌を培養すると、脱窒菌の脱窒活性が向上し、脱窒菌が効率よく脱窒を行い増殖する。脱窒菌を複合系で培養すると、脱窒菌自身が産生するPQSによって脱窒菌は脱窒及び増殖が抑制された状態にある。しかし、三価の鉄イオンの存在下で脱窒菌を培養すると、PQSにより抑制された脱窒及び増殖を回復させ、脱窒菌が本来有している脱窒能及び増殖能を最大限にまで引き出すことが可能となる。適切な増殖促進活性を発揮させるため、脱窒菌の増殖促進剤の添加濃度は5μM〜500μMであることが好ましく、10μM〜200μMであることがより好ましい。
【0017】
三価の鉄イオンとして、三価の鉄イオンの塩を用いることができ、例えば、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)等が挙げられる。
【0018】
図10は、本発明の第1の排水処理装置の実施形態を示す概略図である。図10に示すように、排水処理装置100は、脱窒菌が収容されている脱窒槽10と、脱窒槽に三価の鉄イオンを供給する増殖促進剤供給手段20とを備えている。脱窒槽10には、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水するラインL1と、増殖促進剤供給手段20から脱窒槽10内に三価の鉄イオンを供給するラインL2と、脱窒反応後の亜酸化窒素及び/又は窒素を含有する処理水を脱窒槽10の外部に排出するラインL3とが接続されている。脱窒槽10は嫌気的条件に保たれている。
【0019】
次に上述の構成の排水処理装置100を用いた排水処理方法について説明する。
【0020】
まず、ラインL1を経て、処理対象排水を脱窒槽10に導入し、脱窒槽10内の脱窒菌と混合される。次いで、ラインL2を経て増殖促進剤供給手段20から三価の鉄イオンが脱窒槽10内に供給され、脱窒槽10内の脱窒菌と混合される。三価の鉄イオンを供給することで、脱窒槽10内の脱窒菌は活性化され、ラインL1から供給された処理対象排水に含まれる硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンは亜酸化窒素及び/又は窒素へと効率よく還元される。亜酸化窒素及び/又は窒素を含む脱窒反応後の処理水はラインL3により脱窒槽10の外部へと排出される。
【0021】
図11は、本発明の第2の排水処理装置の実施形態を示す概略図である。図11に示すように、排水処理装置200は、脱窒菌が収容されている脱窒槽30と、脱窒槽に三価の鉄イオンのキレート剤を供給する三価の鉄イオンのキレート剤供給手段40とを備えている。脱窒槽30には、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水するラインL4と、三価の鉄イオンのキレート剤供給手段40から脱窒槽30内に三価の鉄イオンのキレート剤を供給するラインL5と、脱窒反応後の亜酸化窒素及び/又は窒素を含有する処理水を脱窒槽30の外部に排出するラインL6とが接続されている。脱窒槽30は嫌気的条件に保たれている。
【0022】
次に上述の構成の排水処理装置200を用いた排水処理方法について説明する。
【0023】
まず、ラインL4を経て、処理対象排水を脱窒槽30に導入し、脱窒槽30内の脱窒菌と混合される。次いで、ラインL5を経て三価の鉄イオンのキレート剤供給手段40から三価の鉄イオンのキレート剤が脱窒槽30内に供給され、脱窒槽30内の脱窒菌と混合される。三価の鉄イオンのキレート剤を供給することで、脱窒槽30内の脱窒菌はNの産生量をほとんど減少させずにNOの産生量を減少させることができる。ラインL4から供給された処理対象排水に含まれる硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンは亜酸化窒素及び/又は窒素へ還元されるが、三価の鉄イオンのキレート剤を供給しない場合と比較して窒素へ還元される割合が高くなる。亜酸化窒素及び/又は窒素を含む脱窒反応後の処理水はラインL6により脱窒槽30の外部へと排出される。
【0024】
次に、本発明の抗菌剤について説明する。本発明の抗菌剤は、三価の鉄イオンのキレート剤からなる。三価の鉄イオンのキレート剤が存在すると、脱窒菌の脱窒反応すなわち硝酸呼吸が抑制され、ATPの合成の抑制及び脱窒菌の増殖抑制へと繋がる。また、三価の鉄イオンのキレート剤は、脱窒菌以外の細菌の増殖も抑制する。本発明の抗菌剤は、特に感染の初期段階での細菌の増殖の抑制に有効と考えられる。また、本発明の抗菌剤と既存の抗菌剤とを組み合わせることで効果的に細菌の増殖を抑制することができると考えられる。
【0025】
三価の鉄イオンのキレート剤としては公知の化合物が使用でき、例えば、2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロン、2,2’−ビピリジル、デフェロキサミン及びその塩、デフェラシロクス、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、1,10−フェナントロリン、ポルフィリン等が挙げられ、特に2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロン、2,2’−ビピリジル、デフェロキサミン及びその塩並びにデフェラシロクスが好ましい。
【0026】
2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロンは、特異性が高いという優れた特性を備えている。すなわち、2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロンは脱窒菌の脱窒反応を特異的に抑制することができ、その他の場面において三価の鉄イオンのキレート剤として機能し難いため、効果的に細菌の増殖を抑制することができ、かつ副作用が生じる可能性が低い。
【0027】
デフェロキサミン(N’−[5−(acetyl−hydroxy−amino)pentyl]−N−[5−[3−(5−aminopentyl−hydroxy−carbamoyl)propanoylamino]pentyl]−N−hydroxy−butanediamide)は三価の鉄イオンと結合して、安定した水溶性のキレート化合物であるフェリオキサミンを形成する。臨床上、メシル酸デフェロキサミンが鉄過剰症の治療薬として使われている。鉄過剰症に関するメシル酸デフェロキサミンの用法及び用量は、メシル酸デフェロキサミンは1日量500mg〜1000mgを1〜2回に分けて筋肉内注射する、又は1日量80mg/kgを限度として1回1000mgを毎時15mg/kgの速度で点滴静注する。抗菌剤としてデフェロキサミン及びその塩を使用する場合、これを参考に用法及び用量を決定することができる。
【0028】
デフェラシロクス([4−[(3Z,5E)−3,5−bis(6−oxo−1−cyclohexa−2,4−dienylidene)−1,2,4−triazolidin−1−yl]benzoic acid)も鉄過剰症の治療薬として臨床で使われている。小児患者において1日1回20〜30mg/kgの経口投与が臨床上有効な鉄キレート効果を示すことが明らかになっている。抗菌剤としてデフェラシロクスを使用する場合、これを参考に用法及び用量を決定することができる。
【0029】
本発明の抗菌剤は、その投与形態に合わせ薬学的に許容される添加剤を加えて各種製剤化することができる。添加剤としては、製剤分野において通常用いられる各種の添加剤が使用可能であり、例えばゼラチン、乳糖、白糖、酸化チタン、デンプン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、トウモロコシデンプン、マイクロクリスタリンワックス、白色ワセリン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸カルシウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ソルビトール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、硬化ヒマシ油、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、タルク、植物油、ベンジルアルコール、アラビアゴム、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン等が挙げられる。
【0030】
これらの添加剤との混合物として製剤化される剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくは坐剤等の固形製剤;シロップ剤、エリキシル剤若しくは注射剤等の液体製剤等が挙げられる。これらは、製剤分野における通常の方法に従って調製することができる。なお、液体製剤にあっては、用時に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁させる様式であってもよい。また、特に注射剤の場合、必要に応じて生理食塩水又はブドウ糖液に溶解又は懸濁させてもよく、更に緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【実施例】
【0031】
(細菌株、プラスミド及び増殖条件) 軽質転換用の大腸菌株JM109及びDH5αはタカラバイオから購入した。大腸菌S17−1はSimonら,Methods Enzymol.,118:640−659(1986)に記載の方法により得た。クローニングベクターpHSG398(クロラムフェニコール耐性)はタカラバイオから購入した。pK19mobsac由来自殺ベクターpG19II(ゲンタマイシン耐性)はMasedaら,Antimicrob.Agents Chemother.,48:1320−1328(2004)に記載の方法で得た。ブロードホストレンジベクターであるpUCP24(ゲンタマイシン耐性)はWestら,Gene,148:81−86(1994)に記載の方法で得た。pMEX9、pMEXnarK、pMEXnirS、pMEXnorC及びpMEXnosRはToyofukuら,J.Bacteriol.,189:4969−72(2007)に記載の方法で得た。
【0032】
使用したプライマーは下表の通りである。
【0033】
【表1】

【0034】
細菌株は37℃において、Luria−Bertani(LB)培地又はLB寒天培地で増殖させた。大腸菌(E.coli)には10μg/mlの濃度のゲンタマイシンを、緑膿菌(P.aeruginosa)には80μg/mlの濃度のゲンタマイシンを、必要に応じて加えた。試験培養を行う前に、緑膿菌は嫌気的に4mlのLB培地を含む24mlの試験管で増殖させ、開始時の600nmにおける吸光度(OD600)が0.01となるように嫌気培地に接種した。嫌気培養のため、ブチルゴムで栓をしたハンゲート試験管又は三角フラスコの空気をアルゴンで置換した。増殖、脱窒活性及び転写活性は、5mlのLBN培地(100mMのKNOを添加したLB培地)を含む17mlのハンゲート試験管を使い、37℃でインキュベーションし、200rpmで振盪して測定した。脱窒酵素活性を測定するために使用した細胞は、80mlのLBNを含む500mlの三角フラスコ中で37℃、200rpmで培養した。
【0035】
(緑膿菌変異体の構築) pqsA、pqsR及びpqsEの欠失カセットを保有するプラスミドpG19pqsA、pG19pqsR及びpG19pqsEをMasedaら,Antimicrob.Agents Chemother.,48:1320−1328(2004)に記載の方法と同じ方法で作製した。PAO1の染色体を、pqsAF1/pqsAR2、pqsRF1/pqsRR2及びpqsEF1/pqsER2プライマー対で増幅し、XbaI/HindIIIで処理したクローニングベクターpHSG398のマルチクローニングサイトにライゲートした。pqsAF2/pqsAR1、pqsRF2/pqsRR1及びpqsEF2/pqsER1プライマー対を使ったインバースPCRで、pHSG398のpqsA、pqsR及びpqsEの隣接DNA断片を増幅した。増幅したpqsAの隣接断片はSpeIで消化し、増幅したpqsR及びprsEの隣接断片はBglIIで消化した。これらの制限酵素部位はプライマーに付加されている。pqsA、pqsR及びpqsE欠失DNA断片をpG19IIのマルチクローニングサイトのXbaI−HindIII部位にサブクローニングし、pG19pqsA、pG19pqsR及びpG19pqsEを作製した。大腸菌S17−1(Simonら,Methods Enzymol.,118:640−659(1986))にコンジュゲートし、Masedaら,Antimicrob.Agents Chemother.,48:1320−1328(2004)に記載の方法に従って相同組換えを行い、pG19II由来のプラスミドをPAO1に導入した。変異株をPCRで分析した。
【0036】
(細胞画分の調製) LBN培地で増殖させた細胞を中対数増殖期(6時間のインキュベーション時間)で回収し、7000g、4℃で遠心し、10%グリセロールを含む100mMのリン酸カリウム緩衝液、pH7.5で2回洗浄した。細胞を同じ緩衝液に懸濁し、超音波処理した。超音波処理した細胞を2000g、4℃で10分間遠心して壊れていない細胞を取り除き、104000g、4℃で60分間遠心した。上清を細胞可溶画分として回収し、ペレットを同じバッファーで再懸濁して膜画分として回収した。
【0037】
(酵素活性測定) NAR活性は、その産物であるNOを比色測定で定量することで測定した(Nicholasら,Methods Enzymol.,3:981−984(1957))。ベンジルビオローゲン−ジチオン酸関連NAR活性は、メチルビオローゲンの代わりにベンジルビオローゲンを使用して、Kobayashiら,J.Biol.Chem.,271:16263−16267(1996)に記載の方法に従って測定した。10mMのNaNO、0.2mMのベンジルビオローゲン及び適切な濃度の嫌気的に培養した緑膿菌の細胞膜画分を含む100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)400μlに、100μlのNaを最終濃度が10mMとなるように加えた。Naを添加する前に反応液の空気をNで置換した。反応液を30℃で5分間インキュベートし、反応液の色がメチルビオローゲンの酸化の指標である透明となるまで撹拌した。呼吸鎖に関連するNAR活性は、NADHを電子供与体として測定した(Radcliffeら、Biochim.Biophys.Acta,205:273−287(1970))。NADH由来NAR活性測定用の500μlの反応液は、10mMのNaNO及び嫌気的に培養した緑膿菌の膜画分を含む。反応液の空気をNで置換した。NADHを最終濃度が5mMとなるように30℃で加えることで反応を開始し、100℃で15分間煮沸することで反応を停止した。
【0038】
NIR活性はNOの消費量を測定してアッセイした(Lamら,Biochim.Biophys.Acta,180:459−472(1969))。200μMのNaNO、200μMのフェナジンメトサルフェート(PMS)及び嫌気的に培養した緑膿菌の可溶画分を含む400μlの反応液に、最終濃度が1mMとなるように100μlのNADHを加えることで反応を開始した。NADHの添加前に反応液の空気はNで置換し、30℃で10分間反応させた。
【0039】
NOR活性はその産物であるNOをガスクロマトグラフィーで測定して、アッセイした。空気をNで置換した4mMのNADH、2mMのPMS及び嫌気的に培養した緑膿菌の膜画分を含む反応液に、20mMのNOドナーであるニトロプルシドナトリウムを100μl加えた。30℃で6分間反応させた。
【0040】
カテコール−2,3−ジオキシゲナーゼ特異的な活性は375nmの吸光度A375を測定してアッセイした(Masedaら,Antimicrob.Agents Chemother.,48:1320−1328(2004)及びSawadaら,Microbiol.Immunol.,48:435−439(2004))。
【0041】
(分析方法) 液体培養における細菌の増殖は、600nmの吸光度でモニターした。タンパク質量は、ブラッドフォード法で定量した(Bradford,Anal.Biochem.,72:248−254(1976))。NOの濃度はブルシン法(Nicholas,Methods Enzymol.,3:981−984(1957))で測定した。NO及びNの濃度は、熱伝導検出器を備えたガスクロマトグラフィー(GC−8AIT;島津製作所)で測定した。ヘリウムをキャリアガスとして使用した。Shincarbon ST又はMolecular Sieve 5AカラムをNO又はNの検出用にそれぞれ使用した。
【0042】
(ピオシアニンアッセイ) ピオシアニンは、Essarらの方法(Essarら,J.Bacteriol.,172:884−900(1990))に従って測定した。細胞をLB又はLBN培地(16mlのハンゲート試験管に2mlの培地)で、好気的培養ではシリコンゴムで、嫌気的培養ではブチルゴムで栓をし、12時間インキュベーションした。1mlの培地を2mlの試験管に回収し、遠心した。上清を新しい試験管に移し、750μlのクロロホルムを加えた。試料を撹拌し、遠心し、下層500μlを新しい試験管に移した。その試験管に0.2NのHClを100μl加え、上層の520nmの吸光度を測定した。A520の数値を培地のOD600で割った。
【0043】
(試験例1) 前述の通り、脱窒はNOをNO又はNへ還元する工程であり、生理学的には嫌気条件下でエネルギーを獲得するために重要な工程でもある。PQSが脱窒に与える影響を調べるため、PQS及び関連する2−アルキル−4−キノロン類(AHQs)を産生しないΔpqsA変異体(pqsA遺伝子に欠失があるPAO1変異体)をLBS培地で嫌気的に増殖させ、外来のPQSを最終濃度が50μMとなるように加えた。PQSを加えると、600nmの濁度が中対数増殖期の50%以下に低下し、PQSにより脱窒が抑制されていることが示唆された(図1A参照)。より詳しく調べるため、12時間インキュベーションしたときのNOの減少量並びにNO及びNの産生量を測定した。PQS添加による増殖の抑制に伴い、NOの減少量は59%低下し(図1B参照)、NOの産生量は51%低下し(図1C参照)、Nの産生量は48%低下した(図1D参照)。これらのデータは、PQSは緑膿菌の脱窒を抑制していることを示している。
【0044】
(試験例2) 脱窒のどの工程がPQSにより抑制されているのかを調べるため、各工程に関与する脱窒酵素の転写にPQSが及ぼす影響を調べた。xylE遺伝子をnarK1、nirS、norC及びnosR脱窒遺伝子のプロモーター領域に融合したプロモーター融合プラスミドを、それぞれΔpqsA変異体にトランスファーした。対照として、pMEX9プラスミドで軽質転換したΔpqsA変異体におけるベースのカテコール−2,3−ジオキシゲナーゼ(C23O)活性を、PQSの添加の有無で調べた。C23O活性は、中対数増殖期(6時間インキュベーション)中で測定した。プロモーター依存性のC23O活性は、そのC23O活性をベースのC23O活性で割って求めた。PQSを最終濃度が50μMとなるように培地に添加したとき、いずれのプロモーター活性にも影響が認められなかった(図2参照)。この結果は、PQSによる脱窒制御は転写制御によるものではなく、他の転写後の機序によるものであることを示している。
【0045】
(試験例3) 転写後のレベルで脱窒が制御されているか否かを調べるため、中対数増殖期の脱窒酵素活性を測定した。PQSの添加あり(最終濃度50μM)又はなしの条件下でΔpqsA変異体を培養し、NAR、NIR及びNOR脱窒酵素活性を測定した。その結果、NAR活性はPQSを添加して培養すると抑制された(PQSを添加せずに培養したときの活性に比べて66%;図3A参照)。興味深いことに、NIR活性はPQSの添加により1.8倍上昇した(図3B参照)。NOR活性はPQSの添加により64%まで低下した(図3C参照)。これらの脱窒酵素の活性の変化は、転写後の制御によるものか、あるいはPQSとの直接の相互作用によるものであろう。PQSが脱窒酵素活性に直接影響を及ぼすかどうかを調べるため、Δpqs変異体の酵素アッセイ反応液にPQSを加えて、酵素活性を測定した。図3Cに示したように、NOR活性はPQSを反応液に加えることで阻害されており、このことはPQSがNOR活性を直接阻害することを示している。一方、NAR及びNIR活性は、PQSを反応液に加えても直接影響を受けていない(図3A及びB)。脱窒遺伝子の転写がPQSにより制御されていないという結果をあわせると、この結果はNAR及びNIRの活性はPQSにより転写後調節を受けており、NOR活性はPQSにより直接阻害されていることを示している。
【0046】
(試験例4) 脱窒酵素はエネルギーが産生される呼吸鎖と関係している。NO呼吸の間、NADHから供与された電子は呼吸鎖を伝達し、最終的にNOが受け取り、この最後の皇帝はNARによって媒介されている。NAR活性測定(図3A)において、NARに直接電子を供与する電子供与体(ベンジルビオローゲン)が使われ、NO呼吸鎖の活性は計算に入っていない。NO呼吸鎖がPQSによって影響を受けるか否かを調べるため、NADH由来のNAR活性の測定を行った。NADHを電子供与体として使用した場合、NADH−NAR活性はPQSの培地への添加により抑制され、PQSを反応液に添加(最終濃度50μM)した場合も直接阻害された(図3D)。この結果は、NO呼吸がPQSにより直接阻害されていることを示す。NADH由来NAR活性はPQSにより直接阻害される(図3D)のに対してベンジルビオローゲン由来NAR活性は阻害されない(図3A)という結果は、NADHからNOまでの電子伝達のいずれかをPQSは直接阻害していることを示す。
【0047】
(試験例5) PQSは緑膿菌における転写を調節するばかりでなく、鉄をキレートすることも報告されている。そこで、PQSの鉄へのキレート効果が脱窒酵素に影響を与えていると考えた。この仮説を試すため、PQSを添加(最終濃度50μM)した培地にFeCl(最終濃度100μM)を補充した。その結果、FeClの添加により、PQSを添加した培養におけるNOの減少量及びNOの産生量が完全に回復した(図4A及びB)。これは、PQSの脱窒制御が鉄のキレート化によるものだということを示している。鉄キレート化が脱窒に影響を及ぼすことを確かめるため、鉄キレート剤である2,2’−ビピリジルを培地に加え(最終濃度120μM)、脱窒活性を測定した。NO減少量及びNO産生量は、PQSの場合と同様に抑制され、FeClの補充により回復した(図4A及びB)。興味深いことに、PQSを加えた場合のN産生量はFeClにより部分的にしか回復せず、2,2’−ビピリジルはN産生量を減少させなかった(図4C)。これらの結果は、NOSが触媒しているNOからNへの還元がPQSの鉄キレート化以外の別の機序によって調節されていることを示唆する。
【0048】
(試験例6) PQSが制御する遺伝子の多くは、同族の応答制御因子PqsR又は機能が未知だがPQSへの応答を促進すると考えられているPqsEを必要とする。NOからNへの還元がこの制御経路で調節されているか否かを調べるため、ΔpqsAΔpqsR(pqsA及びpqsR遺伝子に欠失があるPAO1変異体)及びΔpqsAΔpqsE(pqsA及びpqsE遺伝子に欠失があるPAO1変異体)二重変異体を構築した。PQS(最終濃度50μM)を変異体に加え、12時間のインキュベーションで減少したNO量及び産生したNO及びN量を測定した。ΔpqsAΔpqsR及びΔpqsAΔpqsEにおけるNOの減少及びNOの産生は、ΔpqsAのときと同一であった(図5A〜B)。図5Cに示したように、PQSによるN産生の抑制は、ΔpqsAΔpqsR及びΔpqsAΔpqsEのいずれの二重変異株でも認められず、一方、PQSはΔpqsAにおけるN産生を抑制した(図1D)。この結果は、N産生はPqsEを通じたPQS及びPqsR転写調節因子によって調節されていることを示す。この調節は、PQSはnosの転写を調節していないことから(図2)、nos以外のN産生に関与する他の因子の転写調節に関与している可能性がある。NOからNOへの還元は、PqsE又はPqsRがない場合でもPQSにより抑制されており(図5A及びB)、それはΔpqsAでも認められたとおりであり(図1B及びC)、NOからNOへの還元は、PQSの鉄キレート化により調節されているという結果(図4A〜C)を支持する。ΔpqsAΔpqsR及びΔpqsAΔpqsE株で得られた結果が極性効果によるものかを確認するため、各変異体を適切な野生型のコピー(ΔpqsAΔpqsR/pUCP−pqsR,ΔpqsAΔpqsE/pUCP−pqsE)で補完する相補性実験を行った。驚いたことに、NO減少量並びにNO及びN産生量は、pqsR及びpqsEをプラスミドに発現させたとき、PQSが存在しなくても、強く抑制された。鉄キレート化実験の結果(図4A〜C)とあわせて考えると、これらのデータは、PqsR及びPqsEを媒介する経路であってPQSの鉄キレート化特性とは異なる経路によってPQSはN産生を調節していることを示している。
【0049】
(試験例7) 好気条件において、PQSは、高濃度で(150μM以上)で遅滞期を延長させ、またLB培地単独での増殖と比較して定常期の濁度を若干低下させることが報告されている。一方、嫌気条件では、PQSは増殖を50%まで低下させており、嫌気条件ではPQSが増殖に及ぼす影響が顕著であることを示している。最近の研究(Diggleら,Chem.Biol.,14:87−96(2007))によれば、PQSの鉄キレート化特性が緑膿菌の好気的増殖に影響を及ぼすことが示されており、鉄キレート化性のシデロフォア(ピオシアニン及びピオケリン)を産生できないpvdDpchEF二重変異体において強い影響を及ぼす。この結果は、シデロフォア産生がPQSの増殖抑制に関与していることを示し、脱窒へのPQSの鉄キレート化効果は嫌気条件下でのシデロフォアの産生低下によるものかもしれないと推測された。これを調べるため、LB好気培地、LBN好気培地及びLBN嫌気培地での培養物のピオシアニン産生を測定した。予想通り、ピオシアニン産生はLBN嫌気培養では低下した(図6)。興味深いことに、ピオシアニン産生は、NOを添加した好気培養においても低下しており、ピオシアニン産生がNO及びOの両方によって調節されていることを示唆している。これらの結果は、シデロフォアの不十分な産生のため、好気条件下及びNO存在下の嫌気条件下において、脱窒はPQSにより抑制されることを示唆している。NO非存在下の低下したピオシアニン産生及び鉄キレート化依存性の脱窒調節は、NO等のN−オキシド類及び鉄が、PQSにより増殖が影響を受けるか否かの重要な環境因子であることを示唆している。
【0050】
(試験例8) 細菌の増殖にPQSが効果を及ぼすかを調べた。Pseudomonas putida、Delftia acidovorans、Pseudomonas stutzeri及びComamonas terrigenaをLB培地で好気的に増殖させた。PQS及びFeClを添加する場合には、それぞれ最終濃度50μM及び100μMとなるように加えた。図8から明らかなように、いずれの細菌もPQSの添加により増殖が抑制され、FeClの添加によって増殖が回復した。PQSは細菌の増殖を抑制し、三価の鉄はPQSによる増殖抑制を回復することが明らかとなった。また、Pseudomonas putidaをLBN培地で嫌気的に増殖させた場合も、PQSの添加により増殖が抑制され、FeClの添加によって増殖が回復した。この結果から、PQSは緑膿菌に限らず多くの脱窒菌の増殖の抑制し、また三価の鉄はPQSによる増殖抑制を回復することが予想される。
【0051】
(試験例9) 緑膿菌の増殖に及ぼす2,2−ビピリジルの効果を調べた。緑膿菌を2,2−ビピリジル存在下(200μM)又は非存在下にLB培地で好気的に増殖させるかLBN培地で嫌気的に増殖させた。図9から明らかなように、緑膿菌を好気的に増殖させた場合は2,2−ビピリジルにより増殖が抑制されなかったが、緑膿菌を嫌気的に増殖させた場合は2,2−ビピリジルにより増殖が抑制された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】嫌気増殖及び脱窒に及ぼすPQSの効果を表すグラフである。AはΔpqsA変異体を外来のPQSの添加又は非添加の嫌気増殖を表すグラフである。3回の独立した実験を行い、代表的なデータを示す。BはNO減少量を、CはNO産生量を、DはN産生量を表すグラフである。3回の独立した実験の平均±標準偏差のデータである。
【図2】脱窒遺伝子の転写に及ぼすPQSの効果を表すグラフである。3回以上の独立した実験の平均±標準偏差のデータである。
【図3】脱窒酵素活性及びNO呼吸鎖に及ぼすPQSの効果を表すグラフである。AはNAR活性を、BはNIR活性を、CはNOR活性を、DはNADH依存性NAR活性を表すグラフである。PQSは、培地又は反応液に最終濃度50μMとなるように加えている。1はPQS非添加のΔpqsA変異体の培養物を表し、2はPQSを添加したΔpqsA変異体の培養物を表し、3はPQS非添加のΔpqsA変異体の培養物から回収した細胞画分の反応液にPQSを添加したものを表す。3回以上の独立した実験の平均±標準偏差のデータである。
【図4】脱窒に及ぼす鉄キレート化の効果を表すグラフである。AはNO減少量を、BはNO産生量を、CはN産生量を表すグラフである。3回の独立した実験の平均±標準偏差のデータである。
【図5】PQSにより調節されるN産生にPqsR及びPqsEが関与していることを表すグラフである。AはNO減少量を、BはNO産生量を、CはN産生量を表すグラフである。3回の独立した実験の平均±標準偏差のデータである。
【図6】ピオシアニン産生に及ぼすNO及びOの効果を表すグラフである。LBはLB培地で好気的に培養した場合を表し、LBNはLB培地に100mMのNOを補充した培地(LBN培地)で好気的に培養した場合を表し、LBN/−OはLBN培地で嫌気的に培養した場合を表す。3回の独立した実験の平均±標準偏差のデータである。NDは検出できなかったことを表す。
【図7】PQSによるNO呼吸及び脱窒酵素の調節のモデルを表す図である。実線は直接的な調節を表し、破線は間接的な調節を表す。DHはNADHデヒドロゲナーゼを表し、OMは外膜を表し、PPは細胞膜周辺腔を表し、IMは内膜を表す。NO呼吸鎖及びNOR酵素活性は鉄キレート化を通じてPQSにより直接阻害される。NAR及びNOS活性はPQSにより間接的に抑制され、NIR活性はPQSにより間接的に上昇する。PqsE及びPqsRはNOS活性抑制に関与している。
【図8】各種細菌の増殖に及ぼすPQSの効果を表すグラフである。
【図9】緑膿菌の増殖に及ぼす2,2’−ビピリジルの効果を表すグラフである。
【図10】本発明の第1の排水処理装置の実施形態を示す概略図である。
【図11】本発明の第2の排水処理装置の実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
10及び30…脱窒槽、20…増殖促進剤供給手段、40…三価の鉄イオンのキレート剤供給手段、100及び200…排水処理装置、L1〜L6…ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価の鉄イオンからなる脱窒菌の増殖促進剤。
【請求項2】
硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を脱窒する排水処理装置において、
導入された排水中の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを脱窒菌により亜酸化窒素及び/又は窒素に還元処理する脱窒槽と、
前記脱窒槽内に三価の鉄イオンからなる脱窒菌の増殖促進剤を供給する増殖促進剤供給手段と
を備えることを特徴とする排水処理装置。
【請求項3】
硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を、脱窒槽内において脱窒菌により前記硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを亜酸化窒素及び/又は窒素に還元することで処理する排水処理方法において、
三価の鉄イオンからなる脱窒菌の増殖促進剤の存在下で前記脱窒菌を前記脱窒槽内で増殖させることを特徴とする排水処理方法。
【請求項4】
硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を脱窒する排水処理装置において、
導入された排水中の硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを脱窒菌により亜酸化窒素及び/又は窒素に還元処理する脱窒槽と、
前記脱窒槽内に三価の鉄イオンのキレート剤を供給する三価の鉄イオンのキレート剤供給手段と
を備えることを特徴とする排水処理装置。
【請求項5】
硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含有する排水を、脱窒槽内において脱窒菌により前記硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを亜酸化窒素及び/又は窒素に還元することで処理する排水処理方法において、
三価の鉄イオンのキレート剤の存在下で前記脱窒菌を前記脱窒槽内で増殖させることを特徴とする排水処理方法。
【請求項6】
三価の鉄イオンのキレート剤からなる抗菌剤。
【請求項7】
三価の鉄イオンのキレート剤が2−ヘプチル−3−ヒドロキシ−4−キノロンである、請求項6記載の抗菌剤。
【請求項8】
三価の鉄イオンのキレート剤が2,2’−ビピリジルである、請求項6記載の抗菌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−220007(P2009−220007A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66616(P2008−66616)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】