説明

細菌由来のインタクトなミニ細胞を介した哺乳動物細胞への標的化invitro及びinvivo薬物送達のための組成物及び方法

【課題】治療有効量のペプチドまたはタンパク質の標的化薬物送達用の組成物および方法の提供。
【解決手段】細菌由来のミニ細胞の表面構造に対して特異性を有する第一のアームと哺乳動物細胞の表面レセプターに対して特異性を有する第二のアームとを含む二重特異性リガンドを有し治療有効量のペプチド若しくはタンパク質を含むミニ細胞を用いて、特定の哺乳動物細胞へのエンドサイトーシスを利用するもの、または、二重特異性リガンドを用いることなくミニ細胞を取り込む食作用性哺乳動物細胞を利用するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に癌化学療法の分野における、制御された薬物放出及び特定の組織への薬物の標的指向(targeting)を達成するための発展的成果に関する。具体的には、本発明は、in vivo及びin vitroで所望の標的細胞内に薬物を細胞内送達することを可能にするインタクトな細菌性ミニ細胞による標的化薬物送達(targeted drug delivery)に関する。化学的又は生化学的薬物を含むミニ細胞は、特定の細胞に標的指向され得る新規な送達ビヒクルとなる。これらのビヒクルをターゲティングする1つの方法は、レセプターなどの標的細胞表面構造及びミニ細胞表面構造の両方に特異的に結合する二重特異性分子を用いる。二重特異性リガンドはミニ細胞と標的細胞の間の相互作用を仲介し、それによって標的細胞がミニ細胞を取り込み(すなわち、飲み込み)、標的細胞の細胞質に薬物ペイロード(drug payload)を放出する。細胞質に放出されると、細胞内顆粒、核、細胞骨格、酵素及び補因子などの細胞内の標的に薬物が作用して、治療効果を達成する。別の薬物送達の方法では、食作用又はエンドサイトーシス受容能を持つ標的細胞が、二重特異性リガンドを使用することなく薬物が搭載されたミニ細胞を取り込む。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
現在のところ、癌を治療するのに使用されている多くの薬物は全身投与される。細胞傷害性抗癌剤の全身的な送達は癌治療において重要な役割を担っているが、そのような送達は重大な問題をも引き起こす。例えば、正常な組織/器官が投与された薬物に全身暴露されると、重い毒性が生じ得る(Sarosy及びReed、1993)。この毒性は、全身的に送達された癌化学療法剤が、しばしば、薬物の生物利用性の悪さを克服するため非常に多い投与量で送達されるという事実、並びに、患者の体内での大量分布により一層悪化する。また、全身薬物投与は、しばしば主要血管に安全なカテーテルを使用することが必要となるため、このような投与は侵襲性であり得る。全身薬物投与はしばしば末梢又は中枢のいずれかの静脈の使用を必要とするので、静脈炎などの局所合併症を引き起こし得る。また薬物の管外遊出は、ビンカアルカロイド及びアントラサイクリンの投与に一般にみられるような、投与の局部に発疱/組織損傷を起こし得る。
【0003】
標的化薬物送達のための既存のシステムはひどく不完全であるので、現在の癌薬物治療戦略は全身薬物投与に伴う問題に十分に取り組んでいない。これらの問題に取り組むための1つのアプローチとして、単に、投与スケジュール又は注入治療計画(ボーラス投与、間欠投与又は連続投与のいずれでもよい)を変更することが挙げられる。
【0004】
また、静脈注射に代わる幾つか代替的なアプローチがあり、それぞれ、局所的に送達、即ち、腫瘍領域に選択的に送達するように設計される。このような代替法の例として、ポリマー移植、腹腔内注入、胸膜内注入、動脈内送達、化学塞栓術及びエアロゾルの吸入が挙げられる。特に化学療法の腹腔内投与は卵巣癌及び他の腹部腫瘍について広範囲で研究されている(Kirmaniら、1994;Albertsら、1996)。残念なことに、腹腔内注入による投与を含むこれらの各送達方法は、腫瘍部位に選択的に薬物を送達し、副作用を低減することについてほんのわずかしか成功していない。
【0005】
細胞傷害性抗癌剤の全身送達に伴う問題に取り組むための他の試みとして、別の製剤及び送達システムの使用が挙げられ、抗腫瘍剤と細胞保護剤の同時投与の他に、制御放出生物分解性ポリマー、ポリマー性微小球状担体及びリポソームも含まれる(Chonn及びCullis、1995;Kempら、1996;Kumanohosoら、1997;Schillerら、1996;Sharmaら、1996;Siposら、1997)。
【0006】
化学療法剤用の薬物担体としてのリポソームの使用は、抗腫瘍効能を改善し、毒性を低減するために薬物分布を操作する手段として、初めに提案された(Allen、1997により総説される)。リポソームなどの高分子担体に薬物をカプセル化することにより、分布量が有意に低減され、腫瘍における薬物濃度が増加される。これにより、非特異的な毒性のタイプと量が減少して、腫瘍に効果的に送達され得る薬物の量が増加する(Papahadjopoulos及びGabizon、1995;Gabizon及びMartin、1997;Martin、1998)。リポソームは薬物を代謝と血漿での不活化から保護する。更に、健康な内皮細胞を通って大きな分子又は担体が運搬されるには大きさの制限があるので、健康な組織では狭い範囲に薬物が蓄積する(Mayerら、1989;Workingら、1994)。
【0007】
薬物の循環時間を延長するために、リポソームはポリエチレングリコール(PEG)、即ち合成親水性ポリマーでコートされる(Woodle及びLasic、1992)。PEGの頭部基はバリアとして働き、リポソーム表面での種々の血液成分及び血漿オプソニンとの疎水性及び静電相互作用を立体的に阻害し、それにより、細網内皮系によるリポソームの認識を阻止する。PEG被覆リポソームは「立体的に安定化された」(SSL)又はSTEALTHリポソームと称される(Lasic及びMartin、1995)。この技術は、米国でDoxil、ヨーロッパでCaelyxとして知られる、ペグ化リポソ−ムドキソルビシンの市販されている医薬製剤を生み出した。また、多様な他の薬物も癌治療用にリポソーム内にカプセル化されている(Heathら、1983;Papahadjopoulosら、1991;Allenら、1992;Vaageら、1993b;Burke及びGao、1994;Sharmaら、1995;Jonesら、1997;Working、1998)。
【0008】
リポソーム薬物担体は、残念なことに幾つか欠点がある。例えばin vivoではしばしば、薬物が、生物利用可能になる十分な速度でリポソームから漏出し、正常な組織に対し毒性を生じさせる。同様に、リポソームはin vivoで不安定であり、リポソームが壊れて薬物を放出し、正常な組織に対し毒性を生じさせる。また、高親水性薬物のリポソーム製剤は、腫瘍部位で、思い止まらせるほどに低い生物利用能しか有しないが、これは親水性薬物の膜透過性が非常に低いからである。このことが、リポソーム担体が腫瘍に達した時点での薬物放出を制限する。また、高疎水性薬物はリポソームの二重層コンパートメントと主に結合する傾向があり、これによって、血漿成分に薬物が急速に再分布するので封入安定性が低くなる。更に、1−β−D−アラビノフラノシルシトシン(ara−C)及びメトトレキサートなどの幾つかの薬物は、膜トランスポーターを介して直接腫瘍細胞に入るだけである(Plagemanら、1978;Wileyら、1982;Westerhofら、1991、1995;Antony、1992)。このような場合、治療効果を達成するには、リポソーム担体が腫瘍部位の近くに十分な量の薬物を放出する必要があるであろう(Heathら、1983;Matthayら、1989;Allenら、1992)。最後に、従来のリポソーム製剤の使用は、細網内皮系マクロファージにおける薬物の局在化及び付随するマクロファージ毒性により(Allenら、1984;Daemenら、1995、1997)、患者が日和見感染症になるリスクを高める(White、1997)。この問題はカポジ肉腫の治療を受けるエイズ患者などの免疫不全の患者に目立っている。
【0009】
複数の問題が癌治療の成功を著しく妨げ続けるので、腫瘍細胞及び標的器官に薬物を選択的に送達するか、あるいは、投与された抗新生物剤から正常な組織を保護する標的化薬物送達法に対する緊急のニーズがある。このような方法は、薬物に関連する毒性のリスクを最小限にすると同時に、抗癌剤の治療指数を上げて薬物治療の効能を改善するにちがいない。
【0010】
国際特許出願PCT/IB02/04632は、治療用核酸分子を含む組換え型のインタクトなミニ細胞を開示する。このようなミニ細胞はオリゴヌクレオチドとポリヌクレオチドをin vitro及びin vivoで宿主細胞に送達する有効なベクターである。PCT/IB02/04632に示されたデータは、例えば、哺乳動物遺伝子の発現プラスミドを保有する組換えミニ細胞が食細胞及び非食作用性細胞に送達され得ることを示した。また、この特許出願は、エピソームとして複製するプラスミドDNA上に保有される異種核酸を有するミニ細胞産生親細菌株の遺伝子形質転換を開示する。親細菌とミニ細胞を分離すると、エピソームDNAの幾つかがミニ細胞に分離した。得られた組換えミニ細胞は哺乳動物の食細胞に簡単に取り込まれ、細胞のファゴリソソーム内で分解された。驚くべきことに組換えDNAの幾つかはファゴリソソーム膜を逃れて、組換え遺伝子が発現される哺乳動物細胞核に移送された。従って、この特許出願はヒト及び動物の遺伝子治療にミニ細胞が有用であることを示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2003/033519 A2
【特許文献2】US2003/0203481 A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Suzukiら, Production in Escherichia coli of biologically active secretin, a gastrointestinal hormone, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1982, vol. 79, pp. 2475-2479.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ミニ細胞に関連するこれらの最近の知見を基に構築され、特に癌化学療法の関係において継続的ニーズのある改良薬物送達法を取り扱うものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
上記及び他のニーズを取り扱う本発明は、1つの態様において、癌化学治療剤などの薬物を含むインタクトなミニ細胞を本質的に含んでなる組成物を提供する。関連した態様において、本発明は、(i) 薬物を含む、細菌由来のインタクトなミニ細胞及び(ii)製薬上許容できる担体を含む組成物を提供する。
【0015】
別の態様によれば、本発明は二重特異性リガンドを、(i)所望の薬物を含む細菌由来のミニ細胞及び(ii)哺乳動物細胞、好ましくは非食作用性哺乳動物細胞と接触させることを含む、標的化薬物送達方法を提供する。二重特異性リガンドはミニ細胞上の表面構成成分及び哺乳動物細胞上の表面構成成分の両方に特異性を有する。その結果、リガンドはミニ細胞と哺乳動物細胞との結合を引き起こし、ミニ細胞は哺乳動物細胞により取り込まれて、薬物が哺乳動物細胞の細胞質に放出される。
【0016】
また、本発明はミニ細胞ビヒクルを哺乳動物宿主細胞に向けてターゲティングするのに有用な二重特異性リガンドを提供する。二重特異性リガンドはポリペプチド、炭水化物又はグリコペプチドでよく、抗体又は抗体フラグメントを含んでもよい。好ましい実施形態において、二重特異性リガンドは、細菌性ミニ細胞の表面構造に対して特異性を有する第一のアームと、哺乳動物細胞の表面構造に対して特異性を有する第二のアームを有する。リガンド結合のために望ましいミニ細胞表面構造は、リポ多糖類のO−多糖類構成成分である。リガンド結合のために望ましい哺乳動物細胞表面構造はレセプターであり、好ましくはレセプター仲介エンドサイトーシスを活性化できるレセプターである。
【0017】
別の態様において、本発明は、(i)薬物分子を含む細菌由来のミニ細胞及び(ii)ミニ細胞の表面構成成分及び哺乳動物細胞の表面構成成分に結合できる二重特異性リガンドを含む組成物を提供する。
【0018】
本発明は、薬物を含む細菌由来のミニ細胞を、食作用又はエンドサイトーシス受容性である標的哺乳動物細胞と接触させることを含む別の薬物送達方法を提供する。哺乳動物細胞は、薬物を搭載したミニ細胞を取り込み、それから細胞内にその薬物ペイロードを放出する。
【0019】
更に本発明は、ミニ細胞に薬物を搭載する方法を提供する。このような方法の1つには、ミニ細胞を含む細胞外媒体とミニ細胞の細胞質との間に薬物濃度勾配を作ることを含む。薬物はこの濃度勾配を沿ってミニ細胞の細胞質中へ自然に移動する。
【0020】
ミニ細胞に薬物を搭載する別の方法は、細菌性親細胞が薬物をコードする治療用核酸を転写して翻訳する条件下で組換えの細菌性親細胞を培養し、薬物が細菌性親細胞の細胞質に放出されることを含む。細菌性親細胞が分裂して娘ミニ細胞を形成するとき、そのミニ細胞も細胞質に薬物を含む。
【0021】
ミニ細胞に薬物を搭載する更に別の方法は、治療用核酸がミニ細胞で転写され翻訳されるような条件下で、薬物をコードする治療用核酸を含む組換えミニ細胞を培養することを含む。
【0022】
また本発明は、医薬を細胞、組織又は器官に投与することにより病気を治療し又は体質を改変する方法に使用するための医薬の製造における、細菌由来のインタクトなミニ細胞と二重特異性リガンドの使用を提供する。その医薬において、ミニ細胞は、ミニ細胞及び標的哺乳動物細胞に結合できる二重特異性リガンド及び薬物分子を含む。このような医薬は、エイズなどの後天性疾患、肺炎及び結核を含む様々な病状及び疾患を治療するのに有用であるが、癌化学療法の関係に特に有用である。
【0023】
本発明は、(i) 薬物が標的細胞の細胞内に特異的に送達されるので、薬物が関連する毒性を低減し、(ii)薬物がミニ細胞にパッケージされて投与部位で非標的化細胞及び組織と相互作用しないので、ヒト又は動物における投与部位の薬物関連副作用を緩和し、(iii)標的化して薬物をパッケージしたミニ細胞の治療用量を日常的な注射で投与できるので、薬物の持続注入の必要性がなくなり、(iv)特異的なターゲティングが達成されるので、薬物の有効用量を減らすことができ、及び(v)薬物をミニ細胞薬物送達ビヒクルまたは親細菌のいずれかにより生物学的に合成できるので、薬物を精製する必要がなくなる場合もときどきある、ということにより、従来の薬物治療の技術を超えた顕著な改善を提供する。薬物の生合成及び所望の哺乳動物細胞に対する標的化送達の両方のためのミニ細胞の使用は特別な利点を構成する。これは多くの薬物が珍しい植物源または海洋源から抽出されるからであるか、又は化学的に合成するのが非常に難しいからである。更に、メトトレキサートを含む幾つかの化学療法剤は、膜が関連する活発な移送機構を介して哺乳動物に入り込む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ミニ細胞にパッケージされたドキソルビシン(ミニ細胞DOX)の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び液体クロマトグラフ−質量分析(LC−MS)定量を示すチャートである。5×10個のミニ細胞を外部媒体の様々な濃度のドキソルビシンでパッケージした(X軸に示す)。ミニ細胞DOXを精製し、ドキソルビシンを新規な手順を用いて抽出した(実施例3で説明)。抽出物のドキソルビシンの濃度をHPLC(丸)及びLC−MS(三角)を使って測定し、Y軸にプロットした。
【図2】in vitroでミニ細胞DOXを介したヒト乳腺癌細胞(MDA−MB−468)への薬物送達を示すチャートである。細胞毒性アッセイを、EGFR−標的化ミニ細胞DOXEGFRミニ細胞DOX)、非標的化ミニ細胞DOX非標的化ミニ細胞DOX)、遊離型ドキソルビシンで処理した細胞及び未処理細胞で行った。処理後6日以内で遊離型ドキソルビシン又はEGFRミニ細胞DOXのいずれかで処理した細胞は、わずか約30%の生存率を示した。未処理細胞及び非標的化ミニ細胞DOXで処理した細胞は正常な細胞生存率を示した。
【図3】ヒト乳癌異種移植片に対するEGFR−標的化してドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞(EGFRミニ細胞DOX)の高度に有意な治療効果を示すチャートである。腫瘍体積をY軸に示し、異種移植片定着後(post-xenograft establishment)の日数をX軸に示す。X軸下の黒い三角は各種治療が行われた日を示す。X軸下の白い三角は対照グループG5及びG6の治療を変えたことを示し、非標的化ミニ細胞DOXの代わりにEGFRミニ細胞DOXを投与した。説明はマウスの8グループ(1グループあたりn=11)のそれぞれに行われた各種治療を特定する。
【図4】ヒト乳癌異種移植片に対するEGFR−標的化してパクリタキセルをパッケージしたミニ細胞(EGFRミニ細胞Pac)の高度に有意な治療効果を示すチャートである。腫瘍体積をY軸に示し、異種移植片の定着後の日数をX軸に示す。X軸下の黒い三角は各種治療を行った日を示す。説明はマウスの8グループ(1グループあたりn=11)のそれぞれに行われた各種治療を特定する。
【図5】ヒト卵巣癌の異種移植片に対するHER2/neu−標的化してドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞(HER2ミニ細胞DOX)の高度に有意な治療効果を示すチャートである。ミニ細胞はS.Typhimurium(S.t.)又はE.coli(E.c.)のminCDE−親株由来である。腫瘍体積をY軸に示し、異種移植片の定着後の日数をX軸に示す。X軸下の黒い三角は各種治療を行った日を示す。説明はマウスの7グループ(1グループあたりn=11)のそれぞれに行った各種治療を特定する。
【図6】EGFR−標的化してドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞(EGFRミニ細胞DOX)による腫瘍の安定/縮退に対する用量応答効果を示すチャートである。MDA−MB−468腫瘍異種移植片をBalb/c nu/nuマウスに定着させ、グループ(n=11)を2つの異なる濃度のドキソルビシンを含む10、10又は10個のEGFRミニ細胞DOXを静脈内投与して治療した。腫瘍体積をY軸に示し、異種移植片の定着後の日数をX軸に示す。X軸下の黒い三角は各種治療が行われた日を示す。説明はマウスの7グループのそれぞれに行われた各種治療を特定する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好ましい態様の詳細な説明
本発明者らは、細菌由来のインタクトなミニ細胞が、in vitro及びin vivoで哺乳動物細胞にターゲティングするための、薬物をパッケージングして送達するのに有効なビヒクルであることを見出した。より具体的には、本発明者らは、標的細胞がミニ細胞をインターナライズし該ミニ細胞を処理して標的細胞の細胞質に薬物ペイロードを放出する、そのような標的細胞に、該薬物ペイロードを保有するミニ細胞が指向することを見出した。驚くべきことに、薬物は分解されずにこの処理に対し生き残る。
【0026】
これらの知見の1つの例において、本発明者らは薬物をパッケージしたミニ細胞が癌細胞に対してターゲティングでき、in vitroで癌細胞にインターナライズし、後期エンドソーム又はファゴリソソーム内で分解され、それによって癌細胞の細胞質に生物活性薬物の治療有効量が放出されることを観察した。後記実施例を参照されたい。
【0027】
更なる例において、これらの観察は、ヌードマウスにヒト腫瘍異種移植片を使用したin vivoでの研究により確認された。薬物をパッケージしたミニ細胞の静脈内送達は、全てのマウス(1グループあたり11マウス)で高度に有意な腫瘍異種移植の縮小を示した。後記実施例を参照されたい。
【0028】
このように、本発明者らは、(i)ある範囲の異なる薬物をインタクトなミニ細胞にパッケージできること、(ii)薬物がインタクトなミニ細胞の細胞質に細胞外環境から一方向に移動すること、(iii)薬物を治療上有意な濃度でインタクトなミニ細胞の細胞質に移送できること、(iv)インタクトなミニ細胞の膜はミニ細胞の細胞質からの薬物漏出に対して不透過性であること、(v)薬物をパッケージしたミニ細胞の表面構造に二重特異性リガンドが付着してもミニ細胞が不安定にならず、それによりミニ細胞は in vitro及び in vivoの両方で標的哺乳動物細胞に特異的に結合できること、(vi)食作用またはエンドサイトーシス受容能を有する哺乳動物細胞が薬物をパッケージしたミニ細胞を取り込むこと、(vii)非食作用性哺乳動物細胞が、表面レセプターと結合しかつ薬物をパッケージした細胞を迅速に取り込む(すなわち、飲み込む)こと、(viii)取り込まれたミニ細胞が小胞内で分解された後、生物活性薬物のかなりの量が小胞膜を逃れること、(viii)逃れた薬物は哺乳動物細胞内で細胞内のターゲットに作用すること、(ix)化学療法剤をパッケージしたミニ細胞が in vivoで腫瘍塊の周りの漏出性の脈管構造を透過できること、(x)腫瘍の退縮及び疾患の安定を含む高度に有意な治療効果が化学療法剤をパッケージしたミニ細胞を使って達成できること、及び(xi)薬物をパッケージしたミニ細胞が、好ましくない毒性を有意に低減し又は除去すること、を見出した。
【0029】
薬物をパッケージするミニ細胞の能力は幾つかの理由により驚くべきものがある。インタクトなミニ細胞の膜は、ある範囲の構造的に異なる親水性、疎水性及び両親媒性の薬物に対して透過性であることは驚くべきことである。それとは対照的に、生きている細菌性細胞は溶質に対して選択的膜透過性を示すので、ミニ細胞はこの選択性を失っていると思われる。また、ミニ細胞はその細胞質から薬物を排出できないことも驚くべきことである。これは、生きている細菌性細胞は、細菌の細胞質に入る有害化学物質を排出するからである。逆浸透勾配に逆らって、薬物を搭載したミニ細胞が薬物を含んでいないリン酸緩衝生理食塩水に懸濁されていても、ミニ細胞は薬物を保持する。これは更に驚くべきことである。その理由は、薬物はインタクトなミニ細胞膜を通ってミニ細胞内に拡散するように単純に考えられるが、その拡散路は薬物がミニ細胞から出て拡散するのに利用されないからである。本発明の別の予想外の面は、治療的に有効な薬物濃度でミニ細胞にパッケージすることができることであるが、これは、細菌の細胞質(及び、それ故に、ミニ細胞の細胞質)は高濃度の生体適合性の溶質を含むからである。したがって、ミニ細胞の統合性を失うことなく高濃度の非生体適合性の薬物溶質を適応させるのに十分でない予備的細胞内空間が存在しうるかもしれないと信じられていた。
【0030】
また、薬物を送達するミニ細胞の能力は幾つかの理由により驚くべきものがある。例えば、意外なことに、薬物をパッケージしたミニ細胞は細胞外の空間に薬物を漏出しない。これは、リポソーム薬物送達ベクターがずっと持っている問題であり、ミニ細胞はリポソームのように生きていないベシクルである。それにもかかわらず、インタクトなミニ細胞膜は薬物浸透に対する選択性を欠いているが、膜統合性は細胞内の溶質の漏出を防ぐのに十分である。また驚くべきことに、リポソーム薬物送達ベクターとは違って、薬物をパッケージしたミニ細胞の表面にリガンドが付着しても、薬物の漏出を引き起こすミニ細胞統合性の不安定化又は膜の撹乱は生じない。更に、予想外なことに、薬物をパッケージしたミニ細胞は、非食作用性哺乳動物細胞によって、単に二重特異性リガンドがそれら2つの細胞を結合することにより、迅速にエンドサイトーシスされる。以前は、細菌のような大きな粒子は、生きている病原体による侵入関連タンパク質の分泌を含む活性プロセスを介して、非食作用性哺乳動物細胞を通過して侵入することのみ可能であると広く信じられていた。ミニ細胞は、非食作用性哺乳動物細胞に活発に侵入する能力を欠いている、生きていないベシクルである。更に別の驚くべきことは、二重特異性リガンドを保有するかつ薬物をパッケージしたミニ細胞は、in vivoで腫瘍の新生脈管構造(neovasculature)の外に溢出 (extravasate)することができることである。腫瘍の微小環境の新生脈管構造の漏出度についての議論があり、現在の見解は、新生脈管構造の孔は直径150−400nmである(Gabizonら, 2003)。しかしながら、表面リガンドを保有するミニ細胞は直径400nmから600nmであり、それでも該ミニ細胞は、in vivoで腫瘍の新生脈管構造の外に溢出することができる。分解を回避するためのミニ細胞にパッケージされた薬物の能力も、幾つかの理由により驚くべきものがある。取り込まれたミニ細胞は、過酷なことで知られるリソソーム及び後期エンドソーム環境にさらされ、ミニ細胞は破壊される。これらの環境の過酷さにもかかわらず、本発明者らは、ある範囲の薬物は生物学的に活性な形でミニ細胞から放出されて、大きく変化しないで維持されることを観察した。おそらく更に驚くことに、かなりの濃度の薬物が活性な形で哺乳動物細胞の細胞質に逃げ込むことを見出した。つまり、本発明によれば、哺乳動物細胞内の薬物濃度はin vitro及びin vivo実験の両方で治療的に有効に働くのに十分である。
【0031】
更に別の驚くべき発見は、薬物をパッケージしたミニ細胞は有害な副作用を最小限にすることである。例えば、ヌードマウスの尾静脈の静脈内注射部位で、遊離薬物の注射が重篤な皮膚反応を起こすのに対し、薬物をパッケージしたミニ細胞は有害な副作用などを起こさない。
【0032】
これらの知見を踏まえて、本発明は、癌化学療法剤などの所望の薬物を含むインタクトなミニ細胞から本質的に成る組成物を提供する。また本発明は、(i)細菌由来のインタクトなミニ細胞及び(ii)製薬上許容できる担体を含む組成物を提供し、ミニ細胞は癌化学療法剤などの薬物を含む。
【0033】
本発明のミニ細胞は、大腸菌又は他の細菌性細胞の無核の形態であり、DNA分離を伴う細胞分裂の調整を、二分裂中に妨害することにより生じる。原核生物の染色体複製は、中期細胞(mid-cell)の隔膜形成を含む通常の二分裂と関連している。大腸菌では、例えば、minCDなどのmin遺伝子の突然変異により、細胞分裂中の細胞極での隔膜形成の抑制を除くことができ、その結果、正常な娘細胞と無核のミニ細胞が作られる。de Boerら、1992;Raskin及びde Boer、1999;Hu及びLutkenhaus、1999;Harry、2001を参照されたい。ミニ細胞は、一定の状況で自然に発生して放出される他の小さいベシクルと異なり、ミニ細胞とは対照的に、他の小さいベシクルは、特異的な遺伝子再配列又はエピソームの遺伝子発現によらない。本発明を実施するためには、インタクトな細胞壁を有するミニ細胞(「インタクトなミニ細胞」)が望ましい。
【0034】
また、minオペロン突然変異の他に、無核のミニ細胞は、例えばバチルス・サブチリス(B.subtilis)のdivIVB1における隔膜形成に影響を与えるある範囲の他の遺伝子再配列又は突然変異のあとに作られる。Reeve及びCornett、1975;Levinら、1992を参照されたい。またミニ細胞を、細胞分裂/染色体分離に関連するタンパク質の遺伝子発現レベルの摂動(perturbation)後に形成することができる。例えばminEの過剰発現はミニ細胞の極分裂(polar division)とミニ細胞の産生をもたらす。同様に、染色体のないミニ細胞は、例えばバチルス・サブチリスでのsmc突然変異(Brittonら、1998)、バチルス・サブチリスでのspoOJ欠失(Iretonら、1994)、大腸菌でのmukB突然変異(Hiragaら、1989)及び大腸菌でのparC突然変異(Stewart及びD’Ariら、1992)などの、染色体の分離における欠陥により生じ得る。遺伝子産物をin transで供給することができる。コピー数の多いプラスミドから過剰発現される場合、例えば、CafAは、細胞分裂の速度を速め及び/又は複製後の染色体配分を抑制することができ(Okadaら、1994)、連鎖した細胞と無核のミニ細胞の形成を生じる(Wachiら、1989;Okadaら、1993)。ミニ細胞はグラム陽性又はグラム陰性起源のいずれの細菌性細胞からも調製できる。
【0035】
本発明のミニ細胞は1種類以上の薬物を含む。用語「薬物」は、動物、特に哺乳動物及びヒトにおいて局所的又は全身的効果を生ずる生理学的又は薬理学的に活性な物質を含む。薬物は無機又は有機化合物でよく、以下に限定されないが、ペプチド、タンパク質、核酸及び小分子が含まれ、特徴づけられていてもいなくてもよい。それらは様々な形、例えば、未変化の分子、分子複合体、薬理学的に許容できる塩(例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ラウリン酸塩、パルチン酸塩、リン酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、サリチル酸塩、等)などでもよい。酸性薬物については、金属の塩、アミン又は有機陽イオン、例えば四級アンモニウム塩を用いることができる。塩基、エステル及びアミドなどの薬物の誘導体も用いることができる。水に不溶性の薬物は、その水溶性誘導体の形で、またはその塩基誘導体として用いることができ、どちらの場合においても、またはその送達によっても、薬物は、酵素により変換され、体のpHにより加水分解され、あるいは他の代謝過程により元の治療的に活性な形に変換される。
【0036】
生理学的又は薬理学的活性を有する薬物は本発明において有用であるが、癌化学療法剤が好ましい薬物である。有用な癌化学療法剤として、ナイトロジェン・マスタード、ニトロソルエアス(nitrosorueas)、エチレンイミン、アルカンスルホネート、テトラジン、白金化合物、ピリミジン類似体、プリン類似体、代謝拮抗剤、葉酸類似体、アントラサイクリン、タキサン、ビンカアルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤及びホルモン剤が挙げられる。化学療法剤の例は、アクチノマイシン−D、アルケラン、Ara−C、アナストロゾール、アスパラギナーゼ、BiCNU、ビカルタミド、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、カルボプラチン、カルボプラチナム(Carboplatinum)、カルムスチン、CCNU、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、CPT−11、シクロホスファミド、シラタビン、シトシンアラビノシド、サイトキサン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デクスラゾキサン、ドセタキセル、ドキソルビシン、DTIC、エピルビシン、エチレンイミン、エトポシド、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、フルタミド、ホテムスチン(Fotemustine)、ゲムシタビン、ハーセプチン、ヘキサメチルアミン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロリムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パミドロネート、ペントスタチン、プリカマイシン、プロカルバジン、リツキシマブ、ステロイド、ストレプトゾシン、STI−571、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テモゾロマイド、テニポシド、テトラジン、チオグアミン、チオテパ、トムデックス、トポテカン、トレオスルファン(Treosulphan)、トリメトレキセート、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、VP−16、及びキセロダ(Xeloda)である。
【0037】
本発明のミニ細胞含有組成物は、好ましくは混入している細菌性親細胞がミニ細胞10個当たり約1個未満であり、より好ましくは混入している細菌性親細胞がミニ細胞10個当たり約1個未満であり、さらに好ましくは混入している細菌性親細胞がミニ細胞10個当たり約1個未満であり、また更に好ましくは混入している細菌性親細胞がミニ細胞1010個当たり約1個未満であり、最も好ましくは混入している細菌性親細胞がミニ細胞1011個当たり約1個未満である。
【0038】
ミニ細胞を精製する方法は当該技術分野で公知であり、PCT/IB02/04632に説明されている。1つのこのような方法はクロスフローろ過(フィードフローが膜表面に対して平行である;Forbes、1987)及びデッドエンドろ過(フィードフローが膜表面に対して垂直である)。任意に、このろ過を組合せる前にいくらかの細菌性細胞を除くために低い遠心力で分画遠心を先に行い、それにより上清中のミニ細胞の量を高めることができる。
【0039】
別の精製方法は、生物学的適合性のある媒体で密度勾配遠心分離法を用いる。遠心分離後、ミニ細胞のバンドをそのグラジエントから集めて、任意に、精製を最大限にするためミニ細胞についてさらに複数回の密度勾配遠心分離を行う。この方法はミニ細胞含有サンプルに分画遠心法を行う予備的ステップを更に含んでもよい。低い遠心力で行えば、いくらかの細菌性親細胞が分画遠心により除去され、それにより上清中のミニ細胞の量が高められる。
【0040】
特に有効な精製方法は、ミニ細胞の純度を上げるために細菌の線維化(filamentation)を活用する。従って、ミニ細胞の精製方法は、(a)ミニ細胞を含むサンプルをフィラメント形に適合するように細菌性親細胞を誘導する条件に置き、そのあとで(b)サンプルを濾過して、精製されたミニ細胞調製物を得るステップを含むことができる。
【0041】
また、公知のミニ細胞精製方法を組合わせることができる。1つの非常に有効な方法の組み合わせは以下のとおりである:
ステップA: 細菌性細胞培養物を製造するミニ細胞の分画遠心。このステップは、約20分間2000gで行うことができ、ほとんどの細菌性親細胞を除去する一方、上清にミニ細胞を残す。
【0042】
ステップB: 等張及び非毒性濃度勾配媒体を使用する濃度勾配遠心。このステップは、ミニ細胞の損失を最小限にしながら、細菌性親細胞を含む多くの混入物からミニ細胞を分離する。好ましくはこのステップは精製方法において繰り返される。
【0043】
ステップC: 細菌性親細胞の混入を更に減らすための0.45μmフィルターを通すクロスフローろ過。
【0044】
ステップD: 残留した細菌性親細胞のストレス誘導線維化。これはミニ細胞の懸濁液を幾つかのストレス誘導環境条件に置くことにより行うことができる。
【0045】
ステップE: 細菌性親細胞を殺す抗生物質による処理。
【0046】
ステップF: 膜ブレブ、膜断片、細菌破片、核酸、培地成分などの小さい混入物を除去し、ミニ細胞を濃縮するクロスフローろ過。0.2μmフィルターを用いて小さい混入物からミニ細胞を分離し、0.1μmフィルターを用いてミニ細胞を濃縮することができる。
【0047】
ステップG: 線維状の死んだ細菌性細胞を除去するデッドエンドろ過。このステップには0.45μmフィルターを用いることができる。
【0048】
ステップH: ミニ細胞調製物からのエンドトキシンの除去。このステップには抗-リピッドA被覆磁性ビーズを用いることができる。
【0049】
別の態様において、本発明は、二重特異性リガンドを(i)薬物分子を含む細菌由来のミニ細胞及び(ii)哺乳動物細胞と接触させることを含む標的化薬物送達方法を提供する。二重特異性リガンドは、ミニ細胞と哺乳動物細胞の構成成分の両方に特異性を有し、ミニ細胞と哺乳動物細胞の結合を引き起こし、それにより、ミニ細胞は哺乳動物細胞に飲み込まれ、薬物が哺乳動物細胞の細胞質に放出される。
【0050】
本発明者らは、このアプローチが、特異的な接着及びミニ細胞のエンドサイトーシスに一般的に抵抗性を有する細胞を含む、ある範囲の哺乳動物細胞に広範囲に適用可能であることを見出した。例えば、一方のアームに抗-O−多糖類特異性、もう一方のアームに抗-HER2レセプター、抗-EGFレセプター又は抗-アンドロゲンレセプター特異性を有する二重特異性抗体リガンドは、ミニ細胞と、ある範囲の標的非食作用性細胞の各レセプターと効率的に結合する。これらの細胞として、肺、卵巣、脳、乳房、前立腺及び皮膚癌細胞が挙げられる。その上、効率的な結合は各非食作用性細胞によるミニ細胞の迅速なエンドサイトーシスよりも先に起こる。
【0051】
本発明の標的細胞は薬物が導入されるべき細胞を含む。「導入」は薬物について使用される場合、ミニ細胞内に保有される薬物が標的細胞に、好ましくは細胞内に送達されることを意味する。望ましい標的細胞は、リガンドが結合するとエンドサイトーシスを容易にする細胞表面レセプターを発現することを特徴とする。好ましい標的細胞は非食作用性であり、その細胞は、マクロファージ、樹状細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞などのプロフェッショナル食細胞ではないことを意味する。また好ましい標的細胞は哺乳動物細胞である。
【0052】
本発明の標的化薬物送達方法に有用なリガンドは、標的細胞の表面構成成分及びミニ細胞の表面構成成分と結合する任意の剤を含む。好ましくは標的細胞の表面構成成分はレセプターであり、特にエンドサイトーシスを仲介することができるレセプターである。リガンドはポリペプチド及び/又は炭水化物成分を含んでもよい。抗体は好ましいリガンドである。例えば細菌由来のインタクトなミニ細胞の表面構成成分及び標的哺乳動物細胞の表面構成成分に対して双方に特異性を有する二重特異性抗体は、in vitro及びin vivoで標的哺乳動物細胞にミニ細胞をターゲティングするのに有効に使用することができる。また有用なリガンドとして、レセプター、酵素、結合ペプチド、融合/キメラタンパク質及び小分子が挙げられる。
【0053】
特定のリガンドの選択は2つの主な基準による。すなわち、その基準は、(i)インタクトなミニ細胞の表面にある1つ以上のドメインとの特異的結合、及び(ii)標的細胞の表面にある1つ以上のドメインとの特異的結合である。従って、好ましくはリガンドは、細菌由来のインタクトなミニ細胞の表面構造に対して特異性を有する第一のアームと、哺乳動物細胞の表面構造に対して特異性を有する第二のアームを有する。第一及び第二アームはそれぞれ多価であってもよい。好ましくは各アームは、たとえ多価であるとしても、単一特異的である。
【0054】
細菌由来ミニ細胞と結合するために、リガンドの一方のアームが細菌性親細胞に見られるリポ多糖類のO−多糖類構成成分に特異的であることが望ましい。リガンド結合に利用できる他のミニ細胞の表面構造として、細胞表面に露出したポリペプチド及び外膜の炭水化物が挙げられ、例えば線毛、フィムブリエ、鞭毛など、細胞表面に露出したペプチドセグメントである。
【0055】
標的細胞と結合するために、リガンドの一方のアームは哺乳動物細胞の表面構成成分に特異的である。このような構成成分として、細胞表面タンパク質、ペプチド及び炭水化物が挙げられ、特徴付けられても特徴づけられていなくてもよい。細胞表面レセプター、特にレセプター仲介エンドサイトーシスを活性化できるレセプターは、ターゲティングにとって望ましい細胞表面構成成分である。このようなレセプターが標的細胞表面で過剰発現した場合、治療すべき細胞のターゲティングに更なる選択性を付与し、それによって、非標的細胞への送達の可能性を低くする。
【0056】
例として、腫瘍細胞、転移細胞、脈管系(vasculature)細胞、例えば内皮細胞及び平滑筋細胞、肺細胞、腎臓細胞、血液細胞、骨髄細胞、脳細胞、肝細胞など、又は所望の細胞にある細胞表面レセプターモチーフと特異的に結合するリガンドを選択することにより選ばれた細胞の前駆体を標的にすることができる。細胞表面レセプターの例として、大腸、直腸、乳房、肺、膵臓及び消化管の癌のほとんどに過剰発現される、癌胎児性抗原(CEA)(Marshall, 2003);乳房、卵巣、大腸、肺、前立腺及び子宮頸部の癌でしばしば過剰発現される、ヘレグリンレセプター(HER−2,neu又はc−erbB−2)(Hungら、2000);乳房、頭頸部、非小細胞肺及び前立腺の腫瘍を含むある範囲の固形腫瘍で高発現される、上皮細胞増殖因子レセプター(EGFR)(Salomonら、1995);アシアロ糖タンパク質レセプター(Stockert, 1995);トランスフェリンレセプター(Singh, 1999);肝細胞で発現される、セルピン酵素複合体レセプター(Ziadyら、1997);膵管腺癌(pancreatic ductal adenocarcinoma)細胞で過剰発現される、線維芽細胞増殖因子レセプター(FGFR)(Kleeffら、2002);抗血管新生遺伝子治療のための、血管内皮増殖因子レセプター(VEGFR)(Beckerら、2002及びHoshidaら、2002);非粘液性(nonmucinous)卵巣癌の90%に選択的に過剰発現される、葉酸レセプター(Gosselin及びLee、2002);細胞表面グリコカリックス(Batraら、1994);炭水化物レセプター(Thurnherら、1994);及び呼吸上皮細胞への遺伝子送達に有用であり、嚢胞性線維症などの肺疾患の治療に魅力的な、多量体イムノグロブリンレセプター(Kaetzelら、1997)が挙げられる。
【0057】
更なる例において、抗-ウイルス、抗-細菌及び抗-駆虫性薬物をインタクトなミニ細胞に組み入れることができ、薬物の標的化送達を、特定の感染細胞、例えばHIV-感染ヘルパーCD4+ T-リンパ球に行うことができる。
【0058】
好ましいリガンドは、抗体及び/又は抗体誘導体を含む。本明細書で使用される用語「抗体」は、in vitro又はin vivoでの免疫原性反応の発生により得られる免疫グロブリン分子を含む。用語「抗体」には、ポリクローナル抗体、単一特異的及びモノクローナル抗体、及び単一鎖抗体フラグメント(scFv)などの抗体誘導体が含まれる。また、本発明に有用な抗体及び抗体誘導体は、組換えDNA技術によって得ることができる。
【0059】
野生型抗体は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖を有する。両方のタイプのポリペプチド鎖は、同じクラスの抗体のなかで最低限の変化をするか変化しない定常領域、及び可変領域を有する。可変領域は特定の抗体に特定であり、特異的エピトープを認識する抗原結合ドメインを含む。抗体結合に最も直接的に関係する抗原結合ドメインの領域は、「相補性決定領域」(CDR)である。
【0060】
また、用語「抗体」は、抗原と特異的に結合する能力を保持する抗体フラグメントなどの抗体の誘導体を含有する。このような抗体フラグメントとして、Fabフラグメント(抗原結合ドメインを含み、ジスルフィド結合により架橋された重鎖の一部と軽鎖を含むフラグメント)、Fab’(Fabとヒンジ領域を介した重鎖の付加的な部分とを含む単一の抗原結合ドメインを含む抗体フラグメント)、F(ab’)(重鎖のヒンジ領域にある鎖間ジスルフィド結合により結合した2つのFab’分子)、二重特異性Fab(2つの抗原結合ドメインを持つFab分子であり、それぞれは異なるエピトープに結合し得る)、及びscFv(アミノ酸の鎖によって一緒に結合した抗体の単一の重鎖と軽鎖の、可変の抗原結合決定領域)が挙げられる。
【0061】
抗体(抗体フラグメントを含む)は、リガンドの一部又は全部を構成し、好ましくはヒト由来又はヒトに使用するのに適切に改変される。いわゆる「ヒト化抗体」は当該技術分野で周知である。例えばOsbournら、2003を参照されたい。ヒト化抗体は、ヒトにおける抗原性を低減するために遺伝子操作及び/又はin vitroでの処理により改変されている。抗体をヒト化する方法は、例えば米国特許第6,639,055号、第5,585,089号及び第5,530,101号に開示されている。最も簡単なケースでは、ヒト化抗体は、マウスmAbからヒトIgGに、相補性決定領域(CDR)として知られている抗原結合ループをつないで作られる。Jonesら、1986;Riechmannら、1998;及びVerhoeyenら、1998を参照されたい。しかしながら、一般的に、高親和性ヒト化抗体の作製は、マウスの親mAbのいわゆるフレームワーク領域(FR)から1つ以上の付加的な残基の移動が必要である。また幾つか改良されたヒト化技術が開発されている。Vaughanら、1998を参照されたい。
【0062】
また、「ヒト化抗体」ではなくヒト抗体を本発明に用いることができる。ヒト抗体はそれぞれの抗原に対して高い親和性を持ち、非常に大きい、単一鎖可変フラグメント(scFv)又はFabファージディスプレイライブラリーから日常的に得られる。Griffithsら、1994;Vaughanら、1996;Sheetsら、1998;de Haardら、1999;及びKnappikら、2000を参照されたい。
【0063】
また、有用なリガンドとして二重特異性単一鎖抗体が挙げられ、一般的には、リンカー分子を介して、対応する可変重鎖部分に共有結合している可変軽鎖部分からなる組換えポリペプチドである。例えば、米国特許第5,455,030号;第5,260,203号及び第4,496,778号を参照されたい。また、二重特異性抗体は他の方法で作ることができる。例えば、化学的なヘテロコンジュゲートは、異なる特異性のインタクトな抗体又は抗体フラグメントを化学的に結合させて作ることができる。Karpovskyら、1984を参照されたい。このようなヘテロコンジュゲートは、再現性のある方法で作ることは難しいが、通常のモノクローナル抗体の少なくとも2倍の大きさである。また、二重特異性抗体は、抗体フラグメントの酵素的切断と再結合を含む、ジスルフィド交換で作ることができる。Glennieら、1987を参照されたい。
【0064】
Fab及びscFvフラグメントは1価であるので、これらはしばしば標的構造に対して低い親和性を持つ。従ってこれらの構成成分から作られる好ましいリガンドは、機能的親和性が増加するように、2量体、3量体又は4量体コンジュゲートに設計される。Tomlinson及びHolliger、2000;Carter、2001;Hudson及びSouriau、2001;及びTodorovskaら、2001を参照されたい。このようなコンジュゲート構造物は、化学的及び/又は遺伝子的架橋で作ることができる。
【0065】
好ましくは、本発明の二重特異性リガンドは、各末端が単一特異的、即ち、一方の末端はミニ細胞の1つの構成成分に対して特異的であり、もう一方の末端は標的細胞の1つの構成成分に対して特異的である。リガンドは一方又は両末端で多価でもよく、例えばいわゆるダイアボディ、トリアボディ及びテトラボディの形でもよい。Hudson及びSouriau、2003を参照されたい。ダイアボディは2つのscFvの非共有結合により形成される2価のダイマーであり、2つのFv結合部位が生じる。同様に、トリアボディは3つのscFvの3価のトリマーの形成から生じ、3つの結合部位が生じる。テトラボディは4つのscFvvの4価のテトラマーの形成から生じ、4つの結合部位が生じる。
【0066】
哺乳動物細胞のレセプターに特異性を有する幾つかのヒト化、ヒト、及びマウスモノクローナル抗体並びにそれらのフラグメントは、ヒトの治療での使用が承認されており、そのリストは急速に大きくなっている。Hudson及びSouriau、2003を参照されたい。二重特異性リガンドの一方のアームを形成するのに使用することができるこのような抗体の例は、HER2:ハーセプチン(HerceptinTM);トラスツズマブ(Trastuzumab)に対する特異性を有する。
【0067】
また、抗体の可変領域は、タンパク質ドメインの広い範囲と融合できる。IgG1 CH3などのヒトイムノグロブリンドメインとの融合により、大きくなって、二量体化が促進される。Huら、1996を参照されたい。ヒトIgヒンジ−Fc領域との融合により、エフェクター機能を付加することができる。また、多量体タンパク質由来の異種タンパク質ドメインとの融合は、多量体化を促進する。例えば、短いscFvと短い両親媒性ヘリックスの融合は、ミニ抗体を作るのに使用されている。Pack及びPluckthum、1992を参照されたい。fos/junなどのヘテロダイマーを形成するタンパク質由来のドメインを、二重特異性分子を作るのに使用することができ(Kostelnyら、1992)、或いは、ホモ二量体化ドメインを、「knobs into holes」(Ridgwayら、1996)などの工学的手法によってヘテロダイマーを形成するように操作することができる。最終的に、多量体化と付加的な機能も提供する、融合タンパク質のパートナーを選択することができる(例えばストレプトアビジン)。Dubelら、1995を参照されたい。
【0068】
別の態様において、本発明は、高効率で標的哺乳細胞に薬物分子を導入するのに有用な組成物を提供する。この組成物は、(i)細菌性由来のミニ細胞及び(ii)二重特異性リガンドを含む。ミニ細胞及びリガンドは本明細書で説明されたものであればよい。従って、ミニ細胞は薬物を含み、二重特異性リガンドは好ましくはミニ細胞の表面構成成分及び標的哺乳動物細胞の表面構成成分と結合することができる。
【0069】
本発明のミニ細胞と二重特異性リガンドから本質的になる組成物(即ち、該組成物の薬物送達の質を不当に妨げない他の構成成分を有するリガンドとミニ細胞を含む組成物)は、従来の手法で1種類以上の製薬上許容できる担体又は賦形剤を使って製剤化できる。
【0070】
用語「製薬上許容できる」とは、担体又は賦形剤が、投与される組成物の生物学的活性を抑制せず、化学的に不活性で投与される生物に対して毒性でないことを意味する。製剤は、例えば保存剤を加えた又は加えない、アンプル若しくはバイアル又は複数回用量の容器に入った単位剤形の形にできる。製剤は溶液、懸濁液、又は油性もしくは水性ビヒクルの乳液剤にでき、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤化用の剤(formulatory agent)を含んでもよい。適切な溶液剤はレシピエントの血液と等張であり、食塩水、リンゲル液及びデキストロース溶液が例示される。あるいは、組成物を適切なビヒクル、例えば無菌の、発熱物質の入っていない水又は生理的食塩水で再構成するため、凍結乾燥した粉状でもよい。また、組成物はデポー製剤として製剤化してもよい。このような長時間作用する製剤は、移植(例えば皮下又は筋肉内)又は筋肉内注射により投与することができる。
【0071】
本発明の組成物は、様々な経路で及び哺乳動物体の様々な部位に投与することができ、局所的に又は全身的に所望の治療効果を達成することができる。送達は、例えば、経口投与により、体腔への製剤の適用により、吸入又は吹入により、又は非経口投与、筋肉内投与、静脈内投与、門脈内投与、肝臓内、腹腔内、皮下、腫瘍内又は皮内投与により行うことができる。投与の方法及び部位は標的細胞の場所に依存する。例えば嚢胞性線維細胞を、標的化組換えミニ細胞の吸入送達により効率的にターゲティングできる。同様に、腫瘍転移を、標的化組換えミニ細胞の静脈内送達を介してもっと効率的に治療することができる。原発性卵巣癌を、標的化組換えミニ細胞の腹腔内送達を介して治療することができる。
【0072】
本発明は、薬物を含む細菌由来のミニ細胞を食作用又はエンドサイトーシス受容性を有する哺乳動物細胞と接触させることによる薬物送達を更に提供する。このような哺乳動物細胞は、細胞内の細菌性感染因子と同じように細菌性親細胞を取り込むことができ、同じようにミニ細胞を取り込み、ミニ細胞は哺乳動物細胞の細胞質に薬物ペイロードを放出する。この薬物送達アプローチは、ターゲティングリガンドを使用することなく、達成することができる。
【0073】
所与のタイプの細胞によりミニ細胞が取り込まれることについて様々なメカニズムが関連しており、本発明はこの点について特定のメカニズムに依らない。例えば、食作用は十分に解説されているプロセスであり、マクロファージ及び他の食細胞、例えば好中球は、粒子を完全に包むまで偽足を粒子表面に広げて粒子を取り込む。「非特異的」食作用として説明されるが、このプロセスの特異的なレセプターの関与が証明されている。Wright 及び Jong (1986); Speertら、(1988)を参照されたい。
【0074】
従って、食作用の1つの形態は、偽足の膜に位置するリガンドレセプター及び表面リガンドの間の相互作用を伴う(Shaw 及び Griffin, 1981)。この付属のステップは特定のレセプターにより仲介され、細菌表面の接着に依存すると考えられる。また、少数の病毒性をもつ細菌、例えば非腸管毒素原性大腸菌について、食細胞レセプターに対する表面リガンドの不存在下で食作用が起こりえる。例えばPikaarら(1995)を参照されたい。従って、本発明は、ミニ細胞の細菌性親細胞の性質を保持しながら表面接着因子(surface adhesin)を有するか又はそれを欠く、並びに、その好中球及びマクロファージが哺乳動物で主要なタイプである食細胞(即ち「食作用受容性(phagocytosis-competent)」宿主細胞)により取り込まれる、ミニ細胞の使用を含むが、これに限定されない。
【0075】
別の取り込みプロセスはエンドサイトーシスであり、サルモネラ、エシェリキア、シゲラ、ヘリコバクター、シュードモナス及びラクトバチルスの種により例示される細胞内感染因子が哺乳動物の上皮細胞に入り、そこで複製される。これに関する2つの基本的なメカニズムは、「被覆ピットエンドサイトーシス」としても知られる(Riezman、1993)クラスリン依存性レセプター仲介エンドサイトーシス、及びクラスリン非依存性エンドサイトーシス(Sandvig 及び Deurs、1994)である。エンドサイトーシスにより作用する取り込み受容性を有する細胞(即ち「エンドサイトーシス受容性(endocytosis-competent)」宿主細胞)が本発明によるミニ細胞を取り込むときに、いずれか一方又は双方が関わる。代表的なエンドサイトーシス受容性細胞は、乳房上皮細胞、消化管の腸細胞、胃上皮細胞、肺上皮細胞、及び尿路と膀胱の上皮細胞である。
【0076】
取り込み受容性哺乳動物細胞に、ターゲティングリガンドを使用せずに薬物を送達する場合、その意図する適用の性質によって、用いるミニ細胞の細菌源の選択に影響を与えるであろう。例えば、サルモネラ、エシェリキア及びシゲラ種は、消化管の腸細胞にあるエンドサイトーシス仲介レセプターにより認識される接着因子を有し、大腸癌細胞に有効な薬物を送達するのに適しているであろう。同様に、ヘリコバクターピロリ由来のミニ細胞は胃上皮細胞に対して特異的な接着因子を有しており、胃癌細胞に向けて送達するのに適しているであろう。肺上皮細胞にあるレセプターにより認識される接着因子を有するシュードモナス種由来のインタクトなミニ細胞を投与するには、吸入又は吹入が適しているであろう。ラクトバチルス菌由来のミニ細胞は尿路及び膀胱上皮細胞に特異的な接着因子を有しており、尿路又は膀胱癌に薬物を尿道内送達するのに非常に適しているであろう。また本発明は、細胞、組織又は器官に医薬を投与することにより疾患を治療又は体質を改変する方法に使用するための医薬の製造における、細菌由来のインタクトなミニ細胞及び二重特異性リガンドの使用を提供する。医薬において、ミニ細胞は薬物分子を含み、二重特異性リガンドはミニ細胞及び標的哺乳動物細胞と結合することができる。このような医薬は、エイズなどの後天性疾患、肺炎及び結核を含む、様々な病状及び疾患を治療するのに有用であるが、癌化学療法について特に有用である。
【0077】
更に本発明は、薬物をミニ細胞に搭載する方法を提供する。これらの方法を用いて、薬物のパッケージングを親水性薬物及び疎水性薬物の両方に行うことができる。薬物をミニ細胞に搭載する1つの方法は、ミニ細胞を含む細胞外媒体とミニ細胞の細胞質との間に薬物の濃度勾配を作ることを含む。細胞外媒体がミニ細胞の細胞質よりも高い濃度の薬物を含む場合、薬物は自然にその濃度の勾配に沿って、ミニ細胞の細胞質に移動する。しかし、濃度勾配を逆にすると、薬物はミニ細胞の外に移動しない。
【0078】
従って、治療効果のある有意な量の薬物を漏出することなく生きていないミニ細胞にパッケージできることは、幾つかの理由により驚くべきことである。グラム陰性及びグラム陽性の両方の、生きている細菌の外側エンベロープは周囲媒体の溶質に対して有効なバリアを形成するが、水に対して透過性である。これは、殺生物剤及び抗生物質などの毒性分子の有害作用から細菌を保護する。また、細菌のエンベロープは、ポーリン(porin)と呼ばれる膜関連タンパク質により形成される、水で満たされた親水性路を通って入ることができない疎水性化学物質の細胞内移行及び受動拡散に対する内因性抵抗を付与することが知られている。
【0079】
ミニ細胞はその細菌性親細胞と同じ外側エンベロープを含む。従って、ドキソルビシン及びビンブラスチンで例示される親水性薬物、及びパクリタキセルで例示される疎水性薬物の両方が、ミニ細胞外及びミニ細胞内環境の間に単純な薬物濃度勾配を作ることによって、ミニ細胞の中に容易に移動させることができることは、驚くべきことである。これは、生きていない細菌及びその派生物のエンベロープ透過性が生きている細菌のエンベロープ透過性と全く異なっていることを示唆する。
【0080】
薬物の移動がミニ細胞において一方向のみ起こるという発見は、非常に驚きである。生きている細菌は、その細胞質への移入が起こる毒性のある化学物質を除去するための有効な排出プロセスを有する(Borges-Walmsley 及び Walmsley, 2001による総説)。これらのプロセスは、有害な化合物の活発な排出によって広範多様な環境有害物質から細胞を守ることができるタンパク質の大きな多様なグループである、マルチドラッグトランスポーターによって仲介される。マルチドラッグトランスポーターの配列相同性に基づいた、少なくとも5つの公知のファミリーがある。それらは、(i)主要ファシリテーター(MFS)、(ii)抵抗性−結節形成−細胞分裂(resistance-nodulation-cell division:RND)、(iii)小さい多剤耐性、(iv)多剤及び毒性化合物の排出、及び(v)ATP−結合カセットファミリーを含む。これらのマルチドラッグトランスポーターは細菌性膜結合タンパク質であり、細菌種に広く分布する。
【0081】
多剤トランスポーターはミニ細胞膜に保存されているはずであるが、驚くべきことに機能していないと見られ、これはおそらくミニ細胞が生きておらず多剤トランスポーターを働かせるのに必要なATPを欠くからであろう。
【0082】
通常水に溶けない薬物をミニ細胞に搭載するために、まず薬物を適切な溶媒に溶かすことができる。例えばパクリタキセルを、エタノールとクレモホアEL(ポリエトキシレート化されたヒマシ油)の1:1の混合物に溶解することができ、そのあとで、パクリタキセルの溶液を水性媒体で一部希釈して、薬物が溶液に確実にあるように最小量の有機溶媒を含むパクリタキセルの溶液をPBSで希釈して作る。ミニ細胞を、薬物を搭載するためにこの最終媒体でインキュベーションすることができる。このように、本発明者らは、疎水性の薬物であってもミニ細胞の細胞質に拡散して、高いかつ高度に有意の細胞質薬物搭載量を達成できることを見出した。このことは予想外であり、なぜならミニ細胞膜は、細胞質への疎水性分子の拡散を防ぐと予測される疎水性リン脂質二重層から構成されるからである。
【0083】
ミニ細胞に薬物を搭載する別の方法は、組換えの細菌性親細胞を、その細菌性親細胞が薬物をコードする治療用核酸分子を転写し翻訳する条件下で培養することを含み、それによって薬物は細菌性親細胞の細胞質に放出される。例えば、所望の薬物のための細胞生合成経路をコードする遺伝子クラスターをクローニングしてミニ細胞を作ることができる親細菌株に導入することができる。遺伝子クラスターの転写及び翻訳により、細菌性親細胞の細胞質内で薬物の生合成が生じ、細菌の細胞質が薬物で満たされる。細菌性親細胞が分裂して子孫のミニ細胞を作るときに、ミニ細胞はその細胞質に薬物も含む。パッケージ前のミニ細胞は当業界で公知の及び上述したミニ細胞精製法によって精製できる。
【0084】
同様に、ミニ細胞に薬物を搭載する別の方法は、薬物をコードする遺伝子がミニ細胞で転写されて翻訳されるような条件下で、薬物をコードする発現プラスミドを含む組換えミニ細胞を培養することを含む。
【0085】
細菌性親細胞またはミニ細胞で直接薬物を製造するには、細菌性親細胞またはミニ細胞は、転写及び/又は翻訳されて病気を改善するか或いは治療し、細胞、組織または器官において特性を改変するよう機能する、核酸分子を含む。本発明を説明する目的のため、このような核酸分子を「治療用核酸分子」と分類する。通常、治療用核酸分子は親細菌内またはミニ細胞内のプラスミドに見られる。
【0086】
治療用核酸分子は、機能的RNA(例えばアンチセンス又はsiRNA)またはペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、所望の産生物などの薬物をコードする。例えば目的の遺伝物質は、治療価値があるホルモン、レセプター、酵素又は(ポリ)ペプチドをコードできる。治療用核酸分子は、例えば嚢胞性線維症の嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子(Kerenら、1989;Riordanら、1989;Rommensら、1989)、鎌状赤血球貧血のβ−グロブリン、及びサラセミアのα−グロブリン、β−グロブリン及びγ−グロブリンにあることだが、異常に機能するか又は疾患状態において異常なレベルで存在するタンパク質を発現する遺伝子の正常なカウンターパートであってもよい。治療用核酸分子は、上述したアンチセンスRNA転写物又は小さい干渉RNA(siRNA)を有してもよい。
【0087】
癌の治療において、本発明に従った使用に適切な治療用核酸分子は、癌抑制に関連する遺伝子、例えばp53遺伝子、網膜芽腫遺伝子、及び腫瘍壊死因子をコードする遺伝子に対応する又は由来する配列を有してもよい。広範多様な固形腫瘍−癌、乳頭腫及び疣贅−は、本発明に従ってこのアプローチにより治療できるであろう。これに関して代表的な癌として、大腸癌、前立腺癌、乳癌、肺癌、皮膚癌、肝癌、骨癌、卵巣癌、膵臓癌、脳腫瘍、頭頸部癌、及びリンパ腫が挙げられる。例となる乳頭腫は扁平上皮乳頭腫、脈絡叢乳頭腫及び喉頭乳頭腫である。疣贅状態の例は、陰部疣贅、足底の疣贅、疣贅状表皮発育異常症、及び悪性の疣である。
【0088】
また、本発明の治療用核酸分子は、不活性なプロドラッグを1以上の細胞傷害性代謝産物に変換する酵素をコードするDNAセグメントを含むことができ、in vivoでプロドラッグを導入して、標的細胞をおそらく隣接した細胞も一緒に実際に自殺させるようにする。非ヒト由来又はヒト由来であり得るこのような「自殺遺伝子」の臨床前及び臨床適用は、Spencer (2000)、Shangaraら(2000)及びYazawaら(2002)によって総説された。非ヒト由来の自殺遺伝子の例は、HSV−チミジンキナーゼ(tk)、シトシンデアミナーゼ(CDA)+ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ、キサンチン−グアニンホスホリボシル−トランスフェラーゼ(GPT)、ニトロレダクターゼ(NTR)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP、DeoD)、シトクロームP450(CYP4B1)、カルボキシペプチダーゼG2(CPG2)、及びD−アミノ酸オキシダーゼ(DAAO)のそれぞれをコードする遺伝子である。ヒト由来自殺遺伝子は、カルボキシペプチダーゼA1(CPA)、デオキシシチジンキナーゼ(dCK)、シトクロームP450(CYP2B1,6)、LNGFR/FKBP/Fas、FKBP/カスパーゼ、及びER/p53のそれぞれをコードする遺伝子が例示される。
【0089】
本発明によれば、一般的に、治療用核酸は、細菌性親細胞またはミニ細胞内のプラスミド上に含まれる。またプラスミドは調節エレメントとして機能する別の核酸セグメント、例えばプロモーター、ターミネーター、エンハンサー又はシグナル配列を含んでもよく、治療用核酸セグメントと機能的(operably)に結合する。
【0090】
また、本発明の細菌性親細胞又はミニ細胞内のプラスミドはレポーターエレメントを含んでもよい。レポーターエレメントは、一般的には、発現時に、組織学的又はin situ分析により、例えばin vivoの画像技術で検出可能である宿主によって産生されないポリペプチドをコードすることにより、容易に検出できる表現型又は特徴を組換え宿主に付与する。例えば、本発明によるインタクトなミニ細胞により送達されるレポーターエレメントは、飲み込み性(engulfing)宿主細胞において、in situ分析で検出できて転写活性化の定量的又は半定量的関数である比色変化又は蛍光変化が生じるタンパク質をコードすることができるだろう。これらのタンパク質の例は、エラスターゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ及び他の酵素であり、これらの活性により検出可能な発色団又は発蛍光団が生じる。
【0091】
好ましい例は、インジゴ生成の基質、すなわちインドリル-β-ガラクトシドの切断を経由して色の変化を生じさせる大腸菌β-ガラクトシダーゼと、長鎖アルデヒド(細菌性ルシフェラーゼ)又は複素環カルボン酸(ルシフェリン)を酸化するルシフェラーゼであり、光の同時放出を伴う。またこれに関して有用なのは、Prasherら(1995)により開示されるクラゲAequorea victoriaの緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするレポーターエレメントである。GFP関連技術の分野は、2つの公開PCT出願、WO 095/21191(アミノ酸65〜67から形成された発色団を含む238アミノ酸GFPアポタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を開示)及びWO 095/21191(A.victoria GFPのアポペプチドのcDNAの改変が開示され、変化した蛍光特性を有するペプチドを提供する)により、及び励起の大きさが4〜6倍改善されたことを特徴とする突然変異GFPのHeimら(1994)の報告により、説明されている。
【0092】
以下の実施例は、本発明のより完全な理解を提供するために説明するものであり、例示にすぎない。
【実施例1】
【0093】
細菌由来のインタクトなミニ細胞における親水性癌化学療法剤ドキソルビシン及びビンブラスチンの効率的なパッケージング
本実施例は、親水性薬物を細菌由来のインタクトなミニ細胞の細胞質にパッケージできることを示す。
【0094】
ドキソルビシンはストレプトマイセス・ペウセティウス(Streptomyces peucetius)から単離された強力な抗細胞分裂誘発性(antimitogenic)アントラサイクリン抗生物質であり、乳癌を治療するのに一般的に用いられる(Hendersonら, 1989; Cowanら, 1991; Chanら, 1999; Paridaensら, 2000; Norrisら, 2000)。タキサン及び他の新しい薬剤の生物利用性能と一緒でさえ、ドキソルビシンは転移性疾患の患者の治療の主力である。
【0095】
ビンカアルカロイドは癌化学療法において大きく興味が持たれる化合物の一種類を構成する。鉛化合物、ビンブラスチン及びビンクリスチンは30年以上臨床診療で用いられており、今日まで広く使用されている。ビンブラスチンは微小管末端をキャッピングすることにより細胞増殖を抑制し、それにより紡錘体の微小管動態を抑制する。
【0096】
国際出願PCT/IB02/04632に説明されているように、ミニ細胞を、予め作っておいたサルモネラ・チフィムリウム(S. typhimurium)minCDE変異株から得て、上述した勾配遠心分離/線維化/濾過/エンドトキシン除去手段を経て精製した。
【0097】
薬物を、細胞外及び細胞内コンパートメント間に薬物の濃度勾配を作ることによりミニ細胞にパッケージした。薬物はインタクトなミニ細胞膜を通り、この勾配を沿ってミニ細胞の細胞質に移動した。
【0098】
以下のようにして化学療法剤ドキソルビシン((Sigma Chemical社, St. Louis, MO, 米国)を、精製したミニ細胞にパッケージした。BSG溶液中の7×10個のミニ細胞を遠心分離し、上清を捨ててミニ細胞を940μlのBSGと60μlのドキソルビシン溶液(1mg/ml、滅菌蒸留水に溶解)に再懸濁した。ドキソルビシンをミニ細胞の細胞質へ拡散させるため、懸濁液を37℃で回転しながら一晩インキュベーションした。そのあと、ミニ細胞の外表面に非特異的に結合した過剰なドキソルビシンを以下のように攪拌式セル限外濾過で洗浄した。アミコン攪拌式限外濾過セルModel 8010(Millipore, Billerica, MA, 米国)と限外濾過膜ディスク(ポリエーテルスルフォン;分子量カットオフ300kDa; Millipore)を用いて製造者の指示書に従って組み立てた。細胞を滅菌蒸留水で3回洗浄し、更にBSGで3回洗浄した。そのあと、細胞を新しいBSG 9mlで満たし、ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞の溶液を1ml加えた。細胞を圧力10psi下に置き、量が5mlに低下するまで攪拌し、5mlのBSGを加えた。量が再び5mlになるまで限外濾過を続けた。この添加(topping-off)/限外濾過の手順を、ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞の外表面を完全に洗浄できるよう、6回行った。最後の限外濾過のときに、量を1mlまで減らし、サンプルを滅菌したエッペンドルフ遠心チューブに移し、10分間、13,200rpmで遠心し、ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞をペレットにした。
【0099】
ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞をスライドグラスに載せ、蛍光顕微鏡(Leica model DM LB light microscope, 100x 倍率; Leica Microsystems, ドイツ)で視覚化した。これは、ドキソルビシンはもともと蛍光を発するからである。その結果をLeica DC カメラ及び Leica IM 画像管理ソフトウエアを使って記録した。ドキソルビシンの自己蛍光(励起 488nm,発光 550nm; 赤色蛍光)を視覚化できるようにするため適切なフィルターを使用した。
【0100】
結果は、全てのミニ細胞が鮮やかな赤色の蛍光を発し、ドキソルビシンがミニ細胞の細胞質に移動し、攪拌式セル限外濾過システムを使った徹底的な洗浄ステップにもかかわらず、ドキソルビシンはミニ細胞の細胞質の外に拡散できなかったことが示唆された。これは驚くべきことであり、なぜなら洗浄ステップ中、ドキソルビシンの濃度勾配は逆になったからであり、即ちミニ細胞の細胞質におけるドキソルビシンの濃度は細胞外環境(BSG溶液)の濃度よりも高かったからである。薬物と一緒にインキュベーションしなかった対照のミニ細胞は、バックグラウンド自己蛍光を示さなかった。
【0101】
ミニ細胞への薬物パッケージングはドキソルビシンに限定されないことを示すため、別の癌化学療法剤であり、水の溶解度が低いビンブラスチンで同様の実験を行なった。この薬物は自己蛍光を発しない;従ってBODIPY−FL−結合ビンブラスチン(Molecular Probes, Eugene, OR, 米国)の蛍光性類似体を使用した(励起 505nm, 発光 513nm; 赤色蛍光)。精製したミニ細胞にBODIPY−FL−結合ビンブラスチンを以下のようにしてパッケージした:薬物を最初にメタノールに溶解し(10mg/mlの原液)、原液が1mg/mlになるように滅菌PBSで1:10に希釈した。BSG溶液中の7×10個のミニ細胞を遠心して、上清を捨て、ミニ細胞を940μlのBSGと60μlのBODIPY−FL−結合ビンブラスチン溶液(1mg/mlの原液)に再懸濁した。これによりミニ細胞懸濁液1mlに薬物60μgの最終濃度となった。薬物がミニ細胞の細胞質に拡散できるように、懸濁液を37℃で回転しながら一晩インキュベーションした。続いて、蛍光顕微鏡で視覚化する前のBSG中の薬物をパッケージしたミニ細胞の最終再懸濁のステージまで、限外濾過で過剰な薬物を洗浄する手順は、ドキソルビシンで上述した手順と同じであった。
【0102】
薬物をパッケージしたミニ細胞をスライドグラスに載せ、前述したように蛍光顕微鏡を使って視覚化し、その結果をLeica DCカメラとLeica IM画像管理ソフトウエアを使って記録した。BODIPY−FL−結合ビンブラスチンの赤色蛍光を視覚化できるように適切なフィルターを使用した。
【0103】
結果は、全てのミニ細胞が鮮やかな赤色の蛍光を発し、これは、薬物がミニ細胞の細胞質に移動し、ドキソルビシンについて観察されたのと同様に、攪拌式セル限外濾過システムを使った徹底的な洗浄ステップはミニ細胞から細胞外液に薬物が流失しなかったことを示唆した。これもまた驚くべきことであり、なぜなら高親水性溶質のみが、おそらく細菌膜に見つかったポーリン(porin)チャンネルを通って、拡散を介して細菌性細胞に入いると広く一般に考えられていたからである。しかしながらこの結果は、親水性が高くない薬物であっても、ミニ細胞のような生きていない細菌性細胞派生物の膜を通って拡散できることを示す。薬物とインキュベートされなかった対照ミニ細胞は、いかなるバックグランド自己蛍光も示さなかった。
【実施例2】
【0104】
細菌由来のインタクトなミニ細胞における疎水性の癌化学療法剤パクリタキセルの効率的なパッケージング
この実施例は、疎水性薬物を細菌由来のインタクトなミニ細胞の細胞質にパッケージできることを示す。ミニ細胞の表面膜はリン脂質二重層から構成されているので、疎水性の高い薬物がこのバリアを通って拡散するとは予想されないだろう。
【0105】
タキソール(パクリタキセル;Bristol-Myers Squibb社の登録商標)は、もともとは太平洋イチイ(Pacific yew tree)の皮から、つい最近では西洋イチイ(western yew tree)のタキサス・ブレビフォリア(Taxus brevifolia)の針から単離された三環系ジテルペンである。パクリタキセルは最も重要な化学療法剤の1つであり、特に卵巣癌、乳癌及び肺癌に対して有望な抗腫瘍活性を有する(Mekhail 及び Markman, 2002)。パクリタキセルは、1:1の化学量論でチューブリンと結合して、微小管を安定化して高率で細胞のG/M期を停止させるようにさせるチューブリンへテロダイマーを有し、細胞質分裂なしで細胞周期をゆっくりと進め、多核倍数細胞を形成し、アポトーシスを行う、抗有糸分裂剤である。パクリタキセルは0.00025mg/mlの非常に低い水溶解性を有し、50%クレモホアEL及び50%エタノールなどの一定の共溶媒に可溶化されなければならない。
【0106】
パクリタキセルのような疎水性薬物がミニ細胞細胞質に移送されうることを示すために、パクリタキセルの蛍光誘導体、Oregon Green(登録商標)488結合パクリタキセル(Molecular Probes, Eugene, OR, 米国; 吸収 496 nm, 発光 524 nm)を使用した。2つの異なる方法を薬物を可溶化するために用いた:(i)エタノール(7.58mM原液にする)及び(ii)エタノール:クレモホアEL(1:1 vol/vol; 3.79mM 原液)。各原液をPBSで1:10(vol/vol)に希釈し、それぞれ758μM及び379μM原液にした。後者の原液をミニ細胞懸濁液(10個のミニ細胞)に加えて1:20の希釈を行い、ミニ細胞の細胞外環境におけるOregon Green488結合パクリタキセルの最終濃度をそれぞれ40μM及び20μMにした。ミニ細胞を37℃で回転しなから一晩薬物と一緒にインキュベーションし、その後、ドキソルビシン及びビンブラスチンについて実施例1に述べたように限外濾過で洗浄した。また実施例1に述べたように、ミニ細胞を再懸濁し、蛍光顕微鏡で視覚化した。
【0107】
その結果は、すべてのミニ細胞は鮮やかな緑の蛍光を発し、両方の方法により、パクリタキセルが細胞外環境からミニ細胞膜を経由してミニ細胞の細胞質に移動できることを示唆した。これは驚くべきことであり、なぜなら高疎水性薬物はミニ細胞のリン脂質二重層(疎水性)膜を経由してミニ細胞のサイトゾルに拡散すると予想されなかったからである。更に、実施例1の実験において観察されたのと同様に、徹底的な洗浄ステップ中に浸透圧勾配が逆転しても、ミニ細胞の細胞質の外へ薬物が流出しなかった。
【0108】
実施例1及び2の結果は、前述した簡単な技術が、ミニ細胞薬物送達ビヒクルに親水性及び疎水性薬物の両方を容易にパッケージするのに使用できることを示す。
【実施例3】
【0109】
細菌由来のインタクトなミニ細胞の薬物濃度を測定するための方法
本実施例は細菌由来のインタクトなミニ細胞の薬物濃度を測定する方法を示す。より具体的には、本実施例はミニ細胞DOXに存在するドキソルビシンの濃度を測定する方法を説明し、搭載溶液におけるドキソルビシン濃度の効果を示す。薬物を搭載したミニ細胞を治療を目的として適用するには、パッケージされた薬物の量を測定することを含む、パッケージされた薬物の実体を特徴づけできることが求められる。しかしながら以前には、細菌由来のインタクトなミニ細胞または細菌性細胞を効率的に破壊し、パッケージされた薬物分子を抽出する方法はなかった。
【0110】
以下に使用される略語を挙げる:(i)HCl;塩酸(BDH AR MERCK, オーストラリア)、(ii)MeCN;アセトニトリル、殺虫剤残留物グレード(Pesticide Residue grade)(Burdick & Jackson, MI, 米国)、(iii)IPA;イソプロピルアルコール又は2−プロパノール、殺虫剤残留物グレード(Burdick & Jackson)、MQ; MilliQ浄化RO水(R ≧ 1018 Ω)、C18及びRP18;クロマトグラフィーカラム中の固定相にパッキングした化学的性質をいう(この場合、直径5ミクロン(μm)のシリカ粒子のシラノール末端と結合した18炭素の長い炭化水素鎖である)、(iv)HPLC及びLC;高速液体クロマトグラフィー、(v)MS;質量分析、(vi)MS/MS;確定した娘イオンを作るための選択した親イオンの衝突誘起フラグメンテーション(マトリクス効果を除去しシグナル/ノイズを増加するのに有用)、(vii)ESI;エレクトロスプレーソースイオン化(イオン電流をMSインレットの頭に熱−空気圧式スプレーで発生させる)。
【0111】
10個のインタクトなミニ細胞を、最終濃度5、10、20、30、40、50、60、80、100、120、140、160、180、200及び 250μg/mlのドキソルビシンの溶液で別々にインキュベーションした。混合物を37℃で回転しながら一晩インキュベーションした。ミニ細胞を13,200rpm/5分で遠心分離して回収し、滅菌したBSGに再懸濁した。ミニ細胞の懸濁液をアミコンフィルトレーションチャンバー(孔の大きさ0.2μm)に入れ、1洗浄あたり10mlのBSGで10回洗浄した。ミニ細胞を集めてドキソルビシン抽出用に5×10個のミニ細胞のデュプリケートに分けた。
【0112】
ミニ細胞を13,200rpmで遠心し、上清を廃棄した。各ペレットに97mM HCl−IPAを500μl加え、1分間ボルテックス及び1分間超音波処理を5サイクル行った。MQ(500μl)を加え、1分間ボルテックス及び1分間超音波処理を5サイクル繰り返した。抽出物を5分間13,200rpmで遠心分離し、細胞破片をペレットにし、上清をHPLCの150μlのグラスインサート及びバイアルに移した。ドキソルビシンは自己蛍光を発するので、抽出された薬物のHPLC蛍光ベース分析を開発し、以下のように行った。HPLC方法の特徴を挙げる:(i)移動相:100mMギ酸アンモニウム+0.05%トリエチルアミン(pH=3.5):MQ:MeCNは28:42:30@1ml/分、(ii)固定相:Merck Lichrosphere RP18、5μm、4.0mm×250mm、(iii)カラム温度:40℃、(iv)注入量:15μl、(iv)検出:蛍光−励起480nm、発光550nm、(v)HPLCシステム:オートサンプラー、溶媒脱気装置、4連式ポンプ、カラムヒーター(40℃)及び蛍光検出器を含むShimadzu 10AVPシステムを使用し、バージョン7.2 SPI rev Bソフトウエアで実行した(Shimadzu社、京都、日本)。
【0113】
データが信頼できることを確認するため、ドキソルビシン測定を、HPLC及びLC MSの両方を用いて行った。LC−MSの手順と重要な特徴を挙げる:(i)移動相:5mMギ酸アンモニウム(pH=3.5):MeCN=76:24@0.2ml/分、(ii)固定相:Phenomenex Luna C18 (2)、5μm、2.0mm×150mm、(iii)カラム温度:30℃、(iv)注入量:2μl、(v)LC及びMSシステム:LC及びMSシステムは両方ともThermo−Finnigan (Boston, MA, 米国)であった。LCシステムは一体になったカラムヒーターとポンプを有するオートサンプラーを含んだ。カラム溶出液をThermo−Finnigan LCQ−Decaイオントラップ質量分析計のエレクトロスプレーイオン化ソースに直接移した。(iv)検出:MS検出器を陽イオンモード及びMS/MSスキャンモードで操作した。親イオンをm/z=543.9にセットし、娘イオンをm/z=396.8で生じさせた。娘イオンを測定目的で追跡した。
【0114】
同等の[DOX]測定を示すため(測定のエラーバー内で)、3回の蛍光測定とMS結果を一緒にプロットした(図1)。その結果は、ミニ細胞DOXから抽出されたドキソルビシン濃度及びドキソルビシンの外部搭載濃度にはっきりとした相関を示した。これらの実験を3回繰返し同様の結果を得た。更に、この技術を、インタクトなミニ細胞にパッケージしたパクリタキセル、イリノテカン、5−フルオロウラシル及びシスプラチンなどの他の化学療法剤の濃度を測定するのに適合させた。
【実施例4】
【0115】
薬物及び表面リガンドの結合は、ミニ細胞の不安定化及び膜に埋め込まれている構造物の損失を起こさない
本実施例は、ミニ細胞に薬物をパッケージすること及び薬物をパッケージしたミニ細胞の表面にリガンドが結合することによって、ミニ細胞が不安定になったり、薬物が漏出したり、又はミニ細胞膜に埋め込まれている構造物の損失を起こさないことを示す。その結果は驚くべきものであり、細胞質にある薬物、特に非常に有害な化学治療剤はミニ細胞の二重層膜を不安定にすると予想されていたからである。
【0116】
本研究は、薬物のミニ細胞へのパッケージング及び/又は二重特異性リガンドとミニ細胞の表面構造(例えばLPSのO−抗原構成成分)との結合が、薬物漏出及び/又は二重特異性リガンドによるミニ細胞二重層埋め込み構造の喪失(例えばLPS脱落)を生じさせるかどうかをみるために設計された。ミニ細胞(5×10個)に上述のようにドキソルビシンまたはOregon Green 488結合パクリタキセル(Molecular Probes, Eugene, OR, 米国)のいずれかをパッケージした。実施例3で述べたように、ミニ細胞DOX及びミニ細胞Pacの薬物濃度を測定し、その結果はそれぞれ425ngのDOX及び245ngのパクリタキセルを示した。
【0117】
抗-サルモネラ・チフィムリウムO−抗原及び抗-EGFR特異性を持つBsAbを、PCT/US2004/041010に開示されているように構築した。簡単に言えば、二重特異性抗体(BsAb)を、抗-サルモネラ・チフィムリウムO−抗原モノクローナル抗体(MAb)(IgG1、Biodesign)、及びマウス抗-ヒトEGFR(IgG2a;Oncogene)又はマウス抗-ヒトHER2/neuレセプター(IgG1;Serotec)である標的細胞表面レセプターに対して向けられたMAbを結合することによって構築した。2つの抗体をそれらのFc領域を介して、精製された組換えプロテインA/G(Pierce Biotechnology)を使って架橋した。簡単に言えば、プロテインA/G(最終濃度100μg/ml)を、各20μg/mlの抗-サルモネラ・チフィムリウムO−抗原及び抗-ヒトEGFR MAbを含む予混溶液0.5mlに加えて、一晩4℃でインキュベーションした。過剰な抗体を、プロテインG結合磁性ビーズと一緒にインキュベーションし、室温で40分間穏やかに混合して、除去した。ビーズの磁気分離後、プロテインA/G-BsAb複合体を、5×10個の薬物をパッケージしたミニ細胞と一緒に1時間室温でインキュベーションし、表面LPSとO−抗原特異的Fabアームの結合を介して抗体でミニ細胞をコートした。Alexa−Flour 488(登録商標)(Molecular Probes; 緑色蛍光)またはAlexa Fluor 594(登録商標)(Molecular Probes; 赤色蛍光)を使用してBsAbと結合させた。ミニ細胞DOXをAlexa−Flour 488−結合BsAbと混合し、ミニ細胞PacをAlexa Fluor 594−結合BsAbと混合した。様々なミニ細胞の調製物をLeica蛍光顕微鏡を使い、100×対物レンズ及び赤色と緑色蛍光に適切なフィルターを使って視覚化した。
【0118】
結果は、ミニ細胞DOX及びミニ細胞Pacの表面とBsAbの結合が、ミニ細胞の細胞質を囲む完全な輪としてはっきりと現れていた。個々の薬物のドキソルビシンとパクリタキセルもまたミニ細胞の細胞質内に見えた。薬物を上述したようにミニ細胞から抽出し、薬物濃度を測定した。薬物濃度は、EGFRミニ細胞DOX及びEGFRミニ細胞Pacと比較して、ミニ細胞DOX及びミニ細胞Pacにおいて同じ(即ち、それぞれ、425ngドキソルビシン及び245ngパクリタキセル)であった。
【0119】
同様の結果が、抗-O抗原/抗-HER2/neuなどの他のBsAbを用いて得られた。これは、この方法が安全な薬物送達ベクターの開発に適合することを示し、薬物をパッケージングしてもBsAbが結合しても、ベクターとインタクトなミニ細胞からの薬物漏出又はベクターの不安定化が生じなかったからである。
【実施例5】
【0120】
リガンド標的化かつドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞を介した非食作用性ヒト脳腫瘍細胞へのドキソルビシンのin vitroでの標的化送達
本実施例は、細胞表面と結合した二重特異性リガンドを有するインタクトなミニ細胞にパッケージされた化学療法剤のドキソルビシンが、(a)標的非食作用性哺乳動物の細胞表面、即ちヒト脳腫瘍細胞にあるEGFレセプターと特異的に結合できること、及び(b)ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞のエンドサイトーシスと破壊の後、哺乳動物細胞内に薬物が細胞内送達できることを示す。
【0121】
実施例1に説明したように、サルモネラ・チフィムリウムminCDE−由来のミニ細胞を精製し、ドキソルビシンをパッケージした。
【0122】
二重特異性抗体を、上記及び米国特許出願第10/602,021号、実施例4に説明した概略のように、二重特異性抗体を構築した。
【0123】
抗-EGFRモノクローナル抗体を選択した。なぜなら、テストされる標的細胞は、細胞表面にEGFレセプターを過剰発現することが知られているヒト脳腫瘍細胞U87−MG (ATCC, Rockville, MD, 米国; ヒト悪性星状細胞腫上皮細胞株)であったからである。
【0124】
二重特異性抗体を蛍光共焦点顕微鏡で視覚化して標的ミニ細胞を追跡できるように蛍光色素で標識した。手順は以下の通りである。Alexa Fluor 488プロテインラベリングキット(Molecular Probes, Eugene, OR, 米国)を使用して二重特異性抗体をラベルした。Alexa Fluor 488色素(吸収 494nm, 発光 519nm; 緑色蛍光)を、製造者の指示書に従って二重特異性抗体の遊離アミン基を介して結合させた。
【0125】
U87−MG星状細胞腫細胞を12ウエルの組織培養プレート(Cellstar; Greiner Bio-One GmbH, Frickenhausen, ドイツ)の15mmのカバースリップで増殖させた。細胞を5% cosmic calf serum (Hyclone, Logan, UT, 米国) 及び 2mM グルタミンを含むRPMI 1640培地で増殖させ、5%COで37℃でインキュベーションした。細胞を40%の集密度に増殖させ、4連のウエルを以下のように処理した。(a)陰性対照の未処理の細胞、(b)10個の標的化していない空のミニ細胞、(c)10個の標的化した空のミニ細胞、(d)10個の標的化していないドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞、(e)10個の標的化したドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞。インキュベーション反応を各サンプルの2ウエルについて8時間後に終了させ、残りの2連のサンプルは24時間後に終了させた。インキュベーション後、細胞を4回PBSで洗浄し、4%ホルムアルデヒドで10分間固定した。固定剤を3回PBSで洗浄し、カバースリップをグリセロールの載っている顕微鏡のスライドガラス上にひっくり返した。カバースリップを1%アガロースでシールした。
【0126】
スライドを蛍光共焦点顕微鏡(Fluoview, Olympus America, Melville, NY, 米国)で見た。蛍光及びディファレンシャルイメージコントラスト(DIC)画像を集め、その結果は、インキュベーションの8時間以内に、標的化した(Alexa Fluor 488結合二重特異性抗体; 緑色蛍光を有する)ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞が、ほとんどの細胞で数個の緑色蛍光のドットで覆われたことを示したが、非標的化(蛍光で標識された二重特異性抗体がない)のものはごくわずかな細胞にいくつか緑色蛍光のドットがあるのみであることを示した。これは、二重特異性抗体がドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞を星状細胞腫細胞の表面と、おそらくEGFレセプターを介して特異的に接着できることを示す。星状細胞腫細胞とドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞(標的化及び非標的化)との24時間インキュベーション後、その結果は、赤色蛍光について視覚化した場合(ドキソルビシン自己蛍光は赤色である)、蛍光共焦点顕微鏡で細胞の切片を観察すると、ほとんどの星状細胞腫細胞が細胞表面に強い赤色蛍光のドットを有し、多くの細胞がその細胞の細胞質内に拡散した赤色蛍光を示した。この結果と、非標的化のドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞と24時間インキュベーションした星状細胞腫細胞についての結果を比べると、わずかに赤色蛍光ドットが2、3の細胞に観察されたのみであった。これは、ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞の多くがおそらくEGFレセプター仲介エンドサイトーシスを介して内在化されて、幾つかのミニ細胞が破壊されて星状細胞腫細胞の細胞質にドキソルビシンが放出されたことを示す。この結果は、緑色蛍光と赤色蛍光画像を合わせたときに、緑色ドットのほとんどが赤色ドットと共局在化し、その結果黄色のドットが生じたことを明らかに示したことで更に確認された。星状細胞腫細胞の細胞質内に早期に観察された拡散赤色蛍光が赤色のままであったが、このことは、ドキソルビシン(赤色の自己蛍光)がミニ細胞(ミニ細胞表面に局在した二重特異性抗体により示された緑色)内にもはやパッケージされていなかったことを示し、更にエンドサイトーシスされた幾つかのミニ細胞が破壊されて星状細胞腫細胞の細胞質にドキソルビシンが放出されたことを示した。
【実施例6】
【0127】
非食作用性哺乳動物細胞へのミニ細胞仲介薬物送達の効率
本実施例は、非食作用性哺乳動物細胞へのミニ細胞仲介薬物送達の効率を示す。比色分析細胞毒性アッセイ((Promega; CellTiter 96 Aqueous OneTM)を使用した。MDA−MB−468ヒト乳腺癌細胞をEGFRミニ細胞DOXまたは遊離ドキソルビシン及び非標的化ミニ細胞DOXを含む対照で処理した。MDA−MB 468細胞をT75フラスコに5×10個播種して、48時間インキュベーションし、約1×10個の細胞/フラスコを得た。培地を変えて、細胞を10個の非標的ミニ細胞DOX又はEGFRミニ細胞DOXで処理した。遊離ドキソルビシン(50ng/ml)も陽性対照として含めた。細胞を24時間インキュベーションし、PBSを3回交換して完全に洗浄し、トリプシン処理を行った。生存細胞をトリパンブルー排除法を用いて血球計数器でカウントした。1ウエルあたり1×10個の細胞/mlを24ウエルプレートにアリコートし(1処理あたり6ウエル)、3、4、5及び6日間、毎日培地を交換してインキュベーションした。MTSアッセイを製造者の指示書に従って、各時点で行った。簡単に言えば、MTS試薬100μlを各ウエルに加えて色の変化を2.5時間〜4時間にわたってモニターした。各ウエルから100μlを96ウエルプレートに移し、吸光度を490nmで測定した。
【0128】
結果は、EGFRミニ細胞DOXの細胞毒性は遊離ドキソルビシンの細胞毒性と同様であり、このことは、EGFRミニ細胞DOXはMDA細胞へドキソルビシンを活性な形で送達し、薬物送達の効率は95%以上であったことを示した(図2)。非標的化ミニ細胞DOXは癌細胞に対してなんら毒性を示さず、ターゲティングのメカニズムはミニ細胞をベースにした薬物治療の安全性において重要であることを示唆し、これは非食作用性哺乳動物細胞がミニ細胞を非特異的にエンドサイトーシスするとは考えられないからである。
【実施例7】
【0129】
ヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片への、標的化及び薬物をパッケージしたミニ細胞を介した化学療法剤ドキソルビシンの高効率な送達
本実施例は、二重特異性リガンド標的化し、ドキソルビシンをパッケージしたインタクトなミニ細胞が、6週齢のメス無胸腺ヌードマウスに定着させたヒト乳癌細胞種移植片の縮退を起こすことを示す。
【0130】
上述したように、ミニ細胞をサルモネラ・チフィムリウムminCDE−突然変異株から得て、濃度勾配遠心分離/線維化/濾過/エンドトキシン除去の手順を使って精製した。実施例1で述べたように精製したミニ細胞に化学療法剤ドキソルビシンをパッケージした。
【0131】
二重特異性抗体を実施例3で述べたように構築した。抗-EGFRモノクローナル抗体を選択したが、その理由は、異種移植片を移植された細胞は、細胞表面にEGFレセプターを過剰発現することで知られるヒト乳癌細胞MDA−MB−468だったからである。
【0132】
組換えミニ細胞(1010個)をプロテインA/G-二重特異性抗体とともに1時間室温でインキュベーションし、その抗-LPS Fab領域を介して抗体でミニ細胞をコートした。
【0133】
本実施例で使用したマウスはAnimal Resources Centre, Perth, WA, オーストラリアから購入し、全ての動物実験を、実験動物の保護と使用に関する指針とAnimal Ethics Committeeの承認に従って行った。実験は、EnGeneIC Pty社のNSW Agriculture公認小動物施設(Sydney, NSW, オーストラリア)で行った。ヒト乳腺癌細胞(MDA−MB−468, ATCC; ヒト乳房上皮細胞; 非食作用性)を、5%仔牛血清(GIBCO-BRL Life Technologies, Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA, 米国)及びグルタミン(Invitrogen)を追加したRPMI 1640培地に95%空気及び5%COの湿気のある環境で37℃でT−75フラスコにいっぱいになる集密度まで組織培養で増殖した。50μlの成長因子低減マトリゲル(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, 米国)と一緒に50μlの無血清培地で1×10個の細胞を各マウスの肩甲骨間に23ゲージの針で皮下に注射した。腫瘍を1週間に2度、電子デジタルキャリパー(Mitutoyo, 日本, 精度0.001)を使って測定し、腫瘍体積を、式:長さ(mm)x幅2(mm)x0.5=体積(mm)で計算した。移植して16日後、腫瘍は50mm〜80mmの体積に達し、マウスを1グループ11匹の7つの異なるグループに無作為に振り分けた。
【0134】
本実験を以下のように設計した。グループ1(対照)は何も治療を受けなかった。グループ2(対照)は遊離ドキソルビシン(マウス体重の5μg/gm)を腫瘍内投与で受けた。この対照は、腫瘍細胞に対する遊離ドキソルビシンの効果をみて、有毒な副作用を評価するために含めた。グループ3(対照)はドキソルビシンを静脈内投与した以外はグループ2と同じであった。グループ4(対照)は、抗-O抗原/抗-EGFR BsAb及び遊離DOXを静脈内投与で受けてミニ細胞の不存在下でのBsAbの効果をみた。グループ5及び6は、非標的化ミニ細胞DOXをそれぞれ静脈内または腫瘍内投与で受け、薬物をパッケージしたが標的化されていないミニ細胞が腫瘍の安定化をもたらすかどうかをみた。グループ7及び8は、EGFR標的化EGFRミニ細胞DOXをそれぞれ静脈内または腫瘍内投与で受け、レセプター標的化されて薬物をパッケージしたミニ細胞が腫瘍の安定化をもたらすかどうかをみた。グループ8は、尾静脈に与えた、標的化されドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞が、必要とされる一連の事象に続いて腫瘍の安定化及び/又は縮退を達成できるか:即ち、腫瘍部位(肩甲骨領域)で漏出性の脈管系を透過し、腫瘍の微小環境を通って拡散し、特にヒト乳癌細胞と特異的に結合し、エンドサイトーシスされて、細胞内で破壊されて、癌細胞の細胞質に生物活性な形で薬物ペイロードを放出して、その結果、癌細胞を細胞死させ、故に腫瘍の安定化及び又は縮退のいずれかを達成できるかをみるために含めた。ミニ細胞を10個の用量で投与し、全ての治療を異種移植片定着後17、24、27及び56日目に行った。全ての測定は、投与治療に疎い研究者によって行なわれた。統計学的分析を分散分析(ANOVA)で行い、P<0.05を統計的に有意であるとした。
【0135】
結果は、静脈内又は腫瘍内であろうとなかろうとEGFRミニ細胞DOX治療でのみ、非常に有意な(p=0.0004)癌安定性/縮退が見られたことを示した(図3)。非標的化ミニ細胞DOXでは腫瘍の縮退は見られず、BsAb仲介ターゲティングが必須であることを示した。63日目では、ミニ細胞DOXグループでの治療をEGFRミニ細胞DOX治療に変えて、大きい腫瘍体積(800mm 〜 1,200mm)が標的化治療を介して縮退されうるかどうかをみた。結果は劇的な腫瘍縮退であった;79日目までに、2回のEGFRミニ細胞DOX治療しただけで、腫瘍体積が100mm〜150mmの間に縮退した。完全実験を3回行い、各回で同様の結果が得られた。これは、BsAb標的化ミニ細胞がヒト腫瘍異種移植片にin vivoで化学療法剤を特異的に送達できたことを示した。
【0136】
この結果は、細菌由来のインタクトな薬物をパッケージしたミニ細胞により仲介された非食作用性哺乳動物細胞への標的化されたin vivo薬物送達の最初の証明である。
【0137】
興味深いことに、マウスの尾静脈に投与された遊離ドキソルビシン(グループ3及び4)は注射部位で、ヒトに遊離ドキソルビシンを静脈内注射したときの周知の副作用である、重い反応を示した。この反応は静脈炎として知られ、注射部位での薬物の管外遊出により引き起こされると考えられており、局部的な領域における正常な細胞の死に関連する。対照的に、標的化又は非標的化されたドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞を与えられたマウスは注射した部位にいかなる副作用も示さず、ミニ細胞にパッケージされたドキソルビシンは注射部位で皮膚組織に遊離ドキソルビシンの反応性を防止したことを示した。更に、リポソームの送達ベクター、例えばDOXIL(リポソームドキソルビシン)とは違って、薬物はミニ細胞から漏出しなかった。
【0138】
これらの結果は以下のことを示す。(a)ミニ細胞はミニ細胞の細胞質にドキソルビシンのような潜在的に高い毒性の薬物をパッケージすることができ、薬物はミニ細胞膜の外に漏出しないと考えられる。従って、遊離ドキソルビシン(グループ3及び4)で見られた尾静脈注射の部位に、皮膚反応性が無く(グループ5及び7)、(b)ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞は、ミニ細胞を静脈内又は腫瘍内(グループ5〜8)に注射した場合、少なくともヌードマウスにおいて安全であり、このことは、先に本発明者ら(米国特許出願番号PCT/IB02/04632)により発明され採用された遊離エンドトキシン(リポ多糖類)除去手順は、静脈内投与又は腫瘍内皮下投与において安全であるのに十分にエンドトキシンを含有しないミニ細胞の投与を提供するのに十分であることを示し、(c)標的化されたミニ細胞は漏出性の腫瘍の新生脈管系を浸透するのに十分に小さく、ドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞を腫瘍の微小環境の中へ入れることができると考えられ、(d)標的化されたドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞はMDA-MB-468細胞の表面に過剰発現されることが知られているEGFレセプターと特異的に結合するとみられ、及びエンドサイトーシス後にミニ細胞が壊れてドキソルビシンを放出し、腫瘍細胞の死と観察された腫瘍縮退を起こし(グループ7;図3)、(e)静脈内注射に続いて、標的化されドキソルビシンをパッケージしたミニ細胞が有意な濃度で腫瘍の微小環境に到達し、腫瘍の退縮を達成する。したがって、観察された治療効果をなくすような有意な量で循環しているプロフェッショナルな食細胞によって、ミニ細胞が排除されることはないと考えられる。
【実施例8】
【0139】
ヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片への、標的化及び薬物をパッケージしたミニ細胞を介した疎水性化学療法剤パクリタキセルの高効率な送達
本実施例は、標的化され薬物をパッケージしたミニ細胞を介してヌードマウスにおけるヒト乳癌異種移植片への、疎水性化学療法剤のパクリタキセルの高効率な送達を示す。実施例7に示した実験を実験的治療としてEGFRミニ細胞パクリタキセルを用いて繰り返した。治療は、(i)G1−腫瘍のみ、(ii)G2−遊離パクリタキセル(400μg)を腫瘍内に与えた、(iii)G3−遊離パクリタキセル(400μg)を静脈内に与えた、(iv)G4−抗-O抗原/抗-EGFR BsAb及び遊離パクリタキセル(400μg)を静脈内に与えた、(v)G5−非標的化ミニ細胞Pacを静脈内に与えた、(vi)G6−非標的化ミニ細胞Pacを腫瘍内に与えた、(vii)G7−EGFRミニ細胞Pacを静脈内に与えた、(viii)G8−EGFRミニ細胞Pacを腫瘍内に与えた。様々な治療を15、21、26、29及び33日目に行った。1×10個のミニ細胞を各ミニ細胞治療で使用した。
【0140】
結果は、EGFRミニ細胞Pacで治療したマウスで極めて有意な(p=0.0004)腫瘍安定化/縮退がみられ(図4)、治療が静脈内又は腫瘍内になされたかどうかに関係ないことがもう一度示された。非標的化ミニ細胞Pac、BsAb及び遊離パクリタキセルを含む対照の治療は、腫瘍の成長に無視しうる程度のごくわずかな影響があしかなかった。実験を通してマウスは、発熱、嗜眠、食欲不振または死などの毒性の明らかなサイン兆候を示さなかった。本実験を3回繰返し、同様の結果を得た。
【0141】
この結果は極めて重要であり、リポソーム、ナノ粒子等のような他の薬物送達ベクターは、パクリタキセルのような高疎水性薬物の治療上有意な量をうまくパッケージできなかったからである。ほとんどの場合、試みると、ベクターの化学的構造が変わったり、又は薬物をパッケージングできるように薬物が変わり、しばしば生物活性が失われる結果となる。本発明者らの結果は、インタクトなミニ細胞にそのような薬物を容易にパッケージできるだけではなく、薬物をin vivoで標的の病的細胞に特異的に安全に送達でき、治療効果を達成できることを初めて示す。
【実施例9】
【0142】
哺乳動物細胞への標的化ミニ細胞ベースの薬物送達の多用途性の証明
本実施例は、以下:(i)標的化され、薬物をパッケージされたミニ細胞ベクターがある範囲の異なる非食作用性細胞において治療効果を達成する十分な多用途性があり、(ii)ターゲティングのメカニズムが、EGFレセプターに限定されず、病的細胞に存在する異なる細胞表面レセプターターゲットを使用することができる十分な多用途性があり、及び(iii)ミニ細胞ベクター自身が異なる細菌属由来のミニ細胞を使用できる十分な多用途性があること、を証明する。
【0143】
1つのヌードマウス異種移植実験において、(i)ヒト卵巣癌細胞(SKOV3;ATCC、米国)を使用して腫瘍異種移植片を定着させ、(ii)ターゲティングBsAbを抗−O抗原MAb及び抗-HER2/neu MAb(後者のレセプターは、SKOV3細胞の表面で過剰発現することが知られている)を使って構築し、及び(iii)治療に使用したミニ細胞は、サルモネラ・チフィムリウム及び大腸菌minCDE株に由来した。ミニ細胞にドキソルビシンをパッケージした。非標的化ミニ細胞DOX、BsAb(抗-HER2/抗-O抗原)及び遊離ドキソルビシンを対照として含めた。
【0144】
結果は、サルモネラ・チフィムリウムminCDE-又は大腸菌minCDE-由来HER2ミニ細胞DOXのいずれかで治療したマウスにおいて顕著な腫瘍安定性を示した(p=0.004、図5)。SKOV3異種移植片はMDA−MB−468異種移植片よりもずっと速く成長したが、実験は、異種移植片定着後31日までしか追跡しなかった。対照動物が死ぬか安楽死のところまできていたからである。
【0145】
これらの結果は、(i)インタクトなミニ細胞は、ある範囲の異なる非食作用性哺乳動物細胞に、in vivoで薬物を送達するのに使用することができ、(ii)インタクトなミニ細胞ベクターを病的細胞に見られるさまざまな細胞表面レセプターにターゲットティングすることができ、及び(iii)ミニ細胞は異なる細菌属または種に由来でき、しかし同様の方法で、特にin vivoでの標的細胞への薬物送達に関して機能しうる、ということを示した。
【実施例10】
【0146】
ヌードマウスにおけるヒト腫瘍異種移植片に対する治療効果と、標的化され薬物をパッケージされたミニ細胞の投与量との関係
本実施例は、薬物をパッケージしたミニ細胞について用量-効果の関係を示す。より具体的には、本実施例は、ヌードマウスにおけるヒト腫瘍異種移植片に対する最大の治療効果を達成するために必要とされる、標的化された薬物をパッケージしたミニ細胞の用量を示す。
【0147】
MDA−MB−468(ヒト乳腺癌)細胞をBalb/c nu/nuマウスの肩甲骨間に異種移植片として定着させた。実施例3に説明したように、2つの異なる外部ドキソルビシン濃度(60μg/ml及び200μg/ml)を用いてサルモネラ・チフィムリウムminCDE-由来ミニ細胞にドキソルビシンをパッケージした。ミニ細胞DOXを精製し(実施例1)、サンプルをHPLCで分析し、10個のミニ細胞にパッケージされたドキソルビシンの濃度を測定した。結果は、外部ドキソルビシン濃度が60μg/ml及び200μg/mlで、10個のミニ細胞にそれぞれ、ドキソルビシン85ng及び660ngがパッケージされたことを示した。
【0148】
次に、ミニ細胞DOXをMDA−MB−468細胞で過剰発現するEGFRにターゲティングし、6匹の異なるマウス静脈内注射用量を準備した:(i)G1−全部で660ngのドキソルビシンを保有する10個のEGFRミニ細胞DOX、(ii)G2−全部で85ngのドキソルビシンを保有する10個のEGFRミニ細胞DOX、(iii)G3−全部で66ngのドキソルビシンを保有する10個のEGFRミニ細胞DOX、(iv)G4−全部で8.5ngのドキソルビシンを保有する10個のEGFRミニ細胞DOX、(v)G5−全部で6.6ngのドキソルビシンを保有する10個のEGFRミニ細胞DOX、(vi)G6−全部で0.85ngのドキソルビシンを保有する10個のEGFRミニ細胞DOX。腫瘍体積が50mm〜80mmの異種移植片定着後、様々な用量をマウスに静脈内投与した。腫瘍体積は前述のようにして測定した。
【0149】
結果は、ミニ細胞の用量と治療効果の間にはっきりとした関係を示した(図6)。腫瘍安定化/縮退に関して、10個のEGFRミニ細胞DOXは10個のEGFRミニ細胞DOXよりもずっと効果的であり、同様に10個のEGFRミニ細胞DOXよりも効果的であった。興味深いことに、グループ3及び4(それぞれ6.6ng及び8.5ng)と、グループ5及び6(66ng及び85ng)に投与したミニ細胞間のドキソルビシン濃度に大きな違いはなかった。しかしながら、G4の治療はG3よりも効果的であり、同様にG6の治療はG5よりも効果的であった。これは、ミニ細胞及び本実験で分析された薬物濃度の範囲内において、治療効果は、ミニ細胞内に保有された薬物の濃度よりもむしろ細胞数に相関していたことを示した。
【0150】
引用文献
本明細書は以下の文献のそれぞれを参照によって組み込む。
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)治療有効量のペプチド又はタンパク質を搭載した細菌由来のインタクトなミニ細胞及び(ii)製薬上許容できる担体を含む組成物であって、前記ペプチド又はタンパク質をコードするコンストラクトが前記ミニ細胞に存在しない、前記組成物。
【請求項2】
非食作用性哺乳動物細胞の表面構成成分に結合できるリガンドを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記非食作用性哺乳動物細胞の表面構成成分が、レセプター仲介エンドサイトーシスを活性化できるレセプターである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
1010ミニ細胞当たり1未満の混入している細菌性親細胞を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
場合により1011ミニ細胞当たり1未満の混入している細菌性親細胞を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ミニ細胞を含む細胞外媒体とミニ細胞の細胞質との間にペプチド又はタンパク質の濃度勾配を作り、これによって、前記ペプチド又はタンパク質が前記濃度勾配に沿って前記ミニ細胞の細胞質に移動するステップを含む、ミニ細胞にペプチド又はタンパク質を搭載する方法。
【請求項7】
前記ペプチド又はタンパク質を、治療有効量まで前記ミニ細胞に搭載する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
インタクトなミニ細胞に治療有効量のペプチド又はタンパク質を搭載する、請求項6又は7に記載の方法によって得ることができる細菌由来のインタクトなミニ細胞を含む組成物。
【請求項9】
in vitro使用のための請求項8に記載の細菌由来のインタクトなミニ細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178798(P2011−178798A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−96273(P2011−96273)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【分割の表示】特願2006−551944(P2006−551944)の分割
【原出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504146523)エンジーンアイシー モレキュラー デリバリー ピーティーワイ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】