説明

終端反射壁フィルタを有するプラズマ生成装置及びプラズマ加工装置

【課題】プラズマの輸送効率及びドロップレットの除去効率が高く、比較的安価に製造することができるプラズマ生成装置を提供する。
【解決手段】本発明はカソードターゲット3からプラズマを発生させるプラズマ発生部2と、前記プラズマが進行する第1プラズマ進行路7と第2プラズマ進行路9を有するプラズマ進行路4から構成され、ドロップレット30を付着する遮蔽板12が内壁に複数設けられるプラズマ生成装置1において、前記第1プラズマ進行路7の終端にその直進方向に対向する終端反射壁31が設けられ、前記終端反射壁31に沿って前記第2プラズマ進行路9が前記第1プラズマ進行路7に対し屈曲して接続され、前記終端反射壁31に前記遮蔽板を複数配設して前記ドロップレットを反射及び/又は吸着させるプラズマ生成装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードターゲットからプラズマを発生させるプラズマ発生部と、誘導磁界等によって前記プラズマが進行するプラズマ進行路から構成され、前記プラズマ進行路に前記カソードターゲットで副生されるドロップレットを除去するフィルタ機能が付与されたプラズマ生成装置に関し、更に詳細には、前記プラズマ進行路の内壁やその内壁に設けられた遮蔽板にドロップレットを衝突させて、前記ドロップレットを除去するプラズマ生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空アーク放電では、カソードターゲットの陰極点から陰極材料イオン、電子、陰極材料中性原子団(原子及び分子)といった真空アークプラズマ構成粒子が放出されると同時に、サブミクロン以下から数百ミクロン(0.01〜1000μm)の大きさのマクロパーティクルと称される(以下、「ドロップレット」と称する)陰極材料微粒子も放出される。このドロップレットが被処理物表面に付着すると、被処理物表面に形成される薄膜の均一性が失われ、薄膜の欠陥を生じさせ、成膜等の表面処理結果に影響を与える。このドロップレットが基板に到達することを防ぐために、1970年代から様々な手法が採用されている。後述するように、Aksenov,I.I.et al.「Transport of plasma streams in a curvilinear plasma-opticcs system」,Sov.J.Plasma Phys.4,425-428,(1978)(非特許文献1)、Siemroth,P 「Personal communication on 120-degree Filter」Dresden,Germany,(2003)(非特許文献2)、Aksenov,I.I.et al.「Efficiency of magnetic Plasma filter」Surface and Coatings Technology 163-164,118-127,(2003)(非特許文献3)及び米国特許6031239号公報(特許文献1)等には、前記ドロップレットを除去するためにフィルターダクトを設けたプラズマ生成装置が記載されている。
【0003】
フィルターダクトを有するプラズマ生成装置では、プラズマが磁界によりフィルターダクト内のプラズマ進行路に沿って誘導され、プラズマのみがプラズマ進行路の終端まで誘導されるよう前記プラズマ進行路が設計される。プラズマ進行路が湾曲するフィルターダクトの形状には、後述するように、90°の曲がりを有するもの(非特許文献1)、120°の曲がりを有するもの(非特許文献2)、そして二回の曲がりを有するもの(特許文献1)等がある。更に、非特許文献3には、プラズマ進行路の構造等からドロップレットの除去効率を計算する方法が記載されている。
【0004】
特開2002−8893号公報(特許文献2)には、ドロップレットの除去効率をより向上させる方法として、T型フィルタ(T-type filter:TTF)を有するプラズマ加工装置が記載されている。図18は、特許文献2に記載される従来のプラズマ加工装置の構成概略図である。プラズマ発生部102では、トリガ電極170がカソードターゲット103に接触して電気スパークが生起され、カソードターゲット103とアノード105の間に真空アークが発生することによりプラズマ171が生成されると同時に、ドロップレット130が副生される。図18のTTFは、90°に折れ曲るプラズマ進行路104にドロップレット捕集部150が付設され、T字状の構造が形成されている。即ち、TTFでは、ドロップレット130を捕獲するスペースが設けられている。従って、TTFでは、プラズマ171を構成する荷電粒子の進行方向が電磁場によって屈曲され、中性粒子のドロップレット130が直進することにより分離され、さらにドロップレット捕集部150に捕獲される。従って、加工部108に配設された被処理物113に到達するドロップレット130の量が低減されていた。
【0005】
特開2004−244667号公報(特許文献3)に記載される真空アーク蒸着装置では、湾曲するプラズマ進行路が形成されると共に、プラズマ進行路にバッフル(「遮蔽板」とも称する)が設けられ、ドロップレットの除去効率を向上させている。図19は、特許文献3に記載される従来の真空アーク蒸着装置におけるプラズマ進行路202とバッフル203の関係を示す概略図である。プラズマ進行路202を形成するステンレスパイプ201の内壁にバッフル203が設けられ、特許文献3では、バッフルの高さaとバッフル203の間隔bの比率(a/b)を1以上とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許6031239号公報
【特許文献2】特開2002−8893号公報
【特許文献3】特開2004−244667号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Aksenov, I.I. et al. 「Transport of plasma streams in a curvilinear plasma-opticcs system」Sov.J.Plasma Phys.4,425-428,(1978)
【非特許文献2】Siemroth,P 「Personal communication on 120-degree Filter」Dresden,Germany,(2003)
【非特許文献3】Aksenov, I.I. et al.「Efficiency of magnetic plasma filter」Surface and Coatings Technology 163-164(2003)118-127
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のプラズマ生成装置では、上述のように、ドロップレットを除去するために、プラズマ進行路にドロップレット捕集部を設ける、またはプラズマ進行路の経路を2回以上湾曲させていた。これらの装置は、大型化すると共に構造が複雑になり、メンテナンス作業の負担を増大させていた。
図18に示した、特許文献2に記載される従来のプラズマ加工装置では、前述のように、ドロップレット捕集部150が設けられ、プラズマ発生部102からプラズマ171に随伴して進行するドロップレット130が直進し、ドロップレット捕集部150に捕集されるよう設計されている。しかしながら、ドロップレット捕集部150を設けることは、装置の構造を複雑にし、メンテナンス作業やその製造コストを増大させていた。
【0009】
図20は、従来のドロップレット捕集部150を具備するプラズマ生成装置101において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレート図である。図20では、図18と同様に、プラズマ進行路104が第1プラズマ進行路107と第2プラズマ進行路109からなり、ドロップレット捕集部150が設けられると共に、プラズマの進行方向を変化させ、第2プラズマ進行路109とプラズマ加工部108の被処理物113が直線で結ばれないように設けられたドロップレット除去ダクト159が設けられている。しかしながら、ドロップレットは、被処理物113に5個到達しており、大幅に低減化されているが、完全には除去されていない。
更に、図18や図20に示ししたようなドロップレット捕集部150を具備するプラズマ生成装置は、装置内の容量が大きくなり、クリーニング等のメンテナンス作業が増えると共に、真空アーク放電が生起される程度まで減圧する時間及び/又はエネルギー消費が増加するため、ランニングコストを抑制することが困難となっていた。
【0010】
特許文献3には、図19に示すように、バッフル203を設け、更に、バッフルの高さaとバッフル203の間隔bの比率(b/a)を1以上とすることにより、ドロップレットの除去効率が向上することが記載されている。しかしながら、ドロップレットの除去効率は、バッフル203の高さや間隔と共に、プラズマ進行路202の経路や構造にも依存している。即ち、特許文献3では、単に、湾曲した経路を有するプラズマ進行路において、バッフル203の効率的な配置を示したにものであった。
プラズマ生成装置では、より単純な構造を有するプラズマ進行路において、より効率的にバッフルを配置することにより、製造コストを低減させると共に、高効率にドロップレットを除去することが要求されていた。しかしながら、従来のプラズマ生成装置では、主としてプラズマ進行路の構造をより複雑化して、ドロップレットの除去効率を向上させていた。
【0011】
従って、本発明の目的は、より単純な構造のプラズマ進行路を有し、比較的安価に製造することができ、且つ容易にメンテナンスを行うことができると共に、高効率にドロップレットを除去することができるプラズマ生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために完成するに到ったものであり、本発明の第1の形態は、カソードターゲットからプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマが進行するプラズマ進行路から構成され、前記カソードターゲットから副生されるドロップレットを衝突させて付着する遮蔽板が前記プラズマ進行路の内壁に複数設けられるプラズマ生成装置において、前記プラズマ進行路が第1プラズマ進行路と第2プラズマ進行路からなり、前記第1プラズマ進行路の終端にその直進方向に対向する終端反射壁が設けられ、前記終端反射壁に沿って前記第2プラズマ進行路が前記第1プラズマ進行路に対し屈曲して接続され、前記終端反射壁に前記遮蔽板を複数配設して前記ドロップレットを反射及び/又は吸着させるプラズマ生成装置である。
【0013】
本発明の第2の形態は、前記第1の形態において、前記プラズマ進行路の内壁に対する前記遮蔽板の角度を遮蔽角θとし、前記遮蔽角θが20°〜35°、55°〜65°、80°〜100°、115°〜130°又は150°〜155°の範囲にあるプラズマ生成装置である。
【0014】
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記遮蔽板の高さHと隣り合う前記遮蔽板の間隔Dの比率D/Hが1〜1.5の範囲にあるプラズマ生成装置である。
【0015】
本発明の第4の形態は、第1〜3のいずれかの形態において、前記プラズマ進行路の開口面積をSo、前記遮蔽板による遮蔽面積をSc、前記プラズマ進行路の開口率をSr=So/(So+Sc)としたとき、開口率Srが0.33〜0.6の範囲にあるプラズマ生成装置である。
【0016】
本発明の第5の形態は、第1〜4のいずれかの形態において、前記遮蔽板の厚さが4mm以下であるプラズマ生成装置である。
【0017】
本発明の第6の形態は、第1〜5のいずれかの形態において、前記第1プラズマ進行路を形成する第1ダクトと前記第2プラズマ進行路を形成する第2ダクトが電気的に絶縁され、前記各ダクトが独立に正電位、負電位又は接地電位に設定されるプラズマ生成装置である。
【0018】
本発明の第7の形態は、第1〜6のいずれかの形態において、前記第2プラズマ進行路の終端に前記プラズマのスキャン手段を有するスキャン部が設けられるプラズマ生成装置である。
【0019】
本発明の第8の形態は、第1〜7のいずれかの形態において、前記屈曲部に予備プラズマ進行路が前記第2プラズマ進行路に対して屈曲して接続され、前記予備プラズマ進行路に進行するプラズマを供給する予備プラズマ発生部が設けられ、前記第1プラズマ進行路と前記予備プラズマ進行路の各々の終端に開閉手段が設けられ、前記各開閉手段の一方が閉状態に保持されて前記終端反射壁が形成されるプラズマ生成装置である。
【0020】
本発明の第9の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記プラズマ発生部が第1プラズマ発生室と第2プラズマ発生室からなり、前記各プラズマ発生室が各々のプラズマ供給路を介して前記第1プラズマ進行路の始端に接続され、前記各プラズマ発生室と前記プラズマ供給路の間に供給路開閉手段が設けられるプラズマ生成装置である。
【0021】
本発明の第10の形態は、第1〜第9のいずれかの形態において、前記プラズマ発生部に予備ターゲット室が付設され、前記予備ターゲット室と前プラズマ発生部の間に予備室開閉手段が設けられ、前記予備室開閉手段が開状態にあるとき、前記プラズマ発生部から前記予備ターゲット室に及び/又はその逆方向に前記カソードターゲットを搬送するターゲット搬送手段が設けられるプラズマ生成装置である。
【0022】
本発明の第11の形態は、第1〜10の形態のいずれかのプラズマ生成装置に被処理物が配置されるプラズマ加工部が設けられ、前記プラズマ進行路を介する前記カソードターゲットの表面と前記被処理物の表面の距離が800mm〜1300mmの範囲に設定されるプラズマ加工装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1の形態によれば、前記遮蔽板(「バッフル」とも称される)が前記プラズマ進行路の内壁に複数設けられるプラズマ生成装置において、前記プラズマ進行路が第1プラズマ進行路と第2プラズマ進行路からなり、前記第1プラズマ進行路の終端にその直進方向に対向する終端反射壁が設けられ、前記終端反射壁に沿って前記第2プラズマ進行路が前記第1プラズマ進行路に対し屈曲して接続され、前記終端反射壁に前記遮蔽板を複数配設して前記ドロップレットを反射及び/又は吸着させるから、比較的簡単な構造を有する前記プラズマ進行路において、高効率にドロップレットを除去することができる。
前記プラズマ発生部から第1プラズマ進行路までに壁面に衝突することなく、直進する又は略直進するドロップレットは、前記第1プラズマ進行路の終端に設けられた前記終端反射壁に衝突して運動エネルギーを失い、更にその殆どが第プラズマ進行路をプラズマ発生部の方向へ反射される。反射されたドロップレットは、第1プラズマ進行路やプラズマ発生部の内壁面への衝突を繰り返し、完全に運動量エネルギーを失って装置内の壁面に吸着される。また、第1プラズマ進行路やプラズマ発生部の内壁で衝突を繰り返したドロップレットは、前記終端反射面や第2プラズマ進行路の内壁面に衝突して運動エネルギーを完全に失って吸着除去される。更に、前記遮蔽板が複数設けられるから、前記内壁面の表面積が大きくなり、ドロップレットが前記内壁面に衝突する確率が増大し、ドロップレットの吸着が容易に成る、即ち、比較的簡単な構造を有する前記プラズマ進行路において高効率にドロップレットを除去することができる。
更に、本発明の第1の形態は、第1プラズマ進行路と第2プラズマ進行路が屈曲して接続され、第1プラズマ進行路の終端に終端反射壁が設けられれば良いから、プラズマ進行路の構造が比較的簡単になり、装置のメンテナンス作業が容易になると共に、プラズマ生成装置の製造コストを大幅に低減することができる。
本発明者らの鋭意研究の結果、屈曲するプラズマ進行路に終端反射壁を設けることによって、より複雑な構造を有するプラズマ生成装置と同等又はそれ以上のドロップレット除去効率を有することを明らかにして、本発明を完成するに到ったものである。尚、以下では、第1の形態のプラズマ進行路を「終端反射壁フィルタ」と称する。
例えば、特許文献2に記載されるT型フィルタを有するプラズマ生成装置と、本発明に係る終端反射壁フィルタを比較すると、遮蔽板が複数設けられた場合、略同程度のドロップレット除去効率を有することを明らかにしている。即ち、より簡単な構造を有する終端反射壁フィルタが、より複雑な構造を有するT型フィルタと同程度のドロップレット除去効率を有しており、プラズマ生成装置の製造コストを低減化できると共に、好適なドロップレット除去効率を実現することができる。更に、終端反射壁フィルタでは、T型フィルタにおけるドロップレット捕集部のような余計な空間がないため、クリーニング等のメンテナンス作業が簡単になると共に、真空アーク放電が生起される程度まで減圧する時間及び/又はエネルギー消費が低減化され、ランニングコストを抑制することができる。
更に、湾曲したプラズマ進行路を有するプラズマ生成装置より、プラズマの除去効率が高く、終端反射壁フィルタは、比較的簡単な構造で高いドロップレット除去効率を有することができる。
【0024】
本発明の第2の形態によれば、前記プラズマ進行路の内壁に対する前記遮蔽板の角度を遮蔽角θとし、前記遮蔽角θが20°〜35°、55°〜65°、80°〜100°、115°〜130°又は150°〜155°の範囲にあるから、前記遮蔽板により高効率にドロップレットを除去することができる。本発明者らは、ドロップレットの除去効率に関するシミュレーションにより、プラズマが照射される被処理物までのドロップレット到達率が前記遮蔽角θに対して、ほぼ周期的に向上することを明らかにして、本発明を完成するに到った。シミュレーションでは、プラズマ進行路における開口径を一定にして、前記遮蔽角を変化させて、ドロップレットの除去効率を導出している。
【0025】
本発明の第3の形態によれば、前記遮蔽板の高さHと隣り合う前記遮蔽板の間隔Dの比率D/Hが1〜1.5の範囲にあるから、ドロップレットの除去効率をより向上させることができる。終端反射壁フィルタを有するプラズマ生成装置において、前記遮蔽板の高さHと前記間隔Dの大きさを変化させ、より好適な比率D/Hを調べた結果、ドロップレットの除去効率は、比率D/Hが約1.25のときをピークとして、−0.25〜+0.25の幅を有している。より好ましくは、比率D/Hが1.25のときをピークとして、−0.1〜+0.1の幅を有し、1.15〜1.35の範囲に設定される。
【0026】
本発明の第4の形態によれば、前記プラズマ進行路の開口面積をSo、前記遮蔽板による遮蔽面積をSc、前記プラズマ進行路の開口率をSr=So/(So+Sc)としたとき、開口率Srが0.33〜0.6の範囲にあるから、ドロップレットを好適に除去できるとともに、前記開口率が所定の範囲にあるから、プラズマの供給量を所望の値以上に保持することができる。
【0027】
本発明の第5の形態によれば、前記遮蔽板の厚さが4mm以下であるから、前記遮蔽板によって、より効率的にドロップレットを捕集することができる。前記遮蔽板の厚さが4mmを越えると、遮蔽板端面におけるドロップレットの反射が無視できなくなり、前記遮蔽板によるドロップレットの捕集効率を低減化させる原因となっていた。
【0028】
本発明の第6の形態によれば、前記第1プラズマ進行路を形成する第1ダクトと前記第2プラズマ進行路を形成する第2ダクトが電気的に絶縁され、前記各ダクトが独立に正電位、負電位又は接地電位に設定されるから、より高効率にプラズマをプラズマ進行路の終端へ誘導することができる。即ち、電位を調整することにより、プラズマの減衰を抑制でき、プラズマ搬送効率を増加させることが可能になる。正負のいずれの電位を印加するかは、プラズマ搬送効率を増加させるように選択される。また電位の大きさも種々に調節され、プラズマ搬送効率を増加させる電位強度が選択される。
【0029】
本発明の第7の形態によれば、前記第2プラズマ進行路の終端に前記プラズマのスキャン手段を有するスキャン部が設けられるから、前記プラズマを被処理物の表面にスキャンしながら照射することができ、均質な被膜を作成することができる。前記スキャン手段としては、プラズマの直進方向をz軸方向としたとき、x軸方向とy軸方向の磁場を印加し、その強度と向きを自在に変更できる電磁石等を配置することができる。x軸方向及び/又はy軸方向の磁場を振動させることにより、プラズマを繰り返しスキャンさせることができる。
【0030】
本発明の第8の形態によれば、前記屈曲部に予備プラズマ進行路が前記第2プラズマ進行路に対して屈曲して接続され、前記予備プラズマ進行路に進行するプラズマを供給する予備プラズマ発生部が設けられ、前記第1プラズマ進行路と前記予備プラズマ進行路の各々の終端に開閉手段が設けられ、前記各開閉手段の一方が閉状態に保持されて前記終端反射壁が形成されるから、装置内を真空に保持したまま又は所望のガスを封入したまま、カソードターゲットを簡単に交換することができ、プラズマの生成を短時間で再開することができる。即ち、第1プラズマ進行路終端の開閉手段を閉じ、予備プラズマ進行路終端の開閉手段を開けることにより、終端反射壁を切り替えると同時に、プラズマ発生部を予備プラズマ発生部に切り替えることができ、終端反射壁フィルタにより、ドロップレットを高効率に除去することができる。また、2種類のカソードターゲットを、夫々、プラズマ発生部と予備プラズマ発生部に配置することができる。
【0031】
本発明の第9の形態によれば、前記プラズマ発生部が第1プラズマ発生室と第2プラズマ発生室からなり、前記各プラズマ発生室が各々のプラズマ供給路を介して前記第1プラズマ進行路の始端に接続され、前記各プラズマ発生室と前記プラズマ供給路の間に供給路開閉手段が設けられるから、プラズマ進行路や発生室を真空に保持したまま、カソードターゲットを簡単に交換することができ、プラズマの生成を短時間で再開することができる。更に、前記第8の形態と同様に、2種類のカソードターゲットを、夫々、第1プラズマ発生室と第2プラズマ発生室に配置することが可能である。
【0032】
本発明の第10の形態によれば、前記プラズマ発生部に予備ターゲット室が付設され、前記予備ターゲット室と前プラズマ発生部の間に予備室開閉手段が設けられ、前記予備室開閉手段が開状態にあるとき、前記プラズマ発生部から前記予備ターゲット室に及び/又はその逆方向に前記カソードターゲットを搬送するターゲット搬送手段が設けられるから、装置内を真空状態に保持しながら、チャンバを開放することなく、カソードターゲットを交換することができる。即ち、ロードロックチャンバを構成することができ、大気への開放と、真空引きが繰り返されることがなく、効率的にプラズマを生成することができる。
【0033】
本発明の第11の形態によれば、第1〜10の形態のいずれかのプラズマ生成装置に被処理物が配置されるプラズマ加工部が設けられ、前記プラズマ進行路を介する前記カソードターゲットの表面と前記被処理物の表面の距離(以下、「プラズマ輸送距離」と称する)が800mm〜1300mmの範囲に設定されるから、ドロップレットの所定値以下に低減できると共に、プラズマの高い輸送効率を実現することができる。前記プラズマ輸送距離が800mm未満の場合、ドロップレットの除去を十分に行うことができず、前記プラズマ輸送距離が1300mmを越える場合、真空アーク放電が発生する状態まで減圧する時間が増大し、装置の大型化によってメンテナンス作業等の負担も大きくなっていた。従って、前記プラズマ輸送距離が800mm〜1300mmの範囲にある場合、好適なドロップレットの除去効率を実現できると共に、ランニングコストの低減化を図ることができる。
更に、前記プラズマ輸送距離が800mm〜1000mmであることがより好ましく、1000mm以下の場合、好適なドロップレットの除去効率を有すると共に、高いプラズマの輸送効率をより確実に実現することできる。また、前記プラズマ輸送距離が1000mm以下の場合、装置の小型化を図ることができ、メンテナンス作業等をより軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ生成装置の概略構成図である。
【図2】図2は、図1に示した第1実施形態のプラズマ生成装置において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。
【図3】図3は、比較例として、ドロップレット捕集部が設けられた従来のプラズマ装置において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。
【図4】図4は、比較例として、プラズマ進行路が湾曲する従来のプラズマ装置52において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。
【図5】図5は、比較例として、遮蔽板の無い終端反射壁を有するプラズマ進行路4を有するプラズマ装置において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。
【図6】図6は、本発明の第1実施形態において、内壁に対する遮蔽板の角度を変化させたときに第2プラズマ進行路の終端に到達するドロップレット数をプロットしたグラフ図である。
【図7】図7は、本発明に係るプラズマ生成装置において、遮蔽板の高さHと間隔Dを変化させ、第2プラズマ進行路の終端に到達するドロップレット数をプロットしたグラフ図である。
【図8】図8は、本発明に係る遮蔽板の厚みを変化させたときのドロップレット数の変化をプロットしたグラフ図である。
【図9】図9は、本発明に係る終端反射壁を有するプラズマ進行路の曲げ角度を変化させてドロップレット数をプロットしたグラフ図である。
【図10】図10は、比較例1として、湾曲状のプラズマ進行路54を有する湾曲型プラズマ生成装置に遮蔽板を設けた場合において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。
【図11】図11は、比較例2、3として、他の湾曲状のプラズマ進行路を有する湾曲型プラズマ装置に遮蔽板を設けた場合において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。
【図12】図12は、本発明の第1実施形態(実施例)と比較例において、第2プラズマ進行路の終端に到達するドロップレット数を比較したグラフ図である。
【図13】図13は、本発明の第2実施形態に係るプラズマ生成装置の構成概略図である。
【図14】図14は、本発明の第3実施形態に係るプラズマ生成装置の構成概略図である。
【図15】図15は、本発明の第4実施形態に係るプラズマ生成装置の構成概略図である。
【図16】図16は、本発明に係るプラズマ進行路の斜視概略図である。
【図17】図17は、本発明に係るプラズマ生成装置において予測されるプラズマ輸送距離(mm)と成膜レート(nm/s)の関係を示すグラフ図である。
【図18】図18は、特許文献2に記載される従来のプラズマ加工装置の構成概略図である。
【図19】図19は、特許文献3に記載される従来の真空アーク蒸着装置におけるプラズマ進行路とバッフルの関係を示す概略図である。
【図20】図20は、従来のドロップレット捕集部を具備するプラズマ生成装置において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係るプラズマ生成装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係るプラズマ生成装置1の構成概略図である。第1実施形態のプラズマ生成装置1は、プラズマ発生部2と終端反射壁31を有するプラズマ進行路4から構成され、更に、プラズマ進行路4には、照射部6を介して被処理物13が配設されたプラズマ加工部8が接続されている。プラズマ発生部2には、カソードターゲット3とアノード5、5が配設され、カソードターゲット3の表面とアノード5、5の間に真空アークが発生することによりプラズマが生成されると同時に、ドロップレットが副生される。
プラズマ進行路4では、第1プラズマ進行路7と第2プラズマ進行路9が屈曲部10で直角に接続され、第1プラズマ進行路7の終端に終端反射壁31が設けられている。プラズマ発生部2で発生させたプラズマは、プラズマ進行路4を進行すると共に、第1コイル14及び第2コイル15の誘導磁場により屈曲部10で屈曲され、さらにプラズマ加工部の方向へ進行していく。プラズマ進行路を介するカソードターゲット3の表面から被処理物13の表面までの距離を、プラズマ輸送距離32と称している。即ち、プラズマの輸送距離32は、第1プラズマ進行路7の中心線と第2プラズマ進行路9の中心線を介して、カソードターゲット3の表面と被処理物13の表面の中心を結ぶ距離である。
【0036】
図1のカソードターゲット3から第1プラズマ進行路に沿って直進する直進ドロップレット30は、終端反射壁31で反射された後、第1プラズマ進行路7の方向に進行し、反射を繰り返しながら運動エネルギーを失っていくことが予測され、副生されたドロップレットの殆どは反射を繰り返した後にプラズマ進行路4などの内壁面に吸着されて除去される。終端反射壁31で反射されたドロップレットのうち、一部は第2プラズマ進行路9に進入するが、第2プラズマ進行路で反射を繰り返し、運動エネルギーを失って遮蔽壁12を含むプラズマ進行路4の内壁面に吸着されて除去される。即ち、終端反射壁31を有するプラズマ進行路4を形成する進行路ダクト11の内壁には、遮蔽板12が設けられ、衝突するドロップレットを吸着除去することができる。
【0037】
図1において、プラズマ進行路4を形成する進行路ダクト11は、第1プラズマ進行路7を形成する第1ダクト7aと第2プラズマ進行路9を形成する第2ダクト9aからなり、接続部34でフランジにより接続されている。前記進行路ダクト11は、プラズマ発生部接続部40のフランジでプラズマ発生部2と接続され、スキャン部接続部38のフランジでスキャン部ダクト37と接続されている。従って、接続部34、スキャン部接続部38及びプラズマ発生部接続部40の各接続部では、絶縁部材(図示せず)を用いることにより、ダクト間を電気的に遮断することが可能であり、各ダクトを独立に正負いずれかの電位又は接地電位に設定することができる。
例えば、第1ダクト7aと第2ダクト9aが絶縁部材(図示せず)により電気的に遮断される場合、第1ダクト7aを正電位に、第2ダクト9aを接地電位に設定することができる。正電位の場合には、プラズマ中の+イオンを輸送方向に押し出す効果がある。
更に、スキャン部29を形成するスキャン部ダクト37と照射部6を形成する照射部ダクト18も照射部接続部39のフランジで接続されており、同様に、絶縁部材により電気的に遮断することが可能である。例えば、各ダクトは、プラズマが誘導される被処理物13に向かって、段階的により高い正電位から低い正電位に設定され、被処理物13の直前にある照射部ダクト18が接地電位に設定され、プラズマ中の+イオンを被処理物13の方向に押し出すことができる。
尚、負電位の場合にはプラズマ中の電子を輸送方向に押し出す効果があり、正負のいずれを選択するかはプラズマの輸送効率を低下させないよう、プラズマの状態で判断される。
【0038】
図16は、本発明に係るプラズマ進行路4の斜視概略図である。(16A)では、円筒状の第1プラズマ進行路7に円筒状の第2プラズマ進行路9が接続されており、第1プラズマ進行路7を形成する円筒の終端が終端反射壁31となっている。(16B)では、屈曲部10を構成する第1プラズマ進行路の終端部が、第2プラズマ進行路を形成する円筒の始端部分からなり、終端反射壁31は、円筒の側面から形成されている。終端反射面31は第1プラズマ進行路7を直進してくるドロップレットを反対方向に反射するよう形成されていれば良く、(16B)のように曲面から形成されていても良い。
【0039】
更に、図1では、スキャン部29が設けられた照射部6には、照射部第1コイル16、16、照射部第2コイル19、19及び照射部第3コイル20が設けられ、スキャン手段としてスキャン用磁場発生器36、36が配設されている。スキャン用磁場発生器36、36の間に偏向磁場を形成し、偏向磁場の強度と方向を変化させることにより、プラズマを被処理物13の表面に照射しながらスキャンすることができ、均質な被膜を作成することができる。また、照射部6を構成する照射部ダクト18には、複数の照射部遮蔽板17が設けられており、衝突するドロップレットを吸着除去することができ、プラズマに随伴して進行するドロップレットをより低減化するができる。
【0040】
図2は、図1に示した第1実施形態のプラズマ生成装置1において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。本発明の第1実施形態の除去効率を検証するために、プラズマ進行路4を二次元的に表現し、カソードターゲット3から副生されたドロップレットの軌跡を前記非特許文献3に記載される手法に基いて計算している。カソードターゲット3の表面に等間隔で配列された200個の質点の各々が前記表面に対して飛散角度αで飛散したときの軌跡がドロップレットの軌跡として計算されている。飛散角度αは45°〜135°の範囲に設定され、この範囲で約0.91°毎に飛散角度αの異なるドロップレットの軌跡が配列された各質点に対して計算されており、20000個の軌跡が計算されている。各方向へのドロップレットの初速度は300m/sに設定され、壁面への衝突で速さが半減し、速さが1m/s以下となったときに、ドロップレットは失活して壁面に吸着されるものとしている。即ち、9回の衝突でドロップレットは失活すると仮定している。以下、特に断らない限り、図2と同じ条件でドロップレットの軌跡が計算されている。
【0041】
図2に示すように、図1のプラズマ生成装置1では、ドロップレット30が被処理物13に到達しておらず、シミュレーションでは、100%の除去効率を有することが示されている。プラズマ進行路4の終端近くまでは、飛散するドロップレットの軌跡により黒く塗りつぶされているが、スキャン部17の入口側では軌跡が殆ど消滅しており、プラズマ進行路4において殆どのドロップレットが除去されていることが分かる。即ち、第1実施形態の終端反射壁31を有するプラズマ進行路4は、ドロップレットのフィルタとして高い除去効率を有しており、複数の遮蔽板12が設けられ、直角に屈曲したプラズマ進行路4の終端反射壁31に衝突させることにより、プラズマ進行路4の終端までにドロップレットを高効率で吸着除去することができる。
【0042】
図3は、比較例として、ドロップレット捕集部50が設けられた従来のプラズマ装置51において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。図3のプラズマ生成装置51では、ドロップレット捕集部50が設けられている以外は、図2のプラズマ生成装置とほぼ同じ構造を有し、遮蔽板12もほぼ同じピッチで設けられている。ドロップレット捕集部50を有するプラズマ生成装置51では、図2に示した本発明の実施形態1とほぼ同程度の除去効率を有することが分かる。即ち、第1の実施形態1は、より簡単な構造の終端反射壁フィルタを有するとともに、ドロップレット捕集部50を有する従来のプラズマ生成装置と同程度の除去効率を有するから、装置の製造コストを低減化できると共に、ドロップレット捕集部50にプラズマが進入して、プラズマの輸送効率が低減することが抑制される。
【0043】
図4は、比較例として、プラズマ進行路54が湾曲する従来のプラズマ装置52において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。この従来のプラズマ装置52には、遮蔽板が設けられておらず、主にプラズマ進行路54の構造に依存したドロップレットの除去効率を比較するために、計算されたものである。
プラズマ進行路54の内壁の接線とカソードターゲット3の表面に垂直な軸とがなす角は様々であり、ドロップレットが内壁に衝突する際の入射角も様々である。その為、ドロップレットが内壁で反射して被処理物13へ向かう軌跡が存在してしまうことになる。湾曲したプラズマ進行路54の終端に到達したドロップレットの数は、4425個であった。
【0044】
図5は、比較例として、遮蔽板の無いL字状プラズマ進行路4を有するプラズマ装置55において、ドロップレットの軌跡を計算したシミュレーション図である。第1プラズマ進行路7と第2プラズマ進行路9からなるプラズマ進行路4の場合は、各進行路で内壁がカソードターゲット3の表面に垂直な軸となす角は一様である。その為、反射により被処理物13へ向かうドロップレットの入射角は、制限されることになる。シミュレーション結果も湾曲するプラズマ進行路に比べ明らかに良好な結果を示している。プラズマ進行路4の終端を通過するドロップレット数は、295個であった。プラズマ進行路4に遮蔽板を設けない場合、被処理物に到達するドロップレットの個数は満足できる量とかけ離れている。
即ち、単にL字状プラズマ進行路4を設けるだけでは十分でなく、複数の遮蔽板が設けられることとの相乗効果により、ドロップレットの除去効率が向上する。尚、以下では、特に断らない限り、ドロップレット数は、プラズマ進行路の終端を通過するドロップレットの数を示している。
【0045】
遮蔽板は以下のような構成にすることで、十分なドロップレット除去能力を得ることが出来る。
図6は、本発明に係るプラズマ生成装置において、内壁に対する遮蔽板の角度(baffle angle)を変化させたときのドロップレット数をプロットしたグラフ図である。ダクト径が86mm、遮蔽板の開口径が66mm、遮蔽板の間隔を6mm、厚みを1mmとしている。遮蔽板をカソードターゲット側から被処理物側へ20°から160°まで5°ずつ変化させていくと、遮蔽角θが20°〜35°、55°〜65°、80°〜100°、115°〜130°又は150°〜155°の範囲にあるとき、ドロップレットのカウント数が減少しており、ドロップレットの除去効率が格段に向上している。
【0046】
図7は、本発明に係るプラズマ生成装置において、遮蔽板の高さHと間隔D(baffle pitch)を変化させ、プラズマ進行路の終端を通過するドロップレットの数をプロットしたグラフ図である。遮蔽角θを90°、厚みを1mmとし、遮蔽板の高さHを8mm,10mm,12mm,14mmのそれぞれで遮蔽板の間隔Dを6mmから18mmの間で変化させた。すべての場合で、遮蔽板の高さHと間隔Dの比が1.25になるとき、プラズマ進行路4を通過するドロップレットの数が減少する結果を得た。図7の丸で囲った箇所が、明らかにディップとなっていることがわかる。ドロップレットの除去効率は、比率D/Hが約1.25のときをピークとして、−0.25〜+0.25の幅を有している。より好ましくは、比率D/Hが1.25のときをピークとして、−0.1〜+0.1の幅を有し、1.15〜1.35の範囲に設定される
【0047】
図8は、本発明に係る遮蔽板の厚さ(baffle thick)を変化させたときのドロップレット数の変化をプロットしたグラフ図である。ダクト径が86mm、遮蔽板の開口径が66mm、遮蔽板の間隔を6mm、遮蔽角θを90°として、厚みを1mmから8mmに1mmずつ変化させていく。その結果、厚みが増すにつれてプラズマ進行路を通過するドロップレットの量が増えていく。特に、3mmを越えると急激な上昇を示し、4mmを越えると被処理物に到達するドロップレット数が100以上となる。従って、遮蔽板の厚さは、4mm以下、より好ましくは3mm以下である場合に、ドロップレットを高効率に除去することができる。
【0048】
図9は、本発明に係るプラズマ進行路の曲げ角度(duct angle)を変化させてドロップレット数をプロットしたグラフ図である。プラズマ進行路の曲げ角度は、70°から100°の間が好ましい。角度は小さすぎても大きすぎても、ドロップレットが基板に到達してしまう。より好ましい角度は90°±10°であり、本発明に係るプラズマ進行路では、曲げ角度が90°±10°に設定されている。即ち、第1プラズマ進行路と第2プラズマ進行路が屈曲部で直角又は略直角に接続されている。
【0049】
図10は、比較例1として、湾曲状のプラズマ進行路54を有する湾曲型プラズマ生成装置56に遮蔽板12を設けた場合において、プラズマ進行路の終端を通過するドロップレット数を計算したシミュレーション図である。薄いグレーが被処理物13に到達したドロップレットの軌跡であり、濃いグレーが被処理物13に到達しなかったドロップレットの軌跡である。図10に示すように、湾曲状のプラズマ進行路54を有する湾曲型プラズマ装置56に遮蔽板12を設けても、多くのドロップレットがプラズマ進行路54を通過して、さらにプラズマ加工部8にまで進行している。このシミュレーションでは、プラズマ進行路の終端を通過するドロップレット数が405個となっている。
【0050】
図11は、比較例2、3として、他の湾曲状のプラズマ進行路54を有する湾曲型プラズマ装置56、57に遮蔽板12を設けた場合において、プラズマ進行路の終端を通過するドロップレット数を計算したシミュレーション図である。図10と同様に、薄いグレーが被処理物13に到達したドロップレットの軌跡であり、濃いグレーが被処理物13に到達しなかったドロップレットの軌跡である。(11A)の比較例2では、120°で湾曲するプラズマ進行路54が設けられ、(11B)の比較例3では、2回湾曲するプラズマ進行路54が設けられている。(11A)では、181個のドロップレットが、(11B)では、31個のドロップレットが到達している。即ち、比較例2、3においてもドロップレットを完全には除去できないことが分かった。
【0051】
図12は、本発明の第1実施形態(実施例)と比較例において、プラズマ進行路の終端を通過するドロップレット数を比較したグラフ図である。比較例としては、図10と図11に示した比較例1〜3と共に、図20に示したプラズマ生成装置における計算結果を比較例Aとして追加している。実施例は、図2に示した計算結果を示している。図12に示すように、実施例であるL字状プラズマ進行路からなる終端反射壁フィルタは、ドロップレット数が0であり、ドロップレット除去効率が最も高いことを示している。更に、実施例であるプラズマ生成装置は、図2に示すように、最も簡単な構造を有することから、より高いプラズマの輸送効率を有している。
【0052】
図13は、本発明の第2実施形態に係るプラズマ生成装置1の構成概略図である。尚、図1と同一の機能を有する部材には、以下、特に断らない限り、同一の符号を付しており、それらの部材に関する説明は、一部省略する。図13のプラズマ生成装置1では、図1のプラズマ生成装置に対して、予備カソードターゲット23とアノード25、25が配設された予備プラズマ発生部22が設けられている。更に、第1プラズマ進行路7の始端と終端に、開閉手段として、始端側ゲートバルブ26と終端側ゲートバルブ27が設けられ、同様に、予備プラズマ進行路21の始端と終端には、始端側ゲートバルブ24と終端側ゲートバルブ28が設けられている。従って、少なくとも予備プラズマ進行路21の終端側ゲートバルブ28が閉状態にあり、第1プラズマ進行路7の始端側ゲートバルブ26と終端側ゲートバルブ27が開状態にあれば、プラズマ進行路4が形成され、ドロップレットを高効率に除去すると共に、プラズマの好適な輸送効率を保持することができる。即ち、終端側ゲートバルブ27と終端側ゲートバルブ28は、閉状態で終端反射壁として機能する。
更に、第1プラズマ進行路7の終端側ゲートバルブ27を閉状態とし、予備プラズマ進行路21の始端側ゲートバルブ24と終端側ゲートバルブ28を開状態とすれば、予備プラズマ進行路21を含む終端反射壁を有するプラズマ進行路4が形成される。従って、予備カソードターゲット23からプラズマを生成することができる。2種以上のプラズマを用いて、被処理物13の表面処理を行う場合や、長時間に亘ってプラズマ処理を行う場合に、プラズマ生成装置1のチャンバが開放されないから、簡単にカソードターゲットを交換できると共に、装置内を比較的クリーンに保持することができる。更に、各ゲートバルブの開閉を調整し、プラズマの供給源をプラズマ発生部2から予備プラズマ発生部22に速やかに切り替えることにより、連続的又は断続的にプラズマを供給して被処理物13のプラズマ処理を行うことができる。
【0053】
図14は、本発明の第3実施形態に係るプラズマ生成装置1の構成概略図である。第3実施形態では、プラズマ発生部2が第1プラズマ発生室62と第2プラズマ発生室63から構成されている。第2プラズマ発生室63には、第1プラズマ発生室62と同様に、カソードターゲット33とアノード35、35が設けられており、第1供給路47と第2供給路48から2種類のプラズマ又は多量のプラズマを同時に発生させることができる。更に、第1プラズマ発生室62と第2プラズマ発生室63には、夫々、第1ゲートバルブ44と第2ゲートバルブが設けられている。従って、第1プラズマ発生室62におけるプラズマの生成が完了すると同時に又は順次、第1ゲートバルブ44を開状態から閉状態とし、第2ゲートバルブを閉状態から開状態とすることにより、連続的又は断続的にプラズマを供給してプラズマ処理を行うことができる。
【0054】
図15は、本発明の第4実施形態に係るプラズマ生成装置1の構成概略図である。図15の(15A)及び(15B)では、図1のプラズマ生成装置1に対して、予備カソードターゲット43が配設された予備ターゲット室42が付設されている。(15A)では、プラズマ発生部2のカソードターゲット側に予備ターゲット室42が設けられ、(15B)プラズマ発生部2のアノード側に予備ターゲット室42が設けられている。プラズマ発生部2と予備ターゲット室42の間には、開閉手段として、ゲートバルブ46が設けられている。更に、図示していないが、カソードターゲット3及び/又は予備カソードターゲット43を搬送するターゲット搬送手段が設けられている。従って、ロードロックで真空状態を保持したまま、プラズマ発生部2と予備ターゲット室42の間でカソードターゲット3及び/又は予備カソードターゲット43を搬送し、交換又は供給することができる。装置を開放することがないため、装置内をクリーンに保持することができる。更に、比較的に簡単且つ速やかに、カソードターゲット3を予備カソードターゲット43に交換することが可能であることから、ほぼ連続的又は断続的にプラズマを供給して被処理物13のプラズマ処理を行うことができる。
【0055】
図17は、本発明に係るプラズマ生成装置において予測されるプラズマ輸送距離(mm)と成膜レート(nm/s)の関係を示すグラフ図である。グラフ中の直線は、従来のプラズマ生成装置におけるプラズマ輸送距離と成膜レートのデータから外挿して得られた直線である。ここで、成膜レート(nm/s)とは、前記被処理物の表面にプラズマを照射して、成膜したときの成膜速度である。
従来のプラズマ生成装置では、プラズマ輸送距離が1300mm以上であった。プラズマ輸送距離とは、前述のように、前記プラズマ進行路4を介するカソードターゲット3の表面と前記被処理物13の表面の距離であり、各ダクトの中心と通りカソードターゲット3と被処理物13の表面の中心を結んだ距離となる。
従来のプラズマ生成装置(例えば、図10の湾曲型プラズマ生成装置)では、所定以上のプラズマ輸送距離が無いと、ドロップレットの除去が十分に行えないため、グラフのプロットから明らかなように、プラズマ輸送距離が1300mmよりも長く設定されていた。しかしながら、プラズマ輸送距離が1300mmを越える場合、成膜レートは1nm/s未満となっていた。
【0056】
本発明に係るプラズマ生成装置では、終端反射壁フィルタが設けられると共に、プラズマ輸送距離が1300mm以下に設定されている。図17のグラフの直線から明らかのように、プラズマ輸送距離が1300mm以下では1nm/s以上の成膜レートが実現可能であり、さらに、終端反射壁フィルタにより高いドロップレット除去効率を実現することができる。プラズマ生成装置を用いた成膜では、純度の高いプラズマでの1nm/s以上の成膜レートが要求されていた。プラズマ輸送距離が1300mmのとき、グラフでは、約1.22nm/s程度の成膜レートとなることが見積もられる(図中の点線の位置)。尚、プラズマ輸送距離が800mm未満の場合、ドロップレットの除去効率が低下し、ドロップレットの混入が無視できない程度になることがシミュレーションから明らかになっている。
更に、前記プラズマ輸送距離が800mm〜1000mmであることがより好ましく、1000mm以下の場合、3nm/s以上の成膜レートが実現可能であることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、高いプラズマの輸送効率を保持しながら、ドロップレットを高効率に除去することができ、比較的簡単な構造を有するプラズマ生成装置を提供することができる。プラズマの発生時に副生されるドロップレットは、プラズマを磁場により複雑な経路に沿って誘導したり、プラズマを発生させるアーク電流を小さくすることにより抑制することが、一般的な除去方法であったが、プラズマの輸送効率を低下させていた。本発明者らは、鋭意研究の結果、高いプラズマの輸送効率を保持しながら、ドロップレットを除去することができるプラズマ生成装置を完成するに到った。従って、例えば、プラズマ処理によるハードディスク表面保護膜の成膜過程において、好適な成膜速度を保持することができ、ドロップレットの除去効率が高いことから、プラズマ処理を、これまで実用化されてこなかったディスク媒体等の表面処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 プラズマ生成装置
2 プラズマ発生部
3 カソードターゲット
4 プラズマ進行路
5 アノード
6 照射部
7 第1プラズマ進行路
7a 第1進行路ダクト
8 プラズマ加工部
9 第2プラズマ進行路
9a 第2進行路ダクト
10 屈曲部
11 進行路ダクト
12 遮蔽板
13 被処理物
14 第1コイル
15 第2コイル
16 照射部第1コイル
17 照射部遮蔽板
18 照射部ダクト
19 照射部第2コイル
20 照射部第3コイル
21 予備プラズマ進行路
22 予備プラズマ発生部
23 予備カソードターゲット
24 始端側ゲートバルブ
26 始端側ゲートバルブ
27 終端側ゲートバルブ
28 終端側ゲートバルブ
29 スキャン部
30 ドロップレット
31 終端反射壁
33 カソードターゲット
34 接続部
35 アノード
36 スキャン用磁場発生器
37 スキャン部ダクト
38 スキャン部接続部
39 照射部接続部
40 プラズマ発生部接続部
42 予備ターゲット室
43 予備カソードターゲット
44 第1ゲートバルブ
45 第2ゲートバルブ
46 ゲートバルブ
47 第1供給路
48 第2供給路
50 ドロップレット捕集部
51 T型プラズマ生成装置
52 湾曲型プラズマ生成装置
54 プラズマ進行路
55 終端反射壁フィルタを有するプラズマ生成装置
56 湾曲型プラズマ生成装置
57 湾曲型プラズマ生成装置
62 第1プラズマ発生室
63 第2プラズマ発生室
102 プラズマ発生部
103 カソードターゲット
104 プラズマ進行路
105 アノード
106 照射部
107 第1プラズマ進行路
108 加工部
109 第2プラズマ進行路
113 被処理物
130 ドロップレット
150 捕集部
159 ドロップレット除去ダクト
170 トリガ電極
171 プラズマ
201 ステンレスパイプ
202 プラズマ進行路
203 バッフル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードターゲットからプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマが進行するプラズマ進行路から構成され、前記カソードターゲットから副生されるドロップレットを衝突させて付着する遮蔽板が前記プラズマ進行路の内壁に複数設けられるプラズマ生成装置において、前記プラズマ進行路が第1プラズマ進行路と第2プラズマ進行路からなり、前記第1プラズマ進行路の終端にその直進方向に対向する終端反射壁が設けられ、前記終端反射壁に沿って前記第2プラズマ進行路が前記第1プラズマ進行路に対し屈曲して接続され、前記終端反射壁に前記遮蔽板を複数配設して前記ドロップレットを反射及び/又は吸着させることを特徴とするプラズマ生成装置。
【請求項2】
前記プラズマ進行路の内壁に対する前記遮蔽板の角度を遮蔽角θとし、前記遮蔽角θが20°〜35°、55°〜65°、80°〜100°、115°〜130°又は150°〜155°の範囲にある請求項1に記載のプラズマ生成装置。
【請求項3】
前記遮蔽板の高さHと隣り合う前記遮蔽板の間隔Dの比率D/Hが1〜1.5の範囲にある請求項1又は2に記載のプラズマ生成装置。
【請求項4】
前記プラズマ進行路の開口面積をSo、前記遮蔽板による遮蔽面積をSc、前記プラズマ進行路の開口率をSr=So/(So+Sc)としたとき、開口率Srが0.33〜0.6の範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項5】
前記遮蔽板の厚さが4mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項6】
前記第1プラズマ進行路を形成する第1ダクトと前記第2プラズマ進行路を形成する第2ダクトが電気的に絶縁され、前記各ダクトが独立に正電位、負電位又は接地電位に設定される請求項1〜5のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項7】
前記第2プラズマ進行路の終端に前記プラズマのスキャン手段を有するスキャン部が設けられる請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項8】
前記屈曲部に予備プラズマ進行路が前記第2プラズマ進行路に対して屈曲して接続され、前記予備プラズマ進行路に進行するプラズマを供給する予備プラズマ発生部が設けられ、前記第1プラズマ進行路と前記予備プラズマ進行路の各々の終端に開閉手段が設けられ、前記各開閉手段の一方が閉状態に保持されて前記終端反射壁が形成される請求項1〜7のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項9】
前記プラズマ発生部が第1プラズマ発生室と第2プラズマ発生室からなり、前記各プラズマ発生室が各々のプラズマ供給路を介して前記第1プラズマ進行路の始端に接続され、前記各プラズマ発生室と前記プラズマ供給路の間に供給路開閉手段が設けられる請求項1〜7のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項10】
前記プラズマ発生部に予備ターゲット室が付設され、前記予備ターゲット室と前プラズマ発生部の間に予備室開閉手段が設けられ、前記予備室開閉手段が開状態にあるとき、前記プラズマ発生部から前記予備ターゲット室に及び/又はその逆方向に前記カソードターゲットを搬送するターゲット搬送手段が設けられる請求項1〜9のいずれかに記載のプラズマ生成装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のプラズマ生成装置に被処理物が配置されるプラズマ加工部が設けられ、前記プラズマ進行路を介する前記カソードターゲットの表面と前記被処理物の表面の距離が800mm〜1300mmの範囲に設定されることを特徴とするプラズマ加工装置。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図20】
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