説明

組合せ治療

本発明は二つの活性実体の組合せを含む新規の医学的処置、並びに、二つの活性実体を含む薬学的組成物に関する。具体的には、本発明は、第一の活性実体としてリポソームを形成するために極性環境中で自己凝集しないアポトーシス影響脂質及びリポポリマーを含む安定な脂質集合を含む薬学的組成物を提供する。薬学的組成物はさらに、脂質集合又は異なるリポソームによって保持される第二の活性実体、細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を含む。一つの態様に従って、該アポトーシス影響脂質は、前アポトーシス脂質である。好ましい前アポトーシス脂質はセラミドであり、好ましくはC6-セラミドである。該細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤は、好ましくは、ドキソルビシン又は生物学的に活性な、アントラサイクリンに基づくドキソルビシン類似体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組合せられた治療に関し、特に、二以上の治療的薬剤の組合せによる増殖性疾患の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアシルグリセロール(DAG)、セラミド(Cer)、スフィンゴシン(Sph)、スフィンゴシン-1-ホスフェート(S1P)、セラミド-1-ホスフェート(C-1-P)、ジ-及びトリメチルスフィンゴシン(それぞれDMS及びTMS)によって例示されるように、多くの脂質は生理活性であり、即ち、細胞増殖、分化、細胞死及び他の多くの細胞機能を媒介するシグナル伝達経路に直接的に又は間接的に関与する。それらの脂質又はそれらの誘導体のほとんどは、独立型の薬剤として又は他の薬剤の補助としての何れかで治療的効果を有する可能性を有する。
【0003】
セラミドの前アポトーシス性質の発見[Vento, R. M. et al. Mol. Cell. Biochem. 185:7-153 (1998)]及びセラミドがテロメラーゼ活性を不活性化し、それ故、癌特異性であり得るという発見[Ogretmen, B. D. et al. J. Biol. Chem, 276:24901-24910 (2001)]は、化学療法の障壁のいくつかを克服するための試みにおいて、それらを単独並びに化学療法薬と組合せての、抗腫瘍治療の魅力的な候補にした。アポトーシスにおけるセラミドの役割は多くの刊行物で考察されている。Hannun Y.Aらは、Cer代謝、形態及びエフェクター作用、セラミド代謝の酵素の幾つかの遺伝子の同定、セラミド分析などの調査からの洞察を要約している[Hannun Y.A. et al. Biochimica et Biophysica Acta 1585:114-125 (2002)]。
【0004】
抗増殖性プロセスにおけるセラミドの役割の証明は[Ogretmen, B. D. et al. J. Biol. Chem 276:24901-24910 (2001)]、セラミド産生又はセラミドエフェクター機構の欠損が、癌細胞に生存優位性を与えることに関与し得ることを意味している。他の調査[Mueller, H. and Eppenberger, U. Anticancer Res. 16:3845-3848 (1996)]は、セラミドのレベルの減少に寄与する機能障害性のセラミド代謝が、多剤(MD)耐性に結び付けられるということを示唆している。セラミド合成酵素又はスフィンゴミエリナーゼ酵素を活性化することによるか又はグルコシルセラミド合成酵素(GCS)活性の阻害による、癌細胞中のセラミド活性化経路を活性化するそれらの能力のために、多くの臨床的に重要な細胞毒性薬剤が有効であるようにみえる。TNF-α-抵抗性MCF-7乳がん細胞は、それらのスフィンゴミエリナーゼがセラミドを産生できないことによって特徴付けられることが示されている[Senchenkov, A. et al. J. Natl. Cancer Inst. 93:347-357 (2001)]。また、ドキソルビシン(DXN)、メファラン(mephalan)、及びシスプラチンに抵抗性の患者から確立されたヒト卵巣腺癌細胞株NIH:OVCAR-3は、高レベルのGCSと一致する高レベルのグルコシルセラミドを発現する[Z. Cai, Z. et al. J. Biol. Chem. 272:6918-6926 (1997)]。
【0005】
さらに、多くの臨床的に重要な細胞毒性薬剤は、癌細胞におけるセラミドが媒介するアポトーシスシグナル経路と協同することによって有効であることが提唱されている。タキソール(R)の細胞毒性効果は、MDA-MB 468 ヒト乳がん細胞中でのセラミドの新規合成と結び付けられ、そして、セラミド形成が新規のセラミド合成の阻害剤、L-サイクロセリンを用いてブロックされた場合、タキソール依存性細胞毒性は無効にされる。さらに、外来性のセラミドは、タキソールが誘導するアポトーシスを相乗的に増強した[Charles AG. et. al., Cancer Chemother Pharmacol 47(5):444-450 (2001); Mehta S. et al. Cancer Chemother Pharmacol 46(2):85-92 (2000)]。ドキソルビシンもまた、セラミド形成及び乳がん細胞におけるアポトーシスを促進することが示された[Lucci A. et al. Int J Oncol 15(3):541-546 (1999)]。タモキシフェンは、セラミドのグルコシルセラミドへの変換をブロックすることによって、細胞のセラミドレベルを増大することが示され、これはエストロゲン受容体状態とは無関係であった。[Cabot MC. et al. FEBS Lett 394(2):129-131 (1996); Lavie T. et al. J Biol Chem 272(3):1682-1687 (1997)]。さらにその上、タモキシフェンとドキソルビシン又はシクロスポリンA類似体のような薬剤との組合せは、セラミド形成に相乗的な効果を及ぼすことが示された [Lucci A. et al. Cancer 86(2):300-311 (1999)]。
【0006】
多剤耐性(MDR)癌もまた、増強したセラミド代謝に結び付けられることが示唆された。ドキソルビシンへの曝露は、薬剤感受性MCF-7乳がん細胞におけるセラミドレベルを上昇させるが、しかし、ドキソルビシン抵抗性MCF-7-AdrR細胞においては上昇させない[Lucci A. Int J Oncol 15(3):541-546 (1997)]。さらに、C6-Cerもタモキシフェン(GlcCer合成酵素の阻害剤として知られる)も単独では細胞毒性ではないが、C6-Cer治療措置へのタモキシフェンの添加は、MCF-7-AdrR細胞生存度を減少させ、アポトーシスを誘発することが示された。さらに、それらの細胞のアドリアマイシンによる治療は、タモキシフェンと共投与された場合にのみ、内在性のセラミドレベルの上昇を刺激し、その場合、増大したセラミドレベルは、細胞生存度におけるさらなる減少と相関した。しかしながら、開示されたように、MCF-7-AdrR細胞が高レベルのGlcCer合成活性を有するために、それらの細胞は、セラミドのGlcCerへの代謝を通して、外来性の細胞浸透性セラミド並びに化学療法薬剤(即ち、ドキソルビシン及びアドリアマイシン)に対する抵抗性を示すと思われる。
【0007】
よって、外来性の単独投与又は化学療法薬剤と組合せての投与によって、又はセラミド代謝及び細胞死シグナル伝達経路のターゲティングによっての何れかによって上昇した細胞内セラミドレベルは、感受性の腫瘍の治療のため、並びに、薬剤抵抗性を克服するための、魅力的な臨床的治療戦略である。
【0008】
しかしながら、それらの生理活性脂質のほとんどにとって、それらの生理活性を保持する経路でそれらの分子を投与及び/又は輸送する能力が欠如していることが、インビボでのそのような適用の妨げとなっている。それらの生理活性脂質のほとんどは水相に不溶性である;DAG及びセラミドのようなものは、関連する媒体において安定な形態で分散することが難しい;ミセル(S1P、Sph)として分散した場合、血液のような生物学的液体中で崩壊する;それらのほとんどは、リポソーム中に取り込まれたとき、リポソームを物理的に不安定にさせる。
【0009】
近年の開発は、小胞膜中のそのような生理活性脂質の取り込みが細胞へのそれらの輸送を促進させることに関係する。WO2004/087097には、生理活性脂質(安定な小胞を形成するための自己集合ができない)、リポポリマー、及び脂質マトリクス(安定な集合のための骨格(backbone)として作用する)の特異的な組み合わせを含む、脂質集合を形成する脂質の細胞内コレクションが開示されている。脂質集合は、4℃の貯蔵条件下で、少なくとも6ヶ月、及び生物学的液体中で、化学的及び物理的に安定であることが発見された。安定な小胞を形成するための自己集合ができず、また、WO 2004/08797に具体的に開示された特定のグループの生理活性脂質は、セラミドを含む。セラミドは、長鎖スフィンゴイド塩基のアミノ基にアミド結合で結合した脂肪酸から構成された脂質であり、スフィンゴ脂質の生合成において鍵となる中間体であることが知られている[Lofgren and Pasher, Chem. Phys. Lipids, 20(4):273-284, (1977); Carrer and Maggio, Biochim. Biophys Acta, 1514(1):87-99, (2001)]。
【0010】
ドキシル(DOXIL)(R)は、卵巣癌の治療のために認可された長循環ステアルス(STEALTH)(R)リポソームに封入されたドキソルビシンHClである。ドキシル(R)のステアルス(R)リポソームは、単核食細胞系(MPS)による検出からリポソームを保護するため及び血液循環時間を上昇させるために、peg化としばしば呼ばれるプロセスである表面結合メトキシポリエチレングリコール(MPEG)によって処方される。ドキソルビシンHClの作用機構は、DNAと結合し核酸合成を阻害するその能力に関連すると考えられる。調査は、DXNの急速な細胞浸透及び核周囲のクロマチン結合、続いて、有糸分裂活性及び核酸合成の急速な阻害、並びに、突然変異及び染色体異常の誘導を証明した。
【0011】
ステアルス(R)リポソームは、ヒトで約55時間の半減期を有する。それらは血液中で安定であり、リポソームのドキソルビシンの直接測定により、少なくとも90%の該薬剤(用いられた該アッセイは、5〜10%より少ない遊離のドキソルビシンを定量できない)が、循環の間にリポソームに封入されたままであることが示されている。
【0012】
それらのサイズが小さいため(≦100 nm)及び循環中での持続性のために、peg化されたドキシル(R)リポソームは、変化し、しばしば損なわれた、腫瘍の血管系から血管外遊出することができ、また、腫瘍自体に浸透すると仮定される。この仮定は、顕微鏡的に可視化できるコロイド性の金含有ステアルス(R)リポソームを用いた調査によって支持される。
【0013】
以下は、本発明の分野における技術状態を記述するために適切であると考えられる文献の一覧である。
【特許文献1】Barenholz et al. WO 2004/087097
【非特許文献1】Vento, R. M. et al. Mol. Cell. Biochem. 185:7-153 (1998)
【非特許文献2】Ogretmen, B. D. et al. J. Biol. Chem, 276:24901-24910 (2001)
【非特許文献3】Hannun Y.A. et al. Biochimica et Biophysica Acta 1585:114-125 (2002)
【非特許文献4】Ogretmen, B. D. et al. J. Biol. Chem 276:24901-24910 (2001)
【非特許文献5】Mueller, H.及びEppenberger, U. Anticancer Res. 16:3845-3848 (1996)
【非特許文献6】Senchenkov, A. et al. J. Natl. Cancer Inst. 93:347-357 (2001)
【非特許文献7】Z. Cai, Z. et al. J. Biol. Chem. 272:6918-6926 (1997)
【非特許文献8】Charles AG. et. al., Cancer Chemother Pharmacol 47(5):444-450 (2001)
【非特許文献9】Mehta S. et al. Cancer Chemother Pharmacol 46(2):85-92 (2000)
【非特許文献10】Lucci A. et al. Int J Oncol 15(3):541-546 (1999)
【非特許文献11】Cabot MC. et al. FEBS Lett 394(2):129-131 (1996)
【非特許文献12】Lavie T. et al. J Biol Chem 272(3):1682-1687 (1997)
【非特許文献13】Lucci A. et al. Cancer 86(2):300-311 (1999)
【非特許文献14】Lucci A. Int J Oncol 15(3):541-546 (1997)
【非特許文献15】Lofgren and Pasher, Chem. Phys. Lipids, 20(4):273-284, (1977)
【非特許文献16】Carrer and Maggio, Biochim. Biophys Acta, 1514(1):87-99, (2001)
【発明の開示】
【発明の概要】
【0014】
本発明は、細胞毒性薬剤(Doxil(R))を保持するリポソームと、それらの脂質膜中に前アポトーシス脂質(pro-apoptotic lipid)(セラミド)を保持するリポソームとの組み合わせで癌細胞を処置することが、同じ細胞をリポソームの細胞毒性薬剤単独で又はリポソームの前アポトーシス脂質単独で処置したときに得られる効果の少なくとも合計である、有益な相加的効果、即ち、細胞の増殖阻害を生じさせるという発見に基づく。
【0015】
本発明はさらに、前アポトーシス脂質(セラミド)をそれらの膜中に有するリポソーム、及びリポソーム内の水相中の細胞毒性薬剤(ドキソルビシン)を含む組成物が、腫瘍を有している動物に投与されたとき、全試験期間で100%の生存率を達成できるという発見に基づく。
【0016】
よって、その第一の側面に従って、本発明は、以下を具備する薬学的組成物を提供する:
(a)以下を具備する安定な脂質集合(lipid assembly):
i)リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質;
ii)リポポリマー;
(b)細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を保持するリポソーム。
【0017】
ここで用いられるように脂質集合(Lipid assembly)とは、とりわけミセル又はリポソームを形成する脂質の細胞内コレクション(organized collection)を意味し、好ましくはこの用語はリポソームを意味する。
【0018】
用語「アポトーシス影響脂質(apoptosis-affecting lipid)」は、アポトーシスの誘導(前アポトーシス脂質)又はアポトーシスの阻害(抗アポトーシス脂質)のいずれかの効果を有する脂質を意味する。本発明のアポトーシス影響脂質のアポトーシス活性は、例えば、細胞の血漿膜の外部表面でのホスファチジルセリンの曝露、細胞の丸め(rounding)、色の分解及び濃縮、核の損傷、血漿膜のアポトーシス体)への破壊のような、周知のパラメーターによって示されるような、生物学的ターゲット部位上で示されるような測定可能なすべてのアポトーシスを指す。本発明の生物学的ターゲットサイトには、細胞、組織又は器官又はそれらの構成成分(例えば、細胞内成分)が含まれ得る。「混合性集合態様(mixed population embodiment)」によってここで言及される、本発明の一つの態様に従って、アポトーシス影響脂質を含む脂質集合(好ましくはリポソーム)及び細胞毒性薬剤を保持するリポソームは、混合されて本発明の薬学的組成物を与える二つの集合である。二つの集合の割合は、とりわけ、薬物のタイプ、その治療的投与量及び治療的措置に依存する。薬学の分野に精通した者には、薬物のタイプに基づいてこの割合を決定する方法が知られている。
【0019】
用語「単一集合態様(single population embodiment)」によってここで言及される、本発明のさらに他の態様に従って、脂質集合はアポトーシス影響脂質をそれらの脂質に基づく膜中に含み、それらの脂質集合は、細胞毒性薬剤を保持するものと同じ脂質構造であり、そのような単一のタイプの脂質に基づく集合が用いられる。
【0020】
よって、本発明はまた、アポトーシス影響(これは、極性環境において自己凝集してリポソームを形成しない)及びリポポリマーを含む安定な脂質集合を含む薬学的組成物を提供し;及び、前記脂質集合は、細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を保持する。
【0021】
好ましくは該脂質集合はリポソームである。
【0022】
好ましい態様に従って、該アポトーシス影響脂質は前アポトーシス脂質であり、本発明の薬学的組成物は、好ましくは、増殖性又は過剰増殖状態の治療のためのものである。
【0023】
本発明はまた、増殖性又は過剰増殖状態を有する被検者を治療するための方法を提供する。本発明の「混合性集合(mixed population)」態様に従って、増殖性又は過剰増殖状態を有する被検者を治療する方法が提供され、該方法は、以下を具備する薬学的組成物を該被検者に投与することを含む:
(a)以下を具備する安定な脂質集合:
i)リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質;
ii)リポポリマー;
(b)細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を保持するリポソーム。
【0024】
本発明の「単一集合(single population)」態様に従って、増殖性又は過剰増殖状態を有する被検者を治療する方法が提供され、該方法は、リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質;リポポリマー;及び脂質集合に保持される細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を具備する安定な脂質集合を含む薬学的組成物を該被検者に投与することを含む。
【0025】
本発明に従って、増殖性又は過剰増殖状態を有する被検者を治療し、ドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくドキソルビシン類似体を含むリポソームで治療する、さらなる方法が提供され、該方法は、前記被検者に、リポポリマー及びセラミドをそれらの膜中に含む有効量のリポソームを投与することを含む。
【0026】
さらに本発明に従って、増殖性又は過剰増殖状態を有する被検者を治療し、リポポリマー及びセラミドをそれらの膜中に含むリポソームで治療するための方法が提供され、該方法は、ドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくドキソルビシン類似体を含むリポソームを該被検者に投与することを含む。
【0027】
好ましくは、該投与は、共投与である(これは、同時投与又はごく短い間隔での投与の何れかを意味する)。二つの集合を別々に投与する場合、投与間の時間間隔は、数時間を越えないことが好ましく、また、該アポトーシス影響脂質を保持する脂質集合は、細胞毒性薬剤の投与より前に該被検者に投与されることが好ましい。
【0028】
本発明の「混合性集合(mixes population)」態様に従って、リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質及びリポポリマーを含む安定な脂質集合の、細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を具備するリポソームと一緒の、薬学的組成物の調製のための使用が提供される。
【0029】
本発明の「単一集合」態様に従って、リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質をその脂質膜中に含む安定な脂質集合の、脂質集合によって保持される細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤と一緒の、薬学的組成物の調製のための使用がさらに提供される。
【0030】
好ましくは、該薬学的組成物は増殖性又は過剰増殖状態の治療のためのものである。
【0031】
好ましい態様に従って、該アポトーシス影響脂質は前アポトーシス脂質であり、より好ましくはセラミドであり、特にはC6セラミドであり、該細胞毒性薬剤はアントラサイクリンに基づく化合物であり、好ましくはドキソルビシン又は下記定義のようなアントラサイクリンに基づくそれらの類似体である。
【0032】
よって、本発明の「混合性集合」態様に従って、用いられる一つの具体的な組成物は、脂質マトリクスを含む脂質膜、C6 セラミド及びリポポリマーを有する第一の集合のリポソーム、及び、リポソーム内の水相にドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくドキソルビシンの類似体を封入した第二の集合のリポソームを含むものである。
【0033】
本発明の「単一集合」態様に従って、用いられる一つの具体的な組成物は、脂質マトリクスを含む脂質膜、C6 セラミド及びリポポリマーを有するリポソームである一つの種のリポソームを含むものであり、該リポソームは、リポソーム内の水相にドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくドキソルビシンの類似体を封入する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明を理解するために、また、どのように実際に実行するかを示すために、付随する図面を参照して、非限定的な例による好ましい態様を記載する。
【0035】
本発明は、個々の治療をそれぞれ単独で適用したときに得られる効果よりも優れた治療効果をもたらす、新規の組合せ治療の開発に関する。組合せ治療は、予期されない、顕著に高い可能性を有する治療効果(100%生存率)をもたらすことが示された。
【0036】
本明細書における非限定的な実施例によって示されたように、リポソームの膜中に包埋された著しいレベル(>5モル%)の生理活性脂質(アポトーシス影響脂質、特に前アポトーシス)を含むリポソームを、リポソーム(同じか又は異なるリポソーム)のリポソーム内水相中の、抗癌薬剤ドキソルビシンのような細胞毒性薬剤と共に処方したとき、インビトロ及びインビボで試験された場合に有益な治療効果を示す、安定なリポソーム組成物が得られる。
【0037】
よって、本発明は、極性環境中で凝集してリポソーム以外の状態になるアポトーシス影響脂質(即ち、極性の水性環境中で自然に自己凝集してリポソームにならない脂質)を具備する脂質集合、好ましくはリポソーム;リポポリマー及び細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を含む薬学的組成物を提供する。上記したとおり、細胞毒性薬剤は、脂質集合とは異なる集合中にあってよく(「混合性集合」態様に従って)又は、アポトーシス影響脂質と同じ脂質集合の集合中にあってもよい(「単一集合」態様に従って)。
【0038】
アポトーシス影響脂質を保持する脂質集合は、好ましくは安定な脂質集合である。
【0039】
用語「安定な脂質集合」は、ここで用いられるように、貯蔵条件(4℃、少なくとも6ヶ月)下で化学的及び物理的に安定であり、また、生物学的液体中で安定である集合を意味する。また、この用語は、貯蔵の間に該脂質集合の完全性及び組成が実質的に変化しないような、リポポリマーの存在下の、該アポトーシス影響脂質(それ自体がリポソームを形成しない)の集合をも包含する。該集合の安定性は、アポトーシス影響脂質とリポポリマーの組み合わせによって、即ち、リポポリマーの非存在下で達成され、最初に該集合中にローディングされた(即ち、集合の形成時に)かなりの部分のアポトーシス影響脂質は、貯蔵及び/又は脂質凝集の発生後、短い時間のうちにそれから移動する。結果として、該集合は毒性であり、及び/又は、該注射投与量は、ターゲット部位に対する十分な(所望の)量のアポトーシス影響脂質を保持せず、該集合は、所望の生物学的/治療的効果を達成するのに有効ではない。
【0040】
アポトーシス影響脂質は、一以上の、長鎖炭化水素鎖及び極性の、イオン性の又は非イオン性の頭部を含む、天然の、合成の、及び半合成の、疎水性領域を有する両親媒性物質であってよく、ここにおいて、頭部及び疎水性領域の間の該原子質量比は、0.3未満である。そのような両親媒性物質は、それらの幾何学的構造によって定義されることもでき、典型的には、切断された反転した円錐形の形状である。或いは、又はさらに、非リポソーム形成脂質は、1より大きいそれらのパッキングパラメーターによって定義され得る。
【0041】
さらに、本発明のアポトーシス影響脂質は、単独で極性(水性)環境中で混合された場合、リポソーム以外の状態に凝集する傾向を有する、即ち、それら自体では(他の脂質と混合されないで)リポソームを形成しない。それらの非リポソーム状態は、例えば、ミセル、反転した六方晶系相又はサイズ又は長さの範囲の広い集合及び薄い管状構造又は不定沈殿を含む。アポトーシス影響脂質は、典型的には、それらの炭化水素鎖と平行して該集合の他の成分(リン脂質のような)の炭化水素鎖に包埋される。
【0042】
前アポトーシス脂質の非限定的な例には、セラミド、セラミン(ceramines)、スフィンガニン、スフィンガニン-1-ホスフェート、ジ-又はトリ-アルキルスフィンゴシン(shpingosines)及びそれらの構造的な生物学的機能類似体が含まれる。
【0043】
生理活性の脂質の好ましい群は、以下の一般化学式(I)によって定義され得る:
【化3】

【0044】
ここにおいて、
−R1は、C2-C26の、飽和又は不飽和の、分枝鎖又は非分枝鎖の脂肪鎖を表し、該脂肪鎖は、一以上のヒドロキシル基又はシクロアルキル基で置換されてよく、及びシクロアルキレン部分からなってよい;
−同じであるか又は異なるR2は、水素、脂肪族、脂肪族カルボニルから選択される、C1-C26の飽和又は不飽和の、分枝鎖又は非分枝鎖;シクロアルキレンを含有する脂肪鎖を表し、該脂肪鎖はアリール、アリールアルキル又はアリールアルケニル基で置換されてよい;
−R3 は、水素、メチル、エチル、エテニル、糖(carbohydrate)又はホスフェート基を表す。
【0045】
前アポトーシス脂質の具体的な群は、R1がC15脂肪鎖であり、第一のR2が水素であり、第二のR2が上記で定義されたとおりであり、及びR3が水素であるものである。
【0046】
アポトーシス影響脂質のより具体的な群は、R1がC15不飽和脂肪鎖であり、該不飽和、即ち二重結合は、R1のC1-C2炭素原子間にあり(スフィンゴイド塩基の位置C4-C5に対応)、第一のR2が水素であり、第二のR2基がC1-C26飽和又は不飽和の、任意にヒドロキシル置換された(一以上)脂肪鎖であり、及びR3が水素であるものである。
【0047】
アポトーシス影響脂質の好ましい群はセラミドである。セラミドの好ましい選択は、短鎖(C2-C8)セラミド類似体であり、好ましくはC6セラミド(C6Cer)である。
【0048】
当該分野に精通したものには知られているように、セラミドの短鎖細胞浸透性類似体(例えば、C2-、C6-、C4-又はC8-セラミド)を含む、種々のセラミドのインビボでの輸送は困難である。輸送の有効性は、インビボ輸送において、大きい集合の形成をもたらす分子疎水性によって制限される [Radin NS Eur J Biochem 268:193-204 (2001)]。よって、全身性投与による細胞内セラミド蓄積を最大にするための、輸送システムの改善の重要な必要性が確認されている。
【0049】
リポソームの脂質膜中のセラミド(長鎖及び短鎖)の治療的に有効な取り込みが、近年、発明者らによって達成された(WO2004/087097)。この得られたセラミドを有しているリポソームは、貯蔵中安定であり(上記安定性の定義を参照)、及びアポトーシスの誘導に有効であった。脂質集合の立体的な安定化は、とりわけ、脂質膜中のリポポリマーの取り込みによって達成された。
【0050】
上記で定義したように、該脂質集合はさらにリポポリマーを含む。用語「リポポリマー」は、ここで用いられるように、親水性ポリマーによりその極性頭部で改変された脂質物質を意味する。本発明のリポポリマーは、ポリマー頭部及び脂質疎水性領域の間の原子質量比が少なくとも1.5であることによってさらに定義され得る。好ましくは、本発明のリポポリマーは、その頭部に緊密に結合した水のレベルが、リポポリマー分子当り約60の水分子であるようなものである。頭部に緊密に結合した水のレベルは、Tirosh O.ら [Tirosh O. et. al Biophysical Journal, 74, 1371-1379(1998)]によって開示されているように測定される。一般に、Tiroshらは、PEGについての具体的な体積データ及びその成分からの、PEG分子のようなリポポリマーの近づける表面領域の算出が、PEG 繰り返し単位あたり少なくとも3水分子であることを示している。よって、15の重合度を有する全体の750PEG分子は、〜60水分子を結合し、46の重合度を有する2kPEG分子は、〜142水分子を結合する。
【0051】
リポポリマーのポリマー頭部は、典型的には水溶性であり、疎水性脂質領域に共有結合的に又は非共有結合的に結合し得る。本発明の内容において用いられ得るリポポリマーは、当該分野では周知であり、インビボで、毒性効果なしで許容される(即ち、生体適合性である)。本発明で用いられるようなリポポリマーは、長循環リポソームを形成するために有効であることが知られている。
【0052】
本発明のリポポリマーは、好ましくは脂質、典型的には、750 Da以上の分子量を有するポリマーを含むようにそれらの頭部が改変された脂質を含む。該頭部は極性又は無極性であるが、しかし、好ましくは、大きい(>750 Da)高度に水和された(少なくとも頭部当り60の水分子)可動性のポリマーが結合した極性頭部である。脂質領域への親水性ポリマー頭部の結合は、共有結合又は非共有結合であってよく、しかしながら、共有結合の形成を介する(任意にリンカーを介して)ことが好ましい。
【0053】
親水性ポリマー鎖の最外側の表面コーティングは、インビボでの長い血中循環半減期を有するリポソームを提供するのに有効である。該リポポリマーは、二つの異なる方法によってリポソーム中に導入され得る:(a) 該リポポリマーを、リポソームを形成する脂質混合物に加えることによって。該リポポリマーは取り込まれ、該リポソーム二重層の内側及び外側小葉で曝露される[Uster P.S. et al. FEBBS Letters 386:243 (1996)];(b)又は、最初にリポソームを調製し、次いで、リポポリマー及びリポソーム形成脂質のTm値以上の温度でインキュベートするか、又は、マイクロ波照射に短時間曝露するかの何れかによって、リポポリマーを予め形成したリポソームの外部小葉に取込むませることによって。
【0054】
リポソーム形成脂質及びそのような脂質の親水性ポリマーによる誘導体(それによってリポポリマーを形成する)からなる小胞の調製は、例えば、Tiroshら [Tirosh et al., Biopys. J., 74(3):1371-1379, (1998)]によって、及び、米国特許第5,013,556号;同第5,395,619号;同第5,817,856号;同第6,043,094号、同第6,165,501号によって開示されており(参照によって本明細書に援用される)、また、WO 98/07409中に開示されている。該リポポリマーは、非イオン性リポポリマー(時に天然のリポポリマー又は非帯電性リポポリマーとも称される)又は純負電荷又は純正電荷を有するリポポリマーであってよい。
【0055】
脂質に結合し得るポリマーは多くある。脂質修飾因子として典型的に用いられるポリマーは、これらに限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリシアル酸、ポリ乳酸(ポリラクチドとも呼ばれる)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも呼ばれる)、ポリ乳酸(apolylactic)-ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルタミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース又はヒドロキシエチルセルロースのような変性セルロースを含む。ポリマーは、ホモポリマーとして又はブロックコポリマー又はランダムコポリマーとして用いられ得る。
【0056】
リポポリマーに誘導体化される脂質が中性、負に帯電、並びに正に帯電している場合、即ち、それらが特定の電荷(又は電荷なし)に制限されない場合に、最も一般的に用いられ、商業的に入手可能な、リポポリマーに誘導体化される脂質は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、通常、ジステアリルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)に基づくものである。
【0057】
本発明に使用されるリポポリマーの具体的なファミリーは、PEGポリマーがカルバメート結合を介して脂質に結合し、その結果、負に帯電したリポポリマーとなるDSPEに結合したモノメチル化PEGを含む(異なる長さのPEG鎖を有する、メチル化PEGをここでは略語PEGで指す)。他のリポポリマーは、中性メチルポリエチレングリコールジステアロイルグリセロール(mPEG-DSG)及び中性メチルポリエチレングリコールオキシカルボニル-3-アミノ-1,2-プロパンジオールジステアロイルエステル(mPEG-DS) [Garbuzenko O. et al., Langmuir. 21:2560-2568 (2005)]である。また別のリポポリマーは、ホスファチジン酸PEG(PA-PEG)である。該PEG部分は、好ましくは、約750 Da〜約20,000 Daの頭部の分子量を有する。より好ましくは、該分子量は、約750 Da〜約12,000 Daであり、最も好ましくは約1,000 Da〜約5,000 Daである。ここで用いられる一つの具体的なPEG-DSPEは、PEGが2000 Daの分子量を有し、ここでは2000PEG-DSPE又は2kPEG-DSPEと命名されるものである。
【0058】
アポトーシス影響脂質を含む脂質集合の安定化へのリポポリマーの寄与に加えて、該リポポリマーは、リポソーム脂質二重層膜の内側及び外側表面の両者において、親水性ポリマー鎖の表面コーティングを提供する。親水性ポリマー鎖の最外側の表面コーティングは、インビボでの長い血中循環半減期を有する脂質集合を提供するために有効である。リポソーム形成の場合、親水性ポリマー鎖の内側コーティングは、リポソーム中の水性コンパートメント、脂質ラメラの間、及び中心の核コンパートメントに広がり、これは、さらなる治療薬剤を含み得る。
【0059】
アポトーシス影響脂質及びリポポリマーに加えて、該脂質集合は、他の脂質のような他の成分を含み、全て一緒に脂質マトリクス(骨格)を形成する。該脂質マトリクスが単一脂質(アポトーシス影響脂質に加えて)を含み、或いは、脂質ラメラ(例えばリポソーム二重層)を形成する脂質の組合せを含み得ることは理解されるであろう。リポソームを形成するとき、脂質マトリクスを形成する脂質の組合せは、それらの相加的なパッキングパラメーター(additive packing parameter)が0.74〜1.0の範囲にあることよって定義され得る。比較のために、生理活性脂質のパッキングパラメーターは、1.0より大きい。
【0060】
用語「相加的に有効なパッキングパラメーター(additive effective packing parameter)」は、リポソームを構成する最終的な脂質成分の平均(即ち重量合計)パッキングパラメーターに対する、リポソームの各構成物のパッキングパラメーターの、相対的な(モル%重量)寄与を指す。該構造の相加的に有効なパッキングパラメーターが0.74〜1.0の範囲内であるという事実は、リポソームの場合、リポソームが好んで形成され、そして、リポソームのラメラを形成するために用いられる全ての構成物の組み合わせが、安定なリポソームの形成をもたらすということを示す。
【0061】
脂質マトリクスを形成する脂質は、典型的には、1つ又は2つの疎水性のアシル鎖を含み、これは、ステロイド群と組合せられることができ、また、極性頭部に化学的に反応性の基(アミン、酸、エステル、アルデヒド又はアルコールのような)を含んでもよい。該マトリクスを形成する脂質の一つのグループは、生理学的に許容される、脂質を形成するリポソームを含む。リポソーム形成脂質は、典型的には、グリセロール骨格を有するものであり、ここにおいて、少なくとも二つのヒドロキシル基がアシル鎖で置換され、3番目のヒドロキシル基は、反応基が結合するリン酸基で置換され、組合せ又は同じ誘導体は、
頭部で上記定義のような化学的反応基を含み得る。典型的には、該アシル鎖は、14〜約24の炭素原子の長さであり、完全に、部分的に水素化された脂質又は水素化されない脂質である、種々の飽和度を有する。さらに、該脂質マトリクスは、天然原料、半合成又は完全な合成脂質であってよく、中性、負又は正に帯電していてよい。
【0062】
一つの態様に従って、該リポソーム形成脂質はリン脂質を含む。該リン脂質は、グリセロリン脂質であってよい。グリセロリン脂質の例には、これらに限定されないが、3タイプの脂質が含まれる:(i) 両イオン性リン脂質、これには、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)スフィンゴミエリン(SM)が含まれる; (ii) 負に帯電したリン脂質:これには、例えば、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)が含まれる;及び、(iii) カチオン性リン脂質、これには、例えば、リン酸一エステルがO-メチル化されてカチオン性脂質を形成する、ホスファチジルコリン又はスフィンゴミエリンが含まれる。
【0063】
本発明に従って用いられる具体的なホスファチジルコリンは、水素化ダイズPC(HSPC)である。
【0064】
脂質集合は、脂質集合の形成に典型的に用いられる他の成分をも含み得る。例えば、カチオン性脂質が、カチオン性リポソームを生産するために取り込まれうる。カチオン性脂質は、脂質集合の微量成分として又は主要成分として又は単独成分として含まれることが出来る。そのようなカチオン性脂質は典型的にはステロール、アシル又はジアシル鎖のような親油性部分を有し、また、脂質は全体的な純正電荷を有する。好ましくは、該脂質の頭部は正電荷を保持する。モノカチオン性脂質には、例えば、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP) 1,2-ジオレイロキシ-3-(トリメチルアミノ)プロパン(DOTAP);N-[1-(2,3,-ジテトラデシロキシ)プロピル]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);N-[1-(2,3,-ジオレイロキシ)プロピル]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル-アンモニウムブロミド(DORIE);N-[1-(2,3-ジオレイロキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA);3β[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol);及びジメチル-ジオクタデシルアンモニウム(DDAB)が含まれ得る。
【0065】
ポリカチオン性脂質の例には、モノカチオン性脂質と類似の親油性部分が含まれ、これにポリカチオン性部分が結合する。代表的なポリカチオン性部分には、スペルミン又はスペルミジン(DOSPA及びDOSPERに代表される)、又はポリリシンのようなペプチド又は他のポリアミン脂質が含まれる。例えば、中性脂質(DOPE)は、ポリリシンで誘導体化されてカチオン性脂質を形成することができる。ポリカチオン性脂質は、これらに限定されないが、N-[2-[[2,5-bis[3-アミノプロピル)アミノ]-1-オキソペンチル]アミノ]エチル]-N,N-ジメチル-2,3-ビス[(1-オキソ-9-オクタデセニル)オキシ]-1-プロパンアミニウム(DOSPA)、及びセラミドカルバモイルスペルミン(CCS)を含む。
【0066】
さらに、脂質集合の安定化のために適した他の成分は、これらに限定されないが、ステロール及びコレステロール、コレステリルヘミスクシナート、硫酸コレステリルのようなステロール誘導体を含み得る。
【0067】
脂質集合中の各成分のモル%が測定され、貯蔵の間並びに例えば血清中での輸送後の該集合の安定性を制御するため、及び、該集合の部分を形成する前アポトーシス脂質及びそれによって保持される細胞毒性薬剤の放出速度を制御するために、特異的な流動度又は固縮(rigidity)度を達成するよう選択される。より強固な構造を有する脂質集合、例えばゲル(秩序だった固体)相中又は液晶流体(無秩序液体)状態中のリポソームは、脂質組成物からステロールを減少又は除去することによって、及び、比較的強固な脂質、例えば、室温以上のような比較的高い、秩序だった固体から無秩序液体への相転移温度を有する脂質を用いることによって達成される。強固な、即ち、長いアシル鎖を有する飽和した脂質は、該集合中のより大きい膜強固性に寄与する。そのような脂質の良い例は、HSPC又はDSPCである。コレステロールのような脂質成分は、液体脂質に基づく脂質集合中の強固性にも寄与することが知られている。そのようなステロールは、遊離型の体積(volume)を減少し、それによって透過性を減少させる。同様に、高脂質流体は、相対的に液体脂質の取り込みによって達成され、典型的には、液体結晶相転移温度、例えば、室温以下、より好ましくは、ターゲットの体温以下に対して相対的に低い液体を有するものである。そのようなリン脂質の良い例は、卵PCである。
【0068】
該脂質集合がリポソームの形態である場合、該リポソームは、多層膜小胞(MLV)、大きい単層小胞(LUV)、小さい単層小胞(SUV)又は多小胞小胞(MVV)の形態並びに当該分野で既知の他の二重層形態であってよい。リポソームの細部及びラメラ度(lamellarity)は、調製様式に依存し、用いられる小胞のタイプの選択は、投与の好ましい方法に依存する。全身的な治療目的のために、好ましい注射可能なリポソームは、直径が50〜150nmの範囲のサイズのものであり(LUV又はSUV [Gabizon A. et al. Cancer Res. 54:987-992 (1994)]);局所的な治療のためには、MLV又はMVVのようなより大きいリポソームも用いられることができる[Grant G. et al. Anesthesiology 101:133-137 (2004)]。
【0069】
本発明の薬学的組成物はまた、リポソーム(アポトーシス影響脂質を含むものより分離したリポソーム集団又は同じ集団のリポソーム)内に封入された細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を含む。該両親媒性弱塩基化合物は、通常は非透過性の膜を適切な膜貫通pH及び/又はアンモニウム勾配条件下で透過するその能力によって特徴付けられる。両親媒性弱酸及び塩基のローディングは、リポソームの外側よりも内側の、より高くより酸性pHを有する、両親媒性弱塩基のローディングのために作成された、脂質集合の使用による、脂質膜を介した該薬剤のローディングに関する「General principles of the loading procedures」(用語「活性な/除去ローディング」によって知られる]に開示されており(下記参照)、そのような系は、平衡化、即ち、内側と外側で同じpHの達成を自然に試みる。そのようなpH平衡化が可能であるかどうか、又はいかに迅速にそれが起こるかは、内部水相を外部水相から分離する膜の化学的性質及び媒体組成に依存する。リポソームは、それらの脂質二重層によって、そのような平衡化に自然に抵抗する最適な膜バリヤーを呈する。それら自体の中において、その一部がある意味においてリポソーム中に封入されたリポソームは、アンモニウムイオンのような適切な媒体中で形成されることができ、これによりある内部pHを有するリポソームを含有する硫酸アンモニウムを形成する。このpHは、リポソーム内側にローディングされた硫酸アンモニウムの量と、リポソームの外側の硫酸アンモニウムの量との間の差異に依存する。外側と内側の量が同じである場合、両者のpHは硫酸アンモニウム溶液のpHと、又は、バッファーが該硫酸アンモニウムに加えられた場合は該バッファー/硫酸アンモニウムのpHと、同一である。しかしながら、外側の硫酸アンモニウムが置換され、希釈され、或いは他の塩と又はデキストロース又はスクロースのような非電解液(non-electrolite)と交換された場合、リポソームの内側は、急速に反応してpHが酸性側に変化する。
【0070】
遠隔性ローディングに用いるための、リポソーム二重層を横切るH+ 及び/又はイオン勾配を有するリポソームは、種々の技術によって調製することができる。典型的な方法は、脂質の混合物を、安定なリポソームを形成するような割合で適切な有機性溶媒に溶解し、容器中で蒸発させて薄い脂質フィルムを形成させる。このフィルムは、次いで、リポソーム内部空間において水相を形成する溶質種を含有する水性媒体で覆われる。リポソーム形成後、選択された範囲内のリポソームのサイズ分布を達成するために、既知の方法に従って、該小胞はサイズ分けされてよい。
【0071】
サイズ分け後、典型的には高い内側/低い外側のイオン濃度勾配である、リポソーム膜を横切るイオン勾配を生じさせるためにリポソームの外部媒体が処理される(典型的には、リポソームを形成するのに用いたものと同じバッファーで)。これは、種々の方法、例えば、(i) 外部媒体の希釈、(ii) 所望の最終媒体に対する透析、(iii) 溶出のために使用される所望の媒体中で平衡化された、例えばSephadex G-50を用いての、ゲル排除クロマトグラフィー、又は(iv) 繰り返される高速遠心分離及び所望の最終媒体中でのペレット化したリポソームの再懸濁によって行われ得る。ここで記載したように、選択される外部媒体は、勾配の種類に依存し、勾配形成の機構及び外部溶質及び所望のpHに依存する。
【0072】
イオン及び/又はH+ 勾配を生じさせるための最も簡単なアプローチにおいて、脂質は選択された内部媒体pHを有する媒体中で水和されサイズ分けされる。リポソームの懸濁液は、外部リポソーム混合物が所望の最終pHに達するまで滴定し、又は、上記のように外部相バッファーを所望の外部pHを有するものと交換処理する。例えば、最初の水和媒体は、選択されたバッファーで、例えば、グルタミン酸バッファー、クエン酸バッファー、フマル酸バッファー中で、pH5.5を有することができ、そして、最終外部媒体は、同じであるか又は異なるバッファー中でpH8.5を有し得る。それらのバッファーの共通の特徴は、それらが本質的にリポソーム不透過性である酸から形成されるということである。内部及び外部媒体は、例えば、バッファー、塩、又は低分子量非電解溶質、例えばデキストロース又はスクロースの濃度を適切に調整することによって、ほぼ同じモル浸透圧濃度を含むように選択されることが好ましい。
【0073】
他の一般的なアプローチにおいて、該勾配は、リポソーム中に選択されたイオン透過孔を含むことにより生成される。説明のために、リポソーム二重層の中にバリノマイシンを含むように調製されたリポソームは、カリウムバッファー中で調製され、サイズ分けされ、次いで、外部媒体をナトリウムバッファーで交換され、内側カリウム/外側ナトリウムの勾配が作成される。恐らく、リポソーム膜を横切る純電気陰性電荷に応答したリポソーム中へのプロトンの移動のために、内側から外側への順次のカリウムイオンの移動は、低い内側/高い外側pH勾配を生じる[Deamer, D. W., et al., Biochim. et Biophys. Acta 274:323 (1972)]。
【0074】
同様のアプローチは、脂質を水和すること、及び、高濃度の硫酸マグネシウム中で形成された多層状のリポソームをサイズ分けすることである。硫酸マグネシウム勾配は、スクロース中、pH 7.4 の20mM HEPPES バッファーに対して透析されることによって作成される。次いで、A23187イオン透過孔が加えられ、2プロトンを各マグネシウムイオンに交換する、マグネシウムイオンの外向きの輸送をもたらし、加えて、内側リポソーム高/外側リポソーム低のプロトン勾配を確立する[Senske DB et al. (Biochim. Biophys. Acta 1414: 188-204 (1998)]。
【0075】
他のより好ましいアプローチにおいて、薬物ローディングに用いられるプロトン勾配は、例えば、米国特許第5,192,549号及び同第5,316,771号(参照によって本明細書に援用される)に開示されているように、リポソーム膜を横切るアンモニウムイオン勾配を作成することによって生成される。リポソームは、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウムなどのようなアンモニウム塩を、典型的には0.1〜0.3 M アンモニウム塩で、適切なpH、例えば5.5〜7.5で含む水性バッファー中で調製される。勾配は、デキストラン硫酸アンモニウム塩、ヘパリン硫酸アンモニウム塩又はスクラルフェートのような、硫酸化ポリマーを水和媒体に含むことによって調製することができる。リポソーム形成及びサイズ分け後、外部の媒体を、アンモニウムイオンを欠くもので交換する。このアプローチにおいて、ローディングの間に両親媒性弱塩基がアンモニウムイオンで交換される。
【0076】
さらに、他のアプローチがUS 5,939,096(参照によって本明細書に援用される)に開示されている。手短に言えば、該方法は、酢酸のような弱酸の塩に関与するプロトンシャトル機構を用い、そのプロトン化された形態は、リポソーム膜を横切って転位置し、高内側/低外側のpH勾配を生じさせる。両親媒性弱酸化合物は、次いで、予め形成されたリポソームに対する媒体に加えられる。この両親媒性弱酸は、この勾配に応じてリポソーム中に蓄積し、カチオン(即ちカルシウムイオン)-促進された沈殿又はリポソーム膜を横切る低い透過性によって、リポソーム中に保持され得る、即ち、両親媒性弱酸は、酢酸と交換される。
【0077】
本発明に従って、細胞毒性薬剤は、両親媒性弱塩基化合物であることが好ましい。そのような細胞毒性薬剤の好ましい群は、任意の生物学的に活性なアントラサイクリンに基づく両親媒性化合物である。
【0078】
アントラサイクリンに基づく化合物は、共通の4環化(ringed)7,8,9,10-テトラヒドロテトラセン-5,12-キノン構造を共有し、通常、生物学的活性のために特異的部位でのグリコシル化を必要とする。他の芳香族のポリケチドとして、アントラサイクリンが、タイプ2反復性ポリケチド合成酵素複合体(PKS)によって、連続したアセチルユニット縮合における炭素鎖の成長のために加えられる2炭素ユニットから、典型的に合成される。この炭素鎖は、次いで、環化されて、芳香族ポリケチド骨格、アグリコンを形成し、これは、さらに、最終グリコシル化経路に進む前に、さらなる修飾反応を介して適合される。ほとんどのアントラサイクリン-タイプの芳香族ポリケチドの前駆体は、アルカビノン(aklavinone)であり、又はより低い頻度で(less frequently)ノガラマイシノン(nogalamycinone)であり、これは、C-9Sメチル基で置換されたアルカビノンC-9Rエチルを有する。
【0079】
アントラサイクリンに基づく細胞毒性薬剤は、典型的には、トポイソメラーゼII阻害剤として作用することによってそれらの効果を引き起こす前アポトーシス薬剤である。よって、本発明に従って、用語「生物学的に活性なアントラサイクリンに基づく両親媒性化合物」は、前アポトーシス効果、具体的にはトポイソメラーゼII阻害性活性を示す、アントラサイクリンに基づく任意の両親媒性化合物を意味する。
【0080】
トポイソメラーゼII阻害剤ではない他の細胞毒性薬剤には、これらに限定されないが、トポテカン(topotecane)のようなトポイソメレート(topoisomerate)I阻害剤が含まれる。他の薬剤には、ミトキサントロン(mitoxantrone)及びビンカアルケロイド(vincaalkeloid)(例えば、ビンブラスチン及びビンクリスチン、ビノレルビン)が含まれ、全て両親媒性弱塩基であり、pH又はアンモニウムイオンの勾配によってリポソーム上に能動的にローディングされ得る。
【0081】
それらの化合物の構造的多様性の詳細な根拠が分かっている数学的なアプローチにより、10,000を越える理論的なアントラサイクリン類似体構造の可能性が示唆された。癌治療において臨床的に重要であることが示されているファミリーのメンバーの中には、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、ゾルビシン(zorubicin)、アクラルビシン、及びカルミノマイシン(carminomycin)及びネモルビシン(nemorubicin)が含まれる。
【0082】
本明細書で例証された具体的な細胞毒性薬剤であり、8S,10S)-10-[(3-アミノ-2,3,6-トリデオキシ-a-L-リキソ(lyxo)-ヘキソピラノシル)オキシ]-8-グリコリル-7,8,9,10-テトラヒドロ-6,8,11-トリヒドロキシ-1-メトキシ-5,12-ナフタセネジオンヒドロクロリドという化学的名称を有するドキソルビシン及びその類似体は、当該分野で既知である。類似体は、ミトキサントロン、ダウノルビシン及びN-アセチルダウノルビシン、N-アセチルアドリアマイシンを含む。他のドキソルビシン類似体は、米国特許第4,672,057号;同第4,345,068号;同第4,314,054号;同第4,229,355号;同第4,216,157号;同第4,199,571号;同第4,138,480号、同第5,304,687号;US2001/036923 (WO01/49698)及びWO04/082579(全て、参照によって本明細書に援用される)に開示されている。
【0083】
細胞毒性薬剤は、アポトーシス影響脂質を保持する脂質構造とは別のリポソームによって保持されてもよいが、その脂質膜中にアポトーシス影響脂質を取り込んでいる同じ脂質集合によって保持されることが好ましい。
【0084】
用語「によって保持される」はここで用いられるように、これらに限定されないが、封入(encapsulation)、接着、吸着、取込み(entrapment)(リポソーム集合の内部壁又は外部壁内、或いは、リポソーム内部の水相内のいずれか)又は脂質層中への包埋(embedment)を含む、細胞毒性薬剤と該集合の間の相互作用の任意のタイプを意味するが、しかし、脂質集合の内部の水相に封入されることが、薬剤の保持の好ましい方法である。
【0085】
本発明の好ましい態様に従って、該組成物はリポソームを含み、該リポソームは、HSPC、2kPEG-DSPE及びC6セラミドから構成される膜及び任意に少量のコレステロール(総脂質の5モル%未満)を含む。さらなる好ましい態様に従って、該C6セラミドのモル%は、総脂質の約11.5%である。
【0086】
該薬学的組成物は、生理的に許容される担体をも含み得る。生理的に許容される担体は、一般に、それらのターゲット部位に対して活性実体(active entity)(この場合は、該組成物に含まれる脂質集合/リポソーム)の輸送を促進するために用いられる、不活性の非毒性固体又は液体物質を指す。脂質に基づく薬物輸送系の分野に精通した者には、同様の効果的な輸送を達成するのに適した担体の選択方法は既知である。
【0087】
上記に示したように、前アポトーシス脂質及び細胞毒性薬剤が同じ脂質集合によって保持され、又は、異なる集団の脂質集合(例えば、2種類のリポソーム)によって保持され得る。アポトーシス影響脂質及び/又は細胞毒性薬剤を保持する脂質集合/リポソームは、時に、本明細書で「活性実体(active entity)」と集団的に称される。
【0088】
該組成物中の活性実体の量は、適切に設計された臨床的試験(投与量範囲調査)で測定され、当該分野に精通した者は、有効量を決定するためのそのような試験を適切に実行する方法を知っている。一般に知られているように、有効量は、体内での脂質構造物の分布プロフィール、体内半減期のような種々の薬理学的パラメーター、望ましくない副作用、任意に、処置される個体の年齢及び性別のような要因を含む種々の要因に依存する。その量は、生存率の改善又は処置された被検者のより迅速な回復、又は症状の改善又は除去及び処置下の条件に関する他の指標のような所望の治療効果を達成するための有効量であり、当業者による適切な測定により選択される。
【0089】
さらに、本発明の薬学的組成物は、個体の臨床的条件、該投与の部位及び方法、投与のスケジューリング、患者の年齢、性別、体重及び医師には既知の他の要因を考慮して投与される。剤形は、単一剤形又は数日の期間にわたって提供される複数の剤形であってよい。本発明の薬学的組成物による治療のスケジュールは、一般に、疾病過程の長さ、治療される個体のパラメーター(例えば年齢及び性別)及び用いられる具体的なアポトーシス影響脂質及び細胞毒性薬剤の有効性に比例する長さを有する。
【0090】
アポトーシス影響脂質及び細胞毒性薬剤を(一緒の又は別々の脂質集合/リポソーム中)保持する脂質集合の組合せは、癌細胞の死滅並びに腫瘍を有するマウスの生存率の上昇に有効であることが示された。従って、本発明はまた、増殖性又は過剰増殖状態を有する被検者を治療する方法であって、本発明の薬学的組成物を該被検者に投与することを含む方法を提供する。
【0091】
よって、本発明は、好ましくは、細胞毒性薬剤(定義されたような)と、前アポトーシス脂質の組合せに関し、該組合せは好ましくは、増殖性又は過剰な増殖性状態の治療のためのものである。
【0092】
用語「増殖性又は過剰な増殖性状態」又は短く「過剰-増殖状態」は、望ましくない細胞の増殖又は過剰増殖(増殖及び複製の促進)又は細胞の過剰な蓄積によって表され、また、それらの治療のためにアポトーシスの誘導を必要とする任意の病理学的状態を意味する。
【0093】
細胞の促進された増殖及び複製に関する病理学的状態は多様にある。例えば、過剰増殖状態は癌であり得る。すべての形態の癌について、本発明の方法による治療が考慮される。癌は癌腫であってよく、例えば、これに限定されないが、小葉癌、腺嚢腫癌(adenocystic carcinoma)、腺扁平上皮癌、付属器癌、肺胞癌、アポクリン癌、基底細胞癌、膀胱癌、乳癌、細気管支肺胞性癌、気管支原生癌、子宮頚癌、大腸癌、胆管細胞性癌、絨毛性癌、明細胞癌、コロイド癌、篩状癌、腺管癌、胚性癌腫、鎧状癌(carcinoma en cuirasse)、類子宮内膜癌、類表皮癌、食道癌、多形腺腫由来癌、甲状腺の濾胞癌、胃癌、肝細胞癌、インサイチュー癌、管内癌、ヒュルトレ細胞癌、乳房の炎症性癌、大細胞癌、肺癌、浸潤性小葉癌、小葉癌、髄様癌、髄膜癌腫症、メルケル細胞癌、粘液性癌腫、粘液性類表皮癌、上咽頭癌、非小細胞癌、燕麦細胞癌、膵癌、乳頭状癌、前立腺癌、腎臓細胞癌、硬性癌、皮脂線性癌、単純癌、印環細胞癌、小細胞癌、紡錘細胞癌、扁平上皮細胞癌、末端管癌、移行上皮癌、尿細管癌、及びいぼ状癌であり得る。
【0094】
癌は肉腫であってよく、例えば、これらに限定されないが、胞状軟部肉腫、エナメル上皮肉腫、ブドウ状肉腫、腎臓明細胞肉腫、子宮内膜間質部肉腫、ユーイング肉腫、巨細胞肉腫、血管内皮肉腫、B細胞の免疫芽細胞肉腫、T細胞の免疫芽細胞肉腫、カポジ肉腫、クッパー細胞肉腫、骨原性肉腫、仮性-カポジ肉腫、細網肉腫、ラウス肉腫、軟組織肉腫(soft tissue sarcoma)、及び紡錘体細胞肉腫であってよい。
【0095】
本発明の方法により治療され得る他の癌は、これに限定されないが、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫、及びグリア芽細胞腫;白血病及びリンパ腫を含む。
【0096】
本発明は、癌ではない過剰増殖状態、例えば、狭窄に関与する疾患又は状態の治療に適用されることも出来る。例えば、本発明の方法は、血管中に生じる再狭窄、例えば、これらに限定されないが、バルーン血管形成術、又は、血管に損傷をもたらす他の治療の後に生じるようなものを治療又は予防するために用いられることができる。本発明に従って治療されることができる狭窄の他の例には、これらに限定されないが、大動脈弁狭窄、肥厚性幽門狭窄症、乳児性肥厚性胃狭窄、僧帽弁狭窄、肺動脈弁狭窄、幽門狭窄、大動脈弁下部狭窄症、腎動脈狭窄、及びトリ三尖弁狭窄症が含まれる。
【0097】
さらに、本発明に従って治療され得る他の状態は、乾癬、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、刺激性接触皮膚炎及びさらなる湿疹性皮膚炎、脂漏性(seborrhoeic)皮膚炎のような増殖性皮膚疾患である。
【0098】
さらに、本発明に従って治療され得る他の状態は、糖尿病性網膜症のような増殖性の眼球疾患である。
【0099】
過剰増殖状態は、本発明の組成物の使用によって治療又は予防される。
【0100】
本発明の内容における治療又は予防とは、被検者への該組成物の投与によって達成される任意の治療的効果を意味し、これは、予防、疾患又は少なくとも一つのその望ましくない副作用の軽減、疾病の重篤度又はその急性相の期間の減少又は全体の治癒であってよい。この用語は、病理学的状態に関連する細胞の、増殖(growth)、増殖(proliferation)、及び複製の阻害;患部組織においてか又は病理学的細胞の、プログラム細胞死の誘導、それによる病理学的組織などの除去又はサイズの減少、望ましくない組織又は新-血管新生への細胞の組織化の阻害、及び、より分化した細胞へのバランスの変化を含む。当該分野に精通したものには認められるように、本発明に従った活性実態の混合性輸送(combined delivery)の効果は、以下の任意のものを達成し得る:病理学的状態に関連する症状の徴候をそれらが生じる前に予防すること;該状態に関連する望ましくない症状の寛解;そのような症状の悪化を遅くする;該状態の進行を遅くする;状態の緩解期間の発生の亢進、該状態によって引き起こされる任意の不可逆的な障害を遅くするか又は予防する、該状態の重篤度の減少、生存率の改善及び該状態からのより迅速な回復又は該状態の発生の予防又は上記の任意の組み合わせ。
【0101】
任意の通常の製薬の習慣が、本発明の組成物の被検者への投与のために用いられ得る。任意の適切な投与経路を用いることができ、例えば、これらに限定されないが、静脈内投与、非経口投与、経皮的投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、眼窩内投与、眼投与、脳室内投与、関節内投与、脊髄内投与、大槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、直腸内投与、腟内投与、エアロゾル投与、又は経口投与であってよい。投与の好ましい様式は、注射であり、より好ましくは静脈内(i.v.)注射である。
【0102】
[代表的な態様の詳細な説明]
材料及び方法
材料:水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)を、リポイド(Lipoid)KG (Ludwigshafen, Germany)から得た;N-カルバミル-ポリ-(エチレングリコールメチルエーテル)-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミントリエチルアンモニウム塩(2kPEG-DSPE)(分子量2000 Daを有するポリエチレングリコール部分)をジェンザイム(Liestal, Switzerland)から得た;コレステロールをシグマ(Sigma)から購入した;N-ヘキサノイル-D-エリスロ-スフィンゴシン(C6-Cer)をバイオラボ(Biolab)(Jerusalem, Israel)から得た。
【0103】
リポソーム調製:以下のリポソーム製剤を調製した:HSPC:2kPEG-DSPE:Chol:C6Cer (総成分の76:7.5:5:11.5モル%)、HSPC:2kPEG-DSPE:C6Cer (81:7.5:11.5 モル%)、HSPC:2kPEG-DSPE:C6Cer(78.5:10:11.5 モル%)、DSPC:2kPEG-DSPE:C6Cer (81:7.5:11.5 モル%)及びHSPC:2k PEG-DSPE:Chol:C6Cer (66:6.5:4.5:23 モル%)。
【0104】
手短に言えば、適切な量の脂質ストック溶液(上記脂質比を形成するのに適切な)をエタノールに溶解し、試験チューブ内で適切なモル比で共に混合し、60℃に熱した。次いで、得られた溶液を、水性硫酸アンモニウムバッファー(250mM、pH 5.0)に加え、穏やかに混合し、60℃に1時間熱し、最終エタノール濃度10%に達しさせ、それによって、多重膜小胞を得た。
【0105】
次いで、巨大単層小胞(LUV〜100 nm)を、1-2mlの小スケールのためのアバンティ(Avanti)極性脂質の押出しシステム(Alabaster, AL)を用いて、或いは、大容量のNorthern リピッド(Lipids Inc.)押出し機(Vancouver BC, Canada)(スケール2-10ml及び10-100ml)を用いて、MLVを、10回0.4-μm-を通して、次いで、10回0.1-μm-細孔サイズフィルター(Poretics, Livermore, CA, USA)を通して押出すことによって調製した。
【0106】
ドキソルビシン(DXN)の遠隔性ローディング:遠隔性ローディング方法は、アントラサイクリンのような両親媒性弱塩基のためによく特徴づけられている(Barenholz et al., US 5,316,771, US 5,192,549、参照によって本明細書に援用される)。手短に言うと、硫酸アンモニウム(250mM, pH 5.0)での脂質の水和及び押出しに続いて、硫酸アンモニウム勾配が形成され、200 容量の0.9% NaClに対する各1時間の透析3回、続いて、400 容量の10%スクロースに対する24時間の単回透析によって、エタノールが除去される。次いで、ヒスチジンバッファー(pH 6.7)をリポソームに添加し、最終濃度10mMにする。得られたリポソームは、大きい(>3 pH ユニット)プロトン勾配を誘導する、極めて大きい(>1000)膜貫通の硫酸アンモニウム勾配([硫酸アンモニウム]リポソーム>> [硫酸アンモニウム]媒体)を示した。次いである量の10mM DXN溶液を、リポソームに加えて、60℃で穏やかにボルテックスしながら1時間インキュベーションした。
【0107】
リポソーム性質決定:リポソームは、ALV-NIBS/HPPS ALV-Laser, Vertriebsgesellschaft GmbH, (Langen, Germany)機器(製造者の説明書に従って)を用いた動的光散乱(DLS)によってそれらの粒子サイズ分布(25℃)について性質決定し、及び、定量的TLCを用いてそれらのセラミド含量について性質決定した。具体的には、セラミドは、クロロホルム/メタノール(95:5 v/v)から構成される溶媒系を用いて分離した。次いでTLCプレートを、硫酸銅試薬(高純度(18.2 mega ohm) の水600 mlに溶解した、80 mlのリン酸(85%)を含む100 gの無水硫酸銅からなる)でスプレーし、該スプレーされたプレートを熱し、脂質は濃い茶のスポットとして現れた。そのスポットの吸光度は、適切なセラミドの標準曲線と比較したセラミドレベルと比例した。Merk (Darsmstadt, Germany)のシリカゲルプレート60 F254を用い、該セラミドスポット吸光度(OD)を、Fluor-S-MultiImiger (Bio-RAD, CA)を用いて定量した。PC及び2kPEG-DSPEを含む総リン脂質(PL)の濃度を、改変バートレット方法を含む脂質リン含有量決定によって検証した[Shmeeda et al., 2003, Methods in Enzymol. 367, 272-292]。
【0108】
pH勾配の測定:[Padan E, et al. J Biol Chem, 253 (1978): 3281-6] 硫酸アンモニウム及びpH膜貫通勾配を測定した。この終わりに、リポソームと媒体の間の14C メチルアミン(MA)又はアクリジンオレンジ(AO)の分布を測定した。これは、硫酸アンモニウム勾配を欠いたか又は有するリポソーム中で測定し、後者については、DXN遠隔ローディングの前後で測定した。14C MA分布調査の場合、インキュベーションは、37℃で30分行った。次いで、サンプルにダウンセファデックスG-50 ミニスピンカラムを通過させ(遠心分離によって)、遊離の未封入14C メチルアミンからリポソームに封入された14[C]-メチルアミンを分離した。リポソーム中の実際の放射性活性を、β-計数(KONTRON Liquid Scintillation Counter)で測定した。該pH勾配は、セファデックスG50での分離の前後の14C メチルアミン/PLの比から算出した。pHin及びpHmed の両方が既知である較正曲線が、DXNを欠くか含有するリポソームで用いられた。14C MA分布方法を、膜貫通pH勾配の測定のために用いた。
【0109】
硫酸アンモニウム勾配の関数としてリポソームの内側のAOの蓄積を、DXNを欠くリポソームで調査した。アクリジンオレンジの525 nmでの蛍光発光強度を、1-ml、石英キュベットで、LS50Bルミネッセンス分光計(Perkin Elmer, Norwalk, CT)によって、490 nmの励起波長で測定した。最初に、AO溶液の蛍光強度を30秒間60℃で記録し、次いで、リポソームを加え、蛍光強度(F)を、その平衡値に達するまでモニターした。そのデータ分析は、外部コンパートメントからリポソーム内部水性空間へのAO分子の移動、そして、硫酸アンモニウム勾配のためのその凝集によって、蛍光消光がおこされると仮定した[Clerc, S. and Barenholz, Y. (1998) Anal. Biochem. 259, 104-111]。内部対外部のAOの質量比は、以下の式F/F0から算出した。
【0110】
DXNのリポソーム封入レベル及び放出速度の測定:封入のレベル及びDXN含有リポソームからのDXNの放出速度のレベルは、Druckmanら[(1989) Biochim. Biophys. Acta 980:381-384; Amselem et al. (1990) J. Pharm. Sci. 79:1045-1052] によって開示されているように、カチオン交換体Dowex 50X4-400 (Aldrich Chemical Company, Inc.)を用いて測定した。DXNとDowexは1mg/50mgの比で用いた。DXN含有リポソームは、穏やかに振盪しながら、Dowex (50X4-400)と10分間インキュベートし、その後、5000 rpm で2 分間遠心分離した。リポソーム中のDXN濃度は、Synergy HTプレートリーダーのその吸光度モード(Bio-Tek, Winooski, VT, USA)により480 nmでの吸光度測定から算出した。ここで、各リポソーム製剤中の遊離のDXNの12500 O.D. % である該ドキソルビンの480 nmでのモル吸光は、Dowexカチオン交換体添加の前後のDXNレベルを測定することによって、リポソーム中で算出された。
【0111】
血清の存在下でのLUVのサイズ分布分析:LUVの種々に定義された組成物が、生体成体子ウシ血清(ACS)と共に、それぞれ25%及び50%(容量で)のACSで、24時間までインキュベートされた(Biological Industries Beit-HaEmek, Israel)。LUV-血清相互作用は、ALV-NIBS/HPPS ALV-Laser, Vertriebsgesellschaft GmbH, (Langen, Germany)による動的光散乱方法を用いて、25℃でのリポソーム粒子サイズの変化をモニタリングすることにより評価した。
【0112】
血清の存在下におけるリポソームからのDXNの放出の測定:種々のリポソーム(リポソーム組成物についての表1を参照)を、2、4、24及び72時間、37℃で血清の存在下でインキュベートした。示された期間の後、サンプルを10分間、穏やかに振盪しながらDOWEX 50カチオン交換体(遊離DXNに結合するが、リポソームのDXNには結合しない)と相互作用させ、続いて、5000rpmで2分間遠心分離した。その後、全てのリポソーム-脂質を溶解するため及びDXNを溶液中に放出するために、10% 0.75N HCl (ISP-HCl)を含有する90% イソプロパノールでサンプルを10倍に希釈した。リポソーム中のDXN濃度を、カチオン交換体Dowex 50と混合されたリポソーム中のDXNの濃度と比較し、Synergy HTプレートリーダーをその蛍光モード(Bio-Tek, Vermont, USA)で用いて蛍光強度からDXN(485±10 nmでの励起及び590±10 nmでの発光)の標準較正曲線に従って決定した。
【0113】
細胞毒性調査:ドキソルビシン-抵抗性ヒト乳癌M-109細胞株に対するC6Cer-DXN-SSLの細胞毒性を、メチレンブルー(MB)染色アッセイ[Gorodetsky, R. et al. Int. J. Cancer. 75:635-642 (1998)]で試験した。200 μLの培地中の既知の数の指数関数的増殖細胞を、96穴マイクロウェル、平板底面プレートに蒔いた。異なる試験それぞれのために、4ウェルを使用した。培養液中での24時間のインキュベーションに続いて、異なる濃度の薬物又は製剤を、未処理細胞を含む各ウェルに加えた。
【0114】
細胞は、96時間薬物に曝した。薬物曝露の終了時、該薬物処理細胞、並びに平行するコントロール細胞を洗浄し、実験の終了まで新鮮な培地でインキュベーションを続けた。96時間の増殖に続いて、50 μLの2.5% グルタルアルデヒドを各ウェルに加えて15分間細胞を固定した。固定された細胞を脱イオン水で10回漱ぎ、ホウ酸塩バッファー(0.1 M, pH 8.5)で1回漱ぎ、乾燥し、MB (0.1 M ホウ酸塩バッファー中100 μLの1% 溶液pH 8.5)で、室温で1時間染色した(r.t.)。染色された細胞を、脱イオン水で完全に漱いで全ての非細胞結合染料を除去し、次いで乾燥した。該固定された細胞に結合したMBを、200 μLの0.1 N HClで1時間インキュベートして抽出し、各ウェルにおける該染料の純光学的な密度を、プレート分光光度計(Labsystems Multyskan Bichromatic, Finland) で620 nmで測定した。
【0115】
リポソームのDXNの抗腫瘍性の効力のインビボ評価:動物(マウス)を使用する全ての実験方法は、動物保護協会及び米国ヘブライ大学委員会及びHadassah医学組織によって要求され、該委員会によって承認された標準に従って行った。
【0116】
治療的有効性を試験するために、メスのBALB/c マウス(体重範囲16〜20g)に、1*106 C-26大腸癌を腹腔内注射した。それらの細胞の生存度は、トリパンブルー排除により>90%であった。ドキシル(単独)及び遊離DXNと比較したリポソーム内水相中のDXN(0.2のDXN/PL比)及び11.5 モル% の C6Cerの両方を含有する静脈内注射されたSSL (DXN-C6Cer-SSL)の治療的有効性が調査された。全3処置におけるDXN投与量は、0.16mg/マウス(8 mg/kg)であり、DXN-C6Cer-SSLを処置されたマウスへのC6Cer注射の投与量は0.25mg/マウスであった(12.5 mg/kg)。静脈内処置は、腫瘍細胞接種後4日目に開始し、5日の間隔で3回繰り返した。半生存度及び処置された(T)動物のコントロール動物(C)に対する寿命の上昇割合(Tx100/C)-100が算出された。
【0117】
腫瘍を有するマウスにおける薬物動態及び体内分布調査:ヘブライ大学(Jerusalem, Israel)の動物飼育ハウスを通して得た8〜10週齢のBALB/cメスマウスを、Hadassah医薬センターで、特定病原体なしの(SPF)施設で、随意に食物及び水を与えて飼育した。各マウスに、腫瘍細胞の一つの種菌(1×106マウスC-26 細胞)を左わき腹の皮下に注射した。7日後、DXN (0.16 mg/mouse)及びC6Cer, (0.25 mg/mouse)の両方を含有するSSL製剤及び遊離のDXN (0.16 mg/mouse)を静脈内注射した。注射から1、4、24及び48時間後、該動物を4%抱水クロラール(Fluka, USA)で麻酔し、眼接種により出血させ、5分間、5,000rpmで遠心分離して血液細胞から血漿を分離した。種々の臓器(肝臓、心臓、肺、腎臓)及び腫瘍を取り出した。それぞれの期間、処置されたそれぞれのグループは3マウスから成った。サンプルをアッセイまで-80℃で冷凍した。その後、全てのリポソーム脂質を溶解するため、及び、該DANを該溶液に放出するために、血漿サンプルを、10% 0.75N HClを含有する90%イソプロパノールで希釈し、DXNの濃度を、Synergy HT プレートリーダーをその蛍光モードで用いた(Bio-Tek, Vermont, USA) 蛍光強度からのDXN(485±10 nmでの励起及び590±10 nmでの発光)の標準較正曲線に従って測定した。
【0118】
統計的分析:半生存時間及び生存曲線における相違の統計的有意性を、Prismソフトウェア(GraphPad, San Diego, CA)を用いた対数ランク試験(log-rank test)によって算出した。相違は、P<0.05で有意であるとみなした。相乗作用の評価のために、組合せ指標(CI)を、半有効分析(median effect analysis)によって決定した[Chow TC, Talalay P. Quantitative analysis of dose-effect relationships: the combined effects of multiple drugs or enzyme inhibitors. Adv Enzyme Regul 22:27-55 (1984)]。組合せ指標の算出に用いた等式は、CI=(D1/Dx1)+(D2/Dx2)+(D1D2/Dx1Dx2)であり、ここで、DxはそのそれぞれのIC50での個々の薬剤濃度であり、Dは50%増殖阻害をもたらす組合せ中の薬剤の濃度である。
【0119】
結果
細胞毒性調査:最初のインビトロ調査は、リポソームのC6Cer及びドキソルビシンの協同効果を試験するために行った。リポソームC6CerのIC50及びIC10値は、それぞれ3.1及び1.4 μMであることが分かった。次いで、投与量応答曲線を、単独で与えられたDXN(1μM, 2.5μM又は5μM)で作成し、又は、そのIC10でのリポソームC6Cerと組合せて作成した。インビトロの結果を図1に提示した。これは、リポソームC6Cerの投与と、DXNが乳がんM-109ドキソルビシン抵抗性細胞株の生存率に相加的な効果を有することを示す。これは、遊離及び単独で与えられた場合の、2.2μMの遊離DXNのIC50値対IC10濃度のリポソームC6Cerの存在下における0.9μMのIC50値から明らかである(図1)。
【0120】
組合せ指標(CI)[Modrak DE, et al. Synergistic interaction between sphingomyelin and gemcitabine potentiates ceramide-mediated apoptosis in pancreatic cancer. Cancer Res. 2004 Nov 15; 64(22):8405-10] は、1.0に等しく決定した。CI値を考慮すると<0.9は、相乗作用を示し、0.9から1.1のCI値は加算性を示し、及びCI値>1.1は拮抗作用を示し、得られたCIは、この細胞株中でのリポソームC6CerとDXNの相加的な相互作用を示す。
【0121】
リポソーム製剤の性質決定:HSPC又はDSPCリポソーム-形成脂質から成り、2kPEG-DSPEで安定化され、11.5又は23 モル%のC6Cerを有するSSL (100nm)をうまく形成した。さらなる調査のために、リポソーム形成脂質としてHSPC、リポポリマー2kPEG-DSPE(7.5モル%)及びC6Cerを用いた。幾つかの製剤において、SSL中の低量のコレステロール(5 モル%)を用いた。細胞毒性薬剤として、DXNを用いた。
【0122】
上記に記載したように、DXNは、リポソームが高く/媒体が低い、膜貫通アンモニウムイオン勾配を用いた能動的(遠隔性)ローディングによって、予め形成されたSSLに導入した。該膜貫通pHを測定するために、DXNローディングの前後に、硫酸アンモニウム勾配を有するリポソームに加えられた14[C]-メチルアミンの分布を測定した。約80%の14[C]-メチルアミンが、DXNを欠くリポソーム中に分布し、一方、DXNローディング後は、約30% の14[C]-メチルアミンのみがリポソーム中に分布した。較正曲線に基づき、両方の場合における媒体のpHが6.7である条件下で、ローディングの前の3.3pH単位のpH勾配、及び、ローディング後のわずか1.4pH単位のpH勾配が示唆される。
【0123】
これらの結果から、ここで試験され記載された全てのリポソーム製剤が、DXN(全ての遊離DXNに結合するカチオン交換体Dowex 50によって評価された)及びC6Cer (TLCによって評価された)の高い(90〜95%)封入を有するということが示される。
【0124】
LUV安定性:4℃での貯蔵の間のリポソーム製剤の安定性は、動的光散乱を用いて粒子サイズ分布を測定することによって、及び、遊離DXNの割合を測定することによって評価され、これは、カチオン交換体Dowex 50をSSL製剤へ添加したアッセイされた。11.5 モル%のC6Cerを含有するSSL製剤は、8ヶ月の間物理的に安定であった。一方、23 モル%のC6Cerを含有するSSL製剤は不安定であり、4℃での貯蔵の3週間後にはすでにそのC6Cerの放出が生じ、しかし、それらのリポソーム製剤は、少なくとも3ヶ月間、その膜貫通pH勾配を保存し(14[C]-メチルアミン分布によって測定される(材料及び方法を参照))、これは、C6Cerの部分の放出がリポソームのバリヤー性質を妨げないことを示唆する。HSPC:2kPEG-DSPE:C6Cer (81:7.5:11.5 モル%)、HSPC:2kPEG-DSPE:C6Cer (78.5:10:11.5 モル%)から、及び、DSPC:2kPEG-DSPE:C6Cer (81:7.5:11.5 モル%)から成るリポソーム製剤は、少なくとも3ヶ月間安定であった(まだ進行中の実験)。
【0125】
血清中のSSL製剤のサイズ分布の測定:SSL製剤が、静脈内(i.v.)投与を目的としているため、ドキシルと比較したC6Cer-DXN-SSLの物理的安定性における血清の影響を調査及び評価することが重要である。それ故、成体ウシ血清(ACS)に曝露された結果のそれらの組成物における多様な、異なる100 nm SSL製剤のサイズにおける変化が、材料及び方法において記載したような動的光散乱によって測定された。血清と接触させられた場合に、全てのSSL製剤のサイズが、有意に変化しなかったということが、以下の表1に詳細にみられる。
【表1】

【0126】
血清に存在するリポソームからのDXNの放出:リポソームの利用の基本的な要求は、それらがリポソームの内側に薬物を保持する必要があるということであり、これは、一方では、標的部位への薬物を最大に運ぶことを可能にし、他方では、薬物の毒性を減少させ、それ故、該薬物の治療的指数を増大させることを可能にする。それ故、目的は、ドキシル製剤からの薬物の放出と比較して、調製された種々のリポソームからのDXN放出速度を測定することである。その結果、11.5モル%のC6Cerを有するDXN-SSLからのDXN放出速度、並びに、ドキシルからの放出速度は極めて低いことが示された。さらに、種々のSSLを血清と共に72時間インキュベーションした後、リポソーム中に保持された95-97%のDXNが、リポソーム製剤中で脂質の組成物と独立していることが分かった。
【0127】
マウス腫瘍モデルにおける、ドキシルと比較した、同じSSL中にDXN及びC6Cerを含有するリポソームの治療的有効性の評価:治療的有効性を試験するために、メスのBALB/cマウスに1*106 C-26マウス大腸癌を腹腔内注射した。DXN及びC6Cer(膜中)の両方を含有する、静脈内注射されたSSLの、ドキシルと比較した治療的有効性を測定した。その結果、図2に提示したように、ドキシル(リポソームDXN)で処置したマウスの場合の生存率70% (p***<0.0005)と比較して、DXN及び11.5 モル%のC6Cer (HSPC:2kPEG-DSPE:Chol:C6Cer (76:7.5:5:11.5)-DXN) の両方を含むSSLで処置されたマウスの100%(p***<0.0005)が2ヶ月間生存し(長期間の生存)たことが証明された。
【0128】
23mole % のC6Cerを含有するDXN封入SSLは、ドキシルと、又は11.5 モル%のC6Cerを含有するDXN封入SSLと比較して、わずか17%の長期間生存率が観察される、有効性の低い抗癌活性を示した。
【0129】
腫瘍を有するマウスの長期間生存率(腫瘍注射後60日以上)もまた検査された。ドキシル及びSSL-C6Cer-DXNの有効性の比較は、治療の初期設定の80日後、未処置のマウス又は遊離DXNで処置したマウスの生存率0(0%)と比較して、両方のタイプのSSL製剤で処置したマウスの75%生存率(p***<0.0001)を示した。処置後90日では、SSL-C6Cer-DXNで処置したものの75%と比較して、ドキシルで処置されたマウスのわずか25%のみが生存した。それらの結果を図3に示した
処置されたグループと未処置のグループの半生存時間を比較した場合、遊離のDXNで処置されたグループ及び未処置のグループのそれぞれ35日及び16日の生存と比較して、ドキシルで処置されたグループにおいて80日の半生存が見出された。DXN及びC6Cerの両者を含有するリポソーム製剤で処置されたマウスにおける半生存は80日より長く、それ故、不定である。
【0130】
腫瘍を有するマウスにおける、ドキソルビシンの薬物動態及び体内分布調査:BALB/cメスマウスに、腫瘍細胞(1×106 C-26細胞)の一つの種菌を左わき腹の皮下に注射した。7日後、DXN及びC6Cer [HSPC:2kPEG-DSPE:Chol:C6Cer (76:7.5:5:11.5)-DXN]の両者を含有するリポソーム製剤;ドキシル又は遊離のDXNを静脈内に注射し、そして、眼接種により出血させ、血漿を単離し、さらなる分析のために50 μlを血漿から採取した。DXNレベルを、血漿の「抽出」後に、酸性イソプロパノールを用いて、方法に記載したように測定した。
【0131】
薬物動態調査により、SSL-C6Cer-DXNを介して送達されたDXNの、ドキシルと比較して長い循環時間、及び、遊離のDXNより極めて長い循環時間が明らかになった。注射後1時間(48時間での遊離DXNの血漿レベルは以下で検出した)の血漿中に残存する遊離DXNにより得られた3%と比較して、SSL-C6Cer-DXN又はドキシルによって送達された注射後48時間のそれぞれ36%及び32%であることが発見された。結果を図4Aに提示する。
【0132】
両方のタイプのSSL製剤(HSPC:2kPEG-DSPE:Chol:C6Cer (76:7.5:5:11.5)-DXN、又はドキシル)によって、及び、遊離のDXNによって、種々の臓器及び腫瘍組織に送達されるDXNの体内分布を異なる時点で測定し、その結果を図4Bに示した。見ての通り、遊離のDXNは、腎臓によってSSL-C6Cer-DXNより極めて速くクリアされ、遊離薬剤として送達された極めて高いレベルの遊離DXNは、心臓組織で検出された(遊離DXNの5.7%と比較して、及び、注射されたSSL-C6Cer-DXN又はドキシルの、処置後4時間での、それぞれ1.6%及び1.1%と比較して、)。これは、遊離のDXNと比較して、SSL-C6Cer-DXN及びドキシルの心臓の毒性が減少したことを示唆する。一方、SSLの両方のタイプのより長い循環時間のために、DXNの著しく高いレベルが、腫瘍組織において、試験された全ての時点で、注射後24時間で最大に達することが発見された(注射されたSSL-C6Cer-DXN又はドキシルの場合、それぞれ11%及び9.4%を、注射された遊離のDXNの1% と比較して)。
【0133】
それ故、リポソーム封入DXN又はドキシルを含有する立体的に安定化された(SSL)-セラミドは、遊離のDXNより高いレベルで腫瘍中に蓄積し、このは、より優れた治療的活性を説明し、また、遊離のDXNと比較して、SSLを介して送達されたDXNの全身及び心臓の毒性を減少すると結論付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1は、DXN-抵抗性M109R腫瘍細胞株に対する、リポソームC6Cer(白い棒)、ドキソルビシン(DXN)(灰色の棒)又はそれらの組合せ(黒い棒)の細胞毒性活性を示す棒グラフである。腫瘍細胞は、異なる製剤と96時間インキュベートし、生存率をMBアッセイの補助によって測定した。
【図2】図2は、ドキシルと比較した、立体的に安定化したC6Cer-DXN (C6Cer-DXN-SSL) 治療的活性を示すグラフである。1*106 C-26大腸癌腫を腹腔内接種し、開示したように治療したBALB/c マウスの生存率(%) を示す。
【図3】図3は、ドキシル又は遊離DXNと比較した、C6Cer-DXN-SSLの治療的活性を示すグラフである。1*106 C-26大腸癌腫を腹腔内接種し、開示したように治療したBALB/c マウスの生存率(%) を示す。
【図4A】図4Aは、ドキシル(白い棒)又は遊離DXN(黒い棒)と比較した、C6Cer-DXN-SSL(灰色の棒)の薬物動態を示すグラフである。
【図4B】図4Bは、ドキシル(白い棒)又は遊離DXN(黒い棒)と比較した、C6Cer-DXN-SSL(灰色の棒)の体内分布(図4B)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を具備する薬学的組成物:
(a)以下を具備する安定な脂質集合:
i)リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質;
ii)リポポリマー;
(b)細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を保持するリポソーム。
【請求項2】
以下を具備する安定な脂質集合を含む薬学的組成物:
i)リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質;
ii)リポポリマー;
iii)脂質集合によって保持される細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤。
【請求項3】
前記脂質集合がリポソームである、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記アポトーシス影響脂質が前アポトーシス脂質である、請求項1〜3の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記前アポトーシス脂質が、疎水性領域及び極性頭部を有し、その頭部と疎水性領域の間の原子質量比が0.3未満である、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記リポポリマーが、疎水性脂質領域及びポリマー頭部を有し、ここにおいて、該頭部と疎水性領域の間の原子質量比が少なくとも1.5である、請求項1〜5の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記脂質集合が、0.74-1.0の範囲の相加的パッキングパラメーターを有する脂質又は脂質の組合せを含む脂質マトリクスを有する、請求項1〜6の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記リポポリマーが、その頭部に緊密に結合した、リポポリマー頭部当り少なくとも約60の水分子のレベルの水を有する、請求項1〜7の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記前アポトーシス脂質が、1以上のパッキングパラメーターを有する、請求項3〜8の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記前アポトーシス脂質が、セラミド、セラミン、スフィンガニン、スフィンガニン-1-ホスフェート、ジ-又はトリ-アルキルスフィンゴシン及びそれらの構造的類似体から選択される、請求項9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記前アポトーシス脂質が、以下の一般式(I)を有する、請求項10に記載の薬学的組成物:
【化1】

ここにおいて、
−R1 は、C2-C26の、飽和又は不飽和の、分枝鎖又は非分枝鎖の脂肪鎖を表し、該脂肪鎖は、一以上のヒドロキシル基又はシクロアルキル基で置換されてよく、シクロアルキレン部分からなってよい;
−同じであるか又は異なるR2 は、水素、脂肪族、脂肪族カルボニルから選択される、C1-C26 の飽和又は不飽和の、分枝鎖又は非分枝鎖;シクロアルキレンを含有する脂肪鎖を表し、該脂肪鎖はアリール、アリールアルキル又はアリールアルケニル基で置換されてよい;
−R3 は、水素、メチル、エチル、エテニル、糖又はホスフェート基を表す。
【請求項12】
R1 がC15 脂肪鎖であり、第一のR2 が水素であり、第二のR2 が上記定義の通りであり、及びR3 が水素である、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
R1 が、C1-C2トランス二重結合を有するC15 の不飽和脂肪鎖であり、第一のR2 が水素であり、第二のR2 基がC1-C26の飽和又は不飽和の、任意にヒドロキシル置換された脂肪鎖であり、及びR3 が水素である、請求項11又は12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記前アポトーシス脂質がセラミドである、請求項11〜12の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記前アポトーシス脂質がC2-C26 のセラミドである、請求項14に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記前アポトーシス脂質が、C2、C4、C6又はC8-セラミドから選択される短鎖のセラミドである、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記セラミドがC6 セラミドである、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記リポポリマーが、ポリエチレングリコール (PEG)、ポリシアル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルタミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、変性セルロースから選択されるポリマー頭部を含む、請求項1〜17の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記ポリマー頭部がポリエチレングリコール (PEG)である、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記PEGが2,000Da (2kPEG) の原子質量を有する、請求項19に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記脂質マトリクスがリン脂質を含む、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記リン脂質がグリセロリン脂質である、請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記グリセロリン脂質が、ホスファチジルコリン (PC)、卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン (DMPC)及びスフィンゴミエリン(SM)から選択される双性イオン性リン脂質;又は、ホスファチジルセリン (PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸 (PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)から選択される陰イオン性リン脂質;又は、陽イオン性脂質を形成するためにそのリン酸一エステルがO-メチル化されたホスファチジルコリン又はスフィンゴミエリンから選択される陽イオン性リン脂質である、請求項22に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記グリセロリン脂質が水素化ダイズホスファチジルコリン (HSPC)である、請求項23に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記脂質集合が、HSPC、2kPEG-DSPE及びC6 セラミドを含有する、請求項7〜24の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記脂質集合中の前記C6 セラミドのモル%が11.5である、請求項17又は25に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
前記脂質集合が、5%以下のモル%でコレステロールを含有する、請求項7〜26の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項28】
前記細胞毒性薬剤が、アントラサイクリンに基づく薬剤である、請求項1〜27の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項29】
前記薬剤が、ドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくそれらの類似体である、請求項28に記載の薬学的組成物。
【請求項30】
前記薬剤が、リポソーム中に封入される、請求項3〜29の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項31】
C6 セラミド及びリポポリマーを含む第一のリポソーム及びドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくそれらの類似体を封入する第二のリポソームを具備する薬学的組成物。
【請求項32】
C6 セラミド及びリポソームの膜の部分を形成するリポポリマーを含むリポソームを含む薬学的組成物であって、該リポソームがドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくそれらの類似体を封入する薬学的組成物。
【請求項33】
前記C6 セラミドが、前記膜中に総脂質の11.5%のモル%で存在する、請求項31又は32に記載の薬学的組成物。
【請求項34】
前記リポソームが4℃の貯蔵条件下で少なくとも6ヶ月間安定である、請求項30〜32の何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項35】
過剰増殖(hyperproliferative)状態を有する被検者を治療する方法であって、以下を含む薬学的組成物を前記被検者に投与することを含む方法:
(a)以下を具備する安定な脂質集合:
i)リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質;
ii)リポポリマー;
(b)細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を保持するリポソーム。
【請求項36】
過剰増殖状態を有する被検者を治療する方法であって、以下を含む安定な脂質集合を含む薬学的組成物を前記被検者に投与することを含む方法:
i)リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質;
ii)リポポリマー;
iii)脂質集合によって保持される細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤。
【請求項37】
前記脂質集合がリポソームである、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記アポトーシス影響脂質が、前アポトーシス脂質である、請求項35〜37の何れか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記前アポトーシス脂質が疎水性領域及び極性頭部を有し、該頭部と疎水性領域の間の原子質量比が0.3未満である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記リポポリマーが疎水性脂質領域及びポリマー頭部を有し、ここにおいて、該頭部と疎水性領域の間の原子質量比が少なくとも1.5である、請求項35〜39の何れか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記脂質集合が、0.74-1.0の範囲の相加的パッキングパラメーターを有する脂質又は脂質の組合せを含む脂質マトリクスを有する、請求項35〜40の何れか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記リポポリマーが、その頭部に緊密に結合した、頭部当り少なくとも約60の水分子のレベルの水を有する、請求項35〜41の何れか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記前アポトーシス脂質が1より大きいパッキングパラメーターを有する、請求項38〜42の何れか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記前アポトーシス脂質が、セラミド、セラミン、スフィンガニン、スフィンガニン-1-ホスフェート、ジ-又はトリ-アルキルスフィンゴシン及びそれらの構造的類似体から選択される、請求項38〜43の何れか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記前アポトーシス脂質が、以下の一般式(I)を有する、請求項44に記載の方法:
【化2】

ここにおいて、
−R1 は、C2-C26の、飽和又は不飽和の、分枝鎖又は非分枝鎖の脂肪鎖を表し、該脂肪鎖は、一以上のヒドロキシル基又はシクロアルキル基で置換されてよく、シクロアルキレン部分からなってよい;
−同じであるか又は異なるR2 は、水素、脂肪族、脂肪族カルボニルから選択される、C1-C26 の飽和又は不飽和の、分枝鎖又は非分枝鎖;シクロアルキレンを含有する脂肪鎖を表し、該脂肪鎖はアリール、アリールアルキル又はアリールアルケニル基で置換されてよい;
−R3 は、水素、メチル、エチル、エテニル、糖又はホスフェート基を表す。
【請求項46】
R1 がC15 脂肪鎖であり、第一のR2 が水素であり、第二のR2 が上記定義の通りであり、及びR3 が水素である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
R1が、C1-C2トランス二重結合を有するC15の不飽和脂肪鎖であり、第一のR2が水素であり、第二のR2基がC1-C26の飽和又は不飽和の、任意にヒドロキシル置換された脂肪鎖であり、及びR3が水素である、請求項43又は44に記載の方法。
【請求項48】
前記前アポトーシス脂質がセラミドである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記セラミドがC2-C26セラミドである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記前アポトーシス脂質が、C2、C4、C6又はC8-セラミドから選択される短鎖セラミドである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記セラミドがC6セラミドである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記リポポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリシアル酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルタミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、変性セルロースから選択されるポリマー頭部を含む、請求項35〜51の何れか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記ポリマー頭部がポリエチレングリコール(PEG)である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記PEGが、2,000Da (2kPEG)の原子質量を有する、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記脂質マトリクスがリン脂質を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記リン脂質がグリセロリン脂質である、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
前記グリセロリン脂質が、ホスファチジルコリン(PC)、卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)及びスフィンゴミエリン(SM)から選択される双性イオン性リン脂質;又はホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)から選択される負に帯電したリン脂質;又は陽イオン性脂質を形成するためにそのリン酸一エステルがO-メチル化されたホスファチジルコリン又はスフィンゴミエリンから選択される陽イオン性リン脂質である、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
前記グリセロリン脂質が水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記脂質集合が、HSPC、2kPEG-DSPE及びC6セラミドを含む、請求項35〜58の何れか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記脂質集合中の前記C6セラミドのモル%が、総脂質の11.5%である、請求項51又は59に記載の方法。
【請求項61】
前記脂質集合が、5%以下のモル%でコレステロールを含む、請求項41〜60の何れか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記細胞毒性薬剤が、アントラサイクリンに基づく薬剤である、請求項35〜61の何れか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記薬剤がドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくそれらの類似体である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記薬剤がリポソーム中に封入される、請求項37〜63の何れか一項に記載の方法。
【請求項65】
過剰増殖状態を有する被検者を治療する方法であって、該被検者に、C6 セラミド及びリポポリマーを含むリポソーム及びドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくそれらの類似体を封入するリポソームを具備する安定な脂質集合を含む薬学的組成物を投与することを含む方法。
【請求項66】
過剰増殖状態を有する被検者を治療する方法であって、該被検者に、C6 セラミド及びリポソームの膜の部分を形成するリポポリマーを含む安定な脂質集合を含む薬学的組成物を投与することを含み、該リポソームがドキソルビシン又は生物学的に活性なアントラサイクリンに基づくそれらの類似体を封入することを特徴とする方法。
【請求項67】
前記C6セラミドが、前記膜中に、総脂質の11.5%のモル%で存在する、請求項65又は66に記載の方法。
【請求項68】
前記組成物を注射によって投与することを含む、請求項35〜67の何れか一項に記載の方法。
【請求項69】
過剰増殖状態を有する被検者を治療する方法であって、該被検者に、それらの膜中にリポポリマー及びC6-セラミドを含むリポソームと、ドキソルビシン又は生物学的に活性な、アントラサイクリンに基づくドキソルビシン類似体を封入したリポソームの組合せを投与することを含む方法。
【請求項70】
過剰増殖状態を有する被検者を治療し、ドキソルビシン又は生物学的に活性な、アントラサイクリンに基づくドキソルビシン類似体を含むリポソームで処置する方法であって、該方法は、それらの膜中にリポポリマー及びC6-セラミドを含むリポソームの有効量を前記被検者に投与することを含む方法。
【請求項71】
過剰増殖状態を有する被検者を治療し、それらの膜中にリポポリマー及びC6-セラミドを含むリポソームで処置する方法であって、該方法は、ドキソルビシン又は生物学的に活性な、アントラサイクリンに基づくドキソルビシン類似体を含むリポソームを前記被検者に投与することを含む方法。
【請求項72】
請求項69〜71の何れか一項に記載の方法であって、ドキソルビシン又は生物学的に活性な、アントラサイクリンに基づくドキソルビシン類似体を含む前記リポソームの投与と共に、或いは、そのすぐ後に、それらの膜中にリポポリマー及びC6-セラミドを含む前記リポソームの投与を具備する方法。
【請求項73】
リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質及びリポポリマーを含む安定な脂質集合の、細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤を保持するリポソームと併せた、薬学的組成物の調製のための使用。
【請求項74】
脂質膜を有し、リポソームを形成するために極性環境において自己凝集しないアポトーシス影響脂質をその脂質膜中に含む安定な脂質集合の、前記脂質集合によって保持される細胞毒性の両親媒性弱塩基薬剤と併せた、薬学的組成物の調製のための使用。
【請求項75】
請求項1〜34の何れか一項で定義された薬学的組成物の調製のための、請求項73又は74に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2008−520560(P2008−520560A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540836(P2007−540836)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【国際出願番号】PCT/IL2005/001200
【国際公開番号】WO2006/051549
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(399042546)イッスム・リサーチ・ディベロップメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシティ・オブ・エルサレム (10)
【Fターム(参考)】