説明

組換えアポリポプロテイン

【課題】新たな組換えアポリポプロテインの製造方法、組換えアポリポプロテインC−I、それに対する抗体、該抗体を用いるアポリポプロテインC−Iの測定法およびそれに用いるキットを提供することにある。
【解決手段】プロモーターとしてLacプロモーター、チオレドキンをコードするDNA配列およびアポリポプロテインC−IをコードするDNA配列を含む発現プラスミドを大腸菌に導入して、該大腸菌にてチオレドキンとアポリポプロテインC−Iとの融合蛋白質を発現させ、該融合蛋白質からアポリポプロテインC−Iを回収することにより高純度の組換えアポリポプロテインC−Iが得られ、これを抗原として用いて、アポリポプロテインC−Iに対する抗体を調製することにより、天然のアポリポプロテインC−Iに対して特異性の高い抗体を得ることができる。この抗体を用いて、検体中のアポリポプロテインC−Iを免疫学的測定法により、正確に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えアポリポプロテインに関する。更に詳細には、組換えアポリポプロテインの製造方法、該製造方法に用いる組換えプラスミド発現ベクター、該製造方法により得られる組換えアポリポプロテインC−I、該組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体、該抗体を用いるアポリポプロテインのC−Iの測定方法および該測定方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
生体中の数多くの蛋白質は、病気の有無・状態と関係し、臨床的に測定されてきている。その場合、蛋白質を測定する方法としては、その蛋白質に対する抗体を用いて、免疫的測定法によるものが一般的であり、その原理に基ずく臨床検査薬が広く供給されている。
生体蛋白質の一つであるアポリポプロテインC−Iは、主として肝臓において産生される分子量6.6kDaの蛋白質であり、高脂質症の発症に関与していることが報告されている(非特許文献1)。天然のアポリポプロテインC−Iおよびそれを用いて作成した抗体は実際に商業的に供給されているにもかかわらず、アポリポプロテインC−Iを測定するための免疫測定法の試薬は、臨床検査試薬として使用されていない。
アポリポプロテインC−Iに関しては、近年、SELDI−MSやMALDI−MSのような質量分析計やHPLC法の分析法の発展に伴い、それと病態との関係も新たに知られてきている。例えば、質量分析計やHPLCを用いて、アポリポプロテインC−Iのレベルが、卒中、敗血症、腫瘍、心疾患、クローン病発病の可能性と関係していることが報告されてきている(特許文献1および特許文献2)。
臨床検査薬としては、アポリポプロテインC−Iを測定するためには、免疫学定測定法でそれを測定することが好ましいにも拘らず、これを免疫学的測定法で調べると、質量分析計で測定したものとは結果が異なると指摘されている(特許文献2)。
従って、アポリポプロテインC−Iを免疫学定測定法で測定するための臨床検査薬の開発が強く望まれている。
【特許文献1】国際公開第WO2005/017523号パンフレット(特許公表2007年502401号公報)
【特許文献2】国際公開第WO2005/038461号パンフレット(特許公表2007年506075号公報)
【非特許文献1】Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 1999; 19; 472-484
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような状況下、本発明者らは、アポリポプロテインC−Iの免疫学的測定法の一つの問題として、市販の抗アポリポプロテインC−I抗体は、非特異反応が大きく、それは、その抗体を作成するために用いた抗原、すなわち、天然のアポプロテインC−Iに問題があるということを発見した。そこで、遺伝子工学的手法により、アポリポプロテインC−Iを作成することを試みた。組換えアポリポプロテインC−Iの製造を検討したが、これまでに知られていない技術であり、成功するには困難を極めた。例えば、本発明者らの検討によるとヒトに近いマウス卵巣細胞を用いては、組換えアポリポプロテインC−Iを製造することはできなかった。また、大腸菌の菌体内では、アポリポプロテインC−Iを用いることなくリポプロテインが代謝されているためか、宿主細胞として大腸菌を用いて、通常のT7プロモーターやLacプロモーターを用いても組換えアポリポプロテインC−Iを発現できなかった。
従って、本発明の課題は、天然から得られるアポリポプロテインC−Iに比べて純度が高く、非特異反応の少ない抗アポプロテインC−I抗体が作成可能な組換えアポリポプロテインC−Iの製造方法を提供することにある。更には、組換えアポリポプロテインC−Iに加えて他の組換えアポリポプロテインも製造するための製造方法を提供することにある。また、本発明の課題は、非特異反応の少ない抗アポプロテインC−I抗体が作成可能な組換えアポリポプロテインC−I、該組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体、該抗体を用いるアポリポプロテインC−Iの測定方法および該測定方法に用いるキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記した課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、プロモーターとして大腸菌由来のプロモーターを用い、宿主細胞として大腸菌を用いて、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質であるチオレドキシンとアポリポプロテインC−Iとの融合蛋白質として発現させることにより、高純度の組換えアポリポプロテインC−Iであって、非特異反応の少ない抗アポプロテインC−I抗体が作成可能な組換えアポリポプロテインC−Iが得られ、この製造方法は、他の組換えアポリポプロテインの製造に広く適用できること、また、この組換えアポリポプロテインC−Iを抗原として用いて作成した抗アポリポプロテインC−I抗体により天然のアポリポプロテインC−Iを免疫学的測定法により正確に測定できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0005】
従って、本発明は、大腸菌由来のプロモーター、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列およびアポリポプロテインをコードするDNA配列を有する組換えプラスミド発現ベクターを、大腸菌に導入し、導入された大腸菌を培養して、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質とアポリポプロテインとの融合蛋白質を発現させ、その融合蛋白質からアポリポプロテインを得ることを特徴とする組換えアポリポプロテインの製造方法に関する。
更に本発明は、大腸菌由来のプロモーター、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列およびアポリポプロテインをコードするDNA配列を有する組換えプラスミド発現ベクターに関する。
更に本発明は、組換えアポリポプロテインC−Iまたはその変異体に関する。
更に本発明は、組換えアポリポプロテインC−Iを免疫源として哺乳動物に投与して得られる、組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体に関する。
更に本発明は、組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体を用いて免疫測定法で検体中のアポリポプロテインC−Iを測定することを特徴とするアポリポプロテインC−Iの測定方法に関する。
更に本発明は、組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体を含む、アポリポプロテインC−Iを測定するためのキットに関する。
【発明の効果】
【0006】
プロモーターとして大腸菌由来のプロモーターを用い、宿主細胞として大腸菌を用いて、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質とアポリポプロテインとの融合蛋白質として発現させることにより、高純度の組換えアポリポプロテインが得られる。この方法により得られる高純度の組換えアポリポプロテインC−Iを抗原として用いて、アポリポプロテインC−Iに対する抗体を調製することにより、天然のアポリポプロテインC−Iに対して特異性の高い抗体を得ることができる。この抗体を用いて、検体中のアポリポプロテインC−Iを免疫学的測定法により、正確に測定することができる。従って、本発明で得られる組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体を臨床検査薬として用いることにより、卒中、敗血症、腫瘍、心疾患、クローン病発病の可能性などを正確に診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、組換えアポリポプロテインは、大腸菌由来のプロモーター、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列およびアポリポプロテインをコードするDNA配列を有する組換えプラスミド発現ベクターを、大腸菌に導入し、導入された大腸菌を培養して、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質とアポリポプロテインとの融合蛋白質を発現させ、その融合蛋白質からアポリポプロテインを得ることにより製造できる。
ここで用いる大腸菌由来のプロモーターとしては、例えば、lacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーターなどが挙げられ、特にlacプロモーター、tacプロモーター、なかでもlacプロモーターが好ましい。
【0008】
水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質としては、分子量が8000から60000の蛋白質が好ましく、例えば、チオレドキシン、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合プロテイン(MBP)あるいはこれらの変異体などが挙げられる。変異体としては、これらの蛋白質のアミノ酸配列において一つもしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列からなり、元の蛋白質と同様の機能を有する蛋白質が挙げられる。ここで同様の機能とは、アポリポプロテインとともに大腸菌において融合蛋白質として発現できる機能を指す。本発明では、大腸菌由来の水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質が好ましく、特に、チオレドキシンまたはその変異体、なかでも大腸菌由来のチオレドキシンまたはその変異体が好ましい。
これらの水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質のアミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列は各種文献に記載され公知である。
組換えプラスミド発現ベクターにおいては、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列は、アポリポプロテインをコードするDNA配列の上流側に位置しているのが好ましい。
【0009】
アポリポプロテインとしては、アポリポプロテインA、C、Eなどが好適であり、更にこれらのサブタイプ、例えば、アポリポプロテインA−I、C−I、C−II、C−III、E2、E3、E4などが挙げられる。あるいはこれらの変異体であってもよい。変異体としては、これらのアポリポプロテインのアミノ酸配列において一つもしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列からなり、元の蛋白質と同様の機能を有する蛋白質が挙げられる。ここで同様の機能とは、元のアポリポプロテインと同様の抗原性を有し同様の特異性を有する抗体産生能を指す。
これらのアポリポプロテインのなかでも、特にアポリポプロテインC−Iが好ましい。これらのアポリポプロテインのアミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列は各種文献に記載され公知である。
【0010】
本発明においては、組換えプラスミド発現ベクターは、更に、発現した融合蛋白質を精製するための精製ペプチドをコードするDNA配列を含むのが好ましい。精製ペプチドとしては、好ましくは、Hisタグ、FLAG、STREPなどのアフィニティー精製が可能となるペプチドが挙げられる。例えば、Hisタグは、ヒスチジン残基が連続して6から10個程度結合したものであり、融合蛋白質に結合させて用いる。このHisタグはキレート担体と相互作用するため、発現する融合蛋白質の精製が容易に行える。FLAGは8個のアミノ酸残基からなるペプチドタグで、融合蛋白質に結合させて発現させ、融合蛋白質を抗FLAG抗体を用いて精製することができる。STREPは、ストレプトアビジンに結合する8個のアミノ酸残基からなるペプチドタグであり、ストレプトアビジンとの可逆的な結合を利用して、融合蛋白質を精製できる。これらの精製ペプチドのなかでも、Hisタグが好ましい。これらの精製ペプチドをコードするDNA配列は、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列およびアポリポプロテインをコードするDNA配列の間に置かれて、あるいは、いずれかのDNA配列に連結して用いられる。
【0011】
本発明においては、組換えプラスミド発現ベクターは、更に、発現した融合蛋白質からアポリポプロテインを遊離させるためのプロテアーゼ開裂ペプチドをコードするDNA配列を含むのが好ましい。プロテアーゼ開裂ペプチドとしては、例えば、トロンビン、ファクターXa、TEVプロテアーゼ、PreScissionプロテアーゼなどのプロテアーゼによって開裂されるペプチドなどが挙げられる。これらのプロテアーゼ開裂ペプチドをコードするDNA配列は、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列およびアポリポプロテインをコードするDNA配列の間に位置し、アポリポプロテインをコードするDNA配列の直ぐ上流に存在するのが好ましい。このようなプロテアーゼ開裂ペプチドをコードするDNA配列を用いることにより、発現した融合蛋白質に、例えば、トロンビンなどを作用させることにより、融合蛋白質からアポリポプロテインを遊離させることができる。
【0012】
上記した各種DNA配列を含む組換えプラスミド発現ベクターの構築は、例えば、図1に示すようにして行うことができる。すなわち、Lacプロモーター、大腸菌由来チオレドキシン、6Hisタグおよびトロンビン開裂ペプチドをコードするDNA配列を、上流側からこの順序で有するプラスミドpUC−Trxを調製し、他方、ヒトアポリポプロテインC−IをコードするDNA配列を有するプラスミドpTOPO−ApoCIを調製し、それぞれのプラスミドから、Lacプロモーター、大腸菌由来チオレドキシン、6Hisタグおよびトロンビン開裂ペプチドをコードするDNA配列を含む断片と、ヒトアポリポプロテインC−IをコードするDNA配列を含む断片を得て、それら断片を連結することによって、目的とする組換えプラスミド発現ベクターpUC−Trx−ApoCIを構築することができる。他の各種組換えアポリポプロテインを得るための組換えプラスミド発現ベクターも同様にして構築することができる。
【0013】
組換えプラスミド発現ベクターを、大腸菌に導入し、導入された大腸菌を培養して、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質とアポリポプロテインとの融合蛋白質を発現させるには、公知の方法を用いて通常の方法により行うことができる。発現した融合蛋白質は、上記した精製ペプチドを利用して精製し、精製した融合蛋白質から、上記したプロテアーゼ開裂ペプチドを利用してアポリポプロテインを遊離させて、目的とする組換えアポリポプロテインを製造することができる。
本発明の製造方法により、高純度の組換えアポリポプロテインが得られ、また、抗原として動物に免疫することにより、対応する天然アポリポプロテインに対して高い特異性を有する抗体産生を誘導する組換えアポリポプロテインが得られる。特に、本発明の製造方法により、天然アポリポプロテインC−Iに対して高い特異性を有する抗体産生を誘導する組換えアポリポプロテインC−Iが得られる。
【0014】
本発明の製造方法により得られる組換えアポリポプロテインC−Iを免疫源として哺乳動物に投与することにより、組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体が得られる。抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。
ポリクローナル抗体は、組換えアポリポプロテインC−Iを哺乳動物に免疫して、免疫動物から血清を採取することにより調製することができる。モノクローナル抗体は、組換えアポリポプロテインC−Iを免疫源として哺乳動物を免疫し、その動物が産生する抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞とを融合させて得られるハイブリドーマによって調製することができる。
【0015】
ハイブリドーマは、組換えアポリポプロテインC−Iを、フロイントの完全、不完全アジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、百日咳アジュバント等のアジュバントを用いて共に混和し、感作用アジュバント液を作製して数回に分けてマウス、ラット等の動物に免疫し、次いで免疫動物の脾臓等に由来する抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞(ミエローマ細胞)する細胞とを、ケーラーとミルスタインの定法(Nature.256,495.1975)によってポリエチレングリコールなどを用いることにより融合し、融合細胞から、アポリポプロテインC−Iを認識する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって得ることができる。
ハイブリドーマは通常細胞培養に用いられる培地で培養し、その培養上清よりモノクローナル抗体を回収することができる。またハイブリドーマが由来する動物をあらかじめプリスタン処理しておき、その動物に細胞を腹腔内注射することによって腹水を貯留させ、その腹水からモノクローナル抗体を回収することもできる。
【0016】
本発明の抗体は、天然アポリポプロテインC−Iを免疫源として哺乳動物に投与して得られる抗体に比べて、天然アポリポプロテインC−Iに対する特異性が高いものである。本発明の抗体を用いた免疫測定法によって検体中のアポリポプロテインC−Iを高感度で且つ特異的に検出することができる。
ここで対象となる検体としては、血液、血清、血漿、骨などの組織等が挙げられる。
免疫測定法としては、酵素免疫測定法(EIA法)、免疫比濁測定法(TIA法)、ラテックス免疫凝集法(LATEX法)、電気化学発光法、蛍光法などを例示することができる。またイムノクロマト法、試験紙を利用した方法も有効である。これらの方法は、いずれも当業者に周知の方法でありこれら周知の方法をそのまま採用することができる。
例えば、酵素免疫測定法として、サンドイッチアッセイELISA法を例にとって以下に説明する。
ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ナイロン、ポリメタクリレートなどのそれ自体公知である固相に直接または間接的に物理結合や化学結合、アフィニティーを利用して抗体を結合させる。次いで、検体を作用させて、アポリポプロテインC−Iを固相に結合した抗体に結合させ、固相を洗浄し、次いで対応する二次標識抗体、例えば、抗イムノグロブリン標識抗体を加えて更に2次反応させる。固相を再度洗浄し、発色基質などを加え反応させる。標識物質にHRPを用いた場合、基質には既知のDAB、TMBなどを用いることができ、標識物質はこれに限定されるものではない。例えば酵素だけではなく金コロイド、ユーロピウムなどの標識金属やFITC、ローダミン、Texas Red、Alexa、GFPなどの化学的、生物的各種蛍光物質、32P、51Crなどの放射性物質など識別可能なあらゆる物質が挙げられる。
【0017】
本発明の測定方法を実施するときは、アポリポプロテインC−Iを免疫測定するためのキットであって、組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体を含むキットを用いて行える。このキットにおいては、抗体を固相支持体に吸着させてもよく、検体中のアポリポプロテインC−Iを抗体に結合させた後、固相支持体に吸着しなかった成分を除去するために、洗浄液を含むことができる。洗浄液としては、例えば、界面活性剤を含むトリス緩衝液を使用することができる。また、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム溶液等の酵素反応停止液、例えば、トリス等の緩衝液を含むこともできる。
【0018】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
組換えプラスミド発現ベクターの構築
A.ヒトアポリポプロテインC−IをコードするDNA断片の調製
図1に示す組換えヒトアポリポロテインC−I発現ベクターの構築において原料プラスミドとして用いる、ヒトアポリポプロテインC−IをコードするDNA配列を含むpTOPO−ApoCIを構築した。
(1)ヒトアポリポプロテインC−I遺伝子の獲得
ヒト肝癌細胞株HepG2(ATCC HB 8065)からISOGEN(ニッポンジーン社)を用いて全RNAを抽出した。続いて、First−Strand cDNA Synthesis Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を用い、推奨プロトコールにしたがって逆転写反応を行い、ポリ(A)含有mRNA由来の1本鎖cDNAを得た。
(2)ヒトアポリポプロテインC−I遺伝子のクローニング(pTOPO−ApoCIの
構築)
Homo Sapiens ApolipoproteinCI(NCBI NM001645)の配列から5‘末端プライマー(配列番号1)及び3’末端プライマー(配列番号2)を設計し、上記(1)で得た1本鎖cDNAを鋳型としたPCRを行った。これらのプライマーには後の発現ベクター構築のために、5‘末端プライマーについてはNdeI制限酵素サイト、3’末端プライマーについてはBamHI制限酵素サイトが付与されている。すなわち、KODplus(東洋紡社)1単位、添付の10×PCRバッファー5μLを用い、0.25μM 配列番号1及び配列番号2のオリゴヌクレオチド、0.2mM dNTPs、1.5mM MgSO、5% DMSOとなるように反応溶液を調製し、98℃ 1分の熱処理の後、94℃ 20秒、65℃ 90秒、72℃ 40秒のサーマルサイクルを30回、74℃ 5分の伸長反応を行った。次いで得られた反応産物をZero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(インビトロジェン社)を用い、添付のプロトコールにしたがってクローニングした。M13プライマーM4及びM13 プライマーRV(タカラバイオ社)を用いたシークエンス解析を行ったところ、クローニングされたDNA断片は配列番号3に示す配列であり、ヒトアポリポプロテインC−I遺伝子であることを確認した。
【0019】
B.発現ベクターの構築
図1に示すように、大腸菌由来lacプロモーター、チオレドキシン(Trx)、6Hisタグおよびトロンビン開裂ペプチドをコードするDNA配列を有するプラスミドpUC−Trxを調製し、他方、上記Aで構築したpTOPO−ApoCIを用い、それぞれのプラスミドから、lacプロモーター、チオレドキシン、6Hisタグおよびトロンビン開裂ペプチドをコードするDNA配列を含む断片と、ヒトアポリポプロテインC−IをコードするDNA配列を含む断片を得て、それら断片を連結することによって、目的とする組換えプラスミド発現ベクターpUC−Trx−ApoCIを構築した。同様にして、T7ファージ由来のT7プロモーターを含むpET−Trxから組換えプラスミド発現ベクターpET−Trx−ApoCIを構築した。
【0020】
(1)T7プロモーター、チオレドキシンをコードするDNA配列、6Hisタグおよびトロンビン開裂ペプチドを含むプラスミド(pET−Trx)の構築
pET24c(Novagen社)から、大腸菌由来のチオレドキシン(Trx)をコードするDNA配列、6Hisタグ(6His)およびトロンビン開裂ペプチド(Thrombin cleavage seq.)を含むチオレドキシンリージョンのDNA断片(366番目−692番目)を得るために、NcoI制限酵素サイトが付与されたチオレドキシン5’末端プライマー(配列番号4)、精製タグとなる6×ヒスチジン配列が付与された3’末端プライマー(配列番号5)によるPCRを行った。さらに得られる産物の3‘末端にトロンビンプロテアーゼ開裂配列、NdeI制限酵素サイトを付与するために3’末端プライマー(配列番号6)、発現ベクターへのクローニングのためのBamHI制限酵素サイトが付与された3‘末端プライマー(配列番号7)を設計しPCRによる伸長反応を行った。すなわち、KOD plus(東洋紡社)1単位、添付の10×PCRバッファー5μLを用い、0.25μM 配列番号4及び配列番号5のオリゴヌクレオチド、0.2mM dNTPs、1.5mM MgSO、5% DMSOとなるように反応溶液を調製し、98℃ 1分の熱処理の後、94℃ 20秒、65℃ 90秒、72℃ 40秒のサーマルサイクルを30回、74℃ 5分の伸長反応を行った。以下同様に、得られたPCR産物の1000分の1希釈溶液に対して、配列番号4及び配列番号6、次いで配列番号4及び配列番号7のオリゴヌクレオチドを用いたPCRを行った。最終的に得られたPCR産物をNcoI及びBamHIによって末端を処理し、同様に処理された、T7プロモーターを含むpET21d(+)との間でLigation− Convenience Kit(ニッポンジーン社)を用いライゲーション反応させ、T7プロモーター、Trx(配列番号8)、6Hisおよびトロンビン開裂ペプチドを含むpET−Trxを構築した。
【0021】
(2)lacプロモーター、チオレドキシンをコードするDNA配列、6Hisタグおよ
びトロンビン開裂ペプチドを含むプラスミド(pUC−Trx)の構築
HindIII制限酵素サイトが付与されたチオレドキシン5’末端プライマー(配列番号9)、EcoRI制限酵素サイトが付与された3’末端プライマー(配列番号10)を設計し、上記(1)で構築したpET−Trxを鋳型として、PCRを行った。すなわち、KOD plus(東洋紡社)1単位、添付の10×PCRバッファー5μLを用い、0.25μM 配列番号4及び配列番号5のオリゴヌクレオチド、0.2mM dNTPs、1.5mM MgSO、5% DMSOとなるように反応溶液を調製し、98℃ 1分の熱処理の後、94℃ 20秒、65℃ 90秒、72℃ 40秒のサーマルサイクルを30回、74℃ 5分の伸長反応を行った。次いで得られたPCR産物をHindIII及びEcoRIによって末端を処理し、チオレドキシンをコードするDNA配列、6Hisタグおよびトロンビン開裂ペプチドを含む断片を得、後のライゲーション反応に供した。
一方、lacプロモーターを含むpUC19のNdeI部位へ配列番号11に示すオリゴヌクレオチドを挿入した後に、これをHindIII及びEcoRIによって処理し、上記で得られたPCR産物とライゲーション反応を行い、pUC−Trxを構築した。
【0022】
(3)T7プロモーター制御によるヒトアポリポプロテインC−Iとチオレドキシン融合
蛋白質発現ベクター(pET−Trx−ApoCI)の構築
ヒトアポリポプロテインC−I遺伝子は、上記AのpTOPO−ApoCIプラスミドをNdeI及びBamHIで消化することにより切り出し、pET−TrxのNdeIとBamHI制限酵素サイトの間に挿入することでpET−Trx−ApoCIを構築した。pET−Trx−ApoCIの概略図は図1の右上にaとして示す。
(4)lacプロモーター制御によるヒトアポリポプロテインC−Iとチオレドキシン融
合タンパク質発現ベクター(pUC−Trx−ApoCI)の構築
上記(3)と同様、ヒトアポリポプロテインC−I遺伝子は、前述のpTOPO−ApoCIプラスミドをNdeI及びBamHIで消化することにより切り出し、pUC−TrxのNdeIとBamHI制限酵素サイトの間に挿入することでpUC−Trx−ApoCIを構築した。pUC−Trx−ApoCIの概略図を図1の右下にbとして示す。
【0023】
実施例2
組換えヒトアポリポプロテインC−Iの製造
実施例1で構築した組換え発現プラスミドを大腸菌に導入してヒトアポリポプロテインC−Iを製造した。
(1)ヒトアポリポプロテインC−IをコードするDNAを含む組換えプラスミドを含有
する形質転換体の調製
実施例1のBで構築したヒトアポリポプロテインC−IをコードするDNA配列を有する組換えプラスミドであるpET−Trx−ApoCI及びpUC−Trx−ApoCIを用いて、大腸菌を常法により形質転換した。pET−Trx−ApoCIにおいては、T7プロモーターが機能するB株のλDE3溶原菌BL21(DE3)またはC41(DE3)を形質転換してpET−Trx−ApoCI/BL21(DE3)及びpET−Trx−ApoCI/C41(DE3)を調製した。pUC−Trx−ApoCIにおいては、λDE3が組み込まれていないK12株JM109またはB株BL21を形質転換してpUC−Trx−ApoCI/JM109及びpUC−Trx−ApoCI/BL21を調製した。
各々の形質転換体は、LBプレート培地(ポリペプトン1%、酵母エキス0.5%、塩化ナトリウム1%、グルコース1%、カルベニシリン100μg/mL)上にて薬剤耐性によってスクリーニングし、生じたシングルコロニーをTB培地(ポリペプトン1.2%、酵母エキス2.4%、グリセロール0.4%、17mMリン酸二水素カリウム、72mMリン酸水素二カリウム、グルコース2%、カルベニシリン200μg/mL)に接種し、各プロモーターの誘導物質であるIPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトピラノシド)を対数増殖中期(培養液のOD600=0.4〜0.6)に添加、発現誘導を行った。培養液の遠心操作で得られる菌体ペレットを50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)中に懸濁し、超音波破砕を行った。この懸濁液の遠心操作によって得られる上清部分を可溶性画分とした。一方、沈殿部分は8M尿素、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中で再懸濁、可溶化を行った。この懸濁液の遠心操作によって得られる上清部分を不溶性画分とした。
【0024】
上記の各々の形質転換体の可溶性画分、不溶性画分についてNi sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を用いたバッチ法により、精製タグとなる6×ヒスチジン配列を含む組換えヒトアポリポプロテインC−Iのチオレドキシン融合蛋白質の検出を行った。添付のプロトコールに基づいて、Ni sepharose 6 Fast Flow レジンからの溶離液をトリシンSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Tricine−SDS−PAGE)によって解析した。結果を図2に示す。図2から分かるように、発現ベクターとして大腸菌由来のlacプロモーターを有するpUC−Trx−ApoCI/JM109及びpUC−Trx−ApoCI/BL21から得られる不溶性画分においてのみ、推定分子量20KDaを示す6×ヒスチジン配列を含む組換えヒトアポリポプロテインC−Iのチオレドキシン融合タンパク質のバンドがクマジーブリリアントブルー(CBB)染色によって確認できた。一方、以下に示すベクター及び大腸菌株の組み合わせにおいては、いずれも組換えヒトアポリポプロテインC−Iを含む蛋白質のバンドは確認できなかった。すなわち、T7プロモーターを有するpET−Trx−ApoCI/C41(DE3)、pET−Trx−ApoCI/BL21(DE3)、チオレドキシンを含まないpET−ApoCI/C41(DE3)、pET−ApoCI/BL21(DE3)、または、lacプロモーターを有しチオレドキシンを含まないpUC−ApoCI/JM109、pUC−ApoCI/BL21の組み合わせの場合、いずれも組換えヒトアポリポプロテインC−Iを含む蛋白質のバンドは確認できなかった。
【0025】
(2)組換えヒトアポリポプロテインC−Iの産生及び精製
上記TB培地(ポリペプトン1.2%、酵母エキス2.4%、グリセロール0.4%、17mMリン酸二水素カリウム、72mMリン酸水素二カリウム、グルコース2%、カルベニシリン200μg/mL)であらかじめ37℃で終夜培養したpUC−Trx−ApoCI/BL21の培養液30mLをオートクレーブ済みの3LのTB培地に接種し、培養器(丸菱バイオエンジ社)により37℃通気攪拌培養した。6時間培養後、1M IPTG(イソプロピルチオ−β−D−ガラクトピラノシド)を3mL添加し、さらに4時間37℃で通気攪拌培養を続けた。培養終了後全培養液を遠心分離によって集菌し、−20℃に凍結した。凍結した菌体ペレットを50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)300mL中に懸濁し、超音波破砕を行った。この懸濁液の遠心操作によって得られる上清部分を可溶性画分とした。一方、沈殿部分は8M尿素、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)300mL中で再懸濁、可溶化を行った。この懸濁液の遠心操作によって得られる上清部分を不溶性画分とした。
【0026】
不溶性画分からの組換えヒトアポリポプロテインC−Iの精製において、変性剤である尿素の除去は希釈、透析、脱塩カラム等の方法を用いることも可能であるが、本法では、アフィニティーカラム上での変性剤除去と変性タンパク質のリフォールディングを行った。すなわち、AKTA purifierクロマトグラフィーシステム(GEヘルスケア バイオサイエンス社)制御下、バッファー1(50mMリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム、4M尿素 pH7.8)で平衡化したHisTrapFF 5mLアフィニティーカラム(GEヘルスケア バイオサイエンス社)に上記不溶性画分サンプル50mLをアプライし、バッファー1で非結合画分を分離し、バッファー1をバッファー2(50mMリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム、20mMイミダゾールpH7.4)との間で100%→0%リニアグラジエントを行うことでカラム溶出液の尿素の除去を行った。次にバッファー2により溶出される画分を回収した後、バッファー3(50mMリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム、500mMイミダゾールpH7.4)との間で0→100%リニアグラジエントを行うことで、目的タンパク質を溶出させた。各溶出画分をトリシン−SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Tricine−SDS−PAGE)によって解析した。結果を図3に示した。図3から分かるように、バッファー2及び(3)溶出画分において、推定分子量20KDaを示す6×ヒスチジン配列を含む組換えヒトアポリポプロテインC−Iのチオレドキシン融合タンパク質のバンドがクマジーブリリアントブルー(CBB)染色によって確認できた。この段階で既に80%以上の純度を示す可溶性の6×ヒスチジン配列を含む組換えヒトアポリポプロテインC−Iのチオレドキシン融合蛋白質が得られた。
【0027】
続いて得られた精製組換え蛋白質からチオレドキシン及びヒスチジンタグを除去するために、トロンビンプロテアーゼを作用させた。すなわち基質である可溶性の6×ヒスチジン配列を含む組換えヒトアポリポプロテインC−Iのチオレドキシン融合タンパク質1mgあたり1Uのトロンビンプロテアーゼを作用させ室温で終夜インキュベートした。直ちにバッファー2(50mMリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム、20mMイミダゾールpH7.4)に対して透析を行った後、HisTrapFF 5mLアフィニティーカラム及びHiTrap Benzamidine FF 5mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社)にアプライし両者の素通り画分を回収した。さらに脱塩カラムによりバッファーをPBSに置換した後、濃縮することで精製組換えヒトアポリポプロテインC−Iを得た。
得られた精製組換えヒトアポリポプロテインC−Iは、トリシン−SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Tricine−SDS−PAGE)によって解析し、クマジーブリリアントブルー(CBB)染色によって純度95%以上であることを確認し、市販のヤギ抗ヒトヒトアポリポプロテインC−I抗体を用いたウェスタンブロッティングを常法にて行い、その抗原性を確認した。これらの結果は図4に示した。また組換えヒトアポリポプロテインC−Iの定量として、BSAを標準物質としたLowry法を行い、上記3L培養1バッチから3mg程度の組換えヒトアポリポプロテインC−Iが得られた。
【0028】
実施例3
組換えヒトアポリポプロテインC−Iを免疫原としたモノクローナル抗体の作製
免疫原を実施例3で得た精製組換えヒトアポリポプロテインC−Iとした場合とヒト血漿由来の精製天然アポリポプロテインC−Iとした場合とで、得られる抗体の性能を比較するために、両者をそれぞれ抗原としたモノクローナル抗体の作製を行った。以下に組換えヒトアポリポプロテインC−Iを免疫原としたモノクローナル抗体の作製について記載するが、ヒト血漿由来の精製天然アポリポプロテインC−Iについても同種マウスの別個体を用いて同様の操作を行った。
(1)精製組換えヒトアポリポプロテインC−Iによるマウスの免疫
精製組換えヒトアポリポプロテインC−Iを1mg/mLとなるようにPBS(pH 7.4)で調製し、等量のフロインド完全アジュバンド(和光純薬工業社)と乳化するまでよく混和した。調製した懸濁液50μLをBalb/c6週齢 雌マウス(日本クレアー社)にジエチルエーテル麻酔下にて腹腔内投与した。2週間後には同量の組換えヒトアポリポプロテインC−Iをフロインド不完全アジュバンド(和光純薬工業社)と混和してフロインド完全アジュバンドの時と全く同様の操作により乳化懸濁液とし、それぞれマウスに感作した。以降2週間後に同様の操作を行い、4回目には最終免疫として組換えヒトアポリポプロテインC−Iを1mg/mLとなるようにPBS(pH 7.4)で調製し50μLをマウス尾静脈注射により投与した。
【0029】
(2)ハイブリドーマの確立
最終免疫より3日後に組換えヒトアポリポプロテインC−Iにより感作済みのマウスよりジエチルエーテル麻酔下に外科的摘出された脾臓を無菌的に分散し脾臓細胞を調製した。融合はケーラーとミルスタインの方法(Nature.256,495.1975)に従って行われ、ポリエチレングリコール(PEG4000)(メルク社)を用いて脾細胞と骨髄腫細胞P3−X63−Ag8−U1(P3U1)を融合した。組換えヒトアポリポプロテインC−I融合時の融合比率は脾臓細胞数: 骨髄腫細胞P3U1=(2:1)〜(5:1)であった。融合細胞は10%FCS(インビトロジェン社)、α−MEM(IRVINE社)、HAT(コスモバイオ社)培地に分散し96穴マイクロタイターカルチャープレート(住友ベークライト社)に分注して37℃、5%CO2条件にて培養した。
(3)抗原プレート及びBSAプレートの作製
スクリーニング用抗原プレートとしては、ヒト血漿由来の精製天然ヒトアポリポプロテインC−I(native ApoC−I)を抗原として感作した。すなわち、ヒト血漿由来のヒトアポリポプロテインC−I(Athens Research & Technology社)をPBS(pH 7.4)に溶解し、1μg/100μL/wellとなるように96穴マイクロタイタープレート(Nunc社)に分注した。プレートを4℃で2晩静置した後に0.05%Tween 20(和光純薬工業社)を含むPBSで3回洗浄し、非特異的反応を抑えるために1.5%BSA(SIGMA社)及び10%サッカロース(和光純薬工業社)を含むブロッキング溶液を200μL分注して、更に4℃で1晩静置した。
さらに、BSAとの非特異的反応を調べるために、BSAプレートの作製も行った。すなわち、96穴マイクロタイタープレート(Nunc社)に抗原溶液を感作することなく1.5%BSA(SIGMA社)及び10%サッカロース(和光純薬工業社)を含むブロッキング溶液を200μL分注して、更に4℃で1晩静置した。
【0030】
(4)コロニーのスクリーニング
約2週間後にコロニーの生育を確認してスクリーニングを実施した。実施したスクリーニング方法を以下に述べる。
上記(3)で作製した抗原プレートを0.05%Tween 20(和光純薬工業社)を含むPBSで3回洗浄した後に、上記(2)で得られた3種類のハイブリドーマの培養上清100μLを反応させ、更に洗浄を行った後に2次抗体であるHRP標識抗マウスイムノグロブリン抗体(Zymed社)を加えて反応させた。洗浄後にHRPの発色基質である3mg/mL o−フェニレンジアミン(OPD)(ナカライ社)クエン酸発色溶液を100μL加えて一定時間の発色後、1N硫酸(和光純薬工業社)を停止液として更に100μL添加し、測定波長492nmにて吸光度を測定した。その結果を表1に示す。
表1に示すように、免疫原を精製組換えヒトアポリポプロテインC−I(組換えApoC−I)とした場合は組換えApoC−Iモノクロナーナル抗体3種類、免疫原をヒト血漿由来の精製天然アポリポプロテインC−I(天然ApoC−I)とした場合は天然ApoC−Iモノクロナーナル抗体3種類を得ることができたが、組換えApoC−Iモノクロナーナル抗体は、BSAとの非特異反応が少ないのに比べ、天然ApoC−Iモノクロナーナル抗体は、非特異的反応が大きいことが判明した。
【表1】

【0031】
上記で得られた組換えApoC−I抗体(クローン3)を産生するハイブリドーマ(Mouse−Mase hybridoma AMA−1)は、平成19年8月1日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受領番号としてFERM ABP−10889が付与されている。
【産業上の利用可能性】
【0032】
プロモーターとしてLacプロモーターなどの大腸菌由来のプロモーターを用い、宿主細胞として大腸菌を用いて、チオレドキンなどの水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質とアポリポプロテインとの融合蛋白質として発現させることにより、高純度の組換えアポリポプロテインが得られる。この方法により得られる高純度の組換えアポリポプロテインC−Iを抗原として用いて、アポリポプロテインC−Iに対する抗体を調製することにより、天然のアポリポプロテインC−Iに対して特異性の高い抗体を得ることができる。この抗体を用いて、検体中のアポリポプロテインC−Iを免疫学的測定法により、正確に測定することができ、従って、組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体を臨床検査薬として用いることにより、卒中、敗血症、腫瘍、心疾患、クローン病発病の可能性などを正確に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ヒトアポリポプロテインC−1とチオレドキンとの融合蛋白質を発現するための発現ベクターの構築を示す。
【図2】発現ベクターによって発現されたヒトアポリポプロテインC−1とチオレドキンとの融合蛋白質の検出結果を示す。
【図3】発現ベクターによって発現されたヒトアポリポプロテインC−1とチオレドキンとの融合蛋白質の、アフィニティークロマトグラフィーによるリフォールディングと精製結果を示す。
【図4】精製組換えヒトアポリポプロテインC−Iのトリシン−SDS−ポリアクリルアミド電気泳動およびウエスタンブロッティングの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸菌由来のプロモーター、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列およびアポリポプロテインをコードするDNA配列を有する組換えプラスミド発現ベクターを、大腸菌に導入し、導入された大腸菌を培養して、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質とアポリポプロテインとの融合蛋白質を発現させ、その融合蛋白質からアポリポプロテインを得ることを特徴とする組換えアポリポプロテインの製造方法。
【請求項2】
アポリポプロテインがアポリポプロテインC−Iまたはその変異体である請求項1の組換えアポリポプロテインの製造方法。
【請求項3】
水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質がチオレドキシンまたはその変異体である請求項1または2の組換えアポリポプロテインの製造方法。
【請求項4】
大腸菌由来のプロモーターがlacプロモーターまたはtacプロモーターである請求項1から3のいずれかの組換えアポリポプロテインの製造方法。
【請求項5】
組換えプラスミド発現ベクターが、更に、発現した融合蛋白質を精製するための精製ペプチドをコードするDNA配列を含む請求項1から4のいずれかの組換えアポリポプロテインの製造方法。
【請求項6】
組換えプラスミド発現ベクターが、更に、発現した融合蛋白質からアポリポプロテインを遊離させるためのプロテアーゼ開裂ペプチドをコードするDNA配列を含む請求項1から5のいずれかの組換えアポリポプロテインの製造方法。
【請求項7】
大腸菌由来のプロモーター、水溶性であって大腸菌で発現し得る蛋白質をコードするDNA配列およびアポリポプロテインをコードするDNA配列を有する組換えプラスミド発現ベクター。
【請求項8】
組換えアポリポプロテインC−Iまたはその変異体。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかの製造方法によって得られる請求項8の組換えアポリポプロテインC−Iまたはその変異体。
【請求項10】
請求項8または9の組換えアポリポプロテインC−Iを免疫源として哺乳動物に投与して得られる、組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体。
【請求項11】
天然アポリポプロテインC−Iを免疫源として哺乳動物に投与して得られる抗体に比べて、天然アポリポプロテインC−Iに対する特異性が高い請求項10の抗体。
【請求項12】
抗体がモノクローナル抗体である請求項10または11の抗体。
【請求項13】
請求項10から12のいずれかの組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体を用いて免疫測定法で検体中のアポリポプロテインC−Iを測定することを特徴とするアポリポプロテインC−Iの測定方法。
【請求項14】
請求項10から12のいずれかの組換えアポリポプロテインC−Iに対する抗体を含む、アポリポプロテインC−Iを測定するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−50227(P2009−50227A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222001(P2007−222001)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】