説明

組織再構築関連状態についての非侵襲性酵素スクリーニング

【課題】組織再構築関連疾患、例えば癌と診断された対象の生体試料において見出されるhMW MMPの分子同一性を特徴とし、かつそのような疾患の初期診断/予測を提供する。
【解決手段】組織再構築関連状態、例えば癌の診断および予測を非侵襲的にモニターするために、生物学的マーカー、例えば高分子量酵素複合体を検出するための方法およびキットを提供する。そのような方法に包含される組織再構築関連状態は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、関節炎状態、閉塞性状態、および潰瘍性状態などの疾患を含む。前記方法は、生物学的液体試料、例えば医学的訓練をしていない職員により得られうる尿試料を使用し、診療所または病院を訪れることを必要としない。陽性結果と組織再構築関連状態の発生との間の統計学的関係は、これらの状態の発生の初期診断、およびこれらの状態における変化の予測に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の詳細な説明]
関連出願
本出願は、2000年10月13日に出願された米国特許仮出願第60/240,489号の優先権を主張し、その内容は参照として本明細書に明白に組み入れられている。本出願はまた、1996年4月26日に出願された第08/639,373号(放棄)、米国特許第6,037,138号、および第09/469,637号(係属中)に関連し、それぞれの全内容は参照として本明細書に明白に組み入れられている。ヤン(Yan), L.ら、(2001)J. Biol. Chem. 276: 37258〜37265の内容は参照として本明細書に明白に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、その活性がZn++およびCa++などの金属イオンに依存する、エンドペプチダーゼのファミリーである。MMPは総じて、転移過程の一部として分解され、腫瘍細胞を正常周囲組織から隔離する障壁である、細胞外マトリクス(ECM)の全分子成分を分解できる(Lochter, A.ら、(1998)Ann N Y Acad Sci 857: 180〜93(非特許文献1))。様々な生物学的過程、および病理学的過程、特に腫瘍細胞の浸潤および転移において、MMPが重要な役割を果たすことが示されている(Kleiner, D. E. およびStetler-Stevenson, W. G.(1999)Cancer Chemother Pharmacol. 43: S42-51(非特許文献2))。腫瘍細胞または周辺間質細胞によるMMPの過剰生成は、転移性表現型と相互に関連している。特に、その内容が参照として本明細書に完全に組み入れられている米国特許第09/469,637号(特許文献1)は、生物学的活性のある無傷のMMPが癌患者の生体試料において検出されうり、かつこれが独立性の疾患状態の予測因子(predictor)であることを開示している。米国特許第09/469,637号(特許文献1)において検出されるMMP活性には、例えばMMP-9(92 kDa、ゼラチナーゼB、IV型コラゲナーゼ、EC 3.4.24.35)およびMMP-2(72 kDa、ゼラチナーゼA、IV型コラゲナーゼ、EC 3.4.24.24)を含む。これらのMMPの両方が、組織再構築関連状態、例えば癌の、独立した予測因子であることが示されている。これら2つの主なゼラチナーゼ種に加えて、150 kDaと同等、またはそれ以上の分子量をもついくつかのMMP活性が観察され、高分子量(hMW)MMPと呼ばれた。実験的腫瘍をもつ動物由来または癌患者由来の、血清、血漿、および尿を含む生物学的液体におけるMMPレベルの上昇は、その他のいくつかの研究においても報告されている(Nakajima, Mら、(1993)Cancer Res. 53: 5802〜7(非特許文献3); Zucker, S.ら、(1994)Ann N Y Acad Sci. 732: 248〜62(非特許文献4); Baker, T.ら、(1994)Br J Cancer. 70: 506〜12(非特許文献5); Garbisa, S.ら、(1992)Cancer Res. 52: 4548〜9、1992(非特許文献6))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第09/469,637号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lochter, A.ら、(1998)Ann N Y Acad Sci 857: 180〜93
【非特許文献2】Kleiner, D. E. およびStetler-Stevenson, W. G.(1999)Cancer Chemother Pharmacol. 43: S42-51
【非特許文献3】Nakajima, Mら、(1993)Cancer Res. 53: 5802〜7
【非特許文献4】Zucker, S.ら、(1994)Ann N Y Acad Sci. 732: 248〜62
【非特許文献5】Baker, T.ら、(1994)Br J Cancer. 70: 506〜12
【非特許文献6】Garbisa, S.ら、(1992)Cancer Res. 52: 4548〜9、1992
【発明の概要】
【0005】
癌治療の進歩に伴い、初期診断および/または予測が、疾患転帰にとってますます重要になってきている。従って本発明は、組織再構築関連疾患、例えば癌と診断された対象の生体試料において見出されるhMW MMPの分子同一性を特徴とし、かつそのような疾患の初期診断/予測を提供する。これらのhMW MMP、例えば高分子量酵素複合体の同定により、本発明は、癌などの組織再構築関連疾患を予想するための非侵襲性診断法および/または予測法の発達を促進する。
【0006】
本発明は、組織再構築関連状態、例えば癌の診断および予測を非侵襲的にモニターするために、生物学的マーカー、例えば高分子量酵素複合体を検出するための方法およびキットを提供する。そのような方法に包含される組織再構築関連状態は、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、関節炎状態、閉塞性状態、および潰瘍性状態などの疾患を含む。本発明の方法は、生物学的液体試料、例えば医学的訓練をしていない職員により得られうる尿試料を使用し、診療所または病院を訪れることを必要としない。陽性結果と組織再構築関連状態の発生との間の統計学的関係は、これらの状態の発生の初期診断、およびこれらの状態における変化の予測に適用される。
【0007】
一つの態様において、本発明は、組織再構築関連状態についての対象の診断を容易にするための非侵襲性方法を提供する。そのような方法は、対象から生体試料を得る段階、および生体試料において高分子量酵素複合体を検出する段階を含む。本方法は、高分子量酵素複合体の有無を組織再構築関連状態の有無と相関させ、それにより、組織再構築関連状態についての対象の診断を容易にする段階をさらに含む。
【0008】
もう一つの態様において、組織再構築関連状態は、癌、例えば器官限局性前立腺癌、転移性前立腺癌、上皮起源の、中胚葉起源の、内胚葉起源のまたは造血性起源の細胞に見出される癌、ならびに、神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、腎臓、尿生殖器官および胃腸管の癌からなる群より選択される癌である。もう一つの態様において、組織再構築関連状態は、関節炎状態、閉塞性状態、または変性状態である。
【0009】
さらにもう一つの態様において、高分子量酵素複合体は、プロテアーゼ、例えばセリンプロテアーゼ、例えばマトリクスメタロプロテイナーゼ、例えばMMP-9を含む。さらにもう一つの態様において、高分子量酵素複合体は、リポカリン、例えばNGAL、および/またはTIMP、例えばTIMP-1をさらに含む。
【0010】
さらにもう一つの態様において、高分子量酵素複合体は、自身と複合して多量体、例えば二量体または三量体を形成する酵素を含む。そのような多量体は、さらに、リポカリン、例えばNGAL、および/またはTIMP、例えばTIMP-1と複合しうる。
【0011】
またさらにもう一つの態様において、高分子量酵素複合体の分子量は、少なくとも約115 kDaから少なくとも約125 kDaである。もう一つの態様において、高分子量酵素複合体の分子量は少なくとも約150 kDaである。
【0012】
もう一つの態様において、本発明の方法は、対象から生体試料を得る段階、および生体試料中のリポカリンを検出する段階を含む。そのような方法は、リポカリンの有無を組織再構築関連状態の有無と相関させ、それにより、対象の組織再構築関連状態についての診断を容易にする段階をさらに含む。
【0013】
さらにもう一つの態様において、本発明は、組織再構築関連状態の診断および予測を容易にするためのキットを提供する。そのようなキットは、生体試料中の高分子量酵素複合体の検出用試薬、ならびに、組織再構築関連状態の診断および予測を容易にする、高分子量酵素複合体の検出用試薬を使用するための使用説明書を有する容器を含む。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、組織再構築関連状態(TRAC)、特に、癌、閉塞性および変性の状態、ならびに関節炎状態についての、対象の診断を容易にするための非侵襲性方法を特徴とする。対象由来の生体試料中の酵素複合体、例えば高分子量(hMW)酵素複合体のパターンの検出が、TRACの診断および予測を容易にするために用いられる。
【0015】
「高分子量酵素複合体」という用語は、別の分子に会合または結合した酵素を含み、ここで複合体は本発明のその意図された機能のとあめに用いられることを可能にする高分子量を有する。酵素複合体の例には、とりわけ、別の酵素に結合した酵素、酵素阻害剤に結合した酵素、および、タンパク質結合分子、例えばリポカリンに結合した酵素が含まれる。自身に結合した酵素、例えば多量体、例えば二量体および三量体を含む酵素複合体もまた、本発明に包含される。
【0016】
高分子量酵素複合体は、少なくとも約115 kDa、例えば少なくとも約120 kDa、例えば少なくとも約125 kDa、例えば少なくとも約130 kDa、例えば少なくとも約135 kDa、および、例えば少なくとも約140 kDaの分子量を有する、酵素複合体を含む。少なくとも約145 kDaの、例えば少なくとも約150 kDaの、および150 kDaを上回る分子量を有する高分子量酵素複合体もまた含まれる。
【0017】
列挙された値までの中間にある高分子量の値の範囲もまた、本発明の一部であることが意図され、例えば少なくとも約115 kDaから少なくとも約120 kDaまで、少なくとも約120 kDaから少なくとも約125 kDaまで、少なくとも約125 kDaから少なくとも約130 kDaまで、少なくとも約130 kDaから少なくとも約135 kDaまで、少なくとも約135 kDaから少なくとも約140 kDaまで、少なくとも約140 kDaから少なくとも約145 kDaまで、および少なくとも約145 kDaから少なくとも約150 kDaまでである。例えば、上限および/または下限として列挙された上記の値の任意の組み合わせを用いた高分子量値の範囲が含まれることが意図される。
【0018】
本発明の一つの態様において、高分子量酵素複合体は分子量115 kDaではない。もう一つの態様において、高分子量酵素複合体はNGALを含まない。もう一つの態様において、高分子量酵素複合体は、プロゼラチナーゼB酵素を含まない。本発明のさらにもう一つの態様において、高分子量酵素複合体は、NGALに会合したプロゼラチナーゼB酵素を含まない。
【0019】
「酵素」という用語は当技術分野に認識され、かつ化学反応のタンパク質触媒を含む。酵素は、無傷の酵素全体またはその一部もしくは断片でありうる。本発明の酵素複合体に包含される酵素は、触媒的にタンパク質を分解する天然酵素、すなわち、プロテアーゼまたはプロテイナーゼとして公知の酵素を含む。プロテイナーゼとは、その反応が進行して重大な分解が達成される、N末端またはC末端のいずれかからアミノ酸残基を除去することによりタンパク質を消化する進行性エキソペプチダーゼを意味し、または、残基特異性の程度が異なるアミノ酸残基間のアミド結合を破壊するエンドペプチダーゼを意味する。「プロテアーゼ」という用語はまた、タンパク質のN末端またはC末端から単一のアミノ酸を除去する高特異的アミノ酸ペプチダーゼも含みうる。例として、アラニンアミノペプチダーゼ(EC 3.4.11.2)およびロイシンアミノペプチダーゼ(EC 3.4.11.1)が含まれ、これらはアラニンおよびロイシンをもちうるタンパク質のアミノ末端から、アラニンまたはロイシンをそれぞれ除去する。本発明の酵素複合体を含む酵素の分子量には、これに限定されるわけではないが、約72 kDa、約92 kDa、約115 kDa〜約125 kDaおよび約150 kDaまたはそれ以上の範囲の分子量が含まれる。「酵素」という用語は、ヒト個体群内で天然に見出されるサイレントな突然変異である、多型変異体を含む。
【0020】
一つの態様において、本発明の酵素複合体は、プロテアーゼまたはプロテイナーゼを含む。プロテアーゼという用語(およびその等価的用語であるプロテイナーゼ)は、基質の分子量を実質的に減少でき、かつ、特に基質のその生物学的機能がマトリクス障壁の構造的成分であるべき場合に、その生物学的機能を破壊できる、それらのエンドペプチダーゼおよび進行性エキソペプチダーゼを含むことが意図される。アラニンアミノペプチダーゼおよびロイシンアミノペプチダーゼなどのアミノ酸ペプチダーゼもまた広義にはプロテアーゼに含まれるが、基質タンパク質の分子量を有意に減少させる性質を共有しない。
【0021】
数千のプロテアーゼが天然に存在し、かつそれぞれが、成長の別々の時点においてかつ生物内の別々の場所に現れうる。本明細書における発明は、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP、クラスEC 3.4.24)クラスの酵素を特徴とする。これらの酵素は活性のため二価の陽イオンを必要とし、通常、胚発生初期、例えば透明帯からの接合子の孵化の際、および、子宮壁の内側に発育胚が接着する過程の際に再度発現される。N-アセチルグルコサミニダーゼ(EC 3.2.1.50)などの酵素活性は、例えば糖尿病による、尿細管障害の場合に、尿中で見られる(Carr, M.(1994)J. Urol. 151(2): 442〜445; Jones, A.ら、(1995)Annals. Clin. Biochem.、32: 68〜62)。これらの活性が尿細管障害の結果として尿中で見られるということは、本明細書記載の本発明には関連がない。
【0022】
「マトリクス消化酵素」という用語は、マトリクス、例えば特定の細胞型が見出される組織において層を構成するタンパク質およびプロテオグリカンの混合物などを消化または分解できる酵素を含む。マトリクス消化酵素は、正常な胚形成段階、妊娠、および組織再構築を伴うその他の過程の際に発現する。さらに、これらの酵素のいくつか、例えばマトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)のいくつかは、腫瘍細胞の転移に対する物理的障壁として働く実質性かつ血管性の基底膜の巨大な細胞外マトリクスタンパク質を分解する。これらのMMPは特定の癌内で生成され、転移に関連する(Liotta, L. A.ら、(1991)Cell 64: 327〜336)。MMPの例には、IV型コラゲナーゼ、例えばMMP-2(ゼラチナーゼA、EC 3.4.24.24)およびMMP-9(ゼラチナーゼB、3.4.24.35)、ならびにストロメリシン(EC 3.4.24.17および3.4.24.22)が含まれる。メタロプロテイナーゼの組織阻害剤(tissue inhibitors of metalloproteinases;TIMP)(Woessner, J.F., Jr.(1995)Ann. New York Acad. Sci.、732: 11〜21)と呼ばれる、同じく腫瘍細胞により過剰生成されうる分子により、いくつかのMMPは特異的に阻害されるが、特定の条件下では酵素活性はTIMPよりもモル過剰である(Freeman, M. R.ら、(1993)J. Urol. 149: 659; Lu, X.ら、(1991)Cancer Res. 51: 6231〜6235; Kossakowska, A. E.ら、(1991)Blood 77: 2475〜2481)。従って、本発明の一つの態様において、本方法の酵素複合体は、酵素の阻害剤(TIMP、例えばTIMP-1またはTIMP-2)を含む。阻害剤の検出は、当技術分野により認識される技術を用いて達成されうる。MMPの多くは酵素前駆体として翻訳され、小型(45 kDa、55 kDa、62 kDa)から大型(72 kDa、82 kDa、92 kDa、ならびに150 kDaおよびそれ以上の高重合体)を含む範囲の分子量をもつ様々な構造として見出されうる。
【0023】
本発明のもう一つの態様において、高分子量酵素複合体は、タンパク質結合分子、例えばリポカリンを含む。リポカリンは、小さな疎水性分子と結合して分子複合体を形成する、小さな分泌タンパク質である。リポカリンは免疫応答の調節を含む様々な機能に関係しており、例えばリポカリンはインビトロで特定の免疫調節効果を発揮できる。好中球リポカリンはヒト好中球ゼラチナーゼ(IV型コラゲナーゼ)に共有結合的に結合し、それにより好中球ゼラチナーゼ結合リポカリン(NGAL)を形成することが示されている(Treibelら(1992)、およびKjelsenら(1993))が、タンパク質のほとんどが非複合型で分泌されている。この著者らは、ゼラチナーゼの作用におけるNGALに関する調節的役割を述べている。
【0024】
もう一つの態様において、本発明は、リポカリン、例えばNGALを、TRACの指標として検出する方法を含む。そのようなリポカリンは、単離されたリポカリンとして、またはリポカリン多量体、例えば二量体および三量体として、生体試料中で検出されうる。
【0025】
本発明の方法によりモニターされうる組織再構築状態は、様々な種類の癌を含む。そのうえ、本酵素は、関節炎、変性状態、および閉塞性状態のようなその他の組織再構築状態の診断用に適している。本発明は、生物学的液体中の酵素複合体、例えばhMW酵素複合体についてのアッセイによりこれらの状態を診断するための、非侵襲性方法を提供する。
【0026】
本発明の方法は、癌の診断および予測のための、尿中の酵素の検出を具体化する。本発明はまた、転移性前立腺癌の診断および予測に関する。本発明の方法による診断に適した多様な癌の中には、上皮起源の癌が含まれ、例えば上皮起源の細胞に形成される、神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、膵臓、尿生殖器官、卵巣、子宮および膣の癌、ならびに胃腸管癌の癌が含まれる。本明細書に記載される方法を用いて、中胚葉起源および内胚葉起源の癌、例えば骨または造血細胞に発生する癌もまた、診断される。
【0027】
本明細書で用いられる「対象」という用語には、ある状態について、特に下記で定義されているような「組織再構築関連状態」について、診断もしくは予知の必要がある、またはこれに感受性の高い、生きている動物またはヒトが含まれる。対象とは、対象が癌および関節炎に対して感受性の高いようないくつかの環境下において、成長因子などの組織再構築シグナルに応答できる生物体である。一つの態様において、対象とは、ヒトならびに、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラットおよびマウスなどの非ヒト哺乳動物を含む、哺乳動物である。一つの態様において、対象とはヒトである。「対象」という用語は、組織再構築関連状態に関して完全に正常である個体、またはあらゆる点において正常である個体を除外しない。対象は、以前に外科的にまたは化学療法により治療されたことがあってもよく、およびホルモン療法により治療中であってもよく、または過去にホルモン療法により治療されたことがあってもよい。
【0028】
本明細書で用いられる「患者」という用語は、1つまたは複数の診断を示唆する特定の症状のために臨床的状況下にあるヒト対象を含む。患者は、当技術分野の医学的開業医に公知の臨床的手順によるさらなる分類を必要としてもよい(またはさらなる疾患徴候をもたず、いくつかまたはあらゆる点において正常であるように思われる可能性がある)。自然に、または治療的養生もしくは処置の経過の間のいずれかにおける、さらなる疾患症状の発生または疾患の緩解などの疾患進行の経過の間に、患者の診断が変化する可能性がある。このように、「診断」という用語は、どの特定の患者または対象についても、より初期またはより後期の異なる診断を除外しない。「予知」という用語は、対象または患者が生体試料中、例えば尿中の1つまたは複数の酵素の存在に関連するかまたはそれによりより示されるような状態を発病する見込みの評価を含む。
【0029】
「生体試料」という用語は、対象から得られる生体試料を含む。そのような試料の例には、尿、指の刺傷または静脈などその他の供給源から採取された血液、血清および血漿などの血液画分、糞便や糞便材料と抽出物、唾液、脳脊髄液、羊水、粘液、ならびに、頬スミア(smear)、Papスミア、細針吸引、胸骨穿刺などの細胞および組織材料、ならびに、標準医学的手順および開放性外科的手順の際に採取された任意のその他の生検材料を含む。
【0030】
転移性癌(Darnell, J.(1990)「分子細胞生物学(Molecular Cell Biology)」、第3版、W. H. Freeman、NY)に関連して本明細書で用いられる「侵襲性(invasuveness)」という用語は、医学的手順を記載するための「侵襲性の(invasive)」という用語の使用とは性質が異なり、その区別は文脈においてなされる。医学的手順についての「侵襲性の」という用語は、特定の手順が身体の完全性を中断する程度に関係する。「侵襲性」という用語は、尿または唾液の採集のような完全な非侵襲性から、中程度の侵襲性まで、例えば臨床的状況において訓練された職員を必要とする、Papスミア、頬掻爬または血液検査;胸骨髄採集または脊髄穿刺のようなより侵襲性まで、例えば脳手術、肺手術、または前立腺癌の場合の経尿道の切除術の際に採取された生検材料により腫瘍の大きさおよび性質を検出するための開放手術のような大規模な侵襲性までに及ぶ。
【0031】
癌または新形成は、調節解除された細胞増殖および分裂を特徴とする。内胚葉または外胚葉を起源とする組織において発生した腫瘍は癌腫(carcinoma) と呼ばれ、中胚葉を起源とする組織において発生したものは肉腫として知られている(Darnell, J.(1990)「分子細胞生物学(Molecular Cell Biology)」、第3版、W. H. Freeman、NY)。腫瘍の起源に関する機構の最新モデルは、発癌遺伝子として知られている遺伝子における突然変異による、または第二癌抑制遺伝子の非活性化によるものである(Weinberg, R. A.(1988年9月)Scientific Amer. 44〜51)。これまで同定された発癌遺伝子は、体細胞においてのみ発生し、従って、これらの効果を宿主動物の生殖系へ伝えることはできなかった。対照的に、癌抑制遺伝子における突然変異は、生殖系細胞において同定されうり、従って、動物の子孫へ伝えることができる。癌の例には、神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、膵臓、尿生殖器官、胃腸管の癌、骨癌、ならびに白血病およびリンパ腫などの造血性起源の癌を含む。本発明の一つの態様において、癌とは膀胱癌ではない。
【0032】
慢性である場合、疾患が膠原性構造の崩壊に特徴付けられるため、リウマチ様関節炎などの関節炎状態とは、TRACの例である(J. Ortenら、(1982)「人間の生化学(Human Biochemistry)」、第10版、C. V. Mosby、St. Louis、MO)。過剰のコラゲナーゼは、増殖する滑膜の細胞により生成される。潰瘍性疾患、閉塞性疾患および変性疾患などのその他のTRAC状態は、同様に、構造的タンパク質代謝の酵素における変化を特徴とする。
【0033】
「電気泳動」という用語は、一般的に紙、デンプンゲル、またはポリアクリルアミドなどの不活性の支持系を使用する、電場における分子の任意の分離系を指すために用いられる。ポリアクリルアミドゲルおよびドデシル硫酸ナトリウム変性界面活性剤を用いた電気泳動法は、下記の実施例に記載されている。プロトコールは、当業者に公知の等価の手順を除外することを意図したものではない。当業者に公知のその他のSDSポリアクリルアミド手順を使用してもよく、例えば10%などの単一のポリアクリルアミド濃度は、分離ゲル中での勾配の代わりとなりうる。電気泳動マトリクスについての物理的支持体は、ガラスのプレートよりむしろ、キャピラリーチューブでありうる。いくつかのSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動システムの詳細は、多くの概説論文およびバイオテクノロジーのマニュアルに記載されている(例えば、Maniatis, T.、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、第2版、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N. Y.)。SDSおよびその他の界面活性剤を用いる方法に限定されない。さらに、界面活性剤非存在下での電気泳動も使用されうる。タンパク質は、非変性条件下で、例えばポリアクリルアミドマトリクス上の尿素の存在下で(Maniatis、前出)、または電荷により、例えば等電点電気泳動の手順により、分離されうる。
【0034】
酵素の分離のために電気泳動技術を使用する場合、電気泳動図はザイモグラムとして展開されうる。本明細書における「ザイモグラフィー」という用語は、分離系のマトリクスを酵素活性を可能にする条件に曝し、続いて検出にかけることによる、電気泳動後に酵素の検出を可能にする、化学的に不活性な分離系または支持マトリクスを利用する任意の分離系を含むことを意味する。より狭義には、ザイモグラフィーという用語は、電気泳動停止後にマトリクスを活性条件に曝すことにより、活性酵素の正確な位置および従って、移動度を可視化するシステムが得られるように、不活性のマトリクスへ関心対象の酵素に関する適切な基質を組み込むことを示す。当業者に周知の技術により、タンパク質の分子量は、ザイモグラム上の位置から導かれる移動度に基づいて計算される。そのような技術は、その移動度が一般的なタンパク質染色からまたはそれらの標準に固有のプレステイン(pre-stains)から測定されるような、分子量標準との比較、および、ザイモグラム技術、すなわち酵素活性により可視化されている、関心対象の精製単離酵素の陽性対照との比較を含む。
【0035】
特に、ザイモグラフィーによるプロテアーゼの検出のための基質は、電気泳動マトリクス中に含まれる。IV型コラゲナーゼについて、天然の基質はIV型コラーゲンであり、ゼラチン、I型コラーゲン誘導体は、本明細書に示される実施例においてザイモグラフィーの基質として使用される。しかしながら、TRAC診断において関心対象のさらなるプロテアーゼの検出に適しているその他のタンパク質には、例えばフィブロネクチン;ビトロネクチン;I型からIII型までおよびV型からXII型までのコラーゲン;プロコラーゲン;エラスチン;ラミニン;プラスミン;プラスミノーゲン;エンタクチン;ニドゲン;シンデカン;テネイシン;ならびに、ヒアルロン酸、コンドロイチン-6-硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、およびデルマタン硫酸およびヘパリンなどの糖で置換された硫酸化プロテオグリカンが含まれる。さらに、カゼインなどの便利で安価な基質タンパク質は、関心対象のプロテアーゼの天然の標的でない可能性があるが、技術的には適しており、本発明のザイモグラフィー技術の適切な基質成分として含まれる。天然タンパク質基質の化学的に合成された模倣体もまた潜在的ザイモグラフィー基質であり、酵素的切断の際に色または蛍光の変化を生じるための色素生産能力または蛍光発生能力などの好適な性質を有するようにさえ設計されうる。
【0036】
ザイモグラフィーは、生体試料におけるプロテアーゼ阻害剤の検出にも適応されうる。TIMP-1およびTIMP-2などの様々な天然のMMP阻害剤が合成されており、かつTRAC状況下では調節解除されることが見出されているため、本発明は、酵素阻害剤、例えばTIMPを含む酵素複合体の検出を含む。したがって、例えばそれに対する酵素阻害活性が測定されるような「レポーター酵素」を、対象および患者より得られた各生体試料と共に、試料の1つまたは複数のアリコートに対応する1つまたは複数の量で、電気泳動前にインキュベートしてもよい。この酵素は、生体試料のアリコートの1つからは省略される。試料中の阻害性の存在は、展開されたザイモグラムからのレポーター酵素バンドの消失または減少として検出される。または、反応混合物中に既知のレベルの活性酵素を含み、推定の阻害活性をもつ試験的試料のアリコートが添加される、機能的酵素活性アッセイにより、阻害剤の存在が検出されうる。
【0037】
さらに、組織再構築酵素は、タンパク質分解活性を超える酵素活性まで達する。例えば、グリコシル、リン酸、硫酸、脂質およびヌクレオチド残基(例えば、アデニル)などの残基で置換されている酵素は、当業者によく知られている。これらの残基は次に、他の酵素、例えばグリコシダーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、アデニルトランスフェラーゼなどにより、付加または除去される。TRACの診断および予測のためのそのような活性の存在について便利な検出方法は当業者により容易に開発され、本明細書において本発明の一部を構成することが意図されている。
【0038】
本明細書の実施例において記載されているザイモグラムは、タンパク質の一般的な染色、この場合はクーマシーブルー色素の使用により展開されている。展開は、一般的なタンパク質染色、例えばアミドブラック色素、およびSYPROオレンジ染色(Biorad Laboratories、Hercules、CA94537)により可能である。染色されたマトリクスにおける消化の透明帯を超える追加的な技術、例えば放射性標識された基質による放射能領域の非存在、放射性標識された基質の移動度における変化、または、蛍光発生的もしくは色素生産性基質の使用で、それぞれ、蛍光もしくは色の展開のバンドの非存在もしくは移動度変化により、酵素活性はさらに検出されうる。
【0039】
モレキュラーダイナミックスホスフォイメージャー(燐光体画像装置)(Molecular Dynamics phosphorimager)(Molecular Dynamics、928 East Arques Ave.、サニーヴェール、CA 94086)の活性化プレート上にゲルを直接置くことによるザイモグラムにより、または8ビットのビデオカードおよびマックイメージ(McImage)を備え付けたマッキントッシュコンピューターへ連結されたデータコピーG8プレートスキャナー(Datacopy G8 plate scanner)(Xerox Imaging Systems)を用いて定量的濃度測定を行うことができる。バックグラウンドの測定については、試料レーンと分離されたゲル領域が同様にスキャンされうり、値は、酵素活性についての読みとり値から差し引かれる。
【0040】
特定のタンパク質の存在についての生体試料の分析のためのもう一つの電気泳動に基づく技術とは、親和性に基づく移動度変化システムである(Lander, A.(1991)Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、88(7): 2768〜2772)。MMPまたは関心対象のその他の種類の酵素は、例えばその酵素に本質的に不可逆的に結合し、それゆえ移動度を減少させるような基質類似体の包含により、検出されうる。親和性物質の非存在下での移動度に対する移動度の変化の結果として関心対象の酵素の検出を行うため、親和性物質は電気泳動の間存在し、かつマトリクスへ組み込まれている。タンパク質が電場において移動しないと考えられるようなpH、またはpIと呼ばれる等電点が、任意のタンパク質種に関して存在するため、電気泳動的タンパク質分離のさらにもう一つの技術は、緩衝液のpHの機能としてのタンパク質の内在的電荷に基づく。尿試料などの生体試料のタンパク質は等電点電気泳動により分離されうり、その後、酵素活性についてのアッセイにより、例えば基質をもつ材料への移動により、すなわち、ザイモグラフィーにより展開されうる。電気泳動は、免疫学的検出の基盤として用いられることが多く、ここで、分離段階に続いて、紙またはナイロンなどの不活性支持体へのタンパク質の物理的または電気泳動的な移動を行い(「ブロット」として知られる)、その後、ブロットされたタンパク質パターンは、抗体による特異的一次結合の使用(ウエスタンブロット)およびその後の西洋ワサビペルオキシダーゼなどの検出酵素に結合した二次抗体による結合した抗体の展開により、検出されうる。なお、TRAC酵素複合体についての追加的な免疫学的検出系は、下記に詳細に記載されている。
【0041】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、本発明の方法およびキットにおける成分の一つとの特異的反応性も有する抗体の断片を含むことが意図されている。抗体は、従来技術を用いて断片化されうり、断片は、上記と同じ様式での利用のために抗体全体についてスクリーニングされうる。例えば、F(ab)2断片は、ペプシンで抗体を処理することにより作成されうる。その結果生じたF(ab)2断片は、ジスルフィド架橋を還元するように処理されてFab断片を生じうる。「抗体」という用語はさらに、単鎖、二重特異性分子およびキメラ分子を含むことが意図される。「抗体」という用語は、本出願の必要性により、標的に対するモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体(Ab)両方の可能な使用を含む。
【0042】
ポリクローナル抗体は、動物、例えばウサギまたはヤギを、関心対象の抗原の精製型、または少なくとも1つの抗原性部位を含む抗原断片で免疫することにより得られうる。特定の免疫化スケジュールの使用などの動物の最適な免疫化を得るための条件、および、例えばフロイントアジュバントなどのアジュバント、または例えばキーホールリンペットヘモシアニンなどの抗原に共有結合的に付着される免疫原性置換基を使用して血清中の抗体力価の収率を高めることは、当業者によく知られている。モノクローナル抗体は、当業者に周知の手順により調製され、この手順は抗原または最小限の抗原決定基を含む抗原断片で免疫された動物、例えばマウスから、抗体産生リンパ球のクローン、すなわち、単細胞系単離物由来の細胞系を得る段階、および、不死化された高収量細胞系を産生するためにクローンを骨髄腫細胞系と融合させる段階を含む。多数のモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の調製物が市販されており、かつ抗原の精製、動物の免疫、動物の維持および飼育、血清およびIgG画分の精製における、またはモノクローナル抗体産生細胞系の選択および融合のための、専門技術を提供する商業的サービス会社が、利用可能である。
【0043】
抗体の代わりに使用されうる特定の高親和性結合タンパク質は、当業者に公知の方法に従って作製されうる。例えば、特定のDNA配列に結合するタンパク質を設計することができ(Ladner, R. C.ら、米国特許第5,096,815号)、かつ、様々な他の標的、特にタンパク質標的に結合するタンパク質(Ladner, R. C.ら、米国特許第5,233,409号;Ladner, R. C.ら、米国特許第5,403,484号)を設計することができ、本発明において、放射性核種をもつ複合体が穏やかな条件下で形成されるようにするために、キレート分子への共有結合のために使用することができる。抗体および結合タンパク質は、例えばマルチウェルプレートアッセイ法において表面上での、またはカラム精製に関しては粒子上での、本発明の組成物の固定化を必要する大規模な診断またはアッセイ法プロトコールへ組み入れられうる。
【0044】
様々な免疫測定法を行うのに用いられる一般的技術は、当業者に知られている。さらにこれらの手順の一般的記述は、米国特許第5,051,361号において提供され、参照としておよび当業者に公知の手順として本明細書に組み入れられており、かつ、当技術分野のマニュアルにおいて記載されている(Ishikawa, E.ら、(1988)「酵素免疫学的検定法(Enzyme Immunoassay)」、医学書院、東京、NY; Hallow, E.およびD. Lane、「抗体:実験マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」、CSH Press、NY)。いくつかの免疫測定法が与えられるかどうかの例を本明細書において考察する。
【0045】
放射性標識されたリガンド、例えば3Hまたは14Cまたは125Iで直接標識された抗原を利用する放射線免疫測定法(RIA)は、抗原性物質としてMMPの存在を測定する。一定量の標識化MMP抗原は、試料由来の非標識化抗原と、限られた数の抗体結合部位について競合する。標識化抗原-抗体の結合複合体を、未結合(遊離)抗原から分離した後、結合画分、もしくは遊離画分、または両方における放射能を適当な放射線計数装置で測定する。結合した標識化抗原の濃度は、試料中に存在する非標識化抗原の濃度に逆比例する。MMPに対する抗体は、溶液の状態であってよく、遊離抗原MMPと結合抗原MMPの分離は、木炭などの薬剤、または免疫グロブリンがMMPに対する抗体を含む動物種に特異的な二次抗体を用いて達成されうる。または、MMPに対する抗体が、不溶性材料の表面に付着されうり、この場合、結合MMPと遊離MMPの分離は適切な洗浄により行われる。
【0046】
免疫放射線測定法(IRMA)は、抗体試薬が放射性標識されている免疫測定法である。IRMAは、タンパク質、例えばウサギ血清アルブミン(RSA)への結合などの技術による、多価MMP結合体の生成を必要とする。多価MMP結合体は、分子あたり少なくとも2個のMMP残基を有しなければならず、かつMMP残基は、少なくとも2個の抗体がMMPに結合することができる位十分な距離を隔てていなければならない。例えば、IRMAにおいて、多価MMP結合体は、プラスチック球などの固体表面に付着されうる。標識されていない「試料」MMPおよび放射性標識されたMMPに対する抗体を多価MMP結合体でコーティングされた球を含む試験管へ添加する。試料中のMMPは、多価MMP結合体と、MMP抗体結合部位について競合する。適当なインキュベーション期間後、結合していない反応物を洗浄により除去して、固相上の放射能の量を測定する。結合した放射性抗体の量は、試料中のMMPの濃度に逆比例している。
【0047】
その他の免疫測定法技術は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、ウレアーゼ、およびβ-ガラクトシダーゼなどの酵素標識を使用する。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼへ結合されたMMPは、遊離試料MMPと、マイクロタイタープレートなどの固体表面に付着されたMMPに対する抗体上に存在する限られた数の抗体結合部位について競合する。MMP抗体は、例えばMMPをウサギ血清アルブミン(RSA)などの血清タンパク質と結合することにより調製される多価MMP結合体でマイクロタイタープレートを最初にコーティングすること(コーティング抗原)により、マイクロタイタープレートへ直接的にまたは間接的に付着されうる。未結合標識化MMPから結合した標識化MMPの分離後、結合した画分における酵素活性は、西洋ワサビペルオキシダーゼ色素生産性基質の添加後一定の期間において、例えばマルチウェルマイクロタイタープレートリーダーにより、比色定量的に測定される。
【0048】
または、マイクロタイタープレートまたはポリスチレンビーズなどの表面に付着された抗体を、生体試料のアリコートとインキュベートする。液体中に存在するMMPは、抗体に、MMP濃度およびその二者間の結合定数依存性の様式で結合すると考えられる。洗浄後、抗体/MMP複合体を、MMPへ2つの抗体を同時結合することにおける立体障害とならないように、MMP特異的抗体結合部位から十分遠位のMMP上の様々なエピトープに特異的な二次抗体と、インキュベートする。例えば、二次抗体は、酵素前駆体配列の部分に特異的でありうる。二次抗体は、放射性同位元素、蛍光化合物、または共有結合された酵素などの、検出に適した様式で標識されうる。未結合二次抗体を洗い流した後の結合した標識化二次抗体の量は、生体試料に存在するMMPの量に比例している。
【0049】
免疫測定法の上記の例では、放射能でおよび酵素的に標識されたトレーサーの使用を記載している。アッセイ法はまた、フルオレセインおよびその類似体、5-ジメチルアミノナフタレン-1-スルホニル誘導体、ローダミンおよびその類似体、クマリン類似体、ならびにアロフィコシアニンおよびR-フィコエリトリンなどのフィコビリプロテイン(phycobiliprotein)などの蛍光物質;エリトロシンおよびユーロピウムなどのリン光性物質;ルミノールおよびルシフェリンなどの発光物質;ならびに、金および有機色素などのゾルの使用を含みうる。本発明の態様の一つにおいて、生体試料は、低分子量混入物を除去するために処理される。
【0050】
本発明の一つの態様において、生体試料は、低分子量混入物を除去するために、例えば透析により処理される。「透析」という用語は、本発明において、低分子量混入物から試料中の酵素を分離する任意の技術を含む。本実施例は、分子量カットオフ値(MWCO)3,500のSpectra/Por膜透析管を使用するが、MWCOレベルの異なる他の製品も機能的に等価である。他の製品は、例えば大容量のための再生セルロース繊維(MWCO 6,000または9,000)からなる中空繊維濃縮システム、試料サイズ1 ml〜5 ml間の複合型透析装置、ならびに96ウェルプレート中の試料用に便利であり、かつMWCO 5,000、8,000および10,000の複合型微小透析装置を含む。これらの装置は、PGCサイエンティフィック(PGC Scientific)、ゲーサーズバーグ(Gaithersburg)、MD、20898から入手可能である。複合型透析ユニットの有用性を、および特に、これが関連研究室および診療所用のキットに適していることを、当業者は理解すると考えられる。その他等価の技術には、低分子量物質の除去に適した樹脂または樹脂混合物を有するカラムを介した通過が含まれる。BioGel(BioRad、Hercules、CA)およびSepharose(Pharmacia、Piscataway、NJ)ならびにその他の樹脂は、当業者に公知である。透析技術、または同様の機能をもつ等価技術は、生体試料から低分子量混入物を除去することを意図している。本発明の必須の成分ではないが、そのような混入物の除去段階は、生体試料中の疾患関連酵素の検出を容易にする。
【0051】
本発明はさらに、以下の実施例により説明されるが、さらなる限定として解釈されるべきではない。本出願全体で引用された、すべての参照、係属中の特許出願および公開された特許の内容は、本明細書に参照として明白に組み入れられる。
【0052】
実施例
以下の材料および方法は、後述の実施例を通じて用いられたものである。
【0053】
材料および方法
尿試料の採集および調製-
尿試料採集は、その内容が参照として完全に本明細書に組み入れられている、モーゼズ(Moses), M. A.ら、(1998)Cancer Res. 58: 1395〜9に記載されているように行われた。試料は、採集後直ちに凍結され、アッセイまで-20℃で凍結保存された。分析の前に、血液または白血球を含む検体は、Multistix 9 Urinalysis Strips(Bayer、Elkhart、IN)を使用して血液および白血球の存在について試験することにより除外された。尿試料のクレアチン濃度は、市販のキット(Sigma Chemical Co.、St. Louis、MO)を用い、製造会社の使用説明書に従って測定された。
【0054】
基質ゲル電気泳動-
基質ゲル電気泳動は、以前に記載された米国特許第09/469,637号に基づき改変を加えて行われた。最初の尿試料(50 μl)を非還元試料緩衝液[4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.15 M トリス pH 6.8、20%v/v グリセロール、および0.5%v/v ブロモフェノールブルー]と混合し、0.1%ゼラチンを含む10%ポリアクリルアミドゲル(Bio-Rad、Hercules、CA)上で分離した。電気泳動後、ゲルを2.5%Triton X-100で2回洗浄した(各洗浄あたり15分間)。ゲルを5 mM CaCl2、1 μM ZnCl2、1%Triton X-100および0.02%NaN3を含む50 mM トリス-HCl(pH 7.6)中、37℃で24時間インキュベートすることにより、基質消化を行った。ゲルを0.1%クーマシーブリリアントブルーR250(Bio-Rad、Hercules、CA)で染色し、ゼラチン分解活性の位置を均一な青色染色のバックグラウンド上に透明なバンドとして検出した。
【0055】
タンパク質電気泳動およびウエスタンブロット分析-
分子量カットオフ値(MWCO)50 kDaのUltraFree-4遠心フィルター装置(Millipore、Bedford、MA)を用いて、尿試料を濃縮した。濃縮された尿試料のタンパク質濃度は、MicroBCA法(Pierce、Rockford、IL 61105)を用いて測定された。等量(20 μg)のタンパク質を4%〜15%勾配ゲルにロードし、非還元条件下でSDS-PAGEにより分離した。分離されたタンパク質をニトロセルロース膜(TransBlot、Bio-Rad、Hercules、CA)へ電気泳動的に移動させた。TBS-T(10 mM トリス、pH 7.2、50 mM NaCl、0.5%Tween20)中で1時間、室温で5%低脂肪粉乳を用いて膜をブロックし、続いて、4℃で18時間、一次抗体とインキュベートした。ブロットをTBS-Tで8回洗浄し(洗浄あたり5分間)、3%BSAを含むTBS-Tで1:5000希釈された西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合型二次抗体(Vector Laboratories、Burlingame、CA)と、室温で1時間インキュベートした。標識されたタンパク質は、増幅された化学発光により可視化された(Amersham、Arlington Heights、IL)。ヒトNGALに対する精製ポリクローナル抗体は、1:100希釈で使用された(Kjeldsen, L.ら、(1993))。精製されたヒト好中球MMP-9/NGAL複合体は、陽性対照として使用された(CalBiochem、La Jolla、CA)。
【0056】
免疫沈降-
125 kDa MMP活性を含む最初の尿試料を、等量のRIPA緩衝液(150 mM NaCl、1.0%NP-40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、50 mM トリス pH 8.0、0.02%アジ化ナトリウム)と混合した。希釈された尿試料50 μlをウサギ抗ヒトNGAL抗体または対照抗体の増加量と混合した。氷上で30分間インキュベートした後、試料を5 μl RIPA緩衝ザイソルビン(Zysorbin)(ZyoMed Laboratories、South San Francisco、CA)と混合した。氷上で更に30分間インキュベーションした後、抗体-抗原複合体を、10,000 gで5分間の遠心分離により除去した。上清を基質ゲル電気泳動に供して、残存MMP活性を検出した。
【0057】
MMP-NGAL複合体のインビトロ再構成-
組換えヒトproMMP-9(Oncogene、Cambeidge、MA)をゼラチナーゼ緩衝液[50 mM 酢酸ナトリウム(pH = 5.5)または5 mM CaCl2、1 μM ZnCl2を含む50 mM トリス-HCl(pH = 7.0、7.6、または8.0)]で希釈し、最終濃度を10 μMにした。組換えヒトNGALを前述のように精製し、ゼラチナーゼ緩衝液で70 μMまで希釈した。proMMP-9を1:20のモル比でNGALと混合し、37℃で1時間インキュベートした。MMP-9/NGAL複合体の形成は、基質ゲル電気泳動を用いて分析された。proMMP-9およびNGALをまた、MMP活性をもたない正常な対照尿によって別々に希釈した。尿中でのMMP-9/NGAL複合体形成の可能性は、proMMP-9およびNGALを、2:1、1:5、1:10、および1:20のモル比で混合することにより調査された。MMP-9/NGAL複合体は、基質ゲル電気泳動を用いて検出された。
【0058】
実施例1
尿試料中のMMP活性の基質ゲル電気泳動
尿試料に含まれるMMP活性は、基質ゲル電気泳動を用いてアッセイされた。新たに解凍された尿試料50 μlを分析のために使用した。これらの尿試料において少なくとも4つの主なMMP活性が容易に検出され、見かけの分子量は200,000、125,000、92,000、および72,000であった(図1A)。92 kDaおよび72 kDaのMMP活性は、それぞれMMP-9およびMMP-2であることが以前に判定されている。200 kDa MMP活性は、MMP-9二量体の推定分子量と一致している。125 kDa MMPの同一性は不明である。好中球由来の精製されたヒトMMP-9/NGAL複合体と共に分析された場合、125 kDa尿MMP活性は、ヒト好中球MMP-9/NGALのそれと同じ位置に移動した(図2A)。この125 kDa尿MMPは、MMP-9およびNGALの活性複合体である。MMPであるというこれらのゼラチン分解活性の同一性は、最終濃度10 mMで1,10-フェナントロリンを使用する阻害研究により確認された(データは未表示)。
【0059】
実施例2
抗NGAL抗体による尿試料のウエスタンブロット分析
MMP-9およびNGALの複合体としての125 kDaの尿MMPの同一性をさらに示すために、濃縮尿試料を、ヒトNGALに対する精製抗体を用いるウエスタンブロット分析に供した(Kjeldsen, L.(1993))。非還元条件下で、125 kDaのタンパク質バンドが、125 kDa MMP活性を含む尿試料中で検出された(図1B)。癌患者由来の尿試料のスクリーニングにより、MMP-9/NGALタンパク質複合体の検出と125 kDa MMP活性の存在との間の相関関係が確立された(図1B)。精製抗NGAL抗体を用いて、125 kDaタンパク質バンドが125 kDa MMP活性を含む尿試料中に一貫して検出された。抗体はまた、分析されたすべての尿試料中で、NGAL単量体型(25 kDa)、二量体型(50 kDa)、および三量体型(75 kDa)の存在を検出した。NGAL抗体の特異性は、精製されたヒト好中球MMP-9/NGAL複合体を用いて確認された。非還元条件下で、抗体は、好中球から精製されたMMP-9/NGAL複合体と同様に、濃縮された尿試料中の125 kDa MMP-9/NGAL複合体を認識した(図2B)。MMP-9/NGAL複合体ならびにNGAL単量体、二量体および三量体の複合体に加えて、見かけの分子量150 kDaのいくつかの微量タンパク質バンドもまた、濃縮された尿試料中に検出された。それらの同一性は現在不明であるが、抗NGAL抗体と非特異的に交差反応したタンパク質である可能性が最も高い。
【0060】
実施例3
免疫沈降-ザイモグラフィー
尿中の125 kDa MMP活性の同一性をさらに実証するために、抗NGAL抗体を用いて、尿中にNGALとの複合体の形で存在する任意のMMP活性を免疫沈降させた。図3に示されるように、抗NGAL抗体は、濃度依存的様式で、125 kDa尿MMP活性を特異的に免疫沈降させた。125 kDa尿MMP活性の増加量は、抗NGAL抗体の増加量を用いた処理により除去された。抗NGAL抗体1.0 μlで処理された場合、125 kDa MMP活性は完全に除去された。抗NGAL抗体は、他の任意のMMP活性、例えば200 kDa MMP-9二量体、92 kDa MMP-9、または72 kDa MMP-2に効果がなかった。免疫沈降反応の特異性はまた、最高濃度においてでさえいずれのMMP活性も免疫沈降させない対照抗体を用いて、確認された。対照抗体1.0 μlで処理された試料中のMMP-2活性における増加は、血清に含まれる内因性MMP-2活性から生じた。これらのデータをひとまとめにして考えると、癌患者の尿試料中の125 kDa MMP活性はMMP-9とNGALの複合体であるという本発明者らの発見が裏付けられる。
【0061】
実施例4
インビトロでのMMP-9/NGAL複合体の再構成
MMP-9/NGAL複合体の形成はまず、陽イオン性のイオンを含むゼラチナーゼ緩衝液を用いて調べられた。組換えヒトproMMP-9およびヒトNGALを最初、pH値が異なる(5.5、7.0、7.6および8.0)ゼラチナーゼ緩衝液に希釈した。希釈されたproMMP-9およびNGALを、続いて1:10のモル比で混合し、最終濃度をそれぞれ、2.6 μMおよび26 μM にした。37℃での1時間のインキュベーション後、MMP-9/NGAL複合体の形成を基質ゲル電気泳動を用いてモニターした。proMMP-9およびNGALを混合することにより、分子量約115 kDaの優勢なMMP活性が生じた(図4A)。115 kDa MMP-9/NGAL複合体の形成は、5.5から8.0の範囲内のpH値、つまり正常な尿のpH範囲をもつ緩衝液中で起きた。しかしながら、この優勢なMMP活性のサイズは、精製されたヒト好中球MMP-9/NGALのそれと同じではない。pH 7.0、7.6および8.0の緩衝液において観察される、125 kDaの微量なMMP活性がある。尿中でのMMP-9/NGAL複合体形成の可能性は、正常な対照尿中でproMMP-9およびNGALを希釈することにより直接試験された。希釈されたproMMP-9およびNGALを異なるモル比(proMMP-9/NGLA = 2:1、1:5、1:10および1:20)で混合し、37℃で1時間インキュベートした。115 kDa MMP-9/NGAL複合体の形成は、すべての混合比において容易に検出された(図4B)。希釈液として使用された対照尿において、MMP活性は検出されなかった。
【0062】
実施例5
インビトロでのNGALによるMMP-9分解の調節
インビトロにおいてNGALがMMP-9分解に与える影響は、インキュベーション前に、MMP-9(0.1 μ)およびNGAL(1/0 μ)を混合することにより試験された。MMP-9分解は、NGALの存在下で阻害され、その結果として単独でインキュベートされたMMP-9と比較した各時点での酵素残存量の増加により証明されるように、酵素的分解速度の減少がもたらされた。免疫的に枯渇したNGALは、明らかなMMP-9の保護を示さなかった。NGALの増加量の存在下で、MMP-9の分解が減少し、残存するMMP-9活性の増加がもたらされた。NGALは用量依存的様式でMMP-9を分解から保護できると考えられ、その結果として、MMP-9活性の保存がもたらされた。これらのデータは、MMP-9活性の調節におけるNGALについての潜在的な調節的役割を、例えばNGALがMMP-9との相互作用により腫瘍進行に関与しうることを示唆している。
【0063】
実施例6
細胞培養におけるNGALによるMMP-9分解の調節
MMP-9分解へのNGALの保護的効果は、MDA-MB-231ヒト乳癌細胞を用いた細胞培養において試験された。NGAL(N-2およびN-5)を過剰発現する細胞において、MMP-9活性が検出された。したがって、NGAL発現の増大が、MMP-9活性における増加をもたらすと考えられた。定常状態のMMP-9 mRNAのレベルは、RT-PCR分析を用いて測定されたが、明らかな違いは検出されなかった。内因性MMP-9阻害剤、TIMP-1およびハウスキーピング遺伝子、GAPGHの発現レベルを測定したが、NGALの過剰発現は、TIMP-1またはGAPDHのmRNAレベルに明らかな影響を及ぼさなかった。ヒト乳癌細胞におけるNGALの過剰発現は、MMP-9遺伝子転写における変化に依存しない、MMP-9活性の増加をもたらした。
【0064】
考察
癌患者の尿中のhMW酵素複合体、例えばMMP-9およびNGALを含む酵素複合体の同定は、TRACを予測するものであり、以下の知見により裏付けられる:(a)尿中の125 kDa MMP活性は、ヒト好中球MMP-9/NGALが移動するのと同じ位置に移動する;(b)抗NGAL抗体は、125 kDa MMP活性を含む濃縮尿試料のほとんどにおいて125 kDaタンパク質バンドをの検出に成功した;(c)同一の抗体が、他の任意のMMP活性に作用することなく、濃度依存的様式で尿中の125 kDa MMP活性を特異的に免疫沈降させることができた。そのような証拠は、参照として本明細書に完全に組み入れられている米国特許第09/469,637号に記載された知見、MMP-9およびMMP-2と同様、hMW MMPの検出が、転移性または器官限局性の癌それぞれの独立した予測因子として役に立つということと一致する。
【0065】
NGALは、最初、ヒト好中球ゼラチナーゼと共に同時精製される25 kDaのタンパク質として同定された(Kjeldsen, L.ら、(1993)J Biol Chem. 268: 10425〜32)。NGALとMMP-9の結合は、酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)で刺激されたヒト好中球の特定の顆粒において検出される135 kDaのゼラチナーゼ活性をもたらす(Kjeldsen, L.ら(1993))。NGALおよびMMP-9は、特定の顆粒に保存されているが、一方で、MMP-9はまた、ゼラチナーゼ顆粒内で独立して存在している(Morel, F.ら、(1994)Biochim Biophys Acta. 1201: 373〜380;Kjeldsen, L.ら、(1994)Blood. 83: 799〜807;およびBorregaard, N.およびCowland, J. B.(1997)Blood. 89: 3503〜21)。しかしながら、本発明者らは白血球を含む尿試料を特別に除外したことから、癌患者の尿中で検出されるMMP-9/NGAL複合体は白血球由来ではない。
【0066】
興味深いことに、ヒトNGALは、両方とも発癌遺伝子媒介性細胞形質転換において過剰発現された、マウス24p3およびラットneu/HER2/c-erbB-2関連リポカリン(NRL)に対する配列類似性を含有する(Cowland, J. B.およびBorregaard, N.(1997)Genomics. 45: 17〜23;Hraba-Renevey, S.ら、(1989)Oncogene. 4: 601〜8;Stoesz, S. P.およびGould, M. N.(1995)Oncogene. 11: 2233〜41)。正常な条件下において、ヒトNGALの発現は、乳房、肺、気管および骨髄に限定されている(Cowland, J. B.およびBorregaard, N.(1997)Genomics. 45: 17〜23;Stoesz, S. P.ら、(1998)Int. J Cancer. 79: 565〜72)。しかしながら、NGAL発現レベルの上昇が、ヒト乳房腫瘍、ならびに、肺、結腸および膵臓の腺癌において観察されている(Stoesz(1998);Friedl, A.ら、(1999)Histochem J. 31: 433〜41)。NGAL生成の増加は癌疾患状態と密接に関連しうり、これはその後、尿中のMMP-9/NGAL複合体レベルの上昇に寄与する。この複合体は、基質ゲル電気泳動、および、抗体に基づくアッセイ法で検出されうる。米国特許第09/469,637号に記載されるように、尿中の125 kDa MMP活性の存在は、癌転移の独立した多変量の予測因子としての役割を果たしうり、この活性とMMP-9/NGAL複合体の同一性により、様々な癌の疾患状態を評価するための非侵襲性予知の手段の発達が促進されるものと思われる。
【0067】
癌患者の尿中の125 kDa MMP-9/NGAL活性の起源は不明のままである。糸球体濾過の限界がたった45 kDaであることを考慮すれば、この大きなタンパク質複合体が血清から尿へと直接的に濾過される可能性はない。各成分が別々に尿中へ濾過された後、MMP-9/NGAL複合体が形成されることの可能性は、インビトロでの再構成アッセイ法を用いて調べられた。その結果から、pH値の異なるゼラチナーゼ緩衝液中で、および、正常な尿中で、MMP-9/NGAL複合体形成の実行可能性が実証された。したがって、MMP-9およびNGALは、尿へと別々に実行され、そこでそれらが125 kDa MMP-9/NGAL複合体を形成する可能性がある。
【0068】
尿中のMMP-9とNGALの複合体の存在は、最近の独立した研究により裏付けられた(Monier, F.、Clin Chim Acta. 299: 11〜23、2000)。還元条件下で、MMP-9およびNGALは、115 kDaゼラチナーゼ活性を含む連続溶離電気泳動画分において、別々に検出された。同じ画分中のMMP-9およびNGALの検出により、観察された115 kDaゼラチナーゼ活性がMMP-9とNGALの複合体であることが示される。
【0069】
また最近の研究より、NGALがMMP-9に対して保護的効果を発揮すると考えられること、およびインビトロおよび細胞の両方においてMMP-9が分解されるのを妨げることが確認された。実施例5および実施例6により、MMP-9-NGAL複合体が腫瘍進行において積極的な役割を果たす可能性があることが示唆される。
【0070】
等価物
当業者は、本明細書に記載された本発明の特定の態様に対する多数の等価物を認識するか、または日常的な実験のみを用いて確かめることができると考えられる。そのような等価物は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】尿試料の基質ゲル電気泳動およびNGALウエスタンブロット分析を示す。A. 尿試料中のMMPの基質ゲル電気泳動:未処理の尿試料50 μlをMMP活性について分析した。4つの主なゼラチナーゼ活性を、約200,000、125,000、92,000、および72,000の見かけの分子量で検出した。それらの同一性を右の矢印でマークした。分子量マーカーは、大きさ150 kDa、100 kDa、75 kDa、および50 kDa(左の矢印)のパーフェクトプロテインマーカーズ(Perfect Protein Markers)(Novagen、Madison、WI)である。B. 濃縮尿試料の20 μgを非還元条件下で4%〜15%のSDS-PAGEゲル上で分離した。ヒトNGALに対するポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロット分析を行った。分子量マーカーは、大きさ126 kDa、90 kDa、44 kDa、34 kDa、および17 kDa(左の矢印)のカレイドスコーププレステインドスタンダード(Kaleidoscope Prestained Standards)(Bio-Rad、Hercules、CA)である。
【図2】尿試料および精製されたヒト好中球MMP-9/NGAL複合体のウエスタンブロットおよび基質ゲル電気泳動を示す。A. NGALウエスタンブロット分析:125 kDaのMMP活性を含む濃縮尿試料を、精製されたヒト好中球MMP-9/NGALと共に、非還元条件下で4%〜15%のSDS-ゲル電気泳動により分離し、その後、ヒトNGALに対するポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロット分析に供した。125 kDaのMMP-9/NGAL複合体をマークしている(右の矢印)。B. 基質ゲル電気泳動:同じ尿試料および精製されたヒト好中球MMP-9/NGAL複合体を基質ゲル電気泳動で分析した。MMP-9二量体(200 kDa)、MMP-9/NGAL(125 kDa)、MMP-9(92 kDa)、およびMMP-2(72 kDa)の位置は、右の矢印で示されている。分子量マーカーは、大きさ150 kDa、100 kDa、75 kDa、および50 kDa(左の矢印)のパーフェクトプロテインマーカーズ(Perfect Protein Markers)(Novagen、Madison、WI)である。
【図3】抗NGAL抗体を用いた125 kDaのMMP活性の免疫沈降を示す。125 kDaのMMP活性を含む尿試料(RIPAにより1:1 v/v希釈)50 μlを1.0 μl、0.1 μl、または0.01 μlの抗NGAL抗体または対照抗体混合した。氷上で30分間インキュベートした後、抗体-抗原複合体をザイソルビン(Zysorbin)を用いて除去した。残存MMP活性を検出するために上清を基質ゲル電気泳動に供した。対照抗体1.0 μlで処理された試料中で観察された、増大したMMP-2活性の増加は、血清由来の内因性MMP-2活性であった。
【図4】インビトロでのMMP-9/NGAL複合体の再構成を示す。A. 組換えヒトMMP-9およびNGALをpH値の異なるゼラチナーゼ緩衝液に希釈し、続いて、1:10(proMMP-9対NGAL)のモル比で混合した。37℃で1時間、インビトロでの再構成を行った。10 μM proMMP-9を各レーンにロードした。精製されたヒト好中球MMP-9/NGALを、対照として含めた。B. 組換えヒトMMP-9およびNGALを、MMP活性を含まない正常な尿に希釈し、続いて、異なるモル比(proMMP-9対NGAL = 2:1、1:5、1:10、1:20)で混合した。37℃で1時間インキュベーションを行った後、MMP-9/NGAL複合体形成を、基質ゲル電気泳動を用いて分析した。125 kDaおよび115 kDaのMMP-9/NGAL活性の位置は、それぞれ、右の矢印および矢じりで示されている。分子量マーカーは150 kDa、100 kDa、75 kDa、および50 kDa(左の矢印)パーフェクトプロテインマーカーズ(Perfect Protein Markers)(Novagen、Madison、WI)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、組織再構築関連状態についての対象の診断を容易にするための非侵襲性方法:
対象から生体試料を得る段階;
生体試料において高分子量酵素複合体を検出する段階;および
高分子量酵素複合体の有無を、組織再構築関連状態の有無と相関させ、それにより組織再構築関連状態についての対象の診断を容易にする段階。
【請求項2】
組織再構築関連状態が癌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
組織再構築関連状態が、関節炎状態、閉塞性状態、または変性状態である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
癌が器官限局性前立腺癌である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
癌が転移性前立腺癌である、請求項2記載の方法。
【請求項6】
癌が上皮起源の細胞内にある、請求項2記載の方法。
【請求項7】
癌が神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、膵臓、尿生殖器官、および胃腸管の癌からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
癌が中胚葉起源の細胞に生じる、請求項2記載の方法。
【請求項9】
癌が内胚葉起源の細胞に生じる、請求項2記載の方法。
【請求項10】
癌が骨細胞または造血性起源の細胞を冒す、請求項2記載の方法。
【請求項11】
高分子量酵素複合体がプロテアーゼを含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
プロテアーゼがセリンプロテアーゼである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
プロテアーゼがマトリクスメタロプロテイナーゼである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
マトリクスメタロプロテイナーゼがMMP-9である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
高分子量酵素複合体がリポカリンを含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
リポカリンがNGALである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
酵素複合体がTIMPを含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
TIMPがTIMP-1である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
高分子量酵素複合体が、自身と複合して多量体を形成する酵素を含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
多量体が二量体または三量体である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
多量体がさらにリポカリンと複合している、請求項19記載の方法。
【請求項22】
リポカリンがNGALである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
多量体がさらにTIMPと複合している、請求項21記載の方法。
【請求項24】
TIMPがTIMP-1である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
酵素複合体の分子量が約150 kDaである、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
酵素複合体の分子量が約115 kDa〜約125 kDaである、請求項1〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
以下の段階を含む、組織再構築関連状態についての対象の診断を容易にするための非侵襲性方法:
対象から生体試料を得る段階;
生体試料においてリポカリンを検出する段階;および
リポカリンの有無を組織再構築関連状態の有無と相関させ、それにより、組織再構築関連状態についての対象の診断を容易にする段階。
【請求項28】
組織再構築関連状態が癌である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
組織再構築関連状態が、関節炎状態、閉塞性状態、または変性状態である、請求項27記載の方法。
【請求項30】
癌が器官限局性前立腺癌である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
癌が転移性前立腺癌である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
癌が上皮起源の細胞内にある、請求項28記載の方法。
【請求項33】
癌が、神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、膵臓、尿生殖器官、および胃腸管の癌からなる群より選択される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
癌が中胚葉起源の細胞に生じる、請求項28記載の方法。
【請求項35】
癌が内胚葉起源の細胞に生じる、請求項28記載の方法。
【請求項36】
癌が骨細胞または造血性起源の細胞を冒す、請求項28記載の方法。
【請求項37】
リポカリンがNGALである、請求項27〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
リポカリンが多量体として存在する、請求項27〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
多量体が二量体または三量体である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
生体試料が尿である、請求項1〜10または請求項27〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
検出段階の前に尿から低分子量混入物を除去する段階をさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
尿が透析される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
酵素が電気泳動パターンにより検出される、請求項1〜10または請求項27〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
電気泳動パターンが基質を含むザイモグラム(zymogram)である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
ザイモグラム基質が、ゼラチン、カゼイン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プラスミン、プラスミノーゲン、IV型コラーゲン、およびIV型コラーゲンの誘導体からなる群より選択される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
酵素が免疫化学的に検出される、請求項1〜10または請求項27〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
酵素が放射線免疫測定法により検出される、請求項46記載の方法。
【請求項48】
酵素が酵素結合免疫吸着測定法により検出される、請求項46記載の方法。
【請求項49】
以下を含む、組織再構築関連状態の診断および予測を容易にするためのキット:
生体試料中の高分子量酵素複合体の検出用試薬を有する容器;ならびに
組織再構築関連状態の診断および予測を容易にするための、高分子量酵素複合体の検出用試薬を使用するための使用説明書。
【請求項50】
組織再構築関連状態が癌である、請求項49記載のキット。
【請求項51】
組織再構築関連状態が、関節炎状態、閉塞性状態、または変性状態である、請求項49記載のキット。
【請求項52】
癌が器官限局性前立腺癌である、請求項50記載のキット。
【請求項53】
癌が転移性前立腺癌である、請求項50記載のキット。
【請求項54】
癌が上皮起源の細胞内にある、請求項50記載のキット。
【請求項55】
癌が、神経系、乳房、網膜、肺、皮膚、腎臓、肝臓、膵臓、尿生殖器官、および胃腸管の癌からなる群より選択される、請求項54記載のキット。
【請求項56】
癌が中胚葉起源の細胞に生じる、請求項50記載のキット。
【請求項57】
癌が内胚葉起源の細胞に生じる、請求項50記載のキット。
【請求項58】
癌が骨細胞または造血性起源の細胞を冒す、請求項50記載のキット。
【請求項59】
高分子量酵素複合体がプロテアーゼを含む、請求項49〜58のいずれか一項記載のキット。
【請求項60】
プロテアーゼがセリンプロテアーゼである、請求項59記載のキット。
【請求項61】
プロテアーゼがマトリクスメタロプロテイナーゼである、請求項59記載のキット。
【請求項62】
マトリクスメタロプロテイナーゼがMMP-9である、請求項61記載のキット。
【請求項63】
高分子量酵素複合体がリポカリンを含む、請求項49〜58のいずれか一項記載のキット。
【請求項64】
リポカリンがNGALである、請求項63記載のキット。
【請求項65】
酵素複合体がTIMPを含む、請求項63記載のキット。
【請求項66】
TIMPがTIMP-1である、請求項65記載のキット。
【請求項67】
高分子量酵素複合体が、自身と複合して多量体を形成する酵素を含む、請求項49〜58のいずれか一項記載のキット。
【請求項68】
多量体が二量体または三量体である、請求項67記載のキット。
【請求項69】
多量体がさらにリポカリンと複合している、請求項67記載のキット。
【請求項70】
リポカリンがNGALである、請求項69記載のキット。
【請求項71】
多量体がさらにTIMPと複合している、請求項69記載のキット。
【請求項72】
TIMPがTIMP-1である、請求項71記載のキット。
【請求項73】
酵素複合体の分子量が約150 kDaである、請求項49〜58のいずれか一項記載のキット。
【請求項74】
酵素複合体の分子量が約115 kDa〜約125 kDaである、請求項49〜58のいずれか一項記載のキット。
【請求項75】
生体試料が尿である、請求項49〜58のいずれか一項記載のキット。
【請求項76】
低分子量混入物の除去のために尿を成分へ分離するための装置をさらに含む、請求項75記載のキット。
【請求項77】
高分子量酵素複合体が分子量115 kDaではない、請求項1〜10、請求項27〜36、または請求項49〜58のいずれか一項記載の方法またはキット。
【請求項78】
高分子量酵素複合体がプロゼラチナーゼB酵素を含まない、請求項1〜10、請求項27〜36、または請求項49〜58のいずれか一項記載の方法またはキット。
【請求項79】
高分子量酵素複合体がNGALを含まない、請求項1〜10、請求項27〜36、または請求項49〜58のいずれか一項記載の方法またはキット。
【請求項80】
高分子量酵素複合体が、NGALと会合したプロゼラチナーゼB酵素を含まない、請求項1〜10、請求項27〜36、または請求項49〜58のいずれか一項記載の方法またはキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−198512(P2009−198512A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112427(P2009−112427)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【分割の表示】特願2002−534841(P2002−534841)の分割
【原出願日】平成13年10月15日(2001.10.15)
【出願人】(500092480)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】