説明

経口摂取用固体組成物及びその製造方法

【課題】腸内環境を改善する十分な効果が期待でき、また、飲食時に良好な風味と優れた食感を与える品質安定性を有する手軽に経口摂取することができる固体組成物を提供する。
【解決手段】造粒処理した酵母細胞壁画分と、ビフィドバクテリウム属細菌とを含有することを特徴とする経口摂取用固体組成物、ならびに、この組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸でビフィズス菌等の栄養素となって、善玉菌を増加させる働きを持つ食品素材と、腸内環境のバランスを改善することにより、宿主(ヒト等)に有益な作用をもたらす、生きた微生物とを含有し、飲食時に良好な風味と優れた食感を与える品質安定性を有する腸内環境の改善に寄与する経口摂取用固体組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトや動物の腸内には様々な細菌が常在し、いわゆる腸内菌叢(腸内フローラ)を形成している。この腸内フローラは、宿主に対して有益な作用をもたらす乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌等の有用菌、宿主に対して有害な作用をもたらす大腸菌、ウェルシュ菌、ブドウ球菌、バクテロイデス等の有害菌、そしてさらに「日和見菌」と呼ばれる健康であれば何の影響も与えないが、病気になって抵抗力・体力が低下すると病原菌に変身する細菌の3つの菌群により構成され、これらの細菌が互いに共生又は拮抗関係を保っている。
【0003】
腸内において、有害菌の数が増えると、アンモニア、フェノール類、インドール類、ニトロソ化合物等の腐敗産物や有害ガスが生成し、それらが体内に蓄積或いは血液に吸収されると、肝臓機能の低下、便秘、下痢、肌荒れ、肩こり等の原因となり、また、このような状態が長期に渡って維持されると、免疫力低下により病原菌へ感染する可能性が増え、結果として、発ガン物質の生産を促すことになると考えられている。
【0004】
これに対し、ビフィドバクテリウム属細菌やラクトバチルス属のような乳酸菌等の有用菌は、腸の調子を整えて消化・吸収を助けるだけでなく、前記した有害菌の増殖抑制、外来病原菌からの感染防御、各種ビタミンの合成、腸管の免疫細胞の活性化、食物中の有害物質や発ガン性物質の分解・排泄、血中コレステロールの増加抑制など、宿主にとって有益な働きをすることが明らかにされている。
【0005】
このように、ヒト等の宿主が健康な状態を保持するには、腸内フローラにおいてビフィドバクテリウム属細菌に代表される有用菌が優勢な状態が維持され、更には便通を改善して有害物質を滞留させないようにすることが極めて重要であると考えられるが、腸内フローラは、加齢、食生活や生活リズムの乱れ、また、ストレスなどの影響を受けてそのバランスが崩れやすい。
【0006】
そこで、近年では、腸内フローラのバランスを改善することにより、宿主に有益な作用をもたらす 生きた微生物と定義されるプロバイオティクス(非特許文献1)を利用する方法(特許文献1〜5)が提案され、注目されている。またこれ以外にも、ビフィドバクテリウム属細菌に代表される腸内有用菌の増殖を助ける補助食品として、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖等の各種オリゴ糖を摂取して、腸内フローラを改善する方法などが古くから数多く報告されている。
【0007】
一方で、繊維質を多く含んだ食品を摂取することにより、便通が改善されることは良く知られており、従来から、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、ペクチン、グルコマンナン、寒天、ポリデキストロース、アップルファイバー、コーンファイバー等の繊維質を配合した各種飲食品が提案され、また、近年では、同様の作用を有する素材として、特定の処理を施して得られる食物繊維を豊富に含む酵母細胞壁が報告されている。(特許文献6)
また、これらの繊維質のうち、水溶性のヘミセルロースや水に不溶性であるセルロース、リグニン等には、ビフィドバクテリウム属細菌等に代表される腸内有用菌の増殖を助ける効果があることも報告されていることから(特許文献7〜9)、有用菌が優勢な腸内環境を維持すると同時に、便通を改善して有害物質を滞留させないようにして、ヒト等の宿主の健康な状態を保持するために、これらの繊維質を経口的に摂取することは有益である。
【0008】
【特許文献1】特開2002−193817号公報
【特許文献2】特許第2742962号
【特許文献3】特開平5−292947号公報
【特許文献4】特許第3052208号
【特許文献5】国際公開WO2002/045732号パンフレット
【特許文献6】特開2001−55338号公報
【特許文献7】特開昭63−165325号公報
【特許文献8】特開平6−217761号公報
【特許文献9】特開平10−1437号公報
【非特許文献1】Fullar, R.:J. Appl. Bacteriol., 66, 365−378(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般に、繊維質には口当たりが悪いものが多く、それ単独で所望の効果を得るに十分な量を継続的に経口摂取することは困難である。そのため、腸内環境を改善する十分な効果が得られるように、他の素材と組み合わせた経口摂取用組成物が数多く提案されているが、これらの組成物は、機能又は効果面を重視したものが多い一方で、飲食時の風味や食感等については十分に検討されていないことが多い。言い換えれば、お菓子感覚で手軽に食することができ、なおかつ、その素材がもつ機能又は効果を十分に発揮させうるような組成物は見出されていなかった。
【0010】
このような状況において、本発明の目的は、腸内環境の正常化に寄与して、便通や便性、さらには肌荒れなどの皮膚性状等に対する改善効果が期待でき、飲食時に良好な風味と優れた食感を与える品質安定性を有する経口摂取可能な固体組成物を提供することである。
また、本発明の別の目的は、上記固体組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討を行ったところ、特定の処理を施した酵母細胞壁画分と、ビフィドバクテリウム属細菌、又は、それらに加えてさらに、食感改善成分としてシリアル類を用いて固体組成物を調製することにより、飲食時に良好な風味と優れた食感を与える品質安定性を有する経口摂取可能で、かつ、腸内環境の改善に寄与する組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有する。
本発明は、第1の態様において、造粒処理した酵母細胞壁画分と、ビフィドバクテリウム属細菌とを含有することを特徴とする経口摂取用固体組成物を提供する。
【0013】
また、本発明の組成物には、食感改善成分をさらに含有することができる。
ここで「食感改善成分」とは、食したときにサクサク感を与える物質をいう。食感改善成分を具体的に例示すれば、コーンフレークなどのシリアル類を、特に好ましいものとして挙げることができる。なお、シリアル類とは、穀類(麦類、米、トウモロコシなど)の粉を水で練り上げたものを、さらに適当な形状に成形し、これを焼いたり、揚げたりしたものが含まれる。
【0014】
本発明において、酵母細胞壁画分は、増粘多糖類、又は増粘多糖類及び糖アルコールを用いた造粒処理によって粒状形態にされうる。
【0015】
また、本発明において、酵母細胞壁画分は、酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去することにより得ることができる。
【0016】
またさらに、本発明において、酵母細胞壁画分は、酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去して得られる酵母細胞壁画分を、更に高圧処理及び水洗浄処理を施すことにより得ることができる。
【0017】
高圧処理は、例えば100〜1500kg/cmの範囲の圧力下での処理をさすが、ホモジナイゼーション、押出しなどの破壊的処理を伴うことが好ましい。高圧処理によって、呈味夾雑物などの夾雑物を効率よく除去することができる。それゆえ、好ましくは、本発明の酵母細胞壁画分は呈味夾雑物を含まないものである。このような高圧処理は、夾雑物の除去だけでなく、酵母から可溶性菌体内成分を除去する際にも使用しうる。
【0018】
また、本発明において、酵母細胞壁画分は、その乾燥物中の食物繊維含量が60%以上のものであり、更に呈味夾雑物を含有しないものである。
また、本発明においては、酵母細胞壁画分として、酵母エキス抽出残渣を用いることができる。
さらに、本発明において、ビフィドバクテリウム属細菌は、生菌として含有される。
さらに、本発明において、経口摂取用固体組成物は、打錠成形された形態である。
【0019】
本発明はまた、第2の態様により、本発明の経口摂取用固体組成物を製造する方法であって、次のA)〜D)工程:
A)酵母を酵素処理及び/又は非酵素処理した後、可溶性菌体内成分を除去して酵母細胞壁画分を得る工程、
B)酵母細胞壁画分を粒状化する工程、
C)粒状酵母細胞壁画分とビフィドバクテリウム属細菌とを含む前成形組成物を作製する工程、及び
D)前成形組成物を打錠成形する工程
を含む方法を提供する。
【0020】
また、本発明において、上記の前成形組成物に食感改善成分をさらに配合することを含むことができる。食感改善成分の好ましい例は、シリアル類である。
また、本発明において、酵母細胞壁画分の粒状化(B工程)は、増粘多糖類又は増粘多糖類及び糖アルコールを用いる造粒処理によって行うことができる。
【0021】
さらに、本発明において、A工程の酵母細胞壁画分は、酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去して得られる酵母細胞壁画分を更に高圧処理及び水洗浄処理を施すことによって得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の経口摂取用固体組成物は、腸内環境の寄与することが知られている天然物由来の酵母細胞壁画分とビフィドバクテリウム属細菌とを有効成分として含有するため、腸内環境改善用の安全性に優れた食品或いは医薬品とすることが可能である。また、本発明の組成物は、特定の処理を施した酵母細胞壁を利用し、またさらにシリアル類を配合することで、飲食時に良好な風味と独特の優れた食感を与える品質安定性を有するので、健康増進の目的で手軽に経口摂取できる組成物として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の経口摂取用固体組成物は、便通改善効果を有する既知の酵母細胞壁画分と、腸内細菌の中で有用な働きをするビフィドバクテリウム属細菌とを含有し、後述の参考例に示すとおり、腸内環境に対して有益な改善効果を与え、また、飲食時に良好な風味と優れた食感を与える品質安定性を有する経口摂取可能な組成物である。
【0024】
まず、本発明の経口摂取用固体組成物に含有させる酵母細胞壁画分としては、酵母を酵素処理及び/又は非酵素処理し、可溶性菌体内成分を除去して得られる酵母細胞壁画分を、さらに高圧処理及び水洗浄処理を施すことにより得られる酵母細胞壁画分を特に好ましい酵母細胞壁画分として挙げることができる。
【0025】
本発明に用いられる酵母細胞壁画分は、後述するビフィドバクテリウム属細菌との併用により、優れた腸内環境改善効果を発揮するために、酵母から可溶性菌体内成分を除去し、精製して、酵母細胞壁画分の乾燥物中の食物繊維含量が60重量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは65重量%以上、最も好ましくは75重量%以上であることが望ましい。このような酵母細胞壁画分は、例えば特開2001−55338号公報等に記載のように調製することができる。以下に、その調製方法について具体的に説明する。
【0026】
(原料酵母)
本発明に用いられる酵母細胞壁画分の原料となる酵母としては、分類学上酵母に属し、可食性の酵母であれば特に制限はなく、例えばビール醸造工程の副生成物であるビール酵母の他、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母、アルコール酵母、清酒用酵母などを用いることができ、より具体的には、ビール酵母、パン酵母の属するサッカロマイセス属のサッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・バイアナス(Saccharomyce bayanus)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)或いはサッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、その他の酵母としてザイゴサッカロマイセス・ルーキシ(Zygosaccharomyces rouxii)、キャンディダ・ウティリス(Candida utilis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)等を挙げることができるが、これらのものに制限されないものとする。
【0027】
また、本発明においては、上記の酵母は、単独或いは組合せて使用することができる。また、酵母としては生酵母を用いることが好ましいが、乾燥酵母等の生酵母以外の形態の酵母を用いる場合であっても、例えば水中等に懸濁して生酵母同様に処理することもできる。さらに、使用する酵母の形状や大きさに特に制限はなく、その大きさは1〜20μmの範囲のものが好ましい。
【0028】
(酵母細胞壁画分の調製)
本発明において有効成分として用いられる酵母細胞壁画分は、酵母菌体から、例えば蛋白質、アミノ酸、核酸などの水又は極性溶剤(例えば水性のアルコール、アセトンなど)に可溶性の菌体内成分を除去したものであり、通常、酵素処理により、非酵素(すなわち、酵素を使用しない)処理により、或いは酵素処理及び非酵素処理の組合せにより、酵母菌体から可溶性菌体内成分を菌体外に分離・除去することにより調製することができる。
【0029】
かかる酵素処理方法としては、酵母菌体の酵素を使用するいわゆる自己消化法、外部からプロテアーゼ、ヌクレアーゼ、グルカナーゼ、エステラーゼなどの酵素を添加する酵素添加法、それらを併用する方法などを例示することができる。かかる酵素処理酵母菌体から、可溶性菌体内成分を遠心分離などの除去処理を施すことによって酵母細胞壁画分を得ることができる。
【0030】
非酵素処理方法としては、機械的磨砕法、浸透圧差法、凍結融解法、超音波処理法、加圧法などの機械的方法を挙げることができる。機械的磨砕法は、酵母を水、緩衝液などの水性液体中でブレンダー、ボールミル、ホモジナイザーなどの破壊装置を用いて機械的に磨砕する方法である。浸透圧差法は、浸透圧差を利用して細胞壁を破壊する方法であり、例えば低張液に酵母細胞を懸濁することによって細胞を破壊する。凍結融解法は、酵母を凍結したのち、融解する操作を繰り返すことによって細胞壁を破壊する方法である。超音波処理法は、例えば10〜600kc/secの超音波の中に酵母細胞を置くことによって細胞を破壊する方法である。加圧法は、酵母細胞を含む密閉容器内で、プレスで例えば900psi以上の圧力を瞬時にかけたり、或いは20,000psi程度に加圧したものを小さなノズルから噴出させるなどの急激な圧変化によって細胞を破壊する方法である。
【0031】
上記の処理方法は、何れも可溶性菌体内成分を酵母エキスとして調製する方法として使用可能であるため、酵母細胞壁画分として、酵母エキスを調製する際に生じる副産物である酵母エキス抽出残渣を用いることがコストや作業効率等を考慮すると有利である。
【0032】
酵母エキス抽出残渣を得る方法の例としては、従来公知の方法、具体的には、加熱失活させた酵母の水懸濁液を酵素で分解処理した後、キトサン又はキトサンとポリアクリル酸塩を添加して水不溶物の除去を行う方法(特開平8−56611号公報)、高圧ホモジナイザー処理した酵母菌体懸濁液を中性〜弱アルカリ性(例えばpH約9以下)に調整し、該酵母菌体懸濁液にエンド型プロテアーゼを含む酵素剤を添加し、自己消化させる方法(特開平9−56361号公報)、原料となる酵母菌体を加温処理した後に、核酸分解酵素の含まれる条件下で、かつ5’−ヌクレオチドを分解する酵素活性が抑制される条件下で菌体成分を消化し抽出する方法(特開平11−332511号公報)等を挙げることができる。また、これら以外の公知の酵母エキスの製造法により得られる酵母エキス抽出残渣であれば、特に制限されることなく、本発明の酵母細胞壁画分の調製のために使用することができる。
【0033】
得られた酵母細胞壁画分は、さらに高圧処理を施し、水洗浄を行うことによって、より純度の高い、経口摂取用に適した酵母細胞壁画分とすることができる。
【0034】
高圧処理は、可溶性菌体内成分が効率的に除去できる方法であれば、どのような方法でもよく、例えば、高圧ホモジナイザー処理、フレンチプレス処理、エクストルーダー処理等が挙げられる。高圧処理の中でも夾雑物の除去効率の点で高圧ホモジナイザー処理が最も好ましい。酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去して得られる酵母細胞壁画分の高圧処理としては、例えば高圧ホモジナイザー処理の場合、好ましくは100〜1500kg/cm、より好ましくは500〜1500kg/cmの圧力下での高圧処理を挙げることができる。また、酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去して得られる酵母細胞壁画分の高圧処理は、夾雑物の除去効果をさらに高めるために、複数回実施することもできるし、或いは種類の異なる上記の各種高圧処理を2種類又は3種類適宜組み合わせて実施することもできる。
【0035】
酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去して得られる酵母細胞壁画分の高圧処理に続いて行われる水洗浄処理の方法としては、可溶性菌体内成分と、水不溶性の酵母細胞壁画分を分離できる方法であればどのような方法でもよく、遠心分離処理、濾過処理等の方法を挙げることができるが、作業効率を考慮すると遠心分離処理の方が好ましい。水洗浄に用いられる水としては通常の上水道水を用いることができるが、夾雑物の除去効率を低下させない範囲で、酸性水、アルカリ性水、アルコール(例えば、エタノール)含有水を用いることもできる。また、洗浄回数については、夾雑物の除去の程度・度合いにより適宜選択することができる。高圧処理、水洗浄処理の後、必要に応じて、有機溶剤処理、酵素処理、酸、アルカリ処理等を行い、より純度の高い酵母細胞壁画分とすることもできる。かかる酵母細胞壁画分はさらに、凍結乾燥、噴霧乾燥、自然乾燥、熱風乾燥等により乾燥に供することができる。このようにして得られる酵母細胞壁画分は、乾燥物あたりの食物繊維含量が、通常60重量%以上、好ましくは65重量%以上、さらに好ましくは75重量%以上のものとして作製される。
【0036】
(食物繊維含量の測定)
なお、本発明の酵母細胞壁画分の食物繊維含量は、以下に示す酵素−重量法により測定して得られた値である。
【0037】
即ち、500ml容トールビーカー2個に採取量の差が20mg以内であるように試料を1gずつ分取し(S)、0.08mol/Lリン酸緩衝液(pH8.0)を50mlずつ、及びターマミル(NOVO NORDISK, 120L)を0.1mlずつ添加し、沸騰水中で約5分間隔で振とうしながら30分間加熱する。放冷後、0.275mol/L水酸化ナトリウム溶液10mlでpH7.5±0.1に調整し、リン酸緩衝液に50mg/mlの濃度で溶解させたプロテアーゼ溶液(SIGMA「P−5380」)を0.1mlずつ添加した後、60℃、30分間振とうする。放冷後、0.325mol/L塩酸溶液10mlでpH4.3±0.3に調整し、アミログルコシダーゼ溶液(SIGMA「A−9913」)を0.1mlずつ添加した後、60℃、30分間振とうする。その後、60℃に加温した95%エタノールを4倍容ずつ加え、室温で1時間放置後、あらかじめ約1.1gのセライトでろ過層を形成させてある2G2のガラスフィルターを用い、吸引ろ過する。残留物を78%エタノール20mlで3回、次いで95%エタノール10mlで2回以上、最後にアセトン10mlで2回以上洗浄し、105℃で一晩乾燥させる。恒量測定(R1、R2)後、一つは525℃で5時間灰化させ、灰分含有率(A)を算出する。もう一つはケルダール法(係数6.25)により蛋白質含有率(p)を算出する。試料を添加せず同様の方法により処理した各値をブランク値とする。それぞれの値をもとに以下の計算式によって食物繊維含量を算出する。
【0038】
食物繊維(重量%)=(R×(1−(P+A)/100−B)/S×100
R:残留物の重量(平均値、(R1+R2)/2、mg)
P:残留物中の蛋白含有率(%)
A:残留物中の灰分含有率(%)
S:試料採取量(平均値、mg)
B:ブランク(mg)
B(mg)=r×(1−(p+a)/100)
r:ブランク残留物の重量(平均値、mg)
p:ブランク残留物中の蛋白含有率(%)
a:ブランク残留物中の灰分含有率(%)
【0039】
また、蛋白質含量はケルダール法で測定した値であり、例えば文献「食品分析法、日本食品工業学会食品分析法編集委員会編、p101」記載の方法に準じて行うことができる。
【0040】
上記の通り調製した酵母細胞壁画分は、粉末状態のまま本発明の経口摂取用固体組成物に使用することもできるが、粉末状態の酵母細胞壁画分は、粒子が非常に微細で飛散しやすく、また口腔内では粘度が上昇して歯に付着しやすい性質を有するため、飲食時に良好な風味と優れた食感を与える品質安定性が求められる経口摂取用組成物に配合する場合には、増粘多糖類を用いて造粒処理を施すことが好ましい。ここで「造粒処理」とは、粉末を固めて粒状に形成することをいう。造粒処理は、常法に従って、流動層造粒機、例えば、流動造粒・乾燥機や転動流動造粒・乾燥機を用いて行うことができる。例えば、振動、攪拌又は流動中の粉体に結合剤(バインダ)を添加、付着して粒状形態に成形することができる。
【0041】
このとき、粉体に添加・付着させる結合剤としては、デンプンのり液、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SSLTM、HPC−SLTM、HPC−LTMなど)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(カルメロースナトリウム)、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、トラガント、アルギン酸ナトリウム、プルラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールを挙げることができ、中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、プルランなどの増粘多糖類を用いるのがよく、これらは一種又は二種以上使用することができる。なお、増粘多糖類の使用量は、0.5重量%〜1.5重量%、好ましくは0.5重量%〜1.0重量%とすればよい。
【0042】
また、本発明の経口摂取用固体組成物には、ビフィドバクテリウム属細菌を必須成分として含み、食感改善成分として更に後述するシリアル類を配合することができるが、シリアル類を配合した場合には、得られる経口摂取用固体組成物の飲食時の風味や食感に影響を与え、また、固体組成物としての成形性や外的な衝撃等に対する耐久性等を十分に有する品質安定性、特に硬度、を得ることができない場合がある。
【0043】
そのため、シリアル類を含有する本発明の経口摂取用固体組成物を得る場合には、造粒処理した酵母細胞壁画分として、前記の増粘多糖類のみで造粒したものではなく、更に増粘多糖類に更に糖アルコールを加えて造粒したものを使用することが好ましい。これにより、シリアル類を配合した場合であっても所望の品質安定性を有する固体組成物を簡便に製造することができる。
【0044】
なお、酵母細胞壁画分の造粒処理は、糖アルコールを増粘多糖類に更に加えて行う以外は、上述の造粒処理方法を適用すればよい。ここで、造粒処理に増粘多糖類に加えて新たに使用される糖アルコールとは、固形の錠剤等を成形する際に賦形剤として汎用されているものであれば特に制限されることなく適用することができ、中でもソルビトールを配合することが好ましい。造粒処理に用いる糖アルコールの使用量は、特に制限されず、目的とする固体組成物の品質安定性を考慮して適宜設定すればよい。例えば、糖アルコールの使用量は、2重量%〜6重量%、好ましくは3重量%〜4重量%とすればよい。
【0045】
一方、本発明の経口摂取用固体組成物において、必須成分として配合されるビフィドバクテリウム属細菌は、ビフィドバクテリウム属細菌に属する微生物であれば、その種類は特に制限されることなく使用することができる。本発明において使用することができるビフィドバクテリウム属細菌を具体的に例示すれば、ヒトの腸内フローラの主要なものとして知られるビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・アングラータム(Bifidobacterium angulatum)、ヒトの腸内から分離される由来を持つビフィドバクテリウム・ガリカム(Bifidobacterium gallicum)、食品に利用されているビフィドバクテリウム・ラクチス(Bifidobacterium lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)等を挙げることができる。本発明では、これらのビフィドバクテリウム属細菌は、単独或いは2種以上併用して使用することができる。
【0046】
上記のビフィドバクテリウム属細菌は、常法に従って任意の条件下で培養し、得られた培養物から遠心分離等の集菌手段によって菌体を回収して使用すればよい。本発明で使用するビフィドバクテリウム属細菌の使用形態は特に限定されるものではないが、死菌体では、前記酵母細胞壁画分と併用しても腸内環境に対する改善効果が得られない場合があるため、生菌体を使用することが望ましく、生菌体であればいかなる状態(又は、形態)のものでも使用することができる。例えば、各微生物の培養物、各微生物菌体、凍結乾燥菌体等が挙げられる。なかでも、生菌体の保存性が高い凍結乾燥菌体を使用することが望ましい。
【0047】
さらに言えば、本発明のビフィドバクテリウム属細菌は、摂取した後も生きた状態で腸内へ到達できるような形態であることが好ましく、胃酸等の影響を受けないように、食品上許容可能な包括剤で該細菌を包括する、或いは食品上許容可能な被覆剤で被覆することができる。例えば、乾燥粉末とした菌体を油脂でコーティングしたもの(例えば、特開昭57−32221号公報)、脂溶性樹脂で被覆したもの(例えば、特開平3−7233号公報)、非流動性疎水物質に懸濁した菌体をカプセル化したもの(例えば、特開昭62−263128号公報)を、本発明で使用することができる。
【0048】
本発明の経口摂取用固体組成物において、前記した造粒処理した酵母細胞壁画分とビフィドバクテリウム属細菌の配合量は、特に制限されるものではないが、目的とする組成物が腸内環境に与える効果に加え、飲食時の風味や食感を与える品質安定性等も考慮して適宜決定されうる。それら成分の有効含有量は、組成物あたり、酵母細胞画分について、およそ1重量%〜50重量%、好ましくは、10重量%〜30重量%程度、ビフィドバクテリウム属細菌について、およそ0.1重量%〜20重量%、好ましくは、1重量%〜5重量%程度とすればよい。
【0049】
また、本発明の経口摂取用固体組成物は、前記した食物繊維を豊富に含有する造粒処理された酵母細胞壁画分と、生きたビフィドバクテリウム属細菌に加え、更に食感改善作用を有する成分を配合することができる。これにより、口腔内での酵母細胞壁画分の粘度上昇に伴う影響を受けやすい飲食時の風味や食感を更に改善することができ、また独特の嗜好性が付加された経口摂取用固体組成物を提供することが可能となる。
【0050】
本発明の経口摂取用固体組成物に配合することができる好適な食感改善成分を例示すれば、シリアル類を挙げることができる。ここで、シリアル類とは、穀物を加工して、そのまま、或いは簡単な調理で食べられるようにしたものを意味し、具体的には、パフ、オートミール、コーンフレークなどを挙げることができる。中でも、本発明においては、コーンフレークを使用することが好ましい。
【0051】
シリアル類を本発明の経口摂取用固体組成物に配合する場合、その形状は特に制限されることはなく、フレーク状、板状、棒状、球状、不定形な塊状など、種々の形状で好適に使用することできるが、シリアル類の好ましいサイズ(大きさ)は、打錠前のサイズとして約0.125mm〜10.0mm、より好ましくは、約0.25mm〜約2.0mmパスのサイズのものを使用することが好ましい。
【0052】
本発明の経口摂取用固体組成物において、食感改善成分としてのシリアル類の含有量は、得られる組成物の嗜好性の他、飲食時の風味や食感、固体組成物としての成形性、また外的な衝撃等に対する耐久性等に影響を与える品質安定性、具体的に言えば、製品硬度を考慮してその配合量を決定することが好ましい。本発明の経口摂取用固形組成物において、食感改善成分は、得られる組成物に対して、好ましくは1重量%〜30重量%、より好ましくは4重量%〜12重量%である。
【0053】
シリアル類の配合量が1重量%よりも少ないか、或いは、30重量%よりも多くなると、良好な嗜好性が得られないか、或いは、却って嗜好性を損なう場合があり、また、十分な品質安定性が得られず、飲食時の良好な風味と優れた食感を与える組成物が得られない場合や、良好な風味と優れた食感を与えても、固体組成物としての成形性や外的な衝撃等に対する耐久性等を与えるに十分な品質安定性を得られない場合がある。
【0054】
なお、本発明においては、シリアル類の代替物として、或いは、シリアル類と併せて、他の食感改善成分を配合することも可能である。このようなものとしては、ナッツ類、豆類、ドライフルーツ類、焼菓子等を挙げることができる。ここで、ナッツ類としては、例えばローストした種実類、例えばアーモンド、ピーナッツ、マカダミアナッツ、カシューナッツ、くるみ、ピスタチオ、へーゼルナッツなどの全粒、粉砕物、切断物などが挙げられ、ドライフルーツ類としては、例えばドライオレンジ、干ブドウなどが挙げられ、焼菓子としては、例えばワッフル、ウエハース、ビスケットクラム、クッキークラムが挙げられる。
【0055】
本発明の経口摂取用固体組成物は、手軽に経口摂取することができるものであれば、その形態は、特に限定されるものではなく、例えば、粉末状混合物、錠剤状組成物、丸剤状組成物、顆粒状組成物、又は、湿潤した固形状組成物とすればよい。中でも、飲食時に良好な風味と優れた食感を与える品質安定性を有する組成物とするには、打錠成形されてなる固形状の錠剤又はペレットとすることが好ましい。
【0056】
本発明の経口摂取用固体組成物を、固形状の錠剤又はペレットとして製造するには、造粒処理した酵母細胞壁画分とビフィドバクテリウム属細菌、或いはそれらに加えて更に食感改善成分としてのシリアル類に、甘味料、増粘剤、結着剤、賦形剤等の副成分を混合し、汎用の混合機を用いて適宜混合した後、常法により打錠成形することにより製造することができる。
【0057】
打錠成形方法としては、特に制限されないが、汎用のロータリー打錠機、油圧プレス機、単発打錠機で行う方法を挙げることができる。また、打錠圧は、固形状の組成物が成形できる程度であれば特に制限されることはなく、例えば1〜10トン(t)、好ましくは3〜5tであればよい。
【0058】
また、打錠成形物としては、汎用の杵臼を用いた、丸型、三角形、四角形などの形状とすればよく、大きさ等は特に限定されるものではない。
【0059】
本発明の経口摂取用固体組成物を調製する場合に配合する副成分を具体的に例示すれば、パラチノース、還元パラチノース(パラチニット)、ソルビトール、パノース、マンニトール、マルチトール、マルトース、ラクチトール、乳糖等の賦形剤;サッカリン、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル等の滑沢剤;クエン酸、酒石酸リンゴ酸等の酸味料;塩化亜鉛、粉末茶等の矯味剤;天然又は合成の着色剤;天然もしくは合成の食品用フレーバーなどの風味剤、などを挙げることができる。
【0060】
以下、本発明の経口摂取用固体組成物の製造方法についてまとめると次の通りである。
すなわち、本発明の経口摂取用固体組成物の製造方法は、次A)〜D)の工程:
A)酵母を酵素処理及び/又は非酵素処理した後、可溶性菌体内成分を除去して酵母細胞壁画分を得る工程、
B)酵母細胞壁画分を粒状化する工程、
C)粒状化した酵母細胞壁画分と、ビフィドバクテリウム属細菌とを含む前成形組成物を作製する工程、及び
D)前成形組成物を打錠成形する工程、
を含む方法である。
【0061】
ここで、前記A)工程においては、更に高圧処理及び水洗浄処理を施すことが可能である。
また、シリアル類などの食感改善成分は、前記C)工程の前成形組成物を作製する際に配合すればよい。
【0062】
また、前記工程B)は、酵母細胞壁画分を、増粘多糖類、或いは増粘多糖類及び糖アルコールを用いて造粒処理することにより行えばよい。
さらにまた、本発明の経口摂取用固体組成物には、腸内環境の改善に有用な成分を適宜選択して、その適量を配合することもできる。
【0063】
このような成分を具体的に例示すれば、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブルッキィー サブスピーシーズ.デルブルッキィー(Lactobacillus delbueckii subsp. delbueckii)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクチス サブスピーシーズ.クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ラフィノラクチス(Lactococcus raffinolactis)等のラクトコッカス属細菌、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等のエンテロコッカス属細菌等の乳酸菌、ラフィノース、スタキオース等に代表されるガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース等のオリゴ糖類、リグニン、ポリデキストロース等の食物繊維質などを挙げることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を製造例、実施例及び参考例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに何ら制限されるものではない。
【0065】
<製造例1>ビフィドバクテリウム属菌体(B菌)の調製
下記表1に示す組成(%、重量/体積)で調製した培地を2Lコルベンに1.5L作製し、121℃で15分間加熱殺菌した。これにビフィドバクテリウム・ブレーベを1%接種し、水酸化ナトリウムでpHを5.5に保持しながら36℃でおよそ20時間培養して培養液を得た。
この培養液を15,000×Gで遠心分離し、ビフィドバクテリウム属細菌の菌体を集菌した。
【0066】
次に、下表2に示す組成(%、重量/体積)の分散液を100mL調製し、121℃で15分間加熱殺菌した。これに、集菌したビフィドバクテリウム属細菌の菌体を湿重量当り15%分散させ、常法により凍結乾燥してビフィドバクテリウム・ブレーベの凍結乾燥菌体を得た。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
<製造例2>ビール酵母細胞壁画分BYC(Brewer’s Yeast Cell)の調製方法
ビール醸造工程より副生成物として得られる、発酵後ビール酵母スラリーの重量を正確に量った後、固形分が10重量%になるように加水した。水酸化ナトリウムを添加し、遠心分離を行い、沈殿画分に加水して洗浄後、再度遠心分離を行った。固形分が10重量%になるように加水した懸濁物を冷却しながら高圧ホモジナイザー処理を行った後、3時間以上の反応条件で自己消化させ、さらにプロテアーゼを添加し一晩酵素反応を行い、その後、遠心分離を行うことで可溶性菌体成分を除去した。得られた酵母細胞壁画分を、高圧ホモジナイザー(APV社製「Blue−top40.80H」)を用いて60℃下900barで高圧処理を行った。高圧処理は4回行い、それぞれの該高圧処理液状物を水で4倍に希釈・攪拌後、遠心分離機(アルファラバル社製「FEUX512型」)を用いて固液分離を行い、可溶性菌体内成分の洗浄・除去を行った。この洗浄・除去操作をさらに3回繰り返し、酵母細胞壁画分スラリー(以下「BYCスラリー」と略す)を製造した。高圧処理を4回施したBYCスラリーを噴霧乾燥したものを「酵母細胞壁画分:BYC」とし、成分分析を行った。水分は試料を常圧下105℃で5時間加熱する常圧加熱乾燥法(「食品分析法、日本食品工業学会食品分析法編集委員会編、p4」参照)により、タンパク質はケルダール法により、灰分は前述の直接灰化法により、食物繊維は酵素−重量法によりそれぞれ測定した。値を表3に示した。
【0070】
【表3】

【0071】
<実施例1>食感改善効果(検証1)〜造粒処理による効果〜
表4に示す処方に準じ、まず、BYC、還元パラチノース、デキストリン、クリーミングパウダーを混合し、実施品1は精製水にて、実施品2はヒドロキシプロピルセルロース水溶液、実施品3はプルラン水溶液を噴霧液とし流動層造粒機にて造粒し、乾燥してそれにより得られた造粒物に、ビフィズス菌乾燥末、ショ糖脂肪酸エステル及びソルビトールを混合し、打錠機(油圧プレス型単発打錠機)にて、圧縮成型し、一錠あたり19mm四方、重量3gの錠剤を得た。また、造粒工程を行わず、全ての成分を同時に混合し、打錠機(油圧プレス型単発打錠機)にて圧縮成型したものを比較品1とした。なお、圧縮成形の際の打錠圧は、5.0tで一定とした。
【0072】
【表4】

【0073】
食感については、社内官能パネル10名を用い評価を行った。
よいと答えたものを3点、普通と答えたものを2点、悪いと答えたものを1点とし、10名の平均値が2.5点以上を◎、2.0点以上を○、1.5点以上を△、1.5点未満を×とした。
【0074】
歯への付着については、社内官能パネル10名を用い評価を行った。
歯への付着があると答えたパネルが1名以下のものを◎、3名以下のものを○、6名以下のものを△、それ以上を×とした。
【0075】
硬度については、木屋式硬度計(藤原製作所製)にて測定を行った。
表5に示すように食感、歯への付着、硬度ともに、粉体混合を行い直接打錠した錠剤より、流動層造粒機にて造粒し打錠を行った錠剤のほうが優れており、同効果は、噴霧液にヒドロキスプロピルセルロースやプルランなどの増粘多糖類を配合したものの方が優れていた。更に造粒処理は、錠剤の硬度に影響を与える傾向があることが認められた。
【0076】
【表5】

【0077】
<実施例2>食感改善効果(検証2)〜シリアル類による効果〜
表6に示す処方に従い、実施例1と同様にまず、BYC、還元パラチノース、デキストリン、クリーミングパウダーを混合し、プルラン水溶液を噴霧液とし流動層造粒機にて造粒し、乾燥してそれにより得られた造粒物に、ビフィズス菌乾燥末、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトール及び各種コーンフレークを混合し、打錠機(油圧プレス型単発打錠機)にて、圧縮成型し、一錠あたり19mm四方、重量3gの錠剤(実施品4〜13)を得た。なお、圧縮成形の際の打錠圧は、5.0tで一定とした。
【0078】
【表6】

【0079】
表7に示すように、コーンフレークを配合することにより歯への付着が低減し、このような効果は、コーンフレークのサイズによらず認められた。また、配合するコーンフレークの打錠前サイズは、錠剤の硬度に影響を与え、これにより組成物の食感に影響が生じる傾向が認められた。
【0080】
【表7】

【0081】
<実施例3>食感改善効果(検証3)〜造粒処理の改良〜
表8に示す処方に従い、BYC、還元パラチノース、デキストリン、クリーミングパウダーを混合し、実施品14〜16は、プルラン水溶液(A液)を、実施品17〜19は、プルラン及びソルビトールを含む水溶液(B液)を噴霧液とし流動層造粒機にて造粒し、乾燥してそれにより得られた造粒物に、ビフィズス菌乾燥末、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビトール及びコーンフレークを混合し、打錠機(ロータリー打錠機)にて、圧縮成型し、一錠あたり19mm四方、重量3gの錠剤(実施品14〜19)を得た。なお、圧縮成形の際の打錠圧は、3.5t〜4.5tとした。
【0082】
【表8】

【0083】
摩損度については、フライアビレーターを用いて、15rpm、8分の条件で測定を行なった。
【0084】
表9に示すように、コーンフレークを配合した錠剤であっても、造粒処理を改良することにより、良好な食感等を与える硬度を有する品質安定性に優れた組成物が得られた。
【0085】
【表9】

【0086】
<参考例1>ロペラミド誘発性便秘モデルラットにおけるB菌−BYCの便通改善効果
SD系雄性ラット(3週齢、40〜50g)を、粉末飼料(CE−2、日本クレア製)の自由摂食下で1週間予備飼育し、実験環境への馴化を行った後、体重を指標に各群8匹で4群に区分けした。試験区は、対照群、製造例1及び2で調製したB菌+BYC投与群を設定し、供試飼料(被検サンプル)としては、それぞれ表10に示す配合割合で、各飼料中のタンパク質及び食物繊維の含有量が等しくなるように調製したものを用いた。これらの供試飼料をラットに2週間自由摂食させた。
【0087】
【表10】

【0088】
また、供試飼料を11日間投与した後、精製水に溶解した塩酸ロペラミドをラットの体重1kgに対し2mgの割合で3日間投与することで、便秘を実験的に発症させた。
【0089】
便秘発症時には、糞便の水分含量が著しく低下し排便を悪化させることから、塩酸ロペラミドを経口投与した3日間の糞便を採取し、糞便水分含量の測定を行うことで便秘症状に対する効果を検討した。その結果を図1に示す。図1からも分かるように、対照群と比較してB菌+BYC同時投与群では、糞便水分含量が増加する傾向が認められた。
【0090】
また、解剖時に直腸中の新鮮な糞便を採取し、便の性状を観察したところ、対照群では便秘特有の「黒色、小さい、かたい、形がいびつ」などの特徴が認められたが、B菌とBYCを同時摂食させたB菌+BYC群では、著しい便性の改善が認められ、「黄土色、ほどよいかたさ、大きい、形が整っている」など、優れた便性の改善効果が確認された。従って、B菌とBYCを同時に摂取することが、便秘症状の改善により有効であることがわかった。
【0091】
<参考例2>B菌−BYCの腸内細菌叢改善効果(ラット)
参考例1と同様に、SD系雄性ラット(3週齢、40〜50g)を、粉末飼料(CE−2、日本クレア製)の自由摂食下で1週間予備飼育し、実験環境への馴化を行った後、体重を指標に各群8匹で2群に区分けした。参考例1で調整した表10に示す供試飼料をラットに2週間自由摂食させ、塩酸ロペラミドの経口投与による便秘を発症させた。その後、解剖を行い、直腸中の新鮮な糞便を採取し糞中腐敗物質濃度測定に供した。また、盲腸中の内容物を採取し、盲腸内容物重量の測定及び盲腸内容物中の有機酸量測定を行い、B菌とBYCの同時摂取による腸内環境改善効果に対する有効性を検討した。
【0092】
糞便中腐敗物質の測定では、解剖時に得た糞便をガラス試験管に精秤し、5mLのリン酸緩衝液を加えて懸濁後、内部標準としてp−イソプロピルフェノールを加え、酢酸エチルによる抽出を行い、抽出液をマイクロシリンジに採りGLC分析を行った。また、盲腸内容物は、重量測定後、水抽出により有機酸を抽出し、HPLC分析により各物質濃度を測定した後、盲腸内容物重量を乗ずることで有機酸総量を算出した。結果を図2〜5に示す。
【0093】
便秘に伴い糞便中腐敗物質濃度は上昇することから、代表的な腐敗物質であるp−クレゾール、インドール、スカトールの糞中濃度を測定した結果、対照群と比較してB菌+BYC投与群で顕著な減少効果が認められた(図2)。また、盲腸内容物重量は、対照群と比較してB菌+BYC投与群では有意な盲腸内容物重量の増加が認められた(図3)。このことからB菌+BYC群で腸内細菌叢が活性化していると考えられる。さらに、腸内細菌由来の有機酸産生量は、対照群と比較してB菌+BYC群では顕著に増加効果が認められた(図4)。特に、重要な生理機能を有する酢酸・プロピオン酸・酪酸に代表される短鎖脂肪酸については、B菌とBYCの同時投与により、顕著な増加効果が認められ、中でも腸上皮細胞の重要な栄養源である酪酸に関しては、その効果は特に顕著であった(図5)。
【0094】
以上のように、B菌とBYCを同時投与することにより、腸内環境を改善する効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によって、腸内環境の正常化に寄与して、便通や便性、さらには肌荒れなどの皮膚性状等に対する改善効果が期待できる、飲食時の風味や食感に優れた良好な品質安定性を有する経口摂取可能な固体組成物が提供される。この組成物は、食品又は医薬品として、腸内フローラの環境を改善してヒトの健康状態を保持するのに役立つだろう。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】ロペラミド誘発性便秘モデルラットにおけるB菌−BYCの便通改善効果について、対照群と比較したB菌+BYC同時投与群での糞便水分含量の測定結果を示す。
【図2】対照群と比較したB菌−BYCの腸内細菌叢改善効果(ラット)について、代表的な腐敗物質であるp−クレゾール、インドール、スカトールの糞中濃度の測定結果を示す。
【図3】対照群と比較したB菌−BYCの腸内細菌叢改善効果(ラット)について、盲腸内容物重量の測定結果を示す。
【図4】対照群と比較したB菌−BYCの腸内細菌叢改善効果(ラット)について、腸内細菌由来の有機酸産生量の測定結果を示す。
【図5】対照群と比較したB菌−BYCの腸内細菌叢改善効果(ラット)について、重要な生理機能を有する酢酸・プロピオン酸・酪酸に代表される腸内細菌由来の短鎖脂肪酸の産生量の測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造粒処理した酵母細胞壁画分と、ビフィドバクテリウム属細菌とを含有することを特徴とする経口摂取用固体組成物。
【請求項2】
食感改善成分を更に含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
食感改善成分が、シリアル類である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
酵母細胞壁画分が、増粘多糖類を用いて造粒処理されたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
酵母細胞壁画分が、増粘多糖類及び糖アルコールを用いて造粒処理されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
酵母細胞壁画分が、酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去して得られるものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
酵母細胞壁画分が、酵素処理及び/又は非酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去して得られる酵母細胞壁画分を、更に高圧処理及び水洗浄処理が施されたものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
酵母細胞壁画分が、その乾燥物中の食物繊維含量が60%以上のものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
酵母細胞壁画分が、呈味夾雑物を含まない、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
酵母細胞壁画分が、酵母エキス抽出残渣である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
ビフィドバクテリウム属細菌を、生菌として含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
打錠成形された形態である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
酵母細胞壁画分と、ビフィドバクテリウム属細菌とを含有する経口摂取用固体組成物を製造する方法であって、次のA)〜D)工程:
A)酵母を酵素処理及び/又は非酵素処理した後、可溶性菌体内成分を除去して酵母細胞壁画分を得る工程、
B)酵母細胞壁画分を粒状化する工程、
C)粒状化した酵母細胞壁画分と、ビフィドバクテリウム属細菌とを含む前成形組成物を作製する工程、及び
D)前成形組成物を打錠成形する工程
を含む上記方法。
【請求項14】
前記C工程の前成形組成物に更に食感改善成分を配合する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
食感改善成分が、シリアル類である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記B工程が、増粘多糖類を用いた造粒処理である請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記B工程が、増粘多糖類及び糖アルコールを用いた造粒処理である請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記A工程が、高圧処理及び水洗浄処理を更に含む請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−43206(P2008−43206A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218837(P2006−218837)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】