説明

経木積層体製造用接着剤並びに経木積層体及びその製造方法

【課題】 強度の向上と柔軟性の向上とを両立させることができるとともに、低コストで製造可能な経木積層体及びこうした経木積層体を製造するための接着剤を提供する。
【解決手段】 本発明に係る経木積層体は、少なくとも2枚の経木と該少なくとも2枚の経木の間に形成された接着層とを含む経木積層体である。接着層は、接着基剤と無機微粒子と繊維状体とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経木積層体に関し、より具体的には、複数の薄いシート状の木材を貼り合わせて経木積層体を製造するための接着剤並びに当該接着剤を用いた経木積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品などを包装するための容器として、一般に、発泡プラスチックを成形した容器が用いられている。こうしたプラスチック製容器は、軽量で耐水性があり、任意の形状に加工しやすいため広く普及しているが、水や薬品などに強く腐食しにくいことから廃棄後の処理が問題となる。したがって、環境への影響を考慮すると、焼却しても有毒ガスが発生せず、埋め立てた場合でも環境負荷が少ない木製容器を普及させることが好ましい。
【0003】
天然の木材を薄くスライスすることによって得られる経木は、古くから納豆の包装などに用いられており、現在でも、生鮮食料品、おにぎり、弁当、菓子などの食品を包装する材料として用いられている。例えば、古くから弁当の容器などに用いられている折箱は、こうした経木を用いた木製容器として周知である。経木を用いた木製容器は、調湿性、通気性、断熱性に優れ、廃棄後に焼却しても有害ガスを発生しないという利点を持つ。これらの従来の木製容器に用いられる経木は、一般に、約0.5mm〜約3mmの厚みを有する。
【0004】
しかしながら、経木は、木目方向に沿って裂け易い。また、経木は、木目と交わる方向には曲げにくいが、一定以上の力が加わると容易に割れる。さらに、経木を用いた木製容器は、長時間にわたる耐水性が低い。こういった経木の欠点のため、経木の単板を用いた木製容器や木製製品(以下、木製容器等という)は、用途やデザインが限定されていた。さらに、得られる木製容器等の用途やデザインの選択の自由度を高めるためには、より薄い経木、例えば0.5mm以下の厚みの経木を用いることがより好ましいが、こうした薄い経木を用いる場合には、さらに強度や耐水性などの欠点が顕著になるおそれがある。
【0005】
経木及びそれを用いた木製容器の上述の欠点を解決する技術として、例えば、以下のような技術が提案されている。特許文献1には、天然素材の経木に合成樹脂フィルムを貼着してシートを作成し、このシートを型押ししてカップ状に成形した食品ケースが開示されている。この食品ケースは、経木と合成樹脂フィルムとが積層されているため、カップ状に成形しても経木が裂けたり割れたりしにくいという効果を有する。
【0006】
特許文献2には、和紙、用紙、樹脂製不織布、樹脂フィルムなどを薄木板に貼り付けた薄板部材を箱形に組み立てて形成された包装用容器が開示されている。こうした薄板部材は、折り曲げに対して十分な強度を備えるため、箱形に組み立てることが容易であるという特徴を有する。
【0007】
特許文献3には、薄くスライスされた木材に樹脂を含浸させた経木シートの裏面に、シート状部材及び金属シートを接着させることによって構成される、折り曲げに強いシート材が開示されている。
【0008】
特許文献4には、間伐材を薄くスライスして得られた経木状板の間に古紙を挟み、これらを接着剤で固着したラミネート板が開示されている。この技術によれば、古紙を介在させることにより、十分な強度を備えるとともに、環境負荷の低いラミネート板が得られるとされる。
【0009】
上述の特許文献を含む従来の技術においてはいずれも、経木を用いた積層体は、木材を薄くスライスした経木の一方又は両方の面に、例えば樹脂シート、不織布、織布、紙、金属シートなどの基材を貼り合わせることによって、形成されている。このように、従来の経木を用いた積層体は、最終的に得られる積層体の用途に応じて必要な曲げ強度、引っ張り強度をもたせるために、種々の基材を経木に貼り合わせたり、2枚の経木で挟んだりすることによって形成される必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−85742号公報
【特許文献2】実用新案登録第3057761号公報
【特許文献3】特許第4054334号公報
【特許文献4】特開2007−202414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の経木を用いた積層体は、経木の単板と比べて曲げ強度及び引っ張り強度が向上する反面、経木の間に基材を挟まなければならないことで柔軟性が低下するという欠点があった。そのため、従来の積層体を用いて作成される木製容器等においては、用途やデザインの選択の自由度が極めて制限されていた。また、こうした積層体の製造工程においては、基材を挟む際に気泡が混入し、気泡が混入した部分には接着剤が塗布されないため、結果として経木間の接着強度が低下することがあった。さらに、こうした積層体の製造工程においては、基材を挟む工程を必要とするため工程が複雑になっていた。この工程は、経木を用いた積層体に異なる機能を付加することを目的として基材の種類を変える場合にはさらに複雑になり、製造コストの増大を招くことになる。
【0012】
本発明は、これらの課題を解決し、従来の経木より薄い経木を用いた場合であっても基剤を挟むことなく強度の向上と柔軟性の向上とを両立させることができ、貼り合わせた経木間の接着強度と引っ張り強度とが高く、低コストで必要な機能を容易に付加することができる経木積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来の基材の役割を接着層に担わせることによって、得られる経木積層体に求められる強度、柔軟性、耐水性などの特性が、従来の経木を用いた積層体において必要とされてきた基材を使用することなく達成できることを見いだした。
【0014】
本発明の第1の態様は、少なくとも2枚の経木を接合して経木積層体を製造するために用いられる接着剤を提供する。本接着剤は、接着基剤を主成分とし、該接着基剤中に無機微粒子と繊維状体とを含むことを特徴とする。接着剤に含まれる無機微粒子の形状は、表面に凹凸を有する非球状であることが好ましい。接着剤に含まれる無機微粒子は、均一の粒径よりも、様々な粒径の微粒子によって構成されることが好ましい。
【0015】
繊維状体は、その材質を問わないが、化学繊維であることが好ましい。接着剤に含まれる繊維状体は、平均長さの長いものであることが好ましく、平均長さは、少なくとも、経木が有する隣接する2つの木目間の距離より長いことが好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様は、少なくとも2枚の経木が介在する接着層によって接合された経木積層体を提供する。経木積層体は、3枚以上の経木を用いて形成することもできる。経木同士を接合する接着層は、接着基剤と無機微粒子と繊維状体とを含む接着剤の層を硬化させることによって形成される。経木積層体に含まれる少なくとも2枚の経木は、得られる経木積層体の折り曲げ強度及び引っ張り強度をさらに向上させるために、各々の経木の有する木目の方向が互いに非平行状態となるように積層されていることが好ましい。また、経木積層体に含まれる少なくとも2枚の経木は、同じ木材又は同じ種類の木材からスライスされたものであってもよく、一方の経木が他方の経木と異なる木材又は異なる種類の木材からスライスされたものであってもよい。
【0017】
本発明の第3の態様は、本発明に係る経木積層体を用いて形成された容器を提供する。容器は、複数の経木積層体を互いに接合して形成されたものであってもよく、1枚の経木積層体を折り曲げ加工して形成されたものであってもよい。容器には、必要に応じて防水加工や撥水加工などの加工を行ってもよい。
【0018】
本発明の第4の態様は、複数の経木が接着層によって接合された経木積層体を製造するための方法を提供する。本方法は、接着基剤と無機微粒子と繊維状体とを含む接着剤を準備する工程と、木材をスライスして作成された少なくとも2枚の経木の間に前記接着剤の層を形成する工程と、前記少なくとも2枚の経木と前記接着剤の層とを含む積層体を加熱しながら加圧する工程と、を含むことを特徴とする。3枚以上の経木を用いて、各々の経木の間に接着剤の層を形成し、3枚以上の経木と接着剤の層を含む積層体を加熱しながら加圧することによって、3枚以上の経木を含む経木積層体を製造することもできる。接着剤は、水又はアルコールによって希釈されたものが用いられることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、経木の間に基材を挟むことなく、簡略化された工程で、強度と柔軟性とが両立されるとともに、貼り合わされた経木同士の接着強度と引っ張り強度とが高い経木積層体が得られる。強度及び柔軟性は、用いる接着剤の接着基剤の配合を変えることで調整することができる。本発明に係る接着剤を用いることにより、強度と柔軟性とを両立させた経木積層体が得られるため、これまで経木の単板又は基材を挟んだ積層体では不可能であった二次曲線やヒンジ加工を有するデザイン性の優れた木製容器等を実現することができる。また、接着層により防水機能が発揮されるため、水分が多い内容物を収容することが可能な木製容器等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る経木積層体を示す模式図である。
【図2】接着強度及び引っ張り強度の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る経木積層体を模式的に示したものである。なお、図1は、本発明の一実施形態に係る経木積層体を説明するための模式図であり、それぞれの層の厚み、無機微粒子及び繊維状体の大きさ、木目の幅などについては図面の状態に限定されるものではない。本発明の一実施形態に係る経木積層体は、天然の木材を薄くスライスして得られる2枚の経木1、3が、その2枚の経木1、3の間に形成された接着層2で接合された積層構造を有する。接着層2は、接着基剤5と無機微粒子6と繊維状体7とを含む接着剤の層を硬化させて形成されたものである。本発明の別の実施形態においては、経木積層体は、木材を薄くスライスして得られる3枚以上の経木が、その3枚以上の経木の各々の間に形成された接着層で接合された積層構造を有するものとすることもできる。すなわち、積層体に含まれる経木の枚数は、本発明の目的を達成できる限りにおいて限定されない。以下の説明においては、2枚の経木が接着層で接合された実施形態について説明する。
【0022】
ここで、本発明においては「接着剤」は、経木に塗布される前の物質を指し、「接着剤の層」は、接着剤が経木に塗布されることによって形成された層を指す。また、「接着層」は、経木の間に形成された接着剤の層が硬化して接着力が発現した状態の物質(層)を指す。
【0023】
本発明に係る経木積層体に用いられる経木1、3の原料となる木材は、薄いシート状に加工できる木材であれば特に限定されない。経木の原料となる木材として、例えば、カラマツ、ヒノキ、スギ、エゾマツ、アカマツ、シナ、カバ、トドマツなどを用いることができる。
【0024】
本発明に係る経木積層体に用いられる経木1、3は、従来の経木を製造する方法と同様の方法で製造することができる。したがって、本明細書においては、その製造方法については説明しない。経木1、3の厚みは、約0.05mm〜約0.5mmであることが好ましく、約0.1〜約0.2mmであることがより好ましい。経木1、3の厚みが約0.5mmより厚くなると、得られる経木積層体の柔軟性が乏しくなる。一方、経木1、3の厚みが約0.05mmより薄いものでも本発明に係る経木積層体を実現することは不可能ではないが、木材をスライスする工程で亀裂や穴が形成されるおそれがあり、薄い経木を作成するコストが上昇するため好ましくない。
【0025】
本発明に係る経木積層体において、経木1及び3を接合するために用いられる接着剤は、接着基剤5と無機微粒子6と繊維状体7とを含む。
本発明に係る経木積層体に用いられる接着剤における接着基剤5の種類は特に限定されない。木材を貼り合わせる目的で一般に用いられる接着基剤の中から任意に選択して使用することができる。接着基剤5として、例えば、天然ゴム系接着剤、ゴムラテックス系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、シリコーン系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤などといった当業者に周知の接着基剤を、単独で又はいくつかの種類を組み合わせて、用いることができる。
【0026】
用いられる接着基剤5の種類は、結果として得られる経木積層体に要求される特性に応じて、適宜選択されることが好ましい。例えば、本発明の一実施形態において、得られる経木積層体の特性として柔軟性が求められる場合には、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤と天然ゴム系接着剤とを混合したものを接着基剤5として用いることができる。柔軟性の高い経木積層体は、例えば、経木積層体で作成された容器の一部を可動とすることによって容器を閉じられるようにしたものや、製造工程において経木積層体の一部を折り曲げることによって容器を形成するものなどといった容器への使用に適している。また、本発明の一実施形態において、得られる経木積層体の特性として耐水性が求められる場合には、アクリル樹脂系接着剤とウレタン樹脂系接着剤とシリコーン系接着剤とを混合したものを接着基剤5として用いることができる。耐水性の高い経木積層体は、例えば、食品を収容するための容器、使い捨てタイプではない容器若しくはパッケージ、又は、小物類への使用に適している。
【0027】
本発明に係る経木積層体の接着層2には、無機微粒子6が混合される。無機微粒子6が混合された結果、接着層2の全体に分散されることによって、経木1と3とが剥離される力が経木積層体に加わったときに無機微粒子6が接着層2内部に働く力を分散させる機能を果たすため、接着層2自体の凝集破壊が生じにくくなり、結果として経木積層体の接着強度が高くなるものと考えられる。接着剤に混合される無機微粒子6として、例えば、酸化アルミニウム(Al)微粒子、炭化ケイ素(SiC)微粒子、二酸化ケイ素(SiO)微粒子、窒化ホウ素(BN)、といった微粒子、又はこれらの混合物を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の一実施形態においては、無機微粒子6は、球形状よりも表面に凹凸が存在する形状の方がより好ましい。こうした無機微粒子6が被着体である経木1、3の凹凸に入り込むことによって、経木1、3と接着層2との接着強度が高くなり、経木1と3とが剥離しにくくなると考えられる。また、2枚の経木1、3の各々に、その表面に平行な方向にそれぞれ逆向きのせん断力が加わった場合に、経木1、3の凹凸に入り込んだ無機微粒子6が経木1、3と接着層2との間のずれを抑制するように作用すると考えられる。
【0029】
無機微粒子6は、均一の粒径のものを用いることも、様々な粒径の微粒子が混合されたものを用いることもできる。本発明の一実施形態においては、粒径分布が広いもの、すなわち、様々な粒径の微粒子が混合されたものを用いることが好ましい。経木1、3の表面には、様々な大きさの凹凸が存在する。したがって、粒径分布の広い無機微粒子6を用いることにより、経木1、3表面のそれぞれの凹凸に、そのサイズに合った無機微粒子6が入り込みやすくなり、その結果、経木1、3と接着層2との接着強度がさらに高くなると考えられる。無機微粒子6は、その平均粒径が接着層2の厚みより小さいものであることが必要である。無機微粒子6の平均粒径が接着層2の厚みより大きくなると、経木1、3と接着層2との接着強度が低下することがある。
【0030】
本発明に係る経木積層体の接着剤には、さらに繊維状体7が混合される。繊維状体7が、接着剤全体に分散され、硬化した接着層2内で網目状に絡み合うことにより、経木積層体の引っ張り強度(経木1、3の木目の延びる方向と垂直な方向に力が加わったときの経木積層体の強度)が高くなると考えられる。繊維状体7の種類は特に限定されるものではなく、合成繊維、ガラス繊維、若しくは炭素繊維といった化学繊維、又は、植物繊維若しくは動物繊維といった天然繊維のいずれでもよく、これらの繊維の混合物でもよい。強度の観点からは、繊維状体7は化学繊維であることが好ましい。一方、廃棄の際の環境負荷を低減させるためには、繊維状体7は、天然繊維であることが好ましく、被着体である木材との親和性の観点から植物繊維であることがより好ましい。繊維状体7は、その平均長さが、少なくとも経木1、3が有する隣接するいずれか2つの木目間の距離のうち最大の距離より長いことが好ましい。2つの隣接する木目間の距離は、約1cmより小さいことが好ましい。経木1、3の木目間の距離が小さい場合には、こうした経木を用いて得られる経木積層体のしなやかさが増すため、経木積層体を用いた容器等の加工や造形が容易になる。繊維状体7は、その平均径が接着層2の厚みより小さいものであることが必要である。繊維状体7の平均径が接着層2の厚みより大きくなると、経木1、3と接着層2との接着強度が低下することがある。
【0031】
接着剤に含まれる接着基剤5、無機微粒子6、及び繊維状体7の混合比は、接着基剤5の体積100に対して、無機微粒子6が約3〜約10体積パーセント、繊維状体7が約3〜約7体積パーセントであることが好ましく、無機微粒子6が約5〜約7体積パーセント、繊維状体7が約5体積パーセントであることがより好ましい。無機微粒子6及び繊維状体7の混合比が小さすぎると、経木積層体において必要な強度が得られない場合がある。また、無機微粒子6及び繊維状体7の混合比が大きすぎると接着不良が発生するおそれがある。
【0032】
本発明において用いられる接着剤は、アルコール又は水を用いて希釈することがより好ましい。接着剤をアルコール又は水で希釈することにより、接着剤の粘度が低下し、無機微粒子6及び繊維状体7が、接着基剤中に適切に分散する。また、粘度を低下させることによって、接着基剤5及び無機微粒子6が経木1、3の表面の凹凸に入り込み、接着強度が増大すると考えられる。さらに、粘度を低下させることによって、製造工程においてより均一に接着剤の層を形成することができる。希釈しすぎると接着剤として必要な接着力が得られなくなるため、希釈割合は、約5〜約10%であることがより好ましい。塗布される経木1、3とのなじみがよい、塗布ムラが発生しにくい、乾燥時間が短いといった理由により、接着剤の希釈はアルコールによって行われることが好ましい。
【0033】
本発明に係る経木積層体においては、複数の経木を、すべての木目が同じ方向を向くように貼り合わせてもよく、又は、互いの木目が交差する方向を向くように貼り合わせてもよい。複数の経木を、互いの木目が交差する方向を向くように貼り合わせることによって、得られるシート木材積層体の引っ張り強度を高めることが可能となる。また、さらに機能性を付加することを目的として、経木積層体に種々のコーティング施工を行うこともできる。例えば、防水機能をさらに高めるために、経木積層体に、例えばアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などといった樹脂を含む防水コーティング剤を塗布してもよい。また、例えば、経木積層体を食品用容器の材料として用いるために、抗酸化作用を有する物質を含むコーティング剤を経木積層体に塗布してもよい。
【0034】
次に、本発明に係る経木積層体の製造方法を説明する。まず、従来の経木を作成する方法と同様の方法で、木材を削り、薄い経木を作成する。経木の木目は、柾目とすることも板目とすることもできる。本発明においては、経木の木目は、折り曲げ加工などの際に木目に沿って均一な加工が容易であるという理由で、柾目が好ましい。
【0035】
経木の作成とは別に、接着剤を準備する。接着剤は、本明細書において上述したように、所望の接着基剤に、無機微粒子及び繊維状体を混合して作成する。混合の際には、無機微粒子及び繊維状体が接着基剤中に均一に分散するように混合することが好ましい。混合方法として、好ましくは、まず無機微粒子を接着基剤に配合して撹拌し、次に、繊維状体を少量ずつ接着基剤中に散りばめるように投入して混合する。繊維状体の混合の際には、混合容器中において接着基剤を下方から上方へ回転するように撹拌することが好ましい。なお、無機微粒子及び繊維状体をより均一に分散させるためには、アルコール又は水による希釈は、接着基剤に無機微粒子及び繊維状体を混合する前に行うことが好ましいが、希釈は、これらを混合した後に行ってもよい。
【0036】
次に、経木の一方の面に接着剤を塗布して接着剤の層を形成する。接着剤の層の厚みは、本発明の効果が得られる限り限定されるものではないが、接着層2が約0.3mmとなるように塗布することが好ましい。接着剤の層が厚すぎると、経木積層体の柔軟性及び質感の低下、重量の増加、加圧時の接着剤のはみ出しなどといった不都合が生じる可能性がある。逆に接着剤の層が薄すぎると、接着不良が生じる可能性がある。
【0037】
経木の一面に形成された接着剤の層に別の経木を積層し、両者を貼り合わせる。貼り合わせに際しては、接着剤の層を介して積層された2枚の経木を積層方向に加熱しながら加圧する。この工程は、汎用のプレス装置で行うことができる。加熱温度は、接着剤の層が約90℃となるように制御されることが好ましく、そのためには、積層体の経木表面の温度が約110℃となるように加熱することが好ましい。加熱時の経木表面の温度が高すぎる場合には、接着剤の水分の蒸発の際に気泡が発生し、接着力が低下する。加熱時の経木表面の温度が低すぎる場合には、水分の蒸発に時間がかかり、必要な接着力が得られない。加熱及び加圧が終了した積層体を自然乾燥させることによって、本発明に係る経木積層体が得られる。
【0038】
このようにして製造された経木積層体は、これまでの経木単板でも作成されていた容器のみならず、これまでは不可能であったタイプの容器を作成するのに用いることができる。これまで経木単体では不可能であった容器として、例えば、酒、ソフトドリンクなどの液体飲料の容器、氷菓、アイスクリームなどの冷凍食品の容器、和菓子、点心などの冷凍輸送用デザートの容器、ケーキ、ドーナツなどのための組み立て式容器などを挙げることができる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
エゾマツから、縦100mm×横200m×厚み0.1mmの大きさの経木2枚を作成した。接着剤は、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤(常磐化学工業株式会社製 トキワノール NS−8209)を用いた。接着基剤100ccに対して、アルコール5ccの割合でアルコールを混合して、接着基剤を希釈した。これに、無機微粒子として平均粒径の異なる3種類のホワイトアルミナ(Al)粉末(スルザーメテコジャパン株式会社)と、繊維状体として化学繊維とを混合した。混合されたホワイトアルミナ粉末は以下のとおりである。
(a) ホワイトアルミナ粉末 ♯400
(b) ホワイトアルミナ粉末 −125+90μm
(c) ホワイトアルミナ粉末 200μm
平均粒径は(a)が最も小さく、(c)が最も大きい。また、繊維状体は、化学繊維のロール(ジェックス株式会社製 ロールマットワイド)から必要量をカットし、繊維をほぐして用いた。繊維の長さは、約30mm〜約50mmであった。接着基剤100ccに対して、無機微粒子5ccを混合して撹拌し、さらに繊維状体5ccを混合して撹拌した。無機微粒子は、上述の3種類のホワイトアルミナ粉末を1:1:1の割合で用いた。繊維状体の混合の際には、繊維状体が接着基剤中に均一に混合されるように、前述のように、繊維状体を少量ずつ混合した。なお、繊維状体の体積は、化学繊維のロールから必要量を切り出した状態で計算した。
【0040】
こうして得られた接着剤を1枚の経木の表面に塗布し、その上に、2枚目の経木を木目が平行となるように積層して、2枚の経木と接着剤の層との積層体を作成した。接着剤は、幅広のステンレス製スクレーパを用いて、均一の厚さになるように経木に塗布した。接着剤の塗布厚さは、約0.3mmであった。この積層体を、積層体の表面の温度が110℃となるように加熱しながら、約10kgの力を加えて約10秒間加圧した。その後、加熱を停止し、そのまま約1時間加圧し続けた。この積層体を約12時間、常温で乾燥させ、最終的に経木積層体を得た。
【0041】
(実施例2)
実施例1において用いられた接着基剤、すなわち、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤に、ゴム系接着剤(セメダイン株式会社製 ゴムラテックス系接着剤Ch−7)を、接着基剤100ccに対して5ccの割合で配合したものを接着基剤として用いた。使用した接着基剤以外の条件は、実施例1と同様であった。ゴム系接着剤を接着基剤として用いることにより、最終的に得られる経木積層体の柔軟性を高めることができる。
【0042】
(実施例3)
実施例1において用いられた接着基剤、すなわち、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤に、ゴム系接着剤(セメダイン株式会社製 ゴムラテックス系接着剤Ch−7)を、接着基剤100ccに対して15ccの割合で配合したものを接着基剤として用いた。使用した接着基剤以外の条件は、実施例1と同様であった。
【0043】
(実施例4)
実施例1において、積層される2枚の経木をエゾマツから作成された10mm×50mm×0.1mmの大きさのものとし、これらの経木を実施例1と同様の方法で貼り合わせて、経木積層体を得た。
【0044】
(比較例1)
実施例1において、接着基剤に無機微粒子及び繊維状体を混合せずに準備した接着剤を用いて、2枚の経木を貼り合わせた。使用した接着剤以外の条件は、実施例1と同様であった。
【0045】
(比較例2)
実施例1において、接着基剤をゴム系接着剤(セメダイン株式会社製 ゴムラテックス系接着剤Ch−7)とし、接着基剤に無機微粒子及び繊維状体を混合せずに準備した接着剤を用いて、2枚の経木を貼り合わせた。使用した接着剤以外の条件は、実施例1と同様であった。
【0046】
(比較例3)
実施例1において、接着基剤をシリコーン系接着剤(セメダイン株式会社製 セメダインAX−016 80%と、同社製 セメダイン8000 20%との混合物)とし、接着基剤に無機微粒子及び繊維状体を混合せずに準備した接着剤を用いて、2枚の経木を貼り合わせた。使用した接着剤以外の条件は、実施例1と同様であった。
【0047】
(比較例4)
実施例1において、積層される2枚の経木をエゾマツから作成された10mm×50mm×0.1mmの大きさのものとし、これらの経木を、実施例1と同様の接着基剤に無機微粒子及び繊維状体を混合せずに準備した接着剤を用いて貼り合わせて、経木積層体を得た。
【0048】
(接着強度)
実施例1〜3及び比較例1〜3によって作成された経木積層体について、接着強度を測定した。接着強度は、卓上型引張圧縮試験機(株式会社今田製作所製)を用いて行った。上述の実施例1〜3及び比較例1〜3に記載のとおり得られた経木積層体から7cmの試験体を切り出し、その試験体の両面に接着強さ試験片を接着し、2つの接着強さ試験片を互いに反対方向に引っ張ることによって、経木積層体の接着強度を測定した。実施例1及び実施例2、並びに、比較例2及び比較例3については、同様に作成された2つの経木積層体の接着強度を測定し、実施例3及び比較例1については、同様に作成された3つの経木積層体の接着強度を測定した。
【0049】
接着強度の試験結果を図2の表に示す。表から、無機微粒子及び繊維状体を含む接着層によって接着された経木積層体は、無機微粒子及び繊維状体を含まない接着層によって接着された経木積層体と比較して、接着強度が著しく向上することがわかる。
【0050】
(引っ張り強度)
実施例4及び比較例4に記載のとおり得られた経木積層体について、引っ張り強度を測定した。引っ張り強度は以下のように測定した。まず、10mm×50mm×0.5mmの短冊状の経木積層体の2つの短辺部分を両方の端部として、その両端部から長辺と平行な方向にそれぞれ20mmの位置を2つのクランプによって挟んだ(すなわち、2つのクランプの間に、長辺と平行な方向に10mmの経木積層体が露出することになる)。経木積層体の長辺が鉛直方向を向くように経木積層体を縦に配置し、一方のクランプを固定した上で、他方のクランプに荷重を加えた。クランプ間に露出した経木積層体のいずれかの部分が破断したときの荷重を、引っ張り強度とした。なお、参考として、10mm×50mm×0.1mmの大きさの経木1枚の引っ張り強度も測定し、これを比較例5とした。実施例4については、同様に作成された4つの経木積層体の接着強度を測定し、比較例4及び比較例5については、同様に作成された3つの経木積層体の接着強度を測定した。
【0051】
引っ張り強度の試験結果を図2の表に示す。表から、無機微粒子及び繊維状体を含む接着層によって接着された経木積層体は、無機微粒子及び繊維状体を含まない接着層によって接着された経木積層体と比較して、引っ張り強度が著しく向上することがわかる。
【符号の説明】
【0052】
1、3 経木
2 接着層
4 木目
5 接着基剤
6 無機微粒子
7 繊維状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の経木を接合して経木積層体を製造するために用いられる接着剤であって、接着基剤を主成分とし、該接着基剤中に無機微粒子と繊維状体とを含むことを特徴とする、経木積層体の製造用接着剤。
【請求項2】
前記無機微粒子の形状は、表面に凹凸を有する非球状であることを特徴とする、請求項1に記載の経木積層体の製造用接着剤。
【請求項3】
前記無機微粒子は、種々の粒径を有する無機微粒子からなることを特徴とする、請求項1に記載の経木積層体の製造用接着剤。
【請求項4】
前記繊維状体の平均長さは、少なくとも、前記経木が有する隣接する2つの木目間の距離のうち最大の距離より長いことを特徴とする、請求項1に記載の経木積層体の製造用接着剤。
【請求項5】
前記繊維状体は化学繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の経木積層体の製造用接着剤。
【請求項6】
少なくとも2枚の経木と該少なくとも2枚の経木の間に形成された接着層とを含む経木積層体であって、前記接着層が、主成分となる接着基剤と無機微粒子と繊維状体とを含むことを特徴とする、経木積層体。
【請求項7】
前記少なくとも2枚の経木は、各々の経木の木目方向が非平行状態となるように積層されたことを特徴とする、請求項6に記載の経木積層体。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の経木積層体を用いて形成されたことを特徴とする容器。
【請求項9】
接着基剤に無機微粒子と繊維状体とを混合することにより接着剤を準備する工程と、
木材をスライスして作成された少なくとも2枚の経木の間に前記接着剤の層を形成する工程と、
前記少なくとも2枚の経木と前記接着剤の層とを含む積層体を加熱しながら加圧する工程と、
を含むことを特徴とする経木積層体の製造方法。
【請求項10】
前記接着剤を準備する工程は、前記接着剤を水又はアルコールによって希釈する工程を含むことを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記無機微粒子の形状は、表面に凹凸を有する非球状であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記無機微粒子は、種々の粒径を有する無機微粒子からなることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記繊維状体の平均長さは、少なくとも、前記経木に含まれる複数の木目のうち最大幅の木目の幅より長いことを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
前記繊維状体は化学繊維であることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項15】
前記少なくとも2枚の経木は、各々の経木の木目方向が非平行状態となるように積層されることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77196(P2012−77196A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223338(P2010−223338)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(510262415)株式会社山忠 (1)
【Fターム(参考)】