説明

経皮吸収テープ製剤

【課題】 本発明は、粘着力が優れており皮膚に適切に貼付でき、且つ、フェンタニルを長時間にわたって適当量経皮投与しうる経皮吸収テープ製剤を提供する。
【解決手段】
薬剤不透過性支持シートの一面に、アクリル酸2エチルヘキシル70〜80重量%とビニルピロリドン30〜20重量%のみの共重合体よりなる粘着剤100重量部、ジエチレングリコールモノセチルエーテル1〜10重量部、オクタン酸及び/又はオレイン酸1〜10重量部、ラウリル酸ジエタノールアミド1〜5重量部、ポリビニルピロリドン5〜20重量部及びフェンタニル5〜15重量部からなる経皮吸収製剤層が積層されていることを特徴とする経皮吸収テープ製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤としてフェンタニルを含有する経皮吸収テープ製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェンタニルは極めて優れた鎮痛剤であり、少量で効果があるところから経皮投与することが行われている。例えば、非透過性のフィルムと活性化合物透過性の膜から形成されたサシェ袋中に液体又はゼラチン様の製剤としてフェンタニルを含有し、その膜には更に皮膚にシステムを固定するための接着層が配設されている、所謂「リザーバシステム」が既に市販されている。
【0003】
しかしながら、上記リザーバシステムは、リザーバのサシェ袋に漏れがあった場合、フェンタニルを含有するリザーバの内容物が広範な領域に渡って皮膚と接触し、フェンタニルが過剰に高用量で吸収される。フェンタニルの過剰投与は極めて急速に呼吸抑制をもたらし、従って致命的となるため、非常に危険である。
【0004】
このような致命的欠陥を解消するためにフェンタニルを含有するテープ製剤が提案されている。例えば、「活性化合物非透過性の裏打ち層、ポリアクリレート系でありフェンタニルまたはフェンタニル類縁活性化合物を含むマトリックス層少なくとも1つ、および、使用前に除去する保護フィルムよりなる経皮治療システム(TTS)であって、(遊離の官能基を有さず、そして、アクリルまたはメタクリル酸のエステルの単量体のみから、そして適切には更に50質量%までの遊離の官能基を有さない他の重合性ビニル化合物、特に酢酸ビニルから合成される)ポリアクリレートが自己接着性を有し、そしてカルボキシル基を含まず、フェンタニルに対する飽和溶解度が3〜20質量%、好ましくは飽和溶解度4〜12、特に好ましくは飽和溶解度5〜10質量%を有することを特徴とし、そして、活性化合物含有層が分子的に分散性の溶解した形態において配合された活性化合物少なくとも80質量%を含有することを特徴とする上記経皮治療システム。」(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。
【特許文献1】特表2005−501111号公報
【0005】
しかしながら、上記テープ製剤に使用する粘着剤としては、「遊離のカルボキシル基を有さず遊離のヒドロキシル基5.2質量%を有する中性ポリアクリレート接着剤」との記載しかなく、粘着力が優れており皮膚に適切に貼付でき、且つ、フェンタニルを長時間にわたって適当量経皮投与しうるテープ製剤を得ることはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、粘着力が優れており皮膚に適切に貼付でき、且つ、フェンタニルを長時間にわたって適当量経皮投与しうる経皮吸収テープ製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の経皮吸収テープ製剤は、薬剤不透過性支持シートの一面に、アクリル酸2エチルヘキシル70〜80重量%とビニルピロリドン30〜20重量%のみの共重合体よりなる粘着剤100重量部、ジエチレングリコールモノセチルエーテル1〜10重量部、オクタン酸及び/又はオレイン酸1〜10重量部、ラウリル酸ジエタノールアミド1〜5重量部、ポリビニルピロリドン5〜20重量部及びフェンタニル5〜15重量部からなる経皮吸収製剤層が積層されていることを特徴とする。
【0008】
本発明で使用される薬剤不透過性支持シートは、フェンタニルが不透過性の支持シートであれば、特に限定されず、従来からテープ製剤、バッチ製剤、パップ製剤等の支持シートとして一般に使用されているシートが好ましく、例えば、酢酸セルロース、エチルセルロース、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、SIS樹脂、SEBS樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アルミニウム等のシートが挙げられる。又、これらのシートは、上記樹脂の繊維の織布又は不織布であってもよいし、これらのシート、織布及び不織布の積層シートであってもよい。薬剤不透過性支持シートの厚さは特に限定されず、皮膚に貼付するのであるから一般に10〜1000μmであり、好ましくは20〜100μmである。
【0009】
本発明で使用される経皮吸収製剤は、粘着剤100重量部、ジエチレングリコールモノセチルエーテル1〜10重量部、オクタン酸及び/又はオレイン酸1〜10重量部、ラウリル酸ジエタノールアミド1〜5重量部、ポリビニルピロリドン5〜20重量部及びフェンタニル5〜15重量部からなる。
【0010】
上記粘着剤は、アクリル酸2エチルヘキシル70〜80重量%とビニルピロリドン30〜20重量%のみの共重合体よりなる粘着剤である。アクリル酸2エチルヘキシルとビニルピロリドンの共重合体中のアクリル酸2エチルヘキシルの含有量が多くなると粘着剤の凝集力が低下し、べたついて皮膚に貼付すると再剥離性が低下し、逆に少なくなると粘着性が低下するので、共重合体中のアクリル酸2エチルヘキシルとビニルピロリドンの比率はアクリル酸2エチルヘキシル70〜80重量%とビニルピロリドン30〜20重量%であり、好ましくはアクリル酸2エチルヘキシル73〜78重量%とビニルピロリドン27〜22重量%である。又、アクリル酸2エチルヘキシル以外のアクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド等の官能基を有するビニルモノマー等が共重合されると、フェンタニルを溶解して保持する効果が低下し、経皮吸収効果が低下するので、上記共重合体はアクリル酸2エチルヘキシルとビニルピロリドン以外のビニルモノマーは共重合されない。
【0011】
上記共重合体の重合方法は従来公知の任意の重合方法が採用されてよく、例えば、溶液重合法、エマルション重合法、懸濁重合法、バルク重合法等が挙げられる。
【0012】
上記ジエチレングリコールモノセチルエーテルは経皮吸収促進剤であり、その添加量が少なくなるとフェンタニルの経皮吸収促進効果が低下し、多くなると粘着剤の凝集性能を低下させたり、にじみ出たりするので、粘着剤100重量部に対し1〜10重量部添加される。
【0013】
上記オクタン酸及びオレイン酸も経皮吸収促進剤であり、フェンタニルの結晶化を抑制すると共に粘着剤に対するフェンタニルの飽和溶解度を向上させる効果を有しているが、多く添加すると粘着剤がやわらかくなりべたついて皮膚に貼付すると再剥離の際糊残りするので、粘着剤100重量部に対し1〜10重量部添加される。尚、オクタン酸とオレイン酸は単独で添加されてもよいし併用されてもよい。
【0014】
上記ラウリル酸ジエタノールアミドも経皮吸収促進剤であり、その添加量が少なくなるとフェンタニルの経皮吸収促進効果が低下し、多くなると粘着剤の性能を低下させたり、皮膚刺激性が増大するので、粘着剤100重量部に対し1〜5重量部添加される。
【0015】
上記ポリビニルピロリドンは、粘着剤に対するフェンタニルの飽和溶解度を向上させると共に粘着剤の凝集力を向上させる効果を有しているが、添加量が多くなると粘着剤の粘着性能が低下し皮膚接着力が弱くなるので、粘着剤100重量部に対し5〜20重量部添加される。
【0016】
上記フェンタニルは鎮痛剤であり、薬効成分である。フェンタニルの添加量が少なくなると経皮吸収される量が少なくなり鎮痛効果が低下し、多くなると結晶化して添加効果が向上しなかったり、粘着剤の溶解性が高い場合は多量に経皮吸収され呼吸抑制をもたらすことがあるので、粘着剤100重量部に対し5〜15重量部添加される。
【0017】
本発明の経皮吸収テープ製剤の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、上記薬剤不透過性支持シートの一面に、アクリル酸2エチルヘキシル70〜80重量%とビニルピロリドン30〜20重量%のみの共重合体よりなる粘着剤100重量部、ジエチレングリコールモノセチルエーテル1〜10重量部、オクタン酸及び/又はオレイン酸1〜10重量部、ラウリル酸ジエタノールアミド1〜5重量部、ポリビニルピロリドン5〜20重量部及びフェンタニル5〜15重量部からなる経皮吸収製剤を塗布乾燥することにより経皮吸収製剤層を積層すればよい。
【0018】
経皮吸収製剤層の厚さは特に限定されないが、経皮吸収製剤層は経皮吸収テープ製剤を皮膚に貼付するための粘着剤層である共にフェンタニルを貯蔵するための薬効成分含有層であるから一般に50〜5000μmであり、好ましくは100〜2000μmである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の経皮吸収テープ製剤の構成は上述の通りであるから、人体の皮膚に適切に貼付でき、経皮吸収製剤層に含有されているフェンタニルは長時間にわたって人体に経皮により一定量経皮吸収される。従って、患者に対し、長時間安全に鎮痛効果を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
粘着剤Aの合成
攪拌機付きの500ml反応容器に、酢酸エチル200g、アクリル酸2エチルヘキシル75g、ビニルピロリドン25g及びアゾビスイソブチロニトリル0.005gを仕込み、反応容器内を窒素置換した後、75℃で15時間重合を行って粘着剤Aを得た。
【0021】
粘着剤Bの合成
攪拌機付きの500ml反応容器に、酢酸エチル200g、アクリル酸2エチルヘキシル95g、アクリル酸5g及びアゾビスイソブチロニトリル0.005gを仕込み、反応容器内を窒素置換した後、75℃で15時間重合を行って粘着剤Bを得た。
【0022】
(実施例1、比較例1〜9)
表1に示した粘着剤(固形分換算)に、表1に示した所定量のフェンタニル、ジエチレングリコールモノセチルエーテル、オレイン酸、ラウリル酸ジエタノールアミド及びポリビニルピロリドン(ナカライテスク社製、商品名「ポリビニルピロリドンK−90」、重量平均分子量360,000)を添加し、良く混合して得られた経皮吸収製剤溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥後の厚さが200μmになるよう設定したナイフコーターを使用して塗膜をつくり、温度50℃で24時間溶媒を乾燥させて経皮吸収テープ製剤を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
得られた経皮吸収テープ製剤のフェンタニル結晶析出の有無、皮膚刺激性、皮膚粘着性及び糊残り性を測定し結果を表2に示した。
フェンタニルの結晶の析出
得られた経皮吸収テープ製剤を室温で72時間保存した後、フェンタニルの結晶の析出状態を目視で観察した。
【0025】
皮膚刺激性
得られた経皮吸収テープ製剤を3.14cm2(直径2cmの円形)の大きさに切断し、試験片とした。この試験片を日本白色種ウサギ(雄、2.2−2.5kg)の背部に24時間貼付し、剥離30分後の貼付部皮膚の紅斑生成状態を目視で観察し、紅斑の生成状態をDraiz法(1959年FDA、1973年FederalRegister)により評価した。試験は、試料数n=4(1試験片につき1匹)で行い、下記の判定基準に従って評点をつけ、評点の平均値を皮膚刺激指数とした。
紅斑全くなし・・・・0点
非常に軽度の紅斑・・・・1点(やっと認められる程度の紅斑)
明らかな紅斑・・・・2点
中程度ないし強い紅斑・・・・3点
深赤色の強い紅斑に軽い痂皮形成・・4点
【0026】
皮膚粘着性及び糊残り性
皮膚刺激性試験において、ウサギから経皮吸収テープ製剤を剥離した際に、ウサギに糊残りがないか目視で観察した。
【0027】
【表2】

【0028】
皮膚粘着性及び糊残り性、皮膚刺激性において問題が少なかった実施例1及び比較例1〜5の経皮吸収テープ製剤を用いて下記の通り薬物経皮吸収性試験をn=3で行い、結果を表3に示した。
【0029】
薬物経皮吸収性試験
人の皮膚を37℃の水を循環させたフランツ型拡散セルに挟み、レシーバー(真皮)側に水とポリエチレングリコール400の混合液(70:30)を供給し、マグネティックスターラーにより攪拌した。ドナー(角質)側には経皮吸収テープ製剤を適用し、72時間薬物の透過試験を行った。12時間後、24時間後、48時間後及び72時間後にレシーバー中の混合液を採取して、その中の薬物濃度を高速液体クロマトグラフ(HPLC)により測定し、皮膚を透過した薬物量(累積透過量)を求めた。
【0030】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤不透過性支持シートの一面に、アクリル酸2エチルヘキシル70〜80重量%とビニルピロリドン30〜20重量%のみの共重合体よりなる粘着剤100重量部、ジエチレングリコールモノセチルエーテル1〜10重量部、オクタン酸及び/又はオレイン酸1〜10重量部、ラウリル酸ジエタノールアミド1〜5重量部、ポリビニルピロリドン5〜20重量部及びフェンタニル5〜15重量部からなる経皮吸収製剤層が積層されていることを特徴とする経皮吸収テープ製剤。

【公開番号】特開2009−29768(P2009−29768A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214145(P2007−214145)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(501296380)コスメディ製薬株式会社 (42)
【Fターム(参考)】