説明

経皮吸収型フリーラジカル抑制製剤

【課題】安定性が維持された経皮吸収型フリーラジカル抑制製剤を提供する。
【解決手段】基剤中に有効成分として次式:
【化1】


で表される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン又はその医学的に許容され得る塩を含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封してなることを特徴とするフリーラジカル抑制製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば脳梗塞、くも膜下出血等を含む脳機能障害全般に対して脳機能を保持し得る製剤に関する。詳細には、有効成分として3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを含有する、安定性が維持された経皮吸収型フリーラジカル抑制製剤(例えば脳保護製剤)及び該経皮吸収型フリーラジカル抑制製剤の安定性維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンは、フリーラジカル消去作用を有する脳保護剤であり、脳梗塞急性期に伴うヒトの神経症候、日常生活動作障害、機能障害の改善薬として、注射剤(点滴静注、点滴による静脈注射)にて使用されている。近年、高齢化、食生活の多様化、日常生活におけるストレスの増加等により生じた脳機能障害等に悩む人も多く、それ故、脳機能障害への迅速かつ的確な対策は医療上重要な課題の一つとされている。
【0003】
脳梗塞などの虚血時及びその後の血流再開通後にヒトの生体内に過剰に発生するヒドロキシラジカル(・OH)などのフリーラジカルは、ヒトの細胞膜に連鎖的に酸化障害を引き起こし、脳虚血障害を更に悪化させる。このような場合に3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン含有注射剤(商標名:ラジカット注30mg、1回分あたり有効成分30mgを含む注射剤)を点滴静注にて用いると、該注射剤はヒトの生体内のヒドロキシラジカルを消去することにより、脳虚血障害に対する優れた治療効果を発揮する。
【0004】
ところが、前記注射剤は、その点滴静注時に患者の体(静脈)に注射針を刺すので患者に苦痛を与え、また、前記点滴静注は通常ベッド上に横たわった患者に対して行われるので、患者は一定時間(点滴静注が行われている間)、前記ベッド上に拘束される。加えて、インスリンやインターフェロン等の一部の注射剤を除いて患者本人による注射を行うことはできず、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン含有注射剤の点滴静注も、当然、患者本人にて行うことはできないので、医師、看護婦又は看護士による点滴静注(投与)が必要となる。それ故、患者は点滴静注のための入院又は通院を余儀なくされる。患者が点滴静注のために入院又は通院する場合であっても、点滴静注時に患者は苦痛を感じ、そして医師、看護婦、看護士等の医療関係者は点滴静注(投与)を行うための時間を必要とするので、例えば、点滴静注を用法・用量通り1日2回行うと、その都度、患者と医療関係者に苦痛と時間の消費が生じる。さらに、注射剤の点滴静注に伴う肝機能障害等の副作用が報告されており、かかる副作用は、点滴静注による血中薬剤濃度の一過性の上昇が原因の一つで起きることは容易に予測される。
このような状況から、長時間にわたって効果を持続させることができる上に、患者への苦痛が低く、且つ、投与が容易でしかも副作用の少ない3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン含有脳保護剤の開発が要望されていた。
【0005】
出願人は、既に上述の要望に応えるべく、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の一つとして脳保護剤を提案しており(PCT/JP03/14362)、実施例においてその顕著な効果を確認している。すなわち、試験例1において、出願人は、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを、提案する経皮吸収型脳保護剤の形態と従来の注射剤の形態(静脈内投与)とでラットに投与し、その後の経時的な血漿中薬物濃度を定量している。その結果、注射剤の形態においては、静注直後は高い血漿中薬物濃度を示したがその後急速にその濃度が減少し、4時間後に消失してしまったのに対して、出願人の提案した経皮吸収型脳保護剤は、貼付2時間後に静脈内投与レベルの血漿中薬物濃度を上回り、それ以降製剤を剥離除去する24時間後まで略一定な血漿中薬物濃度を維持し得ることが
認められている。さらに、ラット一過性局所脳虚血モデルを用いた薬効薬理試験においては、出願人の提案した貼付剤は、脳梗塞面積を有意に減少させていることが明らかとなっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンは酸素により分解しやすい性質のものであり、したがって、その薬効を長期間にわたって高水準で持続することが求められる。そのため、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを含有する脳保護剤は、その製造から使用までの間、周囲環境の空気中の酸素から常に保護されている必要がある。そこで出願人は、脱気密封した酸素非透過包装材内で、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を保存することを試みた。
しかし、上記手段を用いても、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤はその製造当初こそ分解が抑制されたものの、その後経時と共に、薬物(3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)残存率が低下し、医薬品として要求品質を満たさない80%以下という水準にまで達する場合もあった。さらにその上、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤自体の変色も著しく、医薬品としては到底採用され得ないものであった。かかる結果より、酸素非透過包装材内を脱気して保存するという方法は、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の安定性を維持するのには有効な手段とはなり得ないことが判った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の結果は、包装材内部の周囲酸素だけでなく、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の基剤に溶存していた酸素の経時的な発生により3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンの分解が経時的に続行することによるものと推測される。そこで出願人は、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封したことによって有効成分の残存率が長時間にわたって極めて高い水準で維持され、且つ、フリーラジカル抑制剤自体の変色も抑制され得ることを見出し、本発明を完成したのである。
すなわち、本発明の第一の態様は、
基剤中に有効成分として次式:
【化1】

で表される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン又はその医学的に許容され得る塩を含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封してなることを特徴とするフリーラジカル抑制製剤に関する。
本発明の第二の態様は、
前記有効成分の含有量が、基剤に基づき0.1ないし30質量%であることを特徴とする請求項1記載のフリーラジカル抑制製剤に関する。
本発明の第三の態様は、
前記脱酸素剤は、鉄を含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフリーラジカル抑制製剤に関する。
本発明の第四の態様は、
基剤中に有効成分として次式:
【化2】

で表される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン又はその医学的に許容され得る塩を含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封することを特徴とする、前記フリーラジカル抑制剤の安定性維持方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の経皮吸収型フリーラジカル抑制製剤は、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を酸素非透過包装材内に密封して、前記製剤外部から前記経皮吸収型フリーラジカル抑制剤内部への空気の侵入を抑えるとともに、脱酸素剤を包装材内に封入したことにより、前記経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の基剤に溶存する酸素を継続的に吸収することができる構成としたものである。したがって、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の薬効が長期間にわたって高い水準で持続して維持され、且つ、変色が防止され得るという顕著に優れた効果を奏する。
また、有効成分としての3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンの含有量が、基剤に基づき0.1ないし30質量%であるとき、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤としての薬効がより有効に発揮される。
さらに、本発明において用いられる脱酸素剤が鉄を含むものであるとき、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の安定性維持効果がより一層高いものとなる。
本発明のフリーラジカル抑制製剤は、上記の効果の他、次のような利点をも持ち合せている。
a)虚血後に生じる脳細胞死を有効に抑制でき、しかも3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンの有効血中濃度を長時間にわたり維持できる、
b)投与及び投与の中止が簡便であり、例えば薬剤の副作用が生じたときには製剤を拭き取ったり(例えば、軟膏等の形態の場合)、剥離したり(例えば、貼付剤形態の場合)するだけで、投与を中止することができる。
c)薬剤の有効血中濃度が長時間にわたり持続的に維持されるので、従来の点滴静注に比べて薬剤投与回数を低減することができ、これにより、治療時の患者のコンプライアンスを向上し、また介護者の負担の軽減を図ることができる。
d)血中薬剤濃度が所定の範囲内に維持され、点滴静注の場合のように血中薬物濃度が好ましくない値まで一時的に高まることがないため、血中薬物濃度の一過性の上昇に伴う薬剤の副作用を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンはフリーラジカル消去作用を有し、例えばヒドロキシラジカル(・OH)等のフリーラジカルを消去して、細胞膜等で生じる酸化障害を抑制し得る。本発明において、有効成分の配合量は処方によって異なるが、適する基剤中に、該基剤の総量に基づいて、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、とりわけ0.5〜10質量%配合するのが望ましい。
【0010】
本発明において、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤は、適する種々の形態、例えば軟膏
、ペースト、ガム等の形態であってよい。この中で、患者への投与が容易である貼付剤の形態がより好ましい。貼付剤は、用途に応じて、例えばパップ剤、プラスター剤、テープ剤等の各種貼付剤の形態であってよい。貼付剤は、例えば、塗布するのに適する形態(例えば、軟膏形態)の3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを適する基剤(例えば水性基剤やゴム系基剤)に所定量添加したものを、適する支持体に所定の厚さで塗膏し、その上から所定のライナーで被覆し、これを所望の大きさに裁断して製造することができる。貼付剤は、その製造方法によっては、例えば、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを含有する基剤を先ずライナーに塗膏して基剤層を形成し、その上から支持体で被覆し、前記基剤層を前記支持体上に転写することにより形成してもよい。
【0011】
経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の基剤は、水性基剤又はゴム系基剤であることが好ましい。水性基剤としては、例えば、成分1):水溶性高分子、成分2):架橋剤、成分3):多価アルコールを混合してなるものを使用することができ、またゴム系基剤としては、例えば、成分4):ゴム系高分子、成分5):可塑剤、成分6):粘着付与剤を混合してなるものを使用することができる。
【0012】
成分1)の水溶性高分子の例は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸部分中和物、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、アクリル酸デンプン、エチル酢酸ビニル、ゼラチン、デンプン、オイドラギッド、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、トラガント等である。前記水溶性高分子は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。前記水溶性高分子の配合量は、水溶性基剤の総量に基づいて、1〜20質量%、好ましくは3〜6質量%である。
【0013】
成分2)の架橋剤としては、例えば、水などに溶解した場合に二価又は三価の金属イオンを生成する塩類などを用いることができる。前記架橋剤の例は、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムマグネシウムのような水酸化物、或いは塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、カオリン、ステアリン酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムのような無機酸又は有機酸の塩、或いはそれらの塩基性塩、アルミニウムミョウバンのような複塩、更にアルミン酸ナトリウムのようなアルミン酸塩、無機性アルミニウム錯塩及び有機性アルミニウムキレート化合物、合成ヒドロタルサイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、EDTA−アルミニウム、アルミニウムアラントイネート、酢酸アルミニウム、アルミニウムグリシナール等である。前記架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。前記架橋剤の配合量は、水溶性基剤の総量に基づいて、0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。 前述の架橋剤としての二価又は三価の金属イオンを生成する塩類は、水に易溶性のものであってもよいし、又は、水に難溶性のものであってもよい。前記架橋剤として水に難溶性のアルミニウム化合物を用いたとき、ゲル化を行なうべき反応系中に反応速度調整剤を添加することができ、特に酸を添加することでゲル化の反応速度を速くすることが可能である。酸として特に水酸基を含む有機酸又はその塩類を添加することによって、ゲル化反応は著しく速くなる。前記反応速度調節剤の例は、クエン酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸、グリコール酸、リンゴ酸、フマール酸、メタスルホン酸、マレイン酸、酢酸、EDTA−2ナトリウム、尿素、トリエチルアミン、アンモニア等の、金属イオンに対してキレート形成能又は配位能を持つ有機酸、有機酸塩、有機塩基など、及び塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸等である。
【0014】
成分3)の多価アルコールの例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、トリオキシイソブタン、エリトリット、ペンタエリトリット、キシリット、アドニット、アロズルシット、ソルビトール、ソルビット液、マンニトール、ポリエチレングリコール等である。前記多価アルコールは、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。前記多価アルコールの配合量は、基剤の総量に基づいて、10〜80質量%、好ましくは10〜60質量%である。
【0015】
成分4)のゴム系高分子の例は、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体、ポリイソブチレン、生ゴム、ポリイソプレン、ポリブテン等である。前記ゴム系高分子は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いることもできる。前記ゴム系高分子の配合量は、基剤の総量に基づいて、10〜70質量%、好ましくは20〜50質量%である。
【0016】
成分5)の可塑剤の例は、流動パラフィン、植物油、動物油、ポリブテン、低分子ポリイソブチレン、ワセリン、ラノリン、高級脂肪族エステル等である。前記可塑剤は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。前記可塑剤の配合量は、基剤の総量に基づいて、10〜70質量%、好ましくは20〜50質量%である。
【0017】
成分6)の粘着付与剤の例は、石油樹脂、ロジン系樹脂、水添ロジン、エステルガム、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、芳香族炭化水素樹脂、脂肪族炭化水素樹脂等である。前記粘着付与剤は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。前記粘着付与剤の配合量は、基剤の総量に基づいて、5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。
【0018】
貼付剤において使用される支持体は特に限定されず、貼付剤の支持体として慣用の材料を使用することができる。例えば前記支持体は、天然又は合成高分子の織布、不織布、シート、 フィルム又はそれらの積層体であってよい。前記合成高分子の好ましい例は、ポ
リ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン系樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂や、ポリエチレン樹脂と他の樹脂とのブレンド)、エチレン系共重合樹脂(例えば、エチレンと他のモノマーとの共重合体)、ポリプロピレン系樹脂(例えば、ポリプロピレン樹脂や、ポリプロピレン樹脂と他の樹脂とのブレンド)、ポリウレタン樹脂等である。前記支持体の大きさ、形状、厚さ等は適宜選択する。
【0019】
貼付剤において使用されるライナーは特に限定されず、貼付剤のライナーとして慣用の材料を使用することができる。例えば前記ライナーは、天然又は合成高分子のシート、
フィルム又はそれらの積層体であってよい。前記ライナーの好ましい例は、剥離し易くするための処理(例えば、合成高分子のコーティング)を施した剥離紙や、セロファン,ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレン,ポリエステル,ポリ塩化ビニリデン等のシート、 フィルム又はそれらの積層体である。
【0020】
本発明において用いられる脱酸素剤は、酸素を吸収し得る性質を有するものと解される。経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の安定性の維持という面から、使用される脱酸素剤は、所定の期間にわたって酸素を吸収し続け得る効果を有するものが望まれる。例えば、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を脱酸素剤と共に酸素非透過包装材内に密封した場合において、前記脱酸素剤は、前記経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の薬物(3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)残存率を、60℃にて3週間の間、90%以上維
持するような酸素吸収能を有することが望まれる。また、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤と共に密封されるという使用方法から、該経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の品質に悪影響を与えるような性質のものは避けるべきである。本発明において用いられる脱酸素剤としては、例えば、無機系主剤として鉄、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、チオ硫酸塩などを含有したもの、或いは、有機系主剤としてL−アスコルビン酸、エルソルビン酸及びそれらの塩、グルコースなどの還元性糖類、カテコール、ピロガロールなどの還元性多価フェノール類、エチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類を含有したもの、若しくは、エージレス(登録商標)FX−L、エージレスZ−PK、エージレスGL、エージレスSA(三菱瓦斯化学社)等が挙げられる。これらの中でも、鉄を含有した脱酸素剤が、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の安定性がより一層維持され得る効果が高いためにとりわけ好ましい。脱酸素剤は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。使用される脱酸素剤量は、例えば、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の基剤の量を考慮して適宜決定される。例えば、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の基剤の量が多くなれば、該基剤に溶存している酸素もまた多くなると考えられるため、使用される脱酸素剤は前記基剤量に応じてより多量に使用される。脱酸素剤は、おおむね、基剤の総量に基づいて、0.005〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%の量で使用される。
本発明に用いられる脱酸素剤は、それ単独でも、或いは、通気性包装材料により充填包装して脱酸素剤包装体としても使用され得る。脱酸素剤包装体として使用され得る場合の通気性包装材料としては、脱酸素剤用途に用いられる包装材料であれば特に制限はないが、酸素吸収効果を十分に得るためにできるだけ通気性の高い包装材料が望ましい。また、本発明における脱酸素剤を、熱可塑性樹脂に配合してフィルムもしくはシート状の脱酸素剤とすることもできる。このようなフィルムもしくはシート状の脱酸素剤は、そのまま、或いは通気性材料で覆って使用することができる。
【0021】
本発明において用いられる酸素非透過包装材は、該包装材内の経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を該包装材外の酸素から保護する必要があるため、酸素を透過しない材質のものが選択される。この点から、酸素非透過包装材は、その酸素ガス透過度が20mL/(m2・24時間・MPa)(20℃)以下のものが要求される。好ましくは、その酸素ガス
透過度が2mL/(m2・24時間・MPa)(20℃)以下の酸素非透過包装材である
。さらには、酸素非透過包装材は、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の品質を損なわない材質、例えば、該経皮吸収型フリーラジカル抑制剤と化学反応を起こさないような材質であること、及び、破損して酸素が前記包装材内へ混入することを防止するために、一定水準以上の引張り強さもまた必要である。具体的に本発明において用いられる包材としては、例えば、アルミニウム包材、アルミニウム蒸着ポリエチレン、アルミニウム箔とポリエチレンのラミネ−トフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムに塩化ビニリデンをコートしたもの(KOP)、延伸ナイロンに塩化ビニリデンをコートしたもの(KON)、ポリエチレンテレフタレートに塩化ビニリデンをコートしたもの(KPET)などのラミネートフイルム、或いは、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)、アルミニウム箔などのガスバリヤー性フィルムを積層したものが挙げられる。
【0022】
経皮吸収型フリーラジカル抑制剤には、基剤並びに有効成分である3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン又はその医学的に許容され得る塩の他に、必要に応じて他の種々の添加剤、すなわち経皮吸収促進剤、粘着付与剤、軟化剤、酸化防止剤、老化防止剤、保存剤、着香剤、pH調整剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、溶解剤等を所定比率で配合することができる。
酸化防止剤の例は、パルミチン酸、亜硫酸水素ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸4ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸トコフェロール、dl−α−トコフェロール、ジクロルイソシアヌル酸カリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、大豆レシチン、ピロ亜硫酸ナトリウム、
1,3−ブチレングリコール、ペンゾトリアゾール、ペンタエリスリル−テトラキス[3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、没食子酸プロピル、2−メルカプトベンズイミダゾール等である。前記酸化防止剤は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。前記酸化防止剤の配合量は、基剤の総量に基づいて、0.005〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
経皮吸収促進剤の例は、アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、乳酸エステル、酢酸エステル、テルペン系化合物、ピロリドン誘導体、有機酸、有機酸エステル、精油、炭化水素、エイゾン又はその誘導体等である。更に具体的には、前記経皮吸収促進剤は、エタノール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、クロタミトン、シクロデキストリン、チオグリコール酸カルシウム、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸エチル、乳酸セチル、乳酸、尿素、l−メントール、ハッカ油、d−リモネン、dl−カンフル等である。前記経皮吸収促進剤は、1種のみを用いてもよいし、又は、2種以上を所定比率にて適宜混合して用いてもよい。前記経皮吸収促進剤の配合量は、基剤の総量に基づいて、0.1〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
溶解剤の例は、n−メチル−2−ピロリドン、クロタミトン、マクロゴール、イソプロパノ−ル、ハッカ油、プロピレングリコール、ブチレングリコール、オレイルアルコール、ミリスチン酸イソプロピル等である。特にn−メチル−2−ピロリドン及びクロタミトンは、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンの溶解度が高く、前記溶解剤として有用である。
【0023】
本発明のフリーラジカル抑制製剤は、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤と脱酸素剤とを酸素非透過包装材内に入れて密封することにより製造され得る。このとき、包装材内を脱気して、可能な限り酸素を除去しておくことが望ましい。そして、包装材を密封することが、該包装材外部の酸素を包装材内に混入することを防止するのに不可欠である。包装材を密封するのに適した手段は、例えばヒートシールである。
【0024】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、部及び%は、特に示されない限り、質量に基づくものとする。
【実施例】
【0025】
実施例1
ポリアクリル酸ナトリウム5部、アクリル酸デンプン6部、タルク9部及び濃グリセリン35部を混合した(A液)。酒石酸2.3部を水21.5部に溶解した(B液)。有効成分として3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン3部を、乳酸5部、イソプロパノール5部、ミリスチン酸イソプロピル1部、L−メントール1部及びポリソルベート80 0.4部の混合液に溶解した(C液)。A液にB液及びC液を加え、さらにポリアクリル酸共重合エマルジョン2.5部及び水3.1部に懸濁した水酸化アルミニウムゲル0.2部を加えて均一に混合した。この混合物をポリエステル製の不織布上に展延し、ポリエチレン製のフィルムで被覆した。これを10cm2の大きさに裁断して、3−
メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン含有経皮吸収型フリーラジカル抑制剤(貼付剤)を得た。シール剤を内面処理したアルミニウム包材(7cm×6cm)に前記経皮吸収型フリーラジカル抑制剤1枚及び脱酸素剤(エージレス(登録商標):Z−50PK(三菱ガス化学社)、組成:鉄、ゼオライト、塩水、活性炭を主成分とする。)1個を入れて、ヒートシールによりアルミニウム包材を密封し、本発明のフリーラジカル抑制製剤(実施例1)を得た。
実施例2
脱酸素剤としてエージレス:FX−50L(組成:鉄を主成分とする。)を用いた以外は実施例1と同様に調製し、本発明のフリーラジカル抑制製剤(実施例2)を得た。
実施例3
脱酸素剤としてエージレス:GL−50(組成:グリセリン、ゼオライト、ケイソウ土を主成分とする。)を用いた以外は実施例1と同様に調製し、本発明のフリーラジカル抑制製剤(実施例3)を得た。
実施例4
脱酸素剤としてエージレス:SA−50(組成:鉄、ゼオライト、塩水、活性炭を主成分とする。)を用いた以外は実施例1と同様に調製し、本発明のフリーラジカル抑制製剤(実施例4)を得た。
比較例1
脱酸素剤を用いない他は、実施例1と同様に調製し、比較例1を得た。
比較例2
比較例1と同様に調製し、さらにアルミ包材の隅に小さな穴を開けて、細いチューブを入れ、セロハンテープで空気が漏れないように固定し、真空ポンプによりチューブを介して脱気して、再びヒートシールし、比較例2を得た。
【0026】
試験例:安定性試験
1)試験方法
実施例1〜4、及び比較例1及び2を60℃の恒温器に入れ、3週間後に経皮吸収型フリーラジカル抑制剤中の薬物(3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)含量をHPLCにより測定した。測定結果を、薬物残存率(%)として、図1に示す。また、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の着色の有無をも目視にて確認した。結果を表1に示す。
【表1】

【0027】
結果
脱酸素剤無しである比較例1においては、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤中の薬物残存率が75%であり、安定性が不十分との結果となった。さらに、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤が濃緑色に着色していた(表1)。以上より、脱酸素剤が併用されなかった比較例1のフリーラジカル抑制剤は、性状が著しく劣化しており、医薬品として採用し得ないものであると判る。これに対し、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを脱酸素剤と併用した実施例1〜4においては、医薬品として要求される90%以上の薬物残存率が認められており、なお且つ、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の着色も認められなかった(表1)。特に、鉄を含有する脱酸素剤を用いた実施例1、2及び4の経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の薬物残存率がより高いことが判る。また、脱酸素剤を用いずにアルミニウム包材内を脱気したのみの比較例2においては、薬物残存率が77%にとどまり、しかも経皮吸収型フリーラジカル抑制剤の着色が認められるため、安定性が不十分であることが判る。比較例2の結果より、アルミニウム包材内を脱気したとしても、経皮吸収型フリーラジカル抑制剤自体に溶存している酸素が徐々に放出され、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンの安定性を低下させることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】安定性試験後の実施例1〜4及び比較例1、2の薬物残存率を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基剤中に有効成分として次式:
【化1】

で表される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン又はその医学的に許容され得る塩を含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封してなることを特徴とするフリーラジカル抑制製剤。
【請求項2】
前記有効成分の含有量が、基剤に基づき0.1ないし30質量%であることを特徴とする請求項1記載のフリーラジカル抑制製剤。
【請求項3】
前記脱酸素剤は、鉄を含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフリーラジカル抑制製剤。
【請求項4】
基剤中に有効成分として次式:
【化2】

で表される3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン又はその医学的に許容され得る塩を含有する経皮吸収型フリーラジカル抑制剤を、脱酸素剤と共に、酸素非透過包装材内に密封することを特徴とする、前記フリーラジカル抑制剤の安定性維持方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−298774(P2006−298774A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118239(P2005−118239)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(591051885)リードケミカル株式会社 (18)
【Fターム(参考)】