説明

結像素子の作成方法

【課題】加工精度の高い結像素子をコストおよび時間を節約して簡易に作成することができる結像素子の作成方法を提供する。
【解決手段】
基板3に形成する微小孔31の2つの鏡面31a,31bに対応した2側面22a,22bを有する凸型の打抜き刃22を金属ブロック21に複数配列してなる刃部2を、超音波発振部12により振動させながら、昇圧部13により基板3に下降させて圧接させ、打抜き刃22で基板3を打抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
平面を構成する基板に、これを垂直に貫通する複数の微小孔を形成し、各孔の内面に直交する2つの鏡面を形成して、該各孔を透過する光の屈曲により、前記平面の一方の空間に配置された物体や映像を反対側の空間に実像として結像させる結像素子の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の結像素子の作成方法としては、特許文献1に示すように、ナノ加工によって金属製の金型に配列した筒状体を作成し、該筒状体の隣接する2側面(微小孔の鏡面に対応した側面)の面粗さを50nm以下とする鏡面形成を行った上で、該金型を用いてナノインプリント工法または電鋳工法により反転転写し、基板に所定のピッチで複数の微小貫通孔を形成することが知られている。
【特許文献1】国際公開第WO2007/116639号公報(特に段落[0032])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、かかる従来の結像素子の作成方法では、ナノ加工による金型の作成に加えて、ナノインプリント工法や電鋳工法による反転転写が必要である。さらに、実際には、金型から結像素子を分離するために金型を溶かす必要が生じる。そのため、1つの結像素子を作成するために、莫大な製造コストと時間が掛かるという不都合がある。
【0004】
一方で、結像素子は、鏡面の加工精度や微小孔の配列精度如何により、結像した実像の歪みや輝度の低下を生じ得る。そのため、微小孔の加工精度を一定以上に維持する必要性から、前記製造プロセスを簡略化することは困難である。
【0005】
以上の事情に鑑みて、本発明は、加工精度の高い結像素子をコストおよび時間を節約して簡易に作成することができる結像素子の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、平面を構成する基板に、これを垂直に貫通する複数の微小孔を形成し、各孔の内面に直交する2つの鏡面を形成して、該各孔を透過する光の屈曲により、前記平面の一方の空間に配置された物体や映像を反対側の空間に実像として結像させる結像素子の作成方法であって、前記鏡面に対応した少なくとも2側面を有する凸型の打抜き刃を複数配列してなる刃部を、超音波で振動させながら前記基板に圧接させ、該打抜き刃で該基板を打抜くことを特徴とする。
【0007】
本発明の結像素子の作成方法によれば、鏡面に対応した少なくとも2側面を有する凸型の打抜き刃で基板を打抜くことにより、基板に複数の微小孔を形成する。そのため、簡単な装置構成で結像素子を簡易に作成することができ、素子の作成コストおよび時間を大幅に節約することができる。
【0008】
このとき、打抜き刃を超音波で振動させる。これにより、該振動および該振動に伴う刃と基板との間の摩擦熱との相乗効果により打抜き時の切断性が向上し、基板面に対する直角性が高く且つ平滑性の高い鏡面を得ることができる。
【0009】
このように本発明の結像素子の作成方法によれば、加工精度の高い結像素子をコストおよび時間を節約して簡易に作成することができる。
【0010】
また、本発明は、平面を構成する基板に、これを垂直に貫通する複数の微小孔を形成し、各孔の内面に直交する2つの鏡面を形成して、該各孔を透過する光の屈曲により、前記平面の一方の空間に配置された物体や映像を反対側の空間に実像として結像させる結像素子の作成方法であって、前記基板を固定した台座を超音波で振動させながら、前記鏡面に対応した少なくとも2側面を有する凸型の打抜き刃を複数配列してなる刃部を該基板に圧接させ、該打抜き刃で該基板を打抜くことを特徴とする。
【0011】
かかる本発明の結像素子の作成方法によれば、打抜き刃を超音波で振動させる代わりに、基板が固定されている台座を超音波で振動させる。これにより、打抜き刃を振動させた場合と同様に、打抜き時の切断性が向上し、基板面に対する直角性が高く且つ平滑性の高い鏡面を得ることができる。このように、かかる本発明の結像素子の作成方法によっても、加工精度の高い結像素子をコストおよび時間を節約して簡易に作成することができる。
【0012】
本発明の好ましい態様において、前記基板が金属製の薄板であることを特徴とする。
【0013】
かかる態様によれば、基板を金属製とすることにより、他の材質を用いるよりも打抜き面の反射率を高めることができる。これにより、該打抜き面を鏡面とすることができ、反射膜のコーティング等の処理を必要とせず、コストおよび時間を節約して加工精度の高い結像素子を簡易に作成することができる。
【0014】
また、かかる金属材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス、クロム、およびモリブデンとのうちのいずれか1つの金属または2以上の金属を含む合金を用いることができる。
【0015】
さらに、本発明の好ましい態様において、前記基板が樹脂製の薄板からなり、前記打抜き刃で該基板を打抜いた後に、前記鏡面に反射膜をコーティングすることを特徴とする。
【0016】
かかる態様によれば、基板を樹脂製とした場合には、例えば金属に比して打抜き面の反射率は低下する。しかしながら、打抜き面に反射膜をコーティングすることにより、樹脂部材に対しても、高い反射率を有する鏡面を形成することができ、加工精度の高い結像素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1を参照して、本発明の一実施形態として、結像素子を作成するための装置構成について説明する。結像素子を作成するための装置は、超音波ウェルダ1と、超音波ウェルダ1のホーン11に取り付けられた刃部2とを備える。
【0018】
超音波ウェルダ1は、ホーン11に超音波振動を付与する超音波発振部12と、ホーン11および超音波発振部12を一体として昇降させる昇降部13と、昇降部13を支柱14に高さ自在に支持する支持部15と、ホーン11の下方で支柱14を直立に支持する台座16と、超音波発振部12および昇降部13の作動を制御するコントローラ17とを備える。なお、コントローラ17と超音波発振部12および昇降部13との間が、ケーブル18で接続されており、ケーブル18を介して相互に信号が伝達される。
【0019】
超音波発振部12は、内部に図示しない超音波発振器が設けられており、コントローラ17からの制御信号により、所定の発振周波数でホーン11を振動させる。
【0020】
昇降部13は、内部に図示しないサーボモータとサーボモータの主軸(ロータ)に連結されたボールネジとを備え、ボールネジを超音波発振部12のフレームに設けられた雌ネジを螺合させることにより、サーボモータで超音波発振部12を昇降させる。
【0021】
支持部15は、昇降部13に連結された横枠15aと、横枠15aを支柱14に固定する止めネジ15bとを備え、止めネジ15bによって横枠15aおよび昇降部13の高さ位置が可変となっている。
【0022】
台座16は、その上部に平板状のテーブル16aが設けられており、テーブル16aの上に加工基板(ワーク)3が載置可能となっている。
【0023】
コントローラ17は、操作パネル17aと、表示部17bとを備え、オペレータの操作パネル17aの操作により、超音波発振部12の超音波発振器の発振周波数および昇降部13のサーボモータの出力(回転速度およびトルク)が可変に設定される。また、表示部17bには、超音波発振部12および昇降部13の制御状態等が表示される。
【0024】
図2に示すように、刃部2は、厚板状の金属ブロック21の表面に複数の打抜き刃22を格子状に配列してなる。なお、金属ブロック21の裏面側は、図示しない固定手段によりホーン11に固定されている。
【0025】
打抜き刃22は、四角錘の頂点を切欠いた形状であって、4つの側面のうちの隣接する2つの側面22a,22bが金属ブロック21に対して垂直に立ち上がると共に、これら2つの側面22a,22bのなす角が直角となっている。また、2つの側面22a,22bによってできる角部の一端が、当該打抜き刃22の先端部22cとなっている。そして、先端部22cから各側面22a,22bに沿って円弧状に座繰られた座繰り部22dが形成されている。
【0026】
本実施形態において、打抜き刃22の一辺は100μmであり、かかる打抜き刃22が互いに100μmの間隔を空けて金属ブロック21に縦横に配置されている。
【0027】
また、本実施形態において、打抜き刃22は、金属ブロック21の表面をバイトにより切削したものを用いたが、これに限らず、ワイヤー放電加工や砥石による研磨等により打抜き刃22を形成してもよい。さらに、金属ブロック21および打抜き刃22の材質は、加工対象となる基板3の材質に合わせて適宜選択される。
【0028】
次に、以上説明した装置構成を用いた結像素子の作成方法について説明する。
【0029】
まず、平面を構成する金属製の薄板からなる2枚の基板3を重ねてテーブル16aに積置して固定する。ここで、基板3は、例えば、アルミニウム、ステンレス、クロム、モリブデンのうちのいずれか1つの金属または2以上の金属を含む合金からなる薄板である。これらの金属または合金であれば、打抜きによる加工に適しており、後述するように打抜き面(加工面)の反射率も高いためである。
【0030】
なお、本実施形態では、基板3の打抜きを確実とするため、基板3を2枚重ねにし、下側の基板3を下敷きとしているが、1枚の基板3のみをテーブル16aに載置してもよい。
【0031】
そして、基板3のテーブル16aへの載置固定と前後して、ホーン11に刃部2が固定されていることを確認し、事前準備を完了する。
【0032】
次に、超音波ウェルダ1を起動させ、操作パネル17aを操作し、超音波発振部12の超音波発振器の発振周波数および昇降部13のサーボモータの出力を設定する。超音波発振器の発振周波数は、例えば、15kHz〜60kHzの範囲で基板3の材質等から任意に設定する。サーボモータの出力は、予めティーチングにより、打抜き刃22と基板3との当接位置から打抜き完了位置まで指定した上で、該当接位置と打抜き完了位置との間を基板3の材質等から打抜きに適した加工速度で移動するように設定する。
【0033】
次に、設定した条件で、超音波発振部12および昇降部13を駆動させて、基板3の打抜きを行う。このとき、打抜き刃22をホーン11を介して超音波発振部12により所定の発振周波数で振動させながら打抜きを行う。そのため、打抜き刃22は、基板3との当接位置から打抜き完了位置までの移動の間に、該振動および該振動に伴う刃と基板3との間の摩擦熱との相乗効果により切断性の高い打抜きを行うことができる。
【0034】
これにより、図3に示すように、図2の打抜き刃22に対応した複数の微小孔31を基板3に形成することがきる。微小孔31は、打抜き刃22の2つの側面が22a,22bに対応する2つ隣接する内面31a,31bが、鏡面でかつ基板3に垂直な面となっている。基板3を金属製とすることにより、他の材質を用いるよりも打抜き面の反射率を高めることができ、反射膜のコーティング等の処理を必要とせず、内面31a,31bを鏡面とすることができる。
【0035】
このように、本実施形態の結像素子の作成方法によれば、打抜きにより簡易に結像素子を作成することができると共に、基板面に対する直角性が高く且つ平滑性の高い鏡面を得ることができ、加工精度の高い結像素子をコストおよび時間を節約して簡易に作成することができる。
【0036】
次に、本実施形態の結像素子の作成方法による結像素子の作成例について説明する。
【0037】
図4は、基板3として100μmのアルミニウム薄板を、前記作成方法(40kHzの超音波振動を付与)により加工して得られた結像素子の顕微鏡写真である。
【0038】
図4の顕微鏡写真から明らかなように、かかる結像素子は、打抜き刃22に対応した四角形の微小孔が縦横に整列している。また、四角形は、その辺と角が均一となっていることから、各微小孔は打抜き刃22に対応した形状で、隣接する2つの内面には鏡面が形成されていることが分かる。実際に、図4に示す結像素子により結像させた場合には、明るく鮮明な像が得られたことからも、微小孔には反射率の高い鏡面が形成されていることが裏付けられた。
【0039】
一方、図5は、超音波振動を付与しない場合に得られた結像素子の顕微鏡写真である。この場合、超音波振動の有無以外の条件は、図4の場合と同様である。
【0040】
図5の顕微鏡写真では、微小孔の輪郭が不鮮明である。これは、微小孔が打抜き刃22に対応した形状に形成されていないことを示している。この場合には、像を結像させることができず、微小孔には鏡面が形成されていないことが分かる。
【0041】
次に、基板3として100μmのポリカーボネートの薄板を、前記作成方法(40kHzの超音波振動を付与)により加工して結像素子を得た。この場合にも、図4と同様に、配列および個々の形状が均一の微小孔を形成することができた。
【0042】
ただし、この場合には、得られた結像素子により結像させると、像を結ばせることはできても像が暗いという問題あった。そこで、得られた結像素子の表面に、膜厚500Åのアルミ蒸着膜を形成した。その結果、像は明るく鮮明なものとなり、微小孔に形成された鏡面に反射膜をコーティングすることにより、鏡面の反射率を向上が可能であることが裏付けられた。
【0043】
なお、上記作成例では、40kHzの超音波振動を付与したが、15kHz〜60kHzの範囲であれば、いずれの周波数においても同等の結像素子を得ることが確認された。
【0044】
以上、説明したように、本実施形態の結像素子の作成方法によれば、加工精度の高い結像素子をコストおよび時間を節約して簡易に作成することができる。
【0045】

なお、本実施形態において、超音波発振部12により打抜き刃22を振動させたが、これに代えて、台座16内に超音波発振器を設け、テーブル16aを振動させるようにしてもよい。この場合にも、該振動および該振動に伴う基板3と打抜き刃22との間の摩擦熱との相乗効果により切断性の高い打抜きを行うことができ、加工精度の高い結像素子をコストおよび時間を節約して簡易に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態の結像素子の作成方法を行うための装置構成図。
【図2】打抜き刃の形状を斜視図。
【図3】図2の打抜き刃により形成される結像素子の斜視図。
【図4】作成された結像素子の顕微鏡写真。
【図5】超音波を付与しない場合の結像素子の顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0047】
1…超音波ウェルダ、2…刃部、3…基板、11…ホーン、12…超音波発振部、13…昇降部、16…台座、17…コントローラ、22…打抜き刃、31…微小孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面を構成する基板に、これを垂直に貫通する複数の微小孔を形成し、各孔の内面に直交する2つの鏡面を形成して、該各孔を透過する光の屈曲により、前記平面の一方の空間に配置された物体や映像を反対側の空間に実像として結像させる結像素子の作成方法であって、
前記鏡面に対応した少なくとも2側面を有する凸型の打抜き刃を複数配列してなる刃部を、超音波で振動させながら前記基板に圧接させ、該打抜き刃で該基板を打抜くことを特徴とする結像素子の作成方法。
【請求項2】
平面を構成する基板に、これを垂直に貫通する複数の微小孔を形成し、各孔の内面に直交する2つの鏡面を形成して、該各孔を透過する光の屈曲により、前記平面の一方の空間に配置された物体や映像を反対側の空間に実像として結像させる結像素子の作成方法であって、
前記基板を固定した台座を超音波で振動させながら、前記鏡面に対応した少なくとも2側面を有する凸型の打抜き刃を複数配列してなる刃部を該基板に圧接させ、該打抜き刃で該基板を打抜くことを特徴とする結像素子の作成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の結像素子の作成方法において、
前記基板が金属製の薄板であることを特徴とする結像素子の作成方法。
【請求項4】
請求項3記載の結像素子の作成方法において、
前記金属製の薄板は、アルミニウム、ステンレス、クロム、およびモリブデンのうちのいずれか1つの金属または2以上の金属を含む合金からなることを特徴とする結像素子の作成方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の結像素子の作成方法において、
前記基板が樹脂製の薄板からなり、前記打抜き刃で該基板を打抜いた後に、前記鏡面に反射膜をコーティングすることを特徴とする結像素子の作成方法。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−72306(P2010−72306A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239255(P2008−239255)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】