説明

結晶の製造方法および収納容器

【課題】結晶成長前における反応容器の耐圧性容器への収納や、結晶成長後における反応容器の耐圧性容器からの取り出しを容易化することにより、結晶製造の作業効率を向上させる。
【解決手段】反応容器2に原料5と第一溶媒を充填して密閉した後、該反応容器を収納容器7に収納して、反応容器が収納された収納容器を耐圧性容器1内に設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行うことを特徴とする、結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器内において超臨界状態および/または亜臨界状態で結晶を製造する方法に関する。また、本発明はその結晶製造法に用いる反応容器の収納容器にも関する。
【背景技術】
【0002】
結晶を製造する方法として、超臨界状態および/または亜臨界状態にある溶媒中で結晶を成長させる方法が知られている。中でもアモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して窒化物結晶を製造する方法として注目されている。これらの製造方法では、溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させている。具体的には、オートクレーブなどの耐圧性容器内に原料やシードを入れて密閉し、ヒーター等で加熱することにより耐圧性容器内に高温域と低温域を形成し、その一方において原料を溶解し、他方において結晶を育成することにより、所望の結晶を製造することができる。
【0003】
しかしながら、このように耐圧性容器内に直接原料やシードを入れて結晶を育成しても、不純物濃度が十分に低くて結晶性が高い結晶を製造することは容易ではない。その原因は、アモノサーマル法において原料の溶解性を上げるために一般に用いられる鉱化剤が、耐圧性容器の内表面を構成している材料に対して腐食性を有することなどが挙げられる。例えばハロゲン化アンモニウムなどの酸性鉱化剤が用いられる場合は、耐圧性容器の内面を構成するニッケル基合金に対する腐食性が高いため、育成される窒化物結晶に耐圧性容器に由来する不純物が混入しやすくなる。また、アルカリアミドなどの塩基性鉱化剤が用いられる場合も、不純物の混入を十分に抑えることは困難である。
【0004】
そこで、耐圧性容器の内面に耐食性材料によるライニングを行ったり、耐食性材料で構成される小型の反応容器(例えばカプセル)を用いたりすることが提案されている。酸性鉱化剤に対して高い耐食性をもつ材料としては、白金族金属、タングステン、タンタル、モリブデン、チタンなどが知られており、これらの材料によりオートクレーブ内面をライニングするかカプセルを用いることによりオートクレーブの腐食を防止して高純度の窒化物結晶を育成できることが知られている。
カプセルなどの反応容器を用いる方法は、耐圧性容器内に直接原料やシードを入れるのではなく、例えばPtなどで構成される反応容器内にこれらを入れて密閉し、その反応容器全体をオートクレーブなどの耐圧性容器中に入れて密閉したうえで結晶成長を行うものである(特許文献1参照)。この方法によれば、ライニング法よりも、より不純物濃度を低減させやすい。特許文献1には、耐圧性容器の内壁と反応容器の外壁の間の空隙にアンモニアを充填して、反応容器内外の圧力のバランスを調整することが記載されている。また、耐圧性容器内に入れた反応容器中にて結晶を育成すれば、結晶性が良好な窒化物結晶が得られることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−263229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アモノサーマル法においては、結晶成長を行うために反応容器内のアンモニアなどの窒素を含有する溶媒が超臨界状態または亜臨界状態となるまで昇温・昇圧する。ここで、特許文献1に記載されているように耐圧性容器内に装填した反応容器を使用する場合には、反応容器内と反応容器の外側との間で圧力が略等しくなるように調節する必要がある。これは、反応容器内外での圧力が異なると、反応容器が潰れたり、破裂したりして、破損する危険性が高いからである。特許文献1によると、耐圧性容器の内壁と反応容器の外壁の間の空隙にアンモニアを充填して、反応容器内外の圧力のバランスを調整することが提案されているが、反応容器内外の圧力バランスを保つための調整は必ずしも容易ではない。このため、反応終了後には、耐圧性容器内に装填した反応容器が変形していることが多く、変形した反応容器が耐圧性容器の内壁に接触して耐圧性容器外へ取り出すのが困難になったり、取り出し中に無理な応力をかけることにより成長した結晶に悪影響が及んだりすることがあった。
【0007】
また、この方法を実用化するために大型化しようとしても、そもそも原料や溶媒を入れた反応容器の重量がかなり大きいため、反応容器を耐圧性容器内に収納すること自体が容易ではないという問題もあった。
【0008】
そこで本発明者らは、結晶成長前における反応容器の耐圧性容器への収納や、結晶成長後における反応容器の耐圧性容器からの取り出しを容易化することにより、結晶製造の作業効率を向上させることを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、原料と溶媒を充填した反応容器を収納する収納容器を用いることにより、結晶製造の作業効率を大幅に改善しうることを見出して、以下に記載する本発明を提供するに至った。
【0010】
[1] 反応容器に原料と第一溶媒を充填して密閉した後、該反応容器を収納容器に収納して、反応容器が収納された収納容器を耐圧性容器内に設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行うことを特徴とする、結晶の製造方法。
[2] 結晶成長を行う前の前記反応容器の最大外径OD1と前記収納容器の反応容器収納部の最小内径ID2が以下の式で規定される条件を満たす[1]に記載の結晶の製造方法。
ID2 − OD1 > 0mm
[3] 前記収納容器の最大外径OD2と、前記耐圧性容器の収納容器収納部の最小内径ID3が以下の式で規定される条件を満たす[1]に記載の結晶の製造方法。
ID3 − OD2 > 1mm
[4] 前記耐圧性容器内壁と前記収納容器外壁の間と、前記収納容器内壁と前記反応容器外壁の間の少なくとも一方に、対流抑制部材を設置して前記結晶成長を行う[1]〜[3]のいずれかに記載の結晶の製造方法。
[5] 原料と溶媒を充填して超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行うための反応容器を収納する収納容器であって、前記収納容器の上方から前記収納容器に接続する接続具を用いて、前記反応容器を収納した状態で前記収納容器を移動させることができる収納容器。
[6] 前記接続具が鉤またはワイヤーである[5]に記載の収納容器。
[7] 前記接続具が脱着可能である[5]または[6]に記載の収納容器。
[8] 前記接続具を接続するための接続部を有する[7]に記載の収納容器。
[9] 収納容器を構成する材料の少なくとも一部が、Mo、Ni、W、Ta、Ti、V、Al、Pt、Ir、Pd、Ru、Rh、Au、Ag、およびこれらの少なくとも1つを含む合金、グラファイト、ステンレスおよび炭素鋼からなる群より選択される[5]〜[8]のいずれかに記載の収納容器。
[10] 収納容器を構成する材料の少なくとも一部がNi基合金である[9]に記載の収納容器。
[11] 肉厚が0.3mm以上である[5]〜[10]のいずれかに記載の収納容器。
[12] 収納容器に貫通孔が形成されている[5]〜[11]のいずれかに記載の収納容器。
[13] 収納容器の全長が前記反応容器の全長よりも長い、[5]〜[12]のいずれかに記載の収納容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料と溶媒を充填した反応容器を耐圧性容器へ円滑で安全に収納したり取り出したりすることができる。特に、反応終了後に反応容器が変形した場合であっても、成長した結晶を損ねることなく容易に結晶が入った反応容器を耐圧性容器外へ取り出すことができる。このため、本発明によれば結晶製造の作業効率を向上させ、コストを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【図2】反応容器を収納した収納容器の模式図である。
【図3】収納容器の形態の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の結晶の製造方法、およびそれに用いる収納容器などについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(本発明の製造方法の特徴)
本発明の結晶の製造方法は、反応容器に原料と第一溶媒を充填して密閉した後、該反応容器を収納容器に収納して、反応容器が収納された収納容器を耐圧性容器内に設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行うことを特徴とする。
これまでの従来法では、反応容器に原料と第一溶媒を充填して密閉した後、該反応容器を直接耐圧性容器内に設置し、必要に応じて該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行っていた。本発明の製造方法では、密閉した反応容器を新たに収納容器に収納し、さらにその収納容器を耐圧性容器内に設置する点に特徴がある。
【0015】
(収納容器のサイズ)
収納容器は、その内部空間内に反応容器を収納できるサイズを有するものであるとともに、収納容器全体を耐圧性容器内に収納できるサイズを有するものであることが必要とされる。収納容器は、円筒形の反応容器を収納するために円筒形を有していることが好ましい。
収納容器の反応容器収納部の最小内径ID2は、結晶成長を行う前の反応容器の最大外径OD1との差(ID2−OD1)が1mm超であることが好ましく、1.5mm超であることがより好ましく、2.0mm超であることがさらに好ましい。また、60mm未満であることが好ましく、50mm未満であることがより好ましく、40mm未満であることがさらに好ましい。
【0016】
収納容器の最大外径OD2は、耐圧性容器の収納容器収納部の最小内径ID3との差(ID3−OD2)が1mm超であることが好ましく、1.5mm超であることがより好ましく、2.0mm超であることがさらに好ましい。また、60mm未満であることが好ましく、50mm未満であることがより好ましく、40mm未満であることがさらに好ましい。
これらの条件を満たすものであれば、たとえ反応容器などが変形を起こした場合であっても収納や取り出しを円滑に進めることができるうえ、スペースの無駄を抑えて空間効率良く結晶成長を行うことができる。
【0017】
ただし、反応容器の一部に、例えば蛇腹(伸縮)構造などの圧力バランス調整機構を有する場合には、反応容器および耐圧性容器にアンモニアなどの溶媒を充填して昇圧させ、反応容器に内外圧差により応力がかかった際に、蛇腹構造が反応容器の長軸方向に伸びる変形をし、反応容器が径方向に変形することがないため、(ID2−OD1)を狭くすることができる。
そのため反応容器の一部に圧力バランス調整機構を有する場合には、(ID2−OD1)が0mm超であることが好ましく、0.5mm超であることがより好ましく、1.0mm超であることがさらに好ましい。また、60mm未満であることが好ましく、50mm未満であることがより好ましく、40mm未満であることがさらに好ましい。なお、圧力バランス調整機構のひとつに蛇腹構造が挙げられる。
上記の収納容器の反応容器収納部とは、収納容器中に入れた反応容器を結晶成長中に保持する部分を意味する。また、上記の耐圧性容器の収納容器収納部とは、耐圧性容器中に入れた収納容器を結晶成長中に保持する部分を意味する。
【0018】
収納容器の長さ(長軸方向の距離)は、反応容器の長さよりも長いことが好ましく、具体的には収納容器内に反応容器を収納した際に、反応容器の上面から収納容器上端部までの距離が0mmより大きいことが好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上がさらに好ましい。これにより、後述する接続具を設置しやすかったり、耐圧性容器内で反応容器が変形するような条件となった場合に、反応容器の変形量を抑制できたりするため好ましい。また、耐圧性容器内の空間効率を高めることから、反応容器の上面から収納容器上端部までの距離は250mm以下であることが好ましく、200mm以下であることがより好ましく、150mm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
(収納容器の材質と構造)
収納容器は、反応容器よりも変形しにくいものであることが好ましい。すなわち、超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行った後の変形が、反応容器の変形よりも小さい収納容器を用いることが好ましい。より好ましくは、超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行った後の変形量が耐圧性容器と収納容器の間の間隙よりも小さい収納容器を用いる場合である。すなわち、収納容器の最大外径OD2と耐圧性容器の収納容器収納部の最小内径ID3の差(ID3−OD2)よりも、結晶成長前後の収納容器の径方向の変形量が小さいものを用いることが好ましい。結晶成長前後の収納容器の径方向の変形量は、差(ID3−OD2)の50%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、10%未満であることがさらに好ましく、変形しないものであることが特に好ましい。このような変形量が小さな収納容器を用いることによって、結晶成長後に耐圧性容器から収納容器を取り出す際に、変形した収納容器の一部が耐圧性容器の内壁に接触して取り出せなくなったり、取り出しが困難になったりするのを防いで、円滑に耐圧性容器から収納容器を取り出せるようになる。
収納容器の変形量は、収納容器を構成する材料を選択したり、収納容器の構造を工夫したりすることにより制御することが可能である。
【0020】
収納容器を構成する材料としては、Mo、Ni、W、Ta、Ti、V、Al、貴金属であるPt、Ir、Pd、Ru、Rh、Au、Ag、およびこれらの少なくとも1つを含む合金、グラファイト、ステンレス、炭素鋼などを挙げることができる。これらの中ではNi基合金が好ましく、収納容器を構成する材料の少なくとも一部がNi基合金であることが好ましい。Ni基合金としては、Inconel 600、Inconel 625、Inconel 718、Rene41などを挙げることができる。
【0021】
収納容器の構造としては、反応容器を保持することができれば特に限定されないが、収納容器の上方には反応容器を出し入れするための開放部を有することが好ましい。また、収納容器の下方には収納容器ごと反応容器を移動させることができるように、底の部分が完全に閉じている、または一部が反応容器の径よりも小さくなっていることが好ましく、反応容器を支えることができる強度を有することが好ましい。収納容器は円筒形の反応容器を収納するために通常は円筒形を有しているが、その上方および/または下方が開放された収納容器を採用すれば、反応容器の膨張があった場合にそれらの圧力を上方および/または下方に逃がすことができるため、径方向の変形を抑えることが可能である。
【0022】
収納容器を構成する際には、板状の材料を加工して作製してもよいし、図3に示すように複数の棒状の材料を用いて作製しても、棒状の材料や板状の材料を組合せて作製してもよい。図3に示す収納容器は、板状底部35の周縁から複数の支柱32が上方に伸長しており、当該複数の支柱32を接合固定する棒状環状体33または帯状環状体34が頂部と腹部に形成されている構造を有する。頂部は開放部31を構成しており、上方から反応容器を収納することができるようになっている。また、頂部には図示するように脱着可能な接続具24を設置することができるようになっている。
【0023】
収納容器は、反応容器の収納や取り出し、結晶成長中において反応容器の加重に耐えられる強度があれば、どのような構造でも特に限定されないが、特に強度が優れることから板状の材料(板材)を加工して作製することがこのましい。
【0024】
収納容器の構造を工夫することにより変形量を抑えるために、例えば収納容器の肉厚を比較的厚くすることができる。たとえば、板材を加工して作製した収納容器の場合には、収納容器の肉厚は、0.3mm以上にすることが好ましく、0.4mm以上にすることがより好ましく、0.5mm以上にすることがさらに好ましい。また、ある程度の肉厚があれば変形を抑えることができるため、スペース効率の観点から収納容器の肉厚は12mm以下にすることが好ましく、10mm以下にすることがより好ましく、8mm以下にすることがさらに好ましい。
【0025】
収納容器の側面には、第二溶媒の対流を促進させ、収納容器の内外の温度差を小さくするために貫通孔を設けることが好ましい。側面の貫通孔により、第二溶媒が収納容器の内外を流通し、反応容器内の温度や圧力などの結晶成長条件が制御しやすくなる。貫通孔は収納容器の側壁に設けてもよい。側面に設ける貫通孔の径は1mm以上にすることが好ましく、2mm以上にすることがより好ましく、3mm以上にすることがさらに好ましい。また、貫通孔の径は80mm以下にすることが好ましく、70mm以下にすることがより好ましく、60mm以下にすることがさらに好ましい。
【0026】
また、板材を加工して作製した収納容器の場合には、収納容器の開孔率(反応容器全体を取り囲む収納容器の面(側面)における貫通孔の面積割合)は20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。また、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。貫通孔を有する収納容器の具体例として、少なくとも一部がパンチングメタルで構成されている収納容器や、少なくとも一部が網状物や格子状物で構成されている収納容器を例示することができる。パンチングメタルを使用すれば、収納容器の内外の温度差を均一化して、カプセル内の結晶育成環境を適度に保つことができるため好ましい。
【0027】
収納容器の内径は上記のように反応容器に応じて決定することが好ましいため、その実際の内径は特に制限されない。本発明によれば、大型の反応容器や収納容器を用いた場合にも効果的に適用することができる。例えば、内径が20cm以上の収納容器を採用することが可能であり、さらには内径が30cm以上の収納容器を採用することも可能である。
【0028】
収納容器は、反応容器を収納したり取り出したりすることができる構造を有する。例えば、上記のように上方が開放された構造を有する収納容器であれば、特に収納容器の構造を変える操作を行うことなく反応容器を収納したり取り出したりすることができる。また、収納容器が長軸を含む面を境に2分割可能な収納容器であれば、反応容器を極めて容易に収納したり取り出したりすることができる。収納容器の分割や接合は当業者に公知の係止具を利用して行うことができる。
【0029】
(収納容器の接続部)
本発明で用いる収納容器は、収納容器の上方から収納容器に接続する接続具を用いて、反応容器を収納した状態で収納容器を移動させることができる。すなわち、接続具を介して収納容器を上方へ引き上げたり、下方へ下ろしたり、水平方向や斜め方向に移動させたりすることが可能である。このため、結晶成長前に反応容器を収納した収納容器を接続具を用いて耐圧性容器中に挿入したり、結晶成長後に反応容器を収納した収納容器を接続具を用いて耐圧性容器外に取り出したりすることができる。
【0030】
接続具としては、ワイヤーなどの紐状体や棒状体を好ましい例として挙げることができる。接続具は、収納容器に脱着可能なものであって、結晶成長時には外しておくものであってもよいし、収納容器に結合したものであって、結晶成長時も耐圧性容器内に置かれるものであってもよい。脱着可能な接続具を構成する材料は、原料や溶媒等を入れた反応容器と収納容器の重量に耐えうるものの中から広く選択することが可能であり、例えば、ステンレス、カーボンスチール、真ちゅう、銅、等の金属が好ましい。収納容器に結合した接続具を構成する材料は、上記の収納容器用の材料として挙げたものの中から選択することが好ましい。一般に、後者(接続具を収納容器に結合する場合)は、圧力容器の空間を占有し生産性が悪化するため、接続具としては脱着可能なものを選択することが望ましい。
【0031】
脱着可能な接続具を用いる場合は、接続具の先端と接続しうるような接続部を収納容器が備えていることが好ましい。接続部として機能しうる具体的な態様として、例えば、収納容器の貫通孔を例示することができる。貫通孔にワイヤーを通してワイヤーを上下に移動することにより、収納容器を上方に引き上げたり下方に下ろしたりすることが可能である。このような貫通孔は、安定した移動を可能にするために、収納容器の周方向に均等に複数箇所設けておくことが好ましい。そのような接続部として機能しうる貫通孔の個数は、2〜8個が好ましく、2〜6個がより好ましい。貫通孔には、ワイヤーを通す態様の他に、フックや係止部材を先端に有する接続具を用いて接続することも可能である。
【0032】
また、収納容器に形成される接続部としては、収納容器の開放された上端部近傍の内側側壁に設けられた凹部であってもよい。そのような凹部に嵌合する凸部を先端に有する接続具を用いてもよい。確実な接続を行うために凹部とそれに嵌合する凸部はそれぞれ複数個設けておくことが好ましい。また、凹部は収納容器の周方向に均等に複数箇所設けておき、凸部を有する複数の接続具を収納容器の中心から内壁方向へ圧接しながら用いることが好ましい。
なお、収納容器が磁性体で構成されている場合は、接続具として電磁石などの磁性体を用いて接続することも可能である。
【0033】
(対流抑制部材)
本発明では、耐圧性容器内壁と収納容器外壁の間と、収納容器内壁と反応容器外壁の間の少なくとも一方の空隙に部材を設置することができる。その部材として、空隙の対流を抑制する対流抑制部材を設置することが特に好ましい。ここでいう対流抑制部材とは、本発明の結晶成長にて行う加熱、冷却(放冷を含む)、温度維持の際に、空隙における第二溶媒の対流を阻害する機能を有する部材を意味する。典型的な対流抑制部材は、第二溶媒の対流経路の遮るように設置する部材である。例えば、1つ以上の貫通孔を有する板状体や網目構造を有する網状体を挙げることができる。また、糸状、帯状、シート状の部材を反応容器の外壁に巻きつけることにより、対流抑制部材としてもよい。本発明で用いる対流抑制部材は、反応容器の長軸方向における上下を仕切るように反応容器の長軸に垂直な方向に伸長する部材であってもよい。対流抑制部材の少なくとも一部は反応容器や収納容器の外壁に接触していてもよいし、収納容器や耐圧性容器の内壁に接触していてもよい。また、対流抑制部材の少なくとも一部は反応容器や収納容器を保持する部材に接触しているか、前記反応容器や前記収納容器を保持する部材に接続して連続体となっていてもよい。反応容器を保持する部材としては、反応容器全体を収容することができる管状や編目状のカゴを挙げることができ、例えばその外周に糸状、帯状、シート状の部材を巻きつけることにより対流抑制部材としてもよい。収納を保持する部材についても同様である。対流抑制部材は、空隙を横断する断面積の50%以上を遮蔽することが好ましく、60%以上を遮蔽することがより好ましく、70%以上を遮蔽することがさらに好ましい。上限値は、100%未満であり、98%以下を遮蔽することがより好ましく、96%以下を遮蔽することがさらに好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、反応容器内において主として原料を溶解する原料溶解領域の外側に存在する原料溶解外側領域と、主として窒化物結晶を育成する結晶育成領域の外側に存在する結晶育成外側領域との間の第二溶媒の対流を阻害するように対流抑制部材を設置することが好ましい。通常、反応容器内にはバッフル板を設置して内部空間を2つに区分けし、一方を原料溶解領域とし、他方を結晶育成領域とする。例えば図2に示す反応容器を収納した収納容器では、反応容器2内に設置されたバッフル板6により、バッフル板より下方の原料溶解領域とバッフル板より上方の結晶育成領域に区分される。原料溶解領域には原料5が装填され、結晶育成領域にはシード(種結晶)4が吊り下げられている。本発明における対流抑制部材23を、反応容器内に設置されているバッフル板4と同じ高さか近い高さに設置することにより、原料溶解外側領域と結晶育成外側領域との間の第二溶媒の対流を適度に阻害することができるようになる。図2は収納容器内壁と反応容器外壁の間の空隙に対流抑制部材を設置する態様例を示すものであるが、耐圧性容器内壁と収納容器外壁の間の空隙についても同様に対流抑制部材を設置することが可能である。
【0035】
このようにして対流抑制部材を設置することによって、反応容器内の原料溶解領域と結晶育成領域の温度制御をより精密に行うことができるようになる。反応容器内の温度制御は、通常は反応容器の外側または反応容器を入れた耐圧性容器の外側から側面をヒーター等の加熱手段により加熱することにより行う。このため、例えば耐圧性容器の外側から加熱する場合には、加熱手段の熱は耐圧性容器の側壁から空隙内の第二溶媒へ伝わり、さらに反応容器の側壁へ伝わって、反応容器内の内部空間へ伝わる。反応容器内の原料溶解領域と結晶育成領域の温度を違う温度に制御するためには、耐圧性容器の外側にも各領域に対応する位置に加熱手段をそれぞれ用意しておき、違う温度に加熱することが必要とされる。例えば、図1に示す反応装置を用いる場合は、原料域ヒーター12の温度を成長域ヒーター11の温度よりも高くして、反応容器内の原料溶解領域の温度を結晶育成領域の温度よりも高く制御することが行われる。このとき、空隙内に遮る部材が無ければ第二溶媒は温度差を解消する方向へ対流するため、空隙内で十分な温度差を確保できずに、反応容器内の原料溶解領域と結晶育成領域との間に所望の温度差をつけることが困難になる。本発明の対流抑制部材を適切な位置に設置すれば、第二溶媒の対流を適度に抑制することができるため、原料溶解外側領域の第二溶媒と結晶育成外側領域の第二溶媒を適度な温度差に維持し、それによって反応容器内の原料溶解領域と結晶育成領域との間に所望の温度差をつけることが容易になる。
【0036】
対流阻害部材の設置位置は、反応容器内のバッフル板の設置位置と同じ高さであってもよいし、上下に移動させた位置であってもよい。上下に移動させた位置に設置する場合は、対流阻害部材の設置位置と反応容器内のバッフル板の設置位置の高さの差が反応容器の外部長軸長の20%以内であることが好ましく、15%以内であることがより好ましく、10%以内であることがさらに好ましい。下方のヒーターを上方のヒーターよりも高温にしている場合は、対流抑制部材をバッフル板よりも上方に設置すれば、反応容器内のバッフル板近傍の温度を高めに制御することができる。逆に対流抑制部材をバッフル板よりも下方に設置すれば、反応容器内のバッフル板近傍の温度を低めに制御することができる。このように、対流抑制部材の設置位置により、反応容器内の温度分布をより緻密に制御して、育成される窒化物結晶の品質を向上させることが可能である。内部温度分布をより精密に制御することにより、成長速度のばらつきをより精密に制御することが可能である。これにより成長速度の分布、結晶寸法の分布を小さく抑えることができる。対流抑制部材は、2つ以上設置することも可能であり、例えば高さが異なる位置に設置することが可能である。具体的には、反応容器内のバッフル板よりも上方と下方にそれぞれ1つずつ設置する態様を挙げることができる。
【0037】
対流抑制部材を構成する材料は、第二溶媒に容易に溶解、腐食されない材料であれば特に限定されない。例えば、カーボン、グラファイト、ニッケル基合金、タンタル、タングステン、銀、チタン、ニオブ、アルミニウムを挙げることができる。本発明では、反応容器の取り扱いを容易にするために、反応容器よりも柔らかくて変形しやすい材料を採用することが好ましい。対流抑制部材を金属などの硬度が高くて変形し難い材料で形成した場合、対流抑制部材が耐圧性容器の内壁に接触して反応容器の出し入れが困難になる場合がある。また、結晶成長中に反応容器が変形することがあると、対流抑制部材により反応容器が損傷を受ける可能性があると同時に対流抑制部材が耐圧性容器の内壁に強固に接触すれば反応容器の取出しが極めて困難となる。このため、対流抑制部材を構成する材料としては、カーボンやグラファイトなどの柔らかくて摩擦が小さい材料を採用することが好ましい。なお、比較的硬い材料であっても、薄く成形することによって変形しやすくしたうえで採用することが可能である。
【0038】
(反応容器)
反応容器はアンモニア等の第一溶媒や鉱化剤などに対する耐食性に優れた材料からなることが必要であり、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなることが好ましい。ここでいう該金属を主成分とする合金とは、合金におけるRh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWの合計含有量が合金の全重量の50%以上であることを意味し、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。反応容器は、上記金属群のうち、少なくともIr,PtまたはTaを含むことが好ましく、少なくともIrまたはPtを含むことがより好ましい。中でも優れた耐食性を有するPtやPt−Ir合金を用いることが好ましい。Pt−Ir合金を用いる場合、Ir含有率は3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、また、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0039】
反応容器は、円筒形の耐圧性容器に収納するために円筒形を有しているものが好ましい。また反応容器には圧力バランス調整機構を有していてもよい。圧力バランス調整機構としては、特に限定されないが、反応容器の内外の圧力バランスを調整するために変形しやすい部分のことをいい、当該部分が変形することにより、反応容器の径方向の変形を抑制することができる。圧力バランス調整機構をとしては例えば、蛇腹構造などが挙げられる。蛇腹構造を有する場合、蛇腹の山数の数は少なくとも1山以上であることが好ましく、3山以上であることがより好ましく、また、20山以下であることが好ましく、15山以下であることがより好ましい。
【0040】
蛇腹構造を有する反応容器内部を真空引きした際に、蛇腹部容量の変化割合は−70%以上にすることが好ましく、−50%以上にすることがより好ましく、−30%以上にすることがさらに好ましい。蛇腹構造を有するカプセルにアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を充填して密封した際に、室温によるアンモニアなどの溶媒の蒸気圧における蛇腹部容量の変化割合が+300%以下であることが好ましく、+200%以下であることがより好ましく、+100%以下であることがさらに好ましい。前記容量の変化割合は縮小する場合をマイナス(−)、膨張する場合をプラス(+)とする。なお、ここで蛇腹部とは、蛇腹構造を有する蛇腹の上端から下端までの部分を示す。
【0041】
蛇腹部の材質は反応容器と同様に、アンモニア等の第一溶媒や鉱化剤などに対する耐食性に優れた材料からなることが必要であり、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなることが好ましい。ここでいう該金属を主成分とする合金とは、合金におけるRh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWの合計含有量が合金の全重量の50%以上であることを意味し、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。蛇腹部は、上記金属群のうち、少なくともIr,PtまたはTaを含むことが好ましく、少なくともIrまたはPtを含むことがより好ましい。中でも優れた耐食性を有するPtやPt−Ir合金を用いることが好ましい。Pt−Ir合金を用いる場合、Ir含有率は3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、また、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0042】
(耐圧性容器)
耐圧性容器は高温環境での強度に優れた材料からなることが必要であり、その内壁がNi又はCrを含む金属からなることが好ましい。
【0043】
本発明で用いる耐圧性容器は、耐圧性と耐食性を有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41(Teledyne Allvac, Incの登録商標)、Inconel718(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標)、ハステロイ(Haynes International,Incの登録商標)、ワスパロイ(United Technologies,Inc.の登録商標)が挙げられる。これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。反応容器と同等に耐圧性容器の耐食性をより向上させるために、優れた耐食性を有する貴金属を耐圧性容器の内表面にライニングまたはコーティングしてもよい。また、耐圧性容器の材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、およびこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐食性を有するPtやPt−Ir合金を用いることが好ましい。Pt−Ir合金を用いる場合、Ir含有率は3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、また、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明に用いる耐圧性容器は、反応容器の外側と内側の圧力差が小さくなるように調整するために、少なくとも1つ以上のバルブを有していてもよい。バルブの数は特に限定されないが、圧力調整を安全で効果的に実施するために2つ以上のバルブを有することが好ましい。また、バルブが配置される位置は特に限定されず、複数のバルブが直列に配置されてもよいし、並列に配置されていてもよい。圧力調整を安全で効果的に実施できることから、少なくとも2つのバルブが直列に配置されていることが好ましい。
【0045】
(第一溶媒)
反応容器内に入れる第一溶媒としては、アモノサーマル法に用いられる窒素を含有する溶媒を用いる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0046】
溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0047】
(第二溶媒)
本発明で、耐圧性容器の内壁と反応容器の外壁の間の空隙に充填される第二溶媒は、反応容器の内側と外側をほぼ等しい圧力にすることが可能な溶媒であればその種類は限定されない。そのような第二溶媒としては、例えば、アンモニア、水、アルコール、二酸化炭素などを用いることができる。反応容器の内側と外側の圧力差を小さくするためには、第二溶媒は、反応容器内の溶媒として用いられる第一溶媒と性質の近い(つまり内容積一定条件において充填率と温度−圧力の関係が第一溶媒の温度−圧力変化に近い)溶媒であることが好ましく、第一溶媒と同じ溶媒を用いることが好ましい。その理由は、性質の近い溶媒を用いると、原料の溶解析出によって結晶成長反応を行うために温度を上げたとき、特に昇温過程において、反応容器の内側と外側の圧力をほぼ同じに保つことが容易になるからである。特に好ましいのは、第一溶媒も第二溶媒もアンモニアである態様である。通常、反応容器の内側と外側には同質の溶媒を用い、空隙に対する充填率をそれぞれほぼ同じにすることが好ましい。より厳密には加熱炉のデザイン、耐圧性容器内の反応容器の配置などにより、反応容器内と反応容器外のアンモニアの温度が異なることがあるため、それぞれの温度に合わせて充填率を変化させ反応容器内と反応容器外との圧力がほぼ同じになるようにすることがより好ましい。
【0048】
耐圧性容器の内壁と反応容器の外壁の間の空隙に充填される第二溶媒がアンモニアである場合、該アンモニアは原料等と直接触れることはないので、不純物等の物性に関しては特に問題とならないが、反応容器内のアンモニアと耐圧性容器の内壁と反応容器の外壁の間の空隙に充填されるアンモニアの物理的な物性をほぼ等しくするためには、アンモニアに含まれる水や酸素の量をできるだけ少なくすることが望ましい。水と酸素の合計含有量は、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。水や酸素量をできるだけ少なくすることは、耐圧性容器の腐食を抑制する観点からも有効である。
【0049】
(鉱化剤)
本発明では、一般にアモノサーマル法において用いられる鉱化剤を適宜選択して用いることができる。用いる鉱化剤は、塩基性鉱化剤であっても、酸性鉱化剤であってもよい。塩基性鉱化剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属と窒素原子を含む化合物で、アルカリ土類金属アミド、希土類アミド、窒化アルカリ金属、窒化アルカリ土類金属、アジド化合物、その他ヒドラジン類の塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属アミドで、具体例としてはナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)が挙げられる。また、酸性鉱化剤としては、ハロゲン原子を含む化合物で、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる、例えば塩化アンモニウム(NH4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、フッ化アンモニウム(NH4F)である。本発明では、ハロゲン化アンモニウムを含む酸性鉱化剤を用いることが好ましい。また、鉱化剤は1種を単独で用いてもよいし、複数種を適宜混合して用いてもよい。
【0050】
なお、前記結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアに対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアに対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎたりするため制御が困難になるなどの傾向がある。
【0051】
(原料)
本発明の製造方法においては、成長させようとしている結晶を構成する元素を含む原料を用いる。例えばIII族窒化物結晶を製造する場合は、III族窒化物の多結晶原料及び/又はIII族元素の金属であり、より好ましくは窒化ガリウム及び/又はガリウムである。多結晶原料は、完全な窒化物である必要はなく、条件によってはIII族元素がメタルの状態(ゼロ価)である金属成分を含有してもよく、例えば、結晶が窒化ガリウムである場合には、窒化ガリウムと金属ガリウムの混合物が挙げられる。
【0052】
前記多結晶原料の製造方法は、特に制限されない。例えば、アンモニアガスを流通させた反応容器内で、金属又はその酸化物もしくは水酸化物をアンモニアと反応させることにより生成した窒化物多結晶を用いることができる。また、より反応性の高い金属化合物原料として、ハロゲン化物、アミド化合物、イミド化合物、ガラザンなどの共有結合性M−N結合を有する化合物などを用いることができる。さらに、Gaなどの金属を高温高圧で窒素と反応させて作製した窒化物多結晶を用いることもできる。
【0053】
本発明において原料として用いる多結晶原料に含まれる水や酸素の量は、少ないことが好ましい。多結晶原料中の酸素含有量は、通常10000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは1ppm以下である。多結晶原料への酸素の混入のしやすさは、水分との反応性又は吸収能と関係がある。多結晶原料の結晶性が悪いほど表面にNH基などの活性基が多く存在し、それが水と反応して一部酸化物や水酸化物が生成する可能性がある。このため、多結晶原料としては、通常、できるだけ結晶性が高い物を使用することが好ましい。結晶性は粉末X線回折の半値幅で見積もることができ、(100)の回折線(ヘキサゴナル型窒化ガリウムでは2θ=約32.5°)の半値幅が、通常0.25°以下、好ましくは0.20°以下、さらに好ましくは0.17°以下である。
【0054】
(育成手順)
アモノサーマル法による窒化物結晶の育成手順を例として説明する。まず、反応容器内に、シード、窒素を含有する溶媒、原料、及び鉱化剤を入れて封止する。これらを反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。反応容器内へのシードの装填は、通常は、原料及び鉱化剤を充填する際に同時又は充填後に装填する。シードは、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
図1に示す製造装置を用いる場合は、反応容器(カプセル)2内に窒素を含有する溶媒、原料、及び必要に応じてシード、鉱化剤を入れて封止した後に、反応容器2を収納容器7に収納する。次に、反応容器が収納された収納容器7を耐圧性容器1内に設置し、さらに耐圧性容器1と反応容器2の間の空隙に第二溶媒を充填して耐圧性容器1を密閉する。
【0055】
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態および/又は亜臨界状態とする。超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料溶解領域では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶育成領域では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニアを溶媒として用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)及びP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
【0056】
超臨界条件では、窒化物結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性及び熱力学的パラメータ、すなわち温度及び圧力の数値に依存する。窒化物結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度及び反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、及び自由容積の存在によって多少異なる。
【0057】
反応容器内の温度範囲は、下限値が500℃以上であることが好ましく、515℃以上であることがより好ましく、530℃以上であることがさらに好ましい。上限値は、700℃以下であることが好ましく、650℃以下であることがより好ましく、630℃以下であることがさらに好ましい。本発明の窒化物結晶の製造方法では、反応容器内における原料溶解領域の温度が、結晶育成領域の温度よりも高いことが好ましい。原料溶解領域と結晶育成領域との温度差(|ΔT|)は、結晶品質の維持と自発核発生結晶の制御の観点から、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下が特に好ましい。反応容器内の最適な温度や圧力は、結晶成長の際に用いる鉱化剤や添加剤の種類や使用量等によって、適宜決定することができる。
【0058】
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器内の自由容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、及びシードを用いる場合には、シードとそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは40〜70%とする。
【0059】
反応容器内での窒化物結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態および/又は超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度については特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0060】
なお、前記の「反応温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、及び/又は外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。
【0061】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温又は降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。
【0062】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、通常、−80℃〜200℃、好ましくは−33℃〜100℃である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物結晶及び未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
なお、本発明の窒化物結晶の製造方法にしたがって窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0063】
(結晶)
本発明の製造方法で製造する結晶の種類は特に制限されない。窒化物結晶であれば、例えばIII族窒化物結晶が好ましく、中でも窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などがより好ましい。本明細書においては、窒化ガリウム(GaN)を例として説明するが、本発明の製造方法はこれに限られるものではない。
本発明の製造方法によれば、不純物濃度が低くて、結晶性が高い結晶を製造することが可能である。また、このような高品質な結晶を速い反応速度で効率良く製造することが可能である。
【実施例】
【0064】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0065】
<実施例1>
内径70mm、長さ1050mmのオートクレーブを耐圧性容器として用い、外径60mmのPt−Ir製カプセルを反応容器として、図1の反応装置により結晶成長を行った。原料5として多結晶GaN粒子を、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置した。次に鉱化剤をカプセル内に投入した。
さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に、白金製バッフル板6を設置した。シード4としてHVPE法により成長したGaNウェハーを、白金ワイヤーにより、白金製シード支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。つぎにカプセル2の上部にPt−Ir製のキャップを溶接により接続した。
キャップ上部に付属したチューブに図1のバルブ9と同様のバルブを接続し、真空ポンプ15に通ずるようバルブを操作し真空脱気した後、バルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。つづいてNH3ボンベ16に通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した後、再びバルブを閉じた。NH3充填前と充填後の重量の差から充填量を確認した。
さらに、カプセルを、外径63mm、内径62mmの収納容器7に収容した。収納容器の側面には、下端が閉じられたInconeel625製、穴径8mm(D8)、ピッチ11mm(P11)の千鳥型の円筒パンチングメタルを使用した(開孔率47.9%)。
【0066】
つづいてバルブが装着されたオートクレーブ1に、カプセル2を収容した収納容器7を挿入した後に蓋を閉じ、オートクレーブ1の重量を計測した。なおカプセルをオートクレーブに収納する際は、パンチングメタルの貫通孔に、ステンレス製のワイヤーが接続された同じくステンレス製の鉤爪を引っ掛けて収納容器ごとカプセルを吊り上げ、オートクレーブ直上まで移動させた後、徐々に位置を下げながら行った。
次いでオートクレーブに付属したバルブを介して導管を真空ポンプ15に通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブ1をドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブを閉じた。次いで導管をNH3ボンベ16に通じるように操作した後、再びバルブ9を開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブ1に充填した後、再びバルブ9を閉じた。オートクレーブの温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させオートクレーブの重量を計測した。NH3充填前の重量との差からNH3の重量を算出し充填量を確認した。
続いて、オートクレーブを電気炉内に収納し、オートクレーブ内の結晶成長領域の温度が約575℃、原料溶解領域の温度が約600℃になるまで昇温した後、その温度にて14日間保持した。オートクレーブ内の圧力は約210MPaであった。また保持中のオートクレーブ外面制御温度のバラツキは±0.3℃以下であった。
その後、オートクレーブの外面の温度が室温に戻るまで自然冷却しながら、オートクレーブに付属したバルブ9を徐々に開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。
その後オートクレーブの蓋を開け、カプセルを収納する際と同じ方法で、収納容器ごとカプセル2を取り出した。取り出されたカプセルは、一部が変形していたが、オートクレーブから問題なく取り出すことができた。
【0067】
<実施例2>
内径70mm、長さ1050mmのオートクレーブを耐圧性容器として用い、外径60mmのPt−Ir製カプセル20を反応容器として結晶成長を行った。原料5として多結晶GaN粒子を、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置した。次に鉱化剤をカプセル内に投入した。
さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に、白金製バッフル板6を設置した。シードとしてHVPE法により成長したGaNウェハーを、白金ワイヤーにより、白金製シード支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。つぎにカプセル2の上部にPt−Ir製のキャップを溶接により接続した。
キャップ上部に付属したチューブに図1のバルブと同様のバルブを接続し、真空ポンプ15に通ずるようバルブを操作し真空脱気した後、バルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。つづいてNH3ボンベ16に通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した後、再びバルブを閉じた。NH3充填前と充填後の重量の差から充填量を確認した。
さらに、カプセル2を、外径63mm、内径62mmの収納容器7に収容した。収納容器の側面には、閉じられたInconeel625製、穴径8mm(D8)、ピッチ11mm(P11)千鳥型の円筒パンチングメタルを使用した。
【0068】
つづいてバルブ9が装着されたオートクレーブに収納容器に収容されたカプセルを挿入した後に蓋を閉じ、オートクレーブの重量を計測した。なおカプセルをオートクレーブに収納する際は、パンチングメタルの孔に、鉤爪を引っ掛けて収納容器ごとカプセルを吊り上げ、オートクレーブ直上まで移動させた後、徐々に位置を下げながら行った。
次いでオートクレーブに付属したバルブを介して導管を真空ポンプ15に通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブを閉じた。次いで導管をNH3ボンベ16に通じるように操作した後、再びバルブを開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブに充填した後、再びバルブを閉じた。オートクレーブの温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させオートクレーブの重量を計測した。NH3充填前の重量との差からNH3の重量を算出し充填量を確認した。
続いて、オートクレーブを電気炉内に収納し、オートクレーブ内の結晶成長領域の温度が約575℃、原料溶解領域の温度が約600℃になるまで昇温した後、その温度にて14日間保持した。オートクレーブ内の圧力は約225MPaであった。また保持中のオートクレーブ外面制御温度のバラツキは±0.3℃以下であった。
その後、オートクレーブの外面の温度が室温に戻るまで自然冷却しながら、オートクレーブに付属したバルブ9を上記実施例1より早めに開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。
その後オートクレーブの蓋を開け、カプセルを収納する際と同じ方法で、収納容器ごとカプセル2を取り出した。取り出されたカプセルは、一部が膨張して破壊していたが、オートクレーブから問題なく取り出すことができた。
【0069】
<実施例3>
内径150mm、長さ1800mmのオートクレーブを耐圧性容器として用い、外径130mmのPt−Ir製カプセルを反応容器として、図1の反応装置により結晶成長を行った。原料5として多結晶GaN粒子を、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置した。次に鉱化剤をカプセル内に投入した。
さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に、白金製バッフル板6を設置した。シード4としてHVPE法により成長したGaNウェハーを、白金ワイヤーにより、白金製シード支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。つぎにカプセル2の上部にPt−Ir製のキャップを溶接により接続した。
キャップ上部に付属したチューブに図1のバルブ9と同様のバルブを接続し、真空ポンプ15に通ずるようバルブを操作し真空脱気した後、バルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。つづいてNH3ボンベ16に通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した後、再びバルブを閉じた。
さらに、カプセルを、外径140mm、内径138mmの収納容器7に収容した。収納容器の側面には、下端が閉じられたInconeel625製、穴径8mm(D8)、ピッチ12mm(P12)の千鳥型の円筒パンチングメタルを使用した。(開孔率34.9%)
【0070】
つづいてバルブが装着されたオートクレーブ1に、カプセル2を収容した収納容器7を挿入した後に蓋を閉じ、オートクレーブ1の重量を計測した。なおカプセルをオートクレーブに収納する際は、パンチングメタルの貫通孔に、ステンレス製のワイヤーが接続された同じくステンレス製の鉤爪を引っ掛けて収納容器ごとカプセルを吊り上げ、オートクレーブ直上まで移動させた後、徐々に位置を下げながら行った。
次いでオートクレーブに付属したバルブを介して導管を真空ポンプ15に通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブ1をドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブを閉じた。次いで導管をNH3ボンベ16に通じるように操作した後、再びバルブ9を開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブ1に充填した後、再びバルブ9を閉じた。オートクレーブの温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させた。
続いて、オートクレーブを電気炉内に収納し、オートクレーブ内の結晶成長領域の温度が約575℃、原料溶解領域の温度が約600℃になるまで昇温した後、その温度にて16日間保持した。オートクレーブ内の圧力は約210MPaであった。また保持中のオートクレーブ外面制御温度のバラツキは±0.3℃以下であった。
その後、オートクレーブの外面の温度が室温に戻るまで自然冷却しながら、オートクレーブに付属したバルブ9を徐々に開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。
その後オートクレーブの蓋を開け、カプセルを収納する際と同じ方法で、収納容器ごとカプセル2を取り出した。取り出されたカプセルは、一部が変形していたが、オートクレーブから問題なく取り出すことができた。
【0071】
<実施例4>
内径150mm、長さ1800mmのオートクレーブを耐圧性容器として用い、蛇腹部を有する外径135mmのPt−Ir製カプセルを反応容器として、図1の反応装置により結晶成長を行う。原料5として多結晶GaN粒子を、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置する。次に鉱化剤として充填NH3量に対してハロゲン濃度が3mol%となるよう秤量しカプセル内に投入する。
さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に、白金製バッフル板6を設置する。シード4としてHVPE法により成長させたGaNウェハーを、白金ワイヤーにより、白金製シード支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置する。つぎにカプセル2の上部にPt−Ir製のキャップを溶接により接続する。
キャップ上部に付属したチューブに図1のバルブ9と同様のバルブを接続し、真空ポンプ15に通ずるようバルブを操作し真空脱気した後、バルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却する。つづいてNH3ボンベ16に通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した後、再びバルブを閉じる。NH3充填前と充填後の重量の差から充填量を確認する。
さらに、カプセルを、外径140mm、内径138mmの収納容器7に収容する。収納容器の側面には、下端が閉じられたInconeel625製、穴径8mm(D8)、ピッチ12mm(P12)の千鳥型の円筒パンチングメタルを使用する。
【0072】
つづいてバルブが装着されたオートクレーブ1に、カプセル2を収容した収納容器7を挿入した後に蓋を閉じ、オートクレーブ1の重量を計測する。なおカプセルをオートクレーブに収納する際は、パンチングメタルの貫通孔に、ステンレス製のワイヤーが接続された同じくステンレス製の鉤爪を引っ掛けて収納容器ごとカプセルを吊り上げ、オートクレーブ直上まで移動させた後、徐々に位置を下げながら行う。
次いでオートクレーブに付属したバルブを介して導管を真空ポンプ15に通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブ1をドライアイスハイドロフルオロカーボン溶媒によって冷却し、一旦バルブを閉じた。次いで導管をNH3ボンベ16に通じるように操作した後、再びバルブ9を開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブ1に充填した後、再びバルブ9を閉じる。オートクレーブの温度を室温に戻す。
続いて、オートクレーブを電気炉内に収納し、オートクレーブ内の結晶成長領域の温度が約575℃、原料溶解領域の温度が約600℃になるまで昇温した後、その温度にて16日間保持する。オートクレーブ内の圧力は約210MPaになる。このとき蛇腹部が自由に動き、反応容器にかかる内外圧差を調整する。
その後、オートクレーブの外面の温度が室温に戻るまで自然冷却しながら、オートクレーブに付属したバルブ9を徐々に開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除く。
その後オートクレーブの蓋を開け、カプセルを収納する際と同じ方法で、収納容器ごとカプセル2を取り出す。取り出したカプセルは、蛇腹部が反応容器の長軸方向に伸びており、径方向には変形することなく、オートクレーブから問題なく取り出すことができる。
【0073】
<比較例1>
内寸が直径30mm、長さ450mmのオートクレーブを耐圧性容器として用い、外径26mmのPt−Ir製カプセル(Ir含有率:10重量%)を反応容器として結晶成長を行った。原料5として多結晶GaN粒子を秤量し、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置した。次に鉱化剤として充填NH3量に対してCl濃度が1%となるよう秤量しカプセル内に投入した。
さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に、白金製バッフル板6を設置した。シードとしてHVPE法により成長したGaNウェハーを、白金ワイヤーにより、白金製シード支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。つぎにカプセルの上部にPt−Ir製のキャップを溶接により接続した。
キャップ上部に付属したチューブに図1のバルブと同様のバルブを接続し、真空ポンプ15に通ずるようバルブを操作し真空脱気した後、バルブを閉じ、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却した。つづいてNH3ボンベ16に通ずるように導管のバルブを操作したのち再びバルブを開け外気に触れることなくNH3を充填した。流量制御に基づき、NH3をカプセルの有効容積の約54%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、再びバルブを閉じた。NH3充填前と充填後の重量の差から充填量を確認した。
【0074】
つづいてバルブが装着されたオートクレーブ1に収納容器を用いずにカプセル2を挿入した後に蓋を閉じた。なおカプセルをオートクレーブに収納する際は、キャップ上部に付属したチューブを持ちながら、耐圧性容器を斜めに置いた状態で、カプセルを耐圧性容器の内壁を滑らせるようにして配置した。
次いでオートクレーブに付属したバルブを介して導管を真空ポンプ15に通じるように操作し、バルブを開けて真空脱気した後、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、一旦バルブを閉じた。次いで導管をNH3ボンベ16に通じるように操作した後、再びバルブを開け連続して外気に触れることなくNH3をオートクレーブ1に充填した。流量制御に基づき、NH3をオートクレーブの有効容積(オートクレーブ容積−充填物容積)の約55%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、再びバルブを閉じた。オートクレーブの温度を室温に戻し、外表面を十分に乾燥させオートクレーブ1の重量を計測した。NH3充填前の重量との差からNH3の重量を算出し充填量を確認した。
続いて、オートクレーブを電気炉内に収納し、オートクレーブ内の結晶成長領域の平均温度が約600℃、原料溶解領域の温度が約620℃になるまで昇温した後、その温度にて10日間保持した。オートクレーブ内の圧力は約215MPaであった。また保持中のオートクレーブ外面制御温度のバラツキは±0.3℃以下であった。
その後、オートクレーブ1の外面の温度が室温に戻るまで自然冷却しながら、オートクレーブに付属したバルブを徐々に開放し、オートクレーブ内のNH3を取り除いた。
その後オートクレーブの蓋を開け、キャップ上部に付属したチューブを摘んで、カプセルを引き出そうとしたが。カプセルの一部が膨張して、圧力容器の内壁に張り付いていたため取り出すことができなかった。 このため、圧力容器の底まで届く金属製のへら状部材を圧力容器とカプセルの間に挿入し、カプセルの形状を修正しながら取り出す必要があった。
【符号の説明】
【0075】
1 耐圧性容器(オートクレーブ)
2 反応容器(カプセル)
3 オートクレーブ蓋
4 シード
5 原料
6 バッフル板
7 収納容器
8 圧力センサー
9 バルブ
10 保温材
11 成長域(結晶育成領域)ヒーター
12 原料域(原料溶解領域)ヒーター
13 導管
14 排気管
15 真空ポンプ
16 アンモニアボンベ
17 窒素ボンベ
19 マスフローメーター
20 熱電対1
21 熱電対2
22 カプセル導管
23 対流抑制部材
24 接続具
31 開放部
32 支柱
33 棒状環状体
34 帯状環状体
35 板状底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に原料と第一溶媒を充填して密閉した後、該反応容器を収納容器に収納して、反応容器が収納された収納容器を耐圧性容器内に設置し、さらに該耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、該反応容器中で超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行うことを特徴とする、結晶の製造方法。
【請求項2】
結晶成長を行う前の前記反応容器の最大外径OD1と前記収納容器の反応容器収納部の最小内径ID2が以下の式で規定される条件を満たす請求項1に記載の結晶の製造方法。
ID2 − OD1 > 0mm
【請求項3】
前記収納容器の最大外径OD2と、前記耐圧性容器の収納容器収納部の最小内径ID3が以下の式で規定される条件を満たす請求項1に記載の結晶の製造方法。
ID3 − OD2 > 1mm
【請求項4】
前記耐圧性容器内壁と前記収納容器外壁の間と、前記収納容器内壁と前記反応容器外壁の間の少なくとも一方に、対流抑制部材を設置して前記結晶成長を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の結晶の製造方法。
【請求項5】
原料と溶媒を充填して超臨界および/または亜臨界状態において結晶成長を行うための反応容器を収納する収納容器であって、前記収納容器の上方から前記収納容器に接続する接続具を用いて、前記反応容器を収納した状態で前記収納容器を移動させることができる収納容器。
【請求項6】
前記接続具が鉤またはワイヤーである請求項5に記載の収納容器。
【請求項7】
前記接続具が脱着可能である請求項5または6に記載の収納容器。
【請求項8】
前記接続具を接続するための接続部を有する請求項7に記載の収納容器。
【請求項9】
収納容器を構成する材料の少なくとも一部が、Mo、Ni、W、Ta、Ti、V、Al、Pt、Ir、Pd、Ru、Rh、Au、Ag、およびこれらの少なくとも1つを含む合金、グラファイト、ステンレスおよび炭素鋼からなる群より選択される請求項5〜8のいずれか1項に記載の収納容器。
【請求項10】
収納容器を構成する材料の少なくとも一部がNi基合金である請求項9に記載の収納容器。
【請求項11】
肉厚が0.3mm以上である請求項5〜10のいずれか1項に記載の収納容器。
【請求項12】
収納容器に貫通孔が形成されている請求項5〜11のいずれか1項に記載の収納容器。
【請求項13】
収納容器の全長が前記反応容器の全長よりも長い、請求項5〜12のいずれか1項に記載の収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−103878(P2013−103878A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−246638(P2012−246638)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】