説明

結晶化ガラス、光学デバイス及びエタロン

【課題】製造コストが低く、温度ムラがあっても光線の方向が変化しにくく、赤外線の透過性に優れ、光路長温度依存性を抑制できる結晶化ガラス、光デバイス及びエタロンを提供する。
【解決手段】本発明の結晶化ガラスは、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶として析出し、肉厚3mmで、波長1200〜1700nmのうちいずれかの波長における赤外線透過率が50%以上である結晶化ガラスにおいて、質量%で、0.5〜10%のB23を含有し、粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主結晶として、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を析出した結晶化ガラスに関し、また、その結晶化ガラスを構成部材の一部に含む光通信分野に用いられるエタロン等の光学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信技術の発達に伴い、光ファイバを用いたネットワークが急速に整備されつつある。このネットワークの中では、複数の波長の光を一括して伝送する波長多重技術が用いられるようになり、波長フィルタやカプラ、導波路等が重要なデバイスになりつつある。
【0003】
また、この種の光通信デバイスの他にも、レンズやプリズムを利用した微小光学型の光通信デバイスが広く利用されている。これらの光通信デバイスには光学材料として、透明性に優れ、寸法安定性に優れている石英ガラス(SiO2)が広く使用されている。
【0004】
また、この種の光通信デバイスの中には、温度によって特性が変化し、屋外での使用に支障を来すものがあるため、そのような光通信デバイスの特性を温度変化によらずに一定に保つ技術、いわゆる温度補償技術が必要とされている。
【0005】
温度補償を必要とする光通信デバイスの代表的なものとして、アレイドウエーブガイド(以下、AWGという)や平面光回路(以下、PLCという)等の導波路デバイスやファイバブラッググレーティング(以下、FBGという)やファブリペローエタロン(以下、エタロンという)がある。
【0006】
数式1に示すように、これらの光通信デバイスでは、その周囲温度が変化すると、屈折率と熱膨張係数が変化することによって光路長が変化するという問題を有している。
【0007】
1/L・dS/dT=(dn/dT)+nα ・・・・数式1
【0008】
ここで、Lは基材の肉厚(mm)、Sは光路長(mm)、nは屈折率、αは熱膨張係数を表す。
【0009】
AWGやPLC等の導波路デバイスやFBGでは、負の熱膨張係数を持つ材料や大きな負の屈折率温度依存性を持つ材料を基材として使用することによって、これらのデバイスの光路長の温度依存性低減を図っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
ところが、特許文献1に記載されたような手法を用いてエタロンの光路長の温度依存性を低減することは、エタロンの構造上、技術的に困難である。
【0011】
従って、従来、エタロンでは、光路長の温度依存性が低い石英ガラス(例えば、特許文献2参照。)、光路長の温度依存性が低いCs2O−B23−SiO2系ガラス(例えば、特許文献3参照。)、又はB23−BaO−Al23−SiO2系ガラス(例えば、特許文献4参照。)を基板材料として使用することが提案されている。
【特許文献1】特開2001−342038号公報
【特許文献2】特開2000−47029号公報
【特許文献3】特開2002−20136号公報
【特許文献4】特開2002−321937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の石英ガラスは、溶融法では、溶融温度を1700℃以上にしなければならず、溶融が困難であるとともに、このような高温に耐えることが出来る特殊な溶融炉を必要とする。また、特殊な方法で、より低い温度で石英ガラスを製造することも提案されているが、いずれにしても、製造コストが高いという問題がある。
【0013】
また、特許文献3又は特許文献4に記載のガラスは、熱膨張係数が大きいため、このガラスをエタロンに用いた際に、温度ムラがあると変形して光線の方向が変化しやすくなる虞があった。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、製造コストが低く、温度ムラがあっても光線の方向が変化しにくく、赤外線の透過性に優れ、光路長温度依存性を抑制できる結晶化ガラス、光デバイス及びエタロンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、光学材料として、熱膨張係数αが低く、赤外線の透過率が高く、B23を含有し、β−スポジュメン固溶体の析出量が少ないあるいは析出しないLi2O−Al23−SiO2系結晶化ガラスを用いれば、光学材料の製造コストが低く、温度ムラがあっても光線の方向が変化しにくく、赤外線の透過性に優れ、光路長温度依存性を抑制できるという知見を得、本発明として提案するものである。
【0016】
また、本発明者等は、Li2O−Al23−SiO2系結晶化ガラスの製造法において、熱処理時(結晶化時)に加圧することによって、β−スポジュメン固溶体の析出量が抑制され、光路長の温度依存性dS/dTが低い結晶化ガラスを作製できるという知見を得、本発明を提案するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の結晶化ガラスは、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶として析出し、肉厚3mmで、波長1200〜1700nmのうちいずれかの波長における赤外線透過率が50%以上である結晶化ガラスにおいて、質量%で、0.5〜10%のB23を含有し、粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の光学デバイスは、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶として析出し、肉厚3mmで、波長1200〜1700nmのうちいずれかの波長における赤外線透過率が50%以上である結晶化ガラスを構成部材の一部に含む光学デバイスにおいて、結晶化ガラスが、質量%で、0.5〜10%のB23を含有し、粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のエタロンは、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶として析出し、肉厚3mmで、波長1200〜1700nmのうちいずれかの波長における赤外線透過率が50%以上である結晶化ガラスを構成部材の一部に含むエタロンにおいて、結晶化ガラスが、質量%で、0.5〜10%のB23を含有し、粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下であることを特徴とする。
【0020】
上記構成としたから、光路長の温度依存性dS/dTが、11.5×10-6/℃以下となるため、これをエタロン用基板材料、プリズム、レンズ等の光学材料として用いた光学デバイスの光損失を抑制できる。
【0021】
すなわち、B23は屈折率の温度依存性を低下させる成分であり、B23が0.5%より少ないと、結晶化ガラスの屈折率の温度依存性が大きくなり、光路長の温度依存性が大きくなるため好ましくない。B23が10%よりも多いと、β−スポジュメン固溶体が析出しやすくなり、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶として析出させることが困難となるため、2.0×10-6/℃以下の熱膨張係数が得られ難くなるとともに、光路長の温度依存性が大きくなりやすい。また、結晶粒径が大きくなり、赤外線透過率が50%より低くなるため好ましくない。B23の好ましい範囲は0.8〜8%、より好ましい範囲は1〜6%である。
【0022】
また、これをエタロン用基板材料、プリズム、レンズ等の光学材料として用いた場合、温度ムラがあってもこれらの材料が変形しにくく、光線の方向が変化しにくい。すなわち、本発明の結晶化ガラスが、熱膨張係数の低い(あるいは負である)β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を析出するからである。
【0023】
また、β−スポジュメン固溶体の析出量が少ないため、光路長の温度依存性が低くなる。すなわち、β−スポジュメン固溶体は、光路長の温度依存性を大きくするからである。
【0024】
結晶化ガラスの粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下であるため、光路長の温度依存性dS/dTが、11.5×10-6/℃以下になりやすい。粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0025】
また、結晶化ガラスは、その原ガラス(母ガラス)は石英ガラスよりも低温で(1700℃以下で)、しかも一般的に使用される溶融炉で容易に溶融できるため、製造コストが安価になる。
【0026】
なお、肉厚3mmで、1200〜1700nmの全波長範囲にわたって赤外線透過率は、70%以上であるとより好ましく、80%以上であると特に好ましい。
【0027】
この場合、X線回折ピークの面積強度は、下記の手順で求めることができる。六方晶系のβ−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面に帰属される回折ピーク(面間隔:約0.346nm)および正方晶系β−スポジュメン固溶体の(102)面に帰属される回折ピーク(面間隔:約0.389nm)を同一チャート内に検出できるスケールレンジで測定する。測定精度向上のため、ステップ間隔は0.01°以下であることが好ましい。得られたデータよりバックグラウンドを除去した後、各回折ピークの面積強度を算出する。
【0028】
上記構成において、−40〜100℃における熱膨張係数が−2.0〜2.0×10-6/℃であることが好ましい。
【0029】
このようにすれば、結晶化ガラスをエタロン用基板材料、プリズム、レンズ等の光学材料に用いた際に、温度ムラがあっても変形しにくいため、光線の方向が変化しにくくなるという上述した効果を一層享受できる。
【0030】
上記構成において、本発明の結晶化ガラスは、質量%で、B23 0.5〜10%の他に、SiO2 58〜75%、Al23 15〜30%、Li2O 2〜10%、ZrO2+TiO2 0.5〜6%、P25 0〜2%を含有することが好ましい。このように組成を限定した理由は、以下の通りである。
【0031】
SiO2は、ガラスの網目を構成する主成分であると共に析出結晶の構成成分であり、屈折率の温度依存性を小さくする。SiO2が58%より少ないと、屈折率の温度依存性が大きくなり、ガラスが不安定になると共に所望の結晶粒径を有するβ−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶として析出させることが困難となる。一方、75%より多くなると、ガラスの溶融が困難となる。SiO2の好ましい範囲は、59〜72%、より好ましい範囲は、60〜70%である。
【0032】
Al23も、ガラスの網目構成成分であると共に結晶構成成分である。Al23が15%より少ないと、所望の結晶を析出させることが困難となり、2.0×10-6/℃以下の熱膨張係数が得られ難くなる。一方、30%より多くなると、ガラスが失透しやすくなる。Al23の好ましい範囲は、17〜28%、より好ましい範囲は、19〜26%である。
【0033】
Li2Oは、β−石英固溶体結晶又はβ−ユークリプタイト固溶体結晶の構成成分である。Li2Oが2%より少ないと、所望の結晶を析出させることが困難となり、2.0×10-6/℃以下の熱膨張係数が得られ難くなる。一方、10%より多くなると、屈折率の温度依存性が大きくなりすぎる。Li2Oの好ましい範囲は、2.5〜8%、より好ましい範囲は、3〜7%である。
【0034】
ZrO2とTiO2は、ガラス中に結晶核を形成する作用を有する成分である。ZrO2とTiO2の合量が0.5%より少ないと、核形成作用が不十分となり、所望の粒径を有する結晶を均一に析出させることができなくなる。一方、6%より多くなると、ガラスの溶融が困難となり、失透が発生しやすくなるため好ましくない。ZrO2とTiO2の合量の好ましい範囲は、0.7〜5.5%、より好ましい範囲は、1〜5%である。
【0035】
25は、核形成作用を促進する効果があるが、2%より多くなると、屈折率の温度依存性が大きくなりすぎる。P25の好ましい範囲は、0〜1.5%、より好ましい範囲は、0〜1%である。
【0036】
尚、本発明では、必要に応じて他の成分、例えばAs23、SnO2、BaO、Sb23、CaO、SrO等の成分を添加することが可能である。
【0037】
As23は、一般にガラスの清澄剤として用いられているが、結晶の転移を促進する作用を有する。そのためAs23が1%より多くなると、β−スポジュメン固溶体が析出しやすくなり、2.0×10-6/℃以下の熱膨張係数が得られ難くなる。As23の好ましい範囲は0.8%以下、より好ましい範囲は0.6%以下である。
【0038】
また、SnO2は5%まで添加することができる。すなわちSnO2は、5%まで添加しても、As23と異なり、結晶の転移を促進する作用は殆ど見られないからである。さらに、SnO2は核形成能も有しているため、核形成剤の使用量を少なくできる。
【0039】
上記構成において、波長1550nmにおける屈折率が室温で1.54以下であることが好ましい。
【0040】
このようにすれば、エタロン用基板材料、プリズム、レンズ等の光学材料を用いた光学デバイスと光ファイバなどを接合させた時に、接合面での光反射を抑制できる。波長1550nmにおける屈折率は、室温で1.53以下であることがより好ましく、1.52以下であることが特に好ましい。
【0041】
上記構成において、結晶化ガラスの結晶粒径が0.5μm以下であることが好ましい。
このようにすれば、結晶化ガラスにおいて、肉厚3mmで、波長1200〜1700nmのうちいずれかの波長における赤外線透過率が50%以上になりやすい。
【0042】
また、上記した結晶化ガラスを製造する方法は、1600×105Pa以上の圧力を加えながら、820〜1000℃の温度で熱処理を行い結晶化することを特徴とする。
【0043】
このようにすれば、β−スポジュメン固溶体の析出量が抑制され(β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体からβ−スポジュメン固溶体への転移が抑制される)、結晶化ガラスの粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下になりやすい。そのため、結晶化ガラスの屈折率の温度依存性dn/dTが、12×10-6/℃以下となって、光路長の温度依存性dS/dTを、11.5×10-6/℃以下にできる。
【0044】
上記構成において、熱処理温度は、820〜1000℃であることが好ましい。熱処理温度が820℃よりも低いと、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体が充分に析出しにくく、1000℃よりも高いと、β−スポジュメン固溶体に転移しやすくなり、熱膨張係数および光路長の温度依存性が高くなりやすく、また、光透過率が低くなりやすくなるため好ましくない。
【発明の効果】
【0045】
本発明の結晶化ガラスは、光路長の温度依存性dS/dTが、11.5×10-6/℃以下となるため、これをエタロン用基板材料、プリズム、レンズ等の光学材料として用いた光学デバイスの光損失を抑制できる。また、これをエタロン用基板材料、プリズム、レンズ等の光学材料として用いた場合、温度ムラがあってもこれらの材料が変形しにくく、光線の方向が変化しにくい。また、結晶化ガラスの原ガラス(母ガラス)は石英ガラスよりも低温で(1700℃以下で)、しかも一般的に使用される溶融炉で容易に溶融できるため、製造コストが安価になる。
【0046】
本発明の結晶化ガラスの製造方法は、上記構成としたから、β−スポジュメン固溶体の析出量が抑制される。そのため、屈折率の温度依存性dn/dTが、12×10-6/℃以下となって、光路長の温度依存性dS/dTを、11.5×10-6/℃以下にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0048】
表1は、本発明の実施例1〜3及び比較例4〜7を示す。

【表1】

【0049】
表1の実施例及び比較例は、以下のようにして作製した。
【0050】
まず表中の組成となるように調合したバッチ原料を、白金坩堝に入れ、1580℃で20時間溶融した。次いで、この溶融ガラスをカーボン板上に流し出してロール成形することによって、厚さ5mmのガラス板を成形し、室温まで徐冷した。
【0051】
次に実施例1〜3及び比較例4、5の各ガラス板に、アルゴンガスを用いて、等方向的に1960×105Paの圧力を加えながら、表中の核形成温度で3時間の核形成処理を施した(HIP処理)後、圧力を維持した状態で表中の結晶化温度で1時間の結晶化処理を施し、室温まで冷却させ、結晶化ガラスを作製した。また、比較例6及び7については、大気圧下において各ガラス板を表中の核形成温度で3時間の核形成処理を施した後、表中の結晶化温度で1時間の結晶化処理を施し、室温まで冷却させ、結晶化ガラスを作製した。
【0052】
こうして得られた結晶化ガラスについて、主結晶種、β−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度とβ−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の比(I(β−Spd)/I(β−Q))、熱膨張係数(α)、屈折率(n)、屈折率の温度依存性(dn/dT)、光路長の温度依存性(1/L・dS/dT)、1550nmにおける赤外線透過率、及び結晶粒径を測定した。
【0053】
表から明らかなように、実施例1〜3は、いずれも主結晶としてβ−石英固溶体を析出し、1550nmでの赤外線透過率が80%以上であり、β−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下であるため、光路長の温度依存性(dS/dT)は、10.5×10-6/℃以下となった。また、熱膨張係数は、−2.0〜2.0×10-6/℃の範囲内にあり、1550nmでの屈折率も室温で1.516〜1.520となった。
【0054】
一方、比較例4は、B23を含有しないため、光路長の温度依存性(dS/dT)は、12.2×10-6/℃以上と高かった。比較例5は、B23を含有せず、主結晶がβ−スポジュメン固溶体であり、結晶粒径が0.5μmよりも大きいため、1550nmでの赤外線透過率が10%であり、屈折率及び光路長の温度依存性を測定することさえできなかった。また比較例6及び7は、β−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以上であるため、光路長の温度依存性は11.5×10-6/℃以上と高かった。
【0055】
尚、表中のβ−スポジュメン固溶体、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の各結晶種は、X線回折装置(リガク製RINT2000)を使用し、Cu−Kα線による周知の粉末X線回折法によって測定したピークプロファイルとJCPDSカードデータ(強度比及びd値)と比較して同定した。尚、β−スポジュメン固溶体の同定に用いたJCPDSカードは、35−794(LiAlSi38)であり、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の同定に用いたJCPSDカードは、31−706(LiAl(SiO32)である。また、測定範囲は、回折角2θで15〜30°(面間隔に換算すると0.298〜0.590nm)、測定間隔は0.01°、走査速度は0.5°/minである。β−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度とβ−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度は、上述した方法によって求めた。
【0056】
また熱膨張係数は、ディラトメーターを使用して測定した。さらに赤外線透過率は、各試料の厚さを3mmとし、1550nmにおける赤外線透過率を、分光光度計(島津製作所製UV3100)を使用して測定した。屈折率の温度依存性は試料の温度を変えて屈折率を測定することで評価した。また、光路長の温度依存性は、波長1100〜1700nmの範囲の光を用いた干渉光学系中の一方の光路中に試料を配置し、試料温度を変化させた時に観察された干渉縞の変化から求められた光路長の温度依存性の内、最も大きかった値によって評価した。
【0057】
結晶粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明の結晶化ガラスは、製造コストが低く、温度ムラがあっても光線の方向が変化しにくく、赤外線の透過性に優れ、光路長温度依存性を抑制できるため、寸法安定性、赤外線の透明性及び光路長のアサーマル性を必要とするエタロン等の光学デバイスの構成材料として好適であるばかりでなく、寸法安定性と赤外線の透明性を必要とする微小光学型の光学デバイスの構成材料(例えば、レンズ、プリズム等の光学材料)としても適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体を主結晶として析出し、肉厚3mmで、波長1200〜1700nmのうちいずれかの波長における赤外線透過率が50%以上である結晶化ガラスにおいて、
質量%で、0.5〜10%のB23を含有し、粉末X線回折法によって同定されるβ−スポジュメン固溶体の(102)面回折ピークの面積強度が、β−石英固溶体又はβ−ユークリプタイト固溶体の(101)面回折ピークの面積強度の1.5%以下であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項2】
−40〜100℃における熱膨張係数が−2.0〜2.0×10-6/℃であることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
質量%で、SiO2 58〜75%、Al23 15〜30%、Li2O 2〜10%、B23 0.5〜10%、ZrO2+TiO2 0.5〜6%、P25 0〜2%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
光路長の温度依存性dS/dTが、11.5×10-6/℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の結晶化ガラスを構成部材の一部に含むことを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の結晶化ガラスを構成部材の一部に含むことを特徴とするエタロン。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法であって、1600×105Pa以上の圧力を加えながら、820〜1000℃の温度で熱処理を行い結晶化することを特徴とする結晶化ガラスの製造方法。

【公開番号】特開2006−193398(P2006−193398A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9345(P2005−9345)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、ナノテクノロジープログラムナノマテリアル・プロセス技術)・ナノガラス技術プロジェクト・エネルギー使用合理化技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】