説明

結晶化ガラス板製造用トチ及び結晶化ガラス板の製造方法

【課題】屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造するための結晶化ガラス板製造用トチ、及び屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造し得る結晶化ガラス板の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板20を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチである。結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板20が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面11を有する。載置面11には、複数の開口12a〜12eが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス板製造用トチ及びそれを用いた結晶化ガラス板の製造方法に関する。特には、本発明は、屈曲構造を有する結晶化ガラス板の製造において、ガラス板の結晶化工程に用いられるトチ及びそれを用いた屈曲構造を有する結晶化ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶化ガラス板は、高い耐熱性を有すると共に、熱膨張率を小さくできるという利点を有する。このため、従来、例えばストーブや暖炉などの暖房装置の熱線透過部品などとして、結晶化ガラス板が広く用いられている(例えば、下記の特許文献1など)。
【0003】
このような用途に使用される結晶化ガラス板には、暖房装置の意匠性を向上させるため、暖房装置に応じた形状に形成されていることが求められる。例えば、暖房装置の内部に配置されている燃焼装置の視認性を高めるために、屈曲構造を有する結晶化ガラス板(以下、「結晶化ガラス屈曲板」と称する。)が求められることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−229851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結晶化ガラス屈曲板を製造する方法としては、製造しようとする結晶化ガラス屈曲板の形状に応じた形状の載置面を有するコーディエライトやムライトなどの耐火セラミックス製のトチの上に、結晶化されていないガラス板を載置し、その状態で、ガラス板を熱処理する方法が挙げられる。この製造方法では、熱処理工程において、結晶化されていないガラス板が軟化してトチの表面に沿うと共に、ガラス板の結晶化が進行する。その結果、結晶化ガラス屈曲板が形成される。
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究した結果、上記製造方法では、部分的に反りや膨れなどの変形が発生し、高い形状精度を有する結晶化ガラス屈曲板を製造することが困難であることが分かった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造するための結晶化ガラス板製造用トチ、及び屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造し得る結晶化ガラス板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ガラス板を結晶化させるための熱処理工程において、ガラス板に生じた温度むらに起因して、ガラス板中に、結晶化が速く進行する部分と、結晶化が遅く進行する部分とが生じているため、高い形状精度の結晶化ガラス板が得難いことを見出した。すなわち、トチの上にガラス板を載置して熱処理工程を行った場合、ガラス板のうち、トチ側の裏面側表層は、加熱されにくく、冷却されにくい。一方、ガラス板のうち、トチとは反対側の表面側表層は、外雰囲気に直接接触しているため、加熱されやすく、冷却されやすい。このため、ガラス板の表面側表層と裏面側表層とでは、結晶化の進行開始時期、進行速度に差が生じる。また、熱処理工程後のガラス板の冷却速度にも差が生じる。よって、熱処理工程及び熱処理工程後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じる。従って、ガラス板に所望しない変形が生じてしまい、得られる結晶化ガラス板の形状精度が低下してしまう。このことを踏まえ、本発明者らは、さらに鋭意研究の結果、結晶化ガラス板製造用トチを工夫することにより高い形状精度で結晶化ガラス板を製造し得ることを見出し、その結果、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチに関する。本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有する。載置面には、複数の開口が形成されている。
【0010】
なお、本発明において、「屈曲構造を持つ載置面」とは、少なくとも一部に屈曲している部分が形成されている載置面のことをいう。従って、「屈曲構造を持つ載置面」には、全体が屈曲している載置面、一部が屈曲している載置面、などが含まれる。
【0011】
また、本発明において、「屈曲」には、「湾曲」が含まれるものとする。
【0012】
本発明において、「トチ(setter)」とは、ガラス板の焼成中に、ガラス板の形状が所望の形状とは異なった形状となることを抑制するための支持台のことをいう。
【0013】
本発明に係る結晶化ガラス板の製造方法は、上記本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチを用いた結晶化ガラス板の製造方法に関する。本発明に係る結晶化ガラス板の製造方法は、載置面の上にガラス板を載置する工程と、載置面上に載置したガラス板を加熱して結晶化させることによって結晶化ガラス板を得る工程とを備えている。
【0014】
本発明においては、ガラス板が載置される載置面に複数の開口が形成される。このため、ガラス板の載置面側の表面の一部が結晶化ガラス板製造用トチに接触し、残りの部分は、結晶化ガラス板製造用トチに接触しない。よって、本発明においては、ガラス板の加熱や冷却が結晶化ガラス板製造用トチにより阻害され難い。すなわち、載置面に開口が形成されておらず、ガラス板の全体が載置面と接触している場合と比較して、ガラス板の載置面側の表層の加熱及び冷却が結晶化ガラス板製造用トチによって阻害され難い。このため、ガラス板の熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板の載置面側の表層と、ガラス板の載置面とは反対側の表層とで温度差が生じにくい。よって、ガラス板内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じ難い。従って、ガラス板に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0015】
ガラス板の加熱や冷却が結晶化ガラス板製造用トチによりさらに阻害され難くするためには、載置面における複数の開口が占める面積割合((複数の開口の面積)/(載置面の面積))は、高い方が好ましい。具体的には、載置面における複数の開口が占める面積割合は、36%以上であることが好ましく、56%以上であることがより好ましい。
【0016】
但し、載置面における複数の開口が占める面積割合が大きすぎると、ガラス板の熱処理工程において、結晶化ガラス板製造用トチによりガラス板を好適に支持できない場合がある。具体的には、軟化したガラス板が開口内に入り込むことにより、ガラス板の表面に凹凸が形成されてしまう場合がある。このため、載置面における複数の開口が占める面積割合は、96%以下であることが好ましく、88%以下であることがより好ましい。
【0017】
また、ガラス板の加熱や冷却が結晶化ガラス板製造用トチによりさらに阻害され難くするためには、載置面に開口している複数の貫通孔が形成されていることが好ましい。貫通孔は、解放空間であるため、複数の貫通孔を形成することにより、結晶化ガラス板製造用トチの放熱性を高めることができるためである。
【0018】
具体的には、例えば、結晶化ガラス板製造用トチは、相互に平行に間隔をおいて配置されている複数の板状部材を有するものであってもよい。また、結晶化ガラス板製造用トチは、複数の板状部材を連結する連結部材をさらに有するものであってもよい。この場合、載置面は、複数の板状部材の頂面により構成され、開口は、複数の板状部材の頂面間に形成される。
【0019】
また、結晶化ガラス板製造用トチが複数の板状部材を有する場合、ガラス板の加熱や冷却が結晶化ガラス板製造用トチによりさらに阻害され難くする観点からは、隣接する板状部材間の間隔が広く、板状部材の厚みが薄いことが好ましい。具体的には、隣接する板状部材間の間隔は、15mm以上であることが好ましく、22mm以上であることがより好ましい。板状部材の厚みは、10mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。板状部材の厚みに対する隣接する板状部材間の間隔の比((板状部材間の間隔)/(板状部材の厚み))は、1.5以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。
【0020】
但し、隣接する板状部材間の間隔が広すぎたり、板状部材の厚みが薄すぎたりすると、ガラス板の熱処理工程において、結晶化ガラス板製造用トチによりガラス板を好適に支持できない場合がある。このため、隣接する板状部材間の間隔は、44mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。板状部材の厚みは、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。板状部材の厚みに対する隣接する板状部材間の間隔の比((板状部材間の間隔)/(板状部材の厚み))は、22以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明において、結晶化ガラス板製造用トチの材質は、特に限定されない。結晶化ガラス板製造用トチは、例えば、耐火セラミックスからなるものであってもよいし、β−スポジュメン固溶体やβ−クオーツを主結晶とする結晶化ガラスからなるものであってもよい。なかでも、結晶化ガラス板製造用トチは、熱容量が小さな結晶化ガラスからなるものであることが好ましく、さらには、β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスからなるものであることが好ましく、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなるものであることがさらに好ましい。β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスは、高い耐熱性を有するからである。
【0022】
また、熱処理工程における結晶化ガラス板製造用トチの変形を抑制する観点から、結晶化ガラス板製造用トチは、低い熱膨張係数を有することが好ましい。具体的には、結晶化ガラス板製造用トチの30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、ガラス板が載置される載置面には、複数の開口が形成されている。このため、ガラス板の熱処理工程等においてガラス板内に温度むらが生じ難い。従って、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図2】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的平面図である。
【図3】ガラス板の熱処理工程を説明するための熱処理装置の模式図である。
【図4】第1の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図5】第2の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図6】第2の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的平面図である。
【図7】実施例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真である。
【図8】比較例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真である。
【図9】第3の変形例における板状部材の略図的平面図である。
【図10】第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図11】第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、図1及び図2に示す結晶化ガラス板製造用トチ1を例に挙げて説明する。但し、結晶化ガラス板製造用トチ1は、単なる例示である。本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、結晶化ガラス板製造用トチ1に何ら限定されない。
【0026】
図1は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図2は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的平面図である。
【0027】
図1及び図2に示す結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板20を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板(結晶化ガラス屈曲板)を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチである。
【0028】
図1及び図2に示すように、結晶化ガラス板製造用トチ1は、複数の板状部材10a〜10fを有する。複数の板状部材10a〜10fのそれぞれは、x方向及びz方向に平行に配置されている。複数の板状部材10a〜10fは、y方向に沿って相互に平行に等間隔に配列されている。複数の板状部材10a〜10fのそれぞれは、屈曲構造を有する頂面11a〜11fを有する。これら頂面11a〜11fにより、ガラス板20を載置するための載置面11が形成されている。このため、載置面11は、屈曲構造を有する。載置面11には、頂面11a〜11f相互間に複数の開口12a〜12eが形成されている。なお、本実施形態では、載置面11の全体が湾曲している場合について説明する。但し、載置面11の一部は、平面状であってもよい。
【0029】
板状部材10a〜10fの幅W(図2を参照)は、特に限定されないが、2mm〜10mmの範囲内であることが好ましく、4mm〜6mmの範囲内であることがより好ましい。また、隣接する板状部材10a〜10f間の間隔Lも、特に限定されないが、15mm〜44mmの範囲内であることが好ましく、22mm〜30mmの範囲内であることがより好ましい。板状部材10a〜10fの幅Wに対する隣接する板状部材10a〜10f間の間隔Lの比(L/W)は、1.5〜22の範囲内であることが好ましく、2.5〜15の範囲内であることが好ましい。よって、載置面11における複数の開口12a〜12eが占める面積割合も、36%〜96%の範囲内であることが好ましく、51%〜88%の範囲内であることが好ましい。
【0030】
板状部材10a〜10fの材質、すなわち、結晶化ガラス板製造用トチ1の材質は、特に限定されない。結晶化ガラス板製造用トチ1は、例えば、コーディエライトやムライトなどの耐火セラミックスや結晶化ガラスにより形成することができる。なかでも、結晶化ガラス板製造用トチ1は、β−スポジュメン固溶体やβ−クオーツ固溶体などを主結晶とする結晶化ガラスからなることが好ましく、β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスからなることがより好ましく、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなることがさらに好ましい。
【0031】
また、板状部材10a〜10fは、小さな熱膨張係数を有することが好ましい。具体的には、板状部材10a〜10fの30℃〜750℃における平均線熱膨張係数は、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0032】
以下、本実施形態では、結晶化ガラス板製造用トチ1が、30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあり、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなる場合について説明する。
【0033】
次に結晶化ガラス板製造用トチ1を用いた結晶化ガラス屈曲板の製造方法の一例について、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0034】
なお、製造される結晶化ガラス屈曲板は、透明結晶化ガラスからなるものであってもよいし、不透明結晶化ガラスからなるものであってもよい。
【0035】
まず、図1及び図2に示すように、結晶化ガラス板製造用トチ1の載置面11の形状にほぼ即した形状の、結晶化されていないガラス板20を用意し、載置面11上に載置する。この状態で、図3に示す熱処理装置40を用いてガラス板20の熱処理を行うことにより結晶化ガラス屈曲板を製造する。
【0036】
図3に示すように、熱処理装置40は、熱処理炉41を備えている。熱処理炉41の内部には、図示しないヒーターが複数設けられている。これら複数のヒーターにより、熱処理炉41の入口41aから出口41bにかけて温度勾配が形成されている。具体的には、熱処理炉41の入口41a及び出口41b付近は、低い温度に設定されており、熱処理炉41の中央部は、ガラス板20が結晶化する程度の高温に設定されている。
【0037】
熱処理装置40においては、熱処理炉41内を結晶化ガラス板製造用トチ1を搬送するための搬送装置42が設けられており、この搬送装置42上をセッター43上に載置された結晶化ガラス板製造用トチ1が入口41aから出口41bまで搬送される。これにより、ガラス板20を結晶化させる熱処理工程と、結晶化したガラス板を冷却する冷却工程とが行われる。その結果、ガラス板20から結晶化ガラス屈曲板が形成される。
【0038】
以上説明したように、本実施形態では、ガラス板20が載置される載置面11には複数の開口12a〜12eが形成される。このため、ガラス板20の載置面11側の表面の一部が結晶化ガラス板製造用トチ1に接触し、残りの部分は、結晶化ガラス板製造用トチ1に接触しない。よって、載置面に開口が形成されておらず、ガラス板の全体が載置面と接触している場合と比較して、ガラス板20の載置面11側の表層の加熱及び冷却が結晶化ガラス板製造用トチ1によって阻害され難い。このため、ガラス板20の載置面11側の表層と、ガラス板20の載置面11とは反対側の表層とで温度差が生じにくい。よって、ガラス板20内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板20に応力が生じ難い。従って、ガラス板20に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0039】
ガラス板20の加熱や冷却が結晶化ガラス板製造用トチ1によりさらに阻害され難くするためには、載置面11における複数の開口12a〜12eが占める面積割合((複数の開口12a〜12eの面積)/(載置面11の面積))は、高い方が好ましい。具体的には、載置面11における複数の開口12a〜12eが占める面積割合は、36%以上であることが好ましく、51%以上であることがより好ましい。
【0040】
また、隣接する板状部材10a〜10f間の間隔Lは、15mm以上であることが好ましく、22mm以上であることがより好ましい。板状部材10a〜10fの厚みWは、10mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。板状部材10a〜10fの厚みWに対する隣接する板状部材10a〜10f間の間隔Lの比((板状部材間の間隔L)/(板状部材の厚みW))は、1.5以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。
【0041】
但し、載置面11における複数の開口12a〜12eが占める面積割合が高すぎると、ガラス板20の熱処理工程において、結晶化ガラス板製造用トチ1によりガラス板20を好適に支持できない場合がある。具体的には、ガラス板20の開口12a〜12e上に位置する部分が開口12a〜12e内に入り込み、ガラス板20の表面に凹凸が形成されてしまう場合がある。このため、載置面11における複数の開口12a〜12eが占める面積割合は、96%以下であることが好ましく、88%以下であることがより好ましい。
【0042】
また、隣接する板状部材10a〜10f間の間隔Lは、44mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。板状部材10a〜10fの厚みWは、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。板状部材10a〜10fの厚みWに対する隣接する板状部材10a〜10f間の間隔Wの比((板状部材10a〜10f間の間隔W)/(板状部材10a〜10fの厚みW))は、22以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0043】
また、本実施形態では、開口12a〜12eは、板状部材10a〜10fの間に形成されている。このため、開口12a〜12eは、開放空間である。よって、本実施形態の結晶化ガラス板製造用トチ1は、高い放熱性を有する。従って、本実施形態では、ガラス板20の載置面11側の表層と、載置面11とは反対側の表層とで温度差がより生じ難い。従って、ガラス板20に所望しない変形がより生じ難く、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0044】
本実施形態では、結晶化ガラス板製造用トチ1は、熱容量の小さな結晶化ガラスからなる。このため、ガラス板20の載置面11側の表層と、載置面11とは反対側の表層とで温度差がさらに生じ難い。従って、ガラス板20に所望しない変形がさらに生じ難く、さらに高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0045】
詳細には、結晶化ガラス板製造用トチ1は、β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスからなるものであり、より詳細には、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなるものである。このため、本実施形態の結晶化ガラス板製造用トチ1は、高い耐熱性を有する。従って、結晶化ガラス板製造用トチ1は、熱処理工程においても、高剛性かつ高強度である。よって、熱処理工程において、結晶化ガラス板製造用トチ1が変形しにくい。さらに、結晶化ガラス板製造用トチ1の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数は、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にある。このため、熱処理工程において、結晶化ガラス板製造用トチ1がより変形しにくい。従って、さらに高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0046】
以下、上記実施形態の変形例について説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0047】
(第1の変形例)
図4は、第1の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図4に示すように、本変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチは、複数の板状部材10a〜10fの底部を連結する連結部材13を備えている。本変形例では、複数の板状部材10a〜10fと連結部材13とは、一体に形成されている。もっとも、連結部材13は、複数の板状部材10a〜10fと別体であってもよい。
【0048】
本変形例のように、連結部材13を設けることにより、複数の板状部材10a〜10fが相対的に変位することを抑制することができる。また、複数の板状部材10a〜10fが傾くことを抑制することができる。
【0049】
(第2の変形例)
図5は、第2の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図6は、第2の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的平面図である。
【0050】
上記実施形態では、結晶化ガラス板製造用トチが複数の板状部材により構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、図5及び図6に示すように、載置面11に開口している複数の貫通孔14が設けられており、これら複数の貫通孔14により複数の開口12が形成されていてもよい。
【0051】
具体的に、本変形例では、複数の貫通孔14のそれぞれは、平面視略矩形状に形成されている。複数の貫通孔14は、マトリクス状に配置されている。すなわち、本変形例では、y方向において等間隔に配置されており、x方向に延びる複数の第1の壁部と、x方向において等間隔に配置されており、y方向に延び、かつ、複数の第1の壁部と交差している複数の第2の壁部とにより結晶化ガラス板製造用トチが構成されている。
【0052】
本変形例の場合、載置面11上に載置されるガラス板をより好適に支持することができる。このため、軟化したガラス板が開口12内に入り込んでしまうことによりガラス板の表面に凹凸が形成されることをより効果的に抑制することができる。従って、より高い形状精度を有する結晶化ガラス屈曲板を製造し得る。
【0053】
また、開口12が上記実施形態と同様に解放空間とされている。このため、本変形例の結晶化ガラス板製造用トチも高い放熱性を有する。従って、本変形例の結晶化ガラス板製造用トチを用いた場合も、上記実施形態の結晶化ガラス板製造用トチ1を用いた場合と同様に、ガラス板に所望しない変形がより生じ難く、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0054】
なお、本変形例の結晶化ガラス板製造用トチは、例えば、プレス成形などにより、セラミックペーストを結晶化ガラス板製造用トチに即した形状に成形し、その後焼成することにより作製することができる。
【0055】
なお、本変形例においては、開口12が矩形状である場合について説明したが、開口12は、例えば、平行四辺形状や菱形状などの矩形状以外の四辺形状に形成されていてもよいし、例えば、円形状、楕円形状、長円形状、多角形状に形成されていてもよい。
【0056】
また、本実施形態において、結晶化ガラス板製造用トチは、一体に形成されている例について説明したが、結晶化ガラス板製造用トチは、複数の部材が組み合わせられたものであってもよい。結晶化ガラス板製造用トチは、例えば、y方向において等間隔に配置されており、x方向に延びる複数の第1の壁状部材と、x方向において等間隔に配置されており、y方向に延び、かつ、複数の第1の壁状部材と交差している複数の第2の壁状部材とが組み合わされたものであってもよい。
【0057】
(第3の変形例)
図9は、第3の変形例における板状部材の略図的平面図である。
【0058】
本変形例では、上記実施形態の板状部材10a〜10fが、図9に示す板状部材10により構成されている。図9に示すように、板状部材10は、屈曲構造を有する頂面10Aと、平面上の第1及び第2の側面10B,10Cと、平面状の底面10Dとを有する。第1及び第2の側面10B,10Cの高さ方向における中央部には、円弧面状の切欠部10B1,10C1が形成されている。同様に、底面10Dにも、円弧面状の切欠部10D1が形成されている。また、板状部材10には、一対の主面間を貫通する複数の円柱状の貫通孔10E1,10E2が形成されている。このため、本変形例では、y方向における対流が板状部材10によって規制されにくい。よって、本変形例の結晶化ガラス板製造用トチを用いた場合は、結晶化ガラス板の製造工程において、結晶化ガラス板製造用トチが配置された雰囲気で対流が生じやすい。また、本変形例では、切欠部10B1,10C1,10D1及び貫通孔10E1,10E2が設けられているため、板状部材10の体積が小さい。よって、板状部材10の熱容量も小さい。このため、結晶化ガラス板製造用トチ上に配置されたガラス板20の温度むらをより小さくすることができる。従って、より均一な結晶化ガラス屈曲板の製造が可能となる。
【0059】
なお、対流の阻害をより効果的に抑制する観点及び結晶化ガラス製造用トチの熱容量をより小さくする観点からは、板状部材に切欠や貫通孔をより多く設けることが好ましい。しかしながら、板状部材に切欠や貫通孔を多く形成した場合、板状部材の剛性が低くなりすぎる場合がある。従って、切欠や貫通孔は、板状部材の十分に高い剛性が維持できる範囲において形成することが好ましい。
【0060】
(第4の変形例)
図10は、第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図11は、第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的平面図である。
【0061】
図10及び図11に示すように、本変形例では、隣り合う板状部材10a〜10f同士が、スペーサとしての機能を兼ね備える接続部材15を介して固定されている。このため、結晶化ガラス製造用トチは一体化されている。よって、例えば、製造工程において、結晶化ガラス製造用トチに振動等が加わった際においても、結晶化ガラス製造用トチが変形し難い。従って、本変形例の結晶化ガラス製造用トチを用いることによって、高い形状精度を有する結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0062】
なお、本変形例では、接続部材15は、板状部材10a〜10fのx方向における両端部に設けられている。このため、接続部材15は、ガラス板20から離れた位置に位置している。接続部材15の高さは、板状部材10a〜10fの高さの1/3程度以下であることが好ましい。接続部材15のx方向に沿った幅は、板状部材10a〜10fのx方向に沿った幅の1/10以下であることが好ましい。
【0063】
本変形例では、接続部材15が直方体状であるが、接続部材15の形状は特に限定されない。接続部材15は、例えば、四角柱状、多角柱状、円柱状、円錐台状等であってもよい。
【0064】
接続部材15は、十分に高い耐熱性を有するものである限りにおいて特に限定されず、例えば、板状部材10a〜10fと同様の材質を有するものであってもよい。また、接続部材15は、多孔質体であってもよい。
【0065】
(実施例)
上記実施形態に記載の結晶化ガラス板製造用トチ1を用いて、下記の条件で、結晶化ガラス屈曲板を製造した。図7に、実施例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真を示す。
【0066】
比較例として、結晶化ガラス板製造用トチ1を用いずに、開口が形成されていない耐火セラミックス製のトチを用いたこと以外は、上記実施例と同様にして、結晶化ガラス屈曲板を製造した。図8に、比較例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真を示す。
【0067】
図8の写真から明らかなように、載置面に開口が形成されていないトチを使用した場合は、得られた結晶化ガラス屈曲板の一部に所望しない大きな変形が生じており、所望の形状の結晶化ガラス屈曲板が得られなかった。一方、図7の写真から明らかなように、載置面11に開口が形成されているトチ1を用いた実施例においては、結晶化ガラス屈曲板に所望しない大きな変形は見られず、所望の形状の結晶化ガラス屈曲板が得られた。これらの結果から、載置面に開口が形成されているトチを用いることにより、高い形状精度で結晶化ガラス屈曲板を製造できることが分かる。
【0068】
<実施例における条件>
結晶化ガラス板製造用トチ1の材質:β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラス
板状部材10a〜10fの枚数:25枚
板状部材10a〜10fの厚みW:5mm
板状部材10a〜10fの間隔L:25mm
載置面11の曲率半径:163〜1800mmR
載置面11の幅及び長さ:600mm×1000mm
ガラス板20:下記の熱処理を行うことで、β−スポジュメン固溶体を主結晶として析出する性質を有するガラス
ガラス板20の熱処理工程:常温から800℃まで25分かけて加熱し、800℃で40分間保持し、その後、1100℃まで25分かけて加熱し、1100℃で20分間保持した。その後、常温まで25分かけて冷却した。
【符号の説明】
【0069】
1…結晶化ガラス板製造用トチ
10a〜10f,10…板状部材
10B,10C…側面
10D…底面
10B1,10C1,10D1…切欠部
10E1,10E2…貫通孔
11…載置面
11a〜11f,10A…板状部材の頂面
12,12a〜12e…開口
13…連結部材
14…貫通孔
15…接続部材
20…ガラス板
40…熱処理装置
41…熱処理炉
41a…熱処理炉の入口
41b…熱処理炉の出口
42…搬送装置
43…セッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチであって、
ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有し、
前記載置面には、複数の開口が形成されている結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項2】
前記載置面における前記複数の開口が占める面積割合は、36%〜96%の範囲内にある請求項1に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項3】
相互に平行に間隔をおいて配置されており、前記載置面を構成している頂面を有する複数の板状部材を有する請求項1または2に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項4】
前記複数の板状部材を連結する連結部材をさらに有する請求項3に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項5】
隣接する前記板状部材間の間隔は、15mm〜44mmの範囲内にある、請求項3または4に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項6】
前記板状部材の厚みは、2mm〜10mmの範囲内にある、請求項3〜5のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項7】
前記載置面に開口している複数の貫通孔が形成されている請求項1または2に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項8】
結晶化ガラスからなる請求項1〜7のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項9】
主結晶がβ−スポジュメン固溶体である結晶化ガラスからなる請求項8に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項10】
前記結晶化ガラスにおける前記β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である請求項9に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項11】
30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にある請求項1〜10のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチを用いた結晶化ガラス板の製造方法であって、
前記載置面の上にガラス板を載置する工程と、
前記載置面上に載置したガラス板を加熱して結晶化させることによって前記結晶化ガラス板を得る工程とを備える結晶化ガラス板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−173781(P2011−173781A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257925(P2010−257925)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(593046429)日電硝子加工株式会社 (13)
【Fターム(参考)】