結晶化ガラス板製造用トチ及び結晶化ガラス板の製造方法
【課題】屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造するための結晶化ガラス板製造用トチ、及び屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造し得る結晶化ガラス板の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板30を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチである。結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板30が載置される載置面10aであって、屈曲構造を持つ載置面10aを有し、結晶化ガラスからなるトチ本体10を備えている。
【解決手段】結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板30を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチである。結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板30が載置される載置面10aであって、屈曲構造を持つ載置面10aを有し、結晶化ガラスからなるトチ本体10を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス板製造用トチ及びそれを用いた結晶化ガラス板の製造方法に関する。特には、本発明は、屈曲構造を有する結晶化ガラス板の製造において、ガラス板の結晶化工程に用いられるトチ及びそれを用いた屈曲構造を有する結晶化ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶化ガラス板は、高い耐熱性を有すると共に、熱膨張率を小さくできるという利点を有する。このため、従来、例えばストーブや暖炉などの暖房装置の熱線透過部品などとして、結晶化ガラス板が広く用いられている(例えば、下記の特許文献1など)。
【0003】
このような用途に使用される結晶化ガラス板には、暖房装置の意匠性を向上させるため、暖房装置に応じた形状に形成されていることが求められる。例えば、暖房装置の内部に配置されている燃焼装置の視認性を高めるために、屈曲構造を有する結晶化ガラス板(以下、「結晶化ガラス屈曲板」と称する。)が求められることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−229851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結晶化ガラス屈曲板を製造する方法としては、製造しようとする結晶化ガラス屈曲板の形状に応じた形状の載置面を有するコーディエライトやムライトなどの耐火セラミックス製のトチの上に、結晶化されていないガラス板を載置し、その状態で、ガラス板を熱処理する方法が挙げられる。この製造方法では、熱処理工程において、結晶化されていないガラス板が軟化してトチの表面に沿うと共に、ガラス板の結晶化が進行する。その結果、結晶化ガラス屈曲板が形成される。
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究した結果、上記製造方法では、部分的に反りや膨れなどの変形が発生し、高い形状精度を有する結晶化ガラス屈曲板を製造することが困難であることが分かった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造するための結晶化ガラス板製造用トチ、及び屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造し得る結晶化ガラス板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ガラス板を結晶化させるための熱処理工程において、ガラス板に生じた温度むらに起因して、ガラス板中に、結晶化が速く進行する部分と、結晶化が遅く進行する部分とが生じているため、高い形状精度の結晶化ガラス板が得難いことを見出した。すなわち、耐火セラミックス製トチの上にガラス板を載置して熱処理工程を行った場合、ガラス板のうち、熱容量が大きな耐火セラミックス製トチ側の裏面側表層は、加熱されにくく、冷却されにくい。一方、ガラス板のうち、耐火セラミックス製トチとは反対側の表面側表層は、外雰囲気に直接接触しているため、加熱されやすく、冷却されやすい。このため、ガラス板の表面側表層と裏面側表層とでは、結晶化の進行開始時期、進行速度に差が生じる。また、熱処理工程後のガラス板の冷却速度にも差が生じる。よって、熱処理工程及び熱処理工程後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じる。従って、ガラス板に所望しない変形が生じてしまい、得られる結晶化ガラス板の形状精度が低下してしまう。このことを踏まえ、本発明者らは、さらに鋭意研究の結果、製造用トチを工夫することにより高い形状精度で結晶化ガラス板を製造し得ることを見出し、その結果、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチに関する。本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、トチ本体を備えている。トチ本体は、ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有する。トチ本体は、結晶化ガラスからなる。
【0010】
なお、本発明において、「屈曲構造を持つ載置面」とは、少なくとも一部に屈曲している部分が形成されている載置面のことをいう。従って、「屈曲構造を持つ載置面」には、全体が屈曲している載置面、一部が屈曲している載置面、などが含まれる。
【0011】
また、本発明において、「屈曲」には、「湾曲」が含まれるものとする。
【0012】
本発明において、「トチ(setter)」とは、ガラス板の焼成中に、ガラス板の形状が所望の形状とは異なった形状となることを抑制するための支持台のことをいう。
【0013】
本発明に係る結晶化ガラス板の製造方法は、上記本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチを用いた結晶化ガラス板の製造方法に関する。本発明に係る結晶化ガラス板の製造方法は、載置面の上にガラス板を載置する工程と、載置面上に載置したガラス板を加熱して結晶化させることによって結晶化ガラス板を得る工程とを備えている。
【0014】
結晶化ガラスからなるトチ本体は、例えば耐火セラミックスからなるトチ本体とは異なり、内部に多数の空隙を有さない。また、トチ本体を結晶化ガラスにより形成する場合、トチ本体を薄く形成することができる。このため、トチ本体が結晶化ガラスからなる場合は、例えば、トチ本体が耐火セラミックスからなる場合と比較して、トチ本体の熱容量を小さく、かつ均一にすることができる。よって、本発明の結晶化ガラス板製造用トチを用いてガラス板の熱処理工程を行った場合、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板のトチ側部分と、トチとは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じ難い。従って、ガラス板に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0015】
より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造するためには、トチ本体の熱容量がより小さいことが好ましい。このため、トチ本体は、板状に形成されていることが好ましい。その場合において、トチ本体の厚みは、1mm〜10mmの範囲内にあることが好ましく、3mm〜9mmの範囲内にあることがより好ましい。トチ本体の厚みが厚すぎると、トチ本体の熱容量が大きくなるため、得られる結晶化ガラス屈曲板の形状精度が低下する場合がある。トチ本体の厚みが薄すぎると、トチ本体の形状精度が低下し、熱処理工程において、トチ本体が変形してしまうため、得られる結晶化ガラス屈曲板の形状精度がかえって低下する場合がある。なお、「板状」とは、厚みが略均一であることをいう。
【0016】
トチ本体の材質は、結晶化ガラスである限りにおいて特に限定されない。トチ本体は、例えば、β−スポジュメン固溶体やβ−クオーツ固溶体などを主結晶とする結晶化ガラスからなるものであってもよい。また、トチ本体は、非透明の結晶化ガラスからなるものであってもよいし、透明の結晶化ガラスからなるものであってもよい。
【0017】
但し、熱処理工程においてトチ本体の変形を抑制する観点から、トチ本体は、耐熱性が高い結晶化ガラスからなることが好ましい。より具体的には、トチ本体は、結晶化温度において高剛性及び高強度を有する結晶化ガラスからなることが好ましい。従って、トチ本体は、耐熱性の高い、主結晶がβ−スポジュメン固溶体である結晶化ガラスからなることが好ましい。さらには、トチ本体は、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなることが好ましい。
【0018】
トチ本体を耐熱性の高いβ−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスにより形成することにより、トチ本体を薄く形成した場合であっても、熱処理工程におけるトチ本体の変形を抑制することができる。従って、トチ本体の熱容量をより小さくすることができる。その結果、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0019】
また、熱処理工程におけるトチ本体の変形を抑制する観点から、トチ本体は、低い熱膨張係数を有することが好ましい。具体的には、トチ本体の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
本発明の結晶化ガラス板製造用トチは、トチ本体を支持する支持部材を有することが好ましい。支持部材を設けることにより、トチ本体の変形の抑制や、トチ本体の剛性や強度の向上を図れるため、トチ本体をより薄くできる。従って、トチ本体の熱容量をより小さくできるためである。
【0021】
支持部材を設ける場合、支持部材は、トチ本体の載置面とは反対側の面のうちの一部に接触していることが好ましい。
【0022】
例えば、支持部材がトチ本体の載置面とは反対側の面の全面に接触している場合、トチ本体の熱容量が小さくても、支持部材の影響によって、トチ本体の温度が変化し難くなる。トチ本体の温度が変化しにくくなると、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板のトチ側部分と、トチとは反対側部分とで温度差が生じやすくなる。従って、ガラス板内において、加熱速度及び冷却速度のばらつきが大きくなると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度のばらつきも大きくなる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じやすくなる。従って、ガラス板に所望しない変形が生じやすくなり、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができなくなる場合がある。
【0023】
それに対して、支持部材がトチ本体の載置面とは反対側の面のうちの一部に接触している場合は、トチ本体に及ぼす支持部材の影響を小さくできる。すなわち、トチ本体の温度変化が支持部材によって妨げられにくい。このため、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板のトチ側部分と、トチとは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じ難い。従って、ガラス板に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0024】
具体的には、支持部材は、各々、トチ本体の載置面とは反対側の面から下方に延びており、間隔をおいて配置されている複数の板状部材を有していることが好ましい。この場合、支持部材とトチ本体との接触面積を小さくしつつ、トチ本体を好適に支持できるためである。
【0025】
なお、支持部材の材質は、特に限定されない。支持部材は、例えば、コーディエライトやムライトなどの耐火セラミックスや結晶化ガラスにより形成することができる。なかでも、支持部材は、トチ本体と同様に、結晶化ガラスからなることが好ましく、トチ本体と同種の結晶化ガラスからなることがより好ましい。この場合、支持部材がトチ本体の温度変化をより妨げにくいためである。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有するトチ本体が結晶化ガラスからなる。このため、トチ本体の熱容量が小さくかつ均一である。従って、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図2】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。
【図3】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。
【図4】図1の線IV−IVにおける断面図である。
【図5】ガラス板の熱処理工程を説明するための結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。
【図6】ガラス板の熱処理工程を説明するための熱処理装置の模式図である。
【図7】トチ本体の製造方法を説明するための模式図である。
【図8】第1の変形例における支持部材の略図的斜視図である。
【図9】第2の変形例における支持部材の略図的斜視図である。
【図10】第2の変形例における支持部材の略図的平面図である。
【図11】実施例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真である。
【図12】比較例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真である。
【図13】第3の変形例における板状部材の略図的平面図である。
【図14】第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図15】第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、図1に示す結晶化ガラス板製造用トチ1を例に挙げて説明する。但し、結晶化ガラス板製造用トチ1は、単なる例示である。本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、結晶化ガラス板製造用トチ1に何ら限定されない。
【0029】
図1は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図2は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。図3は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。図4は、図1の線IV−IVにおける断面図である。
【0030】
図1〜図4に示す結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板(結晶化ガラス屈曲板)を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチである。図1〜図4に示すように、結晶化ガラス板製造用トチ1は、トチ本体10と、支持部材20とを備えている。
【0031】
トチ本体10は、結晶化対象となるガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有する部材である。本実施形態では、トチ本体10は、板状に形成されている。具体的には、本実施形態では、トチ本体10は、湾曲板状に形成されている。トチ本体10は、凹状の第1の主面10aと、凸状の第2の主面10bとを有する。上記載置面は、凹状の第1の主面10aによって構成されている。
【0032】
なお、本実施形態では、載置面としての第1の主面10a全体が湾曲している場合について説明する。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、載置面の一部は、平面状であってもよい。
【0033】
トチ本体10の厚みは、特に限定されないが、1mm〜10mmの範囲内にあることが好ましく、3mm〜9mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0034】
本実施形態において、トチ本体10は、結晶化ガラスからなる。具体的には、本実施形態では、トチ本体10は、主結晶がβ−スポジュメン固溶体であり、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなる。
【0035】
トチ本体10の熱膨張係数も特に限定されないが、トチ本体10の熱膨張係数は、小さい方が好ましい。具体的には、トチ本体10の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数は、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
トチ本体10は、支持部材20によって支持されている。本実施形態では、支持部材20は、トチ本体10の第2の主面10bのうちの一部にのみ接触するように設けられている。具体的には、支持部材20は、複数の板状部材20a〜20cを有する。複数の板状部材20a〜20cの各々は、トチ本体10の載置面を構成している第1の主面10aとは反対側の第2の主面10bから下方に向かって延びている。複数の板状部材20a〜20cは、相互に間隔をおいて配置されている。
【0037】
複数の板状部材20a〜20c相互間の間隔は、特に限定されないが、例えば、板状部材20a〜20cの厚みの5倍以上100倍以下であることが好ましく、15倍以上60倍以下であることがより好ましい。すなわち、第2の主面10bにおいて、支持部材20が接している部分が占める面積割合は、1%〜20%の範囲内にあることが好ましく、1.5%〜7%の範囲内にあることがより好ましい。具体的には、板状部材20a〜20cの厚みは、2mm〜10mmの範囲内とすることが好ましく、4mm〜6mmの範囲内にあることがより好ましい。複数の板状部材20a〜20c相互間の間隔は、20mm〜400mmの範囲内とすることが好ましく、60mm〜240mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0038】
なお、支持部材20の材質は、特に限定されない。支持部材20は、例えば、コーディエライトやムライトなどの耐火セラミックスや結晶化ガラスにより形成することができる。なかでも、支持部材20は、トチ本体10と同様に、結晶化ガラスからなることが好ましく、トチ本体10と同種の結晶化ガラスからなることがより好ましい。
【0039】
次に結晶化ガラス板製造用トチ1を用いた結晶化ガラス屈曲板の製造方法の一例について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0040】
図5は、ガラス板の熱処理工程を説明するための結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。図6は、ガラス板の熱処理工程を説明するための熱処理装置の模式図である。
【0041】
まず、図5に示すように、トチ本体10の第1の主面10aの形状にほぼ即した形状の、結晶化されていないガラス板30を用意し、第1の主面10a上に載置する。この状態で、図6に示す熱処理装置40を用いてガラス板30の熱処理を行うことにより結晶化ガラス屈曲板を製造する。
【0042】
図6に示すように、熱処理装置40は、熱処理炉41を備えている。熱処理炉41の内部には、図示しないヒーターが複数設けられている。これら複数のヒーターにより、熱処理炉41の入口41aから出口41bにかけて温度勾配が形成されている。具体的には、熱処理炉41の入口41a及び出口41b付近は、低い温度に設定されており、熱処理炉41の中央部は、ガラス板30が結晶化する程度の高温に設定されている。
【0043】
熱処理装置40においては、熱処理炉41内を結晶化ガラス板製造用トチ1を搬送するための搬送装置42が設けられており、この搬送装置42上をセッター43上に載置された結晶化ガラス板製造用トチ1が入口41aから出口41bまで搬送される。これにより、ガラス板30を結晶化させる熱処理工程と、結晶化したガラス板を冷却する冷却工程とが行われる。その結果、ガラス板30から結晶化ガラス屈曲板が形成される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態のトチ本体10は、結晶化ガラスからなるものである。このため、トチ本体10の内部には、空隙が少ない。また、例えば、耐火セラミックス製トチと比べて、トチ本体10を薄く形成することができる。よって、トチ本体10の熱容量は、例えば耐火セラミックス製トチと比較して熱容量が小さい。このため、結晶化ガラス板製造用トチ1を用いてガラス板30の熱処理工程を行った場合、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30の結晶化ガラス板製造用トチ1側部分と、結晶化ガラス板製造用トチ1とは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板30内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、ガラス板30の結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30に応力が生じ難い。従って、ガラス板30に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0045】
また、本実施形態では、トチ本体10は、板状に形成されている。このため、トチ本体10が塊状の場合と比較して、トチ本体10の熱容量がより小さい。従って、ガラス板30に所望しない変形がより生じ難く、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板が得られる。
【0046】
トチ本体10の熱容量を小さくする観点からは、トチ本体10の厚みは、10mm以下であることが好ましく、9mm以下であることがより好ましい。但し、トチ本体10の厚みが小さすぎると、ガラス板30の熱処理工程において、トチ本体10が変形してしまい、その結果、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板が得られなくなる場合がある。このため、トチ本体10の厚みは、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましい。
【0047】
また、本実施形態では、トチ本体10が、耐熱性の高い、主結晶がβ−スポジュメン固溶体である結晶化ガラスからなる。このため、トチ本体10を薄く形成した場合であっても、熱処理工程におけるトチ本体10の変形を抑制することができる。従って、トチ本体10の熱容量をさらに小さくすることができる。その結果、さらに高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0048】
より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造する観点からは、トチ本体10の耐熱性がさらに高いことが好ましい。従って、トチ本体10において、β−スポジュメン固溶体の含有率は、90質量%以上であることが好ましい。
【0049】
また、本実施形態では、トチ本体10は、支持部材20により支持されている。このため、支持部材20によりトチ本体10の変形の抑制や、トチ本体10の剛性や強度の向上を図れる。よって、トチ本体10をより薄くできる。従って、トチ本体10の熱容量をより小さくできる。よって、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0050】
また、本実施形態では、トチ本体10を支持している支持部材20は、トチ本体10の第2の主面10bの一部にのみ接触している。このため、トチ本体10に及ぼす支持部材20の影響を小さくできる。すなわち、トチ本体10の温度変化が支持部材20によって妨げられにくい。よって、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30のトチ本体10側部分と、トチ本体10とは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板30内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、ガラス板30の結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30に応力が生じ難い。従って、ガラス板30に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0051】
トチ本体10及びトチ本体10の上に載置されているガラス板30の温度変化が、支持部材20によりさらに妨げられにくくする観点からは、トチ本体10の第2の主面10bのうち、支持部材20が接触している部分が占める面積割合が20%以下であることが好ましい。例えば、本実施形態のように、支持部材20が等間隔に配置された複数の板状部材20a〜20cにより構成されている場合は、板状部材20a〜20c相互間の間隔を、板状部材20a〜20cの厚みの5倍以上とすることが好ましく、15倍以上とすることがより好ましい。
【0052】
但し、板状部材20a〜20c相互間の間隔の、板状部材20a〜20cの厚みに対する比が大きすぎると、トチ本体10が好適に支持されず、熱処理工程において、トチ本体10が変形しやすくなる。このため、板状部材20a〜20c相互間の間隔の、板状部材20a〜20cの厚みに対する比は、100倍以下であることが好ましく、60倍以下であることがより好ましい。すなわち、トチ本体10の第2の主面10bのうち、支持部材20が接触している部分が占める面積割合は、1%〜20%であることが好ましく、1.5%〜7%であることがより好ましい。
【0053】
さらに高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を得るためには、熱処理工程においてトチ本体10が変形しないことが好ましい。すなわち、熱処理工程における最低温度と最高温度との間でトチ本体10の熱膨張係数が小さいことが好ましい。具体的には、トチ本体10の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0054】
なお、トチ本体10の作製方法は、特に限定されない。以下、トチ本体10の作製方法の一例を、図7を参照しながら説明する。
【0055】
まず、結晶化されていないガラス板52(図7を参照)を用意する。ここでは、ガラス板52は、湾曲構造を有するものであるが、ガラス板52は、例えば平板であってもよい。次に、図7に示すように、ガラス板52を相互に平行に等間隔に配置された複数の板状体51からなる支持具50の上に載置する。この状態で、ガラス板52を熱処理して結晶化させることにより、高い形状精度の結晶化ガラス製トチ本体10を作製することができる。
【0056】
(変形例)
図8は、第1の変形例における支持部材の略図的斜視図である。図9は、第2の変形例における支持部材の略図的斜視図である。図10は、第2の変形例における支持部材の略図的平面図である。
【0057】
上記実施形態では、支持部材20が、相互に平行に等間隔に配置された複数の板状部材20a〜20cにより構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。
【0058】
例えば、図8に示すように、支持部材20は、相互に平行に等間隔に配置された複数の板状部60a〜60fと、複数の板状部60a〜60fの底部を連結する平板状の連結部61とにより構成されていてもよい。
【0059】
また、図9及び図10に示すように、支持部材20は、高さ方向zに延びる複数の貫通孔62がマトリクス状に形成されているものであってもよい。
【0060】
(第3の変形例)
図13は、第3の変形例における板状部材の略図的平面図である。
【0061】
本変形例では、上記実施形態の板状部材20a〜20cが、図13に示す板状部材21により構成されている。図13に示すように、板状部材21は、屈曲構造を有する頂面20Aと、平面上の第1及び第2の側面20B,20Cと、平面状の底面20Dとを有する。第1及び第2の側面20B,20Cの高さ方向における中央部には、円弧面状の切欠部20B1,20C1が形成されている。同様に、底面20Dにも、円弧面状の切欠部20D1が形成されている。また、板状部材21には、一対の主面間を貫通する複数の円柱状の貫通孔20E1,20E2が形成されている。このため、本変形例では、y方向における対流が板状部材21によって規制されにくい。よって、本変形例の結晶化ガラス板製造用トチを用いた場合は、結晶化ガラス板の製造工程において、結晶化ガラス板製造用トチが配置された雰囲気で対流が生じやすい。また、本変形例では、切欠部20B1,20C1,20D1及び貫通孔20E1,20E2が設けられているため、板状部材21の体積が小さい。よって、板状部材21の熱容量も小さい。このため、結晶化ガラス板製造用トチ上に配置されたトチ本体10及びトチ本体10の上に載置されたガラス板30の温度むらをより小さくすることができる。従って、より均一な結晶化ガラス屈曲板の製造が可能となる。
【0062】
なお、対流の阻害をより効果的に抑制する観点及び結晶化ガラス製造用トチの熱容量をより小さくする観点からは、板状部材に切欠や貫通孔をより多く設けることが好ましい。しかしながら、板状部材に切欠や貫通孔を多く形成した場合、板状部材の剛性が低くなりすぎる場合がある。従って、切欠や貫通孔は、板状部材の十分に高い剛性が維持できる範囲において形成することが好ましい。
【0063】
(第4の変形例)
図14は、第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図15は、第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。
【0064】
図14及び図15に示すように、本変形例では、隣り合う板状部材20a〜20c同士が、スペーサとしての機能を兼ね備える接続部材15を介して固定されている。このため、結晶化ガラス製造用トチは一体化されている。よって、例えば、製造工程において、結晶化ガラス製造用トチに振動等が加わった際においても、板状部材20a〜20cの相互関係が変化しにくい。従って、本変形例の結晶化ガラス製造用トチを用いることによって、高い形状精度を有する結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0065】
なお、本変形例では、接続部材15は、板状部材20a〜20cの両端部に設けられている。このため、接続部材15は、トチ本体10及びトチ本体10の上に載置されたガラス板30から離れた位置に位置している。接続部材15の高さは、板状部材20a〜20cの高さの1/3程度以下であることが好ましい。接続部材15の幅は、板状部材20a〜20cの幅の1/10以下であることが好ましい。
【0066】
本変形例では、接続部材15が直方体状であるが、接続部材15の形状は特に限定されない。接続部材15は、例えば、四角柱状、多角柱状、円柱状、円錐台状等であってもよい。
【0067】
接続部材15は、十分に高い耐熱性を有するものである限りにおいて特に限定されず、例えば、板状部材20a〜20cと同様の材質を有するものであってもよい。また、接続部材15は、多孔質体であってもよい。
【0068】
(実施例)
上記実施形態に記載の結晶化ガラス板製造用トチ1を用いて、下記の条件で、結晶化ガラス屈曲板を製造した。図11に、実施例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真を示す。
【0069】
比較例として、結晶化ガラス板製造用トチ1を用いずに、下記の円柱面状の凹部が形成された耐火セラミックス製のトチを用いたこと以外は、上記実施例と同様にして、結晶化ガラス屈曲板を製造した。図12に、比較例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真を示す。
【0070】
図12の写真から明らかなように、耐火セラミックス製のトチを使用した場合は、得られた結晶化ガラス屈曲板の一部に所望しない大きな変形が生じており、所望の形状の結晶化ガラス屈曲板が得られなかった。一方、図11の写真から明らかなように、結晶化ガラス板製造用トチ1を用いた実施例においては、結晶化ガラス屈曲板に所望しない大きな変形は見られず、所望の形状の結晶化ガラス屈曲板が得られた。これらの結果から、結晶化ガラス板製造用トチを用いることにより、高い形状精度で結晶化ガラス屈曲板を製造できることが分かる。
【0071】
<実施例における条件>
トチ本体10の材質:β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラス
トチ本体10の形状寸法:厚さ4mm、幅500mm、長さ1000mm、半径900mmの円柱面状
支持部材を構成する板状部材の枚数:3枚
支持部材を構成する板状部材の厚み:4mm
支持部材を構成する板状部材の間隔:230mm
支持部材を構成する板状部材の材質:β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラス
ガラス板30:下記の熱処理を行うことで、β−石英固溶体を主結晶として析出する性質を有するガラス
ガラス板30の熱処理工程:常温から800℃まで25分かけて加熱し、800℃で40分間保持し、その後、900℃まで25分かけて加熱し、900℃で20分間保持した。その後、常温まで25分かけて冷却した。
【符号の説明】
【0072】
1…結晶化ガラス板製造用トチ
10…トチ本体
10a…第1の主面(トチ本体の載置面)
10b…第2の主面
15…接続部材
20…支持部材
20a〜20c,21…板状部材
20A…頂面
20B,20C…側面
20D…底面
20B1,20C1,20D1…切欠部
20E1,20E2…貫通孔
30…ガラス板
40…熱処理装置
41…熱処理炉
41a…熱処理炉の入口
41b…熱処理炉の出口
42…搬送装置
43…セッター
50…支持具
51…板状体
52…ガラス板
60a〜60f…板状部
61…連結部
62…貫通孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス板製造用トチ及びそれを用いた結晶化ガラス板の製造方法に関する。特には、本発明は、屈曲構造を有する結晶化ガラス板の製造において、ガラス板の結晶化工程に用いられるトチ及びそれを用いた屈曲構造を有する結晶化ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶化ガラス板は、高い耐熱性を有すると共に、熱膨張率を小さくできるという利点を有する。このため、従来、例えばストーブや暖炉などの暖房装置の熱線透過部品などとして、結晶化ガラス板が広く用いられている(例えば、下記の特許文献1など)。
【0003】
このような用途に使用される結晶化ガラス板には、暖房装置の意匠性を向上させるため、暖房装置に応じた形状に形成されていることが求められる。例えば、暖房装置の内部に配置されている燃焼装置の視認性を高めるために、屈曲構造を有する結晶化ガラス板(以下、「結晶化ガラス屈曲板」と称する。)が求められることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−229851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結晶化ガラス屈曲板を製造する方法としては、製造しようとする結晶化ガラス屈曲板の形状に応じた形状の載置面を有するコーディエライトやムライトなどの耐火セラミックス製のトチの上に、結晶化されていないガラス板を載置し、その状態で、ガラス板を熱処理する方法が挙げられる。この製造方法では、熱処理工程において、結晶化されていないガラス板が軟化してトチの表面に沿うと共に、ガラス板の結晶化が進行する。その結果、結晶化ガラス屈曲板が形成される。
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究した結果、上記製造方法では、部分的に反りや膨れなどの変形が発生し、高い形状精度を有する結晶化ガラス屈曲板を製造することが困難であることが分かった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造するための結晶化ガラス板製造用トチ、及び屈曲構造を有する結晶化ガラス板を高い形状精度で製造し得る結晶化ガラス板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ガラス板を結晶化させるための熱処理工程において、ガラス板に生じた温度むらに起因して、ガラス板中に、結晶化が速く進行する部分と、結晶化が遅く進行する部分とが生じているため、高い形状精度の結晶化ガラス板が得難いことを見出した。すなわち、耐火セラミックス製トチの上にガラス板を載置して熱処理工程を行った場合、ガラス板のうち、熱容量が大きな耐火セラミックス製トチ側の裏面側表層は、加熱されにくく、冷却されにくい。一方、ガラス板のうち、耐火セラミックス製トチとは反対側の表面側表層は、外雰囲気に直接接触しているため、加熱されやすく、冷却されやすい。このため、ガラス板の表面側表層と裏面側表層とでは、結晶化の進行開始時期、進行速度に差が生じる。また、熱処理工程後のガラス板の冷却速度にも差が生じる。よって、熱処理工程及び熱処理工程後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じる。従って、ガラス板に所望しない変形が生じてしまい、得られる結晶化ガラス板の形状精度が低下してしまう。このことを踏まえ、本発明者らは、さらに鋭意研究の結果、製造用トチを工夫することにより高い形状精度で結晶化ガラス板を製造し得ることを見出し、その結果、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチに関する。本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、トチ本体を備えている。トチ本体は、ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有する。トチ本体は、結晶化ガラスからなる。
【0010】
なお、本発明において、「屈曲構造を持つ載置面」とは、少なくとも一部に屈曲している部分が形成されている載置面のことをいう。従って、「屈曲構造を持つ載置面」には、全体が屈曲している載置面、一部が屈曲している載置面、などが含まれる。
【0011】
また、本発明において、「屈曲」には、「湾曲」が含まれるものとする。
【0012】
本発明において、「トチ(setter)」とは、ガラス板の焼成中に、ガラス板の形状が所望の形状とは異なった形状となることを抑制するための支持台のことをいう。
【0013】
本発明に係る結晶化ガラス板の製造方法は、上記本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチを用いた結晶化ガラス板の製造方法に関する。本発明に係る結晶化ガラス板の製造方法は、載置面の上にガラス板を載置する工程と、載置面上に載置したガラス板を加熱して結晶化させることによって結晶化ガラス板を得る工程とを備えている。
【0014】
結晶化ガラスからなるトチ本体は、例えば耐火セラミックスからなるトチ本体とは異なり、内部に多数の空隙を有さない。また、トチ本体を結晶化ガラスにより形成する場合、トチ本体を薄く形成することができる。このため、トチ本体が結晶化ガラスからなる場合は、例えば、トチ本体が耐火セラミックスからなる場合と比較して、トチ本体の熱容量を小さく、かつ均一にすることができる。よって、本発明の結晶化ガラス板製造用トチを用いてガラス板の熱処理工程を行った場合、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板のトチ側部分と、トチとは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じ難い。従って、ガラス板に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0015】
より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造するためには、トチ本体の熱容量がより小さいことが好ましい。このため、トチ本体は、板状に形成されていることが好ましい。その場合において、トチ本体の厚みは、1mm〜10mmの範囲内にあることが好ましく、3mm〜9mmの範囲内にあることがより好ましい。トチ本体の厚みが厚すぎると、トチ本体の熱容量が大きくなるため、得られる結晶化ガラス屈曲板の形状精度が低下する場合がある。トチ本体の厚みが薄すぎると、トチ本体の形状精度が低下し、熱処理工程において、トチ本体が変形してしまうため、得られる結晶化ガラス屈曲板の形状精度がかえって低下する場合がある。なお、「板状」とは、厚みが略均一であることをいう。
【0016】
トチ本体の材質は、結晶化ガラスである限りにおいて特に限定されない。トチ本体は、例えば、β−スポジュメン固溶体やβ−クオーツ固溶体などを主結晶とする結晶化ガラスからなるものであってもよい。また、トチ本体は、非透明の結晶化ガラスからなるものであってもよいし、透明の結晶化ガラスからなるものであってもよい。
【0017】
但し、熱処理工程においてトチ本体の変形を抑制する観点から、トチ本体は、耐熱性が高い結晶化ガラスからなることが好ましい。より具体的には、トチ本体は、結晶化温度において高剛性及び高強度を有する結晶化ガラスからなることが好ましい。従って、トチ本体は、耐熱性の高い、主結晶がβ−スポジュメン固溶体である結晶化ガラスからなることが好ましい。さらには、トチ本体は、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなることが好ましい。
【0018】
トチ本体を耐熱性の高いβ−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスにより形成することにより、トチ本体を薄く形成した場合であっても、熱処理工程におけるトチ本体の変形を抑制することができる。従って、トチ本体の熱容量をより小さくすることができる。その結果、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0019】
また、熱処理工程におけるトチ本体の変形を抑制する観点から、トチ本体は、低い熱膨張係数を有することが好ましい。具体的には、トチ本体の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
本発明の結晶化ガラス板製造用トチは、トチ本体を支持する支持部材を有することが好ましい。支持部材を設けることにより、トチ本体の変形の抑制や、トチ本体の剛性や強度の向上を図れるため、トチ本体をより薄くできる。従って、トチ本体の熱容量をより小さくできるためである。
【0021】
支持部材を設ける場合、支持部材は、トチ本体の載置面とは反対側の面のうちの一部に接触していることが好ましい。
【0022】
例えば、支持部材がトチ本体の載置面とは反対側の面の全面に接触している場合、トチ本体の熱容量が小さくても、支持部材の影響によって、トチ本体の温度が変化し難くなる。トチ本体の温度が変化しにくくなると、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板のトチ側部分と、トチとは反対側部分とで温度差が生じやすくなる。従って、ガラス板内において、加熱速度及び冷却速度のばらつきが大きくなると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度のばらつきも大きくなる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じやすくなる。従って、ガラス板に所望しない変形が生じやすくなり、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができなくなる場合がある。
【0023】
それに対して、支持部材がトチ本体の載置面とは反対側の面のうちの一部に接触している場合は、トチ本体に及ぼす支持部材の影響を小さくできる。すなわち、トチ本体の温度変化が支持部材によって妨げられにくい。このため、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板のトチ側部分と、トチとは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板に応力が生じ難い。従って、ガラス板に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0024】
具体的には、支持部材は、各々、トチ本体の載置面とは反対側の面から下方に延びており、間隔をおいて配置されている複数の板状部材を有していることが好ましい。この場合、支持部材とトチ本体との接触面積を小さくしつつ、トチ本体を好適に支持できるためである。
【0025】
なお、支持部材の材質は、特に限定されない。支持部材は、例えば、コーディエライトやムライトなどの耐火セラミックスや結晶化ガラスにより形成することができる。なかでも、支持部材は、トチ本体と同様に、結晶化ガラスからなることが好ましく、トチ本体と同種の結晶化ガラスからなることがより好ましい。この場合、支持部材がトチ本体の温度変化をより妨げにくいためである。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有するトチ本体が結晶化ガラスからなる。このため、トチ本体の熱容量が小さくかつ均一である。従って、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図2】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。
【図3】本発明を実施した一実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。
【図4】図1の線IV−IVにおける断面図である。
【図5】ガラス板の熱処理工程を説明するための結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。
【図6】ガラス板の熱処理工程を説明するための熱処理装置の模式図である。
【図7】トチ本体の製造方法を説明するための模式図である。
【図8】第1の変形例における支持部材の略図的斜視図である。
【図9】第2の変形例における支持部材の略図的斜視図である。
【図10】第2の変形例における支持部材の略図的平面図である。
【図11】実施例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真である。
【図12】比較例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真である。
【図13】第3の変形例における板状部材の略図的平面図である。
【図14】第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。
【図15】第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、図1に示す結晶化ガラス板製造用トチ1を例に挙げて説明する。但し、結晶化ガラス板製造用トチ1は、単なる例示である。本発明に係る結晶化ガラス板製造用トチは、結晶化ガラス板製造用トチ1に何ら限定されない。
【0029】
図1は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図2は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。図3は、本実施形態に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。図4は、図1の線IV−IVにおける断面図である。
【0030】
図1〜図4に示す結晶化ガラス板製造用トチ1は、ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板(結晶化ガラス屈曲板)を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチである。図1〜図4に示すように、結晶化ガラス板製造用トチ1は、トチ本体10と、支持部材20とを備えている。
【0031】
トチ本体10は、結晶化対象となるガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有する部材である。本実施形態では、トチ本体10は、板状に形成されている。具体的には、本実施形態では、トチ本体10は、湾曲板状に形成されている。トチ本体10は、凹状の第1の主面10aと、凸状の第2の主面10bとを有する。上記載置面は、凹状の第1の主面10aによって構成されている。
【0032】
なお、本実施形態では、載置面としての第1の主面10a全体が湾曲している場合について説明する。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、載置面の一部は、平面状であってもよい。
【0033】
トチ本体10の厚みは、特に限定されないが、1mm〜10mmの範囲内にあることが好ましく、3mm〜9mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0034】
本実施形態において、トチ本体10は、結晶化ガラスからなる。具体的には、本実施形態では、トチ本体10は、主結晶がβ−スポジュメン固溶体であり、β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である結晶化ガラスからなる。
【0035】
トチ本体10の熱膨張係数も特に限定されないが、トチ本体10の熱膨張係数は、小さい方が好ましい。具体的には、トチ本体10の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数は、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
トチ本体10は、支持部材20によって支持されている。本実施形態では、支持部材20は、トチ本体10の第2の主面10bのうちの一部にのみ接触するように設けられている。具体的には、支持部材20は、複数の板状部材20a〜20cを有する。複数の板状部材20a〜20cの各々は、トチ本体10の載置面を構成している第1の主面10aとは反対側の第2の主面10bから下方に向かって延びている。複数の板状部材20a〜20cは、相互に間隔をおいて配置されている。
【0037】
複数の板状部材20a〜20c相互間の間隔は、特に限定されないが、例えば、板状部材20a〜20cの厚みの5倍以上100倍以下であることが好ましく、15倍以上60倍以下であることがより好ましい。すなわち、第2の主面10bにおいて、支持部材20が接している部分が占める面積割合は、1%〜20%の範囲内にあることが好ましく、1.5%〜7%の範囲内にあることがより好ましい。具体的には、板状部材20a〜20cの厚みは、2mm〜10mmの範囲内とすることが好ましく、4mm〜6mmの範囲内にあることがより好ましい。複数の板状部材20a〜20c相互間の間隔は、20mm〜400mmの範囲内とすることが好ましく、60mm〜240mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0038】
なお、支持部材20の材質は、特に限定されない。支持部材20は、例えば、コーディエライトやムライトなどの耐火セラミックスや結晶化ガラスにより形成することができる。なかでも、支持部材20は、トチ本体10と同様に、結晶化ガラスからなることが好ましく、トチ本体10と同種の結晶化ガラスからなることがより好ましい。
【0039】
次に結晶化ガラス板製造用トチ1を用いた結晶化ガラス屈曲板の製造方法の一例について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0040】
図5は、ガラス板の熱処理工程を説明するための結晶化ガラス板製造用トチの略図的正面図である。図6は、ガラス板の熱処理工程を説明するための熱処理装置の模式図である。
【0041】
まず、図5に示すように、トチ本体10の第1の主面10aの形状にほぼ即した形状の、結晶化されていないガラス板30を用意し、第1の主面10a上に載置する。この状態で、図6に示す熱処理装置40を用いてガラス板30の熱処理を行うことにより結晶化ガラス屈曲板を製造する。
【0042】
図6に示すように、熱処理装置40は、熱処理炉41を備えている。熱処理炉41の内部には、図示しないヒーターが複数設けられている。これら複数のヒーターにより、熱処理炉41の入口41aから出口41bにかけて温度勾配が形成されている。具体的には、熱処理炉41の入口41a及び出口41b付近は、低い温度に設定されており、熱処理炉41の中央部は、ガラス板30が結晶化する程度の高温に設定されている。
【0043】
熱処理装置40においては、熱処理炉41内を結晶化ガラス板製造用トチ1を搬送するための搬送装置42が設けられており、この搬送装置42上をセッター43上に載置された結晶化ガラス板製造用トチ1が入口41aから出口41bまで搬送される。これにより、ガラス板30を結晶化させる熱処理工程と、結晶化したガラス板を冷却する冷却工程とが行われる。その結果、ガラス板30から結晶化ガラス屈曲板が形成される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態のトチ本体10は、結晶化ガラスからなるものである。このため、トチ本体10の内部には、空隙が少ない。また、例えば、耐火セラミックス製トチと比べて、トチ本体10を薄く形成することができる。よって、トチ本体10の熱容量は、例えば耐火セラミックス製トチと比較して熱容量が小さい。このため、結晶化ガラス板製造用トチ1を用いてガラス板30の熱処理工程を行った場合、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30の結晶化ガラス板製造用トチ1側部分と、結晶化ガラス板製造用トチ1とは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板30内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、ガラス板30の結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30に応力が生じ難い。従って、ガラス板30に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0045】
また、本実施形態では、トチ本体10は、板状に形成されている。このため、トチ本体10が塊状の場合と比較して、トチ本体10の熱容量がより小さい。従って、ガラス板30に所望しない変形がより生じ難く、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板が得られる。
【0046】
トチ本体10の熱容量を小さくする観点からは、トチ本体10の厚みは、10mm以下であることが好ましく、9mm以下であることがより好ましい。但し、トチ本体10の厚みが小さすぎると、ガラス板30の熱処理工程において、トチ本体10が変形してしまい、その結果、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板が得られなくなる場合がある。このため、トチ本体10の厚みは、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましい。
【0047】
また、本実施形態では、トチ本体10が、耐熱性の高い、主結晶がβ−スポジュメン固溶体である結晶化ガラスからなる。このため、トチ本体10を薄く形成した場合であっても、熱処理工程におけるトチ本体10の変形を抑制することができる。従って、トチ本体10の熱容量をさらに小さくすることができる。その結果、さらに高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0048】
より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造する観点からは、トチ本体10の耐熱性がさらに高いことが好ましい。従って、トチ本体10において、β−スポジュメン固溶体の含有率は、90質量%以上であることが好ましい。
【0049】
また、本実施形態では、トチ本体10は、支持部材20により支持されている。このため、支持部材20によりトチ本体10の変形の抑制や、トチ本体10の剛性や強度の向上を図れる。よって、トチ本体10をより薄くできる。従って、トチ本体10の熱容量をより小さくできる。よって、より高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0050】
また、本実施形態では、トチ本体10を支持している支持部材20は、トチ本体10の第2の主面10bの一部にのみ接触している。このため、トチ本体10に及ぼす支持部材20の影響を小さくできる。すなわち、トチ本体10の温度変化が支持部材20によって妨げられにくい。よって、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30のトチ本体10側部分と、トチ本体10とは反対側部分とで温度差が生じにくい。従って、ガラス板30内において、加熱速度及び冷却速度を均一化できると共に、ガラス板30の結晶化の進行開始時期及び進行速度も均一化することができる。その結果、熱処理工程及びその後の冷却工程において、ガラス板30に応力が生じ難い。従って、ガラス板30に所望しない変形が生じ難く、高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0051】
トチ本体10及びトチ本体10の上に載置されているガラス板30の温度変化が、支持部材20によりさらに妨げられにくくする観点からは、トチ本体10の第2の主面10bのうち、支持部材20が接触している部分が占める面積割合が20%以下であることが好ましい。例えば、本実施形態のように、支持部材20が等間隔に配置された複数の板状部材20a〜20cにより構成されている場合は、板状部材20a〜20c相互間の間隔を、板状部材20a〜20cの厚みの5倍以上とすることが好ましく、15倍以上とすることがより好ましい。
【0052】
但し、板状部材20a〜20c相互間の間隔の、板状部材20a〜20cの厚みに対する比が大きすぎると、トチ本体10が好適に支持されず、熱処理工程において、トチ本体10が変形しやすくなる。このため、板状部材20a〜20c相互間の間隔の、板状部材20a〜20cの厚みに対する比は、100倍以下であることが好ましく、60倍以下であることがより好ましい。すなわち、トチ本体10の第2の主面10bのうち、支持部材20が接触している部分が占める面積割合は、1%〜20%であることが好ましく、1.5%〜7%であることがより好ましい。
【0053】
さらに高い形状精度の結晶化ガラス屈曲板を得るためには、熱処理工程においてトチ本体10が変形しないことが好ましい。すなわち、熱処理工程における最低温度と最高温度との間でトチ本体10の熱膨張係数が小さいことが好ましい。具体的には、トチ本体10の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。
【0054】
なお、トチ本体10の作製方法は、特に限定されない。以下、トチ本体10の作製方法の一例を、図7を参照しながら説明する。
【0055】
まず、結晶化されていないガラス板52(図7を参照)を用意する。ここでは、ガラス板52は、湾曲構造を有するものであるが、ガラス板52は、例えば平板であってもよい。次に、図7に示すように、ガラス板52を相互に平行に等間隔に配置された複数の板状体51からなる支持具50の上に載置する。この状態で、ガラス板52を熱処理して結晶化させることにより、高い形状精度の結晶化ガラス製トチ本体10を作製することができる。
【0056】
(変形例)
図8は、第1の変形例における支持部材の略図的斜視図である。図9は、第2の変形例における支持部材の略図的斜視図である。図10は、第2の変形例における支持部材の略図的平面図である。
【0057】
上記実施形態では、支持部材20が、相互に平行に等間隔に配置された複数の板状部材20a〜20cにより構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。
【0058】
例えば、図8に示すように、支持部材20は、相互に平行に等間隔に配置された複数の板状部60a〜60fと、複数の板状部60a〜60fの底部を連結する平板状の連結部61とにより構成されていてもよい。
【0059】
また、図9及び図10に示すように、支持部材20は、高さ方向zに延びる複数の貫通孔62がマトリクス状に形成されているものであってもよい。
【0060】
(第3の変形例)
図13は、第3の変形例における板状部材の略図的平面図である。
【0061】
本変形例では、上記実施形態の板状部材20a〜20cが、図13に示す板状部材21により構成されている。図13に示すように、板状部材21は、屈曲構造を有する頂面20Aと、平面上の第1及び第2の側面20B,20Cと、平面状の底面20Dとを有する。第1及び第2の側面20B,20Cの高さ方向における中央部には、円弧面状の切欠部20B1,20C1が形成されている。同様に、底面20Dにも、円弧面状の切欠部20D1が形成されている。また、板状部材21には、一対の主面間を貫通する複数の円柱状の貫通孔20E1,20E2が形成されている。このため、本変形例では、y方向における対流が板状部材21によって規制されにくい。よって、本変形例の結晶化ガラス板製造用トチを用いた場合は、結晶化ガラス板の製造工程において、結晶化ガラス板製造用トチが配置された雰囲気で対流が生じやすい。また、本変形例では、切欠部20B1,20C1,20D1及び貫通孔20E1,20E2が設けられているため、板状部材21の体積が小さい。よって、板状部材21の熱容量も小さい。このため、結晶化ガラス板製造用トチ上に配置されたトチ本体10及びトチ本体10の上に載置されたガラス板30の温度むらをより小さくすることができる。従って、より均一な結晶化ガラス屈曲板の製造が可能となる。
【0062】
なお、対流の阻害をより効果的に抑制する観点及び結晶化ガラス製造用トチの熱容量をより小さくする観点からは、板状部材に切欠や貫通孔をより多く設けることが好ましい。しかしながら、板状部材に切欠や貫通孔を多く形成した場合、板状部材の剛性が低くなりすぎる場合がある。従って、切欠や貫通孔は、板状部材の十分に高い剛性が維持できる範囲において形成することが好ましい。
【0063】
(第4の変形例)
図14は、第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的斜視図である。図15は、第4の変形例に係る結晶化ガラス板製造用トチの略図的側面図である。
【0064】
図14及び図15に示すように、本変形例では、隣り合う板状部材20a〜20c同士が、スペーサとしての機能を兼ね備える接続部材15を介して固定されている。このため、結晶化ガラス製造用トチは一体化されている。よって、例えば、製造工程において、結晶化ガラス製造用トチに振動等が加わった際においても、板状部材20a〜20cの相互関係が変化しにくい。従って、本変形例の結晶化ガラス製造用トチを用いることによって、高い形状精度を有する結晶化ガラス屈曲板を製造することができる。
【0065】
なお、本変形例では、接続部材15は、板状部材20a〜20cの両端部に設けられている。このため、接続部材15は、トチ本体10及びトチ本体10の上に載置されたガラス板30から離れた位置に位置している。接続部材15の高さは、板状部材20a〜20cの高さの1/3程度以下であることが好ましい。接続部材15の幅は、板状部材20a〜20cの幅の1/10以下であることが好ましい。
【0066】
本変形例では、接続部材15が直方体状であるが、接続部材15の形状は特に限定されない。接続部材15は、例えば、四角柱状、多角柱状、円柱状、円錐台状等であってもよい。
【0067】
接続部材15は、十分に高い耐熱性を有するものである限りにおいて特に限定されず、例えば、板状部材20a〜20cと同様の材質を有するものであってもよい。また、接続部材15は、多孔質体であってもよい。
【0068】
(実施例)
上記実施形態に記載の結晶化ガラス板製造用トチ1を用いて、下記の条件で、結晶化ガラス屈曲板を製造した。図11に、実施例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真を示す。
【0069】
比較例として、結晶化ガラス板製造用トチ1を用いずに、下記の円柱面状の凹部が形成された耐火セラミックス製のトチを用いたこと以外は、上記実施例と同様にして、結晶化ガラス屈曲板を製造した。図12に、比較例において製造した結晶化ガラス屈曲板の写真を示す。
【0070】
図12の写真から明らかなように、耐火セラミックス製のトチを使用した場合は、得られた結晶化ガラス屈曲板の一部に所望しない大きな変形が生じており、所望の形状の結晶化ガラス屈曲板が得られなかった。一方、図11の写真から明らかなように、結晶化ガラス板製造用トチ1を用いた実施例においては、結晶化ガラス屈曲板に所望しない大きな変形は見られず、所望の形状の結晶化ガラス屈曲板が得られた。これらの結果から、結晶化ガラス板製造用トチを用いることにより、高い形状精度で結晶化ガラス屈曲板を製造できることが分かる。
【0071】
<実施例における条件>
トチ本体10の材質:β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラス
トチ本体10の形状寸法:厚さ4mm、幅500mm、長さ1000mm、半径900mmの円柱面状
支持部材を構成する板状部材の枚数:3枚
支持部材を構成する板状部材の厚み:4mm
支持部材を構成する板状部材の間隔:230mm
支持部材を構成する板状部材の材質:β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラス
ガラス板30:下記の熱処理を行うことで、β−石英固溶体を主結晶として析出する性質を有するガラス
ガラス板30の熱処理工程:常温から800℃まで25分かけて加熱し、800℃で40分間保持し、その後、900℃まで25分かけて加熱し、900℃で20分間保持した。その後、常温まで25分かけて冷却した。
【符号の説明】
【0072】
1…結晶化ガラス板製造用トチ
10…トチ本体
10a…第1の主面(トチ本体の載置面)
10b…第2の主面
15…接続部材
20…支持部材
20a〜20c,21…板状部材
20A…頂面
20B,20C…側面
20D…底面
20B1,20C1,20D1…切欠部
20E1,20E2…貫通孔
30…ガラス板
40…熱処理装置
41…熱処理炉
41a…熱処理炉の入口
41b…熱処理炉の出口
42…搬送装置
43…セッター
50…支持具
51…板状体
52…ガラス板
60a〜60f…板状部
61…連結部
62…貫通孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチであって、
ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有し、結晶化ガラスからなるトチ本体を備える結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項2】
前記トチ本体は、主結晶がβ−スポジュメン固溶体である結晶化ガラスからなる請求項1に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項3】
前記トチ本体において、前記β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である請求項2に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項4】
前記トチ本体は、板状に形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項5】
前記トチ本体の厚みは、1mm〜10mmの範囲内にある請求項4に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項6】
前記トチ本体を支持する支持部材をさらに備え、
前記支持部材は、前記トチ本体の前記載置面とは反対側の面のうちの一部に接触している請求項1〜5のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項7】
前記支持部材は、各々、前記トチ本体の前記載置面とは反対側の面から下方に延びており、間隔をおいて配置されている複数の板状部材を有する請求項6に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項8】
前記トチ本体の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にある請求項1〜7のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチを用いた結晶化ガラス板の製造方法であって、
前記載置面の上にガラス板を載置する工程と、
前記載置面上に載置したガラス板を加熱して結晶化させることによって前記結晶化ガラス板を得る工程とを備える結晶化ガラス板の製造方法。
【請求項1】
ガラス板を結晶化させることによって屈曲構造を有する結晶化ガラス板を製造する際に用いられる結晶化ガラス板製造用トチであって、
ガラス板が載置される載置面であって、屈曲構造を持つ載置面を有し、結晶化ガラスからなるトチ本体を備える結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項2】
前記トチ本体は、主結晶がβ−スポジュメン固溶体である結晶化ガラスからなる請求項1に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項3】
前記トチ本体において、前記β−スポジュメン固溶体の含有率が90質量%以上である請求項2に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項4】
前記トチ本体は、板状に形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項5】
前記トチ本体の厚みは、1mm〜10mmの範囲内にある請求項4に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項6】
前記トチ本体を支持する支持部材をさらに備え、
前記支持部材は、前記トチ本体の前記載置面とは反対側の面のうちの一部に接触している請求項1〜5のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項7】
前記支持部材は、各々、前記トチ本体の前記載置面とは反対側の面から下方に延びており、間隔をおいて配置されている複数の板状部材を有する請求項6に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項8】
前記トチ本体の30℃〜750℃における平均線熱膨張係数が、−10×10−7/℃〜30×10−7/℃の範囲内にある請求項1〜7のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の結晶化ガラス板製造用トチを用いた結晶化ガラス板の製造方法であって、
前記載置面の上にガラス板を載置する工程と、
前記載置面上に載置したガラス板を加熱して結晶化させることによって前記結晶化ガラス板を得る工程とを備える結晶化ガラス板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−173782(P2011−173782A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257926(P2010−257926)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(593046429)日電硝子加工株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(593046429)日電硝子加工株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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