説明

結晶形態IIの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミド(ビマトプロスト)、その調製方法、およびその使用方法

本発明は、結晶形態IIとして指定されるビマトプロストの新規の結晶形態を提供する。この新規の結晶形態は、これまでに知られているビマトプロストの最も安定した形態である。さらに、ビマトプロスト結晶形態IIが結晶形態Iから容易に調製されることが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年11月23日に出願された米国特許仮出願第61/263,471号の利益を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミド(ビマトプロスト)の結晶形態、具体的には、新規同定のビマトプロストの結晶形態に関する。本発明はさらに、その調製方法および高眼圧症に関連した障害を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
眼圧降下剤は、手術後およびレーザ線維柱帯切除術後の高眼圧発症、緑内障等のいくつかの種々の高眼圧状態の治療において、ならびに手術前の補助剤として有用である。
【0004】
緑内障は、眼内圧上昇を特徴とする目の疾患である。その病因に基づいて、緑内障は、原発性または続発性に分類されている。例えば、成人における原発性緑内障(先天性緑内障)は、開放隅角、または急性もしくは慢性閉塞隅角のいずれかであり得る。続発性緑内障は、ブドウ膜炎、眼球腫瘍、または拡大した白内障等の既存の眼疾患に起因する。
【0005】
原発性緑内障の根本原因は未だ解明されていない。眼圧上昇は、房水流出妨害に起因する。慢性開放隅角緑内障において、前房およびその解剖学的構造は正常に見えるが、房水の排出は妨げられている。急性または慢性閉塞隅角緑内障において、前房は浅く、濾過隅角は狭まり、虹彩は、シュレム管の入口で小柱網を妨害し得る。瞳孔の拡張は、隅角に対して虹彩根部を前方に押し、瞳孔ブロックを引き起こし、それゆえに、急性発作を促進し得る。狭い前房隅角を有する目は、種々の重症度の急性閉塞隅角緑内障発作の傾向がある。
【0006】
続発性緑内障は、後眼房から前眼房、その後、シュレム管への房水の流れの任意の妨害によって引き起こされる。前眼部の炎症性疾患は、膨隆虹彩における完全な虹彩後癒着を引き起こすことによって房水排出を阻止する場合もあり、浸出液で排水溝を閉塞し得る。他の一般的な原因は、眼球腫瘍、拡大した白内障、網膜中心静脈閉塞症、目の外傷、手術手技、および眼内出血である。
【0007】
全ての種類を考慮すると、緑内障は、40歳を超える全ての人の約2%に発症し、急速な失明に進行するまでは何年間も無症候性であり得る。手術が指示されない場合、局所性β−アドレナリン受容体拮抗薬が、従来、緑内障を治療する薬物として選択されている。
【0008】
プロスタグランジンは以前、強力な眼圧降下剤であると見なされていたが、過去20年の間に累積した証拠は、いくつかのプロスタグランジンが、非常に効果的な眼圧降下剤であり、かつ緑内障の長期の医学的管理に理想的に好適であることを示している(例えば、Starr,M.S.Exp.Eye Res.1971,11,pp.170−177、Bito,L.Z.Biological Protection with Prostaglandins Cohen,M.M.,ed.,Boca Raton,Fla.CRC Press Inc.,1985,pp.231−252、およびBito,L.Z.,Applied Pharmacology in the Medical Treatment of Glaucomas Drance,S.M.and Neufeld,A.H.eds.,New York,Grune & Stratton,1984,pp.477−505を参照のこと)。そのようなプロスタグランジンは、PGF、PGF、PGE2、およびC1〜C5アルキルエステル、例えば、そのような化合物の1−イソプロピルエステル等のある特定の脂溶性エステルを含む。
【0009】
しかしながら、多くの薬物化合物は、多形体と称される2つ以上の結晶形態で存在することが知られている。同一の分子のこれらの多形体は、同一の化学的性質を有するが、融点、溶解度、硬度等の異なる物理的性質を示し得る。そのような場合、他のより高い溶解度を有するがより不安定な形態から作製される溶液から沈殿するより低い溶解度を有する多形形態の危険性が存在する。点眼薬における結晶の形成は、目の重傷の原因になり得る。加えて、薬物原料の沈殿は、生成物の効能および生物学的利用能の明らかな低下をもたらし得る。
【0010】
これらの理由から、ビマトプロスト(現在はLumigan(商標)として販売されている)の多形形態への関心が存在する。米国特許出願公開第2009/0163596号は、結晶形態Iのビマトプロストを記載している。本発明は、新規のビマトプロストの多形形態を記載する。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、結晶形態IIとして指定される、新規の7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミド(ビマトプロスト)の結晶形態を提供する。この新規の結晶形態は、これまでに知られているビマトプロストの最も安定した形態である。さらに、ビマトプロスト結晶形態IIが結晶形態Iから容易に調製されるか、あるいは非晶質ビマトプロストから直接調製され得ることが見出された。
【0012】
本発明の別の実施形態において、治療的に有効な量の結晶形態IIの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドをその眼科的に許容される担体中に含む、薬学的組成物が提供される。
【0013】
別の実施形態において、高眼圧症を治療するための方法が提供される。そのような方法は、例えば、それを必要とする対象に、眼科的に許容される担体中の結晶形態IIの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを投与することによって実行され得る。
【0014】
別の実施形態において、緑内障を治療するための方法が提供される。そのような方法は、例えば、それを必要とする対象に、眼科的に許容される担体中の結晶形態IIの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを投与することによって実行され得る。
【0015】
本発明の別の実施形態において、結晶形態Iの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを結晶形態IIに変換させるための方法が提供される。そのような方法は、例えば、
a)固体状態の結晶形態Iの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを、1分間当たり約2℃の加熱速度で、約55℃から約72℃に加熱するステップと、
b)結晶性7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを、1分間当たり約0.2〜0.5℃の加熱速度で、約72℃から約55℃に冷却するステップと、
c)ステップa)およびb)を3〜約9回繰り返すステップと、
によって実行され得、それによって、結晶形態Iを結晶形態IIに変換させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】結晶形態IIのビマトプロストの特徴的なDSCプロファイルである。
【図2】結晶形態IIのビマトプロストの特徴的なX線粉末回折(XRPD)パターンである。
【図3】ビマトプロストの2つのロットのサーモグラムを示す(ロットX10510は、ロット08−A−014−3を除く全てのロットを代表する)。
【図4】ロット08−A−014−3の部分溶融および制御冷却からなる試料処理サイクルのサーモグラムを示す。
【図5】部分溶融および制御冷却後のロット08−A−014−3のサーモグラムを示し、かつ純粋な多形体IIの存在を示す。
【図6】40℃の周囲空気ヘッドスペースおよび露光に供したロットX10510の応力安定性サンプル1のサーモグラムを示す。
【図7】40℃の周囲空気ヘッドスペースに供し、かつ露光から保護したロットX10510の応力安定性サンプル2のサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述の概要および以下の詳述の両方ともに例示および説明のためのみであり、特許請求される本発明を限定しないことを理解されたい。本明細書で使用される単数形の使用は、別途具体的に提示されない限り、複数形を含む。本明細書で使用される「または」とは、別途提示されない限り、「および/または」を意味する。さらに、「含んでいる」という用語、ならびに「含む」および「含まれている」等の他の形態の使用は限定的ではない。本明細書で使用される項の見出しは、構成目的のためのみであり、記載される主題を限定すると解釈されるべきではない。
【0018】
「7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミド」および「ビマトプロスト」が同一の化合物を指し、かつ終始同義に使用され得ることを理解されたい。
【0019】
加えて、「結晶形態」および「多形形態」が、本明細書を通して同義に使用され得ることを理解されたい。「結晶形態I」または「結晶形態II」は、「多形体I」または「多形体II」とも呼ばれ得る。
【0020】
特定の定義が提供されない限り、本明細書に記載の分析化学、合成有機、および無機化学に関連して利用される学名、ならびにそれらの実験方法および手技は、当技術分野において既知のものである。標準の化学記号は、そのような記号で表される正式名と同義に使用される。したがって、例えば、「水素」および「H」という用語は、同一の意味を有することが理解される。標準の手技は、化学合成、化学分析、および製剤において使用され得る。
【0021】
本発明は、多形体IIとして指定される新規の多形形態のビマトプロストを提供する。この新規のより安定した多形体は、多形体Iを高温および高湿に曝露することにより発見された。これらの研究中、本明細書において説明される制御された加熱および冷却サイクルを用いることにより、多形体Iが多形体IIに定量的に変換することが見出された。
【0022】
ビマトプロスト結晶形態IIは、X線粉末回折(XRPD)、示差走査熱量測定(DSC)、および赤外線分光法を用いて特徴付けられた。
【0023】
ビマトプロストの結晶形態IIは、図1において説明される、はっきりと異なるXRPDスペクトルを示す。パターンは、(2θ):3.60、5.31、7.09、10.55、12.24、13.29、14.55、15.85、17.60、18.49、19.00、19.65、21.10、22.20、22.69、24.75、および26.65で観察される特徴的なピークを有する。
【0024】
多形体IIは、その示差走査熱量測定プロファイルにおいて約70.1℃での発熱開始および74.1℃でのピークを有することが判定された。[数字確認]
【0025】
本発明の別の実施形態において、ビマトプロスト多形体Iをビマトプロスト多形体IIに変換するための方法が提供される。
【0026】
所望の多形体を作製する従来の方法は、種々の有機溶媒中の多形体Iの懸濁液を撹拌する(別名、スラリー法)結晶化条件(温度、溶媒等)を修正することと、種々の有機溶媒、多形体IIの種晶を多形体Iの懸濁液に添加することとを含む。溶媒は、これらの方法において使用され、異なる多形体に核生成を促進する十分な分子運動を可能にする。多形体IIを生成するために、水、酢酸エチル、またはシクロヘキサンを用いてビマトプロスト多形体Iでスラリー研究が行われた時、最終生成物は油性残渣であった。多形体IIの種晶が懸濁液に添加された時に、同一の結果が得られた。多形体Iを含有するスラリーが繰り返し加熱および冷却された時(結晶化を促進するために使用される一般的な手法である)、多形体IIの結晶は生成されなかった。
【0027】
本発明の方法は、固体状態の純薬物原料を加熱および冷却することを伴う。溶媒が分子運動性およびその後の核生成を促進するために使用されないため、この方法は極めてまれである。固体状態のビマトプロスト多形体I(20mg)は、2℃/分の加熱速度で55℃から72℃に加熱され、その後、0.2〜0.5℃/分の速度で72℃から55℃に冷却された。このサイクルが、3〜9回繰り返された。多形体Iは、多形体IIに変換された。多形体IIの形成は、DSCおよびXRPDによって確認された(実施例を参照されたい)。
【0028】
薬学的組成物は、活性成分として、治療的に有効な量の本発明に記載のビマトプロストの多形体II、またはその薬学的に許容される塩を、従来の眼科的に許容される薬学的賦形剤と合わせることによって、かつ局所眼球使用に好適な単位剤形の調製によって調製され得る。治療的に有効な量は、典型的には液剤の約0.0001〜約5%(w/v)、好ましくは約0.001〜約1.0%(w/v)である。
【0029】
眼科的適用について、好ましくは、溶液は、主要な媒体として生理食塩水を用いて調製される。そのような点眼薬のpHは、好ましくは、適切な緩衝系で4.5〜8.0に維持されるべきであり、中性pHが好ましいが、必須ではない。製剤は、従来の薬学的に許容される防腐剤、安定剤、および界面活性剤も含有し得る。
【0030】
本発明の薬学的組成物中に使用され得る好ましい防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、および硝酸フェニル水銀が含まれるが、それらに限定されない。好ましい界面活性剤は、例えば、Tween80である。同様に、種々の好ましい媒体は、本発明の点眼薬中に使用され得る。これらの媒体には、ポリビニルアルコール、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースシクロデキストリン、および精製水が含まれるが、それらに限定されない。
【0031】
等張化剤は、必要または都合に応じて添加され得る。それらには、塩、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、およびグリセリン、または任意の他の好適な眼科的に許容される等張化剤が含まれるが、それらに限定されない。
【0032】
種々の緩衝液およびpHを調整するための手段は、結果として生じる調製が眼科的に許容できる限りは使用され得る。したがって、緩衝液には、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、およびホウ酸緩衝液が含まれる。酸または塩基は、必要に応じて、これらの製剤のpHを調整するために使用され得る。
【0033】
同様に、本発明で用いる眼科的に許容される酸化防止剤には、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アセチルシステイン、ブチル化ヒドロキシアニソール、およびブチル化ヒドロキシトルエンが含まれるが、それらに限定されない。
【0034】
点眼薬中に含まれ得る他の賦形剤成分は、キレート剤である。好ましいキレート剤は、エデト酸2ナトリウムであるが、他のキレート剤がその代わりに、またはそれと併せて使用され得る。
【0035】
成分は、通常、以下の量で使用される。
【0036】
活性成分の成分量(%w/w):約0.001〜5の防腐剤、0〜0.10の媒体、0〜40の等張化剤、0〜10の緩衝液、0.01〜10のpH調整剤適量、pH4.5〜7.5、100%にするために必要に応じて酸化防止剤、必要に応じて界面活性剤、必要に応じて精製水。
【0037】
本発明の活性化合物の実際用量は、特定の化合物、および治療される状態に依存し、適切な用量の選択は、当業者が十分に理解できる範囲内である。
【0038】
本発明の眼科製剤は、目への適用を促進するために、点滴器を装備する容器等の定量適用に好適な形態で、好都合にパッケージングされる。滴下適用に好適な容器は、通常、好適な不活性かつ非毒性プラスチック材料で作製され、概して、約0.5〜約15mLの溶液を含有する。1つのパッケージは、1つ以上の単位用量を含有し得る。
【0039】
特に防腐剤を含まない溶液は、多くの場合、最大約10、好ましくは最大約5つの単位用量を含有する再密封できない容器内に製剤化され、典型的な単位用量は、1〜約8滴、好ましくは1〜約3滴である。1滴の量は、通常、約20〜35mLである。
【0040】
以下の実施例は、本発明を例証することのみを意図しており、決して本発明を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0041】
多形体についてのビマトプロストのロットのスクリーニング
3つの進化しつつある製造過程を代表するビマトプロストの21ロットを、示差走査熱量測定(Perkin Elmer熱分析DSC−7)によって多形体についてスクリーニングした。それぞれのロットを、1分間当たり1.0℃および2.0℃の加熱速度での30℃〜85℃の同一温度範囲において分析した。結果は、測定された融解熱(ΔH)、開始、およびピーク温度を含んだ。全てのロットは、より高い温度で第2の温度遷移(DSCピーク)を示した1つのロットを除いて、一貫した結果を示した(図3を参照のこと)。
【0042】
表1は、得られた結果を例証し、かつ全ての他のロットとは異なる結果をもたらしたロット(08−A−014−3)を含む。
【表1】

【0043】
ロット番号X11192は、現在の二次参照基準である。試験した全てのロットは、2つの温度遷移をもたらしたロットを除いて、ビマトプロスト結晶形態Iに対して同等の結果を示した。ロット番号08−A−014−3は、66.3℃および73.7℃で2つの熱ピークを示した。66.3℃のピークは、他の20個のビマトプロストのロットと類似しており、多形体Iと見なされる。73.7℃のピーク(温度遷移)は、他のロットにおいて観察されなかった。第2の温度遷移を引き起こした結晶形態は、多形体IIと見なされる。多形体IIの固有性は、さらなる実験によって確認された。
【0044】
多形体IIの固有性の確認
多形体IIの固有性の確認を、以下の実験によって実行した。
【0045】
ロット08−A−014−3の代表的な部分を、(圧力集積を回避するために)緩く嵌合したふたを有する被覆されたDSCパン中の制御された溶融に供した。試料を、1分間当たり2.0℃の速度で72℃まで加熱した(多形体Iの全てが融解し、多形体IIが部分的に融解し、したがって、融解した部分が純粋な多形体II固体と接触した)。その時点で、部分的に融解した試料を、1分間当たり0.5℃および1.0℃の速度で制御された冷却に供した(図4を参照のこと)。
【0046】
冷却段階では、試料が30℃に達した時に、その物質は、恐らく、多形体IIとして完全に結晶化されるであろう。この仮説を確認するために、新たに冷却した試料を、1分間当たり2.0℃の加熱速度で、30℃〜85℃にかけて再度走査した(図5を参照のこと)。温度プログラム2を用いて、1つの温度遷移のみが、温度プログラム1に供されたロット08−A−014−3の試料において見出された。増加した融点は、多形体Iがより高い溶融の(かつ恐らくより安定した)結晶構造である多形体IIに変換したことを示す。この項で説明される温度プログラムを、以下のように要約する。
温度プログラム1(部分溶融):
1.30℃で1.0分間保持する
2.2.0℃/分で30℃から72℃に加熱する
3.72℃で1.0分間保持する
(注:73〜74℃が多形体IIの溶融を表すピークの最高点である)
4.0.5℃/分で72℃から55℃に冷却する
5.1.0℃/分で55℃から30℃に冷却する
温度プログラム2(完全溶融):
1.30℃で1.0分間保持する
2.2.0℃/分で30℃から85℃に加熱する
【0047】
結果を表2に示す。
【表2】

【0048】
上で特定したDSC温度プログラムに供したロット(08−A−014−3)をHPLCによって分析し、クロマトグラフィー結果を、同一のロットの対照試料(−20℃で保存された)から得られた結果と比較した。クロマトグラフィー比較は、部分溶融、その後、完全溶融に供された試料が、対照(凍結)試料の不純物プロファイルと本質的に同一の不純物プロファイルを有する無傷のビマトプロストであったことを示した。
【0049】
多形体IIが確認され、かつビマトプロストであると特定されたため、その後に公開されたビマトプロストロットも、DSCによって分析した。結果は、多形体Iのみがこれらのロット中に含有されたことを示した。
【0050】
14個のロットを代表するビマトプロスト試料を、X線粉末回折分析のために、SSCI,Inc.(3065 Kent Avenue,West Lafayette,IN 47906)に提出した。SSCI分析に従って、結果は、ロット08−A−014−3を除く全ての試料のパターンがピーク位置に関して相互に類似したことを示し、これらの試料が同一の形態学的形態であることを示唆した。ロット08−A−014−3のパターンはさらなる反射を含有し、この試料が形態の混合物または第2の結晶形態のいずれかであったことを示唆した。DSCおよびHPLC結果は、ロット08−A−014−3がビマトプロストの2つの多形形態の混合物であったという結論を立証する。
【0051】
ビマトプロストの再結晶化
ビマトプロストロット番号X11113を、再結晶化研究において使用した。それは、7つの溶媒系を用いて再結晶化された。
1 ジクロロメタン/ヘキサン
2 クロロホルム
3 クロロホルム/トルエン
4 クロロホルム/ヘキサン
5 酢酸エチル
6 ジクロロメタン
7 クロロホルム/ペンタン
【0052】
それぞれの溶媒系から単離した試料をDSCによって分析した。結果は、全ての試料において多形体Iの排他的な存在を示した。それぞれの再結晶化した試料についてHPLCアッセイも行い、アッセイ結果を表3に示す。
【表3】

【0053】
再結晶化した試料のクロマトグラフィー結果は、対応する対照(再結晶化前)の結果に相当した。15−ケトレベルの増加は、恐らく、再結晶化実験中の周囲空気への試料の曝露の結果によるものであった。再結晶化実験中、周囲条件(温度、空気、湿度、光)からの試料の保護は試みなかった。ビマトプロストアッセイ値は97%w/wを超えたままであり、総合的な結果は、再結晶化過程が試料を実質的に分解しなかったことを示した。
【0054】
形式的安定性プログラムの試料における固体状態の多形転移
日常的な目視検査時、形式的安定性プログラム中のビマトプロスト試料のうちの1つ(ロットX10510)は、白色の原薬(API)のより大きい石塊中に埋まった琥珀色の粒子を示した。DSCおよびIR分析は、25℃/60%の相対湿度で18ヶ月間保存された試料X10510が相当量の多形体IIをもたらしたことを確認した。有色の粒子を白色の薬物原料から分離し、DSCを両方において実行した。結果を表4に示す。
【表4】

【0055】
粒子をHPLCによってアッセイし、結果は、それらが無傷のビマトプロストであったことを確認した。同一の試料を固体状態のIRスペクトル分析のために提出した。分光分析の結果は、白色および有色の粒子が実質的な化学的または形態学的差異を有さなかったことを確認した。これらの試料のスペクトルと対照のスペクトルとの比較は、晶癖においていくつかのはっきりと異なる差異を示した。
【0056】
ビマトプロストが高温(すなわち、規定の保存温度よりも高い)で自発的に多形体Iから多形体IIに変換するかを判定するために、形式的安定性プログラム中のいくつかの他のロットもDSCによって分析した。結果を表5に要約する。

【表5】

【0057】
試験した全ての形式的安定性試料は、多形体IIから成った。同一のロットからの対照(凍結)試料を先にDSCによって分析し、結果がそれらのうちのいずれも多形体IIを含有しなかったことを示したため、採用した安定性条件下で多形転移が起こったことを明示する。
【0058】
実験応力研究試料における固体状態の多形転移
自発的な固体状態の多形変換を、実験応力安定性研究において観察した。2つのビマトプロストロット(X11192およびX10510)を、40℃での多種多様の実験応力条件に供した(表6を参照のこと)。実験的設計は、周囲空気およびアルゴンヘッドスペース、蛍光灯への曝露、ならびに異なる表面積対体積率を含んだ。70日時点の試料をHPLCおよびDSCによって分析した。DSC結果は、(露光に関係なく)周囲空気ヘッドスペースに供したロットX10510のうちの2つの試料を除いて、全ての試料が多形体Iであったことを示す。これらの試料は、部分的形態学的変換を経験し、その変化において、多形体IおよびIIの両方ともに同時に存在した(図6および7を参照のこと)。

【表6】

*多形体IおよびII両方の合計の融解熱
【0059】
HPLC結果は、2つの温度遷移を示した試料が無傷のビマトプロストであり、分解生成物ではなかったことを示す。それぞれの試料の固有性をさらに確認するために、3つの試料を、赤外線分光法(IR)、NMR、およびXRPDによって分析した。これらの試料は、以下の通りであった。
試料A 40℃/75%の相対湿度で3ヶ月間保存されたX10510 API、多形体II
試料B 40℃/光/空気ヘッドスペースで70日間保存されたX10510 API
試料C 冷凍室で保存されたX10510 API対照試料(表6を参照のこと)、多形体I
【0060】
試料のNMR特性は、全てが無傷のビマトプロストであったことを確認した。
【0061】
IR分光法による試験も、試料が無傷のビマトプロストであったことを確認した。スペクトルの差異は、試料AおよびCが異なる晶癖を示したことを明らかにした。試料BのIRスペクトルは、晶癖が試料AおよびCの混合物であることを示唆する。したがって、DSC結果は、試料Bが多形体IIに部分的に変換されることを示す。
【0062】
多形体IIの水溶解度の判定
形式的安定性試料(25℃/60%の相対湿度で23ヶ月間保存され、多形体IIであると確認されたロットX10510)の0.4%の懸濁液を二重に調製することによって、多形体IIの水溶解度を判定した。多形体IIのみの存在を再確認するために(実際そうであった)、温度プログラム1(30℃で1.0分間保持し、1分間当たり2.0℃で30℃から85℃に加熱する)を用いて、23ヶ月の安定性試料をDSCによって試験した。懸濁液を週末にわたって連続して回転させた。薬物含量を判定するために、上清を、X11192二次参照基準を用いてHPLCによってアッセイした。ビマトプロストの多形体IIの溶解度が0.3%w/wであることが見出され、多形体Iの溶解度とも一致した。したがって、これら2つの多形体の間で水溶解度に関する差異はない。原薬が原薬の水溶解度の10分の1のみの濃度で製剤中に使用されるため(いずれかの多形体として)、生成物特性または製造過程への晶癖の影響はない。
【0063】
結論
確認されたビマトプロストの多形は、液剤、製剤の物理化学的安定性に影響しない。いずれかの多形体の溶解度は、生成物の薬物濃度よりも10倍高い。推奨された保存条件下で保存されたロットのいずれにおいても、多形変換または分解が観察されなかった。
【0064】
本発明は、これらの特定の実施例に関して説明されたが、本発明の精神から逸脱することなく他の修正および変形が可能であることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶形態IIの構造:
【化1】


を有する、7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミド。
【請求項2】
約(2θ):3.60、5.31、7.09、10.55、12.24、13.29、14.55、15.85、17.60、18.49、19.00、19.65、21.10、22.20、22.69、24.75、および26.65のピークを有するX線粉末回折パターンを有する、7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドの結晶形態。
【請求項3】
実質的に図2に示されるX線回折パターンを有する、請求項1に記載の結晶形態。
【請求項4】
その示差走査熱量測定プロファイルにおいて、約70.1℃での発熱開始と、74.1℃でのピークと、を有する、請求項1に記載の結晶形態。
【請求項5】
図1に示されるようなDSCプロファイルを有する、請求項1に記載の結晶形態。
【請求項6】
治療的に有効な量の結晶形態IIの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを、その眼科的に許容される担体中に含む、薬学的組成物。
【請求項7】
高眼圧症の治療を必要とする対象に、眼科的に許容される担体中の結晶形態IIの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを投与することを含む、高眼圧症を治療するための方法。
【請求項8】
前記眼科的に許容される担体は、眼科的に許容される希釈剤、緩衝液、塩酸、水酸化ナトリウム、防腐剤、安定剤、等張化剤、粘度増強剤、キレート剤、界面活性剤および/または可溶化剤、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
緑内障の治療を必要とする対象に、眼科的に許容される担体中の結晶形態IIの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを投与することを含む、緑内障を治療するための方法。
【請求項10】
他の結晶形態を実質的に含まない、請求項1に記載の結晶形態。
【請求項11】
結晶形態Iの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを結晶形態IIに変換させるための方法であって、
a)固体状態の結晶形態Iの7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを、1分間当たり約2℃の加熱速度で、約55℃から約72℃に加熱するステップと、
b)前記結晶性7−[3,5−ジヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペント−1−エニル)−シクロペンチル]−N−エチル−ヘプト−5−エナミドを、1分間当たり約0.2〜0.5℃の冷却速度で、約72℃から約55℃に冷却するステップと、
c)ステップa)およびb)を3〜約9回繰り返すステップと、
を含み、それによって、結晶形態Iを結晶形態IIに変換させる、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−511573(P2013−511573A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541130(P2012−541130)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/057494
【国際公開番号】WO2011/063276
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(390040637)アラーガン インコーポレイテッド (117)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】