説明

結晶性ラパマイシンを調製するための方法およびを示差走査熱量測定使用してラパマイシン化合物の結晶化度を測定するための方法

ラパマイシンを精製するための方法が記載される。また、ラパマイシンまたはその誘導体を含有するサンプルの粒子の質、平均粒子径および結晶化度を測定するための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
結晶性ラパマイシン化合物を調製し、ラパマイシン化合物を含有するサンプルの結晶化度および粒子の質を測定するための方法が記載される。
【背景技術】
【0002】
ラパマイシン(Rapamune(登録商標)薬物)は、天然に由来する免疫抑制薬であり、新規の作用メカニズムを有している。CCI-779(3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピオン酸とのラパマイシン42エステル)は、ラパマイシンのエステルであって、インビトロとインビボとの両方のモデルにおいて腫瘍成長に対して顕著な阻害効果が実証されている。
ラパマイシン化合物およびその精製に対する多くの経路が文献に記載されており、その一部によると、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration)(FAD)などの規制機関によって要求される受容可能な仕様でラパマイシン化合物を得ることができる。しかし、これらの経路を使用して調製したラパマイシン化合物のサンプルは、異なる質の結晶を含む場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当該分野で必要とされているのは、結晶性ラパマイシンを調製するための方法、ならびにラパマイシン化合物のサンプルの結晶化度および粒子の質を測定するための方法である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要旨
1つの局面において、ラパマイシン化合物の粒子の質を測定するための方法が提供される。
別の局面において、ラパマイシン化合物の結晶化度を測定するための方法が提供される。
なおさらなる局面において、結晶性ラパマイシンを調製するための方法が提供される。
本発明の他の局面および他の利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明においてさらに記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
発明の詳細な説明
結晶性ラパマイシンを調製し、粒子の質、粒子サイズおよび結晶化度についてラパマイシン化合物のサンプルを測定するための方法が記載される。本明細書において使用される場合、用語「粒子の質」とは、ラパマイシン化合物の結晶の質をいう。代表的には、粒子の質とは、ラパマイシン化合物を含有するサンプル中の大多数の結晶をいう。粒子の質は、種々の因子(結晶サイズ、結晶のサイズ分布、結晶の化学的均質性/純度、および大部分の結晶の形態が挙げられる)の指標となり得る。1つの例において、粒子の質が高い(high particle quality)とは、サンプル中の大部分の結晶が大きい結晶をいう場合がある。別の例において、粒子の質が高いとは、大部分の結晶が同じ形態を有するサンプルをいう場合がある。さらなる例において、粒子の質が高いとは、大部分の結晶が不純物にコンタミされていないサンプルをいう場合がある。なお別の例において、粒子の質が高いとは、大部分の結晶が大きく、同じ形態を有し、かつ不純物にコンタミされていないサンプルをいう場合がある。
【0006】
本明細書において使用される場合、用語「結晶化度」とは、ラパマイシン化合物を含有するサンプル中の構造秩序の程度をいう。代表的には、結晶化度は、結晶などの規則的なパターンに、どのくらいの原子または分子が配列しそうかの測定値として、分数またはパーセンテージとして表される。全体の粒子の質に寄与するラパマイシン化合物の結晶化度は、不純物(例えば、原子および分子)によって、または結晶化条件もしくは欠陥の存在によって影響される。1つの例において、より高い結晶化度を有するサンプルは、十分に規定されるピークを有する粉末X線回折パターンを有する。1つの例において、約0%の結晶化度を有するサンプルは、実質的に非晶質である固体を含む。別の例において、約100%の結晶化度を有するサンプルは、高い結晶性の固体を含む。さらなる例において、約50%の結晶化度を有するサンプルは、半結晶性の固体を含む。
本明細書において使用される場合、用語「粒子サイズ」とは、サンプル中の大部分の結晶のサイズをいう。代表的には、「粒子サイズ」とは、最長の線寸法を測定することによって決定されるサンプル中の結晶の平均サイズをいう。ラパマイシン化合物の粒子サイズは、全体の粒子の質に寄与する。
【0007】
A. 結晶性ラパマイシンを調製するための方法
1つの実施形態において、結晶性ラパマイシンを調製するための方法が記載される。これらの方法は、ラージスケールでの調製に特に有用であり、高い結晶性のラパマイシンを提供する。これらの方法はまた、有利でもある。なぜならば、この方法によって調製される結晶性ラパマイシンはより安定であり、酸化および/または加水分解の分解不純物がより少ないからである。用語「酸化(の)(oxidative)」または「加水分解」の分解不純物とは、ラパマイシン分子のトリエン領域の酸化および/または加水分解によって形成される不純物をいう。
用語「ラパマイシン」は、当該分野および本明細書において、以下の化合物を表すために利用される用語である:
【化1】

【0008】
本明細書において使用される場合、用語「粗ラパマイシン」とは、実質的に結晶性であるが、約20%未満の不純物を含むラパマイシンサンプルをいう。1つの例において、粗ラパマイシンは、約15%未満の不純物を含む。別の例において、粗ラパマイシンは、約10%未満の不純物を含む。さらなる例において、粗ラパマイシンは約5%未満の不純物を含む。粗ラパマイシンを調製するための種々の方法が存在し、これらとしては、米国特許第3,993,749号が挙げられる(これは、本明細書において参考として援用される)。あるいは、ラパマイシンは、商業的に購入することができる(例えば、Wyeth)。粗ラパマイシンは、米国特許第5,985,325号(これは、本明細書において参考として援用される)に記載のように、微粉化されていなくても、微粉化(micronize)されていてもよい。
【0009】
本方法の第1の工程は、酢酸エチル中の粗ラパマイシンを高温まで加熱する工程を含む。1つの実施形態において、このラパマイシン/酢酸エチル溶液は、約52〜約58℃まで加熱される。別の実施形態において、このラパマイシン/酢酸エチル溶液は、約55℃まで加熱される。その後、加熱した酢酸エチル溶液を濾過する。種々の濾過機器を利用することができ、これらは当業者によって容易に理解される。次いで、濾過溶液を高温に維持する。1つの実施形態において、上記ラパマイシン/酢酸エチル溶液は、約50〜約60℃の温度に維持される。別の実施形態において、上記ラパマイシン/酢酸エチル溶液は、約54〜約57℃の温度に維持される。
次いで、炭化水素溶媒を含む溶媒を、上記加熱溶液に添加する。1つの実施形態において、上記炭化水素溶媒はヘプタンである。別の実施形態において、上記炭化水素溶媒は、ヘキサンである。さらなる実施形態において、上記炭化水素溶媒は、ペンタンである。この炭化水素溶媒は、結晶性ラパマイシンが形成される(好ましくは段階的な結晶化(gradual crystallization)によって)速度で、好ましくは添加される。従って、この炭化水素溶媒は、一定速度で添加されてもよいし、非線形的な速度で添加されてもよい。炭化水素溶媒添加の適切な速度によって、加熱溶液の温度が維持される。炭化水素溶媒添加のより適切な速度によって、約54℃〜57℃において温度が維持される。ラパマイシンの早すぎる沈殿を避けるために、当業者は、炭化水素溶媒の添加の速度を容易に調整することができる。
【0010】
従って、炭化水素溶媒は、代表的には、少なくとも約20分間添加される。1つの例において、上記炭化水素溶媒は、少なくとも約30分間添加される。別の例において、上記炭化水素溶媒は、約60分間添加される。さらなる例において、上記炭化水素溶媒は、約60分間一定速度で添加される。ラパマイシンの早すぎる沈殿を避けるために、当業者は、炭化水素溶媒の添加に必要とされる時間の期間を容易に調整することができる。
次いで、酢酸エチル/炭化水素溶媒溶液の温度を高温に維持する。1つの例において、上記酢酸エチル/炭化水素溶媒溶液は、約55〜約57℃の温度において約30分間維持される。次いで、固体懸濁液が達成されるのに必要とされる速度よりも遅い最低速度まで、撹拌速度を下げる。当業者は、本明細書に提供される教示、利用される特定のリアクター(具体的には、そのリアクターのボリュームあたりのパワー)に基づいて、撹拌速度を容易に調整することができる。1つの例において、上記撹拌速度は、1分あたり約100回転(RPM)またはそれ未満まで低下される。別の例において、上記撹拌速度は、約45〜約100RPMである。
【0011】
撹拌速度を下げた後、低下冷却速度(decreasing cooling rate)で非線形的に溶液を冷却する。1つの例において、上記溶液は、第1の冷却速度を使用して第1の低下温度のあたりまで冷却され;第2の冷却速度を使用して第2の低下速度まで冷却され、そして第3の冷却速度を使用して第3の冷却温度までさら冷却する。代表的には、第3の低下温度は、第2の低下温度未満であり、この第2の低下温度は第1の低下温度未満である。1つの例において、第1の低下温度は、約38〜約42℃であり、第2の低下温度は、約23〜約27℃であり、そして第3の低下温度は、約5〜約10℃である。別の例において、第1の低下温度は、約40℃であり、第2の低下温度は、約25℃であり、そして第3の低下温度は、約9℃である。代表的には、第3の冷却速度は、第2の冷却速度より速く、この第2の冷却速度は、第1の冷却速度よりも速い。1つの例において、第1の冷却速度は、約4〜約7℃/時間であり、第2の冷却速度は、約5〜約9℃/時間であり、そして第3の冷却速度は、約7〜10℃/時間である。さらなる例において、第1の冷却速度は、約5℃/時間であり、第2の冷却速度は、約7.5℃/時間であり、そして第3の冷却速度は、約9℃/時間である。1つの実施形態において、上記溶液は、約5℃/時間の速度で約40℃まで冷却され、約7.5℃/時間の速度で約25℃の温度までさらに冷却され、そして少なくとも9℃/時間の速度で約7〜8℃の温度までさらに一層冷却される。次いで、この溶液を約2〜約6時間、この温度で維持する。1つの例において、上記溶液は、約2時間、この温度で維持される。
【0012】
本発明者らは、炭化水素溶媒の添加の速度が、ラパマイシンの結晶化度に影響を及ぼしたことも見出した。例えば、ハプテンが60分以下の速度で添加される場合、得られる結晶の形態は斜方晶系である。しかし、ハプテンが少なくとも約60分間添加される場合、得られる結晶の形態は針状である。しかし、冷却速度をゆっくり(好ましくは、非線形的な様式)にしてハプテンを添加すると、より均質なサイズ分布の結晶が得られた。これらのパラメータを制御することによって、ラパマイシンの細かい粒子の沈殿は、より容易に制御および/または避けられ、これによって均質なサイズ分布の結晶性ラパマイシンを得ることができる。
次いで、得られた結晶性ラパマイシンを濾過によって回収する。次いで、酢酸エチルおよび炭化水素溶媒(好ましくは、ヘプタン)を含有する溶液でラパマイシンを洗浄する工程、ならびに結晶性ラパマイシンを乾燥させる工程をさらに実施する。好ましくは、酢酸エチルよりも過剰な量の炭化水素溶媒が利用される。1つの例において、2:1の比の炭化水素溶媒/酢酸エチルが利用される。別の例において、2:1の比のヘプタン/酢酸エチルが利用される。
低下温度において炭化水素溶媒/酢酸エチル溶液を使用して、ラパマイシンを洗浄する。1つの例において、ラパマイシンは、約6〜約10℃の温度において洗浄される。別の例において、ラパマイシンは、約8℃の温度において洗浄される。代表的には、ラパマイシンは、低せん断ドライヤー(low-shear dryer)で乾燥させるが、他の乾燥技術を当業者によって決定されるように利用することができる。
【0013】
本明細書に記載の方法に従って結晶化ラパマイシンを調製することによって、最大約60%の相対湿度において最大4ヶ月間にわたって結晶化度が実質的に維持される結晶化ラパマイシンが得られる。1つの例において、上記結晶化度は、約2ヶ月間にわたって維持される。別の例において、上記結晶化度は、約4ヶ月間にわたって維持される。さらなる例において、上記結晶化度は、最大約60%の相対湿度で維持される。具体的には、本明細書に記載されるとおりに調製され、最大約60%の相対湿度において最大4ヶ月間保存された結晶性ラパマイシンについてのDSCプロファイルは、溶解吸熱の最小限の変化を示した。1つの例において、結晶性ラパマイシンについてのDSCプロファイルは、約1%未満の溶解吸熱の変化を示した。1つの例において、DSC溶解吸熱は、約0.5%未満の変化を示した。別の例において、DSC溶解吸熱は、約0.3%未満の変化を示した。さらなる例において、DSC溶解吸熱は、約0.1%未満の変化を示した。
【0014】
1つの実施形態において、ラパマイシンを精製するための方法が提供され、この方法は、(i) 酢酸エチル中の粗ラパマイシンを約55℃に加熱する工程;(ii) 工程(i)の生成物を濾過する工程;(iii) 工程(ii)の温度を約54℃〜約57℃に維持する工程;(iv) 一定速度で約60分間、ヘプタンを工程(iii)の生成物に添加する工程;(v) 約30分間、同じ温度で工程(iv)の生成物を維持する工程;(vi) 工程(v)の撹拌速度を低下させる工程;(vii) 約5℃/時間の速度で約40℃に工程(vi)の生成物を冷却する工程;(viii) 約7.5℃/時間の速度で約25℃の温度に工程(vii)の生成物を冷却する工程;(ix) 少なくとも約9℃/時間の速度で約7〜8℃の温度に工程(viii)の生成物を冷却する工程;(x) 約2時間、同じ温度で工程(ix)の生成物を維持する工程;および (xi) 工程(x)の生成物を濾過して結晶性ラパマイシンを得る工程、を含む。
【0015】
さらなる実施形態において、ラパマイシンを精製するための方法が提供され、この方法は、(i) 酢酸エチル中の粗ラパマイシンを約55℃に加熱する工程;(ii) 工程(i)の生成物を濾過する工程;(iii) 工程(ii)の温度を約54℃〜約57℃に維持する工程;(iv) 一定速度で約60分間、ヘプタンを工程(iii)の生成物に添加する工程;(v) 約30分間この温度で工程(iv)の生成物を維持する工程;(vi) 工程(v)の撹拌速度を低下させる工程;(vii) 約5℃/時間の速度で約40℃に工程(vi)の生成物を冷却する工程;(viii) 約7.5℃/時間の速度で約25℃の温度に工程(vii)の生成物を冷却する工程;(ix) 少なくとも約9℃/時間の速度で約7〜8℃の温度に工程(viii)の生成物を冷却する工程;(x) 約2時間、この温度で工程(ix)の生成物を維持する工程;(xi) 工程(x)の生成物を濾過して結晶性ラパマイシンを得る工程;(xii) 約8℃において酢酸エチルおよびヘプタンで結晶性ラパマイシンを洗浄する工程;および(xiii)工程(xii)の生成物を乾燥させる工程、を含む。
【0016】
B. ラパマイシン化合物を分析するための方法
ラパマイシン化合物を分析するための方法も記載されており、これらは、典型的には示差走査熱量測定(DSC)を用いて実施される。DSCと合わせて他の技術を利用することが可能であり、これらとしては、X線回折(XRD)およびラマン分光法が挙げられるが、これらに限定されない。種々のDSC機器が当該分野で公知であり、これらを利用することができる。1つの実施形態において、上記DSC機器は、なかでも、Q1000TM (TA Instruments) DSC機器である。
【0017】
用語「ラパマイシン化合物」は、上記に示される基本的なラパマイシン核を含む免疫抑制性化合物のクラスを定義する。本発明のラパマイシン化合物は、ラパマイシン核の誘導体として化学的または生物学的に改変され得るが、依然として免疫抑制特性を保持している化合物を含む。従って、用語「ラパマイシン化合物」は、ラパマイシンのエステル、エーテル、オキシム、ヒドラゾンおよびヒドロキシルアミン、ならびにラパマイシン核上の官能基が、例えば還元または酸化により改変されているラパマイシンを包含する。用語「ラパマイシン化合物」は、酸性部分または塩基性部分のいずれかを含むことによって薬学的に受容可能な塩を形成することが可能な、ラパマイシンの薬学的に受容可能な塩も包含する。本明細書に記載されたように分析することが可能なラパマイシン化合物の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ラパマイシン、ラパマイシンの42エステル(CCI-779が挙げられる)(テムシロリムス)、ノルラパマイシン(norrapamycin)、デオキソラパマイシン(deoxorapamycin)、デスメチルラパマイシンもしくはデスメトキシラパマイシン、またはこれらの薬学的に受容可能な塩、プロドラッグもしくは代謝産物、ならびに米国特許出願公報US-2005-0272702、US-2006-013550、US-2006-0040971、US-2006-0036091、US-2005-0014777、US-2006-0199834、US-2005-0234086およびUS-2003-0114477、ならびに米国特許第5,358,908号;第5,358,909号;第5,362,718号;第5,302,584号(これらは、本明細書において参考として援用される)に記載されるもの。1つの例において、ラパマイシン化合物は、商業的に購入可能なラパマイシンまたは当該分野で利用可能な種々の方法を使用して調製することができるラパマイシンを含む。別の例において、ラパマイシン化合物は、CCI-779を含む。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「CCI-779」とは、3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピオン酸とのラパマイシン42-エステルをいう。CCI-779を調製するための種々の方法が当該分野で公知であり、これらの方法としては、米国特許第5,362,718号および第6,277,983号に記載のものが挙げられる(これらは、本明細書において参考として援用される)。あるいは、CCI-779は、商業的に購入することもできる(例えば、Wyeth)。CCI-779は、米国特許出願公報US-2005-0152983-A1(これは、本明細書において参考として援用される)に記載のように、微粉化されていなくても、微粉化されていてもよい。
【化2】

【0019】
用語「デスメチルラパマイシン」とは、1つ以上のメチル基を欠いているラパマイシン化合物のクラスをいう。本発明に従って使用され得るデスメチルラパマイシンの例としては、なかでも、3-デスメチルラパマイシン(米国特許第6,358,969号)、7-O-デスメチル-ラパマイシン(米国特許第6,399,626号)、17-デスメチルラパマイシン(米国特許第6,670,168号)および32-O-デスメチルラパマイシンが挙げられる。
用語「デスメトキシラパマイシン」とは、1つ以上のメトキシ基を欠いているラパマイシン化合物のクラスをいい、これらとしては、32-デスメトキシラパマイシンが挙げられるが、これに限定されない。
本明細書に記載の方法において測定されるラパマイシン化合物は、固体状態で、結晶性、半結晶性、非結晶性または凝集物であり得るサンプルを含む。結晶性ラパマイシンは、好ましくは、Sehgal et al., J. Antibiotics, 28(10): 727-732 (1975);Swindells et al., Canadian J. Chem., 56(18):2491-2492 (1978);および米国特許出願公報US-2006-040971において議論される手順に従って調製される。結晶性CCI-779は、好ましくは、米国仮特許出願第60/748,006号(これは、本明細書において参考として援用される)に記載されるように、ジエチルエーテルおよびヘプタンからの再結晶化によって調製される。
【0020】
ラパマイシン化合物を含有するサンプルは、低レベルの不純物(酸化および/または加水分解の不純物、溶媒などが挙げられる)を含む場合がある。1つの例において、CCI-779のサンプルは、ほんの微量のアセトンを含み、好ましくは約0.3% wt/wt未満のアセトンを含む。同様に、CCI-779のサンプルは、約0.3% wt/wt未満のフェニルボロン酸を含み、約1.5 wt%未満のCCI-779の酸化/加水分解の分解産物を含む。
本明細書において使用される場合、用語「結晶性」とは、1つの限定的な結晶性構造を有するラパマイシン化合物の固体サンプルをいう。本明細書中で使用される場合、用語「半結晶性」とは、非晶質領域内に分散される結晶性領域を有するラパマイシン化合物の固体サンプルをいう。用語「非結晶性」と「非晶質」とは、交換可能に使用され、そこに分散される結晶(crystallinity)の領域を含まず、従って非結晶性形態であるラパマイシン化合物の固体サンプルをいう。用語「凝集物」とは、本明細書において使用される場合、ラパマイシン化合物の粒子中に互いに交じり合う(intergrow)か、または融合される結晶のグループをいう。
【0021】
結晶の質は、ラパマイシン化合物を含むサンプルの安定性に影響を及ぼすことが公知である。例えば、非晶質または半結晶性のラパマイシン化合物は、急速な酸化分解を受ける。さらに、ラパマイシン化合物の平均粒子径(median particle size; メジアン粒子サイズ)は、所望される大きな粒子サイズについての流れの性質を決定する。本方法は、ラパマイシン化合物を含有するサンプル(すなわち、試験サンプル)の粒子の質、結晶化度、粒子サイズまたはこれらの組合せを決定/計算する工程を含む。本方法は、これによって、ラパマイシン化合物のDSC熱流シグナルを分析することによって行われる。次いで、ラパマイシン化合物の熱流シグナルは、所定の標準物質(standard: スタンダード)の熱流シグナルと比較される。
多くの有用なパラメータを、熱流シグナルから得ることができ、これらとしては、融点(開始融点およびピーク温度が挙げられる)、および融解熱が挙げられる。これらのパラメータは、粒子の質、結晶化度または粒子サイズの決定においても利用することがでる。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「融点」とは、固体(すなわち、ラパマイシン化合物)が溶解する温度を含む。融点は、開始融点(onset melting temperature)またはピーク融点(peak melting temperature)を含むことができる。代表的には、融点は、ピーク融点である。
本明細書において使用される場合、用語「融解熱」とは、溶解または融解の間に、ラパマイシン化合物によって放出されるトータルの熱を表す。融解熱は、熱流シグナルプロットの下の領域を積分することによって得られ、代表的には、カロリー/グラムまたはジュール/グラムで表される。しかし、融解熱の単位を表すための他の慣例(convention)も当業者によって利用され得る。
好ましくは、ラパマイシン化合物の熱流シグナルのDSCピーク温度、すなわち、融点を測定し、次いで、所定のスタンダードの熱流シグナルと比較する。
本明細書において使用される場合、用語「所定のスタンダード」とは、平均の粒子サイズおよび結晶化度が既知であり、DSCピーク温度と相関する、結晶性の高いラパマイシン化合物の1以上の固体サンプルをいう。より好ましくは、所定のスタンダードは、結晶性ラパマイシン化合物を含む。より好ましくは、所定のスタンダードは、100%の結晶性ラパマイシン化合物を含む。
【0023】
ラパマイシン化合物の熱流シグナルは、単一点の相関によってか、または検量曲線を使用することによって、所定のスタンダードの熱流シグナルと比較することができる。そうすることによって、分析されるラパマイシン化合物の結晶化度、粒子の質、または粒子サイズを決定することができる。
1つの実施形態において、ラパマイシン化合物を含有する試験サンプルの熱流シグナルは、単一点の相関を使用して、結晶性ラパマイシン化合物を含有する所定のスタンダードの熱流シグナルと比較される。代表的には、熱流シグナルから得られる融解熱が比較のために利用される。1つの例において、融解熱を単一点の相関において利用して、ラパマイシン化合物の結晶化度を決定する。別の例において、ラパマイシン化合物の結晶化度は、単一点の相関を使用して計算される。
さらなる例において、ラパマイシン化合物の結晶化度は、以下の式を使用して計算することができる:
試験サンプルの結晶化度
=(100×試験サンプルの融解熱)/所定のスタンダードの融解熱
【0024】
別の実施形態において、ラパマイシン化合物を含有する試験サンプルの熱流シグナルは、検量曲線を使用して、結晶性ラパマイシンを含有する所定のスタンダードの熱流シグナルと比較される。当業者は、本明細書の教示および当該分野での知識を用いて、容易に検量曲線を調製することができる。代表的には、結晶性ラパマイシン化合物を含有する複数のサンプルを使用することによって、所定のスタンダードについての検量曲線が調製される。好ましくは、少なくとも3つのサンプルが、検量曲線を作成するために必要とされる。しかし、当業者によって決定される場合、より多くのサンプルを使用して、検量曲線を調製することができる。1つの例において、ラパマイシン化合物を含有する試験サンプルの融解熱を検量曲線と合わせて利用して、ラパマイシン化合物の結晶化度を決定する。
【0025】
検量曲線を得るための複数のサンプルの各々の結晶化度に対して、同じ複数のサンプルの各々について融解熱、ピーク温度または開始温度をプロットすることによって、検量曲線を調製する。次いで、最もよくフィットする直線または曲線を引き、その最もよくフィットした直線の式を計算する。別の例において、検量曲線は、結晶化度に対して融解熱をプロットすることによって調製される。さらなる例において、検量曲線は、結晶化度に対してピーク温度をプロットすることによって調製される。なおさらなる例において、検量曲線は、結晶化度に対して開始温度をプロットすることによって調製される。なお別の例において、検量曲線は、ラパマイシン化合物を含有する複数のサンプルの各々についての結晶化度に対して、既知の結晶化度の結晶性ラパマイシン化合物を含有する複数のサンプルの各々についての融解熱をプロットすることによって計算される。代表的には、検量曲線は、その融解熱の値を得るために利用されたDSC機器の型、ならびに実験の条件および手順に特異的である。しかし、当業者は、ある手順およびDSC機器から得た検量曲線が、同じ手順を使用して別のDSC機器から得たデータを使用することによって利用できるか否かを決定することができる。
【0026】
一旦検量曲線が調製されると、ラパマイシン化合物を含有する試験サンプルの結晶化度を決定するために、その検量曲線を利用することができる。具体的には、ラパマイシン化合物を含有する試験サンプルを分析して、その試験サンプル中のラパマイシン化合物の融解熱、ピーク温度または開始温度のうちの1以上が決定される。次いで、これらの値(すなわち、融解熱、ピーク温度または開始温度)を、所定のスタンダードの最もフィットする直線の式を使用して、その試験サンプル中のラパマイシン化合物の結晶化度のほかに他の因子を決定するために利用することができる。そうすることによって、ラパマイシン化合物を含有するサンプルの結晶化度の正確な測定値を得ることができる。
本発明者らは、ラパマイシン化合物サンプルに関して、DSC熱流シグナルと、それによる融点においてある傾向を見出している。具体的には、ラパマイシン化合物を含有するサンプルの熱流シグナルは、ラパマイシン化合物の結晶化度に依存して変動することが見出されている。1つの例において、ラパマイシン化合物サンプルの結晶化度は、熱流シグナルの融点に比例する。
【0027】
1つの実施形態において、より結晶性が高いラパマイシンを含有するサンプルは、粒子が大きく、かつ少なくとも約188℃(好ましくは、約188℃〜約190℃)のより高い融点を有した。より結晶性が低いラパマイシンを含有するサンプルは、粒子がより小さく、かつ約183℃未満(好ましくは約180℃未満〜約183℃未満)のより低い融点を有した。図2を参照のこと。
別の実施形態において、より結晶性が高いCCI-779を含有するサンプルは、粒子が大きく、かつ少なくとも約168℃(好ましくは、約168〜約170℃)のより高い融点を有した。より結晶性が低いCCI-779を含むサンプルは、粒子がより小さく、少なくとも約166℃〜約168℃未満のより低い融点を有した。半結晶性CCI-779凝集物を含有するサンプルは、結晶性サンプルよりも低い融点(すなわち、少なくとも約164℃〜約166℃未満の融点)を有した。さらに、非結晶性CCI-779を含有するサンプルは、ガラス転移温度を有したが、融点は有さなかった。図3を参照のこと。
【0028】
上記したとおり、DSC融点は、ラパマイシン化合物粒子のサイズおよび結晶化度に比例する。CCI-779を含有するサンプルについて、大きな粒子サイズは、その粒子の最長の軸に関して約30μmの長さを超える平均粒子径を有する粒子、より好ましくは、CCI-779粒子の最長の軸に関して約30μm〜約250μmの平均粒子径を有する粒子を含む。あるいは、小さな粒子サイズは、CCI-779粒子の最長の軸に関して約30μm未満の平均粒子径を有する粒子を含む。
本発明者らは、より結晶性が低いラパマイシン化合物のX線回折パターンが広いピークを含んだことも見出した。さらに、XRDによって非晶質および結晶性のラパマイシン化合物を含有するサンプルが分析される場合、そのXRDパターンは、結晶性ラパマイシン化合物の鋭いピークと、非晶質ラパマイシン化合物についてのベースラインシフトまたは「非晶質ハロ(amorphous halo)」を示した。
1つの実施形態において、示差走査熱量測定を使用してラパマイシン化合物の粒子の質を測定するための方法が記載される。この方法は、ラパマイシン化合物を含有するサンプルの熱流シグナルを分析する工程;およびその熱流シグナルを所定のスタンダードと比較する工程を含み、この粒子の質は、そのサンプルの融点に比例する。
【0029】
別の実施形態において、示差走査熱量測定を使用するラパマイシン化合物の粒子サイズを決定するための方法が記載される。この方法は、ラパマイシン化合物を含有するサンプルの熱流シグナルを分析する工程、およびその熱流シグナルを所定のスタンダードと比較する工程を含み、その粒子サイズは、そのサンプルの融点に比例する。
さらなる実施形態において、示差走査熱量測定を使用してラパマイシン化合物の粒子の質を決定するための方法が提供される。この方法は、ラパマイシン化合物を含有するサンプルの熱流シグナルを分析する工程、およびその熱流シグナルを所定のスタンダードと比較する工程を含み、ラパマイシン化合物の大きな粒子サイズは、高い融点によって特徴付けられ、そして小さな粒子サイズは、低い融点によって特徴付けられる。
【0030】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供され、本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、以下の実施例において特定の試薬および条件が概説されているが、本発明の趣旨および範囲によって包含されると意味される改変がなされ得ることを認識する。
【実施例】
【0031】
実施例1 − CCI-779サンプルの粒子を分析するための一般的プロセス
本実施例において、DSCピーク温度を測定し、これを利用してCCI-779を含有する試験サンプルについて粒子カテゴリーを評価した。
米国仮特許出願第60/748,006号に記載される手順を使用してエーテル/ヘプタンからCCI-779を結晶化することによって得たCCI-779を含有するサンプルを、表1のパラメータを用いてQ SeriesTM Q1000-0450 DSC機器 (TA Instruments)を使用して分析した。DSCピーク温度を得て、結晶性CCI-779を含有する所定のスタンダードとこの温度を比較して、粒子カテゴリーに分けた。25個のサンプルについて、粒子カテゴリーに従ってピーク温度を分類した図1を参照のこと。特定のサンプルについてはピーク温度が重複したので、25個の別個のサンプルを認識することはできない。粒子カテゴリー1は、大きな粒子を有する結晶性CCI-779サンプルを指し、粒子カテゴリー2は、小さな粒子を有する結晶性CCI-779サンプルを指し、粒子カテゴリー3は、半結晶性のCCI-779凝集物を指し、そして粒子カテゴリー4は、非結晶性CCI-779を指す。
【0032】
【表1】

【0033】
このデータから、より高いDSCピーク温度は、より結晶性が高いCCI-779サンプルの指標であると定められる。
【0034】
実施例2 − CCI-779サンプルの粒子の分析
この実施例においては、米国仮特許出願第60/748,006号に記載の手順を使用して、エーテル/ヘプタンからCCI-779を結晶化することによって得た25個のCCI-779サンプルの粒子の質、結晶化度および融点を測定した。上記の表1のパラメータを用いて、Q SeriesTM Q1000-0450 DSC機器 (TA Instruments)を使用して、固体サンプルのDSCピーク温度を分析した。
次いで、サンプルの等級(grade)および結晶化度を光学顕微鏡によって分析した。要約すると、NikonTM DXM 1200デジタルカメラおよびNikonTM ACT-1 v 2.12 較正画像収集システムを備えた5倍〜100倍に拡大可能なNikonTM Eclipse E600光学顕微鏡を使用して、光学顕微鏡法を行った。ガラスホルダー上でサンプルを約0.005mg分散することによって、測定値を得た。次いで、Resolve(登録商標)顕微鏡液浸油(Richard-Allan Scientific)をたらしてサンプルをカバーし、カバースリップをのせた。画像収集の間にそれらの粒子が摩滅することがないように注意を払った。サンプル調製の約1〜約2分後に、サンプル画像を収集した。再度、画像化が必要な場合は、新しいサンプルを調製した。
【0035】
DSC温度とサンプルの「等級」および「結晶サイズ(crystallinity size)」を相関させることによって、そのサンプルの「クラス」を決定した。具体的には、CCI-779を含有するサンプルが、光学顕微鏡によって大きな結晶を有する結晶性であると決定された場合、そのサンプルはクラス1サンプルに割り当てた;CCI-779を含有するサンプルが、光学顕微鏡によって小さな結晶を有する結晶性であると決定された場合、そのサンプルはクラス2サンプルに割り当てた;そして、CCI-779を含有するサンプルが、光学顕微鏡によって半結晶性であると決定された場合、結晶サイズにかかわらず、そのサンプルはクラス3サンプルに割り当てた。次いで、サンプルのクラスを、同じサンプルについて得たDSCピーク温度と関係づけた。
【0036】
【表2】

【0037】
これらの結果は、一般的に、CCI-779の結晶性サンプルはCCI-779の半結晶性サンプルよりも高いDSCピーク温度を有することを表す。さらに、より大きな結晶を含むCCI-779サンプルは、より小さな結晶を含むCCI-779のサンプルよりも高いDSCピークを生じた。
【0038】
実施例3 − ラパマイシンの結晶化
粗ラパマイシンを酢酸エチル中にスラリー化し、55℃まで加熱する。次いで、浄化フィルターを使用して加熱溶液を結晶管(crystallizing vessel)に濾過し、次いでその溶液を54〜57℃に維持する。次に、一定速度で60分間ヘプタンを上記管に添加する。ヘプタンを添加した後、溶液を30分間、55〜57℃に保つ。固体懸濁液を得るために撹拌速度を低下させる。次いで、5℃/時間の速度で3時間で溶液を40℃まで冷却し、その後、7.5℃/時間の速度で2時間で25℃まで冷却し、さらに、少なくとも60分で、望ましくは9℃の速度で2時間で、7〜8℃まで冷却する。次いで、溶液を2時間7〜8℃に保ち、その後濾過する。濾液から得る固体を、8℃において酢酸エチル/ヘプタンを含有する溶液を使用して洗浄する。次いで、低せん断ドライヤーを使用して洗浄した固体を乾燥させて結晶性ラパマイシンを得る。
【0039】
実施例4 − 異なる含有量の結晶性ラパマイシンを含有するサンプルの結晶化度の分析
この実施例において、ラパマイシンを含有するサンプル(表3)をDSCおよび光学顕微鏡によって分析した。光学顕微鏡を使用して、形態および適切な粒子サイズを決定した。スタンダードDSCサンプルのランプ速度(10℃/分)および密封されたアルミニウムパン(hermetically sealed aluminum pan)を利用した。DSCグラフを得、これを図2Aおよび2Bに示す。
サンプル1は結晶性ラパマイシンを含み、10mLのメトキシ−2−プロパノール中に粗結晶性ラパマイシン(1g)を懸濁し、その懸濁液を40℃に加熱して透明な溶液を得ることによって調製した。2時間で40℃〜15℃に溶液を冷却し、ラパマイシンを段階的に結晶化させた。室温で濾過することによって結晶化固体を回収し、これを室温で空気中で乾燥させた。
【0040】
サンプル2は、結晶性ラパマイシンおよび約2〜約3%の酸化/加水分解の分解不純物を含み、実施例3のプロセスを用いて調製した。25℃かつ相対湿度60%で、バッチの一部を2ヶ月間維持した。
サンプル3は、結晶性ラパマイシンおよび約2〜約3%の酸化/加水分解の分解不純物を含み、実施例3のプロセスを用いて調製した。バッチの一部を25℃かつ相対湿度60%に4ヶ月間供した。
【0041】
【表3】

【0042】
これらの結果は、結晶性ラパマイシンを含有するサンプル中の不純物のレベルが低いことは、結晶性ラパマイシンサンプルのDSC融点に経時的に影響しないことを表わしている。
【0043】
実施例5 − 融解熱と結晶化度との間の相関を決定するための検量曲線の計算
この実施例は、検量曲線を調製して、融解熱を結晶化度と関係付けるために実施した。既知の結晶性CCI-779を含有するサンプル(すなわち、所定のスタンダード)を、DSCおよび表1に記載のパラメータを使用して分析した。各サンプルは、結晶性CCI-779および非晶質CCI-779を既知のパーセンテージで含んだ。この結果を表4に提供する。
【0044】
【表4】

【0045】
次いで、融解熱、開始温度およびピーク温度の各々に対して、結晶化度をプロットした。図3を参照のこと。
このグラフから、3つ全てのパラメータが、サンプル中の結晶性CCI-779の量と線形的に相関することが表される。このグラフはまた、融解熱を用いて最もよい線形的な相関が得られることも表している。融解熱測定値の相関誤差は他の2つのパラメータより低いだけでなく、感度もより高かった。より高い感度は直線の傾きをモニタリングすることによって決定した。この勾配は、開始温度の勾配(0.0875)の約2倍であった(006049)。
具体的には、各サンプルについて得られる融解熱および結晶化度の程度を使用することによって、結晶化度と融解熱との間の関係を、この特定の機器について以下の式で表されるとおりに決定した:
結晶化度の程度=1.6465 × 融解熱 + 3.5988
【0046】
実施例6 − 異なる量の結晶性CCI-779を含有するサンプルの結晶化度の決定
この実施例は、実施例4に記載の式の正確性を決定するために実施した。具体的には、既知量の結晶性CCI-779を含有する4つのサンプルについての融解熱を決定した。一度決定し、実施例4の式を使用して結晶化度を計算した。結果を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
これらのデータから、融解熱を使用することによって、3%未満の誤差で結晶化度を正確に計算できることが表される。
【0049】
実施例7 − 融解熱に対するサンプル重量の効果
本実施例において、CCI-779の3つのサンプルの結晶化度の決定におけるサンプル重量の効果を測定した。
米国仮特許出願第60/748,006号に記載の手順を使用して、エーテル/ヘプタンからCCI-779を結晶化することによって、サンプル1および2を得た。
米国仮特許出願第60/748,143号に記載の手順を使用して、サンプル3を得た。
表2に記載のパラメータを用いて、Q SeriesTM Q1000-0450 DSC機器(TA Instruments)を使用して、DSC開始温度、ピーク温度および融解熱の値についてサンプルを分析した。結果を表6〜8に提供する。
【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
上に提供される表6〜8に記載の平均融解熱を用いることによって、各バッチの結晶化度の程度を、実施例3に記載の式を用いて計算した。結果を表9に提供する。
【0054】
【表9】

【0055】
これらのデータから、サンプル重量は、サンプルの結晶化度またはCCI-779を含有するサンプルの結晶化度の予測における融解熱の使用に実質的に影響しないことが示される。
【0056】
実施例8 − CCI-779を含有するサンプルの結晶化度の決定
結晶性CCI-779を含有する19個のサンプルを調製し、表2に記載のDSCパラメータを使用して分析した。DSCおよび実施例6および以下に再現した式を使用して各サンプルについて得た平均融解熱を使用して、各サンプルの結晶化度を計算した。結果を表10に提供する:
結晶化度の程度=1.6465 × 融解熱 + 3.5988
【0057】
【表10】

【0058】
次いで、60%の相対湿度で(i)5℃または(ii)25℃において、6ヶ月後に、サンプルの安定性を別々に分析した。これらの結果から、より高い含有量で結晶性CCI-779を有するバッチは、より低い含有量で結晶性CCI-779を含有するサンプルよりも安定であることが示される。
【0059】
実施例9 − 融解熱および結晶化度に対する加熱速度のバリエーション
結晶性CCI-779を含有する6つのサンプルを表2に記載のパラメータを使用してDSCによって分析した。サンプル1、4および7は、7mgの結晶性CCI-779を含み、7℃/分の速度でDSCで加熱した。サンプル2、5および8は、10mgの結晶性CCI-779を含み、10℃/分の速度でDSCで加熱した。サンプル3、6および9は、20mgの結晶性CCI-779を含み、20℃/分の速度でDSCで加熱した。開始温度、ピーク温度および融解熱をDSCから得、これを表11に提供する。
【0060】
【表11】

【0061】
このデータから、DSCによる分析の間に加熱速度を増加しても、融解熱は顕著に変化しないことが表された。
本明細書で引用される全ての刊行物は、本明細書において参考として援用される。本発明は、特定の好ましい実施形態への参照とともに記載されているが、本発明の趣旨から逸脱することなく改変がなされ得ることが認識される。そのような改変は、添付の特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、粒子カテゴリーの関数(function)として、25個のCCI-779サンプルについてのDSCグラフから得たピーク温度を提供する。粒子カテゴリー1は、大きい粒子を有する結晶性CCI-779サンプルを指し、粒子カテゴリー2は、小さい粒子を有する結晶性CCI-779サンプルを指し、粒子カテゴリー3は、半結晶性のCCI-779凝集物を指し、そして粒子カテゴリー4は、非結晶性CCI-779を指す。
【図2】図2A(Figure 2A)および図2B(Figure 2B)は、結晶化度の異なる5つのラパマイシンサンプルについてのピーク温度を示すDSCグラフを提供する。図2Aにおいて、上のプロットは、結晶性ラパマイシンを含有するサンプルに対応し、中央のプロットは、半結晶性ラパマイシンを含有するサンプルに対応し、そして下のプロットは、非晶質ラパマイシンを含有するサンプルに対応する。図2Bにおいて、上のプロットは2ヶ月間25〜60℃に保たれた結晶性ラパマイシンを含むサンプルに対応し、中央のプロットは、4ヶ月間25〜60℃に保たれた結晶性ラパマイシンを含むサンプルに対応し、そして下のプロットは、図2Aで同定された結晶性ラパマイシンを含有するサンプルに対応する。
【図3】図3は、6つのCCI-779サンプルについての結晶化度の程度と熱パラメータ(融解熱(J/g)、溶解開始点(℃)およびピーク温度(℃))との間の関係を示すグラフを提供する。黒三角は、ピーク温度と結晶化度の相関を示し、黒菱形は、融解熱と結晶化度の相関を示し、そして黒四角は、開始温度と結晶化度との相関を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定を使用してラパマイシン化合物の粒子の質を測定するための方法であって、
ラパマイシン化合物を含むサンプルの熱流シグナルを分析する工程;および
前記サンプルの熱流シグナルを所定のスタンダードの熱流シグナルと比較する工程
を含み、ここで前記粒子の質は、前記サンプルの前記熱流シグナルの融点に比例するものである、
前記方法。
【請求項2】
より高い融点がより高い質の粒子に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
より高い粒子の質が、前記ラパマイシン化合物のより高い結晶化度に対応する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記融点が、前記ラパマイシン化合物の結晶の平均粒子径と比例する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
より大きな平均粒子径が、高い融点によって特徴付けられる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルがCCI-779を含み、前記大きな平均粒子径が少なくとも約30μmである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記大きな平均粒子径が約30μm〜約250μmである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルがCCI-779を含み、前記高い融点が少なくとも約168℃である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記高い融点が約168℃〜約170℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプルがラパマイシンを含み、前記高い融点が少なくとも約188℃である、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記高い融点が約188℃〜約190℃である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
より低い融点がより低い質の粒子に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
より低い粒子の質がより低い結晶化度に対応する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ラパマイシン化合物の結晶の小さな平均粒子径が、低い融点によって特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記サンプルがCCI-779を含み、前記低い融点は約166℃未満である、請求項12または14に記載の方法。
【請求項16】
前記低い融点が約164℃〜約166℃である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記サンプルがラパマイシンを含み、前記低い融点が約183℃未満である、請求項12または14に記載の方法。
【請求項18】
前記サンプルがラパマイシンを含み、前記低い融点が約180℃未満〜約183℃未満である、請求項12または14に記載の方法。
【請求項19】
前記サンプルがCCI-779を含み、前記小さな平均粒子径が約30μm未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記サンプルが半結晶性の凝集物を含み、結晶性のサンプルよりも低い融点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記サンプルが非結晶性ラパマイシン化合物を含み、半結晶性ラパマイシン化合物を含むサンプルよりも低い融点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記サンプルが非結晶性ラパマイシン化合物を含み、結晶性ラパマイシン化合物を含むサンプルよりも低い融点を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記ラパマイシン化合物が所定のスタンダードと同じ溶媒から精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
示差走査熱量測定を使用してラパマイシン化合物の結晶を含むサンプルの平均粒子径を決定するための方法であって、
ラパマイシン化合物を含むサンプルの融点を分析する工程;および
前記融点を所定のスタンダードと比較する工程
を含み、ここで前記平均粒子径は、前記サンプルの融点に比例する、前記方法。
【請求項25】
大きな平均粒子径が高い融点温度によって特徴付けられ、小さい平均粒子径が低い融点温度によって特徴付けられる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ラパマイシン化合物の結晶化度を決定するための方法であって、
ラパマイシン化合物を含む試験サンプルの熱流シグナルを分析する工程;および
前記熱流シグナルを、結晶性ラパマイシン化合物を含む所定のスタンダードの熱流シグナルと比較することによって、前記試験サンプルの結晶化度を計算する工程
を含む、前記方法。
【請求項27】
前記計算が単一点の計算を使用して行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記所定のスタンダードが、100%結晶性ラパマイシン化合物を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記試験サンプルの前記結晶化度が下記式:
試験サンプルの結晶化度
=(100×前記試験サンプルの融解熱)/前記所定のスタンダードの融解熱
に従って計算される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記計算が検量曲線を使用して行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記所定のスタンダードが、結晶性ラパマイシン化合物を含む複数のサンプルを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記複数のサンプルの各々の融解熱、ピーク温度または開始温度を、前記複数のサンプルの各々の結晶化度に対してプロットして、最もよくフィットする直線を有する検量曲線を得る工程;
前記最もよくフィットする直線の式を計算する工程;
前記試験サンプル中の前記ラパマイシン化合物の融解熱、ピーク温度または開始温度を分析する工程;および
前記試験サンプルの前記融解熱、ピーク温度または開始温度、および前記式を使用して、前記試験サンプル中の前記ラパマイシン化合物の結晶化度を計算する工程
をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記検量曲線が、既知の結晶化度の結晶性ラパマイシン化合物を含む複数のサンプルの各々についての前記融解熱を、前記ラパマイシン化合物を含む複数のサンプルの各々についての結晶化度に対してプロットすることによって調製される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記サンプルがラパマイシンを含む、請求項1または24〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記サンプルがCCI-779を含む、請求項1または24〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
ラパマイシンを精製するための方法であって、
(i) 酢酸エチル中の粗ラパマイシンを約55℃まで加熱する工程;
(ii) 工程(i)の生成物を濾過する工程;
(iii) 工程(ii)の温度を約54℃〜約57℃に維持する工程;
(iv) 一定速度で約60分間、ヘプタンを工程(iii)の生成物に添加する工程;
(v) 約30分間、前記温度において工程(iv)の生成物を維持する工程;
(vi) 工程(v)の撹拌速度を低下させる工程;
(vii) 約5℃/時間の速度において約40℃に工程(vi)の生成物を冷却する工程;
(viii) 約7.5℃/時間の速度において約25℃の温度に工程(vii)の生成物を冷却する工程;
(ix) 少なくとも約9℃/時間の速度において約7〜8℃の温度に工程(viii)の生成物を冷却する工程;
(x) 約2時間、前記温度において工程(ix)の生成物を維持する工程;および
(xi) 工程(x)の生成物を濾過して前記結晶性ラパマイシンを得る工程
を含む、前記方法。
【請求項37】
(xii) 約8℃において酢酸エチルおよびヘプタンで前記結晶性ラパマイシンを洗浄する工程;および
(xiii) 工程(xii)の生成物を乾燥させる工程
をさらに含む、請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−518648(P2009−518648A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544451(P2008−544451)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/046445
【国際公開番号】WO2007/067566
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】