説明

結晶性物質の製造方法

【課題】高い発光強度を示し、白色LEDに適した幅広い励起スペクトルを有する結晶性物質の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、M1、M2、M3、及びLを含む原料混合物を、一回以上焼成して、式:M12a(M2bc)M3dyxで表される結晶性物質を製造する方法であって、焼成の少なくとも一回を、NH3ガスを含有する雰囲気下で行う結晶性物質の製造方法である。但し、M1はアルカリ金属から選択される少なくとも一種、M2はCa、Sr、Baから選択される少なくとも一種、M3はSiおよびGeから選択される少なくとも一種、Lは希土類元素、BiおよびMnから選択される少なくとも一種、aは0.9以上、1.5以下、bは0.8以上、1.2以下、cは0.005以上、0.2以下、dは0.8以上、1.2以下、xは0.001以上、1.0以下、yは3.0以上、4.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶性物質の製造方法に関するものであり、特に蛍光体である結晶性物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LEDは液晶テレビのバックライトや、照明用途への実用化が進み、その市場は急拡大している。白色LEDは、紫外から青色の領域の光(波長が380〜500nm程度)を放出するLEDチップと、該LEDチップから放出される光で励起されて発光する蛍光体とを組み合わせて構成されるものであり、その組み合わせによって様々な色温度の白色を実現することができる。
【0003】
紫外から青色の領域の光によって励起され発光する蛍光体は、白色LEDに好適に用いることができる。白色LED用の蛍光体として、例えば、特許文献1、2にはLi2SrSiO4:Euで示される蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/80763号パンフレット
【特許文献2】特開2006−237113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、Li2SrSiO4:Euは、さらなる発光強度の向上が求められている。
また、白色LEDでは、青色LEDから放出される青色光によって蛍光体を励起して発光させ、白色光を得る。しかし、青色LEDから放出される青色光の波長は、劣化により波長のピークがシフトすることが知られており、蛍光体の励起スペクトルが青色域において幅広いほど、白色LEDの色のずれを抑制することが可能である。具体的には、白色LED用の蛍光体の励起スペクトルが400〜500nmと幅広いことが必要とされる。
【0006】
本発明は、Li2SrSiO4:Euに比べて高い発光強度(高輝度)を示し、白色LEDに適した幅広い励起スペクトルを有する結晶性物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明は、M1、M2、M3、及びLを含む原料混合物を、一回以上
焼成して、式:M12a(M2bc)M3dyxで表される結晶性物質を製造する方法であって、焼成の少なくとも一回を、NH3ガスを含有する雰囲気下で行うことを特徴とする結晶性物質の製造方法である。但し、M1はアルカリ金属から選択される少なくとも一種、M2はCa、Sr、Baから選択される少なくとも一種、M3はSiおよびGeから選択される少なくとも一種、Lは希土類元素、BiおよびMnから選択される少なくとも一種、aは、0.9以上、1.5以下、bは、0.8以上、1.2以下、cは、0.005以上、0.2以下、dは、0.8以上、1.2以下、xは、0.001以上、1.0以下、yは、3.0以上、4.0以下である。
【0008】
上記製造方法において、一回目の焼成は、非窒化雰囲気下で行い、二回目以降で、NH3ガスを含有する雰囲気下での焼成を行うことが好ましい。また、前記原料混合物が窒化物又は酸窒化物を含み、該窒化物又は酸窒化物がM1、M2、M3、Lの一種以上を含むものから選択される一種以上であることや、NH3ガスの濃度が10〜100体積%であることも好ましい。
【0009】
上記式において、Lが少なくともEuを含むことが好ましく、さらにEuが少なくとも2価のEuを含むことが好ましい。また、M1がLi、M3がSiであること;aが0.9以上、1.1以下であること;b+c=1、d=1であること;M2はSr単独、SrとCa、又はSrとBaからなることなどが好ましい。また、本発明の結晶性物質は、通常、蛍光体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、青色光で励起されることによって高い発光強度(高輝度)を示し、白色LEDに適した幅広い励起スペクトルを有する結晶性物質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、後記する実施例における発光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の製造方法によって得られる結晶性物質について説明する。本発明における結晶性物質は、式:M12a(M2bc)M3dyxで表され、通常、蛍光体の性質を示す。すなわち、青色域(ピーク波長が380〜500nm程度)の光で励起されることによって黄色(ピーク波長が560〜590nm程度)を発光することができる。本発明の製造方法によって得られる結晶性物質は、幅広い励起スペクトルを有するとともに、高い発光強度を実現できる。上記式中、M1はアルカリ金属から選択される少なくとも一種、M2はCa、Sr、Baから選択される少なくとも一種、M3はSiおよびGeから選択される少なくとも一種、Lは希土類元素、BiおよびMnから選択される少なくとも一種、aは、0.9以上、1.5以下、bは、0.8以上、1.2以下、cは、0.005以上、0.2以下、dは、0.8以上、1.2以下、xは、0.001以上、1.0以下、yは、3.0以上、4.0以下である。
【0013】
1は、好ましくはLi、Na、及びKから選択される一種又は二種以上(特に一種)であり、より好ましくはLiである。
2は、好ましくはSr単独であるか、またはSrと他のM2元素との組み合わせであり、特に好ましいのはSr単独であるか、SrとCaの組み合わせであるか、又はSrとBaの組み合わせである。この場合、SrとCaとBaの合計量に対する、Sr、Ca及びBaの含有量はそれぞれ、原子比で0.5≦Sr≦1.0、0≦Ca≦0.5、0≦Ba≦0.5であることが好ましく、より好ましくは0.7≦Sr≦1.0、0≦Ca≦0.3、0≦Ba≦0.3であり、さらに好ましくは0.95≦Sr≦1.0、0≦Ca≦0.05、0≦Ba≦0.05である。
3は、好ましくはSiである。なお、M3がSiのとき、M1はLiであることが好ま
しい。
【0014】
Lは発光イオンとして賦活される元素であり、少なくともEuを含むことが好ましい。例えば、Eu単独、EuとEu以外の希土類元素との組み合わせ、EuとBiの組み合わせ、EuとMnの組み合わせとすることができる。またEuは少なくとも2価のEu(Eu2+)を含むことが好ましく、すなわち2価のEu(Eu2+)のみであるか、2価のEu(Eu2+)と3価のEu(Eu3+)の組み合わせであることが好ましい。Euが2価のEu(Eu2+)を含むことによって、結晶性物質は青色光で励起され、黄色を発光することができ、またEu2+の増加に伴って、発光強度を向上できる。Euが2価のEu(Eu2+)を含む場合、全Eu中のEu2+の割合は、25原子%以上(より好ましくは40原子%以上、さらに好ましくは60原子%以上)、100原子%以下が好ましい。なお、特許文献1に開示されるLi2SrSiO4:Eu蛍光体は、Euが3価のEu(Eu3+)のみであり、赤色発光する。
【0015】
aの下限は、0.9以上であり、好ましくは0.95以上である。またaの上限は1.5以下であり、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下(特に1.05以下)である。
bの下限は0.8以上であり、好ましくは0.9以上である。またbの上限は1.2以下であり、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.05以下である。
cの下限は0.005以上であり、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.015以上である。またcの上限は0.2以下であり、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下である。
b+cの値及びdは、同一又は異なって、好ましくは0.9以上(特に0.95以上)、1.1以下(特に1.05以下)であり、より好ましくは1である。
なお、M1、M2、M3、Lが二種以上の元素である場合、a、b、c、dの値は、それぞれ、M1、M2、M3、Lを構成する元素の合計量の原子比を表す。例えば、後記する実施例で示す結晶性物質:Li1.96Sr0.97Ca0.01Eu0.02SiO3.930.05の場合、M2はSr及びCaであり、bの値は0.97+0.01=0.98である。
【0016】
aとb+cの比(a/(b+c))、aとdの比(a/d)、b+cとdの比((b+c)/d)は、同一又は異なって、例えば、0.9〜1.1、好ましくは0.95〜1.05である。
【0017】
xの下限は0.001以上であり、好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.01以上である。またxの上限は1.0以下であり、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.1以下(特に0.08以下)である。
yの下限は3.0以上であり、好ましくは3.5以上、より好ましくは3.7以上である。またyの上限は4.0以下であり、好ましくは3.95以下であり、より好ましくは3.9以下である。
yは4−3x/2であることが好ましい。式:M12a(M2bc)M3dyxで表される本発明の結晶性物質は、その製造過程において酸素の一部が窒素に置き換わって生成するため、理想的にはy=4−3x/2であることが好ましいが、還元雰囲気で焼成する場合、陰イオン欠損が生じる場合があるため、y=4−3x/2とならない場合もある。
【0018】
本発明における結晶性物質の組成は、a、b+c、dの値がいずれも1±0.03(特に1)であり、yが4−3x/2であり、M1がLi、M3がSiであり、かつM2についてはSr単独であること、SrとCaであること、又はSrとBa(特にSr単独、又はSrとCa)であることが好ましい。具体的には、本発明における結晶性物質の好ましい組成として、例えばLi1.96Sr0.98Eu0.02SiO3.880.08が挙げられる。
【0019】
本発明の結晶性物質の結晶系は、通常三方晶または六方晶である。
【0020】
本発明の結晶性物質は、後述する原料混合物由来(例えば、原料としてハロゲン化合物を用いる場合)のハロゲン元素(F、Cl、BrおよびIの1種以上)を含有していても良い。結晶性物質中のハロゲン元素の量は、原料として使用する金属化合物に含有されるハロゲン元素の合計量に対して通常同量以下、好ましくは50%以下、より好ましくは25%以下である。
【0021】
本発明に係る上記結晶性物質の製造方法は、M1、M2、M3、及びLを含む原料混合物
を、一回以上焼成して結晶性物質を製造するに際して、焼成の少なくとも一回を、NH3ガスを含有する雰囲気下で行う。
【0022】
原料混合物
前記原料混合物は、より詳細には、元素M1を含む物質(第1原料)、元素M2を含む物質(第2原料)、元素Lを含む物質(第3原料)、元素M3を含む物質(第4原料)の混合物である。元素M1、M2、L、及びM3はいずれも金属元素であるため、本明細書では前記第1〜第4原料を金属化合物と称する場合があり、それらの混合物を金属化合物混合物と称する場合がある。なお、本明細書において「金属元素」とは、SiやGeのような半金属元素も含む意味で用いる。前記金属化合物は、各金属M1、M2、L、又はM3の酸化物又は高温(特に焼成温度)で分解又は酸化して酸化物を形成する物質であり、この酸化物を形成する物質には、水酸化物、窒化物、ハロゲン化物、酸窒化物、酸誘導体、塩(炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩など)などが含まれる。原料混合物は、窒化物又は酸窒化物を含み、該窒化物又は酸窒化物がM1、M2、M3、Lの一種以上を含むものから選択される一種以上(以下、これらを「窒素含有化合物」と呼ぶ。)であることが好ましい。
【0023】
第1原料としては、好ましくは金属M1(特にリチウム)の水酸化物、酸化物、炭酸塩、窒化物が挙げられ、特に好ましい第1原料には水酸化リチウム(LiOH)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸リチウム(Li2CO3)、窒化リチウム(Li3N)が含まれる。これら第1原料は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせてもよい。
【0024】
第2原料としては、金属M2(特にストロンチウム、バリウム、カルシウムなど)の水酸化物、酸化物、炭酸塩、窒化物が含まれ、より具体的には、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)、酸化ストロンチウム(SrO)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、窒化ストロンチウム(Sr32)などが例示できる。これら第2原料は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせてもよい。
【0025】
第3原料としては、金属L(特にユウロピウム)の水酸化物、酸化物、炭酸塩、塩化物、窒化物が好ましく、例えば、水酸化ユウロピウム(Eu(OH)2、Eu(OH)3)、酸化ユウロピウム(EuO、Eu23)、炭酸ユウロピウム(EuCO3、Eu2(CO33)、塩化ユウロピウム(EuCl2、EuCl3)、硝酸ユウロピウム(Eu(NO32、Eu(NO33)、窒化ユウロピウム(Eu32、EuN)などが挙げられる。これら第3原料は、単独で使用してもよく、複数を組み合わせてもよい。
【0026】
第4原料としては、好ましくは金属M3(特に珪素)の酸化物、酸誘導体、塩、窒化物などが挙げられ、例えば、二酸化珪素、珪酸、珪酸塩、窒化珪素が含まれる。
【0027】
第1原料乃至第4原料の混合は、湿式または乾式のいずれで行っても良い。混合には、通常の装置を用いることができ、例えばボールミル、V型混合機、攪拌機などが挙げられる。
【0028】
焼成
焼成条件は、結晶性物質が得られる条件であれば適宜変更できる。焼成回数は1回又は2回以上とすることができ、好ましくは2回以上である。焼成の雰囲気は、必要に応じて加圧しても良く、焼成ごとに雰囲気が異なっていても良いが、少なくとも1回を、NH3ガスを含有する雰囲気下とすることが必要である。NH3ガスを含有する雰囲気下で焼成することによって、結晶性物質中に窒素を含有させることができる。NH3ガスを含有する雰囲気としては、例えばNH3ガス、10体積%以上100体積%未満のNH3ガスと不活性ガス(窒素、アルゴンなど)との混合ガスが挙げられ、好ましくはNH3ガス、50〜100体積%未満のNH3ガスと不活性ガスとの混合ガスである。
【0029】
好ましくは1回目の焼成を非窒化雰囲気下で行い、2回目以降でNH3を含有する雰囲気下での焼成を行う。非窒化雰囲気とは、例えばNH3を含有しない雰囲気、又は高圧(0.1〜5.0MPa程度)のN2を含有しない雰囲気などである。
原料混合物が窒素含有化合物のいずれも含まない場合は、このようにすることによって、1回目の焼成でM12a(M2bc)M3dy2で表されるシリケート又はゲルマネートを形成させることができ、2回目以降の、NH3を含有する雰囲気下での焼成で、前記したM12a(M2bc)M3dy2に窒素を導入してM12a(M2bc)M3dyxとすることができる。
原料混合物が窒素含有化合物を含む場合は、上記のようにすることによって、一回目の焼成でM12a(M2bc)M3dy2x2で表される形成することができ、2回目以降の、NH3を含有する雰囲気下での焼成で、前記M12a(M2bc)M3dy2x2がM12a(M2bc)M3dyxの組成となるように窒素を導入することができる。なお、上記した組成式において、y<(y2)であり、x>(x2)である。また(y2)=4−3/2×(x2)であることが好ましい。但し、上記したxとyの関係と同様に、(y2)=4−3/2×(x2)とならない場合もある。
【0030】
NH3ガスを含有する雰囲気下での焼成以外は、焼成雰囲気は特に限定されず、通常、大気中とできるが、その他に例えば、不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴンなど)、酸化性ガス雰囲気(酸素、酸素と不活性ガスの混合ガスなど)であってもよい。またNH3ガスを含有する雰囲気下での初めての焼成以降の焼成は、前記した大気中、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気で行うことができる他、再度NH3ガスを含有する雰囲気で行ってもよい。
【0031】
焼成温度は、通常、700〜1000℃であり、好ましくは750〜950℃、より好ましくは800〜900℃である。焼成時間は、通常、1〜100時間であり、好ましくは10〜90時間であり、より好ましくは20〜80時間である。
【0032】
金属化合物として水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩を使用する場合、焼成前または混合前に、これらの金属化合物を仮焼することができる。例えば500〜800℃で、1〜100時間程度(好ましくは10〜90時間)保持することによって仮焼を行えばよい。
【0033】
仮焼又は焼成の際、金属化合物またはこれらの混合物に反応促進剤を添加することができる。反応促進剤を添加することによって、結晶性物質の発光強度を高められる。反応促進剤としては、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、ハロゲン化アンモニウム、ホウ素の酸化物(B23)、ホウ素のオキソ酸(H3BO3)などを用いることができる。前記アルカリ金属ハロゲン化物は、好ましくはアルカリ金属のフッ化物またはアルカリ金属の塩化物であり、例えば、LiF、NaF、KF、LiCl、NaCl、KClなどである。前記アルカリ金属炭酸塩は、例えば、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3である。前記アルカリ金属炭酸水素塩は、例えば、NaHCO3である。前記ハロゲン化アンモニウムは、例えば、NH4Cl、NH4Iである。
【0034】
仮焼物や各焼成後の焼成物に対して、必要により、粉砕、洗浄、分級のいずれか一つ以上の処理をしてもよい。粉砕、混合には、例えば、ボールミル、V型混合機、攪拌機、ジェットミルなどが使用できる。
【0035】
結晶性物質であるM12a(M2bc)M3dyxを得るためには、金属化合物の混合割合を(M1元素):(M2元素):(L元素):(M3元素)の比率が2a:b:c:dとなるように調整するとともに、窒化雰囲気下での焼成時間を調整すれば良い。また原料混合物が窒素含有化合物を含む場合は、これらの使用量と窒化雰囲気下での焼成時間を調整して、結晶性物質中の窒素含有量(xの値)を調整すれば良い。また、結晶性物質中の酸素含有量(yの値)は、O2含有雰囲気下での焼成条件(焼成雰囲気中のO2濃度、O2含有雰囲気下での焼成時間など)を調整することによって制御することも可能である。
【0036】
本発明の製造方法によれば、蛍光体である結晶性物質を得ることができ、励起スペクトルが幅広く、発光強度が高い。本発明の製造方法により得られる結晶性物質は、500nmの波長の光で励起した時の発光強度(2)と、450nmの波長の光で励起した時の発光強度(1)の比(発光強度(2)/発光強度(1))が75%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上)である。したがって、本発明の結晶性物質は、発光装置、例えば白色LEDを用いた発光装置に好適に用いることができる。発光装置は通常、蛍光体からなる蛍光体部と、蛍光体を励起する光源を有しており、光源としてはLEDを用いることができる。発光装置として、例えば白色LEDを挙げることができる。
【0037】
白色LEDは、通常、紫外から青色の光(波長が200〜500nm程度、好ましくは380〜500nm程度)を放出する発光素子(LEDチップ)と、蛍光体から構成される。この白色LEDは、例えば、特開平11−31845号公報、特開2002−226846号公報等に開示の方法によって製造することができる。すなわち前記発光素子を、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などの透光性樹脂で封止し、その表面を蛍光体で覆うことで白色LEDを製造できる。蛍光体の量を適宜設定すれば、白色LEDが所望の白色を発光するようになる。
【0038】
前記蛍光体としては、本発明の結晶性物質を単独で用いても良いし、他の蛍光体と併用しても良い。他の蛍光体としては、Ln3Al512:Ce3+、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu、BaMgAl1017:Eu、(Ba,Sr,Ca)(Al,Ga)24:Eu、BaMgAl1017:(Eu,Mn)、BaAl1219:(Eu,Mn)、(Ba,Sr,Ca)S:(Eu,Mn)、YBO3:(Ce,Tb)、Y23:Eu、Y22S:Eu、YVO4:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、SrY24:Eu、Ca−Al−Si−O−N:Eu、(Ba,Sr,Ca)Si222:Eu、β−サイアロン、CaSc24:Ce、Li−(Ca,Mg)−Ln−Al−O−N:Eu(ただし、LnはEu以外の希土類元素を表す)などが挙げられる。
【0039】
波長200nm〜500nmの光を発する発光素子としては、紫外LEDチップ、青色LEDチップなどが挙げられ、これらLEDチップには発光層としてGaN、IniGa1-iN(0<i<1)、IniAljGa1-i-jN(0<i<1、0<j<1、i+j<1)などの層を有する半導体が用いられる。発光層の組成を変化させることにより、発光波長を変化させることができる。
【0040】
本発明の結晶性物質は、白色LED以外の発光装置、例えば、蛍光体励起源が真空紫外線である発光装置(例えば、PDP);蛍光体励起源が紫外線である発光装置(例えば、液晶ディスプレイ用バックライト、三波長形蛍光ランプ);蛍光体励起源が電子線である発光装置(例えば、CRTやFED)などにも使用できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
なお以下の実施例で得られる結晶性物質の発光強度は、蛍光分光測定装置(日本分光株式会社製FP−6500)を用いて決定した。結晶性物質のX線回折(XRD)測定には、X線回折装置(リガク製RINT2000)を用いた。結晶性物質のEuの価数割合は、X線吸収微細構造(XAFS)測定によって評価した。
【0043】
XAFS測定は、SPring−8においてビームラインBL14B2を用いて透過法で行った。Eu−L3吸収端である6650〜7600eVを測定領域とした。Eu2+(6972eV)の標準試料としてBaMgAl1017:Eu2+(BAM)を用い、Eu3+(6980eV)の標準試料として酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)を用いた。解析プログラム(株式会社リガク製REX2000)を用い、各試料のXAFSデータをバックグラウンド処理し、X線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルを得た後、Eu2+標準試料及びEu3+標準試料のXANESスペクトルを用いて、各試料のXANESスペクトルのパターンフィッティングを行い、Eu2+ピークの割合から、試料中のEu2+の割合を算出した。
【0044】
結晶性物質中の酸素と窒素の含有量は、堀場製作所製EMGA−920を用いて測定した。酸素含有量については非分散型赤外吸収法、窒素含有量については熱伝導度法を用いた。
【0045】
実施例1
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中で、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた焼成物を粉砕し、NH3雰囲気中下、800℃で3時間焼成して、式Li1.96Sr0.98Eu0.02SiO3.990.005で表される結晶性化合物を得た。
【0046】
実施例2
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中で、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた焼成物を粉砕し、NH3雰囲気中下、800℃で6時間焼成して、式Li1.96Sr0.98Eu0.02SiO3.980.010で表される結晶性化合物を得た。
【0047】
実施例3
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中で、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた材料を粉砕し、NH3雰囲気下、800℃で12時間熱処理して、式Li1.96Sr0.98Eu0.02SiO3.920.053で表される結晶性化合物を得た。
【0048】
実施例4
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中で、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた材料を粉砕し、NH3雰囲気下、800℃で24時間熱処理して、式Li1.96Sr0.98Eu0.02SiO3.880.082で表される結晶性化合物を得た。
【0049】
実施例5
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物をNH3雰囲気下、800℃で12時間焼成して、式Li1.96Sr0.98Eu0.02SiO3.970.022で表される結晶性化合物を得た。
【0050】
実施例6
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、炭酸カルシウム(宇部マテリアルズ株式会社製、純度99.99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、
二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Ca:Eu:Siの原子比が1.96:0.97:0.01:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた焼成物を粉砕し、NH3雰囲気下、800℃で12時間焼成して、式Li1.96Sr0.97Ca0.01Eu0.02SiO3.930.046で表される結晶性化合物を得た。
【0051】
実施例7
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、炭酸バリウム(関東化学株式会社製、純度99.9%)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Ba:Eu:Siの原子比が1.96:0.97:0.01:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた焼成物を粉砕し、NH3雰囲気下、800℃で12時間焼成して、式Li1.96Sr0.97Ba0.01Eu0.02SiO3.940.040で表される結晶性化合物を得た。
【0052】
原料中のEu及びSrの割合(原子比)を変更した以外は実施例3と同様にして、実施例8〜10の結晶性物質を得た。
【0053】
原料中のLiの割合(原子比)を変更した以外は実施例3と同様にして、実施例11〜13の結晶性物質を得た。
【0054】
原料中のCa及びSrの割合(原子比)を変更した以外は実施例6と同様にして、実施例14〜16の結晶性物質を得た。
【0055】
原料中のBa及びSrの割合(原子比)を変更した以外は実施例7と同様にして、実施例17〜19の結晶性物質を得た。
【0056】
なお、実施例8〜19において、原料中のM1元素、M2元素、L元素、M3元素の割合(原子比)は、表1に示した組成式中のこれら元素の原子比と同じである。
【0057】
比較例1
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物をN2と5体積%のH2との混合ガス雰囲気下、800℃で24時間焼成した後、室温まで徐冷して、式Li1.96(Sr0.98Eu0.02)SiO4.00で表される結晶性化合物を得た。
【0058】
比較例2
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
混合物をN2と5体積%のH2との混合ガス雰囲気下、800℃で24時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた材料を粉砕し、N2と5体積%のH2との混合ガス雰囲気下、800℃で24時間熱処理して、式Li1.96(Sr0.98Eu0.02)SiO4.00で表される結晶性化合物を得た。
【0059】
比較例3
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が1.96:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中で、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた材料を粉砕し、N2と5体積%のH2との混合ガス雰囲気下、800℃で24時間熱処理して、式Li1.96(Sr0.98Eu0.02)SiO4.00で表される結晶性化合物を得た。
【0060】
比較例4
炭酸リチウム(関東化学株式会社製、純度99%)、炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製、純度99%以上)、酸化ユウロピウム(信越化学工業株式会社製、純度99.99%)、二酸化珪素(日本アエロジル株式会社製:純度99.99%)をLi:Sr:Eu:Siの原子比が2.00:0.98:0.02:1.0となるように秤量し、乾式ボールミルにより6時間混合して金属化合物混合物を得た。
前記混合物を大気中で、750℃で10時間焼成した後、室温まで徐冷した。得られた焼成物を粉砕し、N2と5体積%のH2との混合ガス雰囲気下、800℃で24時間焼成して、式Li2.00(Sr0.98Eu0.02)SiO4.00で表される化合物を得た。
【0061】
実施例1〜19及び比較例1〜4で得られた結晶性物質の諸特性を表1に示す。なお、発光強度(1)は、結晶性物質を450nmの波長の光で励起した場合の発光スペクトルのピーク強度を表し、発光強度(2)は、結晶性物質を500nmの波長の光で励起した場合の発光スペクトルのピーク強度を表す。発光強度(1)、(2)はいずれも、比較例1の発光強度(1)を100とした時の相対値で表す。また、実施例4と比較例1の発光スペクトルを図1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、NH3を含有する雰囲気下での焼成を少なくとも1回行った実施例1〜19は、NH3を含有する雰囲気下での焼成を一度も行わなかった比較例1〜4に比べて、発光強度(1)及び(2)がいずれも高くなった。また、比較例1〜4では、発光強度(2)が発光強度(1)に対しておよそ75%程度未満にまで低下しているのに対し、実施例1〜19では同等か、低下しても75%以上(好ましくは80%以上)であった。すなわち、実施例1〜19は、励起波長がずれても発光強度の低下が抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の製造方法によって得られる結晶性物質は、蛍光体の性質を示すことができ、青色域で励起スペクトルが幅広くなるとともに、青色光で励起することによって高い発光強度を示すため、白色LEDに代表されるような発光装置の蛍光体部に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1、M2、M3、及びLを含む原料混合物を、一回以上焼成して、式:M12a(M2bc)M3dyxで表される結晶性物質を製造する方法であって、焼成の少なくとも一回を、NH3ガスを含有する雰囲気下で行うことを特徴とする結晶性物質の製造方法。
但し、M1はアルカリ金属から選択される少なくとも一種、
2はCa、Sr、Baから選択される少なくとも一種、
3はSiおよびGeから選択される少なくとも一種、
Lは希土類元素、BiおよびMnから選択される少なくとも一種、
aは、0.9以上、1.5以下、
bは、0.8以上、1.2以下、
cは、0.005以上、0.2以下、
dは、0.8以上、1.2以下、
xは、0.001以上、1.0以下、
yは、3.0以上、4.0以下である。
【請求項2】
Lが少なくともEuを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
Euが少なくとも2価のEuを含む請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
1がLi、M3がSiである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
aが0.9以上、1.1以下である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
b+c=1、d=1である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
2はSr単独、SrとCa、又はSrとBaからなる請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
一回目の焼成は、非窒化雰囲気下で行い、
二回目以降で、NH3ガスを含有する雰囲気下での焼成を行う請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記原料混合物が、窒化物又は酸窒化物を含み、該窒化物又は酸窒化物がM1、M2、M3、Lの一種以上を含むものから選択される一種以上である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
NH3ガスの濃度が10〜100体積%である請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
結晶性物質は蛍光体である請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−132000(P2012−132000A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263597(P2011−263597)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】