説明

結晶成長用ルツボ及びそれを用いて成長させた半導体単結晶

【課題】縦型ボート法において、双晶不良の発生を抑制する結晶成長用ルツボを提供する。
【解決手段】一方に円錐台形の肩部5を備えた円筒形の直胴部6と、前記肩部5の先端に設けられ種結晶3を収納する細径部4とを有し、前記肩部5及び前記直胴部6に収容される結晶原料融液を、前記細径部4から前記直胴部6へ向かって結晶成長させる結晶成長用ルツボ1において、前記肩部5の内壁面に、結晶成長方向に対してほぼ垂直に、円周状の凹溝8を所定の間隔を隔てて複数形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体単結晶の結晶成長用ルツボ及びそれを用いて成長させた半導体単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザや発光ダイオード用の導電性基板の大口径化、低転位化の要求が大きくなり、III−V族に代表される化合物半導体の単結晶の製造方法として、従来の横型ボート法(例えば、水平ブリッジマン法(HB:Horizontal Bridgeman Method))に代わって、垂直ブリッジマン法(VB:Vertical Bridgeman Method)、垂直温度勾配凝固法(VGF:Vertical Gradient Freezing Method)が注目されている。
【0003】
このVB法やVGF法(以下、縦型ボート法)は、PBN(Pyrolytic Boron Nitride:熱分解窒化ホウ素)製の成長容器(ルツボ)の下部に種結晶を設置し、その上方に化合物半導体原料を設け、結晶成長用ルツボ上部から下部に向かって徐々に温度が低温となるよう温度勾配を設けた縦型炉の中で、種結晶側から上部に向かって化合物半導体を結晶固化させるものである。
【0004】
縦型ボート法に用いられる結晶成長用ルツボは、通常、下端に種結晶を収納する細径部、細径部から上方に向かって直径が大きくなるよう逆円錐台形に形成される肩部及び該肩部から上方にほぼ一定の定径を有する筒状の直胴部を有する。結晶成長用ルツボ内壁面には予めランダムな凹凸が形成される。
【0005】
例えば特許文献1には、結晶と結晶成長用ルツボとの接触を抑え、双晶欠陥の発生を抑制するために、結晶成長用ルツボの内壁面に複数本の直線的な凹部を、直胴部から細径部にかけて垂直方向に形成した結晶成長用ルツボが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、結晶成長用ルツボ内壁面に格子状の凹凸を形成し、原料となる融液と結晶成長用ルツボ内壁面との接触角を減少させることで、多結晶の発生を抑制することが記載されている。
【0007】
他にも、従来技術として、結晶成長用ルツボ内壁形状が梨地加工(ランダムな配列の隆起したこぶ状の形)の結晶成長用ルツボを使用していた。
【0008】
【特許文献1】特開平9−295887号公報
【特許文献2】特開2005−170776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の結晶成長用ルツボで製造した結晶では、特に肩部で形成されるファセット(晶癖)から双晶不良が生じる問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、前記課題を解決し、特に、縦型ボート法において、双晶不良の発生を抑制する結晶成長用ルツボ及びそれを用いて成長させた半導体単結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、一方に円錐台形の肩部を備えた円筒形の直胴部と、前記肩部の先端に設けられ種結晶を収納する細径部とを有し、前記肩部及び前記直胴部に収容される結晶原料融液を、前記細径部から前記直胴部へ向かって結晶成長させる結晶成長用ルツボにおいて、前記肩部の内壁面に、結晶成長方向に対してほぼ垂直に、円周状の凹溝を所定の間隔を隔てて複数形成する結晶成長用ルツボである。
【0012】
請求項2の発明は、前記直胴部の内壁面に、所定の深さの凹溝を、所定の間隔を隔てて複数形成する請求項1に記載の結晶成長用ルツボである。
【0013】
請求項3の発明は、前記肩部及び前記直胴部に形成される前記複数の凹溝は、深さが0.05〜0.15mmに形成され、それぞれ0.1〜0.5mmの間隔を隔てて形成される請求項1又は2に記載の結晶成長用ルツボである。
【0014】
請求項4の発明は、前記結晶成長用ルツボの内壁全面に、厚さ0.1mm〜1.0mmの液体封止剤からなる膜を形成した請求項1〜4いずれかに記載の結晶成長用ルツボである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の結晶成長用ルツボを用いて成長させた半導体単結晶である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、双晶不良の発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0018】
まず、結晶成長用ルツボ1を用いた結晶成長装置を図4により説明する。
【0019】
図4に示すように結晶を製造する装置は、筒状の圧力容器41と、圧力容器41に収納された断熱筒42と、断熱筒42の内側上下3段に設けられたヒーター43と、ヒーター43の内側に設けられた支持治具46と、支持治具46で支持された結晶成長用ルツボ1とを有する。
【0020】
本実施形態に係る結晶成長用ルツボ1は、III−V族に代表されるような化合物半導体の単結晶の製造に用いるものである。III−V族化合物半導体としては、例えばGaAs、GaN、InPなどがある。
【0021】
さて、図1は、本発明の好適な実施形態を示す結晶成長用ルツボの断面図、図2はその斜視図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る結晶成長用ルツボ1は、下端部(一端部)2に種結晶3を収納する細径部4と、細径部4から上方に向かって直径が大きくなるよう逆円錐台形に形成される肩部5と、肩部5から上方にほぼ一定の定径を有するよう筒状に形成された直胴部6とを有する。
【0023】
結晶成長用ルツボ1の肩部5及び直胴部6の内壁面7の全面には、結晶成長方向(ルツボ軸)に対して、垂直方向に、所定の間隔を隔てて複数本の円周状の凹溝8が形成される。結晶成長用ルツボ1で成長させた半導体単結晶10の表面には凹溝8によって、凹溝8の形に対応した凹凸の縞模様が形成される。
【0024】
凹溝8の内面溝深さdは0.05〜0.15mm、溝間隔iは0.1〜0.5mm、肩部5と直胴部6の内壁面のなす角は100°以上150°以下である。深さdは、0.05mm未満では、結晶表面に凹凸の縞模様が形成されず、凹溝が無い結晶成長用ルツボと効果が変わらず、0.15mmより深くしてしまうとルツボが変形及び破損してしまう。肩部5と直胴部6の内壁面のなす角については制限範囲をはずれてしまうと所望の半導体単結晶10を得られない。
【0025】
また、内壁面7には、液体封止剤からなる膜9が内壁面7と半導体単結晶10との接触を抑えるように設けられる。結晶成長用ルツボ1内には、後述する結晶成長により半導体単結晶10が形成される。
【0026】
膜9は、内壁面7に厚さ0.1mm〜1.0mmで、内壁面7と半導体単結晶10との接触を抑えるように設けられる。内壁面7全面を覆うように膜9を設けることで、結晶成長の際に、結晶成長用ルツボ1と半導体単結晶10やその原料融液との接触を抑え、接触による半導体単結晶10や原料融液の不均一な温度の低下、及びこれによる結晶化を抑制する。膜9としては液体封止剤、例えばB23(酸化ホウ素)、CaF2(フッ化カルシウム)等を用いると良い。
【0027】
結晶成長用ルツボ1の肩部5では、図3(a)に示すように、ルツボ1に形成された溝8に対応するように、種結晶3からの結晶成長方向に対してほぼ垂直に、円周状の晶癖(ファセット)面31が形成される。
【0028】
これに対して、円周状の溝が形成されていない従来の結晶成長用ルツボの肩部では、結晶成長の性質上、種結晶3から各方向への成長速度に差が生じる。このため、図3(b)に示すとおり、ファセット面32が種結晶からの成長方向に対して垂直に形成されず、さらに種結晶3から四方にファセット面33が形成され、これによりファセット面による双晶不良が発生する問題があった。
【0029】
結晶成長用ルツボ1によれば、縦型ボート法において、煩雑な設備や成長条件の調整を必要とすることなく、結晶の成長方向に対してほぼ垂直な円周状に形成した溝8により、種結晶3からの各方向への結晶成長の成長速度をほぼ均一にし、図3(b)のようなファセット面の形成を抑え、双晶不良を低減することができる。
【0030】
本願発明の結晶成長用ルツボ1により成長させた半導体単結晶10では、結晶成長方向に対して垂直方向に円周状の凹溝8の形状が反映された凹凸(縞模様)が形成されており、その円周状の凹凸に沿ってファセット面が形成されている。
【0031】
また、結晶成長用ルツボ1の肩部及び直胴部の内壁面7には、円周状の溝8が形成されているので、膜9の付着性に優れ、結晶成長の際に、膜9が下方に流れ出るのを抑えることができる。その結果、結晶成長用ルツボ1と半導体単結晶10や原料溶液との接触を抑え、接触箇所からの温度低下による結晶化、及びそれによる双晶不良の発生を抑えることができる。
【0032】
さらに、結晶成長用ルツボ1と半導体単結晶10との間に膜9が存在することにより、結晶成長後、結晶成長用ルツボ1からの半導体単結晶10の取り出しを容易にするとともに、取り出す際の内壁面7へのダメージを低減でき、結晶成長用ルツボ1の寿命を長くすることができる。
【実施例】
【0033】
ここで、本発明の結晶成長用ルツボ1を用いたGaAs単結晶の製造方法についてより詳細に説明する。
【0034】
図4に示すように、細径部4の直径が10mm、直胴部6の直径が80mm、肩部5の角度が130°、結晶成長用ルツボ1の側壁の厚さが0.53mmである結晶成長用ルツボを用いた。
【0035】
まず、結晶成長用ルツボ1の下端に設けられた細径部4に、GaAs種結晶11を挿入し、次に、結晶成長用ルツボ1内に、GaAs多結晶原料10000gと、液体封止剤であるB23500gを投入した(図示せず)。結晶成長用ルツボ1を圧力容器41内の支持治具46に装填し、上下3段のヒーター43に給電して、GaAs多結晶原料、B23を融解し、GaAs融液47、液体封止剤B23融液層48とし、GaAs種結晶11に対して種付けを行う。
【0036】
種付け後、結晶成長用ルツボ1が結晶成長方向に沿って、6℃/cmの温度勾配を有するようにヒーター43を制御し、結晶成長用ルツボ1を5mm/hrの速度で降下させる従来の垂直ブリッジマン法により、GaAs単結晶の成長を行った。
【0037】
実施例及び比較例の結晶成長用ルツボは、周知のCVD(化学蒸着)法により形成される。例えば、窒化ホウ素をグラファイトなどの適当なルツボ型基材の表面上に蒸着させ、該基材から取り出すと良い。このとき基材には、結晶成長用ルツボに所定の溝が形成されるように凹凸が形成されている。
【0038】
(実施例1)
凹溝の深さdを0.05mm、溝間隔iを0.1mmとした結晶成長用ルツボ1を用いた。
【0039】
(実施例2)
凹溝の深さdを0.15mm、溝間隔iを0.5mmとした結晶成長用ルツボ1を用いた。
【0040】
(比較例1)
凹溝の深さdを0.03mm、溝間隔iを0.1mmとした結晶成長用ルツボを用いた。
【0041】
(比較例2)
凹溝の深さdを0.07mm、溝間隔iを0.7mmとした結晶成長用ルツボを用いた。
【0042】
(比較例3)
結晶成長用ルツボの内壁に高さ0.3mm程度のランダムな凹凸が形成された結晶成長用ルツボを用いた。
【0043】
前記実施例1、2及び比較例1〜3により、GaAs単結晶の成長を各50回実施した。その結果、結晶の種付け部から結晶成長の最終部において双晶不良結晶が発生した割合は、下記の通りであった。
【0044】
【表1】

【0045】
比較例3のように、内壁にランダムに凹凸を形成した結晶成長用ルツボでは、結晶成長用ルツボ内壁面に設けられる液体封止剤であるB23からなる膜の流れを制限して、結晶成長用ルツボ内壁面と結晶の接触面積を抑えることで、双晶不良結晶の発生を抑制できるが、一部では、膜の流れが生じ、双晶不良の発生がみられた。また、肩部内壁で<110>方向にファセット(晶癖)が形成され、ファセットから双晶不良結晶が生じる。比較例3では特に肩部において双晶不良が発生し、歩留り低下の原因となっていた。
【0046】
これに対し結晶成長用ルツボ1の凹溝の深さdが0.05〜0.15mm、溝間隔iが0.1〜0.5mmの範囲では、結晶に発生する双晶結晶の割合を、比較例3と比べて10%以上低減することができることが分かった。
【0047】
特に、肩部5における双晶不良の発生が抑制され、結果として歩留りの向上を実現できる。
【0048】
これは、肩部5及び直胴部6に、所定の溝深さd(0.05〜0.15mm)、且つ、所定の溝間隔i(0.1〜0.5mm)の凹溝8を形成した結晶成長用ルツボ1を用いることにより、1)種結晶から結晶成長方向への結晶成長速度がほぼ均一になり、特に、肩部5において双晶不良を発生させるようなファセットの形成を抑え、2)さらに結晶成長用ルツボ1内壁面に設けたB23からなる膜が、結晶成長時に下方へ流れ出るのを抑えることで、双晶不良の発生を低減することができたと考えられる。
【0049】
これに対し、比較例1、2では、比較例3に対し、顕著な効果はみられなかった。これは、比較例1では凹溝の深さが小さかったため、また比較例2では溝間隔が大きかったため、種結晶から結晶成長方向への結晶成長速度を均一にすることができず、双晶不良を発生させるようなファセット面が形成されたためと考えられる。
【0050】
本発明者らは、凹溝の深さが0.15mmを超える結晶成長用ルツボについても検討を行ったが、結晶成長中に結晶成長用ルツボが変形したり、結晶成長用ルツボが割れる問題があった。また、結晶を成長した後でも、結晶成長用ルツボから結晶を取り出す際に、結晶成長用ルツボを破損する恐れがあったため、結晶成長用ルツボの厚さを0.53mmとしたときの凹溝の深さの上限を0.15mmとした。
【0051】
前記実施例及び比較例では、肩部5の角度が130°の結晶成長用ルツボを用いて検討をした。本発明者らは、実施例1及び実施例2の凹溝を有する結晶成長用ルツボにおいて、さらに、結晶成長用ルツボの肩部の角度を90〜180°まで変化させて検討を行った結果、肩部5の角度が100〜150°までであれば、前記実施例と同様の効果が得られることが分かった。
【0052】
前記実施例では、結晶成長用ルツボ1の直胴部に形成される凹溝を、結晶成長方向に対して垂直な方向を有するものとして説明したが、直胴部においては、結晶成長の際に、液体封止剤からなる膜が内壁面から流れ落ちず、結晶成長の速度が均一に保たれる範囲であれば、凹溝は、結晶成長方向に垂直な方向に対して傾いていても良く、また円周状に設けなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す結晶成長用ルツボの断面図である。
【図2】図1に示した結晶成長用ルツボの斜視図である。
【図3】図3(a)は、図1に示した肩部を種結晶側から見た図であり、図3(b)は、従来の肩部を種結晶側から見た図である。
【図4】図1に示した結晶成長用ルツボを含む結晶成長装置の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 結晶成長用ルツボ
3 種結晶
4 細径部
5 肩部
6 直胴部
7 内壁面
8 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方に円錐台形の肩部を備えた円筒形の直胴部と、前記肩部の先端に設けられ種結晶を収納する細径部とを有し、前記肩部及び前記直胴部に収容される結晶原料融液を、前記細径部から前記直胴部へ向かって結晶成長させる結晶成長用ルツボにおいて、
前記肩部の内壁面に、結晶成長方向に対してほぼ垂直に、円周状の凹溝を所定の間隔を隔てて複数形成することを特徴とする結晶成長用ルツボ。
【請求項2】
前記直胴部の内壁面に、所定の深さの凹溝を、所定の間隔を隔てて複数形成する請求項1に記載の結晶成長用ルツボ。
【請求項3】
前記肩部及び前記直胴部に形成される前記複数の凹溝は、深さが0.05〜0.15mmに形成され、それぞれ0.1〜0.5mmの間隔を隔てて形成される請求項1又は2に記載の結晶成長用ルツボ。
【請求項4】
前記結晶成長用ルツボの内壁全面に、厚さ0.1mm〜1.0mmの液体封止剤からなる膜を形成した請求項1〜4いずれかに記載の結晶成長用ルツボ。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の結晶成長用ルツボを用いて成長させたことを特徴とする半導体単結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−215112(P2009−215112A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61209(P2008−61209)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055122)日立電線メクテック株式会社 (12)
【Fターム(参考)】