結晶方位決定装置
【課題】本発明は、2方位のみの測定で結晶格子面傾斜角を精度よく測定することを目的とする。
【解決手段】ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って回折点を通るδ回転軸と直交し、被検体である結晶の被検査面に略垂直なz軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りにX線源、X線検出器及びδ駆動部を一体でφ回転させてδ回転面を所定角度に設定し該所定角度でδ回転を行ったときのX線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部と、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう試験用結晶片31をz駆動部9に取付ける治具33とを有し、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片31の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算する。
【解決手段】ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って回折点を通るδ回転軸と直交し、被検体である結晶の被検査面に略垂直なz軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りにX線源、X線検出器及びδ駆動部を一体でφ回転させてδ回転面を所定角度に設定し該所定角度でδ回転を行ったときのX線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部と、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう試験用結晶片31をz駆動部9に取付ける治具33とを有し、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片31の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコンや水晶等の単結晶試料の結晶方位をX線回折を利用して決定する結晶方位決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンや水晶等の単結晶を半導体や発振体等の工業製品として使用するためには、その表面が結晶格子面に対して特定の角度になるように切断する必要がある。そのために、試料の結晶格子面を知る必要があるが、最も一般的に用いられている結晶の格子面決定方法は、X線回折を利用するものである。図11は、このX線回折を利用した試料の格子面決定方法を示している。つまり、試料50に対して単一波長のX線を入射させるとき、X線の入射角がθ0 になると、そのX線が原子Aにより回折される。この時の角度を回折角度(ブラッグ角)と称し、その角度θ0 は、次の式(1)で求められる。
【0003】
θ0 =arcsin(nλ/2d) …(1)
n;1,2,3,…の自然数
λ;X線の波長(既知)
d;格子面間隔(既知)
このように、θ0 が計算できるので、X線の入射角方向を変えながら回折X線を測定することで結晶の方位を測定することができる。
【0004】
具体的な第1の従来技術として、例えば特開昭57−136151号公報に開示されている「単結晶の切断面偏差角測定方法」がある。この第1の従来技術を図12を用いて説明する。点状のX線源Sから放射されてコリメータ52を経た細いX線ビーム55aが結晶51の表面C点に入射され、そのC点から角度2θ0 の方向にはX線検出器53が配置されている。X線検出器53の前面には、所定の格子面以外からの回折X線がX線検出器53の有感面に入射しないようにスリット板54が配置されている。結晶51をC点を中心として紙面に沿ってω回転させると結晶格子面への入射角がθ0 になったとき、回折されたX線はX線ビーム55bとなってX線検出器53で検出される。ここで結晶表面の法線bあるいは紙面内でそれと直交する線aのX線ビーム55bとの角度から結晶格子面の結晶表面との偏差角が計算できる。ここで問題となるのはスキャン角ωの読み値の較正である。この第1の従来技術には、スキャン角ωの較正法が記載されている。まず、第1の較正法では、図12で法線bの周りに結晶51を方位角χ回転をできるようにし、χについて90度おきに4方位でそれぞれω回転しX線検出器53の出力がピークとなるωの読み値を求める。これをそれぞれω0 ,ω90,ω180 ,ω270 とする。この値より、次の式(2)、式(3)で、それぞれ方位角0度、180度に沿った結晶格子面の結晶51表面との偏差角δ0 ,δ90を求める(δ0 ,δ90は、原文ではそれぞれδ2 ,δ1 に相当する)。
【0005】
δ0 =(ω0 −ω180 )/2 …(2)
δ90=(ω90−ω270 )/2 …(3)
これにより、ωの原点合わせをすることなく、正確に偏差角δ0 ,δ90を求めることができる。また、第2の較正法では、χについて0度及び180度の方位でそれぞれωの読み値ω0 ,ω180 を求める。この値より、次の式(4)、式(5)でδ0 ,δ90を求める。
【数1】
【0006】
ここで問題は、δ90に符号の不定性があることで±のどちらを選択するかは測定の時、結晶によって回折されたX線がX線検出器53のどの位置に入射するかによって決まる。入射位置を知るため、スリット板54の開口のxy平面より上あるいは下をシャッターで遮り、測定を行う。入射位置が上なら+、下なら−を選ぶ。
【0007】
また、具体的な第2の従来技術として、例えば特開平7−146257号公報に開示されている「単結晶インゴットの端面測定装置」がある。この第2の従来技術を図13を用いて説明する。X線源回転板67がC点を中心として紙面に沿ってω回転できるように設置されている。X線源回転板67上にコリメータ63を備えたX線源61とX線カウンタ65が配置され、C点に対して(180゜−2θ0 )光学系が形成されている。C点を通るω回転軸に沿った基準平面を持つ試料ガイド板66が非回転側より支持され、円柱形の単結晶インゴット64がその端面をこの基準平面に押しつけるように2つの支持ローラ68に支持されている。このような構成により、ω回転を光学系側で行い、重い単結晶インゴット64のω回転を不要としているとともに試料ガイド板66で単結晶インゴット64の設置精度を上げている。他方、方位角回転は単結晶インゴット64を支持ローラ68の上で回転させて行っている。
【特許文献1】特開昭57−136151号公報
【特許文献2】特開平7−146257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第1の従来技術は、4方位測定では測定に時間がかかる問題があり、2方位測定では符号の決定のための測定が別に必要になるという問題がある。また、2方位測定の場合、偏差角δ90は方位0度方向の測定データのみを用いて計算されるので精度が上がらないという問題がある。
【0009】
第2の従来技術は、試料ガイド板66を用いているので試料の設置精度は上がるが、重い単結晶インゴット64を突き当てるためハンドリングに注意を要し、設置に時間がかかる。単結晶インゴット64に傷をつけるおそれがある、等の問題がある。また、単結晶インゴット64の円柱側面を2つの支持ローラ68で支持して方位角回転を行っているため、側面にオリエンテーションフラット面を加工した後では測定できず、側面と端面の直交度が悪いと回転したとき端面が試料ガイド板66に合わなくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、2方位のみの測定で結晶格子面傾斜角を精度よく測定することができ、また、試料の位置設定に起因する誤差をなくして結晶格子面傾斜角を精度よく測定することができる結晶方位決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、被検体である結晶をその被検査面に略垂直なz軸に沿って駆動するz駆動部と、前記結晶の被検査面にペンシル状X線ビームを放射するX線源と、前記ペンシル状X線ビームにより前記結晶の格子面で回折された回折X線を検出するX線検出器と、前記ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って前記回折点を通るδ回転軸回りに前記X線源及び前記X線検出器を一体でδ回転させるδ駆動部と、前記δ回転軸と直交し、前記z軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りに前記X線源、前記X線検出器及び前記δ駆動部を一体でφ回転させるφ駆動部と、前記φ回転によって前記δ回転面を所定角度に設定し該所定角度で前記δ回転を行ったときの前記X線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から前記結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部をもち、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう上記試験用結晶片を上記z駆動部に取付ける治具を持ち、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算することを要旨とする。この構成により、z軸とφ回転軸間に設定誤差があっても、その設定誤差を計算してφ回転軸に対して求めた結晶方位をz軸基準に出力させることができる。例えば、まずλ回転量が0度で結晶格子面の法線方向h0 を求め、次にλ回転量が180度で法線方向h180 を求める。この2つの法線方向の中点方向がz軸の実際の方向z′であり、z′はh0 ,h180 より簡単に求められる。z′のx,y方向の傾斜角をそれぞれδz0,δz90 とすると、結晶方位(δ0 ,δ90)のz′軸基準への変換は、(δ0 ′=δ0 −δz0,δ90′=δ90−δz90 )の概略式で簡単に変換できる。これにより、試料支持部と測定部間の配置精度が悪くても精度よく結晶方位を測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、被検体である結晶をその被検査面に略垂直なz軸に沿って駆動するz駆動部と、前記結晶の被検査面にペンシル状X線ビームを放射するX線源と、前記ペンシル状X線ビームにより前記結晶の格子面で回折された回折X線を検出するX線検出器と、前記ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って前記回折点を通るδ回転軸回りに前記X線源及び前記X線検出器を一体でδ回転させるδ駆動部と、前記δ駆動部と直交し、前記z軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りに前記X線源、前記X線検出器及び前記δ駆動部を一体でφ回転させるφ駆動部と、前記φ回転によって前記δ回転面を所定角度に設定し該所定角度で前記δ回転を行ったときの前記X線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から前記結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部をもち、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう上記試験用結晶片を上記z駆動部に取付ける治具を持ち、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算するようにしたため、z軸とφ回転軸間に設定誤差があっても、その設定誤差を計算してφ回転軸に対して求めた結晶方位をz軸基準に出力させることができるので、結晶試料支持部と測定部間の配置精度が悪くても精度よく結晶格子面法線方向を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1乃至図8は、本発明の第1の実施の形態を示す図である。まず、図1を用いて、本実施の形態である結晶方位決定装置の機構部の構成を説明する。円柱形の結晶インゴットであるワーク4が、その軸を水平なz軸に合うようワーク支持台25に固定されている。ワーク支持台25はz駆動部(ワーク搬送部)9により支持され、z方向に駆動される。z駆動部9はフロアに支持されたワーク支持フレーム26に固定されている。ワーク支持フレーム26にはz軸に直交する基準面28bを持つワーク部基準板27が固定されている。測定部支持フレーム23の上には、φ軸受22、これに支持されれたφ軸シャフト21、モータ20、ウォームギヤ19及びギヤ18を備えたφ駆動部8が固定されており、φフレーム17をφ回転させる。φフレーム17上には、アーム12、モータ16、ボールネジ14及びボールナット15を備えたδ駆動部7が固定されており、δフレーム(レール)11をφ軸と直交するδ軸に対してδ回転させる。δフレーム11にはX線源としてのX線管1とX線検出器3が固定されている。X線管1には線源コリメータ5が付いており、ペンシル状のX線ビーム2aがφ軸とδ軸の交点であるC点に向けて放射される。X線検出器3には検出器スリット板6が付いており、回折されたX線ビーム2bが入射する。X線ビーム2a,2b間の角度は測定しようとする結晶の格子間隔によって決まる角度2α(=180゜−2×ブラッグ角θ0 )に設定されている。X線管1は管電圧40kVの銅をターゲットとするもので、約8keVの銅の特性X線を使用する。X線検出器3はガスを用いた比例計数管であり、X線のフォトンカウントを行うものである。δフレーム11はC点を通るδ軸を中心とする円弧状のレールを兼ね、3つのガイドローラ13a,13b,13cで支えられている。δフレーム11は、モータ16の駆動により回転するボールネジ14でボールナット15を移動させ、この移動でアーム12を動かすことでδ回転する。φフレーム17は、φ軸シャフト21に取り付けられたギヤ18とこれに噛み合ったウォームギヤ19を介してモータ20出力によりφ回転する。測定部支持フレーム23にはφ軸に直交する基準面28aを持つ測定部基準板24が固定されており、基準面28a,28bを合わせるように測定部支持フレーム23とワーク支持フレーム26を結合することでφ軸とz軸が合わせられる。φフレーム17のワーク側のφ軸近傍には光学式の距離センサ(結晶位置センサ)10が取り付けられ、ワーク4のz軸位置を検出して後述の機構制御部に信号を送る。距離センサ10は投光部から出て対象物で反射した光を受光部で測定し対象物が一定距離にあるときピーク出力を出すよう光学設定することで非接触で位置検出するセンサである。φ駆動部8にはφエンコーダ29がありφ軸の回転位置信号を機構制御部に送る。
【0015】
図2は、システム構成を示している。δ駆動部7、φ駆動部8、z駆動部9の各機構部及び距離センサ10等は、機構制御部42を介してデータ処理部43に接続されている。機構制御部42はデータ処理部43からの駆動タイミングや駆動量の指令を受け、それに従って各機構部を制御するとともに各機構部のステータス情報をデータ処理部43に送る。X線管1はX線制御部40を介してデータ処理部43に接続されている。X線制御部40はX線管1に電力を供給するとともに管電圧、管電流の制御及びデータ処理部43からの指令でX線管1のON・OFFを制御する。X線検出器3はデータ収集部41を介してデータ処理部43に接続されている。データ収集部41はデータ処理部43からの測定開始信号によりX線検出器3の出力パルスをカウントしてデジタルデータとしてデータ処理部43に送る。データ処理部43は通常のパソコンであり、マンマシンインタフェースとしてのキーボート44と表示器45とが接続されている。ここで、メニュー、ステータス、結果等の表示や、メニュー選択、測定開始、測定中断などの操作者による入力が行われる。データ処理部43は記憶されているシーケンスに従って各部を制御し測定を行い、記憶されている計算プログラムに従って結果を計算する。
【0016】
次に、上述のように構成された結晶方位決定装置の作用を、まず測定時について説明する。操作者は測定前にワーク支持台25を試料取り付け位置に設定(z軸移動)して結晶インゴットであるワーク4を乗せる。測定開始が入力されるとデータ処理部43は次のようにして測定を自動的に行う。z駆動部9を駆動しワーク4を測定位置まで移動させる。このとき距離センサ10の出力によりz駆動部9を制御する。次にφ軸を0度に設定する。ここでX線をONし、δ軸のスキャンを開始し、スキャンの間のX線検出器3の出力を収集する。X線入射方向(X線ビーム2a)と結晶格子面法線hの角度がα(=(180゜−2×ブラッグ角θ0 )/2)になったとき、回折が起こりX線検出器3の出力にピークが生じる。収集したデータよりこのピークに対応するδ値、δ0 + を求める。次に、φ軸を90度に設定し、上記と同様にピークに対応するδ値、δ90+ を求める。X線をOFFし、δ0 + ,δ90+ からδ0 ,δ90を以下に示すように計算する。
【0017】
<δ0 ,δ90の計算について>;計算説明のため、φ,δの動きとxyz座標系の関係を図3に示す。φ軸はz軸と一致しδ回転面とx軸の角度をφとする。
【0018】
δ回転の始点はδ駆動部7の原点スイッチの設定で決まる。δ回転の始点時のδ回転面内でX線ビーム2aからz軸側へ角度αをなす方向をStとする。
【0019】
次に、方向を表す球面を図4に示す。X線ビーム2aの入射方向S0 とz軸の間の角度がαになったときのδの読み値をδ* で定義すると、図のSt,z軸間距離(大円に沿った角度)がδ* となる。まず、δ0 + ,δ90+ からδ* を引き、これにαを加えることでX線入射方向のz軸との角度δs0,δs90 が求まる。
【0020】
但し、ここでδ* は、後述するように予め求めて記憶しておくものとする。
【0021】
δs0=δ0 + −δ* +α …(6)
δs90 =δ90+ −δ* +α …(7)
これにより球面上のφ=0゜,δ=δ0 + 時及びφ=90゜,δ=δ90+ 時のX線入射方向S0 ,S90が確定する。したがって、この球面上でS0 を中心とする半径αの小円C0 と、S90を中心とする半径αの小円C90の交点、即ち結晶格子面の法線方向h(δ0 ,δ90)もまた確定し、球面幾何により求めることができる。この交点は2つ生じるが一方はz軸の近傍であり、他方は大きくずれるので容易に片方だけ選び出せる。さらにこの2つの円は略直角に交わるので精度よく法線方向が求まる。
【0022】
図5を参照してδ0 ,δ90を求める。この図は、図4の球面を平面に展開したものである。ここで、L,k,β1 ,β2 ,s1 ,s2 を補助変数として用いる。球面幾何の公式を適用して以下の解を求めることができるが導出の中間ステップは省略する。
【数2】
【0023】
ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。式(8)より順次代入しながら式(15)までを計算し、δ0 ,δ90が求まる。δ0 ,δ90は、図4に示すように、それぞれ結晶格子面法線hのx方向、y方向への傾斜角である。
【0024】
δ0 ,δ90は、また最大傾斜方位φmax と最大傾斜δmax で表現することもできる。この変換は次の各式のようにしてできる。導出は省略する。
【数3】
【0025】
ここでは先にδ0 ,δ90を求めたが、先にφmax ,δmax を求め、それを変換してδ0 ,δ90を求めてもよい。以上は数式として厳密解である。補助変数の取り方などで異なる数式で表現できるが厳密解である限り数学的に等価である。
【0026】
<φに設定誤差がある場合のδ0 ,δ90の計算について>;φ軸は比較的可動部の重量が大きいため、停止精度が不十分になる場合がある。φ軸の停止精度が悪くてもφエンコーダ29でφの値を十分な精度で読み取っておき(それぞれφ0 ,φ90とする)、補正することができる。まず、式(6),(7)によりδ0 + ,δ90+ からX線入射方向のz軸との角度δs0,δs90 が求まり、方向を表す球面上でφ=φ0 ,δ=δ0 + 時のX線入射方向を表す点S0 とφ=φ90,δ=δ90+ 時のX線入射方向を表す点S90が確定する。この球面上でS0 を中心とする半径αの小円C0 と、S90を中心とする半径αの小円C90の交点が結晶格子面の法線方向δ0 ,δ90(又はφmax ,δmax )となる。この交点は球面幾何により求めることができる。この交点は2つ生じるが一方はz軸の近傍であり、他方は大きくずれるので容易に片方だけ選び出せる。さらにこの2つの円は略直角に交わるので精度よく法線方向が求まる。
【0027】
図6を参照して、φmax ,δmax を求める(δ0 ,δ90が先でもよい)。ここで、L,k,β1 ,β2 ,φ1 ,φ2 を補助変数として用いる。球面幾何の公式を適用して以下の解を求めることができるが導出の中間ステップは省略する。
【数4】
【0028】
次に統計精度を上げるため平均してφmax を求める。
【数5】
【0029】
ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。式(20)より順次代入しながら式(27)までを計算し、φmax ,δmax が求まる。
【0030】
次に、φmax ,δmax からδ0 ,δ90を求める。この変換は次の各式のようにしてできる。導出は省略する。
【数6】
【0031】
ここでは先にφmax ,δmax を求めたが、先にδ0 ,δ90を求め、それを変換してφmax ,δmax を求めてもよい。以上の計算は数式として厳密解である。補助変数の取り方などで異なる数式で表現できるが厳密解である限り数学的に等価である。
【0032】
次に、δ* を求める較正時の作用について説明する。操作者は測定前にワーク支持台25を試料取付け位置に設定(z軸移動)して結晶インゴットであるワーク4を乗せる。測定開始が入力されるとデータ処理部43は次のようにして較正を自動的に行う。z駆動部9を駆動しワーク4を測定位置まで移動させる。このとき距離センサ10の出力によりz駆動部9を制御する。次にφ軸を0度に設定する。ここでX線をONし、δ軸のスキャンを開始し、スキャンの間のX線検出器3の出力を収集する。X線入射方向(X線ビーム2a)と結晶格子面法線hの角度がα(=(180゜−2×ブラッグ角θ0 )/2)になったとき、回折が起こりX線検出器3の出力にピークが生じる。収集したデータよりこのピークに対応するδ値、δ0 + を求める。次に、φ軸を90度に設定し、同様にピークに対応するδ値、δ90+ を求める。同様にφ軸を180度及び270度に順次設定し、それぞれピークに対応するδ値、δ180 + ,δ270 + を求める。X線をOFFし、δ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + からδ* を以下に示すように計算する。
【0033】
<較正量δ* 計算について>;まずδ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + より結晶格子面の法線方向δ0 ,δ90を下式により求める(これは公知である)。
【0034】
δ0 =(δ0 + −δ180 + )/2 …(30)
δ90=(δ90+ −δ270 + )/2 …(31)
次に図7を参照して説明する。方向を表す球面上でこの法線方向を表す点hを中心に半径αの小円Chを引くと、φ=0゜,90゜,180゜及び270゜を示す大円との交点が確定し、この交点がそれぞれ各φ位置でのピーク出力を与えるX線入射方向S0 ,S90,S180 ,S270 である。それぞれのX線入射方向のz軸との角度δs0,δs90 ,δs180,δs270は球面幾何で求めることができる。
【0035】
図8を参照してδs0,δs90 ,δs180,δs270を導出する。この図は、図7の球面を平面に展開したものである。ここで、L2 ,P2 ,ξ0 ,ξ90,ε0 ,ε90を補助変数として用いる。球面幾何の公式を適用して以下の解を求めることができるが導出の中間ステップは省略する。
【数7】
【0036】
ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。式(32)より順次代入しながら式(41)までを計算し、δs0,δs90 ,δs180,δs270が求まる。次に、式(6),(7)と逆に、下式でδs0,δs90 からそれぞれδ* を求める。
【数8】
【0037】
同様に、下式でδs180,δs270からそれぞれδ* を求める。
【数9】
【0038】
下式でそれぞれのδ* を平均して統計精度を上げたδ* が求まる。
【数10】
【0039】
以上でδ* が計算されるが、数式として厳密解である。補助変数の取り方などで異なる数式で表現できるが厳密解である限り数学的に等価である。
【0040】
<φに設定誤差がある場合のδ* の計算について>;φ軸は比較的可動部の重量が大きいため、停止精度が不十分になる場合がある。φ軸の停止精度が悪くてもφエンコーダ29でφの値を十分な精度で読み取っておき(それぞれφ0 ,φ90,φ180 ,φ270 とする)、補正することができる。まずδ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + より、上述したφの誤差がない場合の方法によりδ* (0回目近似)を求める。次に、以下のステップ[1]と[2]をN回繰り返し、δ* (N回目近似)を求める。
【0041】
[1](n回目);δ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + よりそれぞれδ* (n−1回目近似)を引いてαを加えることでX線入射方向S0 ,S90,S180 ,S270 のz軸との角度δs0,δs90 ,δs180,δs270を逆算する。この点S0 ,S90,S180 ,S270 のうち、90度方向が異なる2つの点の組が4組できる。まず、(S0 ,S90)の組について、球面上でS0 を中心とする半径αの小円C0 と、S90を中心とする半径αの小円C90の交点が結晶格子面の法線方向δ0 ,δ90(又はφmax ,δmax )となる。この交点は球面幾何により求めることができる。この交点は2つ生じるが一方はz軸の近傍であり、他方は大きくずれるので容易に片方だけ選び出せる。さらにこの2つの円は略直角に交わるので精度よく法線方向が求まる。他の組、(S90,S180 ),(S180 ,S270 ),(S270 ,S0 )それぞれについても、同様に法線方向が求まる。これらを平均して法線方向δ0 ,δ90(又はφmax ,δmax )(n回目近似)が求まる。
【0042】
具体的には、まず(S0 ,S90)の組についてφ0 ,φ90,δs0,δs90 を用いて式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める(δ0 ,δ90でもよい)。そして
φmax (1) =φmax …(47)
δmax (1) =δmax …(48)
とする。次に(S90,S180 )の組についてφ90,φ180 ,δs90 ,δs180をそれぞれφ0 ,φ90,δs0,δs90 に代入し、式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める。そして
φmax (2) =φmax +90゜ …(49)
δmax (2) =δmax …(50)
とする。次に(S180 ,S270 )の組についてφ180 ,φ270 ,δs180,δs270をそれぞれφ0 ,φ90,δs0,δs90 に代入し、式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める。そして
φmax (3) =φmax +180゜ …(51)
δmax (3) =δmax …(52)とする。次に(S270 ,S0 )の組についてφ270 ,φ0 ,δs270,δs0をそれぞれφ0 ,φ90,δs0,δs90 に代入し、式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める。そして
φmax (4) =φmax +270゜ …(53)
δmax (4) =δmax …(54)
とする。次に下式で平均してφmax ,δmax を求める。
【数11】
【0043】
[2](n回目);次に方向を表す球面上でこの法線方向h(n回目近似)を中心に半径αの小円を引き、φ=φ0 ,φ90,φ180 ,φ270 を示す大円との交点をそれぞれ球面幾何で求めることができる。この交点がそれぞれ修正されたX線入射方向S0 ,S90,S180 ,S270 (n回目近似)である。それぞれz軸との角度δs0,δs90 ,δs180,δs270(n回目近似)が求まる。
【0044】
具体的には、図6を参照して下記の式で求める(導出省略)。
【数12】
【0045】
となる。ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。次に、δs0,δs90 ,δs180,δs270(n回目近似)から式(42)〜(46)でδ* (n回目近似)を求める。
【0046】
上述したように、本実施の形態によれば、φの直交する2方向についてのみの測定で結晶格子面の法線方向が符号の不定性なく精度よく求まる。δ軸の較正を自動的に精度よく行うことができる。φ軸の停止精度が悪くてもこれを計算で補正して法線方向が精度よく求まる。重くて大きい結晶を回転させることなく測定ができるので精度よく短時間で測定できる。z方向の位置決めが自動的に行われるのでワークの取付けが容易となり測定の能率がよくなる。即ち、ワーク自体を位置検出して位置決めしているのでワークの取付けのz軸位置は精度を必要としない。光学式の距離センサ10でワーク位置を非接触で検出するのでワークを傷めることがない。光学式の距離センサ10がφフレーム17に付いているのでワークの測定位置への設定精度がよい。測定部支持フレーム23とワーク支持フレーム26が基準面28a,28bを合わせるように結合されるのでz軸とφ軸を精度よく合わせられ測定精度が上がる。また測定部とワークを搬送する部分を分離しても容易に再結合でき、メンテナンス性がよい。
【0047】
図9及び図10には、本発明の第2の実施の形態を示す。φ軸とz軸は正確に合わせなくても、その誤差を測定してφ軸に対して求めた結晶方位をz軸基準に出力させることができる。図9は、この誤差を測定できるようにした治具を示している。治具33は、その上に試験用結晶片31をλ軸回転部32によりλ回転可能に保持する。治具33はワーク支持台25に嵌まり合うように取り付けられ、λ回転軸とz軸が平行になるように作られている。
【0048】
図10を用いて作用を説明する。試験用結晶片31を測定対象として結晶方位を測定するが、まずλ=0゜で結晶格子面の法線方向h0 を求め、次にλ=180゜で法線方向h180 を求める。この2つの方向の中点方向がz軸の実際の方向z′である。z′はh0 ,h180 より簡単に求められる。z′のx,y方向の傾斜角をそれぞれδz0,δz90 とすると、結晶方位(δ0 ,δ90)のz′軸基準への変換も簡単にできる。z′の傾斜は通常1゜を超えないので次の概略式で変換できる。
【0049】
δ0 ′=δ0 −δz0 …(62)
δ90′=δ90−δz90 …(63)
これにより、試料支持部と測定部間の配置精度が悪くても精度よく結晶方位を測定することができる。Z′の傾斜が大きい場合は厳密解で変換するが導出は省略する。
【0050】
なお、上述した各実施の形態において、ワークは円柱形の結晶インゴットのみでなく他の形状のものへも適用できる。また測定する面も平面だけでなく例えば円筒面等にも適用できる。φの方位は90度おきの2方位あるいは4方位(較正時)で測定すればよく任意のオフセット角を加えられることは明らかなことである。測定時、較正時でオフセットが異なってもよい。またX線検出器3のδフレーム11への取付け位置を切換えて2αの角度を切換えることで異なる結晶格子面に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る結晶方位測定装置の第1の実施の形態の機構部の構成図である。
【図2】上記第1の実施の形態のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】上記第1の実施の形態におけるφ駆動部及びδ駆動部の動きとxyz座標系との関係を説明するための図である。
【図4】上記第1の実施の形態においてδ0 ,δ90の計算を説明するための図である。
【図5】上記図4を平面に展開した状態を示す図である。
【図6】上記第1の実施の形態においてφ回転量に設定誤差がある場合のδ0 ,δ90の計算を説明するための図である。
【図7】上記第1の実施の形態において較正量δ* の計算を説明するための図である。
【図8】上記図7を平面に展開した状態を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態の要部構成図である。
【図10】上記第2の実施の形態の作用を説明するための図である。
【図11】X線回折を一般的に説明するための図である。
【図12】結晶方位測定装置の第1の従来技術の構成図である。
【図13】結晶方位測定装置の第2の従来技術の構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1 X線管(X線源)
3 X線検出器
4 ワーク(結晶インゴット)
7 δ駆動部
8 φ駆動部
9 z駆動部
10 距離センサ(結晶位置センサ)
25 ワーク支持台
28a,28b 基準面
33 治具
43 データ処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリコンや水晶等の単結晶試料の結晶方位をX線回折を利用して決定する結晶方位決定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンや水晶等の単結晶を半導体や発振体等の工業製品として使用するためには、その表面が結晶格子面に対して特定の角度になるように切断する必要がある。そのために、試料の結晶格子面を知る必要があるが、最も一般的に用いられている結晶の格子面決定方法は、X線回折を利用するものである。図11は、このX線回折を利用した試料の格子面決定方法を示している。つまり、試料50に対して単一波長のX線を入射させるとき、X線の入射角がθ0 になると、そのX線が原子Aにより回折される。この時の角度を回折角度(ブラッグ角)と称し、その角度θ0 は、次の式(1)で求められる。
【0003】
θ0 =arcsin(nλ/2d) …(1)
n;1,2,3,…の自然数
λ;X線の波長(既知)
d;格子面間隔(既知)
このように、θ0 が計算できるので、X線の入射角方向を変えながら回折X線を測定することで結晶の方位を測定することができる。
【0004】
具体的な第1の従来技術として、例えば特開昭57−136151号公報に開示されている「単結晶の切断面偏差角測定方法」がある。この第1の従来技術を図12を用いて説明する。点状のX線源Sから放射されてコリメータ52を経た細いX線ビーム55aが結晶51の表面C点に入射され、そのC点から角度2θ0 の方向にはX線検出器53が配置されている。X線検出器53の前面には、所定の格子面以外からの回折X線がX線検出器53の有感面に入射しないようにスリット板54が配置されている。結晶51をC点を中心として紙面に沿ってω回転させると結晶格子面への入射角がθ0 になったとき、回折されたX線はX線ビーム55bとなってX線検出器53で検出される。ここで結晶表面の法線bあるいは紙面内でそれと直交する線aのX線ビーム55bとの角度から結晶格子面の結晶表面との偏差角が計算できる。ここで問題となるのはスキャン角ωの読み値の較正である。この第1の従来技術には、スキャン角ωの較正法が記載されている。まず、第1の較正法では、図12で法線bの周りに結晶51を方位角χ回転をできるようにし、χについて90度おきに4方位でそれぞれω回転しX線検出器53の出力がピークとなるωの読み値を求める。これをそれぞれω0 ,ω90,ω180 ,ω270 とする。この値より、次の式(2)、式(3)で、それぞれ方位角0度、180度に沿った結晶格子面の結晶51表面との偏差角δ0 ,δ90を求める(δ0 ,δ90は、原文ではそれぞれδ2 ,δ1 に相当する)。
【0005】
δ0 =(ω0 −ω180 )/2 …(2)
δ90=(ω90−ω270 )/2 …(3)
これにより、ωの原点合わせをすることなく、正確に偏差角δ0 ,δ90を求めることができる。また、第2の較正法では、χについて0度及び180度の方位でそれぞれωの読み値ω0 ,ω180 を求める。この値より、次の式(4)、式(5)でδ0 ,δ90を求める。
【数1】
【0006】
ここで問題は、δ90に符号の不定性があることで±のどちらを選択するかは測定の時、結晶によって回折されたX線がX線検出器53のどの位置に入射するかによって決まる。入射位置を知るため、スリット板54の開口のxy平面より上あるいは下をシャッターで遮り、測定を行う。入射位置が上なら+、下なら−を選ぶ。
【0007】
また、具体的な第2の従来技術として、例えば特開平7−146257号公報に開示されている「単結晶インゴットの端面測定装置」がある。この第2の従来技術を図13を用いて説明する。X線源回転板67がC点を中心として紙面に沿ってω回転できるように設置されている。X線源回転板67上にコリメータ63を備えたX線源61とX線カウンタ65が配置され、C点に対して(180゜−2θ0 )光学系が形成されている。C点を通るω回転軸に沿った基準平面を持つ試料ガイド板66が非回転側より支持され、円柱形の単結晶インゴット64がその端面をこの基準平面に押しつけるように2つの支持ローラ68に支持されている。このような構成により、ω回転を光学系側で行い、重い単結晶インゴット64のω回転を不要としているとともに試料ガイド板66で単結晶インゴット64の設置精度を上げている。他方、方位角回転は単結晶インゴット64を支持ローラ68の上で回転させて行っている。
【特許文献1】特開昭57−136151号公報
【特許文献2】特開平7−146257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第1の従来技術は、4方位測定では測定に時間がかかる問題があり、2方位測定では符号の決定のための測定が別に必要になるという問題がある。また、2方位測定の場合、偏差角δ90は方位0度方向の測定データのみを用いて計算されるので精度が上がらないという問題がある。
【0009】
第2の従来技術は、試料ガイド板66を用いているので試料の設置精度は上がるが、重い単結晶インゴット64を突き当てるためハンドリングに注意を要し、設置に時間がかかる。単結晶インゴット64に傷をつけるおそれがある、等の問題がある。また、単結晶インゴット64の円柱側面を2つの支持ローラ68で支持して方位角回転を行っているため、側面にオリエンテーションフラット面を加工した後では測定できず、側面と端面の直交度が悪いと回転したとき端面が試料ガイド板66に合わなくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、2方位のみの測定で結晶格子面傾斜角を精度よく測定することができ、また、試料の位置設定に起因する誤差をなくして結晶格子面傾斜角を精度よく測定することができる結晶方位決定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、被検体である結晶をその被検査面に略垂直なz軸に沿って駆動するz駆動部と、前記結晶の被検査面にペンシル状X線ビームを放射するX線源と、前記ペンシル状X線ビームにより前記結晶の格子面で回折された回折X線を検出するX線検出器と、前記ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って前記回折点を通るδ回転軸回りに前記X線源及び前記X線検出器を一体でδ回転させるδ駆動部と、前記δ回転軸と直交し、前記z軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りに前記X線源、前記X線検出器及び前記δ駆動部を一体でφ回転させるφ駆動部と、前記φ回転によって前記δ回転面を所定角度に設定し該所定角度で前記δ回転を行ったときの前記X線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から前記結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部をもち、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう上記試験用結晶片を上記z駆動部に取付ける治具を持ち、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算することを要旨とする。この構成により、z軸とφ回転軸間に設定誤差があっても、その設定誤差を計算してφ回転軸に対して求めた結晶方位をz軸基準に出力させることができる。例えば、まずλ回転量が0度で結晶格子面の法線方向h0 を求め、次にλ回転量が180度で法線方向h180 を求める。この2つの法線方向の中点方向がz軸の実際の方向z′であり、z′はh0 ,h180 より簡単に求められる。z′のx,y方向の傾斜角をそれぞれδz0,δz90 とすると、結晶方位(δ0 ,δ90)のz′軸基準への変換は、(δ0 ′=δ0 −δz0,δ90′=δ90−δz90 )の概略式で簡単に変換できる。これにより、試料支持部と測定部間の配置精度が悪くても精度よく結晶方位を測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、被検体である結晶をその被検査面に略垂直なz軸に沿って駆動するz駆動部と、前記結晶の被検査面にペンシル状X線ビームを放射するX線源と、前記ペンシル状X線ビームにより前記結晶の格子面で回折された回折X線を検出するX線検出器と、前記ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って前記回折点を通るδ回転軸回りに前記X線源及び前記X線検出器を一体でδ回転させるδ駆動部と、前記δ駆動部と直交し、前記z軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りに前記X線源、前記X線検出器及び前記δ駆動部を一体でφ回転させるφ駆動部と、前記φ回転によって前記δ回転面を所定角度に設定し該所定角度で前記δ回転を行ったときの前記X線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から前記結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部をもち、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう上記試験用結晶片を上記z駆動部に取付ける治具を持ち、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算するようにしたため、z軸とφ回転軸間に設定誤差があっても、その設定誤差を計算してφ回転軸に対して求めた結晶方位をz軸基準に出力させることができるので、結晶試料支持部と測定部間の配置精度が悪くても精度よく結晶格子面法線方向を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1乃至図8は、本発明の第1の実施の形態を示す図である。まず、図1を用いて、本実施の形態である結晶方位決定装置の機構部の構成を説明する。円柱形の結晶インゴットであるワーク4が、その軸を水平なz軸に合うようワーク支持台25に固定されている。ワーク支持台25はz駆動部(ワーク搬送部)9により支持され、z方向に駆動される。z駆動部9はフロアに支持されたワーク支持フレーム26に固定されている。ワーク支持フレーム26にはz軸に直交する基準面28bを持つワーク部基準板27が固定されている。測定部支持フレーム23の上には、φ軸受22、これに支持されれたφ軸シャフト21、モータ20、ウォームギヤ19及びギヤ18を備えたφ駆動部8が固定されており、φフレーム17をφ回転させる。φフレーム17上には、アーム12、モータ16、ボールネジ14及びボールナット15を備えたδ駆動部7が固定されており、δフレーム(レール)11をφ軸と直交するδ軸に対してδ回転させる。δフレーム11にはX線源としてのX線管1とX線検出器3が固定されている。X線管1には線源コリメータ5が付いており、ペンシル状のX線ビーム2aがφ軸とδ軸の交点であるC点に向けて放射される。X線検出器3には検出器スリット板6が付いており、回折されたX線ビーム2bが入射する。X線ビーム2a,2b間の角度は測定しようとする結晶の格子間隔によって決まる角度2α(=180゜−2×ブラッグ角θ0 )に設定されている。X線管1は管電圧40kVの銅をターゲットとするもので、約8keVの銅の特性X線を使用する。X線検出器3はガスを用いた比例計数管であり、X線のフォトンカウントを行うものである。δフレーム11はC点を通るδ軸を中心とする円弧状のレールを兼ね、3つのガイドローラ13a,13b,13cで支えられている。δフレーム11は、モータ16の駆動により回転するボールネジ14でボールナット15を移動させ、この移動でアーム12を動かすことでδ回転する。φフレーム17は、φ軸シャフト21に取り付けられたギヤ18とこれに噛み合ったウォームギヤ19を介してモータ20出力によりφ回転する。測定部支持フレーム23にはφ軸に直交する基準面28aを持つ測定部基準板24が固定されており、基準面28a,28bを合わせるように測定部支持フレーム23とワーク支持フレーム26を結合することでφ軸とz軸が合わせられる。φフレーム17のワーク側のφ軸近傍には光学式の距離センサ(結晶位置センサ)10が取り付けられ、ワーク4のz軸位置を検出して後述の機構制御部に信号を送る。距離センサ10は投光部から出て対象物で反射した光を受光部で測定し対象物が一定距離にあるときピーク出力を出すよう光学設定することで非接触で位置検出するセンサである。φ駆動部8にはφエンコーダ29がありφ軸の回転位置信号を機構制御部に送る。
【0015】
図2は、システム構成を示している。δ駆動部7、φ駆動部8、z駆動部9の各機構部及び距離センサ10等は、機構制御部42を介してデータ処理部43に接続されている。機構制御部42はデータ処理部43からの駆動タイミングや駆動量の指令を受け、それに従って各機構部を制御するとともに各機構部のステータス情報をデータ処理部43に送る。X線管1はX線制御部40を介してデータ処理部43に接続されている。X線制御部40はX線管1に電力を供給するとともに管電圧、管電流の制御及びデータ処理部43からの指令でX線管1のON・OFFを制御する。X線検出器3はデータ収集部41を介してデータ処理部43に接続されている。データ収集部41はデータ処理部43からの測定開始信号によりX線検出器3の出力パルスをカウントしてデジタルデータとしてデータ処理部43に送る。データ処理部43は通常のパソコンであり、マンマシンインタフェースとしてのキーボート44と表示器45とが接続されている。ここで、メニュー、ステータス、結果等の表示や、メニュー選択、測定開始、測定中断などの操作者による入力が行われる。データ処理部43は記憶されているシーケンスに従って各部を制御し測定を行い、記憶されている計算プログラムに従って結果を計算する。
【0016】
次に、上述のように構成された結晶方位決定装置の作用を、まず測定時について説明する。操作者は測定前にワーク支持台25を試料取り付け位置に設定(z軸移動)して結晶インゴットであるワーク4を乗せる。測定開始が入力されるとデータ処理部43は次のようにして測定を自動的に行う。z駆動部9を駆動しワーク4を測定位置まで移動させる。このとき距離センサ10の出力によりz駆動部9を制御する。次にφ軸を0度に設定する。ここでX線をONし、δ軸のスキャンを開始し、スキャンの間のX線検出器3の出力を収集する。X線入射方向(X線ビーム2a)と結晶格子面法線hの角度がα(=(180゜−2×ブラッグ角θ0 )/2)になったとき、回折が起こりX線検出器3の出力にピークが生じる。収集したデータよりこのピークに対応するδ値、δ0 + を求める。次に、φ軸を90度に設定し、上記と同様にピークに対応するδ値、δ90+ を求める。X線をOFFし、δ0 + ,δ90+ からδ0 ,δ90を以下に示すように計算する。
【0017】
<δ0 ,δ90の計算について>;計算説明のため、φ,δの動きとxyz座標系の関係を図3に示す。φ軸はz軸と一致しδ回転面とx軸の角度をφとする。
【0018】
δ回転の始点はδ駆動部7の原点スイッチの設定で決まる。δ回転の始点時のδ回転面内でX線ビーム2aからz軸側へ角度αをなす方向をStとする。
【0019】
次に、方向を表す球面を図4に示す。X線ビーム2aの入射方向S0 とz軸の間の角度がαになったときのδの読み値をδ* で定義すると、図のSt,z軸間距離(大円に沿った角度)がδ* となる。まず、δ0 + ,δ90+ からδ* を引き、これにαを加えることでX線入射方向のz軸との角度δs0,δs90 が求まる。
【0020】
但し、ここでδ* は、後述するように予め求めて記憶しておくものとする。
【0021】
δs0=δ0 + −δ* +α …(6)
δs90 =δ90+ −δ* +α …(7)
これにより球面上のφ=0゜,δ=δ0 + 時及びφ=90゜,δ=δ90+ 時のX線入射方向S0 ,S90が確定する。したがって、この球面上でS0 を中心とする半径αの小円C0 と、S90を中心とする半径αの小円C90の交点、即ち結晶格子面の法線方向h(δ0 ,δ90)もまた確定し、球面幾何により求めることができる。この交点は2つ生じるが一方はz軸の近傍であり、他方は大きくずれるので容易に片方だけ選び出せる。さらにこの2つの円は略直角に交わるので精度よく法線方向が求まる。
【0022】
図5を参照してδ0 ,δ90を求める。この図は、図4の球面を平面に展開したものである。ここで、L,k,β1 ,β2 ,s1 ,s2 を補助変数として用いる。球面幾何の公式を適用して以下の解を求めることができるが導出の中間ステップは省略する。
【数2】
【0023】
ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。式(8)より順次代入しながら式(15)までを計算し、δ0 ,δ90が求まる。δ0 ,δ90は、図4に示すように、それぞれ結晶格子面法線hのx方向、y方向への傾斜角である。
【0024】
δ0 ,δ90は、また最大傾斜方位φmax と最大傾斜δmax で表現することもできる。この変換は次の各式のようにしてできる。導出は省略する。
【数3】
【0025】
ここでは先にδ0 ,δ90を求めたが、先にφmax ,δmax を求め、それを変換してδ0 ,δ90を求めてもよい。以上は数式として厳密解である。補助変数の取り方などで異なる数式で表現できるが厳密解である限り数学的に等価である。
【0026】
<φに設定誤差がある場合のδ0 ,δ90の計算について>;φ軸は比較的可動部の重量が大きいため、停止精度が不十分になる場合がある。φ軸の停止精度が悪くてもφエンコーダ29でφの値を十分な精度で読み取っておき(それぞれφ0 ,φ90とする)、補正することができる。まず、式(6),(7)によりδ0 + ,δ90+ からX線入射方向のz軸との角度δs0,δs90 が求まり、方向を表す球面上でφ=φ0 ,δ=δ0 + 時のX線入射方向を表す点S0 とφ=φ90,δ=δ90+ 時のX線入射方向を表す点S90が確定する。この球面上でS0 を中心とする半径αの小円C0 と、S90を中心とする半径αの小円C90の交点が結晶格子面の法線方向δ0 ,δ90(又はφmax ,δmax )となる。この交点は球面幾何により求めることができる。この交点は2つ生じるが一方はz軸の近傍であり、他方は大きくずれるので容易に片方だけ選び出せる。さらにこの2つの円は略直角に交わるので精度よく法線方向が求まる。
【0027】
図6を参照して、φmax ,δmax を求める(δ0 ,δ90が先でもよい)。ここで、L,k,β1 ,β2 ,φ1 ,φ2 を補助変数として用いる。球面幾何の公式を適用して以下の解を求めることができるが導出の中間ステップは省略する。
【数4】
【0028】
次に統計精度を上げるため平均してφmax を求める。
【数5】
【0029】
ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。式(20)より順次代入しながら式(27)までを計算し、φmax ,δmax が求まる。
【0030】
次に、φmax ,δmax からδ0 ,δ90を求める。この変換は次の各式のようにしてできる。導出は省略する。
【数6】
【0031】
ここでは先にφmax ,δmax を求めたが、先にδ0 ,δ90を求め、それを変換してφmax ,δmax を求めてもよい。以上の計算は数式として厳密解である。補助変数の取り方などで異なる数式で表現できるが厳密解である限り数学的に等価である。
【0032】
次に、δ* を求める較正時の作用について説明する。操作者は測定前にワーク支持台25を試料取付け位置に設定(z軸移動)して結晶インゴットであるワーク4を乗せる。測定開始が入力されるとデータ処理部43は次のようにして較正を自動的に行う。z駆動部9を駆動しワーク4を測定位置まで移動させる。このとき距離センサ10の出力によりz駆動部9を制御する。次にφ軸を0度に設定する。ここでX線をONし、δ軸のスキャンを開始し、スキャンの間のX線検出器3の出力を収集する。X線入射方向(X線ビーム2a)と結晶格子面法線hの角度がα(=(180゜−2×ブラッグ角θ0 )/2)になったとき、回折が起こりX線検出器3の出力にピークが生じる。収集したデータよりこのピークに対応するδ値、δ0 + を求める。次に、φ軸を90度に設定し、同様にピークに対応するδ値、δ90+ を求める。同様にφ軸を180度及び270度に順次設定し、それぞれピークに対応するδ値、δ180 + ,δ270 + を求める。X線をOFFし、δ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + からδ* を以下に示すように計算する。
【0033】
<較正量δ* 計算について>;まずδ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + より結晶格子面の法線方向δ0 ,δ90を下式により求める(これは公知である)。
【0034】
δ0 =(δ0 + −δ180 + )/2 …(30)
δ90=(δ90+ −δ270 + )/2 …(31)
次に図7を参照して説明する。方向を表す球面上でこの法線方向を表す点hを中心に半径αの小円Chを引くと、φ=0゜,90゜,180゜及び270゜を示す大円との交点が確定し、この交点がそれぞれ各φ位置でのピーク出力を与えるX線入射方向S0 ,S90,S180 ,S270 である。それぞれのX線入射方向のz軸との角度δs0,δs90 ,δs180,δs270は球面幾何で求めることができる。
【0035】
図8を参照してδs0,δs90 ,δs180,δs270を導出する。この図は、図7の球面を平面に展開したものである。ここで、L2 ,P2 ,ξ0 ,ξ90,ε0 ,ε90を補助変数として用いる。球面幾何の公式を適用して以下の解を求めることができるが導出の中間ステップは省略する。
【数7】
【0036】
ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。式(32)より順次代入しながら式(41)までを計算し、δs0,δs90 ,δs180,δs270が求まる。次に、式(6),(7)と逆に、下式でδs0,δs90 からそれぞれδ* を求める。
【数8】
【0037】
同様に、下式でδs180,δs270からそれぞれδ* を求める。
【数9】
【0038】
下式でそれぞれのδ* を平均して統計精度を上げたδ* が求まる。
【数10】
【0039】
以上でδ* が計算されるが、数式として厳密解である。補助変数の取り方などで異なる数式で表現できるが厳密解である限り数学的に等価である。
【0040】
<φに設定誤差がある場合のδ* の計算について>;φ軸は比較的可動部の重量が大きいため、停止精度が不十分になる場合がある。φ軸の停止精度が悪くてもφエンコーダ29でφの値を十分な精度で読み取っておき(それぞれφ0 ,φ90,φ180 ,φ270 とする)、補正することができる。まずδ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + より、上述したφの誤差がない場合の方法によりδ* (0回目近似)を求める。次に、以下のステップ[1]と[2]をN回繰り返し、δ* (N回目近似)を求める。
【0041】
[1](n回目);δ0 + ,δ90+ ,δ180 + ,δ270 + よりそれぞれδ* (n−1回目近似)を引いてαを加えることでX線入射方向S0 ,S90,S180 ,S270 のz軸との角度δs0,δs90 ,δs180,δs270を逆算する。この点S0 ,S90,S180 ,S270 のうち、90度方向が異なる2つの点の組が4組できる。まず、(S0 ,S90)の組について、球面上でS0 を中心とする半径αの小円C0 と、S90を中心とする半径αの小円C90の交点が結晶格子面の法線方向δ0 ,δ90(又はφmax ,δmax )となる。この交点は球面幾何により求めることができる。この交点は2つ生じるが一方はz軸の近傍であり、他方は大きくずれるので容易に片方だけ選び出せる。さらにこの2つの円は略直角に交わるので精度よく法線方向が求まる。他の組、(S90,S180 ),(S180 ,S270 ),(S270 ,S0 )それぞれについても、同様に法線方向が求まる。これらを平均して法線方向δ0 ,δ90(又はφmax ,δmax )(n回目近似)が求まる。
【0042】
具体的には、まず(S0 ,S90)の組についてφ0 ,φ90,δs0,δs90 を用いて式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める(δ0 ,δ90でもよい)。そして
φmax (1) =φmax …(47)
δmax (1) =δmax …(48)
とする。次に(S90,S180 )の組についてφ90,φ180 ,δs90 ,δs180をそれぞれφ0 ,φ90,δs0,δs90 に代入し、式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める。そして
φmax (2) =φmax +90゜ …(49)
δmax (2) =δmax …(50)
とする。次に(S180 ,S270 )の組についてφ180 ,φ270 ,δs180,δs270をそれぞれφ0 ,φ90,δs0,δs90 に代入し、式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める。そして
φmax (3) =φmax +180゜ …(51)
δmax (3) =δmax …(52)とする。次に(S270 ,S0 )の組についてφ270 ,φ0 ,δs270,δs0をそれぞれφ0 ,φ90,δs0,δs90 に代入し、式(20)〜(29)でφmax ,δmax を求める。そして
φmax (4) =φmax +270゜ …(53)
δmax (4) =δmax …(54)
とする。次に下式で平均してφmax ,δmax を求める。
【数11】
【0043】
[2](n回目);次に方向を表す球面上でこの法線方向h(n回目近似)を中心に半径αの小円を引き、φ=φ0 ,φ90,φ180 ,φ270 を示す大円との交点をそれぞれ球面幾何で求めることができる。この交点がそれぞれ修正されたX線入射方向S0 ,S90,S180 ,S270 (n回目近似)である。それぞれz軸との角度δs0,δs90 ,δs180,δs270(n回目近似)が求まる。
【0044】
具体的には、図6を参照して下記の式で求める(導出省略)。
【数12】
【0045】
となる。ここで、逆三角関数は全て主値を用いる。次に、δs0,δs90 ,δs180,δs270(n回目近似)から式(42)〜(46)でδ* (n回目近似)を求める。
【0046】
上述したように、本実施の形態によれば、φの直交する2方向についてのみの測定で結晶格子面の法線方向が符号の不定性なく精度よく求まる。δ軸の較正を自動的に精度よく行うことができる。φ軸の停止精度が悪くてもこれを計算で補正して法線方向が精度よく求まる。重くて大きい結晶を回転させることなく測定ができるので精度よく短時間で測定できる。z方向の位置決めが自動的に行われるのでワークの取付けが容易となり測定の能率がよくなる。即ち、ワーク自体を位置検出して位置決めしているのでワークの取付けのz軸位置は精度を必要としない。光学式の距離センサ10でワーク位置を非接触で検出するのでワークを傷めることがない。光学式の距離センサ10がφフレーム17に付いているのでワークの測定位置への設定精度がよい。測定部支持フレーム23とワーク支持フレーム26が基準面28a,28bを合わせるように結合されるのでz軸とφ軸を精度よく合わせられ測定精度が上がる。また測定部とワークを搬送する部分を分離しても容易に再結合でき、メンテナンス性がよい。
【0047】
図9及び図10には、本発明の第2の実施の形態を示す。φ軸とz軸は正確に合わせなくても、その誤差を測定してφ軸に対して求めた結晶方位をz軸基準に出力させることができる。図9は、この誤差を測定できるようにした治具を示している。治具33は、その上に試験用結晶片31をλ軸回転部32によりλ回転可能に保持する。治具33はワーク支持台25に嵌まり合うように取り付けられ、λ回転軸とz軸が平行になるように作られている。
【0048】
図10を用いて作用を説明する。試験用結晶片31を測定対象として結晶方位を測定するが、まずλ=0゜で結晶格子面の法線方向h0 を求め、次にλ=180゜で法線方向h180 を求める。この2つの方向の中点方向がz軸の実際の方向z′である。z′はh0 ,h180 より簡単に求められる。z′のx,y方向の傾斜角をそれぞれδz0,δz90 とすると、結晶方位(δ0 ,δ90)のz′軸基準への変換も簡単にできる。z′の傾斜は通常1゜を超えないので次の概略式で変換できる。
【0049】
δ0 ′=δ0 −δz0 …(62)
δ90′=δ90−δz90 …(63)
これにより、試料支持部と測定部間の配置精度が悪くても精度よく結晶方位を測定することができる。Z′の傾斜が大きい場合は厳密解で変換するが導出は省略する。
【0050】
なお、上述した各実施の形態において、ワークは円柱形の結晶インゴットのみでなく他の形状のものへも適用できる。また測定する面も平面だけでなく例えば円筒面等にも適用できる。φの方位は90度おきの2方位あるいは4方位(較正時)で測定すればよく任意のオフセット角を加えられることは明らかなことである。測定時、較正時でオフセットが異なってもよい。またX線検出器3のδフレーム11への取付け位置を切換えて2αの角度を切換えることで異なる結晶格子面に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る結晶方位測定装置の第1の実施の形態の機構部の構成図である。
【図2】上記第1の実施の形態のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】上記第1の実施の形態におけるφ駆動部及びδ駆動部の動きとxyz座標系との関係を説明するための図である。
【図4】上記第1の実施の形態においてδ0 ,δ90の計算を説明するための図である。
【図5】上記図4を平面に展開した状態を示す図である。
【図6】上記第1の実施の形態においてφ回転量に設定誤差がある場合のδ0 ,δ90の計算を説明するための図である。
【図7】上記第1の実施の形態において較正量δ* の計算を説明するための図である。
【図8】上記図7を平面に展開した状態を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態の要部構成図である。
【図10】上記第2の実施の形態の作用を説明するための図である。
【図11】X線回折を一般的に説明するための図である。
【図12】結晶方位測定装置の第1の従来技術の構成図である。
【図13】結晶方位測定装置の第2の従来技術の構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1 X線管(X線源)
3 X線検出器
4 ワーク(結晶インゴット)
7 δ駆動部
8 φ駆動部
9 z駆動部
10 距離センサ(結晶位置センサ)
25 ワーク支持台
28a,28b 基準面
33 治具
43 データ処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体である結晶をその被検査面に略垂直なz軸に沿って駆動するz駆動部と、前記結晶の被検査面にペンシル状X線ビームを放射するX線源と、前記ペンシル状X線ビームにより前記結晶の格子面で回折された回折X線を検出するX線検出器と、前記ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って前記回折点を通るδ回転軸回りに前記X線源及び前記X線検出器を一体でδ回転させるδ駆動部と、前記δ回転軸と直交し、前記z軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りに前記X線源、前記X線検出器及び前記δ駆動部を一体でφ回転させるφ駆動部と、前記φ回転によって前記δ回転面を所定角度に設定し該所定角度で前記δ回転を行ったときの前記X線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から前記結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部をもち、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう上記試験用結晶片を上記z駆動部に取付ける治具を持ち、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算することを特徴とする結晶方位決定装置。
【請求項1】
被検体である結晶をその被検査面に略垂直なz軸に沿って駆動するz駆動部と、前記結晶の被検査面にペンシル状X線ビームを放射するX線源と、前記ペンシル状X線ビームにより前記結晶の格子面で回折された回折X線を検出するX線検出器と、前記ペンシル状X線ビームを含む面であるδ回転面に沿って前記回折点を通るδ回転軸回りに前記X線源及び前記X線検出器を一体でδ回転させるδ駆動部と、前記δ回転軸と直交し、前記z軸と略同軸に設定されたφ回転軸回りに前記X線源、前記X線検出器及び前記δ駆動部を一体でφ回転させるφ駆動部と、前記φ回転によって前記δ回転面を所定角度に設定し該所定角度で前記δ回転を行ったときの前記X線検出器のピーク出力を与えるδ回転量の読み値から前記結晶の格子面法線の前記φ回転軸に対する傾斜角を計算するデータ処理部をもち、試験用結晶片をλ回転可能に保持しそのλ回転軸が上記z軸と平行になるよう上記試験用結晶片を上記z駆動部に取付ける治具を持ち、上記データ処理部は上記λ回転の180度異なる2つの位置に対する上記試験用結晶片の上記傾斜角のそれぞれの計算値から上記z軸の上記φ軸に対する設定誤差を計算することを特徴とする結晶方位決定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−242970(P2006−242970A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168867(P2006−168867)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【分割の表示】特願平9−231413の分割
【原出願日】平成9年8月27日(1997.8.27)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【分割の表示】特願平9−231413の分割
【原出願日】平成9年8月27日(1997.8.27)
【出願人】(391017540)東芝ITコントロールシステム株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
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