説明

結晶粒径計測装置、結晶粒径計測方法、プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体

【課題】被計測板の板厚が非常に薄い場合であっても、被計測板の結晶粒径を高精度に計測できるようにする。
【解決手段】被計測板101の板厚方向に伝播した共振周波数を含む所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を波形検出手段30で検出し、検出した超音波の波形に基づいて、エネルギー値算出手段40で所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出する。そして、エネルギー値算出手段40で算出したエネルギー値の中から、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出し、この最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を比算出手段60で算出し、結晶粒径算出手段80において、比算出手段60で算出したエネルギー値の比に基づいて、被計測板101における結晶粒径を算出するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被計測板の結晶粒径を計測する結晶粒径計測装置、結晶粒径計測方法、当該結晶粒径計測方法をコンピュータに実行させるためのプログラム及びこのプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板等の材料の結晶粒径を計測する方法として、材料の組織の顕微鏡写真を撮ることによって計測する方法が知られている。しかし、この方法は破壊試験であるため、例えば、鋼板等の製造プロセスおいては使用することができなかった。そこで、鋼板等の材料の結晶粒径を非破壊試験で計測する方法として、電磁超音波(EMAT)による共振法を利用した計測が考えられている。
【0003】
この電磁超音波による共振法を利用した従来の結晶粒径の計測方法の一例について、以下に説明する。
図9は、電磁超音波(EMAT)による共振法を説明するための概略図である。
図9において、111は電磁超音波振動子であり、電磁超音波の発信と受信の両方に用いられる。112は板状材料からなる板厚dの被計測板である。電磁超音波振動子111に交流電圧を加えつつ、その交流電圧の周波数を連続的に変化させると、次の数式1が成り立つときに被計測板112内部に超音波の共振がおこる。
【0004】
【数1】

【0005】
数式1において、dは被計測板112の板厚、λは超音波の波長、nは正の整数である。すなわち、被計測板112の板厚dが超音波の波長λの半分の整数倍のときに超音波の共振がおこる。ここで、nが1、2、3、…のときの共振をそれぞれ1次、2次、3次、…の共振という。図9には、一例として2次の共振状態時に形成される定在波を示している。一方、超音波の速度V、波長λ、周波数fの間には、次の数式2が成り立つことが一般的によく知られている。
【0006】
【数2】

【0007】
また、数式1、数式2から、次の数式3を導くことができる。
【0008】
【数3】

【0009】
そして、数式3のfはn次の共振のときの周波数であるので、これを明確に示すためにfnと書き直すと、次の数式4となる。
【0010】
【数4】

【0011】
この共振周波数の測定に関しては、例えば、電磁超音波振動子111において、周波数を連続的に変化させた超音波を被計測板112に対して発振し、被計測板112の板厚方向に伝播した超音波の共振スペクトルを計測することによって行われる。図10に、共振スペクトルの計測結果の一例を示した特性図を示す。
【0012】
ここで、図10は、横軸に発振した超音波の周波数(MHz)をとり、縦軸に検出した超音波波形(減衰波形)のエネルギー値をとったものを示している。また、図10には、被計測板112として、板厚が0.35mmで平均結晶粒径が40.4μmのものと、板厚が0.35mmで平均結晶粒径が87.5μmのものの2種類の共振スペクトルが示されており、それぞれエネルギー値が最も大きい最大のエネルギー値P1及びP2における周波数は共振周波数に相当するものである。
【0013】
そして、従来の結晶粒径計測装置では、この共振周波数域における定在波の減衰量から、被計測板112の結晶粒径を算出するものであった(例えば、下記の特許文献1〜4を参照)。
【0014】
【特許文献1】特開2001−343365号公報
【特許文献2】特開2001−343366号公報
【特許文献3】特開平6−148148号公報
【特許文献4】特開平6−347449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
図10に示した共振スペクトルの計測結果からもわかるように、結晶粒径の大きいもの(図10の例では、平均結晶粒径が87.5μmのもの)は、結晶粒径の小さいもの(図10の例では、平均結晶粒径が40.4μmのもの)に比べて、共振周波数における超音波波形(減衰波形)のエネルギー値が小さくなり、また、共振しない他の周波数における超音波波形(減衰波形)のエネルギー値の割合が大きくなっている。これは、結晶粒径が大きいほど、発振した超音波における結晶粒の界面での散乱が大きいためであると考えられる。
【0016】
図10の例では、被計測板112の板厚dがともに0.35mm(350μm)であるため、平均結晶粒径が40.4μmのものでは被計測板112の板厚方向に約8〜9個の結晶粒が存在し、平均結晶粒径が87.5μmのものでは被計測板112の板厚方向にわずか4個程度の結晶粒が存在することになる。すなわち、被計測板112の板厚dに対して結晶粒径の大きさの比率が高くなってくると、換言すれば、被計測板112の結晶粒径に対して被計測板112の板厚dが薄くなってくると、上述したように、共振周波数における超音波波形(減衰波形)のエネルギー値が小さくなり、また、共振しない他の周波数における超音波波形(減衰波形)のエネルギー値の割合が大きくなっていく。
【0017】
しかしながら、従来の結晶粒径計測装置では、共振周波数域に基づいて被計測板112の結晶粒径を算出するようにしていたため、被計測板112の板厚dが薄いものであるほど、結晶粒径の大きさに起因した超音波の散乱による結晶粒径の計測誤差が大きくなってしまい、結晶粒径を高精度に計測することが困難であるといった問題があった。
【0018】
本発明は上述の問題点にかんがみてなされたものであり、被計測板の板厚が非常に薄い場合であっても、被計測板の結晶粒径を高精度に計測することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の結晶粒径計測装置は、被計測板の表面の所定位置に、前記被計測板の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振する超音波発振手段と、前記被計測板の板厚方向に伝播した前記所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を、前記所定位置で検出する波形検出手段と、前記波形検出手段で検出した超音波の波形に基づいて、前記所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出するエネルギー値算出手段と、前記エネルギー値算出手段で算出したエネルギー値の中から、前記共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する最大エネルギー値検出手段と、前記最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する比算出手段と、前記比算出手段で算出したエネルギー値の比に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出手段とを有する。
【0020】
本発明の結晶粒径計測方法は、被計測板の表面の所定位置に、前記被計測板の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振する超音波発振ステップと、前記被計測板の板厚方向に伝播した前記所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を、前記所定位置で検出する波形検出ステップと、前記波形検出ステップで検出した超音波の波形に基づいて、前記所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出するエネルギー値算出ステップと、前記エネルギー値算出ステップで算出したエネルギー値の中から、前記共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する最大エネルギー値検出ステップと、前記最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する比算出ステップと、前記比算出ステップで算出したエネルギー値の比に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップとを有する。
【0021】
本発明のプログラムは、被計測板の表面の所定位置に、前記被計測板の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振する超音波発振ステップと、前記被計測板の板厚方向に伝播した前記所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を、前記所定位置で検出する波形検出ステップと、前記波形検出ステップで検出した超音波の波形に基づいて、前記所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出するエネルギー値算出ステップと、前記エネルギー値算出ステップで算出したエネルギー値の中から、前記共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する最大エネルギー値検出ステップと、前記最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する比算出ステップと、前記比算出ステップで算出したエネルギー値の比に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップとをコンピュータに実行させるためのものである。
【0022】
本発明のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、前記プログラムをコンピュータに読み取り可能に記憶する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被計測板の板厚が非常に薄い場合であっても、被計測板の結晶粒径を高精度に計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る結晶粒径計測装置の概略構成を示すブロック図である。図1において、101は支持体102によって支持された鋼板等からなる板厚dの被計測板であり、100は被計測板101の結晶粒径を測定する結晶粒径計測装置である。
【0025】
図1の結晶粒径計測装置100において、10は、被計測板101の表面の所定位置に配置され、被計測板101に対して超音波を送信するとともに被計測板101の板厚方向に伝播した当該超音波を受信する送受信プローブである。なお、この送受信プローブ10は、例えば、電磁超音波振動子等で形成されている。
【0026】
図1の結晶粒径計測装置100において、20は、超音波を発振する超音波発振手段であり、被計測板101の表面の所定位置に配置された送受信プローブ10を介して、被計測板101の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振するものである。
【0027】
図1の結晶粒径計測装置100において、30は、超音波発振手段20から発振され、被計測板101の板厚方向に伝播した所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形(減衰波形)を、所定位置に配置された送受信プローブ10を介して検出する波形検出手段である。
【0028】
図1の結晶粒径計測装置100において、40は、波形検出手段30で検出した超音波の波形(減衰波形)に基づいて、所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出するエネルギー値算出手段である。
【0029】
図1の結晶粒径計測装置100において、50は、エネルギー値算出手段40で算出したエネルギー値の中から、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する最大エネルギー値検出手段である。
【0030】
図1の結晶粒径計測装置100において、60は、最大エネルギー値検出手段50で検出した最大のエネルギー値と、エネルギー値算出手段40で算出した当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する比算出手段である。
【0031】
図1の結晶粒径計測装置100において、70は、予め実験等により算出した、前記最大のエネルギー値と前記他のエネルギー値との比に対する平均結晶粒径の相関値を記憶する相関値記憶部である。
【0032】
図1の結晶粒径計測装置100において、80は、比算出手段60で算出したエネルギー値の比に基づいて、相関値記憶部70に記憶されている相関値を参照することにより、被計測板101における平均結晶粒径を算出する結晶粒径算出手段である。
【0033】
次に、結晶粒径計測装置100における計測方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る結晶粒径計測装置100で行う結晶粒径計測方法の一例を示したフローチャートである。
【0034】
まず、送受信プローブ10を被計測板101の表面の所定位置に配置した後、ステップS101では、超音波発振手段20は、この送受信プローブ10を介して、被計測板101の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を、それぞれ各周波数ごとに独立して発振する。
【0035】
このステップS101では、例えば、図3に示すような、いわゆるバースト波を各周波数ごとに発振する。図3には、バースト波として周波数3MHzのものを5波発振する例を示している。また、本実施形態においては、発振する超音波の所定の周波数領域として、周波数3MHz〜5MHzを例にして以下に説明を行う。
【0036】
続いて、ステップS102では、波形検出手段30は、超音波発振手段20から発振され、被計測板101の板厚方向に伝播した所定の周波数領域(周波数3MHz〜5MHz)の各周波数における超音波の波形(減衰波形)を、所定位置に配置された送受信プローブ10を介して検出する。
【0037】
図4は、波形検出手段30で検出したある周波数における超音波の波形の一例を示した図である。
図4に示された超音波の波形は、その縦軸に超音波の振幅の大きさを電圧(V)で示しており、その横軸に経過時間(t)を示したものである。本実施形態では、波形検出手段30において、第1波の超音波を検出してから所定時間Tまでに到達した超音波の波形を検出している。
【0038】
続いて、ステップS103では、エネルギー値算出手段40は、波形検出手段30で検出した超音波の波形(減衰波形)に基づいて、所定の周波数領域(周波数3MHz〜5MHz)の各周波数における超音波のエネルギー値を算出する。図5は、図4の超音波の検出波形に対するエネルギー値の算出イメージを示した図である。図5の斜線で示した部分の積分値の合計が算出されるエネルギー値となる。
【0039】
続いて、ステップS104では、最大エネルギー値検出手段50は、ステップS103においてエネルギー値算出手段40で算出した、所定の周波数領域(周波数3MHz〜5MHz)の各周波数におけるエネルギー値の中から、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する。
【0040】
図6は、エネルギー値算出手段40で算出された、所定の周波数領域(周波数3MHz〜5MHz)の各周波数における超音波のエネルギー値の特性図である。図6には、縦軸に超音波のエネルギー値を示し、横軸に周波数を示している。また、図6は、平均結晶粒径が12.0μm、20.5μm、35.7μm及び53.6μmである各被計測板101の所定の周波数領域(周波数3MHz〜5MHz)の各周波数における超音波のエネルギー値の特性図を示している。そして、最大エネルギー値検出手段50は、図6の例では、平均結晶粒径が12.0μmである被計測板101の場合には最大のエネルギー値P3を検出し、平均結晶粒径が20.5μmである被計測板101の場合には最大のエネルギー値P4を検出し、平均結晶粒径が35.7μmである被計測板101の場合には最大のエネルギー値P5を検出し、平均結晶粒径が53.6μmである被計測板101の場合には最大のエネルギー値P6を検出する。ここで、これらの最大のエネルギー値P3〜P6は、各被計測板101の板厚方向における共振周波数の超音波のエネルギー値に相当するものである。
【0041】
続いて、ステップS105では、比算出手段60は、最大エネルギー値検出手段50で検出した最大のエネルギー値と、エネルギー値算出手段40で算出した当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する。
【0042】
このステップS105での比算出手段60によるエネルギー値の比の具体的な算出方法としては、いくつかの方法が考えられる。
第1の方法としては、エネルギー値算出手段40で算出したエネルギー値のうち、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の平均値を前記他のエネルギー値として、前記最大のエネルギー値との比を算出する方法である。第2の方法としては、エネルギー値算出手段40で算出したエネルギー値のうち、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の中で最も大きいエネルギー値を前記他のエネルギー値として、前記最大のエネルギー値との比を算出する方法である。なお、本発明においては、比算出手段60によるエネルギー値の比の算出方法としては、これらの具体的な算出方法に限定されるものではない。
【0043】
続いて、ステップS106では、結晶粒径算出手段80は、ステップS105において比算出手段60で算出したエネルギー値の比に基づいて、被計測板101における平均結晶粒径を算出する。
【0044】
ここで、具体的に、被計測板101の平均結晶粒径の算出方法について説明する。
まず、被計測板101と同一工程で形成したサンプル板に対して、前記最大のエネルギー値と前記他のエネルギー値との比と、平均結晶粒径との関係を予め実験等により求める。図7は、最大のエネルギー値と他のエネルギー値との比と、平均結晶粒径との関係を示した特性図である。そして、図7に示すように、求めた特性値に対して近似処理を行って、最大のエネルギー値と他のエネルギー値との比に対する平均結晶粒径の相関値を算出し、算出した各相関値を予め相関値記憶部70に記憶しておく。そして、結晶粒径算出手段80は、比算出手段60で算出されたエネルギー値の比に基づいて、相関値記憶部70に記憶されている該当する平均結晶粒径の相関値を抽出して、被計測板101における平均結晶粒径を算出する。
【0045】
このステップS101〜ステップS106までの処理を経ることにより、共振スペクトルにおける超音波の最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比に基づいた被計測板101の平均結晶粒径の算出が行われる。
【0046】
次に、本発明者は、[発明が解決しようとする課題]の欄で指摘した事項、すなわち、図10に示した平均結晶粒径が小さい被計測板(40.4μm)に対して平均結晶粒径が大きい被計測板(87.5μm)の共振周波数における超音波波形(減衰波形)のエネルギー値が小さくなり、かつ、共振しない他の周波数における超音波波形(減衰波形)のエネルギー値の割合が大きくなるという事象の考察を行った。
【0047】
まず、本発明者は、上述した事象が生じる要因として、結晶粒の結晶方位に注目し、図10における被計測板とは異なるサンプルではあるが、平均結晶粒径が小さい被計測板と、当該被計測板に比べて平均結晶粒径が大きい被計測板のそれぞれについて、板厚方向の主な結晶方位について計測を行った。この際、被計測板として鋼板を用いて計測を行った。図8にその結果を示す。
【0048】
図8に示すように、板厚方向の主な結晶方位については、平均結晶粒径が小さい被計測板では結晶方位<111>となり、平均結晶粒径が大きい被計測板では結晶方位<111>と<110>となる結果が得られた。そして、本発明者は、この結晶方位から、各被計測板の板厚方向における共振周波数を算出することを試みた。以下に、その算出方法を示す。
【0049】
被計測板として鋼板を用いた場合、その結晶は立方晶であり、x、y、z軸を結晶軸にとったときの弾性率テンソルTは、次の数式5で表せることがわかっている。
【0050】
【数5】

【0051】
また、横波超音波の伝播方向が結晶方位<111>の場合には、その横波超音波の音速Vsが、次の数式6で表せることがわかっている。
【0052】
【数6】

【0053】
また、横波超音波の伝播方向が結晶方位<110>の場合には、その横波超音波の音速が2種類存在し、それぞれの音速Vs1及びVs2が、次の数式7及び数式8で表せることがわかっている。
【0054】
【数7】

【0055】
ここで、数式6〜8において、鉄の単結晶の場合には、弾性定数C11が2.331×1011(N/m2)、弾性定数C44が1.178×1011(N/m2)、弾性定数C12が1.354×1011(N/m2)であり、密度ρが7.86×103(kg/m3)であることがわかっている。
【0056】
平均結晶粒径が小さい被計測板では、主な結晶方位が<111>であるため、数式6に基づいて横波超音波の音速を算出すると、図8に示すように3023(m/s)となる結果が得られた。一方、平均結晶粒径が大きい被計測板では、主な結晶方位が<111>と<110>であるため、数式6〜数式8に基づいて横波超音波の音速を算出すると、図8に示すように3023(m/s)、2492(m/s)及び3871(m/s)の3種類の音速が混在する結果が得られた。
【0057】
そして、各被計測板での横波超音波の音速から、数式4に基づいて共振周波数を算出すると(この場合、n=1とする)、図8に示すように、平均結晶粒径が小さい被計測板では、共振周波数が4.318(MHz)の1種類のみ存在するのに対して、平均結晶粒径が大きい被計測板では、共振周波数が4.318(MHz)、3.56(MHz)及び5.53(MHz)の3種類が存在する結果となった。
【0058】
これにより、平均結晶粒径が小さい被計測板では、共振周波数が1種類のみ存在するため、最大のエネルギー値の値が大きくなるとともに、共振しない他の周波数におけるのエネルギー値の割合が小さくなることが判明した。一方、平均結晶粒径が大きい被計測板では、共振周波数が3種類も存在するため、最大のエネルギー値の値が小さくなるとともに、当該最大のエネルギー値以外の他の周波数におけるのエネルギー値の割合が大きくなることが判明した。すなわち、本発明者は、被計測板を伝播する超音波のエネルギー値が当該被計測板の結晶方位に起因することを実証した。
【0059】
以上、説明したように、本実施形態に係る結晶粒径計測装置100では、超音波発振手段20において、被計測板101の表面の所定位置に、被計測板101の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振し(ステップS101)、波形検出手段30において、被計測板101の板厚方向に伝播した所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を前記所定位置で検出し(ステップS102)、エネルギー値算出手段40において、波形検出手段30で検出した超音波の波形に基づいて、所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出し(ステップS103)、最大エネルギー値検出手段50において、エネルギー値算出手段40で算出したエネルギー値の中から、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出し(ステップS104)、比算出手段60において、前記最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出し(ステップS105)、結晶粒径算出手段80において、比算出手段60で算出したエネルギー値の比に基づいて、被計測板101における結晶粒径を算出するようにしている(ステップS106)。
【0060】
また、本実施形態に係る結晶粒径計測装置100では、比算出手段60におけるエネルギー値の比の算出方法の具体例として、以下の2つの態様を示している。
第1の態様としては、エネルギー値算出手段40で算出したエネルギー値のうち、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の平均値を前記他のエネルギー値として、前記最大のエネルギー値との比を算出する方法である。第2の態様としては、エネルギー値算出手段40で算出したエネルギー値のうち、共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の中で最も大きいエネルギー値を前記他のエネルギー値として、前記最大のエネルギー値との比を算出する方法である。なお、本発明においては、比算出手段60によるエネルギー値の比の算出方法としては、これらの具体的な算出方法に限定されるものではない。
【0061】
本実施形態に係る結晶粒径計測装置100によれば、被計測板の板厚が非常に薄い場合であっても、被計測板の結晶粒径を高精度に計測することができる。
【0062】
なお、本実施形態に係る結晶粒径計測装置100を構成する図1の各手段、並びに結晶粒径計測方法を示した図2の各ステップは、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び当該プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は本発明に含まれる。
【0063】
具体的に、前記プログラムは、例えばCD−ROMのような記憶媒体に記録し、あるいは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。前記プログラムを記録する記憶媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、前記プログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝播させて供給するためのコンピュータネットワーク(LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等)システムにおける通信媒体(光ファイバ等の有線回線や無線回線等)を用いることができる。
【0064】
また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより本実施形態に係る結晶粒径計測装置100の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して本実施形態に係る結晶粒径計測装置100の機能が実現される場合や、供給されたプログラムの処理の全て、あるいは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて本実施形態に係る結晶粒径計測装置100の機能が実現される場合も、かかるプログラムは本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る結晶粒径計測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る結晶粒径計測装置100で行う結晶粒径計測方法の一例を示したフローチャートである。
【図3】超音波発振手段から発振する超音波波形の一例を示した図である。
【図4】波形検出手段で検出したある周波数における超音波の波形の一例を示した図である。
【図5】図4の超音波の検出波形に対するエネルギー値の算出イメージを示した図である。
【図6】エネルギー値算出手段で算出された、所定の周波数領域(周波数3MHz〜5MHz)の各周波数における超音波のエネルギー値の特性図である。
【図7】最大のエネルギー値と他のエネルギー値との比と、平均結晶粒径との関係を示した特性図である。
【図8】各被計測板における結晶方位、音速及び共振周波数の結果を示した図である。
【図9】電磁超音波(EMAT)による共振法を説明するための概略図である。
【図10】共振スペクトルの計測結果の一例を示した特性図である。
【符号の説明】
【0066】
10 送受信プローブ
20 超音波発振手段
30 波形検出手段
40 エネルギー値算出手段
50 最大エネルギー値検出手段
60 比算出手段
70 相関値記憶部
80 結晶粒径算出手段
100 結晶粒径計測装置
101 被計測板
102 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測板の表面の所定位置に、前記被計測板の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振する超音波発振手段と、
前記被計測板の板厚方向に伝播した前記所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を、前記所定位置で検出する波形検出手段と、
前記波形検出手段で検出した超音波の波形に基づいて、前記所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出するエネルギー値算出手段と、
前記エネルギー値算出手段で算出したエネルギー値の中から、前記共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する最大エネルギー値検出手段と、
前記最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する比算出手段と、
前記比算出手段で算出したエネルギー値の比に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出手段と
を有することを特徴とする結晶粒径計測装置。
【請求項2】
前記比算出手段は、前記エネルギー値算出手段で算出したエネルギー値のうち、前記最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の平均値を、前記他のエネルギー値とすることを特徴とする請求項1に記載の結晶粒径計測装置。
【請求項3】
前記比算出手段は、前記エネルギー値算出手段で算出したエネルギー値のうち、前記最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の中で最も大きいエネルギー値を、前記他のエネルギー値とすることを特徴とする請求項1に記載の結晶粒径計測装置。
【請求項4】
被計測板の表面の所定位置に、前記被計測板の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振する超音波発振ステップと、
前記被計測板の板厚方向に伝播した前記所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を、前記所定位置で検出する波形検出ステップと、
前記波形検出ステップで検出した超音波の波形に基づいて、前記所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出するエネルギー値算出ステップと、
前記エネルギー値算出ステップで算出したエネルギー値の中から、前記共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する最大エネルギー値検出ステップと、
前記最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する比算出ステップと、
前記比算出ステップで算出したエネルギー値の比に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップと
を有することを特徴とする結晶粒径計測方法。
【請求項5】
前記比算出ステップは、前記エネルギー値算出ステップで算出したエネルギー値のうち、前記最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の平均値を、前記他のエネルギー値とすることを特徴とする請求項4に記載の結晶粒径計測方法。
【請求項6】
前記比算出ステップは、前記エネルギー値算出ステップで算出したエネルギー値のうち、前記最大のエネルギー値を除いた各エネルギー値の中で最も大きいエネルギー値を、前記他のエネルギー値とすることを特徴とする請求項4に記載の結晶粒径計測方法。
【請求項7】
被計測板の表面の所定位置に、前記被計測板の板厚方向における共振周波数を含む所定の周波数領域の超音波を発振する超音波発振ステップと、
前記被計測板の板厚方向に伝播した前記所定の周波数領域の各周波数における超音波の波形を、前記所定位置で検出する波形検出ステップと、
前記波形検出ステップで検出した超音波の波形に基づいて、前記所定の周波数領域の各周波数における超音波のエネルギー値を算出するエネルギー値算出ステップと、
前記エネルギー値算出ステップで算出したエネルギー値の中から、前記共振周波数における超音波のエネルギー値である最大のエネルギー値を検出する最大エネルギー値検出ステップと、
前記最大のエネルギー値と、当該最大のエネルギー値以外の他のエネルギー値との比を算出する比算出ステップと、
前記比算出ステップで算出したエネルギー値の比に基づいて、前記被計測板における結晶粒径を算出する結晶粒径算出ステップと
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムをコンピュータに読み取り可能に記憶したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−101360(P2007−101360A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291546(P2005−291546)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】