説明

結晶面(001)を有するルチル型酸化チタンの製造方法

【課題】高い光触媒活性を有するルチル型酸化チタンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のルチル型酸化チタンの製造方法は、反応温度110℃〜220℃、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で4価のチタン化合物に2時間以上水熱処理を施すことにより、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンを得ることを特徴とする。4価のチタン化合物としては、四塩化チタンが好ましく、水性媒体中の4価のチタン化合物濃度は、1.5〜17.0重量%(チタン換算)の範囲内であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒、酸化触媒として有用な結晶面(001)を有するルチル型酸化チタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒反応とは、光触媒能を有する固体化合物に紫外線を照射すると励起電子と電子が出たあとの穴(正孔:ホール)が生成し、該励起電子が還元作用を、該ホールが強い酸化作用を有し、これらにより反応物を酸化、或いは還元する反応である。代表的な光触媒能を有する固体化合物としては酸化チタンが知られている。酸化チタンは紫外線を吸収すると、強い酸化作用を発揮することができ、例えば、大気浄化、水質浄化、汚染防止、脱臭、抗菌、院内感染防止、曇り防止など幅広い用途に応用されている。
【0003】
酸化チタンの主な結晶形としては、ルチル型とアナターゼ型が知られている。これらの結晶性酸化チタンは非晶性酸化チタン(アモルファス)に比べて高い化学的安定性を示し屈折率が大きい。そして、結晶化度が高い酸化チタン粒子は、結晶化度が低い酸化チタン粉末に比べて優れた光触媒能を発揮することができ、結晶のサイズが大きいほど、優れた光触媒能を発揮することが知られている。
【0004】
特許文献1には、酸化チタンにアルカリ性過酸化水素水処理、硫酸処理、又はフッ化水素酸処理を施して新規結晶面が発現した酸化チタン結晶を作る方法が記載されており、得られた新規結晶面が発現した酸化チタンからなる光触媒は高い酸化触媒性能を有することが記載されている。前記新規結晶面が発現した酸化チタンとしては、(1)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(121)面を発現させた酸化チタン結晶、(2)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(001)(121)(021)(010)面を発現させた酸化チタン結晶、(3)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(021)面を発現させた酸化チタン結晶、(4)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(120)面を発現させた酸化チタン結晶、(5)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(122)面を発現させた酸化チタン結晶、(6)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(112)面を発現させた酸化チタン結晶が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、チタン化合物を150℃以上の温度、その温度における飽和蒸気圧以上の圧力下で加水分解することにより、アナターゼ型とルチル型が混在する酸化チタンであって、結晶化度が高く、粒子径の揃った微粒子酸化チタンを得ることができること、さらに、チタン化合物の濃度を調整することによりアナターゼ型とルチル型の組成比率を容易に制御することができることが記載されている。
【0006】
しかしながら、上記の製造方法により得られるルチル型酸化チタンは、光触媒能の点で十分に満足のできるものではなかった。すなわち、十分に満足のできる光触媒活性を有するルチル型酸化チタンの製造方法が未だ見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−298296号公報
【特許文献2】特開2002−154824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、高い光触媒活性を有するルチル型酸化チタンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、通常、三塩化チタン等の3価のチタン化合物を水性媒体中で水熱処理すると、結晶面(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンが得られるが、4価のチタン化合物に、特定の温度、圧力下で特定の時間水熱処理を施すと、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンを得ることができること(図1参照)、及び、得られた結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンは、優れた光触媒能を発揮することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は反応温度110℃〜220℃、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で4価のチタン化合物に2時間以上水熱処理を施すことにより、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンを得ることを特徴とするルチル型酸化チタンの製造方法を提供する。
【0011】
4価のチタン化合物としては、四塩化チタンが好ましい。
【0012】
また、水性媒体中の4価のチタン化合物濃度は、1.5〜17.0重量%(チタン換算)の範囲内に調整することが好ましい。
【0013】
更に、上記得られたロッド状ルチル型酸化チタンをクロスフロー方式により膜濾過する操作に付すことが好ましく、特に、ロッド状ルチル型酸化チタン濃度が0.1〜40重量%のロッド状ルチル型酸化チタン水分散液をクロスフロー方式により膜濾過し、イオン性不純物を透過液と共に分離除去して濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を得、該濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液に水を加えて、ロッド状ルチル型酸化チタン濃度が上記範囲となるように希釈し、再びクロスフロー方式により膜濾過する操作を繰り返す循環膜濾過方式によりロッド状ルチル型酸化チタンを精製すると共に、定期的に濾過膜を逆洗浄することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法によれば、4価のチタン化合物を特定の条件下、水性媒体中で水熱処理を施すことにより、結晶面(001)を有するロッド状ルチル型酸化チタンを効率よく合成することができる。本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法によれば、四塩化チタンなどの安価な原料を使用することができるため、コストの大幅な削減が可能である。また、通常、ロッド状ルチル型酸化チタンは結晶面(110)と(111)からなり、結晶面(110)が還元サイト、結晶面(111)が酸化サイトとして作用するが、本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法により得られるロッド状ルチル型酸化チタンは、結晶面(110)(111)に加えて、結晶面(001)を有し、結晶面(110)が還元サイト、結晶面(001)と(111)が酸化サイトとして作用するため、紫外線を照射することにより生成する励起電子と活性化されたホールの分離性をより高める構造を有する。そのため、励起電子とホールの再結合や逆反応の進行をより低く抑制することができ、強い酸化作用を発揮することができる。本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法により得られたロッド状ルチル型酸化チタンを光触媒として使用すると、有機物質を効率よく酸化することができるため、大気の浄化、脱臭、浄水、抗菌、防汚などの目的に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】3価のチタン化合物を水熱処理して得られる結晶と、特定条件下で4価のチタン化合物を水熱処理して得られる結晶とを模式的に表した図である。
【図2】ルチル型酸化チタンの循環膜濾過方式による精製方法の一例を示す概略図である。
【図3】ルチル型酸化チタンの循環膜濾過方式による精製方法における逆洗浄方法の一例を示す概略図である。
【図4】実施例1で得られたルチル型酸化チタンのTEM写真である。
【図5】比較例1で得られたルチル型酸化チタンのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法は、反応温度110℃〜220℃、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で4価のチタン化合物に2時間以上水熱処理を施すことにより、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンを得ることを特徴とする。
【0017】
(4価のチタン化合物)
本発明における4価のチタン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物等を挙げることができる。
Ti(OR)t4-t (1)
(式中、Rは炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す。tは0〜3の整数を示す)
【0018】
Rにおける炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等のC1-4脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。
【0019】
Xにおけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。
【0020】
このような4価のチタン化合物としては、例えば、TiCl4、TiBr4、TiI4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC25)Cl3、Ti(OC49)Cl3、Ti(OC25)Br3、Ti(OC49)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH32Cl2、Ti(OC252Cl2、Ti(OC492Cl2、Ti(OC252Br2などのジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH33Cl、Ti(OC253Cl、Ti(OC493Cl、Ti(OC253Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン等を挙げることができる。本発明においては、なかでも安価で、入手が容易な点で、テトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタン(TiCl4)が好ましい。
【0021】
(水性媒体)
本発明において、水熱処理の際に用いる水性媒体としては、例えば、水又は水と水溶性有機溶媒との混合液等を挙げることができる。前記水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;アセトン等のケトン;アセトニトリル等のニトリル;酢酸等のカルボン酸等を挙げることができる。
【0022】
水と水溶性有機溶媒との混合液を用いる場合の水と水溶性有機溶媒の比率は、前者/後者(重量比)=10/90〜99.9/0.01、好ましくは50/50〜99/1程度である。本発明においては、なかでも有機溶媒の回収作業が不要な点で水を使用することが好ましい。
【0023】
また、水性媒体にはハロゲン化物(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム等のアルカリ金属ハロゲン化物など)を添加してもよい。しかし、本発明においては、特にハロゲン化物を添加しなくとも、結晶化度が高く、粒子径の揃ったロッド状ルチル型酸化チタンを得ることができる。
【0024】
水性媒体中の4価のチタン化合物濃度(チタン換算)としては、1.5〜17.0重量%(好ましくは2.5〜15.0重量%、特に好ましくは2.5〜8.0重量%)となる濃度であることが好ましい。水性媒体中の4価のチタン化合物濃度(チタン換算)が上記範囲を上回ると、副生する塩素により反応器が腐食し易くなる傾向があり、一方、水性媒体中の4価のチタン化合物濃度(チタン換算)が上記範囲を下回ると、反応により得られる酸化チタンに結晶型の異なるものが混在して、結晶型の均一性が低下する傾向がある。
【0025】
水熱処理時の反応温度は110℃〜220℃、好ましくは140℃〜220℃、特に好ましくは150℃〜220℃である。水熱処理時の反応温度が上記範囲を上回ると、副生する塩素により反応器が腐食し易くなる。一方、水熱処理時の反応温度が上記範囲を下回ると結晶面(001)が形成されない。
【0026】
水熱処理は反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下(すなわち、密閉系で)行われる。水熱処理時の反応圧力(絶対圧)は、例えば、0.14MPa〜1.6MPa、好ましくは0.36MPa〜1.6MPa、特に好ましくは0.48MPa〜1.6MPaである。
【0027】
また、水熱処理を施す時間は2時間以上(例えば、2時間〜24時間、好ましくは2時間〜15時間、特に好ましくは5時間〜15時間)である。水熱処理を施す時間が長すぎると生産性が低下する傾向がある。一方、水熱処理を施す時間が上記範囲を下回ると結晶面(001)が形成されない。
【0028】
本発明における水熱処理は、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができ、例えば、オートクレーブ等の密閉系反応容器を使用して、反応温度、反応圧力、反応時間、及び必要に応じて水性媒体中の4価のチタン化合物濃度(チタン換算)を上記範囲に調整することにより行うことができる。
【0029】
上記方法により得られたロッド状ルチル型酸化チタンは、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0030】
本発明においては、なかでも、ロッド状ルチル型酸化チタンを圧密化することなくイオン性不純物を分離・除去することができる点で、ロッド状ルチル型酸化チタン水分散液にクロスフロー方式による膜濾過する操作を施すことが好ましい。クロスフロー方式により膜濾過する操作とは、濾過膜面に平行に供給液を流し、濾滓の沈着による濾過膜汚染を防ぎながら供給液の一部を、供給液の流れの側方で透過水として分離・除去し、濃縮液を得る方法である。ロッド状ルチル型酸化チタン水分散液をクロスフロー方式により膜濾過すると、イオン性不純物の含有量が低減され、且つ、高分散性を有するロッド状ルチル型酸化チタンを簡便且つ効率よく得ることができる。
【0031】
クロスフロー方式による膜濾過における濃縮倍率としては、1〜400倍程度(なかでも1〜20倍、特に1〜10倍)が好ましい。濃縮倍率が上記範囲を上回ると、膜面への付着物質の堆積抑制が困難となり、濾過速度及び膜寿命が低下し易くなる傾向がある。一方、濃縮倍率が上記範囲を下回ると、イオン性不純物の分離効率が低下し、洗浄水の使用量が増加する傾向がある。
【0032】
クロスフロー方式による膜濾過における濃縮倍率は、ロッド状ルチル型酸化チタン水分散液の膜面線速(クロスフロー速度)により調整することができる。ロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を含む供給液の膜面線速が大きいほど膜面への付着物質の堆積が抑制されるので高い濾過流束(フラックス)が得られ、例えば、膜面線速(クロスフロー速度)は、例えば0.02m/s以上、3m/s未満であり、好ましくは0.05m/s以上、1.5m/s未満である。
【0033】
クロスフロー方式により膜濾過する操作に付すロッド状ルチル型酸化チタン水分散液としては、ロッド状ルチル型酸化チタン含有量が、例えば、0.1〜40重量%程度、好ましくは0.1〜20重量%程度となるように、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、イオン交換水等)で希釈したものを使用することが好ましい。ロッド状ルチル型酸化チタン含有量が上記範囲を外れると、イオン性不純物の除去効率が低下する傾向がある。また、ロッド状ルチル型酸化チタン含有量が上記範囲を上回る場合は、粘度が高くなりすぎ、ファウリング(目詰まり)し易くなる傾向もある。そして膜濾過処理により、水がイオン性不純物と共に透過液として分離されるため、例えば、1〜400倍程度(なかでも1〜20倍、特に1〜10倍)に濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液が得られる。
【0034】
本発明においては、上記クロスフロー方式により膜濾過する操作を繰り返し行うことが、イオン性不純物を十分に分離・除去できる点で好ましく、クロスフロー方式による膜濾過で得られた濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、イオン交換水等)で希釈することにより、ロッド状ルチル型酸化チタン水分散液の濃度を上記範囲に調整し、その後、再び膜濾過処理に付すことが好ましい。それにより、イオン性不純物の分離効率を向上させることができ、その上、ファウリング(目詰まり)等による濾過膜の負荷を軽減し、濾過膜の寿命を向上させることができる。
【0035】
従って、本発明においては、特に、ロッド状ルチル型酸化チタン濃度が0.1〜40重量%程度、好ましくは0.1〜20重量%程度のロッド状ルチル型酸化チタン水分散液をクロスフロー方式により膜濾過し、イオン性不純物を透過液と共に分離除去して濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を得、該濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液に水を加えて、ロッド状ルチル型酸化チタン濃度が上記範囲となるように希釈し、再びクロスフロー方式により膜濾過する操作を繰り返す循環膜濾過方式によりロッド状ルチル型酸化チタンを精製すると共に、定期的に濾過膜を逆洗浄することが、イオン性不純物の分離効率を向上し、それと同時に膜面への付着物質の堆積を抑制し、膜寿命を向上することができる点で好ましい。
【0036】
図2はロッド状ルチル型酸化チタンの循環膜濾過方式による精製方法の一例を示す概略図である。仕込みタンクに仕込まれたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を含む供給液は、クロスフロー濾過方式で膜濾過され、濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液(濃縮液)が得られる。濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液は、再度、仕込みタンクへ循環し、希釈用の水(希釈用水)で希釈され、再びクロスフロー濾過方式で膜濾過される。
【0037】
上記イオン性不純物としては、例えば、原料となる4価のチタン化合物に由来するチタンイオン、ハロゲンイオン(例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン)等を挙げることができる。
【0038】
本発明においては、ロッド状ルチル型酸化チタン中に含まれるイオン性不純物量を、例えば、10〜3000ppm程度(好ましくは10〜2000ppm程度)まで低減することが好ましい。ロッド状ルチル型酸化チタン中に含まれるイオン性不純物の含有量を上記範囲に低減すると、ロッド状ルチル型酸化チタンの光に対する応答性を向上することができる。
【0039】
上記濾過膜としては、例えば、限外濾過膜、精密濾過膜、ナノフィルター、逆浸透膜等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、分画分子量の点で限外濾過膜を使用することが好ましい。
【0040】
限外濾過膜は、孔サイズが1〜10nm(好ましくは、1〜5nm)であり、分子量1000〜300000の物質(分子サイズとして、0.001〜0.01μm程度)[好ましくは、分子量1000〜30000(分子サイズとして、1〜5nm)]を分離対象とする分離膜である。
【0041】
限外濾過膜の膜形状としては、例えば、中空糸型濾過膜、チューブラー膜、スパイラル膜、平膜等の何れであっても良いが、逆洗浄が比較的容易に行える点から、中空糸型濾過膜、又はチューブラー膜を使用することが好ましい。
【0042】
中空糸型濾過膜における中空糸膜の内径は、汚染物質の閉塞の防止、膜モジュールへの中空糸充填率の向上という観点から、0.1〜2.0mm程度の範囲が好ましく、0.5〜1.0mmの範囲がさらに好ましい。
【0043】
濾過膜の材質としては、一般的なもの、例えば、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、セラミックなどを使用できる。これらの中でも、濾過膜の材質としては酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル、芳香族ポリアミドが好ましい。
【0044】
中空糸膜としては、酢酸セルロース系中空糸膜、ポリスルホン系中空糸膜、ポリアクリロニトリル系中空糸膜、ポリフッ化ビニリデン中空糸膜等を挙げることができるが、これらの中でも、酸に対する耐性が高いことからポリスルホン系中空糸膜が好ましい。
【0045】
中空糸型濾過膜を使用する場合、ロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を流す方法(濾過方式)としては、内側(中空糸膜の内側)にロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を含む供給液を流し、外側(中空糸膜の外側)に透過水を流す方式(内圧濾過方式)と、その逆に外側にロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を含む供給液を流し、内側に向けて透過水が流れる方式(外圧濾過方式)が挙げられる。本発明においては、なかでも、膜面流速を高く維持できる点で内圧濾過方式が好ましい。
【0046】
クロスフロー方式により膜濾過する操作を施す際は、濾過膜面への付着物質の堆積を防止し、濾過膜への負担を軽減し、長期間膜濾過運転を行うため、濾過膜に対し、洗浄水により間欠的な逆洗浄を施すことが好ましい。逆洗浄は、圧力を制御しつつ、予め定められた周期で行うのが好ましく、例えば、0.5〜3時間に1回程度行うことが好ましい。逆洗浄の時間は0.5〜2分程度が好ましい。この際、濾過回収率は90%以上、より好ましくは95%以上に設定すると良い。濾過回収率は、下記式(2)で表される。
濾過回収率(%)=100×(膜濾過流量−逆洗浄水量)/膜濾過流量 (2)
【0047】
なお、逆洗浄に用いる洗浄水としては、水(例えば、精製水、蒸留水、純水、イオン交換水等)を使用することが好ましい。また、逆洗浄により膜通過した洗浄水は、濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液の希釈用の水として再利用することが好ましい(図3参照)。
【0048】
クロスフロー方式により膜濾過する操作では、透過液のpHを監視することにより容易にイオン性不純物の除去処理の進行度を確認することができ、例えば、透過液のpHが2〜7(好ましくは、2〜5)となるまでクロスフロー方式により膜濾過する操作を繰り返すことが好ましい。透過液のpHが上記範囲を外れる場合は、イオン性不純物の除去処理が不十分である場合がある。
【0049】
本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法により得られたロッド状ルチル型酸化チタンは、結晶面(001)(110)(111)を有するため、励起電子とホールとの再結合を抑制することができ、且つ、逆反応の進行をより一層抑制することができる。それにより高い光触媒活性を発揮することができるため、種々の化学反応(例えば、酸化反応、有害物質の分解反応等)や殺菌などに光触媒として利用することができる。
【0050】
本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法により得られたロッド状ルチル型酸化チタンは、380nm未満の紫外線を照射することにより(ロッド状ルチル型酸化チタンの種類によっては、紫外線域から650nm程度までの長波長の可視光線域までの広い波長範囲内の光を照射することにより)、高い触媒活性を発揮することができる。
【0051】
本発明に係るルチル型酸化チタンの製造方法により得られたロッド状ルチル型酸化チタンは、上記光の照射によって有害化学物質を水や二酸化炭素にまで分解することが可能であるため、抗菌防かび、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚などさまざまに応用することができ、室内の壁紙や家具をはじめ家庭内や病院、学校などの公共施設内での環境浄化、家電製品の高機能化など、広範囲への応用が可能である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0053】
実施例1
室温(25℃)にて、市販のTiCl4水溶液(和光純薬社製試薬化学用、約16.5%Ti含有希塩酸溶液)を、Ti濃度が5.4重量%になるようにイオン交換水で希釈した。この希釈後のTiCl4水溶液 56gをテフロン(登録商標)塗装された容量100mlのオートクレーブに入れ密閉した。上記オートクレーブをオイルバスに投入し、30分間かけて、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度を180℃まで昇温した。その後、反応温度180℃、反応圧力 1.0MPaの条件で、10時間保持した後、オートクレーブを氷水につけて冷却した。3分後、オートクレーブ内の温度が30℃以下になったことを確認した後、オートクレーブを開封し、反応物(1)を取り出した。10℃にて、得られた反応物(1)を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、内温65℃の真空乾燥機(バキュームオーブン)で12時間減圧乾燥して、5.2gの酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子であった(図4)。
【0054】
実施例2
反応時間を10時間から3時間に変更した以外は実施例1と同様にして、4.7gの酸化チタン粒子を得た。
【0055】
実施例3
反応時間を10時間から14時間に変更した以外は実施例1と同様にして、5.2gの酸化チタン粒子を得た。
【0056】
実施例4
反応温度を180℃から140℃に変更した以外は実施例1と同様にして、4.9gの酸化チタン粒子を得た。
【0057】
実施例5
反応温度を180℃から200℃に変更した以外は実施例1と同様にして、5.2gの酸化チタン粒子を得た。
【0058】
実施例6
反応温度を180℃から220℃に変更した以外は実施例1と同様にして、5.2gの酸化チタン粒子を得た。
【0059】
実施例7
上記実施例1で得られた反応物(1)56gを純水で10倍に希釈した後、限外ろ過膜(商品名「FB10−HVC−FUS03C1」、材質:PES、公称分画分子量:3万、ダイセン・メンブレン・システムズ(株)製)を用いて、室温(25℃)、ろ過圧力0.05MPaにて、クロスフロー方式により膜濾過する操作を行い、イオン性不純物と酸化チタン粒子を分離し、イオン性不純物を系外に排出して、精製された酸化チタン粒子水分散液 56gを得た。精製された酸化チタン粒子水分散液を60℃の真空乾燥機で12時間乾燥して、5.2gの酸化チタン粒子を得た。
【0060】
比較例1
反応時間を10時間から1時間とし、反応温度を180℃から200℃に変更した以外は実施例1と同様にして、4.5gの酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、結晶面(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子であり、結晶面(001)は同定できなかった(図5)。
【0061】
比較例2
反応温度を180℃から100℃に変更した以外は実施例1と同様にして、4.3gの酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、結晶面(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子であり、結晶面(001)は同定できなかった。
【0062】
<光触媒活性評価>
実施例1〜7及び比較例1、2で得られた酸化チタン粒子の光触媒能を、気相にてアセトアルデヒドを酸化し、生成するCO2量を測定することにより評価した。
テドラーバッグ(アズワン(株)製)を反応容器として使用した。実施例1〜6及び比較例1、2で得られた酸化チタン粒子 100mgをそれぞれガラス製皿に広げ、反応容器の中に入れ、500ppmのアセトアルデヒド飽和ガスを反応容器に吹き込んだ。ガスとアセトアルデヒドが平衡に達した後、室温(25℃)で光照射を行った。光源には500Wのキセノンランプ用光源装置(商品名「SX−UI501XQ」、ウシオ電機(株)製)を使用し、UV−35フィルターを使用して350nmより短い波長の光線を遮断した。さらに、ファインステンレス製のメッシュを光量調節用フィルターとして使用して光量を30mW/cm2に調整した。
光照射開始から150分後のCO2の生成量(反応容器内のCO2濃度)をメタナイザーが付属した水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−8A」、「GC−14A」、島津製作所製)を使用して測定した。
【0063】
上記光触媒活性評価結果を下記表にまとめて示す。
【表1】

【0064】
以上より、本発明にかかるルチル型酸化チタンの製造方法により得られたルチル型酸化チタンは、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンであり、優れた光触媒能を発揮することができ、有機化合物の優れた酸化、分解作用を発揮することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応温度110℃〜220℃、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で4価のチタン化合物に2時間以上水熱処理を施すことにより、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタンを得ることを特徴とするルチル型酸化チタンの製造方法。
【請求項2】
4価のチタン化合物が四塩化チタンである請求項1に記載のルチル型酸化チタンの製造方法。
【請求項3】
水性媒体中の4価のチタン化合物濃度が1.5〜17.0重量%(チタン換算)の範囲内である請求項1又は2に記載のルチル型酸化チタンの製造方法。
【請求項4】
得られたロッド状ルチル型酸化チタンをクロスフロー方式により膜濾過する操作に付す請求項1〜3の何れかの項に記載のルチル型酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
クロスフロー方式により膜濾過する操作が、ロッド状ルチル型酸化チタン濃度が0.1〜40重量%のロッド状ルチル型酸化チタン水分散液をクロスフロー方式により膜濾過し、イオン性不純物を透過液と共に分離除去して濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液を得、該濃縮されたロッド状ルチル型酸化チタン水分散液に水を加えて、ロッド状ルチル型酸化チタン濃度が上記範囲となるように希釈し、再びクロスフロー方式により膜濾過する操作を繰り返す循環膜濾過方式によりロッド状ルチル型酸化チタンを精製すると共に、定期的に濾過膜を逆洗浄することを特徴とする請求項4に記載のルチル型酸化チタンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219346(P2011−219346A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55416(P2011−55416)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】