説明

絶縁回路基板およびパワーモジュール

【課題】 高い接合信頼性を具備させる。
【解決手段】 絶縁板11と、該絶縁板11の一方の表面に接合された回路層12と、絶縁板11の他方の表面に接合された放熱体16とが備えられ、回路層12の表面に発熱体30が接合される構成とされ、絶縁板11はAlを主成分とする材質により形成されるとともに、回路層12は純Al若しくはAl合金により形成され、放熱体16は、縦弾性係数が120000MPa以上400000MPa以下、熱伝導率が50W/m・K以上200W/m・K以下、熱膨張係数が2×10−6/℃以上10×10−6/℃以下とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、大電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュールに好適な絶縁回路基板およびパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の絶縁回路基板としては、例えば下記特許文献1に示されるような、セラミックス等により形成された絶縁板と、該絶縁板の一方の表面に接合された回路層と、前記絶縁板の他方の表面に接合された金属板と、該金属板の裏面側にはんだ層を介して接合されるとともに、Cu若しくはAl等により形成された放熱体とが備えられ、前記回路層の表面にはんだ層を介して発熱体としての例えばSiチップ等が搭載される構成が知られている。以下、絶縁回路基板に発熱体が備えられた構成をパワーモジュールという。
【特許文献1】特開平4−12554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年では、前記絶縁回路基板が搭載される製品に対して高い品質が要求されるようになっており、該要求の高まりに伴い、前記絶縁回路基板においては、該基板の前記各構成要素同士の高い接合信頼性が要求されるようになっている。
【0004】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、高い接合信頼性を具備させることができる絶縁回路基板およびパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の絶縁回路基板は、絶縁板と、該絶縁板の一方の表面に接合された回路層と、前記絶縁板の他方の表面に接合された放熱体とが備えられ、前記回路層の表面に発熱体が接合される構成とされ、前記絶縁板はAlを主成分とする材質により形成されるとともに、前記回路層は純Al若しくはAl合金により形成され、前記放熱体は、縦弾性係数が120000MPa以上400000MPa以下、熱伝導率が50W/m・K以上200W/m・K以下、熱膨張係数が2×10−6/℃以上10×10−6/℃以下とされていることを特徴とする。
【0006】
また、本発明のパワーモジュールは、請求項1から3のいずれかに記載の絶縁回路基板における前記回路層の表面に発熱体が接合されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、絶縁板の前記他方の表面に、金属板を介さずに直接前記放熱体が接合されているので、絶縁回路基板全体の接合界面数を減少させることが可能になり、絶縁回路基板の積層方向における熱抵抗を低減させること、つまり熱伝導性を向上させることが可能になる。したがって、前記回路層の表面に搭載される発熱体の熱を前記放熱体まで良好に伝導させることが可能になり、絶縁回路基板に発熱体が搭載されてなるパワーモジュールの使用時に、発熱体の熱が絶縁回路基板に蓄熱されることを抑制することが可能になる。これにより、絶縁回路基板を構成する前記絶縁板を始めとする各構成要素の接合界面が剥離したり、あるいは接合部に亀裂が入ったりすることを抑制することが可能になり、高い接合信頼性を有する絶縁回路基板およびパワーモジュールを提供することができる。
【0008】
特に、放熱体の縦弾性係数、熱伝導率、および熱膨張係数が前記範囲に設定されているので、放熱体に直接絶縁板を接合しても、これらの間の接合界面が剥離したり、あるいは接合部に亀裂が入る等といった不具合の発生を防ぐことが可能になる。
すなわち、放熱体の縦弾性係数を前記範囲とすることにより、この放熱体に高い曲げ剛性を具備させることが可能になり、放熱体と絶縁板との熱膨張係数差によりこれらに曲げ変形が発生しようとしても、放熱体が該曲げに対して抗することができる。
【0009】
また、放熱体の熱膨張係数を前記範囲とすることにより、放熱体の熱膨張係数を絶縁板の熱膨張係数に近づけることが可能になり、絶縁回路基板が温度が変動する環境下に置かれたときに、放熱体および絶縁板の熱膨張係数差に起因した絶縁回路基板の曲げの発生を最小限に抑えることができる。
さらに、放熱体の熱伝導率を前記範囲とすることにより、発熱体から受けた熱を外部に確実に放散させることが可能になり、当該発熱体の温度を過度に上昇させることなく所定値以下に維持することができる。
【0010】
ここで、前記放熱体は、低熱膨張板の表裏面に、該低熱膨張板より高い熱膨張係数の放熱体本体が配設された構成とされるとともに、前記低熱膨張板の厚さ方向に貫通する貫通孔内に、前記放熱体本体より熱伝導率の高い孔埋め材が配設され、前記放熱体本体と、前記低熱膨張板および前記孔埋め材とがろう付けされていることが望ましい。
【0011】
この場合、放熱体本体と、前記低熱膨張板および前記孔埋め材とがろう付けされているので、この放熱体が低熱膨張板を有する構成であるにもかかわらず、この放熱体の熱伝導率の低下を抑制することができる。したがって、低熱膨張性および高熱伝導性を兼ね備えた放熱体を得ることができる。これにより、放熱体に絶縁板を直接接合して得られた絶縁回路基板が、温度が変動する環境下に置かれた場合においても、放熱体と絶縁板との接合部に亀裂が入り易い、あるいは剥離し易い等といった不具合の発生を抑制することができる。
【0012】
また、前述の放熱体に代えて、Al、Si、ZrO若しくはムライト(3Al2SiO)を主成分とする材質により形成された放熱体本体を備えさせ、該放熱体本体の厚さ方向に貫通する貫通孔内に、当該放熱体本体より熱伝導率の高い孔埋め材を配設し、該孔埋め材が、前記放熱体本体の表裏面の一部を構成するようにしてもよい。
この場合においても、放熱体に低熱膨張性および高熱伝導性の双方を具備させることが可能になり、前記亀裂や剥離の発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照し、この発明の一実施の形態について説明する。
本実施形態のパワーモジュール10は、絶縁回路基板20と、該絶縁回路基板20の一方の表面側に設けられた半導体チップ(発熱体)30と、絶縁回路基板20の他方の表面側に設けられた冷却シンク部31とを備えている。
【0014】
絶縁回路基板20は、Alを主成分とする材質により形成された絶縁板11と、該絶縁板11の一方の表面に接合された回路層12と、絶縁板11の他方の表面に接合された放熱体16とが備えられている。回路層12は純Al若しくはAl合金により形成され、その表面には図示されないNiメッキ層が形成されている。放熱体16は、縦弾性係数が120000MPa以上400000MPa以下、熱伝導率が50W/m・K以上200W/m・K以下、熱膨張係数が2×10−6/℃以上10×10−6/℃以下とされている。放熱体16と絶縁板11とは、溶射(例えばプラズマ溶射)や後述する形成方法により直接接合されている。なお、絶縁板11を形成する材質として、Alの他にZrOを含有させてなるものを採用してもよい。
【0015】
半導体チップ30は、前記Niメッキ層が形成された回路層12の表面に、はんだ層14を介して接合されている。冷却シンク部31は、その表面と放熱体16の裏面における全面とが当接した状態で、例えば図示されないボルトにより放熱体16と締結されて、パワーモジュール10が構成されている。
【0016】
なお、冷却シンク部31の内部には、冷却液や冷却空気などの冷媒32を供給および回収する図示されない冷媒循環手段と連結された流通孔31aが形成されている。この流通孔31a内に供給された冷媒32により、半導体チップ30から放熱体16に伝導された熱を回収することによって、半導体チップ30からの熱をパワーモジュール10から放散させるようになっている。
【0017】
ここで、本実施形態の放熱体16は、低熱膨張板18の表裏面に、該低熱膨張板18より高い熱膨張係数の放熱体本体17、17が配設された構成とされるとともに、低熱膨張板18の厚さ方向に貫通する貫通孔19内に、放熱体本体17、17より熱伝導率の高い孔埋め材21が配設され、放熱体本体17、17と、低熱膨張板18および孔埋め材21とがろう付けされた構成とされている。
【0018】
本実施形態では、放熱体本体17、17は純Al、Al合金、純Cu、若しくはCu合金、好ましくは回路層12と同一の材質により形成され、低熱膨張板18はFe−Ni系合金により形成され、また孔埋め材21は、放熱体本体17、17を形成する材質より熱伝導率の高い材質により形成されている。本実施形態では、放熱体本体17として、Cr−Zr−Cu系合金若しくはNi−Si−Cu系合金を採用し、孔埋め材21として、純Cuを採用した。
また、低熱膨張板18の厚さAは、放熱体本体17の厚さBの0.3倍以上1.3倍以下とされている。
【0019】
ここで、低熱膨張板18を形成するFe−Ni系合金としては特にインバー合金(熱膨張係数が約2.0×10−6/℃以下)が好ましい。このインバー合金は、室温付近でほとんど熱膨張が生じない合金であって、Feが64.6mol%で、Niが35.4mol%の組成率となっている。ただし、Fe中には、それ以外の不可避不純物が含まれたものもインバー合金と呼ばれている。
【0020】
また、放熱体本体17と、低熱膨張板18および孔埋め材21とを接合するろう材として、本実施形態では、JIS Z 3261に規定されるAg−Cu系のろう材を採用した。
以上のような構成とされた放熱体16は、全体として、積層方向の熱伝導率が50W/m・K以上200W/m・K以下、縦弾性係数が120000MPa以上400000MPa以下、熱膨張係数が2×10−6/℃以上10×10−6/℃以下とされる。
【0021】
ここで、低熱膨張板18には、図2に示すように、平面視6角形状とされた貫通孔19が複数穿設され、これらの貫通孔19内に、放熱体本体17より熱伝導率の高い孔埋め材21が、該貫通孔19の内周面と接触した状態で配設されている。また、これらの孔埋め材21と放熱体本体17とは、ろう付けにより互いが接触した状態とされている。以上により、低熱膨張板18の表裏面に配設された放熱体本体17、17同士が孔埋め材21を介して、放熱体16の積層方向に熱的に接続された構成とされている。
【0022】
また、貫通孔19は、図2に示すように、低熱膨張板18の表面のうち、絶縁板11と対応する領域Xにおける占有面積比が、この対応領域Xの周辺領域Yにおける占有面積比より小さくされている。その大きさは、具体的には、絶縁板11等の材質や大きさ、半導体チップ30の発熱量等により決定されるが、本実施形態においては、前記対応領域Xには、低熱膨張板18の表面積の約30%以上50%以下を占有して貫通孔19が形成され、前記周辺領域Yには、低熱膨張板18の表面積の約40%以上70%以下を占有して貫通孔19が形成されている。
【0023】
なお、貫通孔19を平面視6角形状とすることにより、低熱膨張板18の表面上における前記各領域X、Yごとで、各貫通孔19同士の間隔を略一定とすることができ、これらの領域X、Yごとで、低熱膨張板18の表面に沿った方向において、熱伝導率の均一化を実現できるようになっている。
また、貫通孔19の開口端部は、図3に示すように、この開口端から貫通方向に向うに従い漸次縮径されるとともに、径方向内方に向って凸とされた凸曲面部19aとされ、この凹曲面部19aの表面を含めた貫通孔19の内面の略全域に、孔埋め材21が接触された構成とされている。
【0024】
ここで、放熱体16の製造方法について説明する。
まず、低熱膨張板18のうち、対応領域Xと周辺領域Yとで占有面積比を異ならせて貫通孔19を複数穿設するとともに、これらの各貫通孔19の空間体積より大きい体積の孔埋め材21を純Alにより形成する。この孔埋め材21としては、例えば図4に示すようないわゆるリベット形状がある。
【0025】
この孔埋め材21を貫通孔19に嵌合した状態で、低熱膨張板18の厚さ方向に加圧することにより、孔埋め材21を貫通孔19内に圧入し、これにより、貫通孔19の内部に孔埋め材21が配設される。この際、孔埋め材21は、貫通孔19の空間体積より大きい体積で形成されているので、この孔埋め材21の過大体積分は、貫通孔19の径方向外方へ流動し、貫通孔19の内周面と密接するとともに、貫通孔19の凸曲面部19aの表面上にも流動し、これにより、凹曲面部19aの表面を含めた貫通孔19の内側の全域に孔埋め材21が行き渡ることになる。
【0026】
その後、この低熱膨張板18の表裏面の略全面に図示しないろう材または箔を載置し、さらに、このろう材または箔の表面に放熱体本体17を載置した後に、加熱状態でこれらを積層方向に加圧することによって、ろう付けにより放熱体本体17と、低熱膨張板18および孔埋め材21とを接合し、放熱体16を形成する。
【0027】
ここで、絶縁板11と放熱体16とを接合する方法としては、前述の溶射の他に、絶縁板11が配設される放熱体本体17の表面に、Alを主成分とする粒子(以下、単に「Al粒子」という)を高速で所定時間衝突させ続け、破砕等された前記Al粒子からなる層を形成し、該層を絶縁板11とする。すなわち、この加工の当初において放熱体本体17の前記表面に衝突した前記Al粒子は、変形や破砕された状態で、放熱体本体17の前記表面に食い込み、該食い込んだ前記Al粒子にさらに別の前記Al粒子が衝突することにより、該別の前記Al粒子が破砕され、これが継続されることにより、徐々に厚さを有する緻密質のAlを主成分とする材質からなる層、つまり絶縁板11が形成される。
【0028】
以上説明したように、本実施形態に係る絶縁回路基板20およびパワーモジュール10によれば、絶縁板11の裏面に、金属板を介さずに直接放熱体16が接合されているので、絶縁回路基板20全体の接合界面数を減少させることが可能になり、絶縁回路基板20の積層方向における熱抵抗を低減させること、つまり熱伝導性を向上させることが可能になる。したがって、回路層12の表面に搭載される半導体チップ30の熱を放熱体16まで良好に伝導させることが可能になり、絶縁回路基板20に半導体チップ30が搭載されてなるパワーモジュール10の使用時に、半導体チップ30の熱が絶縁回路基板20に蓄熱されることを抑制することが可能になる。これにより、絶縁回路基板20を構成する絶縁板11を始めとする各構成要素の接合界面が剥離したり、あるいは接合部に亀裂が入ったりすることを抑制することが可能になり、高い接合信頼性を有する絶縁回路基板20およびパワーモジュール10を提供することができる。
【0029】
特に、放熱体16の縦弾性係数、熱伝導率、および熱膨張係数が前記範囲に設定されているので、放熱体16に直接絶縁板11を接合しても、これらの間の接合界面が剥離したり、あるいは接合部に亀裂が入る等といった不具合の発生を防ぐことが可能になる。
【0030】
すなわち、放熱体16の縦弾性係数を前記範囲とすることにより、この放熱体16に高い曲げ剛性を具備させることが可能になり、放熱体16と絶縁板11との熱膨張係数差によりこれらに曲げ変形が発生しようとしても、放熱体16が該曲げに対して抗することができる。
具体的には、縦弾性係数が120000MPaより小さくなると、前記曲げに対して抗する十分な剛性を具備させることができず、前述した作用効果を奏することができず、また、縦弾性係数を400000MPaより大きくすると、低熱膨張板18の貫通孔19の占有面積を小さくせざるを得ず、放熱体16に50W/m・K以上の熱伝導率を具備させることができなくなる。
【0031】
また、放熱体16の熱膨張係数を前記範囲とすることにより、放熱体16の熱膨張係数を絶縁板11の熱膨張係数に近づけることが可能になり、絶縁回路基板20が温度が変動する環境下に置かれたときに、放熱体16および絶縁板11の熱膨張係数差に起因した絶縁回路基板20の曲げの発生を最小限に抑えることができる。
具体的には、熱膨張係数が前記範囲外になると、パワーモジュール10の使用時に作用する温度サイクルによって、大きな内部応力が発生し、当該放熱体16が破損するおそれがある。
【0032】
さらに、放熱体16の熱伝導率を前記範囲とすることにより、半導体チップ30から受けた熱を外部に確実に放散させることが可能になり、当該半導体チップ30の温度を過度に上昇させることなく所定値以下に維持することができる。
具体的には、熱伝導率が50W/m・Kより小さくなると、半導体チップ30からの熱が外部へ放散され難くなり、前述した作用効果を奏することができず、また、熱伝導率を200W/m・Kより大きくすると、低熱膨張板18における貫通孔19の占有面積を大きくせざるを得ず、放熱体16に120000MPa以上のヤング率を具備させることができなくなる。
【0033】
さらに、放熱体本体17、17と、低熱膨張板18および孔埋め材21とがろう付けされているので、この放熱体16が低熱膨張板18を有する構成であるにもかかわらず、この放熱体16の熱伝導率の低下を抑制することができる。したがって、低熱膨張性および高熱伝導性を兼ね備えた放熱体16が得られ、放熱体16に絶縁板11を直接接合して得られた絶縁回路基板20が、温度が変動する環境下に置かれた場合においても、放熱体16と絶縁板11との接合部に亀裂が入り易い、あるいは剥離し易い等といった不具合の発生を抑制することができる。
【0034】
ここで、前述した作用効果についての検証試験を、シミュレーションにより実施した。実施例として、放熱体16全体の厚さを1.0mm、絶縁板11の厚さを0.10mmとしたパワーモジュール10を採用し、該パワーモジュール10を雰囲気下に置いて、その雰囲気温度を−40℃から125℃に5分から10分間で上昇させ、125℃から−40℃に5分から10分間で下降させる温度履歴を1サイクルとした3000サイクルの温度サイクルをパワーモジュール10に負荷したときに、絶縁板11に発生する内部応力をシミュレートした。
比較例として、図1に示す放熱体16に代えて、熱膨張係数が約11.5×10−6/℃とされたFeにより形成された放熱体を有するパワーモジュールを採用し、前記と同様に温度サイクル下に置いた。
【0035】
結果、絶縁板に発生する内部応力が、実施例では、約30.2MPaであったのに対し、比較例では、約284MPaであることが確認された。つまり、本実施形態のパワーモジュール10では、絶縁板11に作用する熱応力が低減できることが確認された。
【0036】
次に、絶縁回路基板およびパワーモジュールの他の実施形態について、図5に従い説明する。この実施形態と、図1で示した前記一実施の形態との異なる点は、放熱体の構成のみであるので、図5には、放熱体のみを示し、他の構成要素についての図示は省略している。
【0037】
本実施形態の放熱体56は、Al、Si、ZrO若しくはムライト(3Al2SiO)を主成分とする材質により形成された放熱体本体57を備え、該放熱体本体57の厚さ方向に貫通する貫通孔58内に、当該放熱体本体57より熱伝導率の高い孔埋め材59が配設され、該孔埋め材59が、放熱体本体57の表裏面の一部を構成している。孔埋め材59は、例えばAu、Ag、純Cu、Cu合金、純Al若しくはAl合金により形成され、貫通孔58の内周面と接合されるとともに、放熱体本体57の表裏面における貫通孔58の開口面と面一か、若しくは該開口面から100μm以下だけ突き出されている。これにより、パワーモジュール10の構成において、絶縁板11の配設された位置に設けられた孔埋め材59が絶縁板11および冷却シンク部31の双方に接触するようになっている。
【0038】
次に、本実施形態の放熱体56の製造方法について説明する。
まず、放熱体本体57がグリーンシートの状態のときに、プレスにより貫通孔58を形成し、その後、該グリーンシートを焼成して、放熱体本体57を形成する。次に、Au、Ag、純Cu、Cu合金、純Al若しくはAl合金からなる金属ペーストを、例えばスクリーン印刷法を適用したり、注入することによって、貫通孔58内に充填し、その後、該金属ペーストを焼成し焼結体に形成して、孔埋め材59を形成する。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る絶縁回路基板およびパワーモジュールにおいても、図1で示した前記一実施の形態で述べたのと略同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
ここで、本実施形態のパワーモジュールについての検証試験を、シミュレーションにより実施した。実施例として、放熱体本体57をAlにより形成し、孔埋め材59を純Alにより形成し、放熱体56全体の厚さを1.0mm、絶縁板11の厚さを0.10mmとしたパワーモジュールを採用し、該パワーモジュールを雰囲気下に置いて、その雰囲気温度を−40℃から125℃に5分から10分間で上昇させ、125℃から−40℃に 分間で下降させる温度履歴を1サイクルとした3000サイクルの温度サイクルをパワーモジュールに負荷したときに、絶縁板11に発生する内部応力をシミュレートした。
比較例として、図1に示す放熱体16に代えて、熱膨張係数が約11.5×10−6/℃とされたFeにより形成された放熱体を有するパワーモジュールを採用し、前記と同様に温度サイクル下に置いた。
【0041】
結果、絶縁板に発生する内部応力が、実施例では、約24MPaであったのに対し、比較例では、約284MPaであることが確認された。つまり、本実施形態のパワーモジュールでは、絶縁板11に作用する熱応力が低減できることが確認された。
【0042】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、前記一実施の形態では、図1に示すように、放熱体16を3層構造とした構成を示したが、単層であってもよく、また前述した材質に限定されるものでもない。例えば、図1に示す3層構造において、低熱膨張板18をタングステン(W)により形成してもよい。さらに、放熱体16全体をモリブデン(Mo)、タングステン(W)、またはCu−W系合金等により形成し、放熱体16を単層構造としてもよい。
【0043】
また、前記一実施の形態においては、リベット形状の孔埋め材21を圧入により貫通孔19内に配設したが、粉末材料を貫通孔19内に充填し、その後、この粉末材料を加圧加熱して焼結させるようにしてもよい。また、低熱膨張板18の貫通孔19の形状は、図2に示す6角形状に限らず、例えば円形状であってもよく、その形状は限定されるものではない。
【0044】
さらに、前記他の実施形態における放熱体本体57に貫通孔58を形成する方法として、前記のようにグリーンシートに貫通孔58を形成するのに代えて、貫通孔58が形成される前の前記グリーンシートを焼成した後に、レーザー加工を施して貫通孔58を穿設するようにしてもよい。
また、孔埋め材59を純Al若しくはAl合金により形成する場合は、前記金属ペーストを貫通孔58に充填するのに代えて、純Al若しくはAl合金からなる溶湯を貫通孔58に充填した後に、該溶湯を硬化させることにより、孔埋め材59を形成することも可能である。ここで、このように溶湯を貫通孔58に注入すると、溶湯が貫通孔58から溢れ出て、この溶湯を硬化させることにより、放熱体本体57の表面に、純Al若しくはAl合金からなる厚さ約100μmの純Al若しくはAl合金膜が形成されることとなる。したがって、この純Al若しくはAl合金膜に陽極酸化処理を施して、アルマイト膜にすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
高い接合信頼性を具備させることができる絶縁回路基板およびパワーモジュールを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の一実施の形態に係る絶縁回路基板を適用したパワーモジュールを示す全体図である。
【図2】図1に示す低熱膨張板の平面図である。
【図3】図1に示す放熱体の拡大断面側面図である。
【図4】図1に示す放熱体を製造する製造工程において、孔埋め材を圧入する工程を示す拡大断面側面図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る絶縁回路基板の有する放熱体の一部拡大断面側面図である。
【符号の説明】
【0047】
10 パワーモジュール
11 絶縁板
16、56 放熱体
17、57 放熱体本体
18 低熱膨張板
19、58 貫通孔
19a 凸曲面部
20 絶縁回路基板
21、59 孔埋め材
30 半導体チップ(発熱体)
X 対応領域
Y 周辺領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁板と、該絶縁板の一方の表面に接合された回路層と、前記絶縁板の他方の表面に接合された放熱体とが備えられ、前記回路層の表面に発熱体が接合される構成とされ、
前記絶縁板はAlを主成分とする材質により形成されるとともに、前記回路層は純Al若しくはAl合金により形成され、
前記放熱体は、縦弾性係数が120000MPa以上400000MPa以下、熱伝導率が50W/m・K以上200W/m・K以下、熱膨張係数が2×10−6/℃以上10×10−6/℃以下とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項2】
請求項1記載の絶縁回路基板において、
前記放熱体は、低熱膨張板の表裏面に、該低熱膨張板より高い熱膨張係数の放熱体本体が配設された構成とされるとともに、前記低熱膨張板の厚さ方向に貫通する貫通孔内に、前記放熱体本体より熱伝導率の高い孔埋め材が配設され、前記放熱体本体と、前記低熱膨張板および前記孔埋め材とがろう付けされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項3】
請求項1記載の絶縁回路基板において、
前記放熱体は、Al、Si、ZrO若しくはムライト(3Al2SiO)を主成分とする材質により形成された放熱体本体を備え、該放熱体本体の厚さ方向に貫通する貫通孔内に、当該放熱体本体より熱伝導率の高い孔埋め材が配設され、該孔埋め材が、前記放熱体本体の表裏面の一部を構成していることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の絶縁回路基板における前記回路層の表面に発熱体が接合されてなることを特徴とするパワーモジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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