説明

絶縁層付基板並びにこれを用いた半導体素子、光電変換素子、発光素子及び電子回路

【課題】絶縁層付基板を、塗布により形成するアルカリ金属ケイ酸塩層の微小な析出物発生を抑制するとともに、耐水性を確保することでアルカリ金属ケイ酸塩層の上に形成される機能層との副反応を抑えて、絶縁層付基板上に形成されるデバイスの特性を安定的に保持することが可能なものとする。
【解決手段】絶縁層付基板を、基板11上に、ホウ素と、ケイ素と、アルカリ金属を含み、液相法によって形成されたアルカリ金属ケイ酸塩層(但し、アルカリ土類金属を含まない)13を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層付基板並びにこれを用いた半導体素子、光電変換素子、発光素子及び電子回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化・高機能化・小型化・軽量化に伴って、太陽電池、フレキシブル有機ELデバイスにも小型化、薄型化、軽量化、及びフレキシブル化が求められている。フレキシブルエレクトロニクス用の基板として金属箔の使用が試みられており、絶縁性付与のための絶縁層を形成した金属基板が知られている。絶縁層としては無機物の薄膜が好ましく用いられており、製造適性、大面積での均一成膜性の点から、塗布法によって形成された薄膜が好ましい。特に、ケイ酸ナトリウムをはじめとしたアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、極めて安価、かつ環境負荷の低い材料であり、この材料を塗布して形成したアルカリ金属ケイ酸塩層を絶縁層として用いることにより、安価に絶縁層つき基板を製造することが可能になる。
【0003】
しかし、アルカリ金属ケイ酸塩は、耐水性、経時劣化耐性が低いという問題が知られている。塗布によって形成したアルカリ金属ケイ酸塩層付基板を大気中に保管しておくと、アルカリ金属ケイ酸塩に含まれるアルカリ金属イオンと大気中の二酸化炭素とが反応し、アルカリ金属ケイ酸塩層の表面にアルカリ炭酸塩の析出物が発生することが知られている(非特許文献1)。半導体素子等の電子材料用途においては、わずかな析出物であっても欠陥となり、上部に形成したデバイス特性に決定的な悪影響を与えてしまう。
【0004】
また、塗布法によってデバイス機能層を形成しようとする場合は、塗布される側のアルカリ金属ケイ酸塩層の耐水性、耐薬品性が高いことが好ましいが、塗布成膜したアルカリ金属ケイ酸塩の耐水性や経時劣化耐性は低く、電子材料用途への適用を困難にさせている最大の要因の一つである。
【0005】
ところで、アルカリ金属ケイ酸塩を塗布した後は、乾燥、熱処理を行うことが通常である。非特許文献1によれば、アルカリ金属ケイ酸塩の耐水性を向上させるためには、経験的に150℃以上、望ましくは220℃以上の加熱が必要であることが記載されている。一方、ある温度を超えると、アルカリ金属ケイ酸塩がガラスから結晶へと相転移してしまうため、熱処理温度には上限があると予想される。例えば非特許文献3には、N2O−SiO2ガラスについて相図が示されており、組成にもよるが、おおよそ500℃から600℃がガラス転移温度であり、これより高温では結晶質の材料に転移する。従って、熱処理の上限温度は、500℃から600℃程度であると推定される。実際、発明者らの知見においても、液相塗布によりアルカリ金属ケイ酸塩層を形成する場合には、600℃程度までの温度において、なるべく高温での熱処理を実施することが、経時劣化耐性、薬品耐性等を向上させる点で好ましいことがわかっている。しかし、一方で、熱処理温度は基板の耐熱温度による制約があり、製造適性、製造コストの観点からしても、より低温での熱処理が好ましいことは言うまでもない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】物質工学工業技術研究所報告、第5巻第5号、p185〜p198(1997)
【非特許文献2】塗装工学、Vol.31 No.1(1996)
【非特許文献3】ガラス科学の基礎と応用、作花済夫、内田老鶴圃、51頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
塗布により形成するアルカリ金属ケイ酸塩層においては、上記のように経時によりアルカリ金属ケイ酸塩層に微小な析出物発生が避けられず、アルカリ金属ケイ酸塩層の劣化を招く。また、この劣化に起因して充分な耐水性が確保できない上、アルカリ金属ケイ酸塩層の上に形成される機能層との副反応が起こってしまうという問題がある。これらの問題は、上部のデバイス層に欠陥が導入され、デバイス特性の低下となる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、塗布により形成するアルカリ金属ケイ酸塩層の微小な析出物発生を抑制するとともに、耐水性を確保することでアルカリ金属ケイ酸塩層の上に形成される機能層との副反応を抑えて、基板上に形成されるデバイスの特性を安定的に保持することが可能な絶縁層付基板並びにこれを用いた半導体素子、光電変換素子、発光素子及び電子回路を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の絶縁層付基板は、基板上に、ホウ素と、ケイ素と、アルカリ金属を含み、液相法によって形成されたアルカリ金属ケイ酸塩層(但し、アルカリ土類金属を含まない)からなる絶縁層を有することを特徴とするものである。
前記アルカリ金属はナトリウムであることが好ましい。
前記アルカリ金属はリチウムまたはカリウムと、ナトリウムとの2種を含むことが好ましい。
【0010】
前記ケイ素に対する前記ホウ素のモル比は、0.15以下であることが好ましい。
前記アルカリ金属ケイ酸塩層の厚さは2μm以下であることが好ましい。
【0011】
前記基板は金属基板であることが好ましい。
前記金属基板の表面に陽極酸化アルミニウム皮膜を形成したものであることが好ましい。
前記金属基板がアルミニウム、ステンレスまたは鉄鋼板の片面あるいは両面をアルミニウム板で一体化したクラッド材であることが好ましい。
前記陽極酸化アルミニウム皮膜がポーラス型陽極酸化アルミニウム皮膜であって、該ポーラス型陽極酸化アルミニウム皮膜が圧縮応力を有することが好ましい。
【0012】
本発明の半導体素子は上記の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とするものである。
本発明の光電変換素子は上記の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とするものである。
本発明の発光素子は上記の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とするものである。
本発明の電子回路は上記の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の絶縁層付基板は、基板上に、ホウ素と、ケイ素と、アルカリ金属を含み、液相法によって形成されたアルカリ金属ケイ酸塩層(但し、アルカリ土類金属を含まない)からなる絶縁層を有するので、アルカリ金属ケイ酸塩層の微小な析出物発生が抑制され、耐水性を確保することができるので、アルカリ金属ケイ酸塩層の上に形成される機能層との副反応を抑えて、基板上に形成されるデバイスの特性を安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の絶縁層付基板を用いた化合物半導体系太陽電池素子の一実施の形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の別の態様の絶縁層付基板を用いた化合物半導体系太陽電池素子の一実施の形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明の絶縁層付基板を用いた有機太陽電池素子の一実施の形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明の絶縁層付基板を用いた有機EL素子の一実施の形態を示す概略断面図である。
【図5】実施例10および比較例1の絶縁層付基板表面の光学顕微鏡写真である。
【図6】実施例1および比較例1のMo表面の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の絶縁層付基板について詳細に説明する。本発明の絶縁層付基板におけるアルカリ金属ケイ酸塩層は、ホウ素と、ケイ素と、アルカリ金属を含み、液相法によって形成された絶縁層である。
アルカリ金属はナトリウムであることが好ましく、リチウムとナトリウム、またはカリウムとナトリウムのように、ナトリウムと、リチウムまたはカリウムの2種を含むことがより好ましい。このようにナトリウムとリチウムまたはカリウムを併用することにより絶縁性をより高くすることができ、アルカリ金属ケイ酸塩層の上に形成される機能層の特性を安定的に保持することができる。
【0016】
アルカリ金属ケイ酸塩層のケイ素に対するリチウムまたはカリウムのモル比は0.001以上1以下であることが好ましく、より好ましくは0.01以上1以下、さらに好ましくは0.02以上1以下、特に好ましくは0.05以上0.5以下が望ましい。ケイ素はアルカリ金属ケイ酸塩層に含まれる全ケイ素(ケイ酸ナトリウム由来のケイ素も含む)であり、ケイ酸リチウムとケイ酸カリウムの両方を含む場合には、ケイ酸リチウム由来、ケイ酸カリウム由来、およびケイ酸ナトリウム由来のケイ素に対するリチウムとカリウムの和のモル比を意味する。ケイ素に対するリチウムまたはカリウムのモル比が1よりも大きくなるとリチウムまたはカリウムが多くなりすぎて、ケイ酸塩として固化しにくくなる。一方で、ケイ素に対するリチウムまたはカリウムのモル比が0.001未満では、リチウムまたはカリウムが少なすぎて添加効果が得られず、例えば、光電変換素子やの場合には光電変換効率が高くならない。
【0017】
アルカリ金属ケイ酸塩層に含まれる全ケイ素に対するリチウムまたはカリウムのモル比と、アルカリ金属ケイ酸塩層に含まれる全ケイ素に対するナトリウムのモル比との和は1以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以下であることが望ましい。リチウムまたはカリウムが含まれないと絶縁性が低くなる。これはナトリウムの吸水性が高いためであると推定される。一方で、リチウムまたはカリウムだけでは例えば、光電変換素子の場合には発電効率を上げることはできない。また、ケイ素に対するリチウムまたはカリウムのモル比と、ケイ素に対するナトリウムのモル比との和が1より大きくなると、ケイ酸塩として固化しにくく、またケイ素の量が少ないために基板との密着性が低下する。
【0018】
本発明のアルカリ金属ケイ酸塩層はホウ素を含んでおり、ホウ素はケイ素−酸素からなるガラスネットワークに取り込まれて均一なガラスを形成する。これによって、ガラスのミクロな構造が変化し、ガラス中でのアルカリ金属イオンの安定性が向上するために、アルカリ金属イオンの遊離が抑制され、アルカリ金属イオンの表面への偏析が起こらなくなるものと推定される。従って、アルカリ金属ケイ酸塩層は、ホウ素と、ケイ素と、アルカリ金属が単一層として形成されるものであり、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩層の表面にホウ素を含む層が形成されているようなものは含まない。
【0019】
なお、アルカリ金属ケイ酸塩層にアルカリ土類金属が含まれると、沈殿を形成しやすく、アルカリ金属ケイ酸塩層形成時の塗布液の安定性が悪くなる。従って、本発明のアルカリ金属ケイ酸塩層はアルカリ土類金属は含まない。
【0020】
アルカリ金属ケイ酸塩層に含まれるケイ素に対するホウ素のモル比は、0.001以上0.15以下が好ましく、0.002以上0.10以下がより好ましく、0.005以上0.08以下がさらに好ましく、0.01以上0.05以下が特に好ましい。0.001未満では、ホウ素が実質的に含まれないことになり、アルカリ金属ケイ酸塩層の表面に異物が析出しやすくなるほか、絶縁性が低くなったり、一般的に裏面電極に用いられているモリブデンを成膜した際に異物を形成しやすくなったりするため、発電効率が低くなる。一方で、ホウ素のモル比が0.15より大きくなると、添加したホウ素分がケイ酸Na分と混合しづらくなるため好ましくない。
【0021】
ケイ素源およびアルカリ金属源としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウムが好ましく挙げられる。ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウムの製法は、湿式法、乾式法などが知られており、酸化ケイ素を、それぞれ水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムで溶解するなどの手法によって作製することができる。また、種々のモル比のアルカリ金属ケイ酸塩が市販されており、これを利用することもできる。
【0022】
ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウムとしては、種々のモル比のケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウムが市販されている。ケイ素とアルカリ金属の割合を示す指標として、SiO2/A2O(A:アルカリ金属)のモル比がしばしば用いられている。例えば、ケイ酸リチウムとしては、日産化学工業株式会社のリチウムシリケート35、リチウムシリケート45、リチウムシリケート75などがある。ケイ酸カリウムとしては、1号ケイ酸カリウム、2号ケイ酸カリウムなどが市販されている。
【0023】
ケイ酸ナトリウムとしては、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、1号ケイ酸ナトリウム、2号ケイ酸ナトリウム、3号ケイ酸ナトリウム、4号ケイ酸ナトリウムなどが知られ、ケイ素のモル比を数十まで高めた高モルケイ酸ナトリウムも市販されている。
【0024】
アルカリ金属として、ナトリウムと、リチウムまたはカリウムの2種を含む場合には、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウムとケイ酸カリウムのように2種を供給源として用いてもよいし、例えばアルカリ金属ケイ酸塩層がケイ酸リチウムとケイ酸ナトリウムを含む場合には、ケイ酸リチウムと水酸化ナトリウムあるいは、水酸化リチウムとケイ酸ナトリウムとを、アルカリ金属ケイ酸塩層がケイ酸カリウムとケイ酸ナトリウムを含む場合には、水酸化カリウムとケイ酸ナトリウムあるいは、ケイ酸カリウムと水酸化ナトリウムとを、それぞれ水と任意の比率で混合することによっても、ケイ酸リチウムとケイ酸ナトリウムあるいはケイ酸カリウムとケイ酸ナトリウムを含むアルカリ金属ケイ酸塩層を作製することができる。また、供給源として、それぞれ、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩を添加してもよい。例えば、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物などが用いられる。
【0025】
ホウ素源としては、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウムなどのホウ酸塩が挙げられる。
【0026】
上記のケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウムまたはケイ酸カリウムと、ホウ素源を、それぞれ水と任意の比率で混合することにより、本発明のアルカリ金属ケイ酸塩層の塗布液を得ることができる。水の添加量を変更することにより塗布液の粘度を調整し、適切な塗布条件を定めることができる。塗布液を基板上に塗布する方法としては特に限定はなく、例えば、ドクターブレード法、ワイヤーバー法、グラビア法、スプレー法、ディップコート法、スピンコート法、キャピラリーコート法等の手法を用いることができる。
【0027】
塗布液を基板上に塗布した後、熱処理を行うことによりアルカリ金属ケイ酸塩層を作製することができる。熱重量分析、および昇温脱ガス分析の手法を用いて発明者らが脱水温度を測定したところ、脱水は200℃〜300℃程度で起こることがわかった。200℃よりも低温では、塗布液を十分に乾燥させることができず、耐水性の高いアルカリ金属ケイ酸塩層が形成されないため、好ましくない。
【0028】
一方で、600℃を超える温度では、アルカリ金属ケイ酸塩のガラス転移温度を超えるため好ましくない。基板の耐熱性、製造適性の観点からは、熱処理温度はより低温ほどよいが、ホウ素を添加することによって、低温での熱処理であっても、経時劣化を抑制することができる。
【0029】
なお、より高温での熱処理を実施するために、本発明に用いられる基板は、アルミニウムと異種金属を複合し、アルミニウム表面に陽極酸化皮膜を形成したクラッド基板を用いてもよい。クラッド基板については後述するが、400℃以上の高温でも、陽極酸化皮膜のクラックなどが発生せず、高い耐熱性を有していることが知られている。また、基板をあらかじめ300℃以上で熱処理することによって陽極酸化皮膜に圧縮応力を付与することができ、さらに耐熱性を向上させ、絶縁性の長期信頼性を確保できることが知られている。この処理をアルカリ金属ケイ酸塩層の塗布後に実施することにより、アルカリ金属ケイ酸塩層の脱水に必要な熱処理と、陽極酸化皮膜の圧縮応力化に必要な熱処理を兼ねることが可能である。
【0030】
熱処理後のアルカリ金属ケイ酸塩層の厚さは0.01〜2μm、好ましくは0.05〜1.5μm、さらには0.1〜1μmであることが好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩層の厚さが2μmよりも厚くなると、熱処理時のアルカリ金属ケイ酸塩の収縮量が大きくなってクラックが発生しやすくなるため、好ましくない。
【0031】
本発明の絶縁層付基板は半導体装置の基板として用いることができる。詳細には電気エネルギーを光に変換する発光ダイオードや半導体レーザといった半導体素子、あるいは逆に光を電気エネルギーに変換する素子であるフォトダイオード、太陽電池といった光電変換素子、抵抗、トランジスタ、ダイオード、コイル等の電子素子を備える電子回路、LED、有機EL等の発光素子の基板として用いることができる。以下、本発明の絶縁層付基板を用いた半導体装置として、光電変換素子として化合物半導体系太陽電池と有機薄膜太陽電池(有機光電変換素子からなる太陽電池)、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス、有機電界発光素子)について説明する。なお、半導体素子、電子回路の構成は、下記で説明する太陽電池の光電変換素子部分や有機ELの発光素子部分が各種の半導体素子や電子回路に変わったものであり、その構成や製造方法は公知であるため省略する。
【0032】
[化合物半導体系太陽電池]
図1は、化合物半導体系太陽電池の光電変換素子の一実施の形態を示す概略断面図である。なお、視認しやすくするため、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある(以下、図2〜図4においても同様である)。光電変換素子10は、図1に示すように、基板11上に、陽極酸化により形成された陽極酸化膜12と、アルカリ金属ケイ酸塩層13と、下部電極14と、光吸収により正孔・電子対を発生する光電変換半導体層15と、バッファ層16と、透光性導電層(透明電極)17と、上部電極(グリッド電極)18とが順次積層された構成となっている。なお、図1では基板11上に、陽極酸化により形成された陽極酸化膜12と、アルカリ金属ケイ酸塩層13とが形成された光電変換素子を示しているが、図2に示すように、基板11上に、アルカリ金属ケイ酸塩層13が形成された態様であってもよい(なお、図2において、図1中の構成要素と同等の構成要素には同番号を付している)。以下、各層について説明する。
【0033】
(基板)
基板としては、セラミックス基板(無アルカリガラス、石英ガラス、アルミナなど)、金属基板(ステンレス、チタン箔、シリコンなど)、高分子基板(ポリイミドなど)を問わず用いることができる。耐熱性・軽量性の観点からは、特に金属基板が好ましい。とりわけ、陽極酸化により金属基板表面上に生成する金属酸化膜が絶縁体となる材料を利用することができる。具体的には、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)の中から選ばれる少なくとも1つの金属を含有する基板、あるいは上記金属の合金が好ましい。とりわけ、アルミニウム、ステンレスまたは鉄鋼板の片面あるいは両面をアルミニウム板で一体化したクラッド材が陽極酸化の形成が簡易であること、耐久性が高いという観点からより好ましい。両面をアルミニウム板で挟んだ一体化したクラッド材の場合、アルミニウムと酸化膜(Al23)との熱膨張係数差に起因した基板の反り、及びこれによる膜剥がれ等を抑制することができるため、より好ましい。
【0034】
基板は、必要に応じて洗浄処理・研磨平滑化処理等、例えば付着している圧延油を除く脱脂工程、アルミニウム板の表面のスマットを溶解するデスマット処理工程、アルミニウム板の表面を粗面化する粗面化処理工程が施されたものを用いることが好ましい。
【0035】
(陽極酸化膜)
陽極酸化により形成された陽極酸化膜は、陽極酸化により複数の細孔を有する絶縁性酸化膜が形成されたものであり、これによって高い絶縁性が確保される。陽極酸化は基板11を陽極とし陰極と共に電解質に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することで実施することができる。陰極としてはカーボンやアルミニウム等が使用される。
【0036】
陽極酸化条件は使用する電解質の種類にもより、特に制限されない。条件としては例えば、電解質濃度0.1〜2mol/L、液温5〜80℃、電流密度0.005〜0.60A/cm2、電圧1〜200V、電解時間3〜500分の範囲にあれば適当である。電解質としては特に制限されず、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、マロン酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、及びアミドスルホン酸等の酸を、1種又は2種以上含む酸性電解液が好ましく用いられる。かかる電解質を用いる場合、電解質濃度0.2〜1mol/L、液温10〜80℃、電流密度0.05〜0.30A/cm2、及び電圧30〜150Vが好ましい。
【0037】
陽極酸化膜はバリア層部分とポーラス層部分からなり、ポーラス層部分が室温で圧縮歪みを有するものであることが好ましい。一般にはバリア層は圧縮応力、ポーラス層は引張応力を有しているため、数μm以上の厚膜においては、陽極酸化膜全体が引張応力になることが知られている。一方、前述のクラッド材を用い、例えば後述の加熱処理を実施した場合、圧縮応力を有するポーラス層を作製することができる。そのため、数μm以上の厚膜にしても、陽極酸化膜全体を圧縮応力とすることができ、成膜時の熱膨張差によるクラックの発生がなく、また、室温付近での長期信頼性に優れた絶縁性膜とすることができる。
【0038】
この場合、上記圧縮歪みの大きさは、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがさらに好ましく、0.10%以上であることが特に好ましい。また、0.25%以下であることが好ましい。
圧縮歪みが0.01%未満では、圧縮歪みではあるものの、不充分であり、耐クラック性の効果が得られない。そのため、最終製品形態において曲げ歪みを受けたり、長期にわたって温度サイクルを経たり、外部から衝撃、または応力を受けたりした場合に、絶縁層として形成された陽極酸化膜にクラックが生じて、絶縁性の低下にいたる。
【0039】
一方、圧縮歪みが大きすぎると、陽極酸化膜が剥離したり、陽極酸化膜に強い圧縮歪みが加わることにより、クラックが発生したり、陽極酸化膜が盛り上がって平坦性が低下したり、剥離したりするため、絶縁性が決定的に低下する。そのため、圧縮歪みは0.25%以下であることが好ましい。
なお、陽極酸化膜のヤング率は、50〜150GPa程度であることが知られており、したがって、上記圧縮応力の大きさは、5〜300MPa程度が好ましい。
【0040】
陽極酸化処理の後、加熱処理を実施してもよい。加熱処理を実施することによって、陽極酸化膜に圧縮応力が付与され、耐クラック性が高まる。よって、耐熱性、絶縁信頼性が向上し、絶縁層つき金属基板としてさらに好適に用いることができるようになる。加熱処理温度は、150℃以上が好ましい。前述のクラッド材を用いた場合、300℃以上での熱処理が好ましい。あらかじめ熱処理を実施しておくことにより、多孔質陽極酸化膜に含まれる水分量を減少させることができ、絶縁性を向上させることができる。
【0041】
従来のアルミニウムのみからなる基板においては、300℃以上での加熱処理を実施すると、アルミニウムが軟化して基板としての機能を喪失したり、アルミニウムと陽極酸化膜の熱膨張率の差によって、陽極酸化膜にクラックが発生して絶縁性を喪失したり、といった問題があったが、アルミニウムと異種金属のクラッド材を用いることによって、300℃以上の温度での加熱が可能になる。
【0042】
陽極酸化膜は水溶液中で形成される酸化被膜であり、固体内部に水分を保持していることが、例えば、「Chemistry Letters Vol.34,No.9,(2005)p1286」に記載されているように知られている。この文献と同様の陽極酸化膜の固体NMR測定から、100℃以上で熱処理した場合、陽極酸化膜の固体内部の水分量(OH基)が減少することが認められ、特に200℃以上で顕著である。従って、加熱によりAl−OとAl−OHの結合状態が変化し、応力緩和(アニール効果)が生じているものと推定される。
【0043】
電気絶縁性の観点からは、陽極酸化膜は厚さが3〜50μmであることが好ましい。3μm以上の膜厚を有することによって、絶縁性及び室温で圧縮応力を有することによる成膜時の耐熱性、さらに長期の信頼性の両立を図ることができる。
膜厚は、好ましくは5μm以上30μm以下、特に好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0044】
膜厚が極端に薄い場合、電気絶縁性とハンドリング時の機械衝撃による損傷を防止することができない虞がある。また、絶縁性、耐熱性が急激に低下するとともに、経時劣化も大きくなる。これは、膜厚が薄いことにより、陽極酸化膜表面の凹凸の影響が相対的に大きくなり、クラックの起点となってクラックが入りやすくなったり、アルミニウム中に含まれる金属不純物に由来する陽極酸化膜中の金属析出物、金属間化合物、金属酸化物、空隙の影響が相対的に大きくなって絶縁性が低下したり、陽極酸化膜が外部から衝撃、または応力を受けたときに破断してクラックが入りやすくなったりするためである。結果として、陽極酸化膜が3μmを下回ると、絶縁性が低下するため、可撓性耐熱基板としての用途、またはロールトゥロールでの製造には向かなくなる。
【0045】
また、膜厚が過度に厚い場合には、可撓性が低下する上、陽極酸化に要するコスト及び時間がかかるため好ましくない。また、曲げ耐性や熱歪み耐性が低下する。曲げ耐性が低下する原因は、陽極酸化膜が曲げられた際に、表面とアルミニウム界面での引張応力の大きさが異なるため、断面方向での応力分布が大きくなり、局所的な応力集中が起こりやすくなるためであると推定される。熱歪み耐性が低下する原因は、基材の熱膨張により陽極酸化膜に引張応力がかかった際に、アルミニウムとの界面ほど大きな応力がかかり、断面方向での応力分布が大きくなり、局所的な応力集中が起こりやすくなるためであると推定される。結果として、陽極酸化膜が50μmを超えると、曲げ耐性や熱歪み耐性が低下するため、可撓性耐熱基板としての用途、またはロールトゥロールでの製造には向かなくなる。また、絶縁信頼性も低下する。
【0046】
(下部電極)
下部電極(裏面電極)の成分としては特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合せが好ましく、Mo等が特に好ましい。下部電極(裏面電極)40の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。
【0047】
(光電変換半導体層)
光電変換半導体層は化合物半導体系光電変換半導体層であり、主成分(主成分とは20質量%以上の成分を意味)としては特に制限されず、高光電変換効率が得られることから、カルコゲン化合物半導体、カルコパイライト構造の化合物半導体、欠陥スタナイト型構造の化合物半導体を好適に用いることができる。
【0048】
カルコゲン化合物(S、Se、Teを含む化合物)としては、
II−VI化合物:ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTeなど、
I−III−VI2族化合物:CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S,Se)2など、
I−III3−VI5族化合物:Culn3Se5、CuGa3Se5、Cu(ln,Ga)3Se5などを好ましく挙げることができる。
【0049】
カルコパイライト型構造及び欠陥スタナイト型構造の化合物半導体としては、
I−III−VI2族化合物:CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuInS2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)(S Se)2など、
I−III3-VI5族化合物:CuIn3Se5、CuGa3Se5、Cu(In,Ga)3Se5などを好ましく挙げることができる。
ただし、上の記載において、(In,Ga)、(S,Se)は、それぞれ、(In1-xGax)、(S1-ySey)(ただし、x=0〜1、y=0〜1)を示す。
【0050】
光電変換半導体層の成膜方法としては特に制限されない。例えば、Cu,In,(Ga),Sを含むCI(G)S系の光電変換半導体層の成膜では、セレン化法や多元蒸着法等の方法を用いて成膜することができる。
光電変換半導体層50の膜厚は特に制限されず、1.0〜3.0μmが好ましく、1.5〜2.0μmが特に好ましい。
【0051】
(バッファ層)
バッファ層は特に制限されないが、CdS、ZnS,Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)、SnS,Sn(S,O)及び/又はSn(S,O,OH)、InS,In(S,O)及び/又はIn(S,O,OH)等の、Cd,Zn,Sn,Inからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属硫化物を含むことが好ましい。バッファ層40の膜厚は、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。
【0052】
(透光性導電層)
透光性導電層(透明電極)は、光を取り込むと共に、下部電極と対になって、光電変換層で生成された電流が流れる電極として機能する層である。透光性導電層の組成としては特に制限されず、ZnO:Al等のn−ZnO等が好ましい。透光性導電層の膜厚は特に制限されず、50nm〜2μmが好ましい。
【0053】
(上部電極)
上部電極(グリッド電極)としては特に制限されず、Al等が挙げられる。上部電極80膜厚は特に制限されず、0.1〜3μmが好ましい。
【0054】
光電変換素子10に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、半導体系太陽電池とすることができる。
【0055】
本発明の絶縁層付基板はアルカリ金属ケイ酸塩層にホウ素を含むので、アルカリ金属ケイ酸塩層上にモリブデンからなる電極を形成しても、ナトリウムとモリブデンとが反応して異物が生成されたり、水洗によってアルカリ金属が溶出したりすることが抑制されるので、アルカリ金属ケイ酸塩層のアルカリ金属を効率よく光電変換半導体層に拡散することができ、光電変換素子の発電効率を向上させることが可能である。
【0056】
アルカリ金属ケイ酸塩層がホウ素を含有することによって、このような効果が得られるその作用機序は必ずしも明らかではないが、次のようなメカニズムが推定される。ケイ素、アルカリ金属および酸素だけからなるアルカリ金属ケイ酸塩層の場合、アルカリ金属イオンはガラス中に固溶しているが、アルカリ金属イオンは1価であるため、ケイ素−酸素からなるガラスネットワークを形成しない。このため、アルカリ金属は酸素との相互作用が不充分で、ガラス中から遊離し、表面に偏析しやすい。アルカリ金属イオンが表面に偏析すると、電極を設ける際の、高いエネルギーを有するスパッタモリブデンと反応し、異物が生成するという問題が発生する。
【0057】
一方、ホウ素の酸化物は、ケイ酸ガラス中に固溶し、単一相のガラスを形成することが知られているが、本発明のアルカリ金属ケイ酸塩層においても、ホウ素を添加することにより、これらの元素のイオンはケイ素−酸素からなるガラスネットワークに取り込まれて均一なガラスを形成する。詳細は必ずしも明らかではないが、ガラスのミクロな構造が変化し、ガラス中でのアルカリ金属イオンの安定性が向上したために、アルカリ金属イオンの遊離が抑制され、アルカリ金属イオンの表面への偏析が起こらず、モリブデンスパッタに際する異物の生成が防止できるものと推定される。また、アルカリ金属イオンの表面への偏析が抑制されるために、水洗によるアルカリ金属イオン溶出も軽減されるものと推測される。
【0058】
[有機太陽電池]
図3は、有機太陽電池素子の光電変換素子(有機電子デバイス)の一実施の形態を示す概略断面図である。有機電子デバイス20は、基板21上にアルカリ金属ケイ酸塩層23、透明電極層24、有機の活性層25、n型酸化物半導体層26、金属電極層27、上部封止部材28がこの順に積層されてなる。以下、各層について説明する。各層は層を構成する材料に応じて公知の方法により設けることができる。なお、基板21とアルカリ金属ケイ酸塩層23は上記化合物半導体系太陽電池で説明したものと同様であるため省略する。基板21とアルカリ金属ケイ酸塩層23との間に陽極酸化膜を有していてもよい点も上記化合物半導体系太陽電池と同様である。
【0059】
(透明電極層)
透明電極層は少なくとも透明導電材料を含む層である。透明電極層は、通常、有機薄膜太陽電池においては正極である。透明電極層は、適用しようとする有機電子デバイスの発光スペクトルもしくは作用スペクトル範囲において透明であることを要し、通常、可視光から近赤外光の光透過性に優れることを要する。具体的には、透明導電材料により膜厚0.1μmの層を形成したとき、波長400nm〜800nm領域における形成された層の平均光透過率が50%以上であり、75%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。
【0060】
透明電極層に用いる透明導電材料は、導電性が高いことが要求され、成膜後の比抵抗が8×10-3Ω・cm以下である事が好ましい。このような比抵抗を実現する透明導電材料としては、透明導電材料は金属酸化物(インジウム−スズ酸化物、アンチモンースズ酸化物、アルミニウム−亜鉛酸化物、ホウ素−亜鉛酸化物、スズフッ化酸化物など)、導電性ナノ材料(例えば、銀ナノワイヤー、カーボンナノチューブ、グラフェンなど)のアクリルポリマー等への分散物、導電性ポリマー(例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレン、ポリアセチレン、ポリキノキサリン、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジアゾール等や、これら導電骨格を複数種有するポリマー等)が挙げられる。
【0061】
(有機の活性層)
有機の活性層は有機電子デバイスの機能を担う有機材料の層を意味する。有機の活性層の例としては、ホール輸送層、ホール注入層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、電子ブロック層、光電変換層等が挙げられる。なお、ホール輸送層と電子輸送層の積層体が光電変換層を兼ねることがある。
以下、有機の活性層の詳細について説明する。
【0062】
−電子ブロック層−
電子ブロック層は透明電極層と光電変換層の間に位置し、光電変換層から透明電極層へ電子が移動するのをブロックする機能を有するホール輸送層である。電子が移動するのをブロックする機能を有する材料としては、HOMO準位が5.5eV以下で、かつ、LUMO準位が3.3eV以下である有機化合物である。このような有機化合物の具体例としては、芳香族アミン誘導体、チオフェン誘導体、縮合芳香環化合物、カルバゾール誘導体、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等が挙げられる。このほか、Chem.Rev.2007年,第107巻,953−1010頁にHole Transport materialとして記載されている化合物群も適用可能である。
電子ブロック層の膜厚は、0.1nm以上50nm以下であることが好ましい。より好ましい厚みは1nm〜20nmの範囲である。
【0063】
−ホール輸送層−
ホール輸送層はホール輸送材料を含有する。ホール輸送材料は、HOMO準位が4.5eV〜6.0eVのπ電子共役化合物であり、具体的には、各種のアレーン(例えば、チオフェン、カルバゾール、フルオレン、シラフルオレン、チエノピラジン、チエノベンゾチオフェン、ジチエノシロール、キノキサリン、ベンゾチアジアゾール、チエノチオフェンなど)をカップリングさせた共役ポリマー、フェニレンビニレン系ポリマー、ポルフィリン類、フタロシアニン類等が例示される。このほか、Chem.Rev.2007,107,953−1010にHole Transport materialとして記載されている化合物群やジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー第131巻、16048頁(2009年)に記載のポルフィリン誘導体も適用可能である。
ホール輸送層の膜厚は5〜500nmが好ましく、10〜200nmが特に好ましい。
なお、ホール注入層はホール輸送層の概念に含まれる。
【0064】
−電子輸送層−
電子輸送層は電子輸送材料からなる。電子輸送材料は、LUMO準位が3.5eV〜4.5eVであるようなπ電子共役化合物であり、具体的にはフラーレン及びその誘導体、フェニレンビニレン系ポリマー、ナフタレンテトラカルボン酸イミド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸イミド誘導体等が挙げられる。これらの中では、フラーレン誘導体が好ましい。フラーレン誘導体の具体例としてはC60、フェニル−C61−酪酸メチル(文献等でPCBM、[60]PCBM、あるいはPC61BMと称されるフラーレン誘導体)、C70、フェニル−C71−酪酸メチル(多くの文献等でPCBM、[70]PCBM、あるいはPC71BMと称されるフラーレン誘導体)、及びアドバンスト ファンクショナル マテリアルズ第19巻、779−788頁(2009年)に記載のフラーレン誘導体、ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサエティー第131巻、16048頁(2009年)に記載のフラーレン誘導体SIMEF等が挙げられる。
電子輸送層の膜厚は5〜500nmが好ましく、10〜200nmが特に好ましい。
なお、電子注入層、ホールブロック層は電子輸送層の概念に含まれる。
【0065】
−光電変換層−
光電変換層はホール輸送層と電子輸送層からなる平面ヘテロ構造でもよいし、ホール輸送材料と電子輸送材料を混合したバルクヘテロ構造でもよい。平面ヘテロ構造をとる場合、正極側がホール輸送層、負極側が電子輸送層である。また、平面ヘテロ構造の中間層としてバルクヘテロ層を有するハイブリッド構造であってもよい。
【0066】
バルクヘテロ層はホール輸送材料と電子輸送材料が混合された光電変換層である。バルクヘテロ層に含まれる、ホール輸送材料と電子輸送材料の混合比は、変換効率が最も高くなるように調整される。ホール輸送材料と電子輸送材料の混合比は、通常は、質量比で、10:90〜90:10の範囲から選ばれる。このような混合有機層の形成方法としては、例えば、真空蒸着による共蒸着方法が挙げられる。あるいは、ホール輸送材料と電子輸送材料、両方の有機材料が溶解する溶媒を用いて溶剤塗布することによって混合有機層を作製することも可能である。溶剤塗布法の具体例については後述する。
バルクヘテロ層の膜厚は10nm〜500nmが好ましく、20nm〜300nmが特に好ましい。
【0067】
(n型酸化物半導体層)
n型酸化物半導体層は電子輸送層であり、その材料はn型無機酸化物半導体(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化タングステン等)である。これらの中では、酸化チタン、酸化亜鉛が好ましい。n型酸化物半導体(無機電子輸送層)の膜厚は1nm〜30nmであり、好ましくは2nm〜15nmである。n型酸化物半導体からなる電子輸送層は、各種の湿式製膜法、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜法、転写法、印刷法など、いずれによっても好適に形成することができる。
【0068】
(金属電極層)
金属電極層は、通常、負極である。負極は、通常、仕事関数の比較的小さい金属であり、例えばアルミニウム、マグネシウム、銀、銀−マグネシウム合金等が例示される。金属電極層のn型酸化物半導体層側には、0.1〜5nmの、フッ化リチウム、酸化リチウムなどの電子注入層を有してもよい。
負極の膜厚は10nm〜500nmであり、好ましくは50nm〜300nmである。
【0069】
(上部封止部材)
有機電子デバイスは、上部封止部材によって外界の雰囲気から隔離される。上部封止部材は公知のガスバリア層を含んでいてもよく、また公知の保護層、接着剤層、あるいはプラスチック支持体を含んでもよい。
【0070】
[有機EL]
図4は、有機ELの一実施の形態を示す概略断面図である。有機EL素子30は、基板31上に、アルカリ金属ケイ酸塩層33と、陽極34と、正孔注入層35と、正孔輸送層36と、発光層37と、電子輸送層38と、電子注入層39と、陰極40とをこの順に積層してなる。なお、陽極34と陰極40とは電源を介して互いに接続されている。以下、各層について説明する。各層は層を構成する材料に応じて公知の方法により設けることができる。なお、基板31とアルカリ金属ケイ酸塩層33は上記化合物半導体系太陽電池で説明したものと同様であるため省略する。また、基板31とアルカリ金属ケイ酸塩層33との間に陽極酸化膜を有していてもよい点も上記化合物半導体系太陽電池と同様である。
【0071】
(正孔注入層、正孔輸送層)
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。これらの層に用いられる正孔注入材料、正孔輸送材料としては、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよく、また、無機化合物であってもよい。正孔注入材料、正孔輸送材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピロール誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン誘導体、有機シラン誘導体、カーボン、三酸化モリブデンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
正孔注入層、正孔輸送層の厚みとしては、1nm〜500nmが好ましく、5nm〜200nmがより好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。
【0072】
(発光層)
発光層は、ホスト材料と燐光発光材料とを少なくとも含み、ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子輸送性ホスト材料、正孔輸送性ホスト材料などが挙げられる。
【0073】
電子輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体等のアジン誘導体、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾピリジン誘導体等のアゾール誘導体、フタロシアニン、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体などが挙げられる。
【0074】
正孔輸送性ホスト材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アントラセン、トリフェニレン、ピロール、インドール、カルバゾール、アザインドール、アザカルバゾール、ピラゾール、イミダゾール、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、それらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、アザインドール誘導体、アザカルバゾール誘導体、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン誘導体が好ましく、分子内にインドール骨格、カルバゾール骨格、アザインドール骨格、アザカルバゾール骨格、又は芳香族第三級アミン骨格を有するものがより好ましく、カルバゾール骨格を有する化合物が特に好ましい。また、正孔輸送性ホスト材料としては、正孔輸送性ホスト材料の水素を一部又は全てを重水素に置換したものを用いることもできる。
【0075】
燐光発光材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば遷移金属原子、ランタノイド原子を含む錯体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。遷移金属原子としては、例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらの中でも、レニウム、イリジウム、白金が好ましく、イリジウム、白金が特に好ましい。ランタノイド原子としては、例えばランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテシウム、などが挙げられる。これらの中でも、ネオジム、ユーロピウム、ガドリニウムが特に好ましい。
【0076】
錯体の配位子としては、例えば、ハロゲン配位子、シクロペンタジエニルアニオン、ベンゼンアニオン、ナフチルアニオン等の芳香族炭素環配位子、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、フェナントロリン等の含窒素ヘテロ環配位子、アセチルアセトン等のジケトン配位子、酢酸配位子等のカルボン酸配位子、フェノラト配位子等のアルコラト配位子、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子などが挙げられる。これらの中でも、含窒素ヘテロ環配位子が特に好ましい。
発光層の厚みとしては、1nm〜100nmが好ましく、3nm〜50がより好ましく、10nm〜30nmが特に好ましい。
【0077】
(電子輸送層、電子注入層)
電子輸送層、電子注入層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。電子輸送層、電子注入層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、キノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体などが挙げられる。キノリン誘導体としては、例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソクプロイン;BCP)、BCPにLiをドープしたもの、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)などの8−キノリノール又はその誘導体を配位子とする有機金属錯体、BAlq(ビス−(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニル−フェノラト)−アルミニウム(III))などが挙げられる。これらの中でも、BCPにLiをドープしたもの、BAlqが特に好ましい。
【0078】
電子輸送層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1nm〜500nmが好ましく、10nm〜50nmがより好ましい。電子注入層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.1nm〜200nmが好ましく、0.2nm〜100nmがより好ましく、0.5nm〜50nmが特に好ましい。
【0079】
(陽極、陰極)
陽極としては、発光層に正孔を供給する電極としての機能を有していれば特に制限されない。本発明の白色有機電界発光素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方は透明であることが好ましい。陽極を構成する材料としては、例えば、アンチモン、フッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、これらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料、これらとITOとの積層物などが挙げられる。陰極を構成する材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、その他の金属、これらの金属の合金などが挙げられる。
陽極の厚みとしては、特に制限はなく、材料により適宜選択可能であるが、10nm〜5μmが好ましく、陰極の厚みとしては、10nm〜1,000nmが好ましい。
以下、本発明の絶縁層付基板を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0080】
[実施例1〜12及び比較例1,2]
(基板の準備)
基板として3cm角のガラス基板、SUS430基板(厚さ100μm)、陽極酸化アルミ基板を準備した。陽極酸化アルミ基板は、次の手法で作製した。厚さ30μmのアルミニウムと厚さ50μmのSUS430からなるクラッド材のそれぞれを、シュウ酸電解液を用いて40Vの定電圧条件で陽極酸化し、10μmの陽極酸化アルミが表面に形成された基板を作製した。
【0081】
(アルカリ金属ケイ酸塩層およびMo電極の形成)
ケイ酸リチウム(日産化学製:リチウムシリケート45(SiO2:Li2O:水=20.1%:2.3%:77.7%))、ケイ酸カリウム(富士化学製:2号ケイ酸カリ(SiO2:K2O:水=20.9%:9.0%:70.1%))、ケイ酸ナトリウム(昭和化学製:3号ケイ酸ナトリウム(SiO2:Na2O:水=29.0%:10.0%:61.0%))、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム10水和物、リン酸(85%溶液)、水をそれぞれ表1に示す質量比で混合し、塗布液を調液した。基板上に塗布液を滴下し、スピンコートにてアルカリ金属ケイ酸塩層を形成した。その後、基板に対して、200℃、300℃、400℃の条件で熱処理を行った。
【0082】
(経時劣化性の評価)
50℃50%の恒温槽内に基板を1週間保管し、表面の変化を光学顕微鏡で確認し、異物の大きさに応じ、以下の基準により評価した。また、実施例10および比較例1の絶縁層付基板の光学顕微鏡写真を図5に示す。
AA:異物が観察されなかった
A :1μm未満の異物
B :1μm以上10μm未満の異物
C :10μm以上の異物
【0083】
(Moの表面性評価)
経時劣化を観察した試料とは別に、同様にスピンコートにてアルカリ金属ケイ酸塩層を形成し、直後に基板に対して450℃で30分間の熱処理を行った後、DCスパッタにて、基板上にMoを厚さ800nm形成した。形成したアルカリ金属ケイ酸塩層上のMo表面の不純物量を、光学顕微鏡を用いて表面を観察し、異物の量を観察し、1mm四方あたりの異物の個数に応じ以下の基準で評価した。実施例1および比較例1のMo表面の顕微鏡写真を図6に示す。実施例1では異物は観察されなかったが、比較例1では1mm四方あたり10000個以上の異物が観察された。
AA:異物が観察されなかった
A :異物が1個以上10個未満
B :異物が10個以上100個未満
C :異物が10000個以上
【0084】
(太陽電池の作製)
Mo電極上にCIGS太陽電池を成膜した。なお、本実施例では、蒸着源として高純度銅とインジウム(純度99.9999%)、高純度Ga(純度99.999%)、高純度Se(純度99.999%)の粒状原材料を用いた。基板温度モニターとして、クロメル−アルメル熱電対を用いた。主真空チャンバーを10-6Torr(1.3×10-3Pa)まで真空排気した後、各蒸発源からの蒸着レートを制御して、最高基板温度530℃の製膜条件で、膜厚約1.8μmのCIGS薄膜を製膜した。続いてバッファ層として、CdS薄膜を90nm程度溶液成長法で堆積し、その上に、透明導電膜のZnO:A1膜をDCスパッタ法で厚さ0.6μmで形成した。最後に上部電極として、Alグリッド電極を蒸着法で形成し太陽電池セルを作製した。
【0085】
(発電効率の測定)
作製した太陽電池セル(面積0.5cm2)に、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を照射して、エネルギー変換効率を測定した。実施例、比較例の太陽電池セルについて、それぞれ、8個のサンプルを作製した。各太陽電池セルについて上記条件で光電変換効率を測定し、その中での最高値および変動係数(8セルの標準偏差を、平均値で割った値)を各実施例、比較例の太陽電池セルの変換効率およびばらつきとして評価した。
【0086】
塗布液の処方とともに絶縁層付基板の経時劣化性評価、Mo表面性評価、発電効率の測定結果を表1に示す。表1のモル比は質量比からモル比に換算したものである(表2についても同様)。
【0087】
【表1】

【0088】
表1および図5から明らかなように、ホウ素を添加した実施例では、添加をしていない比較例と比べて、経時による絶縁層付基板の異物発生が顕著に軽減され経時の劣化が抑制された。また、Mo表面の異物をも大幅に抑制することができた。比較例1および2ではMo表面の異物密度が高く、Mo下部電極と上部電極との局所ショートが発生したり、異物近傍におけるMo電極・CIGS光電変換層の界面抵抗が高くなったりしたために、これらに起因して発電効率が低く、ばらつきが大きかったものと考えられる。
【0089】
また、実施例6〜9では、実施例1〜3よりもさらにMoの表面性が向上し、発電効率が高く、ばらつきもさらに小さくなった。このことから、ケイ酸リチウムまたはケイ酸カリウムと、ケイ酸ナトリウムを併用することによって、さらに発電効率を上げることができることがわかる。
【0090】
[実施例13、比較例3]
50μmのアルミニウム箔の両面に10μmの陽極酸化皮膜を形成し、実施例8および比較例1と同様の処方で準備した塗布液をそれぞれ塗布し、200℃、300℃、400℃で熱処理を行い絶縁層付基板を作製した。上記と同様にして経時劣化性を評価した。
【0091】
(有機薄膜太陽電池)
実施例13及び比較例3の基板について、経時劣化を観察した試料とは別に、同様にスピンコートにてアルカリ金属ケイ酸塩層を形成し、直後に基板に対して250℃で30分間の熱処理を行った後、基板上に、Agを真空蒸着して下部電極(正極)を設けた。次いで、強酸性ポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホン酸複合体(PEDOT−PSS)を140℃で回転塗布し正孔輸送層を設けた。続いて、P3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン、Lisicon SP−001(商品名)、メルク社製)−ICBAを140℃で回転塗布し光電変換層を設けた。この上に、Al/Ag/ITOを160℃で真空蒸着/スパッタし光透過性の上部電極を設け、さらにAgをストライプパターンで真空蒸着により設け上部電極の補助配線とした。最後に、太陽電池封止用EVA(熱硬化剤の混合されたエチレン−酢酸ビニル共重合体、0.5mm厚、商品名ソーラーエバ)を接着剤として、バリアフィルムとしてPEN/SiNxフィルムを重ね合わせ、140℃で真空ラミネートし有機薄膜太陽電池を完成させた。
上記と同様の方法で発電効率を測定し、8個のサンプルの平均値を求めた。塗布液の組成とともに評価結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
表2に示すように、有機薄膜太陽電池においても実施例13の絶縁層付基板の場合には、経時による異物発生が顕著に軽減されて経時の劣化が抑制され、光電変換効率が5倍以上と際立って高かった。比較例3の絶縁層付基板の場合には、経時による異物発生が顕著であった。
【符号の説明】
【0094】
10 光電変換素子
11 基板
12 陽極酸化膜
13 アルカリ金属ケイ酸塩層
14 下部電極(裏面電極)
15 光電変換半導体層
16 バッファ層
17 透光性導電層(透明電極)
18 上部電極(グリッド電極)
20 有機電子デバイス
21 基板
23 アルカリ金属ケイ酸塩層
24 透明電極層
25 有機の活性層
26 n型酸化物半導体層
27 金属電極層
28 上部封止部材
30 有機EL素子
31 基板
33 アルカリ金属ケイ酸塩層
34 陽極
35 正孔注入層
36 正孔輸送層
37 発光層
38 電子輸送層
39 電子注入層
40 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、ホウ素と、ケイ素と、アルカリ金属を含み、液相法によって形成されたアルカリ金属ケイ酸塩層(但し、アルカリ土類金属を含まない)からなる絶縁層を有することを特徴とする絶縁層付基板。
【請求項2】
前記アルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の絶縁層付基板。
【請求項3】
前記アルカリ金属がリチウムまたはカリウムと、ナトリウムとの2種を含むことを特徴とする請求項1または2記載の絶縁層付基板。
【請求項4】
前記ケイ素に対する、前記ホウ素のモル比が、0.15以下であることを特徴とする請求項1、2または3記載の絶縁層付基板。
【請求項5】
前記アルカリ金属ケイ酸塩層の厚さが2μm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の絶縁層付基板。
【請求項6】
前記基板が金属基板であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の絶縁層付基板。
【請求項7】
前記金属基板の表面に陽極酸化アルミニウム皮膜を形成したものであることを特徴とする請求項6記載の絶縁層付基板。
【請求項8】
前記金属基板がアルミニウム、ステンレスまたは鉄鋼板の片面あるいは両面をアルミニウム板で一体化したクラッド材であることを特徴とする請求項6または7記載の絶縁層付基板。
【請求項9】
前記陽極酸化アルミニウム皮膜がポーラス型陽極酸化アルミニウム皮膜であって、該ポーラス型陽極酸化アルミニウム皮膜が圧縮応力を有することを特徴とする請求項7または8項記載の絶縁層付基板。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項記載の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とする半導体素子。
【請求項11】
請求項1〜9いずれか1項記載の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とする光電変換素子。
【請求項12】
請求項1〜9いずれか1項記載の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とする発光素子。
【請求項13】
請求項1〜9いずれか1項記載の絶縁層付基板上に形成されたものであることを特徴とする電子回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−84894(P2013−84894A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−111209(P2012−111209)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】