説明

絶縁性高分子材料組成物

【課題】作業性を悪化させることなく、高電圧機器等の高分子製品において良好な機械的物性,電気的物性を得ると共に、十分な生分解性で地球環境保全に貢献する。
【解決手段】エポキシ化大豆油に対して、硬化剤として酸無水物を添加し、硬化促進剤としてジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物を添加(例えば、0.5phr〜16.0phrの範囲で添加)し、その添加量に応じた条件で混練し該混練物を熱処理することにより、過酸化物加硫を施し三次元架橋させて絶縁性高分子材料組成物を得る。この絶縁性高分子材料組成物を、高電圧機器等の高分子製品に適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性高分子材料組成物に関するものであって、例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた高電圧機器の絶縁構成に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
例えば筐体内に遮断器や断路器等の開閉機器を備えた電圧機器(高電圧機器等)の絶縁構成(例えば、絶縁性を要する部位)に適用(例えば、屋外に直接暴露して適用)される材料として、石油由来の熱硬化性樹脂(石油を出発物質とした樹脂;エポキシ樹脂等)を主成分とした高分子材料を硬化して成る組成物、例えば高分子材料を注型して成る組成物により構成された製品(モールド注型品;以下、高分子製品と称する)が、従来から広く知られている。
【0003】
社会の高度化・集中化に伴って高電圧機器等の大容量化,小型化や高い信頼性(例えば、機械的物性(絶縁破壊電界特性等),電気的物性)等が強く要求されると共に、前記の高分子製品に対しても種々の特性の向上が要求されてきた。
【0004】
一般的には、高分子材料の主成分として例えばガラス転移点(以下、Tgと称する)100℃以上の耐熱性エポキシ樹脂や比較的に機械的物性(強度等)の高いビスフェノールA型のエポキシ樹脂を用いた高分子製品が知られているが、前記の高分子製品を処分(例えば、寿命,故障等の理由で処分)する場合を考慮して、生分解性を有する高分子材料から成る高分子製品の開発が試みられている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−358829号公報。
【0005】
なお、種々の技術分野において、植物由来の高分子材料を硬化して成る組成物を適用(例えば印刷配線ボードに適用)する試みが行われ(例えば、特許文献2)、例えば室温雰囲気下で使用した場合には十分な機械的物性が得られることが知られているが、その組成物はアルデヒド類を硬化剤として用いたものであり、高温雰囲気下では機械的物性が低くなるため高電圧機器には適用されていなかった。
【特許文献2】特開2002−53699号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、高分子材料の主成分としてガラス転移点(以下、Tgと称する)100℃以上の耐熱性エポキシ樹脂等を用いて成る高分子製品は、硬く脆弱であり、温度変化が激しい環境下で使用した場合にはクラックが発生し易い恐れがある。このため、例えば高分子材料の主成分として固形エポキシ樹脂(例えば、金属導体を用いた耐クラック性試験の結果が−30℃以下のもの)を用いたり、該高分子材料に多量の充填材を添加して耐クラック性等を向上させる試みが行われているが、その高分子材料の粘度が著しく高くなってしまい、例えば注型作業等において十分なポットライフ(工業的な作業に必要な最低限の時間)を確保できず、作業性が悪化する恐れがある。
【0007】
また、前記のビスフェノールA型のエポキシ樹脂は、機械的物性が高い特性を有することから工業製品として広く使用されているが、そのビスフェノールA自体は環境ホルモンとして有害性を有するものとみなされ、環境性の観点から懸念され始めている。高分子製品のように硬化された組成物中であれば、その組成物中からビスフェノールAが漏出することは殆どなく有害性はないとの報告もあるが、極めて微量(例えば、ppmレベル、またはそれ以下の量)であっても有害性を有する物質であることから、たとえ前記のように組成物中であっても該組成物中に未反応のビスフェノールA(低分子量成分)が存在する場合には、そのビスフェノールAが気中に漏洩してしまう可能性があり、懸念されている。
【0008】
例えば、高分子製品の製造施設において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と種々の添加剤等とを合成する工程や、その合成工程後の高分子材料を注型する工程等の限定された環境下では、高濃度のビスフェノールA雰囲気下になる恐れがある。たとえ前記製造設備の各工程において完全無人化(高分子製品の製造ラインの無人化)を図っても、それら各工程において換気設備(使用環境における空気を浄化するための設備)を要することとなるため(すなわち、従来では想定しなかった換気設備を要するため)、その製品コストの増加を招く恐れがある。
【0009】
前記の高分子製品を処分(例えば、寿命,故障等の理由で処分)する場合については、種々の処理方法を適用することが可能であるが、それぞれ以下に示す問題点がある。
【0010】
石油由来の物質(例えば、エポキシ樹脂等)を主成分とする高分子材料から成る高分子製品の場合、焼却処理する方法を適用すると種々の有害物質や二酸化炭素を大量に排出し、環境汚染,地球温暖化等の問題を引き起こす恐れがある点で懸念されていた。一方、前記の高分子製品を単に埋立て処理する方法を適用することもできるが、その埋立て処理に係る最終処分場は年々減少している傾向である。この最終処分場の残余年数に関して、旧・厚生省では平成20年頃と試算している。また、旧・経済企画庁では、前記の旧・厚生省の試算に基づいて、平成20年頃に廃棄物処理費用が高騰し、経済成長率が押し下げられると予測している。
【0011】
なお、前記の高分子製品を回収し再利用(リサイクル)する試みもあるが、その再利用方法は確立されておらず殆ど行われていない。例外的に、品質が比較的均一な部材(高分子製品に用いられているPEケーブル被覆部材)のみを回収しサーマルエネルギーとして利用されているが、このサーマルエネルギーは燃焼処理工程を要するため、前記のように環境汚染,地球温暖化等の問題を招く恐れがある。
【0012】
一方、生分解性を有する高分子材料から成る高分子製品の場合は、例えば温度100℃以上の雰囲気下で使用すると溶融してしまう恐れがある。また、生物由来の架橋組成物から成る高分子製品の場合は、アルデヒド類を硬化物として用いるため、常温程度の温度雰囲気下(例えば、印刷配線ボードにおける温度環境)では高い機械的物性を有するものの、高温雰囲気下(例えば、高電圧機器等の使用環境)では十分な機械的物性が得られない恐れがある。
【0013】
以上示したようなことから、高分子製品の特性(機械的物性,電気的特性等)を良好に維持すると共に、その高分子製品の処分に係る諸問題の改善が求められている。
【0014】
本発明は、前記課題に基づいて成されたものであり、作業性を悪化させることなく、高電圧機器等の高分子製品において良好な機械的物性,電気的物性を付与できると共に、十分な生分解性を有し環境性に優れた絶縁性高分子材料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記の課題の解決を図るためのものであって、請求項1記載の発明は、請求項1記載の発明は、電圧機器の絶縁構成に用いられるものであって、エポキシ化大豆油に酸無水物,有機過酸化物が添加された混練物から成り、前記の混練物を熱処理により三次元架橋したことを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記の請求項1記載の発明において、前記の有機過酸化物の添加量は、0.5phr〜16.0phrであることを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記の請求項1または2記載の発明において、前記の有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイド、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン−3、1−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)−4−イソプロピルベンゼン、1−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)−3−イソプロピルベンゼンのうち何れかであることを特徴とする。
【0018】
本発明のように三次元架橋構造の絶縁性高分子材料組成物によれば、例えば従来の高分子製品のように大量の充填剤を用いなくとも、高い体積抵抗率(絶縁性),絶縁破壊電界特性が得られる(例えば、既存のビスフェノールA型エポキシ樹脂から成るものと比較して、同等の体積抵抗率が得られると共に、良好な絶縁破壊電界特性が得られる)。
【0019】
また、前記の絶縁性高分子材料組成物は、焼却処理しても有害物質や二酸化炭素等が発生することはなく、土中に埋立て処理した場合には十分に生分解される。
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明によれば、作業性を悪化させることなく(例えば、十分なポットライフを確保)、高電圧機器等の高分子製品として良好な機械的物性,電気的物性が得られると共に、十分な生分解性を有し地球環境保全に貢献することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態における絶縁性高分子材料組成物を詳細に説明する。
【0022】
本実施の形態は、例えば高分子製品の絶縁性を要する部位に適用される絶縁性高分子材料組成物において、エポキシ樹脂等の石油由来の高分子材料を用いる替わりに、天然由来であって三次元架橋する高分子材料(すなわち、天然材料を基材(出発物質)とする高分子材料)を用いるものである。
【0023】
すなわち、前記のような高分子材料であれば、作業性を悪化させることなく十分良好な電気的物性,機械的物性が得られ高電圧機器に適用できると共に、その高分子材料自体はカーボンニュートラルであるため、該高分子材料から成る組成物(高分子製品等)を焼却処理しても、有害物質(例えば、環境ホルモン等)や二酸化炭素等の排出を防止または抑制でき、例えば土中に埋めた場合には生分解できることに着目したものである。天然由来の高分子材料から成る組成物において、印刷配線ボードに適用した例は知られているが、高電圧機器等の高分子製品に適用した例はなかった。
【0024】
具体的には、前記のように天然由来であって三次元架橋する高分子材料としてエポキシ化大豆油を用いたものである。従来、エポキシ化大豆油は、例えばエポキシ化亜麻仁油と同様に塩化ビニル樹脂における安定剤として広く使用されてきたが、一般的な工業用エポキシ樹脂と比較すると反応性が乏しく硬化に長時間を要し、Tg特性や機械的物性が低いことから、高電圧機器の高分子製品として適用および検討されることはなかった。
【0025】
本実施の形態では、エポキシ化大豆油を硬化させて成る絶縁性高分子材料組成物において、酸無水物を用いて(エポキシ化大豆油に添加して)前記の硬化を図ることによりTgが向上し、絶縁性高分子材料組成物の絶縁性が高められ、既存の工業用エポキシ樹脂製品よりも良好な特性が得られる(例えば、絶縁破壊電界特性が良好である)ことを見出したものである。
【0026】
前記の酸無水物は、例えばエポキシ化大豆油のオキシラン濃度によりエポキシ当量を算出し、そのエポキシ当量に基づいた化学量論量を添加する。また、前記酸無水物における硬化の起点(硬化促進剤の役割)として有機過酸化物(架橋剤)を用いることにより、過酸化物加硫を施しても良い。前記の有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド(以下、架橋剤Aと称する)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(以下、架橋剤Bと称する)、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン−3(以下、架橋剤Cと称する)、1−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)−4−イソプロピルベンゼン(以下、架橋剤Dと称する)、1−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)−3−イソプロピルベンゼン(以下、架橋剤Eと称する)等が挙げられるが、それ以外にも分子構造中に「−O−O−」を有するものであれば適宜用いても良い。
【0027】
なお、本実施の形態は、例えば作業性の向上(例えば、作業時間の短縮等),成形性,Tg特性,機械的・物理的物性,電気的物性等の改善を図る目的で、前記のエポキシ化大豆油,酸無水物,有機過酸化物の他に種々の添加剤を適宜用いることができ、例えば有機過酸化物の反応を制御する目的で反応助剤を併用することが可能であるが、絶縁性高分子材料組成物における架橋は本質的に有機過酸化物によるものであって、該反応助剤の有無によって架橋構造が影響を受けることはない。
【0028】
また、前記の有機過酸化物の添加量や混練後の熱処理条件等(温度,時間等)は、その有機過酸化物の種類に応じて適宜設定することが可能である。前記の有機化酸化物における反応温度温度領域は特異的に定められているものであり、例えば複数種のものを用い混練条件,熱処理条件等を段階的に変化させた場合には、目的とする物性を付与(すなわち、絶縁性高分子材料組成物の物性を制御)することも可能となる。なお、後述の実施例では。有機過酸化物の有効性を実証する観点から、熱処理条件は170℃,1時間に設定した。
【0029】
[実施例]
次に、本実施の形態における絶縁性高分子材料組成物の実施例を説明する。まず、本実施例では、エポキシ化大豆油に対して、硬化剤として酸無水物(日立化成工業社製のHN2200R)を化学量論量添加すると共に、その硬化促進剤として架橋剤A〜Eのうち何れかを後述の表1に示すように0.2phr〜20.0phrの範囲で添加して混練(添加量に応じた条件で混練)した後、その混練物に関して温度170℃で1時間熱処理し過酸化物加硫を施すことにより、三次元架橋された絶縁性高分子材料組成物の試料A1〜A6,B1〜B6,C1〜C6,D1〜D6,E1〜E6をそれぞれ作成した。
【0030】
また、前記の試料A1〜E6の比較例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(バンティコ社製のCT200A)に対して、硬化剤,硬化促進剤としてそれぞれ酸無水物(試料A1〜E6と同様のもの)等を所定量添加して混練(添加量に応じた条件で混練)した後、その混練物に関して温度120℃で16時間熱処理し過酸化物加硫を施すことにより、三次元架橋された絶縁性高分子材料組成物の試料Pを作成した。
【0031】
そして、JIS−K6911に基づいて、前記の各試料A1〜E6,Pの電気的物性(絶縁性)として体積抵抗率を測定し、絶縁破壊電界特性として温度0℃および100℃での「絶縁破壊の強さ」(短時間法による破壊電界(AC))を測定し、各測定結果を後述の表1にそれぞれ示した。
【0032】
【表1】

【0033】
前記表1に示す結果において、酸無水物の添加量が20.0phrの試料A6,B6,C6,D6,E6は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂から成る試料Pと同様の体積抵抗率が測定されたが、絶縁破壊の強さに関しては該試料A6,B6,C6,D6,E6自体がそれぞれ発泡していたため測定することができなかった。また、酸無水物の添加量が0.2phrの試料A1,B1,C1,D1,E1は、試料Pと同様の体積抵抗率が測定されたが、絶縁破壊の強さは測定することができたものの試料Pよりも低いことを読み取れる。
【0034】
一方、酸無水物の添加量が0.5phr〜16.0phrの試料A2〜A5,B2〜B5,C2〜C5,D2〜D5,E2〜E5は、試料Pと同様の体積抵抗率が測定されると共に、その試料Pよりも大きい絶縁破壊の強さが測定された。
【0035】
したがって、前記の試料A2〜E5のように生分解性を有するエポキシ化大豆油に酸無水物を添加(化学量論量添加)すると共に、有機過酸化物を0.5phr〜16.0phrの範囲で添加して混練し、その混練物を過酸化物加硫して三次元架橋させることにより、その得られた絶縁性高分子材料組成物において発泡することはなく、高電圧機器等の高分子製品として十分な電気的物性が得られると共に、良好な絶縁破壊電界特性が得られることを確認できた。
【0036】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0037】
例えば、高分子材料(エポキシ化大豆油)に酸無水物,有機過酸化物が添加された混練物における混練条件や熱処理条件は、例えば高分子材料,酸無水物,有機過酸化物の種類や添加量に応じて適宜設定されるものであり、本実施例で示した内容に限定されるものではない。また、前記の高分子材料,酸無水物,有機過酸化物の他に、種々の添加剤を適宜用いた場合においても、本実施例に示したものと同様の作用効果が得られることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧機器の絶縁構成に用いられるものであって、
エポキシ化大豆油に酸無水物,有機過酸化物が添加された混練物から成り、
前記の混練物を熱処理により三次元架橋したことを特徴とする絶縁性高分子材料組成物。
【請求項2】
前記の有機過酸化物の添加量は、0.5phr〜16.0phrであることを特徴とする請求項1記載の絶縁性高分子材料組成物。
【請求項3】
前記の有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイド、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5ジメチル2,5ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン−3、1−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)−4−イソプロピルベンゼン、1−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)−3−イソプロピルベンゼンのうち何れかであることを特徴とする請求項1または2記載の絶縁性高分子材料組成物。

【公開番号】特開2008−37923(P2008−37923A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210845(P2006−210845)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】