説明

絶縁構造材料およびその製造方法

【課題】土壌中で微生物分解を促進する有機フィラーを添加しても粘度の上昇を抑え、注型作業を容易とする絶縁構造材料を提供する。
【解決手段】草木系植物を高圧水熱処理して得られたセルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体からなる有機フィラー3と、有機フィラー3が添加される好ましくは熱硬化性のマトリックス樹脂2とを備え、有機フィラー3を例えば0.1〜200μmの大きさに分級してオリゴエステル化処理を施し、粘度の上昇を抑えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力機器や受配電機器などに用いられるブッシング、絶縁スペーサなどのエポキシ樹脂注型物、不飽和ポリエステル樹脂成形物、封止絶縁物などを製造するときに用いられる絶縁構造材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂は、優れた絶縁性、機械性、耐熱性、耐薬品性、耐候性などを有し、電力分野や半導体分野の絶縁材料として広く用いられている。しかしながら、優れた耐久性を備えているので、長年の使用に耐えた後、かかる絶縁材料を処分する段階において、再利用や分解が難しく、廃棄物としての処理が困難であった。また、絶縁材料においては、石油に依存してきたものから脱却し、新しい機能を付加したものが求められている。
【0003】
このような要求に対して、木質資源を出発原料としたセルロース誘導体若しくはヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーをエポキシ樹脂などに添加した絶縁構造材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、有機フィラーを添加することによる電気的特性や機械的特性の低下を抑えるものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−171799号公報 (第4〜6ページ、図1)
【特許文献2】特開2008−53174号公報 (第3〜5ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の絶縁構造材料においては、次のような問題がある。木質資源からなるバイオマス材料では、素材中にセルロース誘導体やヘミセルロース誘導体などの水酸基を多く持つ長い繊維状高分子が多量に存在している。このため、隣り合う分子鎖間で水酸基同士が引き合い、流動性が低下する。このような有機フィラーをエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂に添加すると、粘度が上昇し、注型作業を困難とさせる。例えば、エポキシ樹脂100重量部に対し有機フィラーを30重量部添加すると、餅状となり、注型金型に絶縁構造材料を流し込むことが困難となっていた。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、有機フィラーを添加しても粘度の上昇を抑制し、注型作業を容易にし得る絶縁構造材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の絶縁構造材料は、木質資源を転換精製して得られたセルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーと、前記有機フィラーが添加されるマトリックス樹脂とを備え、前記有機フィラーにオリゴエステル化処理を施したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オリゴエステル化処理した有機フィラーをマトリックス樹脂に添加しているので、これらを混合したときの樹脂粘度の上昇が抑えられ、注型作業を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(絶縁構造材料の構成)
絶縁構造材料の構成を図1に示す。図1に示すように、絶縁構造材料1は、熱硬化性マトリックス樹脂2中に、木質資源を出発原料とする有機フィラー3を分散させたものである。
【0009】
熱硬化性マトリックス樹脂2としては、電気絶縁材料で用いられるエポキシ樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。また、ポリエチレン樹脂のような熱可塑性マトリックス樹脂も用いることができる。ここで、熱硬化樹脂と熱可塑性樹脂とを併せて、単にマトリックス樹脂と称す。
【0010】
(有機フィラー3の製造方法)
有機フィラー3の製造方法を図2に示す。図2に示すように、先ず、木質原料を高圧水熱処理で転換精製してセルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体を得る(st1)。高圧水熱処理の条件は、温度が170〜200℃、好ましくは190℃で、圧力が1.8〜2.2MPa、好ましくは2.0MPaであり、この条件下で木質系フィラー内のオリゴ糖分を分解する。木質原料としては、コーンコブ、米わら、麦わらなどの草木系植物を用いる。なお、セルロース誘導体を得る方法として、濃硫酸による分解があるが、セルロース誘導体の端末部に硫黄が付加され、諸特性への悪影響が懸念される。
【0011】
次に、得られたセルロース誘導体を乾燥後、粉砕し、分級を行う(st2)。大きさ(粒径)を0.1〜200μm、好ましくは1〜100μm、更に好ましくは5〜70μmにすると、分散が均一となり、機械的特性を向上させることができる。200μm超過では、熱硬化性マトリックス樹脂2内で異物のような作用をして、応力集中の起点となり機械的特性を低下させる。0.1μm未満では、熱硬化性マトリックス樹脂2への混合時に粘度が上昇し、作業性が悪くなる。
【0012】
次に、分級したセルロース誘導体を溶媒である酸無水物中でオリゴエステル化処理する(st3)。オリゴエステル化処理の化学反応プロセスは、有機フィラー3と、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸などの酸無水物とを反応させることにより、セルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体の末端部にカルボキシル基(COOH)を付加し、更にエポキシド化合物と反応させることにより、側鎖に水酸基(OH)を有する構造とすることである。
【0013】
(絶縁構造材料の製造例)
木質資源を出発原料として分解精製したセルロースの構造式を式(1)に示す。式(1)において、セルロースはブドウ糖をユニットとして(1→4)−β−グルコシド結合したものである。セルロース直鎖中にはブドウ糖骨格由来の水酸基が多量にあり、隣接するセルロース鎖間で水素結合を発生し、結晶状態で存在する。nは、正の整数である。
【0014】
次に、この水素結合を一度切断するため、式(2)に示す左側のセルロースとその右側の酸無水物とを反応させ、エステル化させる。
【化1】

【化2】

【0015】
更に、式(3)に示すように、エポキシドと反応させると、酸無水物にエポキシドが交互に付加し、重合性二重結合を有するオリゴエステル鎖が生成される。nは、正の整数である。ここでは、このような反応を、中間体を単離せずに行って、一段でオリゴエステル化している。オリゴエステル化の反応単位は、1または2となる。
【化3】

【0016】
オリゴエステル化した有機フィラー3は、絶縁構造材料1の樹脂成分に対して5〜200質量%を含有させるものである。熱硬化性マトリックス樹脂2の構造式を式(4)に示す。ビスフェノールA型エポキシ樹脂とメチルテトラヒドロ無水フタル酸とを使用する。nは、0または正の整数である。エポキシ樹脂の構造端末にはエポキシ基があり、アミンなどの適切な触媒存在下で加熱すると、メチルテトラヒドロ無水フタル酸との間で開環重合を開始する。エポキシ樹脂中に存在する水酸基は、樹脂の架橋構造に影響を与える。同様にオリゴエステル化したセルロースの水酸基も樹脂の硬化反応に介在することになる。
【化4】

【0017】
このように所定の大きさに分級し、オリゴエステル化処理した有機フィラー3を用いて製造した絶縁構造材料1は、粘度の上昇が起き難く、注型金型への充填時などの注型作業を容易とすることができる。また、加熱硬化させた注型品においては、土壌埋設時に、長期的に微生物分解させることができる。
【0018】
(絶縁構造材料の他の製造例)
絶縁構造材料1の簡素化のために、熱硬化性マトリックス樹脂2に有機フィラー3のみ充填する系を説明したが、これに加えて、無機充填材やゴム粒子を添加することができる。無機充填材としては、シリカ、アルミナ、マイカ、酸化チタンなど電気絶縁材料として用いられるものが挙げられる。また、界面活性剤、消泡剤、硬化促進剤などの添加剤を添加することができる。これにより、諸特性が優れ、注型作業を容易とする絶縁構造材料1を得ることができる。
【0019】
熱硬化性マトリックス樹脂2がエポキシ樹脂の場合では、添加剤が添加されるか添加されないエポキシ樹脂配合主剤、および添加剤が添加されるか添加されない硬化剤配合剤をそれぞれ別に分けて調製し、絶縁部品を製造する注型工程時に両配合物を混ぜ合わせて使用することができる。このように本発明はここには記載していない様々な実施を含むことは勿論である。
【実施例】
【0020】
図2に示す手順でオリゴエステル化処理した有機フィラー3を150重量部と、ビスフェノール型エポキシ樹脂を100重量部と、無水酸化物硬化剤(商品名:カヤハード(MCD)日本化薬社製)を86重量部と、アミン系硬化促進剤0.8重量部とをそれぞれ添加し、自公転式混合攪拌機で混合した。次いで、得られた混合樹脂を加熱脱泡した後、温度80℃に予熱した注型金型内に流し込み、温度80℃で15時間かけて一次硬化させた。離型後、温度150℃の加熱炉に15時間入炉し、二次硬化させて注型品を得た。
【0021】
このようにオリゴエステル化処理の有機フィラー3は、エポキシ樹脂との相溶性が向上し、多量の添加を可能とする。即ち、熱硬化性マトリックス樹脂2よりも有機フィラー3を多量とすることができる。そして、加熱硬化した注型品は外観形状がよく、電気的特性や機械的特性などは有機フィラー3を添加していないものと同等以上であった。また、有機フィラー3を多量に添加することができるので、微生物分解を確実に促進することができる。
【0022】
(比較例)
オリゴエステル化処理を施していない有機フィラー3を用い、実施例と同様の混合樹脂の製造を試みた。しかしながら、有機フィラー3を90重量部添加したところで粘度が上昇し、注型に適する混合樹脂を製造することが困難となった。
【0023】
上記実施例の絶縁構造材料によれば、オリゴエステル化処理したセルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体からなる有機フィラー3を添加した混合樹脂は、粘度の上昇を抑えることができ、注型作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係る絶縁構造材料の構成を示す断面模式図。
【図2】本発明の実施例に係る有機フィラーの製造工程を示すフローチャート図。
【符号の説明】
【0025】
1 絶縁構造材料
2 熱硬化性マトリックス樹脂
3 有機フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質資源を転換精製して得られたセルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーと、
前記有機フィラーが添加されるマトリックス樹脂とを備え、
前記有機フィラーにオリゴエステル化処理を施したことを特徴とする絶縁構造材料。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂は、熱硬化性であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁構造材料。
【請求項3】
前記有機フィラーを草木系植物から得ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁構造材料。
【請求項4】
前記マトリックス樹脂よりも前記有機フィラーを多量に添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁構造材料。
【請求項5】
前記有機フィラーの大きさを0.1〜200μmとしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁構造材料。
【請求項6】
木質資源を転換精製して得られたセルロース誘導体およびヘミセルロース誘導体からなる有機フィラーと、
前記有機フィラーが添加されるマトリックス樹脂とを有する絶縁構造材料の製造方法であって、
前記有機フィラーは、草木系植物を温度170〜200℃、圧力1.8〜2.2MPaで高圧水熱処理し、
これを乾燥、粉砕、分級し、
そしてオリゴエステル化処理を施したことを特徴とする絶縁構造材料の製造方法。
【請求項7】
前記オリゴエステル化処理は、前記有機フィラーを酸無水物と反応させることを特徴とする請求項6に記載の絶縁構造材料の製造方法。
【請求項8】
前記オリゴエステル化処理の反応単位は、1または2であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の絶縁構造材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53225(P2010−53225A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218349(P2008−218349)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)」
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】