説明

絶縁電線およびこれを用いた電気コイル

【課題】機械的特性に優れた絶縁電線およびこれを用いた電気コイルを提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁電線1は、導体2と、導体2上に形成された絶縁体層3とを有している。また、この絶縁体層3は、導体2上に形成された樹脂絶縁体層4と、樹脂絶縁体層4上に形成され、樹脂と疎水性表面処理されている無機微粒子との混合物で構成される無機微粒子含有絶縁体層5により構成されている。従って、無機微粒子含有絶縁体層5を構成する樹脂と無機微粒子の表面張力を同等にすることが可能になるため、当該樹脂に対する無機微粒子のぬれ性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのコイル等に用いられる絶縁電線、および当該絶縁電線により形成される電気コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ等の回転電機のコイル用巻線等として使用される絶縁電線においては、例えば、可変速制御装置として使用されるインバータで発生したサージ電圧により、導体上に形成されたエナメル線等の絶縁体層に部分放電が発生してしまい、当該部分放電により、絶縁体層の劣化が生じるという問題があった。
【0003】
そこで、当該部分放電による絶縁体層の劣化を回避するために、導体上に形成された絶縁体層上に、樹脂と無機微粒子と、当該樹脂と無機微粒子との親和剤であるカップリング剤からなる無機微粒子含有絶縁体層が形成された絶縁電線が開示されている。より具体的には、当該絶縁電線においては、例えば、導体の表面にポリアミドイミド樹脂からなる絶縁体層が形成されるとともに、当該絶縁体層の表面に、無機微粒子であるシリカと、カップリング剤であるエポキシ系化合物(例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を混合したポリアミドイミド樹脂からなる無機微粒子含有絶縁体層が形成されている。そして、このような構成により、無機微粒子含有絶縁体層の樹脂成分と、無機微粒子とが強力に結合されるため、部分放電による絶縁破壊寿命特性が顕著に向上すると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、無機微粒子含有絶縁体層の樹脂成分としてポリイミド樹脂を使用する場合の最適なカップリング剤として、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤を使用した絶縁電線が開示されている。そして、このような構成により、複合材料の機械的強度や、接着性の改良等の観点において、優れた効果があると記載されている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−331539号公報
【非特許文献1】カタログ「信越シリコーン、シランカップリング剤」、信越化学工業株式会社、2002年12月、p3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、樹脂としてポリアミドイミドを使用し、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとシリカが配合された無機微粒子含有絶縁体層が形成された、上記特許文献1に記載の絶縁電線においては、当該シリカが、無機微粒子含有絶縁体層中で凝集してしまうため、機械的特性(可とう性)の良好な絶縁電線を得ることができないという問題があった。また、上記非特許文献1に記載の絶縁電線においても、無機微粒子含有絶縁体層の樹脂として、ポリアミドイミドを使用した場合、例えば、アミノ系シランカップリング剤であるN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランによって処理が施されたシリカが、無機微粒子含有絶縁体層中で凝集してしまうため、機械的特性(可とう性)の良好な絶縁電線を得ることができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、機械的特性に優れた絶縁電線およびこれを用いた電気コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、導体と、導体上に形成される少なくとも一層の絶縁体層とを有し、絶縁体層の少なくとも一層が、樹脂と無機微粒子との混合物で構成される無機微粒子含有絶縁体層である絶縁電線において、無機微粒子が、疎水性表面処理されていることを特徴とする。
【0008】
同構成によれば、親水性表面処理された無機微粒子を用いる場合に比し、無機微粒子含有絶縁塗料における無機微粒子の凝集が抑制され、無機微粒子含有絶縁塗料の流動性が改善される。また、無機微粒子含有絶縁体層を構成する樹脂と無機微粒子の表面張力を同等にすることが可能になるため、当該樹脂に対する無機微粒子のぬれ性が向上する。従って、無機微粒子含有絶縁体層中における無機微粒子の分散性が向上し、無機微粒子の凝集が防止されるため、絶縁電線の機械的特性(可とう性)が向上することになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の絶縁電線であって、無機微粒子が、アルキルシリル化剤により表面処理されている疎水性シリカであることを特徴とする。同構成によれば、無機微粒子として親水性シリカを用いる場合に比し、シリカ表面のシラノール基による水素結合等の親水性官能基による付着力が低減されるため、無機微粒子含有絶縁塗料におけるシリカの凝集が抑制され、シリカの流動性が改善される。また、無機微粒子含有絶縁体層を構成する樹脂とシリカの表面張力を同等にすることが可能になるため、当該樹脂に対するシリカのぬれ性が向上する。従って、無機微粒子含有絶縁体層中におけるシリカの分散性が向上し、シリカの凝集が防止されるため、絶縁電線の機械的特性(可とう性)が向上することになる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の絶縁電線であって、アルキルシリル化剤が、ヘキサメチルジシラザンまたはジメチルジクロロシランであることを特徴とする。同構成によれば、無機微粒子含有絶縁体層を構成する樹脂と疎水性シリカの表面張力を容易に同等にすることが可能になる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の絶縁電線であって、疎水性シリカの一次粒子の平均粒径が50nm以下であることを特徴とする。同構成によれば、無機微粒子含有絶縁体層における樹脂と疎水性シリカの配合量(体積%)が同一の場合、無機微粒子含有絶縁体層中に存在する疎水性シリカの粒子間の距離が小さくなるため、部分放電による絶縁破壊を効果的に防止することが可能になる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁電線であって、樹脂が、ポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする。同構成によれば、耐熱性が高い樹脂により、無機微粒子含有絶縁体層を形成することが可能になるため、高温での長期使用に耐えることができる絶縁電線を得ることが可能になる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の絶縁電線を巻回して成ることを特徴とする電気コイルである。同構成によれば、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の絶縁電線を備える構成としているため、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の絶縁電線と同じ効果を有する電気コイルを得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁電線の機械的特性(可とう性)を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る絶縁電線の構造を示す断面図であり、図2は、本実施形態に係る絶縁電線により形成された電気コイルの構造を示す斜視図である。
【0016】
図1に示すように、絶縁電線1は、導体2と、当該導体2上に形成された絶縁体層3とを有している。また、この絶縁体層3は、導体2上に形成された樹脂絶縁体層4と、当該樹脂絶縁体層4上に形成され、樹脂と無機微粒子との混合物で構成される無機微粒子含有絶縁体層5により構成されている。なお、図1においては、絶縁体層3を、樹脂絶縁体層4と無機微粒子含有絶縁体層5の2層により形成しているが、本発明においては、導体2上に少なくとも一層からなる絶縁体層3を形成し、当該絶縁体層3の少なくとも一層が、樹脂と無機微粒子との混合物で構成される無機微粒子含有絶縁体層5であれば良い。例えば、絶縁体層3として、無機微粒子含有絶縁体層5のみを設ける構成とすることができる。
【0017】
また、図1に示す絶縁電線1は、導体2上に、樹脂からなる絶縁塗料を塗布して樹脂絶縁体層4を形成した後、当該樹脂絶縁体層4の上に、無機微粒子含有絶縁塗料を塗布して無機微粒子含有絶縁体層5を形成することにより作製される。
【0018】
そして、絶縁電線1を、当該絶縁電線1が巻き付けられたボビン(不図示)から引き出すとともに、磁性体の芯等からなるコア(不図示)に巻回し、絶縁電線1の両端部において絶縁体層3を取り除いて導体2を露出させることにより、図2に示す、モータ等の回転電機用の電気コイル6が形成される。
【0019】
ここで、導体2としては、必要な送電容量が確保できるものであれば良く、特に材質・構成が限定されるわけではないが、材質としては、例えば、銅線、錫めっき銅線、アルミ線、アルミ合金線、鋼心アルミ線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミ線等が挙げられる。
【0020】
また、樹脂絶縁体層4に用いる樹脂としては、絶縁性が高く、耐熱性が高い樹脂であれば特に限定されないが、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、H種ポリエステル樹脂等、長期耐熱温度が155℃以上の樹脂が好ましい。樹脂絶縁体層4の長期耐熱温度を155℃以上とすることにより、高温での長期使用に耐えることができる絶縁電線1を得ることが可能になる。なお、これらの樹脂は、単独で使用しても構わないし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0021】
また、ここで言う長期絶縁耐熱温度とは、JISC3003−1999の耐熱指標により示される耐熱温度であり、所定の温度で20000時間熱処理した後の絶縁破壊電圧が、所定の試験電圧(皮膜の厚みが、0.071〜0.090mmの場合は、1KV)であるときの当該所定の温度を言う。
【0022】
また、本実施形態における無機微粒子含有絶縁体層5は、樹脂と無機微粒子との混合物で構成されており、ここで、使用される樹脂としては、上述の樹脂絶縁体層4に使用される樹脂を使用することができるが、上述のポリアミドイミド樹脂を使用することが好ましい。このような構成によれば、耐熱性が高い樹脂により、無機微粒子含有絶縁体層5を形成することが可能になるため、高温での長期使用に耐えることができる絶縁電線1を得ることが可能になる。また、無機微粒子としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、ケイ酸ジルコニウム、酸化マグネシウム等が使用できるが、シリカが好適に使用される。これは、当該シリカは、表面処理を行い易く、また安価であるからである。
【0023】
なお、樹脂絶縁体層4および無機微粒子含有絶縁体層5の各々について、異なる材料からなる層を多層積層して構成しても良い。例えば、樹脂絶縁体層4を2層以上にするとともに、当該樹脂絶縁体層4の最外層上に無機微粒子含有絶縁体層5を形成する構成としても良い。また、これらの樹脂絶縁体層4、無機微粒子含有絶縁体層5に、潤滑剤等の各種添加剤を使用する構成としても良い。さらに、絶縁電線1の表面に、潤滑層を設ける構成としても良い。
【0024】
ここで、本実施形態においては、無機微粒子含有絶縁体層5に含有される無機微粒子が、疎水性表面処理されている点に特徴がある。このような構成とすることにより、親水性表面処理された無機微粒子を用いる場合に比し、無機微粒子含有絶縁塗料における無機微粒子の凝集が抑制され、無機微粒子含有絶縁塗料の流動性が改善される。また、無機微粒子含有絶縁体層5を構成する樹脂と無機微粒子の表面張力を同等にすることが可能になるため、当該樹脂に対する無機微粒子のぬれ性が向上する。従って、無機微粒子含有絶縁体層5中における無機微粒子の分散性が向上し、無機微粒子の凝集が防止されるため、絶縁電線1の機械的特性(可とう性)が向上することになる。
【0025】
特に、無機微粒子として、上述のシリカを使用する場合、アルキルシリル化剤により疎水性表面処理されている疎水性シリカを用いることにより、親水性シリカを用いる場合に比し、シリカ表面のシラノール基による水素結合等の親水性官能基による付着力が低減されるため、無機微粒子含有絶縁塗料におけるシリカの凝集が抑制され、シリカの流動性が改善される。また、無機微粒子含有絶縁体層5を構成する樹脂とシリカの表面張力を同等にすることが可能になるため、当該樹脂に対するシリカのぬれ性が向上する。従って、無機微粒子含有絶縁体層5中におけるシリカの分散性が向上し、シリカの凝集が防止されるため、絶縁電線1の機械的特性(可とう性)が向上することになる。なお、アルキルシリル化剤により表面処理されている疎水性シリカは、市販されているものを使用することができる。
【0026】
また、無機微粒子含有絶縁体層5を構成する樹脂と疎水性シリカ等の無機微粒子の表面張力は、JIS K6768(プラスチックフィルム及びシートぬれ張力試験方法)に基づいて測定されたものであり、室温が23℃、相対湿度が50%の条件下における値である。従って、本明細書において、表面張力という場合には、後述の実施例に記載のごとく、当該方法に基づいて測定された値をいう。
【0027】
なお、本発明で使用できるアルキルシリル化剤としては、例えば、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラノール、トリメチルメトキシシラン、トリメチルジクロロシラン等が挙げられるが、無機微粒子含有絶縁体層5を構成する樹脂、例えば、ポリアミドイミド樹脂と疎水性シリカ等の無機微粒子の表面張力を容易に同等にすることができるという観点から、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。また、無機微粒子含有絶縁体層5を構成する樹脂に、ポリアミドイミド樹脂以外の樹脂を使用する場合においても、最適なアルキルシリル化剤を適宜選択することにより、樹脂と疎水性シリカ等の無機微粒子の表面張力を容易に同等にすることが可能になり、無機微粒子含有絶縁体層5中における無機微粒子の分散性を向上させることができる。
【0028】
また、無機微粒子である疎水性シリカの一次粒子の平均粒径は、50nm以下のものを使用することが好ましい。これは、このような疎水性シリカを使用することにより、無機微粒子含有絶縁体層5における樹脂と疎水性シリカの配合量(体積%)が同一の場合、無機微粒子含有絶縁体層5中に存在する疎水性シリカの粒子間の距離が小さくなるため、部分放電による絶縁破壊を効果的に防止することが可能になるためである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0030】
(実施例1)
(絶縁電線の作製)
ポリアミドイミド樹脂を、有機系溶剤(N−メチル−2−ピロリドンとキシレンの重量比が80:20)に溶解した絶縁塗料(不揮発成分が25重量%)に、ヘキサメチルジシラザンにより表面処理され、一次粒子の平均粒径が12nmである疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名RX200)を配合し、無機微粒子含有絶縁塗料を作製した。なお、当該無機微粒子含有絶縁塗料の組成は、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、疎水性シリカが20重量部となるようにした。次いで、直径0.997mmの銅導体上に、上述の無機微粒子含有絶縁塗料を竪型焼付炉にて塗布して無機微粒子含有絶縁体層を形成し、絶縁電線を作製した。なお、絶縁電線の仕上げ外径は1.063mm、無機微粒子含有絶縁体層の厚みは0.033mmであった。また、作製された絶縁電線において、常態における外観の異常等は観察されなかった。
【0031】
(表面張力の測定)
疎水性シリカの表面張力を、JIS K6768(プラスチックフィルム及びシートぬれ張力試験方法)に基づいて測定した。即ち、厚さ0.050mmのポリテトラフルオロエチレン樹脂フィルム上に、ぬれ試験用混合液(和光純薬工業(株)製、商品名ぬれ張力試験用混合液)の液滴を形成し、当該液滴の表面上に、上述の疎水性シリカを極少量滴下させ、2秒間、疎水性シリカが、ぬれ試験用混合液中に分散するか、または、ぬれ試験用混合液中に分散しないで、液滴の表面上において弾かれるかどうかを観察した。そして、表面張力の異なるぬれ試験用混合液を用いて、疎水性シリカが、ぬれ試験用混合液中に分散するぬれ試験用混合液を選び、疎水性シリカが分散するぬれ試験用混合液の最大の表面張力を、疎水性シリカの表面張力とした。なお、室温が23℃、相対湿度が50%の条件下において測定した。その結果を表1に示す。
【0032】
また、無機微粒子含有絶縁体層を構成するポリアミドイミド樹脂の表面張力を、JIS K6768に準拠して測定した。より具体的には、厚さ0.050mmのポリアミドイミド樹脂フィルム上に、上述のぬれ試験用混合液の液膜を形成し、2秒間、ぬれ試験用混合液の液膜が、ポリアミドイミド樹脂フィルム上に滴下された時の状態(即ち、ぬれた状態)を保っているか、破れるかを観察した。そして、表面張力の異なるぬれ試験用混合液を用いて、ぬれ試験用混合液の液膜が、ポリアミドイミド樹脂フィルムを正確に2秒間、ぬらすことができるぬれ試験用混合液を選び、当該ぬれ試験用混合液の最大の表面張力を、ポリアミドイミド樹脂の表面張力としたところ、34mN/mであった。なお、室温が23℃、相対湿度が50%の条件下において測定した。
【0033】
(可とう性評価)
次いで、作製した絶縁電線の可とう性を、JIS C3003−1999に基づいて評価した。即ち、作製した絶縁電線を、当該絶縁電線自体に30回巻き付け、各巻き付けにおいて、絶縁電線に亀裂が生じた巻数(即ち、30回の巻き付けにおいて、亀裂が生じた巻数)を指標とすることにより、可とう性の評価を行った。また、作製した絶縁電線に10%の予備伸長を加えた場合についても、同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0034】
(実施例2)
疎水性シリカとして、ヘキサメチルジシラザンにより表面処理された、一次粒子の平均粒径が7nmである疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名RX300)を使用するとともに、直径が0.993mmの銅導体を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁電線を作製した。なお、絶縁電線の仕上げ外径は1.057mm、無機微粒子含有絶縁体層の厚みは0.032mmであった。また、作製された絶縁電線において、常態における外観の異常等は観察されなかった。また、上述の実施例1と同一条件により、疎水性シリカの表面張力の測定、および絶縁電線の可とう性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0035】
(実施例3)
疎水性シリカとして、ジメチルジクロロシランにより表面処理された、一次粒子の平均粒径が12nmである疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名R974)を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁電線を作製した。なお、絶縁電線の仕上げ外径は1.061mm、無機微粒子含有絶縁体層の厚みは0.032mmであった。また、作製された絶縁電線において、常態における外観の異常等は観察されなかった。また、上述の実施例1と同一条件により、疎水性シリカの表面張力の測定、および絶縁電線の可とう性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0036】
(実施例4)
疎水性シリカとして、ジメチルジクロロシランにより表面処理された、一次粒子の平均粒径が7nmである疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名R976S)を使用するとともに、直径が0.993mmの銅導体を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁電線を作製した。なお、絶縁電線の仕上げ外径は1.057mm、無機微粒子含有絶縁体層の厚みは0.032mmであった。また、作製された絶縁電線において、常態における外観の異常等は観察されなかった。また、上述の実施例1と同一条件により、疎水性シリカの表面張力の測定、および絶縁電線の可とう性評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
無機微粒子として、表面処理が施されていない、一次粒子の平均粒径が12nmであるシリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名200)を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁電線を作製した。なお、絶縁電線の仕上げ外径は1.064mm、無機微粒子含有絶縁体層の厚みは0.034mmであった。また、作製された絶縁電線の表面において、複数の凹凸が観測された。また、上述の実施例1と同一条件により、シリカの表面張力の測定、および絶縁電線の可とう性評価を行った。以上の結果を表2に示す。
【0038】
(比較例2)
無機微粒子として、一次粒子の平均粒径が12nmであるシリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名200)をγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名KBM−403)により表面処理したシリカを使用するとともに、直径が0.993mmの銅導体を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁電線を作製した。なお、絶縁電線の仕上げ外径は1.076mm、無機微粒子含有絶縁体層の厚みは0.042mmであった。また、作製された絶縁電線の表面において、複数の凹凸が観察された。また、上述の実施例1と同一条件により、シリカの表面張力の測定、および絶縁電線の可とう性評価を行った。以上の結果を表2に示す。
【0039】
(比較例3)
無機微粒子として、一次粒子の平均粒径が12nmであるシリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名200)をN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名KBM−573)により表面処理したシリカを使用するとともに、直径が0.993mmの銅導体を使用したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、絶縁電線を作製した。なお、絶縁電線の仕上げ外径は1.076mm、無機微粒子含有絶縁体層の厚みは0.042mmであった。また、作製された絶縁電線の表面において、複数の凹凸が観察された。また、上述の実施例1と同一条件により、シリカの表面張力の測定、および絶縁電線の可とう性評価を行った。以上の結果を表2に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表1、表2に示すように、疎水性シリカを使用した実施例1〜4においては、比較例1〜3に比し、いずれの場合も、良好な可とう性を示しており、絶縁電線の機械的特性が向上していることが判る。特に、絶縁電線に10%の予備伸長を加えた場合、実施例1においては、比較例1〜3に比し、極めて良好な可とう性を示しており、絶縁電線の機械的特性が飛躍的に向上していることが判る。これは、表1に示すように、実施例1〜4の各々において使用された疎水性シリカの表面張力(36mN/m、または42mN/m)が、上述の、無機微粒子含有絶縁体層を構成するポリアミドイミド樹脂の表面張力(34mN/m)に非常に近く、同等であるため、当該ポリアミドイミド樹脂に対するシリカのぬれ性が向上するとともに、無機微粒子含有絶縁体層中におけるシリカの分散性が向上し、当該シリカの凝集が防止されたためであるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の活用例としては、モータのコイル等に用いられる絶縁電線、および当該絶縁電線により形成された電気コイルが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る絶縁電線の構造を示す断面図である。
【図2】本実施形態に係る絶縁電線により形成された電気コイルの構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
1…絶縁電線、2…導体、3…絶縁体層、4…樹脂絶縁体層、5…無機微粒子含有絶縁体層、6…電気コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体上に形成される少なくとも一層の絶縁体層とを有し、前記絶縁体層の少なくとも一層が、樹脂と無機微粒子との混合物で構成される無機微粒子含有絶縁体層である絶縁電線において、
前記無機微粒子が、疎水性表面処理されていることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記無機微粒子が、アルキルシリル化剤により表面処理されている疎水性シリカであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記アルキルシリル化剤が、ヘキサメチルジシラザンまたはジメチルジクロロシランであることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記疎水性シリカの一次粒子の平均粒径が50nm以下であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記樹脂が、ポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の絶縁電線を巻回して成ることを特徴とする電気コイル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−141507(P2007−141507A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330092(P2005−330092)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(302068597)住友電工ウインテック株式会社 (22)
【Fターム(参考)】