説明

絶縁電線

【課題】架橋アクリルゴムを含む絶縁層を有する絶縁電線において、柔軟性及び耐熱性に優れた絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体の周囲が架橋アクリルゴムを含む絶縁層で被覆されている絶縁電線において、前記絶縁層に、安定剤として硫黄系化合物及び酸化亜鉛を含有せしめて絶縁層を構成した。前記硫黄系化合物がメルカプトベンズイミダゾールであることや、前記酸化亜鉛が酸化亜鉛1種であることが好ましい。また、前記硫黄系化合物及び酸化亜鉛の含有量が、それぞれ架橋アクリルゴム100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、耐熱性に優れた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電気・電子機器等に使用される部材や絶縁材料には、機械特性、難燃性、耐熱性、耐寒性等の種々の特性が要求されている。従来、柔軟性を有する耐熱絶縁材料として、アクリルゴムを含む組成物により絶縁層を構成した絶縁電線が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−269979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来提案されている耐熱材料は、上記特許文献1に見られるようにアクリルゴムにポリオレフィンを混合した例があるが、この絶縁電線は耐熱性が不十分であるという問題があった。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、上記問題点を解決しようとするものであり、耐熱性に優れた架橋アクリルゴムを含む絶縁層を有する絶縁電線において、更に耐熱性に優れた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の絶縁電線は、導体の周囲が架橋アクリルゴムを含む絶縁層で被覆されている絶縁電線において、前記絶縁層が、安定剤として硫黄系化合物及び酸化亜鉛を含有することを要旨とするものである。
【0007】
上記絶縁電線において、前記硫黄系化合物がメルカプトベンズイミダゾールであることや、前記酸化亜鉛が酸化亜鉛1種であることが好ましい。
【0008】
上記絶縁電線において、前記硫黄系化合物及び酸化亜鉛の含有量が、それぞれ架橋アクリルゴム100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0009】
上記絶縁電線において、絶縁層は難燃剤を含むことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁電線は、架橋アクリルゴムを含む絶縁層が安定剤として硫黄系化合物及び酸化亜鉛を含有することにより、柔軟性、耐熱性に優れた絶縁電線が得られる。更に、硫黄系化合物及び酸化亜鉛を併用することにより、それぞれ単独で添加する場合と比較して相乗効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。本実施例の絶縁電線は、導体と、該導体の周囲を被覆する絶縁層とを有している。絶縁層は、架橋アクリルゴムと、難燃剤と、安定剤を含有している。安定剤は、硫黄系化合物と酸化亜鉛とからなる。絶縁電線は、アクリルゴム、難燃剤、安定剤を含む絶縁層組成物を用いて、該組成物を導体の周囲に押出し被覆した後、加熱等の架橋手段により処理して、アクリルゴムを架橋して架橋アクリルゴムとしている。
【0012】
以下、これらの成分について説明する。
上記架橋アクリルゴムを構成するために用いられる未架橋のアクリルゴム(生ゴム)は、アクリル酸エステルを主成分とする弾性体であり、耐熱性、柔軟性等が優れている。アクリルゴムは加熱することで架橋可能であるが、上記絶縁層組成物に、必要に応じ架橋剤(架硫剤)等を加えてもよい。
【0013】
上記アクリルゴムは、例えばアクリル酸エチルを主成分とし、アクリル酸ブチル、アクリロニトリル等の他のモノマーと、架橋を行うためのコモノマーと共重合させたものが挙げられる。アクリルゴムの架橋を行うためのコモノマーとしては、2−クロロエチルビニルエーテル等の含ハロゲン化合物、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物、エチリデンノルボルネン等のジエン系化合物等が挙げられる。
【0014】
上記安定剤は硫黄系化合物及び酸化亜鉛が用いられ、両者を併用することで架橋アクリルゴムを含む絶縁層の耐熱性を向上させることができた。特に両者を併用することで、相乗効果が得られる。
【0015】
上記硫黄系化合物としては、メルカプトベンズイミダゾール系化合物、有機チオ酸系化合物、ジチオカルバミン酸塩系化合物、チオウレア系化合物などが挙げられる。好ましくは、より耐熱性向上効果に優れるなどの観点から、メルカプトベンズイミダゾール系化合物である。
【0016】
上記メルカプトベンズイミダゾール系化合物としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、4−メルカプトメチルベンズイミダゾール、5−メルカプトメチルベンズイミダゾールなどやこれらの亜鉛塩などが挙げられる。特に好ましいものは、2−メルカプトベンズイミダゾールおよびその亜鉛塩である。メルカプトベンズイミダゾール系化合物においては、ベンズイミダゾール骨格の他の位置にアルキル基等の置換基を有していても良い。
【0017】
安定剤として用いられる硫黄系化合物としては、例えば市販品として、シプロ化成社製の商品名、「シーノックスBCS」、「シーノックス412S」、「シーノックス104S」、「シーノックス114BS」、「シーノックス1479S」、「シーノックス412S」、「シーノックスDL」、「シーノックスDM」、「シーノックスDS」、川口化学社製の商品名、「アンテージクリスタル」、「アンテージMB」、「アンテージNBC−F」等が挙げられる。
【0018】
絶縁層中の硫黄系化合物の添加量は、架橋アクリルゴム100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましい。硫黄系化合物の添加量が、0.1質量部未満では、耐熱性向上効果が十分発揮できない虞がある。一方、20質量部以上では、特に高温高湿雰囲気下においてブルームする虞がある。更に好ましい硫黄系化合物の添加量は、アクリルゴム100質量部に対し、0.2〜18質量部の範囲である。
【0019】
酸化亜鉛は硫黄系化合物と共に安定剤として用いられ、安定剤として両者を併用することで、相乗効果が得られる。酸化亜鉛は、特にメルカプトベンズイミダゾールとの組み合わせにおいて高い耐熱性向上効果を発揮する。酸化亜鉛としては、例えば市販品として、ハクスイテック社製で商品名、「酸化亜鉛1種」、「酸化亜鉛2種」、「酸化亜鉛3種」、「ZINCOX SUPER F」、「特1号酸化亜鉛」、「焼成亜鉛華」、「活性亜鉛華」等を用いることができる。上記酸化亜鉛の中では酸化亜鉛1種が好ましい。酸化亜鉛1種は、酸化亜鉛2種、3種と比較して、高純度であり微粒子である。そのため、酸化亜鉛1種を絶縁層中に添加した場合、他のグレードの酸化亜鉛を添加した場合と比較して耐熱性が向上する。
【0020】
絶縁層中の酸化亜鉛の添加量は、架橋アクリルゴム100質量部に対し、0.1〜20質量部であるのが好ましい。酸化亜鉛の添加量が0.1質量部未満であると、耐熱性向上効果が不十分となる虞があり、20質量部を超えると十分な機械的と規制が得られなくなる虞がある。更に好ましい酸化亜鉛の添加量は、架橋アクリルゴム100質量部に対し、0.2〜18質量部の範囲である。
【0021】
また硫黄系化合物と酸化亜鉛の混合比は、質量比で硫黄系化合物/酸化亜鉛=150/1〜1/150の範囲が好ましい。硫黄系化合物と酸化亜鉛が上記範囲の割合で混合されていると、耐熱性向上が効果的である。硫黄系化合物の量が多すぎると、耐熱性が向上しにくいし、酸化亜鉛の量が多すぎても耐熱性が向上しにくい。好ましい硫黄系化合物と酸化亜鉛の混合比は、1/100〜100/1である。
【0022】
難燃剤は、特に限定されるものではない。難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン等を用いることができる。これらの難燃剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもいずれでもよい。
【0023】
上記水酸化マグネシウムは、天然に産出する鉱物を粉砕するもの、海水から結晶成長法で合成するもの、塩化マグネシウムと水酸化カルシウムの反応で合成するもの等を用いることができる。水酸化マグネシウムの粒径は、平均粒径が0.1〜20μmである。平均粒径が0.1μm未満では2次凝集が起こりやすく、機械的特性が低下し、20μmを超えると電線形状で外観不良になる傾向がある。水酸化マグネシウムの表面は表面処理剤により表面処理されていても良い。水酸化マグネシウムが表面処理されていると、架橋アクリルゴム中における分散性に優れる。
【0024】
上記表面処理剤としては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンの単独重合体、もしくは相互共重合体、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。表面処理剤は変性されていてもよい。変性剤としては不飽和カルボン酸、或いはその誘導体等を用いることができる。変性剤は、具体的には、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。その誘導体としては、無水マレイン酸(MAH)、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル等が挙げられる。このうち好ましくはマレイン酸、無水マレイン酸等である。これらは1種以、又は2種以上併用してもよい。表面処理剤に酸を導入する方法としては、グラフト法や直接法等が挙げられる。また酸変性量としては、重合体に対して0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜10質量%、更に好ましくは0,2〜5質量%である。
【0025】
水酸化マグネシウムに対する表面処理剤の処理方法としては、特に限定されるものではない。処理方法としては所定の粒径の水酸化マグネシウムに表面処理してもよいし、合成時に同時に処理してもよい。また処理方法としては、溶媒を用いた湿式処理でもよいし、溶媒を用いない乾式処理でもよい。湿式処理の際、好適な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系溶媒、ベンゼントルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等を用いることができる。更に絶縁層形成用組成物を作製時に、表面処理剤を混練りしても良い。
【0026】
水酸化マグネシウムの添加量は、アクリルゴム100質量部に対して0.1〜200質量部の範囲内であることが好ましい。水酸化マグネシウムの添加量が0.1質量部未満では、難燃性が不十分となる虞があり、難燃剤の合計量が200質量部を超えると、分散不良となる虞がある。
【0027】
上記臭素系難燃剤としては、エチレンビス・テトラブロモフタルイミド、エチレンビス・トリブロモフタルイミド系のフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤等が好適である。フタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤は単独で使用しても良いが、下記の臭素系難燃剤と併用も可能である。例えば、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ヘキサブロモシクロドデカン、TBBAカーボネートオリゴマー、TBBAエポキシオリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBBAビス(ジブロモプロピルエーテル)、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン等が挙げられる。
【0028】
上記三酸化アンチモンは、臭素系難燃剤の難燃助剤として用いられる。三酸化アンチモンの純度は、99%以上が好ましい。三酸化アンチモンの製法としては鉱物として産出される三酸化アンチモンを粉砕して得る方法がある。その際、三酸化アンチモンの平均粒径は、3μm以下が好ましく、より好適には1μm以下である。
【0029】
三酸化アンチモンには表面処理を施してもよい。三酸化アンチモンの表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、オレフィン系ワックス等が挙げられる。表面処理剤の使用量(表面処理量)としては、三酸化アンチモン100質量部に対し、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、更に好ましくは0.1〜5質量部である。
【0030】
上記オレフィン系ワックスは、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンの単独もしくは相互共重合体、或いはそれらの混合物等である。
【0031】
上記表面処理剤は変性されていてもよい。変性剤としては、不飽和カルボン酸やその誘導体を用いることができる。具体的には不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、無水マレイン酸(MAH)、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル等が挙げられる。このうちで好ましいのは、マレイン酸、無水マレイン酸等である。なおこれらの表面処理剤の変性剤は1種単独で使用しても、2種以上を併用してもいずれでもよい。
【0032】
表面処理剤に酸を導入する方法としては、グラフト法や直接法等が挙げられる。また酸変性量としては、表面処理剤の0.1〜20質量%、好ましくは0.2〜10質量%、さらに好ましくは0.2〜5質量%である。
【0033】
三酸化アンチモンに対する表面処理剤の表面処理方法としては特に限定されるものではない。処理方法としては、例えば、予め所定の粒径の三酸化アンチモンに表面処理してもよいし、粉砕時に同時に処理してもよい。また処理方法としては、溶媒を用いた湿式処理でもよいし、溶媒を用いない乾式処理でもよい。湿式処理の際、好適な溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等を用いることができる。また、絶縁層組成物を調製する際に、表面処理剤を他の材料と同時に混練してもよい。
【0034】
難燃剤として臭素系難燃剤及び三酸化アンチモンを併用する場合の添加量は、両者の合計量が、アクリルゴム100質量部に対して0.1〜100質量部の範囲内であることが好ましい。これらの難燃剤の合計量がアクリルゴム100質量部に対して0.1質量部未満では、難燃性が不十分となるおそれがあり、また合計量が100質量部を超えると、分散不良となるおそれがある。
【0035】
臭素系難燃剤と三酸化アンチモンを併用する際の比率は、前記臭素系難燃剤及び三酸化アンチモンの質量比で、臭素系難燃剤/三酸化アンチモン=1〜5の範囲内であることが、コストが適正であり、難燃性にも優れるといった理由から好ましい。臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの比率が上記範囲外である場合、三酸化アンチモンの添加量が多くなりすぎた場合は、コストが上昇してしまうおそれがあり。三酸化アンチモンの量が少なくなりすぎた場合は、難燃性が低下するおそれがある。
【0036】
臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの更に好ましい比率(質量比)は、臭素系難燃剤/三酸化アンチモン=1.5〜4.5の範囲であり、更に好適には臭素系難燃剤/三酸化アンチモン=2〜4の範囲である。
【0037】
絶縁層組成物には、アクリルゴムを架橋するための架橋剤を配合することができる。架橋剤は、アクリルゴムを構成する架橋用モノマーの種類、架橋条件等に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではない。上記架橋剤の種類としては、例えば、有機過酸化物等のラジカル発生剤、金属石けん、アミン、チオール、チオカルバミン酸塩、有機カルボン酸等の化合物が挙げられる。架橋剤は、有機過酸化物等の有機過酸化物系架橋剤が、架橋速度の向上という点から好ましい。
【0038】
上記有機過酸化物としては、例えば、ジへキシルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等のジアルキルパーオキサイド、n−ブチル4,4−ジ(t―ブチルパーオキサイド)バレレート等のパーオキシケタール等が挙げられる。
【0039】
絶縁層組成物には、アクリルゴム、難燃剤、架橋剤以外に、絶縁層の特性を損なわない範囲で、各種の添加剤等を添加してもよい。このような添加剤としては、例えば電線被覆材として用いられる、一般的な顔料、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤等が挙げられる。
【0040】
また絶縁層組成物における上記架橋剤の配合量は、適宜決定することができる。架橋剤の配合量は、通常、アクリルゴムと架橋剤の合計量に対し、0.01〜10質量%の範囲で添加するのが好ましい。
【0041】
以下、上記の絶縁電線の製造方法について説明する。絶縁電線は、上記のアクリルゴム、安定剤、難燃剤及び架橋剤等からなる絶縁層を形成用組成物を混練し、導体の周囲に押し出して、導体を絶縁被覆して絶縁層を形成した後、加熱等の手段で絶縁層のアクリルゴムを架橋させることで得られる。
【0042】
上記混練方法としては、例えば、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、混練押し出し機、二軸混練押し出し機、ロール等の通常の混練機で溶融混練して均一に分散する方法等を用いることができる。上記混練の際は、水冷等を行い50℃〜60℃程度で行うことが望ましい。
【0043】
絶縁層組成物を導体の周囲に押し出して絶縁層を形成するには、通常の絶縁電線の製造に用いられる電線押出成形機等を用いることができる。絶縁電線に用いられる導体は、通常の絶縁電線に使用されるものが利用できる。また絶縁電線の導体の径や絶縁層の厚み等は、特に限定されず、絶縁電線の用途等に応じて適宜決めることができる。また絶縁層は、単層であっても、2層以上の複数層から構成しても、いずれでもよい。
【0044】
本発明絶縁電線は、自動車、電子・電気機器に使用される絶縁電線に利用することができる。特に高い耐熱性と難燃性を要求される用途の絶縁電線として好適である。例えば自動車用絶縁電線において、このような高い耐熱性が要求される用途としては、ハイブリッド車や電気自動車のエンジンとバッテリを繋ぐパワーケーブル等のような高電圧、大電流の用途等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。
〔実施例1〜8、比較例1〜7〕
表1、表2に示す成分組成のアクリルゴム1〜4、ポリプロピレン、臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、架橋剤等を、バンバリーミキサーを用いて常温で混合した。その後、押出し成形機を用いて、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅より線の導体(断面積0.5mm)の外周に0.2mm厚で押出し被覆して絶縁層を形成した。その後180℃×4時間加熱処理して架橋を完了させて、実施例1〜8、比較例1〜7の絶縁電線を得た。得られた絶縁電線の耐寒性試験、耐熱性試験を行い評価した。その結果を表1及び表2に合わせて示す。尚、表1及び表2の各成分、耐寒性試験方法及び耐熱性試験方法は、下記の通りである。
【0046】
〔表1及び表2の成分〕
・アクリルゴム1[電気化学社製、商品名「4200」]
・アクリルゴム2[日本ゼオン社製、商品名「Nipol AR14」]
・アクリルゴム3[ユニマテック社製、商品名「A−5098」]
・アクリルゴム4[ユニマテック社製、商品名「PA−422」]
・ポリプロピレン[日本ポリプロ社製、商品名「EC7」)
・PE5%コート水マグ [表面処理水酸化マグネシウム、表面処理剤:ポリエチレン、表面処理量:5質量%]
上記表面処理水酸化マグネシウムの水酸化マグネシウムは、結晶成長法による平均粒径1.0μmのものを用いた。また表面処理剤のポリエチレンは、三井化学社製、商品名「800P」を用いた。また、表面処理量は、水酸化マグネシウムに対する質量%である。
・臭素系難燃剤[エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)]
・三酸化アンチモン[山中産業社製、商品名「三酸化アンチモン」]
・硫黄系化合物[シプロ化成社製、商品名「シーノックスBCS」]
・硫黄系化合物[シプロ化成社製、商品名「シーノックス412S」]
・2−メルカプトベンズイミダゾール[川口化学工業社製、商品名「アンテージMB」]
・酸化亜鉛[ハクスイテック社製、商品名「亜鉛華1種」]
・酸化亜鉛[ハクスイテック社製、商品名「亜鉛華2種」]
・架橋剤[日本油脂社製、商品名「パーへキシルD」(ジ−t−へキシルパーオキサイド)]
【0047】
〔耐寒性試験方法〕
JIS C3055に準拠して行った。すなわち作製した絶縁電線を38mmの長さに切断し試験片とした。この試験片を耐寒性試験機に装着し、所定の温度まで冷却し、打撃具で打撃して、試験片の打撃後の状態を観察した。5本の試験片を用いて、5本の試験片が全て割れた温度を耐寒温度とした。
【0048】
〔耐熱性試験方法〕
電線被覆を皮剥ぎして導体を引張り、絶縁被膜を長さ約100mm取り出し試験片とした。この試験片を200℃×10日間劣化試験を実施し、その後引張り試験を行った。伸び残率が50%以上のものを場合を合格(○)とし、50%未満のものを不合格(×)とした。また実施例1〜8では、伸び残率の数値も示した。尚、伸び残率は、初期(劣化試験前)の伸びに対する劣化試験後の伸びの割合(%)である。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1に示すように実施例1〜8の絶縁電線は、いずれも電線の耐寒性、耐熱製が良好であり柔軟性及び耐熱性に優れたものであった。これに対し比較例1〜7の絶縁電線は、柔軟性を有するものであったが、耐熱性が全て不合格であり、耐熱性が劣るものであった。また実施例1〜8の絶縁電線の伸び残率を見ると、亜鉛華1種を用いた場合、伸び残率が良好であることが判る。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の周囲が架橋アクリルゴムを含む絶縁層で被覆されている絶縁電線において、前記絶縁層が、安定剤として硫黄系化合物及び酸化亜鉛を含有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記硫黄系化合物がメルカプトベンズイミダゾールであることを特徴とする請求項1記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記酸化亜鉛が酸化亜鉛1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記硫黄系化合物及び酸化亜鉛の含有量が、それぞれ架橋アクリルゴム100質量部に対し、0.1〜20質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
絶縁層が難燃剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2012−104370(P2012−104370A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251738(P2010−251738)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】