説明

継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤

【課題】中空素管を延伸圧延する際に中空素管内に投入し内面に付着させて使用し、素管内面のすじ疵の発生を防ぎ製管内面の品質向上に効果を発揮し、且つ工具の摩耗をも抑制して工具寿命の延長をもたらす継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤を提供する。
【解決手段】炭酸リチウム5〜40質量%及びアルカリ金属硼酸塩10〜70質量%、炭酸ナトリウム0〜30質量%、脂肪酸のアルカリ金属塩0〜40質量%、脂肪酸のアルカリ土類金属塩0〜40質量%、アルカリ金属の硫酸塩0〜20質量%からなることを特長とする粉体状の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
マンネスマン方式の穿孔圧延機で穿孔された中空素管を延伸圧延する際に中空素管内に投入し内面に付着させて使用する有効な継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【背景技術】
【0002】
例えば、プラグミル工程による継目無管の製造工程を図1に示すが、原料である丸ビレットを加熱炉で1000〜1350℃に加熱した後ピアサーにて穿孔されて作られた中空素管(ホローシェル)は、次工程のエロンゲーターで傾斜圧延されて表面温度が800〜1250℃となりプラグミルにて延伸圧延される。更にリーラーで磨管後再加熱されサイジングミルで外径圧下と多少の減肉を行い検査ラインを通り継目無管が出来上がるが、プラグミルで延伸圧延する際においては、高温且つ高圧の条件下であるため工具であるプラグと素管内面の加工表面とが激しく摩擦し工具が摩耗し素管内面にもすじ疵が生じ製品の品質及び工具寿命に問題が生ずる。
【0003】
工具であるプラグ表面には母材に密着した厚い酸化スケールで覆われている。このスケールは、プラグ本体を保護する断熱層としてプラグ寿命に直接影響を及ぼすばかりではなく、圧延負荷の軽減、焼付きの防止といったいわゆる潤滑剤的役割も大きいと考えられる。然しながらスケールの存在のみで充分な訳ではない。そこで、中空素管を延伸圧延する際の潤滑剤について種々の方法が考えられている。
【0004】
従来、プラグミル工程で延伸圧延する際においては、工具摩耗を抑制し素管内面のすじ疵の発生を抑制する目的で、圧縮空気により黒鉛のみをワークプラグ後方部に設置されるプラグバー内の配管を通し、ワークプラグ先端ノズルより素管内面に噴射しながら延伸圧延を行う方法や延伸圧延開始直前の中空素管内面に付着させるよう圧縮空気によって硼砂等のアルカリ金属硼酸塩を主成分とする粉体系潤滑剤を投入し、その後工具が挿入され延伸圧延を行う方法が取られている。
【0005】
中空素管内に投入する粉体系潤滑剤として例えば、特許文献1には融点が素管内面の加工表面温度よりも低い食塩、硼砂、燐酸塩およびこれらと炭素粉末との混合物が好適な脱スケール剤として用いられる保護フラックスとして記載されている。
【0006】
この保護フラックスは延伸圧延開始前の工具が中空素管内に挿入される直前に中空素管内に投入され、その融点が600〜1000℃であるため素管内面に接触して液状となり被加工材である素管内面と工具との間の潤滑に効果的であるが、アルカリ金属硼酸塩のみでは溶融粘度が高く素管内面での広がり性が乏しく特に被加工材の温度が低い場合には摩擦抵抗が増大し安定な流体潤滑が得られないため食塩及び燐酸塩を配合しアルカリ金属硼酸塩の溶融粘度を低下させている。特許文献2では溶融粘度を低下させる目的で鉄の酸化物やアルカリ金属の硫酸塩、特に硫酸ナトリウムを加えた潤滑剤や特許文献3では酸洗い剤として塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの塩化物を配合したり、高温時に生成する酸化物の還元作用を目的として炭酸ナトリウムを配合したものがすでに公知である。
【0007】
しかしながら鉄の酸化物や酢酸ナトリウム、酢酸カリウムでは目的とするアルカリ金属硼酸塩の溶融粘度を低下させ摩擦抵抗の低減及び中空素管内での広がり性をもたせ安定な流体潤滑を寄与させるにはその効果は不充分である。
【0008】
アルカリ金属の硫酸塩、燐酸塩及び塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの塩化物などは極圧添加剤として働き、工具と素管内面とが激しく摩擦する高温且つ高圧下において被加工材と反応し加工表面が低融点物質である硫化鉄、燐化鉄及び塩化鉄となり延伸圧延時に発生するすじ疵の抑制には効果的であるが、この反応は工具表面でも生ずるため工具寿命を著しく低下させてしまう。特にメタ燐酸ナトリウム((NaPO33)、トリポリ燐酸ナトリウム(Na5310)等の燐酸塩は工具表面に低融点燐合金共融体(Fe,Fe3P)を形成し、高温下での融点が低くなり、潤滑と同時に表面を減摩させることになり工具摩耗を促進させ工具寿命を低下させてしまう原因となる。
【0009】
又、塩化物においては発生する塩素ガスによって周辺設備を腐食させてしまう危険性があり好ましくない。
【0010】
炭酸ナトリウムにおいては溶融時の粘度も低くアルカリ金属硼酸塩の溶融粘度を低下させ摩擦抵抗を低減させ且つ加工表面での広がり性をもたせ安定な流体潤滑を寄与させるには効果的ではあるが、炭酸ナトリウムは強塩基性であり融点が高くて試料の解砕に適するため一般的に酸性酸化物や珪酸塩の融剤として使用されるものあり、被加工材及び工具表面においても激しく反応しスラグ化を促進させるものである。
【0011】
工具表面には保護膜として予め酸化皮膜である酸化鉄(スケール)を生成させ潤滑性をもたらしているが、炭酸ナトリウムは高温且つ高圧の条件下において工具表面の保護膜である酸化鉄の融点をも下げ、加工表面との激しい摩擦により削ぎ取られ工具が摩耗し更に生成したスラグ化物は未反応のスケールと絡み合い工具表面に堆積し次の延伸圧延時に素管内表面にすじ疵を発生させる原因となり製品の品質低下、工具寿命の低下に繋がるものである。
【0012】
炭酸カリウムも同様の作用があり高温且つ高圧化における継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤としては不適であり、特に塩基性融解剤としての作用を有するアルカリ金属硼酸塩との併用はその作用を助長させるので炭酸ナトリウムと同様に好ましくない。
【特許文献1】特公昭46−30581号公報
【特許文献2】特開2000−226591号公報
【特許文献3】特開昭61−37989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、中空素管を延伸圧延する際に中空素管内に投入し内面に付着させて使用し、素管内面のすじ疵の発生を防ぎ製管内面の品質向上に効果を発揮し、且つ工具の摩耗をも抑制して工具寿命の延長をもたらす継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、マンネスマン方式継目無鋼管製管法において特にステンレス鋼や合金鋼及び圧下率の高い普通鋼薄肉材の造管においてはプラグの損耗が激しく、今迄も種々な潤滑剤等を使用することで解決しようとしたが、プラグと素材間の摩擦がいわゆる通常の摩擦とは異なり、1000℃を越す高温と極限状況に近い摩擦が生じており、それを軽減し得るには唯一プラグ表面に生成している緻密で強固な酸化鉄皮膜(FeO,Fe34)であることに注目した。
【0015】
素管表面と工具間との潤滑はあくまでも工具表面に生成している酸化皮膜(スケール)であり潤滑剤は高温且つ高圧下の過酷な条件下において流体潤滑により此の酸化皮膜と素管表面間の摩擦力を低減させ如何に酸化皮膜を保護させるかである。
【0016】
上記に示す従来の潤滑剤においては素管内表面で溶融し液状となり広がり流体潤滑としての機能は有するが、此のプラグ表面に生成している酸化鉄皮膜との反応が激しくプラグ表面のスケールが剥離し、プラグと被加工材との間に断熱層兼潤滑層が存在しなくなり、直接プラグが損耗してしまうことにある。
【0017】
本発明は、下記の成分を含有する継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤を提供するものである。
【0018】
[1]炭酸リチウム5〜40質量%及びアルカリ金属硼酸塩10〜70質量%からなることを特徴とする粉体状の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【0019】
[2]脂肪酸のアルカリ金属塩0〜40質量%、脂肪酸のアルカリ土類金属塩0〜40質量%、炭酸ナトリウム0〜30質量%、アルカリ金属の硫酸塩0〜20質量%のうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする前記[1]に記載の粉体状の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【0020】
[3]黒鉛10〜60質量%を含むことを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【0021】
[4]マンネスマン方式の穿孔圧延機で穿孔された中空素管を延伸圧延する際に、中空素管内に投入し使用することを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【0022】
[5]マンネスマン方式によるプラグミル圧延において、中空素管を延伸圧延する際に、中空素管内に投入し使用することを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【発明の効果】
【0023】
発明の熱間圧延潤滑剤は、被加工材と工具との高温且つ高圧の条件下での熱間圧延加工において従来の潤滑剤では抑制できなかった焼付きや加工面に発生するすじ疵を防止することができるとともに工具摩耗を抑制し飛躍的に工具寿命を向上させることができ、製品の手入れ作業、工具の交換、修繕の手間が省け操業性、生産性の向上となり、歩留まりの向上と圧延材内面の品質向上に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の潤滑剤は、特に炭酸リチウムを配合することを特徴とするものである。
【0025】
すなわち、炭酸リチウムは融点が618℃であり、他のアルカリ金属炭酸塩の融点(炭酸ナトリウム851℃、炭酸カリウム891℃)に比べて最も低く、又、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムは強塩基性であるが炭酸リチウムは弱塩基性であるため、素管内面及び工具表面に生成している酸化鉄(スケール)との反応は弱くプラグ表面のスケールが剥離したりスラグ化物が生成し堆積することが無い。
【0026】
又、炭酸リチウムは中空素管内に投入され素管内面と接触すると直ちに溶融し、その粘性は非常に低くアルカリ金属硼酸塩の粘性をも下げ摩擦抵抗が低減され且つ素管内面に広がり安定な流体潤滑を与えることができ、本発明の潤滑剤を使用することにより工具表面の保護膜である酸化鉄を保持したまま圧延することができる。
【0027】
よって、工具の摩耗及び素管内表面のすじ疵の発生を抑制し工具寿命、製品の品質を向上することが可能となる。
【0028】
上記効果を発揮させるためには5質量%〜40質量%が適当であり5質量%よりも少ないとその効果が無く、40質量%よりも多すぎると高価となり実用的では無くなる為である。
【0029】
又、使用条件によっては炭酸ナトリウムと混合することで安価となるが、その場合の炭酸ナトリウムは30質量%以下であり、アルカリ金属硼酸塩と炭酸ナトリウムとの合計が70質量%以下とするのがよい。
【0030】
70質量%以上であるとスラグ化反応が激しくなりスラグ化物とスケール及び溶融したアルカリ金属硼酸塩が絡み合い工具表面に堆積するからである。
【0031】
尚、炭酸カリウムは融点が高くスラグ化反応(融解)が激しく生じ又潮解性であるため潤滑剤の安定性に欠けるため本発明の潤滑剤としては不適である。
【0032】
炭酸リチウムは溶融粘性が低く流体潤滑としの被膜強度が弱い為、アルカリ金属硼酸塩を配合することが好ましく、使用されるはアルカリ金属硼酸塩としては硼砂(Na247・10H2O)、硼砂5水塩(Na247・5H2O)、四硼酸ナトリウムである無水硼砂(Na247)、及び四硼酸カリウム(K247)が挙げられる。
【0033】
アルカリ金属硼酸塩の融点はいずれも700〜1000℃程度であり、中空素管内に投入され素管内面と接触すると溶融し液状となり素管内表面への付着力も強く被加工材である中空素管内表面と工具との間の潤滑効果に優れておりその効果を発揮させる為には10質量%以上は必要である。しかしながら溶融したアルカリ金属硼酸塩は粘性が高く、又塩基性融解剤としての作用を有するために素管内面及び工具表面に生成している酸化鉄(スケール)と反応し生成したスラグ化物と未反応のスケール及び溶融したアルカリ金属硼酸塩が絡み合い工具表面に堆積し次の延伸圧延時において素管内表面にすじ疵を発生させてしまう危険性があるので上限は70質量%までが好ましい。
【0034】
より好ましくは20質量%〜60質量%の範囲である。
【0035】
脂肪酸のアルカリ金属塩及び脂肪酸のアルカリ土類金属塩は使用条件によって配合する成分である。
【0036】
脂肪酸のアルカリ金属塩及び脂肪酸のアルカリ土類金属塩の融点は約200℃であり低い温度領域での潤滑性に優れており中空素管内に投入した直後の潤滑性に寄与し、脂肪酸のアルカリ土類金属塩としてステアリン酸カルシウム等のカルシウム塩を使用した場合には高温(解離圧1atm/898℃)で分解され酸化カルシウムが生成されるので高温時においても固体潤滑剤として機能し焼付き防止効果を発揮する。
【0037】
又、脂肪酸のアルカリ金属塩及び脂肪酸のアルカリ土類金属塩は潤滑剤の固着及び流動性が改善されるため、保管中での固着防止や供給装置内での詰まりを防ぎ安定な供給に寄与する。
【0038】
脂肪酸のアルカリ金属塩は、脂肪酸がC12〜C18のものでラウリル酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸が主成分の天然油脂から合成されたナトリウム塩もしくはカリウム塩が好ましく特にステアリン酸ナトリウムは吸湿性が低く潤滑性及び固着防止に効果的である。
【0039】
脂肪酸のアルカリ土類金属塩ついては脂肪酸がC12〜C18のものでラウリル酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸が主成分の天然油脂から合成されたカルシウム塩が好ましく、特にステアリン酸カルシウムが効果的である。
【0040】
使用条件によって配合する場合には脂肪酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩ともに40質量%以下が適当であり40質量%以上であると他の潤滑剤の配合割合が少なくなり効果が低下するためである。
【0041】
アルカリ金属の硫酸塩は、高温且つ高圧の条件下において工具表面と反応し低融点物質の硫化鉄を生成し工具を摩耗させる原因となるものであるが、極少量配合された潤滑剤においては中空素管内に潤滑剤が投入され延伸圧延が行われるまでの間に素管内面の酸化鉄(スケール)との反応が終了し、その後に工具が中空素管内に挿入されて延伸圧延されるので工具表面への影響は無く、素管内面でのスケールの押し込み疵の発生を抑制でき内面の品質を向上させることができる。
【0042】
したがってアルカリ金属の硫酸塩の配合比は使用条件によって決めなければならないが上限は20質量%以下であれば工具表面への影響は無く、好ましくは15質量%以下の範囲内で使用するのが望ましい。
【0043】
黒鉛は被加工材である素管内面と工具との間のメタル接触を防ぎ焼付き防止効果に有効な固体潤滑剤である。他の無機系固体潤滑剤(例えば合成雲母、粘土鉱物モンモリロナイト、窒化硼素、酸化鉄、等)は、本発明の潤滑剤のアルカリ金属硼酸塩や炭酸ナトリウムなどの塩基性融解剤との反応によってスラグ化し延伸圧延後の工具表面に堆積するので好ましくない。
【0044】
又、黒鉛はこの様な反応性はないが不純物として含まれる珪素、アルミニウム、鉄、等のいわゆる灰分が多く含まれるものも好ましくなく黒鉛純度が85%以上であることが好ましい。
【0045】
黒鉛の粒径についてはあまりにも小さいと直ぐに燃焼して消耗してしまうので平均粒径として少なくとも5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。
【0046】
黒鉛は使用条件によって配合する成分であり、ワークプラグ先端ノズルより素管内面に黒鉛を噴射しながら延伸圧延を行う方法においては黒鉛を含有しなくてもよく、配合する場合には10〜60質量%の範囲内であることが好ましい。10質量%以下であると効果が発揮されず、60質量%以上であると他の潤滑剤の配合割合が少なくなり効果が低下するためである。
【0047】
尚、他の各成分の純度も85%以上であることが望ましい。又他の各成分の粒径については特に限定しないが各成分の混合性、分散性、均一性及び使用時において吹込み装置で中空素管内に投入する際の均一性、高温の被加工材である中空素管内面に接触して直ちに溶解しなければならないので、平均粒径として5〜1000μmであることが望ましい。
【0048】
本発明の粉体潤滑剤は、所定の熱間圧延加工温度(800〜1250℃)に加熱された被加工材である中空素管内面の加工表面に付着させて用いるものであり、そのための供給装置については特に限定しないが、キャリアーガスとして圧縮空気を用い中空素管内面に噴射し加工表面に付着させる方法もできるが、キャリアーガスは窒素、アルゴンなどの不活性ガスが好ましい。
【0049】
潤滑剤の供給量は加工材料、加工条件によって異なるが、概ね5〜300g/m2、好ましくは10〜200g/m2である。
【0050】
本発明の粉体状の潤滑剤は被加工材の材質は特に制限されず、圧延負荷が高く工具の損耗が激しいステンレス鋼、合金鋼等及び圧下率の高い普通鋼の薄肉造管などの工具摩耗が激しくすじ疵が発生し易い材質には特に有効である。
【0051】
本発明の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤については、前記マンネスマン方式によるプラグミル工程による延伸圧延を例にして説明したが、中空素管圧延工程への適用可能であり、さらには、他の熱間塑性加工においても適用することができるものである。
【実施例】
【0052】
本発明を理解しやすくする為に以下に実施例並び比較例を示す。
【0053】
実施例1〜3では机上での評価試験結果を示す。実施例4では実機での評価試験結果を示す。
【0054】
(実施例1)
各物質の酸化鉄への反応性(スラグ化)と広がり性:
アルカリ金属硼酸塩の高温粘度及び素管内面での広がり性を改善させる各物質について酸化鉄(スケール)への反応性(スラグ化)と広がり性について調査した。
【0055】
試験方法:
試験片SPCC冷間圧延鋼鈑(80×60×1mm)を1150℃電気炉内に5分間放置し表面にスケールを発生させた後、表1.に示す各物質0.5gを試験片の中央部に載せ電気炉内に20秒間放置後取り出しスケールへの反応性(スラグ化)及び広がり性について評価した。
【0056】
評価方法:
スケールへの反応性(スラグ化): まったく反応性の無い無添加を0とし、最も反応性の高い塩化ナトリウム10として10段階にて評価した。
【0057】
広がり性: 各物質が溶融して広がった面積の縦と横の長さを測定し、最も広がり性の高い塩化ナトリウム10として10段階にて評価した。
【0058】
結果:
表1に示すとおり炭酸リチウムのみが酸化鉄への反応性(スラグ化)が極端に低く、広がり性が良い事が解る。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例2)
ワークプラグ先端ノズルより素管内面に黒鉛を噴射しながら延伸圧延を行う方法での使用を想定し、黒鉛を配合していない本発明の潤滑剤について下記試験方法により評価した。
【0061】
表2に実施例1〜10、表3に比較例1〜10について所定の成分を所定量(質量%)配合して製造した熱間圧延潤滑剤の成分及び試験成績を示す。各例について熱間圧延性能評価のために熱間リング圧縮試験による耐焼付性、摩擦係数測定及びすじ疵抑制効果の評価としてリング試片表面の粗度測定、工具摩耗抑制効果の評価としてダイスへのスケールの展着(堆積)性の試験を行った。
【0062】
その試験方法は次の通りである。
【0063】
試験方法:
空気雰囲気中の電気炉で5分間加熱しスケールを発生た試片を取り出し、試片表面上に黒鉛Bを振り掛け更に潤滑剤を直ちに振り掛け、再度電気炉内に入れ4秒後に上下のダイスで圧縮させた場合のダイスへの焼付性、潤滑性として摩擦係数、及び粗度測定、スケールの展着(堆積)性を測定した。
【0064】
試験条件:
ダイス:SKD−61 HRC=55
ダイス加熱温度:300℃
リング材質:SS−400
リング形状:30φ×15φ×10mm
リング加熱温度:1150℃×5min
荷重:40t
落下高さ:45mm
圧縮率:60%
潤滑剤塗布量:60mg(120g/m2
評価方法:
ダイスへの焼付性:圧縮後の上部ダイスへの焼付程度を下記A〜Eの5段階とし評価した。
【0065】
A:焼付き全くなし B:焼付き僅かにあり C:焼付き少ない
D:焼付き多い E:焼付き極めて多い
摩擦係数:リング試片の圧縮率、内径変化率を計測しを算出した。
【0066】
表面粗度:リング試片を10vol%硫酸溶液に酸腐食抑制剤(キレスト(株)製キレスビット16L)を0.1%添加し60℃に加熱した液に10分間浸漬して酸洗処理し、リング試片表面に押し込まれたスケールを取り除き表面粗さ測定機((株)東京精密製サー
フコム574A)にてスケールが押し込まれた深さを平均粗さRa(μm)として測定した。
【0067】
スケールの展着(堆積)性:リング試片を上下ダイスにて圧縮し、潤滑剤と反応してスラグ化したスケールがダイス表面に展着した量を下記A〜Dの4段階とし評価した。
【0068】
A:スケールの展着殆どなし B:スケールの展着少し有り
C:スケールの展着多い D:スケールの展着極めて多い
但し、表1〜表6に於いて使用した各成分は以下のものである。
【0069】
硼砂 Na247・10H2O(平均粒径100μm,純度99%)
四硼酸カリウム K247・4H2O (平均粒径100μm,純度99%)
炭酸リチウム Li2CO3 (平均粒径40μm,純度99%)
炭酸ナトリウム Na2CO3 (平均粒径80μm,純度98%)
炭酸カリウム K2CO3 (平均粒径80μm,純度98%)
炭酸カルシウム CaCO3 (平均粒径40μm,純度99%)
硫酸ナトリウム NaSO4 (平均粒径40μm,純度98%)
食塩 NaCl (平均粒径80μm,純度99%)
トリポリ燐酸ナトリウム Na5310 (平均粒径80μm,純度99%)
脂肪酸ナトリウム 脂肪酸がC12〜C18の混合脂肪酸Na
(平均粒径500μm,純度98%)
ステアリン酸ナトリウム C1735COONa
(平均粒径40μm,純度99%)
ステアリン酸カリウム C1735COOK
(平均粒径40μm,純度99%)
ステアリン酸カルシウム (C1735COO)2Ca
(平均粒径100μm,純度99%)
三酸化二鉄 Fe23 (平均粒径0.4μm,純度98%)
合成雲母 (ナトリウム四ケイ素雲母)(NaMg2.5(Si410)F2
(平均粒径50μm,純度99%)
黒鉛A 天然鱗片状黒鉛 (平均粒径35μm,純度97%)
黒鉛B 天然鱗片状黒鉛 (平均粒径10μm,純度86%)
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
(実施例3)
ワークプラグ先端ノズルより素管内面に黒鉛を噴射せずに延伸圧延を行う方法での使用を想定し、黒鉛を所定量配合した本発明の潤滑剤について下記試験方法により評価した。
【0073】
表4に実施例1〜10、表5に比較例1〜10について所定の成分を所定量(質量%)配合して製造した熱間圧延潤滑剤の成分及び試験成績を示す。各例について熱間圧延性能評価のために熱間リング圧縮試験による耐焼付性、摩擦係数測定及びすじ疵抑制効果の評価としてリング試片表面の粗度測定、工具摩耗抑制効果の評価としてダイスへのスケールの展着(堆積)性の試験を行った。
【0074】
その試験方法は次の通りである。
【0075】
試験方法:
空気雰囲気中の電気炉で5分間加熱しスケールを発生た試片を取り出し、試片表面上に潤滑剤を振り掛け、再度電気炉内に入れ4秒後に上下のダイスで圧縮させた場合のダイスへの焼付性、潤滑性として摩擦係数、及び粗度測定、スケールの展着(堆積)性を測定した。
【0076】
試験条件、評価方法については 実施例2と同様である。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
(実施例4)
黒鉛を所定量配合した本発明の潤滑剤についての実機での評価として、マンネスマン方式によるプラグミル工程において、材質SCM435の丸ビレットを加熱炉で約1250℃に加熱し、ビアサーにて穿孔しエロンゲーターで傾斜圧延されて得られた長さ10,000mm、外径250mm、肉厚15mm、表面温度約1150℃の中空素管をプラグミルにて延伸圧延する際、工具が挿入される直前に圧縮空気にて表6.に示す各潤滑剤約250gを投入し、 長さ14,000mm、外径240mm、肉厚11mm、の中空素管とし、後のリーラーで磨管し再加熱後サイジングミルで長さ13,700mm、外径244.5mm、肉厚11mm、に圧延して得られた継目無管の内面すじ疵及びプラグミル工具の摩耗、寿命を調査した。
【0080】
評価方法:
内面すじ疵:上記プラグミルにて各潤滑剤に対し同一工具を用いて中空素管を200本づつ延伸圧延を行い内面すじ疵の深さが0.1〜0.5mmのものについては手入れを加えれば良しとし、0.5mm以上のものについては手入れが不可能であり格落品とし、内面すり疵不合格率を算出し評価した。
【0081】
手入れ品率=(手入れ本数/圧延本数)×100
格落品率 =(格落本数/圧延本数) ×100
工具の寿命:上記プラグミル工程にて各潤滑剤に対し同一工具を用いて中空素管を延伸圧延し、工具表面の高さ0.5mm以上の焼付き疵あるいは深さ0.5mm以上のえぐれ疵発生までの圧延パス回数で評価した。
【0082】
表6に実施例1〜6、比較例1〜6について所定の成分を所定量(質量%)配合して製造した熱間圧延潤滑剤の成分及び試験成績を示す。
【0083】
【表6】

【0084】
表1〜表6から次のことが認められた。
【0085】
(イ)表2〜表5に示すとおり、机上での評価試験結果より炭酸リチウムを配合した本発明の潤滑剤は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリポリ燐酸ナトリウム、塩化ナトリウムを配合した比較例に比べ耐摩耗性、ダイスへのスケールの展着性ともに良好であり、摩擦係数、表面粗度Raも低い値を示すことが認められた。
【0086】
硫酸ナトリウムについては配合量が多いと耐摩耗性、ダイスへのスケールの展着性ともに悪化するが本発明に係わる潤滑剤において少量配合することによって表面粗度Raの値が低くなり製品の内面疵の減少に寄与することが認められた。
【0087】
(ロ)表6に示すとおり、実機での評価試験結果より本発明に係わる潤滑剤において製品の内面すじ疵不合格率として約40%の減少、工具寿命として約53%の向上が確認され製品内面の品質向上に効果を発揮し且つ工具の摩耗をも抑制して工具寿命の延長に著しく効果を発揮することが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】プラグミル工程による継目無管の製造工程の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸リチウム5〜40質量%及びアルカリ金属硼酸塩10〜70質量%からなることを特徴とする粉体状の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【請求項2】
脂肪酸のアルカリ金属塩0〜40質量%、脂肪酸のアルカリ土類金属塩0〜40質量%、炭酸ナトリウム0〜30質量%、アルカリ金属の硫酸塩0〜20質量%のうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の粉体状の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【請求項3】
黒鉛10〜60質量%を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【請求項4】
マンネスマン方式の穿孔圧延機で穿孔された中空素管を延伸圧延する際に、中空素管内に投入し使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。
【請求項5】
マンネスマン方式によるプラグミル圧延において、中空素管を延伸圧延する際に、中空素管内に投入し使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の継目無鋼管熱間圧延用潤滑剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−182927(P2006−182927A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378722(P2004−378722)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(391045668)パレス化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】