網状又は島状の低結晶水酸化アパタイトでコーティングされたインプラント及びそのコーティング方法
本発明は、移植材料として広く使用されるチタンインプラントの表面に低結晶性水酸化アパタイトをコーティングする方法、及びその方法によって網状又は島状の低結晶水酸化アパタイトでコーティングされたインプラントに関するものである。本発明に係るコーティング方法は、1)チタンインプラント又はチタン合金インプラントの表面を前処理する工程、2)リン酸イオン溶液及びカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製する工程、及び3)チタンインプラント又はチタン合金インプラントをリン酸カルシウムイオン溶液に浸漬した状態で保管する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植材料として広く使用されるチタンインプラント表面を、生吸収性を有する低結晶性水酸化アパタイトでコーティングする方法及びその方法によってコーティングされたインプラントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、骨や歯などの生体硬組織に代わる人工生体材料として、水酸化アパタイト(Hydroxyapatite)が多く使用されている。水酸化アパタイトは、人体内の骨及び歯を構成する無機質成分と化学的及び結晶学的に同一な物質であり、これを人体内に移植すると、周辺の各細胞と調和しながら接合部位で骨と直接的に速い化学的結合をなす生体活性を有している。カルシウムイオン、リン酸イオン、水酸化イオンで構成されている純粋な水酸化アパタイト結晶は、棒状構造を有する化学量論的な結晶として高い結晶度を有する。一方、骨や石灰化軟骨組織(calcified cartilage)から分離された生体結晶は、非化学量論的な水酸化アパタイトとして低い結晶度を有する[参照文献:Elliott J.C.In Structure and Chemistry of the Apatites and Other Calcium Orthophosphates,Studies in Inorganic Chemistry 18,Amsterdam:Elsevier,pp.111―190(1994)]。
【0003】
チタンは、物理的性質が人体の骨と類似しており、機械的強度にも優れるので、インプラント材料として多く使用されている。また、チタンは、体内で炎症反応やその他の免疫反応を起こさない金属として広範囲に使用されている。チタン自体に生体活性を付与するために、表面をブラスティング(Blasting)したり、酸でエッチングすることによって多様に改質(大韓民国特許出願第98―23075号の他多数)して産業に応用している。しかし、チタンは、水酸化アパタイトなどのセラミックス材料に比べて生体親和性が低く、人体内で長期間存在すると、金属イオンの溶解進行によって体内の無機物質の生成をもたらすという問題がある。
【0004】
したがって、最近は、チタンに水酸化アパタイト薄膜をコーティングすることによって機械的強度と生体親和性に優れた生体硬組織用材料を得る方法が多様に開発されている。チタンの表面に生体活性を付与するためにセラミックコーティングをする既存の代表的な方法としては、プラズマスプレー法、スパッタリング法、イオン注入法、イオンビーム蒸着法などがあり、水酸化アパタイトの結晶学的特性が生体結晶の特性と類似する結晶膜を形成するために、リン酸カルシウム溶液を利用したり、疑似体液を利用する研究などが多方面で進められている。
【0005】
前記方法のうち最も多く利用されているプラズマスプレー法は、10,000℃以上の高温への瞬間的な露出によってコーティング層が不均一になり、約10μm未満の厚さにコーティングすることが難しいという短所を有する。また、表面にコーティングされる水酸化アパタイトの結晶度が非常に高いため、生体内での分解や破骨細胞による除去を受けないことから、生体反応性が非常に低いという問題を有する。さらに、前記方法によると、副産物として異なる相を有するリン酸カルシウム類や水酸化カルシウムなどが同時に生成されることが知られている[参照文献:H.―G.Pfaff et al.,Properties of HA―Coatings in ’Bioceramics',vol.6.,eds..P.Ducheyne and D.Christiansen,pp.419―424,Butterworth―Heinemann Ltd.(1993)]。一般に、人体の骨は、生成されてから除去され、再び機能性を有する骨に生成される一連の過程(Bone Remodeling)を経る。結晶度の高い水酸化アパタイトコーティング膜は、骨が生成/除去/生成される過程に関与しないため、コーティング膜として長期間人体に存在するようになる。機能性を有する骨が生成された後にもコーティング膜が存在し、異なる相を有する各副産物に分解されながら表面のコーティング膜の剥離を誘導し、最終的にインプラントが脱落する原因となる。したがって、従来の結晶度の高い水酸化アパタイトコーティング層の問題を解決するために、生体内で破骨細胞によって吸収されて骨のリモデリング過程に関与できる低結晶性水酸化アパタイトの必要性が台頭している。
【0006】
また、スパッタリング法やイオン注入法は、装置が高価であることのみならず、形状が複雑であること、凹凸部のコーティング層の均一性が低いこと、人体において剥離現象によりインプラントの脱落が起こることなどの多くの問題をもたらしてきた。
【0007】
一方、湿式コーティング方法として、リン酸カルシウム溶液を利用したり、疑似体液を使用する方法がある。多様な形態のリン酸カルシウムの製造やコーティングは、リン酸カルシウムイオン溶液から開始される。このようなリン酸カルシウム化合物は、カルシウムイオンとリン酸イオンを多様な条件で水溶液中で混合して調製できるが、化合物の種類と形態は、イオンの濃度、Ca/Pの比率及びpH条件に大きな影響を受けることが知られている[参照文献:Ayako Oyane,Kazuo Onuma,Tadashi Kokubo,and Atsuo Ito J.Phys.Chem.B 1999,103,8230―8235,Elliott J.C.In Structure and Chemistry of the Apatites and Other Calcium Orthophosphates, Studies in Inorganic Chemistry 18, Amsterdam:Elsevier,pp 111―190(1994)]。これら各コーティング方法は、複雑な工程を有したり、長時間のコーティング時間を要する。一般に、リン酸カルシウムの過飽和溶液は、自発的に起きる沈澱現象により濃度の維持が難しく[参照文献:H.B.Wen et al.,J.Biomed.Mater.Res.41,227―236(1998)]、約37℃を維持するという制限条件下で行われる工程では、表面の条件によって約一ヶ月以上の長時間を要することもある。このような問題を解決するために、工程温度を下げ、リン酸イオンの緩衝システムを適用することによって、過飽和溶液におけるリン酸カルシウム結晶の沈澱を抑制し、インプラントにリン酸カルシウムをコーティングする方法が開発された。しかし、これらの方法も、カルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液を調製するために酸を使用しなければならず、リン酸カルシウムの沈澱抑制のために低温で塩基溶液と混合し、pH(水素イオン濃度)を調節しなければならない。また、カルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液との混合初期に発生する無定形リン酸カルシウムを除去するために精製(多孔性フィルター法又は遠心分離法)を行わなればならず、複雑かつ長い工程時間(キム・ヒョンマン等、大韓民国特許出願第99―38528号、オスコテック社、キム・セウォン等、大韓民国特許出願第00―51923号)という限界を克服できずにいる。
【0008】
湿式方法を利用したリン酸カルシウム系列の各化合物は、温度とpH値によって示す平衡相が異なる。特に温度40℃以下では、リン酸カルシウムの平衡相はpH7以上で非晶質(Ca3(PO4)・nH2O;n=3〜4.5)又は非化学量論的な水酸化アパタイト(Ca10−x(HPO4)x(PO4)6−x・nH2O;x=0〜1、n=0〜2)を有し、pH6〜7ではOCP(octacalcium phosphate:第八リン酸カルシウム、Ca8H2(PO4)3・5H2O)の平衡相を有し、pH6以下ではDCP(dicalcium phosphate:第二リン酸カルシウム、CaHPO4)、DCPD(dicalcium phosphate dihydrous:第二リン酸カルシウム二水和物、CaHPO4・2H2O)などの平衡相を有することが知られている。従来技術の湿式方法によるリン酸カルシウムコーティングは、リン酸カルシウムの溶解度を利用したもので、工程温度が上がるほどリン酸カルシウムの溶解度が低下する現象を利用する方法である。したがって、2℃〜5℃の低温で初期工程を進行させる必要があり、昇温なしでは、リン酸カルシウムのコロイドのみならず、コーティング膜を得ることが非常に難しい。また、反応温度を上げることによってリン酸カルシウムのコロイド溶液とコーティング膜を得る過程では、終了時における溶液のpHは6.0〜6.5にあることが一般的である。従来の湿式方法によるリン酸カルシウムコーティング膜化合物の正確なリン酸カルシウムの平衡相は知られていないが、リン酸カルシウム溶液の温度とpHとの相関関係から、OCPであると類推できる。
【0009】
以上、説明したように、従来の湿式方法は、リン酸カルシウムの温度変化による溶解度の差を利用したものであり、リン酸カルシウムコーティング膜の形成のために、温度及び/又はpHの調節、昇温過程及び複雑な手順が要求されるという限界を有する。このため、本願発明は、従来の湿式方法における手順の煩雑さを解決するためになされたものであり、温度及びpHの調節又は昇温過程がなくても、比較的簡単な工程と低廉な費用で生産性に優れた水酸化アパタイトのコーティング方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の結晶度の高い水酸化アパタイトコーティング層の限界を克服し、生体内で破骨細胞によって吸収されて骨のリモデリング過程に参加することによって、新生骨と隔離せずに長期間適用できる低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたインプラントを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、従来の湿式方法に比べて手順が比較的単純で、温度及び/又はpHの調節、昇温過程などの反応条件の厳密な制御が必要でないために経済的であり、生体活性に優れた低結晶性水酸化アパタイトコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るインプラントコーティング方法は、
1)チタンインプラント又はチタン合金インプラント表面を前処理する工程、
2)リン酸イオン溶液及びカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製する工程、及び
3)チタンインプラント又はチタン合金インプラントをリン酸カルシウム溶液に浸漬した状態で保管する工程を含み、
前記方法によって生成された低結晶性水酸化アパタイトは、網状、島状又は薄膜形状であり、かつ生吸収性であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るインプラントコーティング方法は、生体内で破骨細胞に吸収されて骨のリモデリング過程に関与することによって、新生骨と分離することなく長期間適用できるという利点を有する。
【0014】
また、チタンインプラント表面に付与された生体活性によってインプラント骨組織及び歯組織との強い界面部結合を誘導し、骨伝導能又は骨生成を促進するだけでなく、コーティング層である低結晶性水酸化アパタイトの生吸収性によって表面コーティング層の剥離によるインプラントの脱落を防止し、インプラント成功率を高めることができる。
【0015】
本発明によると、非常に簡単な工程と低廉な費用で優れた歯科用インプラント製作が可能であり、薄いコーティング層、厚いコーティング層及びチタンとコーティング層が共に露出した表面などのように、必要によってコーティング層の厚さ及び形態を調節できる。そのため、歯科分野のみならず、整形外科においてもその用途に合わせて多様に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】コーティングされていないチタンインプラント表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが厚く網状にコーティングされた状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが薄く網状と島状にコーティングされた状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが島状にコーティングされた状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが薄く網状と島状にコーティングされたコーティング膜の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】前処理実施の有無による低結晶性水酸化アパタイトのコーティング性を比較した走査電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の概略的な工程フローチャートである。
【図8】シグマアルドリッチの水酸化アパタイトと本発明による低結晶性水酸化アパタイトコーティング表面の高分解能透過電子顕微鏡で捉えた格子構造比較写真である。
【図9】図8の格子構造比較写真で求めることのできる中心から各原子までの距離及び原子間角度の測定結果を示す図である。
【図10】チタンインプラントにコーティングされた低結晶性水酸化アパタイトを高分解能透過電子顕微鏡下の元素分析機を利用して測定した結果を示す図である。
【図11】RBM処理されたチタン基板と低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラント基板で、14日間に間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化した程度を比較するグラフである。
【図12】RBM処理されたチタン基板と低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラント基板で、14日/28日間に間葉系幹細胞が石灰化した程度を比較するグラフである。
【図13】低結晶性水酸化アパタイトを移植してから2週/6週後のコーティング膜の生吸収程度を示す走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、機械的物性に優れた生体インプラント用のチタン表面に骨成長と骨伝導に優れた水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントとその方法に関するものであり、10℃〜35℃の常温で低濃度リン酸カルシウム水溶液中のチタンインプラント表面に網状又は島状の低結晶性水酸化アパタイト成長を誘導する技術を提供する。
【0018】
本発明に係るコーティング方法は、純粋なチタンの他に、チタン合金を原材料として使用するインプラントに適用することができ、また、インプラントを構成する表面としても、チタンを原材料として使用し、多様な方法で表面処理したものを使用することができる。工程時間は、表面処理形態によって本発明の実施例とやや異なる場合もあるが、インプラント表面に水酸化アパタイトをコーティングする技術に熟練した当業者であれば容易に反応時間を調節できるだろう。
【0019】
具体的に、本発明に係るインプラントコーティング方法は、
1)チタンインプラント又はチタン合金インプラント表面を前処理する工程、
2)リン酸イオン溶液及びカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製する工程、及び
3)チタンインプラント又はチタン合金インプラントをリン酸カルシウムイオン溶液に浸漬した状態で保管する工程を含む。
【0020】
前記前処理工程は、例えば、吸収性ブラスト媒体を使用して表面処理するRBM(Resorbable Blasting Media)方法、アルミニウムブラスティング後に酸でエッチングするSLA(Sand―blasted Large grit、and Acid etched)表面処理法、300℃以上の温度での熱処理、陽極酸化、酸処理及び塩基処理からなるグループから選択された1以上の、市場や研究で通常使用されている方法を使用することができ、上述した方法で表面処理されたチタン又はチタン合金素材の場合、前処理段階は省略可能である。また、前処理工程は、チタンインプラント又はチタン合金インプラントに蒸留水、カルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液又はリン酸カルシウム溶液中で1分間以上超音波を施す方法を含み、上述したRBM、SLA又は熱処理などを施した後、超音波処理を施すことができる。
【0021】
前記チタン又はチタン合金インプラントに超音波を施す前に、酸溶液又は塩基溶液でインプラントを洗浄する段階をさらに含むことができる。前記酸溶液は、例えば、硝酸、塩酸、硫酸又はフッ酸溶液であり、このうち硝酸であることが望ましい。前記塩基溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどであり、このうち、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることが望ましい。チタン又はチタン合金の素材を有するインプラントは、前記酸溶液又は塩基溶液を利用して表面に存在する水酸化炭素を任意に除去することができる。前記酸溶液又は塩基溶液は、4v/v%〜60v/v%程度であることが望ましい。酸又は塩基溶液洗浄工程は、表面の親水性特性及び形状によって省略可能である。また、酸又は塩基溶液の洗浄後には、表面に残留する酸又は塩基を除去するために蒸留水で表面を洗浄することができる。これも、酸又は塩基溶液洗浄工程が省略された表面では省略可能である。
【0022】
本明細書に提示された低濃度(約1.0mM〜約10mM)のカルシウムイオン溶液は、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2もしくはCa(NO3)2・4H2Oなど)又は塩化カルシウム(CaCl2もしくはCaCl2・2H2Oなど)を蒸留水に溶解させる簡単な方法で調製することができる。本願の低濃度(約1.0mM〜約10mM)のリン酸イオン溶液は、第二リン酸アンモニウム((NH4)2HPO4など)、第二リン酸ナトリウム(Na2HPO4、Na2HPO4・2H2O又はNa2HPO4・7H2Oなど)又は第二リン酸カリウム(K2HPO4又はK2HPO4・3H2Oなど)を蒸留水に溶解させる簡単な方法で調製することができる。
【0023】
調製したリン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製し、これをインプラント基材上に適用することができ、望ましくは、リン酸カルシウムイオン溶液を調製した後、0分から30分以内にインプラント基材上に添加する。ここで、調製後0分とは、リン酸カルシウムイオン溶液を調製した直後にインプラント基材上に添加したり、又はインプラント基材上にリン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液をそれぞれ添加することをいう。
【0024】
リン酸カルシウム溶液の濃度は1.0mM〜10mMである。また、本発明の低結晶性水酸化アパタイトをチタンインプラントにコーティングするために低濃度リン酸カルシウム溶液に浸漬する時間は1時間以上であるが、表面の状態及び形状、及び厚さを調節するために、浸漬時間を変えることができる。また、前記浸漬温度は、約10℃〜約35℃、望ましくは約15℃〜約30℃であって、温度を一定に維持しても昇温させてもよい。前記浸漬時間及び浸漬温度は、当業界の技術者であれば、用途及び目的に合わせて容易に選択できるだろう。
【0025】
低濃度で調製したカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液をチタンインプラントにそれぞれ加え、30分以上、望ましくは1時間以上浸漬した後、チタンインプラントを取り出して蒸留水で簡単に洗浄することによって、網状又は島状低結晶性水酸化アパタイトをチタンインプラント又はチタン合金インプラントの表面にコーティングすることができる。
【0026】
本発明に係るコーティング方法は、リン酸カルシウム溶液のpHを調節する必要がなく、また、リン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液を混合する際に撹拌する必要がないという利点を有する。
【0027】
本発明で提示する低結晶性水酸化アパタイトコーティング方法は、常温でリン酸カルシウム溶液の溶解度が低下する現象と、リン酸イオン溶液にカルシウムイオンを混合することによってリン酸イオン溶液中に存在するリン酸水素(HPO42−)の解離定数が変化し、リン酸カルシウム溶液にチタンインプラントを浸漬している間、非結晶質又は結晶質のリン酸カルシウムが持続的に生成するという化学的メカニズムとを充分に利用したものである。下記の式は、リン酸イオン溶液の反応スキームである。
【0028】
Na2H(PO4)2 ⇒ 2Na++H(PO4)2−
【0029】
H(PO4)2− ⇔ H−+(PO4)3−(Ka=10−11.66)
【0030】
リン酸イオン溶液は、リン酸水素イオンの解離定数が非常に小さい。したがって、溶液中には、解離された状態で存在するリン酸水素イオンの量が非常に少ない。本願発明は、緩衝溶液やリン酸カルシウムの溶解度の温度依存性を利用する従来技術とは異なって、カルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液の混合過程で発生するリン酸水素イオンの解離定数の変化を利用するものである。リン酸イオン溶液にカルシウムイオン溶液を添加すると、リン酸水素イオンの解離が促進される。リン酸水素イオンの解離は持続的に生じ、工程濃度や温度によって多少異なるが、1時間程度の工程時間で急激にリン酸水素イオンの解離が発生し、さらに時間が経過すると、ゆっくり持続的に解離が起こる。したがって、急激なリン酸水素イオンの解離が生じる工程時間で網状のコーティング膜を得ることができ、より長い時間(3時間以上)工程を進行させると、リン酸水素イオンの持続的な解離によって厚い低結晶性水酸化アパタイトコーティング膜を得ることができる。低結晶性水酸化アパタイト薄膜の厚さは約10nm以下であり、浸漬時間が長くなるにつれてより厚い薄膜を得ることができる。
【0031】
また、本願発明で、前処理は、リン酸カルシウム溶液中に存在するチタンインプラント表面にリン酸カルシウム結晶を均一にかつ優れた接着力でコーティングするためにインプラント表面に活性を付与する工程である。一般に、常温のリン酸カルシウム溶液でのリン酸カルシウム結晶生成速度が非常に速いため、チタンインプラント表面に適切な活性が付与されない場合、インプラントにコーティングが行われないか、コーティングの接着力が著しく低下する。要するに、チタンインプラント表面の前処理は、リン酸カルシウム溶液やインプラント表面でのリン酸カルシウムの生成及び成長に対してインプラント表面での結晶成長能力を増加させる方策であると言える。また、前処理を通してインプラント表面での低結晶性水酸化アパタイトのコーティング均一性が向上し、反復性と再現性も大きく向上する。
【0032】
本願での前処理方法は、上述した通りであって、望ましくは、チタンインプラント又はチタン合金インプラントに蒸留水、カルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液又はリン酸カルシウム溶液中で1分間以上超音波を施す。
【0033】
本発明に係るコーティング方法によって調製された低結晶性水酸化アパタイトは、非化学量論的であり、かつ生吸収性であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたインプラントは、網状又は島状のコーティング層とインプラントチタン表面が共に露出した二重表面を有することによって、チタンの細胞接着力と水酸化アパタイトの骨伝導能の効果の相乗作用により、骨形成能が向上する。
【0035】
本願で言及したように、リン酸カルシウム溶液での網状又は島状を有する低結晶性水酸化アパタイトのコーティングでは、水酸化アパタイトの濃度、温度及び工程時間によって所望の厚さを決定することができる。コーティングの状態は走査電子顕微鏡で確認することができ、工程が非常に単純であることから、歯以外にも各種インプラント領域でその用途に合わせて低結晶性水酸化アパタイトコーティングの程度を調節することができる。
【0036】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、実施例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
チタンインプラントの前処理
【0038】
SLA(アルミニウムブラスティング後、酸でエッチングする表面処理方法)で処理したインプラントを12%硝酸(HNO3)溶液に5分間浸漬し、これに超音波を施した後、蒸留水(H2O)で表面の酸を除去する。12%硝酸溶液は、60%硝酸溶液を蒸留水(H2O)と1:4に混合して調製した。硝酸溶液で洗浄で表面の不純物が除去されたインプラントは蒸留水に浸漬し、これに15分間超音波を施す。
<実施例2>
低濃度のカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液の調製
【0039】
リン酸カルシウム溶液の調製は、高濃度の200mMカルシウム(Ca)イオン溶液とリン酸(PO4)イオン溶液を調製する工程から開始する。高濃度のカルシウムイオン溶液は、塩化カルシウム(CaCl2)を蒸留水(H2O)に溶かして調製し、高濃度のリン酸イオン溶液は第二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)を蒸留水(H2O)に溶かして調製した。高濃度の200mMのカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液をそれぞれ5mMになるように蒸留水で希釈した。5mMの低濃度に希釈されたカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液は、コーティング工程を進行する温度と同一の温度で保管し、望ましくは、コーティング工程を進行する定温器(incubator)で保管する。
<実施例3>
低結晶性水酸化アパタイトコーティング
【0040】
低結晶性水酸化アパタイトコーティングは、以下のように行った。最終的に蒸留水で前処理されたインプラントを反応容器に入れた後、この容器に5mMの低濃度リン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液をそれぞれ同一の量で順次入れてから混合し、2.5mMのリン酸カルシウム溶液を調製した。チタンインプラントと2.5mMのリン酸カルシウム溶液が含まれた反応容器は、20℃の定温器で60分間保管する。その後、反応容器からチタンインプラントを取り出し、これを蒸留水で簡単に洗浄して乾燥すると、網状のコーティング表面を形成することができる。
【0041】
図3の走査電子顕微鏡写真では、網状のコーティング表面の形状と、低結晶性水酸化アパタイトとチタンが共に露出していることを確認することができ、図5の透過電子顕微鏡写真では、網状の低結晶性水酸化アパタイトコーティング厚さが10nm以下であることを確認することができる。
【0042】
厚さの調節をするために定温器で180分以上保管し、低結晶性水酸化アパタイトを厚くコーティングすることができる。リン酸カルシウム溶液を先に調製した後、1分〜3分が経過した時点で前処理されたインプラントを反応容器に入れて60分間保管すると、チタンと低結晶性水酸化アパタイトが外面に共存する島状のコーティング表面を得ることもできる。
【0043】
【表1】
<比較例1>
前処理によるチタンインプラントのコーティング性
【0044】
実施例1のように蒸留水で超音波前処理を施した実験群と前処理を施していない対照群に対し、実施例2と実施例3のようにチタンインプラントを行った。
【0045】
【表2】
【0046】
図6の実験群と対照群の走査電子顕微鏡写真では、対照群ではコーティングが形成されていないことを確認することができ、実験群では網状の薄いコーティング膜が形成されたことを確認することができる。したがって、前処理は、チタンインプラントにおいてコーティング性を左右する要素であると同時に、コーティング膜の均一性を改善できる要素である。
<実験例1>
間葉系幹細胞のアルカリ性リン酸分解酵素活性の測定
【0047】
実施例で製造された低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントにおいて、細胞培養皿で培養された間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化程度を測定するために、アルカリ性リン酸分解酵素(Alkaline phosphatase、ALP)の活性を測定した。
【0048】
RBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)で処理したチタンディスクと、それを母材にして低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスクにヒト骨髓由来の間葉系幹細胞(Human Bone Marrow derived Mesenchymal stem cell)を播種し、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を誘導するために0.1μMのデキサメタゾン、10mMのβ―グリセリンリン酸及び50μg/mlのアスコルビン酸を含有する培養液で処理して14日間培養した後、アルカリ性リン酸分解酵素活性を測定して比較した。培養された細胞をPBSで洗浄した後、溶解バッファー(lysis buffer)で溶解させ、ALP活性測定キットを使用して測定した。
【0049】
図11のグラフに示したように、前記実施例で製造された網状と島状が混在した低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスクで間葉系幹細胞のアルカリ性リン酸分解酵素活性が増大していることが分かる。これらの結果から、低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントは、その母材として使用したRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)処理を施しただけのインプラントよりも骨芽細胞への分化を促進させることが分かる。
<実験例2>
間葉系幹細胞の石灰化結節形成の測定
【0050】
実施例で製造された低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントにおいて、細胞培養皿で培養された間葉系幹細胞の石灰化結節形成程度を測定するために、下記のように実験を実施した。
【0051】
実験例1のような方法でRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)で処理したチタンディスクと、それを母材として低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスクにヒト骨髓由来の間葉系幹細胞を播種し、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を誘導するために分化誘導培養液で処理して2週間又は4週間培養した。培養された細胞をPBSで洗浄した後、これを4%のパラホルムアルデヒドで15分間固定してから、蒸留水で洗浄した。予め調製しておいたpH4.2のアリザリンレッド(Alizarin Red)溶液を添加して20分間染色工程を実施した後、これを蒸留水で洗浄し、残った溶液を除去した。染色された石灰化結節の定量評価のために、リン酸ナトリウム溶液(pH7)に10%wt/volの塩化セチルピリジニウムを添加し、染料を溶出させて吸光度を測定した。
【0052】
図12のグラフに示したように、実施例で製造された網状と島状が混在した低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスク表面で間葉系幹細胞の石灰化が増大していることが分かる。これらの結果から、低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントは、その母材として使用したRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)処理を施しただけのインプラントよりも表面の石灰化結節形成を促進させることが分かる。
<実験例3>
動物を用いた生吸収性評価
【0053】
実施例で製造された低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントをウサギの腸骨に移植し、骨リモデリング前後のコーティング膜残存の有無を確認した。
【0054】
実験例1のような方法でRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)処理されたチタンインプラントと、それを母材として低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンインプラントをニュージーランドホワイトウサギの腸骨に移植した。インプラントの直径は3.5mm、長さは8.5mmである。インプラント植立のためにウサギの腸骨に直径3.6mmの穴をあけ、インプラントを手で押し入れた。そして、2週後と6週後にウサギを犠死させ、インプラントをウサギから取り出して走査電子顕微鏡で観察した。
【0055】
図13で比較した走査電子顕微鏡写真は、非化学量論的な低結晶性水酸化アパタイトコーティング膜が生吸収性を有することを示している。ウサギの腸骨にインプラントを移植してから2週後の実験では、未だにコーティング膜が残っていることを確認することができ、6週後の実験では、既に骨リモデリングが完了し、破骨細胞によってコーティング膜が消えたことを確認することができた。したがって、本発明の非化学量論的な低結晶性水酸化アパタイトコーティング膜は、骨のリモデリング過程に関与して除去される生吸収性を有することが分かる。
【0056】
以上の実験例から分かるように、網状と島状が混在した低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたインプラントは、細胞の分化と石灰化結節形成を促進させる。これによって、低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされた本発明のインプラントが生体適合性に優れることを確認することができ、骨リモデリング過程に関与する生吸収性を有し、コーティング膜の剥離及びそれによるインプラント脱落の改善効果を有する、優れた生体材料として使用できることが分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植材料として広く使用されるチタンインプラント表面を、生吸収性を有する低結晶性水酸化アパタイトでコーティングする方法及びその方法によってコーティングされたインプラントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、骨や歯などの生体硬組織に代わる人工生体材料として、水酸化アパタイト(Hydroxyapatite)が多く使用されている。水酸化アパタイトは、人体内の骨及び歯を構成する無機質成分と化学的及び結晶学的に同一な物質であり、これを人体内に移植すると、周辺の各細胞と調和しながら接合部位で骨と直接的に速い化学的結合をなす生体活性を有している。カルシウムイオン、リン酸イオン、水酸化イオンで構成されている純粋な水酸化アパタイト結晶は、棒状構造を有する化学量論的な結晶として高い結晶度を有する。一方、骨や石灰化軟骨組織(calcified cartilage)から分離された生体結晶は、非化学量論的な水酸化アパタイトとして低い結晶度を有する[参照文献:Elliott J.C.In Structure and Chemistry of the Apatites and Other Calcium Orthophosphates,Studies in Inorganic Chemistry 18,Amsterdam:Elsevier,pp.111―190(1994)]。
【0003】
チタンは、物理的性質が人体の骨と類似しており、機械的強度にも優れるので、インプラント材料として多く使用されている。また、チタンは、体内で炎症反応やその他の免疫反応を起こさない金属として広範囲に使用されている。チタン自体に生体活性を付与するために、表面をブラスティング(Blasting)したり、酸でエッチングすることによって多様に改質(大韓民国特許出願第98―23075号の他多数)して産業に応用している。しかし、チタンは、水酸化アパタイトなどのセラミックス材料に比べて生体親和性が低く、人体内で長期間存在すると、金属イオンの溶解進行によって体内の無機物質の生成をもたらすという問題がある。
【0004】
したがって、最近は、チタンに水酸化アパタイト薄膜をコーティングすることによって機械的強度と生体親和性に優れた生体硬組織用材料を得る方法が多様に開発されている。チタンの表面に生体活性を付与するためにセラミックコーティングをする既存の代表的な方法としては、プラズマスプレー法、スパッタリング法、イオン注入法、イオンビーム蒸着法などがあり、水酸化アパタイトの結晶学的特性が生体結晶の特性と類似する結晶膜を形成するために、リン酸カルシウム溶液を利用したり、疑似体液を利用する研究などが多方面で進められている。
【0005】
前記方法のうち最も多く利用されているプラズマスプレー法は、10,000℃以上の高温への瞬間的な露出によってコーティング層が不均一になり、約10μm未満の厚さにコーティングすることが難しいという短所を有する。また、表面にコーティングされる水酸化アパタイトの結晶度が非常に高いため、生体内での分解や破骨細胞による除去を受けないことから、生体反応性が非常に低いという問題を有する。さらに、前記方法によると、副産物として異なる相を有するリン酸カルシウム類や水酸化カルシウムなどが同時に生成されることが知られている[参照文献:H.―G.Pfaff et al.,Properties of HA―Coatings in ’Bioceramics',vol.6.,eds..P.Ducheyne and D.Christiansen,pp.419―424,Butterworth―Heinemann Ltd.(1993)]。一般に、人体の骨は、生成されてから除去され、再び機能性を有する骨に生成される一連の過程(Bone Remodeling)を経る。結晶度の高い水酸化アパタイトコーティング膜は、骨が生成/除去/生成される過程に関与しないため、コーティング膜として長期間人体に存在するようになる。機能性を有する骨が生成された後にもコーティング膜が存在し、異なる相を有する各副産物に分解されながら表面のコーティング膜の剥離を誘導し、最終的にインプラントが脱落する原因となる。したがって、従来の結晶度の高い水酸化アパタイトコーティング層の問題を解決するために、生体内で破骨細胞によって吸収されて骨のリモデリング過程に関与できる低結晶性水酸化アパタイトの必要性が台頭している。
【0006】
また、スパッタリング法やイオン注入法は、装置が高価であることのみならず、形状が複雑であること、凹凸部のコーティング層の均一性が低いこと、人体において剥離現象によりインプラントの脱落が起こることなどの多くの問題をもたらしてきた。
【0007】
一方、湿式コーティング方法として、リン酸カルシウム溶液を利用したり、疑似体液を使用する方法がある。多様な形態のリン酸カルシウムの製造やコーティングは、リン酸カルシウムイオン溶液から開始される。このようなリン酸カルシウム化合物は、カルシウムイオンとリン酸イオンを多様な条件で水溶液中で混合して調製できるが、化合物の種類と形態は、イオンの濃度、Ca/Pの比率及びpH条件に大きな影響を受けることが知られている[参照文献:Ayako Oyane,Kazuo Onuma,Tadashi Kokubo,and Atsuo Ito J.Phys.Chem.B 1999,103,8230―8235,Elliott J.C.In Structure and Chemistry of the Apatites and Other Calcium Orthophosphates, Studies in Inorganic Chemistry 18, Amsterdam:Elsevier,pp 111―190(1994)]。これら各コーティング方法は、複雑な工程を有したり、長時間のコーティング時間を要する。一般に、リン酸カルシウムの過飽和溶液は、自発的に起きる沈澱現象により濃度の維持が難しく[参照文献:H.B.Wen et al.,J.Biomed.Mater.Res.41,227―236(1998)]、約37℃を維持するという制限条件下で行われる工程では、表面の条件によって約一ヶ月以上の長時間を要することもある。このような問題を解決するために、工程温度を下げ、リン酸イオンの緩衝システムを適用することによって、過飽和溶液におけるリン酸カルシウム結晶の沈澱を抑制し、インプラントにリン酸カルシウムをコーティングする方法が開発された。しかし、これらの方法も、カルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液を調製するために酸を使用しなければならず、リン酸カルシウムの沈澱抑制のために低温で塩基溶液と混合し、pH(水素イオン濃度)を調節しなければならない。また、カルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液との混合初期に発生する無定形リン酸カルシウムを除去するために精製(多孔性フィルター法又は遠心分離法)を行わなればならず、複雑かつ長い工程時間(キム・ヒョンマン等、大韓民国特許出願第99―38528号、オスコテック社、キム・セウォン等、大韓民国特許出願第00―51923号)という限界を克服できずにいる。
【0008】
湿式方法を利用したリン酸カルシウム系列の各化合物は、温度とpH値によって示す平衡相が異なる。特に温度40℃以下では、リン酸カルシウムの平衡相はpH7以上で非晶質(Ca3(PO4)・nH2O;n=3〜4.5)又は非化学量論的な水酸化アパタイト(Ca10−x(HPO4)x(PO4)6−x・nH2O;x=0〜1、n=0〜2)を有し、pH6〜7ではOCP(octacalcium phosphate:第八リン酸カルシウム、Ca8H2(PO4)3・5H2O)の平衡相を有し、pH6以下ではDCP(dicalcium phosphate:第二リン酸カルシウム、CaHPO4)、DCPD(dicalcium phosphate dihydrous:第二リン酸カルシウム二水和物、CaHPO4・2H2O)などの平衡相を有することが知られている。従来技術の湿式方法によるリン酸カルシウムコーティングは、リン酸カルシウムの溶解度を利用したもので、工程温度が上がるほどリン酸カルシウムの溶解度が低下する現象を利用する方法である。したがって、2℃〜5℃の低温で初期工程を進行させる必要があり、昇温なしでは、リン酸カルシウムのコロイドのみならず、コーティング膜を得ることが非常に難しい。また、反応温度を上げることによってリン酸カルシウムのコロイド溶液とコーティング膜を得る過程では、終了時における溶液のpHは6.0〜6.5にあることが一般的である。従来の湿式方法によるリン酸カルシウムコーティング膜化合物の正確なリン酸カルシウムの平衡相は知られていないが、リン酸カルシウム溶液の温度とpHとの相関関係から、OCPであると類推できる。
【0009】
以上、説明したように、従来の湿式方法は、リン酸カルシウムの温度変化による溶解度の差を利用したものであり、リン酸カルシウムコーティング膜の形成のために、温度及び/又はpHの調節、昇温過程及び複雑な手順が要求されるという限界を有する。このため、本願発明は、従来の湿式方法における手順の煩雑さを解決するためになされたものであり、温度及びpHの調節又は昇温過程がなくても、比較的簡単な工程と低廉な費用で生産性に優れた水酸化アパタイトのコーティング方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の結晶度の高い水酸化アパタイトコーティング層の限界を克服し、生体内で破骨細胞によって吸収されて骨のリモデリング過程に参加することによって、新生骨と隔離せずに長期間適用できる低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたインプラントを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、従来の湿式方法に比べて手順が比較的単純で、温度及び/又はpHの調節、昇温過程などの反応条件の厳密な制御が必要でないために経済的であり、生体活性に優れた低結晶性水酸化アパタイトコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るインプラントコーティング方法は、
1)チタンインプラント又はチタン合金インプラント表面を前処理する工程、
2)リン酸イオン溶液及びカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製する工程、及び
3)チタンインプラント又はチタン合金インプラントをリン酸カルシウム溶液に浸漬した状態で保管する工程を含み、
前記方法によって生成された低結晶性水酸化アパタイトは、網状、島状又は薄膜形状であり、かつ生吸収性であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るインプラントコーティング方法は、生体内で破骨細胞に吸収されて骨のリモデリング過程に関与することによって、新生骨と分離することなく長期間適用できるという利点を有する。
【0014】
また、チタンインプラント表面に付与された生体活性によってインプラント骨組織及び歯組織との強い界面部結合を誘導し、骨伝導能又は骨生成を促進するだけでなく、コーティング層である低結晶性水酸化アパタイトの生吸収性によって表面コーティング層の剥離によるインプラントの脱落を防止し、インプラント成功率を高めることができる。
【0015】
本発明によると、非常に簡単な工程と低廉な費用で優れた歯科用インプラント製作が可能であり、薄いコーティング層、厚いコーティング層及びチタンとコーティング層が共に露出した表面などのように、必要によってコーティング層の厚さ及び形態を調節できる。そのため、歯科分野のみならず、整形外科においてもその用途に合わせて多様に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】コーティングされていないチタンインプラント表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが厚く網状にコーティングされた状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが薄く網状と島状にコーティングされた状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが島状にコーティングされた状態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図5】チタンインプラント表面に低結晶性水酸化アパタイトが薄く網状と島状にコーティングされたコーティング膜の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】前処理実施の有無による低結晶性水酸化アパタイトのコーティング性を比較した走査電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の概略的な工程フローチャートである。
【図8】シグマアルドリッチの水酸化アパタイトと本発明による低結晶性水酸化アパタイトコーティング表面の高分解能透過電子顕微鏡で捉えた格子構造比較写真である。
【図9】図8の格子構造比較写真で求めることのできる中心から各原子までの距離及び原子間角度の測定結果を示す図である。
【図10】チタンインプラントにコーティングされた低結晶性水酸化アパタイトを高分解能透過電子顕微鏡下の元素分析機を利用して測定した結果を示す図である。
【図11】RBM処理されたチタン基板と低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラント基板で、14日間に間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化した程度を比較するグラフである。
【図12】RBM処理されたチタン基板と低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラント基板で、14日/28日間に間葉系幹細胞が石灰化した程度を比較するグラフである。
【図13】低結晶性水酸化アパタイトを移植してから2週/6週後のコーティング膜の生吸収程度を示す走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、機械的物性に優れた生体インプラント用のチタン表面に骨成長と骨伝導に優れた水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントとその方法に関するものであり、10℃〜35℃の常温で低濃度リン酸カルシウム水溶液中のチタンインプラント表面に網状又は島状の低結晶性水酸化アパタイト成長を誘導する技術を提供する。
【0018】
本発明に係るコーティング方法は、純粋なチタンの他に、チタン合金を原材料として使用するインプラントに適用することができ、また、インプラントを構成する表面としても、チタンを原材料として使用し、多様な方法で表面処理したものを使用することができる。工程時間は、表面処理形態によって本発明の実施例とやや異なる場合もあるが、インプラント表面に水酸化アパタイトをコーティングする技術に熟練した当業者であれば容易に反応時間を調節できるだろう。
【0019】
具体的に、本発明に係るインプラントコーティング方法は、
1)チタンインプラント又はチタン合金インプラント表面を前処理する工程、
2)リン酸イオン溶液及びカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製する工程、及び
3)チタンインプラント又はチタン合金インプラントをリン酸カルシウムイオン溶液に浸漬した状態で保管する工程を含む。
【0020】
前記前処理工程は、例えば、吸収性ブラスト媒体を使用して表面処理するRBM(Resorbable Blasting Media)方法、アルミニウムブラスティング後に酸でエッチングするSLA(Sand―blasted Large grit、and Acid etched)表面処理法、300℃以上の温度での熱処理、陽極酸化、酸処理及び塩基処理からなるグループから選択された1以上の、市場や研究で通常使用されている方法を使用することができ、上述した方法で表面処理されたチタン又はチタン合金素材の場合、前処理段階は省略可能である。また、前処理工程は、チタンインプラント又はチタン合金インプラントに蒸留水、カルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液又はリン酸カルシウム溶液中で1分間以上超音波を施す方法を含み、上述したRBM、SLA又は熱処理などを施した後、超音波処理を施すことができる。
【0021】
前記チタン又はチタン合金インプラントに超音波を施す前に、酸溶液又は塩基溶液でインプラントを洗浄する段階をさらに含むことができる。前記酸溶液は、例えば、硝酸、塩酸、硫酸又はフッ酸溶液であり、このうち硝酸であることが望ましい。前記塩基溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどであり、このうち、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることが望ましい。チタン又はチタン合金の素材を有するインプラントは、前記酸溶液又は塩基溶液を利用して表面に存在する水酸化炭素を任意に除去することができる。前記酸溶液又は塩基溶液は、4v/v%〜60v/v%程度であることが望ましい。酸又は塩基溶液洗浄工程は、表面の親水性特性及び形状によって省略可能である。また、酸又は塩基溶液の洗浄後には、表面に残留する酸又は塩基を除去するために蒸留水で表面を洗浄することができる。これも、酸又は塩基溶液洗浄工程が省略された表面では省略可能である。
【0022】
本明細書に提示された低濃度(約1.0mM〜約10mM)のカルシウムイオン溶液は、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2もしくはCa(NO3)2・4H2Oなど)又は塩化カルシウム(CaCl2もしくはCaCl2・2H2Oなど)を蒸留水に溶解させる簡単な方法で調製することができる。本願の低濃度(約1.0mM〜約10mM)のリン酸イオン溶液は、第二リン酸アンモニウム((NH4)2HPO4など)、第二リン酸ナトリウム(Na2HPO4、Na2HPO4・2H2O又はNa2HPO4・7H2Oなど)又は第二リン酸カリウム(K2HPO4又はK2HPO4・3H2Oなど)を蒸留水に溶解させる簡単な方法で調製することができる。
【0023】
調製したリン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製し、これをインプラント基材上に適用することができ、望ましくは、リン酸カルシウムイオン溶液を調製した後、0分から30分以内にインプラント基材上に添加する。ここで、調製後0分とは、リン酸カルシウムイオン溶液を調製した直後にインプラント基材上に添加したり、又はインプラント基材上にリン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液をそれぞれ添加することをいう。
【0024】
リン酸カルシウム溶液の濃度は1.0mM〜10mMである。また、本発明の低結晶性水酸化アパタイトをチタンインプラントにコーティングするために低濃度リン酸カルシウム溶液に浸漬する時間は1時間以上であるが、表面の状態及び形状、及び厚さを調節するために、浸漬時間を変えることができる。また、前記浸漬温度は、約10℃〜約35℃、望ましくは約15℃〜約30℃であって、温度を一定に維持しても昇温させてもよい。前記浸漬時間及び浸漬温度は、当業界の技術者であれば、用途及び目的に合わせて容易に選択できるだろう。
【0025】
低濃度で調製したカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液をチタンインプラントにそれぞれ加え、30分以上、望ましくは1時間以上浸漬した後、チタンインプラントを取り出して蒸留水で簡単に洗浄することによって、網状又は島状低結晶性水酸化アパタイトをチタンインプラント又はチタン合金インプラントの表面にコーティングすることができる。
【0026】
本発明に係るコーティング方法は、リン酸カルシウム溶液のpHを調節する必要がなく、また、リン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液を混合する際に撹拌する必要がないという利点を有する。
【0027】
本発明で提示する低結晶性水酸化アパタイトコーティング方法は、常温でリン酸カルシウム溶液の溶解度が低下する現象と、リン酸イオン溶液にカルシウムイオンを混合することによってリン酸イオン溶液中に存在するリン酸水素(HPO42−)の解離定数が変化し、リン酸カルシウム溶液にチタンインプラントを浸漬している間、非結晶質又は結晶質のリン酸カルシウムが持続的に生成するという化学的メカニズムとを充分に利用したものである。下記の式は、リン酸イオン溶液の反応スキームである。
【0028】
Na2H(PO4)2 ⇒ 2Na++H(PO4)2−
【0029】
H(PO4)2− ⇔ H−+(PO4)3−(Ka=10−11.66)
【0030】
リン酸イオン溶液は、リン酸水素イオンの解離定数が非常に小さい。したがって、溶液中には、解離された状態で存在するリン酸水素イオンの量が非常に少ない。本願発明は、緩衝溶液やリン酸カルシウムの溶解度の温度依存性を利用する従来技術とは異なって、カルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液の混合過程で発生するリン酸水素イオンの解離定数の変化を利用するものである。リン酸イオン溶液にカルシウムイオン溶液を添加すると、リン酸水素イオンの解離が促進される。リン酸水素イオンの解離は持続的に生じ、工程濃度や温度によって多少異なるが、1時間程度の工程時間で急激にリン酸水素イオンの解離が発生し、さらに時間が経過すると、ゆっくり持続的に解離が起こる。したがって、急激なリン酸水素イオンの解離が生じる工程時間で網状のコーティング膜を得ることができ、より長い時間(3時間以上)工程を進行させると、リン酸水素イオンの持続的な解離によって厚い低結晶性水酸化アパタイトコーティング膜を得ることができる。低結晶性水酸化アパタイト薄膜の厚さは約10nm以下であり、浸漬時間が長くなるにつれてより厚い薄膜を得ることができる。
【0031】
また、本願発明で、前処理は、リン酸カルシウム溶液中に存在するチタンインプラント表面にリン酸カルシウム結晶を均一にかつ優れた接着力でコーティングするためにインプラント表面に活性を付与する工程である。一般に、常温のリン酸カルシウム溶液でのリン酸カルシウム結晶生成速度が非常に速いため、チタンインプラント表面に適切な活性が付与されない場合、インプラントにコーティングが行われないか、コーティングの接着力が著しく低下する。要するに、チタンインプラント表面の前処理は、リン酸カルシウム溶液やインプラント表面でのリン酸カルシウムの生成及び成長に対してインプラント表面での結晶成長能力を増加させる方策であると言える。また、前処理を通してインプラント表面での低結晶性水酸化アパタイトのコーティング均一性が向上し、反復性と再現性も大きく向上する。
【0032】
本願での前処理方法は、上述した通りであって、望ましくは、チタンインプラント又はチタン合金インプラントに蒸留水、カルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液又はリン酸カルシウム溶液中で1分間以上超音波を施す。
【0033】
本発明に係るコーティング方法によって調製された低結晶性水酸化アパタイトは、非化学量論的であり、かつ生吸収性であることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたインプラントは、網状又は島状のコーティング層とインプラントチタン表面が共に露出した二重表面を有することによって、チタンの細胞接着力と水酸化アパタイトの骨伝導能の効果の相乗作用により、骨形成能が向上する。
【0035】
本願で言及したように、リン酸カルシウム溶液での網状又は島状を有する低結晶性水酸化アパタイトのコーティングでは、水酸化アパタイトの濃度、温度及び工程時間によって所望の厚さを決定することができる。コーティングの状態は走査電子顕微鏡で確認することができ、工程が非常に単純であることから、歯以外にも各種インプラント領域でその用途に合わせて低結晶性水酸化アパタイトコーティングの程度を調節することができる。
【0036】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、実施例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
チタンインプラントの前処理
【0038】
SLA(アルミニウムブラスティング後、酸でエッチングする表面処理方法)で処理したインプラントを12%硝酸(HNO3)溶液に5分間浸漬し、これに超音波を施した後、蒸留水(H2O)で表面の酸を除去する。12%硝酸溶液は、60%硝酸溶液を蒸留水(H2O)と1:4に混合して調製した。硝酸溶液で洗浄で表面の不純物が除去されたインプラントは蒸留水に浸漬し、これに15分間超音波を施す。
<実施例2>
低濃度のカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液の調製
【0039】
リン酸カルシウム溶液の調製は、高濃度の200mMカルシウム(Ca)イオン溶液とリン酸(PO4)イオン溶液を調製する工程から開始する。高濃度のカルシウムイオン溶液は、塩化カルシウム(CaCl2)を蒸留水(H2O)に溶かして調製し、高濃度のリン酸イオン溶液は第二リン酸ナトリウム(Na2HPO4)を蒸留水(H2O)に溶かして調製した。高濃度の200mMのカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液をそれぞれ5mMになるように蒸留水で希釈した。5mMの低濃度に希釈されたカルシウムイオン溶液とリン酸イオン溶液は、コーティング工程を進行する温度と同一の温度で保管し、望ましくは、コーティング工程を進行する定温器(incubator)で保管する。
<実施例3>
低結晶性水酸化アパタイトコーティング
【0040】
低結晶性水酸化アパタイトコーティングは、以下のように行った。最終的に蒸留水で前処理されたインプラントを反応容器に入れた後、この容器に5mMの低濃度リン酸イオン溶液とカルシウムイオン溶液をそれぞれ同一の量で順次入れてから混合し、2.5mMのリン酸カルシウム溶液を調製した。チタンインプラントと2.5mMのリン酸カルシウム溶液が含まれた反応容器は、20℃の定温器で60分間保管する。その後、反応容器からチタンインプラントを取り出し、これを蒸留水で簡単に洗浄して乾燥すると、網状のコーティング表面を形成することができる。
【0041】
図3の走査電子顕微鏡写真では、網状のコーティング表面の形状と、低結晶性水酸化アパタイトとチタンが共に露出していることを確認することができ、図5の透過電子顕微鏡写真では、網状の低結晶性水酸化アパタイトコーティング厚さが10nm以下であることを確認することができる。
【0042】
厚さの調節をするために定温器で180分以上保管し、低結晶性水酸化アパタイトを厚くコーティングすることができる。リン酸カルシウム溶液を先に調製した後、1分〜3分が経過した時点で前処理されたインプラントを反応容器に入れて60分間保管すると、チタンと低結晶性水酸化アパタイトが外面に共存する島状のコーティング表面を得ることもできる。
【0043】
【表1】
<比較例1>
前処理によるチタンインプラントのコーティング性
【0044】
実施例1のように蒸留水で超音波前処理を施した実験群と前処理を施していない対照群に対し、実施例2と実施例3のようにチタンインプラントを行った。
【0045】
【表2】
【0046】
図6の実験群と対照群の走査電子顕微鏡写真では、対照群ではコーティングが形成されていないことを確認することができ、実験群では網状の薄いコーティング膜が形成されたことを確認することができる。したがって、前処理は、チタンインプラントにおいてコーティング性を左右する要素であると同時に、コーティング膜の均一性を改善できる要素である。
<実験例1>
間葉系幹細胞のアルカリ性リン酸分解酵素活性の測定
【0047】
実施例で製造された低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントにおいて、細胞培養皿で培養された間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化程度を測定するために、アルカリ性リン酸分解酵素(Alkaline phosphatase、ALP)の活性を測定した。
【0048】
RBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)で処理したチタンディスクと、それを母材にして低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスクにヒト骨髓由来の間葉系幹細胞(Human Bone Marrow derived Mesenchymal stem cell)を播種し、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を誘導するために0.1μMのデキサメタゾン、10mMのβ―グリセリンリン酸及び50μg/mlのアスコルビン酸を含有する培養液で処理して14日間培養した後、アルカリ性リン酸分解酵素活性を測定して比較した。培養された細胞をPBSで洗浄した後、溶解バッファー(lysis buffer)で溶解させ、ALP活性測定キットを使用して測定した。
【0049】
図11のグラフに示したように、前記実施例で製造された網状と島状が混在した低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスクで間葉系幹細胞のアルカリ性リン酸分解酵素活性が増大していることが分かる。これらの結果から、低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントは、その母材として使用したRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)処理を施しただけのインプラントよりも骨芽細胞への分化を促進させることが分かる。
<実験例2>
間葉系幹細胞の石灰化結節形成の測定
【0050】
実施例で製造された低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントにおいて、細胞培養皿で培養された間葉系幹細胞の石灰化結節形成程度を測定するために、下記のように実験を実施した。
【0051】
実験例1のような方法でRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)で処理したチタンディスクと、それを母材として低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスクにヒト骨髓由来の間葉系幹細胞を播種し、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を誘導するために分化誘導培養液で処理して2週間又は4週間培養した。培養された細胞をPBSで洗浄した後、これを4%のパラホルムアルデヒドで15分間固定してから、蒸留水で洗浄した。予め調製しておいたpH4.2のアリザリンレッド(Alizarin Red)溶液を添加して20分間染色工程を実施した後、これを蒸留水で洗浄し、残った溶液を除去した。染色された石灰化結節の定量評価のために、リン酸ナトリウム溶液(pH7)に10%wt/volの塩化セチルピリジニウムを添加し、染料を溶出させて吸光度を測定した。
【0052】
図12のグラフに示したように、実施例で製造された網状と島状が混在した低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンディスク表面で間葉系幹細胞の石灰化が増大していることが分かる。これらの結果から、低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントは、その母材として使用したRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)処理を施しただけのインプラントよりも表面の石灰化結節形成を促進させることが分かる。
<実験例3>
動物を用いた生吸収性評価
【0053】
実施例で製造された低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされたインプラントをウサギの腸骨に移植し、骨リモデリング前後のコーティング膜残存の有無を確認した。
【0054】
実験例1のような方法でRBM(吸収性ブラスト媒体を使用する表面処理方法)処理されたチタンインプラントと、それを母材として低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたチタンインプラントをニュージーランドホワイトウサギの腸骨に移植した。インプラントの直径は3.5mm、長さは8.5mmである。インプラント植立のためにウサギの腸骨に直径3.6mmの穴をあけ、インプラントを手で押し入れた。そして、2週後と6週後にウサギを犠死させ、インプラントをウサギから取り出して走査電子顕微鏡で観察した。
【0055】
図13で比較した走査電子顕微鏡写真は、非化学量論的な低結晶性水酸化アパタイトコーティング膜が生吸収性を有することを示している。ウサギの腸骨にインプラントを移植してから2週後の実験では、未だにコーティング膜が残っていることを確認することができ、6週後の実験では、既に骨リモデリングが完了し、破骨細胞によってコーティング膜が消えたことを確認することができた。したがって、本発明の非化学量論的な低結晶性水酸化アパタイトコーティング膜は、骨のリモデリング過程に関与して除去される生吸収性を有することが分かる。
【0056】
以上の実験例から分かるように、網状と島状が混在した低結晶性水酸化アパタイトをコーティングしたインプラントは、細胞の分化と石灰化結節形成を促進させる。これによって、低結晶性水酸化アパタイトがコーティングされた本発明のインプラントが生体適合性に優れることを確認することができ、骨リモデリング過程に関与する生吸収性を有し、コーティング膜の剥離及びそれによるインプラント脱落の改善効果を有する、優れた生体材料として使用できることが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)チタンインプラント又はチタン合金インプラント表面を前処理する工程、
2)リン酸イオン溶液及びカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製する工程、及び
3)チタンインプラント又はチタン合金インプラントをリン酸カルシウムイオン溶液に浸漬した状態で保管する工程を含む、低結晶性水酸化アパタイトでチタン又はチタン合金のインプラントをコーティングする方法。
【請求項2】
前記前処理工程が、チタンインプラント又はチタン合金インプラントに蒸留水、カルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液又はリン酸カルシウム溶液中で1分間以上超音波を施すことである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸イオン溶液が、第二リン酸アンモニウム、第二リン酸ナトリウム又は第二リン酸カリウムを蒸留水に溶解させて調製されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルシウムイオン溶液が、硝酸カルシウム又は塩化カルシウムを蒸留水に溶解させて調製されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程3)の反応温度が10℃〜35℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理工程が、RBM(Resorbable Blasting Media)処理、SLA(Sand―blasted Large grit、and Acid etched)処理、300℃以上の熱処理、陽極酸化、酸処理、及び塩基処理からなるグループから選択された1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リン酸カルシウムイオン溶液の濃度が1.0mM〜10mMである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
網状又は島状の低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたチタンインプラント又はチタン合金インプラント。
【請求項9】
前記低結晶性水酸化アパタイトが生吸収性を有することを特徴とする、請求項8に記載のインプラント。
【請求項10】
前記低結晶性水酸化アパタイトの薄膜厚さが10nm以下であることを特徴とする、請求項8又は9に記載のインプラント。
【請求項11】
薄膜形態の低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたチタンインプラント又はチタン合金インプラント。
【請求項1】
1)チタンインプラント又はチタン合金インプラント表面を前処理する工程、
2)リン酸イオン溶液及びカルシウムイオン溶液を混合することによってリン酸カルシウムイオン溶液を調製する工程、及び
3)チタンインプラント又はチタン合金インプラントをリン酸カルシウムイオン溶液に浸漬した状態で保管する工程を含む、低結晶性水酸化アパタイトでチタン又はチタン合金のインプラントをコーティングする方法。
【請求項2】
前記前処理工程が、チタンインプラント又はチタン合金インプラントに蒸留水、カルシウムイオン溶液、リン酸イオン溶液又はリン酸カルシウム溶液中で1分間以上超音波を施すことである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸イオン溶液が、第二リン酸アンモニウム、第二リン酸ナトリウム又は第二リン酸カリウムを蒸留水に溶解させて調製されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルシウムイオン溶液が、硝酸カルシウム又は塩化カルシウムを蒸留水に溶解させて調製されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程3)の反応温度が10℃〜35℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理工程が、RBM(Resorbable Blasting Media)処理、SLA(Sand―blasted Large grit、and Acid etched)処理、300℃以上の熱処理、陽極酸化、酸処理、及び塩基処理からなるグループから選択された1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リン酸カルシウムイオン溶液の濃度が1.0mM〜10mMである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
網状又は島状の低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたチタンインプラント又はチタン合金インプラント。
【請求項9】
前記低結晶性水酸化アパタイトが生吸収性を有することを特徴とする、請求項8に記載のインプラント。
【請求項10】
前記低結晶性水酸化アパタイトの薄膜厚さが10nm以下であることを特徴とする、請求項8又は9に記載のインプラント。
【請求項11】
薄膜形態の低結晶性水酸化アパタイトでコーティングされたチタンインプラント又はチタン合金インプラント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図10】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図10】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−530520(P2012−530520A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515963(P2012−515963)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003132
【国際公開番号】WO2010/147308
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511306837)オステムインプラント カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003132
【国際公開番号】WO2010/147308
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511306837)オステムインプラント カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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