説明

網目状多孔質構造体およびその製造方法

【課題】化学的処理により、アルミニウムもしくはその合金の表層部の少なくとも一部に形成される網目多孔質構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】母材がアルミニウムもしくはその合金からなり、表層部の少なくとも一部を、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒とを混合した塩基性混合溶液で処理して形成した網目状多孔質構造体であって、当該網目状多孔質構造体が、孔径5〜500nm、深さ0.05〜10μmの細孔であることを特徴とする網目状多孔質構造体。当該網目状多孔質構造体は微粒子の担体として有用であり、機能性を有する微粒子を担持固定させることにより、機能性部材を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムもしくはその合金の表面に形成させた網目状多孔質構造体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムもしくはその合金(以下総称して「アルミニウム系」ということもある)に表面処理を行い細孔を形成する方法として、一般に、硫酸やシュウ酸の水溶液を電解浴としてアルミニウム等の表面に陽極酸化被膜を形成させる、いわゆる「アルマイト処理」が行われている(特許文献1)。このアルマイト処理は、細孔を有する耐食性の厚い被膜が得られる反面、工程が複雑で、しかも設備費および電力コストが高いという問題がある。また、アルマイト処理においては10〜20nmの細孔が形成されるものの、表面積が大きくない。
【0003】
そのため、処理液に浸漬するだけで被膜形成ができ、工程,設備が比較的簡単で処理コストが安い化学的処理の利用が望ましい。そこで、このような化学的処理として、例えば、アミン溶液にアルミニウム等を浸漬後、熱水処理することにより、表面に水和酸化被膜を形成させる、いわゆる「ベーマイト法」による処理が行われている(特許文献2)。これら先行文献は表面処理により、アルミニウムあるいはその合金に被膜を形成させ耐食性を高めることを目的にしている。
【0004】
一方、アルミニウム表面をリチウムイオンを含む水酸化アルカリで処理することにより被膜を形成させる表面処理方法として、硝酸リチウムと苛性ソーダの水溶液にアルミニウム素材を浸漬させる方法(特許文献3)、リチウムイオンと炭酸イオンを含むアルカリ溶液でアルミニウム表面を処理する方法(特許文献4)により被膜が形成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−328467号公報
【特許文献2】特開昭52−9642号公報
【特許文献3】特開昭48−18131号公報
【特許文献4】特開2005−8949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記ベーマイト法による処理は、アルマイト処理と比べて工程・設備が簡単であり、処理コストも安く、省エネルギーの点でも有利であるものの、熱水処理を行う工程が必要であり製造に手間がかかる他、被膜の形成が必ずしも規則正しいものではなく、網目状多孔質構造体は得られない。
【0007】
同様に、特許文献3〜特許文献4に記載の方法では、水和酸化アルミニウムの被膜が得られるとの記載はあるものの網目状多孔質構造体についての記載はない。
【0008】
このように、従来法によるアルミニウムの表面処理においては、数nm〜数100nmレベルの孔径であり、かつ表面積の大きい多孔質構造体は作りえず、簡便な方法で得られる当該構造体およびその製造方法が求められていた。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、化学的処理により、アルミニウムもしくはその合金(以後、総称して「アルミニウム系」ということもある)の表層部の少なくとも一部に形成される網目多孔質構造体およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、アルミニウム系材料に化学的な処理を施し、細孔を形成させることを目的として一連の研究を重ねる過程で、アルミニウム系材料を、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒を混合した塩基性混合溶液(特に特定の表面張力を有する塩基性混合溶液)で処理することにより、アルミニウム系材料の表面との濡れ性が改善され、アルミニウム表面と水酸化リチウムの速やかな反応が進行して、表層部の少なくとも一部に酸化被膜とは異なる網目状多孔質構造体が形成されることを見出し本願発明に到達した。また、当該網目状多孔質構造体を担体として機能性微粒子を担持固定することにより、容易にアルミニウム系機能性部材を製造しうることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
「発明1」 母材がアルミニウムもしくはその合金からなり、表層部の少なくとも一部を、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒とを混合した塩基性混合溶液で処理して形成した網目状多孔質構造体であって、当該網目状多孔質構造が、孔径5〜500nm、深さ0.05〜10μmの細孔であることを特徴とする網目状多孔質構造体。
「発明2」 アルミニウムもしくはその合金を、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒とを混合した塩基性混合溶液で処理することにより、アルミニウムもしくはその合金の表層部の少なくとも一部に、網目状多孔質の細孔を形成することを特徴とする網目状多孔質構造体の製造方法。
「発明3」 塩基性混合溶液を構成する混合溶媒の表面張力が、18〜60mN/mであることを特徴とする発明2に記載のアルミニウム系親水性部材の製造方法。
「発明4」塩基性混合溶液中の有機溶媒が、アルコール系、ニトリル系、ケトン系、エステル系、エーテル系、スルホキシド系、アミド系、グリコール系、芳香族系もしくは、含フッ素アルコール系の溶媒の少なくとも一種である発明2または発明3に記載の網目状多孔質構造体の製造方法。
「発明5」
塩基性混合溶液のpHが、9.0〜13.5の範囲であることを特徴とする発明2乃至発明4に記載の網目状多孔質構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の網目状多孔質体は、その多孔質が担体として有用であることより、その多孔質の中に、触媒、色素、吸着性、親水性、撥水性の機能性を有する微粒子を担持固定化することにより当該機能を有する機能性材料として有用である。本発明の製造方法により、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒を混合した混合塩基溶液でアルミニウム系材料を処理するという簡便な方法で当該網目状多孔質体を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1において得られた網目状多孔質構造を有するアルミニウム板のSEM写真である。
【図2】実施例4において得られた網目状多孔質構造を有するアルミニウム不織布のSEM写真である。
【図3】実施例5において得られた網目状多孔質にゼオライト粒子を担持したアルミニウム不織布のSEM写真である。
【図4】比較例2で得られた(水酸化ナトリウム/水/エタノール)混合溶液で処理したアルミニウム板。網目状微細多孔質構造は観察されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の網目状多孔質構造体およびその製造方法について詳しく説明する。
【0015】
本発明の網目状多孔質構造体は、アルミニウム系材料を対象とし、その表面の少なくとも一部に網目状微細多孔質の細孔を生成させたものである。本発明の対象となるアルミニウム系材料は、純度99.9%以上の純アルミニウムおよび各種のアルミニウム合金である。上記アルミニウム合金としては、具体的には、A1050,A1070,A1080,A1100,A1200等のような微量のSi,Fe,Cu,Mn,Mg等を含む合金、A2014,A2017,A2024等のような特にCuを多く含む合金、A5052,A5083,A5154のような特にMgを多く含む合金、A7075,A7N01等のような特にZnを多く含む合金、ADC12等のような多量のSiを含む鋳物用合金等、各種の合金があげられる。上記アルミニウム等は、その形状等を問わない。また、アルミニウム系材料として,アルミニウム箔、インゴット、プレート、パイプ、アルミニウム繊維、ダイキャストこれらのアルミニウム等からなる中間製品,アルミニウム等からなる完成品の全てが本発明のアルミニウム等の範疇に含まれる。
【0016】
本発明のアルミニウム系網目状多孔質構造体は、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒とを混合した塩基性混合溶液でアルミニウム系材料を処理し、アルミニウム系材料の表面の少なくとも一部に網目状多孔質構造体を形成させることにより製造できる。
【0017】
ここで、本発明でいう「溶液」とは溶質が溶媒に完全に溶解していることをいい、溶質が溶媒に分散しているものや懸濁しているものは含まない。また、当該溶媒が水と有機溶媒の混合溶媒である場合、混合溶媒は分離することなく均一であるものとする。
【0018】
少なくとも水酸化リチウムと水と有機溶媒を混合した塩基性混合溶液の調製において、水酸化リチウム等の塩基は溶質に完全に溶解していることが必須である。当該塩基性混合溶液中の溶媒は、水と有機溶媒との混合溶媒であるが、当該有機溶媒としては通常は後述する親水性溶媒が用いられる。
【0019】
混合溶媒の表面張力を調整することにより、後述のようにアルミニウム系材料の表面との濡れ性が改善される為、アルミニウム表面と水酸化リチウムの反応が速やかに進行する。かかる表面張力は、18〜60mN/mの範囲であり、20〜55mN/mが好ましく、20〜50mN/mがより好ましい。水の表面張力が20℃において72mN/m程度であるが、有機溶媒を添加することにより表面張力を小さくすることができる。18mN/mよりも小さい場合は、アルミニウム表面への濡れ性は優れるものの、水の含有量が極めて小さくなり水酸化リチウムが溶解しないため好ましくない。また、表面張力が50mN/mよりも大きくなる場合は、アルミニウム表面への濡れ性が悪くなるため好ましくない。
【0020】
塩基性混合溶液を構成する混合溶媒において、上記の表面張力を与える範囲に入っていれば特に問題はないが、実質的に混合溶媒を調製するための目安として、有機溶媒と水との混合比は、容量比で、有機溶剤/水:90/10〜10/90が好ましく、なかでも70/30〜30/70が特に好ましい。
【0021】
上記塩基性混合溶液は、(1)溶質が溶媒に溶解していること、および、(2)塩基性混合溶液を構成する混合溶媒の表面張力が上記範囲に入っている、ならば調製方法は特に限定されないが、通常、水酸化リチウムを含む溶液を調製後、有機溶媒を添加して調製する方法が用いられる。塩基性混合溶液の場合と同様、水酸化リチウムを含む塩基性溶液は、水酸化リチウム等の溶質を溶解している必要があり、溶媒は「水単独」か「水と親水性有機溶媒との混合」にするのが良い。
【0022】
すなわち、塩基性混合溶液の調整方法としては、
「1」水酸化リチウム等の溶質を水に溶解させて塩基性溶液を調製後、次いで親水性有機溶媒を添加して調製する方法
「2」水酸化リチウム等の溶質に「水と親水性有機溶媒の混合」を添加して溶解させ塩基性溶液を調製後、次いで同一または他の有機溶媒を添加する方法
が挙げられるが、通常は「1」の方法が好適に用いられる。
【0023】
前記親水性溶媒としては、炭素数1〜7のアルコール系、ニトリル系、ケトン系、エーテル系、スルホキシド、アミド系、エステル系、グリコール系の溶媒が好適に用いられる。かかる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、プロピロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、エチレングリコール、プロピレングリコール等があげられるがこれらに限定されない。上記の親水性溶媒のなかでも、入手の関係でメタノール、エタノールが特に好ましい。なお、これらの溶媒は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
次いで、上記塩基性溶液にさらに有機溶媒を混合して塩基性混合溶液の調製を行うが、塩基性溶液と有機溶剤との混合によって、水酸化リチウム等の溶質が析出しないことが重要である。塩基性溶液の溶媒が水単独であった場合は、使用する有機溶媒は、上記親水性溶媒が好適に用いられる。
【0025】
上記塩基性溶液の溶媒が、「水と親水性有機溶媒との混合」であった場合、有機溶媒として、上記の親水性有機溶媒中から更に同種あるいは別の親水性有機溶媒を添加しても良いが、アルミニウム系材料表面への更なる濡れ性の改善を目的として、芳香族系、含フッ素アルコール系の溶剤を用いることができる。かかる溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、これらの溶剤は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
適切な反応をさせるためには、塩基性混合溶液のpHは、pH9.0〜pH13.5の範囲であることが望ましい。pH9.0未満では反応が進行せず、pHが13.5を超えると被膜が激しく侵食されたり、網目状多孔質構造が破壊されて好ましくない。
【0027】
上記混合溶液において、かかるpHを与える溶質の濃度は、塩基性混合液を構成する混合溶媒に対する水酸化リチウム等の塩基の溶解度の違いに依存するので一概には規定できないが、0.5〜5重量%が好ましく1.0〜3.5%とするのが特に好ましい。0.5重量%未満では、反応不足となり、反対に5重量%を超えると被膜が激しく侵食されたり、網目状多孔質構造が破壊されて生じて好ましくない。
【0028】
混合溶液が有機溶剤を全く含まない水溶液(表面張力 約72mN/m)である場合は、アルミニウム系材料の表面が撥水性であるために濡れ性が悪くなり、場合によっては塩基性溶液をはじいてしまうため均一な反応が進行しにくくなり好ましくない。また、塩基性水溶液の場合は、アルミニウム系材料との反応が進みにくいという欠点があり、反応が進行するまで数十分の誘導時間を要する。これはアルミニウムの表面に存在する数nmの酸化アルミニウム被膜が不動態として働くためと考えられる。
【0029】
アルミニウム系材料の表面の撥水性部分(酸化アルミニウム被膜)を除去するには、一般には脱脂洗浄や、サンドペーパー掛け、サンドブラスト掛け、アーク照射、プラズマ処理等の表面活性処理を行うが、表面活性処理時のムラにより均一に処理されない場合がある。本発明の製造方法では、有機溶媒を用いて混合溶液の表面張力を18〜60mN/mに調整することにより、アルミニウム表面との濡れ性が改善されるため、表面処理時のムラに関係なく均一に反応させることが可能である。さらに、速やかに反応が進行するため、30秒〜10分でアルミニウム材料の表面に均一な網目状多孔質構造を形成したアルミニウム系親水性部材が製造できる。
【0030】
上記のように、第一工程の処理前にアルミニウム材料の脱脂洗浄や表面活性処理を行ってもよいが、作業が煩雑となるため工業的な方法ではない。本発明の製造方法は、水酸化リチウムを含む塩基性混合溶液がある程度の脱脂力を有しているため、脱脂洗浄や表面活性処理を省略することができる優れた方法である。
【0031】
上記混合溶液の調製において、pHが9.0〜13.5の範囲をとる限りにおいては、溶質として水酸化リチウムの他にアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩をさらに添加することができる。用いるアルカリ金属塩としては、水酸化ナトリウム,水酸化リチウム,水酸化カリウム,水酸化ルビジウム,水酸化セシウム等の水酸化物があげられる。また、アルカリ土類金属塩としては、水酸化ベリリウム,水酸化マグネシウム,水酸化カルシウム,水酸化ストロンチウム,水酸化バリウム等の水酸化物があげられる。
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩によって、溶媒への溶解度、塩基の強さが異なるため、一概には規定できないが、混合溶液中に含まれる溶質である「水酸化リチウムと他のアルカリ金属塩」もしくは「水酸化リチウムとアルカリ土類金属塩」の濃度は、水酸化リチウムを最低限0.5質量%含み且つトータルで「0.5より大きく5重量%以下」とするのが望ましい。この範囲内において、「水酸化リチウムと他のアルカリ金属塩」、または「水酸化リチウムとアルカリ土類金属塩」の混合割合を適宜調整することにより、pHの範囲を9.0〜13.5に調製することができる。0.5重量%以下では、反応不足となり、反対に5重量%を超えると被膜が激しく侵食されまた微細孔が破壊されて好ましくない。特に、塩基性混合溶液の濃度は1.0〜3.5%にするのが好適である。
【0032】
他のアルカリ金属塩もしくはアルカリ金属塩を更に添加して用いる場合の調製方法については、水酸化リチウム単独の場合に準じて行うことができる。
【0033】
本発明の網目状多孔質構造体の製造方法において、アルミニウム系材料を塩基性混合溶液で処理するにあたり、アルミニウム系材料を当該塩基性混合溶液と接触させる必要がある。接触させる方法は、特に限定されないが、当該塩基性混合溶液をスプレー等で吹き付ける方法、シリンジ等で滴下する方法、塩基性混合溶液の処理浴の中に浸漬する方法が挙げられるが、処理浴に浸漬する方法が好適に用いられる。処理浴への浸漬時間は、アルミニウム系材料の種類,形状,寸法、および塩基性水溶液の濃度,組成,浴温等に応じて適当な時間を選べばよく、通常は30秒〜15分に設定される。また、浴温についても、浸漬時間との兼ね合いにより、適当な温度に設定すればよいが、通常は、塩基性溶液は、常温〜50℃程度に設定され、より好適には、20〜40℃に設定される。上記温度範囲よりも低いと、反応の進行に要する時間が非常に長くなり、反対に高いと、反応が速くなりすぎて、被膜が激しく侵食されたり、網目状多孔質構造が破壊されたり、表面が不均一になりやすく好ましくない。
【0034】
アルミニウム材料を浸漬させると、アルミニウムと水酸化リチウムの反応が進行し、浸漬後30秒〜5分でアルミニウム材料表面から微細な水素発泡が観察される。目安として発泡してから30秒〜5分の時間浸漬させることにより適度な反応を行わせることができる。
【0035】
上記化学的処理において、処理浴中に浸漬した後に乾燥処理することが好ましい。乾燥処理は、通常は常温でもよいし、または熱風で加熱乾燥してもよい。また乾燥後にアルミニウムの基材をある程度の温度(100〜350℃程度)まで加熱することも可能であり、特に限定されることなく各種の方法が行われる。この乾燥または加熱乾燥により、溶媒である親水性有機溶剤と水の混合溶媒は徐々に表面から蒸発し、その過程において表面にアルカリ成分が残留して徐々に濃度が上昇してアルミニウムの表面から反応が進み、金属結晶の結晶粒子が溶出して粒界壁を残した網目状構造が形成されるものと考えられる。但し、温度勾配がある場合は表面での反応に偏りが生じるため好ましくない。また、乾燥処理を経ることなく水洗いした場合でも網目状構造体は形成されるので、乾燥処理は必須ではないものの、充分な網目構造を形成させる目的で、上記のような乾燥処理を入れることが望ましい。
【0036】
本発明の方法で形成した網目状多孔質体の表面を、走査型電子顕微鏡(以下、SEMという。)で観察したところ、孔径5〜500nm、深さ0.05〜10μmの細孔が規則正しく並んでいることが観測された(実施例参照)。
【0037】

当該網目状多孔質構造体は、その多孔質が担体として有用であり、その多孔質の中に、触媒、色素、吸着性、親水性、撥水性等の機能性を有する微粒子を担持固定化することにより機能性を発現させることが可能である。
【0038】
微粒子の粒子径は、特に限定はされないが、5nm〜50μmが好ましい。平均粒径が5nm未満であると、微粒子過ぎて長期の塗布時間が必要で効率が悪くまた、微粒子の有する表面エネルギーが非常に大きくなり、単分散が困難で凝集しやすく取り扱いが非常に困難である。一方、微粒子の平均粒径が50μmを越えると、被膜上の網目状多孔質構造体の孔径よりも遥かに大きくなるために重力の影響が大きくなり孔径中に取り込まれた微粒子が保持しきれなくなり、摩擦により容易に剥がれてしまう等の問題が発生する。より好ましくは0.5〜40μm、さらに好ましくは0.05〜20μmである。
【0039】
なお、ここでいう粒子の粒径は所謂1次粒子の大きさを示し、微粒子同士が凝集した2次粒子の大きさを示しているのではない。親水膜においては、2次粒子の大きさは成膜に困難がなければ、特に限定されるものではない。
【0040】
前記の微粒子を網目状多孔質構造体に導入するにあたり、まず、微粒子の懸濁液を調製する。溶媒は微粒子の懸濁液を調製できるものであれば特に限定されないが、選択した微粒子の濡れ性等を勘案して適宜選択すればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のアルコール類、エチレングリコール、酢酸エステル、カルボン酸、低級炭化水素、脂肪族、芳香族等の一般溶剤、又はこれらの混合物よりなる混合物をよりなる溶媒を用いて微粒子が懸濁化された懸濁液を調製する。また、分散性を改良するために分散剤等を添加してもよい。
【0041】
網目状多孔質構造体に当該微粒子を担持固定化する方法としては、微粒子を導入できるものであれば特に限定されず、上記懸濁液をコーティングする方法、または該懸濁液を含浸させる方法が挙げられる。
【0042】
懸濁液をコーティングする方法としては、湿式ではディップコート、フローコート、スプレーコート、メッキ、無電界メッキ、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の手段で行うことができ、ディップコート、スプレーコート、メッキ、無電界メッキが簡便な方法として好適に用いられる。
【0043】
懸濁液のコーティングは乾式で行うこともでき、静電塗装法により帯電させた粉体を反対に帯電させた試料に衝突させて効率よく付着させる手法や、ブラスト法により親水性微粒子を高速で吹き付けて微細孔に緻密に塗布する手法が好適に用いられる。
【0044】
懸濁液を含浸させる方法としては、常圧含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法、ゾルゲル法、電気泳動法、浸漬超音波含浸法などがあり、常圧含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法、浸漬超音波含親法が好適に用いられる。中でも、減圧加圧を併用する含浸法が好ましい。具体的な含浸法としては適当な真空容器中に網目状多孔質構造を形成したアルミニウム部材を置き、内部を減圧にしてから、当該微粒子の懸濁液を導入することによって表面細孔内に当該微粒子を密に充填することが出来る。また懸濁液を導入してから容器を加圧にしてより多くの微粒子を充填することもできる。また、浸漬超音波法も好適に用いられ、懸濁液に網目状多孔質構造を形成したアルミニウム部材を浸漬して、超音波をあてながら微粒子を導入するので、網目状多孔質構造の細部にまで微粒子が充填できる。
【0045】
コーティングあるいは含浸により微粒子を導入後、乾燥・加熱することにより、造膜することができ、微粒子を担持固定することができる。乾燥・加熱処理方法は、特に限定されないが、常温で乾燥してもよいし、または熱風で加熱乾燥してもよい。また乾燥後にアルミニウムの基材を100〜350℃まで加熱して更に乾燥する手法も用いられ、例えば、室温で30分乾燥後、150℃のオーブンで1時間程度加熱する方法が用いられる。このようにして、アルミニウム系複合親水性部材が製造できる。
【0046】
前記機能性を有する微粒子として、例えば吸着性を有する微粒子を担持することができ、10〜500nm程度の粒径を持つゼオライト(例えば、ゼオラム)を用いて充填、担持固定した場合は、吸着性機能を付与したアルミニウム部材とすることができる。
【0047】
触媒機能を有する微粒子として、例えば光触媒を担持することができ、酸化チタン(例えば、石原産業製STシリーズ)を用いて充填、担持固定した場合は、光触媒機能を付与したアルミニウム部材とすることができる。
【0048】
また、酸化触媒能を有する金属を導入した場合、有害ガス、揮発性有機化合物等を分解することが可能となり、環境浄化機能を有する部材とすることができる。かかる金属としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、コバルト、マンガン等が挙げられ、当該金属塩の溶液を用いた含浸法が好適に用いられる。
【0049】
例えば白金を導入する場合は、塩化白金酸の水溶液に本発明の網目状多孔質構造形成したアルミニウム部材を浸漬して、塩化白金酸の結晶を網目状多孔質膜に充填し、次いで空気中で焼成して白金の酸化物粒子した後に還元することにより、充填、担持固定化することが可能である。
【0050】
上記のように本発明の網目状多孔質構造体は、微粒子を担持する担体として有用であり、機能性を有する微粒子を担持させることにより、容易に機能性を有するアルミニウム部材を製造できる。
【実施例】
【0051】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明するが、これらに限定されるものではない。なお、測定においては、以下の測定器を使用した。
「走査型電子顕微鏡」 (Scanning Electron Microscope、SEM)
FE−SEM 日立製 S−4500型 加速電圧 10kv 。
【0052】
「実施例1」 アルミニウム板 (水酸化リチウム/水/EtOH系)
水酸化リチウム一水和塩(LiOH・HO:和光特級試薬)を300mlビーカーに6.0g(0.14mol)秤り取り、次いでイオン交換水100mlを加えて常温で攪拌し溶解させた。さらに特級エタノール100mlを攪拌しながら徐々に添加して、1.9%濃度の水酸化リチウム処理溶液を調製した。当該処理溶液のpHは、11.1であった。
【0053】
アルミニウム系材料として、純度99.5%のアルミニウム基材:A1050の平板(100mm×100mm×0.1mmt)を、調製例1で調製した水酸化リチウム混合溶液に25℃で浸漬させた。浸漬後30秒でアルミニウム基材表面から微細な水素の発泡が観察された。約1分間浸漬した後、4mm/secで引き上げて、次いで室温で30分間乾燥させた。乾燥後、蒸留水で充分にすすぎ、室温にて再度乾燥させた。表面の微細構造をSEMで観察したところ、表面に均一の網目微細構造体が形成していた(図1)。
【0054】
「実施例2」 アルミニウム板 (水酸化リチウム/水/MeOH系)
水酸化リチウム一水和塩(LiOH・HO:和光特級試薬)を300mlビーカーに8.0g(0.19mol)秤り取り、次いでイオン交換水100mlを加えて常温で攪拌し溶解させた。さらに特級メタノール100mlを攪拌しながら徐々に添加して、2.5%濃度の水酸化リチウム処理溶液を調製した。当該処理溶液のpHは、11.3であった。
【0055】
アルミニウム系材料として、純度99.5%のアルミニウム基材:A1050の平板(100mm×100mm×0.1mmt)を、調製例1で調製した水酸化リチウム混合溶液に25℃で浸漬させた。浸漬後30秒でアルミニウム基材表面から微細な水素の発泡が観察された。約1分間浸漬した後、2mm/secで引き上げて、次いで室温で30分間乾燥させた。乾燥後、蒸留水で充分にすすぎ、室温にて再度乾燥させた。表面の微細構造をSEMで観察したところ、表面に均一の網目微細構造体が形成していた。
【0056】
「実施例3」 アルミニウム板 (水酸化リチウム/水/イソプロパノール系)
水酸化リチウム一水和塩(LiOH・HO:和光特級試薬)を300mlビーカーに5.0g(0.12mol)秤り取り、次いでイオン交換水140mlを加えて常温で攪拌し溶解させた。さらに特級イソプロパノール60mlを攪拌しながら徐々に添加して、1.5%濃度の水酸化リチウム処理溶液を調製した。この溶液を50℃に加温して処理液とした。処理液のpHは11.0であった。
【0057】
アルミニウム系材料として、純度99.5%のアルミニウム基材:A1050の平板(100mm×100mm×0.1mmt)を、上記調製した50℃の水酸化リチウム混合溶液に浸漬させた。浸漬後20秒でアルミニウム基材表面から微細な水素の発泡が観察された。約1分間浸漬した後、5mm/secで引き上げて、次いで室温で20分間乾燥させた。乾燥後、蒸留水で充分にすすぎ、室温にて再度乾燥させた。表面の微細構造をSEMで観察したところ、表面に均一の網目微細構造体が形成していた。
【0058】
「実施例4」 アルミニウム金属不織布 (水酸化リチウム/水/EtOH系)
アルミニウム系材料として、繊維の平均径が150μm、目付け量1.5kg/m、厚みが1mmのアルミニウム金属不織布(商品名「メタシリー」、サーマル社製)を用いて、実施例1で調製した水酸化リチウム処理溶液に上記アルミニウム金属不織布を25℃で浸漬させた。浸漬後30秒でアルミニウム基材表面から微細な水素発泡が見られ、約1分間保持した後、4mm/secで引き上げて、室温で30分間乾燥させた。乾燥後充分に蒸留水ですすぎ表面の微細構造をSEMで観察したところ、表面が均一の網目微細構造が形成されていた(図2)。
【0059】
「実施例5」 機能性アルミニウム部材の製造(ゼオライトの担持)
実施例4で得られた、表面に網目状多孔質構造を有するアルミニウム金属不織布に浸漬超音波含浸法にてゼオライト粒子の担持を行った。
【0060】
200mlのビーカーにゼオラム(東ソー・ゼオラム株式会社製)5gとり、純水100mlを加え、サンテック社UX−300型超音波分散機にて60分間分散させ、懸濁液を調製した。実施例4で得られた表面に網目状多孔質構造を有するアルミニウム金属不織布を上記懸濁液に1分浸漬させた後、3mm/secで引き上げて、120℃で1時間乾燥させた。乾燥後、表面の微細構造をSEMで観察したところ、網目状多孔質構造中にゼオライト微粒子が9.0g/m2で均一に埋め込まれていた(図3参照)。
【0061】
「実施例6」
上記実施例5で得られた、表面に形成した網目状多孔質構造にゼオライトを埋め込み吸着性を付与したアルミニウム不織布部材を用いて、アルデヒドの吸着性試験を行った。
a.試験方法
コック付きの10Lデシケータに、実施例5で得られたゼオライトを担持したアルミニウム不織布を入れた。デシケータのコックを開き、シリンジにてアセトアルデヒドを注入し、初期濃度150ppmになるように調節した。初期値としてアセトアルデヒドの濃度を測定したところ143ppmであった。1時間経過後に、コックより気体を採取してアセトアルデヒドの濃度を測定したところ、82ppmに減少していた。更に3時間後に同様に測定したところ21ppm、24時間経過後では2ppmに低減しており、アセトアルデヒドがアルミニウム不織布網目状多孔質構造のゼオライトに吸着されたことが認められた。
【0062】
「比較例1」 アルミニウム板 (LiOH/水/水系)の場合
特級エタノールの代わりに水を用いた以外は実施例1と同様な方法で、1.9%水酸化リチウム水溶液を調製した。実施例1と同様に純度99.5%のアルミニウム基材:A1050の平板(100mm×100mm×0.1mmt)を、上記1.9%水酸化リチウム水溶液に25℃で1分間浸漬し、次いで室温で30分乾燥、水洗浄、室温にて再乾燥処理を行った。得たれたアルミニウム板の表面を目視により観察したところ、反応により白くなった部分と未反応と思われる光沢の部分がまだら状に存在していた。アルミニウム表面との均一な反応は進行せず、部分的に未反応な部分が残ったものと思われる。
【0063】
「比較例2」 アルミニウム板 (NaOH/EtOH/水系)
水酸化リチウムの代替に水酸化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様な方法で、1.9%水酸化ナトリウム/水/エタノール混合溶液を調製した。当該混合溶液に、純度99.5%のアルミニウム基材:A1050の平板(100mm×100mm×0.1mmt)を浸漬し、実施例1と同様な処理を行った。目視において表面が灰色に変色していることが観測された。SEMで表面状態を観測したところ、微細多孔質体構造は観測されなかった(図4)。水酸化ナトリウムは強力なアルカリとしてアルミニウム表面と激しく反応したためと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の網目状多孔質構造体は、その多孔質が担体として有用であり、その多孔質の中に、触媒、色素、吸着性、親水性、撥水性の機能性を有する微粒子を担持固定化することにより当該機能を有する機能性材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材がアルミニウムもしくはその合金からなり、表層部の少なくとも一部を、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒とを混合した塩基性混合溶液で処理して形成した網目状多孔質構造体であって、当該網目状多孔質構造が、孔径5〜500nm、深さ0.05〜10μmの細孔であることを特徴とする網目状多孔質構造体。
【請求項2】
アルミニウムもしくはその合金を、水酸化リチウムを含む塩基と水と有機溶媒とを混合した塩基性混合溶液で処理することにより、アルミニウムもしくはその合金の表層部の少なくとも一部に、網目状多孔質の細孔を形成することを特徴とする網目状多孔質構造体の製造方法。
【請求項3】
塩基性混合溶液を構成する混合溶媒の表面張力が、18〜60mN/mであることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム系親水性部材の製造方法。
【請求項4】
塩基性混合溶液中の有機溶媒が、アルコール系、ニトリル系、ケトン系、エステル系、エーテル系、スルホキシド系、アミド系、グリコール系、芳香族系もしくは、含フッ素アルコール系の溶媒の少なくとも一種である請求項2または請求項3に記載の網目状多孔質構造体の製造方法。
【請求項5】
塩基性混合溶液のpHが、9.0〜13.5の範囲であることを特徴とする発明2乃至発明4に記載の網目状多孔質構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−202924(P2010−202924A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48613(P2009−48613)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】