網膜疾患用医薬
【課題】光受容体細胞に対して有意な分裂促進効果を示すことなく光受容体細胞の死を防止する網膜疾患用の薬剤を提供する。
【解決手段】
治療的有効量の活性FGF-5ポリペプチドを配合して、網膜細胞の損傷又は死亡を遅延、防止し、又はそれから網膜細胞を救助する薬剤とする。活性FGF-5ポリペプチドは、天然配列FGF-5分子に対して少なくとも90%の相同性を持ち、配列番号:2、配列番号:3及び配列番号:5からなる群から選択され、また配列番号:1の核酸残基26−769にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされるものである。
【解決手段】
治療的有効量の活性FGF-5ポリペプチドを配合して、網膜細胞の損傷又は死亡を遅延、防止し、又はそれから網膜細胞を救助する薬剤とする。活性FGF-5ポリペプチドは、天然配列FGF-5分子に対して少なくとも90%の相同性を持ち、配列番号:2、配列番号:3及び配列番号:5からなる群から選択され、また配列番号:1の核酸残基26−769にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜ニューロンの生存を促進し、光ニューロン劣化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は眼の光感受性部分である。網膜には円錐体と桿状体(光受容体)、光感受性(photosensitive)細胞が含まれる。桿状体はロドプシン、桿状光色素を含み、円錐体は3つの異なる光色素を含み、これが光に応答し、連続するニューロンを通ってシグナルを伝達し、最終的には、網膜の出力細胞、神経節細胞における神経性放出を惹起する。シグナルは視神経により視覚皮質まで運ばれ、そこで視覚的刺激としてレジスターされる。
【0003】
網膜の中心には黄斑があり、約1/3〜1/2cmの直径である。黄斑は、円錐体の密度がより高いので、特に中心(中心窩)において、詳細な視野をもたらす。血管、神経節細胞、内核層(inner nuclear layer)及び細胞、及び網状層は、全て一つの側に配されており(その上にあるというよりむしろ)、これにより円錐体へのより直接の光の経路が可能になる。
【0004】
網膜の下には、脈絡網、繊維組織内に包埋された血管の集合体、及び脈絡層にかぶさった色素上皮層(PE)が存在する。脈絡網の血管は網膜(特にその視細胞)に栄養を提供する。脈絡網及びPEは眼の後方で見出される。
【0005】
PEを形成する網膜色素上皮(RPE)細胞は、光受容体の正常な機能及び生存に対する責任を担う種々の因子を生成、貯蔵及び輸送する。RPEは、血液供給体、眼の網膜毛細血管から光受容体まで代謝産物を輸送する多機能細胞である。また、RPE細胞は、明所及び暗所順応中に光受容体とRPEの間を移動して、ビタミンAをリサイクルする機能を有する。さらにRPE細胞は、細胞生理の正常な課程で生成される、桿状体及び円錐体の外側セグメントの律動的に放たれたチップ(rhythmically-shed tips)を食菌するマクロファージとしても機能する。種々のイオン、タンパク質及び水がRPE細胞と光受容体内空間の間を移動し、これらの分子は最終的には光受容体の代謝と生存力に影響を与える。
【0006】
ミュラー細胞は網膜内にある最も有名なグリア細胞であり、視細胞の生存力を維持するためにまた重要なものである。ミュラー細胞は神経節細胞から外側の制限膜、光受容体-光受容体及びミュラー細胞-光受容体接触点まで放射方向に全網膜を横切っている。構造支持体の提供に加えて、ミュラー細胞はイオン濃度、神経伝達物質の分解、ある種の代謝産物の除去の制御を調節し、光受容体細胞の正常な分化を促進させる重要な因子の供給源となっている。Kljavin及びReh(1991), J. Neuroscience 11:2985-2994。ミュラー細胞の欠損の調査は特には調査されていないが、その正常な機能に影響を及ぼす任意の病気及び損傷が桿状体及び円錐体の健康状態に対して劇的な影響を有するであろう。最後に、桿状体光受容体の死は円錐体の生存力に影響を及ぼしうる。桿状体に特異的な遺伝子(すなわちロドプシン)における変異を含む変性における一つの共通の特徴は、円錐体もまた結局は死に至るということである。円錐体が喪失する理由は決定されていないが、染色桿状体がエンドトキシンを放出することが示唆されている。Bird(1992), Opthal. Pediatric. Genet. 13:57-66。
【0007】
網膜細胞が損傷を受けるか又は殺された場合、網膜の病気及び損傷により、失明に至る可能性もある。光受容体細胞は、しばしば、外傷を与えるような事象又は状態の結果として、損傷を被るか変性する最初の細胞であるため、特に損傷を受けやすい。特定の光受容体遺伝子における遺伝的欠損、網膜剥離、循環障害、光への過度の暴露、薬物に対する毒性効果及び栄養欠乏が、光受容体細胞の死亡を生じる原因として幅広く挙げられるものである。網膜の発生的及び遺伝的な病気は米国における全ての法定失明の約20%であると説明されている。Report of the Retinal and Choroidal Panel:Vision Research−A National Plan 1983-1987, Vol.2, partI, summary page 2。例えば、遺伝要因に基づく進行性の病気である色素性網膜炎(RP)は、大部分が光受容体細胞の喪失による夜盲と周辺視野の損失が増大することにより特徴付けられるものである。RPは遺伝病のグループに入るもので、現在世界中で約3000人に一人がこの病気で苦しんでいる。Wong, F. (1995) Arch. Ophthalmol. 113:1245-47。全盲はこの病気がさらに進行した段階の一般的な結果である。失明の他の主たる原因である黄斑変性は、網膜の中心又は優勢な円錐体部分に影響を与える疾病が複合グループに入る。円錐体が主に急性視覚の原因となる。真正糖尿病の個人に頻発する合併症である糖尿病性網膜症は、新たな失明の第5番目の原因であると推定されている。しかしながら、それは、45-74才の個人では失明の第2番目の原因である。さらに、これらの問題は一般人口が歳を取るにつれて悪くなることも予想される。
【0008】
また、光受容体の変性は、光への過度の暴露、種々の環境的外傷、網膜ニューロン又は光受容体の死又は損傷によって特徴付けられるあらゆる病状の結果としても生じうる。
光受容体は細胞又は細胞外の網膜成分により影響を受ける可能性もある。細胞外刺激の主な例は、色素上皮層(PE)と光受容体細胞との間の密接な結合性に関連している。上述したように、PEは光受容体との間の代謝産物の輸送を行い、排出された細胞物質を除去する。PEからの神経網膜の分離を含む網膜剥離により、光受容体は死に至る。さらに、細胞損失の度合いは分離の期間に依存する。Gourasら, (1991) IOVS 32:3167-3174。
【0009】
加えて、PEの病気により光受容体細胞の消失に至る可能性もある。この主な例は、動物の生存の正常な過程の間に光受容体細胞死に至る、遺伝性網膜ジストロフィーを持つRoyal College of Surgeons(RCS)ラットである。Mullen & LaVail(1976), Science 192:799-801。この動物において、PEは、光受容体とPEとの間に蓄積する外層セグメント屑を食菌できず、その結果、網膜に対する栄養因子の役割を研究するための有用なモデル系が提供される。光受容体死の遅延化は、上掲のMullen & LaVailの実験的キメラと、健康な動物からのPE移植により、正常なPE細胞の近位配置を通して得られる。Li & Turner(1988), Exp. Eye Res. 47:911-917;Sheedloら, (1992), Int. Rev. Cytol. 138:1-49;LaVailら. (1992), Exp. Eye Res. 55:555-562;Lavailら. (1992), PNAS 89:11249-11253。これら全ての実験において、「レスキュー」は正常なPE細胞の境界を越えて広がっており、PE細胞により生成される拡散性栄養因子の存在が示唆される。
【0010】
他の有用な動物モデルはアルビノラットである。この動物において、通常の照度レベルの光の照射は、連続ならば、光受容体の完全な変性を引き起こしうる。生存促進因子(survival enhancing factor)を同定するモデルとして、このようなラットを使用して得られた結果は、RCSラットを使用して得られたデータとよく相関しているようである。さらに、異なる因子を比較することができ、RCSラットの徐々に進行するジストロフィーに基づくモデルにおいて因子を試験することにより評価できるものよりも、光ダメージモデルにおいては合併症をより素早く評価することができる。
【0011】
アルビノラットを使用して、全身(腹腔内)投与した場合に、多くの薬剤を、光への暴露により引き起こされる網膜細胞死又は損傷を改善するために使用可能であることが決定された。一般的に、光への暴露により酸素フリーラジカルと脂質過酸化物が生成される。従って、酸化防止剤又は酸素フリーラジカル捕捉剤として作用する化合物は光受容体の変性を低減する。アスコルビン酸塩, Organisciakら. (1985), Invest. Opthal. & Vis. Sci. 26:1580-1588;フルナリジン(flunarizine), Edwardら. (1991), Arch. Ophthalmol., 109:554-562、及びジメチルチオウレア, Lamら. (1990), Arch. Opthal. 108:1751-1757のような薬剤が、不断の光によるダメージ効果を改善するために使用された。証拠はないが、これらの化合物は光受容体の変性の他の形態を改善するように作用するが、その投与には有害な副作用が現れる可能性もある。さらに、これらの研究は、それらが、特定の因子の効果を評価するのに適切な手段を提供しない全身的送達を利用しているため、限定されている。多量の薬剤が網膜の部位で十分な濃度になるように注射されなくてはならない。加えて、全身的毒性効果が、ある種の薬剤の注射から生じうる。
【0012】
光受容体細胞死による視力の消失を治療するための伝統的なアプローチでは;(1)物理的移植により欠損細胞を置き換える;及び(2)変性プロセスを遅延、抑制又は防止する、といった少なくとも2つのルートがとられる。健康な色素上皮細胞を変性した網膜又は欠損上皮細胞を有するものに移植すると、死亡から光受容体細胞を救助することができる。Sheedloら, (1992), Int. Rev. Cytol. 138:1-49;LaVailら. (1992), Exp. Eye Res. 55:555-562;及びLavailら. (1992), PNAS 89:11249-11253。ヒトにおけるPE移植が試みられているが、あまり満足のいく結果は得られていない。Peymanら, (1991), Opthal. Surg. 22:102-108。また立証されてはいないが、より有望なものは、適切な欠損細胞型に環境のキューに応答して分化することができる、ほとんどが未分化の前駆細胞を含む胚性網膜を移すことである。Cepko(1989), Ann. Rev. Neurosci. 12:47-65。結論として、ヒト宿主網膜中への移植網膜細胞の機能的な組込みによる治療法は未だ立証されてはいない。
【0013】
他の方法は、視細胞の消失を「レスキュー」又は遅延させることに着目されている。これらの技術には、修正遺伝子療法、病気中の通常の光への暴露の制限、ビタミンA補足食事療法、及びダメージを受けた又は変性した眼への成長因子の投与が含まれる。しかしながら、これらの治療法にはいくつかの制約がある。
例えば、遺伝子療法、すなわち既知の変異を有する細胞内への置換対立遺伝子の挿入には問題があることが分かっている。Milam, Curr. Opin. Neurobiology 3:797-804(1993)。桿状体及び円錐体はいささか近づき難いので、それらに置換遺伝子を送達せしめることは困難である。さらに、置換遺伝子の挿入のためのレトロウイルスベクターの使用は、分割細胞、例えば培養PEに限られる一方、有糸分裂後のニューロン、例えば光受容体は、効果的な送達には他のウイルスベクター、例えばHSV(単純疱疹ウイルス)を必要とする。最後に、遺伝子置換は、多くの劣性障害において見出されるように、遺伝子産物の機能損失による欠損を修正するためには有用であるが、変異遺伝子産物が細胞に有害である病気を癒すことはできない。
【0014】
光の暴露の制限、すなわち、典型的には眼帯、ダークゴーグル等を使用する、視力喪失を緩和するための低技術のアプローチ法は、治療の実際的効果が、病気それ自身:失明及び光検知不能と同じであるために、実用的なものではない。
ビタミンAは、色素性網膜炎(RP)を持つ患者の進行において4〜6年にわたって投与されたものの20%以上において、網膜機能の衰えを停止させることが観察されている。E.L. Bersonら, Arch Ophthalmol. 111:761-772(1993)。この研究は有効視力の年数を長くする可能性を示しているが、ビタミンA療法には、(1)ビタミンAがRPの進行を改変するメカニズムが知られていない;(2)RPの異なる遺伝子型を有する患者がビタミンA療法に応答するか否かが未知である;(3)視覚機能(すなわち視野測定及び視力)の定量的な測定がビタミンA療法による有意な恩恵を明らかにしたか否か分からない;及び(4)ビタミンAの長期にわたる摂取により、他の器官系へ有害な副作用がでるおそれがある等の、いくつかの批判がある。
【0015】
全身(腹腔内)投与した場合に、多くの薬剤を光への暴露によって引き起こされた網膜細胞死又は損傷を改善するために使用することができる。一般的に、光に暴露されると酸素フリーラジカルと脂質の過酸化生成物が生じる。遺伝的に欠陥のある光受容体は、環境中の通常に遭遇する光レベルでの光酸化に対して異常に過敏であることが示唆されている。Hargrave, PA. & O'Brien, PJ., Retinal Degenerations, Anderson REら. eds., Boca Raton, FL, CRC Press, p.517-528(1991)。酸化防止剤又は酸素フリーラジカルの捕捉剤として作用する化合物は光受容体の変性を低減する。酸化防止剤又はカルシウム過充填ブロッカー(例えばフルナリジン)は、高レベルの光にさらされた後、正常な光受容体の変性を防止することが報告されている。Rosnerら, Arch Ophthalmol 110:857-861(1992);Liら, Exp. Eye Res. 56:71-78(1993)。光受容体変性の低減のさらなる成功が、アスコルビン酸塩(Organisciakら, Invest. Ophthal. & Vis. Sci. 26:1580-1588(1985))、フルナリジン(Edwardら, Arch. Ophthalmol. 109:554-562(1991))、及びジメチルチオウレア(Lamら, Arch. Ophthal. 108:1751-1757(1990))の投与により観察されている。しかしながら、これらの化合物の投与により、強い光への暴露以外により誘発される光受容体の変性を低減するという証拠はない。さらに、それらの投与により、潜在的に有害な副作用が生じる可能性があることも案じられる。その結果、光受容体をある程度保護することができ、又は光誘発性のダメージを受けた後のその再生を促進させさえする因子の調査が続いている。
【0016】
特に関心のある分野は成長因子の投与である。成長因子は、例えばニューロン分化、伝達物質特異性、プログラム細胞死の調節、及び中枢神経系のいくつかの領域における神経突起成長のような多様な役割に関与していることが見出されている。しかしながら、ようやく最近になって、網膜発達と病気の間のその役割が研究されている。拡散性成長因子が光受容体細胞を死から救助することができることを示している初期の研究は、正常及びRCS色素上皮細胞の両方を含有するように構成されたキメララットに基づくものである。該動物は正常及びRCSラット胚の両方からの肺胞を融合させることにより生み出されたものである。Mullen及びLaVail, 上掲。これらのキメラ体の網膜において、RCS PEに近接している光受容体細胞には変性が見られ、正常なPEに隣接するものは健康であった。しかしながら、正常なPEの直ぐの接触部位を丁度越えて位置する光受容体細胞もまた健康であり、光受容体-PE接触は必要ではなく、正常なPEが推定生存促進因子を分泌していることが示唆される。
【0017】
網膜において最もよく特徴付けがなされた成長因子は、酸性又は塩基性の繊維芽細胞増殖因子(aFGF及びbFGF)である。FGFは、PEを含む様々な網膜細胞、光受容体細胞及び光受容体細胞内マトリックス(IPM)、及び光受容体細胞を取り巻く細胞外マトリックス分子の集合体において、免疫組織化学、生化学及び分子的アプローチを通して検出することができる。Jacqueminら, (1990) Neurosci. Lett. 116:23-28;Caruelleら. (1989) J. Cell. Biol. 39:117-128;Hagemanら. (1991) PNAS 88:6706-6710;Connollyら. (1991) IOVS 32 (suppl.):754。RCSラット又は光ダメージを受けた網膜を有するラットに、塩基性の繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を硝子体内注射したところ、外節屑が蓄積したときでさえ、数ヶ月の間、光受容体細胞の変性を防止する。Faktrorovichら. (1990), Nature 347:83-86。bFGFを網膜下腔、すなわち光受容体とPEとの間の領域に注入した場合でも同様の結果がみられる。しかしながら、擬似施術、すなわちリン酸緩衝溶食塩水(PBS)をRCSラットと光ダメージを受けた網膜を有するラットの両方に注射しても、光受容体細胞死を遅らせることができる。しかし、レスキュー効果は小さく、針跡に局在化しており、bFGFにより得られた効果とは定量的に異なる。Faktorovichら., 上掲;Silverman及びHughes(1990), Curr. Eye Res. 9:183-191;Sheedlo H.J.ら, Int. Rev. Cyto. 138:1-49(1992)。これらの実験において、ダメージを受けた領域に存在するマクロファージ又はダメージを受けた網膜組織から誘導される種々の成長因子が局所的に放出されていると思われる。Sheedloら, 上掲;Silverman及びHughes, 上掲。マクロファージはそれ自体多くの異なる成長因子又はサイトカインを生成することが知られており、そのあるものは光受容体生存活性を有しうる。Rappolee及びWerb, Curr. Top. Microbiol. Immunol. 181:87-140(1992)。
【0018】
網膜ニューロンの生存促進及び/又は増殖活性を有することが開示されている様々な薬剤が、発行された特許及び出願中の特許出願に記載されている。これらにはトランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)(WO94/01124)、脳由来神経栄養因子(BDNF)(U.S.P.5,180,820)(U.S.P.5,438,121)及び(WO91/03568)、ニューロトロフィン-4(NT-4)(WO93/25684)、及びインシュリン様成長因子(IGF)(WO93/08826)が含まれる。
【0019】
他の実験では、ヒト網膜下腔流体並びに他の成長因子を硝子体内注射すると、死亡しつつある光受容体細胞を救助することができることが示されている。例えば、ある最近の研究では、定常性の強い強度の光に暴露されたラットの網膜に8つの異なる因子を注射して試験を行ったところ、全てが光受容体細胞の変性遅延能力を示した。これらにはFGF(酸性と塩基性の両方の形態)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、繊毛神経栄養因子(CNTF)、及びインターロイキン1(IL-1)が含まれている。また、ニューロトロフィン3(NT3)、インシュリン様成長因子II(IGF-II)、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)及び腫瘍壊死因子α及びβ(TNF-α、TNF-β)も生存活性を示すが、他の因子よりもその度合いが弱い。NGFは、糖尿病性網膜症に関連した病状である周皮細胞喪失及び無細胞閉塞性毛細管を最小にすることに加えて、糖尿病のラットにおいてアポトーシスの発症を低減させることが報告されている。Hammes, HSら, Molecular Med. 1(5):527-534(1995)。しかしながら、成長因子は光受容体の生存を高める一方で、これらの因子のいくつかは有害な副作用を促進する可能性もある。例えば、bFGFを注射すると、白内障及びマクロファージの発生率が増加する結果になる。加えて、bFGFは、PE、ミュラー細胞及び網膜血管細胞に対して分裂促進性を有している。Faktorovichら, 上掲;La Vailら, 上掲。その結果、光受容体細胞の生存を促進させるだけではなく、望ましくない副作用のない好適な成長因子は未だ発見されていない。
【0020】
FGF-5は正常な二倍体繊維芽細胞及び樹立細胞系の両方に対する強力な分裂促進因子のファミリーである繊維芽細胞増殖因子(FGF)のメンバーである、Gospodarowicz, D.ら. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6963。FGF-5は、元々はヒトの腫瘍から取り出されたDNAを使用するNIH-3T3フォーカス形成アッセイによる形質転換遺伝子として同定されていた。当初このタンパク質は、推定22アミノ酸残基のシグナルペプチドを有する267アミノ酸残基ポリペプチドとして同定されていた。FGFファミリーには、酸性FGF、塩基性FGF、INT-2(FGF-3)、K-FGF/HST(FGF-4)、FGF-5、FGF-6、KGF(FGF-7)、AIGF(FGF-8)、FGF-9、FGF-10等が含まれる。最近、FGF-16と命名されたこのファミリーの新しいメンバーが単離された(Miyakeら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 243(1):148-152(1998))。FGFは典型的には2つの保存システイン残基を有し、アミノ酸レベルにおいて30〜50%の配列相同性を共有する。これらの因子は、顆粒膜細胞、副腎皮質細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、角膜及び血管内皮細胞(ウシ又はヒト)、血管平滑筋細胞及び水晶体上皮細胞を含む、種々の正常な二倍体中胚葉由来又は神経冠由来細胞に対する分裂促進因子である。FGF-5の分裂促進性は、特にThomas, K., Methods in Enzymology 147:120-135(1987)において、静止NR6R-3T3繊維芽細胞における3H-チミジン取り込みにより記載されている。
【0021】
最初、FGF-5はORF-2と呼ばれる癌遺伝子の遺伝子生成物として開示されていた、Goldfarb, M.ら, WO88/09378;Zhan Xら, (1987) Oncogene 1:369-376;Zhanら. (1988) Mol. Cell. Biol. 8:3487-3495。該タンパク質は、当初、それまでに知られていたa-FGF及びb-FGFに類似していたために、FGF-3と呼ばれていた。しかし、この分子の配列が公に入手可能となった時点までに、2つの付加的なFGF関連ポリペプチド、INT-2及びHST/K-FGFが、既にZhanら. 1988, 上掲に記載されていた。その結果、FGF-3はFGF-5と命名し直された。その後、Zhanらにより記載された配列は間違っていることが分かり、正しい配列がHaubら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8022-8026(1990)により明らかにされた。
【0022】
FGF-5は運動ニューロン細胞の生存と成長を促進させると記載されおり、運動ニューロンの機能不全により特徴付けられる病気の治療に対して提案されていた(WO94/20125)。また、FGF-5はコリン作動性中隔及びセロトニン作動性ニューロンの促進、生存及び分化において活性を有することが分かっている(WO95/15176;Lindholmら, Eur. J. Neurosci. 6:244-252(1994))。さらに、組換えFGF-5(R&Dシステム)は、Balb/3T3繊維芽細胞及びウシ心臓内皮細胞において分裂促進性であることも知られている。R&Dシステムデータシート、FGF-5、カタログ番号237-F5/CF。またさらに、FGF-5は、PE、Bostら, Exp. Eye Res. 55:727-734(1992)、及び神経節細胞及び光受容体、Rehら, Ciba Found. Symp. 196:120-131(1996)において発現されることも見出されている。
【0023】
しかし、FGF-5は光受容体細胞に対する可能性のある生存促進剤としてはこれまでは知られていなかった。これは、(1)種々の他の公知のFGF、特に塩基性FGFが網膜細胞において分裂促進的であり;(2)FGF-5は繊維芽細胞、内皮及び運動ニューロン細胞において分裂促進的であるという、少なくとも2つの理由によるものと思われる。その結果、他の網膜分裂促進剤とのその相同性並びに非網膜細胞上での分裂促進性のため、当業者はFGF-5が網膜細胞に対しても分裂促進性であると予想するようになった。
【0024】
驚くべきことに、本出願人は、FGF-5が光受容体細胞に対して有意な分裂促進効果を示すことなく光受容体細胞の死を防止することを見出した。よって、FGF-5は、光受容体及び/又は網膜ニューロン生存剤に対する理想的に好適な候補薬であると思われる。
【特許文献1】国際公開第93/15608号パンフレット
【非特許文献1】Bost L.M. et al., Exp. Eye Res., 1992年, Vol.55, No.5, p.727-734
【特許文献2】特願平9−520575号(特表2000−502057号)
【発明の開示】
【0025】
本発明は、治療的有効量のFGF-5ポリペプチドを投与することによる、損傷又は死亡から、光受容体細胞を遅延、防止又は救助する方法に関する。
他の側面では、本発明は、損傷又は死亡から他の網膜細胞又は支持細胞(例えば、ミュラー細胞又はRPE細胞)を遅延、防止又は救助するためのFGF-5ポリペプチドの使用に関する。他の網膜ニューロンには、これらに限定されるものではないが、網膜神経節細胞、置換網膜神経節細胞、アマクリン細胞、置換アマクリン細胞、水平及び二極性ニューロンが含まれる。さらに本発明は、このような細胞の再生を刺激するためのFGF-5の使用に関する。一側面では、FGF-5ポリペプチドは、天然配列FGF-5分子に対して少なくとも90%の相同性を持つ活性FGF-5ポリペプチドである。他の側面では、FGF-5ポリペプチドは配列番号:1の核酸残基26-769にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされた活性FGF-5ポリペプチドである。好ましい実施態様において、FGF-5ポリペプチドは配列番号:2、配列番号:3及び配列番号:5からなる群から選択される。
【0026】
他の側面では、本発明は、光受容体又は他の網膜細胞の損傷又は死亡を生じるあらゆる病状を治療するためのFGF-5ポリペプチドの使用に関する。病状の例には、網膜剥離;年齢関連性及び他の黄斑症;光網膜症、外科誘発性(surgery-induced)網膜症(機械的又は光誘発性)、眼中の異物に起因するものを含む毒素性網膜症;糖尿病性網膜症;未熟(児)網膜症;ウイルス性網膜症、例えばエイズに関連したCMV又はHIV網膜症;ブドウ膜炎;静脈又は動脈閉塞又は他の血管障害による虚血網膜症;眼の外傷又は貫通性病変による網膜症;末梢硝子体網膜症及び遺伝性網膜変性が含まれる。網膜変性の例としては、例えば網膜変性による遺伝性強直性対麻痺(Kjellin及びBarnard-Scholz症候群)、色素性網膜炎、シュタルガルト病、アッシャー症候群(先天性聴力損失のある色素性網膜炎)、及びレフサム症候群(色素性網膜炎、遺伝性聴力損失、及び多発性神経炎)が含まれる。網膜ニューロンの死亡を引き起こすさらなる疾患には、網膜分断、網膜と色素上皮の分離、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症)及び浮腫が含まれる。
【0027】
他の側面では、本発明は、FGF-5ポリペプチド及び製薬的に許容可能な担体の組成物を投与することを含んでなる、損傷又は病気に起因する損傷又は死亡から網膜ニューロン(例えば光受容体)又は他の網膜細胞を遅延、防止又は救助する方法に関する。
【0028】
さらに他の側面において、本発明はFGF-5ポリペプチドを含む製造品及びキットを提供する。製造品及びキットには、容器、容器に付されるラベル、及び容器内に収容される組成物が含まれる。容器に付されたラベルには、組成物が損傷又は死亡から網膜ニューロン又は他の網膜細胞を遅延、防止又は救助するために使用可能であることを示しておく。組成物は活性剤を含有し、活性剤はFGF-5を含んでなる。
本発明の他の側面は以下の詳細な記載及び特許請求の範囲により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
1.定義
この出願において使用される用語は、当業者にとって通常の意味を持つものと解釈されるものである。しかし、本出願人は、次の用語が、記載した特定の定義に基づいて解釈されることを望む。この出願に記載された全ての文献は、出典明示により取り込まれるものとして解釈され、読まれなければならない。
【0030】
「タンパク質」又は「ポリペプチド」という用語は交換可能に使用されることを意図している。これらは、翻訳後修飾(例えばグリコシル化又はリン酸化)に関係なく、ペプチド又はアミド結合で互いに結合した、2又はそれ以上のアミノ酸鎖を意味する。この発明のポリペプチドは、一を越えるサブユニットを含んでなり、各サブユニットは別のDNA配列によりコードされる。
「FGF-5ポリペプチド」という用語は、ここでは、繊維芽細胞成長因子のファミリーのメンバーである天然配列FGF-5タンパク質及び変異体(以下に定義する)を包含するように使用される。FGF-5ポリペプチドは、例えばヒト組織型又は他の供給源のような様々な供給源から単離されるか、組換え又は合成法により、又はこれらと類似の技術の任意の組み合わせにより調製されうる。
【0031】
「天然配列FGF-5ポリペプチド」は、天然シグナル配列を有するか又は有しておらず、またN末端メチオニンを有するか又は有していない、天然から取り出されたFGF-5ポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドを含んでなる。このような天然配列FGF-5ポリペプチドは天然から単離することができ、また組換えもしくは合成手段により生成することもできる。「天然配列FGF-5ポリペプチド」という用語は、ここで開示したポリペプチドの自然に生じた切断型、自然に生じた変異体型(例えば、選択的スプライス型)、及びFGF-5ポリペプチドの自然に生じた対立形質型を特に包含する。本発明の一実施態様においては、天然配列FGF-5ポリペプチドは、図8(配列番号:3)の1〜248のアミノ酸残基を含んでなる天然配列ヒトFGF-5ポリペプチドである。
【0032】
「FGF-5変異体」という用語は、天然FGF-5分子のアミノ酸配列と少なくとも75%のアミノ酸配列同一性、図8(配列番号:3)に示される推定アミノ酸配列を有するヒトFGF-5とより好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する以下に定義される活性FGF-5ポリペプチドを意味する。このような変異体には、例えば、図8(配列番号:3)の全長アミノ酸配列のN末端あるいはC末端において、一又は複数のアミノ酸残基が付加又は欠失されたFGF-5ポリペプチド、全長FGF-5ポリペプチドと共通の定性的生物活性を有する天然配列FGF-5の機能フラグメント又は類似体を含み、他の種からの変異体は含むが、天然配列FGF-5ポリペプチドは除くものである。あるいは、変異体は、上に列挙したヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる生物活性FGF-5コード核酸であってもよい。例えば、生物活性FGF-5変異体は、網膜ニューロン又は光受容体細胞死を防止又は実質的に低減可能なポリペプチドである。
【0033】
ここで同定されるFGF-5配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、配列を整列させ最大のパーセント配列同一性を得るために必要に応じて間隙を導入し、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部と考えない状態での、FGF-5配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。ここで使用される%同一性の値は、WU-BLAST-2(Altschulら, Methods in Enzymology 266:460-480(1996))により得られる。WU-BLAST-2は、そのほとんどがデフォルト値に設定されるいくつかのサーチパラメータを使用する。調節可能なパラメータは次の値に設定される:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、ワード閾値(T)=11。%アミノ酸配列同一性の値は、適合した同一残基の数を整列領域における全残基数で割ることにより決定される。
【0034】
ポリペプチド変異体は異なった形態になり得る。「置換」変異体は、天然配列の少なくとも1つのアミノ酸が除去され、その場所の同じ位置に異なるアミノ酸が挿入されたものである。置換は、分子中の1つのアミノ酸のみが置換される単一置換であるか、又は同じ分子中で2又はそれ以上のアミノ酸が置換される多重置換でありうる。「挿入」変異体は、天然配列において特定の位置のアミノ酸に直ぐ隣接して一又は複数のアミノ酸が挿入されたものである。アミノ酸に直ぐ隣接してとは、アミノ酸のα-カルボキシル又はα-官能基のいずれかに結合することを意味する。「欠失」変異体は、天然アミノ酸配列中の一又は複数のアミノ酸が除去されたものである。通常は、欠失変異体は、分子の特定の領域において一又は二のアミノ酸が欠失している。ペプチド変異体はまたエピトープタグ異種性FGF-5ポリペプチドに加えて、残基に対する共有結合修飾を含む。
【0035】
ここで同定されるFGF-5配列に対しての「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」及び「パーセント(%)核酸配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要に応じて間隙を導入し、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部として考えない状態での、FGF-5ポリペプチド配列のアミノ酸又はヌクレオチド残基と同一である候補配列中のアミノ酸又はヌクレオチド残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸又はヌクレオチド配列同一性を決定するためのアラインメントは、当業者の知るところである様々な方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成できる。当業者であれば、比較される配列の全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含み、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
例えば、2つの配列の特定のフラグメント又は小領域は、それ自身の全断片間で比較するよりも、程度の差はあれ相同性を有していると認識される。
【0036】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者により容易に決定可能であり、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩分濃度に応じて経験的に算出される。一般的には、プローブが長くなると適切なアニーリングのためにはより高い温度が必要となる一方、より短いプローブでは必要な温度はより低い。ハイブリダイゼーションは、一般的に、相補的ストランドがそのTm(融解温度)に近いがそれ以下の環境中に存在する場合、変性DNAの再アニール化能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望の相同性の程度が高ければ高い程、使用可能な相対温度は高くなる。その結果、相対温度がより高くなれば反応条件がよりストリンジェントになる一方、より低い温度であればそうではないことになる。さらに、ストリンジェンシーは塩分濃度に反比例する。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細と説明には、Ausubelら, Protocol in Molecular Biology(1995)を参照のこと。
【0037】
「ストリンジェントな条件」とは、(1)洗浄に低イオン強度及び高温、例えば50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%硫酸ドデシルナトリウムを使用し;(2)ホルムアミドのような変性剤、例えば、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムを伴うpH6.5の50mMリン酸ナトリウムバッファーと共に50%(容量/容量)ホルムアミドを42℃で使用することを特徴とする反応条件により例示される。あるいは、ストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド、5xSSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロ燐酸ナトリウム、5xデンハート溶液、超音波処理鮭精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%硫酸デキストランを42℃で使用し、0.2xSSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)及び50%ホルムアルデヒドで55℃で洗浄し、続いて55℃でEDTAを含有する0.1xSSCVからなる高ストリンジェント洗浄を行うものである。プローブ長等のようなファクターに必要に応じて適応するために、温度、イオン強度等をどのように調節するかは、当業者であれば認識している。
【0038】
「単離された」は、ここで開示される様々なポリペプチドを記述するために使用される場合、その自然の環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたポリペプチドを意味する。その自然の環境の汚染成分は、典型的にはポリペプチドに対する診断又は治療用途と干渉する物質であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様において、ポリペプチドは、(1)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、N末端あるいは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに充分な程度に;あるいは(2)クーマシーブルーあるいは好ましくは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下でのSDS-PAGEにより均一性が得られるまで、精製される。FGF-5のその自然環境における少なくとも1つの成分が存在しないため、単離されたポリペプチドは、組換え細胞内のインシトゥーポリペプチドを含む。しかしながら、通常は、単離されたポリペプチドは少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0039】
ここでの目的のための「活性FGF-5」又は「FGF-5の生物活性」又は「FGF-5生物活性」とは、損傷、変性又は死亡から網膜ニューロン、例えば光受容体を遅延、防止又は救助する生物活性を保持するFGF-5ポリペプチドの形態を記述している。「治療」とは、治癒的療法と予防又は防止処置の双方を意味する。治療の必要がある者には、既に疾患を患っている者並びに疾患が予防されるべき者も含まれる。
【0040】
本発明の方法の結果としての「損傷又は死亡から網膜細胞を遅延、防止又は救助する」とは、該方法を適用しない場合に観察されるものよりも、より長い期間このような網膜細胞を生存可能に維持するか生かせておく能力を意味する。網膜細胞死は、損傷、病気又は加齢からでさえも生じうる。また、網膜細胞の損傷により、変性細胞又は正常な生理学的操作に対して能力が限定されたものにもなりうる。効果は、単離された網膜細胞ではインビトロで、また損傷又は病気により傷つけられた網膜細胞を有する患者ではインビボで測定することができる。
【0041】
治療の目的とされる「哺乳動物」とは、ヒト、家庭又は農場用動物、及び動物園、スポーツ又はペット用動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ等を含む、哺乳動物として分類されたあらゆる動物を意味する。好ましくは哺乳動物はヒトである。
【0042】
「障害」とは、FGF-5ポリペプチドでの治療により恩恵を得るであろうあらゆる症状のことである。これには、慢性及び急性の疾患の両方、並びに当該障害に哺乳動物を罹患させる素因になる病理状態が含まれる。ここで治療される障害の例は、これに限定されるものではないが、光受容体又は他の網膜細胞を損傷又は死亡させる任意の病状が含まれる。病状の例には、網膜剥離、年齢関連性及びその他の黄斑症、光網膜症、外科誘発性(surgery-induced)網膜症(機械的又は光誘発性)、眼中の異物に起因するものを含む毒素性網膜症、糖尿病性網膜症、未熟(児)網膜症、ウイルス性網膜症、例えばエイズに関連したCMV又はHIV網膜症、ブドウ膜炎、静脈又は動脈閉塞又は他の血管障害による虚血網膜症、眼の外傷又は貫通性病変による網膜症、末梢硝子体網膜症及び遺伝性網膜変性が含まれる。網膜変性の例としては、例えば網膜変性による遺伝性強直性対麻痺(Kjellin及びBarnard-Scholz症候群)、色素性網膜炎、シュタルガルト病、アッシャー症候群(先天性聴覚損失のある色素性網膜炎)、及びレフサム症候群(色素性網膜炎、遺伝性聴覚損失、及び多発性神経炎)が含まれる。網膜ニューロンの死亡を引き起こすさらなる障害には、網膜分断、網膜と色素上皮の分離、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症)及び浮腫が含まれる。
【0043】
「治療的有効量」とは、網膜ニューロンの損傷の測定可能な遅延、救助又は防止を達成するのに必要な活性FGF-5の量である。
【0044】
II. FGF-5の同定
以下の記載は、主として、少なくともヒトFGF-5核酸を含むベクターで形質転換又は形質移入した細胞を培養することによるFGF-5ポリペプチドの生産に関する。もちろん当該分野でよく知られている他の方法を使用してFGF-5ポリペプチドを調製することも考えられる。例えば、FGF-5アミノ酸配列又はその活性部分を、固相法を使用する直接のペプチド合成により生成してもよい。Stewartら, Solid-Phase Peptide Synthesis(W.H. Freeman Co., San Francisco, CA 1969);Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154(1963)。インビトロにおけるタンパク質合成はマニュアル法を使用してもよいし自動化によっても遂行できる。自動化合成は、例えば、製造者の説明書に従い、アプライド・バイオシステムズのペプチドシンセサイザー(Foster City, CA)を使用してなすことができる。FGF-5ポリペプチドの種々の部位を化学的に別個に合成し、化学的又は酵素的方法を組み合わせて使用して全長FGF-5ポリペプチドを生成してもよい。
【0045】
III. FGF-5の組換え生産
FGF-5は任意の高品質研究試薬供給会社から購入することができる。例えば、供給源は、R&Dシステムズ、614マッキンレープレース, N.E., ミネアポリス, MN 55413, カタログ番号237-F5/CF、ロット番号GQ127030である。あるいは、Clementsら, Oncogene 8:1311-1316(1993)に記載されているように大腸菌で調製することもできる。あまり好ましくはない選択肢としては、Haubら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8022-8026(1990)に略述された手順がある。
【0046】
本発明のFGF-5ポリペプチドは、FGF-5核酸を発現するように形質移入された細胞を培養することによる、標準的な組換え方法により調製することができる。典型的な標準法は発現ベクターで細胞を形質転換させ、細胞からポリペプチドを回収するものである。しかしながら、FGF-5ポリペプチドは、FGF-5をコードするDNAを既に含んでいる細胞内に導入された制御エレメントを利用する組換え生成法により、又は相同的組換え法により生成される。例えば、プロモータ、エンハンサー、サプレッサー、又は外因性転写調節エレメントが、所望のFGF-5ポリペプチドをコードするDNAの転写に影響を及ぼすのに十分な配向性でかつ近接しさせて意図する宿主細胞のゲノムに挿入されうる。制御エレメントはFGF-5をコードせず、むしろDNAは宿主細胞ゲノムに常在性のものである。次に細胞を、本発明のポリペプチドを作製するために、又は所望されるならば発現レベルを増加又は減少させるためにスクリーニングする。組換えDNA法の一般的な技術は、例えばSambrookら, Molecular Cloning:A Laboratory, Mannual, 第2版(Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York(1989)及びAusubleら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Inc. USA(1995))に開示されている。
よって、本発明はFGF-5ポリペプチドをコードする核酸を含有する細胞のゲノム中に、転写調節エレメント及び核酸分子を挿入することを含んでなるFGF-5の生成法を考察するものである。また、本発明は、宿主細胞により認識された内因性制御配列に作動可能に連結した常在性のFGF-5ポリペプチドヌクレオチドを含む宿主細胞を考察するものである。
【0047】
B.天然FGF-5タンパク質のアミノ酸変異体又は断片
天然FGF-5のアミノ酸配列変異体及びその機能的断片は、天然もしくは変異体FGF-5に適切なヌクレオチド変化を導入して、又は所望のポリペプチドのインビトロ合成により、当該分野で知られている方法により調製される。アミノ酸配列変異体の構築における二つの主要な可変部分がある:(1)変異部位の位置、及び(2)変異の性質である。FGF-5をコードするDNA配列の操作を必要としない天然に生じる対立遺伝子を除いて、FGF-5のアミノ酸配列変異体は好ましくは、FGF-5を突然変異させ、対立遺伝子又は天然には生じないアミノ酸配列変異体の何れかに到ることにより構築される。
【0048】
アミノ酸の変更は、達成される目標に応じて、様々な種とFGF-5が異なる部位か、高度に保存された領域が異なる部位でなすことができる。例えば、光受容体細胞におけるFGF-5レセプターに対してより高い親和性を有する酵素を生じる変異である。加えて、このような変異体はFGF-5の過剰発現に関連した病理学的症状の診断に有用でもある。
変異の部位は、典型的には連続して修飾され、例えば(1)まず保存性選択物、ついで達成される結果に応じてよりラジカルな選択物で置換し、(2)標的残基又は残基を欠失させ、又は(3)位置づけされた部位に近接して同じか異なるクラスの残基を挿入し、又は(1)〜 (3)の選択を組合せることにより修飾される。
天然FGF-5の第3のシステインが不対の場合、この残基をセリンに変異させ、大腸菌又は類似の原核生物における発現に続くタンパク質のリホールディングを援助することが好ましい。
【0049】
C.複製可能なベクターの選択と使用
天然又は変異体FGF-5ポリペプチド又はそれらの機能的断片をコードしている核酸(例えばcDNA又はゲノムDNA)を、さらなるクローニング(DNAの増幅又は発現)のために、複製可能なベクター中に挿入する。多くのベクターが利用可能であり、適当なベクターの選択は、(1)それがDNA増幅に使用されるのか又はDNA発現に使用されるのか、(2)ベクター中に挿入される核酸の大きさ、及び(3)ベクターにより形質転換される宿主細胞に依存する。各ベクターは、その機能(DNAの増幅又はDNAの発現)及びそれが適合する宿主細胞に応じて様々な構成成分を含んでいる。従って、ベクターはプラスミド、コスミド、ウイルス性粒子又はファージの形態をとりうる。適切な核酸が、種々の手順によりベクター内に挿入される。一般に、DNAは当該分野において知られている技術を使用して、ベクター中に挿入される。ベクターの構成成分は一般に、次のもの:シグナル配列、複製起点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終止配列の一又は複数を含むが、これらに限定はされない。
【0050】
FGF-5生産の好ましい方法は直接の発現である。例えばYansura, D & Simmons, L.,、Enzymology 4:151-158(1992)において見出されるような、大腸菌における異種性遺伝子の発現を高めるための更なる技術が存在する。好ましくは、発現ベクターはpBR322から作成することができる[Sutcliffe, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 43:77-90(1978)]。Trpプロモータが、大腸菌におけるFGF-5遺伝子の効率的な好ましい発現に必要とされる転写配列を提供するために使用される。Yanofskyら, Nucleic Acids Res. 9:6647-6668(1981)。2つのシャイン・ダルガルノ配列、Trpシャイン・ダルガルノと第2のシャイン・ダルガルノが、FGF-5の翻訳を容易にするために使用される。Yanofskyら, 上掲;Ringquistら, Mol. Microbiol. 6:1219-1229(1992)。FGF-5コード配列はプロモータ及びシャイン・ダルガルノ配列の下流に位置する。このコード配列はメチオニン開始コドンに先行し、hFGF-5(配列番号:3)のアミノ酸1-248のみをコードする。このプラスミドの図は図7に示す。
【0051】
D.宿主細胞の選択と形質転換
(1)宿主細胞
ここに記載したベクターにDNAをクローニングあるいは発現させるために適した宿主細胞は、上述の原核生物、酵母又は高等真核生物細胞である。この目的に対して適切な原核生物は、真正細菌、例えばエシェリチア、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びB.リチェフォルミス(Licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開された DD 266,710に開示されたB.リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌、ネズミチフス菌、又は霊菌及びストレプトマイセス属を含む。好ましい菌株は熱ショック応答を有し、これを減じ、プロテアーゼ欠失及び変異を含む。例えば、菌株44C6、遺伝子型fhuA△(tonA△)lon△ galE rpoHts(htpRts)△clpPを有するW3110(ATCC27,325)の誘導体である。使用できる他の分泌菌株は27C7(ATCC55,244)である。他の大腸菌クローニング宿主には、例えば大腸菌294(ATCC31,446)、大腸菌B及び大腸菌X1776(ATCC31,537)が含まれる。
【0052】
(2)宿主細胞の培養
本発明のFGF-5を生産するために用いられる原核細胞は、Sambrookら, 上掲及びAusubelら,上掲により一般的に記載されているような適切な培地で培養することができる。簡単に述べると、形質転換された細胞は、光学密度(550nmで測定)がおよそ2−3に達するまで30℃又は37℃で増殖させる。次にこの培養を生成培地中に希釈し、通気しつつ再増殖させ、3-β-インドールアクリル酸(IAA)を添加する。更に約15時間の間通気しながら増殖を続け、その後、細胞を遠心により収集する。再折り畳みが必要な場合、以下のF項のFGF-5の単離、精製及び再折り畳みに略述した手順を使用することができる。
【0053】
より詳細には、10リットルの発酵は次の様にして行うことができる。まず、発酵槽を、硫酸アンモニウム(50.0g);二塩基性のリン酸カリウム(60.0g);一塩基性で二水和物のリン酸カリウム(30.0g);クエン酸ナトリウム二水和物(10.0g);1-イソロイシン(5g);25%水溶液のプルロニック(pluronic)ポリオールL-61(BASF、消泡剤)が添加された、約5〜6.5リットルの脱イオン水の滅菌溶液で滅菌する。発酵容器が冷めた後、増殖培地を添加する。接種後の増殖培地は典型的には約8.5リットルの容量である。培地成分には、50%グルコース溶液(15mL);1M硫酸マグネシウム(70mL);20%Hycase溶液(250mL);20%酵母抽出溶液(250mL);2mg/mLアンピシリン(250mL)及び微量金属(5mL)を含有する。典型的な1L微量金属溶液は、次のもの:HCl(100mL);塩化第2鉄6水和物(27g);硫酸亜鉛7水和物(8g);塩化コバルト6水和物(7g);モリブデン酸ナトリウム(7g);硫酸第2銅5水和物(8g);ホウ酸(2g);硫酸マンガン1水和物(5g);蒸留水(全体を1Lにする量)からなる。アンピシリンの存在下で増殖した18〜20時間のLB培養の500mLを用いて接種を行い、発酵槽を750rpmで攪拌し、10slpmで曝気する。培養pHは水酸化アンモニウムを自動添加して7.0に維持し、温度は30℃に維持する。培養中の当初のグルコースが消耗した時に、グルコースの供給を開始し、培地中に蓄積しないが増殖を維持するのに十分な速度で維持する。培養増殖は550nmの光学密度(O.D.)で測定することによりモニターする。培養O.D.が25〜35の達した時に、25mg/mLのIAA溶液を25mL添加し、細胞のペーストを14〜18時間の遠心分離後に収集する。
【0054】
(3)遺伝子増幅/発現の検出
遺伝子の増幅及び/又は発現は、ここに提供された配列に基づき、適切に標識されたプローブを用い、例えば、従来よりのサザンブロット法、mRNAの転写を定量化するノーザンブロット法[Thomas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:5201-5205 (1980)]、ドットブロット法(DNA分析)、又はインシトゥハイブリッド形成法によって、試料中で直接測定することができる。種々の標識を用いることができ、最も一般的なものは放射性同位元素、特に32Pである。しかしながら、他の方法、例えばビオチン修飾ヌクレオチドをポリヌクレオチド中へ導入するものもまた使用することができる。ついで、このビオチンは、例えば放射性ヌクレオチド、蛍光剤又は酵素等のような広範囲の標識で標識することができるアビジン又は抗体への結合部位として作用する。あるいは、DNA二本鎖、RNA二本鎖及びDNA−RNAハイブリッド二本鎖又はDNA-タンパク二本鎖を含む、特異的二本鎖を認識することができる抗体を用いることもできる。ついで、抗体を標識し、アッセイを実施することができ、ここで二本鎖は表面に結合し、表面での二本鎖の形成時点でその二本鎖に結合した抗体の存在を検出することができる。
【0055】
あるいは、遺伝子の発現は、遺伝子産物の発現を直接的に定量する免疫学的な方法、例えば組織切片の免疫組織化学的染色及び細胞培養又は体液のアッセイによって、測定することもできる。免疫組織化学的染色技術では、細胞試料を、典型的には脱水と固定によって調製し、共役した遺伝子産物に対して特異的な標識化抗体と反応させるが、この標識は通常は視覚的に検出可能であり、例えば酵素的標識、蛍光標識、又はルミネサンス標識等々である。本発明における使用に適した特に高感度の染色技術は、Hsuら, Am. J. Clin. Path. 75:734-738(1980)により記載されている。
試料液の免疫組織化学的染色及び/又はアッセイに有用な抗体は、モノクローナルでもポリクローナルでもよく、任意の哺乳動物において調製することができる。簡便には、抗体は、FGF-5変異ポリペプチドに対して、又はさらに以下に記載されここで提供されるDNA配列に基づく合成ペプチドに対して調製されうる。
【0056】
E.FGF-5ポリペプチドの精製
FGF-5は、分泌ポリペプチドとしても培地から回収可能であるが、分泌シグナルを有さず、直接発現させた場合は、宿主細胞溶菌物から回収するのが好ましい。膜結合性であるならば、適切な洗浄液(例えばトリトン-X100)を用いて膜から引き離すか、又は酵素的切断により引き離すことができる。FGF-5ポリペプチドの発現に使用される細胞は、種々の物理的又は化学的手段、例えば凍結-解凍サイクル、超音波処理、機械的粉砕、又は細胞溶菌剤により粉砕することができる。
【0057】
組換え技術を使用する場合、FGF-5ポリペプチドは細胞内、細胞膜周辺腔内に生成されるか、又は培地に直接分泌され得る。FGF-5が細胞内に生成される場合、通常は、他の組換え細胞タンパク質又はポリペプチドからFGF-5を精製する必要があり、FGF-5に実質的に相同な調製物が得られる。第1段階として、培地又は溶菌物を遠心分離にかけ、粒状屑、例えば宿主細胞又は溶菌断片を取り除く。大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌されるタンパク質を単離するための手順は、Carterら, Bio/Technology 10:163-167(1992)に記載されている。簡単に述べると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフロリド(PMSF)の存在下で、30分以上かけて解凍する。細胞屑は遠心分離により除去することができる。
【0058】
大腸菌において発現している多くの異種性タンパク質は、活性を付与するためには再折り畳みが必要である。これが必要である場合、次の手順を使用することができる。任意のN-又はC末端伸長型を含む、組換え又は合成FGF-5の再折り畳みに適した手順の一般的な議論については、読者は次の特許:Builderら, 米国特許第4,511,502号;Jonesら,米国特許第4,512,922号;Olson,米国特許第4,518,526号;Builderら,米国特許第4,620,948号を参照されたい。
【0059】
(i) 非可溶性FGF-5の回収
任意の適当なプラスミドによりコードされているFGF-5を発現している大腸菌のような微生物は、FGF-5が不溶性「屈折体」として沈積する条件下で発酵させる。場合によっては、細胞を最初に細胞破壊緩衝液で洗浄してもよい。典型的には、例えばポリトロンホモジェナイザーを用いて、細胞約100gを細胞破壊緩衝液約10容量(例えば、10mMトリス、5mM EDTA、pH8)に再懸濁し、細胞を5000xgで30分間遠心分離する。次に細胞を、浸透圧衝撃、超音波処理、圧力サイクル、化学的又は酵素的方法のような任意の常套的技術を用いて溶菌する。例えば、上記の洗浄した細胞ペレットは、ホモジェナイザーを用いてさらに10容量の細胞破壊緩衝液に再懸濁することができ、この細胞懸濁液を、LH細胞破砕機(LH Inceltech., Inc.)又はマイクロフルイダイザー(登録商標)(Microfluidics Int'l)に製造者の指示に従って通す。次に、FGF-5を含む粒状物質を液相から分離し、場合によって適当な液体で洗浄する。例えば、細胞溶菌液の懸濁液を5000xgで30分間遠心分離し、再懸濁し、場合によって二回目の遠心分離を行い、洗浄された屈折体ペレットを作成する。洗浄されたペレットは直ちに使用することができ、又は場合によっては凍結保存することもできる(例えば−70℃)。
【0060】
(ii) 単量体FGF-5の可溶化と精製
次いで、屈折体ペレット中の不溶性FGF-5を可溶化緩衝液で可溶化する。可溶化緩衝液はカオトロピック剤を含有し、通常、塩基性pHで緩衝化されており、単量体FGF-5の収量を改善するために還元剤を含有している。代表的カオトロピック剤は、尿素、グアニジンHCl、及びチオシアン酸ナトリウムが包含される。好ましいカオトロピック剤はグアニジン-HClである。カオトロピック剤の濃度は通常4−9M、好ましくは6−8Mである。可溶化緩衝液のpHは、任意の適当な緩衝剤により、pH範囲約7.5−9.5、好ましくは8.0−9.0、最も好ましくは8.0に維持する。好ましくは、可溶化緩衝液は、単量体型FGF-5の形成を助けるために還元剤をも含有する。好適な還元剤は、遊離チオールを含む有機化合物(RDH)を包含する。代表的還元剤は、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、メルカプトエタノール、グルタチオン(GSH)、システアミン及びシステインを包含する。好ましい還元剤はジチオトレイトール(DTT)である。場合によっては、可溶化緩衝液は、緩和な酸化剤(例えば分子酸素)及び亜硫酸分解を介して単量体FGF-5を形成させるための亜硫酸塩を含有させることができる。この実施態様においては、得られた[FGF-5]-S-スルホナートを後で酸化還元緩衝液(例えばGSH/GSSG)の存在下で再折り畳みして、正しく折り畳まれたFGF-5を形成させる。
【0061】
通常FGF-5タンパク質は、例えば遠心分離、ゲル濾過クロマトグラフィー及び逆相カラムクロマトグラフィーを用いてさらに精製する。
例示のために、以下の手順で適当な収量の単量体FGF-5を生成した。屈折体ペレットを約5容量/重量の可溶化緩衝液(6−8Mグアニジン及び25mM DTTを伴う20mMトリス、pH8)に再懸濁し、1−3時間、又は一夜4℃で攪拌して、変異体FGF-5タンパク質の可溶化を起こさせる。高濃度の尿素(6−8M)もまた有用であるが、一般にグアニジンと比べて幾分低い収量をもたらす。可溶化の後、この溶液を30000xgで30分間遠心分離し、変性した単量体FGF-5タンパク質を含有する透明な上清を生成させる。次に上清を、流速2ml/分でスーパーデックス(登録商標)200ゲル濾過カラム(Pharmacia、2.6x60cm)でクロマトグラフィーに付し、10mM DTTを伴う20mMリン酸Na、pH6.0でタンパク質を溶出する。160ml及び200mlの間に溶出する単量体の変性FGF-5タンパク質を含有する画分をプールする。このFGF-5タンパク質を半調製用C4逆相カラム(2x20cmVYDAC)上でさらに精製する。30%アセトニトリルを伴う0.1%TFA(トリフルオロ酢酸)で平衡化したカラムに試料を5ml/分で適用する。タンパク質をアセトニトリルの直線勾配(60分間で30−60%)で溶出する。精製された還元タンパク質はおよそ50%アセトニトリルの時点で溶出する。この物質を再折り畳みに使用して生物活性なFGF-5を得る。
【0062】
(iii)生物活性型を生成させるためのFGF-5の再折り畳み
FGF-5の可溶化及びさらなる精製の後、変性した単量体FGF-5を酸化還元緩衝液中で再折り畳みすることにより、生物活性型を取得する。FGF-5の効果に依存して、多くの異なる緩衝液、洗浄剤及び酸化還元条件を利用して生物活性物質を取得することが可能である。しかしながら、殆どの条件の下では、正しく折り畳まれた物質は少量(<10%)得られるに過ぎない。商業的製造プロセスのためには、少なくとも10%、より好ましくは30−50%、最も好ましくは>50%の再折り畳み収率であることが望ましい。トリトンX-100、ドデシル-β-マルトシド、CHAPS、CHAPSO、SDS、サルコシル、トゥイーン20及びトゥイーン80、ツヴィッタージェント3−14及びその他を包含する多くの異なる洗浄剤が、少なくとも最小の折り畳みを生成するのに使用される。しかしながら、最も好ましい洗浄剤はCHAPSファミリー(CHAPS及びCHAPSO)のものであって、これらは再折り畳みで最も良好に働き、タンパク質凝集及び不適正なジスルフィド形成を制限すると思われる。約1%より高いレベルのCHAPSが最も好ましい。収率を最適化するには塩化ナトリウム(0.1M-0.5M)が存在することが好ましい。さらに、金属で触媒される酸化(及び凝集)の量を制限するため、酸化還元緩衝液中にEDTA(1−5mM)を存在させることが好ましい。グリセロールが少なくとも15%であると最適の再折り畳み条件に至るためにさらに好ましい。最大収率のためには、酸化還元緩衝液が酸化されたそして還元された有機チオール(RSH)の両方を有することが好ましい。好適な酸化還元対には、メルカプトエタノール、グルタチオン(GSH)、システアミン、システイン及びそれらの対応する酸化型が包含される。好ましい酸化還元剤はグルタチオン(GSH):酸化グルタチオン(GSSG)又はシステイン:シスチンである。最も好ましい酸化還元対はグルタチオン(GSH):酸化型グルタチオン(GSSG)である。一般に、酸化還元対の酸化型のモル比が酸化還元対の還元型と等しいか又は過剰である時に高い収率が観察される。7.5及び約9の間のpH値がFGF-5ポリペプチドの再折り畳みにとって最適である。有機溶媒(例えば、エタノール、アセトニトリル、メタノール)は10−15%又はこれ以下の濃度では寛容された。より高い濃度の有機溶媒は、不適切に折り畳まれた型の量を増加させた。トリス及びリン酸緩衝液が一般に有用であった。4℃でのインキュベーションもまた高レベルの正しく折り畳まれたFGF-5を生産した。
【0063】
最初のC4工程で精製されたFGF-5の調製では、40−60%(再折り畳み反応に用いられた還元及び変性されたFGF-5の量に基づく)の再折り畳み収率が典型的である。活性物質は純度の低い調製物からも得られるが(例えば、スーパーデックス200(登録商標)カラム後又は最初の屈折体抽出後に直ちに)、沈澱化及びFGF-5再折り畳み工程中の非FGF-5タンパク質の妨害のため、収率はより低い。
【0064】
FGF-5は3つのシステイン残基を含むため、このタンパク質では3つの異なったジスルフィド型の生成が可能である:
第一の型:システイン残基1と2の間のジスルフィド;
第二の型:システイン残基1と3の間のジスルフィド;
第三の型:システイン残基2と3の間のジスルフィド。
再折り畳み中に最適結果の達成を助力するために、第1と第2システインの間にジスルフィド結合が確実に形成されるように、第3のシステインを変異させることが必要である。
再折り畳みの条件を決定する際の初期の探究中に、FGF-5タンパク質を含有する異なったピークがC4逆相クロマトグラフィーにより分離された。最も有意な生物活性を有するピークを試験することで、その型に対して優先的に産生するように条件が最適化される。
天然配列FGF-5(例えば、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:5)のジスルフィドパターンはシステイン残基1と2の間にあると決定された。
【0065】
IV.治療的効能
種々の障害により網膜ニューロンの死亡に至る。これらには、網膜と色素上皮の分離、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、及び外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症)及び浮腫が含まれる。網膜分断は、網膜が、しばしば、脈絡膜の破断を生じうる、深層乱脈膜から分断するか分離することにより特徴付けられる病状である。網膜分断は幅広い理由により生じる。特に面倒なものは、中心視野視力障害又は変視症を生じる黄斑円孔である。
【0066】
ほとんどの黄斑円孔の直接の原因は知られていないが、外傷、膀胱変性及び網膜硝子体牽引に関連している。また、全厚黄斑円孔は、近視眼変性、レーザ光凝固、電撃性襲撃及びピロカルピン投与に続いて現れた。黄斑円孔はまた水晶体摘出後に高頻度で存在する。急性黄斑円孔の特定の形態は、個人に独特の老年黄斑円孔であり、これは、環状網膜剥離により包囲される黄斑を通しての全厚円孔を含んでいる。黄斑円孔は中央又は小窩剥離で始まり、ついで全深黄斑円孔に最終的に発達すると信じられている。Gassら, (1988), Arch. Ophthalmol. 106:629-639。例えばトランス-パラプラナ(para plana)硝子体茎切除術のような外科的処置は完璧な黄斑円孔への黄斑変性の進捗を阻害しうる一方、この手術は中心視野を永久的に損ないえ、典型的には40%の時間の視野を改善するのみである。
【0067】
光受容体細胞死に至りうる他の網膜障害には、浮腫、虚血症及びブドウ膜炎が含まれる。黄斑及び網膜浮腫はしばしば真正糖尿病等の代謝疾患に関連している。網膜浮腫は水晶体摘出及び眼について他の外科的処置を受けたヒトに多くの割合で見出される。また、浮腫は促進性又は悪性高血圧に伴うことも見出されている。黄斑浮腫は、ブドウ膜炎、イールズ病、又は他の疾病のために長引いた炎症にありふれた合併症である。局所的浮腫は、エイズの結果として多類嚢胞体(「cotton bodies」)に不随する。
【0068】
網膜虚血症は脈絡膜又は網膜の血管の病気、例えば中心視野もしくは網膜視野分枝閉塞症、コラーゲン血管病及び血小板減少紫斑病から生じうる。網膜血管炎及び閉塞はイールズ病及び全身性エリテマトーデスに伴うことが分かっている。
【0069】
年齢関連性黄斑変性(AMD)は、55歳以上の米国市民における深刻な視力喪失の主たる原因である。AMDは萎縮又は滲出形態のいずれかで生じ得る。ほとんどのAMD患者では、網膜と網膜色素上皮の萎縮を生じる黄斑領域における網膜色素上皮内又は下に堆積物が集まっている。網膜色素上皮は何年もの間、桿状体及び円錐体から光受容体ディスクを除去し、細胞内に廃棄物が蓄積される。消化が不十分な残基は細胞質空間で減少し、代謝に干渉する。Feeny-Burnsら, Invest Ophthal. Mol. Vis. Sci. (1984), 25:195-200。オルガネラにとって利用できる細胞容積が減少するので、光受容体を消化する能力が減少し、これが黄斑変性症の基礎となりうる。
【0070】
滲出性AMDは、Bruch膜の血管を通しての絨毛毛管(choriocapillaris)からの血管の成長、及びいくつかの場合においては基礎を為す網膜色素上皮(RPE)により特徴付けられる。これらの血管から漏れ出た漿液又は出血性滲出物が蓄積すると、中心視野の永久的喪失及び神経網膜の不随変性を伴う黄斑領域の繊維の傷が生じる。
また、滲出性AMDは、脈絡膜新血管新生、網膜色素上皮の剥離及び分断に関連している。AMD患者における有意な視力喪失の80%を越える場合において、カスケード的網膜事象がその原因となっている。
【0071】
AMDに関連した最初の又は再発した新血管新生病変を改善しようとして、レーザー光凝固が試みられている。Arch. Ophthalmol. (1991) 109:1220;Arch. Ophthalmol. (1991) 109:1232;Arch. Ophthalmol. (1991) 109:1242。残念なことに、レーザー治療を受けた中心窩下病変を持つAMD患者は、3ヶ月の追跡治療で視力の深刻な減少(平均3ライン)を経験した。さらに、治療後2年で、治療を受けた眼は、治療を受けなかった側よりも視力がわずかによくなっていただけである(それぞれ、20/320、20/400の平均)。この処置の他の欠点は、外科的処置を受けた直後に視力が悪くなることである。
【0072】
従って、本発明の網膜ニューロン生存剤は、網膜分断、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、及び外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症を含む)、黄斑円孔、黄斑変性(年齢関連性黄斑変性又はAMDを含む)、浮腫、虚血症(例えば、中心もしくは網膜視野分枝閉塞症、コラーゲン血管病、血小板減少紫斑病を含む)、ブドウ膜症及び網膜血管症、及びイールズ病及び全身性エリテマトーデスに伴う閉塞症の治療のための有望な候補薬である。
【0073】
V.発明の実施の形態
A.網膜ニューロン(光受容体を含む)生存アッセイ:
これらのアッセイにおいて、神経網膜は色素上皮から取り出されたものであり、Ca2+、Mg2+フリーのPBSに0.25%トリプシンが入ったものを使用して単細胞懸濁液中に解離される。ついで細胞は、N2が補填されたDMEM/F12において、96ウェルプレートにウェル当たり100000細胞を蒔く。培養2-3日後、細胞を固定し染色する。典型的には、下にある色素上皮からの神経網膜細胞の剥離の際に死が生じるので、テストした薬剤の相対生存性向上効果を、未処理の対照ウェルと比較することにより容易に測定することができる。
手順は実施例においてより詳細に記載する。
【0074】
B.年齢関連性斑変性(AMD):
このアッセイでは、局所的に投与されたFGF-5の効果と安全性は、網膜の生存力を促進させる治療薬の網膜下又は硝子体内注射を記載した1993年7月8日出願のWO94/01124に略述されているものと実質的に同様な手順を使用して検査する。簡単に言えば、AMDの最近の診断で視力が20/160、又はそれより良好な患者において、ベースラインからの視力の変化と安定化を調べる。研究パラメータは遠くと近くの双方の視野に対して最良の矯正視力、眼内圧、水晶体状態及び屈折を測定すべきである。また、古典的(classic)/潜在的(occult)新血管新生からの漿液と過剰蛍光の量、全病変の大きさ及び中心窩の関与性もまた蛍光血管造影法及びICG(インドシアニングリーン)血管造影法で測定する。
【0075】
C.黄斑円孔:
このアッセイでは、局所的に投与されたFGF-5の安全性と効果は、網膜生存力促進治療薬を網膜下又は硝子体内注射を記載した1993年7月8日出願のWO94/01124に略述されているものと実質的に同様な手順を使用して検査する。簡単に言えば、黄斑円孔が確認された患者について視力を調べ、眼内圧、眼底写真、蛍光血管造影法により分析する。
治療の原理は、円孔を囲む肥厚化と網膜剥離を解消するために黄斑円孔の縁部の平坦化を誘発することである。結合した円孔周囲の網膜を持ち上げる牽引力と円孔の縁部に沿った絨毛網膜接着の誘発における低減が治療効果には必要であると考えられている。
手順は実施例においてより詳細に記載する。
【0076】
D:光誘発性光受容体損傷
このアッセイでは、テストされる光受容体生存剤を投与した場合と投与しない場合で、アルビノラットを最初は循環性光環境下に維持し、続いて一定の光源に暴露する。アルビノラットの眼へ因子を硝子体内投与することで、変性並びに副作用、例えば各因子に付随するマクロファージの発生から光受容体を救出する因子の能力の評価が可能になる。
簡単に言えば、一定の光暴露に先だって、ラットに眼内注射をし、偽の注射をしていない対照動物と比較する。一定の光暴露に続いて、眼を取り出し、エポキシ樹脂に埋め込み、垂直経線に沿って切断する。光誘発性網膜変性の度合いは、まず、外側胞核層の厚みを調べ、次に網膜の相対的完全性に割り当てた主観的なスコアにより測定することができる。
【0077】
E.光アブレーション
このアッセイでは、光受容体の救出の度合いを、Remeら, Degen. Dis. Retina, Ch.3, Ed. R.E.Andersonら, Plenum Press, New York(1995)に記載されている手順を変更したもので、雌のSprague-Dawleyラットにおいて測定する。簡単に言えば、動物をまず周期性光照射に順化させ、続いて全くの暗闇に置く。光暴露を中断する前に、被験因子を動物に注射する。網膜変性の度合い又は被験因子の生存促進活性は、TUNEL標識光受容体細胞核の数又は光受容体細胞層の厚みとして報告される。
【0078】
F.角膜ポケットアッセイ:
このアッセイでは、特定の薬剤が試験され、Polveriniら, Methods Enzymol. 198:440-450(1991)を適応化させた手順の下で血管原性であるか否かが決定される。簡単に言えば、Sprague-Dawleyに麻酔をかけ、固定し、スクラルファートとハイドロンと組合せた被験因子のペレットを配した角膜を切開する。
【0079】
G.血管内皮細胞の分裂促進性アッセイ
この特定のアッセイは血管内皮細胞における被験因子の分裂促進性(例えば、血管形成性)を測定する。これは、Ferraraら, Methods of Enzymology 198:391-405(1991)により記載されたように、bFGF(配列番号:4)の精製度を測定する信頼性の高い手段として開発された。簡単に言えば、ウシ副腎皮質由来細胞を増殖させ、低グルコースDMEMの存在下で培養し続け、被験因子を投与し、被験培養対対照を測定する。
【0080】
H.投与方法:
本発明のFGF-5ポリペプチドは種々の経路を通して眼に送達されうる。導入方法には、これらに限定するものではないが、静脈内、動脈内、くも膜下腔内、皮下、皮内、関連組織内への注射、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、経口的、又は移植装置を介するものを含む、当該分野において公知の任意の投与方法が含まれる。それらは、眼への局所適用又は例えば硝子体又は網膜下(光受容体間)腔への眼内注射により、眼内に送達される。別法として、眼の周囲の組織への挿入又は注射により、局所的に送達することもできる。それらは、経口経路を通して又は皮下、静脈内又は筋肉内注射により全身に送達することもできる。別法として、カテーテル又は移植により送達することもでき、このような移植片は、タンパク質様物質、生物分解性ポリマー、繊維、又はシラスティック膜等の膜を含む、多孔質、非多孔質又はゼラチン様物質で作製される。因子は、病気の発生を防止するために病気になる前に、例えば眼の外科的処置中に、又は病理学的症状の発生直後、又は急性もしくは長引く病状の発生中に投与される。
【0081】
潜在的な網膜ニューロン生存促進因子の硝子体内注射は全身への適用においていくつかの利点がある。眼は丸い比較的封じ込められた構造であるため、また薬剤がそこに直接注入されるので、網膜に到達する特定の薬剤の量は、より性格に決定することができる。さらに、注射されるのが必要な薬剤の量は全身注射と比べて少ない。例えば、硝子体内注射では、容量で1マイクロリットル(約1ミリグラムの薬剤)使用されるが、これに対し全身注射では1から数ミリリットル(10から数百ミリグラムの薬剤)が必要である。加えて、硝子体内投与経路により、ある薬剤の潜在的な毒性効果が回避される。
【0082】
さらに、本発明の製薬用組成物を、治療が必要とされる箇所に局所的に投与することが望ましく、これは、例えば外科的処置中の局所的注入により、注射により、カテーテルにより、又は移植により達成され、このような移植片は繊維又はシラスティック膜等の膜を含む、多孔質、非多孔質又はゼラチン様物質からなる。
【0083】
本発明の因子は、その血管網膜障壁に浸透する能力を向上させるために修飾してもよい。このような修飾には、例えばグリコシル化により脂肪親和性を高め、又は当該分野において知られている方法によりその正味の負荷を多くすることが含まれる。
因子は単独でも組合せて送達されてもよく、製薬的に許容可能なビヒクルと共に送達させることもできる。理想的には、このようなビヒクルは安定性及び/又は送達特性を高めるものである。また本発明は、適切なビヒクル、例えばリポソーム、微小粒子又はマイクロカプセルを使用して投与可能な活性因子又はその断片もしくは誘導体を含有する製薬組成物を提供する。本発明の様々な実施態様では、このような組成物を使用して活性成分を除放性とすることは有用である。
【0084】
I.製薬組成物と用量
ポリペプチド又は抗体の治療用調製物は、当該分野において典型的に使用されている任意の「製薬的に許容可能な」又は「生理学的に許容可能な」担体、賦形剤又は安定剤(これら全てを「賦形剤」という)と、所望の純度を有するポリペプチドをを混合することにより、凍結乾燥された製剤又は水溶液として保管可能に調製される。例えば、緩衝剤、安定剤、防腐剤、等張剤(isotonifiers)、非イオン性の洗浄剤、酸化防止剤及び他の様々な添加剤である(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol, Ed., (1980)を参照されたい)。このような添加剤は、レシピエントに対して使用用量及び濃度で毒性のないものでなければならない。
【0085】
緩衝剤は、生理条件を近似する範囲にpHを維持する助けをする。それらは、好ましくは約2mM〜約50mMの範囲の濃度で存在している。本発明において使用される好適な緩衝剤には、有機酸と無機酸の両方及びそれらの塩類、例えばクエン酸バッファー(例えば、クエン酸一ナトリウム-クエン酸二ナトリウムの混合物、クエン酸-クエン酸三ナトリウムの混合物、クエン酸-クエン酸一ナトリウムの混合物等)、コハク酸バッファー(例えば、コハク酸-コハク酸一ナトリウムの混合物、コハク酸-水酸化ナトリウムの混合物、コハク酸-コハク酸二ナトリウムの混合物等)、酒石酸バッファー(例えば、酒石酸-酒石酸ナトリウムの混合物、酒石酸-酒石酸カリウムの混合物、酒石酸-水酸化ナトリウムの混合物等)、フマル酸バッファー(例えば、フマル酸-フマル酸一ナトリウムの混合物等)、フマル酸バッファー(例えば、フマル酸-フマル酸一ナトリウムの混合物、フマル酸-フマル酸二ナトリウムの混合物、フマル酸一ナトリウム-フマル酸二ナトリウムの混合物等)、グルコン酸バッファー(例えば、グルコン酸-グルコン酸ナトリウムの混合物、グルコン酸-水酸化ナトリウムの混合物、グルコン酸-グルコン酸カリウムの混合物等)、シュウ酸バッファー(シュウ酸-シュウ酸ナトリウムの混合物、シュウ酸-水酸化ナトリウムの混合物、シュウ酸-シュウ酸カリウムの混合物等)、乳酸バッファー(例えば、乳酸-乳酸ナトリウムの混合物、乳酸-水酸化ナトリウムの混合物、乳酸-乳酸カリウムの混合物等)及び酢酸バッファー(例えば、酢酸-酢酸ナトリウムの混合物、酢酸-水酸化ナトリウムの混合物等)が含まれる。さらに、リン酸バッファー、ヒスチジンバッファー及びトリメチルアミン塩、例えばトリスも挙げられる。
【0086】
防腐剤は微生物の成長を遅らせるために添加され、0.2%-1%(w/v)の範囲の量で添加される。本発明に使用される好適な防腐剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタ-クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ベンザルコニウムハロゲン化物(例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物)、塩化ヘキサメトニウム、アルキルパラベン類、例えばメチル又はプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール及び3-ペンタノールが含まれる。
【0087】
しばしば「安定剤」として知られている等張剤は、本発明の液体組成物を確実に等浸透圧とするために存在し、多価糖アルコール、好ましくは3価又は高級糖アルコール、例えばグリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトールが含まれる。多価アルコールは、他の成分の相対量を考慮して、0.1重量%〜25重量%、好ましくは1重量%〜5重量%の量で存在可能である。
【0088】
安定剤は、増量剤から、治療剤を安定化させるか、変性又は容器壁への付着防止を補助する添加剤まで広範囲に機能する広い範疇の賦形剤に入るものを意味する。典型的な安定剤は、多価糖アルコール(上に列挙);アミノ酸、例えばアルギニン、リシン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン等、有機糖類又は糖アルコール類、例えばラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクチトール、グリセロール等であり、シクリトール、例えばイノシトール;ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;硫黄含有還元剤、例えば尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム;低分子量のポリペプチド(すなわち<10残基);タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン単糖類、例えばキシロース、マンノース、フラクトース、グルコース;二糖類、例えばラクトース、マルトース、スクロース及び三糖類、例えばラフィノース;多糖類、例えばデキストランも含まれる。安定剤は活性タンパク質の1重量部当たり0.1〜10000重量部の範囲で存在しうる。
【0089】
非イオン性の界面活性剤又は洗浄剤(「湿潤剤」としても知られている)は、治療剤の溶解を助け、並びに攪拌誘発性凝集から治療用タンパク質を保護するために存在し、これによりタンパク質の変性を引き起こすことなく、応力を受ける剪断表面に製剤をさらすことができる。好適な非イオン性界面活性剤には、ポリソルベート(20、80等)、ポリオキサマー(184、188等)、プルロニック(登録商標)ポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(トウィーン(Tween)(登録商標)-20、トウィーン-80等)が含まれる。非イオン性界面活性剤は約0.05mg/ml〜約1.0mg/ml、好ましくは約0.07mg/ml〜約0.2mg/mlの範囲で存在する。
【0090】
付加的な種々の賦形剤には、増量剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)及び共溶媒が含まれる。
【0091】
ここに記載の製剤は、治療されている特定の効能に対して一を越える活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有し得る。例えば、免疫抑制剤をさらに提供することが望ましい。このような分子は、好適には、意図した目的に有効な量で組合されて存在する。
また活性成分は、例えばコアセルベーション法又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol編(1980)に開示されている。
【0092】
インビボ投与用に使用される製剤は滅菌されなくてはならない。これは、例えば滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成される。
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適切な例には、抗体変異体を含む固体疎水性重合体の半透過性マトリックスが含まれ、このマトリックスはフィルム又はマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(U.S.Pat.No.3,773,919)、L-グルタミン酸とエチル-L-グルタマートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性の乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注入可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニルや乳酸-グリコール酸等のポリマーは100日以上分子を放出できるが、特定のヒドロゲルはより短い時間タンパク質を放出する。カプセル化抗体は、長時間体内に残存すると、37℃の水分に曝されることで変性又は凝集し、生物活性の喪失や免疫原生の変化のおそれがある。関与するメカニズムに応じて安定化のために合理的な方策が案出できる。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが分かったら、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分量を調整し、適当な添加物を使用し、特定の重合体マトリックス組成物を開発することで安定化を達成することができる。
【0093】
特定の障害又は病状の治療に有効な治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の量は、障害又は病状の性質に依存し、通常の臨床技術により決定される。可能な場合は、先ずインビトロで、ついでヒトで試験する前に有用な動物モデルシステムにおいて本発明の製薬用組成物及び用量反応曲線を決定することが望ましい。しかし、当該分野における一般的知識に基づけば、知覚ニューロンの生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約5〜20ng/ml、好ましくは約10〜20ng/mlの局所治療剤濃度を提供する。本発明のさらなる特定の実施態様においては、網膜ニューロンの増殖及び生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約10ng/ml〜100ng/mlの局所治療剤濃度を提供する。
【0094】
好ましい実施態様においては、治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の水溶液は、皮下注射により投与される。各用量は、体重1kg当たり約0.5μg〜約50μg、好ましくは体重1kg当たり約3μg〜約30μgの範囲である。
皮下投与の投与スケジュールは、病気の種類、病気の深刻度、及び患者の治療剤に対する敏感度を含む、多くの臨床的要因に応じて1週間に1回から毎日と変わりうる。
【0095】
FGF-5タンパク質、ペプチド断片、又は変異体は図8(配列番号:3)に示すアミノ酸配列又はその部分配列、そこから誘導された活性アミノ酸配列、又は機能的に等価な配列(例えば、配列番号:2の残基22ないし268)を含みうるが、これはこの部分配列がFGF-5分子の機能的部位であると考えられているからである。
【0096】
特定の疾患又は病状の治療に有効なFGF-5タンパク質の量は、障害又は病状の性質に依存し、通常の臨床技術により決定される。可能な場合は、先ずインビトロで、ついでヒトで試験する前に有用な動物モデルシステムにおいて本発明の製薬用組成物及び用量反応曲線を決定することが望ましい。しかし、当該分野における一般的知識に基づけば、知覚ニューロンの生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約10〜1000ng/ml、好ましくは約100〜800ng/ml、より好ましくは約200〜600ng/mlのFGF-5の局所FGF-5タンパク質濃度を提供する。本発明のさらなる特定の実施態様においては、網膜ニューロンの増殖及び生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約10ng/ml〜1000ng/mlの局所FGF-5タンパク質濃度を提供する。
FGF-5の硝子体下投与の投与スケジュールは、病気の種類、病気の深刻度、及び患者のFGF-5に対する敏感度を含む、種々の臨床的要因に応じて1週間に1回から毎日と変わりうる。投与スケジュールの例は、これに制限されるものではないが、3μg/kgの投与を1週間に2回、1週間に3回又は毎日、7μg/kgの投与を1週間に2回、1週間に3回又は毎日、10μg/kgの投与を1週間に2回、1週間に3回又は毎日とされる。
【0097】
CNTF等のFGF-5と組合せて投与される付加的な神経栄養因子の有効用量は、ここで記載したFGF-5の有効用量と同じ範囲の用量である。本方法の活性化合物、FGF-5は、場合によっては第2の薬剤、例えば神経栄養因子と共に調製される。例示的な神経栄養因子には、神経成長因子(NGF)、aGF、繊毛神経栄養因子(CNTF)、ウシ由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT-3)、 ニューロトロフィン4(NT-4)、aFGF、IL-1β、TNFα、インシュリン様成長因子(IGF-1,IGF-2)、トランスフォーミング成長因子β(TNF-β、TNF-β1)又は骨格筋抽出物が含まれ、限定されるものではないが、生理食塩水、緩衝食塩水、デキストロース及び水等を含む任意の滅菌生物融和性製薬用担体で投与されうる。しかしながら、ある種の因子、例えばbFGF-5、CNTF又はIL-1βは、望ましくない網膜合併症、例えばマクロファージの増殖、網膜構造の崩壊、細胞増殖又は炎症を引き起こしうるので、注意して使用すべきである。
もし患者が好ましくない副作用、例えば体温上昇、風邪又はインフルエンザ様徴候、疲労等を示したら、頻度を上げた間隔で用量を少なくして投与することが好ましい。一又は複数の付加的な薬物、例えば解熱剤、抗炎症剤又は鎮痛剤を、このような望ましくない副作用を緩和するためにFGF-5と組合せて投与することができる。
【0098】
V.アッセイ特徴づけ:インビトロアッセイとインビボ治療効果の相関関係
アガロースゲル電気泳動及び末端dUTPニックエンド標識(TUNEL)を使用する最近の研究では、光受容体細胞死は、主としてアポトーシスにより生じることが示されている。Chang, G-Q, Hao Y., Wong F.(1993), Neuron 11:595-605;Portera-Cailliau, C.ら(1993)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:974-97;Adler R., Curr. Top. Dev. Biol.(1980) 16:207-252。これらの研究ではヒト網膜変性(色素性網膜炎)のマウスモデル:rdマウス(cGMPホスホジエステラーゼのbサブユニットに変異を有する);rdsマウス(ペリフェリン(peripherin)に変異を有する);及びロドプシンに変異を有するトランスジェニックマウスを調査している。これらの全てのモデルにおいて、光受容体細胞死の時点でアポトーシスの大幅な増加がある。また、アポトーシスはRCSラット、並びに光ダメージを受けたラットの網膜において顕著であることが知られている。Tso M,ら., Invest. Opththalmol. Vis. Sci. (1994) 35:2693-2699;Shahinfar S.ら., Curr. Eye Res. (1991) 10:47-59。
【0099】
アポトーシスは、分解酵素の漏れを防止することにより、健康な隣接細胞がその正常な機能を果たすことができるようにする厳重に制御された「停止」プロセス又は自己選択的細胞自殺であると思われる。Wong, F. Arch. Ophthalmol. 113:1245-47 (1995)。このプロセスの間、細胞の外膜は、細胞が核凝結、細胞質収縮、膜小疱形成、アポトーシス体の形成及びしばしばDNA断片化を受ける間、無傷のままである。
【0100】
アポトーシスは色素性網膜炎のような眼の変性疾患において重要な役割を担っていると今は考えられている。RPはロドプシン遺伝子の変異によって引き起こされると考えられている、Dryja, TP, Nature (1990)343:364-366。加えて、RPを誘発する他の光受容体-特異性遺伝子変異が見出されており、なかでも、網膜変性(rd)、McLaughlin ME,ら., Nat. Genet.(1993), 4:30-134、及び遅延性網膜変性(retinal degeneration slow)(rds)、Farrar G.J.ら., Nature(1991), 354:478-80;Kajiwara K.ら., Nature(1991), 354:480-83として知られている変異がある。さらに、RPの常染色体優性型は、ロドプシン遺伝子の70を越える変異の任意のものによって引き起こされることが見出されている。Humphries,P.ら., Science(1992), 256:804-808;Dryja, T.P.ら., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.(1995), 36:1197-1200。ロドプシン変異はいくつかのファミリーにおける常染色体劣性RPの基礎であることも知られている。Rosenfeld, P.J.ら., Nat. Genet.(1992), 1:209-13;Kumaramanickavel, G.ら.,(1994), 8:10-11。その結果、ロドプシン遺伝子は、現在、RPの研究のための原型的なモデルであると考えられる。
【0101】
RPにおけるアポトーシスの役割はマウス光受容体で観察されている。変異ロドプシンを発現しているいくつかの系のトランスジェニックマウスがつくり出され、その結果、ヒトにおいて見出される常染色体優勢RPの形態をシミュレートすることができる。これらの動物モデルは、形態的変化とDNA断片化を含む、アポトーシスの種々の特徴を通しての死亡していく光受容体を示す。Chang, C-Gら, Neuron(1993) 11:595-605;Portera-Cailliau, C.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) 91:974-978。他の実験結果と共に、これらの発見により、ロドプシン遺伝子における変異ばかりでなく、rd及びrds遺伝子における変異によっても誘発されるので、アポトーシスがマウス光受容体死の主要なメカニズムであるという結論に達する。Chang, C-Gら, 上掲、Portera-Cailliau C.ら, 上掲、Lolley R.N.ら., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.(1994), 35:358-362。
【0102】
遺伝的異常性ばかりでなく、実験的網膜剥離の後にも反応してアポトーシスにより光受容体変性が生じるという知見は大きな関心がある。Cook, BEら., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.(1995), 36:990-996。さらに、アポトーシス性細胞死は、比較的低レベルの光で、短い暴露時間(1000及び3000ルクス、散光、白色光を2時間)で誘発される、アルビノラットにおける急性網膜障害においても観察される、Remeら., Degenerative Diseases of the Retina, Anderson R.E.ら., eds. Plenum Press, pp.19-25(1995)。この発見により生存促進栄養因子の調査に至り、該因子は、網膜下腔が膨張したとき光受容体にとって利用できなくなると考えられ、網膜剥離の結果として光受容体内マトリックスの組成が変化する。Chader G.J.(1989), Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 30:7-22;Berman E.R. Biochemistry of the Eye(1991), New York, NY, Plenum Press;Steinberg R.H., Curr. Opin. Neurobiol. 4:515-24。
【0103】
アポトーシスによる光受容体細胞の死は、変異が蓄積した影響による受動的な犠牲であるというよりむしろ、光受容体はそれ自身の「細胞死プログラム」の活性化により色素性網膜炎等の遺伝的障害で死亡すること暗示している。Adler R.,(1996) Arch. Ophthalmol. 114:79-83。このことは、ある種の神経栄養因子及び関連分子が桿状体タンパク質の変異の結果生じる円錐体の変性において果たしている役割があることを意味している。
【0104】
次の実施例は、細胞死がアポトーシスを介して生じているために、治療上の有用性を示しており、同じメカニズムが、種々の網膜変性疾患で生じていることが示されている。動物モデルにおいて保存視力と相関してアポトーシスを既知の成長因子が防止したという知見は、アポトーシスを防止する有望な因子はまた網膜変性疾患において治療上の有用性を有していることを示している。
次の実施例は例証するためのものであって本発明を限定するものではない。本明細書における全ての引用文献の開示は明示的にここに参照して取り込む。
【実施例】
【0105】
(実施例1)
黄斑円孔
様々な年齢の様々な段階(すなわち2、3又は4)の黄斑円孔を有する患者のプールを選択し、黄斑円孔の存在を確認する。類嚢胞黄斑水腫、糖尿病性網膜症又は滲出性加齢関連黄斑変性症の病歴を有する患者を除外するようにプールを選択する。
視力は患者毎に試験して最高スネレン視力を決定し、眼圧、眼底写真、フルオレセイン血管造影法により分析する。各黄斑円孔を、Gass, Arch. Ophthalmol.(1988),106:629-39により記載されている基準に従い等級分けする。段階2の円孔を有する眼は、深部網膜嚢胞形成の領域の縁部に沿って網膜披裂を有する。段階3は、弁蓋に被われた厚み全体に渡る円孔により特徴付けられるものである。黄斑円孔は、後部硝子体剥離が存在する場合に段階4に分類される。処置は基礎検査の2週間以内に予定する。基準下では、患者が2+の核硬化症(nuclear sclerotic)又は後被膜下水晶体変化(posterior subcapsular lens changes)を有している場合は除外すべきである。患者を6−10ヶ月、平均して8ヶ月追跡する。用量は、次の治療効果レベル、中程度の効果範囲、最小効果範囲を越える良好なレベルにおいて決定する。
眼はFGF-5の示されたレベルについて無作為に選択する。加えて、いくつかの眼は、黄斑円孔の領域からのFGF-5の浄化を遅延させるために、FGF-5の点眼時に、100μlの硝子体内(intravitreal)ヒアルロン酸を、別個に受けてもよい。
【0106】
外科的手順:
全ての外科的処置は鎮静作用を有する局部麻酔の下で行うことができる。眼の準備を行い布をかけた後、標準的な3カ所(three-port)硝子体切除手術を行う。段階2及び段階3の黄斑円孔を有する眼においては、瞳孔硝子体切除手術(core vitrectomy)を行う。段階4の黄斑円孔においては、完全な毛様体輪硝子体切除手術を行う。
もし存在するならば、網膜上膜を網膜表面から剥がし、眼から除去する。他の場合において、網膜内表面上の幾らかのゼラチン質凝集物が黄斑円孔を約200−400μm取り囲み、黄斑円孔の縁に沿って強く付着している。これは、黄斑円孔の縁に対する牽引力限界及び神経への損傷を考慮して、可能であれば注意深く切除する。
【0107】
末梢流体を後方に排出可能とした後、後方に泳動する任意の流体を吸引する。ついで先細で、先端が曲がっているカニューレを、FGF-5溶液を収容した1ccシリンジに接続する。再構成した調製物は、希釈した後の所望の濃度のFGF-5を含有する。眼には、所定用量のFGF-5が無作為に割り当てられる。約0.1ccのFGF-5溶液を、黄斑円孔内にゆっくりと注入する。また、同容量のヒアルロン酸を投与してもよい。
外科的処置の後、患者は外科的手術に続いて最初の24時間、仰向けの位置で横にすべきである。その後、各患者は可能であるならば2週間うつぶせの位置を保持すべきである。
患者は、外科的処置の1日、2週、4〜6週、及び1ヶ月後に検査を受ける。フルオレセイン血管造影を、4〜6週、3ヶ月及び6ヶ月目に実施する。最も正しく矯正されたスネレン視力、眼圧、水晶体状態、泡の大きさ、黄斑円孔の状態及び悪影響の発生を、各試験で測定する。
【0108】
議論:
この実施例における処置の合理性は、円孔周囲の肥厚部と網膜剥離とを解消するため、黄斑円孔の縁部の平坦化を誘発させることにある。円孔の縁に沿った脈絡網膜接着の誘発及びそれと結びついた円孔周囲の網膜を持ち上げる牽引力の低減が医療効果を得るために必要であることが示唆された。網膜の再付着に外科的技術が使用でき、損傷小領域が目立たない末梢網膜円孔とは異なり、黄斑円孔は、中心視野の永久的損傷及び隣接する神経知覚組織の損傷を回避するために、脈絡網膜接着の接着を徐々に誘発する必要がある。
【0109】
(実施例2)
光誘発性光受容体損傷
2-5月齢のアルビノラット(Spraque-DawleyのF344)を、一定の光源に暴露する前に9日又はそれ以上の間、周期的光環境(25ft-c未満の照度のかごの中で、12時間はオンにし、続く12時間はオフにする)に保持しておく。一定の光源を115-200ft-Cの照度レベルに維持する。例えば、240ワットの白色反射蛍光球を、ステンレススチールのワイヤでカバーされた透明なポリカルボナートのかご底面から60cm上部に吊り下げた。
一定の光への暴露の2日前、ラットに、リン酸緩衝塩水(PBS)に50-1000ng/μl濃度で溶解させた1μlの試験因子を硝子体内に投与するケタミン-キシラジン混合物で麻酔をかける。
眼の鋸状縁と赤道を間のほぼ中間にある鞏膜、脈絡網膜及び網膜を通過して32ゲージの針を挿入して注射した。因子が注射された動物を、対照体注射を受けたこの動物の非注射同腹子、並びに一定の光に暴露されていない対照動物と比較する。対照体には、PBSのみの注射、又は擬似注射(注入物が無く針のみを挿入)を含むべきである。全ての場合において、眼の上部半球体に注射される。
【0110】
一定の光に暴露した直後に、ラットを任意の適切な手段、例えば二酸化炭素麻酔にかけ、続いて混合アルデヒドを血管局所還流させて屠殺する。眼をエポキシ樹脂に包埋し、眼の垂直経線に沿って全網膜を1μm厚さの切片に切断する。ついで、光誘発性網膜変性の程度を2つの方法で定量する。第1に、光受容体細胞損失の指標として使用される外核層(ONL)の厚みを測定する。ONLの平均厚を、バイオクアント(Bioquant)形態測定システムにより、各動物の単一断片から得る。各上部及び下部半球体において、ONL厚を、各々3測定を9セット(各半球体において全27測定)測定する。各セットを約440μm長さの網膜の中心に置く(400X倍率の顕微鏡視野での直径)。第1の測定セットを視神経頭部から約440μmに置き、次のセットをより末梢方向に置く。各440μm長さの網膜内で、互いに75μm離れた定点で3測定を行う。全てにおいて、2つの半球体で54測定が行われ、それが網膜切片のほぼ全体の試料を代表する領域である。
【0111】
光受容体救済の程度を査定する第2の方法は、検査をしている病理学者による0−4+のスケールでの主観的評価によるものであり、4+は最大救済程度で、ほぼ正常な網膜完全体である。各切片における光受容体の救済程度は、同様のラットにおける対照眼との比較に基づき4人で評点を付ける。この方法はONL厚ばかりでなく、光受容体内部又は外部セグメントのより敏感変性的変化、並びに眼内部の変性勾配も考慮に入れている。
【0112】
議論:
アルビノラットの眼の中に種々の因子を硝子体内投与することで、各因子に関連する変性や副作用、例えばマクロファージの発生から光受容体を救済する因子の能力が迅速に査定できる。ここに記載しているモデルはアルビノラットであるが、他のアルビノ哺乳動物、例えばマウスやウサギの眼も、この目的において有用である。
【0113】
(実施例3)
網膜ニューロン生存性
生後7日目のSprague Dawleyラットの子(混合母集団:グリアと網膜ニューロン型)をCO2で麻酔をかけた後に断頭して屠殺し、滅菌条件下で眼を取り出す。神経網膜を色素上皮及び他の眼組織から切除し、ついでCa2+、Mg2+を含まないPBS中の0.25%トリプシンを使用して単一細胞懸濁液中に解離させる。網膜を37℃で7-10分インキュベートした後、1mlの大豆トリプシンインヒビターを添加することによりトリプシンを不活性化させた。N2が補足されたDMEM/F12において、96ウェルプレートにウェル当たり100000細胞を蒔く。全ての実験での細胞は、水飽和させた5%CO2飽和雰囲気で、37℃において成長させたものである。培養2-3日後、細胞をカルセインAMで染色し、ついで4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、全細胞数を測定するためにDAPIで染色する。全細胞(蛍光)は、マッキントッシュのNIHイメージソフトウエアとCCDカメラとを使用し、20X対物レンズ倍率で定量化する。ウエルの視野は無作為に選択する。
種々の濃度のFGF-5(R&DSystem, cat.no.237-F5/CF, lot no.GQ077040)(配列番号:5)の効果が図1に報告されている。
【0114】
(実施例4)
桿状体光受容体生存性
生後7日目のSprague Dawleyラットの子(混合母集団:グリアと網膜ニューロン型)をCO2で麻酔をかけた後に断頭して屠殺し、滅菌条件下で眼を取り出す。神経網膜を色素上皮及び他の眼の組織から切開し、ついでCa2+、Mg2+を含まないPBS中の0.25%トリプシンを使用して単一細胞懸濁液内に解離させる。網膜を37℃で7-10分インキュベートした後、1mlの大豆トリプシンインヒビターを添加することによりトリプシンを不活性化させた。N2が補足されたDMEM/F12において、96ウェルプレートにウェル当たり100000細胞を蒔く。全ての実験での細胞は、水飽和5%CO2飽和雰囲気で、37℃で成長させたものである。培養2-3日後、細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、ついでセルトラッカーグリーンCMFDAで染色する。Rho4D2(腹水又はIgG 1:100)、視覚色素ロドプシンに対するモノクローナル抗体を使用し、間接的免疫蛍光法により桿状体光受容体細胞を検出する。結果を生存率%:カルセインの全数−ロドプシンポジティブ細胞を、培養2-3日目のロドプシンポジティブ細胞の全数で割ったものとして報告する。全細胞(蛍光)は、マッキントッシュのNIHイメージソフトウエアとCCDカメラとを使用し、20X対物レンズ倍率で定量化する。
種々の濃度のFGF-5(R&D System, cat.no.237-F5/CF, lot no.GQ077040)(配列番号:5)の効果が図1に報告されている。
【0115】
(実施例5)
光剥離の研究
序文:
Reme C.E.ら, Degen. Dis. Retinal, Ch.3, Ed. R.E.Andersonら, Plenum Press, New York(1995)により示されたように、網膜変性は強い光への暴露により誘発することができる。この光剥離モデルにより、試験物質の光受容体生存促進活性の定量的比較ができる。
【0116】
方法:
成長したメスのSprague Dawleyラットを、「通常」の蛍光環境(50フィートキャンドル)において、実験期間開始まで12時間のオン/オフで保持する。光誘発性変性を暗順応に置く(ラットを24時間、全くの暗闇に置く)ことにより開始させる。各処理グループにおいて約5-10の動物を、300-400フィートキャンドルで、490-580nm(緑)に光が照射される5'x3'のチャンバー内に置く。光暴露を断続させ、1時間オン、2時間オフを、全部で8サイクル行う。各動物の両方の眼は、光暴露の2日前、試験因子1-2μのl硝子体注射を受けた。使用される試験因子は0.5-1.0μg/μlのbFGF(配列番号:4)又はFGF-5(R&D System)(配列番号:5)であり、用いた対照体はウシ血清アルブミン(0.1%)を含有する又は含有しないリン酸緩衝塩水である。
【0117】
Tdt-媒介性dUTPnick末端標識(TUNEL)(Gavrieli, Yら., J. Cell. Biol. 119:493-501(1992))を、4μm厚のパラフィン切片において、ApopTag(登録商標)インシトゥーアポトーシス検出キット(Oncor, cat.no.S7110-kit)を変形して用いて行った。DNA鎖分断部(フラグメント)をフルオレセインで標識し、一方無傷のDNAはDAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で標識し、Vanox AH-3オリンパス顕微鏡においてFITC/DAPIフィルターを用いて明視化した。
【0118】
結果:
網膜変性の程度又は試験因子の生存促進活性は、光受容体細胞層の厚み又はTUNELで標識された光受容体細胞核の数として報告されている。中心網膜を通る3つの横断面部(約10μmの間隔)を分析のために使用した。各断面部において、網膜の全表面領域はNIHイメージソフトウエア(マッキントッシュ)と冷却したCCDカメラを使用してデジタル化して定量的データを得た。結果を図2のグラフに示す。塩水、bFGF(配列番号:4)及びFGF-5(配列番号:5)のピクトグラフは図3に示す。図4は、光への暴露がない(a)、光のサイクル50時間後(b)及び光のサイクル7日間後(c)における対照網膜のピクトグラフである。図4は、強い光への暴露により生じる光受容体細胞の通常の変性を表している。
【0119】
結論:
図2は、FGF-5(配列番号:5)が、TUNEL標識により測定された光受容体の死亡の防止において、少なくともbFGFと同程度、かつ対照体より効果的であったことを示している。さらに図3と4との比較により、この指摘が確認された。
【0120】
(実施例6)
角膜ポケットアッセイ:
序文:
この実験は試験薬剤が、この齧歯動物のインビボモデルにおいて脈管形成性であるか否かを決定することを意図したものである。試料を調製し、送達用媒体と共にペレット化して安定化し、ついで角膜に移植して脈管形成効果を観察する。手順はPolveriniら, Methods Enzymology. 198:440-450(1991)を改変したものである。
【0121】
方法:
Sprague Dawleyラット(250g、オス)を、処置前に暗状態下にあるプラスチックキャリアで24時間保持し、ついで麻酔をかけた。各動物の眼をゆっくりと突出させ、非外傷治療用ピンセット(BRI-1725)で適所に固定した。15番の刃(Bard-Parker)を使用し、1.5mmの切り込みを、ストロマの角膜の中心から約1mmのところに設けたが、それを通過してはいない。ついで、曲部のあるスパチュラ[2mm幅、ASSI ST 80017]を切り込みの唇状部の下に挿入し、支質を通って眼の外眼角の方向に、ゆっくりと鈍角に切開した(blunt-dissected)。ポケットの基部と縁部との最終的な距離は少なくとも1mmにすべきである。
【0122】
試験用成長因子(100ng)、スクラルファート(50μg、BM Research, Denmark)及びヒドロン(Interferon Science, New Brunswick, N.J. Lot#90005)を、ヒドロン及びスクラルファートに対する成長因子の比を500:1にして互いに混合することにより、ペレットを調製した(4μl)。スクラルファートは、ヘパリン結合領域で相互作用することにより分子を安定させるために存在する。対照ペレットはヒドロンとスクラルファートの媒体のみからなる。1)ウシbFGF(配列番号:4)(Calbiochem, 10μg/50μl)PBS+スクラルファート(6動物);2)スクラルファート対照体(3動物)及び3)FGF-5(R&D Systems、50ng、Lot#GQ127030)(配列番号:5)+スクラルファート(6動物)からなる3つの処理群で試験した。
【0123】
上のパラグラフで記載したように調製されたヒドロンペレット(2x2mm)を切り込みの基部に挿入し、ポケットを自発的に閉じさせる。眼を人工涙様軟膏で覆い、ついで動物をプラスチックキャリアに戻し、目覚めさせ、かごに戻した。
アッセイは5日目に終了した。屠殺時に、動物をFITCデキストランで潅流し(2x106m.w.)、角膜の全マウントを眼から角膜を注意深く切除することにより調製し、次いで角膜を平らにするために2−3の切り込みを適当に配置し、続いてカバーグラスの下に置いた。ニコン反転蛍光スコープに搭載された1x対物レンズを通して像を捉えた。成長領域の評価のために、Image-Pro(登録商標)ソフトウエア-エッジ検出ルーチンを使用した。
【0124】
結果及び結論:
この実験において、スクラルファート対照群は3.63±0.99平方mmの平均値を与えた。FGF-5(配列番号:5)100ngのペレットは、4.37±0.99平方mmの値を与え、対照体とは統計的に相違していなかった(p=0.6204)。bFGF(配列番号:4)50ngのペレットは脈管形成領域にて11.54±1.18平方mmの平均値を与え、対照体(p=0.0018)及びFGF-5(p=0.0010)と有意に相違していた。これらの結果を図5に示す。
データによれば、FGF-5(配列番号:5)は、100ng/ペレットの用量でさえ、有意な脈管形成反応を起こさないことが示されている。
【0125】
(実施例7)
血管内皮細胞の分裂促進アッセイ
序文:
血管内皮細胞に対する分裂促進アッセイは、最初はbFGF成長因子の精製を監視するために開発された。しかしながら、それらは試験物質における分裂促進性の存在の決定のために有用な手段でもある。
【0126】
物質及び方法:
ウシ副腎皮質誘導毛細血管内皮(ACE)細胞は、Ferraraら., Enzymology 198, 391-405(1991)により記載された公知の手順に従い確立される。ACE細胞のストックプレートは、10%子ウシ血清を補足した低グルコースDMEM、2mMグルタミン及びペニシリンG(1000単位/mL)及びストレプトマイシン(1000μg/mL)及び最終濃度が1ng/mlとなる塩基性FGF(配列番号:4)が存在する10cmの組織培養皿に保持し、週単位で1:10の分裂比で継代した。分裂促進対照体を、最終濃度が1ng/ml及び5ng/mlになるように塩基性FGFを添加することにより調製し、5-6日間培養した。老化の徴候を示す前に、ACE細胞を10-12回継代させることができる。
【0127】
各試験物質において、ストック培養物をトリプシン処理し、成長培地に再懸濁させ、2mlの植付容量で、6ウエルプレート(Costar, Cambrige MA)に1.0x104細胞/ウエルの密度で播種した。播種の直後、試験されるFGF-5試料を10μl等分に、2つ(duplicate)又は3つ(triplicate)のウエルに添加した。5又は6日後、細胞をトリプシン処理し、コールターカウンター(Coulter Electronics, Hialeah, FL)で計測する。
【0128】
結果を図6A及び図6Bに示す。図6Aは表10に記載されたデータを表し、一方図6BはbFGF(配列番号:4)とFGF-5(配列番号:5)の間に観察される効果の比較を表し、ここでbFGF(配列番号:4)では濃度依存性効果が現れているが、FGF-5(配列番号:5)に関して濃度依存性分裂促進は現れていない。
【0129】
【0130】
結論:
データは、5ng−1ng濃度のFGF-5(配列番号:5)においては、濃度依存性分裂促進性は無いことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】それぞれ実施例6及び7に記載した手順により投与された様々な濃度のFGF-5(配列番号:5)の存在下における、全網膜細胞及び光受容体の生存率を表す棒グラフである。
【図2】実施例5に記載した手順により投与された対照と比較した、FGF-5(配列番号:5)、生理食塩水及びbFGF(配列番号:4)の存在下における、TUNEL標識光受容体の棒グラフである。
【図3】図2のグラフに表されたbFGF(配列番号:4)、生理食塩水及びFGF-5(配列番号:5)治療試料の網膜の陽画像写真である。
【図4】実施例5で記載されたサイクル後、50時間及び7日での強い光に暴露されて生じる正常な光受容体の変性を表す陰画像写真である。
【図5】実施例6に記載された手順に従い、示した成長因子bFGF(配列番号:4)及びFGF-5(配列番号:5)の適用後に観察された血管形成を表す棒グラフである。
【図6A】1ng/ml、5ng/ml、30ng/ml(FGF-5のみ)、100ng/ml(FGF-5のみ)、300ng/ml(FGF-5のみ)及び1000ng/ml(FGF-5)の濃度における、FGF-5(配列番号:5)と比較したbFGF(配列番号:4)の血管形成効果を示す棒グラフである。
【図6B】示した濃度におけるbFGF(配列番号:4)とFGF-5(配列番号:5)の血管形成効果を示す濃度対細胞カウント数のグラフである。bFGFは1ng/mlと5ng/mlで試験されたことに留意されたい。
【図7】プラスミドhFGF5大腸菌発現プラスミドの図である。
【図8】天然シグナル配列(配列番号:2のアミノ酸残基1−21)を除いた天然ヒトFGF-5に対応するhFGF-5核酸配列(配列番号:1)、及び予想される成熟タンパク質配列(配列番号:3)を示す。示したヌクレオチド配列(配列番号:1)(5'及び3'のベクター配列を含む)は800bpの長さである。
【図9A】網膜色素上皮細胞(RPE)条件培地及びFGF-5(R&D系、ロット#40)(配列番号:5)の培養における生存効果を示す顕微鏡写真であり、図9Aはロドプシン特異的モノクローナル抗体を使用した桿状体光受容体細胞の免疫蛍光染色を示す。
【図9B】網膜色素上皮細胞(RPE)条件培地及びFGF-5(R&D系、ロット#40)(配列番号:5)の培養における生存効果を示す顕微鏡写真であり、図9Bは細胞トラッカーを使用した生存細胞の標識を示す。
【図9C】網膜色素上皮細胞(RPE)条件培地及びFGF-5(R&D系、ロット#40)(配列番号:5)の培養における生存効果を示す顕微鏡写真であり、図9Cは対応する相画像を示す。
【図10】Haubら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8022-8026(1990)に記載されたようなFGF-5(fgf-5.simmons)、配列番号:2と、シグナルペプチドがない大腸菌発現産物(fgf-5.haub)、配列番号:3との比較を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜ニューロンの生存を促進し、光ニューロン劣化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は眼の光感受性部分である。網膜には円錐体と桿状体(光受容体)、光感受性(photosensitive)細胞が含まれる。桿状体はロドプシン、桿状光色素を含み、円錐体は3つの異なる光色素を含み、これが光に応答し、連続するニューロンを通ってシグナルを伝達し、最終的には、網膜の出力細胞、神経節細胞における神経性放出を惹起する。シグナルは視神経により視覚皮質まで運ばれ、そこで視覚的刺激としてレジスターされる。
【0003】
網膜の中心には黄斑があり、約1/3〜1/2cmの直径である。黄斑は、円錐体の密度がより高いので、特に中心(中心窩)において、詳細な視野をもたらす。血管、神経節細胞、内核層(inner nuclear layer)及び細胞、及び網状層は、全て一つの側に配されており(その上にあるというよりむしろ)、これにより円錐体へのより直接の光の経路が可能になる。
【0004】
網膜の下には、脈絡網、繊維組織内に包埋された血管の集合体、及び脈絡層にかぶさった色素上皮層(PE)が存在する。脈絡網の血管は網膜(特にその視細胞)に栄養を提供する。脈絡網及びPEは眼の後方で見出される。
【0005】
PEを形成する網膜色素上皮(RPE)細胞は、光受容体の正常な機能及び生存に対する責任を担う種々の因子を生成、貯蔵及び輸送する。RPEは、血液供給体、眼の網膜毛細血管から光受容体まで代謝産物を輸送する多機能細胞である。また、RPE細胞は、明所及び暗所順応中に光受容体とRPEの間を移動して、ビタミンAをリサイクルする機能を有する。さらにRPE細胞は、細胞生理の正常な課程で生成される、桿状体及び円錐体の外側セグメントの律動的に放たれたチップ(rhythmically-shed tips)を食菌するマクロファージとしても機能する。種々のイオン、タンパク質及び水がRPE細胞と光受容体内空間の間を移動し、これらの分子は最終的には光受容体の代謝と生存力に影響を与える。
【0006】
ミュラー細胞は網膜内にある最も有名なグリア細胞であり、視細胞の生存力を維持するためにまた重要なものである。ミュラー細胞は神経節細胞から外側の制限膜、光受容体-光受容体及びミュラー細胞-光受容体接触点まで放射方向に全網膜を横切っている。構造支持体の提供に加えて、ミュラー細胞はイオン濃度、神経伝達物質の分解、ある種の代謝産物の除去の制御を調節し、光受容体細胞の正常な分化を促進させる重要な因子の供給源となっている。Kljavin及びReh(1991), J. Neuroscience 11:2985-2994。ミュラー細胞の欠損の調査は特には調査されていないが、その正常な機能に影響を及ぼす任意の病気及び損傷が桿状体及び円錐体の健康状態に対して劇的な影響を有するであろう。最後に、桿状体光受容体の死は円錐体の生存力に影響を及ぼしうる。桿状体に特異的な遺伝子(すなわちロドプシン)における変異を含む変性における一つの共通の特徴は、円錐体もまた結局は死に至るということである。円錐体が喪失する理由は決定されていないが、染色桿状体がエンドトキシンを放出することが示唆されている。Bird(1992), Opthal. Pediatric. Genet. 13:57-66。
【0007】
網膜細胞が損傷を受けるか又は殺された場合、網膜の病気及び損傷により、失明に至る可能性もある。光受容体細胞は、しばしば、外傷を与えるような事象又は状態の結果として、損傷を被るか変性する最初の細胞であるため、特に損傷を受けやすい。特定の光受容体遺伝子における遺伝的欠損、網膜剥離、循環障害、光への過度の暴露、薬物に対する毒性効果及び栄養欠乏が、光受容体細胞の死亡を生じる原因として幅広く挙げられるものである。網膜の発生的及び遺伝的な病気は米国における全ての法定失明の約20%であると説明されている。Report of the Retinal and Choroidal Panel:Vision Research−A National Plan 1983-1987, Vol.2, partI, summary page 2。例えば、遺伝要因に基づく進行性の病気である色素性網膜炎(RP)は、大部分が光受容体細胞の喪失による夜盲と周辺視野の損失が増大することにより特徴付けられるものである。RPは遺伝病のグループに入るもので、現在世界中で約3000人に一人がこの病気で苦しんでいる。Wong, F. (1995) Arch. Ophthalmol. 113:1245-47。全盲はこの病気がさらに進行した段階の一般的な結果である。失明の他の主たる原因である黄斑変性は、網膜の中心又は優勢な円錐体部分に影響を与える疾病が複合グループに入る。円錐体が主に急性視覚の原因となる。真正糖尿病の個人に頻発する合併症である糖尿病性網膜症は、新たな失明の第5番目の原因であると推定されている。しかしながら、それは、45-74才の個人では失明の第2番目の原因である。さらに、これらの問題は一般人口が歳を取るにつれて悪くなることも予想される。
【0008】
また、光受容体の変性は、光への過度の暴露、種々の環境的外傷、網膜ニューロン又は光受容体の死又は損傷によって特徴付けられるあらゆる病状の結果としても生じうる。
光受容体は細胞又は細胞外の網膜成分により影響を受ける可能性もある。細胞外刺激の主な例は、色素上皮層(PE)と光受容体細胞との間の密接な結合性に関連している。上述したように、PEは光受容体との間の代謝産物の輸送を行い、排出された細胞物質を除去する。PEからの神経網膜の分離を含む網膜剥離により、光受容体は死に至る。さらに、細胞損失の度合いは分離の期間に依存する。Gourasら, (1991) IOVS 32:3167-3174。
【0009】
加えて、PEの病気により光受容体細胞の消失に至る可能性もある。この主な例は、動物の生存の正常な過程の間に光受容体細胞死に至る、遺伝性網膜ジストロフィーを持つRoyal College of Surgeons(RCS)ラットである。Mullen & LaVail(1976), Science 192:799-801。この動物において、PEは、光受容体とPEとの間に蓄積する外層セグメント屑を食菌できず、その結果、網膜に対する栄養因子の役割を研究するための有用なモデル系が提供される。光受容体死の遅延化は、上掲のMullen & LaVailの実験的キメラと、健康な動物からのPE移植により、正常なPE細胞の近位配置を通して得られる。Li & Turner(1988), Exp. Eye Res. 47:911-917;Sheedloら, (1992), Int. Rev. Cytol. 138:1-49;LaVailら. (1992), Exp. Eye Res. 55:555-562;Lavailら. (1992), PNAS 89:11249-11253。これら全ての実験において、「レスキュー」は正常なPE細胞の境界を越えて広がっており、PE細胞により生成される拡散性栄養因子の存在が示唆される。
【0010】
他の有用な動物モデルはアルビノラットである。この動物において、通常の照度レベルの光の照射は、連続ならば、光受容体の完全な変性を引き起こしうる。生存促進因子(survival enhancing factor)を同定するモデルとして、このようなラットを使用して得られた結果は、RCSラットを使用して得られたデータとよく相関しているようである。さらに、異なる因子を比較することができ、RCSラットの徐々に進行するジストロフィーに基づくモデルにおいて因子を試験することにより評価できるものよりも、光ダメージモデルにおいては合併症をより素早く評価することができる。
【0011】
アルビノラットを使用して、全身(腹腔内)投与した場合に、多くの薬剤を、光への暴露により引き起こされる網膜細胞死又は損傷を改善するために使用可能であることが決定された。一般的に、光への暴露により酸素フリーラジカルと脂質過酸化物が生成される。従って、酸化防止剤又は酸素フリーラジカル捕捉剤として作用する化合物は光受容体の変性を低減する。アスコルビン酸塩, Organisciakら. (1985), Invest. Opthal. & Vis. Sci. 26:1580-1588;フルナリジン(flunarizine), Edwardら. (1991), Arch. Ophthalmol., 109:554-562、及びジメチルチオウレア, Lamら. (1990), Arch. Opthal. 108:1751-1757のような薬剤が、不断の光によるダメージ効果を改善するために使用された。証拠はないが、これらの化合物は光受容体の変性の他の形態を改善するように作用するが、その投与には有害な副作用が現れる可能性もある。さらに、これらの研究は、それらが、特定の因子の効果を評価するのに適切な手段を提供しない全身的送達を利用しているため、限定されている。多量の薬剤が網膜の部位で十分な濃度になるように注射されなくてはならない。加えて、全身的毒性効果が、ある種の薬剤の注射から生じうる。
【0012】
光受容体細胞死による視力の消失を治療するための伝統的なアプローチでは;(1)物理的移植により欠損細胞を置き換える;及び(2)変性プロセスを遅延、抑制又は防止する、といった少なくとも2つのルートがとられる。健康な色素上皮細胞を変性した網膜又は欠損上皮細胞を有するものに移植すると、死亡から光受容体細胞を救助することができる。Sheedloら, (1992), Int. Rev. Cytol. 138:1-49;LaVailら. (1992), Exp. Eye Res. 55:555-562;及びLavailら. (1992), PNAS 89:11249-11253。ヒトにおけるPE移植が試みられているが、あまり満足のいく結果は得られていない。Peymanら, (1991), Opthal. Surg. 22:102-108。また立証されてはいないが、より有望なものは、適切な欠損細胞型に環境のキューに応答して分化することができる、ほとんどが未分化の前駆細胞を含む胚性網膜を移すことである。Cepko(1989), Ann. Rev. Neurosci. 12:47-65。結論として、ヒト宿主網膜中への移植網膜細胞の機能的な組込みによる治療法は未だ立証されてはいない。
【0013】
他の方法は、視細胞の消失を「レスキュー」又は遅延させることに着目されている。これらの技術には、修正遺伝子療法、病気中の通常の光への暴露の制限、ビタミンA補足食事療法、及びダメージを受けた又は変性した眼への成長因子の投与が含まれる。しかしながら、これらの治療法にはいくつかの制約がある。
例えば、遺伝子療法、すなわち既知の変異を有する細胞内への置換対立遺伝子の挿入には問題があることが分かっている。Milam, Curr. Opin. Neurobiology 3:797-804(1993)。桿状体及び円錐体はいささか近づき難いので、それらに置換遺伝子を送達せしめることは困難である。さらに、置換遺伝子の挿入のためのレトロウイルスベクターの使用は、分割細胞、例えば培養PEに限られる一方、有糸分裂後のニューロン、例えば光受容体は、効果的な送達には他のウイルスベクター、例えばHSV(単純疱疹ウイルス)を必要とする。最後に、遺伝子置換は、多くの劣性障害において見出されるように、遺伝子産物の機能損失による欠損を修正するためには有用であるが、変異遺伝子産物が細胞に有害である病気を癒すことはできない。
【0014】
光の暴露の制限、すなわち、典型的には眼帯、ダークゴーグル等を使用する、視力喪失を緩和するための低技術のアプローチ法は、治療の実際的効果が、病気それ自身:失明及び光検知不能と同じであるために、実用的なものではない。
ビタミンAは、色素性網膜炎(RP)を持つ患者の進行において4〜6年にわたって投与されたものの20%以上において、網膜機能の衰えを停止させることが観察されている。E.L. Bersonら, Arch Ophthalmol. 111:761-772(1993)。この研究は有効視力の年数を長くする可能性を示しているが、ビタミンA療法には、(1)ビタミンAがRPの進行を改変するメカニズムが知られていない;(2)RPの異なる遺伝子型を有する患者がビタミンA療法に応答するか否かが未知である;(3)視覚機能(すなわち視野測定及び視力)の定量的な測定がビタミンA療法による有意な恩恵を明らかにしたか否か分からない;及び(4)ビタミンAの長期にわたる摂取により、他の器官系へ有害な副作用がでるおそれがある等の、いくつかの批判がある。
【0015】
全身(腹腔内)投与した場合に、多くの薬剤を光への暴露によって引き起こされた網膜細胞死又は損傷を改善するために使用することができる。一般的に、光に暴露されると酸素フリーラジカルと脂質の過酸化生成物が生じる。遺伝的に欠陥のある光受容体は、環境中の通常に遭遇する光レベルでの光酸化に対して異常に過敏であることが示唆されている。Hargrave, PA. & O'Brien, PJ., Retinal Degenerations, Anderson REら. eds., Boca Raton, FL, CRC Press, p.517-528(1991)。酸化防止剤又は酸素フリーラジカルの捕捉剤として作用する化合物は光受容体の変性を低減する。酸化防止剤又はカルシウム過充填ブロッカー(例えばフルナリジン)は、高レベルの光にさらされた後、正常な光受容体の変性を防止することが報告されている。Rosnerら, Arch Ophthalmol 110:857-861(1992);Liら, Exp. Eye Res. 56:71-78(1993)。光受容体変性の低減のさらなる成功が、アスコルビン酸塩(Organisciakら, Invest. Ophthal. & Vis. Sci. 26:1580-1588(1985))、フルナリジン(Edwardら, Arch. Ophthalmol. 109:554-562(1991))、及びジメチルチオウレア(Lamら, Arch. Ophthal. 108:1751-1757(1990))の投与により観察されている。しかしながら、これらの化合物の投与により、強い光への暴露以外により誘発される光受容体の変性を低減するという証拠はない。さらに、それらの投与により、潜在的に有害な副作用が生じる可能性があることも案じられる。その結果、光受容体をある程度保護することができ、又は光誘発性のダメージを受けた後のその再生を促進させさえする因子の調査が続いている。
【0016】
特に関心のある分野は成長因子の投与である。成長因子は、例えばニューロン分化、伝達物質特異性、プログラム細胞死の調節、及び中枢神経系のいくつかの領域における神経突起成長のような多様な役割に関与していることが見出されている。しかしながら、ようやく最近になって、網膜発達と病気の間のその役割が研究されている。拡散性成長因子が光受容体細胞を死から救助することができることを示している初期の研究は、正常及びRCS色素上皮細胞の両方を含有するように構成されたキメララットに基づくものである。該動物は正常及びRCSラット胚の両方からの肺胞を融合させることにより生み出されたものである。Mullen及びLaVail, 上掲。これらのキメラ体の網膜において、RCS PEに近接している光受容体細胞には変性が見られ、正常なPEに隣接するものは健康であった。しかしながら、正常なPEの直ぐの接触部位を丁度越えて位置する光受容体細胞もまた健康であり、光受容体-PE接触は必要ではなく、正常なPEが推定生存促進因子を分泌していることが示唆される。
【0017】
網膜において最もよく特徴付けがなされた成長因子は、酸性又は塩基性の繊維芽細胞増殖因子(aFGF及びbFGF)である。FGFは、PEを含む様々な網膜細胞、光受容体細胞及び光受容体細胞内マトリックス(IPM)、及び光受容体細胞を取り巻く細胞外マトリックス分子の集合体において、免疫組織化学、生化学及び分子的アプローチを通して検出することができる。Jacqueminら, (1990) Neurosci. Lett. 116:23-28;Caruelleら. (1989) J. Cell. Biol. 39:117-128;Hagemanら. (1991) PNAS 88:6706-6710;Connollyら. (1991) IOVS 32 (suppl.):754。RCSラット又は光ダメージを受けた網膜を有するラットに、塩基性の繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を硝子体内注射したところ、外節屑が蓄積したときでさえ、数ヶ月の間、光受容体細胞の変性を防止する。Faktrorovichら. (1990), Nature 347:83-86。bFGFを網膜下腔、すなわち光受容体とPEとの間の領域に注入した場合でも同様の結果がみられる。しかしながら、擬似施術、すなわちリン酸緩衝溶食塩水(PBS)をRCSラットと光ダメージを受けた網膜を有するラットの両方に注射しても、光受容体細胞死を遅らせることができる。しかし、レスキュー効果は小さく、針跡に局在化しており、bFGFにより得られた効果とは定量的に異なる。Faktorovichら., 上掲;Silverman及びHughes(1990), Curr. Eye Res. 9:183-191;Sheedlo H.J.ら, Int. Rev. Cyto. 138:1-49(1992)。これらの実験において、ダメージを受けた領域に存在するマクロファージ又はダメージを受けた網膜組織から誘導される種々の成長因子が局所的に放出されていると思われる。Sheedloら, 上掲;Silverman及びHughes, 上掲。マクロファージはそれ自体多くの異なる成長因子又はサイトカインを生成することが知られており、そのあるものは光受容体生存活性を有しうる。Rappolee及びWerb, Curr. Top. Microbiol. Immunol. 181:87-140(1992)。
【0018】
網膜ニューロンの生存促進及び/又は増殖活性を有することが開示されている様々な薬剤が、発行された特許及び出願中の特許出願に記載されている。これらにはトランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)(WO94/01124)、脳由来神経栄養因子(BDNF)(U.S.P.5,180,820)(U.S.P.5,438,121)及び(WO91/03568)、ニューロトロフィン-4(NT-4)(WO93/25684)、及びインシュリン様成長因子(IGF)(WO93/08826)が含まれる。
【0019】
他の実験では、ヒト網膜下腔流体並びに他の成長因子を硝子体内注射すると、死亡しつつある光受容体細胞を救助することができることが示されている。例えば、ある最近の研究では、定常性の強い強度の光に暴露されたラットの網膜に8つの異なる因子を注射して試験を行ったところ、全てが光受容体細胞の変性遅延能力を示した。これらにはFGF(酸性と塩基性の両方の形態)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、繊毛神経栄養因子(CNTF)、及びインターロイキン1(IL-1)が含まれている。また、ニューロトロフィン3(NT3)、インシュリン様成長因子II(IGF-II)、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)及び腫瘍壊死因子α及びβ(TNF-α、TNF-β)も生存活性を示すが、他の因子よりもその度合いが弱い。NGFは、糖尿病性網膜症に関連した病状である周皮細胞喪失及び無細胞閉塞性毛細管を最小にすることに加えて、糖尿病のラットにおいてアポトーシスの発症を低減させることが報告されている。Hammes, HSら, Molecular Med. 1(5):527-534(1995)。しかしながら、成長因子は光受容体の生存を高める一方で、これらの因子のいくつかは有害な副作用を促進する可能性もある。例えば、bFGFを注射すると、白内障及びマクロファージの発生率が増加する結果になる。加えて、bFGFは、PE、ミュラー細胞及び網膜血管細胞に対して分裂促進性を有している。Faktorovichら, 上掲;La Vailら, 上掲。その結果、光受容体細胞の生存を促進させるだけではなく、望ましくない副作用のない好適な成長因子は未だ発見されていない。
【0020】
FGF-5は正常な二倍体繊維芽細胞及び樹立細胞系の両方に対する強力な分裂促進因子のファミリーである繊維芽細胞増殖因子(FGF)のメンバーである、Gospodarowicz, D.ら. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6963。FGF-5は、元々はヒトの腫瘍から取り出されたDNAを使用するNIH-3T3フォーカス形成アッセイによる形質転換遺伝子として同定されていた。当初このタンパク質は、推定22アミノ酸残基のシグナルペプチドを有する267アミノ酸残基ポリペプチドとして同定されていた。FGFファミリーには、酸性FGF、塩基性FGF、INT-2(FGF-3)、K-FGF/HST(FGF-4)、FGF-5、FGF-6、KGF(FGF-7)、AIGF(FGF-8)、FGF-9、FGF-10等が含まれる。最近、FGF-16と命名されたこのファミリーの新しいメンバーが単離された(Miyakeら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 243(1):148-152(1998))。FGFは典型的には2つの保存システイン残基を有し、アミノ酸レベルにおいて30〜50%の配列相同性を共有する。これらの因子は、顆粒膜細胞、副腎皮質細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、角膜及び血管内皮細胞(ウシ又はヒト)、血管平滑筋細胞及び水晶体上皮細胞を含む、種々の正常な二倍体中胚葉由来又は神経冠由来細胞に対する分裂促進因子である。FGF-5の分裂促進性は、特にThomas, K., Methods in Enzymology 147:120-135(1987)において、静止NR6R-3T3繊維芽細胞における3H-チミジン取り込みにより記載されている。
【0021】
最初、FGF-5はORF-2と呼ばれる癌遺伝子の遺伝子生成物として開示されていた、Goldfarb, M.ら, WO88/09378;Zhan Xら, (1987) Oncogene 1:369-376;Zhanら. (1988) Mol. Cell. Biol. 8:3487-3495。該タンパク質は、当初、それまでに知られていたa-FGF及びb-FGFに類似していたために、FGF-3と呼ばれていた。しかし、この分子の配列が公に入手可能となった時点までに、2つの付加的なFGF関連ポリペプチド、INT-2及びHST/K-FGFが、既にZhanら. 1988, 上掲に記載されていた。その結果、FGF-3はFGF-5と命名し直された。その後、Zhanらにより記載された配列は間違っていることが分かり、正しい配列がHaubら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8022-8026(1990)により明らかにされた。
【0022】
FGF-5は運動ニューロン細胞の生存と成長を促進させると記載されおり、運動ニューロンの機能不全により特徴付けられる病気の治療に対して提案されていた(WO94/20125)。また、FGF-5はコリン作動性中隔及びセロトニン作動性ニューロンの促進、生存及び分化において活性を有することが分かっている(WO95/15176;Lindholmら, Eur. J. Neurosci. 6:244-252(1994))。さらに、組換えFGF-5(R&Dシステム)は、Balb/3T3繊維芽細胞及びウシ心臓内皮細胞において分裂促進性であることも知られている。R&Dシステムデータシート、FGF-5、カタログ番号237-F5/CF。またさらに、FGF-5は、PE、Bostら, Exp. Eye Res. 55:727-734(1992)、及び神経節細胞及び光受容体、Rehら, Ciba Found. Symp. 196:120-131(1996)において発現されることも見出されている。
【0023】
しかし、FGF-5は光受容体細胞に対する可能性のある生存促進剤としてはこれまでは知られていなかった。これは、(1)種々の他の公知のFGF、特に塩基性FGFが網膜細胞において分裂促進的であり;(2)FGF-5は繊維芽細胞、内皮及び運動ニューロン細胞において分裂促進的であるという、少なくとも2つの理由によるものと思われる。その結果、他の網膜分裂促進剤とのその相同性並びに非網膜細胞上での分裂促進性のため、当業者はFGF-5が網膜細胞に対しても分裂促進性であると予想するようになった。
【0024】
驚くべきことに、本出願人は、FGF-5が光受容体細胞に対して有意な分裂促進効果を示すことなく光受容体細胞の死を防止することを見出した。よって、FGF-5は、光受容体及び/又は網膜ニューロン生存剤に対する理想的に好適な候補薬であると思われる。
【特許文献1】国際公開第93/15608号パンフレット
【非特許文献1】Bost L.M. et al., Exp. Eye Res., 1992年, Vol.55, No.5, p.727-734
【特許文献2】特願平9−520575号(特表2000−502057号)
【発明の開示】
【0025】
本発明は、治療的有効量のFGF-5ポリペプチドを投与することによる、損傷又は死亡から、光受容体細胞を遅延、防止又は救助する方法に関する。
他の側面では、本発明は、損傷又は死亡から他の網膜細胞又は支持細胞(例えば、ミュラー細胞又はRPE細胞)を遅延、防止又は救助するためのFGF-5ポリペプチドの使用に関する。他の網膜ニューロンには、これらに限定されるものではないが、網膜神経節細胞、置換網膜神経節細胞、アマクリン細胞、置換アマクリン細胞、水平及び二極性ニューロンが含まれる。さらに本発明は、このような細胞の再生を刺激するためのFGF-5の使用に関する。一側面では、FGF-5ポリペプチドは、天然配列FGF-5分子に対して少なくとも90%の相同性を持つ活性FGF-5ポリペプチドである。他の側面では、FGF-5ポリペプチドは配列番号:1の核酸残基26-769にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされた活性FGF-5ポリペプチドである。好ましい実施態様において、FGF-5ポリペプチドは配列番号:2、配列番号:3及び配列番号:5からなる群から選択される。
【0026】
他の側面では、本発明は、光受容体又は他の網膜細胞の損傷又は死亡を生じるあらゆる病状を治療するためのFGF-5ポリペプチドの使用に関する。病状の例には、網膜剥離;年齢関連性及び他の黄斑症;光網膜症、外科誘発性(surgery-induced)網膜症(機械的又は光誘発性)、眼中の異物に起因するものを含む毒素性網膜症;糖尿病性網膜症;未熟(児)網膜症;ウイルス性網膜症、例えばエイズに関連したCMV又はHIV網膜症;ブドウ膜炎;静脈又は動脈閉塞又は他の血管障害による虚血網膜症;眼の外傷又は貫通性病変による網膜症;末梢硝子体網膜症及び遺伝性網膜変性が含まれる。網膜変性の例としては、例えば網膜変性による遺伝性強直性対麻痺(Kjellin及びBarnard-Scholz症候群)、色素性網膜炎、シュタルガルト病、アッシャー症候群(先天性聴力損失のある色素性網膜炎)、及びレフサム症候群(色素性網膜炎、遺伝性聴力損失、及び多発性神経炎)が含まれる。網膜ニューロンの死亡を引き起こすさらなる疾患には、網膜分断、網膜と色素上皮の分離、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症)及び浮腫が含まれる。
【0027】
他の側面では、本発明は、FGF-5ポリペプチド及び製薬的に許容可能な担体の組成物を投与することを含んでなる、損傷又は病気に起因する損傷又は死亡から網膜ニューロン(例えば光受容体)又は他の網膜細胞を遅延、防止又は救助する方法に関する。
【0028】
さらに他の側面において、本発明はFGF-5ポリペプチドを含む製造品及びキットを提供する。製造品及びキットには、容器、容器に付されるラベル、及び容器内に収容される組成物が含まれる。容器に付されたラベルには、組成物が損傷又は死亡から網膜ニューロン又は他の網膜細胞を遅延、防止又は救助するために使用可能であることを示しておく。組成物は活性剤を含有し、活性剤はFGF-5を含んでなる。
本発明の他の側面は以下の詳細な記載及び特許請求の範囲により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
1.定義
この出願において使用される用語は、当業者にとって通常の意味を持つものと解釈されるものである。しかし、本出願人は、次の用語が、記載した特定の定義に基づいて解釈されることを望む。この出願に記載された全ての文献は、出典明示により取り込まれるものとして解釈され、読まれなければならない。
【0030】
「タンパク質」又は「ポリペプチド」という用語は交換可能に使用されることを意図している。これらは、翻訳後修飾(例えばグリコシル化又はリン酸化)に関係なく、ペプチド又はアミド結合で互いに結合した、2又はそれ以上のアミノ酸鎖を意味する。この発明のポリペプチドは、一を越えるサブユニットを含んでなり、各サブユニットは別のDNA配列によりコードされる。
「FGF-5ポリペプチド」という用語は、ここでは、繊維芽細胞成長因子のファミリーのメンバーである天然配列FGF-5タンパク質及び変異体(以下に定義する)を包含するように使用される。FGF-5ポリペプチドは、例えばヒト組織型又は他の供給源のような様々な供給源から単離されるか、組換え又は合成法により、又はこれらと類似の技術の任意の組み合わせにより調製されうる。
【0031】
「天然配列FGF-5ポリペプチド」は、天然シグナル配列を有するか又は有しておらず、またN末端メチオニンを有するか又は有していない、天然から取り出されたFGF-5ポリペプチドと同じアミノ酸配列を有するペプチドを含んでなる。このような天然配列FGF-5ポリペプチドは天然から単離することができ、また組換えもしくは合成手段により生成することもできる。「天然配列FGF-5ポリペプチド」という用語は、ここで開示したポリペプチドの自然に生じた切断型、自然に生じた変異体型(例えば、選択的スプライス型)、及びFGF-5ポリペプチドの自然に生じた対立形質型を特に包含する。本発明の一実施態様においては、天然配列FGF-5ポリペプチドは、図8(配列番号:3)の1〜248のアミノ酸残基を含んでなる天然配列ヒトFGF-5ポリペプチドである。
【0032】
「FGF-5変異体」という用語は、天然FGF-5分子のアミノ酸配列と少なくとも75%のアミノ酸配列同一性、図8(配列番号:3)に示される推定アミノ酸配列を有するヒトFGF-5とより好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する以下に定義される活性FGF-5ポリペプチドを意味する。このような変異体には、例えば、図8(配列番号:3)の全長アミノ酸配列のN末端あるいはC末端において、一又は複数のアミノ酸残基が付加又は欠失されたFGF-5ポリペプチド、全長FGF-5ポリペプチドと共通の定性的生物活性を有する天然配列FGF-5の機能フラグメント又は類似体を含み、他の種からの変異体は含むが、天然配列FGF-5ポリペプチドは除くものである。あるいは、変異体は、上に列挙したヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる生物活性FGF-5コード核酸であってもよい。例えば、生物活性FGF-5変異体は、網膜ニューロン又は光受容体細胞死を防止又は実質的に低減可能なポリペプチドである。
【0033】
ここで同定されるFGF-5配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、配列を整列させ最大のパーセント配列同一性を得るために必要に応じて間隙を導入し、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部と考えない状態での、FGF-5配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。ここで使用される%同一性の値は、WU-BLAST-2(Altschulら, Methods in Enzymology 266:460-480(1996))により得られる。WU-BLAST-2は、そのほとんどがデフォルト値に設定されるいくつかのサーチパラメータを使用する。調節可能なパラメータは次の値に設定される:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、ワード閾値(T)=11。%アミノ酸配列同一性の値は、適合した同一残基の数を整列領域における全残基数で割ることにより決定される。
【0034】
ポリペプチド変異体は異なった形態になり得る。「置換」変異体は、天然配列の少なくとも1つのアミノ酸が除去され、その場所の同じ位置に異なるアミノ酸が挿入されたものである。置換は、分子中の1つのアミノ酸のみが置換される単一置換であるか、又は同じ分子中で2又はそれ以上のアミノ酸が置換される多重置換でありうる。「挿入」変異体は、天然配列において特定の位置のアミノ酸に直ぐ隣接して一又は複数のアミノ酸が挿入されたものである。アミノ酸に直ぐ隣接してとは、アミノ酸のα-カルボキシル又はα-官能基のいずれかに結合することを意味する。「欠失」変異体は、天然アミノ酸配列中の一又は複数のアミノ酸が除去されたものである。通常は、欠失変異体は、分子の特定の領域において一又は二のアミノ酸が欠失している。ペプチド変異体はまたエピトープタグ異種性FGF-5ポリペプチドに加えて、残基に対する共有結合修飾を含む。
【0035】
ここで同定されるFGF-5配列に対しての「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」及び「パーセント(%)核酸配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要に応じて間隙を導入し、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部として考えない状態での、FGF-5ポリペプチド配列のアミノ酸又はヌクレオチド残基と同一である候補配列中のアミノ酸又はヌクレオチド残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸又はヌクレオチド配列同一性を決定するためのアラインメントは、当業者の知るところである様々な方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成できる。当業者であれば、比較される配列の全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含み、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
例えば、2つの配列の特定のフラグメント又は小領域は、それ自身の全断片間で比較するよりも、程度の差はあれ相同性を有していると認識される。
【0036】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者により容易に決定可能であり、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩分濃度に応じて経験的に算出される。一般的には、プローブが長くなると適切なアニーリングのためにはより高い温度が必要となる一方、より短いプローブでは必要な温度はより低い。ハイブリダイゼーションは、一般的に、相補的ストランドがそのTm(融解温度)に近いがそれ以下の環境中に存在する場合、変性DNAの再アニール化能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望の相同性の程度が高ければ高い程、使用可能な相対温度は高くなる。その結果、相対温度がより高くなれば反応条件がよりストリンジェントになる一方、より低い温度であればそうではないことになる。さらに、ストリンジェンシーは塩分濃度に反比例する。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細と説明には、Ausubelら, Protocol in Molecular Biology(1995)を参照のこと。
【0037】
「ストリンジェントな条件」とは、(1)洗浄に低イオン強度及び高温、例えば50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%硫酸ドデシルナトリウムを使用し;(2)ホルムアミドのような変性剤、例えば、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムを伴うpH6.5の50mMリン酸ナトリウムバッファーと共に50%(容量/容量)ホルムアミドを42℃で使用することを特徴とする反応条件により例示される。あるいは、ストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド、5xSSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロ燐酸ナトリウム、5xデンハート溶液、超音波処理鮭精子DNA(50μg/ml)、0.1%SDS、及び10%硫酸デキストランを42℃で使用し、0.2xSSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)及び50%ホルムアルデヒドで55℃で洗浄し、続いて55℃でEDTAを含有する0.1xSSCVからなる高ストリンジェント洗浄を行うものである。プローブ長等のようなファクターに必要に応じて適応するために、温度、イオン強度等をどのように調節するかは、当業者であれば認識している。
【0038】
「単離された」は、ここで開示される様々なポリペプチドを記述するために使用される場合、その自然の環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたポリペプチドを意味する。その自然の環境の汚染成分は、典型的にはポリペプチドに対する診断又は治療用途と干渉する物質であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。好ましい実施態様において、ポリペプチドは、(1)スピニングカップシークエネーターを使用することにより、N末端あるいは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに充分な程度に;あるいは(2)クーマシーブルーあるいは好ましくは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下でのSDS-PAGEにより均一性が得られるまで、精製される。FGF-5のその自然環境における少なくとも1つの成分が存在しないため、単離されたポリペプチドは、組換え細胞内のインシトゥーポリペプチドを含む。しかしながら、通常は、単離されたポリペプチドは少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0039】
ここでの目的のための「活性FGF-5」又は「FGF-5の生物活性」又は「FGF-5生物活性」とは、損傷、変性又は死亡から網膜ニューロン、例えば光受容体を遅延、防止又は救助する生物活性を保持するFGF-5ポリペプチドの形態を記述している。「治療」とは、治癒的療法と予防又は防止処置の双方を意味する。治療の必要がある者には、既に疾患を患っている者並びに疾患が予防されるべき者も含まれる。
【0040】
本発明の方法の結果としての「損傷又は死亡から網膜細胞を遅延、防止又は救助する」とは、該方法を適用しない場合に観察されるものよりも、より長い期間このような網膜細胞を生存可能に維持するか生かせておく能力を意味する。網膜細胞死は、損傷、病気又は加齢からでさえも生じうる。また、網膜細胞の損傷により、変性細胞又は正常な生理学的操作に対して能力が限定されたものにもなりうる。効果は、単離された網膜細胞ではインビトロで、また損傷又は病気により傷つけられた網膜細胞を有する患者ではインビボで測定することができる。
【0041】
治療の目的とされる「哺乳動物」とは、ヒト、家庭又は農場用動物、及び動物園、スポーツ又はペット用動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ等を含む、哺乳動物として分類されたあらゆる動物を意味する。好ましくは哺乳動物はヒトである。
【0042】
「障害」とは、FGF-5ポリペプチドでの治療により恩恵を得るであろうあらゆる症状のことである。これには、慢性及び急性の疾患の両方、並びに当該障害に哺乳動物を罹患させる素因になる病理状態が含まれる。ここで治療される障害の例は、これに限定されるものではないが、光受容体又は他の網膜細胞を損傷又は死亡させる任意の病状が含まれる。病状の例には、網膜剥離、年齢関連性及びその他の黄斑症、光網膜症、外科誘発性(surgery-induced)網膜症(機械的又は光誘発性)、眼中の異物に起因するものを含む毒素性網膜症、糖尿病性網膜症、未熟(児)網膜症、ウイルス性網膜症、例えばエイズに関連したCMV又はHIV網膜症、ブドウ膜炎、静脈又は動脈閉塞又は他の血管障害による虚血網膜症、眼の外傷又は貫通性病変による網膜症、末梢硝子体網膜症及び遺伝性網膜変性が含まれる。網膜変性の例としては、例えば網膜変性による遺伝性強直性対麻痺(Kjellin及びBarnard-Scholz症候群)、色素性網膜炎、シュタルガルト病、アッシャー症候群(先天性聴覚損失のある色素性網膜炎)、及びレフサム症候群(色素性網膜炎、遺伝性聴覚損失、及び多発性神経炎)が含まれる。網膜ニューロンの死亡を引き起こすさらなる障害には、網膜分断、網膜と色素上皮の分離、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症)及び浮腫が含まれる。
【0043】
「治療的有効量」とは、網膜ニューロンの損傷の測定可能な遅延、救助又は防止を達成するのに必要な活性FGF-5の量である。
【0044】
II. FGF-5の同定
以下の記載は、主として、少なくともヒトFGF-5核酸を含むベクターで形質転換又は形質移入した細胞を培養することによるFGF-5ポリペプチドの生産に関する。もちろん当該分野でよく知られている他の方法を使用してFGF-5ポリペプチドを調製することも考えられる。例えば、FGF-5アミノ酸配列又はその活性部分を、固相法を使用する直接のペプチド合成により生成してもよい。Stewartら, Solid-Phase Peptide Synthesis(W.H. Freeman Co., San Francisco, CA 1969);Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154(1963)。インビトロにおけるタンパク質合成はマニュアル法を使用してもよいし自動化によっても遂行できる。自動化合成は、例えば、製造者の説明書に従い、アプライド・バイオシステムズのペプチドシンセサイザー(Foster City, CA)を使用してなすことができる。FGF-5ポリペプチドの種々の部位を化学的に別個に合成し、化学的又は酵素的方法を組み合わせて使用して全長FGF-5ポリペプチドを生成してもよい。
【0045】
III. FGF-5の組換え生産
FGF-5は任意の高品質研究試薬供給会社から購入することができる。例えば、供給源は、R&Dシステムズ、614マッキンレープレース, N.E., ミネアポリス, MN 55413, カタログ番号237-F5/CF、ロット番号GQ127030である。あるいは、Clementsら, Oncogene 8:1311-1316(1993)に記載されているように大腸菌で調製することもできる。あまり好ましくはない選択肢としては、Haubら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8022-8026(1990)に略述された手順がある。
【0046】
本発明のFGF-5ポリペプチドは、FGF-5核酸を発現するように形質移入された細胞を培養することによる、標準的な組換え方法により調製することができる。典型的な標準法は発現ベクターで細胞を形質転換させ、細胞からポリペプチドを回収するものである。しかしながら、FGF-5ポリペプチドは、FGF-5をコードするDNAを既に含んでいる細胞内に導入された制御エレメントを利用する組換え生成法により、又は相同的組換え法により生成される。例えば、プロモータ、エンハンサー、サプレッサー、又は外因性転写調節エレメントが、所望のFGF-5ポリペプチドをコードするDNAの転写に影響を及ぼすのに十分な配向性でかつ近接しさせて意図する宿主細胞のゲノムに挿入されうる。制御エレメントはFGF-5をコードせず、むしろDNAは宿主細胞ゲノムに常在性のものである。次に細胞を、本発明のポリペプチドを作製するために、又は所望されるならば発現レベルを増加又は減少させるためにスクリーニングする。組換えDNA法の一般的な技術は、例えばSambrookら, Molecular Cloning:A Laboratory, Mannual, 第2版(Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York(1989)及びAusubleら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Inc. USA(1995))に開示されている。
よって、本発明はFGF-5ポリペプチドをコードする核酸を含有する細胞のゲノム中に、転写調節エレメント及び核酸分子を挿入することを含んでなるFGF-5の生成法を考察するものである。また、本発明は、宿主細胞により認識された内因性制御配列に作動可能に連結した常在性のFGF-5ポリペプチドヌクレオチドを含む宿主細胞を考察するものである。
【0047】
B.天然FGF-5タンパク質のアミノ酸変異体又は断片
天然FGF-5のアミノ酸配列変異体及びその機能的断片は、天然もしくは変異体FGF-5に適切なヌクレオチド変化を導入して、又は所望のポリペプチドのインビトロ合成により、当該分野で知られている方法により調製される。アミノ酸配列変異体の構築における二つの主要な可変部分がある:(1)変異部位の位置、及び(2)変異の性質である。FGF-5をコードするDNA配列の操作を必要としない天然に生じる対立遺伝子を除いて、FGF-5のアミノ酸配列変異体は好ましくは、FGF-5を突然変異させ、対立遺伝子又は天然には生じないアミノ酸配列変異体の何れかに到ることにより構築される。
【0048】
アミノ酸の変更は、達成される目標に応じて、様々な種とFGF-5が異なる部位か、高度に保存された領域が異なる部位でなすことができる。例えば、光受容体細胞におけるFGF-5レセプターに対してより高い親和性を有する酵素を生じる変異である。加えて、このような変異体はFGF-5の過剰発現に関連した病理学的症状の診断に有用でもある。
変異の部位は、典型的には連続して修飾され、例えば(1)まず保存性選択物、ついで達成される結果に応じてよりラジカルな選択物で置換し、(2)標的残基又は残基を欠失させ、又は(3)位置づけされた部位に近接して同じか異なるクラスの残基を挿入し、又は(1)〜 (3)の選択を組合せることにより修飾される。
天然FGF-5の第3のシステインが不対の場合、この残基をセリンに変異させ、大腸菌又は類似の原核生物における発現に続くタンパク質のリホールディングを援助することが好ましい。
【0049】
C.複製可能なベクターの選択と使用
天然又は変異体FGF-5ポリペプチド又はそれらの機能的断片をコードしている核酸(例えばcDNA又はゲノムDNA)を、さらなるクローニング(DNAの増幅又は発現)のために、複製可能なベクター中に挿入する。多くのベクターが利用可能であり、適当なベクターの選択は、(1)それがDNA増幅に使用されるのか又はDNA発現に使用されるのか、(2)ベクター中に挿入される核酸の大きさ、及び(3)ベクターにより形質転換される宿主細胞に依存する。各ベクターは、その機能(DNAの増幅又はDNAの発現)及びそれが適合する宿主細胞に応じて様々な構成成分を含んでいる。従って、ベクターはプラスミド、コスミド、ウイルス性粒子又はファージの形態をとりうる。適切な核酸が、種々の手順によりベクター内に挿入される。一般に、DNAは当該分野において知られている技術を使用して、ベクター中に挿入される。ベクターの構成成分は一般に、次のもの:シグナル配列、複製起点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター、及び転写終止配列の一又は複数を含むが、これらに限定はされない。
【0050】
FGF-5生産の好ましい方法は直接の発現である。例えばYansura, D & Simmons, L.,、Enzymology 4:151-158(1992)において見出されるような、大腸菌における異種性遺伝子の発現を高めるための更なる技術が存在する。好ましくは、発現ベクターはpBR322から作成することができる[Sutcliffe, Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 43:77-90(1978)]。Trpプロモータが、大腸菌におけるFGF-5遺伝子の効率的な好ましい発現に必要とされる転写配列を提供するために使用される。Yanofskyら, Nucleic Acids Res. 9:6647-6668(1981)。2つのシャイン・ダルガルノ配列、Trpシャイン・ダルガルノと第2のシャイン・ダルガルノが、FGF-5の翻訳を容易にするために使用される。Yanofskyら, 上掲;Ringquistら, Mol. Microbiol. 6:1219-1229(1992)。FGF-5コード配列はプロモータ及びシャイン・ダルガルノ配列の下流に位置する。このコード配列はメチオニン開始コドンに先行し、hFGF-5(配列番号:3)のアミノ酸1-248のみをコードする。このプラスミドの図は図7に示す。
【0051】
D.宿主細胞の選択と形質転換
(1)宿主細胞
ここに記載したベクターにDNAをクローニングあるいは発現させるために適した宿主細胞は、上述の原核生物、酵母又は高等真核生物細胞である。この目的に対して適切な原核生物は、真正細菌、例えばエシェリチア、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びB.リチェフォルミス(Licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開された DD 266,710に開示されたB.リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌、ネズミチフス菌、又は霊菌及びストレプトマイセス属を含む。好ましい菌株は熱ショック応答を有し、これを減じ、プロテアーゼ欠失及び変異を含む。例えば、菌株44C6、遺伝子型fhuA△(tonA△)lon△ galE rpoHts(htpRts)△clpPを有するW3110(ATCC27,325)の誘導体である。使用できる他の分泌菌株は27C7(ATCC55,244)である。他の大腸菌クローニング宿主には、例えば大腸菌294(ATCC31,446)、大腸菌B及び大腸菌X1776(ATCC31,537)が含まれる。
【0052】
(2)宿主細胞の培養
本発明のFGF-5を生産するために用いられる原核細胞は、Sambrookら, 上掲及びAusubelら,上掲により一般的に記載されているような適切な培地で培養することができる。簡単に述べると、形質転換された細胞は、光学密度(550nmで測定)がおよそ2−3に達するまで30℃又は37℃で増殖させる。次にこの培養を生成培地中に希釈し、通気しつつ再増殖させ、3-β-インドールアクリル酸(IAA)を添加する。更に約15時間の間通気しながら増殖を続け、その後、細胞を遠心により収集する。再折り畳みが必要な場合、以下のF項のFGF-5の単離、精製及び再折り畳みに略述した手順を使用することができる。
【0053】
より詳細には、10リットルの発酵は次の様にして行うことができる。まず、発酵槽を、硫酸アンモニウム(50.0g);二塩基性のリン酸カリウム(60.0g);一塩基性で二水和物のリン酸カリウム(30.0g);クエン酸ナトリウム二水和物(10.0g);1-イソロイシン(5g);25%水溶液のプルロニック(pluronic)ポリオールL-61(BASF、消泡剤)が添加された、約5〜6.5リットルの脱イオン水の滅菌溶液で滅菌する。発酵容器が冷めた後、増殖培地を添加する。接種後の増殖培地は典型的には約8.5リットルの容量である。培地成分には、50%グルコース溶液(15mL);1M硫酸マグネシウム(70mL);20%Hycase溶液(250mL);20%酵母抽出溶液(250mL);2mg/mLアンピシリン(250mL)及び微量金属(5mL)を含有する。典型的な1L微量金属溶液は、次のもの:HCl(100mL);塩化第2鉄6水和物(27g);硫酸亜鉛7水和物(8g);塩化コバルト6水和物(7g);モリブデン酸ナトリウム(7g);硫酸第2銅5水和物(8g);ホウ酸(2g);硫酸マンガン1水和物(5g);蒸留水(全体を1Lにする量)からなる。アンピシリンの存在下で増殖した18〜20時間のLB培養の500mLを用いて接種を行い、発酵槽を750rpmで攪拌し、10slpmで曝気する。培養pHは水酸化アンモニウムを自動添加して7.0に維持し、温度は30℃に維持する。培養中の当初のグルコースが消耗した時に、グルコースの供給を開始し、培地中に蓄積しないが増殖を維持するのに十分な速度で維持する。培養増殖は550nmの光学密度(O.D.)で測定することによりモニターする。培養O.D.が25〜35の達した時に、25mg/mLのIAA溶液を25mL添加し、細胞のペーストを14〜18時間の遠心分離後に収集する。
【0054】
(3)遺伝子増幅/発現の検出
遺伝子の増幅及び/又は発現は、ここに提供された配列に基づき、適切に標識されたプローブを用い、例えば、従来よりのサザンブロット法、mRNAの転写を定量化するノーザンブロット法[Thomas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:5201-5205 (1980)]、ドットブロット法(DNA分析)、又はインシトゥハイブリッド形成法によって、試料中で直接測定することができる。種々の標識を用いることができ、最も一般的なものは放射性同位元素、特に32Pである。しかしながら、他の方法、例えばビオチン修飾ヌクレオチドをポリヌクレオチド中へ導入するものもまた使用することができる。ついで、このビオチンは、例えば放射性ヌクレオチド、蛍光剤又は酵素等のような広範囲の標識で標識することができるアビジン又は抗体への結合部位として作用する。あるいは、DNA二本鎖、RNA二本鎖及びDNA−RNAハイブリッド二本鎖又はDNA-タンパク二本鎖を含む、特異的二本鎖を認識することができる抗体を用いることもできる。ついで、抗体を標識し、アッセイを実施することができ、ここで二本鎖は表面に結合し、表面での二本鎖の形成時点でその二本鎖に結合した抗体の存在を検出することができる。
【0055】
あるいは、遺伝子の発現は、遺伝子産物の発現を直接的に定量する免疫学的な方法、例えば組織切片の免疫組織化学的染色及び細胞培養又は体液のアッセイによって、測定することもできる。免疫組織化学的染色技術では、細胞試料を、典型的には脱水と固定によって調製し、共役した遺伝子産物に対して特異的な標識化抗体と反応させるが、この標識は通常は視覚的に検出可能であり、例えば酵素的標識、蛍光標識、又はルミネサンス標識等々である。本発明における使用に適した特に高感度の染色技術は、Hsuら, Am. J. Clin. Path. 75:734-738(1980)により記載されている。
試料液の免疫組織化学的染色及び/又はアッセイに有用な抗体は、モノクローナルでもポリクローナルでもよく、任意の哺乳動物において調製することができる。簡便には、抗体は、FGF-5変異ポリペプチドに対して、又はさらに以下に記載されここで提供されるDNA配列に基づく合成ペプチドに対して調製されうる。
【0056】
E.FGF-5ポリペプチドの精製
FGF-5は、分泌ポリペプチドとしても培地から回収可能であるが、分泌シグナルを有さず、直接発現させた場合は、宿主細胞溶菌物から回収するのが好ましい。膜結合性であるならば、適切な洗浄液(例えばトリトン-X100)を用いて膜から引き離すか、又は酵素的切断により引き離すことができる。FGF-5ポリペプチドの発現に使用される細胞は、種々の物理的又は化学的手段、例えば凍結-解凍サイクル、超音波処理、機械的粉砕、又は細胞溶菌剤により粉砕することができる。
【0057】
組換え技術を使用する場合、FGF-5ポリペプチドは細胞内、細胞膜周辺腔内に生成されるか、又は培地に直接分泌され得る。FGF-5が細胞内に生成される場合、通常は、他の組換え細胞タンパク質又はポリペプチドからFGF-5を精製する必要があり、FGF-5に実質的に相同な調製物が得られる。第1段階として、培地又は溶菌物を遠心分離にかけ、粒状屑、例えば宿主細胞又は溶菌断片を取り除く。大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌されるタンパク質を単離するための手順は、Carterら, Bio/Technology 10:163-167(1992)に記載されている。簡単に述べると、細胞ペーストを酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフロリド(PMSF)の存在下で、30分以上かけて解凍する。細胞屑は遠心分離により除去することができる。
【0058】
大腸菌において発現している多くの異種性タンパク質は、活性を付与するためには再折り畳みが必要である。これが必要である場合、次の手順を使用することができる。任意のN-又はC末端伸長型を含む、組換え又は合成FGF-5の再折り畳みに適した手順の一般的な議論については、読者は次の特許:Builderら, 米国特許第4,511,502号;Jonesら,米国特許第4,512,922号;Olson,米国特許第4,518,526号;Builderら,米国特許第4,620,948号を参照されたい。
【0059】
(i) 非可溶性FGF-5の回収
任意の適当なプラスミドによりコードされているFGF-5を発現している大腸菌のような微生物は、FGF-5が不溶性「屈折体」として沈積する条件下で発酵させる。場合によっては、細胞を最初に細胞破壊緩衝液で洗浄してもよい。典型的には、例えばポリトロンホモジェナイザーを用いて、細胞約100gを細胞破壊緩衝液約10容量(例えば、10mMトリス、5mM EDTA、pH8)に再懸濁し、細胞を5000xgで30分間遠心分離する。次に細胞を、浸透圧衝撃、超音波処理、圧力サイクル、化学的又は酵素的方法のような任意の常套的技術を用いて溶菌する。例えば、上記の洗浄した細胞ペレットは、ホモジェナイザーを用いてさらに10容量の細胞破壊緩衝液に再懸濁することができ、この細胞懸濁液を、LH細胞破砕機(LH Inceltech., Inc.)又はマイクロフルイダイザー(登録商標)(Microfluidics Int'l)に製造者の指示に従って通す。次に、FGF-5を含む粒状物質を液相から分離し、場合によって適当な液体で洗浄する。例えば、細胞溶菌液の懸濁液を5000xgで30分間遠心分離し、再懸濁し、場合によって二回目の遠心分離を行い、洗浄された屈折体ペレットを作成する。洗浄されたペレットは直ちに使用することができ、又は場合によっては凍結保存することもできる(例えば−70℃)。
【0060】
(ii) 単量体FGF-5の可溶化と精製
次いで、屈折体ペレット中の不溶性FGF-5を可溶化緩衝液で可溶化する。可溶化緩衝液はカオトロピック剤を含有し、通常、塩基性pHで緩衝化されており、単量体FGF-5の収量を改善するために還元剤を含有している。代表的カオトロピック剤は、尿素、グアニジンHCl、及びチオシアン酸ナトリウムが包含される。好ましいカオトロピック剤はグアニジン-HClである。カオトロピック剤の濃度は通常4−9M、好ましくは6−8Mである。可溶化緩衝液のpHは、任意の適当な緩衝剤により、pH範囲約7.5−9.5、好ましくは8.0−9.0、最も好ましくは8.0に維持する。好ましくは、可溶化緩衝液は、単量体型FGF-5の形成を助けるために還元剤をも含有する。好適な還元剤は、遊離チオールを含む有機化合物(RDH)を包含する。代表的還元剤は、ジチオトレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、メルカプトエタノール、グルタチオン(GSH)、システアミン及びシステインを包含する。好ましい還元剤はジチオトレイトール(DTT)である。場合によっては、可溶化緩衝液は、緩和な酸化剤(例えば分子酸素)及び亜硫酸分解を介して単量体FGF-5を形成させるための亜硫酸塩を含有させることができる。この実施態様においては、得られた[FGF-5]-S-スルホナートを後で酸化還元緩衝液(例えばGSH/GSSG)の存在下で再折り畳みして、正しく折り畳まれたFGF-5を形成させる。
【0061】
通常FGF-5タンパク質は、例えば遠心分離、ゲル濾過クロマトグラフィー及び逆相カラムクロマトグラフィーを用いてさらに精製する。
例示のために、以下の手順で適当な収量の単量体FGF-5を生成した。屈折体ペレットを約5容量/重量の可溶化緩衝液(6−8Mグアニジン及び25mM DTTを伴う20mMトリス、pH8)に再懸濁し、1−3時間、又は一夜4℃で攪拌して、変異体FGF-5タンパク質の可溶化を起こさせる。高濃度の尿素(6−8M)もまた有用であるが、一般にグアニジンと比べて幾分低い収量をもたらす。可溶化の後、この溶液を30000xgで30分間遠心分離し、変性した単量体FGF-5タンパク質を含有する透明な上清を生成させる。次に上清を、流速2ml/分でスーパーデックス(登録商標)200ゲル濾過カラム(Pharmacia、2.6x60cm)でクロマトグラフィーに付し、10mM DTTを伴う20mMリン酸Na、pH6.0でタンパク質を溶出する。160ml及び200mlの間に溶出する単量体の変性FGF-5タンパク質を含有する画分をプールする。このFGF-5タンパク質を半調製用C4逆相カラム(2x20cmVYDAC)上でさらに精製する。30%アセトニトリルを伴う0.1%TFA(トリフルオロ酢酸)で平衡化したカラムに試料を5ml/分で適用する。タンパク質をアセトニトリルの直線勾配(60分間で30−60%)で溶出する。精製された還元タンパク質はおよそ50%アセトニトリルの時点で溶出する。この物質を再折り畳みに使用して生物活性なFGF-5を得る。
【0062】
(iii)生物活性型を生成させるためのFGF-5の再折り畳み
FGF-5の可溶化及びさらなる精製の後、変性した単量体FGF-5を酸化還元緩衝液中で再折り畳みすることにより、生物活性型を取得する。FGF-5の効果に依存して、多くの異なる緩衝液、洗浄剤及び酸化還元条件を利用して生物活性物質を取得することが可能である。しかしながら、殆どの条件の下では、正しく折り畳まれた物質は少量(<10%)得られるに過ぎない。商業的製造プロセスのためには、少なくとも10%、より好ましくは30−50%、最も好ましくは>50%の再折り畳み収率であることが望ましい。トリトンX-100、ドデシル-β-マルトシド、CHAPS、CHAPSO、SDS、サルコシル、トゥイーン20及びトゥイーン80、ツヴィッタージェント3−14及びその他を包含する多くの異なる洗浄剤が、少なくとも最小の折り畳みを生成するのに使用される。しかしながら、最も好ましい洗浄剤はCHAPSファミリー(CHAPS及びCHAPSO)のものであって、これらは再折り畳みで最も良好に働き、タンパク質凝集及び不適正なジスルフィド形成を制限すると思われる。約1%より高いレベルのCHAPSが最も好ましい。収率を最適化するには塩化ナトリウム(0.1M-0.5M)が存在することが好ましい。さらに、金属で触媒される酸化(及び凝集)の量を制限するため、酸化還元緩衝液中にEDTA(1−5mM)を存在させることが好ましい。グリセロールが少なくとも15%であると最適の再折り畳み条件に至るためにさらに好ましい。最大収率のためには、酸化還元緩衝液が酸化されたそして還元された有機チオール(RSH)の両方を有することが好ましい。好適な酸化還元対には、メルカプトエタノール、グルタチオン(GSH)、システアミン、システイン及びそれらの対応する酸化型が包含される。好ましい酸化還元剤はグルタチオン(GSH):酸化グルタチオン(GSSG)又はシステイン:シスチンである。最も好ましい酸化還元対はグルタチオン(GSH):酸化型グルタチオン(GSSG)である。一般に、酸化還元対の酸化型のモル比が酸化還元対の還元型と等しいか又は過剰である時に高い収率が観察される。7.5及び約9の間のpH値がFGF-5ポリペプチドの再折り畳みにとって最適である。有機溶媒(例えば、エタノール、アセトニトリル、メタノール)は10−15%又はこれ以下の濃度では寛容された。より高い濃度の有機溶媒は、不適切に折り畳まれた型の量を増加させた。トリス及びリン酸緩衝液が一般に有用であった。4℃でのインキュベーションもまた高レベルの正しく折り畳まれたFGF-5を生産した。
【0063】
最初のC4工程で精製されたFGF-5の調製では、40−60%(再折り畳み反応に用いられた還元及び変性されたFGF-5の量に基づく)の再折り畳み収率が典型的である。活性物質は純度の低い調製物からも得られるが(例えば、スーパーデックス200(登録商標)カラム後又は最初の屈折体抽出後に直ちに)、沈澱化及びFGF-5再折り畳み工程中の非FGF-5タンパク質の妨害のため、収率はより低い。
【0064】
FGF-5は3つのシステイン残基を含むため、このタンパク質では3つの異なったジスルフィド型の生成が可能である:
第一の型:システイン残基1と2の間のジスルフィド;
第二の型:システイン残基1と3の間のジスルフィド;
第三の型:システイン残基2と3の間のジスルフィド。
再折り畳み中に最適結果の達成を助力するために、第1と第2システインの間にジスルフィド結合が確実に形成されるように、第3のシステインを変異させることが必要である。
再折り畳みの条件を決定する際の初期の探究中に、FGF-5タンパク質を含有する異なったピークがC4逆相クロマトグラフィーにより分離された。最も有意な生物活性を有するピークを試験することで、その型に対して優先的に産生するように条件が最適化される。
天然配列FGF-5(例えば、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:5)のジスルフィドパターンはシステイン残基1と2の間にあると決定された。
【0065】
IV.治療的効能
種々の障害により網膜ニューロンの死亡に至る。これらには、網膜と色素上皮の分離、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、及び外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症)及び浮腫が含まれる。網膜分断は、網膜が、しばしば、脈絡膜の破断を生じうる、深層乱脈膜から分断するか分離することにより特徴付けられる病状である。網膜分断は幅広い理由により生じる。特に面倒なものは、中心視野視力障害又は変視症を生じる黄斑円孔である。
【0066】
ほとんどの黄斑円孔の直接の原因は知られていないが、外傷、膀胱変性及び網膜硝子体牽引に関連している。また、全厚黄斑円孔は、近視眼変性、レーザ光凝固、電撃性襲撃及びピロカルピン投与に続いて現れた。黄斑円孔はまた水晶体摘出後に高頻度で存在する。急性黄斑円孔の特定の形態は、個人に独特の老年黄斑円孔であり、これは、環状網膜剥離により包囲される黄斑を通しての全厚円孔を含んでいる。黄斑円孔は中央又は小窩剥離で始まり、ついで全深黄斑円孔に最終的に発達すると信じられている。Gassら, (1988), Arch. Ophthalmol. 106:629-639。例えばトランス-パラプラナ(para plana)硝子体茎切除術のような外科的処置は完璧な黄斑円孔への黄斑変性の進捗を阻害しうる一方、この手術は中心視野を永久的に損ないえ、典型的には40%の時間の視野を改善するのみである。
【0067】
光受容体細胞死に至りうる他の網膜障害には、浮腫、虚血症及びブドウ膜炎が含まれる。黄斑及び網膜浮腫はしばしば真正糖尿病等の代謝疾患に関連している。網膜浮腫は水晶体摘出及び眼について他の外科的処置を受けたヒトに多くの割合で見出される。また、浮腫は促進性又は悪性高血圧に伴うことも見出されている。黄斑浮腫は、ブドウ膜炎、イールズ病、又は他の疾病のために長引いた炎症にありふれた合併症である。局所的浮腫は、エイズの結果として多類嚢胞体(「cotton bodies」)に不随する。
【0068】
網膜虚血症は脈絡膜又は網膜の血管の病気、例えば中心視野もしくは網膜視野分枝閉塞症、コラーゲン血管病及び血小板減少紫斑病から生じうる。網膜血管炎及び閉塞はイールズ病及び全身性エリテマトーデスに伴うことが分かっている。
【0069】
年齢関連性黄斑変性(AMD)は、55歳以上の米国市民における深刻な視力喪失の主たる原因である。AMDは萎縮又は滲出形態のいずれかで生じ得る。ほとんどのAMD患者では、網膜と網膜色素上皮の萎縮を生じる黄斑領域における網膜色素上皮内又は下に堆積物が集まっている。網膜色素上皮は何年もの間、桿状体及び円錐体から光受容体ディスクを除去し、細胞内に廃棄物が蓄積される。消化が不十分な残基は細胞質空間で減少し、代謝に干渉する。Feeny-Burnsら, Invest Ophthal. Mol. Vis. Sci. (1984), 25:195-200。オルガネラにとって利用できる細胞容積が減少するので、光受容体を消化する能力が減少し、これが黄斑変性症の基礎となりうる。
【0070】
滲出性AMDは、Bruch膜の血管を通しての絨毛毛管(choriocapillaris)からの血管の成長、及びいくつかの場合においては基礎を為す網膜色素上皮(RPE)により特徴付けられる。これらの血管から漏れ出た漿液又は出血性滲出物が蓄積すると、中心視野の永久的喪失及び神経網膜の不随変性を伴う黄斑領域の繊維の傷が生じる。
また、滲出性AMDは、脈絡膜新血管新生、網膜色素上皮の剥離及び分断に関連している。AMD患者における有意な視力喪失の80%を越える場合において、カスケード的網膜事象がその原因となっている。
【0071】
AMDに関連した最初の又は再発した新血管新生病変を改善しようとして、レーザー光凝固が試みられている。Arch. Ophthalmol. (1991) 109:1220;Arch. Ophthalmol. (1991) 109:1232;Arch. Ophthalmol. (1991) 109:1242。残念なことに、レーザー治療を受けた中心窩下病変を持つAMD患者は、3ヶ月の追跡治療で視力の深刻な減少(平均3ライン)を経験した。さらに、治療後2年で、治療を受けた眼は、治療を受けなかった側よりも視力がわずかによくなっていただけである(それぞれ、20/320、20/400の平均)。この処置の他の欠点は、外科的処置を受けた直後に視力が悪くなることである。
【0072】
従って、本発明の網膜ニューロン生存剤は、網膜分断、変性近視、急性網膜壊死症候群(ARN)、及び外傷性絨毛網膜症又は挫傷(プルチャーの網膜症を含む)、黄斑円孔、黄斑変性(年齢関連性黄斑変性又はAMDを含む)、浮腫、虚血症(例えば、中心もしくは網膜視野分枝閉塞症、コラーゲン血管病、血小板減少紫斑病を含む)、ブドウ膜症及び網膜血管症、及びイールズ病及び全身性エリテマトーデスに伴う閉塞症の治療のための有望な候補薬である。
【0073】
V.発明の実施の形態
A.網膜ニューロン(光受容体を含む)生存アッセイ:
これらのアッセイにおいて、神経網膜は色素上皮から取り出されたものであり、Ca2+、Mg2+フリーのPBSに0.25%トリプシンが入ったものを使用して単細胞懸濁液中に解離される。ついで細胞は、N2が補填されたDMEM/F12において、96ウェルプレートにウェル当たり100000細胞を蒔く。培養2-3日後、細胞を固定し染色する。典型的には、下にある色素上皮からの神経網膜細胞の剥離の際に死が生じるので、テストした薬剤の相対生存性向上効果を、未処理の対照ウェルと比較することにより容易に測定することができる。
手順は実施例においてより詳細に記載する。
【0074】
B.年齢関連性斑変性(AMD):
このアッセイでは、局所的に投与されたFGF-5の効果と安全性は、網膜の生存力を促進させる治療薬の網膜下又は硝子体内注射を記載した1993年7月8日出願のWO94/01124に略述されているものと実質的に同様な手順を使用して検査する。簡単に言えば、AMDの最近の診断で視力が20/160、又はそれより良好な患者において、ベースラインからの視力の変化と安定化を調べる。研究パラメータは遠くと近くの双方の視野に対して最良の矯正視力、眼内圧、水晶体状態及び屈折を測定すべきである。また、古典的(classic)/潜在的(occult)新血管新生からの漿液と過剰蛍光の量、全病変の大きさ及び中心窩の関与性もまた蛍光血管造影法及びICG(インドシアニングリーン)血管造影法で測定する。
【0075】
C.黄斑円孔:
このアッセイでは、局所的に投与されたFGF-5の安全性と効果は、網膜生存力促進治療薬を網膜下又は硝子体内注射を記載した1993年7月8日出願のWO94/01124に略述されているものと実質的に同様な手順を使用して検査する。簡単に言えば、黄斑円孔が確認された患者について視力を調べ、眼内圧、眼底写真、蛍光血管造影法により分析する。
治療の原理は、円孔を囲む肥厚化と網膜剥離を解消するために黄斑円孔の縁部の平坦化を誘発することである。結合した円孔周囲の網膜を持ち上げる牽引力と円孔の縁部に沿った絨毛網膜接着の誘発における低減が治療効果には必要であると考えられている。
手順は実施例においてより詳細に記載する。
【0076】
D:光誘発性光受容体損傷
このアッセイでは、テストされる光受容体生存剤を投与した場合と投与しない場合で、アルビノラットを最初は循環性光環境下に維持し、続いて一定の光源に暴露する。アルビノラットの眼へ因子を硝子体内投与することで、変性並びに副作用、例えば各因子に付随するマクロファージの発生から光受容体を救出する因子の能力の評価が可能になる。
簡単に言えば、一定の光暴露に先だって、ラットに眼内注射をし、偽の注射をしていない対照動物と比較する。一定の光暴露に続いて、眼を取り出し、エポキシ樹脂に埋め込み、垂直経線に沿って切断する。光誘発性網膜変性の度合いは、まず、外側胞核層の厚みを調べ、次に網膜の相対的完全性に割り当てた主観的なスコアにより測定することができる。
【0077】
E.光アブレーション
このアッセイでは、光受容体の救出の度合いを、Remeら, Degen. Dis. Retina, Ch.3, Ed. R.E.Andersonら, Plenum Press, New York(1995)に記載されている手順を変更したもので、雌のSprague-Dawleyラットにおいて測定する。簡単に言えば、動物をまず周期性光照射に順化させ、続いて全くの暗闇に置く。光暴露を中断する前に、被験因子を動物に注射する。網膜変性の度合い又は被験因子の生存促進活性は、TUNEL標識光受容体細胞核の数又は光受容体細胞層の厚みとして報告される。
【0078】
F.角膜ポケットアッセイ:
このアッセイでは、特定の薬剤が試験され、Polveriniら, Methods Enzymol. 198:440-450(1991)を適応化させた手順の下で血管原性であるか否かが決定される。簡単に言えば、Sprague-Dawleyに麻酔をかけ、固定し、スクラルファートとハイドロンと組合せた被験因子のペレットを配した角膜を切開する。
【0079】
G.血管内皮細胞の分裂促進性アッセイ
この特定のアッセイは血管内皮細胞における被験因子の分裂促進性(例えば、血管形成性)を測定する。これは、Ferraraら, Methods of Enzymology 198:391-405(1991)により記載されたように、bFGF(配列番号:4)の精製度を測定する信頼性の高い手段として開発された。簡単に言えば、ウシ副腎皮質由来細胞を増殖させ、低グルコースDMEMの存在下で培養し続け、被験因子を投与し、被験培養対対照を測定する。
【0080】
H.投与方法:
本発明のFGF-5ポリペプチドは種々の経路を通して眼に送達されうる。導入方法には、これらに限定するものではないが、静脈内、動脈内、くも膜下腔内、皮下、皮内、関連組織内への注射、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、経口的、又は移植装置を介するものを含む、当該分野において公知の任意の投与方法が含まれる。それらは、眼への局所適用又は例えば硝子体又は網膜下(光受容体間)腔への眼内注射により、眼内に送達される。別法として、眼の周囲の組織への挿入又は注射により、局所的に送達することもできる。それらは、経口経路を通して又は皮下、静脈内又は筋肉内注射により全身に送達することもできる。別法として、カテーテル又は移植により送達することもでき、このような移植片は、タンパク質様物質、生物分解性ポリマー、繊維、又はシラスティック膜等の膜を含む、多孔質、非多孔質又はゼラチン様物質で作製される。因子は、病気の発生を防止するために病気になる前に、例えば眼の外科的処置中に、又は病理学的症状の発生直後、又は急性もしくは長引く病状の発生中に投与される。
【0081】
潜在的な網膜ニューロン生存促進因子の硝子体内注射は全身への適用においていくつかの利点がある。眼は丸い比較的封じ込められた構造であるため、また薬剤がそこに直接注入されるので、網膜に到達する特定の薬剤の量は、より性格に決定することができる。さらに、注射されるのが必要な薬剤の量は全身注射と比べて少ない。例えば、硝子体内注射では、容量で1マイクロリットル(約1ミリグラムの薬剤)使用されるが、これに対し全身注射では1から数ミリリットル(10から数百ミリグラムの薬剤)が必要である。加えて、硝子体内投与経路により、ある薬剤の潜在的な毒性効果が回避される。
【0082】
さらに、本発明の製薬用組成物を、治療が必要とされる箇所に局所的に投与することが望ましく、これは、例えば外科的処置中の局所的注入により、注射により、カテーテルにより、又は移植により達成され、このような移植片は繊維又はシラスティック膜等の膜を含む、多孔質、非多孔質又はゼラチン様物質からなる。
【0083】
本発明の因子は、その血管網膜障壁に浸透する能力を向上させるために修飾してもよい。このような修飾には、例えばグリコシル化により脂肪親和性を高め、又は当該分野において知られている方法によりその正味の負荷を多くすることが含まれる。
因子は単独でも組合せて送達されてもよく、製薬的に許容可能なビヒクルと共に送達させることもできる。理想的には、このようなビヒクルは安定性及び/又は送達特性を高めるものである。また本発明は、適切なビヒクル、例えばリポソーム、微小粒子又はマイクロカプセルを使用して投与可能な活性因子又はその断片もしくは誘導体を含有する製薬組成物を提供する。本発明の様々な実施態様では、このような組成物を使用して活性成分を除放性とすることは有用である。
【0084】
I.製薬組成物と用量
ポリペプチド又は抗体の治療用調製物は、当該分野において典型的に使用されている任意の「製薬的に許容可能な」又は「生理学的に許容可能な」担体、賦形剤又は安定剤(これら全てを「賦形剤」という)と、所望の純度を有するポリペプチドをを混合することにより、凍結乾燥された製剤又は水溶液として保管可能に調製される。例えば、緩衝剤、安定剤、防腐剤、等張剤(isotonifiers)、非イオン性の洗浄剤、酸化防止剤及び他の様々な添加剤である(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol, Ed., (1980)を参照されたい)。このような添加剤は、レシピエントに対して使用用量及び濃度で毒性のないものでなければならない。
【0085】
緩衝剤は、生理条件を近似する範囲にpHを維持する助けをする。それらは、好ましくは約2mM〜約50mMの範囲の濃度で存在している。本発明において使用される好適な緩衝剤には、有機酸と無機酸の両方及びそれらの塩類、例えばクエン酸バッファー(例えば、クエン酸一ナトリウム-クエン酸二ナトリウムの混合物、クエン酸-クエン酸三ナトリウムの混合物、クエン酸-クエン酸一ナトリウムの混合物等)、コハク酸バッファー(例えば、コハク酸-コハク酸一ナトリウムの混合物、コハク酸-水酸化ナトリウムの混合物、コハク酸-コハク酸二ナトリウムの混合物等)、酒石酸バッファー(例えば、酒石酸-酒石酸ナトリウムの混合物、酒石酸-酒石酸カリウムの混合物、酒石酸-水酸化ナトリウムの混合物等)、フマル酸バッファー(例えば、フマル酸-フマル酸一ナトリウムの混合物等)、フマル酸バッファー(例えば、フマル酸-フマル酸一ナトリウムの混合物、フマル酸-フマル酸二ナトリウムの混合物、フマル酸一ナトリウム-フマル酸二ナトリウムの混合物等)、グルコン酸バッファー(例えば、グルコン酸-グルコン酸ナトリウムの混合物、グルコン酸-水酸化ナトリウムの混合物、グルコン酸-グルコン酸カリウムの混合物等)、シュウ酸バッファー(シュウ酸-シュウ酸ナトリウムの混合物、シュウ酸-水酸化ナトリウムの混合物、シュウ酸-シュウ酸カリウムの混合物等)、乳酸バッファー(例えば、乳酸-乳酸ナトリウムの混合物、乳酸-水酸化ナトリウムの混合物、乳酸-乳酸カリウムの混合物等)及び酢酸バッファー(例えば、酢酸-酢酸ナトリウムの混合物、酢酸-水酸化ナトリウムの混合物等)が含まれる。さらに、リン酸バッファー、ヒスチジンバッファー及びトリメチルアミン塩、例えばトリスも挙げられる。
【0086】
防腐剤は微生物の成長を遅らせるために添加され、0.2%-1%(w/v)の範囲の量で添加される。本発明に使用される好適な防腐剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタ-クレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ベンザルコニウムハロゲン化物(例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物)、塩化ヘキサメトニウム、アルキルパラベン類、例えばメチル又はプロピルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール及び3-ペンタノールが含まれる。
【0087】
しばしば「安定剤」として知られている等張剤は、本発明の液体組成物を確実に等浸透圧とするために存在し、多価糖アルコール、好ましくは3価又は高級糖アルコール、例えばグリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトールが含まれる。多価アルコールは、他の成分の相対量を考慮して、0.1重量%〜25重量%、好ましくは1重量%〜5重量%の量で存在可能である。
【0088】
安定剤は、増量剤から、治療剤を安定化させるか、変性又は容器壁への付着防止を補助する添加剤まで広範囲に機能する広い範疇の賦形剤に入るものを意味する。典型的な安定剤は、多価糖アルコール(上に列挙);アミノ酸、例えばアルギニン、リシン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン等、有機糖類又は糖アルコール類、例えばラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクチトール、グリセロール等であり、シクリトール、例えばイノシトール;ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;硫黄含有還元剤、例えば尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム;低分子量のポリペプチド(すなわち<10残基);タンパク質、例えばヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン単糖類、例えばキシロース、マンノース、フラクトース、グルコース;二糖類、例えばラクトース、マルトース、スクロース及び三糖類、例えばラフィノース;多糖類、例えばデキストランも含まれる。安定剤は活性タンパク質の1重量部当たり0.1〜10000重量部の範囲で存在しうる。
【0089】
非イオン性の界面活性剤又は洗浄剤(「湿潤剤」としても知られている)は、治療剤の溶解を助け、並びに攪拌誘発性凝集から治療用タンパク質を保護するために存在し、これによりタンパク質の変性を引き起こすことなく、応力を受ける剪断表面に製剤をさらすことができる。好適な非イオン性界面活性剤には、ポリソルベート(20、80等)、ポリオキサマー(184、188等)、プルロニック(登録商標)ポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(トウィーン(Tween)(登録商標)-20、トウィーン-80等)が含まれる。非イオン性界面活性剤は約0.05mg/ml〜約1.0mg/ml、好ましくは約0.07mg/ml〜約0.2mg/mlの範囲で存在する。
【0090】
付加的な種々の賦形剤には、増量剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)及び共溶媒が含まれる。
【0091】
ここに記載の製剤は、治療されている特定の効能に対して一を越える活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有し得る。例えば、免疫抑制剤をさらに提供することが望ましい。このような分子は、好適には、意図した目的に有効な量で組合されて存在する。
また活性成分は、例えばコアセルベーション法又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, A. Osol編(1980)に開示されている。
【0092】
インビボ投与用に使用される製剤は滅菌されなくてはならない。これは、例えば滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成される。
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適切な例には、抗体変異体を含む固体疎水性重合体の半透過性マトリックスが含まれ、このマトリックスはフィルム又はマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(U.S.Pat.No.3,773,919)、L-グルタミン酸とエチル-L-グルタマートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性の乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注入可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニルや乳酸-グリコール酸等のポリマーは100日以上分子を放出できるが、特定のヒドロゲルはより短い時間タンパク質を放出する。カプセル化抗体は、長時間体内に残存すると、37℃の水分に曝されることで変性又は凝集し、生物活性の喪失や免疫原生の変化のおそれがある。関与するメカニズムに応じて安定化のために合理的な方策が案出できる。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが分かったら、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分量を調整し、適当な添加物を使用し、特定の重合体マトリックス組成物を開発することで安定化を達成することができる。
【0093】
特定の障害又は病状の治療に有効な治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の量は、障害又は病状の性質に依存し、通常の臨床技術により決定される。可能な場合は、先ずインビトロで、ついでヒトで試験する前に有用な動物モデルシステムにおいて本発明の製薬用組成物及び用量反応曲線を決定することが望ましい。しかし、当該分野における一般的知識に基づけば、知覚ニューロンの生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約5〜20ng/ml、好ましくは約10〜20ng/mlの局所治療剤濃度を提供する。本発明のさらなる特定の実施態様においては、網膜ニューロンの増殖及び生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約10ng/ml〜100ng/mlの局所治療剤濃度を提供する。
【0094】
好ましい実施態様においては、治療用ポリペプチド、抗体又はその断片の水溶液は、皮下注射により投与される。各用量は、体重1kg当たり約0.5μg〜約50μg、好ましくは体重1kg当たり約3μg〜約30μgの範囲である。
皮下投与の投与スケジュールは、病気の種類、病気の深刻度、及び患者の治療剤に対する敏感度を含む、多くの臨床的要因に応じて1週間に1回から毎日と変わりうる。
【0095】
FGF-5タンパク質、ペプチド断片、又は変異体は図8(配列番号:3)に示すアミノ酸配列又はその部分配列、そこから誘導された活性アミノ酸配列、又は機能的に等価な配列(例えば、配列番号:2の残基22ないし268)を含みうるが、これはこの部分配列がFGF-5分子の機能的部位であると考えられているからである。
【0096】
特定の疾患又は病状の治療に有効なFGF-5タンパク質の量は、障害又は病状の性質に依存し、通常の臨床技術により決定される。可能な場合は、先ずインビトロで、ついでヒトで試験する前に有用な動物モデルシステムにおいて本発明の製薬用組成物及び用量反応曲線を決定することが望ましい。しかし、当該分野における一般的知識に基づけば、知覚ニューロンの生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約10〜1000ng/ml、好ましくは約100〜800ng/ml、より好ましくは約200〜600ng/mlのFGF-5の局所FGF-5タンパク質濃度を提供する。本発明のさらなる特定の実施態様においては、網膜ニューロンの増殖及び生存を促進するのに有効な製薬用組成物は、約10ng/ml〜1000ng/mlの局所FGF-5タンパク質濃度を提供する。
FGF-5の硝子体下投与の投与スケジュールは、病気の種類、病気の深刻度、及び患者のFGF-5に対する敏感度を含む、種々の臨床的要因に応じて1週間に1回から毎日と変わりうる。投与スケジュールの例は、これに制限されるものではないが、3μg/kgの投与を1週間に2回、1週間に3回又は毎日、7μg/kgの投与を1週間に2回、1週間に3回又は毎日、10μg/kgの投与を1週間に2回、1週間に3回又は毎日とされる。
【0097】
CNTF等のFGF-5と組合せて投与される付加的な神経栄養因子の有効用量は、ここで記載したFGF-5の有効用量と同じ範囲の用量である。本方法の活性化合物、FGF-5は、場合によっては第2の薬剤、例えば神経栄養因子と共に調製される。例示的な神経栄養因子には、神経成長因子(NGF)、aGF、繊毛神経栄養因子(CNTF)、ウシ由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT-3)、 ニューロトロフィン4(NT-4)、aFGF、IL-1β、TNFα、インシュリン様成長因子(IGF-1,IGF-2)、トランスフォーミング成長因子β(TNF-β、TNF-β1)又は骨格筋抽出物が含まれ、限定されるものではないが、生理食塩水、緩衝食塩水、デキストロース及び水等を含む任意の滅菌生物融和性製薬用担体で投与されうる。しかしながら、ある種の因子、例えばbFGF-5、CNTF又はIL-1βは、望ましくない網膜合併症、例えばマクロファージの増殖、網膜構造の崩壊、細胞増殖又は炎症を引き起こしうるので、注意して使用すべきである。
もし患者が好ましくない副作用、例えば体温上昇、風邪又はインフルエンザ様徴候、疲労等を示したら、頻度を上げた間隔で用量を少なくして投与することが好ましい。一又は複数の付加的な薬物、例えば解熱剤、抗炎症剤又は鎮痛剤を、このような望ましくない副作用を緩和するためにFGF-5と組合せて投与することができる。
【0098】
V.アッセイ特徴づけ:インビトロアッセイとインビボ治療効果の相関関係
アガロースゲル電気泳動及び末端dUTPニックエンド標識(TUNEL)を使用する最近の研究では、光受容体細胞死は、主としてアポトーシスにより生じることが示されている。Chang, G-Q, Hao Y., Wong F.(1993), Neuron 11:595-605;Portera-Cailliau, C.ら(1993)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:974-97;Adler R., Curr. Top. Dev. Biol.(1980) 16:207-252。これらの研究ではヒト網膜変性(色素性網膜炎)のマウスモデル:rdマウス(cGMPホスホジエステラーゼのbサブユニットに変異を有する);rdsマウス(ペリフェリン(peripherin)に変異を有する);及びロドプシンに変異を有するトランスジェニックマウスを調査している。これらの全てのモデルにおいて、光受容体細胞死の時点でアポトーシスの大幅な増加がある。また、アポトーシスはRCSラット、並びに光ダメージを受けたラットの網膜において顕著であることが知られている。Tso M,ら., Invest. Opththalmol. Vis. Sci. (1994) 35:2693-2699;Shahinfar S.ら., Curr. Eye Res. (1991) 10:47-59。
【0099】
アポトーシスは、分解酵素の漏れを防止することにより、健康な隣接細胞がその正常な機能を果たすことができるようにする厳重に制御された「停止」プロセス又は自己選択的細胞自殺であると思われる。Wong, F. Arch. Ophthalmol. 113:1245-47 (1995)。このプロセスの間、細胞の外膜は、細胞が核凝結、細胞質収縮、膜小疱形成、アポトーシス体の形成及びしばしばDNA断片化を受ける間、無傷のままである。
【0100】
アポトーシスは色素性網膜炎のような眼の変性疾患において重要な役割を担っていると今は考えられている。RPはロドプシン遺伝子の変異によって引き起こされると考えられている、Dryja, TP, Nature (1990)343:364-366。加えて、RPを誘発する他の光受容体-特異性遺伝子変異が見出されており、なかでも、網膜変性(rd)、McLaughlin ME,ら., Nat. Genet.(1993), 4:30-134、及び遅延性網膜変性(retinal degeneration slow)(rds)、Farrar G.J.ら., Nature(1991), 354:478-80;Kajiwara K.ら., Nature(1991), 354:480-83として知られている変異がある。さらに、RPの常染色体優性型は、ロドプシン遺伝子の70を越える変異の任意のものによって引き起こされることが見出されている。Humphries,P.ら., Science(1992), 256:804-808;Dryja, T.P.ら., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.(1995), 36:1197-1200。ロドプシン変異はいくつかのファミリーにおける常染色体劣性RPの基礎であることも知られている。Rosenfeld, P.J.ら., Nat. Genet.(1992), 1:209-13;Kumaramanickavel, G.ら.,(1994), 8:10-11。その結果、ロドプシン遺伝子は、現在、RPの研究のための原型的なモデルであると考えられる。
【0101】
RPにおけるアポトーシスの役割はマウス光受容体で観察されている。変異ロドプシンを発現しているいくつかの系のトランスジェニックマウスがつくり出され、その結果、ヒトにおいて見出される常染色体優勢RPの形態をシミュレートすることができる。これらの動物モデルは、形態的変化とDNA断片化を含む、アポトーシスの種々の特徴を通しての死亡していく光受容体を示す。Chang, C-Gら, Neuron(1993) 11:595-605;Portera-Cailliau, C.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1994) 91:974-978。他の実験結果と共に、これらの発見により、ロドプシン遺伝子における変異ばかりでなく、rd及びrds遺伝子における変異によっても誘発されるので、アポトーシスがマウス光受容体死の主要なメカニズムであるという結論に達する。Chang, C-Gら, 上掲、Portera-Cailliau C.ら, 上掲、Lolley R.N.ら., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.(1994), 35:358-362。
【0102】
遺伝的異常性ばかりでなく、実験的網膜剥離の後にも反応してアポトーシスにより光受容体変性が生じるという知見は大きな関心がある。Cook, BEら., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.(1995), 36:990-996。さらに、アポトーシス性細胞死は、比較的低レベルの光で、短い暴露時間(1000及び3000ルクス、散光、白色光を2時間)で誘発される、アルビノラットにおける急性網膜障害においても観察される、Remeら., Degenerative Diseases of the Retina, Anderson R.E.ら., eds. Plenum Press, pp.19-25(1995)。この発見により生存促進栄養因子の調査に至り、該因子は、網膜下腔が膨張したとき光受容体にとって利用できなくなると考えられ、網膜剥離の結果として光受容体内マトリックスの組成が変化する。Chader G.J.(1989), Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 30:7-22;Berman E.R. Biochemistry of the Eye(1991), New York, NY, Plenum Press;Steinberg R.H., Curr. Opin. Neurobiol. 4:515-24。
【0103】
アポトーシスによる光受容体細胞の死は、変異が蓄積した影響による受動的な犠牲であるというよりむしろ、光受容体はそれ自身の「細胞死プログラム」の活性化により色素性網膜炎等の遺伝的障害で死亡すること暗示している。Adler R.,(1996) Arch. Ophthalmol. 114:79-83。このことは、ある種の神経栄養因子及び関連分子が桿状体タンパク質の変異の結果生じる円錐体の変性において果たしている役割があることを意味している。
【0104】
次の実施例は、細胞死がアポトーシスを介して生じているために、治療上の有用性を示しており、同じメカニズムが、種々の網膜変性疾患で生じていることが示されている。動物モデルにおいて保存視力と相関してアポトーシスを既知の成長因子が防止したという知見は、アポトーシスを防止する有望な因子はまた網膜変性疾患において治療上の有用性を有していることを示している。
次の実施例は例証するためのものであって本発明を限定するものではない。本明細書における全ての引用文献の開示は明示的にここに参照して取り込む。
【実施例】
【0105】
(実施例1)
黄斑円孔
様々な年齢の様々な段階(すなわち2、3又は4)の黄斑円孔を有する患者のプールを選択し、黄斑円孔の存在を確認する。類嚢胞黄斑水腫、糖尿病性網膜症又は滲出性加齢関連黄斑変性症の病歴を有する患者を除外するようにプールを選択する。
視力は患者毎に試験して最高スネレン視力を決定し、眼圧、眼底写真、フルオレセイン血管造影法により分析する。各黄斑円孔を、Gass, Arch. Ophthalmol.(1988),106:629-39により記載されている基準に従い等級分けする。段階2の円孔を有する眼は、深部網膜嚢胞形成の領域の縁部に沿って網膜披裂を有する。段階3は、弁蓋に被われた厚み全体に渡る円孔により特徴付けられるものである。黄斑円孔は、後部硝子体剥離が存在する場合に段階4に分類される。処置は基礎検査の2週間以内に予定する。基準下では、患者が2+の核硬化症(nuclear sclerotic)又は後被膜下水晶体変化(posterior subcapsular lens changes)を有している場合は除外すべきである。患者を6−10ヶ月、平均して8ヶ月追跡する。用量は、次の治療効果レベル、中程度の効果範囲、最小効果範囲を越える良好なレベルにおいて決定する。
眼はFGF-5の示されたレベルについて無作為に選択する。加えて、いくつかの眼は、黄斑円孔の領域からのFGF-5の浄化を遅延させるために、FGF-5の点眼時に、100μlの硝子体内(intravitreal)ヒアルロン酸を、別個に受けてもよい。
【0106】
外科的手順:
全ての外科的処置は鎮静作用を有する局部麻酔の下で行うことができる。眼の準備を行い布をかけた後、標準的な3カ所(three-port)硝子体切除手術を行う。段階2及び段階3の黄斑円孔を有する眼においては、瞳孔硝子体切除手術(core vitrectomy)を行う。段階4の黄斑円孔においては、完全な毛様体輪硝子体切除手術を行う。
もし存在するならば、網膜上膜を網膜表面から剥がし、眼から除去する。他の場合において、網膜内表面上の幾らかのゼラチン質凝集物が黄斑円孔を約200−400μm取り囲み、黄斑円孔の縁に沿って強く付着している。これは、黄斑円孔の縁に対する牽引力限界及び神経への損傷を考慮して、可能であれば注意深く切除する。
【0107】
末梢流体を後方に排出可能とした後、後方に泳動する任意の流体を吸引する。ついで先細で、先端が曲がっているカニューレを、FGF-5溶液を収容した1ccシリンジに接続する。再構成した調製物は、希釈した後の所望の濃度のFGF-5を含有する。眼には、所定用量のFGF-5が無作為に割り当てられる。約0.1ccのFGF-5溶液を、黄斑円孔内にゆっくりと注入する。また、同容量のヒアルロン酸を投与してもよい。
外科的処置の後、患者は外科的手術に続いて最初の24時間、仰向けの位置で横にすべきである。その後、各患者は可能であるならば2週間うつぶせの位置を保持すべきである。
患者は、外科的処置の1日、2週、4〜6週、及び1ヶ月後に検査を受ける。フルオレセイン血管造影を、4〜6週、3ヶ月及び6ヶ月目に実施する。最も正しく矯正されたスネレン視力、眼圧、水晶体状態、泡の大きさ、黄斑円孔の状態及び悪影響の発生を、各試験で測定する。
【0108】
議論:
この実施例における処置の合理性は、円孔周囲の肥厚部と網膜剥離とを解消するため、黄斑円孔の縁部の平坦化を誘発させることにある。円孔の縁に沿った脈絡網膜接着の誘発及びそれと結びついた円孔周囲の網膜を持ち上げる牽引力の低減が医療効果を得るために必要であることが示唆された。網膜の再付着に外科的技術が使用でき、損傷小領域が目立たない末梢網膜円孔とは異なり、黄斑円孔は、中心視野の永久的損傷及び隣接する神経知覚組織の損傷を回避するために、脈絡網膜接着の接着を徐々に誘発する必要がある。
【0109】
(実施例2)
光誘発性光受容体損傷
2-5月齢のアルビノラット(Spraque-DawleyのF344)を、一定の光源に暴露する前に9日又はそれ以上の間、周期的光環境(25ft-c未満の照度のかごの中で、12時間はオンにし、続く12時間はオフにする)に保持しておく。一定の光源を115-200ft-Cの照度レベルに維持する。例えば、240ワットの白色反射蛍光球を、ステンレススチールのワイヤでカバーされた透明なポリカルボナートのかご底面から60cm上部に吊り下げた。
一定の光への暴露の2日前、ラットに、リン酸緩衝塩水(PBS)に50-1000ng/μl濃度で溶解させた1μlの試験因子を硝子体内に投与するケタミン-キシラジン混合物で麻酔をかける。
眼の鋸状縁と赤道を間のほぼ中間にある鞏膜、脈絡網膜及び網膜を通過して32ゲージの針を挿入して注射した。因子が注射された動物を、対照体注射を受けたこの動物の非注射同腹子、並びに一定の光に暴露されていない対照動物と比較する。対照体には、PBSのみの注射、又は擬似注射(注入物が無く針のみを挿入)を含むべきである。全ての場合において、眼の上部半球体に注射される。
【0110】
一定の光に暴露した直後に、ラットを任意の適切な手段、例えば二酸化炭素麻酔にかけ、続いて混合アルデヒドを血管局所還流させて屠殺する。眼をエポキシ樹脂に包埋し、眼の垂直経線に沿って全網膜を1μm厚さの切片に切断する。ついで、光誘発性網膜変性の程度を2つの方法で定量する。第1に、光受容体細胞損失の指標として使用される外核層(ONL)の厚みを測定する。ONLの平均厚を、バイオクアント(Bioquant)形態測定システムにより、各動物の単一断片から得る。各上部及び下部半球体において、ONL厚を、各々3測定を9セット(各半球体において全27測定)測定する。各セットを約440μm長さの網膜の中心に置く(400X倍率の顕微鏡視野での直径)。第1の測定セットを視神経頭部から約440μmに置き、次のセットをより末梢方向に置く。各440μm長さの網膜内で、互いに75μm離れた定点で3測定を行う。全てにおいて、2つの半球体で54測定が行われ、それが網膜切片のほぼ全体の試料を代表する領域である。
【0111】
光受容体救済の程度を査定する第2の方法は、検査をしている病理学者による0−4+のスケールでの主観的評価によるものであり、4+は最大救済程度で、ほぼ正常な網膜完全体である。各切片における光受容体の救済程度は、同様のラットにおける対照眼との比較に基づき4人で評点を付ける。この方法はONL厚ばかりでなく、光受容体内部又は外部セグメントのより敏感変性的変化、並びに眼内部の変性勾配も考慮に入れている。
【0112】
議論:
アルビノラットの眼の中に種々の因子を硝子体内投与することで、各因子に関連する変性や副作用、例えばマクロファージの発生から光受容体を救済する因子の能力が迅速に査定できる。ここに記載しているモデルはアルビノラットであるが、他のアルビノ哺乳動物、例えばマウスやウサギの眼も、この目的において有用である。
【0113】
(実施例3)
網膜ニューロン生存性
生後7日目のSprague Dawleyラットの子(混合母集団:グリアと網膜ニューロン型)をCO2で麻酔をかけた後に断頭して屠殺し、滅菌条件下で眼を取り出す。神経網膜を色素上皮及び他の眼組織から切除し、ついでCa2+、Mg2+を含まないPBS中の0.25%トリプシンを使用して単一細胞懸濁液中に解離させる。網膜を37℃で7-10分インキュベートした後、1mlの大豆トリプシンインヒビターを添加することによりトリプシンを不活性化させた。N2が補足されたDMEM/F12において、96ウェルプレートにウェル当たり100000細胞を蒔く。全ての実験での細胞は、水飽和させた5%CO2飽和雰囲気で、37℃において成長させたものである。培養2-3日後、細胞をカルセインAMで染色し、ついで4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、全細胞数を測定するためにDAPIで染色する。全細胞(蛍光)は、マッキントッシュのNIHイメージソフトウエアとCCDカメラとを使用し、20X対物レンズ倍率で定量化する。ウエルの視野は無作為に選択する。
種々の濃度のFGF-5(R&DSystem, cat.no.237-F5/CF, lot no.GQ077040)(配列番号:5)の効果が図1に報告されている。
【0114】
(実施例4)
桿状体光受容体生存性
生後7日目のSprague Dawleyラットの子(混合母集団:グリアと網膜ニューロン型)をCO2で麻酔をかけた後に断頭して屠殺し、滅菌条件下で眼を取り出す。神経網膜を色素上皮及び他の眼の組織から切開し、ついでCa2+、Mg2+を含まないPBS中の0.25%トリプシンを使用して単一細胞懸濁液内に解離させる。網膜を37℃で7-10分インキュベートした後、1mlの大豆トリプシンインヒビターを添加することによりトリプシンを不活性化させた。N2が補足されたDMEM/F12において、96ウェルプレートにウェル当たり100000細胞を蒔く。全ての実験での細胞は、水飽和5%CO2飽和雰囲気で、37℃で成長させたものである。培養2-3日後、細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、ついでセルトラッカーグリーンCMFDAで染色する。Rho4D2(腹水又はIgG 1:100)、視覚色素ロドプシンに対するモノクローナル抗体を使用し、間接的免疫蛍光法により桿状体光受容体細胞を検出する。結果を生存率%:カルセインの全数−ロドプシンポジティブ細胞を、培養2-3日目のロドプシンポジティブ細胞の全数で割ったものとして報告する。全細胞(蛍光)は、マッキントッシュのNIHイメージソフトウエアとCCDカメラとを使用し、20X対物レンズ倍率で定量化する。
種々の濃度のFGF-5(R&D System, cat.no.237-F5/CF, lot no.GQ077040)(配列番号:5)の効果が図1に報告されている。
【0115】
(実施例5)
光剥離の研究
序文:
Reme C.E.ら, Degen. Dis. Retinal, Ch.3, Ed. R.E.Andersonら, Plenum Press, New York(1995)により示されたように、網膜変性は強い光への暴露により誘発することができる。この光剥離モデルにより、試験物質の光受容体生存促進活性の定量的比較ができる。
【0116】
方法:
成長したメスのSprague Dawleyラットを、「通常」の蛍光環境(50フィートキャンドル)において、実験期間開始まで12時間のオン/オフで保持する。光誘発性変性を暗順応に置く(ラットを24時間、全くの暗闇に置く)ことにより開始させる。各処理グループにおいて約5-10の動物を、300-400フィートキャンドルで、490-580nm(緑)に光が照射される5'x3'のチャンバー内に置く。光暴露を断続させ、1時間オン、2時間オフを、全部で8サイクル行う。各動物の両方の眼は、光暴露の2日前、試験因子1-2μのl硝子体注射を受けた。使用される試験因子は0.5-1.0μg/μlのbFGF(配列番号:4)又はFGF-5(R&D System)(配列番号:5)であり、用いた対照体はウシ血清アルブミン(0.1%)を含有する又は含有しないリン酸緩衝塩水である。
【0117】
Tdt-媒介性dUTPnick末端標識(TUNEL)(Gavrieli, Yら., J. Cell. Biol. 119:493-501(1992))を、4μm厚のパラフィン切片において、ApopTag(登録商標)インシトゥーアポトーシス検出キット(Oncor, cat.no.S7110-kit)を変形して用いて行った。DNA鎖分断部(フラグメント)をフルオレセインで標識し、一方無傷のDNAはDAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)で標識し、Vanox AH-3オリンパス顕微鏡においてFITC/DAPIフィルターを用いて明視化した。
【0118】
結果:
網膜変性の程度又は試験因子の生存促進活性は、光受容体細胞層の厚み又はTUNELで標識された光受容体細胞核の数として報告されている。中心網膜を通る3つの横断面部(約10μmの間隔)を分析のために使用した。各断面部において、網膜の全表面領域はNIHイメージソフトウエア(マッキントッシュ)と冷却したCCDカメラを使用してデジタル化して定量的データを得た。結果を図2のグラフに示す。塩水、bFGF(配列番号:4)及びFGF-5(配列番号:5)のピクトグラフは図3に示す。図4は、光への暴露がない(a)、光のサイクル50時間後(b)及び光のサイクル7日間後(c)における対照網膜のピクトグラフである。図4は、強い光への暴露により生じる光受容体細胞の通常の変性を表している。
【0119】
結論:
図2は、FGF-5(配列番号:5)が、TUNEL標識により測定された光受容体の死亡の防止において、少なくともbFGFと同程度、かつ対照体より効果的であったことを示している。さらに図3と4との比較により、この指摘が確認された。
【0120】
(実施例6)
角膜ポケットアッセイ:
序文:
この実験は試験薬剤が、この齧歯動物のインビボモデルにおいて脈管形成性であるか否かを決定することを意図したものである。試料を調製し、送達用媒体と共にペレット化して安定化し、ついで角膜に移植して脈管形成効果を観察する。手順はPolveriniら, Methods Enzymology. 198:440-450(1991)を改変したものである。
【0121】
方法:
Sprague Dawleyラット(250g、オス)を、処置前に暗状態下にあるプラスチックキャリアで24時間保持し、ついで麻酔をかけた。各動物の眼をゆっくりと突出させ、非外傷治療用ピンセット(BRI-1725)で適所に固定した。15番の刃(Bard-Parker)を使用し、1.5mmの切り込みを、ストロマの角膜の中心から約1mmのところに設けたが、それを通過してはいない。ついで、曲部のあるスパチュラ[2mm幅、ASSI ST 80017]を切り込みの唇状部の下に挿入し、支質を通って眼の外眼角の方向に、ゆっくりと鈍角に切開した(blunt-dissected)。ポケットの基部と縁部との最終的な距離は少なくとも1mmにすべきである。
【0122】
試験用成長因子(100ng)、スクラルファート(50μg、BM Research, Denmark)及びヒドロン(Interferon Science, New Brunswick, N.J. Lot#90005)を、ヒドロン及びスクラルファートに対する成長因子の比を500:1にして互いに混合することにより、ペレットを調製した(4μl)。スクラルファートは、ヘパリン結合領域で相互作用することにより分子を安定させるために存在する。対照ペレットはヒドロンとスクラルファートの媒体のみからなる。1)ウシbFGF(配列番号:4)(Calbiochem, 10μg/50μl)PBS+スクラルファート(6動物);2)スクラルファート対照体(3動物)及び3)FGF-5(R&D Systems、50ng、Lot#GQ127030)(配列番号:5)+スクラルファート(6動物)からなる3つの処理群で試験した。
【0123】
上のパラグラフで記載したように調製されたヒドロンペレット(2x2mm)を切り込みの基部に挿入し、ポケットを自発的に閉じさせる。眼を人工涙様軟膏で覆い、ついで動物をプラスチックキャリアに戻し、目覚めさせ、かごに戻した。
アッセイは5日目に終了した。屠殺時に、動物をFITCデキストランで潅流し(2x106m.w.)、角膜の全マウントを眼から角膜を注意深く切除することにより調製し、次いで角膜を平らにするために2−3の切り込みを適当に配置し、続いてカバーグラスの下に置いた。ニコン反転蛍光スコープに搭載された1x対物レンズを通して像を捉えた。成長領域の評価のために、Image-Pro(登録商標)ソフトウエア-エッジ検出ルーチンを使用した。
【0124】
結果及び結論:
この実験において、スクラルファート対照群は3.63±0.99平方mmの平均値を与えた。FGF-5(配列番号:5)100ngのペレットは、4.37±0.99平方mmの値を与え、対照体とは統計的に相違していなかった(p=0.6204)。bFGF(配列番号:4)50ngのペレットは脈管形成領域にて11.54±1.18平方mmの平均値を与え、対照体(p=0.0018)及びFGF-5(p=0.0010)と有意に相違していた。これらの結果を図5に示す。
データによれば、FGF-5(配列番号:5)は、100ng/ペレットの用量でさえ、有意な脈管形成反応を起こさないことが示されている。
【0125】
(実施例7)
血管内皮細胞の分裂促進アッセイ
序文:
血管内皮細胞に対する分裂促進アッセイは、最初はbFGF成長因子の精製を監視するために開発された。しかしながら、それらは試験物質における分裂促進性の存在の決定のために有用な手段でもある。
【0126】
物質及び方法:
ウシ副腎皮質誘導毛細血管内皮(ACE)細胞は、Ferraraら., Enzymology 198, 391-405(1991)により記載された公知の手順に従い確立される。ACE細胞のストックプレートは、10%子ウシ血清を補足した低グルコースDMEM、2mMグルタミン及びペニシリンG(1000単位/mL)及びストレプトマイシン(1000μg/mL)及び最終濃度が1ng/mlとなる塩基性FGF(配列番号:4)が存在する10cmの組織培養皿に保持し、週単位で1:10の分裂比で継代した。分裂促進対照体を、最終濃度が1ng/ml及び5ng/mlになるように塩基性FGFを添加することにより調製し、5-6日間培養した。老化の徴候を示す前に、ACE細胞を10-12回継代させることができる。
【0127】
各試験物質において、ストック培養物をトリプシン処理し、成長培地に再懸濁させ、2mlの植付容量で、6ウエルプレート(Costar, Cambrige MA)に1.0x104細胞/ウエルの密度で播種した。播種の直後、試験されるFGF-5試料を10μl等分に、2つ(duplicate)又は3つ(triplicate)のウエルに添加した。5又は6日後、細胞をトリプシン処理し、コールターカウンター(Coulter Electronics, Hialeah, FL)で計測する。
【0128】
結果を図6A及び図6Bに示す。図6Aは表10に記載されたデータを表し、一方図6BはbFGF(配列番号:4)とFGF-5(配列番号:5)の間に観察される効果の比較を表し、ここでbFGF(配列番号:4)では濃度依存性効果が現れているが、FGF-5(配列番号:5)に関して濃度依存性分裂促進は現れていない。
【0129】
【0130】
結論:
データは、5ng−1ng濃度のFGF-5(配列番号:5)においては、濃度依存性分裂促進性は無いことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】それぞれ実施例6及び7に記載した手順により投与された様々な濃度のFGF-5(配列番号:5)の存在下における、全網膜細胞及び光受容体の生存率を表す棒グラフである。
【図2】実施例5に記載した手順により投与された対照と比較した、FGF-5(配列番号:5)、生理食塩水及びbFGF(配列番号:4)の存在下における、TUNEL標識光受容体の棒グラフである。
【図3】図2のグラフに表されたbFGF(配列番号:4)、生理食塩水及びFGF-5(配列番号:5)治療試料の網膜の陽画像写真である。
【図4】実施例5で記載されたサイクル後、50時間及び7日での強い光に暴露されて生じる正常な光受容体の変性を表す陰画像写真である。
【図5】実施例6に記載された手順に従い、示した成長因子bFGF(配列番号:4)及びFGF-5(配列番号:5)の適用後に観察された血管形成を表す棒グラフである。
【図6A】1ng/ml、5ng/ml、30ng/ml(FGF-5のみ)、100ng/ml(FGF-5のみ)、300ng/ml(FGF-5のみ)及び1000ng/ml(FGF-5)の濃度における、FGF-5(配列番号:5)と比較したbFGF(配列番号:4)の血管形成効果を示す棒グラフである。
【図6B】示した濃度におけるbFGF(配列番号:4)とFGF-5(配列番号:5)の血管形成効果を示す濃度対細胞カウント数のグラフである。bFGFは1ng/mlと5ng/mlで試験されたことに留意されたい。
【図7】プラスミドhFGF5大腸菌発現プラスミドの図である。
【図8】天然シグナル配列(配列番号:2のアミノ酸残基1−21)を除いた天然ヒトFGF-5に対応するhFGF-5核酸配列(配列番号:1)、及び予想される成熟タンパク質配列(配列番号:3)を示す。示したヌクレオチド配列(配列番号:1)(5'及び3'のベクター配列を含む)は800bpの長さである。
【図9A】網膜色素上皮細胞(RPE)条件培地及びFGF-5(R&D系、ロット#40)(配列番号:5)の培養における生存効果を示す顕微鏡写真であり、図9Aはロドプシン特異的モノクローナル抗体を使用した桿状体光受容体細胞の免疫蛍光染色を示す。
【図9B】網膜色素上皮細胞(RPE)条件培地及びFGF-5(R&D系、ロット#40)(配列番号:5)の培養における生存効果を示す顕微鏡写真であり、図9Bは細胞トラッカーを使用した生存細胞の標識を示す。
【図9C】網膜色素上皮細胞(RPE)条件培地及びFGF-5(R&D系、ロット#40)(配列番号:5)の培養における生存効果を示す顕微鏡写真であり、図9Cは対応する相画像を示す。
【図10】Haubら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8022-8026(1990)に記載されたようなFGF-5(fgf-5.simmons)、配列番号:2と、シグナルペプチドがない大腸菌発現産物(fgf-5.haub)、配列番号:3との比較を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性FGF-5ポリペプチドの治療的有効量を投与することを含む、血管形成又は分裂促進を生じることなく、損傷又は死亡から網膜細胞を遅延、防止又は救助する方法。
【請求項2】
活性FGF-5ポリペプチドが天然配列FGF-5分子に対して少なくとも90%の相同性を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性FGF-5ポリペプチドが配列番号:2、配列番号:3及び配列番号:5からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
活性FGF-5ポリペプチドが、配列番号:1の核酸残基26-279にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされるものである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
網膜細胞が網膜ニューロン及び支持細胞からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
網膜ニューロンが光受容体、網膜神経節細胞、置換網膜神経節細胞、アマクリン細胞、置換アマクリン細胞、水平及び二極性ニューロンからなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
支持細胞がミュラー細胞及び色素上皮細胞からなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
網膜細胞が光受容体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
光受容体細胞の損傷又は死亡が眼病、網膜損傷、光又は環境的外傷により引き起こされる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
光受容体細胞の損傷又は死亡が眼病により引き起こされる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
投与方法が眼内である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ポリペプチドが硝子体又は網膜下(光受容体間)腔に投与される請求項9に記載の方法。
【請求項13】
投与方法が硝子体内投与である請求項9に記載の方法。
【請求項14】
投与方法が移植手段によるものである請求項9に記載の方法。
【請求項15】
眼病が、色素性網膜炎;年齢関連性のものを含む黄斑変性;網膜剥離;網膜分断;網膜症;網膜変性疾患;黄斑円孔;変性近視;急性網膜壊死症候群;プルチャー網膜症等の外傷性絨毛網膜症又は挫傷;浮腫;中心もしくは分岐網膜視野閉塞症等の網膜虚血症;コラーゲン血管疾患;血小板減少紫斑病;ブドウ膜炎;イールズ病及び全身性エリテマトーデスに付随する網膜血管炎及び閉塞からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
治療的有効量のFGF-5ポリペプチドを投与することにより、血管形成や分裂促進を生じることなく、損傷又は死亡から網膜ニューロンを遅延、防止又は救助する方法に使用するための、活性FGF-5ポリペプチドと製薬的に許容可能な担体を含有してなる組成物。
【請求項17】
(a)容器;
(b)該容器に付されるラベル;
(c)該容器内に収容される組成物;
を含み、
該組成物は網膜ニューロンの生存を促進するのに有効な活性剤を含有し、容器に付される前記ラベルは、組成物が網膜ニューロンを遅延、防止又は救助するために使用可能であることを示し、活性剤はFGF-5ポリペプチドを含んでなる該組成物である製造品。
【請求項18】
哺乳動物にFGF-5ポリペプチドを投与するための指示書をさらに具備する請求項17に記載の製造品。
【請求項1】
活性FGF-5ポリペプチドの治療的有効量を投与することを含む、血管形成又は分裂促進を生じることなく、損傷又は死亡から網膜細胞を遅延、防止又は救助する方法。
【請求項2】
活性FGF-5ポリペプチドが天然配列FGF-5分子に対して少なくとも90%の相同性を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性FGF-5ポリペプチドが配列番号:2、配列番号:3及び配列番号:5からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
活性FGF-5ポリペプチドが、配列番号:1の核酸残基26-279にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列によりコードされるものである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
網膜細胞が網膜ニューロン及び支持細胞からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
網膜ニューロンが光受容体、網膜神経節細胞、置換網膜神経節細胞、アマクリン細胞、置換アマクリン細胞、水平及び二極性ニューロンからなる群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
支持細胞がミュラー細胞及び色素上皮細胞からなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
網膜細胞が光受容体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
光受容体細胞の損傷又は死亡が眼病、網膜損傷、光又は環境的外傷により引き起こされる請求項8に記載の方法。
【請求項10】
光受容体細胞の損傷又は死亡が眼病により引き起こされる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
投与方法が眼内である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ポリペプチドが硝子体又は網膜下(光受容体間)腔に投与される請求項9に記載の方法。
【請求項13】
投与方法が硝子体内投与である請求項9に記載の方法。
【請求項14】
投与方法が移植手段によるものである請求項9に記載の方法。
【請求項15】
眼病が、色素性網膜炎;年齢関連性のものを含む黄斑変性;網膜剥離;網膜分断;網膜症;網膜変性疾患;黄斑円孔;変性近視;急性網膜壊死症候群;プルチャー網膜症等の外傷性絨毛網膜症又は挫傷;浮腫;中心もしくは分岐網膜視野閉塞症等の網膜虚血症;コラーゲン血管疾患;血小板減少紫斑病;ブドウ膜炎;イールズ病及び全身性エリテマトーデスに付随する網膜血管炎及び閉塞からなる群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
治療的有効量のFGF-5ポリペプチドを投与することにより、血管形成や分裂促進を生じることなく、損傷又は死亡から網膜ニューロンを遅延、防止又は救助する方法に使用するための、活性FGF-5ポリペプチドと製薬的に許容可能な担体を含有してなる組成物。
【請求項17】
(a)容器;
(b)該容器に付されるラベル;
(c)該容器内に収容される組成物;
を含み、
該組成物は網膜ニューロンの生存を促進するのに有効な活性剤を含有し、容器に付される前記ラベルは、組成物が網膜ニューロンを遅延、防止又は救助するために使用可能であることを示し、活性剤はFGF-5ポリペプチドを含んでなる該組成物である製造品。
【請求項18】
哺乳動物にFGF-5ポリペプチドを投与するための指示書をさらに具備する請求項17に記載の製造品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【公開番号】特開2006−89489(P2006−89489A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290896(P2005−290896)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【分割の表示】特願2000−535365(P2000−535365)の分割
【原出願日】平成11年3月10日(1999.3.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.マッキントッシュ
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【分割の表示】特願2000−535365(P2000−535365)の分割
【原出願日】平成11年3月10日(1999.3.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.マッキントッシュ
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】
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