説明

綿短繊維の分散方法および綿短繊維配合ゴム組成物

【課題】デニム繊維や帆布など繊維が複雑に絡み合った綿短繊維をゴム組成物中に混入する場合の分散性の改善に関するものであり、ゴム中への短繊維の分散方法とその方法を用いた短繊維配合ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ゴム組成物中に綿短繊維を分散させる方法において、界面活性剤を0.5〜15wt%の範囲で水中に含んだ分散液に少なくとも綿短繊維を含む繊維を投入して撹拌し、その後脱水乾燥させたものをゴム中に配合分散させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デニムなどの綿繊維が複雑に絡み合った繊維を用いて綿短繊維をゴム組成物中に混入する場合の分散性の改善に関するものであり、ゴム中への綿短繊維の分散方法とその方法を用いた綿短繊維配合ゴム組成物に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム工業分野で部品の高機能、高性能化に伴って、厳しい使用環境にも耐えうるゴム製品が望まれている。ゴム製品は、原料ゴムの選定及び配合剤等の組み合わせによりその特性が定まるが、補強性、耐摩耗性等を改善する目的で短繊維を配合することが一般的になっている。
【0003】
例えば自動車部品に用いられるゴム製品の中に動力伝動用ベルトがあり、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータ等の補機駆動の動力伝達に広く利用されている。ベルトの種類を挙げればローエッジベルトのV芯ゴムやVリブドベルトのリブゴムとして、短繊維が配合されたゴムが用いられている。Vリブドベルトでは、リブ部に綿、ナイロン、ビニロン、レーヨン、アラミド繊維などの短繊維群をベルト幅への配向性を保って埋設することにより、ベルトの摩擦伝動部の耐側圧性高め、更に埋設した短繊維の一部を積極的に摩擦伝動部の両側壁面に露出させることによって、耐摩耗性を向上させている。
【0004】
更に、埋設した短繊維の一部をベルト側面に意図的に突出させることによって、リブ部の摩擦性能及び粘着による発音の抑止効果を狙った伝動ベルトも提案されている。
【0005】
また、上記ベルトの効果をさらによいものとするために摩擦伝動部の両側壁面に突出させる短繊維として、とくにアラミド繊維を用いることにより、アラミド繊維特有の耐摩擦性によりベルト自体の耐久性の向上を意図した伝動ベルトが、例えば特許文献1に開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平1−164839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アラミド繊維やナイロン繊維を代表とする短繊維を配合することにより、ゴム組成物の物性を向上させることができ、高性能なゴム製品を得ることができる。しかし、最近になって石油資源の枯渇の問題や廃棄物による自然への影響等の環境上の問題から、世間では石油を原料とした合成繊維ではなく天然繊維を用いるといった試みがなされている。ゴム中に配合する短繊維を天然繊維としてもゴム物性としては向上させることができるが、繊維が複雑に絡み合った天然素材をゴム中に配合して混練りした場合、これらの短繊維がゴム中で固まりになってしまうという問題があった。これらの天然繊維の中で綿繊維からなる帆布やデニムなどを構成したものの場合、特に繊維に撚りがかかっていたりして複雑に絡み合っており、糸自体を解いて単糸にしてやる必要があり、こうしてやらないと分散性にかけて、ゴム中で短繊維が固まりになって分散不良となることがあった。
【0008】
ゴム中に短繊維の塊があるとその塊が核となって亀裂が早期に発生し、早期に寿命を迎えてしまうといった問題もあった。
【0009】
そこで、本発明はこのような問題を解決し、綿短繊維におけるゴム組成物中への分散性を改善し、例えばベルトとした場合に走行後のクラックが発生する時間を延長してベルト寿命を延ばすことができる綿短繊維のゴムへの分散方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1では、ゴム組成物中に綿短繊維を分散させる方法において、界面活性剤を0.5〜15wt%の範囲で水中に含んだ分散液に少なくとも綿短繊維を含む繊維を投入して撹拌し、その後脱水乾燥させたものをゴム中に配合分散させてなることを特徴とする。
【0011】
請求項2では、分散液中に界面活性剤に加えて軟化剤を0.5〜20wt%の範囲で分散させてなる請求項1記載の短繊維の分散方法としている。
【0012】
請求項3では、ゴム組成物中に綿短繊維を分散させた綿短繊維配合ゴム組成物において、界面活性剤を0.5〜15wt%の範囲で水中に含んだ分散液に少なくとも綿短繊維を含む繊維を投入して撹拌し、その後脱水乾燥させたものをゴム中に配合分散させてなることを特徴とする。
【0013】
請求項4では、分散液中に界面活性剤に加えて軟化剤を0.5〜20wt%の範囲で分散させてなる請求項3記載の綿短繊維配合ゴム組成物としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1によると、綿短繊維を含む繊維を界面活性剤を含有した水系の分散液で処理するという過程を経てゴム中に投入して混練りするものであり、絡み合った天然繊維が界面活性剤の作用により分散液中で解かれて分散し、それを乾燥させたものをゴム中に配合することによって、綿短繊維がゴム中に均質に分散することができ、ゴム組成物の物性を向上させることができる。
【0015】
請求項2によると、界面活性剤に加えてオイルなどからなる軟化剤を添加しており、そうすることでゴム中に配合した後の混練作業にてより分散しやすくなり、より綿短繊維の分散性のよりゴム組成物を得ることができる。
【0016】
請求項3によると、請求項1と同様に綿短繊維を含む繊維を水に界面活性剤を含有したエマルションで処理するという過程を経てゴム中に投入して混練りするものであり、絡み合った綿繊維が界面活性剤の作用により水系の分散液中で解かれて分散し、それを乾燥させたものをゴム中に配合することによって、綿からなる短繊維がゴム中に均質に分散することができ、ゴム組成物の物性を向上させることができる。
【0017】
請求項4によると、請求項2と同様に界面活性剤に加えてオイルなどからなる軟化剤を添加しており、そうすることでゴム中に配合した後の混練作業にてより分散しやすくなり、より短繊維の分散性のよりゴム組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明では、ゴム中に綿繊維を均質に分散させて良好な物性の短繊維配合ゴム組成物を得るために、短繊維の分散方法として界面活性剤を含有する水系の分散液中に投入して撹拌し、その後脱水乾燥させたものをゴム中に配合して混練することによってゴム中に綿短繊維を均等に分散させる短繊維の分散方法であり、そのようにして得られた短繊維分散ゴム組成物である。
【0019】
デニムなどの繊維は綿繊維同士が複雑に絡み合っていることから単にゴム中に投入して混練りしただけでは分散性が悪く、ゴム中で短繊維が塊となってしまい分散不良になることがあったが、短繊維に本発明の処理を行うことによってゴムへの分散がよくなり綿短繊維を全体に均質に分散したゴム組成物を得ることができる。
【0020】
本発明で使用するポリマーとしては、天然ゴム(NR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、硫黄変性または非硫黄変性のクロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマー(EPDM)、あるいはオレフィン系、エステル系、ウレタン系の熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0021】
また、本発明で用いる綿繊維の例としては、デニム、綿帆布、ポプリン、コール天、白木綿、クレープ、金巾、ブロード、ボイル、ローン等の繊維を挙げることができる。昨今、石油資源の枯渇の問題が注目されている中でアラミド繊維やポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の代用としてこれらの繊維をゴム中に短繊維として配合するものである。
【0022】
本発明で用いることができる界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤のものがあり、その添加量は0.5〜15wt%の範囲とすることが好ましい。添加量が20wt%未満であると、界面活性剤を添加することによる短繊維を分散させる効果を発揮せず、15wt%を超えると逆にゴムへの分散性が悪くなるので好ましくない。
【0023】
アニオン系界面活性剤の例としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物などが挙げられる。
【0024】
カチオン系界面活性剤の例としては、アルキルアミン類、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0025】
上記のような界面活性剤を水中に分散させて分散液としているが、その形態としては界面活性剤の種類によって液体が分散している乳濁液もしくは固体が分散している懸濁液等を含む。
【0026】
ノニオン系界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0027】
これらの界面活性剤の中でもアニオン系界面活性剤を用いることが分散性をより高めることができるので好ましい。
【0028】
軟化剤としては、一般的なゴム用の可塑剤であるパラフィン系可塑剤、ナフテン系可塑剤、アロマティック系可塑剤、例を挙げればジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)等のフタレート系、ジオクチルアジペート(DOA)等のアジペート系、ジオクチルセバケート(DOS)等のセバケート系、トリクレジルホスフェートなどのホスフェート系の可塑剤、その他オレンジオイル、ヤシの実油などの天然抽出油でも同様の効果を期待することができる。これらの軟化剤の添加量は0.5〜20wt%の範囲とすることが好ましい。0.5wt%未満であると分散性を向上させる効果を得ることができず、20wt%を超えるとゴムに分散する際に滑りが生じたりして分散性を阻害する恐れがあるので好ましくない。
【0029】
次に、本発明の実施例と本発明の範囲から外れた比較例のゴム組成物を作成して、ゴム中への短繊維の分散状況を比較した。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
実施例1としては、アニオン系界面活性剤を1wt%の割合で水中に分散させた分散液中にデニム繊維を裁断したものを投入して15分間撹拌し、ろ過して乾燥機で乾燥させた。エチレン・プロピレン・ジエンモノマー100質量部に対して前記で得られた綿短繊維を10質量部の割合で配合し、オープンロールで混入して1.0mm厚みのシートとした。シートを観察して短繊維の分散状態を確認した。その結果を表1に示す。
【0031】
(実施例2)
実施例2としては、アニオン系界面活性剤を1wt%の割合で水中に分散させた分散液中にデニム繊維を裁断したものを投入して1時間浸漬した後に、ろ過した乾燥機で乾燥させた。エチレン・プロピレン・ジエンモノマー100質量部に対して前記で得られた綿短繊維を10質量部の割合で配合し、オープンロールで混入して1.0mm厚みのシートとした。シートを観察して短繊維の分散状態を確認した。
【0032】
(比較例)
比較例として、広葉樹の木材パルプを、そのままエチレン・プロピレン・ジエンモノマー100質量部に対して10質量部の割合で配合し、オープンロールで混入して1.0mm厚みのシートとした。シートを観察して短繊維の分散状態を確認した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果からわかるように界面活性剤を両方とも分散させた分散液にて処理を行ったデニムなどの綿短繊維を配合した実施例1のゴム組成物は、ゴム中の短繊維の分散も良好であるという結果が出ている。また、実施例1における撹拌を行う代わりに処理液中に1時間浸漬して脱水乾燥することによって得られた綿短繊維を用いた実施例2においても分散は良好であるとの結果を得ている。それに対して全く処理を行わずにゴムに配合した比較例では分散状態が悪いという結果になっている。これらの結果により、界面活性剤を分散させた処理液の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
自動車用や一般産業用のゴム製品に適用することができる、石油資源を使用しない環境負荷の少ない綿繊維材料を分散よく配合したゴム組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物中に綿短繊維を分散させる方法において、界面活性剤を0.5〜15wt%の範囲で水中に含んだ分散液に少なくとも綿短繊維を含む繊維を投入して撹拌し、その後脱水乾燥させたものをゴム中に配合分散させてなることを特徴とする短繊維の分散方法。
【請求項2】
分散液中に界面活性剤に加えて軟化剤を0.5〜20wt%の範囲で分散させてなる請求項1記載の短繊維の分散方法。
【請求項3】
ゴム組成物中に綿短繊維を分散させた綿短繊維配合ゴム組成物において、界面活性剤を0.5〜15wt%の範囲で水中に含んだ分散液に少なくとも綿短繊維を含む繊維を投入して撹拌し、その後脱水乾燥させたものをゴム中に配合分散させてなることを特徴とする綿短繊維配合ゴム組成物。
【請求項4】
分散液中に界面活性剤に加えて軟化剤を0.5〜20wt%の範囲で分散させてなる請求項3記載の綿短繊維配合ゴム組成物。

【公開番号】特開2008−274466(P2008−274466A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118162(P2007−118162)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】