説明

緑化方法および緑化構造体

【課題】 埋土種子を活用した現地植生復元緑化工法において、施工初期の緑被率を高めつつも将来的には現地植生(施工地周辺植生)を復元できる緑化方法を提供すること、および、その方法を用いた緑化構造体を提供すること。
【解決手段】 施工地周辺Aから採取した埋土種子aを施工地Nに導入して緑化を行うにあたり、前記埋土種子aによる施工地周辺植物Pよりも早期緑化可能な植物繁殖体として、施工直後は生育可能であり、かつその生育可能期間経過後、施工地Nの気候条件において少なくとも1ヵ月間は生育不能となる植物Pを導入している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば道路や山腹等の法面、河川敷、川岸、湖岸などの施工地に、施工地周辺から採取した埋土種子を導入して緑化を行う緑化方法および緑化構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
施工地の緑化に際して、近年では、緑化工の施工現地に隣接する山野表層の表層土(腐植質を含む土壌)を採取して、これが含む現地植生の埋土種子を活用した緑化工法が採用されつつある。
【0003】
即ち、現地植生の埋土種子を含んだ表層土(シードバンク)を採取して、これを植生土とし、これに植生基材としての土壌改良材、保水材、肥料の少なくとも一つを混合して緑化材料とし、これを客土材料として法面(施工地の一例)に吹き付けたり、土のう袋に詰めて植生土のうとして使用したりして、現地周域の植物相を混乱させない緑化を図るようにしている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4001905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、施工地周辺から採取した前記埋土種子による緑化を行う場合、前記特許文献1に記載されている緑化工法では、牧草などの購入(草本)種子を使用しないため早期緑化が困難であり、施工地の表面への前記埋土種子を含む緑化材料の例えば吹き付けから施工地が緑で覆われるまでにある程度の期間を要する。このため、植物が生育していない期間(例えば法面が裸地の期間)に激しい降雨などがあると緑化材料が流亡するおそれがあり、流亡防止効果の高い緑化基礎工を施しておく必要があった。
【0006】
また、植物が生育していないと直射日光が当たるため、吹き付けた緑化材料の乾燥が進み易く、導入した前記埋土種子の発芽生育を阻害する可能性もあった。
【0007】
この発明は、上述の事柄に留意してなされたもので、埋土種子を活用した現地植生復元緑化工法において、施工初期の緑被率を高めつつも将来的には現地植生(施工地周辺植生)を復元できる緑化方法を提供すること、および、その方法を用いた緑化構造体を提供することを目的している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記特許文献1に記載されている緑化工法が持っている上述したような技術課題、すなわち、(1)牧草等の種子を使用しないため早期緑化が比較的難しく、前記緑化材料の吹き付けから法面を植物が被覆するまでにはある程度の期間を要する。(2)法面が裸地の期間に激しい降雨があった場合、埋土種子を含む緑化材料の流失が起こる。(3)日射が法面に直接当たることでより乾燥が進み植物の生育を阻害する。を解決することができる手だてを鋭意検討し、その結果次の点に注目するに至った。
【0009】
前記緑化工法で用いる埋土種子(現地採取した既存の植物種子)は牧草等に比べ発芽速度および成長速度が遅いため早期緑化には不適当である。かといって、前記緑化工法は現地の既存の植生(前記埋土種子による施工地周辺植生)を復元することを目的としているため、一般に法面緑化で用いられている早期緑化可能な牧草及びシバは使用することができず、早期緑化を行うことは難しい。そこで早期緑化及び現地の既存の植生を復元するという相反する内容の調和点としては、牧草及びシバの種類の中でも、「高温により死滅する種(例:ペレニアルライグラス)」、「霜害等の低温により死滅する種(例:バヒアグラス)」の種子を用いることが最適であるという知見に至った。
【0010】
例えば日本の国土は南北に長く、年平均気温、年間降水量も様々で、積雪地、非積雪地とバラエティに富んでいる。そのため、地域に適した草種や品種の選定が重要となる。その際の判断基準として使用される数字が「温量指数」である。温量指数(℃)とは、月平均気温が5℃を超えた温度を積算した数字である。例えば、月平均気温が15℃の場合は15−5=10がその月の指数となる。下記表1に主要年別・温量指数を示す。図10には、表1に示した温量指数に基づき区分けされた寒冷地域(I)〜(III)と温暖地域(IV)〜(VI)が示されている。つまり、前記緑化工法で例えば吹き付けを行うにあたり、夏季に高温となる温暖地域、図10中の例えば地域(V)の施工地では、牧草及びシバの草本種のうち耐暑性の弱い種類の種子を少量だけシードバンク(前記埋土種子を含んだ表層土を指す)と一緒に配合する一方、逆に冬季に極低温となる寒冷地域、図10中の例えば地域(I)の施工地では、耐寒性の弱い種類の種子を少量だけシードバンクと一緒に配合し吹き付けを行う。そして、吹き付けを行う施工時期にも留意が必要で、前記温暖地域(V)では秋〜冬季に施工を行い、この場合は、その地域(V)の夏期の気温、夏期の乾燥条件が生育限界を上回る植物を導入する(秋〜冬施工時は耐暑性の弱い種類の種子による植物が生育し、これは夏になると枯死する)。一方、前記寒冷地域(I)では春〜夏季に施工を行い、この場合は、その地域(I)の冬期の気温が生育限界温度を下回る植物を導入する(春〜夏施工時は耐寒性の弱い種類の種子による植物が生育し、これは冬になると枯死する)。このように、前記地域(I)〜(VI)が施工時期を決める際の一つの目安となる。
【0011】
【表1】

【0012】
そして、施工にあたっては、まず、少量だけ配合した牧草等の種子が出芽して初期緑化を行い、その後現地採取した種子(前記埋土種子)が出芽する。入れすぎないように少量だけ配合した牧草等は上述したように夏季または冬季に各々死滅し、シードバンクに入っていた既存の種、すなわち、前記埋土種子から発芽した植物のみが残り生育することとなる。また、現地採取した種子(前記埋土種子)の発芽率が低い(出芽個体が少ない)場合、周辺植生からの種子の導入(飛来種子による緑化)に期待することができる。この場合、周辺植生からの種子が飛来してくるまでの時間稼ぎ(景観を保つ)にも牧草等の配合は有効である。
【0013】
かくして、この発明は、施工地周辺から採取した埋土種子を施工地に導入して緑化を行うにあたり、前記埋土種子による施工地周辺植物よりも早期緑化可能な植物繁殖体として、施工直後は生育可能であり、かつその生育可能期間経過後、施工地の気候条件において少なくとも1ヵ月間は生育不能となる植物を導入することを特徴とする緑化方法を提供する(請求項1)。
【0014】
この場合、前記早期緑化可能な植物繁殖体として、施工地の冬期の気温が生育限界温度を下回る耐寒性の低い植物を導入するのが好ましい(請求項2)。前記耐寒性の低い植物としては、セントオーガスチングラス、カーペットグラス、バヒアグラスなどの草本を挙げることができる。これらセントオーガスチングラス、カーペットグラス、バヒアグラスは、春〜夏は生育するが、冬になると枯死する植物である。その中でも、特にバヒアグラスは、耐寒性は極めて弱く、一方で耐暑性と耐乾燥性いずれも極めて強い点で春〜夏施工するのに用いる早期緑化可能な植物繁殖体として好適な植物である。
【0015】
また、前記早期緑化可能な植物繁殖体として、施工地の夏期の気温が生育限界を上回る耐暑性の低い植物を導入するのが好ましい(請求項3)。前記耐暑性の低い植物としては、ラフブルーグラス、ペレニアルライグラス、ベントグラスなどの草本を挙げることができる。これらラフブルーグラス、ペレニアルライグラス、ベントグラスは、秋〜冬は生育するが、夏になると枯死する植物である。
【0016】
なお、前記早期緑化可能な植物繁殖体として、繁殖力の低い植物を使用することが好ましい。すなわち、施工直後は生育可能であり、かつその生育可能期間経過後、施工地の気候条件において少なくとも1ヵ月間以上は生育不能となる植物として、施工後2〜3年たつと種子ができなくなる植物を導入するのが好ましく、不稔性の植物を用いることが最も好適である。
【0017】
また、この発明は別の観点から、請求項1〜3のいずれかに記載の方法を用いた植生面を有する緑化構造体であって、前記植生面は、少なくとも前記埋土種子と前記早期緑化可能な植物繁殖体の種子とを含む状態で形成されていることを特徴とする緑化構造体を提供する(請求項4)。
【0018】
そして、前記植生面は、前記埋土種子と、前記早期緑化可能な植物繁殖体の種子と、植生基材としての土壌改良材、保水材、肥料の少なくとも一つを混合してなる緑化材料を施工地の表面に散布することで形成されているのが好ましい(請求項5)。
この散布形態としては、
(1)前記緑化材料(埋土種子、早期緑化可能な植物繁殖体の種子、植生基材)をそのまま施工地の表面に撒き出す形態、
(2)前記緑化材料をエアロシーダ等の吹付け機を用いて施工地の表面に吹き付ける形態、
(3)前記植生基材のみによって施工地の表面に基盤層を形成した上で、前記埋土種子と早期緑化可能な植物繁殖体の種子の混合種子を基盤層に吹き付ける形態、
を挙げることができる。
特に、前記形態(3)は、少量の混合種子で大面積の緑化施工が可能となる。
【0019】
なお、この発明では、以下に示す形態を採ることもできる。
〔施工地の表面にネットを敷設する形態〕
(4)施工地の表面にネットを敷設し、その上から前記緑化材料(埋土種子、早期緑化可能な植物繁殖体の種子、植生基材)をそのまま施工地の表面に撒き出すことによって植生面を形成する。
(5)施工地の表面にネットを敷設し、その上から前記緑化材料を吹付け機を用いて施工地の表面に吹き付けることによって植生面を形成する。
(6)施工地の表面にネットを敷設し、その上から前記植生基材のみを散布して基盤層にを形成した上で、前記埋土種子と早期緑化可能な植物繁殖体の種子の混合種子を基盤層に吹き付けることによって植生面を形成する。
〔施工地の表面に土のうを敷設する形態〕
(7)前記緑化材料(埋土種子、早期緑化可能な植物繁殖体の種子、植生基材)を収容した土のうを施工地の表面に敷設することによって植生面を形成する。尚、小型の袋体に前記緑化材料を収容し、施工地に張設したネットに前記袋体を装着させることによって植生面を形成することもできる。
【発明の効果】
【0020】
前記請求項1に記載された緑化方法においては、早期緑化可能な植物繁殖体として、施工直後は生育可能であり、かつその生育可能期間経過後、施工地の気候条件において少なくとも1ヵ月間は生育不能となる植物を導入したので、以下の作用効果を奏する。
【0021】
施工直後は早期緑化可能な導入植物が生育して施工地を緑で覆うので、植物が生育していない期間(施工地としての例えば法面が裸地の期間)に激しい降雨などがあると埋土種子を含む緑化材料が流亡するおそれがあり、流亡防止効果の高い緑化基礎工を施しておく必要があったという技術課題を解決することができる。
【0022】
そして、施工直後は早期緑化可能な導入植物が生育して施工地を緑で覆い、時間が経つに連れてその導入植物は枯死して埋土種子の生育環境を整える材料となる。すなわち、早期緑化可能な前記導入植物により施工地が緑で覆われることから、前記導入植物による適度な日除け作用と保水効果によって埋土種子が乾燥するのを防止することができる。
【0023】
また、その導入植物は施工地の気候条件において少なくとも1ヶ月間は生育不能となる期間が存在するため、前記導入植物は施工直後では生育するものの生育不能期間中に確実に枯死し、その後の生育好適期を迎えて再び繁茂することは無い。つまり、本来はその地域に生育していなかった植物を導入し、施工直後はその導入植物を有効活用したとしても、導入植物の繁茂期間は施工〜生育不能期間までの数ヶ月間だけに限定されており、導入植物が地域生態系へ与える悪影響(交雑による遺伝子錯乱や現地植物の駆逐など)を極めて低くすることができる。なお、前記導入植物は枯死し、植物遺体の腐朽過程において腐植が生じ、法面(施工地の一例)を構成する例えば硬質土壌と前記腐植とが混合したり、結合したりすることによって、前記埋土種子による施工地周辺植物が生育しやすい生育基盤としての有機質土壌が生まれるのであって、たとえ土壌の少ない法面であっても、前記埋土種子は、前記有機質土壌を生育基盤として発芽することが可能である。
【0024】
このように、前記請求項1に記載された緑化方法においては、早期緑化可能な前記導入植物により施工初期における施工地の浸食を防止することができるとともに、施工初期において植物が生育していない期間(例えば法面が裸地の期間)が存在する事態を回避して早期緑化可能な前記導入植物により施工地が緑で覆われることにより景観性を高めることができるものであり、かつ埋土種子の生育を好適に行うことのできる環境を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施形態に係る緑化方法における法面緑化の施工形態図である 。
【図2】上記実施形態における下層植生の下刈りと新しい落葉・落枝の除去状況を示 す説明図である。
【図3】上記実施形態における解した古い落葉などからなる表土のバキューム吸引状 況を示す説明図である。
【図4】上記実施形態における植生材料と早期緑化可能な植物繁殖体の種子と植生基 材とを撹拌した緑化材料の吹き付け説明図である。
【図5】上記実施形態における施工状態を示す構成説明図である。
【図6】古い落葉などからなる表土の解し状況の変形例を示しており、耕運爪による 古い落葉などからなる表土の解し状況を示す説明図である。
【図7】別の実施形態による表土の解し状況の説明図である。
【図8】一部を破断した植生土のうの斜視図である。
【図9】(A)は植生マットの施工断面図、(B)は植生マットを部分的に破断した 斜視図である。
【図10】温量指数に基づき区分けされた地域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜4は、施工地周辺から採取した埋土種子と、早期緑化可能な植物繁殖体の種子と、植生基材としての土壌改良材、保水材、肥料の少なくとも一つを混合してなる緑化材料を法面の表面に吹き付けて緑化を行うようにしたこの発明の一実施形態を例を示す。
【0027】
図1〜4において、緑化の施工地(この実施形態では道路際の法面)Nに隣接する地域(施工地周辺)Aの例えば法面表層の分解しかけた古い落葉などからなる表土1と、これに含まれる埋土種子aとを、植生材料2として採取して、この植生材料2に植生基材3と早期緑化可能な植物繁殖体の種子bとを混合して緑化材料4とし、この緑化材料4を客土材料として法面Nに吹き付けて、隣接地域Aに埋土種子aを活用して、法面Nを緑化するようにしている。なお、前記表土1として、前記法面表層の土と腐葉土を主として含むものが好ましく、前記法面表層の土と腐葉土だけを採取して、これを前記表土1とするのがより好ましい。
【0028】
具体的には、図2に示すように、前記表土1とこれに含まれる埋土種子aのバキューム吸引にとって好適なように、前記表土1とこれに含まれる埋土種子aの採取域Aに現存の下層植生(例えば小灌木やカヤ、笹など)5を下刈りして、この刈り取った下層植生5と落枝6とを熊手などによって大雑把に排除し、より好適には、緑化工に用いて好適な前記表土1を残すように、新しい落葉1aについても、これを熊手などによって大雑把に排除する。
【0029】
次に、図3に示すように、この採取域Aに現れた法面表層を解して、この解した前記表土1とこれに含まれる落下種子aとを植生材料2として、これをバキューム吸引手段(図1を参照)7によって吸引し、貯留タンク8に採取する。
【0030】
前記表土1の解しに際して、図6に示すように、小型の耕運機(耕運爪のみを示している。)9やその他レーキ等を用いてもよいのであるが、この実施形態では、図3に示すように、バキューム吸引手段7に接続される表土吸い込み用のパイプ製把手10の先端に、下部を開口したエアケース11を連設し、かつ、このケース11に、ケース11内の落葉1に向けて高圧エアを吹き付けるためのノズル12を設けると共に、このノズル12に高圧エアの供給ホース13を接続して、ケース11内において、高圧エアの吹き付けにより、採取域Aの例えば林床表層の表土1を5cm〜10cm程度の深さにわたって解すようにしている。
【0031】
そして、パイプ製把手10の内部にも高圧エアの吹き付けノズル14を設けると共に、このノズル14に高圧エアの分岐供給ホース15を接続して、上記のバキューム吸引手段7による落葉1のバキューム吸引を補助させるようにし、もって、土砂はもとより大きな礫を可及的に含ませないようにして、採取域Aの林床表層の表土1とこれに含まれる埋土種子aとを採取するようにしている。
【0032】
このようにして採取した前記法面表層の土、腐葉土、埋土種子aを含む植生材料2を運搬車16の荷台に積み込んで、緑化対象の法面Nに運搬し、かつ、図4に示すように、これを適宜ストックする一方、法面Nに流亡防止用のネット17を張設して、例えばエアロシーダー等の吹付け機18を用いて、これの撹拌タンク19に必要量の植生材料2と植生基材3と必要量の早期緑化可能な植物繁殖体の種子bとを投入し、この撹拌された緑化材料4を、ホース20先端のノズル21から法面Nに例えば1cm〜5cm程度の厚みで吹き付けて、法面Nを現地植生の埋土種子aによって緑化するようにしている。この実施の形態では、図10で示す例えば寒冷地域(I)を施工地としており、早期緑化可能な植物繁殖体の種子bとして、バヒアグラスの種子を使用する。
【0033】
以下、緑化方法について説明する。
図5(A)において、緑化対象である法面(施工地の一例)Nの表面を整地にし、法面N上にネット17を張設してこれをアンカー22で止めた後、吹付け機18の撹拌タンク19に投入されて攪拌された緑化材料4(1,3,a,b)を、ホース20先端のノズル21から法面Nに例えば1cm〜5cm程度の厚みで吹き付ける。この実施形態では夏季(例えば8月)に施工を行うものとする。
【0034】
図5(A)に示した施工直後からバヒアグラスの種子bが発芽し、早い時期に図5(B)に示すように、法面Nにバヒアグラス(植物P’)が生育する。すなわち、前記種子bは、地上部および根茎の成長が早く、法面Nに植物P’が例えば半年程度で旺盛に繁茂することになる。こうして植物P’(草本)が繁茂することによって、法面Nが緑で覆われることになる。そして、植物P’により法面Nが緑で覆われることから、植物P’による適度な日除け作用と保水効果によって埋土種子aが乾燥するのを防止することができる。なお、この実施形態では、施工開始時点で緑化材料4を客土材料として法面Nに吹き付けており、植物生育環境は既に整った状態にあることから、施工直後の早い時期にバヒアグラス(植物P’)が生育するだけではなく、埋土種子aの一部も発芽する可能性がある。また、植物P’(草本)が繁茂することによって、法面Nの地中の無機物(リンなど)が植物P’に吸収され、有機物へと変化する。
【0035】
その後、翌年の1月から2月にかけて来襲する極寒な気候により、法面Nにて繁茂した植物P’(草本)が、法面Nの植生群落内から衰退して、図5(C)に示すように、早期の内に枯死するとともに、図5(D)に示すように、植物P’が生育していたエリアに、すなわち、植物生育環境は既に整った状態にあるエリアに、植物P’により乾燥防止の恩恵を受け続けていた埋土種子aが生育することになる。そして、このようにして行われる遷移が至る所で進み、やがて法面Nには埋土種子aによる植物Pが成長する。その結果、法面Nは植物Pよりなる植生群落によって覆われ、その周辺Aの生態系になじむように緑化された状態となる。
【0036】
なお、植物P’が枯死した際、植物遺体の腐朽過程において腐植が生じ、法面Nを構成する例えば硬質土壌と前記腐植とが混合したり、結合したりすることによって、前記埋土種子aによる法面N周辺植物が生育しやすい生育基盤としての有機質土壌が生まれる。そのため、たとえ土壌の少ない法面Nであっても、前記埋土種子aは、前記有機質土壌を生育基盤として発芽することが可能である。
【0037】
また、上記の吹き付け施工に代えて、予め法面Nに、土壌あるいは土壌と植生基材3との混合物、又は、植生基材3のみによって基盤層を形成した上で、上記の早期緑化可能な植物繁殖体の種子bと植生材料2を吹き付ける2層吹き付けの形態をとることも好適であって、このようにすると、少量の早期緑化可能な植物繁殖体の種子bと少量の植生材料2で大面積の緑化施工が可能となる。
【0038】
上記の植生基材3としては、土壌改良材、保水剤、有機堆肥、化学肥料、植物性繊維などの少なくとも一つが選択される。そして、保水材としては、パーライト、バーミキュライト、高吸水性ポリマーなどが選択され、土壌改良材としては、ピートモス、バーク堆肥、ベントナイトが選択される。
【0039】
図7には、植生材料2の別の解し状況を示している。即ち、上記の実施形態では、前記表土1として、より好ましくは前記法面表層の土や腐葉土だけを、そして、これらに含まれる落下種子aを採取するのに対して、図7においては、古い落葉がたまったA00層と、腐植がたまったA0 層と、腐植と土とが混ざったA1 層と、養分の抜けたA2 層とを含む表土1’を、例えば耕運機(耕運爪のみを示している。)9で解して、これを植生材料2としてバキューム採取するようにしている。
【0040】
この際、更に下方のB2層、即ち、抜けた養分やそのほかの土の成分がたまるB2層をも含む表土を解し、これを植生材料2としてバキューム採取するようにしてもよい。
【0041】
なお、上記の実施形態では、現地植生による緑化対象を道路際の法面Nとしているが、例えば集中豪雨などによる山地の崩壊地なども緑化対象にでき、更に、表土1あるいは1’の採取域Aは、上記した林地に限られるものではなく、例えば大規模な土地造成を行うニュータウンの開発域や道路等の建設域なども採取対象とされる。
【0042】
即ち、例えば道路等の建設に際して、立木の生育している林地等を伐開して法面を形成する際に、或いは、ニュータウンの開発に際して、林地の伐開前または伐開直後の例えば法面表層の古い落葉などからなる表土1と、これに含まれる埋土種子aとを植生材料として採取しておき、これに早期緑化可能な植物繁殖体の種子bと植生基材を混合して、これを法面や造成地などに吹き付けることで、法面や造成地などを現地植生によって緑化することが可能となる。
【0043】
上記の緑化材料4は吹き付け工法に用いるだけでなく、図8に示すように、緑化材料4を土のう袋22に詰めて植生土のう23とし、これを適宜に積み重ねて使用する植生土のう工法に用いて実施可能であり、或いは、図9(A),(B)に示すように、例えば治山や護岸緑化の工法に用いる注入マット24に使用することもできる。
【0044】
即ち、注入マット24による緑化工は、2枚のシート25,26を適宜に接合して、シート25,26間に格子状に連なる空間Pを形成する一方、例えば河川の岸辺を緑化の施工現地Nとして、この施工現地Nにアンカー27によってシート25,26を張設し、かつ、上記の空間Pに緑化材料4を充填する工法であって、これに緑化材料4を好適に用いることができるのであり、この注入マット24或いは植生土のう23の何れにおいても、植生材料2および早期緑化可能な植物繁殖体の種子bひいては緑化材料4が土砂や礫を殆ど含まないで、主体が落葉1で軽量であることから、取り扱い面や作業性の面で優れたものとなる。
【符号の説明】
【0045】
N 施工地
A 施工地周辺
a 埋土種子
P 施工地周辺植物
P’ 早期緑化可能な植物繁殖体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工地周辺から採取した埋土種子を施工地に導入して緑化を行うにあたり、
前記埋土種子による施工地周辺植物よりも早期緑化可能な植物繁殖体として、施工直後は生育可能であり、かつその生育可能期間経過後、施工地の気候条件において少なくとも1ヵ月間は生育不能となる植物を導入することを特徴とする緑化方法。
【請求項2】
前記早期緑化可能な植物繁殖体として、施工地の冬期の気温が生育限界温度を下回る耐寒性の低い植物を導入する請求項1に記載の緑化方法。
【請求項3】
前記早期緑化可能な植物繁殖体として、施工地の夏期の気温が生育限界を上回る耐暑性の低い植物を導入する請求項1に記載の緑化方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法を用いた植生面を有する緑化構造体であって、
前記植生面は、少なくとも前記埋土種子と前記早期緑化可能な植物繁殖体の種子とを含む状態で形成されていることを特徴とする緑化構造体。
【請求項5】
前記植生面は、前記埋土種子と、前記早期緑化可能な植物繁殖体の種子と、植生基材としての土壌改良材、保水材、肥料の少なくとも一つを混合してなる緑化材料を施工地の表面に散布することで形成されている請求項4に記載の緑化構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−259386(P2010−259386A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113452(P2009−113452)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】