説明

緑被率マップ作成装置、緑被率マップ作成方法、及び、プログラム。

【課題】 高分解能の緑被率マップ、および、緑地マップを作成する。
【解決手段】 高分解能緑被率マップ作成装置は、ある波長帯の反射光強度を1バンドセンサで撮影した画像データを用いる。これと共に、ある波長帯の反射光強度を、複数バンドセンサで波長域を分割して撮影した画像データであるパンクロマチック画像データを用いる。高分解能緑被率マップ作成装置は、パンクロマチック画像データの輝度値と、リサンプリングしたマルチスペクトル画像データの赤外バンド値を用いて、従来よりも高分解能の緑被率マップを作成することができる。高分解能緑被率マップ作成装置を空中写真や、衛星画像へ適用すれば、広域の高解像度緑被率マップが容易に取得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑被率マップ作成装置、緑被率マップ作成方法、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市域の緑は、都市環境の維持・改善、都市防災等の様々な観点から、その役割が注目されている。また、都市域の緑地の分布形態は、点的に分布し、ひとまとまりの面積が数平方メートル以下の場合が多く、ほとんどの緑の規模は数十平方メートル以下である。従って、都市域における緑被分布を扱う上で数平方メートルの小規模の緑を無視することはできない。
【0003】
都市域における緑被分布を求める手段として、空撮画像や衛星画像を利用して緑被率マップ(ある地域又は地区における緑地(被)面積の占める割合を示す地図)を作成することが行われている。緑被率マップを作成する方法としては、例えば、(1)写真判読によって、植生領域を判読して地図を作成する方法、(2)画像処理によって緑被率を抽出することによって地図を作成する方法、等が知られている。
【0004】
上記の(1)の写真判読による方法は、人手も時間もかかり、非効率的であり、また、結果に属人性を有する。
(2)の画像処理による方法として、撮像対象の領域の画像データを用いて、図9(a)に示すような単一画素内が比較的均質となる領域(草や作物と土壌の組み合わせといった領域)で有効とされるNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)計算処理によって緑被率を抽出する方法がある。また、図9(b)に示すような単一画素内に複数の性質が混在している場合(ミクセル状態)に、解像度の低いデータを用いて、単一画素内の緑被率まで抽出することができるミクセル計算処理を用いる方法もある。これらの方法は、例えば、非特許文献1に開示されている。
【非特許文献1】尹 敦奎、梅干野 晃、「都市域における画素内緑被率推定の為の指標」、日本リモートセンシング学会誌、Vol18 No3 p228−240 1998。
【0005】
(2)の画像処理による緑被率の推定方法では、画像処理の単位が画素単位であるため、その推定精度は、前述した数十平方メートル以下の緑地が多い都市域での緑被分布を扱う上では、不十分な精度であることが多かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、都市域での緑被分布を扱う上で十分な精度の緑被率を抽出することができる緑被率マップ作成装置、緑被率マップ作成方法、及び、コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
また、本発明は、小サイズの緑地を考慮することが可能な緑被率マップ作成装置と緑被率マップ作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る緑被率マップ作成装置は、
地表の所定領域のパンクロマチック画像データと、前記所定領域の前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低いマルチスペクトル画像データと、を記憶する記憶手段と、
前記パンクロマチック画像データの解像度に基づいて、前記マルチスペクトル画像データの解像度を向上した時の各画素の画像データを求める画像データ生成手段と、
前記再構成手段で再構成したマルチスペクトル画像データと、前記パンクロマチック画像データと、から各画素に対応する位置の緑被率を算出する緑被率算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、上記緑被率マップ作成装置において、
前記パンクロマチック画像データは、所定の波長帯の光を用いて前記所定領域を撮影することにより得られた画像データであり、
前記マルチスペクトル画像データは、前記所定の波長帯に含まれる複数の波長域それぞれの光を用いて撮影し、それぞれ前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低い複数の画像データから構成され、
前記再構成手段は、前記マルチスペクトル画像データを構成する各画像データを、前記パンクロマチック画像データの解像度と同一の画像データに再構成し、
前記緑被率算出手段は、前記再構成手段で再構成したマルチスペクトル画像データと前記パンクロマチック画像データとの各対応する画素の画像データを用いたミクセル画像処理により、各画素に対応する位置の緑被率を算出する、
ようにしてもよい。
【0009】
さらに、上記高分解能緑被率マップ作成装置は、
前記緑被率算出手段によって算出した緑被率を、前記再構成手段により生じる誤差を小さくするように修正する修正手段、
をさらに備えてもよい。
【0010】
また、上記緑被率マップ作成装置は、
前記マルチスペクトル画像データから緑被率を算出する第二の緑被率算出手段と、
前記緑被率算出手段によって算出した緑被率を、前記第二の緑被率で算出した緑被率と該緑被率を算出した画素に対応する前記パンクロマチック画像データの全画素の緑被率の平均値と、が等しくなるように正規化補正する正規化補正手段と、
をさらに備えてもよい。
【0011】
また、本発明の第2の観点に係る緑被率マップ作成方法は、
地表の所定領域のパンクロマチック画像データと、前記所定領域の前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低いマルチスペクトル画像データと、を記憶する記憶手段を備える高分解能緑被率マップ作成装置の高分解能緑被率マップ作成方法であって、
前記パンクロマチック画像データの解像度に基づいて、前記マルチスペクトル画像データの解像度を向上して、画像データを再構成する再構成ステップと、
前記再構成ステップで再構成したマルチスペクトル画像データと、パンクロマチック画像データと、から各画素に対応する位置の緑被率を算出する緑被率算出ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
地表の所定領域のパンクロマチック画像データと、前記所定領域の前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低いマルチスペクトル画像データと、を記憶する記憶手段を備える高分解能緑被率マップ作成装置のコンピュータに、
前記パンクロマチック画像データの解像度に基づいて、前記マルチスペクトル画像データの解像度を向上して、画像データを再構成する再構成手順と、
前記再構成手順で再構成したマルチスペクトル画像データと、パンクロマチック画像データと、から各画素に対応する位置の緑被率を算出する緑被率算出手順と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の装置によれば、上述したミクセル計算処理を改良して更に高解像度化し、都市域での緑被分布を扱う上で十分な精度の緑被率を抽出することができる。従って、従来よりも高解像度の緑被率マップを作成することができる。
そして、本発明の装置を空撮画像や衛星画像に適用すれば、広域の高解像度緑被率マップが、取得できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る高分解能緑被率マップ作成装置を図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係る高分解能緑被率マップ作成装置10は、図1に示すように、制御部11と、記憶部12と、ROM13と、入力操作部14と、入力部15と、表示制御部16と、表示装置17と、画像入力部18と、から構成される。
【0016】
制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、及びRAM(Random Access Memory)等から構成されており、CPUが後述するROM13等に記憶されている各種プログラムを適宜実行することによって、高分解能緑被率マップ作成装置10の処理に必要な各種演算を行うと共に各部の動作を制御する。なお、RAMは、CPUがプログラムを実行する際、ワークメモリとして用いられる。
【0017】
記憶部12は、ハードディスク等の記憶装置で構成される。記憶部12には、空撮画像や衛星画像等の入力画像データや、作成した緑被率マップの画像データ等が記憶される。なお、記憶部12は、入力画像データを記憶する記憶装置と、作成した緑被率マップの画像データを記憶する記憶装置と、現地データを記憶する記憶装置等の目的に応じた複数の記憶装置から構成されてもよい。
制御部11は、記憶部12にアクセスが可能であり、加工・補正した画像データを記憶したり、加工・補正、表示のためにRAM等に画像データを読み出すことが可能である。
【0018】
ROM13は、制御部11が高分解能緑被率マップを作成するための種々のプログラム等を記憶する。ROM13には、図2に示すように、おおまかに、解析処理の前処理を実行するためのデータ前処理プログラム20と、データの解析処理を実行するためのデータ解析処理プログラム30が記憶される。
【0019】
データ前処理プログラム20は、画像輝度補正処理を実行する画像輝度補正処理モジュール21と、画像重ね合わせ処理を実行する画像重ね合わせ処理モジュール22と、画像再構成処理を実行する画像再構成処理モジュール23等を含む。
データ解析処理プログラム30は、参照値算出処理を実行する参照値算出処理モジュール31と、緑被率算出処理を実行する緑被率算出処理モジュール32と、閾値算出処理を実行する閾値算出処理モジュール33と、2値化処理を実行する2値化処理モジュール34等を含む。
上記の各処理の具体的内容については後述する。
【0020】
表示装置17は、例えば液晶表示装置(LCD:Liquid Crystal Display)等から構成されており、高分解能緑被率マップ作成装置10による種々の動作を実行するための画像等を表示するものである。
【0021】
表示制御部16は、記憶部12から供給される画像データ等を、アナログ信号に変換して表示装置17に出力するものである。これにより、表示装置17には、緑被率マップの加工・補正段階の画像や、作成した緑被率マップの画像等が表示される。
【0022】
画像入力部18は、CD−ROM等の外部記憶媒体から、画像データを入力する。また、画像入力部18は、通信機能を備え、有線・無線通信により画像データを入力するようにしてもよい。
【0023】
入力操作部14は、例えば十字カーソルキーや、数字や文字を入力するための英数字キー、機能などを指定するためのボタン等から構成され、ユーザによって操作されるものである。
【0024】
入力部15は、入力操作部14における操作を認識して制御部11に入力する。さらに、画像入力部18で入力された画像データを制御部11に入力する。
【0025】
次に、上記構成を備える高分解能緑被率マップ作成装置の動作について説明する。
【0026】
本実施形態において用いられる入力画像データには、例えば、空撮画像や衛星画像が用いられる。これらの空撮画像や衛星画像は、太陽光源から対象物に達した電磁波の反射・散乱・放射の強度を観測するセンサを用いて撮影される。これらセンサには、可視光波長域や可視〜近赤外波長域を単一のバンドで観測するパンクロマチックセンサと、ある波長域を複数のバンドで分割して観測するマルチスペクトルセンサ等がある。
【0027】
上記のそれぞれのセンサで撮影された画像を、それぞれ、パンクロマチック画像データ51(以下略してパンクロ画像データ)、マルチスペクトル画像データ52(以下略してマルチ画像データ)とよぶ。これらの画像データの解像度に対応させた模式図を図3に示す。
図3(a)に示したパンクロ画像データ51は、幅広い波長域の光(電磁波)を用いて、マルチ画像データ52に比べ高解像度で撮影された画像データ(通常はマルチ画像データ52の約4倍程度(縦:2倍、横:2倍))である。
また、図3(b)に示したマルチ画像データ52は、例えば、青色波長域、緑色波長域、赤色波長域、近赤外波長域の4バンド(マルチバンド)の光でそれぞれ撮影された画像データである。それぞれのバンドで撮影された画像データを、B画像データ53、G画像データ54、R画像データ55、IR画像データ56とよぶ。
【0028】
上記のパンクロ画像データ51及びマルチ画像データ52は、それぞれ、記憶部12に記憶される。制御部11は、これらの画像データを解析する。また、パンクロ画像データ51及びマルチ画像データ52は、各センサで撮影した輝度値と共に、そのセンサの位置に対応した座標情報とから構成される。
高分解能緑被率マップ作成装置10の処理動作について、図4及び図5に示すフローチャートを参照して説明する。
【0029】
まず、制御部11は、ROM13に格納されたデータ前処理プログラム20を実行し、パンクロ画像データ51及びマルチ画像データ52を記憶部12に記憶する(ステップS101)。例えば、空撮画像や衛星画像を撮影する撮影装置から、無線通信を利用して、画像データを画像入力部18で受信し、記憶部12に記憶する。また、撮影する撮影装置と、高分解能緑被率マップ作成装置10とを、パラレル接続やUSB接続等のシリアル接続等で接続し、撮影した画像データを、ケーブルを介して記憶部12に記憶するようにしてもよい。さらに、記憶部12には、予め植生域と非植生域の領域を示した現地調査データ等の各種画像データも記憶しておく。
【0030】
また、上記の空撮画像や衛星画像といった画像データを受信するまでの間に様々な歪みやノイズなどの悪影響を受けるため、信頼性の高い解析を行うためにはこれらを取り除く必要がある。これらの悪影響の代表的な例としては、(1)幾何学的歪、(2) 太陽高度や地形に起因する影響、(3)大気の影響、(4)センサ感度の影響、(5)デジタル化に伴う影響に大別することができる。これらの悪影響を取り除くために、制御部11は、画像輝度補正処理モジュール21を実行して、画像データの輝度値を、既知の手法を用いて補正する(ステップS102)。
【0031】
ここでの画像輝度補正処理の具体的な方法の詳細は、例えばNASA(National Aeronautics and Space Administration)等で非特許文献2に、補正方法が公開されている
【非特許文献2】E.F. Vermote、A. Vermeulen、「Atmospheric Correction Algorithm: Spectral Reflectances (Mod09)」、NASA、1999年。
【0032】
次に、制御部11は、画像重ね合わせ処理モジュール22を実行し輝度値を補正したパンクロ画像データ51における各画素の座標情報と、マルチ画像データ52における各画素の座標情報とを対応づける(ステップS103)。例えば、図3(a)、(b)のようにパンクロ画像データ51の解像度が、マルチ画像データ52の解像度の縦横それぞれ2倍であった場合、マルチ画像データ52の(1,1)の座標に、パンクロ画像データ51ではさらに4分割された(1,1)、(1,2)、(2,1)、(2,2)という座標を対応付けて記憶する。
【0033】
次に、制御部11は、画像再構成処理モジュール23を実行し、マルチ画像データ52をパンクロ画像データ51と同一の解像度の画像にリサンプリング(画像再構成)する(ステップS104)。ここでのリサンプリング処理の手法には、数多くの手法が知られているが、本実施形態では、ニアレストネイバー法を用いる。
このニアレストネイバー法 は補間関数として矩形関数を用い、最も近い画素の輝度値を出力の補間値とする方法であり、極めて簡単なロジック演算で実現でき、ハードウェアでこれを実現する場合でも単純なハードロジック回路で構成できる。
この手法をマルチ画像データ52に適用し、パンクロ画像データ51と同一の解像度の画像になるように補間点を内挿して、リサンプリングする。
【0034】
また、ここでのマルチ画像データ52のリサンプリングの処理は、解像度の低い画像データを高解像度の画像データに変換する任意の手法でよい。例えば、補間点の周囲にある四つの画素の輝度値の加重平均値を補間点の輝度値とするバイリニア等の手法を用いてもよい。
【0035】
以上までに説明してきた処理動作が、制御部11が行うデータ前処理プログラム20に従った画像解析処理である。
【0036】
次に、制御部11は、上記の前処理によって補正したパンクロ画像データ51とマルチ画像データ52を解析する。
まず、緑被率地図データ(各画素内における植生域の占める割合が記録された地図データ)を作成して、その後、緑地地図データ(緑地域が記録された地図データ)を作成する。
【0037】
上記の緑被率地図データを作成するためには、各画素の緑被率を算出する必要がある。さらに、各画素の緑被率の算出には、純粋な植生領域と非植生領域のそれぞれの領域における輝度値の平均値を参照値として用いる。
制御部11は、まず、純粋な植生領域と非植生領域の輝度値のそれぞれの平均値である上記の参照値を算出する(ステップS105)。本実施形態の純粋な植生領域の参照値の算出方法は、各画素のNDVI(植生指標)を求め、それらのNDVIの値の内、上位の値の領域を選択し、当該領域の輝度値の平均値を参照値とする方法である。また、非植生領域の参照値は、求めたNDVIの値の内、上位でない値を選択して加算し、それらの平均値を参照値とする。
【0038】
ここで、NDVI(植生指標)は、数1により、近赤外波長域の輝度値NIRと、可視の赤色波長域の輝度値Rを用いて算出する。ここでのNIR、R等の輝度値は、センサで観測した光の強度に対して、センサの感度に応じた変換や、正規化を施して求める。
【数1】

この算出方法は、近赤外波長域では植物が太陽光をよく反射するのに対して、可視の赤色波長域ではほとんど反射しないことを利用している。NDVIの値は数1より、−1〜1の範囲にあり、正の大きい数字ほど植生の濃い部分といえる。
【0039】
上記のNDVI(植生指標)を利用する方法以外に、純植生領域と非純植生領域を目視判読して選択し、それらの範囲の領域の輝度値の平均値を参照値とする方法を利用してもよい。また、現地調査データから予め純植生領域と非純植生領域を特定しておき、それらの範囲の領域の輝度値の平均値を参照値とする方法を利用してもよい。さらに、上記の三方法を組み合わせてもよい。
【0040】
図4に戻って、次に、制御部11は、ステップS104で得られたパンクロ画像データ51とリサンプリング(再構成)済みのマルチ画像データ52を用いて各画素の緑被率を算出する(ステップS106)。ここでの各画素の緑被率を算出する緑被率算出処理の動作については、図5のフローチャートを参照して、後述する。
【0041】
上記の緑被率算出処理によって、図6(a)に示すような、各画素の植生域の占める割合が記録された緑被率地図データ81が作成できる。各画素には、0%〜100%の範囲の値が記録される。
【0042】
図4に戻って、制御部11は、作成した緑被率地図データ81から緑地を抽出するために最適な閾値を算出する(ステップS107)。具体的には、制御部11は、記憶部12に予め記憶された空中写真や、現地調査結果からの部分的な緑地域の地図情報(現地データ:植生域と非植生域の領域を示した現地調査データ)と、この地図情報に対応する部分の緑被率地図データ81とを比較する。この時、制御部11は、現地データから植生域の座標を求め、その座標と一致する座標の緑被率を、作成した緑被率地図データ81から抽出する。例えば、図6(a)の網掛け領域83が植生域だとして、植生域の緑被率の値は76%〜100%の範囲になる。この抽出した全ての緑被率値を下回るまで、100%から閾値を徐々に下げていく。全ての緑被率をちょうど下回った時点(図6(a)の例だと75%時)の値を閾値として決定する。もちろん、抽出した全ての緑被率値を下回るように設定する必要はなく、例えば、植生域の75%以上の領域(図6(a)の例だと6個の画素)において緑被率値を下回った時点(図6(a)の例だと78%時)の値を閾値とするようにしてもよい。
【0043】
さらに、制御部11は、各画素毎に、緑被率が上記で算出した閾値を超えているか否かを判別する。判別した結果、閾値を超えている画素については1の値を記録し、閾値を超えていない画素については0の値を記録する(ステップS108)。ここで、各画素に緑被率が記録された緑被率地図データ81は、図6(b)に示すような、1か0の2値が記録された緑地地図データ82になる。
【0044】
ここで、制御部11は、作成された緑地地図データ82を、記録部12に記録し、所望のタイミングで、表示装置17に出力する指示を出すことができる。
【0045】
次に、上述した緑被率算出処理の具体的動作について、図5のフローチャートを参照して説明する。制御部11は、図4のステップS104で得られたパンクロ画像データ51とリサンプリング(再構成)済みのマルチ画像データ52の画像データに対して、ミクセル解析を行う(ステップS201)。このミクセル解析は、単一画素内の緑被率を算出できる。例えば、図9(a)に示すように、単一画素内が全て緑被地であれば、緑被率は100%と算出し、図9(b)に示すように、単一画素内に緑被地、道路、河川等の要素が混在している場合であれば、単一画素内の領域全体に対する緑被地の占める割合を算出する。具体的には、図4のステップS104で得られたパンクロ画像データ51とリサンプリング(再構成)済みのマルチ画像データ52の画像データにおける各画素の輝度値(バンド値)を線形ミクセル理論に基づいた近似式で近似する。この近似式を数2に示す。
【数2】

線形ミクセル理論は、各画素の輝度値(階調値)は、単一の性質をもつ純粋な対象物それぞれの輝度値の比率合計で構成されるという理論である。例えば、数2において、純粋な対象物は植生部分である。
【0046】
また、画像陰影について頑健性を持たせるために、数3の正規化指数を用いた。分母はパンクロ画像データ51の単一画素の輝度値であり、分子はリサンプリング(再構成)済みのマルチ画像データ52の近赤外画像データの、該パンクロ画像データ51の画素に対応した位置の画素における輝度値である。これは、植物の緑葉は、赤領域と青領域の波長を吸収し、近赤外領域の波長を強く反射することを利用した正規化である。
【数3】

この数3の式の分母、分子をそれぞれ、数2の近似式で近似すると、数4になる。
【数4】

制御部11は、この数4の方程式を解くことによって、各画素の緑被率を算出する。
【0047】
以上のミクセル解析処理によって各画素に対応するエリア別に、緑被率が得られる。マルチ画像データ52の近赤外画像データは、パンクロ画像データ51に比べ、低解像度である。これに起因して、緑被率の値は平滑化された状態となっている。そのために、制御部11は、この平滑化された緑被率の値を図7の修正関数(例えば、シグモイド関数)を用いて補正する(ステップS202)。修正関数は、誤差を最小にするように、画像条件(解像度・ノイズ)に応じて係数や種類を決定する。この時の画像データの緑被率値は図8(b)→図8(c)に示すように各画素ごとに変換される。
【0048】
また、制御部11は、マルチ画像データ52から別途、緑被率を算出しておく。この値を図8(a)に、Zとして示す。図8に示したマルチ画像データ52の解像度単位(メッシュ61(太線))において、ステップS202で得た単一画素の緑被率(z’1、z’2、z’3、z’4)が上述した線形ミクセル理論と整合性の取れるように補正する(正規化補正)(ステップS203)。具体的には、図8(c)のメッシュ61内における全画素の緑被率平均が、図8(a)のマルチ画像データ52から算出した緑被率と等しくなるように、各画素の緑被率値を変換する。例えば、数5の(a)のような補正式で変換する。理解を容易にするために、数5の(a)の補正式を図8に合わせた文字を用いて記述すると、数5の(b)のように表せる。ここで、αはノイズを抑制するように配分される調整係数。
また、この時の画像データの緑被率値は図8(c)→図8(d)に示すように各画素ごとに変換される(z”1、z”2、z”3、z”4)。
【数5】

【0049】
以上までの処理が高分解能緑被率マップ作成装置10によって実行される画像解析処理である。
【0050】
本実施形態の高分解能緑被率マップ作成装置10によれば、上述の改良したミクセル計算処理によって、都市域での緑被分布を扱う上で十分な精度の緑被率を抽出することができる。従って、従来よりも高解像度の緑被率マップを作成することができる。
そして、本実施形態の高分解能緑被率マップ作成装置10を空撮画像や衛星画像に適用すれば、広域の高解像度緑被率マップが、取得できるようになる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形、応用が可能である。
【0052】
例えば、上記実施の形態においては、パンクロ画像データ51の解像度は、マルチ画像データ52の4倍(縦:2倍、横:2倍)の解像度としていた。しかしながら、本発明は、これに限定されず、マルチ画像データ52の9倍(縦:3倍、横:3倍)、マルチ画像データの16倍(縦:4倍、横:4倍)のような画像データを用いて、緑被率マップを作成してもよい。
【0053】
例えば、上記実施の形態においては、パンクロ画像データ51は、可視光波長域や可視〜近赤外波長域を単一のバンドで観測していた。しかしながら、本発明は、これに限定されず、特定の波長域を単一のバンドで観測するようにしてもよい。さらに、マルチ画像データ52は青色波長域、緑色波長域、赤色波長域、近赤外波長域の4バンド(マルチバンド)で観測していた。しかしながら、本発明は、これに限定されず、赤色波長域、近赤外波長域等の複数のバンドで観測するようにしてもよい
【0054】
また、上記実施の形態においては、解像度の低いマルチ画像データ52全体を、パンクロ画像データ51と等しい解像度に再構成(変換)してから、各画素の緑被率を求めていた。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、高解像度のマルチ画像データ52は、全体として有意なデータとして形成されたり、出力されたりする必要はなく、緑被率を求める過程で適宜部分的に生成されてもよい。例えば、パンクロ画像データ51の特定の画素と相対位置が等しい位置の高解像度マルチ画像データの画素データ(輝度値)を求め、この画素データに基づいて、対応する画素の緑被率を求める処理を、画素単位で繰り返すことにより、最終的に全体の緑被率を求めるようにしてもよい。
【0055】
例えば、上記実施の形態においては、制御部11のCPUが実行するプログラムは、予めROM13等に記憶されていた。しかしながら、本発明は、これに限定されず、上述の処理を実行させるためのプログラムを、既存の緑被率マップ作成装置に適用することで、上記実施形態にかかる高分解能緑被率マップ作成装置10として機能させるようにしてもよい。
【0056】
このようなプログラムの提供方法は任意であり、例えば、インターネットなどの通信媒体を介して提供可能である他、例えば、メモリカードなどの記録媒体に格納して配布してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る高分解能緑被率マップ作成装置の構成を示す図である。
【図2】高分解能緑被率マップを作成するための種々のプログラム等が記憶されるROMの内容を示す概要図である。
【図3】(a)はパンクロマチック画像データの模式図である。(b)はマルチスペクトル画像データの模式図である。
【図4】高分解能緑被率マップ作成装置における前処理、及び、画像解析処理の動作内容を示すフローチャートである。
【図5】高分解能緑被率マップ作成装置における緑被率算出処理の動作内容を示すフローチャートである。
【図6】(a)は緑被率地図データの模式図である。(b)は緑地地図データの模式図である。
【図7】平滑化された緑被率の値を補正する修正関数(シグモイド関数)の概要図である。
【図8】マルチスペクトル画像データがパンクロマチック画像データの1/2の解像度の場合の、修正関数による補正と、正規化補正における緑被率値の変換例を示す概要図である。
【図9】(a)は単一画素内が比較的均質である状態の概要図である。(b)は単一画素内に複数の性質が混在している状態(ミクセル状態)の概要図である。
【符号の説明】
【0058】
10 高分解能緑被率マップ作成装置
11 制御部
12 記憶部
13 ROM
20 データ前処理
30 データ解析処理
51 パンクロマチック画像データ
52 マルチスペクトル画像データ
53 B画像データ
54 G画像データ
55 R画像データ
56 IR画像データ
81 緑被率地図データ
82 緑地地図データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表の所定領域のパンクロマチック画像データと、前記所定領域の前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低いマルチスペクトル画像データと、を記憶する記憶手段と、
前記パンクロマチック画像データの解像度に基づいて、前記マルチスペクトル画像データの解像度を向上した時の各画素の画像データを求める画像データ生成手段と、
前記画像データ生成手段で再構成したマルチスペクトル画像データと、前記パンクロマチック画像データと、から各画素に対応する位置の緑被率を算出する緑被率算出手段と、
を備えることを特徴とする緑被率マップ作成装置。
【請求項2】
前記パンクロマチック画像データは、所定の波長帯の光を用いて前記所定領域を撮影することにより得られた画像データであり、
前記マルチスペクトル画像データは、前記所定の波長帯に含まれる複数の波長域それぞれの光を用いて撮影し、それぞれ前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低い複数の画像データから構成され、
前記再構成手段は、前記マルチスペクトル画像データを構成する各画像データを、前記パンクロマチック画像データの解像度と同一の画像データに再構成し、
前記緑被率算出手段は、前記再構成手段で再構成したマルチスペクトル画像データと前記パンクロマチック画像データとの各対応する画素の画像データを用いたミクセル画像処理により、各画素に対応する位置の緑被率を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の緑被率マップ作成装置。
【請求項3】
前記緑被率算出手段によって算出した緑被率を、前記再構成手段により生じる誤差を小さくするように修正する修正手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の緑被率マップ作成装置。
【請求項4】
前記マルチスペクトル画像データから緑被率を算出する第二の緑被率算出手段と、
前記緑被率算出手段によって算出した緑被率を、前記第二の緑被率で算出した緑被率と該緑被率を算出した画素に対応する前記パンクロマチック画像データの全画素の緑被率の平均値と、が等しくなるように正規化補正する正規化補正手段と、
をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3に記載の緑被率マップ作成装置。
【請求項5】
地表の所定領域のパンクロマチック画像データと、前記所定領域の前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低いマルチスペクトル画像データと、を記憶する記憶手段を備える緑被率マップ作成装置の緑被率マップ作成方法であって、
前記パンクロマチック画像データの解像度に基づいて、前記マルチスペクトル画像データの解像度を向上して、画像データを再構成する再構成ステップと、
前記再構成ステップで再構成したマルチスペクトル画像データと、パンクロマチック画像データと、から各画素に対応する位置の緑被率を算出する緑被率算出ステップと、
を備えることを特徴とする緑被率マップ作成方法。
【請求項6】
地表の所定領域のパンクロマチック画像データと、前記所定領域の前記パンクロマチック画像データよりも解像度の低いマルチスペクトル画像データと、を記憶する記憶手段を備える緑被率マップ作成装置のコンピュータに、
前記パンクロマチック画像データの解像度に基づいて、前記マルチスペクトル画像データの解像度を向上して、画像データを再構成する再構成手順と、
前記再構成手順で再構成したマルチスペクトル画像データと、パンクロマチック画像データと、から各画素に対応する位置の緑被率を算出する緑被率算出手順と、
を実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−18387(P2007−18387A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200889(P2005−200889)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000102728)株式会社エヌ・ティ・ティ・データ (438)
【Fターム(参考)】