説明

緑黄色野菜食品及びその製造方法

【課題】緑黄色野菜の褐色変化を抑制し、緑色を保持して食欲増進を図ることができ、更に、形状、味、香りを保持し、摂取者の摂取能力に応じて好ましい硬さ並びに食感に調整可能な緑黄色野菜食品を提供する。また、このような緑黄色野菜食品を、柔軟であっても型崩れに細心の注意を払うことを不要とし、製造工程、搬送、流通過程において取り扱いが容易で作業性がよく、かつ、衛生的に製造することができ、無駄なく、簡単且つ安価に製造することができる緑黄色野菜の製造方法を提供する。
【解決手段】緑黄色野菜と、弱酸性からアルカリ性で活性を有する分解酵素とを接触させ、圧力処理を施した後、分解酵素の活性を停止させ、色及び形状を保持して柔軟性を増加させた緑黄色野菜食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱等による退色を抑制し、形状を保持して柔軟性を増加させ、食欲を誘うことができ、高齢者等の、咀嚼、嚥下困難者に好適な緑黄色野菜食品やその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では急速な高齢社会の進展に伴い、要介護下の生活を送る高齢者の割合が増加する傾向にある。摂食・嚥下障害は、脳神経障害や機能不全など様々な疾患で発症するが、加齢も大きな要因の一つであり、高齢者において摂食・嚥下障害の兆候を示す傾向は強い。健康増進法では、摂食・嚥下障害に対応するため、特別用途食品として、硬さ又は粘度を基準とした咀嚼・嚥下困難者用食品の許可基準が示されている。
【0003】
一方、病院や介護施設等で利用されている、咀嚼・嚥下困難者を対象とした介護用食品を見ると、安全性や機能性を重視したものが多く、QOL(quality of life)の視点でみると未だ発展途上にある。例えば、高齢者又は介護用食品として利用されている食品の多くは、煮る、刻む、ペースト状にする等の処理を行い、咀嚼や嚥下機能を補助するような形態で製造されている。これら介護食の製造には、様々な工夫が施されているものの、何の食材を食しているか認識できない状態の食品では、食欲をそそる食品とは言えない現状がある。本来、食品は栄養学的に優れていることはもちろんのこと、色、味、香りに加え形状から受ける視覚的要素も重要な構成要素である。また、食欲の低下は、摂食・嚥下障害者の低栄養化の一因ともなっている。すなわち、介護食品には生体機能の維持のみでなく、食事の楽しみや親睦・交流の場を与え、精神衛生の向上の機能が求められる。
【0004】
本発明者らは、植物食品素材を凍結、解凍後、減圧下で酵素液に浸漬し、原型を留めた状態で、植物食品素材の組織へ酵素を導入する方法(特許文献1)や、減圧下で植物性食品を酵素液に浸漬し組織へ酵素を導入し、調味し、加熱加圧殺菌する方法(特許文献2)等を既に開発している。この方法により得られる食品は、高齢者等咀嚼が困難な硬い食材をその食材本来の形状、色、味、香り、食感、栄養成分を維持した形態で賞味することができ、しかも、摂取者が必要とする硬さの程度に応じて、食品の硬さを調整することができ、効率よく製造することができるものである。
【0005】
ところで、緑黄色野菜は視覚を刺激し食欲を増進させると共に、緑黄色物質のクロロフィルは栄養的価値も高いものであるが、クロロフィルは熱により退色し易い。これは、クロロフィルが、野菜に含まれる酸性物質により酸化され、クロロフィルに含まれるマグネシウムイオンが2つの水素イオンに置換され、黄褐色のフェオフィチンに変化することに起因するといわれている。このため、クロロフィルの酸化を抑制するため、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ性溶液に浸漬して、その退色を図る方法が知られている。具体的には、緑色野菜に、凍結・解凍処理、剣山状器具による処理等をした後、炭酸カリウム溶液等のアルカリ溶液に浸漬し、更に、乳酸カルシウム等の多価陽イオンを含む溶液へ浸漬し、加熱する緑色野菜の製造方法(特許文献3)等が報告されている。このようなアルカリ溶液に浸漬すると野菜が柔軟になり、歯応えを低減させるため、歯応えが損なわれる。このためクロロフィル含有食品の歯応えを損なうことなく、且つ、化学物質を用いず、ミネラル含有乳酸菌体を用いて緑色退色防止を図る緑色復元剤(特許文献4)等が報告されている。しかしながら、特許文献4に記載される緑色復元剤は化学物質を用いないものの、歯応えを損なうことを抑制するもの、即ち、咀嚼、嚥下困難者にとっては摂取が困難なものである。
【0006】
また、上記特許文献1、2に記載される嚥下、咀嚼困難者用の食品でも、圧力処理により緑色野菜内部に分解酵素を導入した場合、形状は食品素材の形状をそのまま保持できるものの、緑色の鮮やかな状態を保持した柔軟な野菜は得られていない。
【0007】
咀嚼、嚥下困難者が容易に摂取することができる程度に柔軟にするため、緑黄色野菜を加熱すると上記のようにクロロフィルが変化し、褐色に変化してしまう。柔軟であるにも拘わらず、形状や色、特に食欲増進に効果が高い緑色の退色を抑制し、野菜本来の形状や瑞々しい緑色を保持し、化学物質を用いずに、咀嚼、嚥下困難者が容易に摂取することができる緑黄色野菜食品を得ることは困難である。
【特許文献1】特許第3686912号公報
【特許文献2】特開2006−223122
【特許文献3】特開2000−4821
【特許文献4】特開2006−217914
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、緑黄色野菜の褐色変化を抑制し、緑色を保持して食欲増進を図ることができ、更に、形状、味、香りを保持し、摂取者の摂取能力に応じて好ましい硬さ並びに食感に調整可能な緑黄色野菜食品を提供することにある。また、このような緑黄色野菜食品を、柔軟であっても型崩れに細心の注意を払うことを不要とし、製造工程、搬送、流通過程において取り扱いが容易で作業性がよく、かつ、衛生的に製造することができ、無駄なく、簡単且つ安価に製造することができる緑黄色野菜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、加熱による緑黄色野菜の褐色変化を抑制し、本来の瑞々しい緑色や赤色を保持させ得る物質を自然界に求め、鋭意研究を行った。その結果、特定の菌の培養液や、これらの抽出物の菌由来物を用いることにより、クロロフィルに含まれるマグネシウムイオンが置換されるのを抑制できることの知見を得た。しかも、これらの菌由来物には植物の分解酵素も含まれ、緑黄色野菜を柔軟にすることができるため、緑黄色野菜を柔軟にするための加熱時間を大幅に短縮することができ、加熱によるクロロフィルの褐色変化を抑制できることの知見を得た。これらの菌由来物を緑黄色野菜に接触させて、圧力処理を行い、緑黄色野菜の内部に菌由来物を導入した場合でも、野菜の瑞々しい緑色を保持し、かつ、野菜組織を分解し、咀嚼、嚥下困難者であっても容易に咀嚼をし、誤嚥を抑制するのに充分な柔軟性を備えるものとできることを見い出した。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、緑黄色野菜と、弱酸性からアルカリ性で活性を有する分解酵素とを接触させ、圧力処理を施した後、分解酵素の活性を停止させ、色及び形状を保持して柔軟性を増加させたことを特徴とする緑黄色野菜食品の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、上記緑黄色野菜食品の製造方法によって得られたことを特徴とする緑黄色野菜食品に関する。
【0012】
また、本発明は、枯草菌由来物の存在下で緑黄色野菜を加熱したものであることを特徴とする緑黄色野菜食品に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の緑黄色野菜食品は、緑黄色野菜の褐色変化を抑制し、緑色を保持して食欲増進を図ることができ、更に、形状、味、香りを保持し、摂取者の摂取能力に応じて好ましい硬さ並びに食感に調整可能である。
【0014】
また、本発明の緑黄色野菜食品の製造方法は、柔軟であっても型崩れに細心の注意を払うことを不要とし、製造工程、搬送、流通過程において取り扱いが容易で作業性がよく、かつ、衛生的に製造することができ、無駄なく、簡単且つ安価に緑黄色野菜食品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の緑黄色野菜食品は、緑黄色野菜と、弱酸性からアルカリ性で活性を有する分解酵素とを接触させ、圧力処理を施した後、分解酵素の活性を停止させ、色及び形状を保持して柔軟性を増加させたことを特徴とする。
[緑黄色野菜]
本発明の緑黄色野菜食品における緑黄色野菜としては、含有量の多少を問わずクロロフィルを含有するものを挙げることができる。緑黄色野菜としては、具体的には、グリーンピース、ブロッコリー、グリーン・アスパラガス、枝豆、ほうれん草、いんげん豆、わらび、キャベツ、ピーマン、コマツナ、サヤエンドウ、オクラ、キュウリ、広島菜、野沢菜、高菜、水菜等や、わかめ、昆布等の海藻、緑茶等を挙げることができる。これらは生であっても、加熱されたものであってもよい。必要に応じて、例えば、皮むき、適宜カットしたものであってもよい。圧力処理により菌由来物を有色野菜内部へ導入をする場合は、中心部まで均一に導入させるため、用いる野菜の硬さや圧力条件等に応じて、カットすることが好ましい。具材の大きさとしては、例えば、概略10mm〜50mm角程度を挙げることができる。
【0016】
[凍結、凍結・解凍、又は、凍結・乾燥]
これらの緑黄色野菜は、凍結、凍結・解凍、凍結・乾燥、又は、誘電加熱処理して用いることが、野菜の組織に緩みを生じさせ、菌由来物等の分解酵素の導入を容易にするため、好ましい。
【0017】
緑黄色野菜の凍結は、組織内部の水分を氷結させ、解凍により組織の緩みを生じさせ、これを利用して組織内部の気体と分解酵素等との置換を容易にさせ得る範囲で行うことが好ましい。凍結温度としては−5℃以下を挙げることができる。凍結温度が−5℃以下であれば急速凍結、緩慢凍結いずれも適用することができるが、氷結晶を内部全体に均一に分布させ、食感を悪化させないことを考慮すると、実用的な面から−15℃程度が好ましい。凍結時間は具材内部全体に氷結晶を均一に分布させることが可能であれば、30分で十分であるが、これより長時間凍結してもよい。
【0018】
上記凍結した緑黄色野菜は凍結状態のまま用いることもできるが、解凍して用いもよい。凍結した具材の解凍方法としては、85℃以下の品温度での解凍方法が好ましく、例えば、5分以上で解凍することが、具材組織内部に比較的大きく、かつ均一に空隙を成形することができることから、好ましい。解凍は、空気中で行うこともできるが、水や、緑黄色野菜と菌由来物等の分解酵素との接触に、後述する菌の培養液や抽出物液(菌由来物液という。)を用いる場合は、菌由来物液に浸漬して行うことができる。
【0019】
液体中での解凍は、0〜85℃で5分以上、より好ましくは、常温以下で、5分〜24時間で行うことが好ましい。この温度で解凍を行うことにより、品質の劣化を抑制することができる。液体の使用量としては、具材が完全に液体中に浸漬するように、凍結漬物具材と液体の質量比が1:1の割合であることが好ましい。
【0020】
また、表皮が厚い具材では、凍結後、表面の水分の減少率が2〜10質量%程度になるまで表面の水分を蒸発させることが、分解構想等の導入効率を高めることができるため、好ましい。表面水分の蒸発には冷風乾燥、温風乾燥、凍結乾燥が好適である。
【0021】
[分解酵素]
本発明の緑黄色野菜食品に用いる分解酵素は、弱酸性からアルカリ性で活性を有するものであり、好ましくはpH6〜11、より好ましくはpH6〜8で、セルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性を有するものが好ましい。このような分解酵素が、緑黄色野菜を、その緑色の褐色変化を抑制し、且つ、ペクチンや、セルロース、ヘミセルロースを加水分解し、柔軟にすることができる。かかるペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ等を含む分解酵素として、枯草菌(Bacillus subtillis)由来物や、糸状菌リゾプス属菌(Rhizopus)の菌由来物、糸状菌(Trichodernareesi)由来物等を挙げることができる。枯草菌は、アルカリ性雰囲気で耐性を有し、かつ高温でも耐性があり活性を保持することができる。枯草菌は、熱、放射線、化学薬品に対しても強い耐性を示し、長期にわたって休眠状態を維持する。簡単な培地に生育でき、細胞外酵素のアミラーゼやプロテアーゼ等を生産し菌体外へ分泌する。枯草菌由来物のクロロフィルに対する作用は明確にされていないが、クロロフィルに含有されるマグネシウムイオンの置換を抑制し、加熱等による野菜の緑色の退色を抑制させることができると考えられる。
【0022】
これらの菌由来物としては、菌の培養液、培養液からの抽出物であってもよく、抽出物は粉末状、またはこれを液に分散、溶解した菌由来物液として用いることができる。菌由来物液に使用する液としては、水、アルコール、これらの混合物を用いることができる。
【0023】
[分解酵素との接触]
上記緑黄色野菜と、分解酵素との接触は、分解酵素が粉末状であれば、これを表面に振り掛けることにより行うことができる。菌由来物液を使用する場合は菌由来物液を緑黄色野菜に浸漬、塗布、噴霧する方法等により行うことができる。菌由来物液中の菌の含有量としては、使用する緑黄色野菜の種類、得られる緑黄色野菜食品の硬さによって、適宜選択することができるが、例えば、緑黄色野菜と菌由来物液等の分解酵素液との合計の質量に対し、0.01〜0.03質量%となるような含有量を挙げることができる。0.01質量%以上であれば、圧力処理により具材の内部まで菌由来物等の分解酵素が浸透し、具材を充分に軟化させ、野菜本来の色を保持させることができる。
【0024】
緑黄色野菜と分解酵素との接触においては、分解酵素の機能を損なわない範囲で、調味料、増粘剤、場合によっては他の分解酵素等を用いることができる。これらは、緑黄色野菜に、表面に振り掛ける方法、また、菌由来物液等の分解酵素液に含有させて接触させることができる。
【0025】
上記調味料は得られる緑黄色野菜に風味を付与し、食欲を増進させることから好ましい。かかる調味料としては、塩、醤油、味噌、酢、酒、砂糖等の糖類、アミノ酸類、核酸類等、油脂、香辛料や、着色料等を挙げることができ、例えば、醤油、発酵調味料、糖類、かつおだし、昆布だし等を配合することができる。その他栄養物等を含有させることができる。
【0026】
上記増粘剤としては、小麦デンプン、米デンプン、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、サツマイモデンプン、カードラン、ガム類、寒天、ゼラチン、ペクチン等を挙げることができる。
【0027】
また、菌由来物液等の分解酵素液は、緑黄色野菜によっては、必要に応じてpHを6〜8に調整する。分解酵素液のpHの調整には、酢、クエン酸等を添加する方法を挙げることができる。
【0028】
このような菌由来物液の使用量としては、具材が完全に液中に浸漬した状態になるように、具材に対し、質量比において同量の割合とすることが好ましい。
【0029】
[圧力処理]
菌由来物と接触した後行う圧力処理は、減圧、加圧、これらを適宜組み合わせてもよく、必要に応じて複数回反復することもできる。減圧としては0.1〜200mmHg程度、加圧としては10〜4000気圧等を挙げることができる。この範囲の圧力下により、例えば、30秒〜60分間等の処理により、凍結処理等により組織が緩んだ緑黄色野菜内部に菌由来物等の分解酵素を容易に導入することができる。
【0030】
このような圧力処理は、緑黄色野菜を包装材中に収納して行うことが、分解酵素が導入され軟化した具材の取り扱いが容易であるため、好ましい。圧力処理は緑黄色野菜を収納した包装材の密封の前、又は後に行うことができるが、真空包装により行うことが食品の包装を同時に行うばかりでなく、その後の熟成や流通過程における取り扱い性に優れることから好ましい。
【0031】
真空包装に用いる包装材としては、気密、液密の密封状態を維持できるシール性に優れ、真空包装に対する耐久性を有するものであれば、いずれであってもよいが、軽量で、運搬性に好適なプラスチック製や、気密性を向上させるためにアルミ蒸着プラスチック製等が好ましい。その形状としては、容器、可撓性を有する袋(軟包装材)等を挙げることができる。
【0032】
上記真空包装は、収納する有色野菜の種類、大きさによって適宜選択することができるが、真空度99.9%まで減圧処理を行った後、真空袋のシールを行うことが好ましい。具体的には、0.1〜200mmHgの減圧状態を10秒〜500秒間維持した後、密封することが好ましく、50mmHg前後で、処理時間30秒〜100秒で行うことが適当である。真空包装としては、実用的な面から、真空包装機を使用することが好ましい。真空包装機を用いることが、減圧処理と同時に包装材を密封シールすることができ、実用性の点からも好適である。
【0033】
[熟成]
熟成は緑黄色野菜の内部へ菌由来物等の分解酵素による野菜の組織を軟化させるために行う工程であり、柔軟な野菜の場合は省略することもできるが、緑黄色野菜の硬さ等に応じて行うことが好ましい。雰囲気の温度は0〜85℃とすることができる。0℃以上であれば分解酵素液や緑黄色野菜の凍結を抑制し、酵素作用による野菜の軟化が促進される。また、85℃以下であれば、酵素活性を維持することができる。好ましくは0〜10℃の低温で長時間熟成を行うことが、軟化度合いの調節、品質の安定化及び生産性の面で好ましい。10℃以下であれば、雑菌の増殖による汚染を抑制することができ、3℃前後がより好ましい。
【0034】
熟成時間は得られる緑黄色野菜食品の目的とする軟化の程度により適宜選択することができ、例えば、15分から48時間を挙げることができる。熟成時間が15分以上であれば、軟化野菜が得られ、48時間以下であれば、雑菌の増殖による汚染を抑制することができる。具体的には低温にて10〜24時間の熟成が好ましく、18時間前後が生産性の点からも好ましい。
【0035】
[酵素失活]
熟成後、菌由来物等の分解酵素の活性を停止させ、軟化の進行を停止させる。菌由来物の活性を停止させるには、菌由来物の殺菌、酵素の失活、また、雑菌による腐敗を抑制するため腐敗菌の死滅が可能な温度に加熱することが好ましい。具体的には、85〜120℃のスチーム中に1〜15分放置する方法によることができる。スチーム温度が85℃以上であれば、酵素失活により軟化の進行を停止させることができ、120℃以下であれば、緑黄色野菜の褐色変化を抑制することができる。100℃前後がより好ましい。加熱時間は1〜15分を挙げることができる。加熱時間が1分以上であれば、酵素失活により軟化の進行を停止させることができ、15分以下であれば、緑黄色野菜の退色を抑制することができる。5分前後がより好ましい。
【0036】
さらに、分解酵素の活性を停止させる加熱と同時に、緑黄色野菜の調理のための加熱を同時に行うことができる。調理に必要な加熱時間は、上記分解酵素により緑黄色野菜が柔軟になっているため、通常行う加熱時間と比較して、著しく短縮を図ることができ、これにより、更に、緑黄野菜における褐色変化を抑制することができる。
【0037】
上記処理により、本発明の柔軟な緑黄色野菜食品が得られる。得られた柔軟な緑黄色野菜食品は、包装材中の収納された状態のレトルト食品や、−40℃等で冷却し、冷凍食品又はチルド食品として流通させると、取り扱いが容易であり、風味の低下を抑制することができるため、好ましい。圧力処理を真空包装により行った場合は、上記熟成、分解酵素の失活、その後の商品化のための冷凍処理等を、真空包装材中で行うことができ、衛生的に、取り扱いを容易に行うことができる。
【0038】
[緑黄色野菜食品]
本発明の緑黄色野菜食品は、菌由来物等の分解酵素による作用により所望の軟らかさに調整されると共に、緑黄色野菜の色彩が保持され、咀嚼、嚥下困難者にとって、容易に摂取することができ、嗜好を満足させ、食欲増進を図ることができる。
【0039】
このような緑黄色野菜食品の硬さとしては、1×106N/m2以下であることが、咀嚼、嚥下困難者であっても容易に摂取することが可能であり、好ましい。
【0040】
[菌由来物存在下の加熱]
また、本発明の他の実施態様として、枯草菌由来物の存在下で緑黄色野菜を加熱したものを挙げることができる。枯草菌由来物の存在下緑黄色野菜を加熱することにより、緑黄色野菜の褐色変化を抑制し、柔軟にすることができる。
【0041】
菌由来物の存在下での緑黄色野菜の加熱は、例えば、50℃以上で行うことができる。接触時間、又は、加熱時間としては、処理する有色野菜の種類、また、摂取者の摂取能力に応じた所望の硬さとなるように、適宜選択することができる。
【実施例】
【0042】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
[実施例1−1]
市販の冷凍ホウレン草を自然解凍させた後、その100gを、枯草菌から抽出した酵素0.35gと、調味液70g(株式会社ミツカン製「追いがつおつゆ」10gとpH7の緩衝液60g(クエン酸−リン酸水素二ナトリウム系混合液)と共に真空包装袋に充填した。続いて真空包装機(東静電気株式会社製、V−380G)を用いて真空度99.9%まで減圧させ真空包装袋のシールを行った。その後、庫内温度3℃の冷蔵庫(福島工業株式会社製、URD−40RMTA)内に24時間放置した後、スチームコンベクションオーブン(ニチワ電機株式会社製、SCOS−10RS)を用いて100℃のスチーム下で5分間加熱し、酵素を失活させ、本発明の緑黄色野菜食品を得た。
【0044】
得られたホウレン草は、軟化度は歯茎で潰せる程度であり、色彩は鮮やかな緑色を呈していた。さらに、ホウレン草本来の風味・味が損なわれていなかった。
【0045】
[実施例1−2]
酵素失活後、流通過程においた場合を想定して、以下の工程を行った。
【0046】
−40℃に予め冷却しておいたブラストチラー(福島工業株式会社製、QXF−006SF5)に移して60分間放置して凍結させた。凍結したホウレン草をスチームコンベクションオーブンに移し、100℃のスチーム下で10分間加熱を行い解凍した。解凍後は真空包装袋を流水に浸し粗熱を取った、ホウレン草の軟化度および色彩を同様に評価した。
【0047】
ホウレン草は酵素失活後におけるものと同様の軟化度、色彩を有し、風味・味も同様であった。
【0048】
[比較例1]
冷凍ホウレン草、冷凍サヤインゲン、冷凍小松菜をそれぞれ100℃で30分間ボイルを行い、実施例1で得られた緑色野菜と同程度の軟らかさにした。野菜本来の鮮やかな緑色は失われていた。特に冷凍サヤインゲン及び冷凍小松菜での色落ちは顕著であり、黄褐色を呈した。
【0049】
[実施例2]
市販の冷凍菜の花、冷凍ブロッコリー、冷凍サヤエンドウ、冷凍サヤインゲン、冷凍グリーンアスパラガス、冷凍オクラ、冷凍小松菜、冷凍チンゲンサイについても実施例1と同様に行った。
【0050】
得られた有色野菜食品は、軟化度は歯茎で潰せる程度であり、色彩は鮮やかな緑色を呈しており、さらには風味・味も損なわれていなかった。
【0051】
[実施例3−1]
生のサヤインゲンを2分間ボイルした後、流水に浸して粗熱をとった。ボイルしたサヤインゲン100gを、枯草菌から抽出した酵素0.30gと、調味液60g(株式会社ミツカン製「追いがつおつゆ」6gとpH7.6の緩衝液54g(クエン酸−リン酸水素二ナトリウム系の混合液)と共に真空包装袋に充填した他は、実施例1と同様にして緑黄色野菜食品を調製し、得られた緑黄色野菜食品について同様に評価を行った。軟化度は、「容易に噛める」程度であり、色彩は鮮やかな緑色を呈していた。さらに、サヤインゲン本来の風味・香りが損なわれていなかった。
【0052】
[実施例3−2]
枯草菌から抽出した酵素0.60gを用いた他は、実施例1と同様にして緑黄色野菜食品を調製し、得られた有色野菜食品について同様に評価を行った。軟化度は、「歯茎で潰せる」程度であり、色彩は鮮やかな緑色を呈していた。さらに、サヤインゲン本来の風味・香りが損なわれていなかった。
【0053】
[比較例3]
枯草菌から抽出した酵素を用いない他は、実施例1と同様にして緑黄色野菜食品を調製し、得られた緑黄色野菜食品について同様に評価を行った。軟化度は、「容易に噛める」程度であり、色彩は部分的に退色していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑黄色野菜と、弱酸性からアルカリ性で活性を有する分解酵素とを接触させ、圧力処理を施した後、分解酵素の活性を停止させ、色及び形状を保持して柔軟性を増加させたことを特徴とする緑黄色野菜食品の製造方法。
【請求項2】
分解酵素が、弱酸性からアルカリ性でセルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性、又はヘミセルラーゼ活性の少なくとも一つの活性を有することを特徴とする請求項1記載の緑黄色野菜食品の製造方法。
【請求項3】
弱酸性からアルカリ性で活性を有する分解酵素が、枯草菌由来物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の緑黄色野菜食品の製造方法。
【請求項4】
分解酵素と共に、調味料又は増粘剤の少なくとも1種と緑黄色野菜とを接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の緑黄色野菜食品の製造方法。
【請求項5】
圧力処理を包装材中で行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の緑黄色野菜食品の製造方法。
【請求項6】
圧力処理を、真空包装により行うことを特徴とする請求項5記載の緑黄色野菜食品の製造方法。
【請求項7】
緑黄色野菜を凍結、凍結・解凍、又は、凍結・乾燥処理して用いることを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の緑黄色野菜食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか記載の緑黄色野菜食品の製造方法によって得られ、硬さが1×106N/m2以下であることを特徴とする緑黄色野菜食品。
【請求項9】
枯草菌由来物の存在下で緑黄色野菜を加熱したものであることを特徴とする緑黄色野菜食品。

【公開番号】特開2008−237196(P2008−237196A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86837(P2007−86837)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(307005586)株式会社フード・リサーチ (4)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】