説明

線材の巻線方法

【課題】巻線し得るワークの種類を制限することなく、掛け回し時にノズルから繰出された線材がノズルと延設部との間の隙間からコイル部側に戻ることを回避する。
【解決手段】線材の巻線方法は、環状部36aから径方向に突出して設けられた1の磁極36bにノズル12の先端から繰出される線材11を巻回させた後、環状部36aに軸方向に沿って設けられた延設部36cに線材11を掛け回し、掛け回しの後にノズル12の先端から繰出された線材11を別の磁極36bに巻回させる方法である。線材11の掛け回しにおけるノズル12の先端が環状部36aの軸方向に直交して延設部36cの突出端に接触する仮想面Mと交差するか又は仮想面Mより環状部側にあることを特徴とする。環状部に遊挿された長尺状のノズル支持部21にノズル12を方向を変更可能に取付け、掛け回し時にノズルを支持部に平行にして又は支持部に対して傾斜させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルの先端から繰出される線材を、環状部の半径方向に突出して形成された複数の磁極の内の1つに巻回させた後に環状部に形成された延設部に掛け回し、その後別の磁極に巻回させる線材の巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータ又はブラシレスモータ等に内蔵されるレゾルバにおけるステータは、環状部とその環状部の内周側から半径方向内側に延びる複数の磁極とを有するワークを備え、このワークの磁極には導線等の線材が巻回されてコイル部が形成されている。
【0003】
図7及び図8に示すように、このコイル部5を形成するための線材の巻線機として、線材4を先端から繰出し可能なノズル6と、ワーク1の内側においてそのノズル6が取付けられるノズル側端部7aから所定方向に延び、方向変換部7bを経た後、ワーク1の外側において回動軸8が取付けられる回動軸側端部7cに至る門形状を呈すノズル保持具7と、その保持具7を移動可能な図示しない駆動手段を備えたものが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。このような巻線機では、ノズルを実線で示す水平状態にし、駆動手段により水平状態のノズル6を移動させてその先端をワーク1の磁極1b周囲に周回させることにより、そのノズル6から繰出される線材4をその磁極1bに巻回できるようになっている。なお、図8におけるワーク1は、コア2を絶縁のためのインシュレータ3により覆うことにより作られたものを示す。
【0004】
そして、このような巻線機を用いた線材の巻線方法では、1つの磁極1bに線材4が巻回されてコイル部5が形成されると、そのコイル部5が形成された1つの磁極1bから次に線材4が巻回される別の磁極1bにまでノズル6を移動させ、その別の磁極1bに線材4を新たに巻回することが繰り返される。このため、ワーク1のそれぞれの磁極1bに巻回されて成る複数のコイル部5は、コイル部5間に掛け渡された線材4からなる渡り線部4a(図8)を以て連結される。
【0005】
ここで、各コイル部5を連結する渡り線部4aが他の磁極1bを横断すると、その磁極1bにおける巻線に支障を来すので、図8に示すように、ワーク1の環状部1aに軸方向に沿って延設部1cを設け、この延設部1cの外側に線材4を掛け回し、これにより延設部1cの外側にその線材4から成る渡り線部4aを配置している。そして、上記巻線機による延設部1cの外側への線材4の掛け回しは、図7の一点鎖線で示すように回転軸8を回転させて門形のノズル保持具7を略90度回転させ、それにより一点鎖線で示す鉛直状態に切替えられたノズル6を駆動手段により移動させ、そのノズル6の先端から繰出される線材4をワーク1の上側から上方に延びて設けられた延設部1cの外側に掛け回している。
【0006】
一方、線材4を掛け回す延設部1cはワーク1の下側にも設けられる。上記ノズル保持具7では、ノズル6が取付けられたノズル側端部7aをワーク1の内側に挿通させているので、ワーク1の下側から下方に延びて設けられた延設部1cに線材4を掛け回す場合には、そのノズル6の方向を鉛直状態に切替えることができない。よって、図8に示すように、従来の巻線機による下方に延びる延設部1cへの線材4の掛け回しは、ノズル6を水平状態に維持した状態で延設部1cの外側に線材4を掛け回していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4208530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、水平状態のノズル6の線材4を繰出す先端は環状部1aの軸方向における延設部1cの突出端より外側に位置し、その状態で延設部1cの外側に線材4を掛け回すと、ノズル6と延設部1cとの間に生じる隙間から線材4が破線矢印で示すようにコイル部5側に戻り、渡り線部4aが他の磁極1bを横断する場合を生じる不具合があった。
【0009】
この点を解消するためには、その掛け回し時にノズル6の先端を延設部1cより半径方向外側の比較的遠くにおいて移動させ、その先端から繰出される線材4を延設部1cの外側に確実に引っ掛ける必要があるけれども、ノズル6の伸長化を招き、その伸長化に起因してノズル6の移動範囲が制限され、巻線し得るワーク1の種類が制限される不具合がある。
【0010】
本発明の目的は、巻線し得るワークの種類を制限することなく、掛け回し時にノズルから繰出された線材がノズルと延設部との間の隙間からコイル部側に戻ることを有効に回避し得る線材の巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、環状部から径方向に突出して設けられた1の磁極にノズルの先端から繰出される線材を巻回させた後、環状部に軸方向に沿って設けられた延設部に線材を掛け回し、掛け回しの後にノズルの先端から繰出された線材を別の磁極に巻回させる線材の巻線方法の改良である。
【0012】
その特徴ある点は、線材の掛け回しにおけるノズルの先端が環状部の軸方向に直交して延設部の突出端に接触する仮想面と交差するか又は仮想面より環状部側にあるところにある。
【0013】
ここで、磁極が環状部から径方向内側に突出して設けられている場合、環状部に遊挿された長尺状のノズル支持部にノズルを方向を変更可能に取付け、ノズルを支持部に交差させて先端から繰出す線材を磁極に巻回させ、ノズルを支持部に平行にして又は支持部に対して傾斜させて先端から繰出す線材を延設部の径方向外側に掛け回すことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法では、線材の掛け回し時に、ノズルの先端は環状部の軸方向に直交して延設部の突出端に接触する仮想面と交差するか又は仮想面より環状部側にあるので、ノズルの先端と延設部の突出端との間に環状部の軸方向における隙間は生じない。このため、その状態で環状部に対してノズルを移動させて延設部の外側に線材を掛け回すと、ノズルの先端から繰出される線材を延設部の外側に確実に引っ掛けることができる。この場合、ノズルを従来よりも伸長させる必要もない。よって、本発明では、巻線し得るワークの種類が制限されることはなく、延設部に線材を掛け回す時にノズルから繰出された線材がノズルと延設部との間の隙間からコイル部側に戻ることを有効に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明実施形態のノズルを支持部に対して傾斜させて線材を延設部の径方向外側に掛け回す状態を示す図5のB−B線断面図である。
【図2】そのノズルを支持部に平行にして延設部の径方向外側に線材を掛け回す状態を示す図1に対応する断面図である。
【図3】そのノズルを支持部に交差させて線材を磁極に巻回させる状態を示す図1に対応する断面図である。
【図4】そのノズルを含む方向切替え手段の側面図である。
【図5】その巻線機の全体を示す斜視図である。
【図6】延設部の外周に凹溝を付けた本発明の別の実施の形態を示す図1に対応する断面図である。
【図7】従来の巻線機におけるノズル支持具をワークとともに示す斜視図である。
【図8】従来の巻線機により延設部の径方向外側に線材を掛け回す状態を示す図7のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図5に本発明の方法に使用する巻線機10を示す。この巻線機10は、設置場所に設置される機台14と、その機台14に設けられ線材11を繰出すノズル12を駆動するための駆動手段13を備える。駆動手段13は、3軸方向の駆動部16,17,18を組み合わせてなり、前後方向駆動部16と、左右方向駆動部17と、上下方向駆動部18とを具備するものとされる。これらの駆動部16,17,18は、駆動方向X,Y,Zに沿って略同一の駆動機構とされる。
【0018】
先ず、上下方向駆動部18について説明すると、この上下方向駆動部18は、駆動方向Zに沿って配された上下方向ガイド18aと、該上下方向ガイド18aに平行に配され表面に雄ねじが配される上下方向回転軸18bと、その上下方向回転軸18bにボールねじにより螺合され上下方向ガイド18aに沿って移動可能な上下方向移動部18cと、その上下方向移動部18cに接続される上下方向接続部18dと、上下方向回転軸18bを回転駆動する上下方向駆動源18eとが配される。上下方向回転軸18bは、ユニバーサルジョイント18fにより上下方向駆動源(駆動源)18eに接続される。上下方向移動部18cは、上下方向回転軸18bに配された雄ねじの範囲によって、駆動方向Zの移動範囲が設定される。
【0019】
前後方向駆動部16と左右方向駆動部17とは、上下方向駆動部18と同様の構造として図5に示す駆動方向X,Yに沿って配される。前後方向駆動部16は、機台14に固定されて前後方向駆動源(駆動源)16eを具備するものとされ、かつ、左右方向駆動部17が、前後方向接続部16dを介して前後方向駆動部16に対して前後方向移動可能に配される。左右方向駆動部17は、左右方向駆動源(駆動源)17eを具備するものとされ、かつ、上下方向駆動部18が、左右方向接続部17dを介して左右方向駆動部17に対して左右方向移動可能に配される。そして、それぞれの駆動源16e,17e,18eとしては、例えば、高精度制御可能なサーボモータが用いられる。そして、上下方向駆動部18には、ノズル12の方向を切替え可能とする方向切替え手段20を介して、ノズル12が設けられる。
【0020】
図4に示すように、方向切替え手段20は、上下方向駆動部18における上下方向接続部18dの先端側に下方に延びて設けられたノズル支持部21と、そのノズル支持部21に回転可能に配されるノズル回転部22とを備える。ノズル支持部21の基端側における上下方向接続部18dには、線材11をノズル12に導く第1ガイドローラ23aが配される。ノズル回転部22は、軸21aによりノズル支持部21の下端に回転可能に取付けられ、ノズル12が配される。ノズル支持部21の中間部及びその軸21aには、第1ガイドローラ23aを通過した線材11をノズル12に導く第2及び第3ガイドローラ23b,23cが配される。
【0021】
ノズル回転部22にはクランク24の下端が接続され、クランク24がその長さ方向に移動することでノズル回転部22を回転駆動するように構成される。そしてクランク24は上下方向接続部18dを貫通し、その上下方向接続部18dにはクランク24を上下方向に駆動するためのクランク駆動部26が設けられる。クランク駆動部26は、上下方向に延びて上下方向接続部18dに設置されたガイド部材26aと、そのガイド部材26aに平行に配され表面に雄ねじが配される回転軸26bと、その回転軸26bに螺合されガイド部材26aに沿って上下方向に移動可能な移動板26cと、ガイド部材26aの上部に設けられ回転軸26bを回転駆動するサーボモータからなる駆動源26dとを備える。そして、移動板26cにクランク24の上端が枢支される。このクランク駆動部26は、駆動源26dにより回転軸26bを回転させると移動板26cが上下動し、これにより、クランク24をその長さ方向に移動することができるように構成される。
【0022】
そして、このようなクランク駆動部26では、移動板26cを下方に移動させてクランク24を下げると、図4の実線で示すようにノズル12は下方を向き、移動板26cを上方に移動させて一点鎖線で示すようにクランク24を上昇させると、ノズル12は上下方向に垂直な水平方向に向くように構成される。更にこのクランク駆動部26は駆動源26dとしてサーボモータを用いるので、ノズル12が水平方向に達した後も回転軸26bを回転させると移動板26cは更に上方に移動する。このため、二点鎖線で示すようにクランク24を更に上昇させると、ノズル支持部21に対して先端が斜め上方に向くようにノズル12を傾斜させることができる。よって、この巻線機10は、ノズル12の先端が下を向く鉛直位置から、先端が水平方向を向く水平位置を通過して、先端が斜め上方に向く傾斜位置にまで切替え可能に構成される。
【0023】
図5に戻って、この巻線機10は、機台14に設置され、線材11を巻回するワーク36を搭載する巻線部位置設定手段30を更に備える。この巻線部位置設定手段30は、機台14に配された固定台31と、その固定台31に水平面内で回転可能に取付けられ上側にワーク36を搭載固定可能な回転台32と、この回転台32を回転させる図示しないサーボモータを備える。ここで、この実施の形態におけるワーク36は、円環状の環状部36aと、この環状部36aの内周面からその環状部36aの中心に向けて突出している複数の磁極36bとを備えたものを示す。そして、図示しないサーボモータには、各磁極36bに対する巻線終了時に、そのワーク36を磁極36bのピッチ分だけ回転するインデックス機構が備えられる。
【0024】
次に、本発明の線材の巻線方法について説明する。
【0025】
先ず、図4に示すように、線材11を第1〜第3ガイドローラ23a,23b,23cに通過させ、更にノズル12を貫通させてノズル12の先端から繰出す。このとき、ノズル12は、方向切替え手段20によって図4の実線で示す鉛直位置とされる。そして、巻線を始めるに当たり、駆動手段13はノズル12を移動させ、線材11の端部を図示しない捨て絡げピンに絡げて固定する。その後、ノズル12は、方向切替え手段20によってクランク24を上側位置とすることにより、図3に示す水平位置に切替えられる。次いで、駆動手段13(図5)を駆動して、水平位置にあるノズル12をワーク36における1の磁極36bの周囲に移動させて巻線を行う。なお、図3に示すワーク36は、ステータコア38を絶縁のためのインシュレータ37により覆うことにより作られたものを示す。このワーク36では、ステータコア38のヨーク部38aをインシュレータ37の環状被覆部37aが被覆することによりワーク36における環状部36aが形成され、ステータコア38のティース38bをインシュレータ37のティース被覆部37bが被覆することによりワーク36における磁極36bが形成される。
【0026】
この巻線時に、ノズル12は、図5に示す駆動手段13の前後方向駆動部16と左右方向駆動部17と上下方向駆動部18とにより3軸駆動として同時に駆動され、ワーク36の磁極36bの周囲に沿ってノズル12が移動される。ここで、ノズル12は、磁極36bの断面形状に沿って磁極36bの周囲を移動し、かつ、図3に示すように、線材11の一巻きごとに線材11の直径分だけ磁極36bの長さ方向に移動するよう駆動されて、線材11が磁極36bに整列巻きされる。図3に示す磁極36bの断面形状は矩形であるので、ノズル12の巻線時の軌跡は、磁極36bのなるべく近くを通るような矩形に設定され、磁極36bに整列巻きされた線材11から成るコイル部41を得ることができる。
【0027】
1の磁極36bに線材11を巻回させた後には、環状部36aに軸方向に沿って設けられた延設部36cに線材11を掛け回し、次に巻線を行う別の磁極36bにまでそのノズル12を移動させる。この実施の形態における延設部36cは、コア38を被覆するインシュレータ37の環状被覆部37aに軸方向に沿って延設されたものを示す。この延設部36cはワーク36の環状部36aに沿って円弧状に形成された壁材であって、磁極36bに巻線された線材11を環状部36aの内側から延設部36cの外側に引き出すためのスリット36dが複数形成される。この延設部36cはワーク36の軸方向の両側にそれぞれ形成される。このため、線材11の掛け回しは、ワーク36の軸方向のいずれか一方又は双方の端面に設けられた延設部36cに対して行われる。
【0028】
図2は、ワーク36の軸方向の上側における端面に設けられた延設部36cに線材11を掛け回す場合を示す。この上側における延設部36cに線材11を掛け回すには、1の磁極36bにおける巻線が終了した段階で、駆動手段13はノズル12をワーク36の上方に引き出す。その後、クランク駆動部26によってクランク24を下降させ、ノズル回転部22を回転させてノズル12を図2に示すような鉛直位置に切替える。その後ノズル12を環状部36aの内側から延設部36cの外側に移動させ、そのノズル12の先端から繰出される線材11を環状部36aの内側からスリット36dを介して延設部36cの外側に引き出す。その後そのノズル12を若干下降させ、そのノズル12の先端が環状部36aの軸方向に直交して延設部36cの突出端に接触する仮想面Mより環状部36a側に位置させる。
【0029】
ノズル12の先端を仮想面Mより環状部36a側に位置させた状態で、巻線部位置設定手段30における図示しないサーボモータを駆動させ、そのワーク36が搭載された回転台32を磁極36bのピッチ分だけ回転させる。すると、ノズル12は環状部36aに対して円周方向に移動することになり、そのノズル12の先端から繰出される線材11は、上側の延設部36cの外側に掛け回される。この回転台32の回転は、巻線すべき別の磁極36bにまでノズル12が達した状態で終了させる。その後、鉛直位置にあるノズル12を延設部36cの外側から環状部36aの内側に移動させ、そのノズル12の先端から繰出される線材11を環状部36aの外側からスリット36dを介して延設部36cの内側に引き込み、巻線すべき別の磁極36bに再び巻線を行う。これにより、上側の延設部36cの外側に掛け回された線材11からなる渡り線部11aを得ることができる。
【0030】
図1は、ワーク36の軸方向の下側における端面に設けられた延設部36cに線材11を掛け回す場合を示す。この下側における延設部36cに線材11を掛け回すには、磁極36bへの巻線後、クランク駆動部26によってクランク24を上昇させ、ノズル回転部22を回転させてノズル12を図1に示すような先端が斜め上方に向く傾斜位置に切替える。その後ノズル12の先端を環状部36aの内側から延設部36cの外側に移動させ、そのノズル12の先端から繰出される線材11を環状部36aの内側からスリット36dを介して延設部36cの外側に引き出す。その後そのノズル12を若干上昇させ、そのノズル12の先端が環状部36aの軸方向に直交して延設部36cの突出端に接触する仮想面Mと交差させるか或いはその仮想面Mより環状部36a側に位置させる。図1では、ノズル12の先端が仮想面Mと交差する場合を示す。
【0031】
ノズル12の先端を仮想面Mと交差させた状態で、巻線部位置設定手段30における図示しないサーボモータを駆動させ、そのワーク36が搭載された回転台32を磁極36bのピッチ分だけ回転させる。すると、ノズル12は環状部36aに対して円周方向に移動することになり、そのノズル12の先端から繰出される線材11は、下側の延設部36cの外側に掛け回される。この回転台32の回転は、巻線すべき別の磁極36bにまでノズル12が達した状態で終了し、その後、ノズル12を延設部36cの外側から環状部36aの内側に移動させ、線材11を環状部36aの外側からスリット36dを介して延設部36cの内側に引き込み、巻線すべき別の磁極36bに再び巻線を行う。これにより、下側の延設部36cの外側に掛け回された線材11からなる渡り線部11aを得ることができる。
【0032】
巻線すべき磁極36bの全てに巻線が行われた後には、最後の磁極36bへの巻線が終了した段階で、駆動手段13はノズル12をワーク36の上方に引き出し、クランク駆動部26によってクランク24を下降させ、ノズル12を鉛直位置に切替える。そして、駆動手段13はノズル12を移動させ、線材11を図示しない捨て絡げピンに絡げて固定し、巻線作業を終了させる。
【0033】
このように、線材11の掛け回し時に、ノズル12の先端を環状部36aの軸方向に直交して延設部36cの突出端に接触する仮想面Mと交差させるか又はその仮想面Mより環状部36a側に位置させると、ノズル12の先端と延設部36cの突出端との間に環状部36aの軸方向における隙間は生じない。このため、この状態のノズル12を環状部36aに対して周方向に移動させると、ノズル12の先端から繰出される線材11は延設部36cの外側に確実に掛け回され、ノズル12から繰出された線材11がノズル12と延設部36cとの間の隙間からコイル部41側に戻るようなことはない。また、図1に示すように、ワーク36の下側から下方に延びて設けられた延設部36cに線材11を掛け回す場合であっても、ノズル12を従来の水平位置を通過して先端が斜め上方を向く図1に示す傾斜位置に変更可能とすることにより線材11を延設部36cの外側に確実に掛け回すことができる。この結果、ノズル12を従来よりも伸長させる必要はない。よって、本発明では、巻線し得るワーク36の種類を制限することなく、掛け回し時にノズル12から繰出された線材11がノズル12と延設部36cとの間の隙間からコイル部41側に戻ることを有効に回避することができる。
【0034】
図6に、本発明の別の実施の形態を示す。図6に示すワーク36は、3相式回転電機用ステータに用いられるものを示し、3相式回転電機のU相、V相及びW相におけるそれぞれの渡り線部11aを軸方向に所定の間隔を空けて掛け回すように、延設部36cの外周面には周方向に延びてそれらの渡り線部11aを収容するための3本の凹溝36eが軸方向に所定の間隔を空けて形成される。このようなワーク36であっても本発明の方法により巻線することができる。即ち、この別の実施の形態では、線材11の掛け回し時に、ノズル12の先端から繰出される線材11が対応する凹溝36eに落ち込むように、ノズル12の上下位置が調整される。
【0035】
具体的に説明すると、図6では、U相における渡り線部11aを最上段の凹溝36eに収容し、V相における渡り線部11aを中央段の凹溝36eに収容し、W相における渡り線部11aを最下段の凹溝36eに収容する場合を例示して示す。そして、線材11の掛け回し時に、ノズル12の先端が仮想面Mより環状部36a側に位置した状態であって、巻線がU相のものであれば、ノズル12の先端から繰出される線材11が最上段の凹溝36eに落ち込むように実線で示すようにその上下位置が調整され、巻線がV相のものであれば、線材11が中央段の凹溝36eに落ち込むように一点鎖線で示すようにその上下位置が調整される。そして、巻線がW相のものであれば、線材11が最下段の凹溝36eに落ち込むように二点鎖線で示すようにその上下位置が調整され、この時、図6では、ノズル12の先端が仮想面Mと交差する状態となる場合を示す。
【0036】
ノズル支持部21に方向を変更可能にノズル12が取付けられているので、このノズル12の先端位置の調整は、図6に示すように、先端が斜め上方を向くノズル12の傾斜角度を変更することにより行うことができる。また、図示しないが、このノズル12の先端位置の調整は、先端が斜め上方を向くノズル12の傾斜角度を変更することなく、そのノズルの上下位置を駆動手段13により変更調整しても良い。従って、延設部36cの外周面に周方向に延びる凹溝36eが軸方向に所定の間隔を空けて形成されていても、傾斜したノズル12の角度又は位置を調整して先端をその凹溝36eに選択的に対応させることにより、所望の凹溝36eに収容された渡り線部11aを得ることができる。このように、3相式回転電機のU相、V相及びW相におけるそれぞれの渡り線部11aを凹溝36eに収容することにより、線材11がノズル12と延設部36cとの間の隙間からコイル部41側に戻ることを回避するとともに、それらが互いに交差することを防止することができ、得られた3相式回転電機の信頼性を十分に高めることができる。
【0037】
なお、上述した実施の形態では、駆動源16e,17e,18eとして、サーボモータを用いる場合を説明したが、駆動源16e,17e,18eとしてステッピングモータを用いることもできる。
【0038】
また、上述した実施の形態では、巻線部位置設定手段30を駆動せずにノズル12を3軸駆動させて磁極36bに線材11を巻回する場合を説明したが、ノズル12の移動を上下方向と磁極36bの軸方向の2軸駆動とし、巻線部位置設定手段30が、ノズル12の上下動作と同期状態としてワーク36自体を往復回転動作させることによって、線材11を磁極36bに巻き付けるようにしても良い。この場合であっても、磁極36bがノズル12の上下動作と同期状態として駆動されることにより、確実に線材11を磁極36bに巻き付けることが可能となる。
【0039】
また、上述した実施の形態では、円環状の環状部36aの内周面から環状部36aの中心に向けて突出している複数の磁極36bとを備えたワーク36を示したが、図示しないが、ワークは円環状の環状部の外周面から外側に向かって放射状に突出している複数の磁極36bとを備えたものであっても良い。
【0040】
更に、上述した実施の形態では、ワーク36の環状部36aに沿って円弧状に形成された壁材からなる延設部36cを例示して説明したが、延設部は、線材11を掛け回すことができる限り、ワークの環状部からその軸方向に沿って設けられたピン状のものであっても良い。
【符号の説明】
【0041】
11 線材
12 ノズル
21 ノズル支持部
36a 環状部
36b 磁極
36c 延設部
M 仮想面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部(36a)から径方向に突出して設けられた1の磁極(36b)にノズル(12)の先端から繰出される線材(11)を巻回させた後、前記環状部(36a)に軸方向に沿って設けられた延設部(36c)に前記線材(11)を掛け回し、前記掛け回しの後に前記ノズル(12)の先端から繰出された線材(11)を別の磁極(36b)に巻回させる線材の巻線方法において、
前記線材(11)の掛け回しにおける前記ノズル(12)の先端が前記環状部(36a)の軸方向に直交して前記延設部(36c)の突出端に接触する仮想面(M)と交差するか又は前記仮想面(M))より前記環状部(36a)側にある
ことを特徴とする線材の巻線方法。
【請求項2】
磁極(36b)が環状部(36a)から径方向内側に突出して設けられ、前記環状部(36a)に遊挿された長尺状のノズル支持部(21)にノズル(12)が方向を変更可能に取付けられ、前記ノズル(12)を前記支持部(21)に交差させて先端から繰出す線材(11)を前記磁極(36b)に巻回させ、前記ノズル(12)を前記支持部(21)に平行にして又は前記支持部(21)に対して傾斜させて先端から繰出す線材(11)を延設部(36c)の径方向外側に掛け回す請求項1記載の線材の巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−4477(P2011−4477A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143773(P2009−143773)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】