説明

線材の曲げ形成方法及び装置

【課題】線材の曲げ形成部分の内周面にしわが発生しない線材の曲げ形成方法及び装置を実現する。
【解決手段】丸パンチ145cの外周面に丸パンチ145cの中心軸と交差する状態で線材121を当接させ、線材121が丸パンチ145cの外周面に巻き付くように線材121を丸パンチ145c側に押圧することにより、線材121を曲げ形成する線材の曲げ形成方法及び装置において、丸パンチ145cがその中心軸に関して回転可能となるように支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸パンチの外周面に丸パンチの中心軸と交差する状態で線材を当接させ、線材が丸パンチの外周面に巻き付くように線材を丸パンチ側に押圧することにより、該線材を曲げ形成する線材の曲げ形成方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図11〜図14を用いて、内端側には内フックが、外端側には外フックが形成される従来のスパイラルスプリングの製造方法及び装置を説明する。
【0003】
図11において、外周面に線材1が巻き付けられるマンドレル3には、外周面から内部に向かって内フック形成溝5が形成されている。マンドレル3に空間を介して線材1を保持する線材保持面7を有する下刃9が設けられている。11は線材保持面7を介してマンドレル3に向かって線材1を送り出す線材送り出し手段である。線材保持面7とマンドレル3との間には、下刃9と上刃13とからなり、線材保持面7とマンドレル3との間に位置する線材1を切断する切断手段15が設けられている。切断手段15とマンドレル3との間には、ダイ17とパンチ19とからなり、線材1に外フックを形成する外フック形成手段21が設けられている。
【0004】
そして、マンドレル3、線材送り出し手段11、切断手段15、外フック形成手段21を駆動する制御部は、以下のような作動を行う。
(1)図11に示すように、マンドレル3の外周面から内部に向かって形成された内フック形成溝5が、送り出される線材1を保持する線材保持面7と同一平面上に位置するようにマンドレル3を位置させ、線材送り出し手段を駆動してマンドレル3の内フック形成溝5に線材1を挿入する(第1の工程)。
(2)図12に示すように、中心軸を中心にマンドレル3を一方の方向へ回転させて、内フック25を形成し、更に、マンドレル3の外周に線材1を巻き付ける。そして、マンドレル3への巻き付けが終了すると、中心軸を中心にマンドレル3を他方の方向へ回転させ、スプリングバックを防止する(第2の工程)。
(3)図13に示すように、切断手段15を駆動して、線材保持面7とマンドレル3との間の空間に位置する線材1を切断する(第3の工程)。
(4)図14に示すように、外フック形成手段21を駆動して、線材保持面7とマンドレル3との間の空間に位置する線材に外フック23を形成する(第4の工程)(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−26737号公報(図2〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したスパイラルスプリングの製造方法及び装置では、次のような問題点がある。
図14に示すように、外フック23は、外フック形成手段21を用いて1工程で形成している。よって、外フックの形状が安定しない。
【0007】
又、外フック形成手段21のパンチ19の摩耗が進行すると、形成される外フック23の内面側にしわが発生する問題点もある。
【0008】
本発明は、上記問題点の内の、特に後者の曲げ形成における問題点に鑑みてなされたもので、線材の曲げ形成部分の内周面にしわが発生しない線材の曲げ形成方法及び装置を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する請求項1に係る発明は、丸パンチの外周面に該丸パンチの中心軸と交差する状態で線材を当接させ、該線材が前記丸パンチの外周面に巻き付くように該線材を前記丸パンチ側に押圧することにより、該線材を曲げ形成する線材の曲げ形成方法に関するもので、前記丸パンチがその中心軸に関して回転可能に支持されていることを特徴とするものであり、請求項2に係る発明は、前記線材はスプリングを形成する線材であることを特徴とするものである。
【0010】
又、請求項3に係る発明は、線材の曲げ形成装置に関するもので、丸パンチを該丸パンチの中心軸が線材と交差する方向に向かせ且つ該丸パンチを回動可能に支持するフォーミング丸パンチ部と、線材の挿入空間を介して前記フォーミング丸パンチ部と向き合うフォーミングダイ部と、フォーミングダイ部側から前記丸パンチの外周面に当接されている線材を、前記フォーミングダイ部によって前記丸パンチ側に押圧させ、該線材を前記丸パンチの外周面に巻き付かせることで、該線材を曲げ形成する制御部とを備えたことを特徴とするものであり、請求項4に係る発明は、前記線材はスプリングを形成する線材であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜4に係る発明によれば、線材を曲げ形成する際に、線材に加わる荷重のうちの長手(曲げ)方向の分力により、線材が曲げ方向に移動しながら曲げ形成される。即ち、線材の曲げ部分の内面側を延ばしながら曲げ形成が行われることにより、線材の曲げ部分にしわが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の曲げ形成方法を採用したスパイラルスプリングの製造装置の第1の工程の状態を説明する構成図である。
【図2】図1のスパイラルスプリングの製造装置の第2の工程の状態を説明する構成図である。
【図3】図1のスパイラルスプリングの製造装置の第3の工程の状態を説明する構成図である。
【図4】図1のスパイラルスプリングの製造装置の第4の工程の状態を説明する構成図である。
【図5】図1のスパイラルスプリングの製造装置の第5の工程の状態を説明する構成図である。
【図6】図1のスパイラルスプリングの製造装置の第6の工程の状態を説明する構成図である。
【図7】図1のスパイラルスプリングの製造装置で製造されるスパイラルスプリングを説明する図である。
【図8】図1のスパイラルスプリングの製造装置の電気的接続を説明するブロック図である。
【図9】図8の制御部の作動を説明するフロー図である。
【図10】図1の上フォーミング部のA方向矢視図である。
【図11】従来のスパイラルスプリングの製造装置の第1の工程の状態を説明する構成図である。
【図12】図11のスパイラルスプリングの製造装置の第2の工程の状態を説明する構成図である。
【図13】図11のスパイラルスプリングの製造装置の第3の工程の状態を説明する構成図である。
【図14】図11のスパイラルスプリングの製造装置の第4の工程の状態を説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の曲げ形成方法及び装置を組み込んだスパイラルスプリングの製造装置では、図7に示すようなスパイラルスプリングを製造できる。図7において、線材をスパイラル状に形成してなるスパイラルスプリング101は、その内端部に内フック103が形成され、外端部に外フック105が形成されている。
【0014】
次に、本形態例のスパイラルスプリングの製造装置を図1を用いて説明する。マンドレル111は、中心軸(紙面に対して垂直な軸O)を中心に回転駆動され、更に、上下方向に駆動されるようになっている。マンドレル111の外周面に線材121が巻き付けられ、外周面から内部に向かって内フック形成溝113が形成されている。
【0015】
マンドレル111に隣接して下治具131が配置されている。この下治具131は、線材121を保持する線材保持面133を有している。下治具131の上方には、上下方向に駆動される上移動体141が配置されている。
【0016】
この上移動体141は、下治具131のマンドレル111と対向する面135近傍の線材保持面133に当接可能な切断上刃部143と、下治具135のマンドレル111と対向する面とマンドレル111との間の線材121に当接可能な上フォーミング丸パンチ部(フォーミング丸パンチ部)145を有している。
【0017】
上フォーミング丸パンチ部145は、図10に示すように、下部の両サイドに、線材121の巻き方向に沿ってブラケット145a、145bが設けられている。これらブラケッ145a,145bに、丸パンチ145cが回転可能に取り付けられている。即ち、丸パンチ145cは、線材保持面133と平行で、線材121の送り出し方向と直交する軸を中心に回転可能に設けられている。
【0018】
下治具131のマンドレル111と対向する面135とマンドレル111との間であって、下治具131の下方には、上下方向に駆動される下移動体151が配置されている。この下移動体151は、下治具131のマンドレル111と対向する面135に摺接しながら移動し、切断上刃部143と協働して線材121を切断する切断下刃部153、並びに、上フォーミング丸パンチ部145の丸パンチ145cと協働して線材121に外フック105を形成する下フォーミングダイ部(フォーミングダイ部)155を有している。
【0019】
そして、上移動体141の上フォーミング丸パンチ部145が、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121を上方から押さえることにより、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121が線材保持面133と同じ平面から上方に移動するのを禁止する押さえ手段となっている。
【0020】
又、上移動体141の切断上刃部143と、下移動体151の切断下刃部153とで、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121を切断する切断手段となっている。
【0021】
更に、上移動体141の上フォーミング丸パンチ部145と、下移動体151の下フォーミングダイ部155とで線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121に外フック105を形成する外フック形成手段となっている。この外フック形成手段を構成する部分が、本発明の曲げ形成法を実施する部分であり、本発明の曲げ形成装置の形態例に相当する部分である。
【0022】
尚、上記製造装置では、上移動体141を下降させ、下移動体151を上昇させることにより、線材121を切断すると共に、外フック105を形成することができるが、最初に線材121が切断され、次に外フック105が形成されるように、上移動体141の上フォーミング丸パンチ部145、切断上刃部143、下移動体151の下フォーミングダイ部155、切断下刃部153が形成されている。
【0023】
線材送り出し手段としての一対の送りローラ161により、線材121は、線材保持面133を介してマンドレル111に向かって送り出されるようになっている。そして、図8に示すように、マンドレル111、線材送り出し手段である送りローラ161、押さえ手段、切断手段、外フック形成手段を構成する上移動体141,下移動体151は、制御部201により、制御駆動されるようになっている。
【0024】
次に、制御部201の作動を、図9と図1〜図6を用いて説明する。
(1)図1に示すように、マンドレル111の外周面から内部に向かって形成された内フック形成溝113が、送り出される線材121を保持する線材保持面133と同一平面上に位置するようにマンドレル111を位置させ、線材送り出し手段である送りローラ161を駆動してマンドレル111の内フック形成溝113に線材121を挿入する(第1の工程)。
(2)図2に示すように、中心軸Oを中心にマンドレル111を一方の方向へ略90°回転させると共に、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121が線材保持面133と同じ平面上に位置するように、マンドレル111を下降させ、内フック103を形成する(第2の工程)。
(3)図3に示すように、線材送り出し手段である送りローラ161を駆動して線材121を送り出しながら、中心軸Oを中心にマンドレル111を一方の方向へ回転させてマンドレル111の外周に線材121を巻き付けると共に、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121が線材保持面133と同じ平面上に位置するように、マンドレル111を下降させる。
【0025】
そして、線材121のマンドレル111への巻き付けが終了すると、押さえ手段である上フォーミング丸パンチ部145を有する上移動体141を下降させ、上フォーミング丸パンチ部145で線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121を上方から押さえ、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121が線材保持面133と同じ平面から上方に移動するのを禁止する(第3の工程)。
【0026】
尚、上移動体141を下降させることにより、上移動体141の切断上刃部143も、下治具131の線材保持面133上の線材121に当接する。
(4)図4に示すように、マンドレル111を上昇させ、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121にフォーミング丸パンチ部145を支点とする曲げ変形を行ない、外フックの予備曲げ形成を行う(第4の工程)。
(5)図5に示すように、中心軸Oを中心にマンドレル111を他方の方向へ回転させ、スプリングバックを防止する(第5の工程)。
(6)図6に示すように、下移動体151を上昇させる。最初に、切断上刃部143と切断下刃部153とで、予備曲げ形成した部分がマンドレル111に巻き付けられた線材121側にあるように線材121を切断する。次に、線材121が曲げ方向に移動可能な状態で、上フォーミング丸パンチ部145と下フォーミングダイ部155とで、線材121の予備曲げ形成した部分に外フック105を形成することにより、スパイラルスプリング101が製造される(第6の工程)。
【0027】
このようなスパイラルスプリングの製造方法及び装置では以下のような効果を得ることができる。
(1)第4の工程で、マンドレル111を上昇させ、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121に外フックの予備曲げ形成を行い、その後、第6の工程で、予備曲げ形成した部分に外フック105を形成することにより、外フック105の形状が安定する。
(2)上フォーミング丸パンチ部145の丸パンチ145cは、線材保持面133と平行で、線材121の送り出し方向と直交する軸を中心に回転可能に設けられている。このため、第6の工程で、線材121の予備曲げ形成した部分に外フック105を形成する際に、丸パンチ145cにより線材121に加わる荷重のうちの長手(曲げ)方向の分力により、線材121が曲げ方向に移動しながら曲げ形成される。即ち、外フック105の内面側を延ばしながら曲げ加工が行われることになる。これにより、外フック105の内面側にしわが発生しない。
(3)第3の工程で、線材121のマンドレル111への巻き付けが終了すると、押さえ手段である上フォーミング丸パンチ部145を有する上移動体141を下降させ、上フォーミング丸パンチ部145で線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121を上方から押さえ、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121が線材保持面133と同じ平面から上方に移動するのを禁止することにより、第5の工程で、中心軸を中心にマンドレル111を他方の方向へ回転させても、第4の工程で形成された外フックの予備曲げ成形した部分が上フォーミング丸パンチ部145に当接し上方及び線材方向に移動しないので、第6の工程で外フック105を形成する場合に外フックの位置が定まる。
(4)切断上刃部143及び上フォーミング丸パンチ部145を有した上移動体141と、切断上刃部143と協働して線材121を切断する切断下刃部153、並びに、上フォーミング丸パンチ部145と協働して線材121に外フック105を形成する下フォーミングダイ部155を有した下移動体151とを駆動する構成とすることにより、上フォーミングパンチ、下フォーミングダイ、切断上刃部、切断下刃をそれぞれ駆動する構成に比べ、構成が簡単である。
(5)第2の工程、第3の工程で、マンドレル111を回転させる際に、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121が線材保持面133と同じ平面上に位置するように、マンドレル111を下降させることにより、線材保持面133とマンドレル111との間の空間に位置する線材121には、曲げ力が作用せず、変形するのを防止できる。
【0028】
尚、上記スパイラルスプリングの製造装置では、上移動体141にフォーミング丸パンチ部、下移動体151にフォーミングダイ部を設けたが、上移動体141にフォーミングダイ部、下移動体151にフォーミングパンチ部を設けてもよい。
【0029】
又、本発明は線材の曲げ形成方法及び装置に関するものであり、上記スパイラルスプリングの製造方法及び装置以外にも適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
105 外フック
111 マンドレル
121 線材
133 線材保持面
145 上フォーミング丸パンチ部(フォーミング丸パンチ部)
145c 丸パンチ
155 下フォーミングダイ部(フォーミングダイ部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸パンチの外周面に該丸パンチの中心軸と交差する状態で線材を当接させ、該線材が前記丸パンチの外周面に巻き付くように該線材を前記丸パンチ側に押圧することにより、該線材を曲げ形成する線材の曲げ形成方法において、
前記丸パンチはその中心軸に関して回転可能に支持されていることを特徴とする線材の曲げ形成方法。
【請求項2】
前記線材はスプリングを形成する線材であることを特徴とする請求項1記載の線材の曲げ形成方法。
【請求項3】
丸パンチを該丸パンチの中心軸が線材と交差する方向に向かせ且つ該丸パンチを回動可能に支持するフォーミング丸パンチ部と、
線材の挿入空間を介して前記フォーミング丸パンチ部と向き合うフォーミングダイ部と、
フォーミングダイ部側から前記丸パンチの外周面に当接されている線材を、前記フォーミングダイ部によって前記丸パンチ側に押圧させ、該線材を前記丸パンチの外周面に巻き付かせることで、該線材を曲げ形成する制御部と
を備えた線材の曲げ形成装置。
【請求項4】
前記線材はスプリングを形成する線材であることを特徴とする請求項3記載の線材の曲げ形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−83825(P2011−83825A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17798(P2011−17798)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【分割の表示】特願2008−33270(P2008−33270)の分割
【原出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】