説明

線材の溶融めっき装置

【課題】溶融めっき前の線材表面に付着した過剰なフラックスを確実に除去することができる線材の溶融めっき装置を提供するものである。
【解決手段】本発明に係る溶融めっき装置は、線材101をフラックス槽103内を通してその表面にフラックスを付着させた後、その線材101を前処理装置120に通して表面に付着した過剰なフラックスを除去し、さらにその線材101を溶融めっき槽105内を通して溶融めっきを行う溶融めっき装置であり、前処理装置120を、走行する線材101に所定の力で密着させて線材101の表面に付着した過剰なフラックスと共に、汚れ、異物などを絞り落とす絞り具122で構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器や医療機器用の同軸ケーブルの心線、シールド線に適用される錫めっき銅線の溶融めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器や医療機器用のケーブル導体には、銅線及び銅合金線が使用されている。近年の電子機器の小型化、軽量化に伴い、ケーブルの細径化が求められ、その結果、銅線も細径化が必要不可欠になってきた。
【0003】
また、導体には、腐食などによる表面品質の低下を抑える目的で、錫めっきや銀めっきを施すものがあり、そのめっき方法の1つとして、溶融めっき法がある。
【0004】
溶融めっき装置は、図1に示すように、銅線101を供給する供給ボビン102と、フラックスを受容した(フラックスが入った)フラックス槽103及びフラックス絞り部材104と、錫のめっき浴を受容した溶融錫めっき槽105と、銅線101に付着した余分な溶融錫めっきを絞り取るめっき絞りダイス106と、得られた錫めっき銅線110を巻き取る巻き取りボビンを有する巻き取り装置109と、銅線101をガイドするガイドプーリ108とを備える。107は、銅線101を錫めっき浴中に通すためのガイド部材である。
【0005】
従来は、フラックス槽103に銅線101を浸漬させた後、過剰なフラックスの除去を目的としてフラックス絞り部材104にフェルト(繊維品)を用いて実施していた。
【0006】
【特許文献1】特開平2−259057号公報
【特許文献2】特開平6−49614号公報
【特許文献3】特開平5−320845号公報
【特許文献4】特開平5−311382号公報
【特許文献5】特開平5−59512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、フラックス絞り部材104がフェルトであるため、銅線101との密着性にバラツキがあり、過剰なフラックスの除去が不十分(不均一)であった。そのため、溶融錫めっき槽105に銅線101が浸漬される際に、余分なフラックスの持ち込みによるフラックス燃えカス、気化ガスが発生してしまい、作業環境が悪化してしまうという問題がある。
【0008】
また、前記のように、過剰なフラックスの除去が不十分であると、部分的に錫めっき厚が薄くなったり(又はめっき偏肉が発生したり)、めっき表面性状が荒れるといった品質上の問題がある。
【0009】
更に、過剰なフラックスの除去が不十分であると、溶融錫めっき槽105内に不純物が混入するおそれがあり、溶融錫めっき槽105内の錫めっき濃度に影響を与えるだけでなく、めっき絞りダイス106の目詰まりが発生し、それによって銅線101の断線が生じるおそれがあり、製品の歩留まりに大きな影響を与える問題がある。
【0010】
また、従来のフェルト方式だと、めっき線速の増速に伴い、フェルト部での過剰フラックスの除去時間が短くなるため、フラックスの除去がますます困難になるという問題がある。
【0011】
そこで本発明の目的は、溶融めっき前の線材表面に付着した過剰なフラックスを確実に除去することができる線材の溶融めっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、線材をフラックス槽内を通してその表面にフラックスを付着させた後、その線材を前処理装置に通して表面に付着した過剰なフラックスを除去し、さらにその線材を溶融めっき槽内を通して溶融めっきを行う溶融めっき装置において、上記前処理装置を、走行する線材に密着させて線材表面に付着した過剰なフラックスと共に、汚れ、又は異物を絞り落とす絞り具で構成したことを特徴とする線材の溶融めっき装置である。
【0013】
請求項2の発明は、上記前処理装置が筒体で構成され、その筒体の線材導入側端に、可撓性を有し、かつ、径方向内方に向かって延びる複数のひだを設け、それらのひだを上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置である。
【0014】
請求項3の発明は、上記前処理装置が筒体で構成され、その筒体の内周面を上記絞り具とし、かつ、筒体の線材導入側端に絞り具と連なる導入テーパ部を設けた請求項1記載の線材の溶融めっき装置である。
【0015】
請求項4の発明は、上記前処理装置が少なくとも2分割可能なブロック体で構成され、そのブロック体の分割面に上記線材を通すための溝を設け、その溝を上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置である。
【0016】
請求項5の発明は、上記ブロック体を線材走行方向に沿って2個、かつ、上記溝の位置を線材周方向に90°ずらして配置した請求項4記載の線材の溶融めっき装置である。
【0017】
請求項6の発明は、上記前処理装置が向かい合う2枚の板材で構成され、各板材の対向面に畝状の凸部を複数設け、それらの凸部を上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置である。
【0018】
請求項7の発明は、上記前処理装置が少なくとも1枚の板材で構成され、その板材の板面を上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置である。
【0019】
請求項8の発明は、上記板材が、線材走行方向に沿って2枚以上配置された請求項7記載の線材の溶融めっき装置である。
【0020】
請求項9の発明は、上記板材が、線材を挟み込むように上下に2枚配置された請求項7記載の線材の溶融めっき装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、溶融めっき前の線材表面に付着した過剰なフラックスを、前処理装置の絞り具で確実に絞り落とし、除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0023】
本実施の形態に係る溶融めっき装置は、前処理装置の構成が異なる以外は、従来の溶融めっき装置(図1参照)と同じ構成を有している。
【0024】
従来の溶融めっき装置におけるフラックス絞り部材104は、フェルトで構成されるものであったのに対して、本実施の形態に係る溶融めっき装置の前処理装置(フラックス絞り部材)120は、走行する銅線101に対する密着性の高い構造(絞り具)を有していることに特徴がある。
【0025】
図2に示すように、前処理装置120は、筒体121と、ひだ状部(絞り具)122とで構成される。ひだ状部122の中央部が、銅線101が挿入される挿入部123となる。ひだ状部122は、筒体121の線材導入側端(図2中の左端)に設けられ、径方向内方に向かって延びる複数のひだからなる。ひだ状部122は、可撓性を有する弾性材料(例えば、ゴム、樹脂、薄い金属材)、かつ、非繊維材、非フェルト材で構成される。ここで言うゴムは、天然ゴム、合成ゴムのいずれであってもよい。また、弾性材料としては、より銅線への密着性の高い材料が好ましい。
【0026】
筒体121とひだ状部122は、一体又は別体のどちらであってもよい。また、ひだ状部122を構成する各ひだの形状は、銅線101を通した際に隙間無く銅線101と密着するよう構成される。
【0027】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0028】
図1に示すように、銅線101をフラックス槽103内を通してその表面にフラックスを付着させた後、その銅線101を図2に示した前処理装置120に通す。
【0029】
走行する銅線101を、前処理装置120の挿入部123に通すと、ひだ状部122における可撓性を有する各ひだが銅線101の外形に沿って撓み、挿入部123が拡径する。この時、各ひだの反発力によって、ひだ状部122が銅線101に密着され、走行する銅線101とひだ状部122とが摺接する。これによって、銅線101の表面に付着した過剰なフラックスが、連続的に、かつ、確実に絞り落とされ、除去される。
【0030】
ひだ状部122は、非繊維材、非フェルト材で構成されていることから、フラックス除去を継続的に行っても、その表面部にフラックスが染み込む(又は付着する)ことはなく、フラックスを絞り落とす効果が損なわれることはない。
【0031】
前処理装置120は、過剰なフラックスの除去ばかりではなく、銅線101の表面の異物、汚れを除去する効果も期待できることから、錫めっきとの界面活性を促す効果が得られる。その結果、錫めっき厚の均一化、及びめっき表面性状の安定化を図ることができ、錫めっき銅線110の品質向上につながる。
【0032】
また、過剰なフラックスを除去することで、溶融錫めっき時において、過剰なフラックスの持ち込みによるフラックス燃えカス、気化ガスの発生が防止され、作業環境の改善を図ることができる。
【0033】
更に、過剰なフラックスを除去することで、溶融錫めっき槽105内に不純物が混入せず、溶融錫めっき槽105内の錫めっき濃度を一定に保つことができ、めっき品質の安定性が図れるばかりでなく、絞りダイス106の目詰まりによる銅線101の断線も減少するため、製造効率が向上する。
【0034】
また、前処理装置120を用いた本実施の形態に係る溶融めっき装置は、めっき線速を増速しても、確実に過剰なフラックスを除去できることから、めっき線速に関係なく、めっき厚及びめっき表面性状の安定化を図ることができる。例えば、銅線101の線速がmax800m/minであっても、安定しためっき厚及びめっき表面性状の錫めっき銅線110を得ることができる。
【0035】
本実施の形態では、断面円形の線材を用いた場合について説明を行ったが、例えば、断面矩形状の条材にも適用でき、線材の断面形状は特に限定するものではない。前処理装置における挿入部の形状は、使用する線材の断面形状に応じて適宜変更される。
【0036】
また、本実施の形態に係る溶融めっき装置の前処理装置は、溶融めっきに供する銅線表面に付着した過剰なフラックス、異物、汚れの除去のみに限らず、その他の線材、条材表面に付着した異物、汚れを除去するために用いてもよい。
【0037】
次に、本実施の形態の変形例を添付図面に基いて説明する。
【0038】
第1変形例を図3(b)に示すように、前処理装置120は、導入テーパ部126を有する筒体124で構成してもよい。図3(a)に示すように、筒体124の内周面125が、銅線101が挿入され、絞りを行う絞り具となる。また、筒体124の線材導入側端(図3(a)中では左端)に絞り具と連なる導入テーパ部126が設けられる。
【0039】
第2変形例を図4(b),図4(c)に示すように、前処理装置120は、2分割可能なブロック体、すなわち2つのブロック片127,128を組み合わせてなるブロック体で構成してもよい。各ブロック片127,128の分割面(組み合わせ面)に銅線101を通すための溝129がそれぞれ設けられ、それらの溝129が絞り具となる。また、前処理装置120は、図4(a)に示すように、銅線101の走行方向(図4(a)中では左右方向)に沿って2個、かつ、溝129の位置を銅線101の周方向に90°ずらして配置される。
【0040】
溝の形状は、半円状の他に、図4(d),図4(e)に示すように、断面V字状であってもよい。また、前処理装置120を、3分割以上に分割可能なブロック体、すなわち3つ以上のブロック片を組み合わせてなるブロック体で構成するようにしてもよい。
【0041】
第3変形例を図5(a)に示すように、前処理装置120は、向かい合う2枚の板材131,132で構成してもよい。各板材131,132の対向面には、図5(b)に示すように、畝状の凸部133が複数設けられ、それらの凸部133が絞り具となる。凸部133の形状は、図5(a)に示す断面半円状の他に、鋸歯状などであってもよい。凸部133の延長方向は、銅線101の走行方向と平行でなければよく、必ずしも銅線101の走行方向と直交させる必要はなく、斜めに交わらせてもよい。
【0042】
第4変形例を図6(a)に示すように、前処理装置120は、銅線101の下側に配置される1枚の板材134で構成してもよい。この板材134の、銅線101と接する板面(図6(a)中では上面)135が絞り具となる。また、板材134は、図6(b)に示すように、銅線101の走行方向に沿って下側に2枚以上配置してもよい。更に、板材134は、図6(c)に示すように、銅線101を挟み込むように上下に2枚配置してもよい。この場合、各板材134の対向する板面135がそれぞれ絞り具となる。また、板材134は、銅線101の走行方向に沿って、交互に上下2枚、又は交互に左右2枚、或いは交互に上下2枚かつ交互に左右2枚配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】溶融めっき装置の概略図である。
【図2】本発明の好適一実施の形態に係る溶融めっき装置における前処理装置を示す図である。図2(a)は縦断面図、図2(b)は図2(a)の2B−2B線断面図である。
【図3】図2の前処理装置の第1変形例を示す図である。図3(a)は縦断面図、図3(b)は外観斜視図である。
【図4】図2の前処理装置の第2変形例を示す図である。図4(a)は上面図、図4(b)は図4(a)の4B−4B線断面図、図4(c)は図4(a)の4C−4C線断面図、図4(d)は図4(b)の変形例、図4(e)は図4(c)の変形例である。
【図5】図2の前処理装置の第3変形例を示す図である。図5(a)は縦断面図、図5(b)は図5(a)の板材における対向面の平面図である。
【図6】図2の前処理装置の第4変形例を示す図である。図6(a)は板材が1枚の例、図6(b)は板材が前後に2枚の例、図6(c)は板材が上下に2枚の例である。
【符号の説明】
【0044】
101 銅線(線材)
103 フラックス槽
120 前処理装置
105 溶融めっき槽
122 ひだ状部(絞り具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材をフラックス槽内を通してその表面にフラックスを付着させた後、その線材を前処理装置に通して表面に付着した過剰なフラックスを除去し、さらにその線材を溶融めっき槽内を通して溶融めっきを行う溶融めっき装置において、上記前処理装置を、走行する線材に密着させて線材表面に付着した過剰なフラックスと共に、汚れ、又は異物を絞り落とす絞り具で構成したことを特徴とする線材の溶融めっき装置。
【請求項2】
上記前処理装置が筒体で構成され、その筒体の線材導入側端に、可撓性を有し、かつ、径方向内方に向かって延びる複数のひだを設け、それらのひだを上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項3】
上記前処理装置が筒体で構成され、その筒体の内周面を上記絞り具とし、かつ、筒体の線材導入側端に絞り具と連なる導入テーパ部を設けた請求項1記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項4】
上記前処理装置が少なくとも2分割可能なブロック体で構成され、そのブロック体の分割面に上記線材を通すための溝を設け、その溝を上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項5】
上記ブロック体を線材走行方向に沿って2個、かつ、上記溝の位置を線材周方向に90°ずらして配置した請求項4記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項6】
上記前処理装置が向かい合う2枚の板材で構成され、各板材の対向面に畝状の凸部を複数設け、それらの凸部を上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項7】
上記前処理装置が少なくとも1枚の板材で構成され、その板材の板面を上記絞り具とした請求項1記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項8】
上記板材が、線材走行方向に沿って2枚以上配置された請求項7記載の線材の溶融めっき装置。
【請求項9】
上記板材が、線材を挟み込むように上下に2枚配置された請求項7記載の線材の溶融めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−24971(P2008−24971A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196936(P2006−196936)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】