説明

線状物貯線装置

【課題】 貯線時の緩みの発生の防止。
【解決手段】 貯線装置10は、固定シーブ12と、移動シーブ14と、牽引ユニット16と、検出手段18と、制御手段20とを備えている。シーブ12は、線状物Aを入出線するようにガイドするものである。シーブ14は、シーブ12に対して、近接・離隔自在に設けられている。ユニット16は、シーブ14を、シーブ12に対して、近接・離隔する方向に牽引するものである。検出手段18は、シーブ14の移動方向および移動量を検出する。制御手段20は、シーブ14とシーブ12との間の離隔状態に応じて、線状物Aが緩まない張力状態になるように、牽引ユニット16の牽引力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線状物貯線装置に関し、特に、繰出される線状物に最適な張力を付与することができる線状物貯線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバを多数本集合させてケーブル化する際に用いられる部品として、光ファイバ担持用のスペーサないしはスロットが知られている。この種の光ケーブル用のスペーサないしはスロットは、通常、熱可塑性樹脂の押出し成形により成形される線状物資材であって、このような線状物資材は、連続的に製造され、製造された線状物資材は、ドラムに巻き取られる。
【0003】
このような製造方法において、線状物資材は、例えば、3〜20km程度の長さで製造されるが、このような長さの線状物資材は、ドラムへの巻取り量に限界があり、製造途中で巻き取り用のドラムの交換を行う必要がある。
【0004】
ところで、このようなドラムの交換作業時においても、線状物資材の押出し成形を停止することはできず、この交換作業中(5〜15分間)には、線状物資材を貯線装置(アキュムレータ)に蓄えておき、製品製造の効率化を図ることが行われており、この種のアキュムレータは、例えば、特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されているアキュムレータは、線状物を入出線するようにガイドする固定シーブと、この固定シーブに対して、近接・離隔自在にもうけられ、線状物を貯線するようにガイドする移動シーブと、前記移動シーブを、固定シーブに対して離隔する方向に牽引する牽引ユニットと、前記移動シーブの移動方向を検出する検出手段と、前記移動シーブの移動方向に基づいて、前記線状物の入出線状態を判断し、前記線状物の入出線状態に応じて、前記線状物にかかる張力が一定になるように、前記牽引ユニットの牽引力を制御する制御手段とを備えている。しかしながら、このような構成のアキュムレータには、以下に説明する技術的な課題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−117380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、特許文献1に開示されているアキュムレータでは、線状物の平衡時,放線時,貯線時のそれぞれにおいて、線状物の張力が全て一定になるように牽引力を制御部で制御する。
【0008】
ところが、貯線時の張力が一定値になるように牽引力を設定したとしても、貯線時においては、線状物の貯線量によって、張力が変動し、固定シーブと移動シーブの間隔が大きく開いた場合には、線状物の自重により緩むことになり、特許文献1に開示されている制御では、このような問題に対応することができなかった。
【0009】
アキュムレータの固定シーブと移動シーブ間の緩みを防止する手段としては、例えば、線状物の巻取りテンションを高めに設定することも行われているが、このような手段では、断面がリブ形状のスロットの場合、巻取りドラム内で、リブが変形する不良品の発生に繋がる恐れがある。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、巻取りドラム内での不良品の発生を回避しつつ、貯線状態にかかわらず緩みの発生を防止することができる線状物貯線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、 線状物を入出線するようにガイドする固定シーブと、前記固定シーブに対して、近接・離隔移動自在に設けられ、線状物を貯線するようにガイドする移動シーブと、前記移動シーブを、固定シーブに対して離隔する方向に牽引する牽引ユニットと、前記移動シーブの移動方向を検出する検出手段と、前記移動シーブと前記固定シーブとの間の離隔状態に応じて、前記線状物が緩まない張力状態になるように、前記牽引ユニットの牽引力を制御する制御手段とを備えている。
【0012】
このように構成した線状物貯線装置によれば、制御手段が、移動シーブと固定シーブとの間の離隔状態に応じて、線状物が緩まない張力状態になるように、牽引ユニットの牽引力を制御するので、貯線状態(入線と出線の平衡状態、貯線増加状態、貯線減少状態、巻き始め時、巻き乱れ修正時、ドラム交換時)にかかわらず、緩みの発生を回避することができるとともに、このような作用効果は、線状物の巻取りテンションを高めに設定することなく得られるので、断面がリブ形状のスロットの場合でも、巻取りドラム内で、リブが変形する不良品の発生を回避することができる。
【0013】
前記線状物が緩まない張力状態は、前記固定シーブと前記移動シーブとの間の間隔に対応した検量線として予め作成し、前記検出手段で求めた現在の前記移動シーブの位置から、前記検量線を参照して決定することができる。
【0014】
前記検量線は、前記線状物の単位重量毎に作成することことができる。
【0015】
前記牽引ユニットの牽引力は、記線状物の初期張力と、前記線状物の単位長さ当たりの自重と、貯線量とにより求めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る線状物貯線装置によれば、巻取りドラム内での不良品の発生を回避しつつ、貯線状態にかかわらず緩みの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1〜図3は、本発明にかかる線状物貯線装置の一実施例を示している。図1は、本実施例の線状物貯線装置10の全体構成図であり、貯線装置10は、例えば、光ファイバケーブル用スロットないしはスペーサの製造ライン中に設置される。
【0018】
貯線装置10の入線側の前段には、スロットないしはスペーサの押出機や冷却装置などが配置され、出線側の後段には、最終引取機と巻取り機が配置され、製造されたスペーサないしはスロットがドラムに捲回される。
【0019】
図1に示した線状物貯線装置10は、抗張力線の外周に熱可塑性樹脂を押出して形成されるスロットやスペーサなどの線状物Aを蓄えるものであって、固定シーブ12と、移動シーブ14と、牽引ユニット16と、検出手段18と、制御手段20とを備えている。
【0020】
固定シーブ12は、線状物Aを入出線するようにガイドするものであって、回転自在に支持されている。移動シーブ14は、固定シーブ12と同軸上に回転自在に支持されたものであって、固定シーブ12に対して、近接・離隔移動自在に設けられている。
【0021】
線状物Aは、固定シーブ12と移動シーブ14との間に、複数回巻き付けられており、移動シーブ14は、図1に実線位置に示した移動シーブ遠点X2と、同点線で示した移動シーブ近点X1との間で、固定シーブ12に対して近接・離隔するように移動して、線状物Aを貯線するようにガイドする。線状物Aの貯線量は、移動シーブ14が遠点X2に移動した状態が最大となり、移動シーブ14が近点X1に移動した状態が最小となる。
【0022】
牽引ユニット16は、移動シーブ14を、固定シーブ12に対して、近接・離隔する方向に牽引するものであって、牽引モータ16aと、牽引モータ16aの回転軸16bに捲回された牽引ワイヤ16cを備え、牽引ワイヤ16cの一端は、移動シーブ14に繋がれている。
【0023】
このように構成された牽引ユニット16では、牽引モータ16aを回転駆動して、牽引ワイヤ16cを回転軸16bに巻き付けると、牽引ワイヤ16cに繋がれた移動シーブ14が、固定シーブ12から離隔するように移動し、牽引モータ16aを逆回転して、牽引ワイヤ16cを巻き戻すと、移動シーブ14が固定シーブ12に近接するように移動する。なお、このようない移動シーブ14の近接・離隔移動を可能にするためには、例えば、移動シーブ14を常時固定シーブ12がわに近接するように付勢しておけばよい。
【0024】
検出手段18は、例えば、ロータリエンコーダから構成され、牽引ワイヤ16cがその外周に捲回されていて、移動シーブ14が移動すると、この移動に伴って牽引ワイヤ16が移動し、この移動によりロータリーエンコーダが回転するので、この回転量を検出することにより、移動シーブ14の移動方向および移動量を知ることができる。
【0025】
ここで、例えば、移動シーブ14の遠点X2および近点X1とでそれぞれ予め測定しておけば、これらのいずれかの点を基準点として、検出手断18の検出値から、現在時点の移動シーブ14の位置が求められるので、これに基づいて、固定シーブ12と移動シーブ14との間の間隔を求めることができる。
【0026】
制御手段20は、移動シーブ14と固定シーブ12との間の離隔状態に応じて、線状物Aが緩まない張力状態になるように、牽引ユニット16の牽引力を制御するものである。
【0027】
ここで、移動シーブ14と固定シーブ12との間の離隔状態は、これらのシーブ12,14間の距離として現わされ、これを本実施例では、アキューム開度と呼ぶ。
【0028】
上述した制御手段20で、移動シーブ14と固定シーブ12との間の離隔状態に応じて、線状物Aが緩まない張力状態になるように、牽引ユニット16の牽引力の制御を実現するためには、以下のようにすればよい。
【0029】
すなわち、線状物貯線装置10のアキューム開度は、検出手段18により常時その値が得られるので、実際に線状物Aを固定シーブ12と移動シーブ14との間に捲回して、各アキューム開度毎に、線状物Aが緩み始める張力値を測定することができる。
【0030】
図2は、このような測定によって得られた検量線の例を示している。同図に示した例では、線状物Aは、単位長さ当たりの重量が230g/mのものと、50g/mのものと2種類で測定した。
【0031】
アキューム開度は、50cmないしは100cmを1単位として測定した。図2に示した2種類の検量線から判るように、アキューム開度と線状物Aが緩み始める張力とが、ほぼ線形の関係にあることが判明した。
【0032】
このようにして得られた検量線は、制御手段20を、例えば、マイコンで構成し、制御手段20の記憶装置内に、例えば、アキューム開度と張力との対応関係をテーブル形式で記憶させておく。
【0033】
実際に貯線装置10を制御する際には、検出手段18の検出値に基づいて、現在の移動シーブ14の位置情報を得て、この情報から固定シーブ12との間隔を演算して、アキーム開度を求め、検量線からこのアキーム開度に応じた、張力Tを求める。
【0034】
張力Tが決定すると、牽引ユニット16に制御信号を送出して、所定の牽引力により移動シーブ14を牽引する。このような操作を複数回繰り返すことにより、線状物Aの張力が緩まない値に収束することになる。
【0035】
この場合、牽引ユニット16の牽引力は、線状物Aの初期張力Tと、線状物Aの単位長さ当たりの自重と、貯線量とにより求める。
【0036】
さて、以上のように構成した線状物貯線装置10によれば、制御手段20が、移動シーブ14と固定シーブ12との間の離隔状態(アキューム開度)に応じて、線状物Aが緩まない張力状態になるように、牽引ユニット16の牽引力を制御するので、貯線状態(入線と出線の平衡状態、貯線増加状態、貯線減少状態、巻き始め時、巻き乱れ修正時、ドラム交換時)にかかわらず、緩みの発生を回避することができるとともに、このような作用効果は、線状物Aの巻取りテンションを高めに設定することなく得られるので、断面がリブ形状のスロットの場合でも、巻取りドラム内で、リブが変形する不良品の発生を回避することができる。
【0037】
図3は、上記貯線装置10での制御の実証試験の結果を示している。同図に示した実証実験では、入線速度をAm/minの一定とし、出線速度を0m/min→0.5m/minに変化させて貯線し、Am/minに戻して貯線したままの平衡状態にし、その後、出線速度を1.5m/minに上げて放線し、一旦、Am/minに戻して貯線して、再度平衡状態にし、その後に、1.5m/minに上げて放線し、貯線量を0にする制御を行った。
【0038】
その結果、以下のことが判明した。
(1)貯線時、出線速度が0mの場合は、貯線増加量が最も多いので、牽引力の立ち上がりが大きくなる。
(2)貯線時、出線速度が0.5m/minの場合には、少し吐き出している分貯線増加量が減り、牽引力の上がりが緩やかになる。
(3)貯線平衡時は、貯線量に合わせた牽引力になっている。
(4)放線時は、貯線量の減少にあわせて牽引力も減少する。
【0039】
以上の実証実験では、固定シーブと移動シーブとの間に捲回された線状物の緩みは発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上、詳細に説明したように、本発明にかかる線状物貯線装置によれば、巻取りドラム内での不良品の発生を回避しつつ、貯線状態にかかわらず緩みの発生を防止することができるので、光ファイバ用スペーサの製造分野などで有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる線状物貯線装置の一実施例を示す全体構成図である。
【図2】図1の貯線装置の制御に用いる検量線の説明図である。
【図3】本発明に係る線状物貯線装置の実証実験の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
10 線状物貯線装置
12 固定シーブ
14 移動シーブ
16 牽引ユニット
18 検出手段
20 制御手段
A 線状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状物を入出線するようにガイドする固定シーブと、
前記固定シーブに対して、近接・離隔移動自在に設けられ、線状物を貯線するようにガイドする移動シーブと、
前記移動シーブを、固定シーブに対して離隔する方向に牽引する牽引ユニットと、
前記移動シーブの移動方向を検出する検出手段と、
前記移動シーブと前記固定シーブとの間の離隔状態に応じて、前記線状物が緩まない張力状態になるように、前記牽引ユニットの牽引力を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする線状物貯線装置。
【請求項2】
前記線状物が緩まない張力状態は、前記固定シーブと前記移動シーブとの間の間隔に対応した検量線として予め作成し、前記検出手段で求めた現在の前記移動シーブの位置から、前記検量線を参照して決定することを特徴とする請求項1記載の線状物貯線装置。
【請求項3】
前記検量線は、前記線状物の単位重量毎に作成することを特徴とする請求項2記載の線状物貯線装置。
【請求項4】
前記牽引ユニットの牽引力は、記線状物の初期張力と、前記線状物の単位長さ当たりの自重と、貯線量とにより求めることを特徴とする請求項1記載の線状物貯線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−230718(P2008−230718A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68922(P2007−68922)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】