説明

線維性障害を処置する方法

本明細書には、1つ以上のベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体を用いて線維性障害を予防および/もしくは処置するための組成物および方法が記載される。本発明は、線維症を含む疾患において治療上の利点を実証するベンゾ[c]クロメン−6−オン化合物およびその医薬組成物に部分的に関する。さらに別の実施態様では、本発明は、治療的有効量の本明細書中に記載の1つ以上の組成物を、それを必要とする被験体に投与する方法に関する。1つの局面では、標的とする被験体は、線維性障害であると診断されている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
病理学的線維症は、組織の異常な増大、硬化および/もしくは瘢痕化により説明される。これは、コラーゲンなどの細胞外基質成分の過剰な沈着により特徴付けられる。線維症は、代表的には、炎症、組織再構築および修復プロセスが同時に起こる慢性炎症の状態から生じる。別の病原学的および臨床的兆候を有するにもかかわらず、ほとんどの慢性線維性障害は、共通して、持続性の感染、自己免疫反応、アレルギー応答、化学的発作、放射および組織傷害などの持続性の刺激物もしくは刺激を有する。刺激物もしくは刺激は、増殖因子、タンパク質分解酵素、血管新生因子および線維形成性サイトカインの産生を持続させ、このことは、正常な組織構築を徐々に再構築および破壊する結合組織要素の沈着を刺激する。特発性肺線維症、肝硬変、心血管線維症、全身性硬化症および腎炎などのいくつかの疾患では、広範な組織再構築および線維症は、最終的に臓器不全および死につながり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
発明の簡便な要旨
本発明は、線維性障害を処置するための組成物および方法に関する。本発明は、線維症を含む疾患において治療上の利点を実証するベンゾ[c]クロメン−6−オン化合物およびその医薬組成物に部分的に関する。
【0003】
さらに別の実施態様では、本発明は、治療的有効量の本明細書中に記載の1つ以上の組成物を、それを必要とする被験体に投与する方法に関する。1つの局面では、標的とする被験体は、線維性障害であると診断されている。
【0004】
発明の他の特徴および利点は、その実施態様の以下の詳細な説明により明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1A〜1Fは、コントロールの付着網膜の写真である。AおよびBは、ビヒクル(A)および薬物(B)を注射した正常な眼の両方における正常な網膜の形態を図示する、H&E染色パラフィン切片の光学顕微鏡写真である。CおよびDは、3日もしくは7日間剥離させかつビヒクル(C、D)もしくは薬物(E、F)のいずれかの眼内注射を受けた動物の眼内からの付着網膜領域のレーザー走査共焦点画像である。
【図2】図2A〜2Dは、抗ビメンチン(Muller(ミュラー)細胞、緑色)、抗BrdU(分裂細胞、赤色)およびイソレクチンB4(ミクログリアおよびマクロファージ、青色)で標識した剥離網膜の網膜切片のレーザー走査共焦点画像である。
【図3】図3は、網膜剥離後に増殖するMuller細胞の数を図示する棒グラフである。
【図4】図4は、網膜剥離後の網膜下神経膠瘢痕の数を図示する棒グラフである。
【図5】図5は、網膜剥離後の網膜下神経膠瘢痕の長さを図示する棒グラフである。
【図6】図6は、網膜剥離後の免疫関連細胞の数を図示する棒グラフである。
【図7】図7は、剥離後の外顆粒層(ONL)の平均厚みを図示する棒グラフである。
【図8】図8Aは、非剥離網膜の網膜切片の写真である。図8Bおよび8Cは、化合物で処置しなかった剥離網膜の網膜切片の写真である。図8D〜8Fは、化合物で処置した剥離網膜の網膜切片の写真である。
【図9】図9は、剥離網膜の1mm当たりの分裂細胞の数の棒グラフである。
【図10】図10Aは、非剥離網膜の網膜切片の写真である。図10Bは、網膜下線維症を示す、化合物で処置しなかった剥離網膜の網膜切片の写真である。図10Cは、線維症を示さない、化合物で処置した剥離網膜の網膜切片の写真である。
【図11】図11は、Palomid529のヒト肺線維芽細胞の分化のメディエーターへの効果を示すウエスタンブロットの写真である。
【図12】図12は、Palomid529のヒト肺線維芽細胞におけるシグナル伝達への効果を示すウエスタンブロットの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の詳細な説明
ほとんどの慢性線維性障害は、共通して、持続性の感染、自己免疫反応、アレルギー応答、化学的発作、放射および組織傷害などの持続性の刺激物もしくは刺激を有する。刺激物もしくは刺激は、増殖因子、タンパク質分解酵素、血管新生因子および線維形成性サイトカインの産生を持続させ、このことは、正常な実質性組織に置き換わる結合組織要素の沈着を刺激する。特発性肺線維症、肝硬変、心血管線維症、全身性硬化症および腎炎などのいくつかの疾患では、広範な組織再構築および線維症は、最終的に臓器不全および死につながり得る(表1)。Wynn,TA,“Cellular and Molecular Mechanisms of Fibrosis”,J Pathol,214:199−210(2008)。
【0007】
【表1】

本発明では、我々は、線維症の誘発は、種々の組織における同様の様式での一連の事象により起こるとの理解の下、眼および肺を含む線維症の例を記載する。我々は、ベンゾ[c]クロメン−6−オン化合物およびその医薬組成物が、線維症を含む疾患における治療上の利点を実証することを主張する。さらに、我々は、ベンゾ[c]クロメン−6−オン化合物およびその医薬組成物によるAkt/mTORシグナル伝達経路の阻害が、線維症を含む疾患における治療上の利点を実証することを主張する。
【0008】
本発明は、線維症に関連する疾患を予防および/もしくは治療するための組成物および方法に関する。本発明は、線維性疾患における治療上の利点を実証する一連の化学組成物に部分的に関する。特定の局面では、本発明は、その線維性疾患への効果を実証するベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体に関する。
【0009】
用語「誘導体」は、当業者に理解されている。例えば、誘導体は、ベンゾ[c]クロメン−6−オンについて表2(下記)に図解されるような、同様の構造の別の化合物から1つ以上の工程で産生される化学物質であると理解され得る。
【0010】
本発明は、線維性障害の処置に有用な1つ以上の組成物を含む治療用製剤に関する。線維性障害は、細胞外基質の異常な形成に起因する。線維性障害の例には、肺線維症、全身性硬化症、強皮症、増殖性硝子体網膜症、肝硬変および糸球体間質性増殖性細胞障害が挙げられる。線維性障害のさらなる例には、膵臓および肺の嚢胞性線維症、心内膜心筋線維症、肺の特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症(myleofibrosis)、後腹膜線維症、腎性全身性線維症、進行性塊状線維症(炭鉱労働者の塵肺の合併症)および注射線維症(injection fibrosis)(これは、特に子供において、筋肉内注射の合併症として起こり得る)。さらなる線維症関連症状には、びまん性実質性肺疾患、精管切除後疼痛症候群、結核(これは、肺の線維症の原因となり得る)、鎌状赤血球貧血(これは、脾臓の線維症の原因となり得る)および関節リウマチが挙げられる。
【0011】
肝硬変は、肝臓の瘢痕の形成をもたらす細胞外基質成分の増加により特徴付けられる。肝硬変は、肝臓の硬変症などの疾患の原因となり得る。肝臓の瘢痕の形成をもたらす細胞外基質成分の増加はまた、肝炎などのウイルス感染症によっても引き起こされ得る。
【0012】
糸球体間質性障害は、メサンギウム細胞の異常な増殖により引き起こされる。糸球体間質性過剰増殖細胞障害は、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症症候群、移植片拒絶および糸球体症などの多様なヒト腎疾患を含む。
【0013】
本発明によれば、式I:
【0014】
【化1】

[式中、
R1=Hもしくはアルキル;
R2=H、OH、O−アルキル、アミノ、O−ヘテロシク(heterocyc)、O−アリール、O−置換アルキル(該置換は、例えば、ハロ、アリールもしくはヘテロアリールである)、O−Ac、O−PO3、O−SO3もしくはOSO2NH2;
R3=H、OH、O−アルキル、O−CH2アリール、O−CH2ヘテロアリール、O−アルキルアリール、O−アシルもしくはニトロ;
R4=H、アルキル、CH2アリール、置換アルキル、OH、O−アルキル、O−アリール、OCH2アリール、OCH2ヘテロアリール、O−アシル、OPO3、OSO3もしくはOSO2NH2;
R5=H、オキソ、アリール、ヒドロキシル、アルキルもしくはO−アルキル;
R6=H;
R7=H、アシル、置換アルキル(該置換は、例えば、ヒドロキシルもしくはスルファモイルである)、アルキル、O−アルキルもしくはO−置換アルキル(該置換は、O−PO3もしくはOSO3である);
R8=H;かつ
X=O、NもしくはS]
を含む医薬組成物が提供される。
【0015】
本発明によれば、式II:
【0016】
【化2】

[式中、
R1=Hもしくはアルキル;
R2=H、O−アルキル、OH、アミノ、O−ヘテロシク、O−アリール、O−置換アルキル(該置換は、例えば、ハロ、アリールもしくはヘテロアリール)、O−Ac、O−PO3、O−SO3もしくはOSO2NH2;
R3=H、O−アルキル、O−置換アルキル(該置換は、アリールもしくはヘテロアリール)、OH、O−アシルもしくはニトロ;
R4=H、アルキル、CH2アリール、置換アルキル、O)、O−アルキル、O−アリール、OCH2アリール、OCH2ヘテロアリール、O−アシル、OPO3、OSO3もしくはOSO2NH2;
R5=H、アリール、ヘテロアリールもしくは置換アルキル;かつ
R6=H、アルキルもしくはアリール]
を含む医薬組成物が提供される。
【0017】
本発明によれば、式III:
【0018】
【化3】

[式中、
R1=アルキルもしくはH;
R2=アルキルもしくはH;
R3=アセチル;かつ
R4=Hもしくはアルキル]
を含む医薬組成物が提供される。
【0019】
本発明によれば、式IV:
【0020】
【化4】

[式中、
R1=HもしくはF;
R2=Hもしくはニトロ;
R3=H;
R4=H;かつ
R5=アルキル、置換アルキルもしくはアリール]
を含む医薬組成物が提供される。
【0021】
本発明によれば、治療的有効量の表2に図示される以下の構造を有するベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体を1つ以上含む医薬組成物が提供される:
【0022】
【表2−1】

【0023】
【表2−2】

【0024】
【表2−3】

表2の個々のベンゾ[c]−クロメン−6−オン誘導体は、命名「SG」とそれに続く数により特定される。あるいは、これらは、本明細書中で、命名「Palomid」とそれに続く同じ数で表される。すなわち、用語「SG」と「Palomid」とは、本願の全体にわたって互換的に用いられる。
【0025】
表2の化合物は、抗線維症活性を示す。当業者は、本発明が、抗線維症活性を有する他のベンゾ[c]−クロメン−6−オン誘導体を含むことを理解する。
【0026】
本発明はまた、徐放のための生分解性もしくは非生分解性のフォーマットで製剤化された本明細書中に記載の1つ以上の組成物もしくはそのプロドラッグを含む、移植物もしくは他の装置に関する。非生分解性のフォーマットは、フォーマットそれ自体が分解されることなく、物理的もしくは機械的プロセスにより制御された様式で薬物を放出する。生分解性フォーマットは、体内で自然なプロセスにより次第に加水分解もしくは可溶化されるように設計され、混合された薬物もしくはプロドラッグの漸次の放出を可能にする。生分解性および非生分解性フォーマットの両方、ならびに薬物が制御放出用のフォーマットで組み合わされるプロセスは、当業者に周知である。これらの移植物もしくは装置は、送達が望まれる場所、例えば、異常な細胞外基質の部位の近傍に埋め込まれ得る。
【0027】
本発明はまた、複合プロドラッグおよびその使用に関する。より詳細には、本発明は、関連するベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体の複合体および非特徴的な細胞外基質形成に関連する症状の予防もしくは処置におけるこのような複合体の使用に関する。
【0028】
本発明はまた、生物学的活性修飾剤、例えば、ペプチド、抗体もしくはそれらの断片、またはメチルエステル、ホスフェートもしくはスルフェート基などのインビボ加水分解性エステル、およびアミドもしくはカルバメートに複合体化したベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体の複合プロドラッグを提供する。修飾は、ヒドロキシル基をホスフェート基で修飾することを含み得る。この誘導体は、誘導体に顕著な変化を引き起こすことにより生物活性を失わせる修飾に起因する活性を有するとは予測されない。しかしながら、この修飾は、より良い溶解度特性、すなわち、より高い水溶性を付与し、このことは血中の輸送を促進するか、もしくはより良い経口アベイラビリティーを与えてそれがその活性の部位に到達することを可能にし得る。活性を有することが必要とされるミクロ環境にそれが一旦到達すると、修飾は、天然のプロセス、すなわち、必要とされる活性の部位に存在する内因性の酵素により切断される。あるいは、修飾は、誘導体を、より良い全身濃度を与える状態にちょうど保持し得、次いで全身的循環で再び切断されることによってその活性を向上させ得る。ベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体を疾患依存的に活性化されたプロドラッグに組み入れることにより、本明細書の上記で述べた1つ以上の疾患症状の処置における効力および選択性の顕著な改善が可能になる。
【0029】
本発明の化合物に加えて、本発明の医薬組成物もまた、本明細書の上記で述べた1つ以上の疾患症状を処置するのに有用な1つ以上の薬理学的薬剤を含み得るか、もしくはそれと一緒に(同時にもしくは連続的に)共投与され得る。
【0030】
さらに、ベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体もしくはそのプロドラッグは、生分解性もしくは非分解性フォーマットに組み込まれて、徐放を可能にし得る。例えば、製剤は、送達が望まれる場所の近傍、腫瘍の部位もしくは異常な脈管構造の近傍に埋め込まれる。あるいは、医薬製剤は、特異性を提供する化学的部分を有する送達ビヒクル中に包装され得る。例えば、上記部分は、活性薬剤の望まれる部位への送達を指向および促進するような抗体もしくは他の何らかの分子であり得る。
【0031】
本発明はまた、線維性組織の非特徴的な形成、すなわち異常な細胞外基質の形成により特徴付けられるいずれかの疾患に関連する症状の予防もしくは処置のための医薬品の製造のための、ベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体もしくはそのプロドラッグの使用に関する。
【0032】
本発明はまた、本発明のベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体もしくはそのプロドラッグを、医薬上許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤と共に含む医薬組成物の提供に関する。
【0033】
医薬組成物はまた、線維性疾患もしくは障害に関連する症状の予防もしくは治療に用いられ得る。本発明はまた、非特徴的な細胞外基質の形成により特徴付けられるいずれかの線維性疾患もしくは障害に関連する症状の予防もしくは処置方法に関し、当該方法は、そのような予防もしくは処置を必要とする被験体に、有効量の本明細書で上記した本発明のベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体もしくはそのプロドラッグを投与することを含む。上記症状の予防もしくは処置は、上記症状の寛解を含むことが理解されるべきである。
【0034】
「有効量」とは、特定の疾患もしくは症候群に部分的にもしくは完全に関連する症候を緩和する治療的有効量を意味する。このような量は、適切に熟練した開業医により、処置すべき症状、投与の経路、および当業者に周知の他の関連する要因を考慮して容易に決定され得る。このような者は、投与の適切な用量、様式および頻度を容易に決定し得る。
【0035】
ベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体もしくはそのプロドラッグの医薬上許容され得る塩は、任意の通常の様式で調製され得る。例えば、メチルエステル、ホスフェートもしくはスルフェート基などのインビボ加水分解性エステル、およびアミドもしくはカルバメートは、任意の通常の様式で調製され得る。
【0036】
ベンゾ[c]クロメン−6−オン誘導体もしくはそのプロドラッグは、公知技術を用いて生理学上許容され得る製剤として提供され得、これらの製剤は、標準的な経路により投与され得る。組成物は、例えば、局所的、経口的、経直腸的または静脈内、皮下もしくは筋肉内経路などの非経口的手段により投与され得るが、これらに限定されない。さらに、組成物は、徐放を可能にするフォーマットに組み込まれ得、このフォーマットは、例えば、皮膚疾患もしくは加齢皮膚の部位、または異常な脈管構造の近傍などの、送達が望まれる場所の近傍に埋め込まれる。組成物の用量は、治療される症状、用いられる特定の誘導体、ならびに被験体の体重および症状、および化合物の投与の経路などの他の臨床的要因(その全ては、当業者により理解される)に依存する。例えば、当業者は、Remington’s Pharmaceuticals Sciences 17th edition(その全ての教示は、参照することにより本明細書中に組み込まれる)などの標準的な教科書を参照して、製剤をどのように作製すべきか、およびこれらをどのように投与し得るかを決定し得る。
【0037】
製剤には、経口、経直腸、経鼻、吸入、局所(経真皮、経皮、経頬および舌下が挙げられるが、これらに限定されない)、経腟もしくは非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、眼内(硝子体内、結膜下、テノン嚢下、経強膜が挙げられるが、これらに限定されない)、気管内および硬膜外が挙げられるが、これらに限定されない)および吸入投与に適したものが挙げられるが、これらに限定されない。製剤は、単位剤形で簡便に提供され得、かつ、通常の製薬技術により調製され得る。このような技術は、活性成分と医薬上の担体もしくは賦形剤を合わせる工程を含む。製剤は、活性成分を液体担体もしくは細かく分割した固体担体またはその両方と共に均一かつ綿密に合わせ、次いで、必要に応じて、製品を成形することにより調製される。
【0038】
経口投与に適した本発明の製剤は、それぞれが所定量の活性成分を、粉末もしくは顆粒;水性液体もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液;または水中油型液体エマルジョンもしくは油中水型エマルジョンなどとして含む、カプセル、カシェ剤もしくは錠剤などの別々の単位として提供され得る。
【0039】
錠剤は、至適には、1つ以上の補助成分と共に圧縮もしくは成形することにより製造され得る。圧縮錠剤は、必要に応じて結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性剤もしくは分散剤と混合した、粉末もしくは顆粒などの自由に流動する形態の活性成分を、適切な機械中で圧縮することにより調製され得る。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を、適切な機械中で成形することにより作製され得る。錠剤は、必要に応じて、コーティングされるかもしくは割線が施され得、かつ、その中の活性成分の遅延もしくは制御放出を提供するように製剤化され得る。
【0040】
口経由での投与に適した製剤には、風味基剤、通常は、ショ糖およびアラビアゴムもしくはトラガカント中に成分を含むロゼンジ;ゼラチンおよびグリセリン、もしくはショ糖およびアラビアゴムなどの不活性基剤中に活性成分を含むトローチ剤;ならびに投与すべき成分を適切な液体担体中に含む口腔洗浄剤が挙げられる。
【0041】
皮膚への局所投与に適した製剤は、投与すべき成分を医薬上、薬用化粧品上もしくは化粧品上許容され得る担体中に含む軟膏、クリーム、ゲルおよびペーストとして提供され得る。有望な送達系は、投与すべき成分を含む経皮パッチである。
【0042】
直腸投与用の製剤は、例えば、カカオバターもしくはサリチレートなどを含む適切な基剤を有する坐薬として提供され得る。
【0043】
担体が固体である経鼻投与に適した製剤には、例えば、嗅ぎ薬を服用する様式で、例えば、鼻に近づけて保持された粉末の容器から鼻の経路を通して急速に吸入することにより投与される、20〜500ミクロンの範囲の粒径を有する粗製粉末が挙げられる。担体が投与用の液体である場合の適切な製剤には、例えば、活性成分の水性もしくは油性溶液を含む経鼻スプレーもしくは点鼻薬が挙げられる。
【0044】
経腟投与に適した製剤は、活性成分に加えて、当該分野で適切であることが公知である担体などの成分を含む、腟坐薬、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡もしくはスプレー製剤として提供され得る。
【0045】
吸入に適した製剤は、活性成分に加えて、当該分野で適切であることが公知である担体などの成分を含む、ミスト、粉塵、粉末もしくはスプレー製剤として提供され得る。
【0046】
非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を被験体となるレシピエントの血液と等張性にする溶質を含み得る、水性および非水性無菌注射溶液;ならびに懸濁剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の無菌懸濁液が挙げられる。製剤は、単位用量もしくは複数用量の容器、例えば、密封されたアンプルおよびバイアルで提供され得、かつ、使用の直前に注射用水などの無菌の液体を添加することだけを必要とする凍結乾燥された(freeze−dried)、凍結乾燥された(lyophilized)条件下で保存され得る。即時注射溶液および懸濁液は、上記した種類の無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製され得る。
【0047】
許容され得る単位用量製剤は、本明細書中で上記したように、投与される成分の1日の用量もしくは単位、1日の副用量(sub−dose)、またはそれらの適切な画分を含むものである。
【0048】
上記成分に加えて、本発明の製剤は、問題の製剤の型に関して当該分野で標準的な他の薬剤を含み得、例えば、経口投与に適したものは、香味料を含み得る。
【0049】
本発明は、約100%〜約90%の純粋な異性体の組成物を含む。別の局面では、本発明は、約90%〜約80%の純粋な異性体の組成物に関する。さらに別の局面では、本発明は、約80%〜約70%の純粋な異性体の組成物に関する。さらに別の局面では、本発明は、約70%〜約60%の純粋な異性体の組成物に関する。なおさらなる局面では、本発明は、約60%〜約50%の純粋な異性体の組成物に関する。しかしながら、αもしくはβと標識された立体化学異性体は、当業者によって化学的に可能である場合は両方の任意の比での混合物であり得る。さらに、本発明には、古典的および非古典的な生物学的等電子原子による置換および置換基による置換の両方が含まれ、これらは当業者に周知である。このような生物学的等電子による置換には、例えば、=Oの=Sもしくは=NHでの置換が挙げられる。
【0050】
本発明に従って用いられる公知化合物および本発明の新規化合物の前駆物質は、市販の供給源、例えば、Sigma−Aldrichから購入され得る。本発明の他の化合物は、当業者に周知の既知方法に従って合成され得る。
【実施例】
【0051】
実施例1:Muller細胞反応性および光受容細胞の死は、Akt/mTOR経路の阻害剤を用いる実験的網膜剥離の後に減少する
組織の調製
成体のニュージーランド赤色有色ウサギにおいて、Eiblら(Eibl KHら、The effect of alkylphosphocholines on intraretinal proliferation initiated by experimental retinal detachment.Invest Ophthalmol Vis Sci.2007;48:1305−11)に記載されるように網膜剥離を作製した。簡単に述べると、併用薬のキシラジン(3mg/kg)およびケタミン(15mg/kg)の筋肉内注射を、麻酔および鎮痛に用いた。さらなる鎮痛は、プロパラカインの局所的点眼により提供された。平衡塩類溶液(BSS;Alcon,Ft.Worth,TX)中のヒアルロン酸ナトリウム(Healon;Pharmacia,Piscataway,NJ)の0.25%溶液を、神経網膜とRPEとの間に、ガラスピペットにより注入した。Healonは網膜の自発的な再付着を防ぐために必要であり、長期にわたって剥離を維持する最も希薄な溶液は0.25%である。約100μmの外径を有するピペットを、毛様体扁平部の数mm下に作製した切開から眼に挿入して、ピペットが水晶体に触れるのを防いだ。約半分の下部網膜を右眼から剥離し、上部の付着領域を内部標準とした。左眼は未注射コントロールとしての役目を果たした。剥離を作製した直後、50μlの平衡塩類溶液(BSS)中の600μgのPalomid529を硝子体内注射した。剥離の3日後、実験的(右)眼に、50μlのBSS中の10μgのBrdU(Sigma、St Louis、MI)を硝子体内注射した。BrdUを、3日間および7日間の剥離実験の両方について、第3日目に硝子体内投与したが、これは、この時点で増殖応答がその最大値であることが以前に示されたからである。剥離を有する眼内での付着網膜領域は、BrdUで標識されたコントロール網膜の役目を果たした。第3日目のもしくは第7日目のいずれかにBrdU注射の4時間後、ナトリウムペントバルビタール(120mg/ml、IV)を用いて、動物を安楽死させた。3日間および7日間の実験の両方において、3匹の動物を用いた。摘出後、眼を4%パラホルムアルデヒド中で少なくとも24時間固定した(0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中、pH7.4;Electron Microscopy Sciences,Fort Washington,PA)。薬物の可能性のある毒性の影響を決定するため、6匹の追加の動物に、ビヒクル(BSS、n=3)もしくは薬物(n=3)を正常な眼に注射した。これらの動物を第15日目に安楽死させ、眼を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、光学顕微鏡での評価のため、全眼をパラフィン中に包埋した。全ての実験手順は、Use of Animals in Ophthalmic and Vision ResearchのためのARVO声明およびAnimal Resource Center of the University of California,Santa Barbaraの指針に従った。
【0052】
免疫細胞化学/光学顕微鏡法
免疫細胞化学を、少しの改変を加えて、Eiblらに記載されるように実施した。約3mm四方の網膜組織の断片を、各眼内からの3つの剥離領域から切除した。組織をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中ですすぎ、低融点アガロース(5%;Sigma,St.Louis,MI)に包埋し、ビブラトーム(Technical Products International,Polysciences,Warrington,PA)を用いて100μmに切り出した。切片を、PBS中の正常なロバ血清(1:20)、0.5%ウシ血清アルブミン、0.1%トリトンX−100および0.1%アジド(=PBTA)中で一晩、4℃にて、回転装置上でインキュベートした。翌日、BrdUの抗原回収工程として、切片を2N HCLで1時間前処理した。PBTA中ですすいだ後、一次抗体およびレクチンを加え、一晩、4℃にて、回転装置上で、PBTA中でインキュベートした。抗BrdU(1:200、Accurate Chemical and Scientific Corp.,Westbury,NY)は、分裂細胞を検出するのに用い、抗ビメンチン(1:500;Dako,Carpinteria,CA)は、Muller細胞を同定するのに用い、イソレクチンB4、グリフォニア・シンプリシフォリア(1:50;Vector Labs,Burlingame,CA)は、ミクログリアおよびマクロファージを標識するのに用いた。一次抗体をPBTA中ですすいだ後、二次抗体(ストレプトアビジンCY5、ロバ抗ラットCY3およびロバ抗マウスCY2;Jackson ImmunoResearch,West Grove,PA)を共に、PBTA中それぞれ1:200で、4℃にて、回転装置上で一晩添加した。翌日、切片をPBTA中ですすぎ、グリセリン中の5%n−プロピル没食子酸を用いて、核染色剤Hoescht(1:5000;Invitrogen,Carlsbad,CA)と共にスライドガラス上に載せ、Olympus Fluoview 500レーザー走査共焦点顕微鏡上で観察した。全眼のパラフィン切片を4μmに切断し、ヘマトキシリン(Hemotoxylin)&エオシン(H&E)を用いて対比染色し、Olympus BX60顕微鏡上でデジタルカメラを用いて写真撮影した。各群内の異なる3匹の動物からの全眼を包埋および切断したので、網膜の全長の検査は単一の切片で行われ、かつ、コントロールおよび実験動物からの同様の網膜領域が写真撮影のために選択された。
【0053】
定量
実験群(ビヒクルおよび薬物処置した)のそれぞれの中の3匹の動物から、1024×1024画素解像度で少なくとも60の単平面共焦点画像を取り込んだ。同様の網膜の位置を、全ての動物で検討した。薬物処置の増殖への効果を定量するため、抗BrdU標識Muller細胞核の数を、第3日目および第7日目の時点の両方からの共焦点画像を用いて、網膜1mm当たりで決定した。薬物処置の網膜下神経膠瘢痕の形成への効果を定量するため、瘢痕を、OLM(これもまた抗ビメンチンで標識された)に対する、連続的な細胞成長が位置する強膜の面積であると定義した。瘢痕の数を計数し、それらの長さを7日間の動物の網膜1mm当たりで測定したが、これは、第3日目には瘢痕が観察されなかったからである。ONLの幅を決定するため、切片を蛍光性核色素(Hoescht)で染色し、かつ、ONLを、統計に基づくクラスター形成法(Byun J,Ph.D.学位論文、“Quantitative analysis and modeling of confocal retinal images”.Univ.Calif.Santa Barbara、2007年6月)により自動的に分割した。次いで、コントロール網膜のONL幅を、ビヒクルを注射した眼および薬物を注射した眼における幅と比較した。第7日目の時点のみを検討したが、これは、このときに第3日目と比べてより多くの光受容細胞の死が起こったからである。同じ切片を用いて、上記応答の全てを定量した。
【0054】
付着網膜の解析
パラフィン包埋した正常網膜の光学顕微法および剥離した眼内からの多様な抗体で標識した付着網膜領域の共焦点顕微法を検査し、薬物の可能性のある有害な影響を決定した(図1)。ビヒクルで処置した正常網膜と薬物で処置した正常網膜との間には、網膜の組織化における差はパラフィン切片中で観察されなかった(図1A、B)。加えて、抗ビメンチンおよびイソレクチンB4標識は、第3日目および第7日目の時点の両方で、ビヒクルで処置した付着網膜および薬物で処置した付着網膜の間で同様であるように見えた;また、抗ビメンチン標識(緑色)は、Muller細胞内で神経節細胞層(GCL)から外顆粒層(ONL)に増大し、ミクログリア(青色)は、全ての群において網膜の内側部分にのみ存在した(図1C〜F)。標識パターンは、未処置の正常な眼において観察されたものと同様であり、唯一の違いは、ビヒクルを注射した眼および薬物を注射した眼の両方における硝子体内のマクロファージの存在である。最終的に、ビヒクルで処置した網膜もしくは薬物で処置した網膜のいずれにおいても抗BrdU標識は観察されなかった。これらのデータは、薬物が、網膜の形態に甚だしく有害な影響を引き起こさなかったこと、またMuller細胞もしくはミクログリアを活性化しなかったことを示す。
【0055】
剥離網膜の解析
図1A〜1Fは、コントロールの付着網膜の写真である。A、B。ビヒクル(A)および薬物(B)を注射した正常な眼の両方における正常な網膜の形態を図示するH&E染色パラフィン切片の光学顕微鏡写真。C−D。3日もしくは7日間剥離させ、かつビヒクル(C、D)もしくは薬物(E、F)のいずれかの眼内注射を受けた動物の眼内からの付着網膜領域のレーザー走査共焦点画像。切片を、抗ビメンチン(Muller細胞、緑色)、抗BrdU(分裂細胞、赤色)およびイソレクチンB4(ミクログリアおよびマクロファージ、青色)で標識した。抗ビメンチン標識は、GCLからONL内へと増大し、抗BrdU標識は観察されず、かつ、イソレクチンB4は、内側網膜中のミクログリアおよび硝子体内のマクロファージの微細なプロセスを標識した(OSの青色標識は非特異的である)。OS、外節;ONL、外顆粒層;INL、内顆粒層;GCL、神経節細胞層。バー、20μm。
【0056】
図2A〜2Dは、実験的剥離網膜のレーザー走査共焦点画像の写真である。抗ビメンチン(Muller細胞、緑色)、抗BrdU(分裂細胞、赤色)およびイソレクチンB4(ミクログリアおよびマクロファージ、青色)で標識した網膜切片のレーザー走査共焦点画像。(A)ビヒクルを注射した3日間の剥離において、抗ビメンチン標識は、ONLから外境界膜に増大し、抗BrdU標識は、内顆粒層(INL)中のMuller細胞核内に主に存在し、かつ、イソレクチンB4標識は、網膜全体にわたるミクログリア中に、および網膜下腔内のマクロファージ中に存在した。(B)ビヒクルを注射した7日間の剥離において、Muller細胞の抗ビメンチン標識は、網膜下腔(括弧)内へと増大し、抗BrdU標識は、網膜全体に散乱した核内におよび網膜下腔内に存在し、かつ、イソレクチンB4標識は、網膜下腔内の網膜およびマクロファージ中の多数のミクログリア内に見られた。Palomid529で3日間および7日間処置した網膜(C、D)の両方において、抗ビメンチン標識は、ONLを介して、かつ、ごく稀に網膜下腔内に増大し(括弧、D)、抗BrdU標識は低く、かつ、イソレクチンB4標識は、網膜および網膜下腔の全体にわたって存在した。偶発的なミクログリア細胞は、抗BrdUおよびレクチンで標識されていることがわかり得る(矢印、D)。薬物処置した剥離網膜(C、D)がまた、ビヒクル処置した剥離網膜と比較してより正常な形態を保持していることも留意すること。ONL、外顆粒層;INL、内顆粒層;GCL、神経節細胞層。バー、50μm。
【0057】
第3日目にビヒクルを注射した眼からの剥離網膜領域において、抗ビメンチン標識(緑色)は、外境界膜(OLM)に増大し、網膜内で、肥厚した、歪んだ外見をMuller細胞に与えた(図2A;3日間付着した網膜+ビヒクルと比較、図1C)。このとき、網膜下腔内でMuller細胞の増殖は観察されなかった。イソレクチンB4標識ミクログリア(青色)は、円形の外見を有し、かつ網膜全体に分散していたが、マクロファージ(青色)は、網膜下腔内でのみ観察された。ほとんどの抗BrdU標識Muller細胞核(赤色)は、内顆粒層(INL;図2A)内で発生した。第7日目に、抗ビメンチン標識Muller細胞プロセスは、網膜下腔内に頻繁に増大した(括弧;図2B)。抗BrdU標識核(第3日目に「生まれた」)は、概して、外側網膜(すなわちINLに対して遠位)内および網膜下神経膠瘢痕内で発生した。
【0058】
薬物処置した眼内での3日および7日間の剥離後、抗BrdU標識核の出現は非常に減少した(図2C、D)。抗ビメンチン標識は未剥離コントロールと比較して幾分か上昇し、かつ、Muller細胞は肥厚したように見えたが(図1E、Dと比較して)、それらはいずれの時点でも網膜下腔にほとんど増大しなかった;たとえ増大しても、それらは大きさが非常に小さかった(括弧、図2D)。加えて、Muller細胞は、ビヒクルを注射したコントロールの剥離で特徴的に観察された歪んだ外見および側方分枝を示さなかったが、このことはおそらく、網膜の全体的なより組織化された外見に貢献している。確実に、網膜は、剥離と関連する病理学の証拠を超えるいかなる証拠も示さなかった。最終的に、薬物処置した眼では、ミクログリアおよびマクロファージはより少なかった(図2C、D)。
【0059】
定量化
第3日目の剥離時点では、抗BrdUで標識したMuller細胞核の平均数は、ビヒクル処置したコントロールの眼において、網膜の10.79/mmから薬物処置後の1.19まで有意に減少した(図3)。第7日目の時点では、数は、コントロールにおける網膜の9.83/mmから薬物処置後の1.49まで減少した(図3)。網膜下瘢痕の平均数は、コントロールにおける網膜の2.03/mmから、薬物処置における網膜の0.39まで減少した(図4)。コントロールもしくは薬物処置した動物のいずれにおいても、3日間では瘢痕が存在しなかったので、第7日目の時点のみを定量した。コントロールの眼における第7日目の網膜下瘢痕の平均長は131.28μmであり、これは、薬物処置した眼において11.01μmまで減少した(図5)。
【0060】
特に、図3は、網膜剥離後に増殖するMuller細胞の数を図示する棒グラフである。抗BrdU標識Muller細胞の網膜1mm当たりの平均数は、コントロールの剥離と比較すると、第3日目および第7日目の剥離時点の両方において薬物処置後に有意に減少した。エラーバー、標準偏差。
【0061】
特に、図4は、網膜剥離後の網膜下神経膠瘢痕の数を図示する棒グラフである。網膜1mm当たりの抗ビメンチン標識網膜下神経膠瘢痕の平均数は、ビヒクルで処置した網膜と比較すると、剥離の7日後の薬物処置した網膜において有意に減少した。エラーバー、標準偏差。
【0062】
特に、図5は、網膜剥離後の網膜下神経膠瘢痕の長さを図示する棒グラフである。抗ビメンチン標識網膜下瘢痕の平均長は、ビヒクル処置した網膜と比較すると、剥離の7日後の薬物処置した網膜において有意に減少した。エラーバー、標準偏差。
【0063】
わずかな免疫関連細胞(ミクログリアおよびマクロファージ)が、コントロールもしくは処置網膜のいずれかにBrdUを取り込み、それによってこの応答を定量したが、イソレクチンB4標識細胞の全数は、網膜1mm当たりで計数された。第7日目の時点では、細胞の全数は、コントロールの眼における網膜の平均値43.9/mmから、薬物処置した網膜における24.5/mmまで減少した(図6)。
【0064】
特に、図6は、網膜剥離後の免疫関連細胞の数を図示する棒グラフである。網膜1mm当たりのイソレクチンB4標識マクロファージおよびミクログリアの平均数は、ビヒクル処置した網膜と比較すると、剥離の7日後の薬物処置した網膜において有意に減少した。エラーバー、標準偏差。
【0065】
Muller細胞の抗ビメンチン標識により示されるように、外側網膜は、薬物処置した眼においてより組織化しているように見えたので(図2A、Bを図2C、Dと比較のこと)、我々は、ONLの幅を測定することにより、より多くの光受容細胞が存在するかどうかを決定することを試みた。7日間の剥離の結果、ONLの平均厚みが、正常網膜における34.45μmからビヒクル処置した剥離網膜における19.40μmまで統計学的に有意に減少した(p<1.27 E−11;図7)。正常な付着網膜と比較したとき、薬物処置した剥離網膜におけるONLの厚みの27.21μmへの統計学的に有意な減少(p<0.001)もまた存在した。しかしながら、ONLの厚みは、ビヒクルで処置した剥離網膜よりも、薬物で処置した剥離網膜において有意に大きかった(27.21μm対19.40μm;p<8.81 E−06)が、このことは、Palomid529が剥離後の光受容細胞に幾分かの救出効果を発揮することを示す。
【0066】
特に、図7は、剥離後の外顆粒層(ONL)の平均厚みを図示する棒グラフである。Palomid529で処置した7日間剥離した網膜におけるONLは、ビヒクルで処置した7日間剥離した網膜におけるよりも厚かったが、両剥離群におけるONLは、コントロール網膜と比較して有意に減少した。エラーバー、標準偏差。
【0067】
網膜剥離の結果として起こり得る2つの可能性のある盲目の症状は、PVRおよび網膜下線維症であり、網膜の硝子体もしくは光受容細胞の表面での細胞膜の形成である。現在、唯一の治療は、膜の外科的除去である。しかしながら、これは、外科的介入を含み、また、第二の膜の再発は珍しくないので、多くの場合、恒久的な解決法ではない。理想的には、再付着手術時に薬理学的添加物を与えて膜の形成を防ぎ得るか、もしくはその代わりに膜の除去時に薬理学的添加物を与えて組織の連続する成長を防ぎ得るであろう。これまで、このプロセスを阻害するのに臨床的に有効であることが証明された薬理学的アプローチは存在しなかった。本発明では、Palomid529の単回投与は、動物モデルにおいて剥離により誘発される増殖、その後のMuller細胞の網膜下腔への肥大および成長、ならびにミクログリアの活性化を減少させるのに有効である。加えて、薬物の眼内送達に伴う明らかな毒性はなく、かつ、実際には、ONLの厚みはPalomid529で処置した剥離網膜においてより大きかったが、このことは、光受容体への幾分かの神経保護の効果を示す。従って、この薬物は、増殖および/もしくは光受容細胞の死が構成要素である種々の関連するヒト網膜の疾患を処置するのに有用である。
【0068】
代表的には、PVRは、望ましくない細胞増殖、細胞伝播および収縮を含む症状であると考えられている。実際に、PVRを有する患者から除去した膜では、分裂細胞が観察されてきた。しかしながら、動物モデルからのデータは、増殖に加えて、Muller細胞の増殖および肥大が、おそらく、種々の細胞型を含むより複雑な膜が成長し得る細胞の骨格を提供することにより、応答において役割を果たすことを示唆する。Muller細胞の成長および肥大は両方とも、剥離後の最初の数日以内に開始する。1週間後、増殖は低レベルまで減退するが、これらの細胞からのプロセスは、おそらくは網膜が剥離したままである限り、網膜下腔内で増大し続ける。これはまた硝子体における網膜上膜の成長についても真実である。しかしながら、硝子体表面でのMuller細胞の成長は、網膜の剥離ではなく再付着で開始するようである。再付着は、増殖性応答を有意に減少させるが、大きな膜が一般に再付着の数週〜数ヶ月後に観察されるので、硝子体網膜表面に沿った膜の成長は続いている。PVRおよび網膜下線維症が増殖および細胞成長の複雑な組み合わせであるという事実は、5−フルオロウラシルなどの増殖のみを標的とする薬物がなぜヒト患者における網膜上膜形成を減少させるのに有効でなかったかを説明し得る。それによりPalomidが作用するAkt/mTOR経路は、増殖および細胞伝播の両方を制御することが示されてきた。このことは、Palomidが剥離のウサギモデルにおける増殖および網膜下神経膠症の両方を劇的に低減する機序を提供し得るが、その正確な作用機序は知られていない。分裂を受ける最も多数の細胞型が存在するので、PalomidはMuller細胞に直接的に作用すると推定される。増加した光受容体の生存へのPalomid529の効果は、直接的もしくは間接的であり得る。PI3K/Aktシグナル経路の活性化は、光が誘発する光受容体のアポトーシスを阻害することにより、網膜において神経保護効果を有し得ることが示されたが、このことは、薬物が実際に光受容体に直接的な効果を有し得ることを示す。
【0069】
Palomid529は、硝子体中で少なくとも3ヶ月の想定半減期を有し、剥離後7日間の増殖および瘢痕形成への効果の観察を可能にする。5−フルオロウラシルなどの薬物の急速なクリアランスは、PVRの防止におけるその無効性に寄与し得る。網膜下瘢痕の平均数がPalomid529の添加により約4倍減少した一方、その長さは20倍超減少した。このことは、薬物がMuller細胞の網膜下腔への成長を減少させただけでなく、この腔に到達するプロセスの実際の拡大もまた減少させたことを示す。このことは、網膜内のMuller細胞が、処置眼において分枝および蛇行がより少なく見えるという知見と相関し(図2C、D参照)、このことは、Palomidの細胞増大(この場合は細胞肥大と言い換えられる)への効果の結果を示す。臨床的には、Palomid529は、瘢痕の形成を予防し得、かつ、既に存在する瘢痕の全体的な成長を減少させ得る。最終的に、Palomid529はまた、ミクログリア/マクロファージ応答も減少させ、また、これらの細胞は活性化されたとき高度に遊走性になるので、これもまた薬物の抗増大効果の結果であり得る。
【0070】
要約すると、本明細書中に存在するデータは、Palomid529が、網膜剥離により誘発される増殖および神経膠細胞成長、ならびに光受容細胞の死を低減するのに有効な薬物であることを示し、従って裂孔原性網膜剥離の修復の全体的な結果を改善するための新規な手段を表す。
【0071】
実施例2:Muller細胞の増殖および神経膠瘢痕の形成は、Akt/mTOR経路の阻害剤であるPalomid529を用いて、実験的網膜剥離後に低減される。
【0072】
方法:実験的網膜剥離を、有色ウサギの右眼で作製した。50μlのPBS中の600μgのPalomid529、もしくはPBS単独を第0日目(網膜剥離直後)に硝子体内注射した。各ウサギは、第3日目に、10μgのBrdUを硝子体内に投与された。動物を第3日目もしくは第7日目に屠殺し、このとき、組織をパラホルムアルデヒド内に固定し、アガロース中に包埋し、100ミクロンに切断した。切片を抗BrdUで標識して分裂細胞を検出し、抗ビメンチンで標識してMuller細胞を同定した。標識をOlympus Fluoview共焦点顕微鏡で画像化し、得られたデジタル画像を分析して、増殖細胞の数ならびに網膜下神経膠瘢痕の数および長さを決定した。
【0073】
結果:コントロールの剥離では、Muller細胞はBrdU標識細胞の大部分を占め、かつ、これらは、網膜下腔内へと成長することにより神経膠瘢痕を形成する細胞である。データは、第3日目(図8A〜8F)および第7日目(図10A〜10C)の時点の両方における1mm当たりのBrdU標識Muller細胞の数の統計学的に有意な減少を示す。コントロールもしくは薬物で処置した動物のいずれにおいても、第3日目の時点で神経膠瘢痕は観察されなかったが、第7日目に、網膜下瘢痕の数および大きさが有意に減少していた。
【0074】
結論:データは、Palomid5299が、網膜剥離のウサギモデルにおいてMuller細胞の増殖および神経膠瘢痕の成長の効果的な抑制因子であることを示す。従って、Akt/mTORシグナル伝達経路を阻害することは、剥離により誘発される増殖を減少させるためのストラテジーであり、かつ、増殖性硝子体網膜症などの関連するヒトの疾患の新規な治療法を表す。
【0075】
実施例3:ヒト肺線維芽細胞の分化およびそれにおけるシグナル伝達のメディエーターへのPalomid529の効果
トランスフォーミング増殖因子−ベータ1(TGF−β1)およびアルファ−トロンビン(α−トロンビン)は、線維性疾患の病変形成に関与することが知られている。肺線維症のインビトロモデルにおいて、TGF−β1は、SM−アルファアクチン(SM−α−アクチン)などの収縮性平滑筋(SM)特異的タンパク質の発現により特徴付けられるヒト肺線維芽細胞の筋線維芽細胞分化を刺激する。TGF−β1はまた、ヒト肺線維芽細胞におけるSM−α−アクチンの発現を刺激し、これは血清応答因子(SRF)の発現および活性の著明な誘発と並行する。マーカーとしてのSM−αアクチンによる増加した収縮性遺伝子の発現、増加したSRF、増加した結合組織成長因子(CTGF)および増加したマトリックス遺伝子(例えば、フィブロネクチン)は、筋線維芽細胞分化の間に観察される効果の例である。筋線維芽細胞分化は、TGF−β1での刺激により誘発され、それによって分化のマーカーを増加する。
【0076】
Palomid529は、ヒト肺線維芽細胞において、CTGF(30μMのPalomid529で18%)、SRF(30μMのPalomid529で29%)およびSM−α−アクチン(30μMのPalomid529で65%)のTGF−β1が刺激する増加を阻害する。図11を参照のこと。
【0077】
図11は、Palomid529のヒト肺線維芽細胞の分化の媒介因子への効果を示す。ヒト肺線維芽細胞は、TGF−β1刺激の前に、Palomid529で30分間前処理した。CTGF、SRG、SM−α−アクチンおよびβ−アクチンに対する抗体を用いたウエスタンブロットを示す。走査ソフトウェアScion Image(Scion Corporation,Frederick,MD)を用いて、本文中に記載の阻害率を数値計算するために、ウエスタンブロット上のバンドをデジタル化した。β−アクチンレベルは、全て互いに11%以内であったので、いずれの試料においても有意な変化を示さなかった。
【0078】
図11に示すように、筋線維芽細胞の活性化は、Akt/mTOR経路におけるシグナル伝達タンパク質の活性化により、少なくとも部分的に誘発される。α−トロンビンによるヒト肺線維芽細胞の刺激は、リン酸化AKTのレベルを、基底レベルのそれに対して増加させなかったが、Palomid529は、α−トロンビンの存在下もしくは非存在下(AKTリン酸化の基底レベル)でのAKTリン酸化の両方を15%減少することができた。TGF−β1は、AKTリン酸化を、基底レベルに対して19%刺激することが示されている。Palomid529は、TGF−β1により刺激されるAKTのリン酸化を27%阻害した(AKTリン酸化の基底レベルを13%含む、図12参照)。
【0079】
図12は、ヒト肺線維芽細胞におけるPalomid529のシグナル伝達への効果を示す。ヒト肺線維芽細胞を、30μMのPalomid529の存在下、TGF−β1もしくはα−トロンビンのいずれかで1時間刺激して、シグナル伝達タンパク質を活性化させる。p−AKT(S473)およびAKTレベルは、ウエスタンブロットにより測定する。走査ソフトウェアScion Image(Scion Corporation,Frederick,MD)を用いて、本文中に記載の阻害率を数値計算するために、ウエスタンブロット上のバンドをデジタル化した。AKTレベルは、全て互いに10%以内であったので、いずれの試料においても有意な変化を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
望まれない細胞外基質形成により特徴付けられる疾患を予防もしくは処置する方法であって、治療的量の式I、式II、式IIIおよび式IVからなる群から選択される1つ以上の組成物を哺乳動物に投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記組成物が、式I
【化5】

であり、式中、
R1は、Hもしくはアルキルであり;
R2は、H、OH、O−アルキル、アミノ、O−ヘテロシク、O−アリール、O−Ac、O−PO3、O−SO3、OSO2NH2もしくはO−置換アルキル(該置換は、ハロ、アリールもしくはヘテロアリールである)であり;
R3は、H、OH、O−アルキル、O−CH2アリール、O−CH2ヘテロアリール、O−アルキルアリール、O−アシルもしくはニトロであり;
R4は、H、アルキル、CH2アリール、置換アルキル、OH、O−アルキル、O−アリール、OCH2アリール、OCH2ヘテロアリール、O−アシル、OPO3、OSO3もしくはOSO2NH2であり;
R5は、H、オキソ、アリール、ヒドロキシル、アルキルもしくはO−アルキルであり;
R6は、Hであり;
R7は、H、アシル、アルキル、O−アルキル、置換アルキル(該置換は、ヒドロキシルもしくはスルファモイルである)もしくはO−置換アルキル(該置換は、O−PO3もしくはOSO3である)であり;
R8は、Hであり;かつ
Xは、O、NもしくはSである、請求項1の方法。
【請求項3】
前記組成物が、
【化6】

である、請求項1の方法。
【請求項4】
前記組成物が、許容され得る送達ビヒクルをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項5】
前記疾患が、線維性障害である、請求項1の方法。
【請求項6】
前記線維性障害が、肺線維症、全身性硬化症、強皮症、増殖性硝子体網膜症、肝硬変、膵臓および肺の嚢胞性線維症、心内膜心筋線維症、肺の特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、腎性全身性線維症、進行性塊状線維症、注射線維症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症候群、移植片拒絶、糸球体症、びまん性実質性肺疾患、精管切除後疼痛症候群、結核、鎌状赤血球貧血により引き起こされる脾臓線維症および関節リウマチからなる群から選択される、請求項5の方法。
【請求項7】
前記糸球体間質性障害が、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症候群、移植片拒絶および糸球体症からなる群から選択される、請求項6の方法。
【請求項8】
前記投与が、前記1つ以上の組成物の局所、経口、経鼻、経直腸および非経口投与を含む、請求項1の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の組成物が、移植物に付随する、請求項1の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の組成物が、装置に付随する、請求項1の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−515488(P2011−515488A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502028(P2011−502028)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/038285
【国際公開番号】WO2009/120799
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(510255901)パロマ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】