説明

締付工具の締付能力判定装置

【課題】締付工具の締付能力を判定するとともに、締付工具がスナグトルクから締付完了するまでの角度を確認することができる締付工具の締付能力判定装置を提供すること。
【解決手段】内部に作動油3を充填し、ピストン2を配設したシリンダ状の密閉容器1と、密閉容器1に形成した雌ねじ4に螺合し、締付工具による回転締付操作によって、ピストン2を押圧操作する雄ねじ5と、密閉容器1に形成した小孔6を介して密閉容器1内の作動油3の圧力がかかるようにした締付能力判定部材7とを備えた締付工具の締付能力判定装置において、密閉容器1の雌ねじ4の周囲に、角度目盛を付した角度板8を回転調節可能に配設するとともに、雄ねじ5に、角度板8の指針9を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締付工具の締付能力判定装置に関し、特に、締付工具の締付能力を判定するとともに、締付工具がスナグトルクから締付完了するまでの角度を確認することができる締付工具の締付能力判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルト・ナットやビス等を所定の設定トルクで締付けるために用いられる締付工具として、例えば、空気圧や油圧式のトルクレンチ等が汎用されている。
ところで、これらの締付工具においては、動力源である空気圧源や電源(バッテリ)の状態、締付工具自体の状態(例えば、油圧式のトルクレンチの場合において、トルクレンチに封入されている作動油の漏れや温度)等によっては、所定の設定トルクで締付が行われない場合があり、製品の品質にばらつきが生じ、製品の信頼性を低下させる要因となっていた。
【0003】
この問題点に対処するために、従来から、締付工具による締付トルクを制御したり、測定する種々の装置が提案され、実用化されているが、これらの装置の多くは、電気的に締付トルクを制御したり、測定するものであり、高価なだけでなく、その操作や管理に専門性を必要とし、取り扱いが困難であるという問題があり、このため、任意に設定した締付条件下において、機械的な機構によって、簡易に、締付工具の締付能力を判定することができる装置が要請されていた。
【0004】
そこで、本件出願人は、下記の特許文献1にて、締付工具の締付能力判定装置を提案している。
この締付工具の締付能力判定装置は、内部に作動油を充填し、ピストンを配設したシリンダ状の密閉容器と、密閉容器に形成した雌ねじに螺合し、締付工具による回転締付操作によって、前記ピストンを押圧操作する雄ねじと、密閉容器に形成した小孔を介して密閉容器内の作動油の圧力がかかるようにした締付能力判定部材とからなり、締付能力判定部材が、密閉容器内の作動油の圧力を受ける小ピストンと、小ピストンを作動油の圧力に抗する方向に付勢するばね部材と、小ピストンの移動に応じて移動する判定表示部材と、ばね部材の付勢力を調節する調節部材とによって構成されている。
【0005】
しかしながら、この締付工具の締付能力判定装置は、工具の締付能力を正確に判定することはできるが、締付角度を管理して目的の締付軸力を得る場合の工具の締付角度を確認することができなかった。
【特許文献1】特開2003−340741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の締付工具の締付能力判定装置が有する問題点に鑑み、締付工具の締付能力を判定するとともに、締付工具がスナグトルクから締付完了するまでの角度を確認することができる締付工具の締付能力判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の締付工具の締付能力判定装置は、内部に作動油を充填し、ピストンを配設したシリンダ状の密閉容器と、密閉容器に形成した雌ねじに螺合し、締付工具による回転締付操作によって、前記ピストンを押圧操作する雄ねじと、密閉容器に形成した小孔を介して密閉容器内の作動油の圧力がかかるようにした締付能力判定部材とからなる締付工具の締付能力判定装置において、密閉容器の雌ねじの周囲に、角度目盛を付した角度板を回転調節可能に配設するとともに、前記雄ねじに、該角度板の指針を設けたことを特徴とする。
【0008】
この場合において、密閉容器に形成した小孔を介して密閉容器内の作動油の圧力を受けるピストンと、該ピストンのシリンダと、受器ピストンを作動油の圧力に抗する方向に付勢するばねとを備えた作動油受器を設けることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の締付工具の締付能力判定装置によれば、内部に作動油を充填し、ピストンを配設したシリンダ状の密閉容器と、密閉容器に形成した雌ねじに螺合し、締付工具による回転締付操作によって、前記ピストンを押圧操作する雄ねじと、密閉容器に形成した小孔を介して密閉容器内の作動油の圧力がかかるようにした締付能力判定部材とからなる締付工具の締付能力判定装置において、密閉容器の雌ねじの周囲に、角度目盛を付した角度板を回転調節可能に配設するとともに、前記雄ねじに、該角度板の指針を設けることから、雄ねじを締付工具によりスナグトルクまで締付けるとともに、このときの指針の位置に角度板の角度目盛の0を合わせ、さらに締付工具がシャットオフするまで締付けて、角度板の指針で示された角度を読み取ることにより、締付工具のスナグトルクから締付が完了するまでの角度を確認することができる。
【0010】
また、密閉容器に形成した小孔を介して密閉容器内の作動油の圧力を受ける受ピストンと、該受ピストンのシリンダと、受ピストンを作動油の圧力に抗する方向に付勢するばねとを備えた作動油受器を設けることにより、雄ねじの回転に応じて圧力が高まる作動油を受容して、雄ねじの回転を軽くするとともに、雄ねじの回転角度を増し、角度精度を求めやすくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の締付工具の締付能力判定装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1〜図5に、本発明の締付工具の締付能力判定装置の一実施例を示す。
この締付工具の締付能力判定装置は、内部に作動油3を充填し、ピストン2を配設したシリンダ状の密閉容器1と、密閉容器1に形成した雌ねじ4に螺合し、締付工具による回転締付操作によって、前記ピストン2を押圧操作する雄ねじ5と、密閉容器1に形成した小孔6を介して密閉容器1内の作動油3の圧力がかかるようにした締付能力判定部材7とを備えている。
そして、この締付工具の締付能力判定装置は、密閉容器1の雌ねじ4の周囲に、角度目盛を付した角度板8を回転調節可能に配設するとともに、前記雄ねじ5に、該角度板8の指針9を設けている。
【0013】
締付能力判定部材7は、密閉容器1に螺合して取り付けるようにした締付能力判定部材本体70と、密閉容器1内の作動油3の圧力を受ける小ピストン71と、この小ピストン71を作動油3の圧力に抗する方向に付勢するばね部材72と、小ピストン71の移動に応じて移動する判定表示部材73と、判定表示部材73を摺動可能に納める鞘管74と、ばね部材72の付勢力を調節する調節部材75とからなる。
【0014】
鞘管74内に摺動可能に配設した判定表示部材73の先端部には、帯状の表示部73aが設けられており、図5に示すように、この表示部73aが鞘管74から露出することにより、締付工具の締付能力を判定するようにしている。
また、調節部材75が螺合する締付能力判定部材本体70の表面には、調節部材75が螺合する位置に合わせて、調節部材75の設定値を示す調節表示部76が設けられている。
【0015】
なお、本実施例では、密閉容器1の周壁にピストン2を視認する窓部1aを形成するとともに、ピストン2の周面に、軸方向位置で異なる識別マーク2aを設けている。
これにより、作動油3の量により初期位置が異なるピストン2を利用し、該ピストン2の識別マーク2aを視認することにより作動油3の量を確認できるようにしている。
【0016】
一方、角度板8は穴あき円板状をなし、密閉容器1側に設けたOリング81を仮固定の押さえ部材として、密閉容器1の雌ねじ4の周囲に回転調節可能に配設されている。
なお、角度板8が、Oリング81の摩擦力では足りずに動いてしまうようなときは、図3に示すように、工具T1によって、密閉容器1側に設けた押さえねじ82を締着することにより強く固定することができる。
【0017】
角度板8の指針9は、雄ねじ5の頭部下方に嵌合するリング部91から針を横方向に突設したものからなる。
指針9のリング部91は、雄ねじ5の軸方向に移動可能にねじ止めされており、雄ねじ5の締付回転数が多くなって、指針9が角度板8に緩衝するような場合は、図3に示すように、工具T2によって、押さえねじ92を緩めて上に移動させることができる。
【0018】
また、本実施例では、締付能力判定部材7とは別に、雄ねじ5の回転に応じて圧力が高まる作動油3を受容する作動油受器10を密閉容器1に設けている。
この作動油受器10は、密閉容器1に形成した小孔6を介して密閉容器1内の作動油3の圧力を受ける受ピストン11と、該受ピストン11のシリンダ12と、受ピストン11を作動油3の圧力に抗する方向に付勢するばね13とを備えている。
この作動油受器10は、雄ねじ5の回転に応じて圧力が高まる作動油3を受容することにより、雄ねじ5の回転を軽くするとともに、雄ねじ5の回転角度を増し、角度精度を求めやすくすることができる。
【0019】
次に、この締付工具の締付能力判定装置の使用方法を説明する。
締付能力を判定する場合は、検査対象となる締付工具により、密閉容器1に形成した雌ねじ4に螺合した雄ねじ5を回転締付操作することによって、鋼球を介してピストン2を押圧操作し、密閉容器1に形成した小孔6を介して密閉容器1内の作動油3の圧力が締付能力判定部材7にかかるようにする。
【0020】
密閉容器1内の作動油3の圧力が締付能力判定部材7にかかると、作動油3の圧力を受けた小ピストン71が、作動油3の圧力に抗する方向に付勢するばね部材72を圧縮して移動し、この小ピストン71の移動に応じて移動する判定表示部材73の位置によって、具体的には、判定表示部材73に形成した帯状の表示部73aが、鞘管74から露出するか否かにより、作動油3の圧力の大きさ、すなわち、締付工具によって雄ねじ5に加えられたトルクの大きさを検出することができる。
この場合、調節部材75によりばね部材72の付勢力を調節することによって、任意に設定した締付条件下における、締付工具の締付能力を判定することができる。
【0021】
次に、目的の締付軸力を得るための工具の締付角度の確認方法を説明する。
これは、締付角度を管理することにより、目的の締付軸力を得るためのものであり、ある基準値からスタートしてボルトを決められた角度だけ回転させ、目的の締付軸力を得る角度法締付に使用される。
上記基準値としては、決められたトルクを回転のスタートポイント(締付角度の開始点)としており、この決められたトルクをスナグトルクという。
すなわち、本実施例の締付工具の締付能力判定装置では、検査対象となる締付工具により、雄ねじ5をスナグトルクまで締付ける。
それとともに、図4(b)に示すように、工具T3で角度板8を回転させることにより、このときの指針9の位置に角度板8の角度目盛の0を合わせる。
そして、締付工具がシャットオフするまでさらに締付け、角度板8の指針9で示された角度を読み取ることにより、締付工具のスナグトルクから締付が完了するまでの角度を確認することができる。
【0022】
かくして、本実施例の締付工具の締付能力判定装置は、内部に作動油3を充填し、ピストン2を配設したシリンダ状の密閉容器1と、密閉容器1に形成した雌ねじ4に螺合し、締付工具による回転締付操作によって、前記ピストン2を押圧操作する雄ねじ5と、密閉容器1に形成した小孔6を介して密閉容器1内の作動油3の圧力がかかるようにした締付能力判定部材7とからなる締付工具の締付能力判定装置において、密閉容器1の雌ねじ4の周囲に、角度目盛を付した角度板8を回転調節可能に配設するとともに、前記雄ねじ5に、該角度板8の指針9を設けることから、雄ねじ5を締付工具によりスナグトルクまで締付けるとともに、このときの指針9の位置に角度板8の角度目盛の0を合わせ、さらに締付工具がシャットオフするまで締付けて、角度板8の指針9で示された角度を読み取ることにより、締付工具のスナグトルクから締付が完了するまでの角度を確認することができる。
【0023】
また、密閉容器1に形成した小孔6を介して密閉容器1内の作動油3の圧力を受ける受ピストン11と、該受ピストン11のシリンダ12と、受ピストン11を作動油3の圧力に抗する方向に付勢するばね13とを備えた作動油受器10を設けることにより、雄ねじ5の回転に応じて圧力が高まる作動油3を受容して、雄ねじ5の回転を軽くするとともに、雄ねじ5の回転角度を増し、角度精度を求めやすくすることができる。
【0024】
以上、本発明の締付工具の締付能力判定装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせるなど、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
また、本発明の構成は、締付トルクの上限値を確認することにより、上下の締付トルク範囲を確認するような締付工具の締付能力判定装置にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の締付工具の締付能力判定装置は、締付工具の締付能力を判定するとともに、締付工具がスナグトルクから締付完了するまでの角度を確認できるという特性を有していることから、角度法締付にも使用することができる締付工具の締付能力判定装置として広く好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の締付工具の締付能力判定装置の一実施例を示す断面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】同締付工具の締付能力判定装置の一部を破断した正面図である。
【図4】同締付工具の締付能力判定装置を示し、(a)は角度板の回転調節を示す平面図、(b)は調節部材を最大の設定トルクにした状態を示す平面図である。
【図5】締付能力判定部材を示し、(a)は通常の状態を示す部分正面図、(b)は設定トルクが出力された状態を示す部分正面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 密閉容器
1a 窓部
2 ピストン
2a 識別マーク
3 作動油
4 雌ねじ
5 雄ねじ
6 小孔
7 締付能力判定部材
70 締付能力判定部材本体
71 小ピストン
72 ばね部材
73 判定表示部材
73a 表示部
74 鞘管
75 調節部材
76 調節表示部
8 角度板
81 Oリング
82 押さえねじ
9 指針
91 リング部
92 押さえねじ
10 作動油受器
11 受ピストン
12 シリンダ
13 ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に作動油を充填し、ピストンを配設したシリンダ状の密閉容器と、密閉容器に形成した雌ねじに螺合し、締付工具による回転締付操作によって、前記ピストンを押圧操作する雄ねじと、密閉容器に形成した小孔を介して密閉容器内の作動油の圧力がかかるようにした締付能力判定部材とからなる締付工具の締付能力判定装置において、密閉容器の雌ねじの周囲に、角度目盛を付した角度板を回転調節可能に配設するとともに、前記雄ねじに、該角度板の指針を設けたことを特徴とする締付工具の締付能力判定装置。
【請求項2】
密閉容器に形成した小孔を介して密閉容器内の作動油の圧力を受ける受ピストンと、該受ピストンのシリンダと、受ピストンを作動油の圧力に抗する方向に付勢するばねとを備えた作動油受器を設けたことを特徴とする請求項1記載の締付工具の締付能力判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−134061(P2008−134061A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318160(P2006−318160)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(591045323)瓜生製作株式会社 (26)
【Fターム(参考)】